JP2013202123A - 自律神経機能測定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 自律神経機能を評価する指標を、簡便に、かつ少ない負担で測定可能な脈波を用いて算出可能な自律神経機能測定装置を提供する。
【解決手段】 脈波の振幅変動のパワースペクトル密度のうち、予め定められた低周波領域の積分値LFPAと、予め定められた高周波領域の積分値HFPAとを算出する。そして、予め定められた低周波領域の積分値LFPAと、予め定められた高周波領域の積分値HFPAとの比の対数、
μPA=ln(LFPA/HFPA
を、血管系の交感神経機能の指標として求める。
【選択図】 図4

Description

本発明は、自律神経機能を測定する技術に関し、特に、血圧の調整に係る自律神経機能(交感神経機能、圧受容器反射機能)を測定する技術に関する。
人体には、例えば血圧が上昇すると血管を拡張させて血圧を下げるというような、血圧を一定に保とうとする仕組み(自律神経系)が備わっている。しかし、例えば血管を支配する自律神経や血管の機能が低下している場合には、血圧が上昇しても血管の拡張がうまく行なわれずに、高血圧の症状を呈することになる。
高血圧は様々な生活習慣病との関係が深いため、高血圧の原因の一つとして考えられる自律神経機能の低下の有無を把握することは有用である。さらに生活習慣の乱れは自律神経に早期から影響を与えるとの報告もある。このように、自律神経機能の定量的な評価は生活習慣病の予防や早期発見において重要である。
図13は、血圧調整に係る自律神経の働きを模式的に示した図である。
心臓を支配する自律神経は心臓交感神経、心臓副交感神経と呼ばれ、それぞれ心臓の興奮や収縮に対して促進性、抑制性に働く。つまり、心臓交感神経の活動によってノルアドレナリンが神経伝達物質として分泌され、心臓側のアドレナリン作動性受容体に作用して心収縮率を上昇させたり、心筋収縮性や弛緩速度を増加させたりする。一方、心臓副交感神経が活動する場合はアセチルコリンが分泌され、コリン作動性受容体に作用して心収縮率を減少させる。
血管も心臓と同様に自律神経の支配を受けている。血管を構成する平滑筋は血管運動神経支配や液性調整を受け、ある程度の緊張状態(基礎緊張:basal tone)を保っている。血管運動神経には交感神経性血管収縮繊維、交感神経性血管拡張繊維、副交感神経性血管拡張繊維がある。交感神経性血管収縮繊維は最も広範囲に分布しており、常に調節活動を行っている。
圧受容器反射は受容器(動脈圧受容器)により血圧を常にモニターして中枢神経系に伝え、血圧の変動を秒や分のオーダーで修正する循環反射である。動脈圧受容器は頸動脈と大動脈弓にあり、それぞれ頸動脈洞圧受容体と大動脈圧受容体と呼ばれる。動脈圧受容体は伸展受容器であり、動脈壁の中膜に近い外膜に分布する受容器が動脈圧により伸展されてインパルスを発生する。血圧が上昇したために動脈圧受容器が刺激されると、心臓および血管を支配する交感神経の活動が抑制され、相反的に心臓副交感神経の活動が促進される。同時に副腎髄質からのカテコールアミン分泌が減少して、交感神経の抑制と同じ効果をもたらす。このため、心臓では心拍数が減少し、心収縮性が低下するために心拍出量が減少する。血管では交感神経血管収縮繊維の活動が抑制されるので、血管が拡張して総末梢血管抵抗が低下する。血圧は総末梢血管抵抗と心拍出量の積であるから、血圧は低下し、元の値に戻ることになる。
また、交感神経血管収縮繊維は静脈系も支配し、血圧が上昇すると血管コンプライアンスは増加し平均体循環圧は減少する。すると心拍出量が減少し、血圧が低下する。さらに、圧受容器反射はバゾプレッシン分泌を減少させ、血管収縮を和らげることで血液量を減少させる。
以上のような中枢性調整機構によって血圧を安定化させているが、血圧変動が反射系だけでは是正しきれないような場合には、さらに高位の制御系が参加して、反射機能は修正される。
血圧調整に関連する自律神経機能(血圧反射機能)を測定する方法としては、以下の3つに大別される。
(1)心拍数変動を用いた自律神経機能測定
(2)脈波を用いた自律神経機能測定
(3)心拍数および血圧変動を用いた自律神経機能測定
そして、(1)では心臓の交感神経・副交感神経の機能(図13:中枢から心臓に至る101→102および103→104の経路の機能)、(2)では血管系の交感神経の機能(図13:中枢から血管に至る101→105の経路の機能)が、(3)では圧受容器の反射機能(図13:(1)の経路に加え、106→107→中枢に至る経路の機能)、それぞれ測定されるものと考えられる。
以下、(1)-(3)の代表的な測定値について説明する。
(1)心拍数変動を用いた自律神経機能測定
心拍数変動に着目した自律神経機能の測定には、例えばCVRR(coefficient of variation of R-R intervals)のような、時間領域での心拍数変動に基づくものと、例えばLF/HFのような心拍数変動の周波数解析に基づくものが知られている。
心拍数(HR:Heart Rate)[bpm]は例えば、60/心拍間隔(秒)により求めることができる。実際には、心電図(ECG:electrocardiogram)におけるR波の間隔(R−R間隔、RRI(R-R Interval)とも呼ばれる)[sec]を心拍間隔として、HR=60/RRIとして求めることができる。心拍数(またはRRI)の時間的な変動は自律神経、特に副交感神経の機能に依存するものと考えられるため、心拍数変動の大きさによって定義される自律神経機能の測定値が多く、CVRRもその1つである。
CVRRはおよそ100拍程度のRRIから計算され、RRIの標準偏差から平均値を除することで得られる副交感神経機能の指標であり、以下の式で表される。
CVRR=(RRI標準偏差/RRI平均値)×100
また、自律神経系によって制御されている心拍数変動には、ゆらぎの成分が存在することが知られている。このゆらぎ成分は、一般的に心拍数変動のスペクトル解析によって定義される。心拍数変動は、本来、等間隔のデータではなく、スペクトル解析に適さないため、スプライン補間などを用いて等間隔データに補間されることが多い。その際、心拍数変動に含まれる最大の周波数成分が0.5Hz程度であるので、再サンプリングの時間間隔は大体1s以下、例えば0.5s程度(2Hz)に設定すればよい。
このようにして、再サンプリングをし、スペクトル解析によって周波数成分を計算すると、一定の周波数体にピークがみられる。心拍数を調節しているのは自律神経活動であるが、自律神経活動のゆらぎに一定の周期性があり、その周期のところにピークが現れているのである。
呼吸周波数と同じ周波数である、0.15-0.45Hzの成分(高周波(HF: high-frequency)成分と呼ぶ)は、血圧では第2級変動、心拍数では呼吸性洞性不整脈(RSA:respiratory sinus arrhythmia)と呼ばれ、立位時低下することが知られている。
また、約10秒の周期をもつ0.04-0.15Hzの成分(低周波(LF:low-frequency)成分と呼ぶ)は、血圧の第3級変動、あるいはMayer波と呼ばれ、HF成分とは反対に、立位時に増加する傾向があることが知られている。
そして、HF成分はほぼ副交感神経系の活動性のみを反映し、LF成分は交感神経系と副交感神経系の両方の活動性を反映しているものと考えられている。
なお、Mayer波は、さらに0.05Hz付近と0.10Hz付近の周波数成分に分けられ、前者は末梢血管抵抗の変動に起因する体温調節リズムと言われているのに対し、後者は圧反射系の応答に関連があると言われ、LF成分のうち、0.08-0.15Hzの成分を中間周波数(MF:mid-frequency)成分として取り扱うこともある。
心拍数変動の周波数成分のHF成分は副交感神経系の活動性のみを反映し、LF成分は交感神経系と副交感神経系の両方の活動性を反映している。よって、これらの成分の変動の大きさであるパワー(パワースペクトルから得られる各周波数帯の積分値)は、両神経活動の指標として用いられ、特に、LF/HF=LFpower/HFpowerは、交感神経活動の指標として広く用いられている。
