以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に本発明を適用した場合について説明する。
図1は、本実施形態に係る車両に搭載されたパワートレーンの概略構成を示している。この図1において、1はエンジン(駆動源)、MTは手動変速機、6はクラッチ装置、9はエンジンECU(Electronic Control Unit)である。
図1に示すパワートレーンでは、エンジン1で発生した回転駆動力(トルク)が、クラッチ装置6を介して手動変速機MTに入力され、この手動変速機MTで適宜の変速比(運転者のシフトレバー操作によって選択された変速段での変速比)により変速されて、プロペラシャフトPS及びデファレンシャルギヤDFを介して左右の後輪(駆動輪)T,Tに伝達されるようになっている。尚、本実施形態に係る車両に搭載されている手動変速機MTは、前進6速段、後進1速段の同期噛み合い式手動変速機である。
以下、エンジン1の全体構成、クラッチ装置6及び制御系などについて説明する。
−エンジン1の全体構成−
図2はエンジン1及びその吸排気系の概略構成を示す図である。尚、この図2ではエンジン1の1気筒の構成のみを示している。
本実施形態におけるエンジン1は、例えば4気筒ガソリンエンジンであって、燃焼室11を形成するピストン12及び出力軸であるクランクシャフト13を備えている。上記ピストン12はコネクティングロッド14を介してクランクシャフト13に連結されており、ピストン12の往復運動がコネクティングロッド14によってクランクシャフト13の回転へと変換されるようになっている。
上記クランクシャフト13には、外周面に複数の突起(歯)16を有するシグナルロータ15が取り付けられている。このシグナルロータ15の側方近傍にはクランクポジションセンサ(エンジン回転数センサ)81が配置されている。このクランクポジションセンサ81は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト13が回転する際にシグナルロータ15の突起16に対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
エンジン1のシリンダブロック17には、エンジン水温(冷却水温)を検出する水温センサ82が配置されている。
エンジン1の燃焼室11には点火プラグ2が配置されている。この点火プラグ2の点火タイミングはイグナイタ21によって調整される。このイグナイタ21は上記エンジンECU9によって制御される。
エンジン1の燃焼室11には吸気通路3と排気通路4とが接続されている。吸気通路3と燃焼室11との間には吸気バルブ31が設けられている。この吸気バルブ31を開閉駆動することにより、吸気通路3と燃焼室11とが連通または遮断される。また、排気通路4と燃焼室11との間には排気バルブ41が設けられている。この排気バルブ41を開閉駆動することにより、排気通路4と燃焼室11とが連通または遮断される。これら吸気バルブ31及び排気バルブ41の開閉駆動は、クランクシャフト13の回転が伝達される吸気カムシャフト(図示省略)及び排気カムシャフト41aの各回転によって行われる。
上記吸気通路3には、エアクリーナ32、熱線式のエアフローメータ83、吸気温センサ84(エアフローメータ83に内蔵)、及び、エンジン1の吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ33が配置されている。このスロットルバルブ33はスロットルモータ34によって駆動される。スロットルバルブ33の開度はスロットル開度センサ85によって検出される。
また、上記吸気通路3には燃料噴射用のインジェクタ35が配置されている。このインジェクタ35には、燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、吸気通路3に燃料が噴射される。この噴射燃料は吸入空気と混合されて混合気となってエンジン1の燃焼室11に導入される。燃焼室11に導入された混合気(燃料+空気)は、エンジン1の圧縮行程を経た後、点火プラグ2にて点火されて燃焼する。この混合気の燃焼室11内での燃焼によりピストン12が往復運動してクランクシャフト13が回転する。
エンジン1の排気通路4には2つの三元触媒42,43が配設されている。これら三元触媒42,43は、酸素を貯蔵(吸蔵)するO2ストレージ機能(酸素貯蔵機能)を有しており、この酸素貯蔵機能により、空燃比が理論空燃比からある程度まで偏移したとしても、HC,CO及びNOxを浄化することが可能となっている。
上記排気通路4における上流側の三元触媒42の上流側には空燃比センサ(A/Fセンサ)86が、下流側の三元触媒43の上流側には酸素センサ(O2センサ)87がそれぞれ配置されている。
−クラッチ装置6−
図3はクラッチ装置6の概略構成を示している。この図3に示すように、クラッチ装置6は、クラッチ機構部60と、クラッチペダル70と、クラッチマスタシリンダ71と、クラッチレリーズシリンダ61とを備えている。
クラッチ機構部60は、上記クランクシャフト13と、手動変速機MT(図1参照)のインプットシャフト(入力軸)ISとの間に介在するように設けられ、クランクシャフト13からインプットシャフトISへの駆動力を伝達・遮断したり、その駆動力の伝達状態を変更する。ここでは、クラッチ機構部60は、乾式単板式の摩擦クラッチとして構成されている。なお、クラッチ機構部60の構成として、それ以外の構成を採用してもよい。
具体的に、クラッチ機構部60の入力軸であるクランクシャフト13には、フライホイール62とクラッチカバー63とが一体回転可能に取り付けられている。一方、クラッチ機構部60の出力軸であるインプットシャフトISには、クラッチディスク64がスプライン結合されている。このため、クラッチディスク64は、インプットシャフトISと一体回転しつつ、軸方向(図3の左右方向)に沿ってスライド可能となっている。クラッチディスク64とクラッチカバー63との間には、プレッシャプレート65が配設されている。このプレッシャプレート65は、ダイヤフラムスプリング66の外端部に当接され、このダイヤフラムスプリング66によってフライホイール62側へ付勢されている。
また、インプットシャフトISには、レリーズベアリング67が軸方向に沿ってスライド可能に装着されている。このレリーズベアリング67の近傍には、レリーズフォーク68が軸68aにより回動可能に支持されており、その一端部(図3の下端部)がレリーズベアリング67に当接している。そして、レリーズフォーク68の他端部(図3の上端部)には、クラッチレリーズシリンダ61のロッド61aの一端部(図3の右端部)が連結されている。そして、レリーズフォーク68が作動されることによって、クラッチ機構部60の継合・解放動作が行われるようになっている。
クラッチペダル70は、ペダルレバー72の下端部に踏み込み部であるペダル部72aが一体形成されて構成されている。そして、車室内とエンジンルーム内とを区画するダッシュパネルに取り付けられた図示しないクラッチペダルブラケットによってペダルレバー72の上端近傍位置が水平軸回りに回動自在に支持されている。ペダルレバー72には、図示しないペダルリターンスプリングによって手前側(運転者側)に向かう回動方向への付勢力が付与されている。このペダルリターンスプリングの付勢力に抗して運転者がペダル部72aの踏み込み操作を行うことにより、クラッチ機構部60の解放動作が行われるようになっている。また、運転者がペダル部72aの踏み込み操作を解除することにより、クラッチ機構部60の継合動作が行われるようになっている(これら解放・継合動作については後述する)。
