JP2013221313A - 粘性制震壁 - Google Patents

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Abstract

【課題】超高層建物等の制震構造化に用いられる粘性制震壁の減衰性能の安定化を図り、震源域近傍の強震動による大振幅加振、および長周期地震動や超巨大地震による長時間継続地震動による多数回繰り返し加振に対しても性能の低下しない粘性減衰装置を提供する。
【解決手段】建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、粘性制震壁の立ち上がり壁板(外壁鋼板)31の平面両端部に液溜まり部38を設けると共に、垂下壁板(内壁鋼板)41を外壁鋼板31より長くして、垂下壁板(内壁鋼板)41の端部移動位置が常に両端部の液溜まり部内に位置するようにする。
【選択図】図4

Description

本発明は、構造物の振動エネルギー吸収能力を高めて減衰性能の高い構造物とすることによって、構造物の耐震安全性を向上させると共に、風や交通振動、その他の動的外力によって発生する構造物の振動を効果的に抑制できる制震・制振構造物および免震構造物を実現する減衰装置の内、特に「粘性制震壁」に関するものである。
建築物や工作物・塔状構造物など各種の構造物の耐震安全性を高め、また風その他の動的外力による構造物の振動を抑制して居住性能を改善するために、構造物にエネルギー吸収装置(以下、「減衰装置」と表現する場合もある)を取付け、構造物の減衰性能を高める方法が開発・実用化されている。これまでに実用化されている建築構造物用の代表的な減衰装置としては、鋼材や鉛の塑性変形を利用する金属履歴ダンパー、高減衰ゴムや粘弾性材料を利用する粘弾性ダンパー、オイルダンパーや壁形状箱の内部に粘性流体を封入した粘性減衰壁「粘性制震壁」などの粘性ダンパーなどがある。
これらの制震(制振)ダンパーの内、設計上の取り扱いが易しく、使用性・経済性等の観点からも実用的と考えられている鋼材履歴ダンパーは、その採用実績も多いが、2011年の東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)の経験から、制振構造物としての効果があまり明瞭に認められたものは殆どなく、また10分以上も長時間続く長周期地震動に対しては、その疲労特性に不安がるあることが指摘されている。この課題は、地震だけでなく、大型台風の直撃を受けた場合、特にその速度が遅い場合には数時間以上も暴風圏内にあることが考えられ、従来から指摘されている問題である。
この金属履歴系ダンパーに対して、疲労特性および構造物の応答抑制効果という観点から、速度に比例した抵抗力を発揮する粘性系ダンパーが優れていると考えられている。粘性ダンパーの中でも、シリンダー形状のオイルダンパーは、温度依存性が小さく、設計・解析上の扱いも易しいという利点を有しており、近年その採用事例が急速に増加してきたが、作動時には高い内部圧力を発生するため内部流体の漏れの危険性があり、長期間に渡るシーリング(漏れ防止)性能に不安がある。また近年実施された実物装置の動的振動台実験によると、急速な負圧側の動きでオイルが気化し、変位が逆転するとかなり大きな振幅に渡って圧縮側の抵抗力が発生せず、ダンパー機能が大きく低下する現象が生じることが報告され、オイルダンパーは大きな問題を有していることが明らかになっている。
これに対して壁形状の粘性制震壁は、極めて単純な構成の粘性系ダンパーであり、オイルダンパーのように精密な機械装置部分を有していないので、メンテナンスフリーで長期耐久性に優れ、作動信頼性が高く、構造物に高い粘性減衰性能を付与できるという特長を有している。阪神大震災以降、高層建物を中心にして採用事例が徐々に増加してきており、また免震構造の減衰装置としても利用されている。
粘性制震壁は特許第1577568号(特許文献1参照)で発明され、開発実用化された後、以下に示す部分的な改良(特許文献2〜6参照)等がなされて今日に至っている。
