JP2013168360A - 注液型金属空気電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】使用に際して、電解液を注入する注液型金属空気電池において、電解液の注入開始から放電が開始されるまでの中液期間中における負極金属の腐食・消耗を抑え、電池の容量利用率、エネルギー密度の向上を図ること。
【解決手段】注液型金属空気電池において、イオン化傾向が水素よりも大きい金属を主成分とする負極と、上記金属とは異なる材料から構成され、上記負極表面の少なくとも一部に形成されて上記負極と電解液との間の水素発生反応を抑制する被覆層とを備える。
【選択図】なし

Description

本発明は、金属空気電池に関する。特に、使用時に電解液や電解液用の水を注入することによって使用可能な状態となる注液型金属空気電池に関する。
金属空気電池は、空気中の酸素を正極活物質に用い、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)などの金属を負極活物質に用いた電池である。このような電池は、エネルギー密度が高く、小型化、軽量化が可能な電池として注目されている。
金属空気電池の一型式としては、例えば特許文献1に記載されているように、使用時に電解液を注液して、電極に電解液を接触させることによって使用可能な状態とする注液型の電池がある。このような注液型電池においては、電解液を注液しない限り電池反応が進行せず、長期間の保存が可能となるため、非常用ないし緊急用の電源として好適である。
また、特許文献2では、充電時のデンドライト成長防止のために、少なくとも電解質側表面が少なくとも一時的に液体状態になるように構成された金属電極を用いた注液型金属空気電池が記載されている。より詳細には、負極金属にHgを3質量%含有するGa合金を使用した例が記載されている。
特開2002−151167号公報 特開2008−098075号公報
ところが、特許文献2における上記合金と電解液とが接触すると、水素発生反応が進行する。すなわち、電解液の注液時において、上記合金が電解液に腐食されるという問題が生ずる。
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的とするところは、電解液の注液開始から当該電解液が全体に浸透するまでの間における負極金属の腐食ないし消耗を抑制し、容量利用率及びエネルギー密度が改善された注液型金属空気電池を提供することにある。
本発明の態様に係る注液型金属空気電池は、イオン化傾向が水素よりも大きい金属を主成分とする負極と、上記金属とは異なる材料から構成され、上記負極表面の少なくとも一部に形成され、上記負極と電解液との間の水素発生反応を抑制する被覆層と、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、負極表面の全体又は一部が金属負極と電解液との間の水素発生反応を抑制する被覆層を備える注液型金属空気電池とした。このような注液型金属空気電池は、電解液の注液開始から放電が開始されるまでの注液期間中における負極金属の腐食ないし消耗が抑制される。その結果、当該注液型空気電池の容量利用率及びエネルギー密度が向上する。
実施例5における負極用基板に対するZn被覆処理の様子を示す概略図である。 実施例及び比較例に係る負極試料を用いて放電を行った場合の水素発生量を評価する際に用いた装置を示す概略図である。 実施例1,2及び比較例の水素発生量を経時的に示すグラフである。 本発明の一実施例に係る注液型金属空気電池の電極構造体の一例を示す概略断面図である。
以下、本発明の一実施形態に係る注液型金属空気電池について詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を意味するものとする。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
まず、本発明の一実施形態に係る注液型金属空気電池の基本的な構造と、これらを構成する材料について説明する。本形態に係る注液型金属空気電池は、例えば、正極(空気極)と負極とを備えた電極構造体と、当該電極構造体を収納する電極収納部と、電解液や電解液に用いられる溶媒を収納するタンクと、を備えるものとすることができる。
図4に示すように、本形態の注液型金属空気電池の電極構造体20は、負極層21と、被覆層25と、電解質層23と、正極層22と、液密通気部材24と、がこの順番に積層された構成とすることができる、正極層22は、その外層側に液密通気部材24を備えるものとすることができる。そして、負極層21は、本形態において、その表面の少なくとも一部に被覆層25を備えている。図4のように、負極層21の電解質層23に対向する面において被覆層25が形成されていることにより、電解質層23に含まれる電解液が負極層21を腐食する反応を抑制することができる。電極収納部は、電極構造体と共に電解液を収納するケースであって、当該電解液の漏出を阻止する構造となっている。すなわち、上記ケースは、電解液に耐性を有する材料から構成される。また、上記タンクは、電極構造体との一体構造あるいは分離構造を有する。すなわち、適当な手段によって電極構造体を収納した電極収納部内にタンク内の電解液や溶媒を注入することができるようになっている。
