JP2013237904A - 高クロム耐摩耗鋳鉄 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来のマルテンサイト質の高クロム鋳鉄は、鋳物製品の肉厚増加に伴って高価な元素であるMoを増加する必要があったため、省資源、コストの観点で問題があった。また、鋳物製品の内部まで均一な硬さとなるように焼入れするためには、Moを低減することができないという問題があった。
【解決手段】本発明の高クロム耐摩耗鋳鉄は、質量%でC3.0〜3.4%、Si0.3〜1.0%、Mn0.5〜1.2%、Cr16〜20%、Mo0.3〜1.0%、5×Mo%≧Ni%≧2×Mo%、および残部がFeと不可避不純物からなり、製品肉厚が1〜6インチである。さらに、より好ましくは、1025〜1075℃の焼入れ温度に加熱保持した後、空冷焼入れすることによって、鋳物表面および内部の硬さをHRC62〜67とする。
【選択図】 なし

Description

本発明は、鉱山、砕石、セメントなどの業界における各種破砕機、破砕する原料の搬入搬出ラインなどの機械装置に使用される高クロム耐摩耗鋳鉄に関し、さらに詳しくはマルテンサイト質の高クロム鋳鉄における鋳物製品の肉厚影響及びコストを考慮した合金組成、熱処理条件の最適化に関する。
一般に高クロム鋳鉄はクロムを質量%で12〜23%含有し基地がマルテンサイト質の高クロム鋳鉄と、クロムを24〜28%含有し基地がオーステナイト質の高クロム鋳鉄に大別される。
オーステナイト質の高クロム鋳鉄はクロムの炭化物を多量に生成し、基地の大半は靭性の高いオーステナイト質であるため、優れた耐摩耗性と耐衝撃性を両立できる特徴がある。しかし、原材料である一般的なフェロクロムはSiを4〜8%含有する高Siフェロクロムが世界の主流であり、クロムを高くしようとするとSiが目標成分(最大1%程度)を超えるため、ステンレス鋼の原料である高価な低Siフェロクロムを使用する必要があり、コストおよび原料の安定確保の観点で問題があった。
一方、マルテンサイト質の高クロム鋳鉄は、前記高Siフェロクロムを使用できることからクロム量の調整は容易であるが、鋳物製品の肉厚が増大すると、内部まで十分に焼入れすることが難しくなる。一般に、鋳物製品の肉厚(最も肉厚が大きい部分)が概略1インチ未満の場合には、焼入れにおける鋳物製品表面と内部(中心部)の冷却速度の差が小さいため、表面と内部の硬さの差が小さく、硬さが均一な鋳物製品が得られる。しかし、鋳物製品の肉厚が概略1インチを超えて、さらに厚さが増大すると、内部の冷却速度が低下するため焼入れ(マルテンサイト変態)が不十分となって、残留オーステナイトやトルースタイトなどの軟質な組織が混在し、内部の硬さが大きく低下する問題があった。そこで、こうした問題を解決するため、焼入れ性を向上する効果が高いMo、Niなどの高価な合金元素を添加する必要があった。
ここで、同一の質量%となるように合金元素を添加した場合の材料コストを、Cr、Mo、Niについて比較すると、MoはCrの約10倍、NiはCrの約4倍である。従って、Moは焼入れ性を向上する効果が極めて高いものの、最も高価な元素であり、材料コストが増大するという問題があった。
また、高クロム鋳鉄は各種鉱石や岩石などによる過酷な摩耗条件に晒される部品に使用されるため、マルテンサイト質の高クロム鋳鉄においては、一般にHRC62以上の硬さが要求される。しかし、前記のように鋳物製品の肉厚が増大すると、表面と内部の硬さの差が拡大するだけでなく、表面の硬さも低下するため、鋳物製品の肉厚影響を考慮した合金組成、熱処理条件の最適化が重要である。なお、マルテンサイト質の高クロム鋳鉄においては、表面硬さがHRC62〜67程度の範囲となるように、合金組成および焼入れの処理条件を調整して制御することができるが、内部の硬さが確実にHRC62以上となるようにするには、高価な元素であるMoを多量に添加しなければならないという問題があった。
さらに、クロムを質量%で12〜23%含有し基地がマルテンサイト質の高クロム鋳鉄の中で、比較的クロムの含有量が低い12〜15%クロム鋳鉄では、“くされ”と呼ばれる凝固収縮に起因した鋳造欠陥が発生するという問題があった。
なお、高クロム鋳鉄の合金組成については、ASTM−A532規格「Standard
Specification for Abrasion Resistant Cast Iron」において定められているが、規格には製品寸法(肉厚)と合金組成に関する記載は無い。
