JP2013203569A - 磁気光学素子用焼結体及び磁気光学素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来のテルビウム酸化物を一部しか含まないガラスや単結晶では不可能であった高い濃度まで3価のテルビウムイオンを含有させることによって、高いヴェルデ定数を実現した3価のテルビウムイオンを含有する1μm帯で透明な焼結体を提供することを目的とする。
【解決手段】組成式(Tb1−x(式中、Mはイオン半径が0.85Åから0.91Åの範囲である3価の元素、0.1≦x<0.6)で示される酸化物を主成分として含有する波長1μm用の磁気光学素子用焼結体であって、残余成分として、2価の陽イオンを含む酸化物及び4価の陽イオンを含む酸化物とを含有するものであることを特徴とする波長1μm用の磁気光学素子用焼結体。
【選択図】なし

Description

本発明は、磁気光学素子用焼結体及びそれを用いた磁気光学素子に関する。
磁気光学効果を利用した光アイソレータは、偏光子、ファラデー回転子、検光子及び磁石からなり、磁場中におかれた磁気光学素子中を偏光が通過すると、その偏光面が回転する。この現象はファラデー効果として知られ、その回転角Θは、磁場の強さHと物質の長さLに対して、
Θ=VHL
で表される。比例係数のVはヴェルデ定数といい、材料に依存する特性値である。
Vの大きな材料をファラデー回転子に用いると、ファラデー回転子と永久磁石が小さくても同等のアイソレーション性能を得ることができるため、素子の小型化が可能となる。この原理を用いた光アイソレータの利用分野としては、半導体の微細加工用ファイバーレーザ、鋼材やセラミックスの切断及び熱処理用ファイバーレーザがあり、光アイソレータはファイバーレーザを構成する部品として利用される。
ファイバーレーザとしては、特に波長1μm帯を使うことが多く、この用途で使われる光アイソレータを構成するファラデー回転子は、3価のテルビウムイオンを含有した酸化物のガラスや単結晶が使われている。
ファラデー回転子を小型にするには、ヴェルデ定数を大きくすれば良く、このためには単位体積当りの常磁性イオン量、代表的には、3価のテルビウムイオンの含有量を多くすれば良いことが知られている。
しかしながら、酸化物ガラスに加えるTbの量を多くするとガラスが不透明になり、ガラス化しなくなるため、高濃度にTbを含むガラスは製造できていない。
また、3価のテルビウムイオンを含有した単結晶としては、テルビウム・ガリウム・ガーネット(化学式TbGa12)結晶があるが、この結晶のヴェルデ定数は0.13min./(エルステッド・cm)と比較的小さな値に留まっており、このため、小型の光アイソレータ用ファラデー回転子としては不満足な材料である。
最近、Tbを含有する単結晶や焼結体からなる磁気光学素子材料を、本用途のファラデー回転子として利用することが開示されている(特許文献1〜3)。
特開2010−285299号公報 特開2011―121837号公報 特開2011−121840号公報
結晶工学ハンドブック、共立出版株式会社 P52−53 表2・2・1イオン半径
しかし、特許文献1、2の焼結材料は安定して実用に供することができる透明な材料が得られないという欠点がある。これは、特許文献1、2の焼結材料は高温で製造されるため、主材料となる希土類酸化物が高温から室温になる間(冷却時)に相転移を起こし易いという性質によるためか、相転移によりマトリックス相とは異なる相が共存し、この異相が光の散乱原因になっていると考えられる。この現象は特許文献1、2で開示された焼結材の本質的な欠点であるといえる。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、高いヴェルデ定数を実現した3価のテルビウムイオンを含有する1μm帯で透明な磁気光学素子用焼結体を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、組成式(Tb1−x(式中、Mはイオン半径が0.85Åから0.91Åの範囲である3価の元素、0.1≦x<0.6)で示される酸化物を主成分として含有する波長1μm用の磁気光学素子用焼結体であって、残余成分として、2価の陽イオンを含む酸化物及び4価の陽イオンを含む酸化物とを含有するものであることを特徴とする波長1μm用の磁気光学素子用焼結体を提供する。
このような磁気光学素子用焼結体であれば、3価のテルビウムイオンを高濃度に含み、高いヴェルデ定数を有し、使用波長である1μm帯で透明な磁気光学素子材料が得られる。
