JP2013189750A - 定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材 - Google Patents

定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材 Download PDF

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Abstract

【課題】例えば既存コンクリート造構造体とこれに接して構築される新設コンクリート造構造体等、水平力の作用時に互いに独立して挙動し得る主構造体と付加構造体間に定着部材を跨設し、付加構造体の主構造体に対する相対的な回転変形を許容しながら、両構造体で水平せん断力を伝達させる上で、付加構造体の定着部材に対する滑りを起こし易くする。
【解決手段】定着部材4を主構造体1と付加構造体2のいずれか一方の構造体1に定着される定着部41と、他方の構造体2に埋設され、他方の構造体2側の表面が両構造体1、2間の相対変形時に他方の構造体2に滑りを生じさせ得る凸の形状をなし、定着部41側の底面421が平坦な面をなす本体部42から形成する。曲げモーメントの作用方向両側の定着部41の外法を本体部42の外法より小さくし、本体部42の表面の内、少なくとも定着部41寄りの区間を滑りの方向に連続する曲面に形成する。
【選択図】図1

Description

本発明は例えば既存コンクリート造の構造体とこれに接して構築される新設コンクリート造の構造体、あるいは構造物の主体となる構造体とそれに接して付加的に構築される構造体等、曲げ剛性の相違等に起因し、水平力の作用時に互いに独立して挙動し得る二つの構造体間の相対的な回転変形を許容しながら、両構造体で水平せん断力を伝達する定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材に関するものである。
例えば既存コンクリート造構造体の耐震性を補う目的で新設のコンクリート造構造体を構築する場合、新設の構造体(付加構造体)は目的から、既存の構造体(主構造体)との間で地震時のせん断力が伝達されるように既設の構造体(主構造体)に接合される必要がある(特許文献1、2参照)。
ここで、付加構造体(新構造体)がスラブで、その端面において主構造体(旧構造体)に接合される場合には、付加構造体は地震時の水平力に対して主構造体を補強する目的で主構造体に一体化されるから、両構造体間で、両構造体が対向する方向に直交する(対向する面に平行な)水平方向のせん断力が伝達されるように主構造体に接合されなければならない。
両構造体間で水平方向のせん断力(水平せん断力)が伝達されるように両構造体を接合することは、主構造体(旧構造体)の表面側に、アンカーボルト等のアンカーによって主構造体に定着されるせん断力伝達部材を付加構造体(新構造体)側へ突出させた状態で固定することによって確保される(特許文献1、2参照)。
一方、例えば曲げ剛性(固有振動数)の相違等に起因して水平力の作用時に付加構造体(新構造体)と主構造体(旧構造体)が互いに独立して挙動する場合には、主構造体の変形に追従する(引き摺られる)形で付加構造体が強制的に変形することになるが、この両構造体の変形時には各躯体の対向する面間に相対的な回転変形が発生し得ることになる。
主構造体の変形に追従することによる付加構造体の変形は両構造体が対向する方向に主構造体が曲げ変形するときに発生するから、主構造体と付加構造体間の相対的な回転変形は両構造体が対向する面(構面内方向)に平行な水平軸の回りに生ずる。
以上のような挙動を示す主構造体と付加構造体は上記のように両者が対向する方向に直交する水平方向にはせん断力の伝達が図られながら、両者の対向する面に平行な水平軸回りには相対的な回転変形が許容される状態に接合されている必要がある。回転変形が許容されていなければ、両構造体の接合部が損傷を受けることによる。
このように主構造体と付加構造体が互いに対向する方向に直交する水平方向の水平軸回りの曲げモーメントの作用時に両構造体間の相対変形を許容しながら、その水平方向の水平せん断力を伝達することは、一部に厚さ方向に貫通する挿通孔を有する定着部材と、定着部材を貫通して両構造体に定着され、曲げ変形可能なアンカーとを備える定着装置を両構造体の境界に跨って配置することによって実現可能である(特許文献3参照)。
特許第4038472号公報(段落0067、0080、図11、図12) 特許第4230533号公報(段落0081〜0083、図6、図7) 特許第4628491号公報(請求項1〜3、段落0017〜0056、図1、図3、図4、図8〜図11)
但し、特許文献2、3の定着部材では付加構造体(新構造体)が主構造体(旧構造体)に対し、両構造体が対向する方向に直交する水平方向に相対的な回転変形を起こそうとするときに、付加構造体に定着されている本体部が付加構造体のコンクリートとの付着により付加構造体に引き摺られ、主構造体に対して回転しようとする可能性がある。このとき、定着部材は定着部(特許文献2で言う凸部)において主構造体に形成された溝内に嵌入しているだけであるため、主構造体に対して回転しようとするときに、主構造体から反力を受けにくい状態にある。
定着部材の本体部表面の、付加構造体(新構造体)のコンクリートとの付着力が主構造体(旧構造体)から受ける反力に勝れば、定着部材は付加構造体に追従し、主構造体に対して回転しようとし、回転方向後方側が主構造体から浮き上がりを生じようとする。この現象は正負の向きに交互に生ずるから、定着部材が主構造体から浮き上がりを生ずれば、主構造体への定着状態を維持しないことになるため、直交する方向の水平せん断力の伝達能力を喪失する可能性がある。また浮き上がりによって主構造体と付加構造体の境界付近のコンクリートを損傷させる可能性がある。
付加構造体の主構造体に対する相対的な回転変形は、水平軸回りの曲げモーメントの作用に伴い、付加構造体のコンクリートが定着部材の本体部表面との間の縁が切れる(分離する)結果、付加構造体のコンクリートが主構造体のコンクリートから肌別れを起こすことで、双方のコンクリートに損傷を与えることなく正負の向きに交互に発生する(特許文献3の段落0027〜0029)。
従って付加構造体の回転変形時のコンクリートの損傷を抑える上では、付加構造体のコンクリートが定着部材の本体部から縁が切れ、滑りを生ずることが望ましいが、特許文献2、3の定着部材は上記のように付加構造体の回転に追従する可能性があるため、付加構造体のコンクリートの滑りを起こしにくくする可能性を残している。
この発明は上記背景より、付加構造体のコンクリートの滑りを起こし易くし、付加構造体の主構造体に対する相対的な回転変形を許容しながら、水平せん断力の伝達能力を維持し得る形態の定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材を提案するものである。
請求項1に記載の発明の定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材は、水平力の作用時に互いに独立して挙動し得る主構造体と付加構造体との間に跨って設置され、前記主構造体と前記付加構造体との間で、これら両構造体が互いに対向する方向に直交する水平方向の水平軸回りの曲げモーメントの作用時に両構造体間の相対変形を許容しながら、その水平方向の水平せん断力を伝達する定着部材であり、
前記主構造体と前記付加構造体のいずれか一方の構造体に定着される定着部と、他方の構造体に埋設され、一部に厚さ方向に貫通する、アンカー挿通用の挿通孔を有し、前記他方の構造体側の表面が前記両構造体間の相対変形時に前記他方の構造体に滑りを生じさせ得る凸の形状をなすと共に、前記定着部側の面が平坦な面をなす本体部を持ち、
少なくとも前記曲げモーメントの作用方向両側の前記定着部の外法は前記本体部の外法より小さく、前記本体部の前記定着部側の面が、前記定着部が定着される側の構造体に対し、前記曲げモーメントの作用方向に変位しようとするときに、前記定着部が定着される側の構造体の表面に直接、もしくは間接的に係止し得る状態にあり、
前記本体部の前記表面の内、少なくとも前記他方の構造体が接触し、前記曲げモーメントの作用方向に前記滑りを生じ得る面の前記定着部寄りの区間は前記滑りの方向に連続する曲面をなしていることを構成要件とする。
主構造体と付加構造体が水平力の作用時に互いに独立して挙動することには、例えば主構造体と付加構造体の曲げ剛性に差があり、曲げ剛性の差による固有振動数の差に起因し、独立して挙動(振動)することにより曲げ変形する場合と、曲げ剛性に差がなく、一様に曲げ変形しながらも、主構造体と付加構造体の接合部に相対的な回転変形が生ずる場合がある。例えば同一の曲げ剛性を持つ二つの構造体が隣接している場合に、両構造体が一様に曲げ変形するときには、変形前の状態で同一レベルに位置する部位間でも両構造体の曲げ変形によってレベル差(段差)が生ずるから、両構造体に曲げ剛性の差がない場合にも相対的な回転変形は生ずる。