[正極]
正極は、酸素を正極活物質とする。すなわち、酸素の酸化還元触媒として機能する触媒成分と、これを担持する導電性の触媒担体と、を含む正極とすることができる。
上記触媒成分としては、例えば、二酸化マンガンや四酸化三コバルトなどの金属酸化物を用いることができる。その他にも、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の金属及びこれらの合金などから選択することができる。
触媒成分の形状や大きさは、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒成分と同様の形状及び大きさを採用することができる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましく、触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nmであることが好ましい。触媒粒子の平均粒子径の値が上記範囲内であると、触媒利用率と担持の簡便さとのバランスを適切に制御することができる。なお、触媒利用率は、電気化学反応を進行させる上で重要となる有効電極面積に関連するものである。
なお、本明細書中において、「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。他の構成成分の平均粒子径も同様に定義することができる。
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体として機能するだけでなく、触媒成分と他の部材との間における電子の授受に関与する電子伝導パス材としても機能する。触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであれば特に限定されず、主成分がカーボンであることが好ましい。触媒担体としては、具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本明細書において、「主成分」とは、当該成分の含有量が全体に対して50質量%以上であるものを意味する。他の構成成分の主成分も同様に定義することができる。
触媒担体のサイズについては特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御する等の観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度とすることが好ましい。より好ましくは10〜100nm程度である。
触媒担体に対する触媒成分の担持量については、触媒とこれを担持した担体の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量の値がこのような範囲内であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切なものとなる。なお、上記した触媒成分や、これを担持する担体の種類については、上記したもののみに限定されるものではなく、空気電池に適用されるものとして従来公知の材料を適宜使用することができる。
[液密通気部材]
液密通気部材は、正極の外層側に配置され、電解液に対する液密性(水密性)と、酸素に対する通気性を有する部材である。材料としては、ポリオレフィンやフッ素樹脂などの撥水性多孔質樹脂から構成されるものを採用することができ、正極への酸素供給を可能にする一方、電解液が外部に漏出するのを防止する機能を発揮する。
[負極]
負極には、イオン化傾向が水素よりも大きい金属が主成分として用いられる。すなわち、標準電極電位が水素より卑な金属単体や、これら金属を含む合金を用いることができる。
具体的な負極の構成成分としては、例えば亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)などの金属単体を挙げることができる。また、合金としては、これらの金属元素に1種以上の金属元素又は非金属元素を加えたものを挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、上記趣旨に合致する限り、空気電池に適用される従来公知の材料を適用することができる。
[セパレータ]