しかしながら、近年では、LF/HFは交感神経活動と副交感神経活動のバランスを示唆する指標であって、交感神経の機能そのものを表す指標ではないという見方が強くなっている。
(2)脈波を用いた自律神経機能測定
心電図や血圧を計測せずに自律神経機能を測定する方法として、脈波、特に光電容積脈波(PPG:photoplethysmography)から自律神経機能を評価する方法が提案されている(非特許文献1)。この方法は、CVRRにおけるRRIの代わりにPPG波形の振幅値(wh:wave height)の変動の大きさを自律神経機能の評価値として算出するものである。
具体的には、以下の式で算出される変動係数CVwh(coefficient of variation of wave height)を、自律神経機能の評価値として算出する。
CVwh=(wh標準偏差/wh平均値)×100
CVwhは主として受容体を介した交感神経機能の指標であると考えられているが、PPG波形の振幅は血流量以外の影響、例えば皮膚の厚みの差による影響を受ける。wh平均値は、変動の大きさに依存するwh標準偏差を変動の大きさに依存しないwh平均値で規格化するものであり、血流量以外の影響を排除できているかどうかについては疑問が残る。
(3)心拍数および血圧変動を用いた自律神経機能測定
上述の通り、自律神経は、血圧が変化した際に交感神経と副交感神経を介して心拍出量と末梢血管抵抗を調節し、血圧を一定に保とうとする。そのため、血圧の変化に対するRRI(またはHR)の変化のしやすさは、自律神経機能のうち、圧受容器反射感受性(BRS:baroreflex sensitivity)を表すものと考えられる。
厳密には、血圧を人工的に大きく変化させる必要があり、心臓血管作動性の昇圧剤や降圧剤等の薬剤を静脈注射するなど、侵襲性を要すものが多く、被験者には大きな負荷となる。従って、安静状態において非侵襲的にBRSを推定する方法が提案されている。
心拍数および血圧変動を用いたBRSの測定(推定)には、例えばBRSseqのような、時間領域での解析に基づくものと、例えばα-index(αLF,αHF)のような周波数領域での解析に基づくものが知られている。
BRSseqは、連続して3拍以上にわたり収縮期血圧とRRIが同期して上昇または下降する各sequenceについて、収縮期血圧とRRIを2次元直交座標系にプロットし、プロットした点を結ぶ直線の傾きを最小二乗法を用いて計算し、全sequenceについての傾きの平均値として算出される(非特許文献2)。
α-indexは、圧受容器反射システムを開ループシステムと見た際の血圧から心拍数への伝達関数のゲインを評価する指標であり、RRIと収縮期血圧の変動とのコヒーレンスが高い周波数領域、一般にはLF成分およびHF成分において計算される(非特許文献3)。ただし、HF成分には呼吸の影響が含まれるため、LF成分について計算されたαLFだけを用いる場合が多い。
αLFは、RRIと収縮期血圧(SBP:Systolic Blood Pressure)変動をスペクトル解析し、以下の式によって算出する。
αLF=√(SRRI/SSBP
ここで、SRRI、SSBPはそれぞれ、パワースペクトル密度(PSD:Power Spectral Density)から得られるRRIおよび収縮期血圧のLF成分のパワーを表す。
また、特許文献1には、血圧の時系列データと、脈波伝播時間の時系列データとを用い、血圧と、対応する脈波伝播時間との複数組から得られる回帰直線の傾きρmaxをBRSを表す指標として求めることが提案されている。
特許第4789203号公報
近藤育代「自律訓練法標準練習と空間感覚練習の生理的効果の比較−受動的注意集中の観点から−」早稲田大学教育学部 学術研究(教育心理学編),第56号,25-34ページ,2008年2月 Parlow J, Viale JP, Annat G, Hughson R, Quintin L,「Spontaneous Cardiac Baroreflex in Humans. Comparison With Drug-Induced Responses.」,Hypertension,25(5),pp.1058-1068, 1995 Pagani M, Somers V, Furlan R, Dell'Orto S, Conway J, Baselli G, Cerutti S, SleightP, Malliani A,「Changes in autonomic regulation induced by physical training in mild hypertension.」 Hypertension. 12: 600-610, 1988
以上の通り、従来、血圧調整に関する自律神経機能について、さまざまな指標が提案されているが、その大半は心拍数変動に基づく、心臓の交感神経・副交感神経の機能の指標であり、血管系の交感神経機能の指標についての提案は非常に少ない。しかも、血管系の交感神経機能の指標として提案されているCVwhは、血流量以外の影響を十分に排除できていない可能性がある。
また、心拍数および血圧変動を用いた自律神経機能測定では、連続的な(時系列的な)血圧測定が必要であり、依然として測定の容易化において課題があった。
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、自律神経機能を評価する指標を、簡便に、かつ少ない負担で測定可能な脈波を用いて算出可能な自律神経機能測定装置を提供することを目的とする。
上述の目的は、脈波を取得する取得手段と、脈波の振幅変動のパワースペクトル密度を算出するパワー算出手段と、パワースペクトル密度のうち、予め定められた低周波領域の積分値LFPAと、予め定められた高周波領域の積分値HFPAとを算出する積分手段と、予め定められた低周波領域の積分値LFPAと、予め定められた高周波領域の積分値HFPAとの比の対数、μPA=ln(LFPA/HFPA)を、血管系の交感神経機能の指標として求める指標算出手段と、を有することを特徴とする自律神経機能測定装置によって達成される。
また、上述の目的は、脈波および心電図を取得する取得手段と、脈波を用いて脈波伝播時間を算出する脈波伝播時間算出手段と、心電図における心拍間隔の変動および、脈波伝播時間の変動について、パワースペクトル密度を算出するパワー算出手段と、心電図における心拍間隔の変動のパワースペクトル密度および、脈波伝播時間の変動のパワースペクトル密度について、予め定められた低周波領域の積分値SRRIおよびSPTTを算出する積分手段と、予め定められた低周波領域の積分値SRRIおよびSPTTとを用いて、
(a,bは予め定めた定数である)
を、圧受容器反射感受性の指標として求める指標算出手段と、を有することを特徴とする自律神経機能測定装置によっても達成される。
また、上述の目的は、脈波および心拍数を取得する取得手段と、脈波を用いて脈波伝播時間を算出する脈波伝播時間算出手段と、心拍数および脈波伝播時間の時系列データをそれぞれ補間して生成した信号をサンプリングし、予め定められた低周波領域成分を抽出する抽出手段と、心拍数について抽出された予め定められた低周波領域成分と、脈波伝播時間について抽出された予め定められた低周波領域成分の瞬時位相の差ψ(t)を算出する瞬時位相差算出手段と、瞬時位相の差ψ(t)を用いて、
(Nはサンプリングされたデータ数である)
を、圧受容器反射感受性の指標として求める指標算出手段と、を有することを特徴とする自律神経機能測定装置によっても達成される。
本発明によれば、自律神経機能を評価する指標を、簡便に、かつ少ない負担で測定可能な脈波を用いて算出することができる。