構造体は主として鉄筋コンクリート造構造物の一部であるが、一部が無筋コンクリートやモルタル等の場合もある。主構造体は例えば既存のコンクリート造構造物、付加構造体は既存のコンクリート造構造物の表面に接触した状態で付加的に(新設で)構築されるコンクリート造構造物を指す。構造体は建築構造物と土木構造物の双方を含み、建物の柱、梁、スラブ、基礎等の他、橋梁の橋桁、橋脚、フーチング等が該当する。
主構造体と付加構造体の接合部位は問われず、例えば新旧のスラブ同士、梁(桁)同士、柱同士、基礎同士等、あるいは付加構造体の構築位置等に応じ、これらの任意の組み合わせ等になる。付加構造体が主構造体に対する耐震(制震)補強の役目を持つ場合には、主構造体のいずれかの部位の表面に付加構造体のスラブや梁等が接合された状態で構築される。主構造体に対する付加構造体の構築の時期も問われず、主構造体と付加構造体の打ち継ぎのように主構造体の構築直後に付加構造体を構築する場合の他、主構造体の構築が完了し、使用期間中に主構造体に対する補強の必要性が発生したとき等になる。
主構造体と付加構造体が相対的に回転変形しようとするときには、相対的に高さ(成(厚さ))の小さい側の構造体がその下端と上端間の中間部の点を回転中心とし、他方の構造体に対して回転しようとする。従って本体部がいずれの側の構造体に定着されているかに関係なく、図6に示すように本体部の表面は主構造体と付加構造体が互いに対向する方向に直交する水平方向(相対的な回転変形の回転中心(回転軸)の方向)に見たとき、高さ(成、あるいは厚さ)の小さい側の構造体の下端と上端間の中間点を中心とする円弧状、もしくはそれに近い形状に形成されていることが合理的である。
定着部材を軸方向に見たときの中心部等には本体部を軸方向に貫通し、両構造体に定着されるアンカーが挿通するための挿通孔が形成され、この挿通孔に定着部材によるせん断力伝達能力を補うと共に、主構造体と付加構造体間の相対的な回転変形後の復元機能を発揮するアンカーが挿通する。アンカーは定着部材の挿通孔を挿通し、主構造体と付加構造体に跨った状態で配置され、主構造体と付加構造体に定着されることにより、前記水平せん断力の作用方向には、定着部材と共に、付加構造体(主構造体)から受けるせん断力を主構造体(付加構造体)に伝達する働きをする。
アンカーはまた、定着部材を挟んだ両側において主構造体と付加構造体のそれぞれに定着された状態を維持することで、弾性範囲内で曲げ変形することにより、あるいは曲げ変形と伸び変形を生ずることにより、前記曲げモーメントの作用方向には、曲げモーメントを負担しながら、主構造体と付加構造体間の相対的な回転変形時に追従する。アンカーが弾性範囲内で曲げ変形することで、両構造体の相対的な回転変形に追従し、回転変形が終息した後には、変形を復元させようとするばねの働きをする。
アンカーの軸方向両端部は主構造体と付加構造体のそれぞれに定着された状態を維持するから、伸び変形を伴う場合は主構造体と付加構造体の分離を抑制(制限)する働きもする。加えてアンカーの、本体部側の構造体への定着区間が曲げ変形することによりその構造体の回転変形に追従することで、アンカーは後述するようにその構造体の本体部表面に沿った滑りを誘導する(誘発させる)ようにも機能する。
アンカーには主にボルト(アンカーボルト)や棒鋼等、棒状の鋼材が使用されるが、繊維強化プラスチック等も使用される。アンカー5にボルトを使用した場合、図6に示すようにアンカー5(ボルト)にはナット5aが付属することもある。ナット5aがアンカー5の軸方向端部に接続された場合、ナット5aは構造体1、2中での定着効果(引き抜き抵抗力)を確保する働きをし、定着部材4に接触する位置に接続された場合にはアンカー5の定着部材4に対する位置が変動しないようにアンカー5を定着部材4に接合(規制)する働きをする。
本体部の挿通孔は本体部の中央部等に形成されるが、必ずしも本体部の中央部に1箇所である必要はなく、複数個形成されることもある。挿通孔の数に応じ、アンカーは本体部に1本、もしくは複数本挿通するが、本数は主構造体と付加構造体との間の相対的な回転変形を阻害しない程度に設定される。但し、両構造体の回転変形後のアンカーの復元力を期待する場合には複数本のアンカーが挿通する方が有利である。
アンカーはその軸に直交する方向の水平せん断力に対する抵抗要素として機能するときには、アンカーのせん断力作用方向への投影面積分の抵抗力が定着部のせん断抵抗力に加算される。アンカーにせん断力に対する抵抗要素としての機能を期待する場合には、その期待すべきせん断抵抗力に応じた径(太さ)と長さが与えられる。
アンカー5は定着部材4に形成された挿通孔42aに単純に挿通し、図6に示すように定着部材4の本体部42側から構造体2中へ突出する区間に螺合するナット5aが定着部材4(本体部42)に定着(緊結)されることにより、もしくは挿通孔42aに挿通した状態で挿通孔42a内に接着剤やモルタル等が充填されることにより、あるいは雌ねじの切られた挿通孔42aに螺合することにより定着部材4の本体部42に一体化する。アンカーが定着部材(本体部)の挿通孔内を挿通した状態で、本体部に対して曲げ変形可能な状態を維持する面からは、挿通孔の内周面とアンカー表面との間にはある程度のクリアランスが確保される方がよい。
請求項1における「本体部の、他方の構造体側の表面が凸の形状をなす」とは、本体部の表面側が凸になるような立体形状に形成されることを言い、立体形状は本体部の軸回りに直線や曲線が回転してできる回転体形状等の曲面形状の他、それに近い多面体形状を含む。「他方の構造体に滑りを生じさせ得る」とは、一方の構造体と他方の構造体との間(両構造体間)の相対変形(相対的な回転変形)時に、他方の構造体の、定着部材本体部の表面との接触面に肌別れを生じさせ得ることを言う。「他方の構造体」は本体部が埋設される側の構造体を指す。
請求項1における「少なくとも曲げモーメントの作用方向両側の定着部の外法が本体部の外法より小さい」とは、図3−(e)、(f)に示すように少なくとも曲げモーメントMの作用方向には定着部41の外法L1が本体部42の外法L2より小さければよい(L1<L2)ことを述べており、(水平)せん断力S作用方向には定着部41の外法Lと本体部42の外法Lが等しくともよい趣旨である。図3−(a)〜(c)に示す形状例の定着部材4ではせん断力S作用方向にも、曲げモーメントM作用方向にも定着部41の外法L1が本体部42の外法L2より小さくなっている。
定着部材が「少なくとも曲げモーメントの作用方向両側の定着部の外法が本体部の外法より小さい」形状をしていれば、曲げモーメントの作用方向には、図3−(e)、(f)に示すように後述する本体部42の定着部41側の底面421が一方の構造体(主構造体1)の表面(境界面)から反力を受けることができ、曲げモーメントの作用に拘らず、定着部材4全体が定着部41において一方の構造体に定着された状態を維持することが可能である。
請求項1における「本体部の表面の内、少なくとも他方の構造体が接触し、曲げモーメントの作用方向に滑りを生じ得る面の定着部寄りの区間は滑りの方向に連続する曲面をなしている」とは、本体部の全表面の内、少なくとも定着部寄りの区間の表面が定着部側から本体部側へかけ、曲げモーメントの作用方向に沿って連続した曲面をなし、その区間には角となる部分(凸部、あるいは稜線(平面の交わり))がないことを言う。「曲げモーメントの作用方向に沿って連続した曲面」とは、図1−(a)に示すように定着部材4を水平せん断力の作用方向に見たとき、曲線の矢印で示す曲げモーメントMの作用方向に沿った、本体部42側の構造体2が接触している曲面をなす図面上の曲線が直線を含まない連続した曲線のみからなることを言う。図1−(a)中、破線の矢印は曲げモーメントMが交互に作用することを意味している。
「少なくとも定着部寄りの区間」である理由は、他方の構造体(本体部42側の構造体2)が本体部42の表面に沿って回転変形(滑り・肌別れ)を起こそうとするときの回転が前記のように一方の構造体(定着部41側の構造体1)と他方の構造体2との境界面上の点を中心(図6中の本体部42側の構造体2の下端と上端間の中間点)として発生しようとすることによる。
境界面から離れた位置にある本体部42の挿通孔42a寄りの区間は境界面に近い区間より相対的に境界面に平行に近い曲面をなす(挿通孔42a寄りの区間における曲面上の接線は境界面寄りにおける曲面上の接線より境界面に平行に近くなる)から、必ずしも曲面でなくとも滑りの障害にはなりにくく、構造体2の滑り時にコンクリートに損傷を与える可能性が低い。「定着部寄りの区間」は本体部42の定着部41側の縁(底面421の縁)と本体部42の頂部(中心)との中間点(構造体1表面(境界面)上の、定着部材4の中心から45°の角度をなす直線が本体部42表面と交わる点)より定着部41側の区間を指す。
定着部材は主構造体と付加構造体が互いに対向する方向に軸方向を向けた状態で、主構造体と付加構造体のいずれか一方の構造体に定着される定着部と、それに連続し、他方に定着される本体部の2部分からなり、定着部はその側の構造体(コンクリート)に表面側から形成された溝部に嵌入する。
