JP2013179909A - D−乳酸の製法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 二酸化炭素を唯一の炭素源としてD−乳酸を製造可能な細菌および当該細菌を用いた二酸化炭素からのD−乳酸製法を提供すること。
【解決手段】 D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを水素酸化細菌において導入または発現増強して得られるD−乳酸を製造可能な細菌、および前記細菌を二酸化炭素を唯一の炭素源として培養することでD−乳酸を製造する方法により前記課題を解決する。
【選択図】 図4

Description

本発明は、遺伝子工学的手法を用いた、水素酸化細菌によるD−乳酸製法に関する。
近年、バイオマス由来の生分解性プラスチックとしてポリ乳酸が注目されている。ポリ乳酸はポリプロピレンやポリスチレンなどの代替としての利用が可能であり、食品包装材、パソコン用記録媒体の包装材、衣料品、食器や洗剤の容器など幅広い応用が期待される。現状、ポリ乳酸はL−乳酸のホモポリマーである、ポリL−乳酸の開発が先行しているものの、ポリL−乳酸は従来の石油由来のプラスチックと比較し、耐熱性や耐久性が劣る問題点があった。そこで前記課題を解決すべく、ポリD−乳酸とのステレオコンプレックスポリマーを製造する試みがなされており、ポリD−乳酸をポリL−乳酸と混合させることで、融点を従来のL−ポリ乳酸(170℃)と比較し50℃向上(220℃)させている。
前記ステレオコンプレックスポリマーの原料である、L−乳酸およびD−乳酸のうち、L−乳酸の製造についてはこれまでにも発酵生産の研究などが盛んに行なわれている。一方、D−乳酸の製造については研究例が少なく、光学純度が高く、かつ安価な製造コストでD−乳酸を生産する方法の開発が望まれている。
微生物発酵によるD−乳酸製造方法としては、Lactobacillus lactis、Lactobacillus delbrueckii、Leuconostoc
mesenteroidesなどの乳酸菌を用いた方法、Lactobacillus
plantarum由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼを導入した酵母を用いた方法、ホスホトランスアセチラーゼなどの遺伝子を破壊した組換え大腸菌による方法などがこれまで報告されている。しかしながら乳酸菌や酵母を用いた製造方法は、発酵培地中での栄養要求性が高く、比較的高価な原料である、酵母エキスやペプトンおよびアミノ酸やビタミンといった栄養源を培地へ添加する必要がある。また、発酵段階で窒素源由来の副生成物が生じるため、後続の精製プロセスにおけるコストが上昇する問題点があった。一方、組換え大腸菌による製造方法も生産量が低いという問題点があった。
ところで近年、温室効果ガスの低減化が課題となっている。バイオリファイナリーは化石エネルギー資源からの脱却、循環型社会の構築、地球温暖化に対する解決法として注目されており、特に植物由来のバイオマスを原料とした化学品や燃料の製造に関する研究が盛んに行なわれている。しかし農産物を主原料とする場合、季節や天候など自然現象の影響を受けやすいためプロセスの連続化や無人化がしにくく、かつ森林破壊や食料との競合の問題もあった。そのため、環境中に排出された二酸化炭素そのものを直接有用化学物質に変換する技術の開発が求められている。
自然界では、特定の生物による無機炭素の固定化が行なわれており、その際、カルビン・ベンソン経路(Calvin−Benson−Bassham cycle)、還元的TCA(トリカルボン酸)経路、3−HP(ヒドロキシプロピオン酸)経路、還元的アセチル−CoA経路のいずれかによって固定化が行なわれる(非特許文献1)。前記経路のうち、還元的TCA経路、3−HP経路および還元的アセチル−CoA経路は1分子の二酸化炭素を固定するのに必要なエネルギー効率がカルビン・ベンソン経路より高い。しかしながら、これら3つの無機炭素固定化経路を有する微生物は特殊・過酷な条件下で生育するものが多く、微生物自体の増殖速度が極めて遅い。また、当該微生物の遺伝子組換え法についても確立されていない場合が多いため、研究例は無機炭素固定に関わる酵素の網
羅的解析に留まっているのが実状である。
カルビン・ベンソン経路を無機炭素固定化経路として利用した、二酸化炭素や炭酸塩からの化学品製造については多く報告されており、Hydrogenovibrio marinusによるグルコースポリマーの製造(特許文献1)、シアノバクテリアを用いたグルコース/フルクトース/D−乳酸の製造(非特許文献2)、シアノバクテリアを用いたイソブチルアルデヒドの製造(非特許文献3)、高等植物を用いたポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の製造(非特許文献4)があげられる。しかしながら、これらシアノバクテリアや高等植物を用いた例は、光エネルギー(光合成)により無機炭素固定を行なうためエネルギー効率が悪く、無機炭素固定効率が低いことが知られている。そのため、工業的に化学品を製造する場合は広大な面積のリアクターが必要となる。一方で化学エネルギー(非光合成)により無機炭素固定を行なう、鉄酸化細菌、硫黄酸化細菌、水素酸化細菌などの化学合成細菌が知られている。中でも水素酸化細菌は光合成と比べ無機炭素固定におけるエネルギー効率が格段に高く、リアクターの小型化も可能なため、工業的な化学品製造に利用する微生物として有望視されている。特に水素酸化細菌Ralstonia
eutrophaは、水素を酸化する際に生じる化学エネルギーを用いてカルビン・ベンソン経路で無機炭素固定を行う独立栄養微生物であり、全ゲノム解析がなされている上、遺伝子組換え方法も確立されている(非特許文献5)ことから、遺伝子工学的手法による有機酸やタンパク質生産の宿主として有望視されている。
水素酸化細菌Ralstonia eutrophaは二酸化炭素、酸素、水素と無機塩のみの独立栄養条件で増殖することができ、窒素、リン、酸素などが供給制限になるような培養条件下では、菌体重量の90%に及ぶ大量のポリヒドロキシ酪酸(PHB)を蓄積することが知られており、従属栄養条件下での高密度培養においてはPHBを含む菌体収量が281g/Lにまで達することが報告されている(非特許文献6)。また、現在環境負荷軽減、循環型社会構築の為のバイオベースの生分解性ポリマーに関心が集まる中、Ralstonia eutrophaを用いたポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の合成研究も行なわれている。Ralstonia eutrophaを用いたPHAの研究に関しては、培地中の炭素原料の種類や組成、培養条件を変動させてPHAの構成成分となるユニット組成をコントロールする研究(非特許文献7)や、遺伝子組換え体を用いて非天然型(3−ヒドロキシプロピオン酸ユニットを取り込んだ)PHAを生産した研究(非特許文献8)がされている。
また遺伝子工学的手法を用いた、Ralstonia eutrophaによるPHA以外の化学品生産についても報告されている。一例として、2−メチルクエン酸の生産(非特許文献9)、2−HIBA(ヒドロキシイソブチル酸)の生産(非特許文献10)、R−3−ヒドロキシ酪酸の生産(非特許文献11)、シアノフィシンの生産(非特許文献12)、有機リン加水分解酵素の生産(非特許文献13)があげられ、特に有機リン加水分解酵素の生産(非特許文献13)ではタンパク質の高発現を実現している。しかしながら、ここであげた例はいずれもフルクトースやグルコン酸などの有機炭素原料を原料にしている。
特開平05−115290号公報
Berg,IA.et al.,Nat.Rev.Microbiol.,8,447−460(2010). Niederholtmeyer,H.et al.,Appl.Environ.Microbiol.,76,3462−3466(2010). Atsumi,S.et al.,Nat.Biotechnol.,27,1177−1180(2009). Snell,KD.et al.,Metab.Eng.,4,29−40(2002). Cramm,R. et al.,J.Mol.Microbiol.Biotechnol.,16,38−52(2009). Ryu,HW.et al.,Biotechnol.Bioeng.,55,28−32(1997). Foster,LJ.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,75,1241−1247(2007). Fukui,T.et al.,Biomacromolecules.,10,700−706(2009). Ewering,C.et al.,Metab.Eng.,8,587−602(2006). Hoefel,T.et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,88,477−484(2010). Shiraki,M.et al.,J.Biosci.Bioeng.,102,529−534(2006). Diniz,SC.et al.,Biotechnol.Bioeng.,93, 698−717(2006). Barnard,GC.et al.,Protein.Expr.Purif.,38,264−271(2004). Ishizaki,A.et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,57,6−12(2001).
