以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
(第1の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハに係る。実施形態に係る窒化物半導体素子は、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどの半導体装置を含む。半導体発光素子は、例えば、発光ダイオード(LED)及びレーザダイオード(LD)などを含む。半導体受光素子は、フォトダイオード(PD)などを含む。電子デバイスは、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、電界トランジスタ(FET)及びショットキーバリアダイオード(SBD)などを含む。実施形態に係る窒化物半導体ウェーハは、実施形態に係る窒化物半導体素子の少なくとも一部を含む。
図1(a)及び図1(b)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図1(b)は、図1(a)の一部を抜き出した図である。
図1(a)に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子110は、バッファ層60と、積層体50と、機能層10と、を含む。積層体50は、バッファ層60の上に設けられる。積層体50は、バッファ層60と、機能層10と、の間に設けられる。
積層体50から機能層10に向かう方向をZ軸方向とする。Z軸方向は、バッファ層60、積層体50及び機能層10の積層方向である。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向とX軸方向とに対して垂直な方向をY軸方向とする。以下では、Z軸方向(積層方向)を「上方向」あるいは「上」と称して説明することがある。但し、窒化物半導体素子110の上下方向が反転した場合には、前述した「上方向」および「上」は反転する。
この例では、窒化物半導体素子110は、基板40をさらに含む。基板40と積層体50との間に、バッファ層60が配置される。
基板40は、例えば、Si(111)基板である。実施形態において、基板40がシリコン基板の場合、基板40の面方位は、(111)面でなくてもよく、例えば、(11n)(n:整数)で表される面方位や(100)面でもよい。例えば(110)面は、シリコン基板と窒化物半導体層との格子不整合が小さくなるため好ましい。
基板40は、酸化物層を含む基板でもよい。例えば、基板40は、シリコンオンインシュレータ(SOI:silicon on insulator)基板などでもよい。基板40には、格子定数が機能層10の格子定数とは異なる材料を含む基板を用いてもよい。基板40には、熱膨張係数が機能層10の熱膨張係数とは異なる材料を含む基板を用いてもよい。例えば、基板40は、サファイア、スピネル、GaAs、InP、ZnO、Ge、SiGe、GaN、AlNおよびSiCのいずれかの基板でもよい。
例えば、基板40の上にバッファ層60が形成される。バッファ層60の上に、積層体50が形成される。積層体50の上に機能層10が形成される。これらの形成においてエピタキシャル成長が行われる。
実施形態に係る窒化物半導体素子110は、基板40と、バッファ層60と、積層体50と、機能層10の一部と、が除去された状態で使用される場合がある。窒化物半導体素子110が発光素子である場合には、機能層10は、例えば、n形半導体層と、発光層と、p形半導体層と、を含む。
本願明細書において、積層される状態は、互いに接して重ねられる状態の他に、間に他の層が挿入されて重ねられる状態を含む。上に設けられる状態は、直接接して設けられる状態の他に、間に他の層が挿入されて設けられる状態を含む。
バッファ層60は、例えば、AlNバッファ層62を含む。
AlNバッファ層62の厚さは、例えば10ナノメートル(nm)以上400nm以下であることが好ましく、例えば約200nmである。バッファ層はAlN層に限らず、GaN層でもよい。バッファ層60としてGaN層を用いる場合、GaN層の厚さは、例えば10nm以上50nm以下である。GaN層の厚さは、例えば約30nmである。バッファ層60として、AlGaNやInGaNなどの混晶を用いることができる。
基板40にシリコン基板を用いる場合、基板40(シリコン基板)と化学的反応が生じにくいAlNをシリコンに接するバッファ層60として用いることで、シリコンとガリウムとの反応によって生じるメルトバックエッチングなどの問題を解決しやすい。バッファ層60として用いられるAlNの少なくとも一部は、単結晶を含むことが好ましい。AlNを1000℃以上の高温でエピタキシャル成長させることで、単結晶のAlNバッファ層62を形成することができる。基板40にシリコン基板を用いる場合、窒化物半導体とシリコン基板との間の熱膨張係数の差が、窒化物半導体とシリコンとは異なる材料の基板との間の熱膨張係数の差に比べて大きい。そのため、エピタキシャル成長後に生じる基板40の反りが大きくなりやすく、クラックが生じやすい。単結晶を含むAlN層をバッファ層60として用いることで、エピタキシャル成長中の窒化物半導体中に応力(歪み)が形成され、成長終了後の基板の反りを低減できる。
AlNバッファ層62には、引っ張り応力(歪み)が形成されていることが好ましい。AlNバッファ層62に引っ張り応力(歪み)が形成されることで、基板40とバッファ層60との界面での欠陥形成が抑制される。
バッファ層60がInを含むことで、バッファ層60と基板40(シリコン基板)との格子不整合が緩和され、転位の発生が抑制される。バッファ層60がInを含む場合、結晶成長中にInの脱離反応が発生しやすく、平坦性の良いバッファ層60を得るために、In組成比を50%以下とすることが好ましい。
積層体50は、第1GaN層53と、第1層54と、第2GaN層55と、を含む。例えば、積層体50は、AlGaN層51と、第2層56と、第3層52と、第3GaN層57と、をさらに含んでもよい。
AlGaN層51には、AlxGa1−xN(0<x≦1)が用いられる。AlGaN層51の厚さは、例えば100nm以上1000nm以下であることが好ましく、例えば約250nmである。AlGaN層51のAlの組成比は、例えば0.1以上0.9以下であることが好ましく、例えば0.25である。AlGaN層51により、メルトバックエッチングの抑制効果を増大させることができる。AlGaN層51により、積層体50に形成される圧縮応力(歪み)を増大させることができる。
互いに組成が異なる複数の窒化物半導体層を積層した場合に、上に積層する窒化物半導体層(例えば、AlGaN層51)は、下に形成された窒化物半導体層(例えば、AlNバッファ層62)の格子間隔(格子の長さ)に整合するように形成される。このため、窒化物半導体層の実際の格子間隔は、無歪みの格子間隔(格子定数)とは異なる。
本願明細書においては、窒化物半導体の無歪みの格子間隔を「格子定数」とする。本願明細書においては、形成した窒化物半導体層の実際の格子の長さを「格子間隔」とする。格子定数は、例えば物性定数である。格子間隔は、例えば形成された窒化物半導体素子に含まれる窒化物半導体層における実際の格子の長さである。格子間隔は、例えば、X線回折測定から求められる。
AlGaN層51は、少なくとも一部に結晶性を有する。すなわち、AlGaN層51の少なくとも一部は、非晶質ではなく、多結晶または単結晶である。単結晶のAlNバッファ層62上に、AlNバッファ層62の格子間隔よりも格子定数が大きなAlGaN層51を形成することで、結晶性を有するAlGaN層51中に圧縮応力(歪み)が形成される。圧縮応力(歪み)の形成されたAlGaN層51の格子間隔は、無歪みの格子間隔(格子定数)よりも小さい。圧縮応力(歪み)を形成することで、結晶成長後の降温過程において窒化物半導体とシリコン基板との間の熱膨張係数の差によって生じる引っ張り応力(歪み)を低減でき、基板40の反りやクラックの発生を抑制することができる。
AlGaN層51が結晶性を有することで、AlGaN層51上に形成する積層体50の一部となるGaN層が三次元成長しやすい。これにより、転位が低減しやすい。AlGaN層51が結晶性を有することは、例えば、X線回折測定などによって、回折ピークが観測されることで評価できる。例えば、成長方向(積層方向)に対して平行な方向の結晶面(例えば、(0002)面)の回折ピークを観察することで評価できる。
AlGaN層51は、ピットのない平坦な表面を有することが好ましい。平坦な表面の上に積層体50の一部となるGaN層を形成することで、より大きな圧縮応力(歪み)がGaN層に形成されやすくなる。
AlNバッファ層62上にAlGaN層51を形成することで、AlNバッファ層62とAlGaN層51との界面で転位を低減できる。
AlGaN層51は、1層でもよく、複数の層を含んでもよい。この例では、AlGaN層51は、第1AlGaN層51a、第2AlGaN層51b及び第3AlGaN層51cを含む。AlGaN層51に含まれる層の数は、2でも良く、4以上でも良い。第2AlGaN層51bは、第1AlGaN層51aの上に設けられる。第3AlGaN層51cは、第2AlGaN層51bの上に設けられる。AlGaN層51として複数の層を形成することで、AlGaN層51中に形成される圧縮応力(歪み)を増大させることができる。その場合、バッファ層60から上方向に向かって(例えばバッファ層60から機能層10に向かう方向に)、Al組成比が小さくなるように積層することが好ましい。つまり、第2AlGaN層51bにおけるAl組成比が第1AlGaN層51aにおけるAl組成比よりも低いことが好ましく、第3AlGaN層51cにおけるAl組成比が第2AlGaN層51bにおけるAl組成比よりも低いことが好ましい。
例えば、バッファ層60にAlNを用いる場合、AlNとGaNとの室温における格子不整合率をAlGaN層51の積層数で等間隔に分割した格子不整合率となるAl組成比のAlGaN層51を形成することが好ましい。すなわち、例えば、各層の格子不整合率が、AlNとGaNとの室温における格子不整合率を積層数に1を加えた数で割った値程度となるAl組成比のAlGaN層51を形成することが好ましい。これにより、AlGaN層51中に形成される圧縮応力(歪み)が増大しやすい。
AlNとGaN層との室温における格子不整合率は、約2.1%である。このことから、例えば、3層のAlGaN層51を形成する場合、各層の格子不整合率が0.5%程度(例えば0.4%以上0.6%以下)となるようなAl組成比のAlGaN層51を形成することができる。
例えば、Al組成比がおよそ0.55、0.3および0.15のAlGaN層51をこの順に積層することができる。例えば、第1AlGaN層51aにおけるAl組成比は、約0.55である。第2AlGaN層51bにおけるAl組成比は、約0.3である。第3AlGaN層51cにおけるAl組成比は、約0.15である。Al組成比については、上記値(約0.55、約0.3、約0.15)の±0.05の範囲であれば、各層の格子不整合率を0.5%程度(例えば0.4%以上0.6%以下)とすることができる。
例えば、2層のAlGaN層51を形成する場合、各層の格子不整合率が0.7%程度(例えば0.6%以上0.8%以下)となるようなAl組成比のAlGaN層51を形成することができる。
例えば、Al組成比がおよそ0.45、および0.18のAlGaN層51をこの順に積層することができる。例えば、第1AlGaN層51aにおけるAl組成比は、約0.45である。第2AlGaN層51bにおけるAl組成比は、約0.18である。
各AlGaN層51(この例では、第1AlGaN層51a、第2AlGaN層51b及び第3AlGaN層51c)のAl組成比の差が一定にならない理由は、AlGaN層51中に歪み(応力)が形成されているためである。なお、AlGaN層51の格子不整合率については、室温において、X線回折測定により算出することができる。
AlGaN層51として複数の層を形成する場合、バッファ層60から上方向に向かって(例えばバッファ層60から機能層10に向かう方向に)、膜厚が厚くなるように積層することが好ましい。つまり、第2AlGaN層51bの膜厚が第1AlGaN層51aの膜厚よりも大きいことが好ましく、第3AlGaN層51cにおける膜厚が第2AlGaN層51bにおける膜厚よりも厚いことが好ましい。これにより、AlGaN層51中に形成される圧縮応力(歪み)が増大しやすい。
第3層52は、AlGaN層51の上に設けられる。第1GaN層53は、第3層52の上に設けられる。第1層54は、第1GaN層53の上に設けられる。第2GaN層55は、第1層54の上に設けられる。第2層56は、第2GaN層55の上に設けられる。例えば、第3GaN層57が設けられる場合には、第3GaN層57は、第2層56の上に設けられる。以下では、第3GaN層57が設けられる場合を例に挙げて説明する。
本実施例における第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれは、シリコン(Si)およびマグネシウム(Mg)の少なくともいずれかを含有する。本実施例における第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれは、SiおよびMgの両方を含有してもよい。第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれは、SiNおよびMgNの少なくともいずれかを含んでもよい。第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれは、SiNおよびMgNの両方を含んでもよい。第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれは、高濃度にSiおよびMgの少なくともいずれかがドーピングされたGaN層(δドーピング層)でもよい。第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれは、高濃度にSiおよびMgの両方がドーピングされたGaN層(δドーピング層)でもよい。
第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれに含まれる元素は、Siのほうが、機能層10の一部として形成されるn形半導体層11の導電性を損なわないため望ましい。以下では、第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれがSiを含有する場合を例に挙げて説明する。
第3層52は、第3層52の上に第1GaN層53を形成する際に、第1GaN層53を三次元的に成長させる効果をもたらす。これは、第3層52は、積層方向に垂直な面内(X−Y平面内)で、Si濃度や厚さに揺らぎを有しており、Si濃度の低い部分及び厚さの薄い部分の少なくともいずれかの上に選択的に第1GaN層53が成長するためである。第1GaN層53が三次元的に成長することで、バッファ層60で発生した転位を積層方向(Z軸方向)に対して垂直方向に曲げることができる。これにより、機能層10に到達する転位を低減することができる。第3層52によって第1GaN層53の成長が阻害される領域では、バッファ層60で生じた転位が第3層52によって遮蔽される。これにより、転位の上部への伝播が阻害される。第3層52のAlGaN層51に対する被覆率が高いほど、転位の低減効果は増大する。
この例では、第3層52は、AlGaN層51に接する。第3層52がAlGaN層51に接することで、第1GaN層53は、AlGaN層51との格子不整合差の影響を受けながら成長する。格子不整合差を設けることで、第1GaN層53は、より三次元成長しやすくなり、転位低減効果が増大する。格子不整合差を設けることで、AlGaN層51と第1GaN層53の界面で生じる転位を低減できる。
第1GaN層53においては、圧縮応力(歪み)が形成されていることが好ましい。第1GaN層53に圧縮応力(歪み)を形成することで、エピタキシャル成長後の基板40の反りを低減できる。圧縮歪みを形成することにより、第1GaN層53が島状に成長されやすい。
本願明細書においては、島状の膜も「層」ということにする。
AlGaN層51の少なくとも一部を単結晶のAlGaNとすることで、第1GaN層53に圧縮応力(歪み)を形成することができる。非晶質のAlGaN層の場合には、AlGaN層51の格子間隔が大きくなりやすく、第1GaN層53に圧縮応力(歪み)を形成することは困難である。
第3層52の厚さは、例えば1原子層であり、0.4原子層以上2.1原子層以下であることが好ましい。第3層52の厚さが0.4原子層よりも薄いと、第1GaN層53の三次元成長が生じ難く、転位の低減効果が得難い。一方、第3層52の厚さが2.1原子よりも厚いと、第1GaN層53が成長しない領域が増大し、第3GaN層57の平坦性が低下しやすい。
第3層52は、一様な層でなくても良く、不連続な島状の層などでも良い。第3層52は、開口部が設けられた層でも良い。
第3層52の厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡像(TEM:Transmission Electron Microscope)または走査型電子顕微鏡像(SEM:Scanning Electron Microscope)による直接観察により得られる。SEMによる観察を行うときには、窒化物半導体層または基板の劈開面で切断した断面を使用する。第3層52の厚さは、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)から得られる。二次イオン質量分析法において、層中のSi濃度が2×1020cm3程度の場合は、第3層52の厚さが1原子層に相当する。このSi濃度は、面密度に換算すると、1×1015cm2程度のSi面密度に対応する。
第1GaN層53は、凹凸を含む。この凹凸は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)に対して傾斜した表面(第1斜面)53sを有する。第1GaN層53は、X−Y平面内で不連続な島状の結晶層でもよい。積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)に対して傾斜した第1斜面53sは、例えば、(10−11)面や(11−22)面などのファセット面である。第1斜面53sは、特定の結晶面でなくてもよい。第1GaN層53は、ドーム状の形状を有していてもよい。第1GaN層53は、傾斜した表面ではなくX−Y平面に対して垂直な平面を有してもよい。
図2(a)〜図2(c)は、実施形態に係る第1GaN層を表すSEM像の例である。 図2(a)に表した第1例S01では、AlGaN層51の上に、基板温度1040℃で、濃度が10ppmのシラン(SiH4)が、流量350cc/分、アンモニアが流量20L/分で、3分間供給される。これにより、第3層52が形成される。その後、基板温度1090℃で、TMGが、流量56cc/分、アンモニアが流量40L/分にて、5分間供給される。これにより、第1GaN層53が形成される。第1GaN層53の形成の際のV/III比は、6500に相当する。第3層52の厚さは、約0.4原子層である。