本発明の一実施形態に係る自律神経機能測定装置の一例としての生体情報測定装置の構成例を示すブロック図である。 光電容積脈波の振幅の変化について説明するための模式図である。 (a)はPPGの振幅変動の例を、(b)は振幅変動のパワースペクトルを、(c)は呼吸波形のパワースペクトルをそれぞれ示す図である。 本発明の第1の実施形態に係る生体情報測定装置において、μPAを求める動作を説明するためのフローチャートである。 図4のS103における低周波成分除去前後の信号波形の例を示す図である。 本発明の第2の実施形態に係る生体情報測定装置が算出するSPTTおよびSSBPの分布の例を示す図である。 本発明の第2の実施形態に係る生体情報測定装置が算出する瞬時位相差ψ(t)の複素数平面上における分布の例と、その時得られる平均ベクトルおよびλLFの値の例を示す図である。 本発明の第2の実施形態に係る生体情報測定装置が、実際に測定したECGとPTTとから、λLFを算出した例を示す図である。 本発明が提案する指標の評価に用いるICCの意味を説明する模式図である。 μPAの、年齢による分布や若年者群と高齢者群の平均値を示す図である。 生体信号平均値(HRAve、MBPAve、PTTAve)および各指標について、横軸にCohen's d、縦軸にeffect size rの値をプロットした図である。 CVRR、αPTTおよびμPAの2指標間における相関を示す図である。 血圧調整に係る自律神経の働きを模式的に示した図である。
以下、添付図面を参照して本発明をその好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
●(第1の実施形態)
(装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る自律神経機能測定装置の一例としての生体情報測定装置の構成例を示すブロック図である。
演算制御部10は、本実施形態の生体情報測定装置全体の動作を制御する。演算制御部10は、例えば図示しないCPU、ROM、RAM(不揮発性RAMを含む)、各種インタフェースを有する汎用コンピュータ装置であり、例えば内蔵もしくは外付けされたハードディスク、光ディスク等の大容量記憶装置やROMに記憶された制御プログラムをCPUが実行することにより、以下に説明する各種動作を実行、制御する。ここでは、全てをソフトウェアにより処理せず、少なくともその一部をハードウェアによって実現しても構わない。
演算制御部10にはまた、各種の操作ガイダンスや計測結果、診断指標を表示可能な表示部70、計測結果、診断指標を記録出力可能な記録部75、計測結果、診断指標を保存する、例えばハードディスクドライブや書き込み可能な光ディスクドライブ、不揮発性半導体メモリ等からなる保存部80、音声でのガイダンス出力や各種報知音が出力可能な音声発生部85、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル等からなり、ユーザによる入力、指示を可能にする入力/指示部90が接続されている。
また、これ以外にも、他の機器と通信を行うための有線及び/又は無線通信インタフェースや、リムーバブルメディアを用いる記憶装置等が設けられても良い。また、表示部70や記録部75は、別途外部に接続可能な構成としても良い。すなわち、機器本体が内蔵する表示部70や記録部75とは別に、より大きな表示領域を有する及び/又は表示色の多い外部表示装置や、より大きな印字領域及び/又は印刷色の多い外部記録装置を接続可能としても良い。これにより、本体の小型化と出力の多様性を同時に実現することができる。この場合、周知のディスプレイインタフェース、プリンタインタフェースを設ければ良い。
光電容積脈波測定部205は、血中ヘモグロビンによる特定波長光の吸収を利用して、発光部25aが発する光を測定部位に照射し、反射光または透過光を受光部25bで受光し、受光強度の変化を、血管の容量変化、すなわち容積脈波として検出する。発光部25aはヘモグロビンの吸収スペクトルに対応した近赤外波長を発光する、発光波長帯域の狭い発光ダイオード(LED)であってよい。また、受光部25bは、例えばフォトダイオードやフォトトランジスタであってよい。なお、反射光を測定する場合は測定部位の制限は少なく、上腕や前額部での測定も可能であるのに対し、透過光を測定する場合は光が体組織を透過する必要があるため、指尖や耳介など、測定部位が制限される。なお、光電式の容積脈波測定装置は小型で、測定が容易である点で好ましく利用可能であるが、本発明が提案する自律神経機能の指標は容積脈波の測定方法や測定部位に制限されない。そのため、光電式以外の方法で容積脈波を測定してもよいが、非医療関係者が家庭で容易に測定可能であることが望ましい。
心電信号検出部204は、胸部や四肢に装着した電極24a,24bから心電信号を検出する。なお、図1においては便宜上2つの電極24a,24bを示しているが、検出する誘導波形に応じて実際の電極の数は変化しうる。また、本実施形態に係る自律神経機能の指標の算出には心電図は不要であるため、電極24a,24bおよび心電信号検出部204のような、心電図の取得、解析に係る構成は本実施形態の生体情報測定装置に必須ではない。
心音検出部203は、心音マイク23を用いて検出された被検者の心音信号を演算制御部10に供給する。心音信号は主に、心臓における脈波の開始時点を決定するために用いられる。本実施形態に係る自律神経機能の指標の算出には心音信号は不要であるため、心音検出部203及び心音マイク23は本実施形態の生体情報測定装置に必須ではない。
(指標μPA
本実施形態では、容積脈波のみから得られる、血管系の交感神経機能の指標μPAを提案する。ここでは、容積脈波として、光電容積脈波(PPG)を用いるものとする。
図2(a)に示すように、光電容積脈波は動脈の拍動による血流量の変化を表すため、心拍数に対応した周期的な波形となる。しかしながら、一般的に縦軸は電気的な信号の大きさをボルト単位で表すことが多く、血流量の絶対的な値に対応付けることはできない。なお、図2(a)においてPAは、振幅(pulsatile amplitude)の定義を示している。
上述したように、光電容積脈波は、透過光または反射光の強度を測定するものであるが、透過光や反射光の強度は、血流量だけでなく光路中の組織にも影響を受ける。例えば、同一発光強度、同一血流量であっても、体表面から血管までに存在する皮膚組織の量や蘇生が異なれば、組織による光の吸収量に差が生じるため、得られる透過光や反射光の強度は同一にはならない。図2(b)に、図2(a)の波形が、皮膚組織の吸収がより大きい場合にどのように変化するかを模式的に示す。このように、光電容積脈波の振幅(PA)は、血流量の変化を定量的に表すものではない。
図3(a)はPPGの振幅変動の例を、図3(b)は振幅変動のパワースペクトルを、図3(c)は呼吸波形のパワースペクトルをそれぞれ示す。図3(b)から、振幅変動の周波数スペクトルには0.04-0.15HzのLF成分と、0.15-0.40HzのHF成分が存在することがわかる。また、図3(c)と図3(b)とから、振幅変動の周波数スペクトルのうち、HF成分は呼吸に同期した成分であることがわかる。
ただし、これらLF,HF成分の発生メカニズムは心拍数変動のLF,HF成分の発生メカニズムとは異なり、LF成分は自律神経活動を介した末梢血管運動による能動的な血流量変化の影響であるのに対し、HF成分は静脈還流に起因する機械的効果であると考えられている(Bernardi L et al.,「Autonomic control of skin microvessels: assessment by power spectrum of photoplethysmographic waves」,Clinical science. 90(5): 345-355, 1996)。
さらに、振幅変動のLF成分については、0.04-0.08Hzと0.08-0.15の2つの周波数成分に分けることができ、後者を圧受容器反射に関連した周波数成分として、0.04-0.08Hzの成分とは分離し、MF成分として取り扱われることも多い。一方、Bernardi L, et al.,「Reduction of 0.1 Hz microcirculatory uctuations as evidence of sym-pathetic dysfunction in insulin-dependent diabetes」,Cardiovascular Research. 34: 185-191, 1997によれば、Laser-Doppler血流計から得られる血流量のスペクトル解析から、糖尿病患者では健常者と比較してHF成分で有意な差が見られないのに対し、LF成分では有意に低下すること、この選択的な低下が末梢交感神経の機能低下に起因するものと報告されている。
