JP2013226112A - 肝細胞の培養方法 - Google Patents

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等 松井
Yasuyuki Sakai
康行 酒井
Shoji Takeuchi
昌治 竹内
Teruo Fujii
輝夫 藤井
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Abstract

【課題】肝細胞に極性を誘導させて巨大な毛細胆管を形成させるための細胞培養法を提供すること。
【解決手段】基板上に細胞外マトリクスで包埋された肝細胞を配置して培養する、肝細胞に毛細胆管を形成させるための肝細胞培養方法であって、該細胞外マトリクスが該基板上で柱状の窪みを形成しており、該肝細胞を該柱状の窪み内に配置して培養することを特徴とする方法。
【選択図】図2

Description

本発明は、肝細胞に効率よく極性を誘導させ、巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成させることができる肝細胞培養法、該方法による巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成した肝培養細胞の製造方法、該肝培養細胞の使用方法、及び該肝培養細胞を用いた装置に関する。
創薬研究においては、生体肝組織における薬物等の取り込み・代謝・排出(薬物輸送)を正しく評価することが極めて重要である。しかし、動物の肝組織をそのまま使用することは、倫理的な面でも難しいことから、細胞を利用することが検討されている。しかし、肝組織由来の細胞を使用したとしても、肝組織の機能をそのまま再現することが出来ない。正確に薬物輸送を評価するためには細胞膜が血管側と毛細胆管膜の各々の領域に明確に分かれているような極性を再現している肝細胞培養系が必須であり、このような肝細胞培養系を確立することが試みられているが、例えば、非特許文献1に記載されている肝細胞培養系では(1)位置や大きさを制御して極性を誘導しておらず極性状態が不安定、(2)血管・毛細胆管各々に分泌される代謝物を別々に連続的に回収計測できない、といった理由から正確に薬物輸送を評価することが困難であった。また、特許文献1に記載されている肝細胞培養系では溝状に肝細胞を配置させて毛細胆管の向きを制御して誘導させることが記載されているが、形成される毛細胆管が細いため、物理的に管等を胆管へ刺入して内容物を回収することは難しい。したがって、肝細胞培養系を用いて薬物輸送を検定するハイスループットなスクリーニング系の開発が求められていた。
WO2011/024592号公開パンフレット
Biotechnol Prog. 1991 May-Jun;7(3):237-45.、J Cell Sci. 1992Mar;101 ( Pt 3):495-501.)
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、具体的には、肝細胞に極性を誘導させて巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成させるための細胞培養法を提供することを目的とするものである。さらに、これにより、該細胞培養による巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成した培養肝細胞の製造方法、及び、該培養肝細胞の使用方法、該培養肝細胞を用いた装置など安定して高感度に薬物輸送検定等を行うことができる手段を提供することも目的とする。
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を行った結果、基板上に柱状の窪みを形成した細胞外マトリクス層を設け、該窪みに肝細胞を配置して培養することで、肝細胞に効率よく毛細胆管を形成させることができることを見出し、本発明を完成させた。また、更に、これらの培養肝細胞が生体と同様に機能することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)基板上に細胞外マトリクスで包埋された肝細胞を配置して培養する、肝細胞に毛細胆管を形成させるための肝細胞培養方法であって、該細胞外マトリクスが該基板上で柱状の窪みを形成しており、該肝細胞を該柱状の窪み内に配置して培養することを特徴とする方法。
(2)前記柱状の窪みの底面積が1000〜20000μm2である、(1)に記載の肝細胞培養方
法。
(3)基板上に細胞外マトリクスで包埋された肝細胞を配置して培養する、毛細胆管を形成した培養肝細胞の製造方法であって、該細胞外マトリクスが該基板上で柱状の窪みを形成しており、該肝細胞を該柱状の窪み内に配置して培養することを特徴とする方法。
(4)(3)に記載の方法により毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造し、得られた培養肝細胞を用いて化合物の代謝を評価する、化合物の代謝検定方法。
(5)(3)に記載の方法により毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造する工程、該培養肝細胞の培養液に化合物を添加する工程、該化合物を除去する工程、反応液中及び/又は毛細胆管液中の成分を分析する工程を含む、(4)に記載の化合物の代謝検定方法。
(6)化合物がビリルビン及び/又はビリルビン代謝物である(4)または(5)に記載の化合物の代謝検定方法
(7)(3)に記載の方法により毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造し、得られた培養肝細胞を用いて化合物の輸送を評価する、化合物の輸送検定方法。
(8)(3)に記載の方法により毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造する工程、該培養肝細胞の培養液に化合物を添加する工程、該化合物を除去する工程、反応液中及び/又は毛細胆管液中の成分を分析する工程を含む、(7)に記載の化合物の輸送検定方法。
(9)培養肝細胞を含む本体部と、本体部に化合物を供給する化合物供給部と、本体部から化合物またはその代謝物を回収する回収部とを有する培養肝細胞を用いた化合物検定装置であって、前記本体部は、基板と、該基板上で柱状の窪みを有する細胞外マトリクスと、該細胞外マトリクスに包埋され、該柱状の窪み内に配置された肝細胞と、を有することを特徴とする、装置。