定着部41は図3−(c)、(d)に示すように本体部42の周囲寄りの位置に周方向に連続して、もしくは断続的に形成(突設)され、全体的には環状に形成される。定着部41のいずれかの部分がせん断力を負担したときに荷重を定着部41全体に分散させる上では、定着部41は連続的に形成される。「断続的に形成」とは、定着部41が波形状に形成される場合のように定着部41の深さが周方向に変化するようなことを言う。
定着部と本体部がそれぞれの側の構造体に定着されることにより、地震時等に一方の構造体(主構造体)と他方の構造体(付加構造体)の双方の接触面(境界面)が平行な状態のまま、その接触面(両構造体が対向する面)に平行な水平方向の相対変位(ズレ変形)が生じようとするときに、定着部材は両構造体(付加構造体と主構造体)間の水平せん断力を伝達する。
定着部材4を軸方向に直交する方向に見たときに、図12に示すように定着部材4が2方向(水平方向と鉛直方向)に同等の長さ(投影面積)を持った形状(立体形状)をし、球面状等、軸方向に直交する方向に方向性のない形状をしていれば、鉛直方向のせん断力も伝達可能ではある。但し、定着部材4は一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体2)が独立して挙動するときには両構造体1、2の対向する面間に、水平軸回りの相対的な回転変形が生じさせる機能を発揮するため、両構造体1、2の相対的な回転変形を阻害しない立体形状に形成される。
「両構造体の相対的な回転変形を阻害しない形状」とは、図6、図12に示すように定着部材4の定着部41がその側の構造体1に定着された状態のまま、本体部42側の構造体2が、凸の形状をしている本体部42の表面に沿い、定着部41側の構造体1に対して相対的に回転変形し得る形状をすることを言う。「本体部の表面に沿って回転変形する」とは、例えば図6に示すように一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体2)の接触面に平行な水平方向に見たときに、図11に示すように他方の構造体(付加構造体2)が一方の構造体(主構造体1)に対して本体部42の表面に沿い、滑りを生ずるように回転することを言う。
定着部材4は前記のように定着部41において一方の構造体(主構造体1)中に定着され、本体部42において他方の構造体(付加構造体2)に埋設されることにより他方の構造体2から受ける水平せん断力を一方の構造体1に伝達する。あるいは逆に一方の構造体か1ら受ける水平せん断力を他方の構造体2に伝達する。定着部41は一方の構造体1の他方の構造体2側の面(境界面)から形成された溝部1bに入り込む(嵌入)することにより一方の構造体1に定着される。溝部1bには定着部41をその側の構造体1に定着させるためのモルタル、接着剤等の充填材6が充填される。
一方の構造体1と他方の構造体2の境界面には、前記のように地震時等に双方の接触面が平行な状態のまま、相対変位(ズレ変形)が生じようとするため、この相対変位時に定着部材4が一方の構造体1と他方の構造体2から水平せん断力を受けようとする。定着部材4の本体部42が他方の構造体2からせん断力を受け、定着部41の少なくとも軸方向の一部である一方の構造体1中に埋設される区間(部分)が他方の構造体2からのせん断力を一方の構造体1に伝達し、その反力を負担する。
図14−(a)、(b)に示すように定着部材4に他方の構造体(付加構造体2)から右向きのせん断力が作用したとき、そのせん断力はその作用の向きに対向する定着部材4の本体部42の外周面が受ける。他方の構造体(付加構造体2)からのせん断力は本体部42外周面の内、せん断力作用方向への投影面積分が受ける。図14−(a)、(b)中、せん断力を受ける面を太線で示している。
本体部42の外周面が受けたせん断力はその外周面に対向する側を向き、一方の構造体(主構造体1)の溝部1bに嵌入する定着部41の外周面と内周面から一方の構造体(主構造体1)に伝達される。定着部41も図14−(b)に示すようにせん断力の作用方向を向く投影面積分でせん断力を一方の構造体(主構造体1)に伝達する。
本体部42の外周面が受けた他方の構造体(付加構造体2)からのせん断力は図14−(b)に示すように本体部42に対向する側に位置する定着部41の外周面と、この本体部42と同一側に位置する定着部41の内周面から一方の構造体(主構造体1)に伝達される。一方の構造体(主構造体1)に作用するせん断力は逆の経路で他方構造体(付加構造体2)に伝達される。
定着部材4の本体部42の挿通孔42aの周囲にはその表面側と背面側の少なくともいずれかへ突出する筒状の突出部が形成されることもある。突出部は挿通孔42aに連続する中空断面で形成され、アンカー5は挿通孔42aに連続して突出部に形成される挿通孔を挿通する。本体部42への突出部の形成は本体部42の断面形状を変化させるため、突出部は本体部42の断面性能(断面2次モーメント)を向上させる働きをする。
突出部は本体部42からその表面側(他方の構造体側)と背面側(一方の構造体側)の少なくともいずれかへ突出した形で形成されることで、他方の構造体からのせん断力を本体部と共に負担する、または他方の構造体からのせん断力を定着部と共に一方の構造体に伝達する働きをする。突出部は本体部42の表面側に形成された場合に他方の構造体からのせん断力を負担し、背面側に形成された場合に一方の構造体にせん断力を伝達する。突出部は本体部42の表面側と背面側に連続的に形成されることもある。
定着部材4は前記のように主構造体1と付加構造体2間の対向する方向に直交する方向の水平せん断力を伝達しながら、その方向の水平軸回りの両構造体1、2の相対的な回転変形を許容することで、水平軸回りの曲げモーメントに対しては主構造体1と付加構造体2をピン接合化する機能を発揮する。
定着部材4の本体部42表面の形状により主構造体1と付加構造体2との間の相対的な回転変形が生じ易い状態にあることで、主構造体1(一方の構造体)と付加構造体2(他方の構造体)が地震力や風荷重により独立して振動し、相対的な回転変形を起こそうとするとき、両構造体1、2の対向する面間には図6、図11に示すように水平軸回りの曲げモーメントが作用することによって肌別れが生じようとし、水平軸回りの相対的な回転が発生する。この回転は正負の向きに交互に生ずる。
このとき、定着部材4が主構造体1と付加構造体2との間の相対的な回転変形を阻害せず、回転変形を積極的に生じさせるには、図6に示すように定着部41が主構造体1と付加構造体2のいずれか一方の構造体(主構造体1)に定着された状態を維持したまま、他方の構造体(付加構造体2)が本体部42の表面に沿い、本体部42に対して回転変形し得る状態にあることが適切である。請求項1における「定着維持機能付き」は定着部材4の内、定着部41がこのいずれか一方の構造体に定着された状態を維持する機能を有することを意味する。
そこで、他方の構造体2に定着される本体部42の表面がその構造体2側に凸の曲面状に形成されることで、両構造体1、2が相対的な回転変形を起こそうとするときに本体部42側の構造体2が本体部42の表面に沿い、本体部42に対して回転変形し得る状態が得られる。「曲面状」は前記のように本体部42が椀状(球面状)等の楕円放物面その他の曲面状、あるいは一部に多面体形状を含む形状をすることであり、「本体部に対して回転変形し得る状態」は本体部42側の構造体2と本体部42表面との間の縁が切れる(分離する)ことに相当する。上記した「肌別れ」は本体部42側の構造体2と本体部42表面との間の縁が切れて回転する結果として生じる。
例えば図6に示すように定着部41が主構造体1に定着され、本体部42が付加構造体2に定着された状態で定着部材4が両構造体1、2に跨って設置されている場合に、両構造体1、2が相対的な回転変形を起こそうとするとき、主構造体1と付加構造体2の端面(接触面)間に肌別れを生ずると仮定すれば、前記のように図6の例では相対的に高さ(成、あるいは厚さ)の小さい側の構造体である付加構造体2が主構造体1側の端面の下端と上端間の中間部を回転中心として回転しようとする。付加構造体2が主構造体1側端面のいずれかの点の回りに回転することは正負の向きに交互に発生する。両構造体1、2の相対的な回転変形の回転中心は定着部材4を挿通するアンカー5が曲げ変形を起こすときの曲げの中心でもある。
主構造体1(一方の構造体)と付加構造体2(他方の構造体)間の相対的な回転変形が生じようとしたときにはまた、前記のように定着部材4の本体部42が付加構造体2側に凸の形状を有することで、形態的に定着部41がその側の構造体(主構造体1)に対して回転変形しようとする可能性より、本体部42がその側の構造体(付加構造体2)に対して回転変形しようとする可能性が高い。この可能性の差に起因し、定着部材4は定着部41において一方の構造体(主構造体1)に定着された状態を維持し、本体部42において他方の構造体(付加構造体2)に対して相対移動しようとする。この結果、主構造体1と付加構造体2との間には相対的な回転変形が阻害されることなく、自然に発生する状態が得られるため、強制的な回転変形による主構造体1と付加構造体2間の接合部における損傷が未然に回避されるか、抑制される。
