JP2013201465A - 半導体素子およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 本発明の半導体素子は、III−V族化合物半導体の半導体素子であって、III−V化合物半導体の基板と、基板の上に位置するIII−V族化合物半導体の多重量子井戸構造と、多重量子井戸構造の上に位置するIII−V族化合物半導体を含む層とを備え、多重量子井戸構造は、量子井戸を50ペア以上含み、多重量子構造の底面とIII−V族化合物半導体を含む層の上面との間に、再成長界面を持たないことを特徴とする。
【選択図】 図5
Description
またInP基板上に、InGaAs−GaAsSbのタイプII型量子井戸構造を活性層として形成し、発光波長2.14ミクロンとなるLEDの開示もなされている(非特許文献2)。
さらに、GaInNAsSb量子井戸構造を有する半導体レーザー素子の開示がなされている(特許文献1)。このGaInNAsSb量子井戸構造は、単一量子井戸構造(すなわち、ペア数=1)である。
上記多重量子井戸構造に特有の問題の他に、InP系受光素子の製造には、次の問題がある。すなわち、InP基板の上に受光層を備える受光素子では、最表面のエピタキシャル層にInP系材料から成る窓層が設けられる。InP系材料から成る窓層は、エピタキシャル層を入射面側とする配置をとった場合、入射面側での近赤外光の吸収などを防止しながら暗電流の抑制にも有効に作用する。また、InPの表面にパッシベーション膜を形成する技術は、他の結晶の表面にパッシベーション膜を形成する技術、たとえばInGaAsの表面に形成する技術よりも多くの蓄積がある。すなわち、InPの表面にパッシベーション膜を形成する技術は、確立されており、表面での暗電流リークを容易に抑制することができる。上記の理由によって、最表面にInP窓層が配置されている。すなわち燐(P)を含む半導体層を形成する必要があるが、どの結晶成長法を用いるかで、燐の原料が異なり、後述するように、成長チャンバ内壁に付着する燐化合物等の安全性についての課題が重要になる。
非特許文献2では、MOVPE法によりタイプII型InGaAs/GaAsSbの量子井戸構造を形成している。このときInGaAsの原料にはトリメチルインジウム(TMIn)、トリメチルガリウム(TMGa)、アルシン(AsH3)を用いている。一方、GaAsSbの原料にはトリメチルガリウム(TMGa)、ターシャリーブチルアルシン(TBAs)、トリエチルアンチモン(TESb)を用いている。しかしながらこの方法では、タイプII型InGaAs/GaAsSbの量子井戸構造のペア数を増加させることが困難である。非特許文献2においても、多重量子井戸構造の量子井戸のペア数については10以上20以下の範囲での試みに留まっており、品質の評価に関する詳細の議論もなされていない。多重量子井戸構造の作製では、結晶成長の表面での欠陥や荒れは、異種材料による結晶成長界面の形成の際の、原子の配列の不完全性などを要因とする局所的な歪や非周期的な原子の結合に起因していると考えられる。つまり、成長表面の欠陥や荒れの大きさは、多重量子井戸構造のペア数が増加し界面の数が多くなるほど顕著となり、量子井戸構造ペア数が20以下とした場合では、例えば欠陥や荒れの大きさが1ミクロン程度未満に抑えられ、結晶表面の平坦性に大きな問題が発生しなくても、ペア数が50以上になる場合では、例えば欠陥や荒れの大きさが10ミクロン程度まで増大し結晶表面の平坦性に甚大な問題が発生するのが一般的であった。
また特許文献1では多重量子井戸構造は対象としておらず、単一量子井戸構造(ペア数1)のGaInNAsSbのみが開示されている。したがって、量子井戸構造のペア数を増加させること、たとえばペア数を50以上とすることは認識外にある。これは一つには、量子井戸構造を構成するGaInNAsSbの格子定数と、基板であるGaAsの格子定数との差が大きいことに起因する。すなわち、(GaInNAsSbの格子定数−GaAsの格子定数)/GaAsの格子定数、の数式で定義される、GaInNAsSbの格子不整合度は、約1.7%となり、この約1.7%の格子不整合度では、量子井戸構造のペア数を高々5程度までしかできず、量子井戸のペア数を50以上とすると、格子定数の差から結晶欠陥が生じてミスフィット転位が発生し、結晶品質を大きく劣化させることになる。このようなことから、当業者においては、特許文献1を基に多重量子井戸構造を想到するという契機はなくなる。