図2(b)に表した第2例S02では、第3層52の形成の際の成長時間が、8分とされる。第3層52の厚さは、約1原子層である。
図2(c)に表した第3例S03では、第1GaN層53の形成の際のアンモニア流量が2.5L/分とされる。すなわち、第1GaN層53の形成の際のV/III比が490に小さくされる。
図2(a)から分かるように、第1GaN層53は、島状の結晶層である。第1GaN層53の凸部53c(第1凸部)の厚さ(高さ)は、150nm〜200nmである。第1GaN層53の凸部53cの底部53u(図1(a)参照)の直径(幅)53v(すなわち、X−Y平面内に平行な方向の凸部の底部の長さ)は、約1.5μmである。高さ50nm以下の微結晶が、多数形成されている。
図2(b)に表したように、第3層52の形成時間を8分と長くすると、第1GaN層53の凸部53cの厚さ(高さ)が、200nm〜500nmに増大する。一方、第1GaN層53の凸部53cの底部53uの直径(幅)53vは、約0.8μm程度に減少する。図2(a)でみられる高さ50nm以下の微結晶は、実質的に形成されていない。このように、第3層52の厚さによって、第1GaN層53の凸部53cの高さ(厚さ)と第1GaN層53の凸部53cの底部53uの直径(幅)53vとを変化させることができる。第3層52の厚さが厚いと、第1GaN層53の凸部53cの高さ(厚さ)が高くなる傾向にある。
一方、図2(c)に表したように、第1GaN層53のV/III比を490と小さくすると、第1GaN層53の凸部53cの高さ(厚さ)が、400nm〜700nmに増大する。第1斜面53sの面積が増大し、錐状またはドーム状の形状となる。一方、第1GaN層53の凸部53cの底部53uの直径(幅)53vは、約1.5μmで変わらない。このように、第1GaN層53のV/III比によって、第1GaN層53の凸部53cの高さ(厚さ)および第1斜面53sの形状を変化させることができる。第1GaN層53のV/III比が低いと、第1GaN層53の凸部53cの高さ(厚さ)が高く(厚く)なり、第1斜面53sの占める割合が増大する傾向にある。
第1GaN層53の凸部53cの高さ(厚さ)t1(図1(b)参照)は、例えば、100nm以上1200nm以下である。図2(a)〜図2(c)に表した例のように、第3層52の一部の上に第1GaN層53が設けられる場合には、第1GaN層53の凸部53cの高さ(厚さ)t1は、第3層52の上面と、第1GaN層53の凸部53cの上端と、の間の距離である。第1GaN層53が頂面(第1頂面53t)を有する場合は、高さt1は、第3層52の上面と、頂面(第1頂面53t)と、の間の距離である。第1GaN層53の高さt1は、第1GaN層53の凸部(第1凸部)53cうちで最も高さが高い凸部53cにおける、第3層52の上面と、第1GaN層53の凸部53cの上端と、の間の距離である。
第1GaN層53と第3層52との間に別の層が設けられる場合、あるいは、第3層52が設けられない場合には、第1GaN層53の凸部53cの高さ(厚さ)t1は、第1GaN層53の凸部53cの底部53uと、第1GaN層53の凸部53cの上端(第1GaN層53が第1頂面53tを有する場合には、第1頂面53t)と、の間の距離である。
第1GaN層53は、第3層52を覆っても良い。この場合には、第1GaN層53における凸部53cの高さ(厚さ)は、第1GaN層53の凹凸の高さ(深さ)、すなわち、凹凸の凸部と凹部との間のZ軸方向に沿った距離に対応する。第1GaN層53が第3層52を覆う場合には、第1GaN層53の凸部53cの底部53uの直径(幅)53vは、凹凸の第1凹部と、第1凹部の隣りの第2凹部と、の間の距離に対応する。
第1GaN層53には、凸部53cが設けられる。第1GaN層53の厚さは、均一ではない。第1GaN層53の厚さは、第1GaN層53の凸部53cの高さとは異なる。第1GaN層53の厚さは、第1GaN層53の平均の厚さである。
図3(a)〜図3(d)は、窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。
図3(a)〜図3(d)は、第3層52の成長時間(厚さ)TM、および、第1GaN層53を形成する際の、V/III比(V/III)、成長温度(基板温度)GT、成長速度GRを変えたときの、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1の変化の例を表している。
この例では、第3層52および第1GaN層53に関して以下で説明しない条件は、図2(a)〜図2(c)に関して前述したものと同様である。
図3(a)は、第3層52の成長時間(厚さ)TMを変えたときの、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1の変化を表している。図3(a)に表したように、例えば、第3層52の成長時間TMが5分の場合には、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は300nmである。成長時間TMが11分の場合には、第3層52の高さ(厚さ)t1は600nmである。このように、第3層52の成長時間TMが長いと、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1が高く(厚く)なる。第3層52の成長時間TMが長いと、第1GaN層53の島密度が低くなり、第1GaN層53同士の間隔が大きくなる。
図3(b)は、第1GaN層53を形成する際の、V/III比(V/III)を変えたときの、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1の変化を表している。この例では、III族原料ガスであるTMGaの供給量を56cc/分で一定とし、アンモニアの供給量が変更される。
図3(b)に表したように、例えば、第1GaN層53のV/III比が、「3250」の場合には、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は450nmである。第1GaN層53のV/III比が、「410」の場合には、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は1000nmである。このように、第1GaN層53のV/III比が小さいと、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1が高く(厚く)なる。第1GaN層53のV/III比が小さいと、第1GaN層53の島密度が低くなり、第1GaN層53同士の間隔が大きくなる。
図3(c)は、第1GaN層53を形成する際の、成長温度(基板温度)GTを変えたときの、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1の変化を表している。図3(c)に表したように、例えば、第1GaN層53の成長温度GTが、1050℃の場合には、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は550nmである。第1GaN層53の成長温度GTが、1120℃の場合には、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は210nmである。このように、第1GaN層53の成長温度GTが低いと、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1が高く(厚く)なる。第1GaN層53の成長温度GTが1120℃よりも高いと、メルトバックエッチングが発生しやすくなり、結晶が劣化しやすい。第1GaN層53の成長温度GTが1000℃よりも低いと、ピットが発生しやすくなり、結晶が劣化しやすい。したがって、第1GaN層53の成長温度GTは、1000℃以上1120℃以下が好ましい。第1GaN層53の成長温度GTが高いと、結晶表面でのGa原料の脱離反応が増大し、第1GaN層53の島密度が低くなる。第1GaN層53の凸部53cのサイズが小さくなる。
図3(d)は、第1GaN層53を形成する際の、成長速度GRを変えたときの、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1の変化を表している。この実験では、TMGaの供給量を変化させる。その際、第1GaN層53の形成時の原料ガスの総供給量が一定となるように成長時間を変化させる。例えば、TMGaの流量を112cc/分と2倍にする場合には、成長時間を2.5分と1/2倍にする。
図3(d)に表したように、例えば、第1GaN層53の成長速度GRが、19nm/分の場合には、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は550nmである。第1GaN層53の成長速度GRが、48nm/分の場合には、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は250nmである。このように、第1GaN層53の成長速度GRが遅いと、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1が高く(厚く)なる。第1GaN層53の成長速度GRが遅いと、結晶表面でのGa原料の脱離反応が増大し、第1GaN層53の島密度が低くなる。すなわち、第1GaN層53の成長速度GRが速いほど、高密度に島状の第1GaN層53を形成することができる。
図2(a)〜図2(c)、及び、図3(a)〜図3(d)においては、第1GaN層53には、アンドープのGaNが用いられている。第1GaN層53に、n形の不純物がドープされたn−GaNを用いても良い。n−GaNが用いられる場合においては、n形不純物(Si)をドープしない場合に比べ、第1GaN層53の凸部53cのサイズが小さく、凹凸の密度が高く、斜面の面積が増大しやすい。n形不純物をドープすることで、ファセットの形成が促進されやすいためである。第1GaN層53の凸部53cの第1斜面53s上に形成される第1層54の面積が増大することで、転位の遮蔽または屈曲効果が増大し、転位が低減しやすい。
第1GaN層53におけるn形不純物の濃度は、1.0×1017(/cm3)以上1.0×1020(/cm3)以下であることが好ましい。第1GaN層53におけるn形不純物の濃度は、1.0×1018(/cm3)以上5.0×1019(/cm3)以下であることがさらに好ましい。第1GaN層53におけるn形不純物の濃度が1.0×1017(/cm3)の場合には、実質的にアンドープのGaN層の場合のn形不純物の濃度に相当する。第1GaN層53におけるn形不純物の濃度が1.0×1020(/cm3)よりも高いと、n形不純物によって第1GaN層53の成長が阻害され、第1GaN層53の凸部53cの斜面(第1斜面53s)の面積が減少し、転位密度の低減効果が減少する。
第1GaN層53におけるn形不純物の濃度は、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS)によって評価できる。
図1(a)に表したように、第1GaN層53の上に、第1層54が形成される。この例では、第1GaN層53は、X−Y平面内に不連続な島状である。第1層54のうちの一部は、第1GaN層53に接する。第1層54のうちの他の一部は、第3層52に接する。第1GaN層53の傾斜した表面(第1斜面53s)に第1層54を形成することで、第1GaN層53と第1層54との界面で、転位の遮蔽または屈曲を生じさせ、機能層10に伝播する転位を低減することができる。第1層54が第3層52と接することで、第1層54での、転位の遮蔽または屈曲効果が増大し、バッファ層60で生じた転位の機能層10への伝播を抑制する効果が増大する。
第1層54の厚さは、例えば0.5原子層であり、0.2原子層以上2原子層以下が好ましい。第1層54の厚さが0.2原子層よりも薄いと、第1斜面53sでの転位屈曲効果が得られず、転位が増大しやすい。一方、第1層54の厚さが2原子層よりも厚いと、第1GaN層53が実質的に成長しなくなり、第3GaN層57の平坦性が低下する。
第1層54は、一様な層でなくても良く、不連続な島状の層などでも良い。第1層54は、開口部が設けられた層でも良い。
第1層54の厚さは、第3層52の厚さよりも薄いことが好ましい。第1層54の厚さが第3層52の厚さよりも厚くなると、第1GaN層53の傾斜した表面(第1斜面53s)上でのGaNの成長が阻害される。これにより、表面平坦性が低下し、機能層10の特性が低下する。
第1層54の上に、第2GaN層55が形成される。第2GaN層55は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)に対して傾斜した表面(第2斜面55s)を有する凹凸を含む島状の結晶を含む。積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)に対して傾斜した表面(第2斜面55s)は、例えば、(10−11)面や(11−22)面などのファセット面である。第2斜面55sは、特定の結晶面でなくてもよい。第2GaN層55は、ドーム状の形状を有していてもよい。第2GaN層55は、傾斜した表面ではなくX−Y平面に対して垂直な平面を有してもよい。
例えば、第2GaN層55は、第1GaN層53の頂面(第1頂面53t)の上に形成される。例えば、第2GaN層55は、第1GaN層53の斜面(第1斜面53s)の上に形成される。本願明細書において、「第2GaN層55が第1GaN層53の上に設けられる」状態は、第2GaN層55が、第1GaN層53の頂面(第1頂面53t)の上および第1GaN層53の斜面(第1斜面53s)の上の少なくともいずれかに設けられる状態を含む。
第2GaN層55の凸部(第2凸部)55cの高さ(厚さ)t2(図1(a)参照)は、例えば、10nm以上1000nm以下である。第2GaN層55の凸部55cの高さ(厚さ)t2は、第1層54の上面と、第2GaN層55の凸部55cの上端と、の間の距離である。第2GaN層55が頂面(第2頂面)55tを有する場合には、高さt2は、第1層54の上面と、第2頂面55tと、の間の距離である。第1GaN層53の斜面(第1斜面53s)の上に設けられた第2GaN層55においては、高さt2は、第1層54の上面と、第2GaN層55の凸部55cの上端と、の間の第1GaN層53の斜面(第1斜面53s)に垂直な方向の距離である。第2GaN層55の高さt2は、第2GaN層55の凸部55cうちで最も高さが高い凸部55cにおける、第1層54の上面と、第2GaN層55の凸部55cの上端と、の間の距離とする。
第2GaN層55の凸部55cの高さ(厚さ)t2が10nmよりも低い(薄い)と、第2斜面55sの形成が不十分であり、第1層54での、転位の屈曲または遮蔽効果が十分に得られない。この場合には、第1GaN層53の結晶の体積(表面積)が小さい(狭い)ため、結晶内で転位の屈曲が生じにくく、第1GaN層53内での転位低減効果が小さい。
一方、高さ(厚さ)t2が1000nmよりも大きい場合には、隣り合う第2GaN層55の結晶同士が合体しやすくなり、第2GaN層55が連続的な層になりやすい。その結果、第2斜面55sでの遮蔽効果が低減し、転位が増大しやすい。
第2GaN層55には、アンドープのGaNが用いられてもよい。第2GaN層55において、n形の不純物がドープされたn−GaNが設けられても良い。n−GaNが用いられる場合においては、n形不純物(Si)をドープしない場合に比べ、凸部のサイズが小さく、凹凸の密度が高く、斜面の面積が増大しやすい。n形不純物をドープすることで、ファセットの形成が促進されやすいためである。すなわち、第1GaN層53の上に、小さなサイズの第2GaN層55が形成されやすい。第2GaN層55の凸部55cの第2斜面55s上に形成される第2層56の面積が増大する。これにより、例えば、転位の遮蔽または屈曲効果が増大し、転位が低減しやすい。
第2GaN層55におけるn形不純物の濃度は、例えば、1.0×1017(/cm3)以上1.0×1020(/cm3)以下であることが好ましい。第2GaN層55におけるn形不純物の濃度は、1.0×1018(/cm3)以上5.0×1019(/cm3)以下であることがさらに好ましい。第2GaN層55におけるn形不純物の濃度が1.0×1017(/cm3)の場合には、実質的にアンドープのGaN層の場合のn形不純物の濃度に相当する。第2GaN層55におけるn形不純物の濃度が1.0×1020(/cm3)よりも高い場合には、n形不純物によって第2GaN層55の成長が阻害され、第2GaN層55の凸部55cの斜面(第2斜面55s)の面積が減少し、転位密度の低減効果が減少する。
第2GaN層55におけるn形不純物の濃度は、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS)によって評価できる。
第2GaN層55の上に、第2層56が形成される。この例では、第2GaN層55は、X−Y平面内に不連続な島状である。第2層56のうちの一部は、第2GaN層55に接している。第2層56のうちの他の一部は、第1層54に接している。
AlGaN層51は、上面51auを有する。上面51auに対して垂直な方向がZ軸方向に対応する。AlGaN層51の上面51auは、X−Y平面に対して平行である。 図1(a)および図1(b)に表したように、AlGaN層51の上面51auに対して平行方向(第1方向)の第2GaN層55の凸部55cの底部55uの長さ(幅)55vは、第1方向の第1GaN層53の凸部53cの底部53uの長さ(幅53v)よりも短い。第1GaN層53の斜面(第1斜面53s)上のうちのいずれかの接線方向(第2方向)の第2GaN層55の凸部55cの長さ55wは、第2方向の第1GaN層53の凸部53cの長さ53wよりも短い。
言い換えれば、第2GaN層55の凸部55cのサイズは、第1GaN層53の凸部53cのサイズよりも小さい。
Z軸方向(積層方向)に対して垂直な平面(X−Y平面)上において、単位面積あたりの第2GaN層55の第2斜面55sの数は、単位面積あたりの第1GaN層53の第1斜面53sの数よりも多い。
ここで、本願明細書において、「層のサイズ」は、層(「島状の層」を含む)の幅を指す。「層の幅」は、AlGaN層51の上面51auに対して平行方向(第1方向)の、層の長さである。「層の幅」として、第1GaN53の斜面(第1斜面53s)上のうちのいずれかの接線方向(第2方向)の層の長さを用いてもよい。
第1GaN層53の凸部53cの底部53uの長さ53vに対する第2GaN層55の凸部55cの底部55uの長さ55vの比率(長さ55v/長さ53v)は、例えば約0.005以上1未満である。より好ましくは、例えば約0.005以上0.95以下程度である。さらに、より好ましくは、0.01以上0.7以下である。