但し、定着部材4の本体部42側の構造体2が定着部41側の構造体1に対して回転変形しようとするときに、本体部42の表面とその側の構造体2のコンクリートとの付着力が、本体部42が定着部41側の構造体1(コンクリート)から受ける反力に勝れば、図1−(b)に示すように本体部42側の構造体2(コンクリート)が本体部42表面に沿って滑りを生ずる傾向より本体部42表面に付着したまま本体部42(定着部材4自体)を回転させようとする傾向が強まる。
これに対し、請求項1では図3−(e)、(f)に示すように少なくとも曲げモーメントMの作用方向両側の定着部41の外法L1が、本体部42の外法L2より小さい(L1<L2)ことで、図1−(a)に示すように曲げモーメントMの作用方向には、本体部42の底面421が定着部41の外周面より、定着部材4の断面上の中心より外周側へ張り出した状態になる。この状態は本体部42の定着部41側の底面421が、定着部41が定着される溝部1bからその外周側の構造体1側へ張り出し、定着部41側の構造体1(コンクリート)に対し、曲げモーメントMの作用方向に変位しようとするときに、定着部41側の構造体1の表面に直接、もしくは間接的に係止し得る状態である(請求項1)。「間接的に」とは、本体部42の定着部41側の底面(背面)421と定着部41側の構造体1の表面との間に、モルタル、接着剤等の充填材、あるいはプレート等の鋼材が介在することを言う。
本体部42の、平坦面をなす底面421が定着部41の外周面より外周側へ張り出し、定着部41側の構造体1の表面に係止し得る状態にあることで、本体部42がその側の構造体2(コンクリート)に追従して回転しようとするときに、主にその回転方向前方側の底面(定着部側の底面421)が定着部41側の構造体1(コンクリート)から反力を受けることができる。請求項1における「本体部の定着部側の面が、定着部側の構造体の表面に直接、もしくは間接的に係止し得る状態」とは、本体部42が定着部41側の構造体1に対して相対的に回転しようとするときに、本体部42の回転方向前方側の底面421が定着部41側の構造体1から反力を受ける状態にあることを言う。「主に」とは、本体部42の回転方向前方側の底面421と共に、定着部41の回転方向前方側の側面も定着部41側の構造体1から反力を受け得る意味である。
前記のように定着部41はその側の構造体1(コンクリート)に、その表面側から形成された溝部1bに嵌入した状態で定着されるため、本体部42の定着部41側の底面421が定着部41側の構造体1の表面から反力を受ける上では、図1−(a)に示すように本体部42の定着部41側の底面421が本体部42の中心に関し、溝部1bの外周側まで張り出し、溝部1bの外周側で定着部41が定着される側の構造体1の表面に係止し得る状態にあることが望ましい(請求項2)。溝部1b内には前記のようにモルタル等の充填材6が充填されるが、材料によっては構造体1の本体より圧縮強度が低いこともあるから、本体部42の底面421が構造体1の溝部1bの外周側において構造体1の本体部分から反力を受ける状態にあれば、反力を受けることによる回転に対する安定性が確実になる。
本体部42の回転方向前方側の底421面が定着部41側の構造体1から受ける反力は本体部42側の構造体2との付着力により回転しようとするときの抵抗力になるため、本体部42(定着部材4自体)が本体部42側の構造体2に追従して回転しようとする傾向より定着部41側の構造体1に定着された状態を維持しようとする傾向が強まり、本体部42(定着部材4)は定着部41側の構造体1に定着された状態を維持することが可能になる。本体部42の回転方向前方側の底面421が定着部41側の構造体1から反力を受けるときには、その反対側である回転方向後方側に位置する定着部41の、溝部1b内の充填材7中に定着されている部分が充填材6から浮き上がりに対する反力となる付着力を得ることができる。このため、定着部41の表面が充填材6からの付着力を稼ぐ上では、定着部41の深さは大きい方がよい。
本体部42側の構造体2(コンクリート)の、定着部41側の構造体1に対する回転に拘らず、定着部材4が定着部41側の構造体1(コンクリート)に定着された状態を維持できることで、定着部材4は曲げモーメントMの回転方向に直交する方向、すなわち曲げモーメントの回転中心に平行な方向に作用する水平せん断力Sの伝達能力を維持することが可能になる。
定着部材4が定着部41側の構造体1に定着された状態を維持できることは、本体部42側の構造体2(コンクリート)が本体部42の表面に沿って滑りを生ずることができることでもあるから、請求項1、2では前記のように主構造体1と付加構造体2との間での相対的な回転変形が阻害されることなく、自然に発生する状態が確実に得られることになる。付加構造体2の主構造体1に対する相対的な回転変形は本体部42の挿通孔42aを挿通しているアンカー5が両構造体1、2に定着されたまま、曲げ変形することにより、この変形するアンカー5に誘導されるように発生し、本体部42側の構造体2(コンクリート)の滑りが円滑に生じようとする。曲げ変形するアンカー5は本体部42側の構造体2が負担すべき曲げモーメントを負担する。
特許文献3の図4中、主構造体1の梁1aと付加構造体2のスラブ2aとの間には定着部材の本体部が水平せん断力の作用方向に曲面をなしている様子が示されている。但し、特許文献3の定着部材は中心を通る二方向の断面が同一形状をしているとは限らず(図10)、図4からは水平せん断力の作用方向に直交する方向に(水平せん断力の作用方向に平行な回転軸の回りに)作用する曲げモーメントの作用方向に本体部が曲面をなしているかは不明なため、本体部側の構造体が本体部の表面に沿って滑りを生ずる使用状態にあるとは限らない。
また特許文献3の定着部材が本体部側の構造体との付着によりその構造体に追従し、本体部側の構造体と共に、定着部側の構造体に対して回転変形しようとする場合、定着部材は図1−(b)に示すように本体部の回転方向前方側の縁を回転中心として回転しようとするため、本体部と定着部の回転方向後方側の縁が定着部側の構造体から浮き上がろうとする。このとき、浮き上がりを生ずる定着部の回転方向後方側の縁が、定着部が納まっている構造体(コンクリート)の溝部を押し広げようとするため、溝部周辺のコンクリートを損傷させる可能性があり、定着部側の構造体、もしくは本体部側の構造体の、曲げモーメントを負担した後の水平せん断力に対する抵抗力が低下する可能性がある。
これに対し、請求項1、2の定着部材4によれば、本体部42側の構造体2に追従することによる定着部材4自体の浮き上がりが抑制、あるいは防止されることで、定着部41が嵌入している溝部1bを押し広げることがなく、溝部1b周辺のコンクリートを損傷させることも回避され、定着部41側のコンクリートと本体部42側のコンクリートを共に健全に保持することが可能になる。定着部材4が定着部41の構造体1に定着された状態を維持し、両構造体1、2のコンクリートが健全に保たれることで、両構造体1、2が互いに肌別れを起こした後にも両構造体1、2自体の耐力と剛性の低下が回避されるため、曲げモーメントを負担した後の水平せん断力に対する抵抗力が低下することはなく、両構造体1、2間の相対変形が終息した後にも両構造体1、2は長期荷重を負担する能力を持ち続けることが可能になる。
また本発明の定着部材4によれば、本体部42の表面の内、少なくとも本体部42側の構造体2が接触し、曲げモーメントの作用方向に滑りを生じ得る面の定着部41寄りの区間が滑りの方向に連続する曲面をなし、その曲面内には角がないことで、本体部42側の構造体2(コンクリート)が本体部42表面に沿って滑りを起こすときに、連続した曲面上を抵抗なく滑ることができるため、コンクリートが損傷を受ける可能性が低下している。例えば本体部42の表面の内、定着部41寄りの区間に曲面が連続しない(不連続な)箇所(凸部)があれば、その不連続箇所(凸部)をコンクリートが滑る(乗り越える)ときに局部的に荷重を受けるため、必ず損傷を受けることになる。
この点で、特許文献3の図8〜図10の例は本体部側の構造体(コンクリート)中に埋設される本体部の周辺部分に球面から円筒面に移行する凸部(稜線)を有するため、滑りを起こす構造体(コンクリート)に損傷を与える可能性を残している。これに対し、請求項1、2の定着部材4では本体部42側の構造体2内に埋設される部分の内、少なくとも定着部41寄りの部分の表面は曲げモーメントMの作用方向に連続した曲面をなしているため、コンクリートへの損傷は防止、あるいは抑制されることになる。
更に定着部材4の本体部42側の構造体2が定着部41側の構造体1に対して回転変形しようとするときには前記のように、相対的に高さ(成(厚さ))の小さい側の構造体(本体部42側の構造体2)の下端と上端間の中間点を中心として回転しようとする傾向があるため、図1−(a)に示すように本体部42表面の連続する曲面はこの本体部42側の構造体2の下端と上端間の中間点(本体部底面の中心)を中心とする円弧を描く形状が最も適切であることになる。
特許文献3の定着部材と本発明の定着部材4との上記性能上の相違は、定着部材が本体部側の構造体と共に回転しようとするときの定着部側の構造体からの反力を特許文献3では回転方向前方側に位置する定着部の側面でしか受けることができないのに対し、本発明では図1−(a)に示すように主に回転方向前方側の本体部42の底面421で受けることができることに起因すると考えられる。