肝細胞を細胞外マトリクスに形成された柱状の窪みに包埋することで、肝細胞に効率よく極性を誘導させることができる。このようにして培養された肝細胞集団内では,周囲の細胞や細胞外マトリクスなどから安定して高い活性の極性誘導シグナルの授受を行うことができると考えられ、薬物検定などの測定に必要な十分量の胆汁を容易に得ることができる巨大毛細胆管(胆汁だまり)を、位置、大きさ、形を制御して、容易に基板上に形成させることができる。そして、毛細胆管内の胆汁排泄物を容易に回収することが可能となり、毛細胆管と血管側の代謝物を区別して回収し、継続的に分析することも可能である。また、該基板にガス透過膜を使用し、ガス透過性膜側から酸素を供給しつつ肝細胞を培養することで、更に安定に胆汁だまりを形成させることができる。
更に、生体と同様な化合物検定(化合物の代謝検定や輸送検定等)結果を得ることができる。
更に、生体肝由来の肝細胞と同様な薬物代謝関連遺伝子群の遺伝子発現量を有することができる。
窪みを有するコラーゲンゲル培養基板の作製方法と該培養基板上での肝細胞の培養方法の模式図。 本発明の培養方法によって形成された毛細胆管(写真)。左は位相差顕微鏡による細胞像、右は蛍光顕微鏡による胆管膜染色像。 本発明の化合物検定装置の模式図。 本発明の培養方法によって形成された毛細胆管から管を介して吸引する方法の模式図。 PDMSスタンプ作製方法の模式図。 マイクロパターン化コラーゲンゲル培養基板上での肝細胞(写真)。(A)肝細胞配置前、(B)肝細胞播種直後、(C)窪みに配置された肝細胞。 本発明の培養方法によって形成された毛細胆管からの胆汁の回収(写真)。左は胆管代謝物回収前の像、右は胆管代謝物回収中の像、上は明視野像、下は蛍光像(CLF染色)。 従来法および本発明の培養方法によって形成された毛細胆管からの胆汁の回収量を示す図。 本発明の培養方法によって肝細胞に形成された毛細胆管構造(写真)。 本発明の培養方法によって作製された培養肝細胞において、毛細胆管中のビリルビン代謝物(BDG、BMG)の分析結果を示す図。 本発明の培養方法によって作製された培養肝細胞において、反応液中のビリルビン代謝物(BDG、BMG)の分析結果を示す図。 Rat Drug Transporters Arrayによる、本発明の培養方法によって作製された培養肝細胞と生体肝由来の肝細胞中の遺伝子発現量の分析結果を示す図。 Rat Drug Transporters Arrayによる、従来の培養方法によって作製された培養肝細胞と生体肝由来の肝細胞中の遺伝子発現量の分析結果を示す図。 Rat Drug Metabolism: Phase I enzymes Arrayによる、本発明の培養方法によって作製された培養肝細胞と生体肝由来の肝細胞中の遺伝子発現量の分析結果を示す図。 Rat Drug Metabolism: Phase I enzymes Arrayによる、従来の培養方法によって作製された培養肝細胞と生体肝由来の肝細胞中の遺伝子発現量の分析結果を示す図。 Rat Drug Metabolism: Phase II enzymes Arrayによる、本発明の培養方法によって作製された培養肝細胞と生体肝由来の肝細胞中の遺伝子発現量の分析結果を示す図。 Rat Drug Metabolism: Phase II enzymes Arrayによる、従来の培養方法によって作製された培養肝細胞と生体肝由来の肝細胞中の遺伝子発現量の分析結果を示す図。
本発明の肝細胞培養方法は、基板上に細胞外マトリクスで包埋された肝細胞を配置して培養することで巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成させる肝細胞培養方法であって、該細胞外マトリクスが該基板上で柱状の窪みを形成しており、肝細胞を該柱状の窪み内に配置して培養することを特徴とする。
本発明に用いる基板は、肝細胞を培養できるものであれば限定しないが、ガラス、プラスチック、ガス透過性膜など公知の基板が挙げられる。
培養は通常、酸素を供給しつつ行う。ガス透過性膜など酸素を供給可能な基板の場合には、該基板を通して肝細胞を培養するための酸素が供給される。一方、ガラスプレートやプラスチックプレートなど、酸素を通さない基板の場合には、肝細胞を包埋する細胞外マトリクスの外側から酸素が供給される。当業者であれば、形成したい毛細胆管のサイズや種類に合わせて、基板の種類や酸素供給方法を適宜選択することができる。
ガス透過性膜を使用する場合、ガス透過性膜の素材は酸素ガスを透過できるものであれば良いが、多孔質で疎水性の高いものが適している。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、フルオロカーボン、ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)、ポリウレタンが挙げられ、これらの誘導体や類似物質も含まれる。PDMS膜の作製方法は非特許文献2(M Nishikawa et al. Biotechnology and Bioengineering, vol.99, pp.1472-1481)に述べられ
ている。ただし、PDMS膜の作製方法はこれに限らず、一般的に知られている膜の作製方法を用いることができる。例えば、バーコーターで塗布する方法(バーコート法)やギャップコーターで塗布する方法(ギャップコート法)で作製することができる。他の素材を用いる場合も同様にして膜を作製することができる。また、フルオロカーボン膜が培養面に配置された培養プレートLumox (In vitro systems and services社製)等を適宜購入して
使用することもできる。ガス透過性膜の厚さは、ガス透過性の観点から可能な限り薄いことが好ましいが、50μmから2.0mmが適当である。しかしながら、最適な膜の厚さはその材質の丈夫さおよび扱う用途によって異なるため、上記範囲に限定されるものでは無い。ガス透過性膜を有する培養器の態様としては、培養器全体が該ガス透過性膜で構成されていても良いが、少なくとも肝細胞が播種される部位が該ガス透過性膜で構成されていれば良い。培養器の態様に合わせて、適宜変更することができる。
ガス透過性膜をコラーゲンでコートする場合、コラーゲンは、公知の方法で調製されたものが使用できるが、市販のコラーゲン溶液(例えば、ベクトンディッキンソン社製のラ
ット尾コラーゲン)を用いて酸素を透過できる厚さに被覆することができる。また、コラ
ーゲンでガス透過性膜を覆う方法は、公知方法を使用することができる。例えば、酸素プラズマ処理をしてコラーゲンをガス透過性膜に吸着させる方法や化学的に反応する官能基を使用して共有結合させる方法が挙げられる。共有結合を使用したPDMS膜へのコラーゲンの結合方法としては、例えば、非特許文献3(M. Nishikawa et al. Biotechnology and Bioengineering, 2008, vol.99, pp1472-1481)に述べられている方法が挙げられる。効率