クラッチマスタシリンダ71は、シリンダボディ73の内部にピストン74などが組み込まれた構成となっている。そして、ピストン74には、ロッド75の一端部(図3の左端部)が連結されており、このロッド75の他端部(図3の右端部)がペダルレバー72の中間部に接続されている。シリンダボディ73の上部には、このシリンダボディ73内へ動作流体であるクラッチフルード(オイル)を供給するリザーブタンク76が設けられている。
クラッチマスタシリンダ71は、運転者によるクラッチペダル70の踏み込み操作による操作力を受けることで、シリンダボディ73内でピストン74が移動することにより油圧を発生するようになっている。このとき、運転者の踏み込み操作力がペダルレバー72の中間部からロッド75に伝達されてシリンダボディ73内で油圧が発生する。クラッチマスタシリンダ71で発生する油圧は、シリンダボディ73内のピストン74のストローク位置に応じて変更されるようになっている。
クラッチマスタシリンダ71によって発生する油圧は、油圧配管77内のオイルによってクラッチレリーズシリンダ61へ伝達される。
クラッチレリーズシリンダ61は、クラッチマスタシリンダ71と同様に、シリンダボディ61bの内部にピストン61cなどが組み込まれた構成となっている。そして、ピストン61cには、ロッド61aの他端部(図3の左端部)が連結されている。ピストン61cのストローク位置は、このピストン61cが受ける油圧に応じて変更されるようになっている。
クラッチ装置6では、クラッチレリーズシリンダ61内の油圧に応じてレリーズフォーク68が作動されることによって、クラッチ機構部60の継合・解放動作が行われるようになっている。この場合、クラッチペダル70の踏み込み操作量に応じてクラッチ機構部60のクラッチ継合力(クラッチ伝達容量)が変更されるようになっている。
具体的には、クラッチペダル70の踏み込み操作量が大きくなり、クラッチマスタシリンダ71からクラッチレリーズシリンダ61へオイルが供給されて、クラッチレリーズシリンダ61内の油圧が高まると、ピストン61c及びロッド61aが図3中右方向へ移動され、ロッド61aと連結されたレリーズフォーク68が回動されて、レリーズベアリング67がフライホイール62側へ押される。さらに、同方向へのレリーズベアリング67の移動により、ダイヤフラムスプリング66の内端部が同方向へ弾性変形する。これにともない、ダイヤフラムスプリング66におけるプレッシャプレート65への付勢力が弱まる。このため、プレッシャプレート65、クラッチディスク64、及び、フライホイール62が滑りながら継合される半クラッチ状態となる。そして、さらに、付勢力が弱まると、プレッシャプレート65、クラッチディスク64、及び、フライホイール62が離間されて、クラッチ機構部60が解放状態になる。これにより、エンジン1から手動変速機MTへの動力伝達が遮断される。この場合、クラッチペダル70の踏み込み操作量が所定量を超えると、クラッチ機構部60が完全に切り離される完全解放状態(クラッチ伝達容量が0%の状態)になる。
一方、クラッチペダル70の踏み込み操作量が小さくなり、クラッチレリーズシリンダ61からクラッチマスタシリンダ71へオイルが戻されて、クラッチレリーズシリンダ61内の油圧が低くなると、ピストン61c及びロッド61aは図3中左方向へ移動される。これにより、レリーズフォーク68が回動させられ、レリーズベアリング67がフライホイール62から離間される側へ移動される。これにともない、ダイヤフラムスプリング66の外端部によるプレッシャプレート65への付勢力が増大していく。このとき、プレッシャプレート65とクラッチディスク64との間、及び、クラッチディスク64とフライホイール62との間でそれぞれ摩擦力、すなわちクラッチ継合力が発生する。このクラッチ継合力が大きくなると、クラッチ機構部60が継合され、プレッシャプレート65、クラッチディスク64、及び、フライホイール62が一体となって回転する。これにより、エンジン1と手動変速機MTとが直結される。この場合、クラッチペダル70の踏み込み操作量が所定量を下回ると、クラッチ機構部60が完全に継合される完全継合状態(クラッチ伝達容量が100%の状態)になる。
また、このクラッチ装置6には、クラッチペダル70の操作量(踏み込み量)に応じた出力信号を発信するクラッチストロークセンサ8Bが設けられている。このクラッチストロークセンサ8Bは、例えば、上記クラッチレリーズシリンダ61のロッド61aの位置を検出することで、運転者によるクラッチペダル70の操作量を検出するようになっている。そして、このクラッチストロークセンサ8Bの検知信号がエンジンECU9に出力されることにより、クラッチ機構部60の継合状態を認識することができ、これによって現在のクラッチトルク容量(クラッチ機構部60が伝達可能なトルクの最大値)を検知することが可能となっている。尚、このクラッチストロークセンサ8Bの配設位置としては、クラッチレリーズシリンダ61のロッド61aの近傍には限定されず、上記クラッチペダル70の近傍に配設することでクラッチペダル70の移動量を検出するようにしたり、上記レリーズベアリング67の近傍に配設してレリーズベアリング67の移動量を検出するようにしてもよい。
更に、上記インプットシャフトISに近接してインプット回転数センサ8Aが配設されている。このインプット回転数センサ8AはインプットシャフトISの回転数(入力軸回転数、入力軸回転速度)を検出して回転速度信号をエンジンECU9に出力する(図1を参照)。
−シフトパターン−
次に、車室内のフロアに配設され、シフトレバーの移動をガイドするシフトゲートのシフトパターン(シフトゲート形状)について説明する。
図4は、本実施形態における6速手動変速機MTのシフトパターンの概略を示している。図中2点鎖線で示すシフトレバーLは、図4に矢印Xで示す方向のセレクト操作と、このセレクト操作方向に直交する矢印Yで示す方向のシフト操作とが行い得る構成とされている。
セレクト操作方向には、1速−2速セレクト位置P1,3速−4速セレクト位置P2,5速−6速セレクト位置P3及びリバースセレクト位置P4が一列に並んでいる。
上記1速−2速セレクト位置P1でのシフト操作(矢印Y方向の操作)により、シフトレバーLを1速位置1stまたは2速位置2ndに動かすことができる。シフトレバーLが1速位置1stに操作された場合、上記手動変速機MTの変速機構に備えられた第1のシンクロメッシュ機構が1速成立側に作動して第1速段が成立される。また、シフトレバーLが2速位置2ndに操作された場合、上記第1のシンクロメッシュ機構が2速成立側に作動して第2速段が成立される。
同様に、3速−4速セレクト位置P2でのシフト操作により、シフトレバーLを3速位置3rdまたは4速位置4thに動かすことができる。シフトレバーLが3速位置3rdに操作された場合、上記手動変速機MTの変速機構に備えられた第2のシンクロメッシュ機構が3速成立側に作動して第3速段が成立される。また、シフトレバーLが4速位置4thに操作された場合、上記第2のシンクロメッシュ機構が4速成立側に作動して第4速段が成立される。