特公平02−001947号公報 特開平11−071935号公報 特開2000−220318号公報 特開2001−132265号公報 特開2007−009452号公報 特開2010−255302号公報
しかし、既知の従来技術には、次のような解決すべき課題が残されていた。
粘性制震壁の第一課題は、粘性減衰壁の力学特性の安定化に関するものである。粘性制震壁は、粘性流体のせん断抵抗を基本原理にしており、外壁鋼板で構成されている粘性流体の貯留槽内を内壁鋼板が水平移動する。この時、内壁鋼板の前面は粘性流体を押しのけるため粘性流体が貯留部上部に盛り上がり抵抗力が上昇する。
一方、内壁鋼板の後面では内壁鋼板の移動により負圧を生じて隙間が発生する。粘性流体はこの隙間を埋めようとするが、粘度が高いために粘性流体の流動が追いつかず、大きな窪みが生じて有効面積が減少し、その後内壁鋼板が戻って来る時に粘性流体が不足して抵抗力が低下したり、時には空気泡を巻き込み、これを内壁鋼板が押しつぶして大きな破裂音が生じる場合がある等、特に大振幅の振動が繰り返される場合の抵抗力の安定に改善すべき問題がある。
また、内壁鋼板の前面では高い圧力が発生するために、内壁鋼板と外壁鋼板間の間隔(粘性流体の層厚さ)が拡がって、抵抗力低下の原因となっている。
特にマグニチュ−ド8〜9という大規模地震時には継続時間が長く、長時間・多数回の繰り返し加力を受けることになるので、多数回繰り返しによる抵抗力の低下問題が顕著になりやすい。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、構造物用の優れた減衰装置である粘性制震壁の性能発現を更に安定化し、信頼性の高い粘性減衰装置を提供することを目的とする。
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
前記下階の床スラブまたは梁もしくは梁上の連結部材に固定された複数枚の立ち上がり壁板を平行に立ち上げ、前記複数枚の立ち上がり壁板の各端部を塞いで箱状壁体を構成し、前記上階の床スラブまたは梁もしくは前記連結部材に固定された1枚以上の垂下壁板を、前記箱状壁体内の前記立ち上がり壁板間に挿入し、前記立ち上がり壁板と前記垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
両外壁面を構成する前記複数枚の立ち上がり壁板の平面両端部に、前記箱状壁体の中央部幅(厚さ方向の長さ)よりも大きな幅を有する鉛直方向の液溜まり部を有しており、
前記下階側に固定された、前記立ち上がり壁板の長さよりも、前記上階側に固定された前記垂下壁板の長さを長くしていることを特徴とする粘性制震壁。
〈構成2〉
建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
前記下階の床スラブまたは梁もしくは梁上の連結部材に固定された複数枚の立ち上がり壁板を平行に立ち上げ、前記複数枚の立ち上がり壁板の各端部を塞いで箱状壁体を構成し、前記上階の床スラブまたは梁もしくは前記連結部材に固定された1枚以上の垂下壁板を、前記箱状壁体内の前記立ち上がり壁板間に挿入し、前記立ち上がり壁板と前記垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
両外壁面を構成する前記複数枚の立ち上がり壁板の平面両端部に、前記箱状壁体の中央部幅(厚さ方向の長さ)よりも大きな幅を有する鉛直方向の液溜まり部を有しており、
前記上階側に固定された前記垂下壁板の長さを、前記下階側に固定された前記立ち上がり壁板の長さとほぼ同じにしていることを特徴とする粘性制震壁。
〈構成3〉
構成1および構成2に記載の粘性制震壁において、
前記外壁面の両端部に設けられた前記鉛直方向の液溜まり部は、平面形状が矩形であり、且つ前記立ち上がり壁板の平面の軸方向に平行に設けられていることを特徴とする粘性制震壁。
〈構成4〉
構成1および構成2に記載の粘性制震壁において、
前記外壁面の両端部に設けられた前記鉛直方向の液溜まり部は、平面形状が矩形であり、且つその平面頂部が前記立ち上がり壁板の平面の中心軸最外端に位置するように設けられていることを特徴とする粘性制震壁。
