以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書における「脱墨」とは、記録物からパルプを再生する際に顔料を除去することを意味する。また、「脱墨パルプ」とは、後述する脱墨工程を経て得られる、顔料が剥離された全てのパルプを意味する。
なお、上記脱墨パルプには、本発明に係る製造装置や製造方法で再生されるパルプ(以下、「再生パルプ」、「再生紙」ともいう。)が含まれる。
本明細書における「記録物」とは、顔料が被記録媒体(例えばパルプ)に付着(固着を含む。以下同じ)したもの全体を意味し、以下では「印刷パルプ」とも称する。このように、本明細書における「被記録媒体」とは、記録される対象となる媒体であって顔料が付着する前の媒体を意味し、後述する実施形態においてはパルプ(紙)である。
本明細書において、「ノズルの目詰まり安定性」とは、プリントヘッドのノズルの目詰まりがなく常に安定したインク滴をノズルから吐出させる性質をいう。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びそれに対応するメタクリロイルのうち少なくともいずれかを意味する。
[インクジェット記録用インク]
本発明の一実施形態は、後述する記録物の製造方法において用いられ、かつ、脱墨パルプの製造装置及び製造方法によって脱墨される対象となる、インクジェット記録用インクに係る。当該インクジェット記録用インクは、顔料とガラス転移温度(Tg)が40℃以下である高分子物質とを含有し、かつ、当該顔料の含有量に対する当該Tgが40℃以下である高分子物質の含有量の質量比が0.10以上であり、かつ、当該顔料の含有量に対する当該インクに含まれる全ての高分子物質の含有量の質量比が1.0以下である。
以下、本実施形態のインクジェット記録用インク(以下、単に「インク」ともいう。)の組成を説明する。
〔顔料〕
本実施形態のインクジェット記録用インクは、以下の理由により、顔料を含むものである。
脱墨処理の対象となる記録物に付着しているインクとしては、顔料系インクと染料系インクとがあり得る。後述する脱墨パルプの製造方法における処理対象となる記録物は、滲み出しを防止するため、上記インクのうち、染料系ではなく顔料系のインクにより記録されることが好ましい。また、インクジェット記録用顔料インクに含まれる顔料(以下、「インクジェット顔料」ともいう。)を用いた場合、インクジェット記録用染料インクに含まれる染料(以下、「インクジェット染料」ともいう。)を用いた場合と比べて、パルプ繊維がより浄化されるため、紙などの被記録媒体の再利用性に優れる。また、インクジェット顔料を洗浄した場合、インクジェット染料の場合と比べて、白水、即ちパルプ繊維を洗浄した際に発生する洗浄水をより浄化することが可能であるため、洗浄後の水を再利用することができ、さらに再生した被記録媒体に顔料が残りづらいため、他のパルプを汚染することもない。以上の理由により、本実施形態のインクジェット記録用インクは、顔料系インクである。
インクジェット顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。中でも、当該顔料は、C.I.ピグメントブラック7及びカラー顔料のうち少なくとも一方であることが好ましい。
(C.I.ピグメントブラック7)
本実施形態のインクがブラックインクである場合、当該インクに含まれるブラック顔料としては、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)が好ましい。当該C.I.ピグメントブラック7として、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャネルブラック等が挙げられる。
上記C.I.ピグメントブラック7の市販品として、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製商品名)、ラーベン H20,5750,5250,5000,3500,1255,700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製商品名)、Rega1 400R,330R,660R、Mogul L、Monarch 700,800,880,900,1000,1100,1300,1400等(以上、キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製商品名)、Color Black FW1,FW2,FW2V,FW18,FW200,S150,S160,S170、Printex 35,U,V,140U、Special Black 6,5,4A,4等(以上、デグッサ(Degussa)社製商品名)、BONJET BLACK M−800(オリエント化学工業社(ORIENT CHEMICAL INDUSTRIES CO., LTD.)製商品名)が挙げられる。
C.I.ピグメントブラック7は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
C.I.ピグメントブラック7の含有量は、優れた隠蔽性及び色再現性が得られるため、インクの総質量(100質量%)に対して、1〜10質量%が好ましい。
(カラー顔料)
本実施形態のインクは、カラーインクであってもよい。また、本実施形態のインクは、上記ブラックインクに加えてカラーインクを用いることができる。つまり、上記ブラックインクとカラーインクとを備えたインクセットとすることが可能である。ここで、本明細書における「カラー」とは、ブラック色を除く有色を意味する。
カラーインクに用いるカラー顔料の具体例は、得ようとするインク組成物の種類(色)に応じて適宜挙げられる。例えば、イエローインク組成物用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1,2,3,12,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185が挙げられる。中でもC.I.ピグメントイエロー 74,110,128、及び129からなる群から選ばれる一種以上を用いることが好ましい。
マゼンタインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,209、C.I.ピグメントバイオレット 19が挙げられる。中でもC.I.ピグメントレッド 122,202,209、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選ばれる一種以上を用いることが好ましく、さらにこれらの固溶体であってもよい。
シアンインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1,2,3,15:2,15:3,15:4,15:34,16,22,60、C.I.バットブルー 4,60が挙げられる。中でもC.I.ピグメントブルー15:3及びC.I.ピグメントブルー15:4のうち少なくとも一方を用いることが好ましく、このうちC.I.ピグメントブルー15:3を用いることがより好ましい。
また、上記のC.I.ピグメントブラック7やカラー顔料を含む顔料の平均粒子径は、50nm以上500nm以下の範囲であることが好ましい。平均粒子径が50nm以上であると、発色性がより良好になるためインクとして使用しやすくなる。他方、平均粒子径が500nm以下であると、インクジェット方式で使用しやすくなる。また、上記平均粒子径は、インクの保存安定性及び沈降性に優れ、かつ、ノズルの目詰まり安定性に一層優れるため、50〜300nmの範囲がより好ましく、50〜200nmの範囲がさらに好ましい。
ここで、本明細書における平均粒子径を表す「光散乱法による球換算50%平均粒子径(d50)」は、以下のようにして得られる値である。分散媒中の粒子に光を照射し、当該分散媒の前方・側方・後方に配置されたディテクターによって、発生する回折散乱光を測定する。前記測定値を利用して、本来は不定形である粒子を球形であるものと仮定し、当該粒子の体積と等しい球に換算された粒子集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その際の累積値が50%となる点を上記50%平均粒子径(d50)とする。
また、上記のC.I.ピグメントブラック7やカラー顔料を含む顔料は、自己分散及びポリマー分散のうち少なくともいずれかによって分散可能としたものが好ましい。以下、それぞれ「自己分散型」及び「ポリマー分散型」という。
上記の自己分散型の顔料として、表面処理顔料が挙げられる。表面処理顔料としては、顔料表面にカルボキシル基やスルホン酸基などの官能基が化学修飾されたものが挙げられる。表面処理顔料は顔料表面の官能基が固定されるため、低粘度かつ安定な分散体となる。
なお、ポリマー分散型の顔料に用いられるポリマーについては後述する。
ブラックインク及びカラーインクは、当該インク顔料表面の酸価が、10〜200mgKOH/gであることが好ましく、30〜150mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が上記範囲内であると、紙などの被記録媒体を再利用するためのパルプからの脱離しやすさと発色性とを共に良好なものとすることができる。
顔料の含有量は、後述のとおり、Tgが40℃以下である高分子物質の含有量との関係で決定されるものである。
上記顔料のうちC.I.ピグメントブラック7の含有量は、紙などの被記録媒体の再利用性を良好なものとするため、インクの総質量(100質量%)に対し、好ましくは0.1〜10質量%であり、より好ましくは0.5〜6質量%である。
カラー顔料の含有量は、インクを調製する際に、適宜な含有量(顔料濃度)に調整すればよいため特に限定されない。例えば、顔料濃度を1〜3質量%とすることで、粒状性が抑制された画像を得ることが可能である。一方、顔料濃度を4〜12質量%とすることで、発色性に優れた画像を得ることが可能である。
〔高分子物質〕
本実施形態のインクジェット記録用インクは、高分子物質を含有する。当該高分子物質のうち少なくとも一種は、Tgが40℃以下であり、かつ、少なくとも顔料の凝集効果を有する。本明細書において、高分子物質のTgは、高分子物質の種類ごとに固有のTgを意味し、高分子物質のTgが40℃以下というときは、任意の種類の高分子物質におけるTgが40℃以下であることを意味する。
なお、本明細書におけるガラス転移温度は、昇温測定によって得られる示差熱曲線において、ガラス転移開始温度前のベースラインと、ガラス転移変曲点での接線と、の交点となる温度をガラス転移温度とし、示差走査型熱量計(セイコーインスツル社(Seiko Instruments Inc.)製のEXSTAR6000DSC)により測定するものとする。
本実施形態のインクに含まれる高分子物質は一種単独であってもよく2種以上の組み合わせであってもよいが、少なくとも一種の高分子物質のTgが40℃以下である。換言すれば、Tgが40℃以下の高分子物質が少なくとも一種含まれていればよく、それ以外の高分子物質が含まれていてもそのTgは特に制限されない。本実施形態における高分子物質のうち少なくとも一種のTgが40℃以下であると、高分子物質がいわゆる「つなぎ」(バインダー)となって、顔料を凝集させるので、脱墨が極めて容易になる。したがって、インクの脱墨性及びノズルの目詰まり安定性に優れ、さらに記録物の画質にも優れる。
