以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
(第1の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体素子に係る。実施形態に係る窒化物半導体素子は、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどの半導体装置を含む。半導体発光素子は、例えば、発光ダイオード(LED)及びレーザダイオード(LD)などを含む。半導体受光素子は、フォトダイオード(PD)などを含む。電子デバイスは、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、電界トランジスタ(FET)及びショットキーバリアダイオード(SBD)などを含む。
図1(a)〜図1(d)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の構成を例示する模式図である。
図1(a)は、本実施形態に係る窒化物半導体素子110の構成を例示する模式的断面図である。図1(b)は、積層体におけるAl組成比(CAl)を例示するグラフ図である。図1(c)は、積層体における成長温度GT(形成温度)を例示するグラフ図である。図1(d)は、積層体におけるa軸の格子間隔Ldを例示するグラフ図である。
図1(a)に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体素子110は、下地層60と、積層体50と、機能層10と、を含む。下地層60は、主面60aを有する。積層体50は、下地層60の主面60aと、機能層10との間に設けられる。積層体50は、第1積層中間層50aを含む。
ここで、主面60aに対して垂直な軸をZ軸とする。Z軸に対して垂直な1つの軸をX軸方向とする。Z軸とX軸とに対して垂直な方向をY軸とする。機能層10は、積層体50とZ軸に沿って積層される。本願明細書において、「積層」とは、互いに接して重ねられる場合の他に、間に他の層が挿入されて重ねられる場合も含む。また、「上に設けられる」とは、直接接して設けられる場合の他に、間に他の層が挿入されて設けられる場合も含む。
この例では、窒化物半導体素子110は、基板40をさらに含む。基板40と積層体50(例えば第1積層中間層50a)との間に下地層60が配置される。基板40は、主面40aを有している。基板40の主面40aは、下地層60の主面60aに対して平行である。
基板40には、例えば、シリコン基板が用いられる。基板40は、例えば、Si(111)基板である。ただし、実施形態において、基板40の面方位は、(111)面でなくても良く、例えば、(11n)(n:整数)で表される面方位や(100)面でも良い。(110)面の基板40を用いると、例えば、シリコン基板と窒化物半導体層との格子不整合が小さくなるため好ましい。
また、基板40として、酸化物層を含む基板を用いることができる。例えば、基板40としては、SOI(silicon on insulator)基板を用いることができる。
基板40は、機能層10の格子間隔とは異なる格子定数を有する材料、または、機能層10の熱膨張係数とは異なる熱膨張係数を有する材料を含む。
例えば、基板40の材料として、サファイア、スピネル、GaAs、InP、ZnO、Ge、SiGeまたはSiCを用いることができる。
窒化物半導体素子110は、基板40が除去された状態で使用される場合がある。また、窒化物半導体素子110は、下地層60と、積層体50と、が除去された状態で使用される場合がある。窒化物半導体素子110は、機能層10の一部が除去された状態で使用される場合がある。
主面60aに対して平行な1つの軸を第1軸とする。第1軸の方向は、X−Y平面内の任意の方向である。第1軸として、例えば、結晶のa軸を用いることができる。
下地層60の主面60aに対して垂直な軸(Z軸)が、下地層60の結晶のc軸に対して、実質的に平行になる場合、下地層60のa軸は、Z軸に対して実質的に垂直である。なお、a軸は、X−Y平面内の任意の方向である。
この場合、積層体50に含まれる結晶のa軸は、Z軸に対して垂直である。機能層10に含まれる結晶のa軸は、Z軸に対して垂直である。下地層60におけるa軸、積層体50におけるa軸、及び、機能層10におけるa軸は、互いに実質的に平行である。
以下では、結晶のc軸が積層方向(Z軸)に実質的に平行な場合について説明する。すなわち、a軸はZ軸に対して実質的に垂直であり、X−Y平面と平行である。ただし、後述するように、実施形態において、第1軸は、a軸以外でも良い。
下地層60は、AlNバッファ層62と、AlGaN下地層63と、を有する。
AlNバッファ層62は、AlGaN下地層63と基板40との間に配置される。AlNバッファ層62は、基板40の上に形成され、基板40に接している。
AlNとシリコンとの化学反応は生じ難い。基板40に接して、AlNを含むAlNバッファ層62を設けることで、シリコンとガリウムとの反応によって生じるメルトバックエッチングなどが抑制される。AlNバッファ層62の厚さは、例えば20nm(ナノメートル)以上400nm以下が好ましく、例えば約100nmである。
AlGaN下地層63は、AlNバッファ層62の上に形成される。AlGaN下地層63は、AlとGaとNとを含む。AlGaN下地層63のAl組成比は、例えば0.1以上0.9以下が好ましい。より好ましくは、0.2以上0.6以下であり、例えば0.25である。Al組成比は、III族元素の原子の個数に占めるAl元素の原子の個数の割合である。AlGaN下地層63は一層に限らず、Al組成比の異なる複数の層が積層されていてもよい。この場合、AlNバッファ層62から機能層10に向かう方向に、Al組成比を徐々に小さくすることが好ましい。Al組成比の異なる複数の層を積層することで、格子不整合によって生じる欠陥が抑制される。
AlGaN下地層63により、メルトバックエッチングの抑制効果を増大させることができる。また、AlGaN下地層63内に圧縮応力が形成され、結晶成長後の降温過程において窒化物半導体(例えば機能層10)と基板40との間の熱膨張係数の差によって生じる引っ張り応力が低減される。これにより、クラックの発生を抑制することができる。AlGaN下地層63の厚さは、例えば100nm以上500nm以下が好ましく、例えば約250nmである。
互いに組成が異なる複数の窒化物半導体層を積層した場合に、上に積層する窒化物半導体層(例えば、AlGaN下地層63)は、下に形成された窒化物半導体層(例えば、AlNバッファ層62)の格子間隔(格子の長さ)に整合するように形成される。このため、窒化物半導体層の実際の格子間隔は、無歪みの格子間隔(格子定数)とは異なる。
本明細書において、窒化物半導体の無歪みの格子間隔を「格子定数」とする。形成した窒化物半導体層の実際の格子の長さを「格子間隔」とする。格子定数は、例えば、物性定数である。格子間隔は、例えば、形成された窒化物半導体素子に含まれる窒化物半導体層における実際の格子の長さのことである。格子間隔は、例えば、X線回折測定から求められる。
この例では、下地層60は、GaN下地層61をさらに含む。GaN下地層61とAlNバッファ層62との間にAlGaN下地層63が配置される。すなわち、GaN下地層61は、AlGaN下地層63の上に形成される。AlGaN下地層63の上にGaN下地層61を設けることで、積層体50の結晶成長中に圧縮応力が生じ易くなる。これにより、クラックの発生を抑制することができる。
AlGaN下地層63の格子間隔に比べ、格子定数の大きいGaN下地層61を形成する際、GaN下地層61がAlGaN下地層63の格子間隔に格子整合するように形成され、GaN下地層61には圧縮応力が形成される。GaN下地層61の膜厚が増加すると、GaN下地層61において格子緩和が生じ、GaN下地層61の格子間隔は無歪みのGaNの格子間隔に近づく。GaN下地層61の実際の格子間隔が、無歪みのGaNの格子間隔(GaNの格子定数)に実質的に同じになった場合、さらに膜厚を増加させても、GaN下地層61に加わる圧縮応力は生じず、基板40から受ける引っ張り応力の影響を受けやすくなる。GaN下地層61の厚さを適切に設定することで、GaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔が無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔(GaNの格子定数)よりも小さい状態を維持できる。GaN下地層61の厚さは、例えば100nm以上1000nm以下が好ましく、例えば約400nmである。なお、GaN下地層61は、必要に応じて設けられ、場合によっては省略しても良い。