このことの裏付けを得るために、本体部の周囲に定着部からの張り出しがない形態(特許文献3)の定着部材(試験体)と、本体部42の周囲に定着部41からの張り出しがある形態(本発明)の定着部材4(試験体)に、図4に直線の矢印で示す水平せん断力を与えたときの水平荷重と定着部材4に生じた変形(水平変形)量の数値を表1のように取得した。
Figure 2013189750








図5は表1の数値を水平荷重(kN)と変形(水平変形)量(mm)を表す座標上にプロットしたグラフであり、特許文献3の定着部材(試験体)と、本発明の定着部材(試験体)の水平荷重と定着部材の変形(水平変形)量との関係を示している。定着部材(試験体)へは図4に示すように一方の鉄筋コンクリート造(鉄筋コンクリート製)の構造体に定着部を定着させ、他方の鉄筋コンクリート造(鉄筋コンクリート製)の構造体に本体部を定着させた(埋設した)状態で、他方の構造体に水平力を与えることにより水平せん断力を作用させた。
表1、図5では水平せん断力のみを作用させた定着部材(試験体)との比較として、水平せん断力に加え、図4に曲線の矢印で示す、水平せん断力に直交する方向の曲げモーメントを作用させた後の定着部材(試験体)が水平せん断力に対する耐力をどの程度、維持できているかを検証する(回転変形による定着部材のせん断耐力低下の影響を確認する)目的で、水平せん断力の前に曲げモーメントを作用させた定着部材(試験体)の結果も示している。表1、図5は各試験体(他方の構造体)に数回の回転変形を与えた後、水平せん断力を与えたときの荷重と水平変形の結果を示している。
表1中、「直交なし」は水平せん断力のみを作用させ、回転変形(曲げモーメント)を作用させない試験体の0.25mm間隔の水平変形量と各変形量時の荷重の数値を示し、曲げモーメントと水平せん断力を作用させたその他の試験体との対比の基準となる。それ以外の「標準変形」と「大変形」及び「元のディスク」は水平せん断力の作用方向に直交する方向への数回の回転変形(曲げモーメント)を作用させた後に、水平せん断力を作用させた試験体の水平変形量と各変形量時の荷重の数値を示す。
本発明の標準的な定着部材4の寸法は図2に示す通りであり、本体部42の曲げモーメント作用方向の幅が98mmで、本体部42の軸方向の高さが45.8mm、定着部41の深さは19mm、本体部42の定着部41からの張り出し長さは4mm(定着部の曲げモーメント作用方向の幅が4mm)であり、平板部42cの厚さ(高さ)は19.4mmである。各試験体は炭素鋼製(S45C)である。
表1中、「標準変形」は層間変形角が1/100の変形であり、「大変形」は層間変形角が1/50の変形である。「元のディスク」は特許文献3の定着部材の試験体である。図5では「直交なし」の試験体の荷重−変形関係を太線の実線で示し、「標準変形」と「大変形」の試験体の荷重−変形関係を細線の実線で示し、「元のディスク」の試験体の荷重−変形関係を破線で示している。
表1、図5から分かるように「元のディスク」は153kNの水平荷重を受けた時点で、1.5mmの水平変形を生じるのに対し、「直交なし(曲げモーメントなし)」は325kNの水平荷重を受けたときに1.5mmの水平変形を生じ、「元のディスク」の2倍強(325/153=2.12倍)の耐力を発揮している。
「元のディスク」と同じ条件の曲げモーメントと水平せん断力を受けた「標準変形」と「大変形」は1.5mmの水平変形時の水平荷重が「直交なし」の水平荷重(325kN)より僅かに低下しているものの、「元のディスク」との対比では「標準変形」が2倍程度(320/153=2.09倍)の耐力を確保し、「大変形」も2倍程度(312/153=2.04倍)の耐力を確保していることが分かる。「標準変形」と「大変形」は「直交なし」と同等程度の荷重を負担しながらも、「直交なし」の変形量と極端な差がないことから、耐力と併せ、「直交なし」と同等程度の剛性も確保していることが分かる。
「標準変形」及び「大変形」と「直交なし」との対比から、本発明の定着部材は曲げモーメントを受けた後に水平せん断力を受けたときにも、曲げモーメントを受けずに水平せん断力のみを受けた定着部材と同等程度の水平せん断力に対する耐力と剛性を維持できていることが判明した。
また「標準変形」及び「大変形」(本発明の定着部材)と「元のディスク」との相違は、本発明の定着部材4が、本体部42周囲の定着部41側の底面421が定着部41から張り出した形状をしていることであるから、本発明の定着部材4と「元のディスク」との対比から、本体部42が定着部41から張り出した形状をしていることで、曲げモーメントを受けたときにその底面421が定着部41側の構造体1(コンクリート)から反力を受けることができ、定着部材4自体が回転変形することなく、定着部41側の構造体1に定着された状態を維持できていることが裏付けられた。
詳しく言えば、本体部側の構造体が受ける曲げモーメントに対し、曲げモーメントの作用方向前方側にある本体部42の底面421が定着部41側の構造体1から受ける反力によって本体部42側の構造体2に追従して回転変形することなく、定着部41全体がその側の構造体1に定着された状態を維持し、本体部42側の構造体2が本体部42の表面に沿って滑り(肌別れ)を生じていることが裏付けられた。
また定着部41全体がその側の構造体1に定着された状態を維持することで、曲げモーメントに直交する水平方向のせん断力を受けたときに定着部41がその側の構造体1から反力を受けることで、図1−(a)に示すように曲げモーメントの作用に拘らず、本体部42側の構造体2からの水平せん断力を定着部41側の構造体1に確実に伝達する能力を発揮できることが判明した。
曲げモーメントの作用時に定着部材が定着部側の構造体に定着された状態を維持し、本体部側の構造体が本体部の表面に沿って滑り(肌別れ)を生ずることで、本体部側の構造体(コンクリート)と定着部側の構造体(コンクリート)との境界面での肌別れも生じ易くなる上、定着部材自体の定着部側の構造体からの浮き上がりがなくなるため、定着部材の浮き上がりに伴う両構造体境界面付近のコンクリートの損傷が軽減される。
ここで、例えば図12に示すように本体部42の表面全体が球面のような曲面をなしている場合、本体部42側の構造体2が回転変形を起こすときに、構造体2の本体部42表面への接触面は一定の回転半径上を滑ることにならないため、接触面の変形量が一定(一様)にならず、変形時に部分的に歪みが生ずる可能性がある。
そこで、本体部42を、せん断力作用方向の中央部に位置し、挿通孔42aが形成された挿通部42bと、その両側に位置し、本体部42が埋設される側の構造体2側に板状の面(平面、もしくは曲面)を持つ平板部42c、42cとに区画することで(請求項3)、本体部42側の構造体2が本体部42の表面に沿って滑りを生ずる面を本体部42表面全体の内、本体部42側の構造体2に近い一部の曲面に限定し、変形時の歪みの発生を抑制することができると考えられる。挿通部42bのせん断力作用方向両側の面は水平せん断力を支圧力として受ける面になる。
この場合、本体部42側の構造体2が本体部42の表面に沿って滑り(肌別れ)を起こす面は本体部42の内、挿通部42bの表面のみになり、平板部42cに接触している部分は滑りを起こしにくいため、前記した歪みの発生が抑制される。同時に、挿通部42bが側面において支圧力を受けることができることで、水平せん断力に対する耐力が確保され易くなる。本体部42側構造体2の、本体部42表面への接触面の変形量が一定(一様)になるようにする上では、図示しないが、本体部42を、軸方向を水平せん断力作用方向に向けた半円柱形状し、表面を円筒面形状にすることもできる。
請求項3では本体部42の水平せん断力作用方向の中央部に帯状の表面を持つ挿通部42bが存在し、そのせん断力作用方向両側に平坦な面を持つ平板部42c、42cが形成されることで、挿通部42bの両側面において水平せん断力を支圧力として受けることができるため、形態的には本体部42側の構造体2からの水平せん断力を負担し易く、定着部41側の構造体1への伝達能力が高まる利点がある。
水平せん断力に直交する方向の曲げモーメントに対しては、本体部42側の構造体2は挿通部42bの表面に接触している部分において本体部42に対して滑りを生じ易いのに対し、平板部42cに接触している部分においては滑りを生じにくく、肌別れを起こしにくい。ここで、本体部42側の構造体2が本体部42の表面全体に接触している場合には、上記のようにその構造体2が滑りを起こすときに不均一な変形を生ずる可能性があるのに対し、本体部42に接触し、本体部42に対して滑りを起こす構造体2の接触部分が挿通部42bのみになることで、不均一な変形が緩和される結果、コンクリートは損傷を受けにくく、本体部42側の構造体2は滑り後も耐力を保持し易くなる。