前述のように、振幅変動はセンサの装着位置における血管と組織の比率や血管の伸展性の影響を大きく受けるが、それらの影響に周波数依存性はないと考えられる。さらに、血流量の変動におけるHF成分について、糖尿病患者と健常者と優位な差が見られないという上述の報告を考慮すると、HF成分の差異は、センサの装着位置における血管と組織の比率や血管の伸展性の差異など、血流量以外の要因を反映していると考えられる。従って、LF成分(またはMF成分)をHF成分で除することによって、圧受容器反射機能を反映しているLF成分から、血流量以外の要因の影響を除くことができる。なお、血流量変化のLF成分とHF成分の機序は血流量の測定方法に依存するものではないため、この原理は光電容積脈波に限らず、容積脈波、圧脈波を含む脈波全般に適用可能である。
従って、本実施形態で算出する指標は、以下のように定義される。
ここで、LFPAおよびHFPAはそれぞれ振幅変動のパワースペクトルから得られるLF成分(0.04-0.15Hz)およびHF成分(0.15-0.40Hz)のパワー(パワースペクトル密度(PSD:Power Spectral Density)の積分値)を表す。なお、指標の分布を正規分布に近づけるため、パワー比そのものではなく、パワー比の自然対数を指標としている。
なお、LFPAの代わりにMFPAを用いてもよい。この場合μPAは、
となる。この場合、MFPAは、MF成分(0.08-0.15Hz)のパワーである。MF成分を用いることで、0.04-0.08Hzというより低い周波数成分を測定する必要のあるLF成分を用いる場合よりも、測定時間を短縮することができる。また、発明者の測定においては、測定再現性において、MF成分を用いた方がLF成分を用いた場合よりも良好な結果が得られた。
図1に示した生体情報測定装置においてμPAを求める動作について、図4のフローチャートを用いて説明する。
まず、測定データを記録するために、年齢、性別、身長、体重等、患者の個人情報を入力/指示部90を用いて入力したり、保存部80から読み出すなどして設定する。
そして、発光部25aおよび受光部25bを有する光電容積脈波センサを被検者の測定部位(例えば指尖)に装着する。
測定の準備が完了し、例えば入力/指示部90から測定開始指示が与えられると、演算制御部10はまず、光電容積脈波測定部205に対し、測定処理の開始を指示する。光電容積脈波測定部205は、演算制御部10からの測定開始指示に応答して、発光部25aの発光動作を制御するとともに、受光部25bから入力される受光強度に応じた電圧を有する電気信号(光電容積脈波(PPG)信号)の受信動作を行う(S101)。
光電容積脈波測定部205は、例えばPPG信号を所定のサンプリング周波数(例えば100Hz)でA/D変換する。A/D変換されたPPG信号は、演算制御部10を通じて保存部80に記憶される。なお、測定済みのPPG信号を用いる場合、S101で測定の代わりに、保存されたPPG信号を保存場所から取得する。
S103で演算制御部10は、PPG信号に例えばハイパスフィルタを適用し、低周波成分を除去する。ハイパスフィルタの種類に特に制限は無いが、例えば4次のバタワース型ハイパスフィルタを用いることができる。本実施形態では遮断周波数をf=(2π×0.1)-1≒1.59Hzとした。
図5(a)のPPG信号から低周波成分を除去した後の信号波形を図5(b)に示す。次に、S105で演算制御部10は、低周波除去後のPPG信号の極小値、極大値を検出し、極小値と、その直後の極大値との差を振幅(PA)として抽出する。図5(b)に、検出される極小値(□)、極大値(○)、およびPAの例を示した。
S107で演算制御部10は、抽出したPAを3次のスプライン補間によって再サンプリングする。図3に示したように、PA変動の最大周波数成分は0.25-0.35Hz程度であるため、サンプリング周波数は0.5-0.7Hz以上とする。
S109で演算制御部10は、PAのパワースペクトル密度(PSD)を算出する。PSDの算出方法に制限は無いが、例えばWelch法を用いることができる。
S111で演算制御部10は、PSDの各周波数帯(LF成分:0.04-0.15HzまたはMF成分:0.08-0.15Hz、およびHF成分:0.15-0.40Hz)について、積分値LFPA(またはMFPA)およびHFPAを求める。
S113で演算制御部10は、上述の式(1-1)または(1-2)によってμPAを算出する。
詳細は後述するが、μPAの正確性および再現性は、現在提案されている他の指標と同等もしくはそれ以上であり、非常に有用であることが確認された。
このように、本実施形態によれば、簡便に、かつ少ない負担で測定可能な容積脈波を用いて、自律神経機能(血管系の交感神経の機能)を測定することが可能となる。そのため、家庭用の血圧測定器などに容易に適用することが可能であり、血圧測定と同時に自律神経機能の機能を測定することができる。また、医療機関においても、自律神経機能の低下が影響すると思われる疾患、例えば高血圧症のような生活習慣病の予防や診断に有用であると考えられる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、容積脈波と脈波伝播時間(PTT:pulse transmission time)とを用いて、従来のαLFと同様の指標を算出することを特徴とする。
PTTを測定する場合、発光部25aおよび受光部25bを有する光電容積脈波センサに加え、心電信号を測定するための電極24a,24bを、例えば患者の胸部に装着する。
測定の準備が完了し、例えば入力/指示部90から測定開始指示が与えられると、演算制御部10は、光電容積脈波測定部205と心電信号検出部204(あるいは心音検出部203)に対し、測定処理の開始を指示する。
これに応答して、光電容積脈波測定部205は、上述したように容積脈波信号を演算制御部10へ出力する。また、心電信号検出部204は、得られた心電信号を演算制御部10へ出力する。
演算制御部10は、容積脈波信号と心電信号とを用い、一拍毎の脈波伝播時間(PTT)を求める。具体的には、例えば、心電図波形におけるR波の発生時刻(ピーク時刻)と、対応する容積脈波信号の立ち上がり点の時刻との差を、脈波伝播時間として算出する。
容積脈波信号の立ち上がり点の時刻を求める方法に制限はなく、任意の方法を用いて行なうことができる。例えば、一拍分に対応する容積脈波信号における最小値が得られる時刻、あるいは、容積脈波信号の微分波形の立ち上がり点の時刻、あるいは、容積脈波信号における高周波成分の発生時刻として求めることができる。
脈波伝播時間は、演算制御部10が、光電容積脈波測定部205が測定する光電容積脈波と心電信号検出部204が検出する心電信号とから求める。そして、演算制御部10は、算出したPPTを、光電容積脈波の心拍と関連付けて保存部80に保存する。
なお、脈波伝播時間(PTT)を求める際に、心電図のR波発生時刻を用いたが、他の情報を用いることも可能である。例えば、心II音の発生時刻を用いることができる。この場合、電極24a,24bの代わりに心音マイク23を患者の胸部所定位置(第II肋間胸骨縁部)に装着する。そして、測定時には、心音検出部203が心音マイク23で得られた心音信号を演算制御部10へ出力し、心音波形から演算制御部10が心II音の発生時刻を求める。この発生時刻と、容積脈波信号の立ち上がり時刻との差を求めることで、一拍毎のPTTが求まる。また、心II音と、頸動脈や上腕で測定した脈波のノッチより、心I音の発生時刻を求め、この発生時刻と容積脈波信号の立ち上がり時刻との差を求めることでも、一拍毎のPTTが求まる。
圧受容器反射機能の指標の中でも、αLFは安静状態下において呼吸の影響を受けずに評価が可能であることから、広く用いられている。しかしながら、αLFの算出には収縮期血圧のLF成分のパワーが必要なことから、連続的(または短時間間隔の間欠的)な血圧計測が必要である。PTTの変動は血圧変動を反映していると考えられるため、PTTを用いて収縮期血圧のLF成分のパワーを推定できる可能性があるが、両者は単位が異なる物理量であることもあり、PTTを用いて収縮期血圧のLF成分のパワーを推定できるかどうかの考察はほとんどなされていなかった。