また、MOVPE法によってタイプII型InGaAs/GaAsSbの多重量子井戸構造を形成して受光素子を作製する場合には、多重量子井戸構造の表面状態として良好な平坦性を持つものが得られていないことから、最表面のエピタキシャル層にInP窓層が設けることについても検討されることは皆無であった。
特に、上述の相分離しやすいGaAsSb層の結晶成長の問題に限定して考えた場合、相分離を防止しながらエピタキシャル成長するには非平衡性の強い結晶成長法が必要である。このため、非平衡性の強い結晶成長法であるMBE法が適している。現に、GaAsSb層の形成にMBE法が用いられている(非特許文献1)。
しかし、MOVPE法は成膜能率の高い成長法であり、多くのペア数を持つ多重量子井戸構造をMOVPE法によって成長できれば、工業上、非常に有益である。
また、MBE法は、GaAsSbを含む多重量子井戸構造の形成には有利であっても、そのMBE法によって、上述のInP窓層を工業的に高い安全性を維持して成長させることは容易ではない。その理由は、MBE法では原料に固体原料を用い、したがってInP窓層の燐(P)の原料には固体の燐を用いる。このため、上述のように、成膜の進行につれて成膜槽の壁に、成膜後の残存物である固体の燐が付着してゆく。固体の燐原料は発火性が強く、MBE法における原料投入、装置メンテナンスなどの開放時に火災事故が発生する可能性が高く、それに対応した防止策が必要となる。また、燐の原料を使用した場合、燐の排気除害装置がさらに必要となる。
ここで、全有機気相成長法は、気相成長に用いる原料のすべてに、有機物と金属との化合物で構成される有機金属原料を用いる成長方法のことをいい、全有機MOVPE法と記す。
また、温度は、基板表面温度を赤外線カメラおよび赤外線分光器を含むパイロメータでモニタしており、そのモニタされている基板表面温度をいう。したがって、基板表面温度ではあるが、厳密には、基板上に成膜がなされている状態の、エピタキシャル層表面の温度である。基板温度、成長温度、成膜温度など、呼称は各種あるが、いずれも上記のモニタされている温度をさす。
上記の方法では、全有機MOVPE法を用いて、基板上の結晶膜を成長させてゆく。このとき、全有機MOVPE法では、用いる原料の全てにおいて、その原料分子の分子量は大きいため、分解しやすく、無機原料も用いるような通常のMOVPE法に比べて、基板に接触するほど近くに位置している有機金属気体が、成長に必要な形に効率よく分解して結晶成長に寄与しやすい。本発明では、この点に依拠するところが大きい。
また、有機金属気相成長法は、非平衡性が小さいものの、相分離しやすい化合物の場合でも、基板温度が低ければ、相分離しないで成長する。原料ガスを止めて真空ポンプで引きつつキャリアガスを流すことで、上述の少しの慣性の成長をしたあと、当該第1の化合物の結晶成長は停止される。
次いで、キャリアガスを流しながらペアを組む第2の化合物に合わせた原料ガス(有機金属気体)を流して、基板付近で、十分な濃度に達すると、第2の化合物の結晶成長が始まる。第2の化合物を、所定厚み成長させたあと、真空ポンプで吸引排気しつつキャリアガス(水素)を流入させながら、当該第2の化合物の原料ガスの電磁バルブを止めれば、その第2の化合物のみが少しだけ慣性を持って成長する。少しの慣性は、基板にほとんど接触していて、基板温度に近い温度になる範囲に位置していた有機金属気体の分によって生じる。その場合でも、基板上に成長してゆく化合物は、基本的には第2の化合物の組成を有する。上記の手順を踏んで、全有機MOVPE法で多重量子井戸構造を形成してゆけば、急峻な組成変化をするヘテロ界面を得ることができる。電磁バルブの開閉、真空ポンプの強制排気等の操作は、すべてコンピュータによって制御され、自動的に行われる。
本発明によって急峻なヘテロ界面を、ペア数が50ペア以上にわたって、得ることができる大きな理由は、全有機MOVPE法を用いることによって、基板にほとんど接する範囲に位置する原料ガスが、完全に分解して結晶成長に寄与することがあげられる。これまでの通常のMOVPE法では、形成する化合物の原料ガスの中に分解効率が小さいものが含まれており、目的とする結晶成長が成されるためにはより多量の原料ガスを必要とする。ところが、分解効率が小さいことから、基板にほとんど接する範囲に位置する原料ガスには、分解できなかった原料ガスや分解の途中段階である中間生成物などのガスが含まれることから、それらが化合物の結晶成長に取り込まれ、悪影響を及ぼすため、急峻なヘテロ界面が得られなかったものと考えている。しかし、全有機MOVPE法では、原料ガスの分解効率が良く、途中段階の反応生成物が発生しにくいことから、結晶成長に関与する基板の近くの原料ガスには、「急峻な組成変化を阻害する残留する原料ガス」、というものは、全有機MOVPE法では、無いことを期待できるということを見出した。