セパレータとしては、例えば撥水処理を行っていないグラスペーパー、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜を用いることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を適用することができる。なお、セパレータは、正極−負極間にスペースが保持される構造であれば、必ずしも必要ではない。
[電解液]
電解液としては、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの水溶液を用いることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の電解液を適用することができる。なお、前述のタンク内には、予め所定濃度に調製された電解液、すなわち上記のようなアルカリ水溶液や、これらアルカリ水溶液の溶媒である水が収納されることになる。電池の使用前からタンク内に電解液を収納する場合は、アルカリ耐性などタンクの構成部材に対する要求が厳しくなるものの、注液当初から均一な濃度の電解液を電極構造体に供給することができるという利点がある。一方、タンク内に水のみを収納する場合、上記のような電解質塩を予め電極構造体や電極収納部内に配置しておくことが必要である。
[被覆層]
本形態の注液型金属空気電池においては、負極表面の少なくとも一部に、当該負極金属とは異なる材料から構成され、負極と電解液との間の水素発生反応を抑制する被覆層が形成される。上記被覆層により、注液開始から放電が開始されるまでの少なくとも一定期間、負極金属と電解液との全面接触を回避することができる。その結果、水素発生量や負極の腐食による消耗が減少し、安全性や電池の容量利用率、エネルギー密度が向上することになる。また、負極の無駄な消耗が防止されることによって、放電開始時における電極の放電ムラが改善される。さらに、このような電池を直列に接続した場合の不均一性が解消され、負極の表面腐食状態のムラによるセル間の電池特性のばらつきも改善されることになる。
上記被覆層の材料としては、電解液の注液を開始してから完了するまでの間、少量であっても負極表面に残存して、負極金属と電解液との全面接触を防止することが望ましい。そのような材料である限り、従来公知の材料を採用することができる。特に、使用する電解液と反応しない材料や、反応しても水素を発生しない材料であることが好ましい。上記観点から、被覆層材料の電解液に対する反応性や、溶解性、分散性に応じて、被覆層の厚さや、被覆形態を調整することができる。このように調整すれば、電解液としての機能に悪影響を与えるものや、膜状に剥離して両極間を短絡させるような導電材料であるものを除き、様々な材料を適用することができる。さらに、大気中の酸素や水蒸気等との反応性が低い材料であれば、負極金属の長期保管時における酸化や搬送時などにおける表面へのキズなどから保護できる効果も期待できるため好ましい。
なお、反応性が高く、電解液に溶解し易い材料を被覆層に用いる場合には、被覆層を厚くし、電解液に溶解し難い材料を被覆層に用いる場合には、溶解性に応じて被覆厚さを薄くすればよい。一方、電解液と実質的に反応しない材料を被覆層に用いる場合には、被覆層にピンホールを形成する、あるいは、隙間や溝を介して不連続な被覆層とすることができる。このようにすれば、負極構成部分の電解液への溶出を不連続部分からのみに制限し、放電開始までの負極消費を抑えることができる。なお、この場合、被覆の不連続部分からの上記溶出が進行することによって、注液の終盤、注液完了後、さらには放電開始の際に被覆層が電極表面から脱離して、電解液中に分散することになる。このとき、被覆の不連続部分からの電極の局部溶出により凹凸が生じ、被覆層脱離後の負極の反応面積が増大することから、電池の出力が向上するという副次的な効果が得られる。
本形態の注液型金属空気電池においては、上記趣旨を満足する限り、負極表面に形成される被覆層の材料は特定のものに限定されない。ただし、その典型例として、金属や酸化物、窒化物、さらには高分子材料を挙げることができる。これらの材料を採用する場合、被覆層を厚くすることで電解液に対する溶解時間を長くできるので、電解液に対する溶解速度の操作を行いやすいとの観点から好ましい。
金属系材料としては、例えば、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びビスマス(Bi)並びにこれらの合金を採用することができる。これらを採用する場合、水素の発生を抑制し、負極表面を保護する観点から望ましい。また、例えば、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、銀(Ag)、クロム(Cr)、鉄(Fe)及びマンガン(Mn)並びにこれらの合金を採用することもできる。これらは電解液に対して不溶であり、被覆層に適用することで機械的ないし化学的に負極表面を保護することができるため好ましい。