本実施形態において、顔料の含有量に対するTg40℃以下の高分子物質の含有量の質量比は0.10以上である。当該質量比が0.10以上であると、インクの脱墨性に優れる。一方、顔料の含有量に対するインクに含まれる全ての高分子物質の含有量の質量比は1.0以下である。当該質量比が1.0以下であると、ノズルの目詰まり安定性に優れる。
また、顔料の含有量に対するTg40℃以下の高分子物質の含有量の質量比は、0.15以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。一方、顔料の含有量に対するインクに含まれる全ての高分子物質の含有量の質量比は0.45以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。これらの質量比が上記の好ましい範囲内であると、インクの脱墨性及びノズルの目詰まり安定性が一層優れたものとなる。
なお、インクに含まれる全ての高分子物質の含有量は、特に限定されるものではないが、20±15℃、65±20%RHの常温常湿雰囲気下で使用されるインクの粘度等を好適なものとするため、インクに含まれる全ての高分子物質の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して10質量%以下であることが好ましい。
また、脱墨性が一層良好となるため、上記のTgは−60℃〜0℃が好ましい。
なお、上述のとおり、Tgが40℃以下の高分子物質は一種でもインクに含まれていればよいため、Tgが40℃以下の高分子物質と併せてTgが40℃を超える高分子物質がインクに含まれていてもよい。中でも、脱墨性に一層優れるため、インクに含まれる全ての高分子物質のTgが40℃以下であることが好ましく−60℃〜0℃であることがより好ましい。
上記の高分子物質のうち少なくとも顔料の凝集効果を有するものとしては、アニオン性又はノニオン性のものであれば特に限定されないが、例えば、高分子粒子及びポリマー分散型の顔料に用いられるポリマーは、これらの表面に親水性基であるカルボキシル基を有するものであり、酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましい。50mgKOH/g未満では顔料の上記高分子物質の凝集効果が低くなり分散安定性に優れる結果、発色性が低下する。200mgKOH/gをこえると、上記高分子物質の凝集効果は向上するが、酸価が高いため親水性が高くなって発色性が低下する。より好ましくは60mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。
(高分子粒子)
高分子粒子の「粒子」とは、インク中の状態を意味するものとする。したがって、高分子粒子は、インクジェット記録の過程において、インクが乾燥して被記録媒体上に固着した状態で、粒子形状を保持してもよいし、被膜を形成してもよい。
上記の高分子粒子は、主にバインダーとしての機能を果たす。フローテーション処理のみで除去可能な粒子の平均粒子径は4〜100μm程度であり、それ以下の平均粒子径を有する粒子は除去しづらい。そこで、バインダーとしての機能を有する高分子粒子を利用することにより、記録物を離解した状態で、顔料同士が凝集したり、上記高分子粒子が介在したりするため、離解液中では4〜100μm程度と平均粒子径の比較的大きな凝集体になる。結果的に、インクジェット顔料の平均粒子径が大きくなるため、フローテーション処理などを利用して顔料を容易に除去可能となる。
上記の高分子粒子として、特に限定されないが、例えば、にかわ、ゼラチン、及びサポニン等の天然高分子化合物、ポリビニルアルコール類、ポリピロリドン類、(メタ)アクリル酸系重合体(ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体など)、スチレン−(メタ)アクリル酸系重合体(スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−酢酸ビニル−アクリル酸共重合体など)、スチレン−マレイン酸系重合体、及び酢酸ビニル−脂肪酸ビニル−エチレン共重合体などの重合体、並びにこれらの塩などの合成高分子化合物が挙げられる。
上記の中でも、脱墨性がより良好になるため、(メタ)アクリル酸系重合体及びスチレン−(メタ)アクリル酸系重合体のうち少なくともいずれかが好ましい。当該(メタ)アクリル酸系重合体の中でも、炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレート及び炭素数3〜24の環状アルキル(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかが70質量%以上であるモノマーから重合されたものがより好ましい。
上記のより好ましいものの具体例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、上記以外のモノマーとして、以下に限定されないが、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート、並びにウレタン(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレートを用いることもできる。
本実施形態における高分子粒子は、架橋されていてもいなくてもよいが、脱墨性がより良好になるため、架橋されていないものが好ましい。
なお、架橋された高分子粒子を合成するために用いることのできる多官能不飽和化合物として、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びアリル基より選択される一種以上を分子中に2個以上有するモノマーやオリゴマーが挙げられる。このモノマーやオリゴマーの具体例として、(モノ、ジ、トリ、テトラ、ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、及び1,10−デカンジオール等のジ(メタ)アクリレート、並びにトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリン(ジ、トリ)(メタ)アクリレート、ビスフェノールA又はFのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のアクリロイル基やメタクリロイル基を有する化合物、並びに(モノ、ジ、トリ、テトラ、ポリ)エチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、(モノ、ジ、トリ、テトラ、ポリ)プロピレングリコールジアリルエーテル、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、及び1,10−デカンジオール等のジアリレート、並びにトリメチロールプロパントリ(メタ)アリレート、グリセリン(ジ、トリ)(メタ)アリレート、ビスフェノールA又はFのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アリレートトリアリルトリメリテート、及びテトラアリルオキシエタン等のアリル基を有する化合物が挙げられる。
高分子粒子を用いて、顔料を水に分散させた分散体としての平均粒子径は、好ましくは20〜500nmであり、より好ましくは50〜300nmである。平均粒子径が20nm以上であると、記録物の発色性をより良好なものとすることができる。他方、平均粒子径が500nm以下であると、インクの保存安定性及びノズルの目詰まり安定性をより良好なものとすることができる。
高分子粒子の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜200,000であり、より好ましくは10,000〜30,000である。重量平均分子量が上記範囲内であると、顔料を安定的に分散させることができ、インクの保存安定性及びノズルの目詰まり安定性をより良好なものとすることができる。ここで、本明細書における重量平均分子量は、日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、スチレン換算重量平均分子量として測定するものとする。
高分子粒子の酸価は、好ましくは200mgKOH/g以下であり、より好ましくは0〜100mgKOH/gである。酸価が上記範囲内であると、印刷物の発色性が良好になる。ここで、本明細書における酸価は、滴定法により測定するものとする。
高分子粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(ポリマー分散型の顔料に用いられるポリマー)
ポリマー分散型の顔料に用いられるポリマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(スチレン換算)が10,000以上200,000以下であるものを用いることが好ましい。これにより、顔料インクの脱墨性がより良好となり、顔料インクとしての保存安定性も良好となる。
上記ポリマーとして、その構成成分のうち少なくとも70質量%以上が(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸の共重合によるポリマーであると、脱墨性がより良好になる。炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレート及び炭素数3〜24の環状アルキル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方が70質量%以上のモノマー成分から重合されたものであることが好ましい。その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート及びベヘニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、その他の添加成分としてヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、及びエポキシ(メタ)アクリレートを用いることもできる。
さらに、ポリマー分散型の顔料においては、当該顔料に用いられるポリマーがバインダーとしての機能も果たし得る。脱墨の際のフローテーション処理のみで除去可能な粒子の平均粒子径は4〜100μm程度であり、それ以下の平均粒子径を有する粒子は除去しづらい。そこで、バインダーとしての機能も有し得る上記ポリマーを利用することにより、記録物を離解した状態で、顔料同士が凝集したり、上記ポリマーが介在したりするため、離解液中では4〜100μm程度と平均粒子径の比較的大きな凝集体になる。結果的に、インクジェット顔料の平均粒子径が大きくなるため、フローテーション処理などを利用して顔料を容易に除去できるようになる。
上記ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
〔界面活性剤〕
本実施形態のインクは、界面活性剤、特にアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤のうち少なくともいずれかを含んでもよい。
アニオン性界面活性剤の具体例として、特に限定されないが、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタリンスルホン酸、アシルメチルタウリン酸、ジアルキルスルホ琥珀酸、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルザルコシン塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、及びモノグリセライトリン酸エステル塩が挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤の具体例として、特に限定されないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、シュガーアルキルエステル、多価アルコールアルキルエーテル、及びアルカノールアミン脂肪酸アミドが挙げられる。
