JP2013170373A - 伝統構法建築用制震金具、伝統構法建築用制震金具を使用した耐震補強構造及びその施工方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 伝統構法の建築の柱、梁、桁、貫等の構造部材同士の接合部に取付けるための伝統構法建築用制震金具1は、弾性を有するステンレスバネ材からなる鋼板をL字形状に折り曲げ、その折曲部2cを円弧状としたものである。
【選択図】 図1
Description
ここでは、フレーム状に組まれた木材に構造用合板を打ち付けた壁や床(面材)で支える構造を、「工法」、主に柱や梁といった軸組(線材)で支える構造を、「構法」と使い分けることとする。
「在来工法」の建物とは、構造壁、筋交い、構造用合板、接合金物等で剛性、強度を確保する、いわゆる「剛構造」の建物をいう。在来工法の建物の耐震性能が不足していると診断された場合は、構造壁、筋交い、構造用合板等の耐震部材を増設することで、耐震補強を行う。
上述したように、伝統構法の建物の耐震性能を向上させようと、構造壁や筋交い等の剛的な構造部材を補強のために増設しようとすると、却って、建物の変形を抑制するように作用するため、柱や梁等の構造部材の破壊につながるおそれがある。また、建物の美観である意匠性や機能性を損ねてしまうため、採用することができない。
伝統構法の建物は、地震等により震動が負荷された場合、外力により大きく変形はするが、それに対応して必要な復元力特性を有していることが耐震の必要条件となる。このため、震動負荷時の構造部の変形に追従可能とするような弱いばね弾性力が必要になる。特に、弱い小さなばね部材を多数個使用することで、ばね剛性が働くため、XY方向及びねじり方向の変形を許容する弾性力と共に、その変形を元に戻そうとする大きな復元力が期待される。このため、建物の構造部が大きく変形したとしても、建物の構造部を傷めることは小さい。
また、伝統構法の建物は、意匠性、機能性の長期的な維持及び保存が強く求められるが、本発明の制震金具は、小型で強度があるため、目立たず、接合部に支障にならないように取り付けることができるので、伝統構法の耐震補強に必要な意匠性、機能性及び経済性を備えるだけでなく、ねじれ抵抗性も満足することができる
まず、図1〜図2を用いて、本発明の第1の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる制震金具の構成について説明する。
図1は、本例の制震金具の斜視図である。
図1に示すように、制震金具1は、弾性を有するステンレスバネ材からなる鋼板をL字形状に折曲げて形成され、鋼板の折曲部を円弧形状としたものである。具体的には、弾性を有する厚さ約3.0mmのステンレスバネ材の鋼板をL字形状に折り曲げて、その折曲部2cを円弧状とし、鋼板の両側の片部2a,2bに皿ビス締結用の挿通孔3aを複数穿設している。
皿ビスを使うようにしているのは、外見上、伝統構法の建築に装着しても、目立たず意匠的な外観を損ねないようにするためである。
本例の制震金具1は、厚さを約3.0mmとしているが、必要な弾性復元力があればよく、2.0mm以上−3.0mm以下のステンレスバネ材としてもよい。
挿通孔3aは、本例では、図1に示すように、直径6.5mmの円形穴である挿通孔3aを片部2a,2bに各々6箇所穿孔している。なお、図3の第1の実施の形態の変形例に示すように、直径6.5mmの円形穴である挿通孔3aを5箇所に穿孔するような形状としてもよい。
なお、制震金具1の厚み、形状、挿通孔の大きさ及び個数はこれに限定するものではなく、使用する箇所や強度に応じて、適宜変更しても良いことはもちろんである。また、制震金具1の材質も、ステンレスバネ材に限定されるものではなく、同様のばね弾性力、意匠性、経済性を有する材質であれば使用可能である。
特に、本例のステンレスバネ材からなる制震金具1では、4.5°程度までの変形角度に対する弾性復元力及び耐性力があることが実験によりわかっている。
特に、本例の制震金具1では、ステンレスバネ材を使用することにより、弾性により衝撃を吸収し復元させるという緩衝効果があると共に、へたり等の耐久性にも優れている。このため、長期に亘り使用しても有効に弾性復元力を保持維持することができ、ステンレスによる剛性と共に、柱、梁、貫、桁等の構造部との接合部をしなやかに補強し、伝統構法の建築を長期に亘り使用することができる。
本実施例では、挿通孔3aを5または6個としているが、これに限定するものではなく、4〜8個であればよい。これは、多すぎると(9個以上)、接合部に装着時の施工性が悪くなり、また、少なすぎると(3個以下)と、弱いばね弾性復元力の制震金具1に対して、外側に開く方向の力が負荷された場合にも、塑性的に伸びてしまい接合部から外れてしまうからである。すなわち、弱いばね弾性復元力の制震金具1に対して、外側に開く方向の力が負荷された場合に、塑性的に伸びてしまい接合部から外れてしまうことを防止するためにも、挿通孔3aは4〜8個とすることが適当である。また、この数は、施工性の観点からも好ましい。