良く、安定かつ長期的に、毛細胆管を形成した肝細胞を調製することができるため、共有結合によりコラーゲンでガス透過性膜を覆う方が好ましい。
一方、短期的な毛細胆管の形成効率は共有結合でも吸着結合でも同様であることから、短期的な測定に使用する場合には、いずれのコート方法も使用することができる。試験に必要な巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成できるかぎり、肝細胞の培養条件に合わせて、適宜、最適な結合方法を選択することができる。
培養可能な肝細胞は、いずれの動物由来でも良く、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ミニブタ、ハムスター、フェレット、ウサギ、ラット、マウス等に由来する肝細胞が挙げられる。また、該動物から肝細胞を単離する方法は、公知の方法に従って行うことができる。肝細胞の由来は胎児、新生児、成体のいずれであってもよい。また、胚性幹(ES)細胞および誘導多能性(iPS)幹細胞、または臍帯血、骨髄、脂肪、血液由来組織性幹細
胞から分化誘導される肝細胞を用いることもできる。これらの細胞から肝細胞を誘導する方法は公知の方法に従って行うことができる。
播種する細胞密度は、該細胞が正常に増殖可能であれば良い。通常、細胞密度は約0.1
〜12.0 x 105cells/cm2の間で播種することが好ましく、細胞が2〜3層になるように播
種してもよい。培養条件や使用する培養器具などに合わせて、適宜、好ましい細胞密度を設定することができる。
肝細胞を包埋する細胞外マトリクスとしては、公知のコラーゲンゲルサンドイッチ法で使用可能なものが挙げられる。例えば、コラーゲンI、フィブロネクチン、ラミニン、ビ
トロネクチン、ゼラチン、エラスチン、プロテオグリカン、グルコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、マトリゲル(商標:ベクトンディッキンソン社)、グロースファクター(ベーシックFGF,EGF、IGF-1、PDGF、NGF、TGFベータなど)およびこれらの混合物を適宜選択して、細胞外マトリクスゲルとして使用することができるが、効率良く巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成した肝細胞を調製することができるため、コラーゲンゲルやマトリゲルが好ましく、さらに安定かつ長期的に該細胞を調製することができるため、コラーゲンゲルがより好ましい。
該細胞外マトリクスゲルの作製方法は非特許文献4(LeCluyse et al., Am J Physiol Cell Physiol, 1994, vol.266, pp.1764-1774)に記載の方法で行うことができる。この
場合の肝細胞を包埋する細胞外マトリクス層の厚さは栄養分や試験化合物の透過性の観点から、適宜決定することができるが、10〜100マイクロメートルが好適である。
本発明において、「包埋」されている状態とは、該肝細胞の周辺が少なくとも1層の細
胞外マトリクスで囲まれていることを言う。毛細胆管が効率的に形成される限り、該細胞外マトリクスは連続的でも非連続的でも構わない。
本発明における「包埋」の好ましい態様としては、基板上に細胞外マトリクスゲルの層を設け、該細胞外マトリクスゲル層の一部に柱状の窪みを形成させ、該窪み内に配置して肝細胞を培養する態様が挙げられる。
好ましくは、細胞外マトリクスゲルの窪み内に肝細胞を配置し、さらに、コラーゲンなどの細胞外マトリクスを重層することが好ましい。
ただし、この場合は、細胞外マトリクスを重層する代わりに、該細胞外マトリクスのシートを用いて肝細胞を覆うようにしても良い。例えば、市販のコラーゲン膜(商品名ビトリゲル、旭テクノグラス社製)を肝細胞に重層することによりコラーゲンゲルと同様の効果を導くことができる。この場合のシートの厚さは栄養分や試験化合物の透過性の観点から、適宜決定することができるが、10〜100マイクロメートルが好適である。
また、非生体成分からなる細胞外マトリクス様の物質(細胞外マトリクス代替物)を用いて細胞外マトリクスの窪みに配置された肝細胞を覆うようにしても良い。例えば、非特許文献5(TISSUE ENGINEERING, Volume 12, 2006, 2181-2191)に記載のコラーゲンコーティングセルロース膜や、非特許文献6(Biomaterials, volume 29,2008, 3993-4002)
に記載の多孔質の窒化ケイ素膜、非特許文献7(Biomaterials, volume 29,2008, 290-301)に記載のポリエチレンテレフタレート膜のような半透膜の使用は、物理的なシグナル
で毛細胆管の形成を誘導し、且つ、培地成分などを供給可能な物質を肝細胞に重層することによりコラーゲンゲルと同様の効果を導くことができる。
また、具体的な非生体成分からなる半透膜の例として、再生セルロース(セロファン)、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、テフロン(登録商標)、ポリエステル系ポリマーアロイあるいはポリスルホンの多孔質膜が挙げられる。
また、上記の非生体成分の細胞外マトリクス様の物質に、細胞外マトリクスを組み合わせて使用することもできる。
細胞外マトリクスによって形成される柱状の窪みは、基板に対して垂直方向に柱状に形成されるものであることが好ましい。ここで、柱状とは、円柱状、多角柱状、略円柱状などが挙げられ、実質的に柱を形成できれば、切断面が台形になるような形状など、変形があっても良い。窪みを基板上に複数形成し、マイクロパターンを形成してもよい。これにより、化合物のスクリーニング等が可能となる。
また、柱状の窪みは、巨大毛細胆管(胆汁だまり)を形成可能であれば、どのような形状・大きさでも構わないが、底面積が1000〜20000μm2、好ましくは1500〜15000μm2、更に好ましくは2000〜10000μm2、特に好ましくは2500〜6000μm2であると、容易に安定して胆汁だまりを形成することができるので好ましい。
柱状の窪みの底面の直径は、10μm以上500μm以下、好ましくは20μm以上300μm以下、更に好ましくは40μm以上120μm以下が望ましい。
柱状の窪みの深さは10μm以上1mm以下、好ましくは50μm以上500μm以下、更に好まし
くは100μm以上200μm以下が望ましい。