アニオン性界面活性剤の具体例として、特に限定されないが、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩が挙げられる。ノニオン性界面活性剤の具体例として、特に限定されないが、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系化合物、並びにポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、及びポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系化合物が挙げられる。
特に、本実施形態のインクは、界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤及びアセチレンアルコール系界面活性剤の少なくともいずれかを含むことが好ましい。これにより、インクに含まれる水性溶媒が被記録媒体へ浸透しやすくなるため、種々の被記録媒体に対して滲みの少ない画像を形成できる。アセチレングリコール系界面活性剤として市販されている市販品を利用することできる。その具体例として、特に限定されないが、サーフィノール 104、82、465、485、104PG50、及びTG(以上商品名、Air Products and Chemicals. Inc.より入手可能)、並びにオルフィンSTG及びオルフィンE1010(以上商品名、日信化学社(Nissin Chemical Industry Co., Ltd.)製)が挙げられる。また、アセチレンアルコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばサーフィノール61(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.より入手可能)が挙げられる。
これらのアセチレングリコール系界面活性剤及びアセチレンアルコール系界面活性剤のうち少なくともいずれかは、インクの総質量(100質量%)に対して、0.01〜3質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
〔保湿剤〕
本実施形態のインクは、保湿剤として高沸点(例えば100℃以上)の水溶性有機溶剤をさらに含んでもよい。
上記の水溶性有機溶剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、チオジグリコール、1,4−シクロペンタンジオール、及びトリメチロールプロパン等の多価アルコール類、並びにN−メチル−2−ピロリドン及び2−ピロリドン等のピロリドン類が挙げられる。
これらの水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態のインクに上記の水溶性有機溶剤を添加することにより、開放状態、即ち室温で顔料インクが空気に触れている状態で放置しても、流動性と再分散性とを長時間維持できるインクジェット記録用顔料インクを得ることができる。さらに、このようなインクを用いると、インクジェットプリンターを用いた印字中又は印字中断後の再起動時に、ノズルの目詰まりが生じにくくなるため、ノズルの目詰まり安定性が一層優れたものとなる。
〔浸透促進剤〕
本実施形態のインクは、溶剤の被記録媒体への浸透を促進する目的で、浸透剤としての水溶性有機溶剤をさらに含有することが好ましい。水溶性有機溶剤が被記録媒体に素早く浸透することによって、画像の滲みが少ない記録物を得ることができる。また、インクにおけるマイクロカプセル化顔料の粒子の分散性に優れるため、ノズルの目詰まり安定性をより良好にすることができる。
上記の水溶性有機溶剤としては、例えばグリコールエーテル類が挙げられる。当該グリコールエーテル類としては、以下に限定されないが、例えば、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノペンチルエーテル、テトラエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノブチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノペンチルエーテル、及びヘキサエチレングリコールモノヘキシルエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類、並びにエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、及びエチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、並びにジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、並びにトリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、及びトリエチレングリコールモノブチルエーテル等のトリエチレングリコールモノアルキルエーテル類、並びにプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、及びプロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、並びにジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、並びにトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のトリプロピレングリコールモノアルキルエーテル類が挙げられる。
これらの水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の保湿剤及び浸透促進剤の合計の含有量、好ましくは水溶性有機溶剤の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、5〜30質量%が好ましく、8〜25質量%がより好ましい。含有量が上記範囲内であると、ノズルの目詰まり安定性がより良好になる。
〔水〕
本実施形態のインクは水を含んでもよい。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
なお、水又は水系有機溶媒を主溶媒として含有するインクは、水性インクに相当する。ここでいう「主溶媒」とは、インク中のあらゆる溶媒のうち最も含有量の多い溶媒成分をいう。また、本明細書における「水系有機溶媒」とは、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を意味する。
〔防黴剤、防腐剤、防錆剤〕
本実施形態のインクにおいて、防黴、防腐、又は防錆の目的で、安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びその塩、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ベンゾチアゾリン−3−オン、3,4−イソチアゾリン−3−オン、4,4−ジメチルオキサゾリジン、5−クロル−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(CIT)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT)、1,2−ベンゾイソチアゾロン−3−オン(BIT)、ベンゾトリアゾール(BTA)、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール系防腐剤、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン系防腐剤、ホルマリン、銀系防腐剤、銅系防腐剤などが使用可能である。
防黴剤、防腐剤、又は防錆剤の市販品として、例えば、プロキセルXL2(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、アビシア(Avecia)社製商品名)、モルノン 510、950、610(以上、片山化学工業研究所社(KATAYAMA CHEMICAL CO.,LTD)製)、ベストサイド 700、FX(以上、DIC社製)、アクチサイド CB、MV4(以上、ソー・ケミカルズ・ジャパン社製)(以上、1,2−ベンゾイソチアゾロン−3−オン(BIT))、及びJMAC LP(DIC社製、銀系防腐剤)等が挙げられる。
これらの防黴剤、防腐剤、又は防錆剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の防黴剤、防腐剤、又は防錆剤の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、0.01〜1質量%が好ましく、0.03〜0.5質量%がより好ましい。
〔その他の添加剤〕
本実施形態のインクに含まれ得るその他の添加剤として、例えば、トリエタノールアミン等のpH調整剤(好ましくはアルカリ剤)、紫外線吸収剤、定着剤、キレート剤、及び増粘剤などが挙げられる。
なお、上記の水及び水系有機溶媒は、後述するように、離解工程と脱墨工程とが同時に行われる場合には、脱墨工程で用いられる洗浄用の溶媒(液体)でも同様のものを例示できる。
本実施形態によれば、後述する記録物の製造方法に用いられ、かつ、脱墨パルプの製造装置及び製造方法により脱墨される対象となるインクとして、脱墨性及びノズルの目詰まり安定性に優れたインクジェット記録用インクを提供することができる。これらのうち、脱墨性についてより詳しく言えば、顔料及びTg40℃以下の高分子物質が凝集して平均粒子径の大きな凝集体を形成するため、フローテーション法でインク(特に顔料)を容易に除去でき、脱墨性に優れたインクジェット記録用インクを提供することができる。
[記録物の製造方法]
本発明の一実施形態は、記録物の製造方法に係る。当該製造方法は、カチオン性化合物を含有する前処理液を被記録媒体の被記録面に付着させる前処理工程と、上記実施形態のインクジェット記録用インクを当該被記録媒体の被記録面に記録して記録物を得る記録工程と、を含むものである。
以下、これらの各工程を中心として詳細に説明する。
〔1.被記録媒体〕
被記録媒体はその被記録面に多価金属化合物を有する。より詳しく言えば、被記録媒体は、その被記録面の少なくとも一部に多価金属化合物を含む。当該多価金属化合物は、不透明度、白色度、及び被記録面の状態などを調整する目的で添加される填料、並びに顔料の凝集剤として作用する。そして、このような被記録媒体を用いることにより、脱墨性が良好なものとなる。
また、上記被記録媒体の被記録面における当該多価金属化合物の面積占有率は、5%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30〜70%がさらに好ましい。当該面積占有率が上記範囲内であると、脱墨性が一層優れたものとなる。
上記の面積占有率は、被記録媒体の被記録面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した視野像から求めることができる。具体的には、SEMを用い、倍率3万倍で上記被記録面を観察する。得られた画像を処理し、被記録面中の一定領域に占める白色領域の面積を計測して、これを多価金属化合物の占有面積とする。そして、下記数式で算出される値を、上記被記録面における多価金属化合物の面積占有率(%)とする。