本体部42側の構造体2が本体部42に対して滑りを起こすときに、不均一な変形を生じにくいことは、上記のように表面が曲げモーメントの作用方向に円弧面を持ち、軸方向が水平せん断力の作用方向を向く半円柱形状に本体部が形成されることによっても得られる。本体部42の表面が半円柱形状をする場合には、端面が請求項2の場合と同様に、水平せん断力を支圧力として受けることができる形状になるため、請求項3の場合と同等の水平せん断力の負担能力を確保することも可能である。本体部42が半円柱形状に形成される場合には、軸方向に部分的に請求項3における平板部42cが形成されてもよいことになる。
本体部の、平坦面をなす底面が定着部の外周面より外周側へ張り出し、定着部側の構造体の表面に係止し得る状態にあることで、本体部がその側の構造体(コンクリート)に追従して回転しようとするときに、主にその回転方向前方側の底面(定着部側の面)が定着部側の構造体(コンクリート)から反力を受けることができる。従って本体部(定着部材自体)が本体部側の構造体に追従して回転しようとする傾向より定着部側の構造体に定着された状態を維持しようとする傾向が強まり、本体部(定着部材)は定着部側の構造体に定着された状態を維持することが可能になる。
この結果、本体部側の構造体(コンクリート)の回転に拘らず、定着部材が定着部側の構造体(コンクリート)に定着された状態を維持できるため、定着部材は曲げモーメントの回転方向に直交する方向、すなわち曲げモーメントの回転中心に平行な方向に作用する水平せん断力の伝達能力を維持することが可能になる。
(a)は本発明の定着部材の主構造体と付加構造体への定着状態と、曲げモーメントを受けたときの状況を水平せん断力の作用方向に見た縦断面図、(b)は従来の定着部材が曲げモーメントを受けたときの状況を水平せん断力の作用方向に見た縦断面図である。 (a)は本発明の定着部材の具体的な製作例を示した(b)のx−x線断面図、(b)は(a)の定着部材を軸方向(アンカー軸方向)に見た平面図である。 (a)は図2に示す定着部材を本体部側から見た斜視図、(b)は(a)を曲げモーメントの作用方向に見た立面図、(c)は図2に示す定着部材を定着部側から見た仰観図、(d)は図2に示す定着部材を、本体部を下に向けて見た斜視図、(e)は本体部の平面形状が曲げモーメント作用方向に長軸を持つ楕円形に形成された定着部材を定着部(底面)側から見た底面図、(f)は定着部がせん断力作用方向に長軸を持つ楕円形に形成された定着部材を定着部(底面)側から見た底面図である。 図2に示す定着部材を主構造体(定着部側の構造体)に定着させると共に、本体部を付加構造体(本体部側の構造体)に埋設させ、曲げモーメントと水平せん断力による定着部材の変形量を計測するための試験体を示した斜視図である。 図4に示す複数の試験体に水平せん断力を加えたときの荷重−変形関係を示したグラフである。 本発明の定着部材とアンカーからなる定着装置を用いて主構造体と付加構造体を接合した様子を示した縦断面図である。 主構造体が既存構造物、付加構造体が耐震(制震)補強架構である場合の両構造体の接合状態を示した斜視図である。 主構造体と付加構造体の接合部分を示した図7の構面内方向の斜視図である。 図8の平面図である。 (a)は図7に示す構造物を構面内方向に見たときの両構造体の曲げ変形時の様子を示した立面図、(b)は(a)におけるB部分の拡大図である。 図10−(a)のA部分の拡大図である。 本体部が球面状に形成された定着部材の主構造体への定着状態を本体部側から見た様子を示した斜視図である。 図3、図4に示す定着部材の主構造体への定着状態を本体部側から見た様子を示した斜視図である。 (a)は定着部材の基本形状と、他方の構造体(付加構造体)から一方の構造体(主構造体)へのせん断力の伝達の様子を示した縦断面図、(b)は(a)の背面図である。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1−(a)は水平力の作用時に互いに独立して挙動し得る一方の構造体(主構造体)1と他方の構造体(付加構造体)2との間に跨って設置され、一方の構造体1と他方の構造体2との間で、これら両構造体1、2が互いに対向する方向に直交する水平方向の水平軸回りの曲げモーメントの作用時に両構造体1、2間の相対変形を許容しながら、その水平方向の水平せん断力を伝達する定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材(以下、定着部材)4の設置例を示す。以下では一方の構造体を主構造体1と、他方の構造体を付加構造体2と呼称する。
定着部材4は主構造体1と付加構造体2のいずれか一方の構造体(主構造体1)に定着される定着部41と、他方の構造体(付加構造体2)に埋設され、一部に厚さ方向に貫通する、アンカー5挿通用の挿通孔42aを有し、他方の構造体側の表面が両構造体1、2間の相対変形時に他方の構造体に滑りを生じさせ得る凸の形状をなすと共に、定着部41側の面が平坦な面をなす本体部41を持つ。挿通孔42aは本体部42の中心部に、または中心部付近に1箇所、もしくは複数箇所形成される。定着部材4はアンカー5と組み合わせられることで定着装置3を構成し、図6、図8、図9に示すように定着装置3として主構造体1と付加構造体2との間に設置される。
図1−(a)、図2、図3に示すように定着部材4の少なくとも前記曲げモーメントMの作用方向両側の定着部41の外法L1は本体部42の外法L2より小さく、本体部42の定着部41側の面は定着部41が定着される側の構造体(主構造体1)に対し、本体部42が定着される側の構造体(付加構造体2)が曲げモーメントの作用方向に変位しようとするときに、定着部41が定着される側の構造体(主構造体1)の表面に直接、もしくは間接的に係止し得る状態にある。「本体部42の定着部41側の面」は本体部42周囲の、定着部41の外周面からその外周へ張り出す部分(張出部)の底面421を指し、「係止し得る状態」はその本体部42周囲の底面421が、定着部41が定着される側の構造体(主構造体1)から曲げモーメントによる変位を阻止する反力を受ける状態を言う。
底面421は基本的には図3−(b)、(c)に示すように定着部41からその外周側へ張り出し状態で周方向に周回するが、曲げモーメントMに対する抵抗要素であるから、定着部41からは少なくとも曲げモーメントの作用方向に張り出していればよい。よって図3−(e)に示すように本体部42の平面形状が曲げモーメントM作用方向に長軸を持つ楕円形に形成され、底面421が(水平)せん断力S作用方向から曲げモーメントM作用方向にかけて定着部41から張り出すように形成されてもよく、(f)に示すように円形の平面形状を持つ本体部42に対し、定着部41がせん断力S作用方向に長軸を持つ楕円形に形成されていてもよいことになる。
一方の構造体である主構造体1にはその表面から深さ方向に、定着部材4の定着部41が定着される溝部1bが形成され、この溝部1bに定着部41が嵌入し、溝部1b内に充填されるモルタル、接着剤等の充填材6の硬化によって定着される。この溝部1bに定着部41が嵌入した状態では、水平せん断力の作用方向に見た断面上、図1−(a)に示すように本体部42の定着部41側の面(張出部の底面421)は本体部42の中心に関し、溝部1bの外周側で定着部41が定着される側の構造体(主構造体1)の表面に係止し得る状態にある。すなわち、本体部42の定着部41側の面(底面421)は本体部42の中心に関し、溝部1bを越えて主構造体1側へ張り出し、主構造体1の表面から反力を受ける状態にあり、溝部1b内の充填材6が反力を期待できない場合にも主構造体1から確実に反力を受けることが可能になっている。
定着部材4の本体部42の表面の内、少なくとも他方の構造体(付加構造体2)が接触し、前記曲げモーメントの作用方向に滑りを生じ得る面の定着部41寄りの区間は図1−(a)に示すように滑りの方向に連続する曲面をなし、付加構造体2が主構造体1に対して相対的に回転変形しようとするときに、付加構造体2に本体部42の表面に沿って滑りを生じさせ易くしている。「滑りの方向」は主構造体1と付加構造体2との間に作用する曲げモーメントMの作用方向を指す。
「連続する曲面」は同一曲率の曲面の他、曲率中心が連続的に移動する(曲率半径が連続的に変化することを含む)ときに描かれるような曲面を含み、曲率中心の異なる複数の曲面、あるいは複数の平面が交わってできる稜線(角)の部分がない曲面を言う。連続する曲面をなす「定着部41寄りの区間」は本体部42の外周(定着部41)寄りの縁(底面421の縁)と、本体部42の頂部(挿通孔42a)との中間点より本体部42の外周寄りの区間を指す。中間点より本体部42の頂部(挿通孔42a)寄りの区間では本体部42の表面における接線が主構造体1の付加構造体2側の表面に平行になり易く、稜線が付加構造体2のコンクリートに損傷を与えにくくなることによる。
付加構造体2が本体部42の表面に沿って滑りを生じようとするとき、付加構造体2は回転方向前方側の本体部42の縁(底面421の縁)に対応する部分を回転中心として回転変形しようとするから、本体部42表面の内、少なくとも定着部41寄りの区間が連続する曲面をなすことで、付加構造体2(コンクリート)の本体部42への接触面は抵抗なく滑りを生ずることが可能になり、接触面への損傷の発生が回避され易くなっている。