製品寸法(肉厚)と組成に関しては、J.R.Davis、「Cast
Irons」(第2版、1996年、ASM)に記載されている。この文献では、18〜23%クロム鋳鉄においては、Moは1〜2%とし、さらに焼入れ性向上が必要な場合は(Ni+Cu)を最大1.2%添加するとしている。また、(Ni+Cu)は残留オーステナイトが増加するため最大1.2%とされており、焼入れ性を向上するための合金元素としては、あくまでMoを主体とした組成が推奨されている。具体的には、3.2%Cの場合、
・肉厚2インチまで : 1.5%Mo
・肉厚5インチまで : 2.0%Mo+0.7%(Ni+Cu)
・肉厚6〜10インチ : 2.0%Mo+1.2%(Ni+Cu)
が推奨されている。
また、焼入れの推奨温度は950〜1010℃、と記載されている。
J.R.Davis、「Cast Irons」(第2版、1996年、ASM)
本発明の高クロム耐摩耗鋳鉄は、マルテンサイト質の高クロム鋳鉄の中でも耐摩耗性、靭性、鋳造性に優れた16〜20%クロム鋳鉄に関し、特に鋳物製品の肉厚影響及びコストを考慮した合金組成および熱処理条件について最適化することによって、焼入性を向上するために最も一般的に添加され、かつ最も高価な元素であるMoを低減して省資源、コストダウンを図ると共に、鋳物製品の内部まで均一な硬さとなるように焼入れすることによって鋳物製品の耐久性を向上することを目的とする。
本発明の第1の態様の高クロム耐摩耗鋳鉄は、質量%でC3.0〜3.4%、Si0.3〜1.0%、Mn0.5〜1.2%、Cr16〜20%、Mo0.3〜1.0%、5×Mo%≧Ni%≧2×Mo%、および残部がFeと不可避不純物からなり、製品肉厚が1〜6インチであることを特徴とする。
本発明の第2の態様の高クロム耐摩耗鋳鉄は、第1の態様の高クロム耐摩耗鋳鉄を、1025〜1075℃の焼入れ温度に加熱保持した後、空冷焼入れすることによって、鋳物表面および内部の硬さをHRC62〜67とすることを特徴とする。
なお、空冷焼入れの冷却方法としては、扇風などの慣用の方法によって強制空冷することが好ましい。また、形状が複雑な製品の場合には、適宜低温で焼戻し処理を実施することができる。焼戻しは150〜280℃程度の温度で実施することが好ましい。さらに、焼入れ温度に保持する時間は製品の肉厚に応じて適宜設定すればよい。
本発明の第1の態様の高クロム耐摩耗鋳鉄においては、Cは硬さと耐摩耗性に影響する重要な元素であり、3.0%未満では形成される炭化物の量が少ないため所望の硬さが得られず、3.4%を超えると靭性が低下するため3.0〜3.4%の範囲とした。また、Siは脱酸および湯流れ性を確保するうえで重要な元素であって、0.3%未満では脱酸効果が不十分で鋳造性が悪く且つ鋳物製品内部のガス欠陥が増加し、1.0%を超えると焼入れ性が低下して所望の硬さが得られず、靭性も低下するため0.3〜1.0%の範囲とした。さらに、MnはSiと同様に溶湯の脱酸に必要な元素であり、0.5%未満では脱酸効果が不十分であり、1.2%を超えると残留オーステナイトが増加して硬さが低下するため0.5〜1.2%の範囲とした。加えて、Crは高硬度の炭化物を形成し耐摩耗性を確保するうえで重要な元素であり、16%未満では“くされ”と称される鋳造欠陥が増加し健全な鋳物を製造することが難しく、20%を超えると過共晶組織となって靭性が低下するため16〜20%の範囲とした。
また、Moは焼入れ性を向上する効果が最も高い元素であり、一般に鋳物製品の肉厚に応じて含有量を増加するが、1〜4インチの肉厚製品に対しては概略1.0〜3.0%程度含有することが推奨されている。しかし、Moは最も高価な原材料であり、最小限に抑制することが好ましい。本発明では下記Niとの組合せにおいて、Moを低減しても十分な焼入れ性が得られることを見出したものである。Moが0.3%未満では焼入れ性向上の効果が不十分であり、最大1.0%で十分な効果が得られ、あえて1.0%を超えて添加する必要がないため0.3〜1.0%の範囲とした。さらに、Niは靭性および焼入れ性を高める作用があるが、Moに対して2倍以上、5倍以下の範囲となるように調整することで焼入れ性が大幅に向上し、高価なMoを低減することが可能となった。Niの質量%がMoの質量%の2倍未満では十分な焼入れ性が確保できず、5倍を超えると残留オーステナイトが増加して硬さが低下するため、5×Mo%≧Ni%≧2×Mo%、で示される範囲とした。