下地層60の上に積層体50が形成される。積層体50は、GaN中間層51(第1GaN中間層51a)と、高Al組成層52(第1高Al組成層52a)と、低Al組成層53(第1低Al組成層53a)と、を有する。GaN中間層51は、低Al組成層53と下地層60との間に設けられる。高Al組成層52は、低Al組成層53と下地層60との間に設けられる。すなわち、低Al組成層53は、高Al組成層52の上に設けられ、高Al組成層52は、GaN中間層51の上に設けられる。
高Al組成層52(第1高Al組成層52a)には、Alx1Ga1−x1N(0<x1≦1)が用いられる。高Al組成層52(第1高Al組成層52a)には、例えばAlNを用いることができる。低Al組成層53(第1低Al組成層53a)には、Aly1Ga1−y1N(0<y1<1、y1<x1)が用いられる。
GaN中間層51の厚さは、例えば100nm以上1000nm以下が好ましく、例えば約300nmである。
高Al組成層52におけるAl組成比は、例えば0.5以上1.0以下が好ましく、例えば約1.0である。高Al組成層52におけるAl組成比が0.5よりも小さいと、高Al組成層52が十分に緩和し難い。高Al組成層52の厚さは、例えば5nm以上100nm以下が好ましく、例えば約12nmである。高Al組成層52の厚さが5nmよりも薄いと、高Al組成層52が十分に緩和し難い。高Al組成層52の厚さが100nmよりも厚いと、高Al組成層52の結晶品質が劣化しやすい。例えば、表面平坦性が悪化し、ピットが生じやすい。高Al組成層52の厚さは、更に好ましくは10nm以上50nm以下である。高Al組成層52の厚さが50nm以下のときには、更に結晶品質の劣化が抑えられる。
低Al組成層53は、AlとGaとNとを含む。低Al組成層53におけるAl組成比は、例えば0.1以上0.9以下が好ましく、例えば約0.5である。低Al組成層53の厚さは、例えば5nm以上100nm以下が好ましく、例えば約25nmである。低Al組成層53のAl組成比及び厚さに関しては、後述する。
積層体50の上に機能層10が形成される。
窒化物半導体素子110が発光素子である場合には、機能層10は、例えば、積層体50の上に形成されたn形半導体層11と、n形半導体層11の上に形成された発光層13と、発光層13の上に形成されたp形半導体層12と、を含む。発光層13は、GaNの複数の障壁層と、障壁層の間に設けられInGaN(例えば、In0.15Ga0.85N)層と、を含む。発光層13は、MQW(Multi-Quantum Well)構造、または、SQW(Single-Quantum Well)構造を有する。機能層10の厚さは、例えば1マイクロメートル(μm)以上5μm以下が好ましく、例えば約3.5μmである。
また、窒化物半導体素子110は、例えば、窒化ガリウム(GaN)系HEMT(High Electron Mobility Transistor)の窒化物半導体素子に用いることができる。このときは、機能層10は、例えば、不純物を含まないアンドープのAlz1Ga1−z1N(0≦z1≦1)層と、アンドープまたはn形のAlz2Ga1−z2N(0≦z2≦1、z1<z2)層と、の積層構造を有する。
なお、積層体50の上に(例えば積層体50と機能層10との間に)GaN層11i(アンドープのGaN層)を設けても良い。GaN層11i(アンドープのGaN層)を設けることで、GaN層11iに圧縮歪み(応力)が形成され、よりクラックが抑制される。
図1(b)、図1(c)及び図1(d)において、縦軸は、Z軸方向の位置である。
図1(b)の横軸は、Al組成比CAlである。図1(b)に表したように、積層体50において、Al組成比CAlは、GaN中間層51において実質的に0であり、高Al組成層52において実質的に1であり、低Al組成層53において0よりも高く1よりも低い。
図1(c)の横軸は成長温度GTである。図1(c)に表したように、例えば、GaN中間層51の成長温度GTは高い。GaN中間層51を高くすることで、格子緩和が抑制され、GaN中間層51に形成される圧縮応力を大きくすることができる。成長温度GTは、例えば1000℃以上1200℃以下が好ましく、例えば約1130℃である。
高Al組成層52の成長温度GTは低い。高Al組成層52の成長温度GTは、例えば500℃以上、1050℃以下が好ましく、例えば約800℃である。より好ましくは、600℃以上、850℃以下である。高Al組成層52の成長温度GTが500℃よりも低いと、不純物が取り込まれ易い。また、立方晶AlGaNなどが成長され、結晶転位が過度に生じてしまう。そして、高Al組成層52の結晶品質が過剰に劣化してしまう。高Al組成層52の成長温度GTが1050℃よりも高いと、格子緩和が生じにくい。そのため、歪みが緩和されず、高Al組成層52に引っ張り歪みが導入され易くなる。さらに、低Al組成層53や機能層10を高Al組成層52の上に形成するときに、圧縮応力を適切にかけられず、結晶成長後の降温過程で、クラックが発生しやすい。これに対して、高Al組成層52の成長温度GTが例えば800℃である場合には、高Al組成層52は、格子緩和し易くなる。その結果、GaN中間層51や下地層61からの歪みの影響を実質的に受けないで、高Al組成層52を形成することができる。すなわち、高Al組成層52の形成の初期から、GaN中間層51や下地層61からの引っ張り歪みを受けにくくなる。このようにして、格子緩和した高Al組成層52がGaN中間層51の上に形成される。
低Al組成層53の成長温度GTは、高い。低Al組成層53の成長温度GTは、例えば例えば800℃以上1200℃以下が好ましく、例えば1130℃である。
図1(d)の横軸は、a軸の格子間隔Ldである。図1(d)には、無歪みのGaNのa軸の格子間隔dg(例えば、0.3189nm)と、無歪みのAlNのa軸の格子間隔da(例えば、0.3112nm)と、が示されている。無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)のa軸(第1軸)の格子間隔daは、Alx1Ga1−x1N(0<x1≦1)のa軸(第1軸)の格子定数に相当する。例えば、高Al組成層52がAlNである場合、無歪みの高Al組成層52のa軸(第1軸)の格子間隔daは、AlNのa軸(第1軸)の格子定数に相当する。無歪みのGaNの格子間隔dgは、無歪みのAlNの格子間隔daよりも大きい。
図1(d)に表したように、GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の格子間隔は大きく、高Al組成層52におけるa軸(第1軸)の格子間隔は小さい。GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の実際の格子間隔は、例えば無歪みのGaNのa軸(第1軸)の格子間隔dgよりも小さく、高Al組成層52におけるa軸(第1軸)の実際の格子間隔は、例えば無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)のa軸(第1軸)の格子間隔daよりも大きい。高Al組成層52がAlNである場合、高Al組成層52の実際の格子間隔は、例えば無歪みのAlNのa軸(第1軸)の格子定数daよりも大きい。すなわち、積層体50におけるa軸(第1軸)の格子間隔は、GaN中間層51で最も大きく、高Al組成層52で急激に小さくなる。低Al組成層53におけるa軸(第1軸)の格子間隔は、高Al組成層52におけるa軸(第1軸)の格子間隔と同じか、それよりも大きい。
GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の格子間隔が小さいほど、GaN中間層51に加わる圧縮応力が大きくなり好ましい。加えて、GaN中間層51の上に形成される高Al組成層52の格子間隔がより小さくなる。GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の格子間隔は、GaN中間層51形成時の、例えば、アンモニア分圧によって変化する。例えば、アンモニア分圧が大きいほど、GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の格子間隔が小さくなる。アンモニア分圧は、例えば、0.2以上、0.5以下が好ましい。また、GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の格子間隔は、GaN中間層51形成時の、例えば、V族原子の原料ガスとIII族原子の原料ガスとの比(V/III比)によって変化する。例えば、V/III比が大きいほど、GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の格子間隔が小さくなる。アンモニア分圧は、例えば、2000以上、8000以下が好ましい。
ここで、結晶における歪みの緩和(格子の緩和)の度合いに対応するパラメータとして、緩和率α(格子緩和率)を導入する。
高Al組成層52が、GaN中間層51の上に成長されるとき、高Al組成層52において格子緩和が生じる。高Al組成層52であるAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)の緩和率αを、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)の第1軸(例えばa軸)の格子間隔daとの差の絶対値に対する、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、高Al組成層52(第1高Al組成層52a)の第1軸(例えばa軸)の実際の格子間隔Daと、の差の絶対値の比とする。すなわち、高Al組成層52の緩和率αは、|dg―Da|/|dg―da|である。無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgは、GaNの格子定数に相当する。無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)の第1軸(例えばa軸)の格子間隔daは、Alx1Ga1−x1N(0<x1≦1)の第1軸(例えばa軸)の格子定数に相当する。
なお、無歪みのAlXGa1−XNの第1軸の格子間隔(格子定数)は、例えば、無歪みのAlNの第1軸の格子間隔(格子定数)と無歪みのGaNの第1軸の格子間隔(格子定数)からベガード則を用いて算出される値である。
高Al組成層52の緩和率αは、高Al組成層52の成長時の成長温度GTにより変化する。さらに、緩和率αは、成長速度、V族原子の原料ガスとIII族原子の原料ガスとの比(V/III比)、及び、アンモニア分圧などよって変化する。V/III比は、単位時間当たりに供給されるV族元素の原子の数の、単位時間当たりに供給されるIII族元素の原子の数に対する比である。アンモニア分圧は、成膜中に用いるガスの全体の圧力に対する、アンモニアの圧力の比である。
図2(a)〜図2(d)は、窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。
これらの図は、高Al組成層52がAlNである場合において、AlNの成長時の形成の、成長温度GT、成長速度GR、V/III比(V/III)、及び、アンモニア分圧Ppを変えたときの緩和率αの変化の例を表している。
図2(a)は、V/III比が1130で、成長速度GRが3.9nm/分(min)で、アンモニア分圧Ppが0.06のときに、成長温度GTを変えたときの、緩和率αの変化を表している。図2(a)に表したように、例えば、高Al組成層52であるAlNの成長時の成長温度GTが1130℃の場合には、高Al組成層52の緩和率αは0.43である。成長温度GTが650℃の場合には、緩和率αは0.71である。このように、成長温度GTが低いと、緩和率αが大きくなる。緩和率αを大きくするためには、GaN中間層51の成長温度GTよりも低い成長温度GTで形成することが好ましい。
図2(b)は、V/III比が1130で、成長温度GTが800℃で、アンモニア分圧Ppが0.06のときに、成長速度GRを変えたときの、緩和率αの変化を表している。図2(b)に表したように、例えば、高Al組成層52であるAlNの成長速度GRが、8.82nm/分の場合には、緩和率αは0.35である。成長温度GRが3.92nm/分の場合には、緩和率αは0.57である。このように、成長速度GRが遅いと、緩和率αが大きくなる。緩和率αを大きくするためには、GaN中間層51の成長速度よりも小さい成長速度で形成することが好ましい。例えば、2nm/分以上、10nm/分が好ましい。より好ましくは、3nm/分以上、8nm/分以下である。
図2(c)は、成長温度GTが800℃で、成長速度GRが3.9nm/分で、アンモニア分圧Ppが0.06のときに、V/III比を変えたときの、緩和率αの変化を表している。図2(c)に表したように、例えば、高Al組成層52であるAlNの成長時のV/III比が、1800の場合には、緩和率αは0.44である。V/III比が22600の場合には、緩和率αは0.72である。このように、V/III比が大きいと、緩和率αが大きくなる。緩和率αを大きくするためには、V/III比を、例えば、1500以上、100000以下にすることが好ましい。より好ましくは、10000以上、50000以下である。V/III比が1500よりも小さくなると、高Al組成層52が十分に緩和し難い。V/III比が100000よりも大きくなると、V族原子の原料ガスであるアンモニアとIII族原子の原料ガスであるアルミニウムとの気相反応が過剰となり、高Al組成層52の結晶品質が低下する。
図2(d)は、成長温度GTが800℃で、成長速度GRが3.9nm/分で、V/III比が11300のときに、アンモニア分圧Ppを変えたときの、緩和率αの変化を表している。図2(d)に表したように、例えば、高Al組成層52であるAlN成長時のアンモニア分圧Ppが、0.009の場合には、緩和率αは0.43である。アンモニア分圧Ppが0.111の場合には、緩和率αは0.72である。このように、アンモニア分圧Ppが大きいと、緩和率αが大きくなる。緩和率αを大きくするためには、アンモニア分圧Ppを、例えば、0.01以上、0.5以下にすることが好ましい。より好ましくは、0.04以上、0.3以下である。アンモニア分圧Ppが0.01よりも小さくなると、高Al組成層52が十分に緩和し難い。アンモニア分圧Ppが0.5よりも大きくなると、V族原子の原料ガスであるアンモニアとIII族原子の原料ガスであるアルミニウムとの気相反応が過剰となり、高Al組成層52の結晶品質が低下する。
緩和率αが大きくなることは、高Al組成層52の実際のa軸(第1軸)の格子間隔Daが小さくなることに相当する。
高Al組成層52が完全に格子緩和し、高Al組成層52のa軸(第1軸)の実際の格子間隔Daが無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)のa軸(第1軸)の格子間隔daと等しくなると、GaN中間層53の結晶情報を引き継ぐことができず、結晶軸の揺らぎが生じ、結晶品質が大幅に劣化する。また、格子緩和にともなうミスフィット転位が増大し、結晶品質が劣化する。したがって、高Al組成層52のa軸(第1軸)の実際の格子間隔Daは、無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)のa軸(第1軸)の格子間隔daよりも大きいことが好ましい。
続いて、低Al組成層53が高Al組成層52の上に形成される。
実施形態においては、低Al組成層53のAl組成比は、高Al組成層52の緩和率α以下である。このとき、低Al組成層53の第1軸(例えばa軸)の格子定数は、高Al組成層52の実際の格子間隔よりも大きい。低Al組成層53は、高Al組成層52の格子に格子整合するように、圧縮歪みを受けながら成長する。そのため、低Al組成層53の第1軸(例えばa軸)の実際の格子間隔Dagが、高Al組成層52の実際の第1軸(例えばa軸)の格子間隔Daと等しい、または、それよりも大きい。