付加構造体2が本体部42の表面に沿って滑りを生じようとするとき、付加構造体2の本体部42との接触面は少なくとも瞬間的には図1−(a)に示すように定着部材4をせん断力作用方向に見た断面上、付加構造体2と主構造体1との境界面上のいずれかの点、例えば図中、「曲面の中心」で示す、本体部42の中心線上の点を中心として回転しようとする。
このため、付加構造体2の本体部42との接触面の内、本体部42の表面に沿って円弧状に滑りを生じようとする部分(領域)は、本体部42表面が球面であると仮定した場合の、曲げモーメントの作用方向の経線(球の中心を通る平面と球面との交線)を含む曲げモーメントの作用方向に直交する方向(水平せん断力作用方向)に一定の幅を持った帯状の領域になる。その帯状の領域から外れた領域は滑りを生じようとするものの、滑り時の変位量が水平せん断力の作用方向には一様でなくなるため、滑りを生じたときに付加構造体2(コンクリート)に歪みが生ずる可能性がある。
例えば本体部42表面が球面であると仮定した場合に、水平せん断力作用方向の一方側、もしくは他方側寄りの部分に接触している付加構造体2の部分と、本体部42の経線上に接触している部分とでは滑りを生ずるときの変位量が相違するから、付加構造体2は本体部42表面への接触全体が一様に滑りを生ずることができる訳ではない。
このことから、図1−(a)、図2、図3では付加構造体2の接触面が本体部42表面に沿って一様に回転変形すると見なせる、本体部42の経線を含むせん断力作用方向の範囲に一定程度の幅を持たせ、この帯状の幅を含む部分の表面を連続した曲面形状に形成している。
この形状例の場合、本体部42は水平せん断力作用方向の中央部に位置し、挿通孔42aが形成された挿通部42bと、その両側に位置し、本体部42が定着される側の構造体(主構造体1)側に板状の面を持つ平板部42c、42cとに3部分に区画されることになる。図1−(a)、図2、図3では挿通部42bの最上部(頂部)を、挿通孔42aを挿通するアンカー5に螺合するための、あるいはアンカー5を挿通部42bに締結するためのナット5aのすわりをよくするために平坦面に形成している。
図1−(a)、図2、図3に示す定着部材4の本体部42の内、挿通孔42aを含む帯状の挿通部42bの表面は、本体部42全体が例えば球面をなすと仮定した場合の、球面の一部をなし、平板部42cは主構造体1と付加構造体2間の境界面に平行な平面とそれに垂直な平面とで球面を切り落とした状態に相当し、挿通部42bのせん断力作用方向両側の面は両構造体1、2の境界面に垂直な面をなし、水平せん断力を支圧力として受ける面をなす。この場合、挿通部42bのせん断力作用方向両側の面と平板部42cの上面(付加構造体2側の面)は平坦面(平面)をなすが、これらの面は必ずしも平面である必要はなく、曲面であることもある。
平板部42cの上面(付加構造体2側の面)は両構造体1、2の境界面に平行な、または平行に近い面をなすが、平板部42cが一定の厚さを持つことで境界面からの一定の高さを確保し、周面の一部は挿通部42bの連続した曲面に連続する面をなし、図1−(a)に示すように挿通部42bの定着部41寄りに不連続な曲面が形成されないことに寄与している。
定着部41は前記のように主構造体1に表面(境界面)から深さ方向に穿設された溝部1bに嵌入し、溝部1b内に充填される充填材6中に定着されるが、定着部41はせん断力作用方向には側面においてせん断力の反力を支圧力として受け、曲げモーメントの作用方向には充填材6との定着状態を維持しようとする反力を付着力として受ける。この点で、定着部41はある程度の深さを持つことが適切であるため、図2では定着部41の深さに平板部42cの厚さと同等程度の大きさを与えている。
主構造体1と付加構造体2の組み合わせには例えば図7に示すような既存構造物とそれに対して付加的に構築され、既存構造物を耐震(制震)補強する新設構造物の組み合わせ、あるいは新設で並列して構築される構造物の組み合わせ等がある。定着装置3を構成する定着部材4とアンカー5は主構造体1と付加構造体2の内部に定着(埋設)されるから、主構造体1と付加構造体2の構造種別は主として鉄筋コンクリート造になる。
図6〜図11は主構造体1としての既存構造物の片側の構面に平行に、付加構造体2としての耐震(制震)補強架構を構築し、既存構造物の梁に耐震補強架構のスラブを接合した場合の例を示している。以下、この例の詳細を説明する。図8は図7を構面内方向に見たときの主構造体1の梁1aと付加構造体2のスラブ2aとの接合部分を示し、図6は図8に示す梁1aとスラブ2aとの接合部の縦断面を示している。
図6〜図11の例では付加構造体2は主構造体1の構面に対向する柱2bと梁2c、及び耐震要素としてのブレース2dを含む架構と、梁2cのレベルから主構造体1側へ張り出し、主構造体1の梁1aに接合されるスラブ2aを基本的な構成要素としている。
付加構造体2の柱2bは高さ方向には梁2cとの接合部を含む区間単位で区分され、区分された位置に、高さ方向に隣接する柱2b、2bを水平方向に相対移動自在に連結する積層ゴム支承、滑り支承、弾性滑り支承等の免震装置2fが配置され、柱・梁の接合部間に、軸方向の伸縮時に減衰力を発生するダンパ2eを内蔵したブレース2dが架設されている。付加構造体2のスラブ2aは図6、図8、図9に示すように上記の定着装置3を介して主構造体1の梁1aに接合される。
免震装置2fは付加構造体2が単なる耐震補強架構ではなく、地震時の水平力の、主構造体1への入力を軽減しながら、水平力を減衰させる制震補強架構であることの機能を発揮する面から、高さ方向に区分された柱2b、2bを互いに水平方向に相対移動自在に接続する働きをするために介在させられているが、付加構造体2が耐震補強架構であるような場合には必ずしも必要ではない。
図8は図7に示す付加構造体2を構面内方向(主構造体1と付加構造体2が対向する面に平行な方向)に見下ろした様子を示し、図9は図8の平面を示している。図8、図6に示すように定着装置3は構面内方向に多数配列し、高さ方向には1段、もしくは複数段、配列する。高さ方向に複数段、配列する場合は千鳥状に配列することもある。
図8ではスラブ2aの、付加構造体2の梁2c側の端部をその梁2cとの一体性を確保する目的で、梁2cを構成するH形鋼に高さ方向に2段、配列して溶接されたスタッド(アンカー)2gをスラブ2a中に埋設する形で梁2cに接合している。これに対し、スラブ2aの主構造体1側ではスラブ2aの端部を主構造体1に対して構面内の水平方向の軸回りに回転変形可能なように、主構造体1との一体性の効果が強まらないよう、1段に配列した定着装置3を介して接合している。
図6では定着部材4が、定着部41を主構造体1側に向け、本体部42を付加構造体2側に向けた状態で配置されている様子を示しているが、定着部材4の軸方向の向きはいずれでもよく、定着部材4は定着部41を付加構造体2側に向け、本体部42を主構造体1側に向けて配置されることもある。
定着部材4は前記の通り、図6、図14に示すように主構造体1と付加構造体2の内のいずれか一方の構造体の、他方の構造体側の面に形成される溝部1bに嵌入する定着部41と、定着部41に連続し、他方の構造体に埋設される本体部42の2部分からなる。溝部1bに定着部41が嵌入した状態で、溝部1b内にはモルタル、接着剤等の充填材6が充填され、溝部1b内での定着部41の移動が拘束され、定着部41が安定させられる。
定着部材4は一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体2)の境界面に跨った状態で両構造体1、2間に配置され、図14−(a)に示すように定着部41の少なくとも軸方向(深さ方向)の多くの部分がその側の構造体(主構造体1)中に位置する。溝部1bは定着部41の形状に対応して環状に、もしくは定着部41を包囲する環状を含む円板状等、板状に形成される。
本体部42はそれが位置する他方の構造体(付加構造体2)側の表面の少なくとも一部が凸の曲面形状、またはそれに近い多面体形状に形成されている部分を有すればよい。定着部材4は主に鋼材等の金属材料から形成されるが、定着部材4の材料は問われず、繊維強化プラスチック等からも成形される。
定着部材4の本体部42の平面上の中心部、もしくはその付近には前記のように1箇所、もしくは複数箇所のアンカー5が挿通するための挿通孔42aが形成される。アンカー5は挿通孔42aを挿通した状態で一方の構造体(主構造体1)と他方の構造体(付加構造体2)のそれぞれに、両構造体1、2間の相対的な回転変形に伴い、アンカー5自体が伸び変形したときにも抜け出しを生じない程度の十分な定着長さを確保して定着される。
アンカー5は前記のように挿通孔42aの内周面との間にクリアランスを確保した状態で、挿通孔42a内を単純に挿通する場合と、挿通孔42a内を挿通した状態で、挿通孔42a内に接着剤やモルタル等が充填されて本体部42に接続される場合の他、挿通孔42aの内周面に形成された雌ねじに螺合等することにより本体部42に接続される場合等がある。アンカー5が挿通孔42a内を単純に挿通する場合、アンカー5は図6に示すように本体部42の表面側から螺合するナット5aが本体部42の表面に定着されることにより定着部材4に接続される。この場合、アンカー5の、ナット5aが螺合する区間には雌ねじが切られる。