また、柱状の窪みの底面から基板までの距離は狭い方が好ましいが、基板から十分に酸素を供給できる距離であれば良い。
このような柱状の窪みに肝細胞を配列することにより、その中心部分に巨大な毛細胆管(胆汁だまり)が形成される。
細胞外マトリクスに柱状の窪みを形成する方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
細胞培養皿などの容器内に基板を置き、適当な厚さになるようにゾル状の細胞外マトリクスを基板上に入れ、柱状の凸部を有するスタンプを細胞外マトリクスに凸部面を向けて載せ、細胞外マトリクスを固形化させた後に該スタンプを取り除くと、該細胞外マトリクスに柱状の凹部が形成される。その上に肝細胞を播種し、接着進展した肝細胞にさらに細胞外マトリクスゲルを重層し培養する方法が挙げられる。
図1を用いて、本発明の肝細胞の培養方法の一態様を説明する。基板を適当な厚さになるようにコラーゲンで覆い、円柱状の凸部を有するスタンプをコラーゲンに凸部面を向けて載せ、コラーゲンを固形化させた後に該スタンプを取り除くと、該コラーゲンに凹部が形成される。その上に肝細胞を播種し、接着進展した肝細胞にさらにコラーゲンゲルやマトリゲルなどの細胞外マトリクスゲルを重層し、培養を行う。
培養条件は公知の肝細胞を培養する方法に準じて行えば良く、培地としては、例えば、ダルベッコ修飾イーグル培地やウイリアムズE培地に血清、インスリン・トランスフェリ
ン・セレニウム塩、デキサメタゾンを添加した培地を用いることができる。
そして、一般的な細胞培養と同じく、通常37℃、5%CO2の条件で培養を行う。ただし、
特殊な細胞や条件で培養を行う場合は、温度やCO2濃度は適宜変更すればよい。培養条件
を調節することによって、肝細胞を2次元あるいは3次元に培養することや、毛細胆管の数を調節することができる。
このようにして培養を行うことにより、肝細胞に3次元的位置情報を付与することがで
きる。
すなわち、本発明の培養方法によれば、肝細胞の膜が分極し、肝細胞同士の間隙に沿って毛細胆管膜が、それ以外の部分には基底膜が形成される。この毛細胆管膜によって形成される毛細胆管は、通常直径が約10μmから最大60μm程度で、安定して平均直径約20μm
の球形または楕円形の、巨大な毛細胆管(胆汁だまり)となる。従来法によれば、最大5
μm程度の毛細胆管しか形成できなかったことから、本発明の方法は非常に効果が高いと
言える。
また、本発明の柱状の窪みに肝細胞を配列させることに加えて、該肝細胞と連携するように該窪み以外の場所に肝細胞を配列させても良い。こうすることで、該窪みで形成した巨大な毛細胆管と該窪み以外で形成した毛細胆管が組み合わさり、一つの毛細胆管として体積を増加させることができる。更に、2つ以上の該窪みの間に該肝細胞と連携するように該窪み以外の場所に肝細胞を配列させても良い。こうすることで、2つ以上の該窪みで形成した巨大な毛細胆管が該窪み以外で形成した毛細胆管を介して組み合わさり、更に、一つの毛細胆管として体積を増加させることができる。これにより、代謝物の回収量を増加させたり、各巨大な毛細胆管の条件を変えて測定に使用したりすることができる。また、連携するとは、細胞の物理的な接着の有無にかかわらず、毛細胆管を形成可能なように実質的に接着している態様である。
基底膜には化合物を取り込むための有機アニオン輸送体群、およびナトリウム/タウロ
コール酸共輸送体群が発現している。代表的なものはOATP(Organic anion transportingpolypeptide)1a1, OATP1b2, OATP1b3, OAT2, OATP4, OATP8であり、これらに特異的な抗体を用いた細胞抗体染色によって存在を確認することができる。
毛細胆管ネットワークには主要なATP binding cassette (ABC)トランスポータータンパク質が発現する。代表的なものはMRP2(Multidrug-Resistance Protein 2), MDR1(Multidrug-Resistance 1), BCRP(breast cancer resistance protein)であり、それぞれestradiol-17β-glucuronide、Digoxin、Taurocholateの輸送活性から存在の有無を判別で
きる。また、MRP2, MDR1, BCRPに特異的な抗体を用いた細胞抗体染色によっても確認することができる。
図2のように、柱状の窪みに肝細胞を配列することにより、その中心部分に毛細胆管が形成されるので、非常に大きな胆管が形成され、巨大毛細胆管(胆汁だまり)が形成できる。化合物を肝細胞に添加し、毛細胆管に排出される代謝物を解析することにより、化合物の代謝特性を検定することができる。
本発明の培養方法により、安定して毛細胆管を形成できることから、分析に使用する毛細胆管は、分析する物質や分析方法に応じて、1つあるいは複数を使用することができる。
すなわち、本発明の化合物検定装置(図3に一例を示す)は、本体部と、本体部に化合物を供給する化合物供給部と、本体部から化合物またはその代謝物を回収する化合物またはその代謝物の回収部とを有する培養肝細胞を用いた化合物検定装置であって、前記本体部は、基板と、該基板上で柱状の窪みを有する細胞外マトリクスと、該細胞外マトリクスに包埋された肝細胞とを有する。図2で示すように、巨大毛細胆管が形成されるため、ガラス管などの微細チューブを巨大毛細胆管に挿入し、容易に毛細胆管内に排出される代謝物を回収し、解析が可能となる。
また、別の形態として、図4のように、巨大毛細胆管が形成される位置の基板上に、貫通した微細な管を設置しておき、巨大毛細胆管形成後、底部のマイクロ流路を通して吸引することで、より簡便に毛細胆管内の代謝物だけを抽出することが可能となる。微細チューブやマイクロ流路などの流出先に蛍光光度計や質量分析装置(LC-MSやLC/MS/MS等)や
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)などの分析装置へ直結させることで、解析を同じデバイス内で同時に行うこともできる。分析装置は、解析する化合物に併せて適宜選択することができる。