なお、被覆層を形成する金属材料には、負極と同種のものが含まれないことが望ましい。また、これら金属から構成される被覆層は、スパッタリングやめっき等によって負極表面に形成することができる。また、金属で被覆する場合には、被覆層を構成する金属と負極を構成する主成分である負極金属とのイオン化傾向の差も考慮することが望ましい。上記イオン化傾向の差が大きい金属ほど、被覆表面が安定となる。ここで、被覆層に適用する金属と負極金属とのイオン化傾向の差が大きくなるにしたがって、被覆層の被覆率を高くすることが望ましい。上記イオン化傾向の差が大きい金属を被覆層に適用する場合、負極表面が曝露された部分の腐食が促進される傾向がある。そのため、水素発生量の増加を防止する観点から、上記のように被覆率を高くすることが好ましいといえる。なお、被覆率は、電解液と接する側の負極表面全体の表面積と、被覆層により被覆された当該負極表面の表面積と、の比から求めることができる。
酸化物系材料としては、アルカリ性の電解液に溶解する酸化物を使用することができる。例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnOx)、酸化アルミニウム(AlOx)等を挙げることができる。また、アルカリ性の電解液に不溶である酸化物を使用することもできる。例えば、酸化ケイ素(SiOx)、酸化チタン(TiOx)、酸化コバルト(CoOx)、酸化ニッケル(NiO)、酸化モリブデン(MoOx)、酸化マンガン(MnOx)、酸化クロム(CrOx)等を挙げることができる。上記した酸化物はいずれも親水性を示す。そして、電解液に可溶な酸化物を用いる場合、当該酸化物は電解液に溶出していき、やがてその殆どが負極表面から剥離する。一方で、電解液に不溶な酸化物を用いる場合、被覆層に掲載されたピンホールや上記した不連続部分から負極金属が溶出することによって、やがて当該酸化物の殆どが負極表面から剥離する。このようにして被覆層剥離後の負極の反応面積が増大すると、電池の出力が向上するため好ましい。
このような酸化物から構成される被覆層は、スパッタリングや陽極酸化処理、熱酸化処理などによって負極表面に形成することができる。なお、金属負極の表面には、特段の処理を施さなくとも空気中の酸素による酸化膜が自然に形成されるものであるが、このような自然酸化膜では電解液による腐食の腐食を免れない。したがって、負極表面に形成された自然酸化膜は、本形態における被覆層には該当しない。
窒化物系材料としては、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化クロム(CrN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化チタン(TiN)、窒化鉄(FeNx)などの窒化物を挙げることができる。これら窒化物は、電解液に不溶であって、機械的ないし化学的に負極表面を保護する機能を有する。また、このような被覆層は、スパッタリングやプラズマ窒化などによって負極表面に形成することができる。
そして、被覆層として用いる高分子系材料としては、水溶性のデンプン、ゼラチン、セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、などを挙げることができ、このような材料を用いる場合、当該材料が電解液に徐々に溶解していき負極表面から消失するまでの間、金属負極を保護することができる。また、電解液に対して不溶性を示し、機械的ないし化学的に負極表面を保護するマスキング剤として機能する高分子材料を用いることもできる。例えば、疎水性のシリコーン、ポリアミド、ポリアセタール、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどを挙げることができる。これらの高分子材料は、ディップ法、スピンコート法、スプレー法、又はローラーや刷毛を使用した方法等により負極表面に塗布することができる。上記したような方法により、高分子材料を用いて被覆層を形成することができる。
なお、被覆層の厚さとしては、様々な要因を考慮して決定することができる。例えば、被覆層に用いる材料の物性、被覆方法に基づく緻密性、電解液との反応性、被覆形態、電解液の種類又は電池のサイズ(容量)や注液方法によって定まる注液時間等を要因として考慮することができる。なお、被覆層の厚さとしては、0.1〜10μmとすることが好ましい。被覆層の厚さの値が上記範囲内であれば、高い放電容量を維持しつつ、特に優れた水素発生量抑制効果を得ることができる。さらに、上記範囲の層厚に形成する場合、被覆層の構成成分としては、酸化ケイ素(SiOx)、亜鉛(Zn)、酸化アルミニウム(AlOx)、窒化アルミニウム(AlN)又は錫(Sn)を主成分として含むことが好ましい。このような材料を含む被覆層を上記範囲の層厚に形成する場合、高い放電容量を維持しつつ、さらに優れた水素発生量抑制効果を得ることができる。
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