〈構成5〉
構成1および構成2に記載の粘性制震壁において、
前記外壁面の両端部に設けられた前記鉛直方向の液溜まり部は、その平面形状が円形もしくは楕円形であることを特徴とする粘性制震壁。
〈構成6〉
構成1乃至構成5のいずれかに記載の粘性制震壁において、
前記立ち上がり壁体を3枚、前記垂下壁を2枚とした粘性制震壁であり、
前記立ち上がり壁体3枚の内の中央の立ち上がり壁体が、前記鉛直方向の液溜まり部の前記箱状壁体に接続されて一体化されており、
前記鉛直方向の液溜まり部内において、鉛直方向に複数個の孔を有していることを特徴とする粘性制震壁。
〈構成7〉
構成1乃至構成6のいずれかに記載の粘性制震壁において、
前記鉛直方向の液溜まり部および前記立ち上がり壁板上部の水平方向の液溜まり部に、前記立ち上がり壁板および前記垂下壁板の相対面する重なり部分に封入されている粘性流体よりも粘度の低い粘性流体を封入していることを特徴とする粘性制震壁。
本発明において、粘性制震壁の垂下壁板(内壁鋼板)の移動に伴う粘性流体の流動が安定化され、特に大振幅の振動時においても安定した粘性減衰抵抗とエネルギー吸収性能を提供できるようになった。
特に本発明では、粘性制震壁の内壁鋼板の移動に伴い、粘性制震壁の端部において内壁の移動する前面側での圧力の上昇および粘性流体の盛り上がりが解消されると共に、後ろ側での負圧の発生および粘性流体の窪みが生じる現象を大きく緩和することができ、それによって空気の巻き込み現象が回避され、大振幅の加振や多数回の繰り返し加振による減衰性能の低下が回避される。
例えば、従来の粘性制震壁では、垂下壁板(内壁鋼板)と立ち上がり壁板(外壁鋼板)の隙間が2mm、粘性流体内の内壁壁板の厚さが16mm、高さが2mの粘性制震壁の場合、地震時に内壁鋼板が5cm移動すると、内壁鋼板が押しのけようとする粘性流体は、1.6cmx200cmx5cm=1600ccとなる。従来の粘性制震壁の端部液溜まり部の外壁鋼板間の内側距離は16+2x2=20mmであるから、粘性制震壁両端部の液溜まり部の長さが10cm(内壁鋼板移動後の残り長さ=5cm)とすると、内壁鋼板の前面において粘性流体は1600/(2x5)=160cm分も盛り上がったり、後面では液面低下が生じることになり、粘性流体の溢れ出し、有効面積の低下、空気の巻き込み等が発生する。
これに対して本発明では、まず粘性制震壁の両端部に幅15cmx長さ15cmの液だまり部を設けたとすると、粘性流体の液面高さの変動は1600/(15x15)=7.1cmと従来型の1/20以下に抑制されることにな。この程度の液面変動高さは、粘性制震壁上端部に設けている液だまり部で充分吸収可能であり、溢れ出しや液面低下による有効面積の減少を防止することができる。従って、空気の巻き込み現象を大きく改善することができる。この効果までは特許文献6において解決されていた効果である。
但し、特許文献6では、内壁鋼板が従来型震壁と同じく、狭い外壁鋼板の間に配置されていたため、内壁鋼板の端部妻面が外壁鋼板の間で粘性流体を押し出したり、粘性流体を引き込むという現象は従来どおりであり、狭い空間内での粘性流体の移動を強制するために、未だ圧力の上昇や負圧の発生、空気の巻き込み現象が完全には回避できない部分が残されていた。
この課題に対して本発明の構成1では、内壁鋼板を壁体両端部の液溜まり部にまで伸ばしており、作動時に内壁鋼板が外壁鋼板に対して相対移動した場合にも、隙間の狭い外壁鋼板の間に内壁鋼板が存在しなくなる現象が発生しない。これにより、負圧の発生が緩和され、空気の巻き込み現象を回避できることになる。少なくとも、壁体の有効面積部分(外壁鋼板の対面領域)における空気巻き込みは発生不可能となり、空気巻き込みに伴う有効面積の減少がなくなり、性能が安定化される。
この効果を実際に測定して確認した結果が図7である。図7の左側(1)が従来型制震壁における圧力上昇とその結果として発生する外壁鋼板端部における面外方向への孕みだし変形であり、同図右側(2)が本発明制震壁における圧力上昇および面外方向孕みだし変形である。圧力上昇が大幅に改善され、外壁鋼板の面外方向への孕みだし変形も殆ど発生しない結果となっている。