化合物の代謝検定の方法としては、当業者であれば、公知の方法を適宜変更して実施できるが、例えば、本発明に従って毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造し、該培養肝細胞の培養液に化合物を添加して、該毛細胆管への取り込みを行った後、洗浄液で該培養肝細胞を洗って該化合物を除去し、化合物を含まない反応液中で代謝反応に供した後、反応液(培養肝細胞外液)中及び/又は毛細胆管液中の成分を分析して、化合物の代謝特性を検定することができる。反応液中は生体における血液成分の代替え、毛細胆管液中は生体における毛細胆管代謝物の代替えと見なすことができるが、実施例5に示すように、該培養肝細胞でのビリルビンの代謝は、反応液中及び毛細胆管液中の該ビリルビンの代謝物であるモノグルクロン酸ビリルビン(BMG)とジグルクロン酸ビリルビン(BDG)を解析すると、BMGとBDGの量比(BDG/BMG)は、毛細胆管液中で1.63、反応液中で0.77となり、従来知られていた生体の代謝特性とほぼ同等であった。
一例としてビリルビンの代謝を示したが、毛細胆管中に排泄される物質であれば好適に利用でき、蛍光やRI等の標識ビリルビンやビリルビン代謝物も利用可能である。ビリルビン代謝物としては、非抱合(直接)ビリルビンや抱合(間接)ビリルビンが挙げられ、更に抱合ビリルビンとしては、グルクロン酸抱合体や硫酸抱合体などが挙げられる。また、他の肝細胞で代謝され、毛細胆管中に排泄される生体成分や化合物についても同様に利用
可能なことは容易に理解できる。生体成分としては、Taurocholic acid、glycocholic acid、taurochenodeoxycholic acid、glycochenodeoxycolic acid、a- and b-tauromuricholic acidなどの胆汁酸などが挙げられ、化合物としては、Cephradine、d8-taurocholic acid、Digoxin、enkepharine hydrate、iodocyanine green、Indomethacine、Ouabain、Pravastatin、Rosuvastatin、Methotrexate、Vincristine、Doxorubicinなどが挙げられる
本発明の方法で作製した巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成した肝細胞は、薬物輸送検定や医薬候補物質のハイスループットなスクリーニングにも使用することができる。
薬物輸送検定としては、薬物がどのくらいの量と速度で肝細胞に取り込まれ、胆汁に排出されるかどうかの検定が例示される。または、ある化合物Aが化合物Bの輸送を阻害・促進するかどうかの検定が例示される。
薬物輸送検定の方法としては、例えば、非特許文献8(Liu X et al., Am J Physiol, 1999, vol.277, pp.G12-21)の方法が挙げられる。また、上述した代謝検定の方法を適宜改変して行うこともできる。
ハイスループットなスクリーニングの具体的な方法としては、例えば、微細な流路と高感度な検出器でごく微量の化合物を解析でき、さらにこれを自動あるいは半自動で行うような以下の方法などが挙げられる。
ハイスループットなスクリーニングのためには、細胞外マトリクスに包埋され巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成した肝細胞が培養されている培養部分それぞれに、試験化合物暴露させる注入口と、それぞれの区画の肝細胞で代謝され毛細胆管に排出される代謝物を回収するための口が設けられたマイクロ流路デバイスを構築することで可能となる。
上記マイクロ流路デバイスの注入口には化合物ライブラリから化合物溶液を分取し送液するポンプ、出口には代謝物を高速液体クロマトグラフィ(HPLC)や質量分析装置(LC/MS
やLC/MS/MS等)や蛍光光度計等に送って代謝物の定量や組成分析結果を導く流路が接続され、これらの動作をコンピューターなどで操作するようなものが例示される。
本発明の方法で作製した巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を形成した肝細胞が、生体を反映し、様々な用途に使用できるかどうかは、当業者であれば公知の手法を用いて容易に検討することができる。例えば、胆汁だまりの形成を視覚的に確認したり、既知の化合物を利用して化合物検定を行ったり、薬物代謝関連遺伝子群の遺伝子発現量を測定したりして、生体肝と同様な機能を有するか確認することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
[方法]実施例1−1.マイクロパターン化コラーゲンゲル培養器の作製
(ア) PDMSスタンプの作製・準備
モールディング(型取)により、スタンプをPDMSで製作した。モールド(型)は、SU-8(化薬マイクロケム株式会社)と呼ばれるエポキシ樹脂ベースのフォトレジストを用いて一般のフォトリソプロセスにより製作した(図5)。すなわち、シリコンウエハとSU−8からなるモールドを作製し、次いで、PDMSを流し込み乾燥させたあと、PDMSを引き剥がした。SU-8の厚みを100μmに設定することで、100μm高さの凸部(透明部分)をもつPDMSスタンプとした。凸部の形状や大きさは実験結果に述べるように様々なものを用いた。PDMSスタンプは使用前に、70%エタノールに浸漬して滅菌し、乾燥させた。使用直
前に1%ウシ血清アルブミン(シグマ社製)含有PBSに室温5分程度浸漬し、溶液を除いた後、完全に乾燥する前に用いた。
(イ) コラーゲンゲル表面のマイクロパターン化
3.0mg/mL collagen I(新田ゼラチン社製)に5xDMEM培地(シグマ社製)と水酸化ナト
リウム溶液を混合して、2.25mg/mL中性コラーゲン溶液を作製した。氷上で、中性コラー
ゲン溶液をノンコート35mmガラスボトムディッシュ(ガラス径27mm)(松浪硝子工業株式会社)または、35mm Lumoxディッシュ(ザルスタット社)に約500μL加えて、ディッシュ底面に均一に伸ばした。この溶液上に、上記で作製した円状の凸部を有するPDMSスタンプを載せ、37℃のインキュベーター内に60分以上放置した。
ゲル化後、ピンセットを用いてスタンプを取り除いた。その結果、位相差顕微鏡で、スタンプの円状の凸部パターンがコラーゲンゲルに窪みとして転写されたことが確認できた(図6A)。これをコラーゲンゲルのマイクロパターン化と呼ぶ。スタンプを除去した後はPBS(-)で2回洗浄し、PBS(-)を加えて、37℃で平衡化しておいた。
実施例1−2.肝細胞の配置
上記で作製したマイクロパターン化したコラーゲンゲル表面に肝細胞を1.5×105 cells/cm2で播き、全体に均一に広げた。(図6B)
細胞が窪みの底面に沈んだのを確認したのち(約3分程度)、ディッシュを傾けて、細
胞けん濁液を下部より吸い取る。新しい培地を静かに加えて、再び、ディッシュを傾けて培地を下部より吸い取る。これをもう1度繰り返した。
最後に、培地を加えて、37℃ CO2インキュベーターに入れて培養した。(図6C)