また、5速−6速セレクト位置P3でのシフト操作により、シフトレバーLを5速位置5thまたは6速位置6thに動かすことができる。シフトレバーLが5速位置5thに操作された場合、上記手動変速機MTの変速機構に備えられた第3のシンクロメッシュ機構が5速成立側に作動して第5速段が成立される。また、シフトレバーLが6速位置6thに操作された場合、上記第3のシンクロメッシュ機構が6速成立側に作動して第6速段が成立される。
更に、リバースセレクト位置P4でのシフト操作により、シフトレバーLをリバース位置REVに動かすことができる。このリバース位置REVに操作された場合、上記全てのシンクロメッシュ機構が中立状態となると共に、上記手動変速機MTの変速機構に備えられたリバースアイドラギヤが作動することにより後進段が成立される。
また、上記シフトレバーLの操作位置を検出するセンサとして、上記セレクト操作方向(図4に矢印Xで示す方向)でのシフトレバーLの操作位置を検出するセレクト操作方向位置センサ8C(図1及び図6を参照)、及び、上記シフト操作方向(図4に矢印Yで示す方向)でのシフトレバーLの操作位置を検出するシフト操作方向位置センサ8D(図1及び図6を参照)が設けられている。
上記セレクト操作方向位置センサ8Cは、例えばシフトレバーLが中立位置でセレクト操作される場合に、その操作位置が、上記1速−2速セレクト位置P1,3速−4速セレクト位置P2,5速−6速セレクト位置P3及びリバースセレクト位置P4の何れにあるかを検出可能となっている。また、シフト操作方向位置センサ8Dは、シフトレバーLの操作位置が、車両前側位置(上記1速位置1st、3速位置3rd、5速位置5th、リバース位置REVに相当する位置)にあるか、車両後側位置(上記2速位置2nd、4速位置4th、6速位置6thに相当する位置)にあるか、中立位置(上記1速−2速セレクト位置P1,3速−4速セレクト位置P2,5速−6速セレクト位置P3及びリバースセレクト位置P4に相当する位置)にあるかを検出可能となっている。
具体的に、シフトレバーLを操作した場合、その操作位置は、その操作力を図示しない変速機構のシンクロメッシュ機構に伝達するためのシフトセレクトシャフトの回動位置(例えばシフトレバーLのセレクト操作方向の位置に応じた回動位置)及びスライド移動位置(例えばシフトレバーLのシフト操作方向の位置に応じたスライド移動位置)を決定することになる。そして、上記各センサ8C,8Dは、このシフトセレクトシャフトの回動位置及びスライド移動位置を検出するロータリエンコーダやポテンショメータにより構成されている。これにより、これらセンサ8C,8Dからのシフトレバー位置信号によって、現在のシフトレバーLの位置が認識可能となっている。
更に、上記シフトレバーLには、シフトレバーLに対する運転者の操作力に相当するシフト荷重を検出するシフト荷重センサ8E(図1及び図6を参照)が設けられている。このシフト荷重センサ8Eとしては例えばシフトレバーLに取り付けられた歪みゲージが採用され、シフト荷重が大きいほどシフトレバーLに生じる歪み量が大きくなることを利用してシフト荷重を検出するようになっている。このシフト荷重は、一般に、シフトレバーLの操作速度が高いほど大きな値として検出されるものである。
(エアサスペンションシステム)
本実施形態に係る車両は、懸架装置としてエアサスペンションシステムを備えている。このエアサスペンションシステムは、車両の乗り心地や操縦安定性を確保するために、サスペンションをエアばねで構成し、車両の運動状態に応じてエアばねに対する給排気を行うことによってサスペンション特性(減衰特性)を可変制御するものである。このサスペンション特性の可変制御により、車体のロール運動やピッチ運動に対する車両の挙動の円滑化が実現できるようになっている。
このエアサスペンションシステムの概略について以下に説明する。図5は、本実施形態におけるエアサスペンションシステム100の概略を示している。この図5に示すように、エアサスペンションシステム100は、エアポンプ101と、一端がエアポンプ101に接続され、他端が各車輪のエアスプリング102のエアチャンバ113に接続された導管103と、この導管103に設けられたエアドライヤ104と、導管103の各車輪への枝管部に設けられた常閉型の電磁開閉弁105とを備えている。上記エアドライヤ104と電磁開閉弁105との間の導管103は二つの導管部103A,103Bに分岐されており、一方の導管部103Aには電磁切換弁106が設けられ、他方の導管部103Bには上記エアドライヤ104からエアスプリング102へ向かう空気の流れのみを許容する逆止弁107が設けられている。
電磁切換弁106は、導管部103Aの流れをオリフィスにより絞る絞り位置と、空気が導管部103A内を自由に流れることを許容する連通位置とに切り替わり、通常時には絞り位置に設定されるようになっている。エアポンプ101とエアドライヤ104との間の導管103にはエア排出導管108の一端が接続されており、このエア排出導管108の他端は大気に開放されている。また、このエア排出導管108には常閉型の電磁開閉弁109が設けられている。
エアスプリング102は、ショックアブソーバ110のピストンロッド110a又は車体に支持されたチャンバ部材111と、このチャンバ部材111とショックアブソーバ110のシリンダ110bとの間に架設されたローリングダイヤフラム112とを有し、これらによりエアチャンバ113が形成されている。
上記エアポンプ101、電磁開閉弁105、電磁切換弁106、電磁開閉弁109は、図示しないエアサスペンションECUによって制御され、これによりエアチャンバ113に対する空気の給排が制御されることによりサスペンションの減衰力が調整されるようになっている。この減衰力の調整により、路面からの衝撃を吸収して、快適な乗り心地、操縦安定性、旋回特性の向上を図ることが可能となる。例えば、操縦安定性を重視する走行状態を得る際には減衰力を高くするように調整する一方、快適な乗り心地を重視する走行状態を得る際には減衰力を低くするように調整することになる。
尚、上述したエアサスペンションシステム100に代えて、磁気粘性流体をシリンダ内の上下の油室に充填し、油室間の連通路に設けたMLVコイルに通電して磁気粘性流体の粘度を変化させることによって減衰力を可変制御する減衰力可変ダンパシステムを採用することも可能である。
−制御系−
上述したエンジン1の運転状態等の各種制御は上記エンジンECU9によって制御される。このエンジンECU9は、図6に示すように、CPU(Central Processing Unit)91、ROM(Read Only Memory)92、RAM(Random Access Memory)93及びバックアップRAM94などを備えている。
ROM92は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU91は、ROM92に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAM93は、CPU91での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM94は、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
これらROM92、CPU91、RAM93及びバックアップRAM94は、バス97を介して互いに接続されるとともに、外部入力回路95及び外部出力回路96と接続されている。