本発明の第2の態様の高クロム耐摩耗鋳鉄においては、第1の態様の高クロム耐摩耗鋳鉄を、1025〜1075℃の焼入れ温度に加熱保持した後、空冷焼入れすることによって、鋳物表面および内部の硬さをHRC62〜67とすることを特徴とする。焼入れ温度が1025℃未満では焼入れ硬さがHRC62未満であり、1075℃を超えると炭化物の分解に伴ってC濃度が増加することにより、残留オーステナイトが増加して焼入れ硬さがHRC62未満となるため1025〜1075℃の範囲とした。
本発明の高クロム耐摩耗鋳鉄は、質量%でC3.0〜3.4%、Si0.3〜1.0%、Mn0.5〜1.2%、Cr16〜20%、Mo0.3〜1.0%、5×Mo%≧Ni%≧2×Mo%、および残部がFeと不可避不純物からなり、製品肉厚が1〜6インチであることとすると、焼入性を向上するために最も一般的に添加され、かつ最も高価な元素であるMoを1.0%以下に低減しても十分な焼入れ性が確保できる。よって、Moの省資源、コストダウンを図ることができると共に、鋳物製品の内部まで均一な硬さとなるように焼入れすることが可能になったため、鋳物製品の耐久性が向上する。
以下に、本発明の効果を確認するために実施した試験例(実施例・比較例)について説明する。
<試験例>
本試験例では、表1に示す化学成分で試験片を作成した。
表1に示す実施例1〜3は本発明の化学成分であり、Moを1.0%以下に低減したうえで、Niを5×Mo%≧Ni%≧2×Mo%の範囲となるように設定したものである。比較例1〜2は、Niが5×Mo%≧Ni≧2×Mo%の範囲を外れた場合の化学成分である。比較例3は、J.R.Davis、「Cast
Irons」(第2版、1996年、ASM)において、肉厚2インチの鋳物に対して推奨されている化学成分である。比較例4は、同じく「Cast Irons」において、肉厚5インチの鋳物に対して推奨されている化学成分である。比較例3〜4では、高価なMoを1.5〜2%添加している。
試験片はJIS
G5502(ISO1083)に準拠して、2インチと5インチのYブロックを鋳造した。
鋳造したYブロックは、表2に示す焼入れ温度に加熱保持した後、扇風による強制空冷を実施した。比較例7〜8の焼入れ温度は、「Cast
Irons」において推奨されている温度に設定した。
硬さは、熱処理を実施した各々のYブロックから切り出した試験片を用いて評価した(表面および中心部から試験片を採取)。
硬さ測定は、ロックウェル硬度計のCスケール(HRC)を使用し、測定方法はJIS
Z2245(ISO6508)に従って実施した。各試験片の測定点は10点とし、最大と最小を除いた8点の平均値を求めた。
実施例4〜9に示すように、本発明の化学成分によって製作した試験片は、表面と内部(中心部)の硬さが、いずれもHRC62以上であり、且つ表面と内部の硬度差が小さく、均一に焼きが入っていることが確認された。
比較例5は、Mo量に対するNi量が本発明に規定した範囲を下限側に外れた化学成分の場合であるが、焼入れ性が十分でないため組織の一部にトルースタイトが生成して硬さが低下した。
また、比較例6は、Mo量に対するNi量が本発明に規定した範囲を上限側に外れた化学成分の場合であるが、組織中に残留オーステナイトが増加して硬さが低下した。
さらに、比較例7〜8は、Moを1.5〜2%含有する従来の化学成分の場合であり、肉厚2インチ(比較例7)の場合は比較的均一に焼きが入り、HRC62以上の硬さが得られたが、肉厚5インチ(比較例8)の場合は内部の硬さがHRC62を下回った。
一方、本発明による実施例7〜9では、5インチの肉厚に対しても十分な焼入れ性が確保され、HRC62以上の硬さが得られ、且つ表面と内部の硬さの差が小さいことが確認された。


Claims (2)

  1. 質量%でC3.0〜3.4%、Si0.3〜1.0%、Mn0.5〜1.2%、Cr16〜20%、Mo0.3〜1.0%、5×Mo%≧Ni%≧2×Mo%、および残部がFeと不可避不純物からなり、製品肉厚が1〜6インチであることを特徴とする高クロム耐摩耗鋳鉄。
  2. 1025〜1075℃の焼入れ温度に加熱保持した後、空冷焼入れすることによって、鋳物表面および内部の硬さをHRC62〜67とすることを特徴とする請求項1に記載した高クロム耐摩耗鋳鉄。


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