(多価金属化合物の占有面積/一定領域の面積)×100
上記面積占有率は、多価金属化合物が記録中にいわゆる紙粉となって舞い上がることを防止できることに起因して、ノズルの目詰まり安定性に一層優れるとともに、定着性が良好になるため、20〜60%が好ましく、30〜50%がより好ましい。
上記の多価金属化合物はカチオン性金属化合物である。多価金属化合物の種類としては、以下に制限されないが、例えば、チタン化合物、クロム化合物、銅化合物、コバルト化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物、鉄化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、及びマグネシウム化合物、並びにこれらの塩(多価金属塩)が挙げられる。これらの中でも、顔料の凝集が優れることから紙の白色度を向上させることができるため、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、及びマグネシウム化合物からなる群より選択される一種以上が好ましく、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物のうち少なくともいずれかがより好ましく、カルシウム化合物がさらに好ましい。
上記の多価金属化合物の具体例としては、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムといった炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、チョーク、カオリン、焼成クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸アルミニウム(バイロフィライトを含む。)、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、セリサイト、ホワイトカーボン、サポナイト、カルシウムモンモリロナイト、ソジウムモンモリロナイト、及びベントナイト等の無機顔料、並びにアクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、及び尿素高分子物質などの有機顔料が挙げられる。
また、上記の被記録媒体の材料としては、上述の多価金属化合物に加え、パルプが挙げられる。上記のパルプとしては、特に限定されることなく、公知のパルプを用いることができる。このようなパルプとして、例えば、化学パルプ及び機械パルプ等の木材パルプ、綿、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、及びラミー等を原料とするパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、及びケナフパルプ等の茎稈パルプ、並びに靭皮パルプ等が挙げられる。
上記のうち、化学パルプの具体例としては、広葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹晒亜硫酸パルプ、広葉樹未晒亜硫酸パルプ、針葉樹晒亜硫酸パルプ、及び針葉樹未晒亜硫酸パルプが挙げられる。機械パルプの具体例としては、木材やチップを機械的にパルプ化したグランドウッドパルプ、木材やチップに薬液を染み込ませた後に機械的にパルプ化したケミメカニカルパルプ、及びチップをやや軟らかくなるまで蒸解した後にリファイナーでパルプ化したサーモメカニカルパルプが挙げられる。
また、上記のパルプは、塩素ガスを使用せず二酸化塩素を使用する漂白方法(Elementally Chrorine Free:ECF)や、塩素化合物を使用せずにオゾンや過酸化水素などを主に使用する漂白方法(Total Chlorine Free:TCF)により、漂白処理されたものであってもよい。
さらに、必要に応じて上記パルプに古紙パルプを加えてもよい。当該古紙パルプとしては、製本、印刷工場、及び断裁所などにおいて発生する裁落、損紙、あるいは幅落しした上白、特白、中白、及び白損などの未印刷古紙、印刷やコピーが施された上質紙及び上質コート紙などの上質印刷古紙、水性インク、油性インク、及び鉛筆などで筆記された古紙、印刷された上質紙、上質コート紙、中質紙、及び中質コート紙などのチラシを含む新聞古紙、並びに中質紙、中質コート紙、及び更紙などの古紙が挙げられる。
なお、上記の古紙パルプは、オゾン漂白処理又は過酸化水素漂白処理のうち少なくともいずれかによって、処理したものであってもよい。
〔2.前処理工程〕
前処理工程は、後述する記録工程の前に行われるものであり、カチオン性化合物を含有する前処理液を上記被記録媒体の被記録面に付着させるものである。本実施形態の製造方法は、当該前処理工程により前処理物を得る。
(2−1.前処理液)
前処理液は、少なくともカチオン性化合物を含有する。当該カチオン性化合物としては、水中で正に帯電する化合物であれば特に制限されないが、例えば、多価金属化合物及びカチオン性ポリマーが挙げられる。このうち、多価金属化合物の具体例については、上述したものが使用可能なため、ここでの説明を省略する。
上記カチオン性ポリマーとしては、以下に限定されないが、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、及びポリアリルアミン等の合成高分子、並びにポリオルニチン及びポリリジン等のポリアミノ酸が挙げられる。
上記のカチオン性化合物の中でも、分散樹脂又は顔料が凝集して粗大化し、脱墨性がより良好となるため、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、及びクエン酸カルシウム等の有機酸カルシウム等のカルシウム塩、並びにポリアリルアミンが好ましい。
カチオン性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カチオン性化合物は、分散樹脂又は顔料が凝集して粗大化し、脱墨性がより良好となるため、前処理液の総質量(100質量%)に対して、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
前処理液の主溶媒は、特に限定されないが、水又は水系有機溶媒が好ましい。水、及び水系有機溶媒を構成する水溶性有機溶剤の具体例としては、上述したものが使用可能なため、ここでの説明を省略する。
前処理液は、上記のカチオン性化合物、及び上記の水又は水系有機溶媒に加えて、他の成分を含有してもよい。当該他の成分としては、上述のインクの項で説明した各種成分(添加剤)を適宜用いることができる。
(2−2.前処理工程の条件)
前処理工程において、前処理液を被記録媒体の被記録面に付着させる方法は、従来公知のものが使用可能であり、特に制限されないが、被記録媒体上に(被記録面に)前処理液を、均一に所望の量を付着させることができるため、インクジェット法であることが好ましい。
また、インクジェット法を利用する場合に、Dutyは5〜50%の範囲が好ましく、10〜40%の範囲がより好ましい。Dutyが上記の下限値以上であると、脱墨性がより良好なものとなる。一方、Dutyが比較的低い数値である上記の上限値以下であると、被記録媒体にカールやコックリングが生じることを防止できる。なお、Dutyについては後述する。
また、前処理の際の被記録媒体の温度は、カールやコックリングの発生を防止できるため、20〜60℃が好ましく、30〜50℃がより好ましい。このようにして、前処理物を作製することができる。
〔3.記録工程〕
記録工程は、前処理液により前処理された被記録媒体の被記録面に、上記実施形態のインクジェット記録用インクを記録して記録物を得るものである。
記録工程を行うタイミングは、特に限定されず、上述の前処理工程の後であればよい。記録工程を行うタイミングは、被記録媒体に付着した前処理液に含まれる水分が完全に蒸発する前であると好ましい。このようなタイミングとすることにより、前処理液に含まれるカチオン性化合物と、インクに含まれる樹脂又は顔料と、の凝集による粗大化が速やかに起こるため、脱墨に好適な記録物を得ることができる。
また、上記の好ましいタイミングの中でも、被記録媒体に付着した前処理液に含まれる水分の蒸発量が、前処理液に含まれる全水分量に対して10〜90質量%の状態で記録工程を行うことがより好ましく、当該蒸発量が20〜50質量%の状態で記録工程を行うことがさらに好ましい。これにより、脱墨性に優れるだけでなく、被記録媒体上でのインクの滲みも抑制することができる。なお、前処理液に含まれる水分の蒸発量は、予め測定しておけばよい。
本実施形態の製造方法において、記録中(記録時)の上記被記録媒体及び当該記録後の上記記録物のうち少なくともいずれかにおける温度は、40℃以上であることが好ましい。より具体的に言えば、上述のとおり上記実施形態のインクに含まれる高分子物質のうち少なくとも一種のTgが40℃以下であるため、記録時以後の任意の時点における被記録媒体及び記録物のうち少なくともいずれかの温度(以下、単に「記録時以後の温度」という。)が、当該高分子物質のTg以上であると好ましい。
本実施形態において、高分子物質が融着(凝集)すると、顔料を取り込んだ状態で高分子物質が粗大化するため、脱墨を極めて効果的に行うことができる。この高分子物質の融着は、被記録媒体上でインクに含まれる溶媒が蒸発する際に、記録時以後の温度が高分子物質の最低造膜温度以上である場合に起こるものである。そして、溶媒と高分子物質とが互いに共存する場合、高分子物質の最低造膜温度はそのTgよりも低くなる。
より具体的に言えば、上記融着ないし造膜は、高分子物質のTg未満で起こることが多い。本来、高分子物質は、そのTg以上の温度でなければ融解しない(塑性を示さない)が、インクに含まれる溶媒が存在するため、高分子物質のTg未満でも融解が起こる。この状態でインクジェット記録を行う(通常25℃程度の環境)ため、高分子物質のTgが40℃であっても、融着させることが可能となる。したがって、記録時以後の温度が高分子物質のTg以上であると、高分子物質の融着に起因して、脱墨を極めて効果的に行うことができる。
なお、記録物を40℃以上とするのは、記録時以後であればどの時点であってもよく、この場合、記録物の画質に影響を与えることなく脱墨性が良好なものとなる。また、記録時以後の温度を40℃以上とする手段は、加熱その他の公知の手段があり得る。
洗浄の対象である「記録物」は、離解した記録物及び離解する前の記録物(印刷パルプ)の双方を含む。換言すれば、以下に説明する脱墨工程は、後述の離解工程と同時に行われる場合と、離解工程の後に行われる場合と、の双方があり得る。
このように、本実施形態によれば、インクの脱墨性及びノズルの目詰まり安定性に優れた、記録物の製造方法を提供することができる。より詳しく言えば、本実施形態におけるインクジェット記録用インクは、顔料及びTg40℃以下の高分子物質を含有することから、当該高分子物質が顔料の凝集効果に優れ、脱墨性に優れる。加えて、顔料に対する当該高分子物質の含有率(比)が小さいため、ノズルの目詰まり安定性にも優れる。また、多価金属化合物を被記録面に有する(好ましくは所定の面積占有率で有する)被記録媒体は、多価金属化合物が上記インクに含まれる顔料の凝集効果を有するため脱墨性に優れるとともに、紙粉が発生しにくいためノズルの目詰まり安定性にも優れる。したがって、本実施形態の記録物の製造方法は、脱墨性及びノズルの目詰まり安定性に優れた被記録媒体上に、当該被記録媒体との関係で脱墨性及びノズルの目詰まり安定性に優れたインクジェット記録用インクを記録することにより、記録物を得る記録工程を含むものである。そのため、得られる記録物から、インク(特に顔料)を簡易かつ低コストで除去することができる。