第1GaN層53の上に、第1GaN層53のサイズよりも小さなサイズの第2GaN層55を形成することで、第1GaN層53および第1層54を貫通する転位を第2GaN層55内で屈曲させることができる。第1GaN層53は、頂面(第1頂面53t)を有していてもよい。第1GaN層53の頂面(第1頂面53t)では、転位の遮蔽または屈曲効果が小さく、転位の大部分が機能層10の側に進延する。第1GaN層53の頂面(第1頂面53t)の上に第2斜面55sを有する島状の第2GaN層55を形成することで、第2GaN層55で転位の屈曲を生じさせることができる。これにより、機能層10に到達する転位を低減することができる。
なお、第2GaN層55の凸部55cの底部55uは、第2GaN層55の凸部55cの底部55uの長さ55vが第1GaN層53の凸部53cの底部53uの長さ53vよりも長い構造を有していてもよい。第1GaN層53の凸部53cと第2GaN層55の凸部55cとが積層された構造のうちで、望ましくは10%以上の構造、さらに望ましくは50%以上の構造において、第2GaN層55の凸部55cの底部55uの長さ55vが第1GaN層53の凸部53cの底部53uの長さ53vよりも短いことが、転位密度の低減には望ましい。
例えば、第2GaN層55の成長温度(基板温度)を、第1GaN層53の成長温度に比べ高くすると、第1GaN層53の上に、第1GaN層53よりも小さなサイズの第2GaN層55が形成されやすい。例えば、第2GaN層55における成長温度(基板温度)を、第1GaN層53の成長温度に対し、20℃〜60℃程度高くする。
例えば、第2GaN層55の成長速度を、第1GaN層53の成長速度に比べ遅くすると、第1GaN層53の上に、第1GaN層53よりも小さなサイズの第2GaN層55が形成されやすい。例えば、第2GaN層55における成長速度を、第1GaN層53の成長速度に対し、1/4倍〜1/2倍程度に遅くする。
例えば、第2GaN層55の成長時間を、第1GaN層53の成長時間に比べ短くすると、第1GaN層53の上に、第1GaN層53よりも小さなサイズの第2GaN層55が形成されやすい。
例えば、第2GaN層55における成長圧力を、第1GaN層53の成長圧力に比べ高くすると、第1GaN層53の上に、第1GaN層53よりも小さなサイズの第2GaN層55が形成されやすい。例えば、第1GaN層53における成長圧力を400ヘクトパスカル(hPa)とし、第2GaN層55における成長圧力を1013hPaとする。
第2層56の厚さは、例えば0.5原子層であり、0.2原子層以上2原子層以下が好ましい。第2層56の厚さが0.2原子層よりも薄いと、第2斜面55sでの転位屈曲効果が得難く、転位が増大しやすい。一方、第2層56の厚さが2原子よりも厚いと、第2GaN層55が実質的に成長し難くなり、第3GaN層57での平坦化が困難となる。
第2層56は一様な層でなくても良く、不連続な島状の層などでも良い。第2層56は、開口部が設けられた層でも良い。
第2層56の厚さは、第3層52の厚さよりも薄いことが好ましい。第2層56の厚さが第3層52の厚さよりも厚くなると、第2GaN層55の傾斜した表面(第2斜面55s)上でのGaNの成長が阻害される。これにより、表面平坦性が低下し、機能層10の特性が低下する。
第2層56の上に、第3GaN層57が形成される。第3GaN層57の上面は、例えば平坦である。第3GaN層57の上に、機能層10が形成される。第3GaN層57の厚さt3は、例えば、100nm以上5000nm以下である。第3GaN層57の厚さt3は、第2層56の上端と、第3GaN層57の上面(この例では、積層体50と機能層10との間の界面10l)と、の間のZ軸方向に沿った距離である。
図4は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の一部を例示する模式的断面図である。
図4は、機能層10の例を表している。窒化物半導体素子110が発光素子である場合には、機能層10は、例えば、積層体50の上に形成されたn形半導体層11と、n形半導体層11の上に形成された発光層13と、発光層13の上に形成されたp形半導体層12と、を含む。発光層13は、GaNの複数の障壁層13aと、障壁層13aの間に設けられた井戸層13bと、を含む。井戸層13bの数は、1つでも良く、複数でも良い。すなわち、発光層13は、例えば、SQW(Single-Quantum Well)構造、または、MQW(Multi-Quantum Well)構造を有する。
障壁層13aのバンドギャップエネルギーは、井戸層13bのバンドギャップエネルギーよりも大きい。障壁層13aには、例えば、GaNが用いられる。井戸層13bには、例えば、InGaN(例えば、In0.15Ga0.85N)が用いられる。障壁層13aにInGaNが用いられる場合には、障壁層13aにおけるIn組成比は、井戸層13bにおけるIn組成比よりも低い。発光層13から放出される光のピーク波長は、例えば200nm以上1900nm以下である。機能層10の厚さは、例えば5nm以上5μm以下が好ましく、例えば約3.5μmである。
機能層10は、低不純物濃度層11iをさらに含んでもよい。低不純物濃度層11iにおける不純物濃度は、n形半導体層11における不純物濃度よりも低い。低不純物濃度層11iは、必要に応じて設けられ、省略されてもよい。低不純物濃度層11iは、例えば積層体50とn形半導体層11との間に設けられる。
窒化物半導体素子110は、例えば、窒化ガリウム(GaN)系HEMT(High Electron Mobility Transistor)の窒化物半導体素子に用いられる。このときには、機能層10は、例えば、不純物を含まないアンドープのAlz1Ga1−z1N(0≦z1≦1)層と、アンドープまたはn形のAlz2Ga1−z2N(0≦z2≦1、z1<z2)層と、の積層構造を有する。
このように、本実施形態に係る窒化物半導体素子110においては、バッファ層60と、窒化物半導体を含む機能層10と、バッファ層60と機能層10との間に設けられた積層体50と、が設けられる。積層体50は、バッファ層60の上に設けられたAlxGa1−xN(0<x≦1)層51と、第3層52と、第1GaN層53と、第1層54と、第2GaN層55と、第2層56と、第3GaN層57と、がこの順に積層された構造を含む。第3層52は、AlxGa1−xN(0<x≦1)層51に接する。第1GaN層53は、積層方向に垂直な主面に対して傾斜した第1斜面53sを有する凹凸(第1凸部53c)を含む。第2GaN層55は、積層方向に垂直な主面に対して傾斜した第2斜面55sを有する凹凸(第2凸部55c)を含む。第1層54のうちの少なくとも一部が、第1GaN層53および第3層52に接する。第2層56のうちの少なくとも一部が、第2GaN層55および第1層54に接する。第2GaN層55の上面に対して平行な第1方向の第2凸部55cの長さは、第1方向の第1凸部53cの長さよりも短い。これにより、転位を低減する効果が得られ、機能層10に到達する転位が低減される。
図1(a)及び図1(b)は、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ210の構成も例示している。窒化物半導体ウェーハ210は、基板40と、バッファ層60と、積層体50と、を含む。窒化物半導体ウェーハ210は、機能層10をさらに含んでも良い。基板40、バッファ層60、積層体50及び機能層10には、窒化物半導体素子110に関して説明した構成のそれぞれを適用できる。
次に、本実施形態の窒化物半導体素子の特性について図面を参照しつつ説明する。
図5(a)〜図5(d)は、試料を例示する模式的断面図である。
図6(a)〜図6(d)は、バッファ層および積層体の例を示す断面SEM像である。 図7(a)〜図7(c)は、参考例に係る窒化物半導体素子の例を示す透過型電子顕微鏡像である。
図8(a)および図8(b)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する図である。
本実施形態に係る第1実施例の窒化物半導体素子について説明する。
図5(a)に表した第1実施例の窒化物半導体素子120は、図1(a)及び図1(b)に例示した窒化物半導体素子110の構成と同様の構成を有する。窒化物半導体素子120は、以下のようにして作製される。
まず、主面が(111)面であるシリコンからなる基板40を硫酸と過酸化水素との混合薬液ならびに希フッ酸を用いた洗浄を行う。その後、基板40をMOCVD装置の反応室内に導入する。
基板40を1070℃まで加熱する。水素と窒素との比率が2:1で、400hPaの減圧雰囲気において、トリメチルアルミニウム(TMAl)を流量50cc/分、アンモニア(NH3)を流量0.8L/分にて、20分間供給する。これにより、AlNのバッファ層60(AlNバッファ層62)を形成する。AlNバッファ層62の厚さは、約200nmである。
次に、基板温度(基板40の温度)を1020℃(第4温度)とする。第4温度は、後述する第2温度以下である。トリメチルガリウム(TMGa)を流量10cc/分、TMAlを流量50cc/分、アンモニアを流量2.5L/分で、5分間供給する。これにより、Al組成比が0.55の第1AlGaN層51aを形成する。第1AlGaN層51aの厚さは、約100nmである。
引き続き、TMGの流量を17cc/分、TMAの流量を30cc/分に変更し、10分間供給する。これにより、Al組成比が0.3の第2AlGaN層51bを形成する。第2AlGaN層51bの厚さは、約200nmである。
さらに、TMGの流量を20cc/分、TMAの流量を15cc/分に変更し、11分間供給する。これにより、Al組成比が0.15の第3AlGaN層51cを形成する。第3AlGaN層51cの厚さは、約250nmである。
次に、基板温度を1040℃とし、成長圧力を1013hPaの大気圧に変更し、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量350cc/分、アンモニアを流量20L/分で、8分間供給する。これにより、第3層52を形成する。第3層52の厚さは、約1原子層である。第3層52にMgを含ませる場合には、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を第2ガスに含ませる。例えばシランとビスシクロペンタジエニルマグネシウムとアンモニアとを含む第2ガスを供給すると、SiとMgとを含む第3層52を形成することができる。
次に、基板温度を1090℃(第1温度)とし、例えばTMGとシランとアンモニアとを含む第1ガスを、TMGを流量112cc/分、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量11cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、2.5分間供給する。シランは、TMGおよびアンモニアとは別の経路により供給されてもよい。シランは、第1ガスに含まれていなくともよい。これにより、第1GaN層53を形成する。第1GaN層53は、積層方向に垂直な主面に対して傾斜した表面(第1斜面53s)を有する島状の結晶を含む。第1GaN層53の厚さ(高さ)は、約300nm程度である。
次に、基板温度を再度、第1温度以下の1040℃(第2温度)とし、シランとアンモニアとを含む第2ガスを、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量350cc/分、アンモニアを流量20L/分で、3分間供給する。これにより、第1層54を形成する。第1層54の厚さは、約0.5原子層である。第1層54にMgを含ませる場合には、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を第2ガスに含ませる。例えばシランとビスシクロペンタジエニルマグネシウムとアンモニアとを含む第2ガスを供給すると、SiとMgとを含む第1層54を形成することができる。
次に、基板温度を第1温度以上の1120℃(第3温度)とし、例えばTMGとシランとアンモニアとを含む第1ガスを、TMGを流量56cc/分、シラン(SiH4)を流量5.6cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、2.5分間供給する。シランは、TMGおよびアンモニアとは別の経路により供給されてもよい。シランは、第1ガスに含まれていなくともよい。これにより、第1GaN層53の上に第2GaN層55を形成する。第2GaN層55は、積層方向に垂直な主面に対して傾斜した表面(第2斜面55s)を有する島状の結晶を含む。第2GaN層55の厚さ(高さ)は、約100nm程度である。
第1GaN層53の成長時に比べて成長温度を30℃高くし、TMG流量を1/2倍にする。これにより、Gaの付着を抑制し、第1GaN層53の上に、第1GaN層53よりも小さな大きさ(サイズ)の島状の結晶を含む第2GaN層55を選択的に形成する。第2GaN層55の成長速度は、第1GaN層53の成長速度に比べ、約1/2倍と遅い。
次に、基板温度を再度、1040℃とし、シランとアンモニアとを含む第2ガスを、濃度10ppmのシラン(SiH4)の流量を350cc/分、アンモニアを流量20L/分で、3分間供給する。これにより、第2層56を形成する。第2層56の厚さは、約0.5原子層である。第2層56にMgを含ませる場合には、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を第2ガスに含ませる。例えばシランとビスシクロペンタジエニルマグネシウムとアンモニアとを含む第2ガスを供給すると、SiとMgとを含む第2層56を形成することができる。
引き続き、基板温度を1090℃とし、まず、TMGを流量28cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、10分間供給する。これにより、第2GaN層55の一部を合体させる。10分間で形成される第3GaN層57の厚さは、約80nm程度である。その後、TMGを流量56cc/分に増加させ、60分間供給する。これにより、第1GaN層53および第2GaN層55を合体させ、平坦な第3GaN層57を形成する。第3GaN層57の厚さは、約2μmである。第3GaN層57の形成の際、第3GaN層57のうちの少なくとも一部を第1GaN層53の成長時および第2GaN層55の成長時に比べて、TMG流量を小さくすることで、第3GaN層57が平坦になる膜厚が小さくなりやすい。第3GaN層57の成長速度を、第1GaN層53の成長速度および第2GaN層55の成長速度に比べて遅くすることで、第3GaN層57が平坦になる膜厚を小さくできる。これにより、基板40の反りを低減することができる。
その後、機能層10の形成として、TMGを流量56cc/分、アンモニアを流量20L/分、シラン(SiH4)を流量56ccにて、30分間供給する。これにより、Si濃度が5×1018 (/cm3)のn−GaN層(n形GaN層)を形成する。機能層10の厚さは、約1μmである。n形GaN層は、n形半導体層11(機能層10の少なくとも一部)となる。これにより、本実施形態に係る窒化物半導体素子または窒化物半導体ウェーハを形成することができる。
なお、変更点以外の成長条件に関しては、前の工程と同様の条件で形成している。各層を形成する際の条件変更時には、アンモニアガスを供給しつつ、III族ガスおよびシランの供給を停止し、窒化物半導体の成長を中断させる。
図6(a)〜図6(d)は、窒化物半導体層の(1−100)面で劈開した断面を観察したSEM像を例示する図である。
図6(a)は、第1実施例の窒化物半導体素子120の断面SEM像を例示する図である。
図6(a)に示したように、第1GaN層53は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面)に対して傾斜した表面(第1斜面53s)を有する凹凸を含む。第1GaN層53は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)で不連続な島状の結晶を含む。
第1層54は、第1GaN層53に接している。第1層54のうちの一部が、第3層52に接している。第2GaN層55は、第1GaN層53の上に形成される。第2GaN層55は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面)に対して傾斜した表面(第2斜面55s)を有する凹凸を含む。第2GaN層55のサイズは、第1GaN層53のサイズよりも小さい。この例では、第2GaN層55は、第1GaN層53の第1頂面53tおよび第1斜面53sの上に形成されている。
第2層56は、第2GaN層55に接している。第2層のうちの一部が、第1層54に接している。第1GaN層53の間隔は、100nm程度と小さい。第1GaN層53は、高密度に形成されていることがわかる。第1GaN層53を高密度に形成することで、高さの低い結晶であっても第1斜面53sの面積を増大させ転位の低減効果を大きくすることができる。高さを低くすることができることから、島状の第1GaN層53同士が互いに合体する際に生じる引っ張り応力(歪み)を低減することができる。これにより、第1GaN層53に形成される圧縮応力(歪み)を維持した状態で平坦なGaN層を形成することができる。基板40の反りを低減することができる。
以下、参考例について説明する。
(第1参考例)
図5(b)は、第1参考例の窒化物半導体素子131を示す模式的断面図である。
第1参考例の窒化物半導体素子131においては、第2GaN層55が第1層54の上に連続的な膜として形成されている。すなわち、第1参考例の窒化物半導体素子131においては、第2GaN層55が島状の結晶を含まない。
第1参考例においては、第1GaN層53の形成時にシランの供給を止める。これとともに、第2GaN層55の形成において、基板温度を1090℃とし、シランの供給を停止し、TMGを流量112cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、2.5分間供給する。すなわち、第2GaN層55の形成において、第1GaN層53の形成工程と同様の工程を再度行う。その他の条件は、窒化物半導体素子120と同じである。
図6(b)は、第1参考例の窒化物半導体素子131の断面SEM像を例示する図である。
図6(b)からわかるように、第2GaN層55が第1層54の上に連続的な膜として形成されており、島状の結晶を含まない。このように、第1GaN層53の形成と同様の工程を繰り返す場合には、島状の結晶は形成されない。この場合には、第1GaN層53が相似的に拡大しやすい。
(第2参考例)
図5(c)は、第2参考例の窒化物半導体素子132を示す模式的断面図である。
第2参考例の窒化物半導体素子132においては、第2GaN層55および第2層56が設けられていない。
図6(c)は、第2参考例の窒化物半導体素子132の断面SEM像を例示する図である。
(第3参考例)
図5(d)は、第3参考例の窒化物半導体素子133を示す模式的断面図である。