特に変位振幅が大きい場合や加力回数が多数回繰り返される場合など過酷な加振条件に対してこの効果が大きく、性能が安定化され、減衰装置としての信頼性が向上する。
また本発明の構成2は、内壁鋼板の長さを外壁鋼板の長さと同じにすることにより、内壁鋼板の移動量に応じて有効面積が減少することを意図したものであり、復元力特性において変形の増大に伴う抵抗力の上昇を抑えて、構造物の負担応力を軽減する効果を意図したものである。
東北地方太平洋沖地震をはじめ、M8〜M9クラスの海洋性巨大地震による長周期地震動に対する超高層ビルの安全性が指摘されており、本発明による粘性制震壁は、巨大地震の特徴である長い継続時間における多数回の繰り返し振動に対して安定した減衰性能を提供できるので、減衰装置並びに高減衰の制震構造物に対する信頼性と安全性を大きく高めることができる。
また粘性制震壁は、近年免震構造用の減衰装置としても利用されているが、免震構造では大きな振動振幅が必要となる。本発明の粘性制震壁は、大振幅の振動に対して安定した粘性減衰性能を提供できるので、免震構造にもこれまでにない優れた減衰装置としての効果を発揮する。
本発明が対象とする従来型の粘性制震壁の基本構成と配置要領を示す図で、 (1)粘性制震壁の正面図、 (2)粘性制震壁の縦断面図、である。 本発明の制震壁の全体形状図で、 (1)本発明の粘性制震壁の正面図、 (2)図2(1)のA−A線矢視の縦断面図、 (3)本発明の粘性制震壁の側面図、である。 従来型制震壁と本発明制震壁の相違を示す横断面図で、 (1)従来型震壁の端部平面形状、 (2)端部に液溜まり部を有する従来型の制震壁の端部平面形状、 (3)本発明制震壁の端部平面形状で、内部鋼板(垂下壁)が液溜まり部に突出している場合、 (4)本発明制震壁の端部平面形状で、内部鋼板(垂下壁)の長さを外壁鋼板(立ち上り壁)と等しくしている場合、をそれぞれ示している。 本発明制震壁の端部液溜まり部の形状と垂下壁板(内壁鋼板)の関係を示す横断面図で、 (1)端部の液溜まり部の平面形状が矩形の場合、 (2)端部の液溜まり部の平面形状が矩形で45°回転して配置されている場合、 (3)端部の液溜まり部の平面形状が円形の場合、をそれぞれ示している。 本発明の制震壁のダブルタイプ(垂下壁が2枚の場合)の横断面図で、 (1)端部の液溜まり部の平面形状が矩形の場合、 (2)端部の液溜まり部の平面形状が矩形で45°回転して配置されている場合、をそれぞれ示している。 本発明の粘性制震壁における粘度の異なる粘性流体の配置を示す説明図で、 (1)粘性制震壁の正面立面からみた粘性流体の分布図、 (2)粘性制震壁の縦断面図、 (3)粘性制震壁の横断面図、である。 効果を実際に測定して確認した結果を示す線図であり、 (1)従来型制震壁における圧力上昇とその結果として発生する外壁鋼板端部における面外方向への孕みだし変形状況を示す図、 (2)本発明制震壁における圧力上昇および面外方向孕みだし変形状況を示す図、である。
図1は本発明が対象とする粘性制震壁の基本構成と配置要領を示す図で、(1)は粘性制震壁の正面からみた立面図、(2)は粘性制震壁平面中央部付近の縦断面図である。
粘性制震壁は、建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、図1に示すように、柱1、梁21、22で構成される建物骨組みの上下階の床スラブ20または梁21、22に直接もしくは連結部材23を介して取り付けられている。下階の床スラブ20または梁22もしくは連結部材23の上に立ち上がり壁板(外壁鋼板)31を平行に立ち上げ、その壁板端部を塞いで箱(箱状壁体)を構成している。その中に上階の床スラブ20または梁21に固定された垂下壁板(内壁鋼板)41が垂下しており、立ち上がり壁板(外壁鋼板)31と垂下壁板(内壁鋼板)41の隙間に粘性流体5が充填されている。
本発明は、この粘性制震壁を対象としたものであり、以下、本発明の実施の形態を実施例を示す図面に基づいて説明する。
図2は本発明制震壁の全体形状を示している。