また、本発明によって急峻なヘテロ界面を、ペア数が50ペア以上にわたって、得ることができる大きな理由として、例えばペア数が50を超えるような多重量子井戸構造を構成するInGaAsとGaAsSbにおいて、両者のAs原料に有機金属原料を用いる全有機MOVPE法を用いることがあげられる。多重量子井戸構造を形成する際に、InGaAsとGaAsSbの両者の界面(境界面)でAs原料が切り替わることがないことから、急峻な量子井戸構造の界面が形成できると考えられる。このことは、量子井戸構造のペア数が増加するにつれて、顕著となり、ペア数が大きい多重量子井戸構造で良好な特性を得ることを可能としている。
要約すれば、結晶成長のための原料系に着目して、結晶成長条件を最適化することで、全有機MOVPE法によって、高品質の結晶層と急峻な組成界面を持つ、50ペア以上の多重量子井戸構造を、高能率で成長することができるようにした。さらに付言すれば、全有機MOVPE法では、後述するInP窓層を成長させるとき、原料に固体の燐(P)を用いないので、安全性の点で非常に有利である。
ここで、再成長界面とは、所定の成長法で第1結晶層を成長させたあと、一度、大気中に出して、別の成長法で、第1結晶層上に接して第2結晶層を成長させたときの第1結晶層と第2結晶層との界面をいう。通常、酸素、炭素が不純物として高濃度に混入する。
上記の多重量子井戸構造と、III−V族化合物半導体を含む層との間に、別の層が配置されていてもよいし、別の層がなくて、多重量子井戸構造に接してIII−V族化合物半導体を含む層が位置してもよい。具体例については、これから説明してゆく。
とくに、InP層の場合、燐原料にターシャリーブチルホスフィンなどの全有機原料ガスを用いることで、温度400℃以上かつ560℃以下の範囲で分解して結晶成長に寄与させることができることを見出した。400℃未満の温度範囲でInP窓層を形成する場合は、原料ガスの分解効率が大幅に低下するため、InP層内の不純物濃度が増大し高品質なInP窓層を得ることができなかった。また、560℃を超える温度でInP窓層を形成する場合は、下層に位置する多重量子井戸構造の結晶が、熱によってダメージを受けて結晶性が劣化した。温度400℃以上かつ560℃以下の範囲とすることによって、多重量子井戸構造の結晶性が損なわれることなく、高品質なInP窓層を有した半導体素子を形成できることを見出した。また、Pの原料に固体材料を用いないので、安全性などの点で安心であり、また成長能率の点でも、他の成長法とくにMBE法よりも有利である。さらに受光素子においてInP窓層を形成した場合は、InPの表面にパッシベーション保護膜を形成しやすくいために暗電流リークを容易に抑制することができる。
III−V族化合物半導体の表層をInP層として、該InP層を成長温度400℃以上560℃以下で成長するのがよい。これにより、InP層の下に位置する多重量子井戸構造内のSbを含む層が熱のダメージを受けることがなく、多重量子井戸の結晶性が害されることがない。InP層を形成するときには、下層にSbを含む多重量子井戸構造が形成されているので、基板温度は、上記のように温度400℃以上かつ560℃以下の範囲に厳格に維持する必要がある。その理由として、600℃程度に加熱すると、GaAsSbが熱のダメージを受けて結晶性が大幅に劣化する点、および、400℃未満の温度としてInP窓層を形成すると、原料ガスの分解効率が大幅に低下するため、InP層内の不純物濃度が増大し高品質なInP窓層を得られない点があげられる。
上記のInP層を成長温度535℃以下で成長することができる。これによって、さらにSbを含む層に対する熱ダメージ防止をさらに安定して防ぐことができる。
ここで、半導体素子において再成長界面は、二次イオン質量分析によって、酸素濃度が1×1017cm−3以上、および炭素濃度が1×1017cm−3以上のうち、少なくとも一つを満たすことによって特定することができる。