定着部41はその側の構造体(主構造体1)の溝部1bに嵌入した状態で定着されることで、両構造体1、2が対向する方向(構面外方向)に直交する方向(構面内方向)の水平せん断力に抵抗し、両構造体1、2が構面内方向の水平軸回りに相対的に回転変形しようとするときにも、図6に示すようにその側の構造体(主構造体1)に定着された状態を維持する。定着部41は水平せん断力に対してはその方向への投影面積分の抵抗力を発揮し、回転変形時には構面内方向の水平軸回りの曲げモーメントに抵抗するから、これら2通りの外力に対する抵抗力を確保する上で、図14−(b)に示すように環状に閉じた形に形成される。
本体部42も定着部41と同様にその側の構造体(付加構造体2)中に埋設される状態で定着されることで、両構造体1、2が対向する方向(構面外方向)に直交する方向(構面内方向)の水平せん断力に抵抗する。両構造体1、2が構面内方向の水平軸回りに相対的に回転変形しようとするときには、その側の構造体(付加構造体2)が本体部42の表面に沿って滑りを生じ、定着部41側の構造体(主構造体1)に対する相対的な回転変形の発生を助けるよう、曲面状に形成される。
アンカー5は本体部42の挿通孔42aを挿通し、軸方向両端部が主構造体1と付加構造体2に定着される。アンカー5は構面内水平方向のせん断力を負担すると共に、その方向に平行な水平軸回りの回転変形時に曲げモーメントを負担し、回転変形後に復元させる機能を発揮し得るように径と長さが決められる。アンカー5の、両構造体1、2への定着部分には前記のようにナット5aが接続される他、雌ねじが切られる等によりリブが形成されることもある。
図10−(a)は付加構造体2が図7に示す制震補強架構である場合の主構造体1と付加構造体2の曲げ変形状態を、(b)は(a)におけるB部分の拡大図を示している。前記の通り、付加構造体2のスラブ2aは梁2cには高さ方向に並列するスタッド2gを介して接合されることで、一体性を確保している。柱2bは下側に隣接する柱2bとは免震装置2fを介して分離していることで、両柱2b、2bが共に鉛直状態を維持したまま、水平方向に相対移動可能になっている。
図10では特に、免震装置2fとして積層ゴムとその軸方向両端に接合されるフランジからなる積層ゴム支承を使用した場合に、上部のフランジとその上に位置する柱2bとの間に、底面が球面状になった連結部材2hを介在させることで、免震装置2fを挟んで下側に位置する柱2bと上側に位置する柱2bが互いに回転変形し得るように両柱2b、2bを連結している。連結部材2hは上部において上側の柱2bの下端に定着され、下面において免震装置2fの上部フランジに任意の水平軸回りに回転可能に接触している。
この場合、免震装置2fによって上側の柱2bが下側の柱2bに対して水平方向に相対移動可能であると同時に、連結部材2hによって水平軸回りに回転可能であることで、上側の柱2bに接合された梁2cに接合されているスラブ2aは主構造体1の曲げ変形に追従して曲げ変形するときに、スラブ2aが接続した上側の柱2bはその下端部が主構造体1側へ回転しながら、ローラー支承として下側の柱2bに対して主構造体1側へ水平移動する。上側の柱2bが下側の柱2bに対して水平方向に相対移動可能であることは、必ずしも免震装置2fによる必要はなく、スラブ2a自身が面外方向に曲げ変形することにより主構造体1の曲げ変形に追従することによっても生じ得る。
付加構造体2のスラブ2aは上側の柱2bに接合された梁2cに並列するスタッド2gによって剛に接合されているから、スラブ2aが接続した柱2bの下側の、免震装置2f側における水平軸回りの回転によって図11に示すようにスラブ2aの主構造体1側の端部が変形前の水平状態より上に移動(上昇)しようとする。図11は図10のA部分の拡大図であり、一点鎖線が変形前のスラブ2aの縦断面上の中心線を示している。
ここで、図11に示すように主構造体1を構成する柱1cの変形前の状態からの回転角度をθ1、付加構造体2のスラブ2aの主構造体1側の端面の変形前の状態からの回転角度をθ2とする。また主構造体1の柱1cの、付加構造体2のスラブ2aの中心線上の変形前の状態からの水平変位量をδ1、付加構造体2のスラブ2aの端面の、変形前からの水平変位量をδ2とする。θ1は主構造体2の連層耐震壁の層間変形角であるから、θ1=1/250と仮定し、付加構造体2のスラブ2aの厚さを200mm(スラブ2aの中心線から上端、もしくは下端までの距離を100mm)とすれば、δ1=100×tanθ1=100×1/250より0.4mmとなる。
一方、スラブ2aの主構造体1側の端部の、変形前の状態からの鉛直変位量をδvとし、主構造体1の付加構造体2側の柱1cの中心線から、付加構造体2の柱2bの中心線までの距離(離隔距離)をeとすると、図11からδv=e×tanθ2である。ここで、e=2500mmの場合に、δv=5mmと仮定すると、5=2500×tanθ2よりtanθ2=1/500となり、δ2=100×tanθ2=100×1/500より0.2mmとなる。付加構造体のスラブの中心線上の主構造体と付加構造体間の距離δはδ=δ1+δ2であるから、0.6mmとなる。またe=2500mmの場合に、δv=10mmと仮定すると、δ=0.8mmとなる。
δは主構造体1と付加構造体2が相対的に回転変形したときに、主構造体1と付加構造体2が分離する距離であり、アンカー5の伸び変形量に相当するから、このアンカー5の伸び変形量を十分に超える定着長さが主構造体1と付加構造体2側に確保されていれば、アンカー5の抜け出しが発生することはないことになる。結果として、主構造体1と付加構造体2が相対的な回転変形によって分離する事態も回避され、アンカー5の定着状態への影響も発生しないことになる。
図12は図6に示す定着部材4を本体部42側(付加構造体2側)から見た様子を示す。主構造体1と付加構造体2の境界面である主構造体1の梁1aの側面(付加構造体2のスラブ2aの端面)は定着部材4の定着部41から本体部42に移行する区間に位置し、定着部41が主構造体1の梁1a内に、本体部42が付加構造体2のスラブ2a内に位置する。図13は図12における定着部材4を図2、図3に示す挿通部42bと平板部42cからなる本体部42を持つ定着部材4に置き換えた様子を示している。
1……主構造体、1a……梁、1b……溝部、1c……柱、
2……付加構造体、2a……スラブ、2b……柱、2c……梁、2d……ブレース、2e……ダンパ、2f……免震装置、2g……スタッド、2h……連結部材、
3……定着装置、
4……定着部材、41……定着部、42……本体部、421……(張出部の)底面、
42a……挿通孔、42b……挿通部、42c……平板部、
5……アンカー、5a……ナット、
6……充填材。

Claims (3)

  1. 水平力の作用時に互いに独立して挙動し得る主構造体と付加構造体との間に跨って設置され、前記主構造体と前記付加構造体との間で、これら両構造体が互いに対向する方向に直交する水平方向の水平軸回りの曲げモーメントの作用時に両構造体間の相対変形を許容しながら、その水平方向の水平せん断力を伝達する定着部材であり、
    前記主構造体と前記付加構造体のいずれか一方の構造体に定着される定着部と、他方の構造体に埋設され、一部に厚さ方向に貫通する、アンカー挿通用の挿通孔を有し、前記他方の構造体側の表面が前記両構造体間の相対変形時に前記他方の構造体に滑りを生じさせ得る凸の形状をなすと共に、前記定着部側の面が平坦な面をなす本体部を持ち、
    少なくとも前記曲げモーメントの作用方向両側の前記定着部の外法は前記本体部の外法より小さく、前記本体部の前記定着部側の面が、前記定着部が定着される側の構造体に対し、前記曲げモーメントの作用方向に変位しようとするときに、前記定着部が定着される側の構造体の表面に直接、もしくは間接的に係止し得る状態にあり、
    前記本体部の前記表面の内、少なくとも前記他方の構造体が接触し、前記曲げモーメントの作用方向に前記滑りを生じ得る面の前記定着部寄りの区間は前記滑りの方向に連続する曲面をなしていることを特徴とする定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材。
  2. 前記定着部はそれが定着される側の構造体に、その表面側から形成された溝部に嵌入し、前記本体部の前記定着部側の面は前記本体部の中心に関し、前記溝部の外周側で前記定着部が定着される側の構造体の表面に係止し得る状態にあることを特徴とする請求項1に記載の定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材。
  3. 前記本体部は前記せん断力作用方向の中央部に位置し、前記挿通孔が形成された挿通部と、その両側に位置し、前記本体部が定着される側の構造体側に板状の面を持つ平板部とに区画されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の定着維持機能付きせん断力伝達用定着部材。
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