第3参考例の窒化物半導体素子133においては、第1GaN層53および第2GaN層55は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面)に対して傾斜した表面を有していない。第1GaN層53および第2GaN層55は、平坦な層である。
第3参考例においては、第1GaN層53を形成する際に、シランの供給を停止し、TMGを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、15分供給する。その後、第1GaN層53と第1層54との形成工程を2回繰り返す。その他の条件は、窒化物半導体素子120と同じである。
図6(d)は、第3参考例の窒化物半導体素子133の断面SEM像を例示する図である。
図6(d)からわかるように、第1GaN層53および第2GaN層55は平坦である。第1GaN層53の厚さは、約600nmである。第2GaN層55の厚さは、約600nmである。
図7(a)〜図7(c)は、第2参考例で例示した窒化物半導体素子132の断面TEM像を例示する図である。
図7(a)は、基板40から機能層10までの領域の断面TEM像である。図7(b)は、第1GaN層53における、第1斜面53sを含む領域(図7(a)に図示した領域RN1)と同様の領域を拡大した断面TEM像である。図7(c)は、第1GaN層53における、積層方向に垂直な平面(第1頂面53t)を含む領域(図7(a)に図示した領域RN2)と同様の領域を拡大した断面TEM像である。図7(a)〜図7(c)に表した黒い線は、転位を表す。図7(a)においては、第1層54を点線で描いている。
図7(a)からわかるように、基板40とAlNバッファ層62との界面で発生する転位20が、第3層52で大幅に減少している。第3層52を貫いて機能層10の側へ伝播する転位20の一部は、第1GaN層53の内部で屈曲している。これにより、積層方向への伝播が抑制されている。これは、単結晶のAlGaN層51上に形成する第1GaN層53が圧縮応力(歪み)を受け、三次元的に成長するためである。第3層52によって、選択的な成長が強調されるためである。
三次元成長する島状の第1GaN層53の上に、第1層54が形成されている。第1層54のうちの一部は、第3層52に接している。第1層54が第3層52に接する領域では、AlNバッファ層62から発生する大部分の転位20の伝播が遮られている。これにより、第3GaN層57の転位密度が大幅に減少している。
図7(b)からわかるように、第1GaN層53の第1斜面53sに接して第1層54が形成されている。これにより、機能層10の側に伝播する転位20が第1層54によって遮られている。このように、第1斜面53sに接して形成された第1層54において、転位20が減少しやすい。例えば、第1GaN層53は、凸部53c内において第1斜面53sに繋がる複数の第1転位21を有する。第1層54を介して第1転位21と連続する転位20であって、第2GaN層55内の転位20の数は、複数の第1転位21の数よりも少ない。
一方、図7(c)に表したように、積層方向に垂直な主面(第1頂面53t)の上に形成された第1層54の場合には、転位20の伝播に変化はみられない。転位20は、そのまま機能層10の側へ伝播している。
図8(a)及び図8(b)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する図である。
図8(a)は、窒化物半導体素子110及び窒化物半導体ウェーハ210の断面TEM像である。図8(b)は、図8(a)を基に描いた模式図である。図8(b)においては、積層体50に含まれる第3層52、第1GaN層53、第1層54、第2GaN層55、第2層56、及び第3GaN層57の構成が模式的に描かれている。第3層52の形状、第1層54の形状及び第2層56の形状が、実線で描かれている。第3層52よりも上の領域における転位20が、点線で模式的に描かれている。
図8(a)及び図8(b)から分かるように、第1GaN層53の第1斜面53sに接して第1層54が形成されている。これにより、機能層10の側に伝播する転位20が第1層54で、屈曲し、または、転位20の遮蔽が生じている。積層方向に垂直な主面(第1頂面53t)の上に形成された第1層54の領域では、転位20の伝播に変化は小さい。転位20は、第2GaN層55の内部へ伝播している。第2GaN層55内に伝播する転位20の一部は、第2GaN層55内での転位の屈曲および第2層56での転位の屈曲によって遮られている。これにより、機能層10の側への転位20の伝播が遮られている。
第2GaN層55内での転位の屈曲は、例えば、第1層54によって、第2GaN層55の三次元成長が生じるために生ずる。第2層56での転位の減少は、前述した第1層54と同様に、第2GaN層55の第2斜面55sで生じやすい。例えば、第2GaN層55は、凸部55c内において第2斜面55sに繋がる複数の第2転位22を有する。第2層56を介して第2転位22と連続する転位20であって、第3GaN層57内の転位20の数は、複数の第2転位22の数よりも少ない。
このように、第1GaN層53と第1層54とで形成された島状の結晶の上に、第1GaN層53のサイズよりも小さいサイズの島状の結晶であって、第2GaN層55(及び第2層56)で形成された島状の結晶を形成することで、転位20を大幅に低減することができる。
図9は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。 図9は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子における、刃状転位密度Deおよび基板の反りWPを表したグラフ図である。刃状転位密度Deは、X線回折測定における、(0002)面、(0004)面、(10−11)面、(20−22)面のロッキングカーブ半値幅から導かれる。基板の反りWPは、反り測定器によって基板40(シリコン基板)の反りを計測することで導かれる。
第1実施例の窒化物半導体素子120の刃状転位密度Deは、2.9×10−8(/cm2)であり、第1〜3参考例の窒化物半導体素子131、132、133の刃状転位密度Deよりも低い。第1実施例の窒化物半導体素子120の基板40の反りWPは、凹状に29μmであり、比較的小さい反り量である。第1実施例の窒化物半導体素子120には、クラックは発生しない。
第1参考例の窒化物半導体素子131の刃状転位密度Deは、5.9×10−8(/cm2)であり、第1実施例の窒化物半導体素子120の刃状転位密度Deよりも高い。第1参考例の窒化物半導体素子131の基板40の反りWPは、凹状に45μmであり、第1参考例の窒化物半導体素子131の反りWPよりも大きな反り量である。第1参考例の窒化物半導体素子131には、クラックが形成された。
第1参考例において刃状転位密度Deが高いのは、第2GaN層55が層状に形成されており、島状の結晶の斜面での転位の屈曲または遮蔽が生じないためであると考えられる。第1参考例の窒化物半導体素子131の刃状転位密度Deは、後述する第2参考例の窒化物半導体素子132の刃状転位密度Deと同程度である。第1GaN層53を同様の形状で拡大するだけでは、転位の低減効果はほとんど得られないといえる。
第2参考例の窒化物半導体素子132の刃状転位密度Deは、5.5×10−8(/cm2)であり、第1実施例の窒化物半導体素子120の刃状転位密度Deよりも高い。第2参考例の窒化物半導体素子132の基板40の反りWPは、凹状に28μmであり、比較的低い反り量である。第2参考例の窒化物半導体素子132には、クラックは発生しない。第1実施例に比べ、刃状転位密度Deは約2倍の値を示していることから、第2GaN層55を島状に形成し、第1斜面53sに接して第2層56を形成することで、転位を約50%に低減できることがわかる。
第3参考例の窒化物半導体素子133の刃状転位密度Deは、1.1×10−9(/cm2)であり、第1実施例の窒化物半導体素子120の刃状転位密度Deよりも高い。第3参考例の窒化物半導体素子133の基板40の反りは、凹状に55μmであり、第1参考例の窒化物半導体素子131の反りWPよりも大きな反り量である。第3参考例の窒化物半導体素子133には、クラックが形成された。
第3参考例において刃状転位密度Deが高いのは、第1GaN層53および第2GaN層55が島状に形成されておらず、転位の屈曲効果が弱いためであると考えられる。
このように、例えば、第3層52を、少なくとも一部に単結晶を有するAlGaN層51に接して設けることで、第1GaN層53が三次元的に成長する。これにより、バッファ層60で発生する転位を積層方向(Z軸方向)に対して平行方向に曲げ、機能層10に到達する転位を低減することができる。第3層52によって第1GaN層53の成長が阻害される領域では、AlNバッファ層62で生じた転位が第3層52によって遮蔽される。これにより、転位の上部への伝播が阻害され、転位を低減することができる。
第1GaN層53の第1斜面53sに接して第1層54を形成することで、例えば、機能層10の側に伝播する転位20が第1層54によって屈曲または遮られる。その結果、機能層10に到達する転位を大幅に低減することができる。
第2GaN層55を第1GaN層53の上に島状に形成し、さらに第2GaN層55に接して第2層56を形成することで、例えば、第1GaN層53および第1層54を貫く転位を屈曲させることができる。これにより、転位を大幅に低減することができる。
次に、第1GaN層53の形状の効果の例について説明する。
図10は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。 図10は、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1を変化させたときの、窒化物半導体素子120の刃状転位密度Deの変化を表している。図10の横軸は、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1である。高さは、断面SEM像でみられる凹凸形状で最も大きな凸部(島)の高さ(厚さ)をプロットするものである。第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は、第3層52の厚さ(成長時間TM)、第1GaN層53の成長温度GT、第1GaN層53の成長速度GR、または、第1GaN層53のアンモニア供給量(V/III比)で変化させる。具体的には、第3層52の厚さを厚くする(成長時間TMを長くする)、第1GaN層53の成長温度GTを低くする、成長速度GRを速くする、アンモニア供給量(V/III比)を減少させるなどによって、第1GaN層53の高さ(厚さ)を増大させる。
図10に表したように、第1GaN層53が平坦な場合(高さt1が0nmに相当する)に対して、100nm〜1200nmの高さ(厚さ)の第1GaN層53を形成する場合は、刃状転位密度Deが低減することがわかる。高さ(厚さ)t1が100nmよりも低い(薄い)、または、1200nmよりも高い(厚い)場合には、刃状転位密度Deが増大する傾向がある。
高さ(厚さ)t1が100nmよりも低い場合には、図2(a)に例示したように、第1斜面53sの形成が不十分であり、積層方向に垂直な平坦面(第1頂面53t)の結晶表面に占める割合が大きい。そのため、第1層54での転位の遮蔽効果が十分に得られないと考えられる。第1GaN層53の結晶の体積(表面積)が小さい(狭い)ため、結晶内で転位の伝播方向が変化せず、第1GaN層53中での転位の低減効果が小さくなると考えられる。
一方、高さ(厚さ)t1が1200nmよりも高い場合には、隣り合う第1GaN層53の結晶同士が合体しやすくなり、第3層52と第1層54が接する領域が狭くなる。その結果、AlNバッファ層62で生じた転位の遮蔽効果が低減し、刃状転位密度Deが増加すると考えられる。
高さ(厚さ)t1が1200nmよりも高い(厚い)凹凸を形成する場合には、第3GaN層57の表面にピットが形成された。本実施例においては、第3GaN層57の厚さは、2μmであり、第3GaN層57の厚さの半分以上の厚さを有する第1GaN層53の島を平坦化することが困難であると考えられる。すなわち、平坦な第3GaN層57を得るための第3GaN層57の厚さは、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1の2倍程度である。最適な高さt1は1200nmに限定されるものではなく、第3GaN層57の膜厚の1/2以下であることが好ましい。なお、「平坦」とは90%以上の面積が主面と平行な結晶面で形成されていることを意味する。
このように、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1が100nm以上1200nm以下の場合に、刃状転位密度Deが低減することがわかる。より好ましくは、第1GaN層53の高さ(厚さ)t1は、300nm以上、第3GaN層57の厚さの1/2倍以下である。第3GaN層57の厚さの1/2倍は、本実施例においては、1000nmである。
次に、第3層52の厚さの効果の例について説明する。
図11(a)及び図11(b)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。
図11(a)は、第3層52の成長時間(厚さ)TMを変化させたときの、窒化物半導体素子120の刃状転位密度Deの変化を表している。図11(a)の横軸は、第3層52の成長時間TMを表しており、第3層52の厚さに相当する。
図11(a)に表したように、第3層52の成長時間TMが3分以上17分以下の場合に刃状転位密度Deが低くなる傾向があることがわかる。成長時間TMが3分よりも短い場合には、島状の結晶が成長しにくく、第1GaN層53が層状の結晶となる。第3層52には、部分的にピットの開いた凹凸が形成されていた。この場合には、図2(a)に例示したように、第1斜面53sの形成が不十分であり、積層方向に垂直な平坦面(第1頂面53t)の結晶表面に占める割合が大きい。そのため、第1層54での転位の遮蔽効果が十分に得られず、転位が高くなると考えられる。一方、成長時間TMが17分よりも長い場合には、第1GaN層53の高さが1300nm程度となり、平坦な第3GaN層57が得られない。第3GaN層57の表面には、ピットが形成された。すなわち、第3GaN層57の厚さの1/2倍以上の高さの第1GaN層53が形成され、刃状転位密度Deが増加しやすくなると考えられる。
この例では、第3層52の成長時間TMが8分の場合において、1原子層に相当する。即ち、第3層52の厚さが0.4原子層以上2.1原子層以下の場合に、刃状転位密度Deが低減する。第3層52の厚さが0.4原子層よりも薄い場合に刃状転位密度Deが高くなるのは、第1GaN層53の三次元成長が生じず、転位の低減効果が得られないためであると考えられる。一方、第3層52の厚さが2.1原子よりも厚い場合に刃状転位密度Deが高くなるのは、第1GaN層53の島状結晶の密度が小さくなり、その上に形成する第3GaN層57の平坦性が低下するためであると考えられる。
図11(b)は、第3層52におけるSi濃度CSを変化させたときの、窒化物半導体素子120の刃状転位密度Deの変化を表している。
図1(a)に関して前述したように、第3層52の厚さは、透過型電子顕微鏡像(TEM)による直接観察や二次イオン質量分析法(SIMS)により見積もることができる。SIMS分析法において、層中のSi濃度が2×1020(/cm3)程度の場合に、第3層52の厚さが1原子層に相当する。このSi濃度は、面密度に換算すると、1×1015(/cm2)程度のSi面密度に対応する。
SIMS分析の場合、スパッタレートなどの測定条件によって、Si濃度が厚さ(深さ)方向に広がりを有するように観測されることがある。この場合、例えば、第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれに相当する領域でのSi濃度の極大値(最大値)に対して、Si濃度が10%の値に低減する領域までのSi濃度の総和(Si原子の厚さ方向の積分値)を、第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれに含まれる単位面積あたりのSi原子の数(Si面密度)とみなすことができる。
第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれの厚さについては、このSi濃度の総和(Si面密度)を用いて見積もることができる。すなわち、第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれの中のSi原子が、一様に、GaN層のGa原子(III族原子)と置換される場合における、Siに置換されるGaN層の厚さとして見積もることができる。
本願明細書においては、第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれの中のSi原子の数がGaN層の1層分に相当するGa原子を置換する数である場合に、その第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれの厚さを1原子層とする。
例えば、GaN層における(0001)面のGa原子(III族原子)の面密度は、約1×1015/cm2である。したがって、膜中のSiの面密度が1×1015/cm2程度の場合に、第1層54、及び第2層56の厚さが1原子層であることに相当する。
SIMS分析において、例えば、Si濃度のピーク値が2×1020/cm3であって、幅200nmの拡がりを有する場合は、面密度に換算すると、1×1015/cm2程度のSi面密度に相当する。
すなわち、層中のSi濃度が2×1020/cm3程度の場合が、第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれの厚さが1原子層であることに相当する。したがって、「第3層52の厚さが0.4原子層以上2.1原子層以下の場合に転位密度が低減する」とは、「第3層52におけるSi濃度が、7.0×1019/cm3以上4.5×1020/cm3以下の場合に転位密度が低減する」ことに相当し、転位密度が低くなる。そして、層中のSi面密度が3.5×1014/cm2以上2.3×1015/cm2以下の場合に、転位密度が低くなる。
したがって、第3層52におけるSi濃度が、7.0×1019 /cm3以上4.5×1020 /cm3以下の場合に、刃状転位密度Deが低くなる傾向があるといえる。層中のSi面密度が3.5×1014 /cm2以上2.3×1015 /cm2以下の場合に、刃状転位密度Deが低くなる傾向があるといえる。
図12(a)および図12(b)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示するグラフ図である。
図12(a)および図12(b)は、本実施形態に係る窒化物半導体素子110(すなわち窒化物半導体ウェーハ210)のSIMS分析結果の例を示している。この例では、深さ方向(積層方向)に沿って、5nm間隔で測定される。図12(a)および図12(b)の横軸は、深さZd(Z軸方向の位置に相当する)である。図12(a)および図12(b)の縦軸は、Si濃度CS(atoms/cm3)である。