前述したように、ポリ乳酸の原料であるD−乳酸については、光学純度が高く、かつ安価な製造コストで製造する方法の開発が求められている。
また水素酸化細菌Ralstonia eutrophaは、二酸化炭素、酸素、水素と無機塩のみの独立栄養条件で増殖することができるため、二酸化炭素原料から有機酸などの化学品を製造させる宿主として有望視されている。しかしながら、従来は、Ralstonia eutrophaが有する無機炭素固定経路を利用した、二酸化炭素、酸素、水素と無機塩のみからの化学品製造例は、当該細菌が本来生産するポリヒドロキシ酪酸(PHB)の例(非特許文献14)に限られていた。
以前の検討で、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドを導入したRalstonia eutrophaを培養することで、無機炭素源からのD−乳酸製造を実現している。しかしながら二酸化炭素を唯一の無機炭素源として培養した場合、D−乳酸の生産性は低かった。すなわち本方法で使用した細菌を用いてD−乳酸を製造するには、あらかじめ培地に炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩を添加して培地中の溶存無機炭素源濃度を高めることで、菌体の無機炭素同化効率を高める必要があった。二酸化炭素を唯一の炭素源としてD−乳酸を製造しようとする場合、二酸化炭素の培地中への溶解度が低いため、本方法で使用した細菌よりも無機炭素同化効率が高い細菌を取得する必要がある。
そこで本発明の目的は、二酸化炭素を唯一の炭素源としてD−乳酸を製造可能な細菌および当該細菌を用いた二酸化炭素からのD−乳酸製法を提供することにある。
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを水素酸化細菌に導入することで得られた、無機炭素同化効率を高めた水素酸化細菌により、二酸化炭素を唯一の炭素源としたD−乳酸の製造が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を包含する:
(1)D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、水素酸化細菌において導入または発現増強して得られる、D−乳酸を製造可能な細菌。
(2)D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの水素酸化細菌への導入が、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターによる水素酸化細菌の形質転換による導入である、(1)に記載の細菌。
(3)D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドの5’末端側にファジンプロモーター配列を有するオリゴヌクレオチドをさらに付加したベクターである、(2)に記載の細菌。
(4)無機炭素固定に関わるタンパク質がリブロース−1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)である、(1)から(3)のいずれかに記載の細菌。
(5)無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質が、ictBファミリーに属する炭酸イオントランスポーターである、(1)から(4)のいずれかに記載の細菌。
(6)水素酸化細菌がRalstonia eutrophaである、(1)から(5)のいずれかに記載の細菌。
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の細菌を培地中で培養してD−乳酸を生成させ、培地からD−乳酸を回収することを含む、D−乳酸の製造方法。
(8)前記培地は二酸化炭素を炭素源として含む、(7)に記載のD−乳酸の製造方法。
(9)前記培地は二酸化炭素を唯一の炭素源として含む、(7)に記載のD−乳酸の製造方法。
(10)(7)から(9)のいずれかの方法によりD−乳酸を製造し、得られたD−乳酸を用いて重合反応を行うことを特徴とする、D−乳酸含有ポリマーの製造方法。
本発明の細菌により、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の細菌は、水素酸化細菌に、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入または発現増強することで、無機炭素同化効率を向上した細菌であり、二酸化炭素を直接無機炭素原料としたD−乳酸生産が可能である。
(2)従来の乳酸発酵法では、原料として、小麦全粒粉加水分解物、酵母エキス、ペプトン、アミノ酸やビタミンなどの高価な原料を用いる必要があった。一方、本発明の細菌を用いたD−乳酸の製造方法は、原料として菌の生育に最低限必要な塩を含んだ培地と無機
炭素源しか用いる必要がないため、安価な原料からD−乳酸を製造することができる。本発明の細菌は特に工場から排出される二酸化炭素を唯一の炭素源として利用できるため、環境負荷低減にも効果的である。また光合成細菌の生産系と異なり、リアクターを小型化することができるため、安価で高効率なプロセスでD−乳酸を製造することができる。
(3)本発明の細菌を用いたD−乳酸の製造方法は、D−乳酸を精製する際のコストを従来の方法より抑えることができる。一般に微生物を用いた乳酸製造においては、培地成分由来の不純物が問題になるが、本発明の細菌は原料として菌の生育に最低限必要な塩を含んだ培地と無機炭素源しか用いないため、菌体残渣を十分除去さえすれば、その後の精製工程は容易である。また一般に水素酸化細菌は他の微生物と比べ有機酸を蓄積しにくいため、従来の乳酸発酵で問題となっていた酢酸や蟻酸などの副生を最小限に抑えることができ、蓄積した有機酸による増殖阻害も回避可能である。
実施例1(1)から(5)で作製したプラスミドの構造を示した図。 実施例1(2)から(5)で作製したプラスミドによりRalstonia eutrophaを形質転換して得られた形質転換体を用いて、グルコン酸を炭素源としてD−乳酸を製造した結果を示す図。 実施例1(2)から(5)で作製したプラスミドによりRalstonia eutrophaを形質転換して得られた形質転換体を用いて、グルコン酸を炭素源としてD−乳酸を製造した際の菌体量(OD600)を示す図。 実施例1(2)から(5)で作製したプラスミドによりRalstonia eutrophaを形質転換して得られた形質転換体を用いて、二酸化炭素を炭素源としてD−乳酸を製造した結果を示す図。 実施例1(2)から(5)で作製したプラスミドによりRalstonia eutrophaを形質転換して得られた形質転換体を用いて、二酸化炭素を炭素源としてD−乳酸を製造した際の菌体量(OD600)を示す図。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の細菌は、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、水素酸化細菌において導入または発現増強することで無機炭素同化効率が向上した細菌であり、培養の際、二酸化炭素を唯一の炭素源として培養しても、D−乳酸の製造が可能な細菌である。
なお、「D−乳酸を製造可能な細菌」とは、培地中で培養したときに、D−乳酸を培地に分泌し、培地から回収可能な程度にD−乳酸を製造できる能力を有する細菌を意味する。
無機炭素固定に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては無機炭素固定に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドである限り特に制限されず、例えば、リブロース1,5−ビスリン酸に二酸化炭素を固定する効果を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの中から適宜選択可能であるが、好ましい一例としてリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)をコードするポリヌクレオチドがあげられ、その具体例としてRalstonia eutropha H16株(ATCC 17699)由来のRubiscoをコードするポリヌクレオチドがあげられる。Rubiscoは大サブユニットと小サブユニットによって構成されるので、大サブユニットと小サブユニットそれぞれをコードするポリヌクレオチドを導入する。これらは同時に導入してもよいし、別々に導入してもよい。Ralstonia eutropha H16株(ATCC 17699)由来のRubiscoの大サブユニットをコードするポリヌクレオチドとしては配列番号11の塩基番号88から1545の塩基配列を有する遺