ここで、格子不整合度Δω=Δa/a=(半導体層の格子定数−InPの格子定数)/InPの格子定数、である。多重量子井戸構造の場合、たとえばInGaAsの格子不整合度をΔω1とし、GaAsSbの格子不整合度をΔω2とするとき、多重量子井戸構造全体の格子不整合度Δω={Σ(Δω1×InGaAs層の厚み+Δω2×GaAsSb層の厚み)}/{Σ(InGaAs層の厚み+GaAsSb層の厚み)}、と定義される。Σは、個々のInGaAs層およびGaAsSb層について行われる。
とくに、InP層の場合、下層に位置する多重量子井戸構造に結晶性の優れたものを得ることができる。また、受光素子においてInP窓層を形成した場合は、InPの表面にパッシベーション保護膜を形成しやすいために暗電流リークを容易に抑制することができる。
図1は、本発明の実施の形態1における半導体素子の製造方法によって製造された多重量子井戸構造を示す断面図である。多重量子井戸構造3は、Sをドープしたn型InP基板1の上に、InGaAsバッファ層2を介在させて形成されている。多重量子井戸構造3における量子井戸のペアは、厚み5nmのGaAsSb3aと、厚み5nmのInGaAs3bとからなる。いずれも、ノンドープである。GaAsSb3aが、InGaAsバッファ層に、直接、接して形成される。本実施の形態では、多重量子井戸構造3は、250ペアの量子井戸を備えている。本実施の形態では、250ペアの量子井戸からなる多重量子井戸構造3が、全有機MOVPE法で形成された点に特徴がある。
原料ガスは、流量の制御は、図2に示す流量制御器(MFC)によって制御された上で、石英管35への流入を電磁バルブの開閉によってオンオフされる。そして、石英管35からは、真空ポンプによって強制的に排気される。図3に示すように、原料ガスの流れに停滞が生じる部分はなく、円滑に自動的に行われる。よって、量子井戸のペアを形成するときの組成の切り替えは、迅速に行われる。
図3に示すように、基板テーブル51は回転するので、原料ガスの温度分布は、原料ガスの流入側または出口側のような方向性をもたない。また、ウエハ10aは、基板テーブル51上を公転するので、ウエハ10aの表面近傍の原料ガスの流れは、乱流状態にあり、ウエハ10aの表面近傍の原料ガスであっても、ウエハ10aに接する原料ガスを除いて導入側から排気側への大きな流れ方向の速度成分を有する。したがって、基板テーブル51からウエハ10aを経て、原料ガスへと流れる熱は、大部分、常時、排気ガスと共に排熱される。このため、ウエハ10aから表面を経て原料ガス空間へと、垂直方向に大きな温度勾配または温度段差が発生する。
さらに、本発明の実施の形態では、基板温度を400℃以上かつ560℃以下という低温域に加熱される。このような低温域の基板表面温度でTBAsなどを原料とした全有機MOVPE法を用いる場合、その原料の分解効率が良いので、ウエハ10aにごく近い範囲を流れる原料ガスで多重量子井戸構造の成長に寄与する原料ガスは、成長に必要な形に効率よく分解したものに限られる。
ウエハ10aの表面はモニタされる温度とされているが、ウエハ表面から少し原料ガス空間に入ると、上述のように、急激に温度低下または大きな温度段差が生じる。このため分解温度がT1℃の原料ガスの場合、基板表面温度は、(T1+α)に設定し、このαは、温度分布のばらつき等を考慮して決める。ウエハ10a表面から原料ガス空間にかけて急激で大きな温度降下または温度段差がある状況において、図4(b)に示すような、大サイズの有機金属分子がウエハ表面をかすめて流れるとき、分解して結晶成長に寄与する化合物分子は表面に接触する範囲、および表面から数個分の有機金属分子の厚み範囲、のものに限られると考えられる。したがって、図4(b)に示すように、ウエハ表面に接する範囲の有機金属分子、および、ウエハ表面から数個分の有機金属分子の厚み範囲以内に位置する分子、が、主として、結晶成長に寄与して、それより外側の有機金属分子は、ほとんど分解せずに石英管35の外に排出される、と考えられる。ウエハ10aの表面付近の有機金属分子が分解して結晶成長したとき、外側に位置する有機金属分子が補充に入る。
逆に考えると、ウエハ表面温度を有機金属分子が分解する温度よりほんのわずかに高くすることで、結晶成長に参加できる有機金属分子の範囲をウエハ10a表面上の薄い原料ガス層に限定することができる。
この多重量子井戸構造を形成する場合、600℃程度の温度範囲で成長すると多重量子井戸構造のGaAsSb層に相分離が起こり、清浄で平坦性に優れた多重量子井戸構造の結晶成長表面、および、優れた周期性と結晶性を有する多重量子井戸構造を得ることができない。このことから、成長温度を400℃以上かつ560℃以下という温度範囲にする(要因2)が、この成膜法を全有機MOVPE法にして、原料ガスすべてを分解効率の良い有機金属気体にすること(要因3)に、要因1が強く依拠している。