図12(a)の例では、第3層52の成長時間TMは、8分である。この条件は、第3層52におけるSi面密度が1.0×1015/cm2である条件に対応する。第1層54の成長時間は、3分である。この条件は、第1層54におけるSi面密度が3.8×1014/cm2である条件に対応する。第2層56の成長時間は、3分である。この条件は、第2層56におけるSi面密度が3.8×1014/cm2である条件に対応する。
図12(b)の例では、第3層52の成長時間TMは、10分である。この条件は、第3層52におけるSi面密度が1.2×1015/cm2である条件に対応する。その他の条件については、図12(a)の例と同じである。
図12(a)から分かるように、積層体50の範囲において、3段階のSiのピークが観察される。例えば、積層体50におけるSi濃度プロファイルは、第1〜第7部分p1〜p7を有する。第1〜第7部分p1〜p7は、Z軸方向に沿って積層される。
第1部分p1は、第1Si濃度を有する。第1Si濃度は、7.0×1019/cm3以上4.5×1020/cm3以下である。
第2部分p2は、第1部分p1の上側に設けられる。すなわち、第2部分p2は、第1部分p1と機能層10との間に設けられる。第2部分p2は、第2Si濃度を有する。第2Si濃度は、第1Si濃度よりも低い。第2Si濃度は、例えば1×1017/cm3未満である。第2部分p2においては、Si濃度は比較的一定である。
第3部分p3は、第1部分p1と第2部分p2との間に設けられる。第3部分p3は、第3Si濃度を有する。第3Si濃度は、第1Si濃度と第2Si濃度との間である。第3Si濃度は、例えば3×1018/cm3以上5×1019/cm3以下である。第3部分p3においては、Si濃度は比較的一定である。
第4部分p4は、第3部分p3と第2部分p2との間に設けられる。第4部分p4は、第4Si濃度を有する。第4Si濃度は、第3Si濃度と第2Si濃度との間である。第4Si濃度は、例えば1×1018/cm3以上3×1019/cm3以下である。第4部分p4においては、Si濃度は比較的一定である。
第5部分p5は、第1部分p1と第3部分p3との間に設けられる。第5部分p5におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第3部分p3におけるSi濃度の厚さに対する変化率よりも高い。第5部分p5においては、Si濃度が急激に変化する。
第6部分p6は、第3部分p3と第4部分p4との間に設けられる。第6部分p6におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第3部分p3におけるSi濃度の厚さに対する変化率よりも高い。第6部分p6におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第4部分p4におけるSi濃度に対する変化率よりも高い。第6部分p6においては、Si濃度が急激に変化する。
第7部分p7は、第4部分p4と第2部分p2との間に設けられる。第7部分p7におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第4部分p4におけるSi濃度の厚さに対する変化率よりも高い。第7部分p7におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第2部分p2におけるSi濃度に対する変化率よりも高い。
第1部分p1においては、Si濃度のピークの幅(厚さ方向の幅)が狭い。第1部分p1は、第3層52に対応する。
この例では、第1部分p1におけるSi濃度のピーク(最大値)は2.6×1020/cm3である。Si濃度がピーク値の10%の値に低減するまでのピークの幅は、約120nmである。この領域の総Si濃度(厚さ方向のSi濃度の積分値)は、1.1×1015/cm2であり、第3層52のSi面密度に対応する。
第1部分p1の厚さ(幅)は、例えば1nm以上200nm以下である。第1部分p1の厚さが1nmよりも薄いと、第1GaN層53の三次元成長が十分に生じない。第1部分p1の厚さが200nmよりも厚い場合は、第1GaN層53の成長が阻害され、斜面の面積が減少し、転位密度の低減効果が十分に得られない。
第5部分p5は、第1GaN層53に対応する。第3部分p3は、第1層54に対応する。第1層54におけるSi濃度は、2.5×1019/cm3である。第1GaN層53のうちの少なくとも一部におけるSi濃度は、1×1017/cm3以上1×1020/cm3以下である。第1GaN層53は、凸部53cを含んでおり、その凸部53cの上に第1層54が設けられる。第1GaN層53の凸部53cの直径(幅)53v(または55w)は、例えば50nm以上1500nm以下である。SIMS分析において、分析の面積は、凸部の大きさ(面積)よりも広い。このため、SIMS分析によるSi濃度は、複数の凸部を含む範囲(第2層56、第2GaN層55、第1層54及び第1GaN層53の範囲)の平均の値として検出される。例えば、第3GaN層57が設けられる場合には、第3GaN層57の範囲は、複数の凸部を含む範囲に含まれる。このため、Si濃度プロファイルにおいて、厚さ(深さ)方向に広がりが生じるとともに、ピーク値が実際のSi濃度に比べ小さくなり、第5部分p5及び第3部分p3のプロファイルが生じる。
この例では、第3部分p3におけるSi濃度のピークは、約2.5×1019/cm3であり、第3部分p3及び第5部分p5の幅(Si濃度がピーク値の10%の値に低減するまでのピークの幅に相当)は約200nmである。この領域の総Si濃度(厚さ方向のSi濃度の積分値)は、5.2×1014/cm2であり、第1層54のSi面密度に対応する。
第5部分p5の厚さ(幅)は、例えば100nm以上1200nm以下である。第5部分p5の厚さが100nmよりも薄い場合は、第1GaN層53の高さが100nm以下の場合に相当する。このときには、第1斜面53sの形成が不十分であり、転位密度の低減効果が減少する。第5部分p5の厚さが1200nmよりも厚い場合は、第1GaN層53の高さが1200nm以上の場合に相当する。例えば、第3GaN層57が設けられる場合には、第3GaN層57の平坦性が低下しやすい。
第6部分p6は、第2GaN層55に対応する。第4部分p4は、第2層56に対応する。この例では、第2層56におけるSi濃度は、1.5×1019/cm3である。第2GaN層55のうちの少なくとも一部におけるSi濃度は、1×1017/cm3以上1×1020/cm3以下である。第2GaN層55は、凸部55cを含んでおり、その凸部の上に第2層56が設けられる。第2GaN層55の凸部の直径(幅)55v(または55w)は、例えば10nm以上1000nm以下である。第2GaN層55のサイズは、第1GaN層53のサイズよりも小さい。
この例では、第4部分p4におけるSi濃度のピークは、約1.5×1019/cm3であり、第4部分p4及び第6部分p6のそれぞれの幅(Si濃度がピーク値の10%の値に低減するまでのピークの幅に相当)は約220nmである。この領域の総Si濃度(厚さ方向のSi濃度の積分値)は、2.5×1014/cm2であり、第2層56のSi面密度に対応する。
例えば、第7部分p7及び第2部分p2は、第3GaN層57に対応する。例えば、第3GaN層57の一部(下側の一部)に、第3層52、第1層54及び第2層56の少なくともいずれかから、Siが拡散すると考えられる。このSiの拡散領域が、第7部分p7に対応していると考えられる。
第7部分p7の厚さは、例えば10nm以上2500nm以下である。第7部分p7の厚さが10nmより薄い場合は、第1層54および第2層56での転位の屈曲効果または遮蔽効果が十分に得られない。第7部分p7の厚さが2500nmよりも厚い場合は、第3GaN層57の平坦性が低下しやすい。
例えば、SIMS分析において、第1部分p1が存在することにより、第3層52の存在が判断できる。第3部分p3が存在することにより、第1層54の存在が判断できる。第4部分p4が存在することにより、第2層56の存在が判断できる。
図12(b)から分かるように、この例の積層体50の範囲においても、3段階のSiのピークが観察される。例えば、図12(b)に示した例の積層体50におけるSi濃度プロファイルは、図12(a)の例と同様である。
第1部分p1は、Si濃度が7.0×1019/cm3以上4.5×1020/cm3以下の第1濃度を有する。第2部分p2は、Si濃度が例えば1×1017/cm3未満の第2濃度を有する。第3部分p3は、Si濃度が例えば3×1018/cm3以上5×1019/cm3の第3濃度を有する。第4部分p4は例えば1×1018/cm3以上3×1019/cm3以下の第4濃度を有する。
図12(a)の例と同様に、例えば、SIMS分析において、第1部分p1が存在することにより、第3層52の存在が判断できる。第3部分p3が存在することにより、第1層54の存在が判断できる。第4部分p4が存在することにより、第2層56の存在が判断できる。
図13(a)〜図13(d)は、実施形態に係る窒化物半導体素子を示す図である。
図13(a)〜図13(c)は、実施形態に係る窒化物半導体素子110(すなわち窒化物半導体ウェーハ210)のエネルギー分散型X線分光分析(EDS分析)の結果の例を示すグラフ図である。図13(d)は、EDS分析における分析の場所を示している。図13(d)は、EDS分析の場所として、第1分析位置Ap1、第2分析位置Ap2及び第3分析位置Ap3を、断面TEM像上に示している。第1分析位置Ap1は、第3層52の位置に対応する。第2分析位置Ap2は、第1層54の位置に対応する。第3分析位置Ap3は、第2層56の位置に対応する。
図13(a)は、第1分析位置Ap1の分析結果を表す。図13(b)は、第2分析位置Ap2の分析結果を表す。図13(c)は、第3分析位置Ap3の分析結果を表す。図13(a)〜図13(c)の横軸は、エネルギーEg(keV:キロエレクトロンボルト)である。図13(a)〜図13(c)の縦軸は、強度Int(counts)である。このEDS分析における、Siの検出限界は、1000ppmである。
この例では、第3層52の成長時間TMは、8分である。この条件は、第3層52におけるSi面密度が1.0×1015/cm2である条件に対応する。第1層54の成長時間は、3分である。この条件は、第1層54におけるSi面密度が3.8×1014/cm2である条件に対応する。第2層56の成長時間TMは、3分である。この条件は、第2層56におけるSi面密度が3.8×1014/cm2である条件に対応する。
図13(a)〜図13(c)からわかるように、本実施形態においては、第3層52、第1層54、及び第2層56から、Siが検出される。第3層52におけるSi濃度は、約4.6(atomic/%)と見積もられる。第1層54におけるSi濃度は、約3.9(atomic/%)と見積もられる。第2層56におけるSi濃度は、約4.2(atomic/%)と見積もられる。このように、本実施形態においては、第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれにおけるSi濃度は、検出限界(1000ppm)以上である。第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれにおけるSi濃度を1000ppm以上とすることで、転位低減の大きな効果が得られる。
本実施形態に係る窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハにおいては、第1GaN層53の凸部内の転位20が、凸部の斜面(第1斜面53s)上に設けられた第1層54において減少する。第1GaN層53の凸部の上に設けられ、第1GaN層53よりも小さなサイズの第2GaN層55において、第1GaN層53の凸部内の転位20がさらに減少する。そして、既に説明したように、本実施形態においては、第1層54、第2層56および第3層52のそれぞれにおけるSi濃度は、十分に検出限界以上である。第3層52におけるSi濃度は、例えば、7.0×1019/cm3以上4.5×1020/cm3以下である。第1層54におけるSi濃度は、例えば、1.0×1017/cm3以上1.0×1020/cm3以下である。第2層56におけるSi濃度は、例えば、1.0×1017/cm3以上1.0×1020/cm3以下である。
(第2の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体素子に係る。
図14(a)〜図14(d)は、第2の実施形態に係る窒化物半導体素子および窒化物半導体ウェーハを例示する図である。
図14(a)は、模式的断面図である。図14(b)は、積層中間層におけるAl組成比(CAl)を例示するグラフ図である。図14(c)は、積層中間層における成長温度GT(形成温度)を例示するグラフ図である。図14(d)は、積層中間層におけるa軸の格子間隔Ldを例示するグラフ図である。
図14(b)、図14(c)及び図14(d)において、縦軸は、Z軸方向の位置である。図14(b)の横軸は、Al組成比CAlである。図14(b)に表したように、積層中間層70において、Al組成比CAlは、第1GaN中間層71aおよび第2GaN中間層71bにおいて実質的に0である。Al組成比CAlは、第1AlN中間層72aおよび第2AlN中間層72bにおいて実質的に1である。Al組成比CAlは、第1AlGaN中間層73aおよび第2AlGaN中間層73bにおいて0よりも高く1よりも低い。
図14(a)に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体素子130および窒化物半導体ウェーハ230は、バッファ層60と、積層中間層70と、積層体50と、機能層10と、を含む。バッファ層60と、積層体50と、機能層10と、のそれぞれには、第1の実施形態に関して説明した構成を適用することができる。以下、積層中間層70について説明する。
バッファ層60は、AlGaNバッファ層61を含む。AlGaNバッファ層61は、前述した積層体50におけるAlGaN層51と同様の特性を有する。AlGaNバッファ層61の形成条件などは、AlGaN層51で説明したものと同様である。
積層中間層70は、第1中間層70aと第2中間層70bとを含む。第1中間層70aは、第1GaN中間層71aと、第1AlN中間層72aと、第1AlGaN中間層73aと、を含む。第2中間層70bは、第2GaN中間層71bと、第2AlN中間層72bと、第2AlGaN中間層73bと、を含む。本実施例においては、GaN中間層71と、AlN中間層72と、AlGaN中間層73と、を有する構成が、2回繰り返し積層されている。繰り返し数は2回に限らず、3回以上繰り返してもよい。積層中間層70は、第1中間層70aのみを有してもよい。
図14(d)に表したように、実施形態の積層中間層70では、a軸の格子間隔Ld(積層方向(Z軸方向)に対して垂直な方向の格子間隔)は、GaN中間層71で最も大きく、AlN中間層72で急激に小さくなる。
すなわち、AlGaNバッファ層61の上に、AlGaNバッファ層61よりも格子定数の大きい第1GaN中間層71aが形成されている。第1GaN中間層71aの形成温度(基板温度)は、例えば、AlGaNバッファ層61の形成温度よりも高く、約1090℃である。第1GaN中間層71aの形成温度を、AlGaNバッファ層61の形成温度よりも高くすることで、第1GaN中間層71aに圧縮歪み(応力)が蓄積しやすい。第1GaN中間層71aの厚さは、例えば100nm以上、2000nm以下が好ましく、例えば約300nmである。第1GaN中間層71aは、成長の初期では、AlGaNバッファ層61の格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪み(応力)を受けながら成長する。そして、GaNの成長が進むにつれて徐々に歪み(応力)が緩和し、GaNの格子間隔は、歪みを受けない状態のGaNの格子定数に近づく。
第1AlN中間層72aが、第1GaN中間層71aの上に形成されている。第1AlN中間層72aの厚さは、例えば5nm以上、100nm以下が好ましく、例えば約12nmである。第1AlN中間層72aの結晶成長温度(基板温度)は、図14(c)に表したように、第1GaN中間層71aの温度よりも低く、例えば500℃以上、1050℃以下であることが好ましい。第1AlN中間層72aの形成温度(基板温度)は、例えば800℃である。第1AlN中間層72aの少なくとも一部は単結晶である。そのため、第1AlN中間層72aは、格子緩和し易くなる。これにより、第1AlN中間層72aの形成の初期から、下地となる第1GaN中間層71aからの引っ張り歪み(応力)を受けにくくなる。その結果、下地となる第1GaN中間層71aからの歪み(応力)の影響を減少するように、第1AlN中間層72aを形成することができる。このようにして、格子緩和する第1AlN中間層72aが第1GaN中間層71aの上に形成される。
続いて、第1AlGaN中間層73aが第1AlN中間層72aの上に形成されている。第1AlGaN中間層73aのAl組成比CAlは、第1AlN中間層72aのAl組成比CAlよりも低い。AlGaNは、厚さが薄い状態すなわち成長の初期では、AlNの格子間隔に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。そして、AlGaNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、AlGaNは、歪みを受けない状態のAlXGa1−XN(0<X<1)の格子間隔に近づく。
第1AlGaN中間層73aの形成温度(基板温度)は、例えば、第1AlN中間層72aの形成温度(基板温度)および第1GaN中間層71aの形成温度(基板温度)よりも高い。第1AlGaN中間層73aの形成温度を、第1AlN中間層72aの形成温度および第1GaN中間層71aの形成温度よりも高くすることで、第1AlGaN中間層73aが緩和し難くなる。第1AlGaN中間層73aの形成温度(基板温度)は、例えば約1120℃である。第1AlGaN中間層73aのAlの組成比は、第1AlN中間層72aの緩和率α以下とされる。
第1AlGaN中間層73aのAlの組成比が、第1AlN中間層72aの緩和率αよりも大きいと、第1AlGaN中間層73aに引っ張り歪み(応力)が生じ、クラックが生じやすい。格子緩和が生じ、転位が増大しやすい。
緩和率αは、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、無歪みのAlNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔daと、の差の絶対値に対する、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと第1AlN中間層72aの第1軸(例えばa軸)の実際の格子間隔Daと、の差の比で定義される値である。第1軸は、積層方向(Z軸方向に対して垂直な1つの軸である。