伝子が挙げられ、小サブユニットをコードするポリヌクレオチドとしては配列番号11の塩基番号1606から2022の塩基配列を有する遺伝子を挙げることができる。
Rubiscoの大サブユニットをコードするポリヌクレオチドは、Rubisco小サブユニットとともにリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ活性を発揮できるタンパク質をコードするものである限り、配列番号11の塩基番号88から1545の塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。Rubiscoの小サブユニットをコードするポリヌクレオチドは、Rubisco大サブユニットとともにリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ活性を発揮できるタンパク質をコードするものである限り、配列番号11の塩基番号1606〜2022の塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。ストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる(以下、同じ)。
また、Rubiscoの大サブユニットをコードするポリヌクレオチドは、配列番号12のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、Rubisco小サブユニットとともにリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ活性を発揮できるタンパク質をコードするDNAであってもよい。Rubiscoの小サブユニットをコードするポリヌクレオチドは、配列番号13のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、Rubisco大サブユニットとともにリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ活性を発揮できるタンパク質をコードするDNAであってもよい。
さらに、Rubiscoの大サブユニットをコードするポリヌクレオチドは、配列番号12のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加された配列を有し、Rubisco小サブユニットとともにリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ活性を発揮できるタンパク質をコードするDNAであってもよい。Rubiscoの小サブユニットをコードするポリヌクレオチドは、配列番号13のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加された配列を有し、Rubisco大サブユニットとともにリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ活性を発揮できるタンパク質をコードするDNAであってもよい。ここで、「1または数個」とは、好ましくは、1から20個、より好ましくは1から10個、特に好ましくは1から5個を意味する(以下、同じ)。
なお、Rubisco遺伝子を導入する場合、大サブユニットと小サブユニットの会合を促進するために、シャペロンをコードするポリヌクレオチドをさらに導入してもよい。Ralstonia eutropha H16株(ATCC 17699)由来のシャペロンをコードするポリヌクレオチドとしては配列番号11の塩基番号2188から3138の塩基配列を有する遺伝子が挙げられる。シャペロンをコードするポリヌクレオチドは、Rubiscoの大小サブユニットの会合を促進できるタンパク質をコードするものである限り、配列番号11の塩基番号2188から3138の塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、配列番号14のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する蛋白質をコードするDNA、または、配列番号14のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加された配列を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
無機炭素の輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、炭酸イオンや炭酸水素イオンの輸送能や濃縮能を向上させることが可能な炭酸イオントランスポーターをコードするポリヌクレオチドの中から適宜選択可能であるが、好ましい一例
としてictBファミリーに属する炭酸イオントランスポーターをコードするポリヌクレオチドがあげられ、その具体例としてSynechococcus属PCC7942株(ATCC 33912)由来のictBファミリーに属する炭酸イオントランスポーターをコードするポリヌクレオチドがあげられる。Synechococcus属PCC7942株(ATCC 33912)由来のictBファミリーに属する炭酸イオントランスポーターをコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号17の塩基番号7から1407の塩基配列を有する遺伝子を挙げることができる。また、ictBファミリーに属する炭酸イオントランスポーターをコードするポリヌクレオチドは、炭酸イオントランスポーター活性を有するタンパク質をコードするものである限り、配列番号17の塩基番号7から1407の塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。
また、ictBファミリーに属する炭酸イオントランスポーターをコードするポリヌクレオチドは、それぞれ配列番号18のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、炭酸イオントランスポーター活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
さらに、ictBファミリーに属する炭酸イオントランスポーターをコードするポリヌクレオチドは、配列番号18のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加された配列を有し、炭酸イオントランスポーター活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
一方D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドは、ピルビン酸よりD−乳酸を生成する働きを持つタンパク質をコードするものであれば特に限定はなく、例えば、大腸菌(Escherichia coli)由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、Leuconostoc mesenteroides由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、Lactobacillus plantarum由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を用いることができる。大腸菌由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子としては、配列番号3の塩基番号103から1089の塩基配列を有する大腸菌W3110株由来の遺伝子を挙げることができる。また、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドは、D−乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである限り、配列番号3の塩基番号103から1089の塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。