図5は、本発明の実施の形態2における半導体素子を示す断面図である。この半導体素子10は、フォトダイオードの受光素子である。n型InP基板1/バッファ層2/タイプIIの多重量子井戸構造3(InGaAs3a/GaAsSb3b)、の段階までは、実施の形態1の図1の構造と同じである。タイプIIの多重量子井戸構造3の上には、あとで詳しく説明する拡散濃度分布を調整する作用を担うInGaAs層4が位置し、そのInGaAs層4の上にInP窓層5が位置している。InP窓層5の表面から、所定領域にp型不純物のZnが導入されてp型領域15が設けられ、その先端部にpn接合またはpi接合が形成される。このpn接合またはpi接合に、逆バイアス電圧を印加して空乏層を形成して、光電子変換による電荷を捕捉して、電荷量に画素の明るさを対応させる。p型領域15またはpn接合もしくはpi接合は、画素を構成する主要部である。p型領域15にオーミック接触するp側電極11は画素電極であり、共通の接地電位にされるn側電極(図示せず)との間で、上記の電荷を画素ごとに読み出す。p型領域15の周囲の、InP窓層表面は絶縁保護膜9によって被覆される。
多重量子井戸構造を形成したあと、InP窓層5の形成まで、全有機MOVPE法によって同じ成膜室または石英管35の中で成長を続けることが、一つのポイントになる。すなわち、InP窓層5の形成の前に、成膜室からウエハ10aを取り出して、別の成膜法によってInP窓層5を形成することがないために、再成長界面を持たない点が一つのポイントである。すなわち、InGaAs層4とInP窓層5とは、石英管35内において連続して形成されるので、界面17は再成長界面ではない。このため、酸素および炭素の濃度がいずれも所定レベル以下であり、p型領域15と界面17との交差線において電荷リークが生じることはない。
InGaAs拡散濃度分布調整層4の上に、同じ石英管35内にウエハ10aを配置したまま連続して、アンドープのInP窓層を、全有機MOVPE法によって厚み0.8μmにエピタキシャル成長する。原料ガスには、上述のように、トリメチルインジウム(TMIn)およびターシャリーブチルホスフィン(TBP)を用いる。この原料ガスの使用によって、InP窓層5の成長温度を400℃以上かつ560℃以下に、さらには535℃以下にすることができる。この結果、InP窓層5の下に位置する多重量子井戸構造のGaAsSb3aが熱のダメージを受けることがなく、多重量子井戸の結晶性が害されることがない。InP窓層を形成するときには、下層にGaAsSbを含む多重量子井戸構造が形成されているので、基板温度は、たとえば温度400℃以上かつ560℃以下の範囲に厳格に維持する必要がある。その理由として、600℃程度に加熱すると、GaAsSbが熱のダメージを受けて結晶性が大幅に劣化する点、および、400℃未満の温度としてInP窓層を形成すると、原料ガスの分解効率が大幅に低下するため、InP層内の不純物濃度が増大し高品質なInP窓層を得られない点があげられる。
異なる点は、InGaAs層104とInP窓層105との界面117である。この界面117は、いったん大気に露出された再成長界面であり、二次イオン質量分析によって、酸素濃度が1×1017cm−3以上、および炭素濃度が1×1017cm−3以上のうち、少なくとも一つを満たすことによって特定することができる。再成長界面117は、p型領域115と交差線117aを形成し、交差線117aで電荷リークを生じて、画質を著しく劣化させる。
また、たとえばInP窓層105を単なるMOVPE法によると、燐の原料にホスフィン(PH3)を用いるため、分解温度が高く、下層に位置するGaAsSbの熱によるダメージの発生を誘起して多重量子井戸構造の結晶性を害することとなる。
図5に示す受光素子(本発明例)を、実施の形態1および2による方法で製造して、予備的な評価を行った。評価項目および評価結果はつぎのとおりである。また、比較例は、図6に示した受光素子であり、多重量子井戸構造の形成にMBE法を用い、InP窓層の形成では、MOVPE法を用いてV族原料に、アルシン(AsH3)およびホスフィン(PH3)を用いた。InP窓層の成長温度は、本発明例では535℃としたのに対して、比較例では600℃とした。
1.InP窓層の表面状態