[記録物]
本発明の一実施形態は、上記実施形態のインクジェット記録用インクが付着され、かつ、後述する脱墨パルプの製造装置及び製造方法の処理対象となる記録物に係る。この記録物は、上記で定義したとおり、上記実施形態のインクを用いた記録により顔料が被記録媒体に付着したものである。換言すれば、上記の記録物は少なくとも、インクに由来する顔料及び所定の高分子物質、並びに多価金属化合物を被記録面に有する被記録媒体で構成される。
上記記録物において、後述の脱墨パルプの製造方法により、上述のインクがパルプ(被記録媒体)から容易に分離可能である。そのため、上記の記録物は、白色度(脱墨効果)が高くて繰り返し利用可能な脱墨パルプを得るのに極めて適している。
上記の記録物は、後述する脱墨パルプの製造装置や製造方法で再生されるパルプの原料となるものである。この記録物の具体的態様として、インクジェット記録用紙、新聞紙、コート紙、アート紙、微塗工紙などの塗工オフセット印刷用紙、上質紙などの非塗工オフセット印刷用紙、及び電子写真用紙(PPC用紙)等が挙げられる。中でも、填料やコート剤が少ないことから、電子写真用紙(PPC用紙)、及び新聞紙が好ましい。記録物は、リサイクル再生処理のため、本実施形態の製造装置や製造方法で処理されて、上記の脱墨パルプとなる。
ここで、上記被記録媒体における密度は、0.75〜0.95g/cm3の範囲であることが好ましい。被記録媒体の密度は、単位面積当たりの質量である被記録媒体の坪量を、被記録媒体の厚さで除したものとして定義される。被記録媒体の厚さは、JIS P 8118に準拠して測定される。具体的に言えば、被記録媒体の厚さは、マイクロメーターのような2枚の平坦かつ平行な板の間に、一定圧力下で被記録媒体(通常は1枚)を挟んで測定することができる。加えて、上記被記録媒体の被記録面における、接触開始から30msec1/2までのブリストー(Bristow)法による水吸収量は、10mL/m2以上であることが好ましい。上記の場合、被記録媒体が強靭となるため被記録媒体の搬送時の印加応力に対して断裂し難く、かつ、水の吸収性に優れるため滲みが抑制された、高品質な記録物が得られる。
[脱墨パルプの製造装置]
本発明の一実施形態は、脱墨パルプの製造装置に係る。図1は、本実施形態に係る脱墨パルプの製造装置の構成を説明するブロック図である。
本実施形態の製造装置は、上記実施形態のインクジェット記録用インクに含まれる各成分のうち少なくとも顔料を、上記実施形態の記録物から簡易に除去することができ、これにより当該記録物を繰り返し再生することを目的として利用可能とする。
脱墨パルプの製造装置1は、離解手段10と脱墨手段11とを少なくとも備え、さらに任意で、ろ過手段12、パルプの再生手段16、及び液体の再生手段17を備えている。
離解手段10は、上記実施形態のインクに含まれる各成分のうち少なくとも顔料がパルプに付着した記録物を離解する機能ブロックであり、後述する離解工程を実施可能となるように構成されている。
脱墨手段11は、上記記録物から顔料を剥離させ、かつ、剥離後の液体に含まれる顔料、及び顔料と高分子物質との凝集体を回収する機能ブロックであり、脱墨工程を実施可能となるように構成されている。
ろ過手段12は、顔料が剥離されたパルプと液体と当該顔料とを含む混合液を、ろ過処理する機能ブロックである。上記ろ過処理は、目開きが0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率(開孔率)が30%以上のメッシュサイズを有するフィルターを用いて行うことが好ましい。
パルプの再生手段16は、具体的に抄紙手段13、塗工層形成手段14、及び平坦化手段15を備える。抄紙手段13は、脱墨手段11により得られた上記パルプに対し抄紙処理を行って原紙を得る機能ブロックである。上記抄紙手段13は例えば後述の抄紙装置であり、具体的な抄紙手段13の処理については後述の抄紙工程において説明する。塗工層形成手段14は、上記原紙に塗工液を塗工して塗工層を形成する機能ブロックである。上記塗工層形成手段14は例えば後述の塗工装置であり、具体的な塗工層形成手段14の処理については後述の塗工工程において説明する。平坦化手段15は、上記原紙に塗工された上記塗工層を平坦化する機能ブロックである。上記平坦化手段15は例えば後述のスーパーカレンダー装置であり、具体的な平坦化手段15の処理については後述の仕上工程において説明する。
液体の再生手段17は、ろ過手段12により得られたろ液中に顔料が残存する場合に、その顔料を凝集及び沈降させて脱墨手段11における洗浄に利用可能な液体を得るための機能ブロックである。上記液体の再生手段17は、例えば後述の凝集剤を用いた装置であり、具体的な液体の再生手段17の処理については、後述する液体の再生工程において説明する。
本実施形態によれば、上記の各手段のうち、少なくとも離解手段10及び脱墨手段11を備えた脱墨パルプの製造装置1を用いることにより、比較的低いコスト及び簡易な処理を実現し、かつ、記録物から白色度(脱墨効果)の高くて繰り返し利用可能な脱墨パルプを得ることができる。
[脱墨パルプの製造方法]
本発明の一実施形態は、脱墨パルプの製造方法に係る。当該脱墨パルプの製造方法は、上記実施形態に係る記録物の製造方法により得られた記録物から、フローテーション法を用いてインクを取り除く脱墨工程を含むものである。
以下、上記脱墨パルプの製造装置1に適用可能な脱墨パルプの製造方法について、具体的に説明する。なお、本実施形態に係る脱墨パルプの製造方法は、上記特定の製造装置によってのみならず、以下の説明の範囲において他の任意の態様で実施することが可能である。
まず、脱墨の対象となる記録物(印刷パルプ)は、主にパルプからなる被記録媒体にインクが付着したものである。このとき、当該記録物は、水及び水系有機溶媒などの液体(溶媒)と顔料とを含むインクがパルプに付着した状態となっている。
時間が経過するにつれて、上記インク中の溶媒は蒸発して、上記記録物は乾燥する。このとき、乾燥した記録物は、インクのうち少なくとも顔料がパルプに付着した状態となっている。
上記の記録物を離解工程で離解される対象として、これを再生処理するための、本実施形態の製造方法を以下で説明する。
〔離解工程〕
本実施形態における離解工程では、上記印刷パルプを、水及び水系有機溶媒などの液体中で繊維状に解きほぐし、スラリーにする。より具体的には、例えば、離解装置に、記録物、及び離解液となる液体を収容する。そして、固形分濃度や離解温度などを調整しつつ、乾燥した記録物、即ち印刷パルプから繊維を個々に分離する。これにより、パルプのスラリーを調製する。なお、上記離解液は、離解促進剤や離解助剤などの薬品をさらに含有してもよい。
なお、脱墨工程を行う前に予め印刷パルプから繊維を個々に分離し、パルプのスラリーを調製することにより、脱墨工程を行う際にパルプから顔料を効果的に剥離させることができる。
その際、上述の離解促進剤や離解助剤などの薬品を離解液に添加してもよい。当該薬品としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物その他のアルカリ剤、離解助剤、脱蛍光剤、消泡剤、及び脱墨剤(界面活性剤の一種)などが挙げられる。
離解装置としては、特に限定されることはなく、公知の装置、例えば高濃度パルパーや低濃度パルパー等を使用できる。また、離解後に、ニーダー、ディスパーザーやリファイナー等による処理を行ってもよい。
ここで、上記のパルパーは底に羽根を備えた巨大なミキサーであり、ここにパルプと水を投入して羽根の回転力で攪拌することにより、パルプが繊維状に解される。上記のニーダーは、複数の原材料を攪拌・混合しながら練り上げる装置であり、加圧タイプと非加圧のオープンタイプとがある。上記のディスパーザーは、流動性のある液体や、固体と液体との混合物であるペーストを、攪拌・分散・溶解するための高速ミキサーである。タービン型ブレードを高速回転させることによって、ブレード円周上のタービン状チップが衝撃や剪断作用を生じ、これにより攪拌・分散・溶解を行う。上記のリファイナーは、パルプの離解・叩解・精製などの処理を連続的に行うための機械である。
離解の際のパルプ濃度として、10〜50質量%(高濃度パルパーの場合)又は2〜10質量%(低濃度パルパーの場合)になるように液体(例えば、水又は水系有機溶媒)を添加し、さらに必要に応じて、上記の薬品をパルプに対して0.1〜5質量%、好ましくは0.3〜3質量%添加する。なお、本明細書における「パルプ濃度」とは、パルプを含む液体中のパルプの含有割合を意味する。
離解温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。温度が高い程、離解液が記録物に浸透し易く、粘度が低下し攪拌し易いため、短時間で十分に離解させることができる。一方、離解温度の上限は、特に限定されることはないが、90℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましい。
離解時間は、離解温度と相関があり、離解温度が高いほど離解時間は短くなる。
〔除塵工程〕
本実施形態では、所望により、離解工程の後に、記録物、例えば古紙などに含まれる異物やゴミを離解液から除去する除塵工程を含んでもよい。「離解工程の後」とは、脱墨工程の前、脱墨工程と同時、又は脱墨工程の後、のいずれも含む。
除塵の方法は特に限定されない。スクリーン及びクリーナー等の除塵装置を用いて、離解工程後における記録物の溶けた離解液中の異物を取り除いてもよい。上記スクリーンとしては、スリットスクリーン(1段目0.15mmスリット以下、2段目0.15mmスリット以下)等が挙げられる。上記クリーナーとしては、異物やゴミを効率良く除去することができるものであれば、特に限定されることはないが、例えば、高密度クリーナー及び精選クリーナー等が挙げられる。高密度クリーナーとは、例えば、溶けた古紙を水の入った鋼製パイプ中で攪拌し、古紙より比重の大きな金属片などの異物やゴミを落下させて排出する装置である。また、精選クリーナーとは、例えば、比重差を利用した遠心操作により、比重が比較的小さい砂などの異物やゴミを分離する装置であり、上記の高密度クリーナーを予め用いて比重の大きな異物やゴミを除去してから使用するのが通常である。
〔脱墨工程〕
本実施形態において必須に行われる脱墨工程として、例えば、パルプのスラリーを大量の水で希釈し、濾過及び脱水を繰り返すことでインクをパルプから除去(分離)する洗浄法、及びパルプのスラリー中に気泡を直接注入し、場合により脱墨剤やアルカリ剤を用いてパルプから気泡粒子にインクを吸着させ、そのまま液面に浮上濃縮させることでインクをパルプから除去(分離)するフローテーション法が挙げられる。中でも、水の使用量を少なくできるため、上記離解工程を経て得られた離解液から、上述のフローテーション法を用いてインクを取り除く(顔料及び顔料と高分子物質との凝集体を印刷パルプから分離する)ことが好ましい。
上記のフローテーション法を利用する場合に、脱墨装置としてフローテーション処理を行うフローテーターは従来公知のものを使用可能であり、例えば、IHIフォイトペーパーテクノロジー社(Voith IHI Paper Technology Co., Ltd.)製のMT5Lフローテーター、及び熊谷理機工業社(KUMAGAI RIKI KOGYO Co., Ltd.)製の実験用フローテーターが挙げられる。