また、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドは、それぞれ配列番号4のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
さらに、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドは、配列番号4のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加された配列を有し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
本発明の細菌を得るのに用いる水素酸化細菌は、水素を酸化できるものである限り特に限定はないものの、Ralstonia eutrophaなどのRalstonia属細菌やHydrogenovibrio marinusなどのHydrogenovibrio属細菌が挙げられる。この中で、気体状の二酸化炭素や炭酸塩を唯一の炭素源とした条件で増殖可能な点、全ゲノム情報が解析されている点、および遺伝子組換え法が確立されている点で、Ralstonia eutrophaが好ましく、その一例としてRalstonia eutropha H16株(ATCC 17699)やRalstonia eutropha PHB_4株(DSM 541)があげられる。
本発明の細菌は、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに
無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを遺伝子組み換え技術により水素酸化細菌へ導入することで得ることができる。導入方法としては主に、発現ベクターを用いた方法と、自殺ベクターを用いたゲノム組換え法がある。導入に用いる発現ベクターとしては公知の広域宿主ベクターを用いることができ、一例としてpBBR1MCS2(GenBank No.U23751)、pKT230、pBHR1があげられる。また導入に用いる自殺ベクターの一例としては、pJQ200mp18、pNHG1、pLO1があげられる。
なお、水素酸化細菌としてRalstonia eutrophaを用いる場合は、無機炭素固定に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしてのRubisco遺伝子については、宿主のRalstonia eutropha自身が有する内因性のRubisco遺伝子の発現を増強してもよい。例えば、染色体上でRubisco遺伝子のプロモーターを下記のような強力なプロモーターに置換することで内因性のRubisco遺伝子の発現を増強させることができる。Ralstonia eutrophaのRubisco遺伝子は配列番号11に示すように、大サブユニットコード領域、小サブユニットコード領域、シャペロンコード領域の順でオペロンを形成しているので、大サブユニットコード領域の5’側に強力なプロモーターを配置させればこれらをまとめて発現増強できる。
発現ベクターを用いた方法では、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを作製し、接合性大腸菌を用いた接合法などにより水素酸化細菌を形質転換することで本発明の細菌を得ることができる。また発現ベクターにこれらのポリヌクレオチドを導入する際、その順番は特に限定されない。
それぞれの遺伝子は5’末端にプロモーター配列を付加して遺伝子発現を制御することも可能であるし、単一のプロモーターの下流に各遺伝子を連結し、導入した各遺伝子の発現すべてを単一のプロモーターで制御することも可能である。この際、プロモーターは、水素酸化細菌で機能するものであれば特に限定はなく、その一例として、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、PRプロモーター、ファジンプロモーター(phasin promoter)などがあげられる。この中では、ファジンプロモーターがより好ましい。ファジンプロモーターはRalstonia eutrophaが本来有する、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)顆粒を覆うタンパク質であるファジンタンパク質(phasin protein)を生産するための強力なプロモーターであり、培地中の窒素源やリン源の枯渇下で活性化することが知られている。そのため、ファジンプロモーターを導入することで、培地中の窒素源やリン源を枯渇させるだけで、高価な誘導剤の添加なしにD−乳酸の生産が可能となる。Ralstonia eutropha由来のファジンプロモーターとしては、配列番号8の塩基番号1から438の塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられるが、水素酸化細菌においてプロモーター活性を有する限り、配列番号8の塩基番号1から438の塩基配列において、1または数個の塩基が置換、欠失、挿入または付加された配列を有するDNAであってもよい。
また、自殺ベクターを用いたゲノム組換え法により、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素の輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、水素酸化細菌のゲノムへ導入することでも本発明の細菌が作製可能である。この場合はトランスポゾン変異導入によるゲノム中へのランダム変異導入で行なってもよいが、相同組換えにより水素酸化細菌のゲノム中に存在するD−乳酸以外の物質生産遺伝子を破壊する形で導入するとさらに効果的である。例えばRalstonia eutropha PHB_4株(D
SM 541)は酸素欠乏状態でL−乳酸を生成することが知られているが、ゲノム中のL−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドに、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入して、L−乳酸デヒドロゲナーゼを破壊することで、副生成物としてのL−乳酸の生成を防ぎ、結果として光学純度の高いD−乳酸を得ることができる。
なお、発現ベクターと自殺ベクターとを組み合わせてもよく、水素酸化細菌への外来遺伝子導入の一例として、シアノフィシン合成酵素(cyanophycin synthetase)を導入した組換えRalstonia eutrophaを用いた、有機炭素原料を原料としたシアノフィシン(cyanophycin)生産に関する研究例が知られている。当該研究は、エントナー・ドウドロフ経路の遺伝子であるKDGP−アルドラーゼ(2−Keto−3−Deoxygluconate 6−Phosphate Aldolase)を破壊したRalstonia eutrophaに、KDGP−アルドラーゼとシアノフィシン合成酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを導入することで、プラスミドの脱落を防ぎつつ増殖連動型でシアノフィシンを生産させることができ、その生産性を向上させている(Voss, I.et al.,Metab.Eng.,8, 66−78(2006))。
同様に本発明では、例えば、自殺ベクターを用いて水素酸化細菌ゲノム中の無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードする遺伝子(例えば、Rubisco遺伝子)を破壊した宿主を作製後、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより水素酸化細菌を形質転換することで、二酸化炭素を唯一の炭素源とした培養により増殖連動型でD−乳酸の生産をより効率的に行なえる細菌を取得することができる。また、自殺ベクターを用いて水素酸化細菌ゲノム中のD−乳酸合成に不要な遺伝子(例えば、L−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子)に、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入して当該遺伝子を破壊した宿主を作製後、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより水素酸化細菌を形質転換することで、二酸化炭素を唯一の炭素源とした培養による光学純度の高いD−乳酸の生産をより効率的に行なえる細菌を取得することができる。