まず、負極用基板として、JISH4000にA3003として規定されているAl−Mn系アルミニウム合金板材を用意した。当該基板のサイズは、100×100×0.2mmとした。そして、SiOをターゲットに使用した反応性スパッタにより、上記基板表面に被覆層としてのSiOx層を100nmの厚さとなるように形成した。上記スパッタにおいては、Arガスを61sccm、Oガスを2.9sccmとするフロー中で行われ、成膜圧力を0.3Pa、スパッタパワーを200Wとした。
(実施例2)
上記負極用基板に一般的なジンケート浴を用いて、定電流電解めっきを施した。このようにして、当該負極用基板表面に被覆層としての亜鉛(Zn)層を100nmの厚さとなるように形成した。
(実施例3)
上記負極用基板を硫酸水溶液中に浸漬し、陽極酸化処理を施した。このようにして、被覆層としての硫酸アルマイト処理による酸化アルミニウム(Al)層を10μmの厚さとなるように形成した。
(実施例4)
Alをターゲットに使用した反応性スパッタにより、上記負極用基板表面にAlN膜を100nmの厚さとなるように形成した。上記スパッタにおいては、Arガスを41.5sccm、Nガスを27.3sccmとするフロー中で行われ、成膜圧力を0.3Pa、スパッタパワーを200Wとした。AlN層の厚さは0.1μmであった。
(実施例5)
図1に示すビーカーセルを用いて上記負極用基板にジンケート処理を施した。図1に示すように、所定の混合水溶液Lを入れたPP(ポリプロピレン)製容器1を準備し、ここにHg/HgO参照電極2と、カソード3を浸漬した。なお、カソード3は、集電用ニッケルメッシュ4によりHg/HgO参照電極2と接続される。さらに、負極用基板Sを、混合水溶液Lの中に浸漬した。なお、負極用基板Sは、マスキング剤Mによりその側面及び銅箔5との界面を被覆された状態で取り付けられている。まず、負極用基板Sをジンケート液に200秒浸漬した。なお、ジンケート液として、50gのNaOHと、25gのZnOを溶解させた100mlの水溶液を用いた。次いで、上記負極用基板を水,エタノールで洗浄した後、50%硝酸に浸漬することにより、負極用基板S表面のZn層を溶解させ、Al表面に酸化膜を形成させた。そして、負極用基板Sを水,エタノールで洗浄した後、同組成のジンケート液に再び200秒浸漬し、負極用基板Sの表面に被覆層としての亜鉛層を形成した。亜鉛層の厚さは0.1μmであった。
(実施例6)
上記負極用基板を市販のポリビニルアルコールを30%含む水溶液を用いてディップコートした。次いで、80℃で加熱乾燥し、当該基板表面に被覆層としてのポリビニルアルコール層を形成した。
(実施例7)
上記負極用基板にマスキング剤をディップコートにより塗布した。マスキング剤としては、市販品のサンエコンマスクエースSを用いた。ついで、部分被覆になるようPFA製のヘラを用いて表面のマスキング剤を部分的に拭い取り、マスキング層を形成した。
(実施例8)
上記負極用基板に一般的なスタネート浴を用いて、定電流電解めっきを施した。このようにして、当該負極用基板表面に被覆層としての錫(Sn)層を1μmの厚さとなるように形成した。
〔評価試験〕
(A)水素発生量
上記のとおり被覆層を形成した8種の負極試料を、水素発生量の評価試験に供した。評価手段としては、図2に示す測定系を用いた。すなわち、密閉可能容器11は、増すフローコントローラ(MFC)12及びガス分析装置14に接続され、密閉可能容器11内には100sccmの空気フローが導入されるように測定系を構成した。また、密閉可能容器11内に設置された容器には、先端にチューブを取り付けたシリンジ13により電解液が導入されており、当該電解液に負極試料16、正極17及び参照極18が浸漬されている。負極試料16、正極17及び参照極18は、導電線により放電装置15に接続される。なお、電解液としては、8NのKOH水溶液を使用した。フロー排気を分析するガス分析装置14としては、ファイファーバキューム社製の四重極質量分析計(オムニスター)を用いて水素発生量のモニタリングを行った。負極試料16をKOH水溶液に浸漬してから600秒が経過するまでの間に検出された水素発生量を積算して各実施例の水素発生量を求めた。これらに対して、被覆層を形成していない上記負極用基板をそのまま負極試料16としたものを比較例とした。これら実施例1〜8及び比較例の水素発生量を表1に示した。なお、積算水素発生量は、比較例の発生量を「100」とする百分率で示した。
(B)放電容量
実施例1〜8及び比較例に対応する負極試料16に対し、一般的な構成の市販の空気極を正極17とし、Hg/HgO電極を参照極18とし、図2中に示すような放電セルを準備した。なお、上記(A)と同様の電解液を用いた。そして、負極試料16、正極17及び参照極18が電解液に浸漬された状態で、当該放電セルを10分間放置した。その後、100mA/cmの電流密度で定電流放電を行った。参照極18に対する負極電位が0Vに到達した時点を放電終了として、放電終了までの各例の放電容量を求めた。その結果を表1に併せて示す。