なお、フローテーション処理の前に、当該処理の効果を高めるため、離解液をパルプ濃度0.5〜3質量%に希釈しておくのが好ましい。
フローテーション処理の条件は、特に制限されないが、5〜20L/分の供給空気量、700〜2,000rpmで10〜30分間行うとよい。また、フローテーション処理の際、脱墨剤及びアルカリ剤は使用してもしなくてもよい。当該脱墨剤として、例えば、脂肪酸又はその誘導体、油脂誘導体、及び高級アルコール誘導体が挙げられる。当該アルカリ剤として、例えば、トリエタノールアミン(TEA)、トリプロパノールアミン(TPA)、NaOH、KOH、NaHCO3、及びCH3COONaが挙げられる。なお、必要に応じて、ケイ酸ソーダや炭酸ソーダ等の緩衝剤がさらに添加されてもよい。
フローテーション処理の後、pH6〜9程度に調整し、洗浄を行ってもよい。当該洗浄に用いられる液体(溶媒)としては、水又は水系有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、水性インク、非水性インクに限らず、水が好ましい。
使用可能な水としては、水道水、並びにイオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水及び蒸留水等の純水、超純水、並びに後述の再生された水などが挙げられる。中でも、純水、超純水、及び再生された水が好ましく、さらに環境への負荷を軽減するため、再生された水がより好ましい。なお、上記の再生された水は、純水又は超純水に由来することが好ましい。
また、上記の水又は水系有機溶媒をアルカリ処理した溶媒を用いてもよい。
さらに、これらの水を、紫外線照射、過酸化水素添加、又はオゾン添加などにより滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。また、必要に応じて、分散剤、高沸点有機溶媒、低沸点有機溶媒、及び浸透促進剤を含有させてもよい。
一方、水系有機溶媒に含有される水溶性有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5ーペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、及び1,2,6−ヘキサントリオール等のアルコール類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類、及びアセトニルアセトン等のケトン類、γ−ブチロラクトン、ジアセチン、エチレンカーボネート、及びリン酸トリエチル等のエステル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びジメチルイミダゾリジノン等の窒素化合物類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、及び1,3−プロパンスルトン等の硫黄化合物類、並びに、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−イソペンチルオキシエタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、モノエタノールアミン、チオジグリコール、モルホリン、N−エチルモルホリン、2−メトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びヘキサメチルホスホルアミド等の多官能基化合物類が挙げられる。好ましくは、上記で列挙した成分のうちの1種以上である。
水系有機溶媒を使用するため、水と水溶性有機溶剤とを混合する場合、それらの混合比率は特に限定されることはない。また、使用する水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方で、上記フローテーター以外の装置としては、特に制限されることはない。かかる具体例として、エキストラクター、フォールウオッシャー(栄工機(Eiko-ki)社製)、マルチウォッシャー、ドラムエキストラクター/デッカー、バルブレスフィルター、サクションフィルター、ファイバーセパレーター(相川鉄工社(AIKAWA IRON WORKS CO.,LTD.)製)、ダブルニップシックナー(石川島産業機械社(IHI Machinery and Furnace Co.,Ltd.)製)、及び洗浄フィルター装置などが挙げられる。
なお、脱墨工程は、上記の離解工程と同時に行なわれてもよく、上記の離解工程の後に行われてもよい。
さらに、顔料及び顔料と高分子物質との凝集体が分離されたパルプを、パルプ濃度が好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%になるまで脱水処理を行ってもよい。なお、脱水専用の装置としては、特に制限されないが、例えば、ディスクエキストラクター及びディスクシックナー(相川鉄工社製)等が挙げられる。
脱墨工程は、パルプと液体と顔料とを含む混合液をろ過して、パルプと顔料及び液体とを分離するろ過処理をさらに含んでもよい。当該ろ過処理に用いるフィルターの好ましいメッシュサイズ(目開き)については、上述のとおりである。
また、上記フィルターは、より好ましくは目開きが0.3mm以上1.0mm以下であり、かつ空間率が30%以上50%以下、さらに好ましくは目開き縦0.81mm、目開き横0.95mm、かつ空間率43%のメッシュサイズを有する単純平織ステンレスメッシュである。
上記ろ過処理を行うことにより、フィルター上に存在する分離されたパルプ(スラリー状)に対しては後述するパルプの再生工程を実施し、一方、フィルターを通過したろ液に存在する分離された液体及び顔料に対しては後述する液体の再生工程を実施することができる。このような工程を経て、再利用可能な脱墨パルプと、脱墨パルプの製造などに再利用可能な液体(例えば、水又は水系有機溶媒)と、が得られ、環境への負荷を顕著に軽減することができる。
本実施形態の脱墨パルプの製造方法は、パルプの再生工程と、上記脱墨工程での洗浄に利用できる液体の再生工程と、をさらに含むことが好ましい。以下において、パルプの再生工程及び液体の再生工程の一例を説明する。
まず、上記のパルプの再生工程は、特に限定されないが、例えば、上記脱墨工程により脱墨された原紙を抄紙する抄紙工程と、当該抄紙工程により抄紙された原紙に塗工液を塗工して塗工層を形成する塗工層形成工程と、当該塗工層形成工程で原紙に塗工された塗工層を平坦にする平坦化工程と、を含む。
なお、上記の抄紙工程に供される原紙とは、上述の脱墨工程により得られた脱墨パルプを意味する。また、上記原紙を抄紙する前に、必要に応じて、サイズ剤、填料、紙力増強剤、薬品安定剤、ろ水剤、及び嵩高剤などを上記原紙に適宜添加することができる。
〔パルプの再生工程〕
(抄紙工程)
本実施形態における抄紙工程は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。
抄紙工程ではまず、上記の調製を施した脱墨パルプを抄紙装置に載せて抄紙する。かかる脱墨パルプの状態は、スラリー状である。抄紙装置は、特に限定されるものではなく、例えば、丸網式抄紙機、短網式抄紙機、長網式抄紙機、ツインワイヤー式抄紙機等を用いることができる。抄紙方法としては、印刷用塗工紙や塗工白板紙を得るための一般的な抄紙方法を適宜選択して用いることができる。
また、抄紙工程において、サイズプレスを実施することにより、原紙の表面に塗工液を塗工し、紙力、塗工適性や印刷(記録)適性などに優れた原紙とすることができる。上記の塗工液としては、特に限定されないが、例えば、デンプン類、ポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド類、及び表面サイズ剤などが挙げられる。また、用いるサイズプレス装置については、特に限定されることはなく、公知のものを用いればよい。
さらに、抄紙工程において、カレンダー加工を実施することにより、原紙の表面を平滑化することができる。用いるカレンダー装置については、特に限定されることはない。
(塗工層形成工程)
塗工層形成工程では、上記の抄紙工程を経た原紙の両面に、塗工液を塗工し、乾燥して塗工層を原紙の両面に形成し、印刷用塗工紙を得る。この塗工工程により、美しい印刷(記録)や艶のある印刷(記録)が可能となる塗工紙が得られる。上記の塗工液としては、例えば、顔料及びバインダーを主成分とする顔料塗工液が挙げられる。
上記顔料としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、クレー、焼成カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、アルミナ珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、ベントナイト、ゼオライト及びタルク等の無機顔料、並びにプラスチックピグメント及びバインダーピグメント等の有機顔料が挙げられる。
上記バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、デンプン類、タンパク類、セルロース誘導体及びポリビニルアルコールが挙げられる。
また、用いる塗工装置については、特に限定されることはなく、例えば、シリンダードライヤー、熱風ドライヤー及びコーターヘッドを備えた装置が挙げられる。
(平坦化工程)
平坦化工程(仕上工程)では、塗工工程を経た印刷用塗工紙をスーパーカレンダーに通紙することにより、上記塗工工程で原紙に塗工された塗工層を平坦化するとともに、光沢に優れた印刷用塗工紙を得ることができる。スーパーカレンダー装置としては、特に限定されることはなく、市販のものを用いればよい。温度や線圧といった通紙の条件については、一般的な条件を用いればよく、特に限定されることはない。
また、本実施の形態のパルプの再生工程は、裁断工程や巻取工程をさらに含むことができる。
(裁断工程、巻取工程)
上記の平坦化工程を経て得られた印刷用塗工紙は、裁断工程を実施することにより平判状の再生紙とすることができる。また、上記の印刷用塗工紙は、巻取工程を実施することによりロール状の再生紙とすることもできる。裁断や巻取の各種条件については、従来公知の条件を適用することができる。
次に、上記の液体の再生工程は、例えば、上記ろ過により得られたろ液中に顔料が存在する場合、その顔料を凝集及び沈降させて、脱墨のための洗浄に利用可能な液体を得る再生工程を含んでもよい。
〔液体の再生工程〕
上記ろ過により得られたろ液中の顔料を凝集及び沈降させて、上記脱墨工程における洗浄に利用可能な液体(例えば、水又は水系有機溶媒)を再生する再生工程をさらに含むことが好ましい。
上記のろ液は白水であり、顔料が分散しているため濁っている。かかるろ液中の顔料を凝集・沈降させるために、凝集剤を用いてもよい。凝集剤の中でも、再生した紙の記録安定性を良好なものとするため、高分子系凝集剤、酸、及び多価金属化合物からなる群より選択される一以上が好ましい。
高分子系凝集剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(ポリダドマック)、ポリアミン、ポリエチレンイミン及びポリエチレンオキシドが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(ポリダドマック)及びポリアミンからなる群より選択される一以上が好ましく、ポリビニルアミン及びポリアミンのうち少なくともいずれかがより好ましい。