外部入力回路95には、上記クランクポジションセンサ81、水温センサ82、エアフローメータ83、吸気温センサ84、スロットル開度センサ85、空燃比センサ86、酸素センサ87の他に、運転者によって操作されるアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ88、上記カムシャフトの回転位置を検出するカム角センサ89、上記インプット回転数センサ8A、クラッチストロークセンサ8B、セレクト操作方向位置センサ8C、シフト操作方向位置センサ8D、シフト荷重センサ8E等が接続されている。
一方、外部出力回路96には、上記スロットルバルブ33を駆動するスロットルモータ34、上記インジェクタ35、イグナイタ21等が接続されている。
上記エンジンECU9は、上記各種センサの検出信号に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。例えば、周知の点火プラグ2の点火タイミング制御、インジェクタ35の燃料噴射制御(空燃比センサ86及び酸素センサ87の各出力に基づいた空燃比フィードバック制御)、スロットルモータ34の駆動制御等が実行される。
更に、この外部出力回路96には、上記エアサスペンションシステム100が接続され、このエアサスペンションシステム100に対して、各種センサ信号を送信したり、制御信号を送信するようになっている。
また、エンジンECU9は、後述するVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)ECU200との間で各種センサ信号や制御信号の送受信を行い、例えば、VDIMECU200からの制御信号を受けることで、エンジン1の制御(スロットルモータ34や点火プラグ2等の制御)を行うようになっている。
(VDIMシステム)
上記VDIMECU200は、車両の挙動を安定させるためにエンジン1に対して要求する動的な要求エンジントルク等を設定する。この動的な要求エンジントルクとは、エンジン1の出力トルクが変化する過渡状態における要求エンジントルクを意味する。
上記VDIMECU200、及び、このVDIMECU200からの制御信号により制御されるアクチュエータ類(スロットルモータ34や点火プラグ2等)により構成されるVDIMシステムは、VSC(Vehicle Stability Control)、TRC(Traction Control)、ABS(Anti Lock Brake System)、EPS(Electric Power Steering)などを統合するシステムであって、アクセル、ステアリング、ブレーキの操作量によるドライバの走行イメージと、各種センサ情報による車両挙動との差を算出し、その差を縮めるように車両の駆動力、ブレーキ油圧などを制御する。
上記VSCは、前後輪が横滑りしそうな状態をセンサ(後述する横方向加速度センサ202)が検出した場合において、各車輪のブレーキ油圧および車両の動的な要求エンジントルクなどの最適値を自動的に設定し、車両の安定性を確保する制御である。
上記TRCは、滑りやすい路面での発進時および加速時に、駆動輪の空転をセンサ(後述する車輪速センサ204)が感知すると、各車輪のブレーキ油圧および車両の動的な要求エンジントルクなどの最適値を自動的に設定し、最適な駆動力を確保する制御である。
上記ABSは、ブレーキ油圧の最適値を自動的に設定し、車輪のロックを防止する制御システムである。
上記EPSは、電動モータの力によってステアリングホイールの操舵をアシストする制御システムである。
各システムについては既に公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
そして、上記VDIMECU200には、車両の挙動を検出するセンサとして、車両の前後加速度を検出する前後加速度センサ201、車両の横加速度を検出する横方向加速度センサ202、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ203、各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ204等が接続されている。これらセンサ201〜204からの検出信号によって車両の挙動を検出し、その挙動が安定化するように、上記VSC、TRC、ABS、EPSの制御を実行するようになっている。
−走行志向反映制御−
次に本実施形態の特徴とする動作について説明する。本発明における「運転者の変速操作及びクラッチ操作のうち少なくとも一方の操作に応じて変化する操作情報に基づく判定」としては、「運転者の走行志向、運転者の運転の熟練度、運転者の疲労度合いの判定」が挙げられる。以下では、運転者の走行志向を判定する場合を代表して説明する。
上記エンジンECU9は、運転者の走行志向を判定し、その判定結果に応じてエンジン1等の各種制御を行うようになっている。以下、この運転者の走行志向の判定結果に応じたエンジン1等の各種制御を「走行志向反映制御」と呼ぶこととする(本発明でいう制御手段により実行される制御)。以下、この走行志向反映制御について具体的に説明する。
この走行志向反映制御は、運転者による変速操作(クラッチペダル70の操作及びシフトレバーLの操作)に起因する情報(操作速度等の情報)の変化に基づいて運転者の走行志向を判定する動作(以下、「走行志向判定動作」と呼ぶ)と、この走行志向判定動作による走行志向判定結果に応じて車両の制御を行う動作(以下、「走行志向反映動作」と呼ぶ)とにより行われる。以下、それぞれについて具体的に説明する。
(走行志向判定動作)
手動変速機MTの変速時における運転者の操作としては、上記シフトレバーLの手動操作(変速操作)、及び、クラッチペダル70の踏み込み操作及び踏み込み解除操作(クラッチ操作)がある。このため、上記走行志向判定動作としては、上記シフトレバーLの手動操作により走行志向を判定する「シフトレバー操作判定動作」と、上記クラッチペダル70の操作により走行志向を判定する「クラッチペダル操作判定動作」とがある。
<シフトレバー操作判定動作>
シフトレバー操作判定動作は、上述した如く、シフトレバーLの手動操作により走行志向を判定するものである。具体的には以下の情報(変速操作に応じて変化する操作情報)のうちの少なくとも一つを利用して走行志向が判定される。
(S−1)インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量
(S−2)インプットシャフトISの回転数
(S−3)シフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量
(S−4)シフトレバーLの操作により選択された変速段
(S−5)シフトレバーLの操作による変速段の切り換わり時間
(S−6)シフト荷重の大きさ
以下、それぞれについて具体的に説明する。
(S−1)インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量
このインプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量は、上記シフトレバーLの手動操作によって変速機構の変速段が切り換えられた場合におけるインプットシャフトISの回転数(Ni:クラッチ装置6が継合される前段階におけるインプットシャフトISの回転数)の時間微分値(dNi/dt)により求められる。具体的には、上記インプット回転数センサ8Aによって検出されたインプットシャフトISの回転数を時間微分することにより求められる。つまり、運転者によるシフトレバーLの手動操作速度が高い場合には、比較的短時間のうちに変速段が切り換えられることからインプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量は大きくなる。逆に、運転者によるシフトレバーLの手動操作速度が低い場合には、変速段が切り換えられるまでに比較的長い時間を要することからインプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量は小さくなる。つまり、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量を算出することで、シフトレバーLの手動操作速度を判定することができる。
そして、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量が所定値よりも大きい(シフトレバーLの手動操作速度が高い)場合には、運転者の走行志向としては、運転操作に対する車両制御の応答性能が高いことが求められていると判断できる。上記所定値は実験等により適宜設定される。この「運転操作に対する車両制御の応答性能が高い」とは、例えば、アクセルペダルの踏み込み操作に対する車両の加速特性が高い(速やかに加速していく)といったように所謂スポーツモード走行が要求されていることを意味する。以下、この走行志向を「スポーツモード走行志向」と呼ぶこととする。
一方、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量が所定値よりも小さい(シフトレバーLの手動操作速度が低い)場合には、運転者の走行志向としては、運転操作に対する車両制御の応答性能が低いことが求められていると判断できる。上記所定値も実験等により適宜設定される。この「運転操作に対する車両制御の応答性能が低い」とは、例えば、アクセルペダルの踏み込み操作に対する車両の加速特性が低い(緩やかに加速していく)といったように所謂コンフォートモードでの走行(快適な乗り心地を重視した走行)が要求されていることを意味する。以下、この走行志向を「コンフォートモード走行志向」と呼ぶこととする。
このようにして、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量に基づいて運転者の走行志向が判定できる。
また、このインプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量の算出期間としては、種々の期間が設定可能である。例えば、(a)変速開始から変速完了までの期間におけるインプットシャフトISの回転数の平均変化量、(b)変速完了直前におけるインプットシャフトISの回転数の変化量、などが挙げられる。それぞれについて説明する、
(a)変速開始から変速完了までの期間におけるインプットシャフトISの回転数の平均変化量は、変速開始から変速完了までに要する時間に相関がある。つまり、この期間におけるインプットシャフトISの回転数の平均変化量が大きい場合には、シフトレバーLの手動操作速度やシフト荷重が高く、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、この期間におけるインプットシャフトISの回転数の平均変化量が小さい場合には、シフトレバーLの手動操作速度やシフト荷重が低く、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。
(b)変速完了直前におけるインプットシャフトISの回転数の変化量は、中立位置から目的とする変速段に向けてのシフト操作速度やシフト荷重に相関がある。例えば、第1速段から第2速段にアップシフトさせる場合には、シフトレバーLを上記1速−2速セレクト位置P1(図4参照)から上記2速位置2ndに向けて操作する場合のシフトレバーLの操作速度やシフト荷重に相当する。この変速完了直前におけるインプットシャフトISの回転数の変化量が大きい場合には、変速完了直前のシフトレバーLの手動操作速度やシフト荷重が高く、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、この変速完了直前におけるインプットシャフトISの回転数の変化量が小さい場合には、変速完了直前のシフトレバーLの手動操作速度やシフト荷重が低く、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。
上記(b)変速完了直前におけるインプットシャフトISの回転数の変化量について図7を用いて具体的に説明する。この図7は、第1速段から第2速段にアップシフトさせる場合におけるインプットシャフトISの回転数の変化であって、変速操作期間(変速に要した時間)が同一であってもシフトレバーLの操作状態が異なる(部分的に変速操作速度(シフト荷重)が異なる)3つの変速操作の例を示している。
この図7に実線で示すインプットシャフトISの回転数の変化Aは、一般的な運転者が通常の変速操作を行った場合のインプットシャフトISの回転数の変化である。
これに対し、図7に一点鎖線で示すインプットシャフトISの回転数の変化Bは、シフトレバーLを上記1速−2速セレクト位置P1(図4参照)から上記2速位置2ndに向けて操作する操作開始初期時におけるインプットシャフトISの回転数の変化量(回転数の降下量)が大きく、この操作の完了直前におけるインプットシャフトISの回転数の変化量が小さくなっている。
一方、図7に二点鎖線で示すインプットシャフトISの回転数の変化Cは、シフトレバーLを上記1速−2速セレクト位置P1(図4参照)から上記2速位置2ndに向けて操作する操作開始初期時におけるインプットシャフトISの回転数の変化量(回転数の降下量)が小さく、この操作の完了直前におけるインプットシャフトISの回転数の変化量が大きくなっている。
このように、変速操作期間(変速に要した時間)が同一であっても、インプットシャフトISの回転数変化波形の解析(波形解析)によって運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であるのかコンフォートモード走行志向であるのかを判定できることになる。例えば、実線Aで示すインプットシャフトISの回転数変化の場合にはコンフォートモード走行志向であると判定し、一点鎖線Bや二点鎖線Cで示すインプットシャフトISの回転数変化の場合にはスポーツモード走行志向であると判定する。
また、(a)変速開始から変速完了までの期間におけるインプットシャフトISの回転数の平均変化量、(b)変速完了直前におけるインプットシャフトISの回転数の変化量の二つの変化量から運転者の走行志向を判定するようにしてもよい。
(S−2)インプットシャフトISの回転数
車両速度が同一であれば変速段が低い(変速比が高い)ほど、インプットシャフトISの回転数(上記インプット回転数センサ8Aによって検出されたインプットシャフトISの回転数)は高くなる。このように車両速度が同一であっても変速段が低い場合には、運転者は、車両の急加速を要求するような走行志向で運転していると推測される。逆に、車両速度が同一であっても変速段が高い場合には、運転者は、車両の緩加速を要求するような走行志向で運転していると推測される。このため、インプットシャフトISの回転数が所定値よりも高い(低変速段が選択されて走行している;車両速度に対して、インプットシャフトISの回転数が所定値よりも高い)場合には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、インプットシャフトISの回転数が所定値よりも低い(高変速段が選択されて走行している;車両速度に対して、インプットシャフトISの回転数が所定値よりも低い)場合には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。これら所定値は実験等により適宜設定される。