本発明に係る粘性制震壁は、建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、次のように構成されている。図2に示すように、下階の床スラブまたは梁22もしくは梁上の連結部材23に固定された複数枚の立ち上がり壁板(外壁鋼板)31を平行に立ち上げ配置し、複数枚の立ち上がり壁板31の平面両端部を塞いで箱状壁体を構成している。上階の床スラブまたは梁21もしくは連結部材23に固定された1枚以上の垂下壁板(内壁鋼板)41を箱状壁体の中に挿入配置し、立ち上がり壁板31と垂下壁板41の隙間に粘性流体が充填されている。複数枚の立ち上がり壁板31の平面両端部の対向面間に、同立ち上がり壁板31の中央部の対向面間の間隔よりも大きな間隔を有する、鉛直方向の液溜まり部38が設けられている。鉛直方向の液溜まり部とは、鉛直方向に延びる液溜まり部をいう。上階側に固定された垂下壁板41の両端部を鉛直方向液溜まり部の中にまで延ばすことにより、垂下壁板41の長さを下階側に固定された立ち上がり壁板31の長さよりも長くしている。
本発明の粘性制震壁は立ち上がり壁板の端部に鉛直方向の液溜まり部38を有しているので、図2(1)および(3)もは、その周囲を囲む筒型壁材39が見えている。また立ち上がり壁板の上端部には、内壁鋼板41の移動に伴う粘性流体の溢れを吸収するための水平方向に延びる形状の上部液溜まり部33が構成されている。図2(2)は、立ち上がり壁板の平面中央部付近におけるA−A矢視に沿った縦断面図を示し、図2(3)は立ち上がり壁板の妻面の立面図(側面図)である。側面図には鉛直方向の液溜まり部の筒型壁材39の妻面が見えている。
図3は、本発明制震壁と従来型制震壁の相違点を拡大明示したものである。図3(1)は、従来型粘性制震壁の基本型であり、平行な立ち上がり壁板(外壁鋼板)31の両端部にこれを繋ぐ妻面鋼板32が溶接されて箱形容器を形成しており、その内部に垂下壁板(内壁鋼板)41が垂下して設けられており、その隙間に粘性流体が充填されている。これが従来からの粘性制震壁の基本形状(原型)である。
図3(2)は、特許文献6による改良型の粘性制震壁であり、平行な立ち上がり壁板(外壁鋼板)31の端部に粘性流体を貯留する鉛直方向の液溜まり部38を有するもので、その周囲を筒型壁材39が囲っている。但し、垂下壁板(内壁鋼板)41は立ち上がり壁板(外壁鋼板)31よりも短く、粘性流体の粘性抵抗力を発生する有効面積は、垂下壁板(内壁鋼板)41と立ち上がり壁板(外壁鋼板)31の相対する面積であるので、有効面積は垂下壁板(内壁鋼板)41の長さで決定されている。
図3(3)は、本発明構成1の粘性制震壁であり、平行な立ち上がり壁板(外壁鋼板)31の端部に粘性流体を貯留する液溜まり部38、それを構成する筒型壁材39を有する構成までは特許文献6と同じであるが、本発明では垂下壁板(内壁鋼板)41が立ち上がり壁板(外壁鋼板)31よりも長く、粘性流体の粘性抵抗力を発生する有効面積は、立ち上がり壁板(外壁鋼板)31の長さで決定されるようにしている。
垂下壁である垂下壁板(内壁鋼板)41が立ち上がり壁板(外壁鋼板)31に対して相対移動する時、垂下壁板(内壁鋼板)41の端部は、粘性流体の液溜まり部38の範囲内で運動するため、垂下壁板(内壁鋼板)41の運動に伴う粘性流体の逃げ、あるいは生じようとする空隙部の補充(穴埋め)が容易に行われる。これにより、垂下壁板(内壁鋼板)41の運動に伴う粘性流体の圧力上昇が大幅に緩和され、その結果として生じる立ち上がり壁板(外壁鋼板)31の面外方向への孕み出し変形がほぼ完璧に解消される。実験により確認されたこの効果は図7に示したとおりであり、段落[0026]に説明したとおりである。