なお本発明の細菌は、無機炭素同化効率を向上させた細菌であり、二酸化炭素を唯一の炭素源として培養することでD−乳酸を製造可能な細菌であるが、炭酸塩などの無機炭素原料またはグルコン酸やフルクトースなどの有機炭素原料を炭素源として細菌を培養し、D−乳酸を製造することも可能である。従って、本発明の細菌を用いてD−乳酸の製造を行なう場合は、二酸化炭素を唯一の炭素源として培養してもよいし、二酸化炭素と他の炭素源を用いて培養してもよいし、二酸化炭素以外の炭素源を用いて培養してもよい。
また、例えば、まず栄養源の豊富な培地で本発明の細菌を高密度に培養後、培養菌体を二酸化炭素を唯一の炭素源とした独立栄養条件下で培養を行なうことで、D−乳酸を製造してもよい。
二酸化炭素を唯一の炭素源とした独立栄養条件下で培養を行なう場合は、例えば、80%水素/10%酸素/10%二酸化炭素の組成の気相条件下で、10から40℃で、3時間〜10日間水素酸化細菌の培養を行なうことで、D−乳酸が培地中に蓄積される。また、この場合、気相中の各気体の組成はD−乳酸の生成を阻害しない範囲で、例えば30%以内の組成範囲内で増減が可能であり、密閉した培養器にて混合気体を常圧(101.3
kPa)以上の加圧条件で導入する方法や、開放系の培養器にて当該組成の混合気体を連続通気する方法でD−乳酸を製造することも可能である。D−乳酸は常法にしたがって培地から回収できる。D−乳酸は必要に応じて菌体からも回収してよい。
本発明の方法によって製造されたD−乳酸を用いて重合反応を行なうことにより、ポリD−乳酸などのD−乳酸含有ポリマーを得ることができる。
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。なお本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることはいうまでもない。
実施例1 発現ベクターの作製
下記(1)から(5)に示す、プラスミド(発現ベクター)を作製した。
(1)大腸菌W3110株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをLacプロモーターに対し正方向に挿入したプラスミド
(1−1)PCR反応により大腸菌W3100株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)を含むポリヌクレオチドを増幅した。PCR条件を以下に示す。
(PCR条件)
・DNAポリメラーゼ
KOD FX(東洋紡績社製)
・Forward primer
配列番号1に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より5番目か
ら10番目までの配列はHindIIIサイトの配列であり11番目から38番
目は配列番号3のうち5’末端側より103番目から130番目までの領域に相
当)
・Reverse primer
配列番号2に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より4番目か
ら9番目の配列はEcoRIサイトの配列であり10番目から37番目は配列番
号3のうち5’末端側より1065番目から1092番目までの領域の相補鎖に
相当)
・鋳型
大腸菌(Escherichia coli)W3100株のコロニーを水に懸
濁したもの
・PCR反応
94℃で2分、その後98℃で10秒−63℃で30秒−68℃で1分のサイク
ルを40回、最後に68℃で7分
(1−2)(1−1)で得られた約1kbp断片のPCR増幅産物(配列番号3のうち5’末端側より103番目から1092番目までのポリヌクレオチドを含む)をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キット(キアゲン社製)を用いてゲルから抽出することでポリヌクレオチド断片を精製した。
(1−3)精製したポリヌクレオチド断片をリン酸化後、Mighty Cloning
Kit(タカラバイオ社製)を用いてpUC118のHincIIサイトにライゲーションした(反応温度16℃)。
(1−4)ライゲーション液を用いて、大腸菌(Escherichia coli)JM109株(タカラバイオ社製)を形質転換した。
(1−5)形質転換操作後の溶液を、100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地(10g/L バクトトリプトン(ベクトンディッキンソン社製)、5g/L 酵母エキス、10g/L 塩化ナトリウム、15g/L バクトアガロース(ベクトンディッキンソン社製))に塗布した。
(1−6)得られたコロニーを培養し、プラスミド抽出後、様々な制限酵素による切断パターンを分析することで、目的とする形質転換体のスクリーニングを行ない、プラスミドldhA/pUC118形質転換体を得た。ldhA/pUC118は(1−1)で得られた約1kbp断片のPCR増幅産物がpUC118のHincIIサイトに挿入されたプラスミドである。
(1−7)広域宿主ベクターpBBR1MCS2(GenBank No.U23751)で形質転換した大腸菌JM109株の培養液からプラスミド精製キットを用いて調製したpBBR1MCS2を、制限酵素HindIIIおよびEcoRIで消化した。
(1−8)(1−7)の消化物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いてゲルから抽出することで精製し、約5.1kbpのDNA産物を得た。
(1−9)(1−6)で得られた形質転換体よりプラスミドldhA/pUC118を調製し、制限酵素HindIIIおよびEcoRIで消化した。
(1−10)(1−9)の消化物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いて約1kbpのDNA産物をゲルから抽出することで精製した。
(1−11)(1−8)で得られたpBBR1MCS2消化物と、(1−10)で得られたラスミドldhA/pUC118消化物とをLigation High(東洋紡績社製)を用いてライゲーション反応後(反応温度16℃)、常法により大腸菌JM109株を形質転換した。
(1−12)形質転換操作後の溶液を、20μg/mLのカナマイシンと1%(w/v)のグルコースを含むLB寒天培地に塗布した。
(1−13)得られたコロニーを培養し、プラスミド抽出後、様々な制限酵素による切断パターンを分析することで、目的とする形質転換体のスクリーニングを行ない、プラスミドldhA/pBBR1MCS2形質転換体を得た。プラスミドldhA/pBBR1MCS2(図1(1))は、大腸菌W3100株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼを含むポリヌクレオチドが、pBBR1MCS2のLacZ(Plac)に対し正方向に挿入された
プラスミドである。
(2)大腸菌W3110株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼおよびSD配列(シャイン・ダルガノ配列)をLacプロモーターに対し正方向に挿入したプラスミド
(2−1)PCR反応により大腸菌W3100株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)およびSD配列を含むポリヌクレオチドを増幅した。なおPCR条件は、Forward primerとして配列番号5に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より5番目から10番目までの配列はHindIIIサイトの配列であり11番目から44番目は配列番号3のうち5’末端側より82番目から115番目までの領域に相
当)を用いた他は、(1−1)と同様である。
(2−2)(2−1)で得られた約1kbp断片のPCR増幅産物(配列番号3のうち5’末端側より82番目から1092番目までのポリヌクレオチドを含む)をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キット(キアゲン社製)を用いてゲルから抽出することでポリヌクレオチド断片を精製した。
(2−3)精製したポリヌクレオチド断片をリン酸化後、(1−3)から(1−6)に示す方法と同様な方法を用いて、プラスミドsd−ldhA/pUC118形質転換体を得た。sd−ldhA/pUC118は(2−1)で得られた約1kbp断片のPCR増幅産物がpUC118のHincIIサイトに挿入されたプラスミドである。