Figure 2013168360
表1に示すように、被覆層を備えた実施例1〜8の負極試料は、被覆層を形成していない比較例に比べて、水素発生量が大幅に低減されることが確認された。また、被覆層を形成したとしても、電池の放電容量が低下する傾向は認められないことも確認された。なお、被覆層として亜鉛めっきを施した実施例2においては、被覆層を形成していない比較例よりも高い放電容量が得られている。これは、被覆層の亜鉛が負極そのものとしての機能も発揮したことによるものと考えられる。
(C)水素発生量の時間的変化
被覆層を備えた実施例1,2に対応する負極試料16を、上記(B)と同様に密閉可能容器11中のビーカーセルに配置した。対極となる正極17には市販の空気極を用い、参照極18にはHg/HgO電極を用いた。また、電解液としては8NのKOH水溶液を使用し、先端にチューブを取り付けたシリンジ13により当該電解液をセルに注液した。密閉可能容器11内には100sccmの空気フローを導入した。そして、容器上面からガスの一部を採取し、ガス分析装置14によりガス中に含まれる水素比率のモニタリングを行った。注液時点から排出ガス中に含まれる水素ガス比率の時間的変化を調査し、被覆層を形成していない比較例の負極試料を電解液に浸漬した場合と比較した。その結果を図3に示す。
図3から以下のことが明らかとなった。すなわち、被覆層を形成していない比較例では水素検出までの時間が100秒であるのに対し、被覆層を形成した実施例1,2の負極試料では、水素が検出されるまでの時間をさらに50〜100秒遅らせることができた。このように、負極表面に被覆層を形成することにより、初期の水素発生を抑制する効果が得られることが確認された。また、負極表面に被覆層を形成することにより、水素の発生総量も全体的に抑制できることが判明した。
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
S 負極用基板
16 負極試料
20 電極構造体
21 負極層
25 被覆層

Claims (8)

  1. イオン化傾向が水素よりも大きい金属を主成分とする負極と、
    前記金属とは異なる材料から構成され、前記負極表面の少なくとも一部に形成され、前記負極と電解液との間の水素発生反応を抑制する被覆層と、
    を備えることを特徴とする注液型金属空気電池。
  2. 前記被覆層が不連続に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の注液型金属空気電池。
  3. 前記被覆層が金属、酸化物、窒化物又は高分子材料から構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の注液型金属空気電池。
  4. 前記被覆層が亜鉛、錫、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、ビスマス、マグネシウム、チタン、コバルト、ニッケル、モリブデン、銅、銀、クロム、鉄及びマンガンから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属から構成されることを特徴とする請求項3に記載の注液型金属空気電池。
  5. 前記被覆層がダブルジンケート処理により形成された亜鉛から構成されることを特徴とする請求項3に記載の注液型金属空気電池。
  6. 前記被覆層が酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化モリブデン及び酸化マンガンから成る群より選ばれた少なくとも1種の酸化物から構成されることを特徴とする請求項3に記載の注液型金属空気電池。
  7. 前記被覆層が窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化クロム、窒化ガリウム、窒化チタン及び窒化鉄から成る群より選ばれた少なくとも1種の窒化物から構成されることを特徴とする請求項3に記載の注液型金属空気電池。
  8. 前記被覆層がデンプン、ゼラチン、セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、シリコーン、ポリアミド、ポリアセタール、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、スチレン-ブタジエンゴム及びアクリロニトリル-ブタジエンゴムから成る群より選ばれた少なくとも1種の高分子材料から構成されることを特徴とする請求項3に記載の注液型金属空気電池。
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