本発明の構成2の実施例を図3(4)に示している。構成2では、垂下壁板(内壁鋼板)41の長さを立ち上がり壁板(外壁鋼板)31の長さとほぼ同じにしている。この構成とすることにより、垂下壁板(内壁鋼板)41が液溜まり部38側へ移動した時の圧力上昇を抑制する効果は本発明の構成1と同じである。その逆側に移動した時は立ち上がり壁板(外壁鋼板)31に相対面する重なり面積が減少することにより、粘性制震壁の有効面積が減少し、その結果粘性抵抗力が若干低下することを意図したものである。即ち、粘性制震壁の復元力特性(変位−抵抗力関係)のグラフ上で表現すると、第1象限と第4象限における抵抗力の上昇を抑制する効果が生まれ、これにより粘性制震壁を取り付けている構造物側、特に取り付け梁の負担応力を軽減する効果を意図したものである。
本発明の構成3〜構成5の実施例を図4に示している。制震壁端部に設ける液溜まり部38とその周囲を囲う筒型壁材39の形状を示したものである。図4(1)は本発明の構成3、即ち液溜まり部平面形状が矩形で壁体軸に平行な場合を示している。図4(2)は本発明の構成4、即ち液溜まり部平面形状が矩形で角度を45度回転させた場合を示している。図4(3)は液溜まり部平面形状を円形あるいは楕円形状とする場合を示している。
本発明の構成3は、液溜まり部の組み立て、製作が比較的容易であるというメリットを有しており、構成4は粘性制震壁を固定する下側取り付けボルト9の配置位置を効率的且つ効果的な位置に配置できるというメリットがあり、また構成5は、円形断面材を用いることにより筒型部材39を溶接なしで構成でき、鉛直方向軸剛性も確保しやすいというメリットを有している。
本発明の構成6の実施例を図5に示している。構成6は、外壁鋼板としての立ち上がり壁板31を2枚、中央の内部鋼板としての立ち上がり壁板34を1枚、垂下壁板41を2枚とした所謂ダブルタイプの粘性制震壁の構成である。図5(1)は、端部の液溜まり部38の平面形状を矩形で壁体軸に平行とした場合の実施例を、図5(2)は液溜まり部38の平面形状を矩形で角度を45度回転させた場合の実施例をそれぞれ示している。立ち上がり壁体3枚の内の中央の立ち上がり壁体34が、液溜まり部の箱体39にまで伸びて一体化されており、且つ液溜まり部38内において、鉛直方向に複数個の孔348を有していることに特徴がある。この孔348の存在により、製造時における粘性流体の注入、充填が容易で効率化されるだけでなく、作動時における粘性流体の圧力上昇の緩和や空隙部の穴埋め効果も高まることになる。また、万一、片方の液溜まり部に何らかの異常が生じた場合にもその異常を緩和し、均一化する効果が生じる。
本発明の構成7の実施例を図6に示している。図6(1)は、粘性制震壁の正面から透視した立面図で粘性流体の分布を示す図、図6(2)は平面中央部付近における縦断面図、図6(3)は高さ中央部付近における横断面図である。図6(1)に示すように、粘性抵抗力を発生させる立ち上がり壁板(外壁鋼板)31と垂下壁板(内壁鋼板)41とが相対面する重なり部分50(図6(1)の二重ハッチ部)には粘度の高い粘性流体51を充填している。粘性制震壁の平面両端部の液溜まり部38および上部の水平方向の液溜まり部33には粘度の低い粘性流体52Vおよび52Hを充填している。垂下壁板(内壁鋼板)41の移動に伴って発生しようとする空隙部を粘度の低い粘性流体52V,52Hが即座に移動して穴埋めするために、空気の巻き込み現象が発生せず、多数回の繰り返しや振幅の大きな過酷な加振に対しても更に安定した信頼性の高い粘性減衰装置となる。尚、この粘度の異なる粘性流体は基本的には同じ素材(高分子材料)であり、粘度の違いは重合分子量の相違であるので、両者を接触充填させても、化学反応が起こる等の問題は生じない。
以上のとおり、本発明によりこの粘性制震壁の力学的課題が改善され、且つ更にパワフルな装置に進化したので、従来装置に較べて相対的にコストパフォーマンスがアップし、超高層ビルを中心とする長周期構造物および免震構造物の耐震性能改善に大きく貢献することが期待される。
1 :柱
20:床スラブ
21:上階側の梁
22:下階側の梁
23:連結部材
31:立ち上がり壁板(外壁鋼板)
32:妻面鋼板
33:上部液溜まり部
34:立ち上がり壁板(内部鋼板)
348:立ち上がり壁板(内部鋼板)に設けた孔
35:面外変形防止用補強材
36:面外変形拘束用ボルト
38:制震壁両端部の鉛直方向の液溜まり部
39:鉛直方向の液溜まり部を構成する筒型部材