(2−4)(2−3)で得られた形質転換体よりプラスミドsd−ldhA/pUC118を調製し、制限酵素HindIIIおよびEcoRIで消化した。
(2−5)(2−4)の消化物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いて約1kbpのDNA産物をゲルから抽出することで精製した。
(2−6)(1−8)で得られたpBBR1MCS2消化物と、(2−5)で得られたプラスミドsd−ldhA/pUC118消化物とを(1−11)と同様な方法でライゲーションおよび形質転換を行なった。
(2−7)(1−12)から(1−13)に示す方法と同様な方法により、プラスミドsd−ldhA/pBBR1MCS2形質転換体を得た。プラスミドsd−ldhA/pBBR1MCS2(図1(2))は、大腸菌W3100株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)をコードするポリヌクレオチドおよびそのSD配列を含むオリゴヌクレオチドが、pBBR1MCS2のLacZ(Plac)に対し正方向に挿入されたプラスミドで
ある。
(3)大腸菌W3110株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)およびRalstonia eutropha由来のファジンプロモーター(phaPp)をLacプロモーターに対し正方向に挿入したプラスミド
(3−1)PCR反応によりRalstonia eutropha由来のPHAファジンプロモーター(phaPp、以下Ppと略)を含むポリヌクレオチドを増幅した。PCR条件を以下に示す。
(PCR条件)
・DNAポリメラーゼ
TaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社製)
・Forward primer
配列番号6に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より7番目
から12番目の配列はApaIサイトの配列であり13番目から36番目は配列
番号8のうち5’末端側より1番目から24番目までの領域に相当)
・Reverse primer
配列番号7に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より7番目
から12番目の配列はHindIIIサイトの配列であり13番目から40番目
は配列番号8のうち5’末端側より411番目から438番目までの領域の相
補鎖に相当)
・鋳型
Ralstonia eutropha H16株ゲノム(ATCC
17699D−5)
・PCR反応
98℃で2分、その後98℃で10秒−55℃で30秒−72℃で1分のサイク
ルを40回、最後に72℃で7分
(3−2)(3−1)で得られた約0.4kbp断片のPCR増幅産物(配列番号8のうち5’末端側より1番目から438番目までのポリヌクレオチドを含む)をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キット(キアゲン社製)を用いてゲルから抽出することでポリヌクレオチド断片を精製した。
(3−3)精製したポリヌクレオチド断片をpGEM−T Easy Vector(プロメガ社製)を用いてライゲーションし、(1−4)から(1−6)に示す方法と同様な方法を用いて、プラスミドPp/pGEM−T形質転換体を得た。Pp/pGEM−Tは(3−1)で得られた約0.4kbp断片のPCR増幅産物がpGEM−TのEcoRVサイトに挿入されたプラスミドである。
(3−4)(1)で調製したプラスミドldhA/pBBR1MCS2(図1(1))を制限酵素ApaIおよびHindIIIで消化した。
(3−5)(3−4)の消化物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いてゲルから抽出することで精製し、約6.1kbpのDNA産物を得た。
(3−6)(3−3)で得られた形質転換体よりプラスミドPp/pGEM−Tを調製し、制限酵素ApaIおよびHindIIIで消化した。
(3−7)(3−6)の消化物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いて約0.4kbpのDNA産物をゲルから抽出することで精製した。
(3−8)(3−5)で得られたプラスミドldhA/pBBR1MCS2消化物と、(3−7)で得られたプラスミドPp/pGEM−T消化物とを(1−11)と同様な方法でライゲーションおよび形質転換を行なった。
(3−9)(1−12)から(1−13)に示す方法と同様な方法により、プラスミドPp−ldhA/pBBR1MCS2形質転換体を得た。プラスミドPp−ldhA/pBBR1MCS2(図1(3))は、Ralstonia eutropha由来PHAファジンプロモーター(Pp)をコードするポリヌクレオチドおよび大腸菌W3100株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)をコードするポリヌクレオチドが、pBBR1MCS2のLacZ(Plac)に対し、Pp−ldhAの順に正方向に挿入されたプラ
スミドである。
(4)大腸菌W3110株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)、Ralstonia eutropha由来のリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco;cbbL2、cbbS2、cbbX2)およびSD配列をLacプロモーターに対し正方向に挿入したプラスミド
(4−1)PCR反応によりRalstonia eutropha由来のリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)の大サブユニット(cbbL2)、小サブユニット(cbbS2)、シャペロン(cbbX2)を含むポリヌクレオチドを増幅した。PCR条件を以下に示す。なお、Forward primer(配列番号9)は、Ralstonia eutropha由来のRubisco遺伝子のプロモータ
ー領域の−35領域(配列番号11のうち5’末端側から12番目から17番目の領域であり配列番号9のうち5’末端側から18番目から23番目の領域)をtttaccからttgacaに、−10領域(配列番号11のうち5’末端側から35番目から40番目の領域であり配列番号9のうち5’末端側から41番目から46番目の領域)をtatcttからtataatに、それぞれ変えたポリヌクレオチドを増幅するよう設計したものである。
(PCR条件)
・DNAポリメラーゼ
KOD FX(東洋紡績社製)
・Forward primer
配列番号9に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より1番目
から6番目の配列はApaIサイトの配列)
・Reverse primer
配列番号10に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より1番目
から6番目の配列はHindIIIサイトの配列であり7番目から43番目は
配列番号11のうち5’末端側より3105番目から3141番目までの領域の
相補鎖に相当)
・鋳型
Ralstonia eutropha H16株ゲノム(ATCC
17699D−5)
・PCR反応
94℃で2分、その後98℃で10秒−63℃で30秒−68℃で4分のサイク
ルを40回、最後に68℃で7分
(4−2)(4−1)で得られた約3.1kbp断片のPCR増幅産物(配列番号11のうち5’末端側より1番目から3141番目までのポリヌクレオチド領域中、5’末端側から12番目から17番目までと35番目から40番目までの領域に、前記の配列番号9に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドによる変異を導入したもの)をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キット(キアゲン社製)を用いてゲルから抽出することでポリヌクレオチド断片を精製した。
(4−3)精製したポリヌクレオチド断片をリン酸化後、(1−3)から(1−6)に示す方法と同様な方法を用いて、プラスミドRubisco/pUC118形質転換体を得た。Rubisco/pUC118は(4−1)で得られた約3.1kbp断片のPCR増幅産物がpUC118のHincIIサイトに挿入されたプラスミドである。