第1AlGaN中間層73aの厚さは、例えば5nm以上、100nm以下であることが好ましい。第1AlGaN中間層73aの厚さが5nmよりも薄いと、転位を低減させる効果が得られにくい。第1AlGaN中間層73aの厚さが100nmよりも厚いと、転位を低減させる効果が飽和するだけでなく、クラックが生じやすくなる。第1AlGaN中間層73aの厚さは、より好ましくは50nm未満である。第1AlGaN中間層73aの厚さを50nm未満にすることで、転位を効果的に低減することができる。第2AlGaN中間層73bの厚さは、例えば約25nmである。
第1AlGaN中間層73aの形成温度(基板温度)が第1AlN中間層72aの形成温度(基板温度)よりも80℃以上高いと、AlNの格子定数に格子整合するように成長する効果がより大きく得られる。転位を低減する効果がより大きく得られる。第1AlGaN中間層73aの形成温度は、例えば約1120℃である。
続いて、第2GaN中間層71bが第1AlGaN中間層73aの上に形成されている。さらに、第2AlN中間層72bが第2GaN中間層71bの上に形成されている。さらに、第2AlGaN中間層73bが第2AlN中間層72bの上に形成されている。第2GaN中間層71b、第2AlN中間層72bおよび第2AlGaN中間層73bについては、前述した第1GaN中間層71a、第1AlN中間層72aおよび第1AlGaN中間層73aと同様の構成とすることができるため、説明を省略する。
本実施例においては、第2AlGaN中間層73bが積層体50におけるAlGaN層51として用いられている。このように、積層中間層70が設けられる場合には、最も機能層10に近い側のAlGaN中間層73を積層体50におけるAlGaN層51として用いることができる。
次に、本実施形態に係る第2実施例の窒化物半導体素子の特性について説明する。
窒化物半導体素子130において、積層中間層70以外は、前述した第1実施例の窒化物半導体素子と同様なので説明を省略する。窒化物半導体素子130の積層中間層70は以下のようにして作製される。
AlNバッファ層62を形成し、基板温度を1020℃とし、トリメチルガリウム(TMGa)を流量10cc/分、TMAlを流量50cc/分、アンモニアを流量2.5L/分で8分間供給する。これにより、Al組成比が0.55の第1AlGaNバッファ層61aを形成する。第1AlGaNバッファ層61aの厚さは、約100nmである。引き続き、TMGの流量を17cc/分、TMAの流量を30cc/分に変更し、10分間供給する。これにより、Al組成比が0.3の第2AlGaNバッファ層61bを形成する。第2AlGaNバッファ層61bの厚さは、約200nmである。さらに、TMGの流量を20cc/分、TMAの流量を15cc/分に変更し、11分間供給する。これにより、Al組成比が0.15の第3AlGaNバッファ層61cを形成する。第3AlGaNバッファ層61cの厚さは、約250nmである。
次に、基板温度を1090℃とし、TMGを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、15分間供給する。これにより、第1GaN中間層71aを形成する。第1GaN中間層71aの厚さは、約300nmである。
次に、基板温度を800℃とし、TMAを流量17cc/分、アンモニアを流量10L/分にて、3分間供給する。これにより、第1AlN中間層72aを形成する。第1AlN中間層72aの厚さは、約12nmである。
次に、基板温度を1120℃とし、TMGaを流量18cc/分、TMAlを流量6cc/分、アンモニアを流量2.5L/分で2.5分間供給する。これにより、Al組成比が0.5の第1AlGaN中間層73aを形成する。第1AlGaN中間層73aの厚さは、約25nmである。
次に、基板温度を1090℃とし、TMGを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、15分間供給する。これにより、第2GaN中間層71bを形成する。第2GaN中間層71bの厚さは、約300nmである。
次に、基板温度を800℃とし、TMAを流量17cc/分、アンモニアを流量10L/分にて、3分間供給する。これにより、第2AlN中間層72bを形成する。第2AlN中間層72bの厚さは、約12nmである。
次に、基板温度を1120℃とし、TMGaを流量18cc/分、TMAlを流量6cc/分、アンモニアを流量2.5L/分で2.5分間供給する。これにより、Al組成比が0.5の第2AlGaN中間層73bを形成する。第2AlGaN中間層73bの厚さは、約25nmである。
このように、積層中間層70を形成し、積層中間層70の上に、積層体50および機能層10を形成する。積層体50および機能層10は、窒化物半導体素子120で前述した条件と同様の条件で形成される。
作製する窒化物半導体素子130の刃状転位密度Deを評価すると、2.1×108(/cm2)と低い値を示す。窒化物半導体素子120の刃状転位密度Deは、2.9×108(/cm2)であり、積層中間層70を設けることで、転位密度が約70%に低減する。
室温における基板40を含む窒化物半導体素子130の反りを評価すると、反りは、凸状に10μmである。窒化物半導体素子110の反りは、凹状に29μmの反りである。積層中間層70を設けることで、窒化物半導体素子の内部に形成される圧縮応力が増大し、反りがさらに低減する。
このように、バッファ層60と積層体50との間に、積層中間層70を設けても、同様に、転位密度の低い窒化物半導体素子が得られる。
積層中間層70を設けることで、窒化物半導体素子130の反りを低減することができ、クラックを抑制することができる。
図15は、第2の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。 図15は、(11−24)面の逆格子マッピング像の例である。逆格子マッピングは、X線回折測定によって測定される。図15の横軸は、成長方向(積層方向)に対して垂直な方向の(11−20)面の格子面間隔の逆数Qxである。逆数Qxは、a軸の格子間隔の逆数に比例する値である。図15の縦軸は、成長方向(積層方向)に対して平行な方向の(0004)面の格子面間隔の逆数Qzである。逆数Qzは、c軸の格子間隔の逆数に比例する値である。図15において、GaNの(11−24)面の回折ピークPg(GaNの格子間隔の逆数に対応)の点と、AlNの(11−24)面の回折ピークPa(AlNバッファ層62の格子間隔の逆数に対応)の点と、が示されている。回折ピークPgの点と回折ピークPaの点とを結んだ点線L1は、ベガード則に従う場合の、AlGaN層のAl組成比に対応した格子間隔の逆数の特性を表す。
図15には、AlGaNバッファ層61に対応する(11−24)面の回折ピークの点P61と、AlGaN中間層73(または積層体におけるAlGaN層51)に対応する(11−24)面の回折ピークの点P73と、が示されている。AlGaNバッファ層61およびAlGaN中間層73のピークが確認されることから、AlGaNバッファ層61およびAlGaN中間層73は少なくとも一部が単結晶であることがわかる。
図15において、AlGaN層の格子間隔の測定結果のピーク(点P61及び点P73)が、点線L1よりも下側に現れている場合には、結晶が圧縮歪みを有する(圧縮応力を受けている)ことに対応する。測定結果のピーク(点P61及び点P73)が、点線L1よりも上側に現れている場合には、結晶が引っ張り歪みを有する(引っ張り応力を受けている)ことに対応する。
図15からわかるように、AlGaNバッファ層61によるピークの点P61は、点線L1よりも下側に現れている。このことから、AlGaNバッファ層61は、圧縮歪みを有する(圧縮応力を受けている)ことが分かる。
このようなAlGaNバッファ層61の上に、積層中間層70および積層体50が形成される。AlGaNバッファ層61の上に、積層中間層70および積層体50を形成することで、積層中間層70および積層体50の中で形成される圧縮応力(歪み)が増大する。これにより、結晶成長後の降温過程で生じる引っ張り歪みが低減し、クラックを抑制する効果が増大する。
図15に表したように、AlGaN中間層73(または積層体におけるAlGaN層51)のAlの組成比zが0.5の場合には、点線L1よりも下側にピークが現れている。このことから、AlGaN中間層73(または積層体におけるAlGaN層51)は圧縮歪みを有する(圧縮応力を受けている)ことがわかる。このようなAlGaN中間層73(または積層体におけるAlGaN層51)を形成することで、転位を低減できる。
このように、X線回折測定によって、AlGaNバッファ層61、AlGaN中間層73、および、積層体50中のAlGaN層51の応力(歪み)を評価することができる。
次に、X線回折測定により第1AlN中間層72aの積層方向に垂直な格子間隔(この例では、a軸の格子間隔に相当する)が評価される。その結果、第1AlN中間層72aの格子間隔Daは0.3145nmであり、無歪みのAlNの格子間隔daの0.3112nmよりも大きな値である。第1AlN中間層72aの上に形成される第1AlGaN中間層73aには、圧縮応力(歪み)が形成されていることがわかる。無歪みのGaNのa軸の格子間隔dgは、3189nmである。したがって、第1AlN中間層72aの緩和率αは0.57に相当する。
第1AlN中間層72aの緩和率αは、無歪みのGaNの格子間隔dgと、無歪みのAlNの格子間隔daと、の差の絶対値に対する、無歪みのGaNの格子間隔dgと、第1AlN中間層72aの実際の格子間隔Daと、の差の絶対値の比である。すなわち、第1AlN中間層72aの緩和率αは、|dg−Da|/|dg−da|である。無歪みのGaNの格子間隔dgは、GaNの格子定数に相当する。無歪みのAlNの格子間隔daは、AlNの格子定数に相当する。
この例においては、第1AlGaN中間層73aのAl組成比が0.5であり、第1AlN中間層72aの緩和率αよりも小さい。そのため、第1AlGaN中間層73aに圧縮応力(歪み)が形成される。
一方、例えば、Al組成比が0.7の第1AlGaN中間層73aを形成すると、クラックが発生する。この試料について上記と同様の評価を行うと、第1AlGaN中間層73aには引っ張り応力(歪み)が形成されていることがわかる。すなわち、AlN層の上に、AlNよりも無歪みの格子間隔の大きなAl組成比0.7のAlGaN層を形成しているにもかからず、AlGaN層に引っ張り応力(歪み)が形成された。これは、第1AlN中間層73aが歪んでおり、実際の格子間隔が無歪みの格子間隔に対して、大きくなっているためである。このように、緩和率α以下のAl組成比のAlGaN中間層を形成することで、AlGaN中間層に圧縮応力(歪み)を形成することができる。これにより、クラックの少ない高品質の窒化物半導体素子が得られる。
このような窒化物半導体素子130により、シリコン基板上に形成する転位が少ない高品位の窒化物半導体素子を提供することができる。
図16は、実施形態に係る別の窒化物半導体素子および窒化物半導体ウェーハを例示する模式的断面図である。
図16に表したように、実施形態に係る別の窒化物半導体素子140は、バッファ層60と、積層体50と、積層中間層70と、機能層10と、を含む。バッファ層60の上に、積層体50が設けられる。積層体50の上に積層中間層70が設けられる。積層中間層70の上に機能層10が設けられる。本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ240は、基板40、バッファ層60、積層中間層70及び積層体50を含む。窒化物半導体ウェーハ240は、機能層10をさらに含んでも良い。基板40、バッファ層60、積層体50、積層中間層70、及び機能層10のそれぞれには、窒化物半導体素子130に関して説明した構成を適用することができる。
本実施形態においては、第3AlGaNバッファ層61cが積層体50におけるAlGaN層51として用いられている。このように、AlGaNバッファ層61が設けられる場合には、機能層10に最も近い側のAlGaNバッファ層61を積層体50におけるAlGaN層51として用いることができる。
窒化物半導体素子140(及び窒化物半導体ウェーハ240)においては、積層中間層70は、第1中間層70aと第2中間層70bとを含む。第2中間層70bは、第1中間層70aの上に設けられる。
第1中間層70aは、第1GaN中間層71aと、第1AlN中間層72aと、第1AlGaN中間層73aと、を含む。第1AlN中間層72aは、第1GaN中間層71aの上に設けられる。第1AlGaN中間層73aは、第1AlN中間層72aの上に設けられる。
第2中間層70bは、第2GaN中間層71bと、第2AlN中間層72bと、第2AlGaN中間層73bと、を含む。第2GaN中間層71bは、第1AlGaN中間層73aの上に設けられる。第2AlN中間層72bは、第2GaN中間層71bの上に設けられる。第2AlGaN中間層73bは、第2AlN中間層72bの上に設けられる。
窒化物半導体素子140(及び窒化物半導体ウェーハ240)の製造方法は、窒化物半導体素子130に関して説明した製造方法を、適宜変更して、適用することができる。
窒化物半導体素子140及び窒化物半導体ウェーハ240において、刃状転位密度Deは、2.5×108(/cm2)と低い値を示す。
基板40を含む窒化物半導体素子140、及び、窒化物半導体ウェーハ240の、室温での反りは、凸状である。反りの大きさは、35μmである。
一方、基板40を含む窒化物半導体素子110、及び、窒化物半導体ウェーハ210における反りは、凹状である。反りの大きさは、39μmである。基板40を含む窒化物半導体素子130、及び、窒化物半導体ウェーハ230における反りは、凸状である。反りの大きさは、10μmである。
窒化物半導体素子140及び窒化物半導体ウェーハ240のように、積層体50の上に積層中間層70を設けることで、窒化物半導体素子の内部に形成される圧縮応力(歪み)が増大し、クラックを低減する効果が増大する。
図17(a)および図17(b)は、実施形態に係る別の窒化物半導体素子および窒化物半導体ウェーハを例示する模式的断面図である。
図17(b)は、図17(a)の一部を抜き出した図である。
図17(a)に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子180は、バッファ層60と、積層体50aと、機能層10と、を含む。積層体50aは、図1(a)に表した積層体50に対して、第4層58と、第4GaN層59と、第5層64と、第5GaN層65と、さらに含む。
実施形態では、第3GaN層57は、第2層56の上に設けられる。第4層58は、第3GaN層57の上に設けられる。第4GaN層59は、第4層58の上に設けられる。第5層64は、第4GaN層59の上に設けられる。第5GaN層65は、第5層64の上に設けられる。
第4層58および第5層64のそれぞれは、シリコン(Si)およびマグネシウム(Mg)の少なくともいずれかを含有する。第4層58および第5層64のそれぞれは、SiおよびMgの両方を含有してもよい。第4層58および第5層64のそれぞれは、SiNおよびMgNの少なくともいずれかを含んでもよい。第4層58および第5層64のそれぞれは、SiNおよびMgNの両方を含んでもよい。第4層58および第5層64のそれぞれは、高濃度にSiおよびMgの少なくともいずれかがドーピングされたGaN層(δドーピング層)でもよい。第4層58および第5層64のそれぞれは、高濃度にSiおよびMgの両方がドーピングされたGaN層(δドーピング層)でもよい。
第4層58および第5層64のそれぞれに含まれる元素は、Siのほうが、機能層10の一部として形成されるn形半導体層11の導電性を損なわないため望ましい。以下では、第4層58および第5層64のそれぞれがSiを含有する場合を例に挙げて説明する。
実施形態に係る窒化物半導体素子180では、第3GaN層57は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)に対して傾斜した表面(第3斜面57s)を有する凹凸を含む島状の結晶を含む。積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)に対して傾斜した表面(第3斜面57s)は、例えば、(10−11)面や(11−22)面などのファセット面である。第3斜面57sは、特定の結晶面でなくてもよい。第3GaN層57は、ドーム状の形状を有していてもよい。第3GaN層57は、傾斜した表面ではなくX−Y平面に対して垂直な平面を有してもよい。
例えば、第3GaN層57は、第2GaN層55の頂面(第2頂面55t)の上に形成される。例えば、第3GaN層57は、第2GaN層55の斜面(第2斜面55s)の上に形成される。本願明細書において、「第3GaN層57が第2GaN層55の上に設けられる」状態は、第3GaN層57が、第2GaN層55の頂面(第2頂面55t)の上および第2GaN層55の斜面(第2斜面55s)の上の少なくともいずれかに設けられる状態を含む。
第3GaN層57の凸部(第3凸部)57cの高さ(厚さ)t3は、第2GaN層55の凸部55cの高さt2と略同じである。あるいは、第3GaN層57の凸部57cの高さt3は、第2GaN層55の凸部55cの高さt2よりも低い。第3GaN層57の凸部57cの高さt3の定義には、第2GaN層55の凸部55cの高さt2の定義を適用することができる。
図17(a)および図17(b)に表したように、AlGaN層51の上面51auに対して平行方向(第1方向)の第3GaN層57の凸部57cの底部57uの長さ(幅)57vは、第1方向の第2GaN層55の凸部55cの底部55uの長さ(幅55v)と略同じである。あるいは、第1方向の第3GaN層57の凸部57cの底部57uの長さ(幅)57vは、第1方向の第2GaN層55の凸部55cの底部55uの長さ(幅55v)よりも短い。第2GaN層55の斜面(第2斜面55s)上のうちのいずれかの接線方向(第2方向)の第3GaN層57の凸部57cの長さ57wは、第2方向の第2GaN層55の凸部55cの長さ55wと略同じである。あるいは、第2方向の第3GaN層57の凸部57cの長さ57wは、第2方向の第2GaN層55の凸部55cの長さ55wよりも短い。
言い換えれば、第3GaN層57の凸部57cのサイズは、第2GaN層55の凸部55cのサイズと略同じである。あるいは、第3GaN層57の凸部57cのサイズは、第2GaN層55の凸部55cのサイズよりも小さい。
Z軸方向(積層方向)に対して垂直な平面(X−Y平面)上において、単位面積あたりの第3GaN層57の第3斜面57sの数は、単位面積あたりの第1GaN層53の第1斜面53sの数よりも多い。Z軸方向(積層方向)に対して垂直な平面(X−Y平面)上において、単位面積あたりの第3GaN層57の第3斜面57sの数は、単位面積あたりの第2GaN層55の第2斜面55sの数と略同じ、または単位面積あたりの第2GaN層55の第2斜面55sの数よりも多い。