このようにして、インプットシャフトISの回転数に基づいて運転者の走行志向が判定できる。
(S−3)シフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量
シフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量は、上記シフトレバーLの手動操作によって変速機構の変速段が切り換えられた場合におけるシフトレバーLの移動量(sfts)の時間微分値(dsfts/dt)により求められる。具体的には、上記セレクト操作方向位置センサ8C及びシフト操作方向位置センサ8Dによって検出されたシフトレバーLの移動量を時間微分することにより求められる。そして、シフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量が所定値よりも大きい場合には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、シフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量が所定値よりも小さい場合には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。これら所定値は実験等により適宜設定される。
このようにして、シフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量に基づいて運転者の走行志向が判定できる。
このシフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量によって運転者の走行志向を判定する場合、その単位時間当たりの操作移動量の算出期間としては、種々の期間が設定可能である。例えば、(a)変速開始から変速完了までの期間におけるシフトレバーLの平均操作移動速度、(b)変速開始初期時におけるシフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量、(c)変速途中におけるシフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量、(d)変速完了直前におけるシフトレバーLの単位時間当たりの操作移動量、などが挙げられる。
(S−4)シフトレバーLの操作により選択された変速段
車両速度が同一であっても変速段が低い場合(シフトレバーLの操作により選択された変速段が低い場合;車両速度に対して、所定の低速段である場合)には、運転者は、車両の急加速を要求するような走行志向で運転していると推測される。逆に、変速段が高い場合(シフトレバーLの操作により選択された変速段が高い場合;車両速度に対して、所定の高速段である場合)には、運転者は、車両の緩加速を要求するような走行志向で運転していると推測される。そして、所定の低変速段が選択されて走行している場合には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、所定の高変速段が選択されて走行している場合には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。
例えば、予め、各変速段毎にその変速段に適した車両速度を設定しておく。具体的に、第1速段には20km/h未満を、第2速段には25〜35km/hを、第3速段には30〜50km/hを、第4速段には45〜70km/hを、第5速段には65〜90km/hを、第6速段には100km/h以上をそれぞれ割り付けておく。そして、実際の車速が、これら割り付けられた車速よりも高い場合(現在の変速段に対して割り付けられている車速よりも高い場合)には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判定する。言い換えると、現在選択されている変速段が、車速に対して適正とされる変速段よりも低い変速段である場合には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判定する。逆に、実際の車速が、これら割り付けられた車速よりも低い場合(現在の変速段に対して割り付けられている車速よりも低い場合)には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判定する。言い換えると、現在選択されている変速段が、車速に対して適正とされる変速段よりも高い変速段である場合には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判定する。
このようにして、シフトレバーLの操作により選択された変速段に基づいて運転者の走行志向が判定できる。
(S−5)シフトレバーLの操作による変速段の切り換わり時間
シフトレバーLの操作速度が高い場合には、変速段の切り換わり時間(変速段の切り換え操作に要する時間)は短く、逆に、シフトレバーLの操作速度が低い場合には、変速段の切り換わり時間は長くなる。つまり、シフトレバーLの操作による変速段の切り換わり時間が所定時間よりも短い場合には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、シフトレバーLの操作による変速段の切り換わり時間が所定時間よりも長い場合には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。
具体的には、上記シフト操作方向位置センサ8DによってシフトレバーLの操作が開始された時点及びその操作が完了した時点を検出し、その期間を演算することで、シフトレバーLの操作による変速段の切り換わり時間を求めるようにする。また、上記所定時間は実験等により適宜設定される。
このようにして、シフトレバーLの操作による変速段の切り換わり時間に基づいて運転者の走行志向が判定できる。
(S−6)シフト荷重の大きさ
シフトレバーLの操作速度が高い場合にはシフト荷重は大きくなり、逆に、シフトレバーLの操作速度が低い場合にはシフト荷重は小さくなる。つまり、シフト荷重が所定値よりも大きい場合には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、シフト荷重が所定値よりも小さい場合には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。これら所定値は実験等により適宜設定される。
具体的には、上記シフト荷重センサ8Eによってシフト荷重を検出する。
このようにして、シフト荷重の大きさに基づいて運転者の走行志向が判定できる。
尚、上述した(S−1)〜(S−6)のシフトレバー操作判定動作のうち複数を組み合わせて運転者の走行志向を判定するようにしてもよい。
例えば、上記 (S−1)インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量と、(S−4)シフトレバーLの操作により選択された変速段とを組み合わせることが挙げられる。この場合の運転者の走行志向を判定する動作について以下に説明する。