酸としては、特に制限されないが、例えば、塩析が可能な濃度の塩酸、硫酸、硝酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、及びクロム酸などの無機酸、並びにクエン酸、酢酸、乳酸、酪酸、蟻酸、シュウ酸、アミノ酸、アスコルビン酸、及びパラトルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。これらの中でも、塩酸、硫酸、クエン酸、乳酸、酪酸、及びパラトルエンスルホン酸からなる群より選択される一以上が好ましく、塩酸、クエン酸、及びパラトルエンスルホン酸からなる群より選択される一以上がより好ましい。
多価金属化合物としては、上述した填料や凝集剤としての多価金属化合物を用いることができるため、ここでの説明は省略する。
また、上記のろ液中の顔料を凝集・沈降させるために、凝集剤を用いず、単にろ液を静置して顔料を沈降させる手段も好ましい。その理由は、凝集剤を用いた場合と比較して、単にろ液を静置した方が、ろ液の混濁が生じにくいからである。凝集剤を用いず、単にろ液を静置する場合の時間としては、特に限定されることはないが、例えば、1時間以上が好ましい。静置時間が1時間以上の場合、自然に凝集して十分沈降するとともに、ろ過効率を十分に高めることができる。
一方で、再生工程を経て得られた水及び水系有機溶媒などの液体は、保存安定性を良好にするため、殺菌しておくのが好ましい。上記液体の殺菌方法としては、上述のとおり、紫外線照射、過酸化水素添加、又はオゾン添加などによる滅菌処理が挙げられる。
本実施形態では、上記の各工程のうち、少なくとも離解工程及び脱墨工程を含む脱墨パルプの製造方法を用いる。これにより、比較的低いコスト及び簡易な処理を実現し、かつ、記録物から白色度(脱墨効果)が高くて繰り返し利用可能な高品質の脱墨パルプ(再生紙)を得ることができる。
このように、本実施形態の製造方法によれば、上記実施形態のインクジェット記録用インク(特に顔料)を記録物から簡易に除去することができ、これにより記録物を繰り返し再生することを目的として利用することができる。
[脱墨パルプ]
本発明の一実施形態は、上記した製造方法により得られる脱墨パルプに係る。この脱墨パルプは、上記で定義したため、ここでは説明を省略する。
上記脱墨パルプは、そのまま印刷(記録)用媒体、即ち被記録媒体として供することができるため、再生パルプであることが好ましい。
本実施形態により得られた脱墨パルプのうち再生パルプは、従来に比して高品質の再生パルプとするため、脱墨パルプ表面に残留した上記のインクジェット顔料を含有するインクの単位面積(154mm2)当たりの表面積(以下、「残留顔料表面積」という。)が20mm2/154mm2以下であることが好ましい。
また、本実施形態により得られた脱墨パルプは、そのまま再生パルプ、即ち再生紙として用いてもよいし、他の種類のパルプなどと配合して再生紙を得てもよい。本実施形態で得られた脱墨パルプは、パルプの白色度(ISO白色度)が高くて残留顔料表面積が低いため、そのまま再生紙としても、又は他の種類のパルプなどと配合しても、高品質の再生紙を得ることができる。
本実施形態により、記録物から製造される再生パルプのISO白色度(ISO 2470)は、好ましくは65%以上、より好ましくは80%以上である。かかる範囲内の場合、従来に比して高品質の再生パルプとなる。
このように、本実施形態によれば、脱墨性に優れた記録物から、インク(特に顔料)を簡易かつ低コストで除去して脱墨パルプを得ることができる。
以下、本実施の形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、以下では、ポリマー分散型の顔料に用いられるポリマーを「顔料分散用ポリマー」と称する。
[前処理液調製用の使用材料]
〔カチオン性化合物〕
・酢酸カルシウム
・乳酸カルシウム
・ポリアリルアミン
〔界面活性剤〕
・オルフィンE1010(日信化学工業社製商品名、アセチレンジオールのエチレンオキサイド(10モル)付加物、表1では「E1010」と示す。)
〔水溶性有機溶剤〕
・グリセリン
〔防黴剤・防腐剤〕
・プロキセルXL2(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、アビシア社製商品名)
〔水〕
・イオン交換水
[前処理液1〜3の調製]
下記表1に示す各材料を攪拌混合して、下記表1に示す組成(単位:質量%)の前処理液1〜3を調製した。
[インク調製用の使用材料]
〔顔料〕
・Monarch 880(Cabot社商品名、C.I.ピグメントブラック7、表では「M−880」と示す。)
〔界面活性剤〕
・オルフィンE1010(日信化学工業社製商品名、アセチレンジオールのエチレンオキサイド(10モル)付加物、表では「E1010」と示す。)
・サーフィノール104PG50(日信化学工業社製商品名、テトラメチルデシンジオール/プロピレングリコール=50/50、表では「104PG50」と示す。)
〔pH調整剤〕
・トリエタノールアミン(表では「TEA」と示す。)
〔水溶性有機溶剤〕
・テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(表では「TeEGmBE」と示す。)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(表では「TEGmBE」と示す。)
・1,2−ヘキサンジオール(表では「1,2−HD」と示す。)
・グリセリン
・トリエチレングリコール(表では「TEG」と示す。)
・トリメチロールプロパン(表では「TMP」と示す。)
・2−ピロリドン(表では「2−Py」と示す。)
〔防黴剤、防腐剤〕
・エチレンジアミン四酢酸の二ナトリウム塩(表では「EDTA2Na塩」と示す。)
・1,2−ベンゾイソチアゾロン−3−オン(表では「BIT」と示す。)
〔防錆剤〕
・ベンゾトリアゾール(表では「BTA」と示す。)
〔高分子粒子〕
(1.高分子粒子C)
以下の方法により高分子粒子Cを作製した。
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリウムを0.2質量部添加しておき、イオン交換水7質量部に、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、t−ドデシルメルカプタン0.5質量部、スチレン60質量部、メタクリル酸9質量部、アクリル酸メチル10質量部、アクリル酸エチル7質量部、アクリル酸ブチル14質量部を入れたモノマー溶液を、70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8〜8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子粒子水分散液を作製して高分子粒子Cとした。この高分子粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ60℃であった。日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をテトラヒドロフラン(THF)として測定したときの重量平均分子量(スチレン換算)は29,000であった。また、滴定法による酸価は34mgKOH/gであった。
(2.高分子粒子E)
以下の方法により高分子粒子Eを作製した。
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリウムを0.2質量部添加しておき、イオン交換水7質量部に、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、t−ドデシルメルカプタン0.5質量部、スチレン40質量部、アクリル酸8質量部、アクリル酸エチル27質量部、アクリル酸ブチル25質量部を入れたモノマー溶液を、70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8〜8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子粒子水分散液を作製して高分子粒子Eとした。この高分子粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ20℃であった。日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をテトラヒドロフラン(THF)として測定したときの重量平均分子量(スチレン換算)は31,000であった。また、滴定法による酸価は32mgKOH/gであった。
(3.高分子粒子F)
以下の方法により高分子粒子Fを作製した。
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリウムを0.2質量部添加しておき、イオン交換水7質量部に、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、t−ドデシルメルカプタン0.5質量部、スチレン8質量部、メタクリル酸9質量部、エチルアクリレート3質量部、ブチルアクリレート20質量部、アクリル酸ラウリル50質量部を入れたモノマー溶液を、70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8〜8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子粒子水分散液を作製して高分子粒子Fとした。この高分子粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ、−20℃であった。日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をテトラヒドロフラン(THF)として測定したときの重量平均分子量(スチレン換算)は35,000であった。また、滴定法による酸価は34mgKOH/gであった。
(4.高分子粒子G)
以下の方法により高分子粒子Gを作製した。
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリウムを0.2質量部添加しておき、イオン交換水7質量部に、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、t−ドデシルメルカプタン0.5質量部、スチレン8質量部、アクリル酸8質量部、アクリル酸ブチル25質量部、アクリル酸ラウリル59質量部を入れたモノマー溶液を、70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8〜8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子粒子水分散液を作製して高分子粒子Gとした。この高分子粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ、−40℃であった。日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をテトラヒドロフラン(THF)として測定したときの重量平均分子量(スチレン換算)は32,000であった。また、滴定法による酸価は32mgKOH/gであった。
(5.顔料分散用ポリマー溶液1)