これに対し、低Al組成層53のAl組成比が高Al組成層52の緩和率αよりも大きい場合には、低Al組成層53の第1軸(例えばa軸)の格子定数は、高Al組成層52の格子間隔よりも小さい。そのため、低Al組成層53は引っ張り歪みを受けながら成長し、低Al組成層53の第1軸(例えばa軸)の格子間隔が、高Al組成層52の実際の第1軸(例えばa軸)の格子間隔Daよりも小さくなる。このため、引っ張り歪みが生じ、クラックが生じやすい。
すなわち、高Al組成層52の上に、不適正なAl組成比の低Al組成層53を形成すると、圧縮歪みは形成されず、クラックを抑制することはできない。高Al組成層52の緩和率αを反映した、適切なAl組成比を有する低Al組成層53を形成することで、適正な圧縮歪みが形成され、クラックを抑制することができる。すなわち、Al組成比が高Al組成層52の緩和率α以下となる低Al組成層53を形成することで、良好な特性が得られる。
低Al組成層53を厚さは、例えば5nm以上100nm以下であることが好ましい。低Al組成層53の厚さが5nmよりも薄いと、クラックの抑制効果、または、転位の低減効果が得られにくい。低Al組成層53の厚さが100nmよりも厚いと、転位を低減させる効果が飽和するだけでなく、クラックが生じやすくなる。低Al組成層53の厚さは、より好ましくは50nm未満である。低Al組成層53の厚さを50nm未満にすることで、クラックおよび転位密度を効果的に低減することができる。
例えば、高Al組成層52がAlNであって、低Al組成層53がAlXGa1−XNである場合、AlN層の上にAlXGa1−XN層を成長させる場合、AlXGa1−XN層が薄い状態(すなわち成長の初期)では、AlXGa1−XN層は、AlN層の実際の格子間隔に格子整合するように形成され、歪みを受けながら成長する。そして、AlXGa1−XNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、成長するAlXGa1−XNの格子間隔は、歪みを受けない状態のAlXGa1−XNの格子間隔に近づく。AlN層の上に、AlN層の実際の格子間隔よりも格子定数の大きなAlXGa1−XN層を、格子定数よりも小さな格子間隔で形成することで、AlXGa1−XNが圧縮歪みを受けながら成長し、圧縮歪みが基板40表面に蓄えられる。その結果、基板40には上に凸状の反りが生じる。圧縮歪みを結晶成長中に予め蓄えておくことで、成長終了後の降温時に熱膨張係数差によって生じるクラックの発生を抑制することができる。低Al組成層53のAl組成比を、高Al組成層52の緩和率αを反映した値に設定し、さらに膜厚を適正な値(上記の値)に設定することで、クラックを抑制することに加え、転位を低減することができる。
低Al組成層53は、複数の層を含むことができる。この場合も、低Al組成層53のAl組成比を高Al組成層52の緩和率α以下にすることで、クラックを抑制することができる。例えば、低Al組成層53におけるAl組成比が、基板40側から成長方向に沿って、段階的に小さくなるステップ状、または、漸減状に変化していても良い。このような構成により、低Al組成層53の格子緩和が抑制でき、低Al組成層53に形成される圧縮応力を増大できる。また、低Al組成層53とその上に形成される層との界面において、基板界面で生じた転位の屈曲が生じ、機能層10に到達する転位を低減できる。
図1(c)に表したように、低Al組成層53の成長温度GTは、例えば約1130℃である。低Al組成層53の成長温度GTが高Al組成層52の成長温度GTよりも80℃以上高いと、低Al組成層53が高Al組成層52の実際の格子間隔に格子整合するように成長する効果が、より大きく得られる。例えば、低Al組成層53の成長温度GTが880℃以上のときには、格子整合するように成長する厚さが増大する。その結果、圧縮歪みが発生し易くなり、クラックが抑制し易くなる。また、転位の低減効果がより大きく得られる。また、低Al組成層53の成長温度GTはGaN中間層51の成長温度GT以上のであることが好ましい。これにより、低Al組成層53の平坦性が向上し、その上に形成する窒化物半導体層(例えば、機能層10)の結晶性が向上する。
高Al組成層52と、低Al組成層53と、GaN中間層51と、の合計の厚さは、例えば50nm以上、2000nm以下であることが好ましい。この合計の厚さが50nm未満で、これらの層の積層数が多いと、積層体50の所望な厚さを得るための、成長温度GTの昇温過程および降温過程が過度に増える。そのため、生産性が悪化する。一方、この合計の厚さが2000nmよりも厚いと、圧縮歪みの蓄積が不十分となり、クラックが発生しやすい。この合計の厚さは、より好ましくは300nm以上、1000nm未満である。この合計の厚さを300nm以上、1000nm未満とすることで、平坦な表面を得易く、クラックと、転位と、を低減する効果が発揮されやすい。
なお、GaN中間層51の一部に、図示しないSiのδドープ層が設けられていても良い。例えば、GaN中間層51の内部にδドープ層が設けられていても良い。例えば、GaN中間層51の高Al組成層52の側の表面にδドープ層が設けられていても良い。例えば、GaN中間層51の下地層60の側の表面にδドープ層が設けられていても良い。高Al組成層52の一部に、図示しないSiのδドープ層が設けられていても良い。低Al組成層53の一部に、図示しないSiのδドープ層が設けられていても良い。これらのδドープ層を設けることで、δドープ層での転位の遮蔽、または、転位の屈曲が生じ、δドープ層の上に形成される半導体層(例えば、機能層10)に到達する転位をより効果的に低減できる。δドープ層としては例えばSiを5x1017cm−3以上2x1019cm−3以下の濃度で含有する層が挙げられる。また、厚さは例えば0.3nm以上200nm以下である。しかしながら濃度及び厚さはこれに限定されるものではない。
本実施形態に係る窒化物半導体素子110においては、積層体50は、機能層10と、下地層60の間に設けられる。積層体50は、GaN中間層51と、高Al組成層52と、低Al組成層53と、がこの順に積層された構造を有する。無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)の第1軸(例えばa軸)の格子間隔daと、の差の絶対値に対する、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、高Al組成層52の第1軸(例えばa軸)の実際の格子間隔Daと、の差の比を高Al組成層の緩和率αとしたとき、低Al組成層53のAlの組成比は、高Al組成層52の緩和率α以下である。これにより、結晶成長時に圧縮応力をかけクラックの発生を抑制する効果が得られる。また、転位を低減する効果が得られる。そのため、機能層10におけるクラックおよび転位などが低減される。窒化物半導体素子110によれば、基板40(例えばシリコン基板)上に形成したクラックが少ない高品位の窒化物半導体素子が得られる。
図3(a)〜図3(d)は、第1の実施形態に係る別の窒化物半導体素子の構成を例示する模式図である。
図3(a)は、本実施形態に係る別の窒化物半導体素子120の構成を例示する模式的断面図である。図3(b)〜図3(d)は、積層中間層における、Al組成比(CAl)、成長温度GT、及び、a軸の格子間隔Ldをそれぞれ例示するグラフ図である。
図3(a)に表したように、窒化物半導体素子120は、下地層60と、積層体50と、機能層10と、を含む。下地層60及び機能層10の構成は、窒化物半導体素子110に関して説明したのと同様なので説明を省略する。なお、この場合も、積層体50と機能層10との間にGaN層11i(アンドープのGaN層)を設けても良い。
窒化物半導体素子120における積層体50の構成は、窒化物半導体素子110とは異なる。以下では、積層体50に関して説明する。