運転者がシフトレバーLを操作するに際し、シフトレバーLを前方(車両前方)に向けて操作する場合よりも、後方(車両後方)に向けて操作する場合の方が、操作力を加えやすいものである。つまり、シフトレバーLを押し操作するよりも、引き操作する方が操作力を込めやすく、その分だけ、引き操作の方がシフトレバーLの操作速度が速くなりやすい。つまり、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量が大きくなりやすい。言い換えると、運転者の走行志向が同じであっても、引き操作側での走行志向の判定と、押し操作側での走行志向の判定とでは差が生じてしまうことになる。
このことを考慮し、シフトレバーLの操作により選択される変速段(変速完了時に選択される変速段)が押し操作側、つまり、第1速段、第3速段、第5速段、後進段の何れかである場合には、実際のインプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量よりも僅かに大きな変化量とするように変化量の補正を行う。これにより、引き操作側、つまり、第2速段、第4速段、第6速段の何れかが選択された場合と、同等に上記変化量を扱って運転者の走行志向を正確に判定するようにする。
尚、上記(S−1)〜(S−6)のシフト操作判定動作のうち複数を組み合わせて運転者の走行志向を判定する場合の組み合わせについては、上述した(S−1)と(S−4)との組み合わせに限らず、他の組み合わせであってもよいし、3つ以上を組み合わせて運転者の走行志向を判定するようにしてもよい。
また、このようなシフトレバー操作判定動作の実行条件としては、「車両が暖機完了状態であること」、「クラッチ装置6の操作がなされていること」が挙げられる。その理由は、車両が暖機完了状態でない場合、変速機構内部の潤滑油の粘性が高く、その粘性がシフトレバー操作の抵抗として大きく作用してしまって運転者の走行志向を高い精度で検出することが困難であるため、車両が暖機完了状態であることを走行志向判定動作の実行条件としている。また、クラッチ装置6の操作がなされずに変速動作が行われた場合にも運転者の走行志向を高い精度で検出することが困難であるため、クラッチ装置6の操作がなされていることを走行志向判定動作の実行条件としている。
<クラッチペダル操作判定動作>
次に、上記クラッチペダル操作判定動作(クラッチペダル70の操作により走行志向を判定する動作)について説明する。このクラッチペダル操作判定動作では、以下の情報(クラッチ操作に応じて変化する操作情報)のうちの少なくとも一つを利用して走行志向が判定される。
(C−1)クラッチトルク(=半クラッチ時のクラッチストローク位置)
(C−2)クラッチストローク位置の変化速度
(C−3)所定クラッチストロークに達するまでの時間
以下、それぞれについて具体的に説明する。
(C−1)クラッチトルク(=半クラッチ時のクラッチストローク位置)
一般にクラッチトルク(Tc)は、エンジントルク(Te)とイナーシャトルク(Iedωe/dt)との和(Tc=Te+Iedωe/dt)として求められる。このイナーシャトルクとは、クラッチ装置6の継合時に、エンジン回転数を引き下げることに伴って伝達されるトルクである。つまり、エンジントルクが同一である場合には、このイナーシャトルクが大きいほどクラッチトルクが大きくなる。例えば、クラッチ装置6の継合時におけるアクセルペダルの踏み込み量が大きい状況で、クラッチペダル70の踏み込み解除速度が高い場合には、単位時間当たりにおけるイナーシャトルクが高くなり、その結果、クラッチトルクも高くなる。このような状況は、運転者がクラッチ装置6の継合を早期に(短時間で)行いたいといった志向がある場合である。従って、このクラッチトルクが所定値よりも高い場合(エンジントルクに対してクラッチトルクが所定値よりも大きい場合)には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、クラッチトルクが所定値よりも低い場合(エンジントルクに対してクラッチトルクが所定値よりも小さい場合)には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。これら所定値は実験等により適宜設定される。
このクラッチトルクについて図8を用いて説明する。この図8の上段は、第1速段から第2速段への変速操作時におけるインプットシャフト回転数及びエンジン回転数の変化の一例を示し、図8の下段は、この場合のクラッチトルクの変化の一例を示している。図中のタイミングt1で、シフトレバーLが1速位置1st(図4参照)から1速−2速セレクト位置P1に向けて操作が開始され、タイミングt2で、シフトレバーLが2速位置2ndに操作されている。このようにしてインプットシャフト回転数が第2速段同期回転数に達した状態でクラッチ装置6が継合されていき、タイミングt3でクラッチ装置6が完全継合されて、エンジン回転数も第2速段同期回転数に達している。
この場合のクラッチトルクの変化としては、クラッチ装置6の継合動作(クラッチペダルの踏み込み解除操作)が開始されたタイミングt2からイナーシャトルクが上昇していき、エンジントルクとの合算値がクラッチトルクとなる。そして、このクラッチトルクの極大値が大きいほど上記イナーシャトルクも大きくなっており(図8の下段の一点鎖線を参照)、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判定されることになる。
尚、このクラッチトルクは、クラッチ装置6が半クラッチ状態(フライホイール62とクラッチディスク64との間に滑りが生じている状態)では、クラッチトルク容量に一致している。つまり、上記クランクポジションセンサ81からの出力信号に基づいて算出されるエンジン回転数と、上記インプット回転数センサ8Aによって検出されるインプットシャフトISの回転数との間に差が生じている場合には、上記クラッチストロークセンサ8Bによって検出されたクラッチストローク位置(クラッチトルク容量に相関がある)によって、その瞬間でのクラッチトルクが求められることになる。
このようにして、クラッチトルクに基づいて運転者の走行志向が判定できる。
また、このクラッチトルクの算出期間としては、種々の期間が設定可能である。例えば、(a)クラッチ継合開始初期時(例えば図8の下段における期間ta)におけるクラッチトルクの最大値または平均値、(b)クラッチ継合途中期間(例えば図8の下段における期間tb)におけるクラッチトルクの最大値または平均値、(c)クラッチ継合完了直前(例えば図8の下段における期間tc)におけるクラッチトルクの最大値または平均値、などが挙げられる。これら何れの期間においても、クラッチトルク(最大値または平均値)が大きいほど、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判定されることになる。
また、(a)クラッチ継合開始初期時におけるクラッチトルク、(b)クラッチ継合途中期間におけるクラッチトルク、(c)クラッチ継合完了直前におけるクラッチトルク、のうち複数の情報から運転者の走行志向を判定するようにしてもよい。
(C−2)クラッチストローク位置の変化速度