顔料分散用ポリマー溶液1の作製を行った。攪拌機、温度計、還流管、及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、ベンジルアクリレート75質量部、アクリル酸2質量部、t−ドデシルメルカプタン0.3質量部を入れて70℃に加熱し、別に用意したベンジルアクリレート150質量部、アクリル酸15質量部、ブチルアクリレート5質量部、t−ドデシルメルカプタン1質量部、メチルエチルケトン20質量部、及び過硫酸ナトリウム1質量部を滴下ロートに入れて4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40%濃度の顔料分散用ポリマー溶液1を作製した。当該ポリマー溶液1の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ40℃であった。
(6.顔料分散用ポリマー溶液2)
顔料分散用ポリマー溶液2の作製を行った。ポリマー溶液1の作製と同様に、攪拌機、温度計、還流管、及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、ベンジルアクリレート75質量部、アクリル酸2質量部、t−ドデシルメルカプタン0.3質量部を入れて70℃に加熱し、別に用意したブチルアクリレート155質量部、アクリル酸15質量部、t−ドデシルメルカプタン1質量部、メチルエチルケトン20質量部、及び過硫酸ナトリウム1質量部を滴下ロートに入れて4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40%濃度の顔料分散用ポリマー溶液1を作製した。当該ポリマー溶液2の一部を取り乾燥させた後、上記の示差走査型熱量計によりTgを測定したところ−5℃であった。
ここで、上記高分子粒子C,E,F,及びGのモノマー組成を下記表2に纏める。なお、表2中、Stはスチレン、AAはアクリル酸、MAAはメタクリル酸、MAはアクリル酸メチル、EAはアクリル酸エチル、BAはアクリル酸ブチル、LAはアクリル酸ラウリルをそれぞれ表す。
[実施例1〜9,14,15,17及び比較例1〜3]
〔1.インクジェット記録用インクの調製〕
下記表3に示す各材料を攪拌混合して、下記表3に示す組成(単位:質量%)のインクジェット記録用インクを調製した。実施例1〜9,14,15,17及び比較例1〜3では、特開平8−3498号公報と同様の方法で酸化処理を行ったMonarch880を、インク中に分散させた。なお、各インクに含まれる顔料の体積平均粒子径は、表4に示すようにいずれも100nmであった。
〔2.前処理物の作製(前処理工程の実施)〕
被記録媒体として、比較例2を除き、上質紙(王子製紙社(Oji Paper Company, Limited)製のOKプリンス上質紙、米坪64g/m2T目A4版)を用いた。また、表面積に占める多価金属化合物の面積が「0%」である比較例2は、被記録媒体としてろ紙(ADVANTEC製定性濾紙No.1、110φ)を用いたものである。
セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製のインクジェットプリンター(PX−B500)を用いたインクジェット法により、上質紙の表面積に占める多価金属化合物の面積が下記表5に示す値である上質紙、又はろ紙の上に、下記表5に示す各前処理液を吐出し付着させた。この前処理は、Dutyを表5に示す値とし(表5中の「前処理Duty」)、前処理時の被記録媒体の温度を35℃とした。さらに、前処理液を被記録媒体に付着させた後に、25℃で1分この前処理液を乾燥させた。このようにして前処理物を得た。
ここで、上記「多価金属化合物の面積」は、元々紙に存在するカルシウム化合物(多価金属化合物の一種)を、EDX分析装置(EMAX−W、堀場製作所)を搭載した走査型電子顕微鏡(S−4700〔製品名〕、日立製作所社製)で測定して求めた。また、「Duty」とは、下式で算出される値である。
Duty(%)=実記録ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(上記式中、「実記録ドット数」は単位面積当たりの実記録ドット数であり、「縦解像度」及び「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
〔3.記録物の作製(記録工程の実施)〕
上記のインクジェットプリンター(PX−B500)を用いたインクジェット法により、上記で作製した各前処理物の上に、下記表5に示す各インクを記録した。この記録は、Dutyを下記表5に示す値とし(表5中の「インクDuty」)、記録温度を25℃とした。このようにして記録物(印刷パルプ)を得た。
〔4.脱墨パルプの作製(脱墨工程の実施)〕
次に、標準パルプ離解機(熊谷理機工業社(Kumagai Riki Kogyo Co.,Ltd.)製製品名)を用いて、パルプ濃度4%となるようイオン交換水で希釈し、60℃下、3,000rpmで12分間回転させ、さらに、パルプ濃度1%となるようイオン交換水で希釈し、60℃下、500rpmで10分間、上記離解機内を更に回転させた(離解工程)。このようにパルプ液をイオン交換水で洗浄することにより、印刷パルプから顔料と顔料及び高分子物質(高分子粒子や顔料分散用ポリマー)の凝集体とを剥離した。
次に、フローテーション処理により脱墨工程を実施した。当該フローテーション処理には、熊谷理機工業社製の実験用フローテーターを用いた。パルプ濃度1%試料4.3kgに脱墨剤(DI7027〔商品名〕、花王社(Kao Corporation)製)1.5%を7mL加えて、4L/分の供給空気量で、1,500rpmで10分間フローテーションを行うことで、顔料と顔料及び高分子物質の凝集体とを印刷パルプから分離した(脱墨工程)。
このようにして、顔料と顔料及び高分子物質の凝集体とが分離されたパルプを、パルプ濃度が20%になるまで脱水し、サンプルであるパルプ試料を作製した。
[実施例10〜13,16]
上記の実施例1〜9,14,15,17及び比較例1〜3(以下、単に「実施例1等」という。)における「1.インクジェット記録用インクの調製」を、以下に説明する方法及び条件とした。なお、上記「2.前処理物の作製(前処理工程の実施)」以降は、下記の表3〜表5に示したものとした点を除き、上記の実施例1等と同様にして、前処理工程の実施、記録物の作製、及び脱墨パルプの作製を行った。
実施例10〜13,16では、上記実施例1等で示した当該酸化処理を行わない代わりに、上記で調製した顔料分散用ポリマーをインク中に分散させた。まず、上記で調製した顔料分散用ポリマー溶液20質量部、Monarch880を50質量部、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100質量部、メチルエチルケトン30質量部を混合した。その後、超高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製のアルティマイザーHJP−25005)を用いて、体積平均粒子径100nm(粒度分布計で測定、下記表4参照)となるまで顔料を分散した(200MPa、15パス)。なお、その際の分散条件は200MPa且つ15パスであった。
得られた分散液を、別の容器に移してイオン交換水を300質量部添加して、さらに1時間攪拌した。そして、ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和してpH9に調整した。pH調整後の顔料溶液を、3μmのメンブレンフィルターでろ過しイオン交換水で調整して顔料濃度が15%である顔料分散液とした。
そして、混合した各材料(当該顔料分散液を含む。)及び各インク組成を下記の表3に示すものとした点以外は、上記の実施例1等と同様にしてインクジェット記録用インクを調製した。
[比較例4]
前処理工程を行わなかった点以外は、実施例3と同様にして、インクジェット記録用インクの調製、記録物の作製、及び脱墨パルプの作製を行った。
ここで、表4中、「顔料の含有量に対する高分子物質の含有量の質量比」とは、具体的には、顔料の含有量を分母とし、インクに含まれる全ての高分子物質を分子としたときの質量比ということができる。また、「顔料の含有量に対する高分子物質の含有量の質量比」とは、具体的には、顔料の含有量を分母とし、いずれもTg40℃以下である高分子物質、即ちTg40℃以下の高分子粒子及びTg40℃以下の顔料分散用ポリマーを合わせた高分子物質の含有量を分子としたときの質量比ということができる。
また、表5中の「メディア」は、「媒体の表面積に占める多価金属化合物の面積(%)」を意味する。表5中の「前処理Duty」は、上述のとおり、前処理液工程においてプリンターのヘッドから前処理液を吐出し付着させたときのDutyを意味する。表5中の「インクDuty」は、上述のとおり、記録工程(記録物の作製)においてプリンターのヘッドからインクを吐出し付着させたときのDutyを意味する。
[測定方法]
〔脱墨後の記録物のL*値〕
上記で得られた各サンプル(脱墨後のパルプ試料)を、25℃、45%雰囲気下で48時間放置した後、グレタグカラーコントロールシステムSPM−50(グレタグマクベス社製)を用いてL*値(明度)を測定した。L*値が高いほど、脱墨性に優れると言える。結果を下記表6に示す。
〔目詰まり安定性〕
40℃、20%雰囲気で2ヶ月間放置して、プリンターのクリーニングで目詰まりが回復するまでのクリーニング回数を測定した。なお、クリーニング回数が5回以下であれば実用上問題ない。結果を下記表6に示す。
表6より、カチオン性化合物を含有する前処理液と、顔料とTg40℃以下の高分子物質とを含有し、かつ、当該顔料の含有量に対する当該高分子物質の含有量の質量比が0.10〜1.0であるインクジェット記録用インクと、を順次、被記録面に多価金属化合物を有する被記録媒体上に付着させて得た記録物(各実施例)は、そうでない方法により得た記録物(各比較例)に比して、脱墨性及び目詰まり安定性に優れることが分かった。
詳細に言えば、所定の前処理液を用いて被記録面を記録前に前処理することにより、脱墨性が極めて優れたものとなることが分かった(各実施例と比較例4との対比)。また、インクジェット記録用インクがTg40℃以下の高分子物質を含有することにより、脱墨性が極めて優れたものとなることが分かった(各実施例と比較例1との対比)。また、インクジェット記録用インクにおいて、顔料の含有量に対するTg40℃以下の高分子物質の含有量の質量比が0.10〜1.0であることにより、目詰まり安定性が優れたものとなることが分かった(各実施例と比較例3との対比)。また、被記録面に多価金属化合物を有する被記録媒体を用いることにより、脱墨性が優れたものとなることが分かった(各実施例と比較例2との対比)。これに加えて、多価金属化合物の面積占有率が20%以上である被記録媒体を用いることにより、脱墨性が一層優れたものとなることが分かった(実施例1〜16と実施例17との対比)。
なお、データとして示していないが、カチオン性化合物を含まず、かつ、1質量%のオルフィンE1010、30質量%のグリセリン、0.02質量%のプロキセルXL2、残部をイオン交換水とする前処理液を用いた点以外は、実施例3と同様にして、インクジェット記録用インクの調製、前処理物の作製、記録物の作製、及び脱墨パルプの作製を行った。その結果、脱墨性及び目詰まり安定性の評価結果は比較例4と同等であることを知見した。このような結果となったのは、前処理液にカチオン性化合物が含まれていないため、インクに含まれるアニオン性の樹脂を凝集させることができなかったからと推測される。
さらに、脱墨性について言えば、上記の被記録媒体に関する要件の方が、上述のインクジェット記録用インクに関する要件よりも重要であることが分かった。具体的には、データとして示していないが、比較例1で用いたインクジェット記録用インクを実施例17で用いた被記録媒体上に記録して得た記録物における脱墨後のL*は、実施例17のL*よりも低いことを知見している。