窒化物半導体素子120においては、積層体50は、第1積層中間層50aと、第2積層中間層50bと、を含む。第1積層中間層50aは、下地層60と機能層10の間に設けられる。第2積層中間層50bは、第1積層中間層50aと機能層10との間に設けられる。
第1積層中間層50aは、下地層60の上に設けられた第1GaN中間層51aと、第1GaN中間層51aの上に設けられた第1高Al組成層52aと、第1高Al組成層52aの上に設けられた第1低Al組成層53aと、を含む。
第2積層中間層50bは、第1積層中間層50aの上に設けられた第2GaN中間層51bと、第2GaN中間層51bの上に設けられた第2高Al組成層52bと、第2高Al組成層52bの上に設けられた第2低Al組成層53bと、を含む。
第1及び第2GaN中間層51a、51bの構成は、窒化物半導体素子110に関して説明したGaN中間層51の構成と同様である。第1及び第2高Al組成層52a、52bの構成は、窒化物半導体素子110に関して説明した高Al組成層52の構成と同様である。第1及び第2低Al組成層53a、53bの構成は、窒化物半導体素子110に関して説明した低Al組成層53の構成と同様である。
第1高Al組成層52aには、Alx1Ga1−x1N(0<x1≦1)が用いられる。
第1低Al組成層53aには、Aly1Ga1−y1N(0<y1<1、y1<x1)が用いられる。
第2高Al組成層52bには、Alx2Ga1−x2N(0<x2≦1)が用いられる。
第2低Al組成層53bには、Aly2Ga1−y2N(0<y2<2、y2<x2)が用いられる。
第1低Al組成層53aにおけるAl組成比は、第1高Al組成層52aの緩和率(第1緩和率αa:無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)の第1軸(例えばa軸)の格子間隔daと、の差の絶対値に対する、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、第1高Al組成層52aの第1軸(例えばa軸)の実際の格子間隔Da1と、の差の絶対値の比)以下である。
第2低Al組成層53bにおけるAl組成比は、第2高Al組成層52bの緩和率(第2緩和率αb:無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、無歪みのAlx2Ga1−x2N(0<x2≦1)の第1軸(例えばa軸)の格子間隔da2と、の差の絶対値に対する、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、第2高Al組成層52bの第1軸(例えばa軸)の実際の格子間隔Da2と、の差の絶対値の比)以下である。
窒化物半導体素子120においては、GaN中間層、高Al組成層及び低Al組成層を含む組(周期)が2つ設けられている。実施形態は、これに限らず、組(周期)の数は、3以上でも良い。
窒化物半導体素子120においても、基板40(例えばシリコン基板)上に形成したクラックおよび転位が少ない窒化物半導体素子が得られる。
窒化物半導体素子120において、第2積層中間層50bの構成は、第1積層中間層50aと異なっても良い。例えば、第2GaN中間層51bの厚さは、第1GaN中間層51aの厚さよりも厚くても良い。積層に伴って蓄えられる歪みの量の変化に対応して構造を変化させることで、よりクラックや転位を低減する効果が得られる。
図3(d)に表したように、第1及び第2GaN中間層51a、51bにおけるa軸の格子間隔は大きく、第1及び第2高Al組成層52a、52bにおけるa軸の格子間隔は小さい。第1及び第2GaN中間層51a、51bにおける実際のa軸の格子間隔は、例えば無歪みのGaNのa軸の格子間隔dgよりも小さい。第1高Al組成層52aにおける実際のa軸の格子間隔は、例えば、無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)のa軸の格子間隔da1よりも大きい。第2高Al組成層52bにおける実際のa軸の格子間隔は、例えば、無歪みのAlx2Ga1−x2N(0<x2≦1)のa軸の格子間隔da2よりも大きい。すなわち、第1及び第2積層中間層50a、50bにおけるa軸の格子間隔は、第1及び第2GaN中間層51a、51bで最も大きく、第1及び第2高Al組成層52a、52bで急激に小さくなる。第1及び第2低Al組成層53a、53bにおけるa軸の格子間隔は、第1及び第2高Al組成層52a、52bにおけるa軸の格子間隔と同じか、それよりも大きい。
第1積層中間層50aにおける第1GaN中間層51a、第1高Al組成層52a、および、第1低Al組成層53aの形成条件や特性などは、窒化物半導体素子110に関して説明した、積層体50における高Al組成層52、低Al組成層53、GaN中間層51の形成条件や特性と同様である。
第1積層中間層50aの上に、第2積層中間層50bの第1高Al組成層51bが形成される。
図3(c)に表したように、第2GaN中間層51bの成長温度GTは、例えば約1130℃である。第2GaN中間層51bの厚さは、例えば100nm以上1000nm以下が好ましく、例えば約300nm。
第2GaN中間層51bの上に第2高Al組成層52bが形成される。第2高Al組成層52bの厚さは、例えば5nm以上100nm以下が好ましく、例えば約12nmである。第2高Al組成層52bの成長温度GTは、例えば500℃以上、1050℃以下が好ましく、例えば約800℃である。このような温度で形成することで、第2高Al組成層52bは、格子緩和し易くなる。
これにより、図3(d)に表したように、第2高Al組成層52bの実際のa軸の格子間隔Ldは、第1GaN層51aのa軸の格子間隔、及び、第2GaN中間層51bのa軸の格子間隔と比較して、歪みを受けない状態のAlx2Ga1−x2N(0<x2≦1)の格子間隔(格子定数)に急激に近づく。そのため、第2高Al組成層52bの形成の初期から、下地となる第1GaN中間層51aからの引っ張り歪みを受けにくくなる。その結果、下地となる第1GaN中間層51aからの歪みの影響を受けない状態で、第2高Al組成層52bを形成することができる。このようにして、急激に格子緩和した第2高Al組成層52bが第1GaN中間層51aの上に形成される。
続いて、Alの組成比が第2高Al組成層52bの第2緩和率αb以下の第2低Al組成層53bが第2高Al組成層52bの上に形成されている。第2低Al組成層53bの厚さは、例えば5nm以上、100m以下であることが好ましい。第2低Al組成層53bの厚さは、より好ましくは50nm未満である。第2低Al組成層53bの厚さを50nm未満にすることで、クラック及び転位密度を効果的に低減することができる。第2低Al組成層53bの厚さは、例えば約25nmである。
例えば、第2高Al組成層52bがAlNであって、第2低Al組成層53bがAlXGa1−XNである場合、AlXGa1−XNは、厚さが薄い状態すなわち成長の初期では、AlN層の実際の格子間隔に格子整合するように形成され、歪みを受けながら成長する。そして、AlXGa1−XNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、AlXGa1−XNは、歪みを受けない状態のAlXGa1−XNの格子間隔に近づく。
図3(b)に表したように、第2低Al組成層53bにおけるAl組成比CAlは、例えば0.1以上0.9以下が好ましく、例えば約0.5である。第2低Al組成層53bとして、例えばAl0.5Ga0.5N層が用いられる。
図3(c)に表したように、第2低Al組成層53bの成長温度GTは、例えば800℃以上1200℃以下が好ましく、例えば約1130℃である。第2低Al組成層53bの成長温度GTが第2高Al組成層52bの成長温度GTよりも80℃以上高いと、第2高Al組成層52bの実際の格子間隔に格子整合するように成長する効果がより大きく得られる。また、転位を低減する効果がより大きく得られる。例えば、第2低Al組成層53bの成長温度GTが880℃以上のときには、格子整合するように成長する厚さが増大する。
このように、積層体50は、高Al組成層52、低Al組成層53及びGaN中間層51がこの順に周期的に複数回積層された構造を有することができる。これにより、結晶成長時に圧縮応力をかけクラックの発生を抑制する効果がより大きく得られる。また、転位を低減する効果がより大きく得られる。そのため、機能層10におけるクラックおよび転位などが、より低減される。