本発明例では、清浄で平坦性に優れた表面を得ることができた。これに対して、比較例では、InP窓層は強度の表面あれを生じていた。
2.多重量子井戸構造のX線回折
X線回折法によってタイプIIの多重量子井戸構造の周期性の評価を行った。評価はX線回折パターンの所定ピークにおける半値幅により行った。本発明例では、多重量子井戸構造のX線回折パターンピーク値の半値幅は、80秒であった。これに対して、比較例では、X線回折パターンのピークの半値幅は、150秒であった。これより、本発明例において、多重量子井戸構造の周期性および結晶性が、格段に優れていることが判明した。
3.PL発光強度
本発明例では、波長2.4μmの領域に良好なPL発光強度を得ることができた。これに対して、比較例では、評価可能なPL発光を得ることができなかった。
図5に示す受光素子を、本発明による製造方法で製造した試験体である本発明例A1、A3〜A6、および本発明とは異なる製造方法で製造した試験体、比較例B1〜B3、参考例A2、A7について、結晶性の評価、受光素子の暗電流の評価を行った。暗電流は、Vr=−5ボルトでの100μm径での値である。
(本発明例A1):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(温度510℃)およびInP窓層の成長(温度510℃)
(参考例A2):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(温度380℃)およびInP窓層の成長(温度510℃)
(本発明例A3):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(温度400℃)およびInP窓層の成長(温度510℃)
(本発明例A4):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(温度450℃)およびInP窓層の成長(温度510℃)
(本発明例A5):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(温度535℃)およびInP窓層の成長(温度510℃)
(本発明例A6):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(温度560℃)およびInP窓層の成長(温度510℃)
(参考例A7):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(温度580℃)およびInP窓層の成長(温度510℃)
本発明例A1、A3〜A6では、全有機MOVPEで、タイプII型(InGaAs/GaAsSb)MQWを成長するとき、温度400℃〜560℃の範囲に変えている。参考例A2は380℃、A7は580℃で成長している。その他の条件は同じである。
(比較例B1:非特許文献1による方法):MBEによるタイプIIMQW受光層の成長(温度400℃)、および通常のMOVPEによるInP窓層の成長(温度600℃)
(比較例B2:非特許文献2による方法):通常のMOVPEによるタイプIIMQW受光層の成長(温度510℃)、および全有機MOVPEによるInP窓層の成長(温度510℃)
(比較例B3):通常のMOVPEによるタイプIIMQW受光層の成長(温度600℃)、および全有機MOVPEによるInP窓層の成長(温度510℃)
比較例では、タイプII型(InGaAs/GaAsSb)MQWを、MBE法(比較例B1)、通常のMOVPE法(比較例B1,B2)によって成長している。
上記の試験帯体の製造条件およびその評価の結果を、表1および表2に示す。
これに対して、表1および表2に示すように、全有機MOVPE法でMQWを成長しても、MQWの成長温度が380℃(参考例A2)のように極端に低い場合、および580℃(参考例A7)のように極端に高い場合に、X線回折ピークの半値幅が、125秒および150秒と、大きな値となった。PL発光は、この参考例A2、A7では生じなかった。本発明例A1、A3〜A6では、X線回折ピークの半値幅は、80秒、55秒〜95秒と狭い値が得られ、結晶性は良好であり、PL発光も生じた。また、InP窓層の表面性状については、参考例A2、A7以外は清浄で平坦性に優れた表面となった。さらに暗電流についても、参考例A2,A7以外は、0.4μA(本発明例A1)、0.9μA(本発明例A3)、0.7μA(本発明例A4)、0.4μA(本発明例A5)、0.8μA(本発明例A6)と、低い良好な暗電流特性が得られた。