このとき、前記残余成分のうち、2価の陽イオンを含む酸化物がPbO又はCaO、4価の陽イオンを含む酸化物がZrO又はHfOであることが好ましい。
このような前記残余成分(焼結助剤)を添加することで、更に安定して透明体を得ることができる。
このとき、前記組成式における前記Mが、Ho、Tm、Luから選択される1種以上の元素であることが好ましい。
これにより、ヴェルデ定数の劣化を抑制できる透明体を得ることができる。特に、Hoを選択した場合には、その効果が著しい。
このとき、前記残余成分の量が0.001wt%から1wt%であることが好ましい。
このように、散乱原因となる前記残余成分(焼結助剤)はできるだけ少量とするのが好適である。
また、本発明の焼結体を用いた磁気光学素子であり、挿入損失が0.2dB以下である波長1μmで使われる磁気光学素子を提供する。
このような本発明の焼結体を用いた磁気光学素子であれば、挿入損失が小さくかつアイソレータ素子の小型化を図ることができる。
以上のように、本発明によれば、従来よりも高濃度に3価のテルビウムイオンを含む透明な焼結体を得ることが可能となる。また、焼結体Tbは、テルビウムガラスやテルビウム・ガリウム・ガーネット(略してTGG、化学式TbGa12)単結晶よりも大きなヴェルデ定数を有するため、従来の材料と比較して小さな結晶サイズでも大きなファラデー回転角が得られ、ファイバーレーザ等への搭載に求められるアイソレータ素子の小型化を図ることができる。
従来、透光性の多結晶体としてイットリウム酸化物(Y)が知られてきた。しかし、Yは結晶系が立方晶系のC型希土類構造の多結晶として焼結され、冷却時に相転移がなく、室温においても立方晶系のC型希土類構造の多結晶が得られるため透光性のものとなるものの、安定して挿入損失が低い材料を得ることができないという問題点があった。
またテルビウム単体の酸化物であるTbであっても、透明な焼結体は得ることはできない。これは、テルビウムイオンの価数が3価と4価の間で不安定なこと、及び高温相である結晶系が単斜晶系のB型希土類構造と低温相の立方晶系のC型希土類構造が存在し冷却時に相転移を生じることに起因する。
以下、本発明について、実施態様の一例として以下詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明は、組成式(Tb1−x(式中、Mはイオン半径が0.85Åから0.91Åの範囲である3価の元素、0.1≦x<0.6)で示される酸化物を主成分として含有する波長1μm用の磁気光学素子用焼結体であって、残余成分として、2価の陽イオンを含む酸化物及び4価の陽イオンを含む酸化物を含有する。
前記組成式(Tb1−xでは、0.1≦x<0.6と比較的Tb含有量を多くしても約1600℃という実用問題のない焼結速度となる温度で焼結して得られる焼結体を透明とすることができる。これはTb単体では得られなかった立方晶が安定して得られるためと考えられる。更に、金属イオンとして6配位のイオン半径が0.85Åから0.91Åの範囲となる3価の酸化物Mでは、約2000℃の高温で焼結し、室温に戻しても立方晶が安定的に得られる。なお、ここでのイオン半径は非特許文献1に記載の値である。
本発明では、前記Mが、Ho、Tm、Luから選択される1種以上の元素であることが好ましい。
前記Mの種類として、特許文献2で示されているSc、Mg、Zr、Hfを選択すると、イオン半径が小さすぎるためか透明な焼結体が得られず、また、イオン半径が0.91Åを超えると、立方晶が不安定になることがある。そこで、ランタニド元素がテルビウムとの相溶性が良いこと、更にイオン半径が6配位の3価のTbに近い0.85Åから0.91Åの範囲内にあることが好ましいことを考慮すると、前記MをHo、Tm、Luから選択することが好適である。特に、Hoを選択すると、テルビウムを置換すると生じるヴェルデ定数の劣化が少なくなり、45度回転に必要な光路長が短くなることでより安定した透明体を得ることができる。なお、前記Mは、少ない比率の方が大きなヴェルデ定数を持つ材料とすることができるが、少なすぎるとヴェルデ定数が小さくなり、また多くしすぎると焼結体が透明にならないので、xは0.1以上0.6未満とされる。
本発明での残余成分(焼結助剤)は、2価の陽イオンを含む酸化物がPbO又はCaO、4価の陽イオンを含む酸化物がZrO又はHfOであることが好ましい。