本実施形態の窒化物半導体素子の特性の例について説明する。
本願発明者は、以下の試料を作製した。
基板40(シリコン基板)の上に下地層60を形成した。下地層60のGaN下地層61(アンドープGaN層)の上に、厚さ300nmのGaN中間層51を1090℃で形成した後、厚さが12nmのAlN層を800℃で形成した。このAlN層は、高Al組成層52に対応する。
続いて、AlN層の上に、厚さが25nmのAlzGa1−zN層を1130℃で形成した。この層が低Al組成層53に対応する。このとき、AlzGa1−zN層におけるAl組成比zを0.2、0.35、0.5または0.7の4種類とした。
そして、上記の、GaN層と、AlN層と、AlzGa1−zN層と、の積層体を1周期として、さらに3周期分の積層体を形成した。つまり、発明者が作製した4種類の試料においては、中間層における積層体の周期数は、4である。
引き続き、4層目のAlzGa1−zN層の上に、厚さが1μmのアンドープのGaN層11iを1090℃で形成した。その後、厚さが1μmのn形GaN層を形成した。n形不純物としてシリコンを用い、不純物濃度は5×1018cm−3とした。n形GaN層は、機能層10の少なくとも一部となる。
図4は、窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。
図4は、作製した試料の成長中の基板の反りに関する特性を示している。
図4の横軸は、AlzGa1−zN層の成長中の厚さtAlGaN(nm)である。縦軸は、結晶成長中の基板40の曲率Cv(km−1=1000m−1)を示している。曲率Cvは、実質的に基板40の反りに相当する値である。基板40の曲率Cvは、光学モニタによって計測した値である。曲率Cvは、AlzGa1−zN層を結晶成長している間の基板40の反りの推移を表す。この図では、曲率Cvは、結晶成長を開始するとき時の基板40の反りを0としている。曲率Cvが正の値であることは、下に凸(凹状の反り)の状態に対応する。負の値であるときは、下に凸(凸状の反り)の状態に対応する。正の曲率Cvは、窒化物半導体結晶中に加わる引っ張り応力による基板40の反りに対応する。負の曲率Cvは、窒化物半導体結晶中に加わる圧縮応力による基板40の反りに対応する。図4には、AlzGa1−zN層のAl組成比が異なる4種の試料の特性が示されている。
図4に示したように、Al組成比zが0.75のときは、曲率Cvは正である。すなわち、凹状の反りが発生し、AlzGa1−zN層には引っ張り応力が加わっている。AlzGa1−zN層の厚さtAlGaNが増大すると、曲率Cvの絶対値が大きくなり、引っ張り応力も大きくなる。
Al組成比zが0.2、0.35または0.5のときは、曲率Cvは負である。すなわち、凸状の反りが発生し、AlzGa1−zN層には圧縮応力が加わる。AlzGa1−zN層の厚さtAlGaNが増大すると、曲率Cvの絶対値が大きくなる。
Al組成比zが0.5のときは、成長初期でわずかに圧縮応力が加わるものの、やがて飽和し、厚さtAlGaNを厚くした場合にも基板40の曲率Cvは変化せず、一定になる。これは、AlzGa1−zN層に応力が実質的に形成されていないことを意味している。Al組成比zが0.35と小さいと、Al組成比zが0.5のときに比べて圧縮応力が増大し、凸状の反りが大きくなる。さらにAl組成比zが0.2とさらに、圧縮応力がさらに増大し、凸状の反りがさらに大きくなる。
図5(a)〜図5(d)は、窒化物半導体素子の特性を例示する顕微鏡像である。
図5(a)〜図5(d)は、n形GaN層(機能層10の少なくとも一部となる層)の表面の顕微鏡像である。図5(a)〜図5(d)は、AlzGa1−zN層のAl組成比zが、0.2、0.35、0.5または0.7の4種の試料のそれぞれに対応する。
図5(d)に表したように、AlzGa1−zN層のAl組成比zが0.7の試料(引っ張り応力が形成された試料)においては、n形GaN層には多数のクラックが発生した。
図5(a)〜図5(c)に表したように、Al組成比zが0.2、0.35または0.5の場合には、クラックは観察されなかった。圧縮応力が形成されることで、n形GaN層に生じるクラックが減少した。すなわち、低Al組成層53(AlzGa1−zN層)に加わる引っ張り歪みを抑制することで、クラックの発生を大きく抑制できることがわかった。
このように、低Al組成層53に加わる応力は、低Al組成層53におけるAl組成比に関係することがわかった。
光学モニタにより測定した、高Al組成層52成長中の基板40の曲率の変化の結果から、高Al組成層52の形成温度における実際のa軸の格子間隔を算出することができる。この例では、高Al組成層52はAlNであり、室温における実際の格子間隔に換算して、AlNの格子間隔は、0.3145nmであった。一方、無歪みのGaNのa軸の格子間隔dgは、例えば、0.3189nmであり、無歪みのAlNのa軸の格子間隔daは、例えば0.3112nmである。したがって、このとき、高Al組成層52であるAlNの緩和率αは0.57に相当する。
図6(a)〜図6(d)は、窒化物半導体素子のX線回折測定の結果を例示する模式図である。
これらの図は、X線回折測定によって測定した(11−24)面の逆格子マッピング像の一例である。横軸は、成長方向に対して垂直な方向の(11−20)面の格子面間隔の逆数Qxである。Qxは、a軸の格子間隔の逆数に比例する値である。縦軸は、成長方向に対して平行な方向の(0004)面の格子面間隔の逆数Qzである。Qzは、c軸の格子間隔の逆数に比例する値である。これらの図において、GaNの(11−24)面の回折ピークPg(GaNの格子間隔の逆数に対応)の点と、AlNの(11−24)面の回折ピークPa(AlNバッファ層62の格子間隔の逆数に対応)の点と、が示されている。これらの点を結んだ点線は、ベガード則に従う場合の、AlGaN層のAl組成比に対応した格子間隔の逆数の特性を表す。
これらの図には、AlGaN下地層63による(11−24)面の回折ピークの点P63と、低Al組成層53による(11−24)面の回折ピークの点P53と、が示されている。
これらの図中において、AlGaN層の格子間隔の測定結果のピーク(点P63及び点P53)が、この点線よりも下側に現れている場合には、結晶が圧縮歪みを有する(圧縮応力を受けている)ことに対応する。測定結果のピーク(点P63及び点P53)が、この点線よりも上側に現れている場合には、結晶が引っ張り歪みを有する(引っ張り応力を受けている)ことに対応する。
図6(a)〜図6(d)は、AlzGa1−zN層のAl組成比zが、0.2、0.35、0.5または0.7の4種の試料のそれぞれに対応する。
図6(a)〜図6(d)からわかるように、いずれの試料の場合も、AlGaN下地層63によるピークの点P63は、点線よりも下側に現れている。このことから、AlGaN下地層63は、圧縮歪みを有する(圧縮応力を受けている)ことが分かる。
このようなAlGaN下地層63の上に積層体50が形成される。このAlGaN下地層63の上に、積層体50を形成することで、積層体50中で形成される圧縮応力が増大し、結晶成長後の降温過程で生じる引っ張り歪みが低減し、クラックを抑制する効果が増大する。
図6(d)に表したように、低Al組成層53のAl組成比zが0.7の場合には、点線よりも上側にピークが現れており、低Al組成層53は引っ張り歪みを有する(引っ張り応力を受けている)ことがわかる。
一方、図6(c)に表したように、低Al組成層53のAlの組成比zが0.5の場合には、点線よりもわずかに下側にピークが現れており、低Al組成層53は圧縮歪みを有する(圧縮応力を受けている)ことがわかる。
図6(b)に表したように、低Al組成層53のAl組成比zが0.35の場合には、低Al組成層53のピークがAlGaN下地層63のピークと重なっており、低Al組成層53の明確なピークが観察されない。すなわち、低Al組成層53のピークは、図6(c)に例示した状態よりもさらに下側に移動している。