(4−4)(2)で調製したプラスミドsd−ldhA/pBBR1MCS2(図1(2))を制限酵素ApaIおよびHindIIIで消化した。
(4−5)(4−4)の消化物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いてゲルから抽出することで精製し、約6.1kbpのDNA産物を得た。
(4−6)(4−3)で得られた形質転換体よりプラスミドRubisco/pUC118を調製し、制限酵素ApaIおよびHindIIIで消化した後、ScaIで消化した。
(4−7)(4−6)の消化物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いて約3.1kbpのDNA産物をゲルから抽出することで精製した。
(4−8)(4−5)で得られたプラスミドsd−ldhA/pBBR1MCS2消化物
と、(4−7)で得られたプラスミドRubisco/pUC118消化物とを(1−11)と同様な方法でライゲーションおよび形質転換を行なった。
(4−9)(1−12)から(1−13)に示す方法と同様な方法により、プラスミドRubisco−sd−ldhA/pBBR1MCS2形質転換体を得た。プラスミドRubisco−sd−ldhA/pBBR1MCS2(図1(4))は、Ralstonia eutropha由来のリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)の大サブユニット(cbbL2)、小サブユニット(cbbS2)、シャペロン(cbbX2)および大腸菌W3100株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)とSD配列をコードするポリヌクレオチドが、pBBR1MCS2のLacZ(Plac
に対し、Rubisco−SD配列−ldhAの順に正方向に挿入されたプラスミドである。
(5)大腸菌W3110株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)およびRalstonia eutropha由来のファジンプロモーター(phaPp)およびSynechococcus属PCC7942株由来のictB炭酸イオントランスポーターをLacプロモーターに対し正方向に挿入したプラスミド
(5−1)PCR反応によりSynechococcus属PCC7942株由来のictB(inorganic carbon transporter)炭酸イオントランスポーターを含むポリヌクレオチドを増幅した。PCR条件を以下に示す。
(PCR条件)
・DNAポリメラーゼ
KOD FX(東洋紡績社製)
・Forward primer
配列番号15に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より1番目
から6番目の配列はSpeIサイトの配列であり、14番目から40番目は配列
番号17のうち5’末端側より1番目から27番目までの領域)
・Reverse primer
配列番号16に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(5’末端側より1番目
から6番目の配列はSacIサイトの配列であり7番目から33番目は
配列番号17のうち5’末端側より1384番目から1410番目までの領域の
相補鎖に相当)
・鋳型
Synechococcus属PCC7942株ゲノム(ATCC 33912
D−5)
・PCR反応
94℃で2分、その後98℃で10秒−63℃で30秒−68℃で1.5分のサ
イクルを40回、最後に68℃で7分
(5−2)(5−1)で得られた約1.4kbp断片のPCR増幅産物(配列番号17のうち5’末端側より1番目から1410番目までのポリヌクレオチドを含む)をアガロー
スゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キット(キアゲン社製)を用いてゲルから抽出することでポリヌクレオチド断片を精製した。
(5−3)精製したポリヌクレオチド断片をリン酸化後、(1−3)から(1−6)に示す方法と同様な方法を用いて、プラスミドictB/pUC118形質転換体を得た。ictB/pUC118は(5−1)で得られた約1.4kbp断片のPCR増幅産物がpUC118のHincIIサイトに、ictB遺伝子をpUC118のLacZプロモーターに対し正方向に挿入したプラスミドである。
(5−4)(3)で調製したプラスミドPp−ldhA/pBBR1MCS2(図1(3))を制限酵素SacIで消化し、BAPアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ社製)によって脱リン酸化を行なった。
(5−5)(5−4)のDNA産物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いてゲルから抽出することで精製し、約6.5kbpのDNA産物を得た。
(5−6)(5−3)で得られた形質転換体よりプラスミドictB/pUC118を調製し、制限酵素SacIで消化した。
(5−7)(5−6)の消化物をアガロースゲル電気泳動に供し、ゲル抽出キットを用いて約1.4kbpのDNA産物をゲルから抽出することで精製した。
(5−8)(5−5)で得られたプラスミドPp−ldhA/pBBR1MCS2消化物と、(5−7)で得られたプラスミドictB/pUC118消化物とを(1−11)と同様な方法でライゲーションおよび形質転換を行なった。
(5−9)(1−12)から(1−13)に示す方法と同様な方法により、プラスミドPp−ldhA−ictB/pBBR1MCS2形質転換体を得た。プラスミドPp−ldhA−ictB/pBBR1MCS2(図1(5))は、Synechococcus属PCC7942株由来のictB炭酸イオントランスポーターおよび大腸菌W3110株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)およびRalstonia eutropha由来のファジンプロモーター(Pp)をコードするポリヌクレオチドが、pBBR1MCS2のLacZ(Plac)に対し、Pp−ldhA−ictBの順に正方向に挿入さ
れたプラスミドである。
実施例2 Ralstonia eutropha形質転換体の作製
実施例1で得られた各プラスミドを用いて接合伝達法により水素酸化細菌Ralstonia eutrophaを形質転換した。
(1)実施例1で得られた各プラスミドにより接合性大腸菌S17−1株を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて形質転換体のスクリーニングを行なった。
(2)得られた形質転換体を、50μg/mLのカナマイシンを含むLB(10g/L バクトトリプトン(ベクトンディッキンソン社製)、5g/L 酵母エキス、10g/L
塩化ナトリウム)で、37℃・一晩培養した。
(3)Ralstonia eutropha H16株(ATCC 17699)、Ralstonia eutropha PHB_4株(DSM 541)をそれぞれ抗生物質を含まないNutrient Broth(ベクトンディッキンソン社製、濃度:8g/L)培地で、30℃・一晩培養した。
(4)(2)および(3)の培養液を遠心分離により菌体を濃縮後、OD600を用いて菌
体濁度を求め、(2)で調製した各大腸菌S17−1株形質転換体と(3)で調製した各Ralstonia eutropha株とを菌体濁度1:1の比で混合した。
(5)混合後、Nutrient Broth寒天培地(8g/L Nutrient Broth(ベクトンディッキンソン社製)、15g/L バクトアガロース(ベクトン
ディッキンソン社製))により、37℃で一晩培養した。
(6)プレート表面の菌体をNutrient Brothを用いて懸濁し、この懸濁液をNutrient Brothで1000倍希釈後、600μg/mLのカナマイシンを含むNutrient broth寒天培地により、30℃で2日から3日培養した。なお、コントロールとして、各大腸菌S17−1株の形質転換体のみおよび各Ralstonia eutropha株のみについても、同様に培養をした。