実施例1−3.細胞外マトリクスゲルの重層による巨大毛細胆管の誘導
(ア)細胞外マトリクスゲルとしてコラーゲンゲルを使用した場合の方法
実施例1−2で細胞の播種24時間後、コラーゲンゲル溶液を約100μL重層して、37℃
で放置した。30分後、0.1μmol/ L デキサメタゾン、0.1% インスリン−トランスフェリ
ン−セレニウム塩を含むWilliam's medium Eを加えた。培地は24時間おきに交換した。
(イ)細胞外マトリクスゲルとしてマトリゲルを使用した場合の方法
実施例1−2で細胞の播種24時間後、150μg/mlマトリゲル(グロスファクターリデュ
ースド)、0.1μmol/ L デキサメタゾン、0.1% インスリン−トランスフェリン−セレニ
ウム塩を含むWilliam's medium Eに培地を交換した。培地は24時間おきに交換した。
実施例1−4.毛細胆管の染色および画像解析
(ア)cholyl-lysyl-fluorescein (CLF)による毛細胆管染色
実施例1−3で作製された毛細胆管を持つ培養肝細胞をHBSSバッファー(1.26mM CaCl2,0.493mM MgCl2, 0.407mM MgSO4, 5.33mM KCl, 0.441mM KH2PO4, 4.17mM NaHCO3, 137.93mM NaCl, 0.338mM Na2HPO4)で1回洗浄した。次いで、1μmol/L CLF in HBSSで30分間、37
℃,5%CO2で反応させ、HBSSバッファーで1回洗浄した後、Zeiss社製LSM710共焦点顕微鏡を用いて鏡検した。
(イ)画像解析
Zeiss社製LSM710共焦点顕微鏡で微分干渉像およびCLF染色の3次元画像を取得した。Zeiss社製画像解析ソフトZenで画像を開いた。微分干渉像から、比較的細胞の配置が円形に
近い細胞集団を選別し、それのおよその直径を見積もった。その細胞集団のCLF染色像か
ら、毛細胆管の最も太い部分の幅(胆管径と呼ぶ)を計測した。
実施例1−5.毛細胆管膜マーカータンパクの発現局在解析
実施例1−3で培養したものをPBSで2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド/PBSで5
分固定し、PBSで培養を3回洗浄した。次いで、メタノールで20分、-30℃で固定し、PBSで培養を3回洗浄した。その後、ブロッキングバッファー(1% BSA, 0.05%TritonX-100 in PB
S)で60分間、室温放置した。ブロッキングバッファーを除いた後、一次抗体をブロッキングバッファーで100倍希釈した液を200μL加え一晩、4℃放置した。次いで、PBSで培養を3回洗浄した。PBSを除いた後、二次抗体(Molecular probes)をブロッキングバッファーで500倍希釈した液を200μL加え60分、暗所室温放置した。次いで、PBSで培養を3回洗浄した。PBSを除いた後、Alexa488-phalloidin(Invitrogen)をPBSで100倍希釈し、30分間、室温放置した。次いで、PBSで培養を3回洗浄した。PBSを除いた後、DAPI(同仁化学研究所
)で核を染色した。蛍光減衰防止試薬(Dako)でマウントし、カバーガラスで封入したのち、鏡検した。
巨大胆管形成に対するマイクロパターンの検討
実施例1−2に従って、コラーゲンゲル表面上のマイクロパターン化と細胞の配置方法により、円柱形窪みに肝細胞を配置し、約24時間後にコラーゲンゲルを重層するか、マトリゲル入り培地に交換した。さらにその約24時間後と96時間後に、これを次の毛細胆管構造の解析のために用いた。なお、ガラスあるいはLumoxディッシュの上に、様々な面積:μm2(直径:μm)1256(40)、2826(60)、5024(80)、7850(100)、11304(120)および深さ100、150、200μmの円柱形マイクロパターンに肝細胞を配
置した。
この細胞を実施例1−3に従って、コラーゲンゲルもしくはマトリゲルを用いてサンドイッチ培養して、培養2日目に、実施例1−4に従って、毛細胆管構造をCLFの蓄積によ
り可視化し、円柱形マイクロパターンに配置された肝細胞集団の内部に構築された毛細胆管の直径を計測した。各条件において形成される毛細胆管直径を以下の表に示す。なお、細胞死とは、細胞が窪み内に配列するが、形態上収縮して、細胞死を起こしていると思われたもの、配列できずとは、窪みが狭すぎたり、その形成が不十分であったりしたため、内部に細胞が入らなかったものを示す。
その結果、基板材質がガラス、重層物がコラーゲンゲル、窪みの面積がおよそ2826μm2に配置した肝細胞塊を2日間培養した時に、最も太い毛細胆管を形成しやすかった。マトリゲルを重層しても同様に太い毛細胆管が形成できるが、その太さはコラーゲンを重層した場合よりも細かった。マトリゲルを重層した場合でも、基板材質をガス透過性膜に、更
に、窪みの深さは100μmから200μmにすることで、毛細胆管を太くすることができた。
胆管代謝物の解析
実施例1−2に従って、コラーゲンゲル表面上のマイクロパターン化と細胞の配置方法により、面積2826μm2,深さ200μmの円柱形窪みに肝細胞を配置し、約24時間後にマト
リゲル入り培地に交換した。さらにその約24時間後に、1μM CLFを加えた。胆汁だまりに蓄積したcholyl-lysyl-fluorescein (CLF)の量を定量するため、外径約20μm、内径
約10μmのガラスキャピラリーを胆汁だまりに挿入もしくは接しさせ、オイルインジェク
ターを用いて吸引した。図7の左に胆管代謝物回収前、右に胆管代謝物回収中を示す。胆管中のCLFがガラス管に吸引され、胆管中からはなくなっているのがわかる。
5個の胆汁だまりから胆管代謝物を吸引して別のチューブに吐出して集め、その一部を取ってCLFの量を蛍光マイクロプレートリーダーMTP-800(コロナ電気)を用いて測定した。
その結果、胆汁だまりから0.19pmolのCLFを分取することができた。一方、従来法(24
穴のコラーゲンコートプレート(面積1.9cm2:直径15.7mm)に肝細胞を2×105個播種し、マトリゲルを重層して5日間培養し、1μMのCLFを加えて、肝細胞全体の蛍光値から胆管蓄積CLFを放出させた肝細胞の蛍光値の差から算出した胆管蓄積CLF量)と比較した。その結果を図8に示す。従来法より本発明の測定法のほうが約10倍のCLFを回収することがで
きた。
巨大胆管構造の膜タンパク質の発現解析