次に本発明の第2の実施の形態例にかかる耐震補強具について図4及び図5を参照して説明する。
なお、第1の実施の形態(図1〜3)と対応する部位については同符号を付し、重複を避けるものとする。図4は、本例の制震金具の斜視図である。
なお、制震金具1の厚み、形状、挿通孔の大きさ及び個数はこれに限定するものではなく、使用する箇所や強度に応じて、適宜変更してもよい。
次に、本発明の実施の形態にかかる制震金具の施工方法について、図6を参照して説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
図6に示すように、水平方向の梁5に形成された開口部5aに、鉛直方向の柱6の突出部6aが嵌合されて、接合部が形成されている。梁5及び柱6の接合部に、本例の制震金具1の両片部2a,2bを各々梁5及び柱6の角部に当接するように突き合わせる。本例の制震金具1の角度が、91°(図5参照)となっているため、梁5及び柱6に突合せしやすくなっている。
また、弱いばね弾性力を有する制震金具1を多数設けることにより、変形に対するねばりの力が働く。
本発明の制震金具の施工使用や施工場所については、本出願の発明者の特許第3857680号の「動的耐震診断」を行うことにより、定量的な耐震性能評価指数を算出し、耐震性能を評価した上で、耐震補強具を施工するのが効果的である。なお、耐震評価方法については、本発明の趣旨から離れるので、下記に概要のみを説明する。
以下、伝統構法の動的耐震性能を在来工法の動的耐震性能と比較して説明する。
C=(T0/Tb)2√(Q・R) …式(1)
ここで、T0:非減衰振動の固有周期、Tb:建物の固有周期の基準値、Rは振動応答倍率、Qは、共振性能係数、Rは建物の最大振幅応答倍率、である。
このため、伝統構法の建物の動的耐震性能評価指数Ctを算定する場合には、伝統構法の建物の最大応答倍率Rtと在来工法の建物の最大振幅応答倍率Rとは、図8からR=Rt/2と評価するのが妥当である。これは1/15ラジアンと1/30ラジアンの比から定まるものである。
Ct=(T0/0.2)2√(Q・Rt/2)
=25・√(1/2)T0 2・√(Q・Rt) ・・・式(2)
他方、在来工法の建物の固有周期の基準値Tbは、0.1秒であり、
Tb=0.1を代入することにより、
C=(T0/0.1)2√(Q・R)
=100・T0 2・√(Q・R) ・・・式(3)
となる。
式(2)と式(3)の比をとることにより、
C/Ct=100・T0 2・√(Q・R)/25・√(1/2)T0 2・√(Q・Rt)
=4√(R)/√2/2√(Rt)・・・式(4)
=8/√2・√(R/Rt)
と式(4)のようになる。
よって、伝統構法の建物の動的耐震性能評価指数Ctは、在来工法に対して、√2/8・C、すなわち、約C/5.7に相当することがわかる。
具体的には、制震金具1のばね弾性力は、約0.5KNなので、東西、南北方向の動的耐震指数を実験により求めた上で、必要な制震金具1の個数を決定するようにするとよい。
2a,2b 片部
2c 湾曲折曲部
2d 湾曲突出部
3a,3b 挿通孔
4 皿ビス
5 梁
6 柱
Claims (7)
- 伝統構法の建築の柱、梁、桁、貫等の構造部材同士の接合部に取付けるための伝統構法建築用制震金具であって、
ステンレスバネ材等からなる鋼板をL字形状に折曲してなり、前記鋼板の折曲部が湾曲状となるようにした、伝統構法建築用制震金具。 - 前記折曲部を、さらに、前記接合部と反対側に湾曲させて突出する湾曲突出部を形成するようにした、請求項1記載の伝統構法建築用制震金具。
- 前記鋼板は厚さが2.0〜3.0mmのステンレスバネ材である、請求項1乃至2に記載の伝統構法建築用制震金具。
- 前記折曲部の角度を91°とした請求項1乃至3のいずれかに記載の伝統構法建築用制震金具。
- 前記鋼板の両側の片部に、皿ビスを挿通するための挿通孔を複数形成した、請求項1乃至4のいずれかに記載の伝統構法建築用制震金具。
- 伝統構法の建築の柱、梁、桁、貫等の構造部材同士の接合部に、請求項1乃至5のいずかに記載の伝統構法建築用制震金具を取り付けるようにした、伝統構法建築用制震金具を使用した耐震補強構造物。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載の伝統構法建築用制震金具を、伝統構法の建築の柱、梁、桁、貫等の接合部に施工するに際して、
多数の前記伝統構法建築用制震金具を、対応する前記接合部に、前記挿通孔に皿ビスに挿通して取り付けるようにした、伝統構法建築用制震金具の施工方法。
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