図6(a)に表したように、低Al組成層53のAl組成比zが0.2の場合には、低Al組成層53のピークは、図6(b)に例示した状態よりもさらに下側に移動している。
このように、低Al組成層53のAl組成比zが低くなるほど、より圧縮歪みを受ける側にピーク位置が現れている。これらの結果は、図4に例示した、成長中の曲率Cvによる応力変化の結果と良く一致している。また、図5(a)〜図5(d)に例示した、クラック密度変化の結果と良く一致している。
高Al組成層52の上に形成した低Al組成層53のAl組成比zが0.7の場合には、低Al組成層53には引っ張り歪みが形成される。高Al組成層52の上に形成した低Al組成層53のAl組成比zが0.5の場合には、低Al組成層53には圧縮歪みが形成された。この結果から、高Al組成層52におけるa軸の格子間隔は、0.5以上0.7以下の範囲のAl組成比のAlGaN層におけるa軸の格子間隔になっていると考えられる。この値は、高Al組成層52の成長中の基板40の反り変化から算出した、高Al組成層52の緩和率αの値(0.57)とほぼ一致する。
また、低Al組成層53を設けずに作製した窒化物半導体素子のX線回折測定において、高Al組成層52の(11−24)面の回折ピークのQxの値は、Al組成比が0.54のAlGaN層に相当する位置に確認された。すなわち、高Al組成層52の緩和率αは0.54程度であることを表しており、上記結果とほぼ一致することがわかった。
すなわち、低Al組成層53のAl組成比が、高Al組成層52の緩和率αよりも大きい場合には、低Al組成層53には、低Al組成層53に引っ張り応力が生じる(低Al組成層53は引っ張り歪みを有する)ことが分かった。低Al組成層53のAl組成比が、高Al組成層52の緩和率αよりも小さい場合には、低Al組成層53に圧縮応力が生じる(低Al組成層53は圧縮歪みを有する)ことがわかった。
また、AlzGa1−zN層のAl組成比zが0.2、0.35、0.5及び0.7の場合のAlzGa1−zN層の無歪みのa軸の格子間隔(a軸の格子定数)は、それぞれ、0.3174nm、0.3162nm、0.3151nm及び0.3135nmである。この例の場合、上述したように、高Al組成層52であるAlNの実際のa軸の格子間隔は0.3145nmである。したがって、高Al組成層52の上に、高Al組成層52よりもAl組成比の小さな低Al組成層53を単に形成するだけでは、圧縮歪みは形成されず、クラックを抑制することはできない。高Al組成層52の実際のa軸の格子間隔、すなわち高Al組成層52の緩和率αを反映したAl組成比の低Al組成層53を形成することにより、圧縮歪みが形成され、クラックが抑制できる。すなわち、Al組成比が高Al組成層52の緩和率α以下である低Al組成層53を形成することで、圧縮歪みが形成され、クラックが抑制できる。
以下、転位密度について説明する。
図7は、窒化物半導体における転位密度を例示するグラフ図である。
図7は、上記のAlzGa1−zN層のAl組成比zを変えた4つの試料、Al組成比zを0とした試料に関しての転位密度を例示している。図76の横軸は、Al組成比xである。左の縦軸は、らせん転位密度Ds(cm−2)である。右に縦軸は、刃状転位密度Dt(cm−2)である。
図7に表したように、Al組成比zが0の場合、らせん転位密度Ds及び刃状転位密度Dtは、高い。らせん転位密度Dsは、Al組成比zが0.2〜0.5の範囲において低い。Al組成比zが0.7において、らせん転位密度Dsは上昇する。一方、刃状転位密度Dtは、Al組成比zが0〜0.5の範囲において、Al組成比zの上昇に伴い減少する。そして、Al組成比zが0.7において、刃状転位密度Dtは上昇する。
Al組成比zが0〜0.5の範囲においては、Al組成比zの増加とともに、低Al組成層53の格子定数が高Al組成層52の実際の格子間隔に近づくため、低Al組成層53と高Al組成層52の間で生じるミスフィット転位が抑制されるためであると考えられる。Al組成比zが0.5を超えると、低Al組成層53の格子定数が高Al組成層52の実際の格子間隔よりも小さくなり、ミスフィット転位が増加し、転位密度が増加すると考えられる。
低Al組成層53のAl組成比が高Al組成層52の緩和率αと同程度の場合に、低い転位密度(例えば最低の転位密度)が得られるがわかった。転位密度が低くなるAl組成比は、高Al組成層52の緩和率αに依存する。これは、高Al組成層52の実際の格子間隔の変化に依存して、ミスフィット転位が生じる低Al組成層53の格子定数が変化するためである。緩和率αが小さいときは、転位密度が低くなるAl組成比は低くなる。すなわち、低Al組成層53のAl組成比53と高Al組成層52の緩和率αとは相対関係にあり、低転位密度となるAl組成比には、適正な範囲がある。
図7は、高Al組成層52の緩和率αが0.57の場合の結果を例示している。このときは、低Al組成層53のAl組成比が0.2以下で、転位密度が急激に増加する。すなわち、Al組成比が、緩和率α(この例では0.57)の35%以下であるときに、転位密度が急激に増加する。一方、低Al組成層53のAl組成比が、高Al組成層52の緩和率αよりも大きくなると、引っ張り歪みが形成され、クラックが増加する。
このように、高Al組成層52と、低Al組成層53と、GaN中間層51と、がこの順に積層された構造を有する積層体50において、低Al組成層53のAl組成比が、高Al組成層52の緩和率α以下とすることで、クラックおよび転位が少ない高品位の窒化物半導体素子を提供することができる。
図8(a)〜図8(d)は、窒化物半導体素子の構成を例示する模式図である。
図8(a)及び図8(b)に表したように、窒化物半導体素子の窒化物半導体層のc軸が、Z軸方向(下地層60の主面60aに対して垂直な方向であり、基板40の主面40aに対して垂直な方向)に対して垂直でも良い。このとき、格子間隔に関する第1軸は、例えば、(1−100)面に対して平行な軸とすることができる。また、第1軸は、例えば、(11−20)面に対して平行な軸とすることができる。
図8(c)及び図8(d)に表したように、窒化物半導体層のc軸が、Z軸方向に対して傾斜しても良い。このとき、格子間隔に関する第1軸は、例えば、(1−101)面に対して平行な軸とすることができる。また、第1軸は、例えば、(11−22)面に対して平行な軸とすることができる。
これらは例であり、実施形態において、第1軸は、下地層60の主面60aに対して平行な任意の軸(基板40の主面40aに対して平行な任意の軸)を適用できる。
(第2の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体ウェーハに係る。このウェーハには、例えば、半導体装置の少なくとも一部、または、半導体装置の少なくとも一部となる部分が設けられている。この半導体装置は、例えば、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどを含む。
図9(a)〜図9(d)は、第2の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの構成を例示する模式図である。
図9(a)は、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ210の構成を例示する模式的断面図である。図9(b)は、積層中間層におけるAl組成比(CAl)を例示するグラフ図である。図9(c)は、積層中間層における成長温度GT(形成温度)を例示するグラフ図である。図9(d)は、積層中間層におけるa軸の格子間隔Ldを例示するグラフ図である。
図9(a)に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ210は、基板40と、下地層60と、積層体50と、を含む。積層体50は、第1積層中間層50aを含む、窒化物半導体ウェーハ210は、機能層10をさらに含んでも良い。基板40、下地層60、積層中間層50及び機能層10には、第1実施形態に関して説明した構成を適用することができる。基板40の主面40aの上に下地層60が設けられ、下地層60の上に積層体50が設けられ、積層体50の上に機能層10が設けられる。低Al組成層53におけるAl組成比は、高Al組成層52の緩和率α以下である。