毛細胆管は毛細胆管膜と呼ばれる特殊な細胞膜構造に囲まれた構造をしている。毛細胆管膜にはMRP2と呼ばれる毛細胆管膜マーカータンパクが発現しているため、MRP2を染色することで、毛細胆管構造を可視化することができる。形成された肝細胞組織の構造および毛細胆管構造を明らかにするため、上記で面積がおよそ2826μm2の円柱形マイクロパターン化コラーゲンゲルに配置された肝細胞を、実施例1−5に従って、MRP2を抗体で染色した。細胞膜は細胞膜に多く局在するアクチンを染色した。細胞数を明確にするため、細胞核をDAPIによって染色した。このように染色された細胞を共焦点顕微鏡を用いて観察し、3次元構造を構築した。
その結果、面積がおよそ2826μm2の円柱形マイクロパターンコラーゲンゲルに配置された肝細胞塊はおよそ10個で構成されていたことが観察された。また、高さ方向の細胞の重なりかたから、この細胞集団は多層にはなっていないが、核の高さ方向の位置から、細胞が互い違いに重なった構造となっており、厚さは約40μmであることが観察された。また
、これらの肝細胞が寄り集まって、その内側に直径約30μmの毛細胆管腔を形成している
ことが観察された(図9)。
以上、本発明により、これまでに無い大きな胆汁だまりを容易に形成できることが示された。
毛細胆管に排出されるビリルビン代謝物の分析
ビリルビンは、肝臓で行われる重要な代謝対象の一つである。本発明の培養肝細胞が生体と同様に、ビリルビンを代謝し、前記培養肝細胞が形成する毛細胆管にそのビリルビン代謝物が排泄されるか検討した。
実施例1のコラーゲンゲル表面上のマイクロパターン化コラーゲンゲル培養器の作製と細胞の配置方法により、35mm Lumoxディッシュ(ザルスタット社)上に形成した、面積2826
μm2(直径60μm)、深さ150μmの円柱形窪みに肝細胞を配置し、約24時間後にマトリ
ゲル入り培地に交換し、さらにその約24時間培養した細胞を分析に用いた。マトリゲル入り培地を除いてWilliams Medium E培地(Life Technology社製)で洗浄後、Williams Medium E培地に溶解した3μMビリルビン(Calbiochem社製)を培養に加えた。37℃60分取
り込み反応させたあと、HBSS(Life Technology社製)で洗浄し、HBSS中37℃20分代謝
反応させた。その後、上清を回収し、これを反応液中成分とした。なお、反応液中成分には血管側に排出される代謝物が含まれると考えられている。一方、毛細胆管に排出されたビリルビン代謝物成分を分析するため、外径約20μm、内径約10μmのガラスキャピラリーを胆汁だまりに挿入もしくは接しさせ、オイルインジェクターを用いて吸引した。10個の胆汁だまりを吸引して別のチューブに吐出して集めた。これを毛細胆管中成分とした。
毛細胆管中成分および反応液中成分の10μLを取ってビリルビン代謝物の成分をHPLCを
用いて測定した。HPLCはMerck社製Chromolith Performance RP 18eカラムを装備した日本分光社製のLC-2000plusシステムにより行った。ビリルビン代謝物であるグルクロン酸ビ
リルビンを分離するために、移動相A(75% 0.01Mリン酸ナトリウム、25% アセトニトリル、150uL/Lトリエチルアミン)と移動相B(20% リン酸ナトリウム、80%アセトニトリル、1.5mL/Lトリエチルアミン)の濃度勾配を用いた。まず、1分間100%移動相Aで分離した後、6
分で100%移動相Bとなる濃度勾配分離を行った。ビリルビン代謝物であるモノグルクロン
酸ビリルビン(BMG)、ジグルクロン酸ビリルビン(BDG)を450nmの吸光度で検出した。流速
は3mL/minで行った。
毛細胆管中成分の分析結果を図10、反応液中成分の分析結果を図11に示す。Retention time(保持時間)が3.5分付近にBDG、4.5分付近にBMGが検出される。この結果から、BMG、BDGの量比BDG/BMGを計算したところ、毛細胆管中成分では1.63、反応液中成分は0.77であった。
Mesaら(Mesa VA, De Vos R, and Fevery J (1997) Elevation of the serum bilirubin diconjugate fraction provides an early marker for cholestasis in the rat. J Hepatol 27:912-916.)によると、ラット生体の胆汁中と血液中のBDG/BMGはそれぞれ1.5および0.6である。このことから、本発明の培養肝細胞から得たビリルビン代謝物とラット
生体から得たビリルビン代謝物の成分はほぼ同等であることを示すことができた。したがって、本発明の培養肝細胞を用いれば、生体を用いずに生体の代謝物成分を正確に予測できることを実証できた。
薬物代謝関連遺伝子群の発現量解析
本発明の培養肝細胞が、生体肝に外挿性があるか、薬物代謝関連遺伝子群の発現量を解析することによって検討した。
実施例1に従い、35mm Lumoxディッシュ(ザルスタット社)を用いて、コラーゲンゲル表面上のマイクロパターン化コラーゲンゲル培養器の作製と細胞の配置方法により、面積2826μm2,深さ150μmの円柱形窪みに肝細胞(1.5x105個/cm2)を配置し、約24時間後にマトリゲル入り培地に交換し、さらにその後約24時間培養した。培地を除いて培養肝細胞を回収し、Rnaeasy RNA調製キット(Qiagen社)を用いて、プロトコルに従いRNAを抽出した。生体肝を表す比較対照として、ラットから調製したばかりの肝細胞から上記と同様にRNAを抽出した。また、本発明の優位性を示す比較対照として、従来法(conventional method)による培養細胞を準備した。従来法は、ポリスチレン基板上に肝細胞を1.5x105個/cm2に播種し、播種後約24時間後にマトリゲル入り培地に交換し、さらにその
後約24時間培養した。培地を除いて培養肝細胞を回収し、上記と同様にRNAを抽出した
次に、RT2 profiler PCR Array KitのRat Drug Transporters Array (Qiagen社製)、R
at Drug Metabolism: Phase I enzymes Array (Qiagen社製)及びRat Drug Metabolism: Phase II enzymes Array (Qiagen社製)を用いて、それぞれ84遺伝子ずつ薬物代謝関連
遺伝子の発現量を解析した。具体的には、プロトコルに従い、cDNA合成およびPCR反応を
行い、各遺伝子量を計測した。それぞれのArrayに含まれる遺伝子のリストを表2〜4に