この例では、第3GaN層57は、X−Y平面内に不連続な島状である。第4層58のうちの一部は、第3GaN層57に接している。第4層58のうちの他の一部は、第2層56に接している。
第4GaN層59は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)に対して傾斜した表面(第4斜面59s)を有する凹凸を含む島状の結晶を含む。積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)に対して傾斜した表面(第4斜面59s)は、例えば、(10−11)面や(11−22)面などのファセット面である。第4斜面59sは、特定の結晶面でなくてもよい。第4GaN層59は、ドーム状の形状を有していてもよい。第4GaN層59は、傾斜した表面ではなくX−Y平面に対して垂直な平面を有してもよい。
例えば、第4GaN層59は、第3GaN層57の頂面(第2頂面57t)の上に形成される。例えば、第4GaN層59は、第3GaN層57の斜面(第3斜面57s)の上に形成される。本願明細書において、「第4GaN層59が第3GaN層57の上に設けられる」状態は、第4GaN層59が、第3GaN層57の頂面(第3頂面57t)の上および第3GaN層57の斜面(第3斜面57s)の上の少なくともいずれかに設けられる状態を含む。
第4GaN層59の凸部(第4凸部)59cの高さ(厚さ)t4は、第3GaN層57の凸部57cの高さt3と略同じである。あるいは、第4GaN層59の凸部59cの高さt4は、第3GaN層57の凸部57cの高さt3よりも低い。第4GaN層59の凸部59cの高さt4の定義には、第GaN層55の凸部55cの高さt2の定義を適用することができる。
図17(a)および図17(b)に表したように、第1方向の第4GaN層59の凸部59cの底部59uの長さ(幅)59vは、第1方向の第2GaN層55の凸部55cの底部55uの長さ(幅55v)と略同じである。あるいは、第1方向の第4GaN層59の凸部59cの底部59uの長さ(幅)59vは、第1方向の第2GaN層55の凸部55cの底部55uの長さ(幅55v)よりも短い。第2方向の第4GaN層59の凸部59cの長さ59wは、第2方向の第2GaN層55の凸部55cの長さ55wと略同じである。あるいは、第2方向の第4GaN層59の凸部59cの長さ59wは、第2方向の第2GaN層55の凸部55cの長さ55wよりも短い。
言い換えれば、第4GaN層59の凸部59cのサイズは、第2GaN層55の凸部55cのサイズと略同じである。あるいは、第4GaN層59の凸部59cのサイズは、第2GaN層55の凸部55cのサイズよりも小さい。
Z軸方向(積層方向)に対して垂直な平面(X−Y平面)上において、単位面積あたりの第4GaN層59の第4斜面59sの数は、単位面積あたりの第1GaN層53の第1斜面53sの数よりも多い。Z軸方向(積層方向)に対して垂直な平面(X−Y平面)上において、単位面積あたりの第4GaN層59の第4斜面59sの数は、単位面積あたりの第2GaN層55の第2斜面55sの数と略同じ、または単位面積あたりの第2GaN層55の第2斜面55sの数よりも多い。
この例では、第4GaN層59は、X−Y平面内に不連続な島状である。第5層64のうちの一部は、第4GaN層59に接している。第5層64のうちの他の一部は、第4層58に接している。
第5GaN層65の上面は、例えば平坦である。第5GaN層65の上に、機能層10が形成される。第5GaN層65の厚さt5は、例えば、100nm以上5000nm以下である。第5GaN層65の厚さt5は、第5層64の上端と、第5GaN層65の上面(この例では、積層体50aと機能層10との間の界面10l)と、の間のZ軸方向に沿った距離である。
基板40、バッファ層60、機能層10には、窒化物半導体素子110に関して説明した構成のそれぞれを適用できる。また、AlGaN層51と、第3層52と、第1GaN層53と、第1層54と、第2GaN層55と、第2層56と、には、窒化物半導体素子110に関して説明した構成のそれぞれを適用できる。また、第3GaN層57および第4GaN層59の他の構成には、窒化物半導体素子110の第2GaN層55の構成を適用できる。また、第4層58および第5層64の他の構成には、窒化物半導体素子110の第2層56の構成を適用できる。
図17(a)及び図17(b)は、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ240の構成も例示している。窒化物半導体ウェーハ240は、基板40と、バッファ層60と、積層体50aと、を含む。窒化物半導体ウェーハ240は、機能層10をさらに含んでも良い。基板40、バッファ層60、積層体50a及び機能層10には、窒化物半導体素子180に関して説明した構成のそれぞれを適用できる。
次に、実施形態に係る窒化物半導体素子180および窒化物半導体ウェーハ240の製造方法に例について説明する。
バッファ層60、AlGaN層51、第3層52、第1GaN層53、および第1層54の製造方法は、窒化物半導体素子120の製造方法に関して説明した通りである。
続いて、基板温度を1090℃とし、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、37秒間供給する。これにより、第2GaN層55が形成される。第2GaN層55の厚さは、例えば、約100nmである。
さらに、基板温度を1040℃に戻し、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量350cc/分、アンモニアを流量20L/分で、3分間供給する。これにより、第2層56が形成される。
これらを繰り返すことで、第3GaN層57、第4層58、第4GaN層59、および第5層64が形成される。
基板温度を1090℃を維持したまま、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、60分間供給する。これにより、第5GaN層65が形成される。第5GaN層65の厚さは、例えば、約2μmである。
さらに、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量56cc/分にて、30分間供給する。これにより、n形GaN層が形成される。n形GaN層におけるSi濃度は、例えば、5×1018(/cm3)である。n形GaN層の厚さは、例えば、約1μmである。n形GaN層はn形半導体層11(機能層15の少なくとも一部)となる。これにより、本実施形態に係る窒化物半導体素子180または窒化物半導体ウェーハ240が形成できる。
次に、実施形態の窒化物半導体素子の特性について図面を参照しつつ説明する。
図18(a)〜図18(d)は、試料を例示する模式的断面図である。
図19(a)〜図19(d)は、バッファ層および積層体の例を示す断面SEM像である。
図20は、実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。
図20は、実施形態に係る窒化物半導体素子における刃状転位密度Deを表したグラフ図である。刃状転位密度Deは、X線回折測定における、(0002)面、(0004)面、(10−11)面、(20−22)面のロッキングカーブ半値幅から導かれる。
実施形態に係る窒化物半導体素子110、111a、180a、180を作製する。Si基板上のAlNバッファ(バッファ層60)およびAlGaNバッファ(AlGaN層51)については、前述した製造方法の通りに作製する。窒化物半導体素子110、111a、180a、180では、SiN含有層とGaN層との形成方法が互いに異なる。以下、窒化物半導体素子110、111a、180a、180の作製方法を示す。
図18(a)に表した窒化物半導体素子110については、AlGaNバッファまで形成したのち、第3層52まで形成する。その後、成長温度を上げたのちに原料を1分間供給することで第1GaN層53を形成する。温度を下げて第1層54を形成したのちに、再度成長温度をあげて1分15秒間原料供給し、第2GaN層55を形成する。温度を下げて第2層56を形成したのちに、温度を上げて第3GaN層57を2μm形成することで窒化物半導体素子110を得る。
図18(b)に表した窒化物半導体素子110aについては、AlGaNバッファまで形成したのち、第3層52まで形成する。その後、成長温度を上げたのちに原料を2分30秒間供給することで第1GaN層53を形成する。温度を下げて第1層54を形成したのちに、再度成長温度をあげて37秒間原料供給し、第2GaN層55を形成する。温度を下げて第2層56を形成したのちに、温度を上げて第3GaN層を2μm形成することで窒化物半導体素子110aを得る。
図18(a)および図18(b)に表したように、窒化物半導体素子110の第1GaN層53の凸部53cのサイズは、窒化物半導体素子110aの第1GaN層53の凸部53cのサイズよりも小さい。窒化物半導体素子110の第2GaN層55の凸部55cのサイズは、窒化物半導体素子110aの第2GaN層55の凸部55cのサイズよりも大きい。窒化物半導体素子110aは、窒化物半導体素子110の例の1つである。つまり、窒化物半導体素子110aにおいて、第2GaN層55の凸部55cのサイズは、第1GaN層53の凸部53cのサイズよりも小さい。
図18(c)に表した窒化物半導体素子180aについては、AlGaNバッファまで形成したのち、第3層52まで形成する。その後、成長温度を上げたのちに原料を2分30秒間供給することで第1GaN層53を形成する。温度を下げて第1層54を形成したのちに、再度成長温度をあげて1分15秒間原料供給し、第2GaN層55を形成する。これを4回繰り返して第2層56、第3GaN層57、第4層58、および第4GaN層59を形成する。温度を下げて第5層64を形成したのちに、温度を上げて第5GaN層を2μm形成することで窒化物半導体素子180aを得る。
図18(d)に表した窒化物半導体素子180の作製方法は、図17(a)および図17(b)に関して前述した通りである。
図18(c)および図18(d)に表したように、窒化物半導体素子180の第1GaN層53の凸部53cのサイズは、窒化物半導体素子180aの第1GaN層53の凸部53cのサイズよりも小さい。窒化物半導体素子180の第2GaN層55の凸部55cのサイズは、窒化物半導体素子180aの第2GaN層55の凸部55cのサイズよりも小さい。窒化物半導体素子180の第3GaN層57の凸部57cのサイズは、窒化物半導体素子180aの第3GaN層57の凸部57cのサイズよりも小さい。窒化物半導体素子180の第4GaN層59の凸部59cのサイズは、窒化物半導体素子180aの第4GaN層59の凸部59cのサイズよりも小さい。窒化物半導体素子180aは、窒化物半導体素子180の例の1つである。つまり、窒化物半導体素子180aにおいて、第2GaN層55の凸部55cのサイズは、第1GaN層53の凸部53cのサイズよりも小さい。窒化物半導体素子180aにおいて、第3GaN層57の凸部57cのサイズは、第2GaN層55の凸部55cのサイズと略同じ、または第2GaN層55の凸部55cのサイズよりも小さい。第4GaN層59の凸部59cのサイズは、第2GaN層55の凸部55cのサイズと略同じ、または第2GaN層55の凸部55cのサイズよりも小さい。
図19(a)〜図19(d)は、窒化物半導体層の(1−100)面で劈開した断面を観察したSEM像を例示する図である。
図19(a)は、窒化物半導体素子110の断面SEM像を例示する図である。図19(b)は、窒化物半導体素子110aの断面SEM像を例示する図である。図19(c)は、窒化物半導体素子180aの断面SEM像を例示する図である。図19(d)は、窒化物半導体素子180の断面SEM像を例示する図である。
図19(d)に示したように、窒化物半導体素子180では、第3層52、第1層54、第2層56、第4層58、および第5層64が形成されている。
第1GaN層53は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面)に対して傾斜した表面(第1斜面53s)を有する凹凸を含む。第1GaN層53は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)で不連続な島状の結晶を含む。
第2GaN層55は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面)に対して傾斜した表面(第2斜面55s)を有する凹凸を含む。第2GaN層55は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)で不連続な島状の結晶を含む。
第3GaN層57は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面)に対して傾斜した表面(第3斜面57s)を有する凹凸を含む。第3GaN層57は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)で不連続な島状の結晶を含む。
第4GaN層59は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面)に対して傾斜した表面(第4斜面59s)を有する凹凸を含む。第4GaN層59は、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面内)で不連続な島状の結晶を含む。
図20に示したように、窒化物半導体素子110の刃状転位密度Deは、4.3×10−8(/cm2)である。窒化物半導体素子110の刃状転位密度Deは、図9に表した第1〜3参考例の窒化物半導体素子131、132、133の刃状転位密度Deよりも低い。窒化物半導体素子110aの刃状転位密度Deは、4.6×10−8(/cm2)である。窒化物半導体素子110aの刃状転位密度Deは、第1〜3参考例の窒化物半導体素子131、132、133の刃状転位密度Deよりも低い。
窒化物半導体素子180aの刃状転位密度Deは、2.8×10−8(/cm2)である。窒化物半導体素子180aの刃状転位密度Deは、図9に表した第1〜3参考例の窒化物半導体素子131、132、133の刃状転位密度Deよりも低く、窒化物半導体素子110の刃状転位密度Deおよび窒化物半導体素子110aの刃状転位密度Deよりもさらに低い。
窒化物半導体素子180の刃状転位密度Deは、2.3×10−8(/cm2)である。窒化物半導体素子180の刃状転位密度Deは、図9に表した第1〜3参考例の窒化物半導体素子131、132、133の刃状転位密度Deよりも低く、窒化物半導体素子110の刃状転位密度De、窒化物半導体素子110aの刃状転位密度De、および窒化物半導体素子180aの刃状転位密度Deよりもさらに低い。
これは、SiN含有層とGaN層との形成の繰り返し回数が窒化物半導体素子110、110aよりも多いために、転位伝搬の遮蔽効果が大きいと考えられる。また、窒化物半導体素子180では、単純にSiN含有層とGaN層との形成を繰り返すだけではなく、第3層52の形成後の第1GaN層53をより小さい形状として、島状上部C面領域を小さくしている。これにより、貫通する転位を抑制しつつ、更に島状のGaNを密に配置して繰返すことで、遮蔽効果を最大限発揮できるようにGaN層が配置されている。このことで、窒化物半導体素子180の刃状転位密度Deを、窒化物半導体素子110、110aの刃状転位密度De比べ約半分に低減することが可能となる。
窒化物半導体素子180の刃状転位密度Deについて、さらに説明する。
窒化物半導体素子180においては、以下により、刃状転位密度Deが低減していると考えられる。
第1GaN層53が三次元的に成長し、バッファ層60で生じた転位80を第1GaN層53内において、積層方向(Z軸方向)に対して平行方向に向けて曲げることができる。これにより、上層(機能層15)に到達する転位80を減らすことができる。
第3層52によって第1GaN層53の成長が抑制される領域(凸部53cどうしの間の領域)では、バッファ層60で生じた転位80が第3層52によって遮蔽される。これにより、転位80の上層への伝播が抑制され、転位80を減らすことができる。
さらに、第1GaN層53の凸部53cの斜面53sにおいては、上層側に伝播する転位80の数が減少する。斜面53sにおいて、転位80が屈曲する。すなわち、斜面53s上に設けられた第1層54において、転位80が屈曲する。斜面53sにおいて、転位80の伝播が遮られる。その結果、上層に到達する転位80を大幅に減らすことができる。
このように、積層体50に、AlGaN層51と、第3層52と、斜面53sを有する凸部53cを含む第1GaN層53と、第1層54と、第2GaN層55と、を設けることで、転位密度を低減できる。転位の少ない窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハが得られる。
図21(a)〜図21(d)は、実施形態に係る窒化物半導体素子を例示するグラフ図である。
図22(a)および図22(b)は、実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する図である。
図21(a)は、実施形態にかかる窒化物半導体素子110(すなわち窒化物半導体素子ウェーハ210)のSIMS分析結果の例を示している。図21(b)は、実施形態にかかる窒化物半導体素子110aのSIMS分析結果の例を示している。図21(c)は、実施形態にかかる窒化物半導体素子180aのSIMS分析結果の例を示している。図21(d)は、実施形態にかかる窒化物半導体素子180(すなわち窒化物半導体素子ウェーハ240)のSIMS分析結果の例を示している。
この例では、深さ方向(積層方向)に沿って、5nm間隔で測定される。図21(a)〜図21(d)の横軸は、深さZd(Z軸方向の位置に相当する)である。図21(a)〜図21(d)の左側の縦軸は、Si濃度CS(atoms/cm3)である。図21(a)〜図21(d)の左側の縦軸は、Al二次イオン強度IAである。
図22(a)および図22(b)は、実施形態に係る窒化物半導体素子を示す図である。
図22(a)は、実施形態に係る窒化物半導体素子180(すなわち窒化物半導体ウェーハ240)のエネルギー分散型X線分光分析(EDS分析)の結果の例を示すグラフ図である。図22(b)は、実施形態に係る窒化物半導体素子180(すなわち窒化物半導体ウェーハ240)のEDS分析における分析の場所を示している。図22(b)は、EDS分析の場所として、第1分析位置Ap11、第2分析位置Ap12、第3分析位置Ap13、及び第4分析位置Ap14を、断面TEM像上に示している。第1分析位置Ap11は、第3層52の位置に対応する。第2分析位置Ap12は、第1層54の位置に対応する。第3分析位置Ap13は、第2層56の位置に対応する。第4分析位置Ap14は、第4層58の位置に対応する。