結果、コントロールの培養液を塗布したプレートではコロニーは数個出現するのみであったが、接合を行なった菌体培養液を塗布したプレートからはそれぞれ数十個のコロニーが得られた。得られたそれぞれのクローンは50μg/mLのカナマイシンを含むNutrient Broth(ベクトンディッキンソン社製、濃度:8g/L)培地で、30℃・一晩培養後プラスミド抽出し、様々な制限酵素による切断パターンの分析により、目的のプラスミドが伝達されたことを確認した。
実施例3 従属栄養培養条件でのD−乳酸生産
実施例1の(2)から(5)で調製したプラスミドを用いて、Ralstonia eutropha PHB_4株(DSM 541)を形質転換して得られた形質転換体(以下、sd−ldhA/PHB_4株、Pp−ldhA/PHB_4株、Rubisco−sd−ldhA/PHB_4株、Pp−ldhA−ictB/PHB_4株とそれぞれ表記)、および実施例1の(5)で調製したプラスミドを用いて、Ralstonia eutropha H16株(ATCC 17699)を形質転換して得られた形質転換体(以下、Pp−ldhA−ictB/H16株と表記)を用いて、それぞれ従属栄養条件下で培養することで、D−乳酸を生成させた。
(1)各形質転換体について、14mLラウンドチューブ(ベクトンディッキンソン社製)中に50μg/mLのカナマイシンを含む3mLのNutrient Brothを分注し、当該チューブに各形質転換体のグリセロールストックを植菌した。
(2)30℃で2日間培養し、7000Gの遠心により菌体を沈降させた後上清を廃棄し、炭素原料を含まない無機塩培地(培地A)を5mL加えて菌体を再懸濁した。
(培地A)
MSM培地(3.6g/L Na2HPO4、1.5g/L KH2PO4
0.5g/L NH4Cl、0.2g/L MgSO4・7H2O、
10mL/L Trace element solution)
※ Trace element solution
10g/L FeSO4・7H2O、2.3g/L ZnSO4・7H2O、
1.2g/L CuSO4・5H2O、0.5g/L MnSO4・5H2O、
2.0g/L CaCl2・2H2O、40mg/L H3BO3
0.12g/L (NH46Mo724、0.2g/L CoCl2
20mg/L NiCl2・6H2O、6mg/L CrCl2
10mL/L 35%HCl
(3)再び、7000Gの遠心により菌体を沈降させた後上清を廃棄し、培地Aを1mL加えて菌体を再懸濁した。
(4)14mLラウンドチューブ中に、以下の組成からなる、培地Bおよび培地Cをそれぞれ3mLずつ分注したものを用意し、(3)の懸濁液をそれぞれ50μLずつ植菌した。植菌直後の菌体濁度OD600は概ね0.1から0.2であった。
(培地B)
300μg/mLのカナマイシン、1mMのIPTG(イソプロピル−β−チオガラ
クトピラノシド)、4%(w/v)のグルコン酸を含むNutrient
Broth
(培地C)
300μg/mLのカナマイシン、1mMのIPTG(イソプロピル−β−チオガラ
クトピラノシド)、4%(w/v)のグルコン酸を含む培地A
(5)30℃で培養を行ない、1日目、2日目、5日目の培養液を1.5mLセーフロックチューブ(エッペンドルフ社製)に1mLずつ採取した。
(6)菌体濁度(OD600)を分光光度計により測定した後、7000Gの遠心により菌
体を沈降させ、培養上清中のD−乳酸量を乳酸測定キット(F−キット L−乳酸/D−乳酸、ジェイ・ケイ・インターナショナル社製)で測定した。
培地Bおよび培地Cでの培養物についてD−乳酸を定量した結果を、図2(1)および図2(2)にそれぞれ示す。また、培地Bおよび培地Cで培養したときの培養液の菌体濁度を、図3(1)および図3(2)にそれぞれ示す。PHB_4株の形質転換体である、sd−ldhA/PHB_4株、Pp−ldhA/PHB_4株、Rubisco−sd−ldhA/PHB_4株、Pp−ldhA−ictB/PHB_4株についてD−乳酸の生成が確認された。
実施例4 独立栄養培養条件でのD−乳酸生産
実施例3で評価した形質転換体である、sd−ldhA/PHB_4株、Pp−ldhA/PHB_4株、Rubisco−sd−ldhA/PHB_4株、Pp−ldhA−ictB/PHB_4株、Pp−ldhA−ictB/H16株を用いて、それぞれ独立栄養培養条件下で培養することで、D−乳酸を生成させた。
(1)各形質転換体について、14mLラウンドチューブ(ベクトンディッキンソン社製)中に50μg/mLのカナマイシンを含む3mLのNutrient Brothを分注し、当該チューブに各形質転換体のグリセロールストックを植菌した。
(2)30℃で2日間培養し、7000Gの遠心により菌体を沈降させた後、上清を廃棄し、実施例3に記載の炭素原料を含まない無機塩培地(培地A)を5mL加えて菌体を再懸濁した。
(3)再び7000Gの遠心により菌体を沈降させた後、上清を廃棄し、培地Aを1mL加えて菌体を再懸濁した。
(4)100mL容量の気密性のアルミシールバイアル(GLサイエンス社製)に培地Dを5mL入れ、開口部をブチルゴムセプタムとアルミシールで封印した。
(培地D)
300μg/mLのカナマイシン、1mMのIPTG(イソプロピル−β−チオガラ
クトピラノシド)を含む培地A
(5)ガス混合機GB−3C(コフロック製)を用いて、体積組成で80%水素/10%酸素/10%二酸化炭素の混合ガスをブチルゴムセプタム部分からシリンジ針により1L/min、1分間の流速で流して気相を置換した。
(6)ブチルゴムセプタム部分からシリンジ針により(3)の懸濁液をそれぞれ100μLずつ植菌した。植菌直後の菌体濁度OD600は概ね0.1から0.2であった。
(7)30℃で培養を行ない、3.7日目、6.5日目の培養液をブチルゴムセプタム部分からシリンジ針により1.5mLセーフロックチューブ(エッペンドルフ社製)に1mLずつ採取した。
(8)菌体濁度(OD600)を分光光度計により測定した後、7000Gの遠心により菌
体を沈降させ、培養上清中のD−乳酸量を乳酸測定キット(F−キット L−乳酸/D−乳酸、ジェイ・ケイ・インターナショナル社製)で測定した。
D−乳酸を定量した結果を図4、培養液中の菌体濁度を図5に示す。検討した形質転換体のうち、Rubisco−sd−ldhA/PHB_4株およびPp−ldhA−ictB/H16株について、二酸化炭素を唯一の炭素源としたD−乳酸の生成が確認された。

Claims (10)

  1. D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、水素酸化細菌において導入または発現増強して得られる、D−乳酸を製造可能な細菌。
  2. D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの水素酸化細菌への導入が、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターによる水素酸化細菌の形質転換による導入である、請求項1に記載の細菌。
  3. D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドならびに無機炭素固定に関わるタンパク質および/または無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドの5’末端側にファジンプロモーター配列を有するオリゴヌクレオチドをさらに付加したベクターである、請求項2に記載の細菌。
  4. 無機炭素固定に関わるタンパク質がリブロース−1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)である、請求項1から3のいずれかに記載の細菌。
  5. 無機炭素輸送や濃縮に関わるタンパク質が、ictBファミリーに属する炭酸イオントランスポーターである、請求項1から4のいずれかに記載の細菌。
  6. 水素酸化細菌がRalstonia eutrophaである、請求項1から5のいずれかに記載の細菌。
  7. 請求項1から6のいずれかに記載の細菌を培地中で培養してD−乳酸を生成させ、培地からD−乳酸を回収することを含む、D−乳酸の製造方法。
  8. 前記培地は二酸化炭素を炭素源として含む、請求項7に記載のD−乳酸の製造方法。
  9. 前記培地は二酸化炭素を唯一の炭素源として含む、請求項7に記載のD−乳酸の製造方法。
  10. 請求項7から9のいずれか一項に記載の方法によりD−乳酸を製造し、得られたD−乳酸を用いて重合反応を行なうことを特徴とする、D−乳酸含有ポリマーの製造方法。
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