4 :抵抗力発生の有効面積部分
41:垂下壁板(内壁鋼板)
5 :粘性流体
50:外壁鋼板と内壁鋼板の相対面する有効面積部分
51:抵抗力を発生させる高粘度の粘性流体
52H:上部の液溜まり部33に充填された粘度の低い粘性流体
52V:鉛直方向液溜まり部38に充填された粘度の低い粘性流体
9 :壁体固定用の取り付けボルト

Claims (7)

  1. 建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
    前記下階の床スラブまたは梁もしくは梁上の連結部材に固定された複数枚の立ち上がり壁板を平行に立ち上げ、前記複数枚の立ち上がり壁板の各端部を塞いで箱状壁体を構成し、前記上階の床スラブまたは梁もしくは前記連結部材に固定された1枚以上の垂下壁板を、前記箱状壁体内の前記立ち上がり壁板間に挿入し、前記立ち上がり壁板と前記垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
    両外壁面を構成する前記複数枚の立ち上がり壁板の平面両端部に、前記箱状壁体の中央部幅(厚さ方向の長さ)よりも大きな幅を有する鉛直方向の液溜まり部を有しており、
    前記下階側に固定された、前記立ち上がり壁板の長さよりも、前記上階側に固定された前記垂下壁板の長さを長くしていることを特徴とする粘性制震壁。
  2. 建築物およびその他の構造物の上階と下階を結ぶ壁部材であり、
    前記下階の床スラブまたは梁もしくは梁上の連結部材に固定された複数枚の立ち上がり壁板を平行に立ち上げ、前記複数枚の立ち上がり壁板の各端部を塞いで箱状壁体を構成し、前記上階の床スラブまたは梁もしくは前記連結部材に固定された1枚以上の垂下壁板を、前記箱状壁体内の前記立ち上がり壁板間に挿入し、前記立ち上がり壁板と前記垂下壁板の隙間に粘性流体が充填されている粘性制震壁において、
    両外壁面を構成する前記複数枚の立ち上がり壁板の平面両端部に、前記箱状壁体の中央部幅(厚さ方向の長さ)よりも大きな幅を有する鉛直方向の液溜まり部を有しており、
    前記上階側に固定された前記垂下壁板の長さを、前記下階側に固定された前記立ち上がり壁板の長さとほぼ同じにしていることを特徴とする粘性制震壁。
  3. 請求項1および請求項2に記載の粘性制震壁において、
    前記外壁面の両端部に設けられた前記鉛直方向の液溜まり部は、平面形状が矩形であり、且つ前記立ち上がり壁板の平面の軸方向に平行に設けられていることを特徴とする粘性制震壁。
  4. 請求項1および請求項2に記載の粘性制震壁において、
    前記外壁面の両端部に設けられた前記鉛直方向の液溜まり部は、平面形状が矩形であり、且つその平面頂部が前記立ち上がり壁板の平面の中心軸最外端に位置するように設けられていることを特徴とする粘性制震壁。
  5. 請求項1および請求項2に記載の粘性制震壁において、
    前記外壁面の両端部に設けられた前記鉛直方向の液溜まり部は、その平面形状が円形もしくは楕円形であることを特徴とする粘性制震壁。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の粘性制震壁において、
    前記立ち上がり壁体を3枚、前記垂下壁を2枚とした粘性制震壁であり、
    前記立ち上がり壁体3枚の内の中央の立ち上がり壁体が、前記鉛直方向の液溜まり部の前記箱状壁体に接続されて一体化されており、
    前記鉛直方向の液溜まり部内において、鉛直方向に複数個の孔を有していることを特徴とする粘性制震壁。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の粘性制震壁において、
    前記鉛直方向の液溜まり部および前記立ち上がり壁板上部の水平方向の液溜まり部に、前記立ち上がり壁板および前記垂下壁板の相対面する重なり部分に封入されている粘性流体よりも粘度の低い粘性流体を封入していることを特徴とする粘性制震壁。
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