焼結体を作成するには焼結助剤といわれる酸化物が必要となるが、本願の組成物からなる焼結体では、Mgのようなイオン半径の小さな元素では透明性が劣ったため避けるべきであり、また、本発明の主成分は、テルビウム元素という3価と4価の陽イオンが安定して存在する元素を含むことより、焼結条件の雰囲気次第では4価のテルビウムイオンが生じ、光吸収により波長1μmでの透明性が劣化することがある。そのため、4価のテルビウムイオンの発生を抑えるためには4価のイオンが有効であるが、4価となる元素のみを添加すると価数の調整が難しいため、2価及び4価となる酸化物を同時に含ませることが好ましい。具体的な元素としては、上記のようなイオン半径が3価のテルビウムイオンに近い元素(2価Pb,Ca等、4価Zr,Hf等)の酸化物を焼結助剤として選択すればよく、この焼結助剤を添加することで更に安定して透明体を得ることができる。
このとき本発明では、前記残余成分の量が0.001wt%から1wt%であることが好ましい。
焼結助剤(残余成分)は焼結体の粒界に蓄積されやすく、蓄積されると粒界での屈折率が変わるために微弱ながらも散乱原因となる。そのため、焼結助剤の量は、焼結反応の様子で決めることになるが、上記のようにできるだけ少量とすることで散乱の発生を抑制することができる。
以下に本発明の磁気光学素子用焼結体の作製方法を説明する。
本発明の焼結体の原料としては、例えば、全て3価のテルビウムイオンで構成される化学式Tbの純度4Nの酸化物粉末がある。市販されている純度4NのTbを用いるときは、これを予め水素雰囲気で還元処理してTbとして用いても良い。酸化物原料としては高純度であることが好ましく、また、その粒度は小さい方が焼成過程の反応性は良いが、微細すぎると取り扱いに不便であるので、原料粉末の平均粒径は数μmからサブμmのものを用いると良い。
Tbと置換するHo、Tm、Luや焼結助剤となるPbO、CaO、ZrO、HfOなどの酸化物についても高純度であることが好ましい。また、その粒度は取扱に不便でなければ小さい方が好ましいため、数μmからサブμmのものを用いると良い。出発原料はTb及びこれらの酸化物を所定量秤量して混合したものを用いる。
別の原料調整方法としては、いわゆる共沈法による作製方法がある。
初めに4NのTbを0.2モル秤取し、6Nの硝酸に溶解して約300mlの溶液を作製する。同様に、Ho、Tm、Luに関しても6Nの硝酸溶液とし、組成比に応じてこの硝酸溶液を秤取する。そして2つの溶液を混合し、その後この混合溶液に2Nアンモニア水を撹拌しながら滴下すると、ゲル状の物質を得る。更にこの後、約70℃で蒸発乾固させ、120℃で5日間乾燥させることで(TbM)の原料が得られる。なお、原料としてTbを使うときは少量のHを添加すればよい。
前記原料に対して、PbO、CaO、ZrO、HfOから2価と4価のものを少なくとも1種ずつ選択される焼結助剤と、ポリビニルアルコール(PVA)などの少量のバインダーと、エタノールとを加えて湿式のボールミルを1日かけて原料粉を均一に粉砕し、混合する。得られたスラリーからエタノールを蒸発させることによって除去し、乾燥粉末を得る。なお、スプレイドライヤーを用いると乾燥と造粒を同時に行うことができる。この乾燥粉末を一軸プレスし、更に冷間等方加圧(CIP)で成形体を作製する。成形体密度が低いとその後の焼成によって気孔が残って透過損失となるため、成形体密度は50%以上であることが好ましい。
成形体は、バインダーを除くために仮焼きを行った後で本焼成する。本焼成には、常圧の焼成炉、真空焼成炉、ホットプレス炉などの既存の炉を用いればよい。焼成の雰囲気は、酸素分圧が高いと高酸化状態のテルビウムが生じるために、低酸素分圧としなければならない。焼成炉内の酸素を除くには、水素を含む還元性の雰囲気を用いることができる。また、炉内を高真空に保つことによっても低酸素分圧を実現できる。あるいは酸素不純物を低減した高純度の不活性ガスを用いてもよい。
焼成の条件は、焼結体の粒子が組成的、組織的に均一であり、残留気孔が少なくて緻密であり、その結果として焼結体の透光性が優れているように、各焼成法に合わせて設定する。例えば、焼成の温度は1100〜1400℃、その最高温度での保持時間は0.5〜24時間が選ばれる。また、炉内温度分布を均一化した焼成炉を用いて、冷却時の温度降下パターン条件を適切に選ぶことによって、熱歪の少ない多結晶体が得られ、光アイソレータに必要な高い消光比を実現することができる。
このような焼成後に微小な残留気孔が残る場合は、更に熱間等方加圧(HIP)を付加することができる。
HIP処理は、1200〜1800℃の温度範囲での数時間以内の処理によって残留気孔の低減効果が得られる。この処理では、高温にする方が残留気孔を短時間で低減できるため好ましく、残留気孔の比率としては焼結体の密度が理論密度の99.8%以上(気孔率では0.2%以下)であることが必要である。焼結体の密度が理論密度の99.8%未満であると、光の透過率が極端に低下する。なお、焼結体の密度はアルキメデス法で測定できる。一方、気孔率は焼結体の実測密度と理論密度の差異から求めることができる。