本実施例の結果によれば、本発明の製造方法により、温度400℃〜560℃でタイプII型(InGaAs/GaAsSb)MQWを全有機MOVPEで成長することにより、良好な結晶性を得ることができ、かつInP窓層の表面も平坦性に優れ、その結果、暗電流を低く抑えることができた。本発明の最も広い範囲に属する製造方法(全有機MOVPE法による結晶成長)による場合であっても、温度400℃〜560℃を外れる温度で成長した場合、良好な結果を得ることができなかった。また、比較例B1〜B3のように、タイプII型(InGaAs/GaAsSb)MQWを全有機MOVPE法によらずに成長させた場合、結晶性の劣化、それに起因するInP窓層の表面性状の劣化を確認した。
実施例2の本発明例A1において、量子井戸のペア数を50から1000の範囲で変化させた。すなわち図5に示す受光素子の構造において量子井戸のペア数を変えた。その他の成長条件は同一である。
(本発明例A1−1):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数:50ペア)
(本発明例A1−2):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数:150ペア)
(本発明例A1−3):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数:250ペア)
(本発明例A1−4):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数:350ペア)
(本発明例A1−5):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数:450ペア)
(本発明例A1−6):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数:700ペア)
(本発明例A1−7):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数:850ペア)
(本発明例A1−8):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数:1000ペア)
本発明例A1−1〜A1−8について、受光素子の暗電流および感度の評価を行った。暗電流は、Vr=5ボルトでの100μm径での値である。感度は逆バイアス電圧Vr=5ボルトでの1mm径で、波長2000nmの光に対する値である。評価結果を表3に示す。
一方、感度は、本発明例A1−1〜A1−6ではペア数を50から700に増加させるに従って、0.1A/Wから0.75A/Wまで増大した。本発明例A1−7とA1−8では、感度はそれぞれ0.7A/W、0.6A/Wとなった。
受光感度および暗電流と、量子井戸のペア数との関係を図8に示す。ペア数850以上では受光感度は高いが、暗電流は大きくなる。受光感度と暗電流とを共に実用レベル範囲にするペア数の範囲が存在する。
このあと実施例4において詳しいデータを説明するが、本発明例A1−1〜A1−8の受光素子に対応する構造の受光素子アレイを製造して、撮像装置を作製したところ、A1−3〜A1−6に対応する受光素子アレイを用いた場合のみ、冷却機構を用いて撮像装置の環境温度を0℃以下とすることでより鮮明な画像の撮像に成功した。一方で、A1−1、およびA1−2、およびA1−7、およびA1−8の受光素子を用いた場合は、冷却機構を用いて撮像装置の環境温度を0℃以下としても鮮明な画像を撮像することができなかった。
実施例3の本発明例A1−3、およびA1−4、およびA1−5、において、InGaAs/GaAsSbを量子井戸のペアとするタイプIIの多重量子井戸構造3を形成する際に用いる原料を変化させた。すなわち図5に示す受光素子の構造において量子井戸の作製に用いる原料を変えた。作製した受光素子の構造は同一である。
(本発明例A1−3−1):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は250ペア、原料にTEGa、TMIn、TBAs,TMSbを用いる)
(本発明例A1−3−2):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は250ペア、原料にTEGa、TMIn、TBAs,TESbを用いる)