若年者(25.7±6.3歳)59人および高齢者(70.1±4.1歳)96人の、計155人に対し、RRI、PTTおよび収縮期血圧(SBP)変動のLF成分のパワーSRRI、SPTT、SSBPを以下のように求めた。
被験者は椅子に座った状態で十分な安静をとった後、安静座位の状態にて3分間、呼吸統制無し(自由呼吸下)で、生体信号を連続的に測定した。生体信号は心電図(ECG)、連続血圧および光電容積脈波(PPG)の3種類である。
心電図、連続血圧、光電容積脈波の測定には以下の装置を用いた。
心電図:BIOPAC System社製のECG100C(アンプ)+フクダ電子(株)製のエーカークリップ
連続血圧:TNO-TPD Biomedical Instrumentation社製のPORTAPRES
光電容積脈波:BIOPAC System社製のPPG100C(アンプ)+COVIDIEN社製のNellcor DS-100A
測定した生体信号はBIOPAC System社製16-bit A/D コンバーターMP100によってサンプリング周波数は1000Hzでサンプリングした。
上述の通り、RRI、PTT、SPTT、およびSSBPの測定は、自由呼吸下の3分間に測定されたデータを用いて行った。また、SRRI、SPTTおよびSSBPの算出は、第1の実施形態におけるPAの代わりにRRI、PTT、SBPをそれぞれ適用することで、上述のLFPAと同様に行うことができる。ただし、LF成分(0.04-0.15Hz)のパワーを算出する際の再サンプリングは3次スプライン補間(サンプリング間隔60/128秒)、低域周波数除去用のハイパスフィルタには5次のバタワース型フィルタを用いた。また、パワースペクトル密度は、FFTの長さ128点、窓関数にオーバラップ50%のハミング窓を用いたWelch法で算出した。
PTTおよびSSBPの分布を図6(a)に示す。1人の被験者について複数回の計測を行ったため、全データ数は346例である。SPTTとSSBPの間の相関係数はr=0.711(p<0.001)と高いが、両者の分布は正規分布ではないため、相関係数を用いて相関関係を見極めること自体正しくない。そこで、分布を正規分布に近づけるため、両者の自然対数ln(SPTT)およびln(SSBP)の分布を求めた。これは、両パワーを両対数グラフにプロットするのと同義である。ln(SPTT)およびln(SSBP)の分布を図6(b)に示す。SPTT、SSBPの両対数軸上における相関係数はr=0.630(p<0.001)となり、高い相関関係を有していることがわかる。
このように、PTTのLF成分のパワースペクトル密度SPTTと、SSBPのLF成分のパワースペクトル密度SSBPとは、両対数軸上で有意な相関を有するため、両者には以下の関係が成り立つ。
ln(SSBP)=a×ln(SPTT)+b
∴ SSBP=exp(b)×(SPTTa
αLF=√(SRRI/SSBP)であるから、αLFは以下のように表すことができる。
なお、式(2)および以下の説明においては、SBPの代わりにPTTを用いる本実施形態の指標と、従前のαLFとの差異を明確にするため、本実施形態の指標をαPPTと表記する。また、RRIは瞬時心拍数の逆数であるため、RRIの変動は心拍間隔の変動であると同時に、瞬時心拍数の逆数の変動でもある。なお、心拍間隔は心電図から求めなくてもよい。
なお、式(2)における定数a,bは図6(b)における回帰直線から得られる(a=0.4281,b=4.1935)。この定数は、都度決定する必要はなく、あらかじめ設定しておくことができる。
詳細は後述するが、αPTTの正確性および再現性は、αLFと同等もしくはそれ以上であり、非常に有用であることが確認された。
このように、本実施形態によれば、従前は連続的な血圧測定が必須であったαLFと同等の指標を、容積脈波の測定と心電図の測定から求めることができる。そのため、家庭用の血圧測定器などに適用することが容易であり、自律神経機能(圧受容器反射感受性)の測定を家庭などで行うことが容易となる。また、医療機関においても、自律神経機能の低下が影響すると思われる疾患、例えば高血圧症のような生活習慣病の予防や診断に有用であると考えられる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
上述したρmaxは、血圧と心拍数変動のMayer波帯域における最大相互相関係数で表され、圧受容器反射機能(血管血圧反射機能)の感受性の度合を表す指標として提案された。
ρmaxは時間分解能を高めた指標であり、従来、経時変化を見ることで映像刺激などの外部因子が自律神経活動に与える影響を評価するために多く用いられてきた。しかしながら、安静状態下における自律神経機能そのものに着目する場合、経時変化はむしろ排除されるべき要因であり、必ずしも時間分解能が高い指標である必要はない。そこで本実施形態では、ρmaxの考え方を踏襲しつつ、安静状態下における自律神経機能の評価指標を提案する。
ρmaxは相互相関係数を用いた指標であり、Mayer波帯域における血圧と心拍数変動の線形性を定量化した指標である。線形性は、位相特性の線形性と振幅特性の線形性の2つに分離して考えることができるが、相互相関係数はこの両者を同時に評価する統計量である。圧受容器反射に関わる自律神経を介する入出力の関係は、シグモイド関数で近似できるという報告があり、振幅特性は本来線形ではない。そこで、本実施形態では、位相特性の線形性を評価する指標を、自律神経機能を評価する指標として提案する。
2つの信号間における位相の線形性を評価する方法として、位相コヒーレンスが提案されており、生体信号に適用する研究も存在する(Lackner HK, Papousek I, Batzel JJ, Roessler A, Scharfetter H, Hinghofer-Szalkay H,「Phase synchronization of hemodynamic variables and respiration during mental challenge」,International journal of psychophysiology. 79(3): 401-409, 2011)。位相コヒーレンスとは、2つの信号間の位相差のばらつきの程度を表す。
本実施形態は、Mayer波帯域(LF成分もしくはMF成分)におけるPTTと心拍数変動の位相コヒーレンス(λLF)を、PTTと心拍数変動の位相線形性の評価指標として提案する。
位相コヒーレンスλLFの算出には、PPTと心拍数を測定すれば良いため、第2の実施形態と同様に、心電図(ECG)と容積脈波(本実施形態ではPPG)を測定すれば良い。ただし、心拍数は必ずしも心電図から求めなくてもよい。
測定したECGとPPGとから、演算制御部10は、以下のようにして位相コヒーレンスλLFを算出することができる。
ECGのRRIから心拍数を求め、一拍毎の心拍数(HRV)を求める。
ECGとPPGからPTTを一拍毎に計算する。
HRV、PTTそれぞれを3次のスプライン補間によって再サンプリングする。この際、サンプリング周波数は0.5Hz以上とする。
ディジタルフィルタを適用し、HRV、PTTそれぞれのMayer帯域(LFまたはMF)成分を抽出する。
HRVとPTTのMayer帯域成分をそれぞれHR(t),PTT(t)としたとき、ヒルベルト変換を用いて瞬時位相φHR(t),φPTT(t)を以下の式(3)に従って算出する。
ここで、H[・]はヒルベルト変換を表す。
瞬時位相φHR(t)とφPTT(t)の差ψ(t)を、以下の式(4)に従って算出する。
ψ(t)=φHR(t)-φPTT(t)+2nπ (-π≦ψ≦π) (4)
ここで、nは-π≦ψ≦πとなるような適当な整数とする。
最後に、位相コヒーレンスλLFを以下の式(5)に従って算出する。
Nは再サンプリングされたデータ点数を表し、iは虚数単位である。
式(5)は、2つの信号の瞬時位相差を複素数平面上のベクトルとして考えた際の、全時間にわたる平均ベクトルの長さの2乗値を算出する式である。図7に、瞬時位相差ψ(t)の複素数平面上における分布の例と、その時得られる平均ベクトルおよびλLFの値を示す。λLFは0から1の間の値をとり、瞬時位相差のばらつきが小さいほど値は大きくなり、瞬時位相差が全時間にわたって同じ場合に最大値の1となる。