窒化物半導体ウェーハ210により、クラックおよび転位が少ない高品位の窒化物半導体素子のための窒化物半導体ウェーハを提供することができる。
本実施形態においても、積層体50の上に(例えば積層体50と機能層10との間に)GaN層11i(アンドープのGaN層)を設けても良い。
図10(a)〜図10(d)は、第2の実施形態に係る別の窒化物半導体ウェーハの構成を例示する模式図である。
図10(a)は、本実施形態に係る別の窒化物半導体ウェーハ220の構成を例示する模式的断面図である。図10(b)〜図10(d)は、積層中間層における、Al組成比(CAl)、成長温度GT、及び、a軸の格子間隔Ldをそれぞれ例示するグラフ図である。
図10(a)に表したように、窒化物半導体ウェーハ220は、窒化物半導体ウェーハ210において、積層体50は、第1積層中間層50aと、第2積層中間層50bと、を含む。第1積層中間層50aは、下地層60の上に設けられる。例えば、第1積層中間層50aは、下地層60と機能層10の間に設けられる。第2積層中間層50bは、第1積層中間層50aと機能層10との間に設けられる。
第1積層中間層50aは、下地層60の上に設けられた第1GaN中間層51aと、第1GaN中間層51aの上に設けられた第1高Al組成層52aと、第1高Al組成層52aの上に設けられた第1低Al組成層53aと、を含む。第2積層中間層50bは、第1積層中間層50aの上に設けられた第2GaN中間層51bと、第2GaN中間層51bの上に設けられた第2高Al組成層52bと、第2高Al組成層52bの上に設けられた第2低Al組成層53bと、を含む。
第1低Al組成層53aにおけるAl組成比は、第1高Al組成層52aの緩和率αa以下である。第2低Al組成層53bにおけるAl組成比は、第2高Al組成層52bの緩和率αb以下である。
窒化物半導体ウェーハ220により、クラックおよび転位が少ない高品位の窒化物半導体素子のための窒化物半導体ウェーハを提供することができる。
この例においても、積層体50と機能層10との間にGaN層11i(アンドープのGaN層)を設けても良い。
図3(a)または図10(a)に示した実施形態において、第2GaN中間層51b、第2高Al組成層52b及び第2低Al組成層53bを、それぞれ、第1GaN中間層51a、第1高Al組成層52a及び第1低Al組成層53aと見なしても良い。
実施形態において、半導体層の成長には、例えば、有機金属気相堆積(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法、有機金属気相成長(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法、及び、ハライド気相エピタキシー法(HVPE)法などを用いることができる。
例えば、MOCVD法またはMOVPE法を用いた場合では、各半導体層の形成の際の原料には、以下を用いることができる。Gaの原料として、例えばTMGa(トリメチルガリウム)及びTEGa(トリエチルガリウム)を用いることができる。Inの原料として、例えば、TMIn(トリメチルインジウム)及びTEIn(トリエチルインジウム)などを用いることができる。Alの原料として、例えば、TMAl(トリメチルアルミニウム)などを用いることができる。Nの原料として、例えば、NH3(アンモニア)、MMHy(モノメチルヒドラジン)及びDMHy(ジメチルヒドラジン)などを用いることができる。Siの原料としては、SiH4(モノシラン)、Si2H6(ジシラン)などを用いることができる。
実施形態によれば、クラックが少ない窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハが提供できる。
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BxInyAlzGa1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれは良い。
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハに含まれる基板、下地層、AlNバッファ層、AlGaN下地層、GaN下地層、積層中間層、高Al組成層、低Al組成層、GaN中間層及び機能層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述した窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハの製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1(d)に表したように、GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の格子間隔は大きく、高Al組成層52におけるa軸(第1軸)の格子間隔は小さい。GaN中間層51におけるa軸(第1軸)の実際の格子間隔は、例えば無歪みのGaNのa軸(第1軸)の格子間隔dgよりも小さく、高Al組成層52におけるa軸(第1軸)の実際の格子間隔は、例えば無歪みのAlx1Ga1−x1N(0<x1≦1)のa軸(第1軸)の格子間隔daよりも大きい。高Al組成層52がAlNである場合、高Al組成層52の実際の格子間隔は、例えば無歪みのAlNのa軸(第1軸)の格子間隔daよりも大きい。すなわち、積層体50におけるa軸(第1軸)の格子間隔は、GaN中間層51で最も大きく、高Al組成層52で急激に小さくなる。低Al組成層53におけるa軸(第1軸)の格子間隔は、高Al組成層52におけるa軸(第1軸)の格子間隔と同じか、それよりも大きい。
高Al組成層52の緩和率αは、高Al組成層52の成長時の成長温度GTにより変化する。さらに、緩和率αは、成長速度、V族原子の原料ガスとIII族原子の原料ガスとの比(V/III比)、及び、アンモニア分圧などによって変化する。V/III比は、単位時間当たりに供給されるV族元素の原子の数の、単位時間当たりに供給されるIII族元素の原子の数に対する比である。アンモニア分圧は、成膜中に用いるガスの全体の圧力に対する、アンモニアの圧力の比である。
図2(b)は、V/III比が1130で、成長温度GTが800℃で、アンモニア分圧Ppが0.06のときに、成長速度GRを変えたときの、緩和率αの変化を表している。図2(b)に表したように、例えば、高Al組成層52であるAlNの成長速度GRが、8.82nm/分の場合には、緩和率αは0.35である。成長速度GRが3.92nm/分の場合には、緩和率αは0.57である。このように、成長速度GRが遅いと、緩和率αが大きくなる。緩和率αを大きくするためには、GaN中間層51の成長速度よりも小さい成長速度で形成することが好ましい。例えば、2nm/分以上が好ましい。より好ましくは、3nm/分以上、8nm/分以下である。
続いて、Alの組成比が第2高Al組成層52bの第2緩和率αb以下の第2低Al組成層53bが第2高Al組成層52bの上に形成されている。第2低Al組成層53bの厚さは、例えば5nm以上であることが好ましい。第2低Al組成層53bの厚さは、より好ましくは50nm未満である。第2低Al組成層53bの厚さを50nm未満にすることで、クラック及び転位密度を効果的に低減することができる。第2低Al組成層53bの厚さは、例えば約25nmである。
図9(a)に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ210は、基板40と、下地層60と、積層体50と、を含む。積層体50は、第1積層中間層50aを含む、窒化物半導体ウェーハ210は、機能層10をさらに含んでも良い。基板40、下地層60、積層体50及び機能層10には、第1実施形態に関して説明した構成を適用することができる。基板40の主面40aの上に下地層60が設けられ、下地層60の上に積層体50が設けられ、積層体50の上に機能層10が設けられる。低Al組成層53におけるAl組成比は、高Al組成層52の緩和率α以下である。
その他、本発明の実施の形態として上述した窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。