(本発明例A1−3−3):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は250ペア、原料にTEGa、TMIn、TMAs,TESbを用いる)
(本発明例A1−3−4):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は250ペア、原料にTEGa、TEIn、TBAs,TESbを用いる)
(本発明例A1−3−5):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は250ペア、原料にTMGa、TMIn、TBAs,TESbを用いる)
(本発明例A1−4−1):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は350ペア、原料にTEGa、TMIn、TBAs,TMSbを用いる)
(本発明例A1−4−2):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は350ペア、原料にTEGa、TMIn、TBAs,TESbを用いる)
(本発明例A1−5−1):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は450ペア、原料にTEGa、TMIn、TBAs,TMSbを用いる)
(本発明例A1−5−2):全有機MOVPEによる、タイプIIMQW受光層(ペア数は450ペア、原料にTEGa、TMIn、TBAs,TESbを用いる)
本発明例A1−3−1、およびA1−3−2、およびA1−3−3、およびA1−3−4、およびA1−3−5、およびA1−4−1、およびA1−4−2、およびA1−5−1、およびA1−5−2、について、同じ条件で受光素子アレイを製造して、撮像装置を作製して当該撮像装置での撮像の状況の評価を行った。受光素子アレイは、受光素子(画素)を320×256に配置して、全体で約8万画素の撮像装置とした。暗電流は、Vr=5ボルトでの100μm径での値である。評価結果を表4に示す。
本発明例でSb原料にTESbを用いた試験体であるA1−3−2、およびA1−4−2、およびA1−5−2では、作製した受光素子の受光径100μmでの暗電流は、40nA〜50nAとなり、本発明例でSb原料にTMSbを用いた試験体であるA1−3−1、およびA1−4−1、およびA1−5−1とそれぞれ比較して、暗電流を低減することができ、極めて良好な暗電流特性が得られた。一方、本発明でSb原料にTESbを用いた試験体であるA1−3−2、およびA1−4−2、およびA1−5−2では、感度は、0.75A/W〜0.9A/Wとなり、本発明でSb原料にTMSbを用いた試験体であるA1−3−1、およびA1−4−1、およびA1−5−1とそれぞれ比較して、感度を増加させることができた。
本発明例A1−3−1、およびA1−3−2、およびA1−3−3、およびA1−3−4、およびA1−3−5、およびA1−4−1、およびA1−4−2、およびA1−5−1、およびA1−5−2、において作製した受光素子アレイを用いて撮像装置を作製したところ、受光素子の暗電流密度が0.5mA/cm2以下となる試験体である、A1−3−1、およびA1−4−2に対応する受光素子アレイを用いた場合のみ、冷却機構を用いずに、鮮明な画像の撮像に成功した。すなわち、受光素子の暗電流密度が0.5mA/cm2以下となる本発明例であるA1−3−1、およびA1−4−2の受光素子アレイを用いた場合のみ、撮像装置の環境温度が例えば0℃以上40℃以下となるような、より実用的な温度範囲でも、鮮明な画像を撮像することに成功した。
本発明の実施の形態および実施例では、受光素子についてのみ説明したが、本発明の製造方法で製造された半導体素子、または本発明の構成要件を備える半導体素子であれば、受光素子に限定されることはなく、発光素子(半導体レーザ)などであってもよい。その他の、機能および用途を持つものであってもよい。
Claims (1)
- III−V族化合物半導体の半導体素子であって、
前記III−V化合物半導体の基板と、
前記基板の上に位置するIII−V族化合物半導体の多重量子井戸構造と、
前記多重量子井戸構造の上に位置するIII−V族化合物半導体を含む層とを備え、
前記多重量子井戸構造は、量子井戸を50ペア以上含み、
前記多重量子構造の底面と前記III−V族化合物半導体を含む層の上面との間に、再成長界面を持たないことを特徴とする、半導体素子。
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