また、実際に測定したECGとPTTとから、λLFを算出した例を図8に示す。図8(a)は、HRV、PTTそれぞれのMayer帯域(LFまたはMF)成分を示す。また、図8(b)は瞬時位相φHR(t),φPTT(t)を、図8(c)は瞬時位相φHR(t)とφPTT(t)の差ψ(t)をそれぞれ示す。図8(d)は、瞬時位相差ψ(t)の複素数平面上における分布と、その時得られる平均ベクトルおよびλLFの値(0.75)を示す。
このように、本実施形態によれば、従前は連続的な血圧値が必須であったρmaxと同様の指標を、容積脈波の測定と心電図の測定から求めることができる。そのため、家庭用の血圧測定器などに適用することが容易であり、自律神経機能(圧受容器反射感受性)の測定を家庭などで行うことが容易となる。また、医療機関においても、自律神経機能の低下が影響すると思われる疾患、例えば高血圧症のような生活習慣病の予防や診断に有用であると考えられる。
(各指標の評価)
最後に、上述の第1-第3の実施形態で提案した指標μPA、αPTT、およびλLFの評価方法とその結果について説明する。
自律神経機能は真値を測定することが困難なため、指標の有効性の定量化は容易でないが、その値が真値に近い値であることを示す尺度を示す正確性と、複数回の測定で得られた値での互いのばらつきの小ささを表す尺度である再現性(または信頼性)の2つの観点から、従来の指標と性能を比較することを試みた。
最も単純な正確性と再現性の定量化の方法としては、正確性を真値との差の大きさ、再現性を複数回の計測値の標準偏差として算出する方法である。しかしながら、自律神経機能はその真値を得ることが困難であるため、真値との差の大きさが算出できない。さらに、指標によって値の大きさや単位が異なることから、例えば標準偏差を指標間で比較することは意味をなさない。
このような背景から、従来、自律神経機能の指標の正確性は、自律神経機能の異なる被験者群間に対して求められた指標の有意差に基づいて評価されることが多い。実際に自律神経機能が異なるであろう被験者群間で有意差が認められる指標は、自律神経機能を正確に反映しているだろうという解釈である。しかしながら有意差の有無の判定(有意差検定)はサンプル数に大きく依存し、サンプル数が大きいほど有意差があると判定されやすい。また、有意差検定では、被験者群間に統計的な差が存在するか否かは示せるが、その差の実質的な大きさを比較することはできないという問題も存在する。
そこで、発明者は、サンプル数に依存しない実質的な差の大きさを評価する統計量として効果量(水本篤, 竹内理,「研究論文における効果量の報告のために―基礎的概念と注意点―」,英語教育研究. 31: 57-66, 2008)を用い、各指標の有効性について、自律神経機能の異なる被験者群間における有意差と効果量を求めることで評価した。効果量は測定値の大きさや測定単位に依存しない値として算出されるため、異なる指標間での比較が可能である。
一方、再現性についても、やはり値の大きさや単位に依らず相対的な再現性が評価可能な級内相関係数(ICC:intraclass correlation coefficient)を用いて評価した(Bartko JJ,「The intraclass correlation coefficient as a measure of reliability」,Psychological Reports. 19(1): 3-11, 1966)。
まず、効果量について説明する。
効果量の指標は使用する検定法によって異なり、データの特性に合わせた最適な効果量の指標を用いることが必要となる。自律神経機能の異なる2群間の比較を行うため、スチューデントのt検定を用いることが考えられるが、スチューデントのt検定はパラメトリックな手法であり、また、提案する指標全てが正規分布に従った分布を示すかどうかは不明である。そこで、スチューデントのt検定と同時にノンパラメトリックな手法であるマン・ホイットニーのU検定についての効果量も算出した。
従って、以下では、スチューデントのt検定における効果量の指標であるCohen's dおよび、マン・ホイットニーのU検定における効果量の指標であるeffect size rについて述べる。
・Cohen's d
Cohen's dは、スチューデントのt 検定における効果量の指標であり、2群間の平均値の差が標準偏差の何倍であるかを示す指標であり、正の値で与えられる。以下の式(6)によって表される。
ここで、(バー)x1、(バー)x2は各群の平均値、sは標準偏差を表す。標準偏差s2群間のデータ数が異なる場合、以下の式(7)によって計算される。
ここでn1、n2は各群のデータ数、s1、s2は各群の標準偏差をそれぞれ表す。
・effect size r
effect size rはマン・ホイットニーのU検定における効果量の指標であり、以下の式(8)によって計算される。
r=Z/(√N) (8)
ここでZはマン・ホイットニーのU検定における検定統計量をZに変換したもの、Nはサンプル数を表す。Cohen's dと同様、effect size rについても正の値で与えられる。
Cohen's dおよびeffect size rいずれも、値が大きいほど指標としての判別力が大きいことを意味する。共に無次元化された値であるため、単位の異なる指標間での比較が可能である。
再現性は複数回の測定値のばらつきの度合いを表す。上述のように、再現性の評価は、平均値の大きさや算出指標の単位に依存せず、さらに被験者の効果を考慮できる級内相関係数(ICC)に基づいて行う。これにより、被験者によって値が変化するような指標に対し、同一被験者で複数回計測した際の再現性を求めることができる。さらに、被験者の効果のみならず、検者の効果や両者の交互作用も考慮することが可能であり、実験結果から要求される再現性を達成するための最適な測定回数を見積もることもできる。
以下、ICCの算出方法について説明する。
ICCは大きく分けて3つのCaseに分類することができる(今井樹,潮見泰藏,「理学療法研究における”評価の信頼性”の検査法」,理学療法科学 19(3): 261-265, 2004)。ここでは、検者の効果は考慮しないため、被験者の効果のみを考慮するCase 1(ICC(1,1))についてのみ述べる。従って、以下、ICCと表記する場合はICC(1,1)の意味で用いる。n人の被験者に対して、k回測定を繰り返し行った場合を考える。このとき、被験者の効果のみを考慮した単一の測定値に対する信頼性ICC(1,1)は以下の式(9)で与えられる。
ICC(1,1)=(BMS-WMS)/(BMS+(k-1)WMS) (9)
ここで、BMS、WMSはそれぞれ一元配置分散分析から得られる群間分散、群内分散を表す。式(9)は、測定値の全分散に対する真値の分散の割合を計算する式であり、図9に示すような意味を持つ。すなわち、全被験者の測定値の分散と各被験者における測定値の分散の比であり、ICCは0から1の範囲の値で表され、値が大きいほど再現性が高いことを意味する。
効果量、ICCは被験者の選び方の影響を大きく受ける。つまり、比較する2群間の性質の違いが大きいほど効果量は大きくなり、被験者間の性質の違いが大きいほどICCは大きくなりやすい。つまり、異なる被検者群に対して算出された指標についての効果量やICCの値を単純に比較することはできない。このため、同一被験者群に対して算出された指標について効果量およびICCを算出することで、指標間での効果量およびICCの値の比較が可能になるようにした。
第2の実施形態で説明したように、若年者(25.7±6.3歳)59人および高齢者(70.1±4.1歳)96人の2群について、第1-第3の実施形態で提案した指標μPA、αPTT、およびλLFを算出した。また、従来の指標の代表例として、CVRR,LF/HF,ρmax,αLF,CVwhについても算出した。
ただし、ICCについては、測定回数kを統一するため、心電図、連続血圧、および光電容積脈波を4回測定した被験者(若年者36人、高齢者12人)のデータのみを用いて算出した。4回の測定の時間帯は全ての被験者で統一し、1日目の午前および午後にそれぞれ1回ずつ、1日目から約1週間後の日の午前および午後にそれぞれ1回ずつの計4回とした。
以下、算出した指標と算出時のパラメータ等について簡単に説明する。