図22(a)は、第1分析位置Ap11の分析結果を表す。図22(a)の横軸は、エネルギーEg(keV:キロエレクトロンボルト)である。図22(a)の縦軸は、強度Int(counts)である。このEDS分析における、Siの検出限界は、1000ppmである。
図21(a)および図21(b)から分かるように、窒化物半導体素子110、110aでは、積層体50の範囲において、3段階のSiのピークが観察される。例えば、積層体50におけるSi濃度プロファイルは、第1〜第7部分p1〜p7を有する。第1〜第7部分p1〜p7は、Z軸方向に沿って積層される。第1〜第7部分p1〜p7については、図12(a)および図12(b)に関して前述した通りである。例えば、SIMS分析において、第1部分p1が存在することにより、第3層52の存在が判断できる。第3部分p3が存在することにより、第1層54の存在が判断できる。第4部分p4が存在することにより、第2層56の存在が判断できる。
一方で、図21(c)および図21(d)に表したように、窒化物半導体素子180a、180では、積層体50aの範囲において、5段階のSiピークが観察されるわけではない。図21(c)から分かるように、窒化物半導体素子180aでは、第1部分p1のSiピークおよび第3部分p3のSiピークを観察することができる一方で、他のSiピークを観察することはできない。図21(d)から分かるように、窒化物半導体素子180では、第1部分p1のSiピークを観察することができる一方で、他のSiピークを観察することはできない。
このように、実施形態に係る窒化物半導体素子180a、180のSIMS分析結果では、5段階のSiピークを観察することができないことがある。
このような場合でも、図22(b)に表したように、第3層52、第1層54、第2層56、第4層58、および第5層64が形成されている。
図22(a)から分かるように、実施形態においては、第3層52、第1層54、第2層56、および第4層58から、Siが検出される。第3層52におけるSi濃度は、約4.8(atomic/%)と見積もられる。第1層54におけるSi濃度は、約5.0(atomic/%)と見積もられる。第2層56におけるSi濃度は、約5.3(atomic/%)と見積もられる。第4層におけるSi濃度は、約5.6(atomic/%)と見積もられる。このように、本実施形態においては、第1層54、第2層56、第3層52、および第4層58のそれぞれにおけるSi濃度は、検出限界(1000ppm)以上である。第1層54、第2層56、第3層52、および第4層58のそれぞれにおけるSi濃度を1000ppm以上とすることで、転位低減の大きな効果が得られる。
図23は、実施形態に係る別の窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図23に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子150は、第1電極81eと第2電極82eとをさらに含む。機能層10には、n形半導体層11と、p形半導体層12と、発光層13と、が設けられている。この例では、低不純物濃度層11iも設けられている。窒化物半導体素子150は、半導体発光素子である。
この例では、n形半導体層11は、第1の部分11aと、第2の部分11bと、を含む。第2の部分11bは、第1の部分11aと、X−Y平面内において並ぶ。第2の部分11bとp形半導体層12との間に発光層13が設けられる。
第1電極81eは、n形半導体層11の第1の部分11aと電気的に接続される。第2電極82eは、p形半導体層12に電気的に接続される。第1電極81e及び第2電極82eを介して、機能層10に電流が供給され、発光層13から光が放出される。
窒化物半導体素子150においては、実施形態に係る積層体50が設けられていることで、転位密度が低く、その結果、例えば高い発光効率が得られる。
図24は、実施形態に係る別の窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図24に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子160においても、第1電極81eと第2電極82eとが設けられる。この例では、機能層10が積層体50の上に形成された後に、基板40、バッファ層60及び積層体50が除去されている。例えば、機能層10のn形半導体層11、発光層13及びp形半導体層12を形成した後に、p形半導体層12の上に、第2電極82eが形成される。そして、第2電極82eの上に、第1接合金属層46が形成される。一方、主面上に第2接合金属層47が形成された支持基板45(例えばシリコン板または金属基板など)が準備される。第1接合金属層46と第2接合金属層47とを互いに接合する。その後、結晶成長のために用いた基板40、バッファ層60、積層中間層70、及び、積層体50の少なくとも一部が除去される。支持基板45として、例えば金属層(めっきなどで形成される)を用いても良い。
窒化物半導体素子160においては、実施形態に係る積層体50の上に形成された機能層10を用いることで、転位密度が低く、その結果、例えば高い発光効率が得られる。
図25は、実施形態に係る別の窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図25に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子170は、HEMT(High Electron Mobility Transistor)素子である。窒化物半導体素子170においては、機能層10として、第1層16と、第2層17と、が設けられる。さらに、ゲート電極18gと、ソース電極18sと、ドレイン電極18dと、が設けられる。
第1層16は、積層体50の上に設けられる。第2層17は、第1層16の上に設けられる。第1層16には、例えば不純物を含まないアンドープのAlαGa1−αN(0≦α≦1)が用いられる。第2層17には、例えばアンドープまたはn形のAlβGa1−βN(0≦β≦1、α<β)が用いられる。例えば、第1層16にはアンドープのGaN層が用いられ、第2層17にはアンドープまたはn形のAlGaN層が用いられる。
ゲート電極18g、ソース電極18s及びドレイン電極18dは、第2層17の上に設けられる。ソース電極18sは、X−Y平面内においてドレイン電極18dと離間している。ソース電極18s及びドレイン電極18dは、第2層17とオーミック接触している。ソース電極18sとドレイン電極18dとの間において、第2層17の上に、ゲート電極18gが配置される。ゲート電極18gは、第2層17とショットキー接触している。
第2層17の格子定数は、第1層16の格子定数よりも小さい。これにより、第2層17に歪みが生じて、ピエゾ効果により第2層17内にピエゾ分極が生じる。第1層16のうちの第2層17との界面付近に、2次元電子ガス17gが形成される。窒化物半導体素子170においては、ゲート電極18gに印加する電圧を制御することで、ゲート電極18g下の2次元電子ガス濃度が増減し、ソース電極18sとドレイン電極18dとの間に流れる電流が制御される。
窒化物半導体素子180においては、実施形態に係る積層体50の上に形成された機能層10を用いることで、転位密度が低く、その結果、良好な電気的特性が得られる。
本実施例において、バッファ層60の上に、積層体50が設けられ、積層体50の上に積層中間層70が設けられ、積層中間層70の上に機能層10が設けられても良い。
本実施例において、積層中間層70は必要に応じて適宜省略できる。
(第3の実施形態)
図26は、第3の実施形態に係る窒化物半導体層の形成方法を例示するフローチャート図である。
図26に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体層の形成方法では、例えば基板40の温度を1020℃(第4温度)とし、基板40の上に設けられ窒化物半導体を含むバッファ層60の上に、ガリウム原料(例えば、TMGa)とアルミニウム原料(例えば、TMAl)と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含む第3ガスを供給し、AlxGa1−xN(0<x≦1)のAlGaN層51を形成する(ステップS105)。例えば第4温度は、第2温度以下である。
さらに、例えば基板40の温度を第1温度以下の1040℃(第2温度)とし、AlGaN層51の上面51auの上に、シリコン原料(例えば、シラン)と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含む第2ガスを供給し、7.0×1019/cm3以上4.5×1020/cm3以下の濃度でSiを含有する第3層52を形成する(ステップS107)。
さらに、例えば基板40の温度を1090℃(第1温度)とし、第3層52の上に、ガリウム原料(例えば、TMG)と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含む第1ガスを供給し、上面51auに対して傾斜した第1斜面53sを有する凸部を含む第1GaN層53を形成する(ステップS109)。
さらに、例えば基板40の温度を第1温度以下の1040℃(第2温度)とし、第1GaN層53の上に、シリコン原料(例えば、シラン)と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含む第2ガスを供給し、Siを含有する第1層54を形成する(ステップS111)。例えば第2温度は、第1温度以下である。第2温度を第1温度以下とすることで、第1層での転位の遮蔽または屈曲が増大し、転位が低減しやすい。
さらに、例えば基板40の温度を第1温度以上の1120℃(第3温度)とし、第1層54の上に、ガリウム原料(例えば、TMG)と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含む第1ガスを供給し、上面51uに対して傾斜した第2斜面55sを有する凸部を含む第2GaN層55であって、第1GaN層53のサイズよりも小さいサイズの第2GaN層55を形成する(ステップS113)。
さらに、例えば基板40の温度を第1温度以下の1040℃(第2温度)とし、第2GaN層55の上に、シリコン原料(例えば、シラン)と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含む第2ガスを供給し、Siを含有する第2層56を形成する(ステップS115)。
さらに、第2層56の上に、第3GaN層57を形成する(ステップS117)。
これにより、AlGaN層51と、第3層52と、第1GaN層53と、第1層54と、第2GaN層55と、第2層56と、第3GaN層57と、を含む積層体50を形成する(ステップS110)。
本形成方法によれば、転位が少ない窒化物半導体層の形成方法を提供できる。
なお、第3層52、第1層54および第2層56を形成する工程(ステップS107、ステップS111、ステップS115)において、第2ガスを、マグネシウム原料(例えば、Cp2Mg:ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含むガスとすることで、Mgを含む第3層52、第1層54および第2層56をそれぞれ形成できる。
また、第2ガスを、シリコン原料とマグネシウム原料と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含むガスとすることで、SiおよびMgの両方を含む第3層52、第1層54および第2層56をそれぞれ形成できる。
本実施形態に係る窒化物半導体層の形成方法では、第1GaN層53を形成する工程(ステップS109)から第2層56を形成する工程(ステップS115)を一組の工程とし、その一組の工程を繰り返してもよい。これによれば、第2層56の上に、第1GaN層53、第1層54、第2GaN層55、および第2層56が繰り返し形成される。
図26に表したように、本形成方法は、第3GaN層57の上に機能層10を形成する処理(ステップS119)を、さらに含んでも良い。本形成方法は、基板40の上に、バッファ層60を形成する処理(ステップS101)をさらに含んでも良い。本形成方法は、バッファ層60の上に積層中間層70を形成する処理(ステップS103)をさらに含んでも良い。この場合には、AlGaN層51の形成(ステップS105)においては、AlGaN層51を積層中間層70の上に形成する。
実施形態において、窒化物半導体層の成長には、例えば、有機金属気相堆積(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法、有機金属気相成長(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法、及び、ハライド気相エピタキシー法(HVPE)法などを用いることができる。
例えば、MOCVD法またはMOVPE法を用いた場合では、各半導体層の形成の際の原料には、以下を用いることができる。Gaの原料として、例えばTMGa(トリメチルガリウム)及びTEGa(トリエチルガリウム)を用いることができる。Inの原料として、例えば、TMIn(トリメチルインジウム)及びTEIn(トリエチルインジウム)などを用いることができる。Alの原料として、例えば、TMAl(トリメチルアルミニウム)などを用いることができる。Nの原料として、例えば、NH3(アンモニア)、MMHy(モノメチルヒドラジン)及びDMHy(ジメチルヒドラジン)などを用いることができる。Siの原料としては、SiH4(モノシラン)、Si2H6(ジシラン)などを用いることができる。Mgの原料としては、Cp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)、EtCp2Mg(ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム)などを用いることができる。
図27は、第3の実施形態に係る窒化物半導体層の別の形成方法を例示するフローチャート図である。
AlGaN層51を形成する工程から第1層54を形成する工程は、図26に関して前述したステップS105からステップS111までの工程と同様である(ステップS155〜ステップS161)。
続いて、例えば基板40の温度を1090℃とし、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、37秒間供給する。これにより、第2GaN層55を形成する(ステップS163)。第2GaN層55の厚さは、例えば、約100nmである。
さらに、基板温度を1040℃に戻し、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量350cc/分、アンモニアを流量20L/分で、3分間供給する。これにより、第2層56を形成する(ステップS165)。
さらに、第2GaN層55を形成する工程(ステップS163)および第2層56を形成する工程(ステップS165)を一組の工程とし、その一組の工程を繰り返す。これによれば、第1層54の上に、第2GaN層55および第2層56が繰り返し形成される。つまり、第3GaN層57、第4層58、第4GaN層59、および第5層64を形成する(ステップS167〜ステップS173)。
さらに、第5層64の上に、第5GaN層65を形成する(ステップS175)。
このように、本実施形態に係る窒化物半導体層の別の形成方法では、第2GaN層55を形成する工程(ステップS163)および第2層56を形成する工程(ステップS165)を一組の工程とし、その一組の工程を繰り返す。これによれば、第1層54の上に、第2GaN層55および第2層56が繰り返し形成される。
これにより、AlGaN層51と、第3層52と、第1GaN層53と、第1層54と、第2GaN層55と、第2層56と、第3GaN層57と、第4層58と、第4GaN層59と、第5層64と、第5GaN層65と、を含む積層体50aを形成する(ステップS160)。
本形成方法によれば、転位が少ない窒化物半導体層の形成方法を提供できる。
なお、第3層52、第1層54、第2層56、第4層58、および第5層64を形成する工程(ステップS157、ステップS161、ステップS165、ステップS169、およびステップS173)において、第2ガスを、マグネシウム原料(例えば、Cp2Mg:ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含むガスとすることで、Mgを含む第3層52、第1層54、第2層56、第4層58、および第5層64をそれぞれ形成できる。
また、第2ガスを、シリコン原料とマグネシウム原料と窒素原料(例えば、アンモニア)とを含むガスとすることで、SiおよびMgの両方を含む第3層52、第1層54、第2層56、第4層58、および第5層64をそれぞれ形成できる。
図27に表したように、本形成方法は、第5GaN層65の上に機能層10を形成する処理(ステップS177)を、さらに含んでも良い。本形成方法は、基板40の上に、バッファ層60を形成する処理(ステップS151)をさらに含んでも良い。本形成方法は、バッファ層60の上に積層中間層70を形成する処理(ステップS153)をさらに含んでも良い。この場合には、AlGaN層51の形成(ステップS155)においては、AlGaN層51を積層中間層70の上に形成する。
実施形態によれば、転位が少ない窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の形成方法が提供できる。
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BxInyAlzGa1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させる全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハに含まれる基板、バッファ層、積層中間層、積層体、AlGaN層、GaN層、第1層54、第2層56、第3層52及び機能層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述した窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の形成方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の形成方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
実施形態によれば、積層体と、機能層と、を備えた窒化物半導体素子が提供される。前記積層体は、第1凸部を含む第1GaN層と、前記第1GaN層に設けられSiを含有する第1層と、前記第1層に設けられ第2凸部を含む第2GaN層であって、前記第2凸部の底部の長さは、前記第1凸部の底部の長さよりも短い前記第2GaN層と、前記第2GaN層に設けられSiを含有する第2層と、を含む。前記機能層は、前記積層体に設けられ窒化物半導体を含む。前記積層体におけるSi濃度プロファイルは、2つのピークを含む。