焼結体のヴェルデ定数は焼結体を切り出した後に端面を鏡面加工し、既知の大きさの磁界中にセットし、偏光面の回転角度と光路長とを測定して求めることができる。上記のように作製できる本発明の(TbM)からなる焼結体のヴェルデ定数の測定結果は、Mの置換量に因るものの、波長1.06μmで0.21min./(エルステッド・cm)以上とTGG結晶よりはるかに大きな値を示す。なお本発明では、目視で透光性を判定し、ある程度透明な材料については透光性をより詳細に測定するために、1μmのレーザ光源を用い挿入損失を測定した。また、前記した焼結体に波長1μmでの無反射コートを施して挿入損失を測定すると、0.2dB以下ときわめて低損失なものを得ることができる。
このように本発明の焼結体は、磁気光学素子用に好適であり、小型・ハイパワー等の特徴を有する可視光から近赤外光の固体レーザ用の光アイソレータや、また大型形状作製可能の利点を生かした大出力レーザ用への光アイソレータにも利用可能と考えられる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
純度99.9%で粒径1μm以下のTb粉末を100g、Lu粉末を108.8g、CaOを0.63g、ZrOを21.25gとエチルアルコール150g、PVA1gを秤量し、表面を樹脂コートしたボールを用いてボールミル混合した。24時間後にスラリーを取り出し、エチルアルコールを蒸発させて乾燥粉末を得た。乾燥した粉末は乳鉢と乳棒を用いて解砕した。
この粉末を金型に入れて20MPaで円筒状に一軸成形し、更に200MPaのCIP(冷間等方加圧)処理を行って成形体を作製した。
この成形体を圧力20MPa最高温度1400℃でホットプレス焼成し、直径25mm厚さ8mmの円板状の焼結体を得た。得られた焼結体は、相転移による割れがない透明体であった。作製した焼結体の密度は、ダイスと接触していた表面層を研削除去した後、アルキメデス法で測定した。相対密度は、99.8%であった。
得られた焼結体から直径3mm×長さ10mmの円柱を切り出し、対向する2面を鏡面研磨した試料を作製し、波長1μmでの無反射コート膜を施した。
試料を0.5Tの磁場中におき、グラントムソンプリズムで挟んで1.06μmにおけるヴェルデ係数を測定したところ、0.21min./(エルステッド・cm)であった。その後、挿入損失と消光比を測定した結果、挿入損失は0.15dBであり、消光比は35dBを示し、光アイソレータ用磁気光学素子として使えることが確認できた。
(実施例2〜9、比較例1〜4)
表1に示す割合で酸化物原料を秤量し、実施例1と同じ手順で焼結体を作製した。この焼結体の両端を鏡面化し、ヴェルデ定数、挿入損失、消光比を測定した。なお、焼結助剤の量は(TbM)の総重量に対する重量パーセントである。
測定結果をあわせて表1に示す。
Figure 2013203569
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

Claims (5)

  1. 組成式(Tb1−x(式中、Mはイオン半径が0.85Åから0.91Åの範囲である3価の元素、0.1≦x<0.6)で示される酸化物を主成分として含有する波長1μm用の磁気光学素子用焼結体であって、残余成分として、2価の陽イオンを含む酸化物及び4価の陽イオンを含む酸化物を含有するものであることを特徴とする波長1μm用の磁気光学素子用焼結体。
  2. 前記残余成分のうち、2価の陽イオンを含む酸化物がPbO又はCaO、4価の陽イオンを含む酸化物がZrO又はHfOであることを特徴とする請求項1に記載の波長1μm用の磁気光学素子用焼結体。
  3. 前記組成式における前記Mが、Ho、Tm、Luから選択される1種以上の元素であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の波長1μm用の磁気光学素子用焼結体。
  4. 前記残余成分の量が0.001wt%から1wt%であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の波長1μm用の磁気光学素子用焼結体。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の焼結体を用いた磁気光学素子であって、挿入損失が0.2dB以下であることを特徴とする波長1μmで使われる磁気光学素子。
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