(A)CVRR
RRIの変動係数であるCVRRは、
CVRR=(RRI標準偏差/RRI平均値)×100
を用いて算出する。単位は%である。
(B)LF/HF
LF=HFは、心拍数のパワースペクトルを求めて算出する。周波数は、LF成分が0.04-0.15Hz、HF成分が0.15-0.40Hzとした。
(C)ρmax
心拍数と血圧変動の最大相互相関係数によって表されるρmaxは、経時的に求められる指標である。ここでは、血圧の時系列値を求める代わりにPTTを用いた方法で算出する。また、単一のデータとするために以下の処理を行った。
まず従来と同じように、ある時刻t[s]に対し、その前後60秒分、合計120秒間のデータに対し、ρmaxを算出する。その後、時刻を1秒ずつずらしながら3分間のデータにわたって経時的なρmaxを算出する。最後に、この経時的な値を時間平均することにより単一のρmaxを得る。なお、Mayer波帯域は0.04-0.15Hzとした。
(D)BRSseq
BRSseqはRRIと収縮期血圧の変動から、対応するsequence を抽出して算出する。単位はms/mmHgである。ここでは、RRIと収縮期血圧の相関係数が0.8以上となるsequenceのみを対象とし、sequenceの最小数の制限は設けない方法を用いた。対応するsequence が存在しなかったデータに関しては値を算出しなかった。
(E)αLF
αLFはRRIと収縮期血圧のパワースペクトルを求めた後、
αLF=√(SRRI/SSBP
を用いて算出する。単位はms/mmHgであり、LF成分は0.04-0.15Hzとした。なお、コヒーレンス関数の閾値は設定しない。
(F)CVwh
PPG波形の振幅値whの変動係数であるCVwhは、
CVwh=(wh標準偏差/wh平均値)×100
を用いて算出する。whは、PAと同じものとした。
(G)μPA
第1の実施形態で説明したように算出した。なお、Mayer波帯域は0.08-0.15Hz(MF成分)とした。
(H)αPTT
第2の実施形態で説明したように算出した。定数a、bは図6(b)の回帰直線から求めた値(a=0.428,b=4.19)を用いた。
(I)λLF
第3の実施形態で説明したように算出した。なお、Mayer波帯域は0.04-0.15Hzとした。
またこれらの指標とは別に、3つの生体信号HR、MBP、PTTそれぞれについて、測定中の平均値を算出した。結果表示には、それぞれの値をHRAve、MBPAve、PTTAveと表記する。各値は自由呼吸下の3分間の時間平均値であり、単位はそれぞれbpm、mmHg、msである。
図10に、μPAの、年齢による分布や若年者群と高齢者群の平均値を示す。図10に示すように、μPAは高齢者群において有意な低下が見られることから、自律神経機能を反映した指標であると考えられる。
また、生体信号平均値(HRAve、MBPAve、PTTAve)および各指標について、横軸にCohen's d、縦軸にeffect size rの値をプロットしたものを図11(a)に示す。Cohen's dおよびeffect size rは上述の通り、それぞれパラメトリックとノンパラメトリックな手法によって得られる効果量であるが、図11(a)に示すように両者は有意に相関(r=0.932)している。このように、今回算出した各指標に対し、効果量Cohen's dおよびeffect size rはほぼ同じ情報を表していると考えられるため、被験者群間の実質的な差としてCohen's dの値をもって評価した。すなわち、指標の持つ判別力(正確性)をCohen's dの値として、再現性をICCの値としてそれぞれ定量化する。
判別力および再現性の両者の観点から指標を評価するため、生体信号平均値および各指標について、横軸にCohen's d、縦軸にICCの値をプロットしたものを図11(b)に示す。自律神経機能評価のための指標は、判別力と再現性の両者が高いことが求められるので、グラフでは右上に分布するほど優れた指標と考えることができる。
図11(b)において指標別に判別力、再現性を見ていくと、まず、CVRRは判別力、再現性が高く、最も優れた指標であると言える。提案指標であるμPAとαPTTおよび従来指標であるαLFは判別力が高く、再現性も比較的高い。同様に高い判別力を持つ指標として、ρmaxとCVwh、そして提案指標であるλLFが挙げられるが、いずれも再現性は高くない。BRSseqは再現性は比較的高いが、判別力はそれほど高くない。
心拍数変動と血圧変動(ここでは血圧測定値の代わりにPTTを用いた)の線形性についての指標であるρmaxとλLFは、どちらも再現性は高くないが、判別力の点でλLFの方が優れているという結果が得られた。また、圧受容器反射機能の指標では、BRSseqよりもαLFおよびαPTTの方が判別力、再現性が高い指標である。
また、PPGの振幅変動を用いて末梢の交感神経機能を評価するCVwhとμPAの比較では、再現性の観点からμPAの方が優れていると考えられる。
自律神経機能の観点から各指標を比較すると、いずれの提案指標においても従来指標より有用性が高いという結果が得られた。
この理由について考察する。上述したPA変動の大きさは本来、血管の伸展性や皮膚組織による光の吸収の影響を大きく受けるが、μPAではPA変動の周波数成分の比を利用していることから、それらの影響が極力排除されたと考えられる。一方でCVwhは、変動の大きさであるPAの標準偏差を変動の大きさではないPAの平均値で規格化しているという点で、血管の伸展性や皮膚組織による光の吸収の影響を完全には排除できていない可能性があり、それが再現性の低下につながったものと考えられる。
しかしながら、μPAでの再現性が、CVRRをはじめとする心拍変動を用いた指標の再現性に劣る理由の1つとしては、PAのHF成分の大きさが完全に自律神経活動に依存しないとは言えない可能性があるからである。自律神経機能によって血流量のHF成分の有意差が見られないとの報告はあるが、自律神経活動との関係については報告されていない。PAのHF成分は主に静脈還流量に起因する機械的効果であるが、その静脈還流量自体に心拍数のHF成分の大きさ(すなわち副交感神経活動)が関係する可能性がある。交感神経活動と副交感神経活動のバランスを示す指標であるLF/HFの再現性は低いことから、この影響が再現性の高くならない理由の1つとして考えられる。
心拍数とPTT変動の位相コヒーレンスに着目したλLFは、ρmaxよりも再現性が高くなったが、その理由の1つとして考えられるのが振幅特性における線形性の考慮の有無であると考えられる。上述したように、本来、心拍数-血圧間伝達関数における振幅特性は完全な線形ではないので、振幅特性を考慮しない位相コヒーレンスを用いた方が適切であるという可能性が考えられる。さらにρmaxは自律神経活動の経時変化を評価することに特化した指標であり、単一の値として算出することは本来想定されていないため、このような結果につながったことも考えられる。
圧受容器反射機能の指標αLFを、血圧の代わりにPTTを用いて算出したαPTTの推定結果について示す。すなわち、真値となるαLFと推定値であるαPTTの相関係数を算出することで、推定精度を評価した。各被験者の代表値を用いた場合と、同一被験者の複数回の計測を個別のデータとして用いた場合とのαPTTとαLFの相関係数は、代表値で0.917(p<0.001)、個別値で0.861(p<0.001)となり、αPTTの推定精度が高いことが分かった。
また、図11(b)におけるαPTTとαLFの効果量およびICCをみると、αPTTはαLFとほぼ同様の効果量を持っていることから、PTTによる推定値であっても指標としての判別力は低下しないことが明らかとなった。一方でαPTTのICCはαLFを上回っていることから、PTTによる推定値の方が再現性が高いという結果を得た。これは、連続血圧計による血圧変動の測定精度が低いことが一因であると考えられる。校正時の測定停止がLF成分のパワーの大きさに影響を与えるため、このことが再現性を低くした原因として考えられる。一方でPTTによる血圧変動の推定では、校正を必要としないことが大きなメリットである。また、PTTは時間情報を用いているため、PPGセンサの装着状態にも影響を受けにくいと考えられる。これらのことから、αPTTの再現性が高くなったと考えられる。高価な連続血圧計が不要であるのみならず、指標としての判別力が真値と同等であり、さらに再現性が高くなるという今回の結果から、PTTによって推定した圧受容器反射機能の指標αPTTは極めて有用であるといえる。