載せた。遺伝子量の解析はHouse Keeping Geneを基準としたddCt法によった。これは遺伝子量を相対的に定量するための一般的な手法である。これにより、Rat Drug Transporters Array、Rat Drug Metabolism: Phase I enzymes Array、Rat Drug Metabolism: Phase II enzymes Arrayについて、(A)生体肝と本発明の培養法、(B)生体肝と従来の培養法の間で、遺伝子量の比較を行った。Rat Drug Transporters Arrayの(A)の結果を図
12に、(B)の結果を図13に、Rat Drug Metabolism: Phase I enzymes Arrayの(A)の結果を図14に、(B)の結果を図15に、Rat Drug Metabolism: Phase II enzymes Arrayの(A)の結果を図16に、(B)の結果を図17に示す。横軸及び縦軸はHouse
keeping geneに対する相対的な遺伝子発現量を示し、横軸は生体肝、縦軸はそれぞれの
比較対照を示す。また、図中の3本線の内、中央の線は、比較する2者間で遺伝子発現量が同一のラインを示し、3本線の外側2本は、比較する2者間の遺伝子発現量が3倍のラインを示す。
Rat Drug Transporters遺伝子群においては、生体肝と従来の培養法で発現量差が3倍以内であった遺伝子種は42%であったのに対して、生体肝と本発明の培養法では75%であった。
さらに、Rat Drug Metabolism: Phase I enzymes遺伝子群においては、生体肝と従来の培養法で発現量差が3倍以内であった遺伝子種は14%であったのに対して、生体肝と本発明の培養法では51%であった。
一方、Rat Drug Metabolism: Phase II enzymes遺伝子群においては、生体肝と従来の
培養法で発現量差が3倍以内であった遺伝子種は64%であり、本発明び培養法では65%とほ
ぼ同様の傾向を示した。
また、Rat Drug Transporters遺伝子群、Rat Drug Metabolism: Phase I enzymes遺伝
子群、Rat Drug Metabolism: Phase II enzymes遺伝子群の全てを合わせると、生体肝と
従来の培養法で発現量差が3倍以内であった遺伝子種は42%であったのに対して、生体肝と本発明の培養法では63%であった。
以上の結果から、本発明の培養法による培養肝細胞において、薬物代謝関連遺伝子群が、従来の培養法よりも生体肝と類似して発現していることがわかった。特にDrug Transporter遺伝子群、およびPhase I Enzyme遺伝子群において、従来法よりも生体に近い遺伝子量を維持することがわかった。これらの遺伝子群は、薬物代謝と関連がより高いことが知られていることから、本発明の培養法が薬物代謝試験において特に有用であることが示された。
従って、本発明の培養法による培養肝細胞における薬物代謝反応は、従来の培養法に比べて生体肝に外挿性のある反応を再現することから、本発明の培養法による培養肝細胞による薬物代謝試験により、未知化合物の動態を簡便かつより正確に予測することを可能にする。
本発明の培養方法によって得られる巨大な毛細胆管(胆汁だまり)を有する培養肝細胞は肝細胞を用いた医薬品候補化合物のハイスループットスクリーニングや薬物輸送検定な
どに利用できる。また、生体を用いた試験の代替え法とできることは、倫理的にも意義が高い。そして、それは医薬品候補化合物等の肝細胞における取り込み・代謝・排泄の解析精度と効率の上昇に寄与し、創薬プロセスの高効率化につながる。
A: 化合物検定装置、1:培養容器、2:マニュピレーター、3:オイルインジェクター
1(化合物供給部)、3':オイルインジェクター2(化合物または代謝物回収部)、4
:顕微鏡

Claims (9)

  1. 基板上に細胞外マトリクスで包埋された肝細胞を配置して培養する、肝細胞に毛細胆管を形成させるための肝細胞培養方法であって、該細胞外マトリクスが該基板上で柱状の窪みを形成しており、該肝細胞を該柱状の窪み内に配置して培養することを特徴とする方法。
  2. 前記柱状の窪みの底面積が1000〜20000μm2である、請求項1に記載の肝細胞培養方法。
  3. 基板上に細胞外マトリクスで包埋された肝細胞を配置して培養する、毛細胆管を形成した培養肝細胞の製造方法であって、該細胞外マトリクスが該基板上で柱状の窪みを形成しており、該肝細胞を該柱状の窪み内に配置して培養することを特徴とする方法。
  4. 請求項3に記載の方法により毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造し、得られた培養肝細胞を用いて化合物の代謝を評価する、化合物の代謝検定方法。
  5. 請求項3に記載の方法により毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造する工程、該培養肝細胞の培養液に化合物を添加する工程、該化合物を除去する工程、反応液中及び/又は毛細胆管液中の成分を分析する工程を含む、請求項4に記載の化合物の代謝検定方法。
  6. 化合物がビリルビン及び/又はビリルビン代謝物である請求項4または5に記載の化合物の代謝検定方法。
  7. 請求項3に記載の方法により毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造し、得られた培養肝細胞を用いて化合物の輸送を評価する、化合物の輸送検定方法。
  8. 請求項3に記載の方法により毛細胆管を形成した培養肝細胞を製造する工程、該培養肝細胞の培養液に化合物を添加する工程、該化合物を除去する工程、反応液中及び/又は毛細胆管液中の成分を分析する工程を含む、請求項7に記載の化合物の輸送検定方法。
  9. 培養肝細胞を含む本体部と、本体部に化合物を供給する化合物供給部と、本体部から化合物またはその代謝物を回収する回収部とを有する培養肝細胞を用いた化合物検定装置であって、前記本体部は、
    基板と、
    該基板上で柱状の窪みを有する細胞外マトリクスと、
    該細胞外マトリクスに包埋され、該柱状の窪み内に配置された肝細胞と、を有することを特徴とする、装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2022209552A1 (ja) * 2021-04-01 2022-10-06 凸版印刷株式会社 細胞凝集体を製造する方法
JP7348997B1 (ja) 2022-07-27 2023-09-21 浜松ホトニクス株式会社 毛細胆管領域の特定又は評価の方法、装置及びプログラム

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