図11(b)に示したように、CVRR、αPTTおよびμPAは、判別力、再現性共に高いことから自律神経機能評価に適した指標といえる。これらはそれぞれ副交感神経機能、圧受容器反射機能、末梢交感神経の機能の指標であり、互いに独立で異なる情報を与えていると考えられる。
そこで、それぞれの指標間における相関図を図12に示す。これらの結果からCVRRおよびαPTTはほぼ同じ情報を有しているのに対し、μPAのみ他の2つの指標との相関が低いことがわかる。これは、CVRRおよびαPTTは共に心拍数情報を用いて心臓の自律神経機能を評価しているのに対し、μPAはPPGの情報を用いて血管系の自律神経機能を評価していることによる違いであると考えられる。
μPAとαPTTの相関を見ると、αPTTの値が低く、μPAが高い被験者もいることがわかる。このことから、ある被験者のμPAとαPTTがこの分布内でどこに位置するのかを調べることによって、その被験者の心臓と血管系のどちら(またはその両方)の自律神経機能が低下しているのかを評価できると考えられる。したがって、μPAと、CVRRまたはαPTTとを組み合わせることによって、より精密な自律神経機能評価が期待できる。
さらに、μPAとαPTTの相関やμPAとCVRRの相関から明らかなように、単一の指標を用いた場合と比較して、若年者群と高齢者群の分離がより明瞭になっているのがわかる。このことは、多変量解析における判別分析等を行うことによって、自律神経機能の違いをより精度良く分類できる可能性があることを示している。
なお、上述した第1-第3の実施形態で提案した指標μPA、αPTT、およびλLFは、同一の装置によってその任意の組み合わせについて測定することができる。例えば、心電図と容積脈波を測定可能な装置であれば、どのような組み合わせについても測定可能である。上述のように、μPA、αPTT、およびλLFとはそれぞれ異なる自律神経機能の指標であるため、複数の指標を算出し、例えば複数の指標を同一座標径にプロットして表示/印刷出力し、複数の指標間の関係を評価することで、総合的な自律神経機能の評価が可能となり、有用である。
また、CVRRやρmax等、従来から自律神経機能の評価指標として用いられている指標を算出し、第1-第3の実施形態で提案した指標μPA、αPTT、およびλLFとの関係を評価することも可能であり、かつ有用であることは言うまでも無い。
なお、上述した各指標の算出は、ソフトウェア的に実現することが可能であり、コンピュータに各指標の算出を実行させるためのプログラムや、そのようなプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体もまた本発明を構成する。

Claims (12)

  1. 脈波を取得する取得手段と、
    前記脈波の振幅変動のパワースペクトル密度を算出するパワー算出手段と、
    前記パワースペクトル密度のうち、予め定められた低周波領域の積分値LFPAと、予め定められた高周波領域の積分値HFPAとを算出する積分手段と、
    前記予め定められた低周波領域の積分値LFPAと、前記予め定められた高周波領域の積分値HFPAとの比の対数、
    μPA=ln(LFPA/HFPA
    を、血管系の交感神経機能の指標として求める指標算出手段と、
    を有することを特徴とする自律神経機能測定装置。
  2. 脈波および心電図を取得する取得手段と、
    前記脈波を用いて脈波伝播時間を算出する脈波伝播時間算出手段と、
    前記心電図における心拍間隔の変動および、前記脈波伝播時間の変動について、パワースペクトル密度を算出するパワー算出手段と、
    前記心電図における心拍間隔の変動のパワースペクトル密度および、前記脈波伝播時間の変動のパワースペクトル密度について、予め定められた低周波領域の積分値SRRIおよびSPTTを算出する積分手段と、
    前記予め定められた低周波領域の積分値SRRIおよびSPTTとを用いて、
    (a,bは予め定めた定数である)
    を、圧受容器反射感受性の指標として求める指標算出手段と、
    を有することを特徴とする自律神経機能測定装置。
  3. 前記脈波伝播時間算出手段が、心音または前記心電図と、前記脈波とを用いて前記脈波伝播時間を算出することを特徴とする請求項2記載の自律神経機能測定装置。
  4. 前記パワー算出手段が、さらに、前記脈波の振幅変動のパワースペクトル密度を算出し、
    前記積分手段が、さらに、前記脈波の振幅変動のパワースペクトル密度のうち、予め定められた低周波領域の積分値LFPAと、予め定められた高周波領域の積分値HFPAとを算出し、
    前記指標算出手段が、さらに、前記予め定められた低周波領域の積分値LFPAと、前記予め定められた高周波領域の積分値HFPAとの比の対数、
    μPA=ln(LFPA/HFPA
    を、血管系の交感神経機能の指標として求めることを特徴とする請求項2または請求項3記載の自律神経機能測定装置。
  5. 脈波および心拍数を取得する取得手段と、
    前記脈波を用いて脈波伝播時間を算出する脈波伝播時間算出手段と、
    前記心拍数および前記脈波伝播時間の時系列データをそれぞれ補間して生成した信号をサンプリングし、予め定められた低周波領域成分を抽出する抽出手段と、
    前記心拍数について抽出された前記予め定められた低周波領域成分と、前記脈波伝播時間について抽出された前記予め定められた低周波領域成分の瞬時位相の差ψ(t)を算出する瞬時位相差算出手段と、
    前記瞬時位相の差ψ(t)を用いて、
    (Nは前記サンプリングされたデータ数である)
    を、圧受容器反射感受性の指標として求める指標算出手段と、
    を有することを特徴とする自律神経機能測定装置。
  6. 前記取得手段が心音または心電図をさらに取得し、
    前記脈波伝播時間算出手段が、前記心音または前記心電図と、前記脈波とを用いて前記脈波伝播時間を算出することを特徴とする請求項5記載の自律神経機能測定装置。
  7. 前記取得手段が心電図から前記心拍数を取得し、
    前記脈波伝播時間算出手段が、前記心電図と前記脈波とを用いて前記脈波伝播時間を算出することを特徴とする請求項5記載の自律神経機能測定装置。
  8. 前記心電図における心拍間隔の変動および、前記脈波伝播時間の変動について、パワースペクトル密度を算出するパワー算出手段と、
    前記心電図における心拍間隔の変動のパワースペクトル密度および、前記脈波伝播時間の変動のパワースペクトル密度について、予め定められた低周波領域の積分値SRRIおよびSPTTを算出する積分手段とをさらに有し、
    前記指標算出手段が、さらに、
    前記予め定められた低周波領域の積分値SRRIおよびSPTTとを用いて、
    (a,bは予め定めた定数である)
    を、前記λLFとは異なる圧受容器反射感受性の指標として求めることを特徴とする請求項7記載の自律神経機能測定装置。
  9. 前記予め定められた高周波領域が0.15−0.4Hzであることを特徴とする請求項1または請求項4記載の自律神経機能測定装置。
  10. 前記予め定められた低周波領域が0.04−0.15Hzであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の自律神経機能測定装置。
  11. 前記予め定められた低周波領域が0.08−0.15Hzであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の自律神経機能測定装置。
  12. コンピュータを、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の自律神経機能測定装置の各手段として機能させるためのプログラム。
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