クラッチストローク位置の変化速度は、上記クラッチペダル70の操作移動量(clts)の時間微分値(dclts/dt)により求められる。具体的には、上記クラッチストロークセンサ8Bによって検出されたクラッチストロークの移動量を時間微分することにより求められる。そして、クラッチストローク位置の変化速度が所定値よりも高い場合には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、クラッチストローク位置の変化速度が所定値よりも低い場合には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。これら所定値は実験等により適宜設定される。
このようにして、クラッチストローク位置の変化速度に基づいて運転者の走行志向が判定できる。
このクラッチストローク位置の変化速度によって運転者の走行志向を判定する場合にも、上述したクラッチトルクによって運転者の走行志向を判定する場合と同様に、クラッチストローク位置の変化速度の算出期間としては、種々の期間が設定可能である。例えば、(a)クラッチ継合開始初期時における変化速度、(b)クラッチ継合途中期間における変化速度、(c)クラッチ継合完了直前における変化速度、などが挙げられる。
尚、このクラッチストローク位置の変化速度は、クラッチ装置6の継合操作時(クラッチペダル70の踏み込み解除操作時)の変化速度に限らず、クラッチ装置6の解放操作時(クラッチペダル70の踏み込み操作時)の変化速度であってもよい。つまり、クラッチペダル70の踏み込み操作速度によって運転者の走行志向を判定するようにしてもよい。
(C−3)所定クラッチストロークに達するまでの時間
クラッチペダル70の操作速度が高い場合には、クラッチ装置6の継合に要する時間は短く、逆に、クラッチペダル70の操作速度が低い場合には、クラッチ装置6の継合に要する時間は長くなる。つまり、所定クラッチストロークに達するまでの時間(例えばクラッチ装置6の非継合から継合までの時間)が所定値よりも短い場合には、運転者の走行志向としてはスポーツモード走行志向であると判断できる。逆に、所定クラッチストロークに達するまでの時間が所定値よりも長い場合には、運転者の走行志向としてはコンフォートモード走行志向であると判断できる。これら所定値は実験等により適宜設定される。
具体的には、上記クラッチストロークセンサ8Bによってクラッチペダルの操作開始から操作完了(クラッチ継合)までの期間を演算する。
このようにして、所定クラッチストロークに達するまでの時間に基づいて運転者の走行志向が判定できる。
尚、この所定クラッチストロークに達するまでの時間は、クラッチ装置6の継合操作時(クラッチペダル70の踏み込み解除操作時)の時間に限らず、クラッチ装置6の解放操作時(クラッチペダル70の踏み込み操作時)の時間であってもよい。
また、走行志向判定動作としては、上述したシフトレバー操作判定動作(S−1)〜(S−6)、クラッチペダル操作判定動作(C−1)〜(C−3)のうち複数を組み合わせるようにしてもよい。
また、このようなクラッチペダル操作判定動作の実行条件としては、「車両が暖機完了状態であること」、「クラッチ装置6の操作時に変速機構において何れかの変速段が成立していること」が挙げられる。その理由は、車両が暖機完了状態でない場合、クラッチマスタシリンダ71やクラッチレリーズシリンダ61内のオイルの粘性が高く、その粘性がクラッチペダル操作の抵抗として大きく作用してしまって運転者の走行志向を高い精度で検出することが困難であるため、車両が暖機完了状態であることを走行志向判定動作の実行条件としている。また、変速段が成立していない状態でクラッチ操作が行われても運転者の走行志向を判定することは困難であるため、クラッチ装置6の操作時に変速機構において何れかの変速段が成立していることを走行志向判定動作の実行条件としている。
また、上述したシフトレバー操作判定動作及びクラッチペダル操作判定動作の何れにおいて走行志向が判定された場合においても、その走行志向の判定結果を維持する条件としては、以下の何れかが挙げられる。
(1)次の変速操作が実行されるまで
(2)車両が停車するまで
(3)イグニッションOFF操作がされるまで
つまり、これら何れかの操作が行われるまで、運転者の走行志向の判定結果情報を上記RAM93に記憶させておき、必要に応じて(運転者の走行志向の判定動作が開始されるのに応じて)、この走行志向の判定結果情報をRAM93から読み出すことになる。
(走行志向反映動作)
次に、上述した走行志向判定動作(シフトレバー操作判定動作やクラッチペダル操作判定動作)によって判定された運転者の走行志向を反映する車両の制御を行う走行志向反映動作について説明する。
この走行志向反映動作として、具体的には以下の動作(車両の制御対象に対する制御量を変更する動作)のうち少なくとも一つが実行されることが挙げられる。
(A−1)スロットル開度特性調整動作
(A−2)チップイン、チップアウト特性調整動作
(A−3)フューエルカットオン、フューエルカットオフ特性調整動作
(A−4)VDIM介入タイミング調整動作
(A−5)エアサスペンション特性調整動作
以下、それぞれについて具体的に説明する。
(A−1)スロットル開度特性調整動作
スロットル開度特性調整動作は、運転者の走行志向を反映して、アクセルペダルの踏み込み量に対するスロットルバルブ33の開度特性を調整する動作である。
具体的には、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向である場合には、アクセルペダルの踏み込み量に対するスロットルバルブ33の開度を大きめに設定し(スロットルバルブ33の開度制御に対するなまし率を小さく設定し)、逆に、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向である場合には、アクセルペダルの踏み込み量に対するスロットルバルブ33の開度を小さめに設定する(スロットルバルブ33の開度制御に対するなまし率を大きく設定する)。
図9は、このスロットル開度特性調整動作を行う際にスロットルバルブ33の開度を決定するスロットル開度マップである。図中の実線は、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向でもコンフォートモード走行志向でもない場合の通常のスロットル開度特性を示している。そして、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定された場合には、図中に破線で示す曲線の特性に変更し、アクセルペダルの踏み込み量に対するスロットルバルブ33の開度を大きめに設定するようにする。一方、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定された場合には、図中に一点鎖線で示す曲線の特性に変更し、アクセルペダルの踏み込み量に対するスロットルバルブ33の開度を小さめに設定するようにする。これにより、スポーツモード走行志向である場合の車両の加速性能を高め、コンフォートモード走行志向である場合の快適な乗り心地を実現できるようにしている。
(A−2)チップイン、チップアウト特性調整動作
チップイン、チップアウト特性調整動作は、運転者の走行志向を反映して、チップイン時(アクセルペダルの踏み込み量が急速に大きくなった場合)のスロットルバルブ33の開度特性や、チップアウト時(アクセルペダルの踏み込み量が急速に小さくなった場合)のスロットルバルブ33の開度特性を調整する動作である。
先ず、チップイン特性調整動作について説明する。運転者の走行志向がスポーツモード走行志向である場合には、チップイン時におけるスロットルバルブ33の開度の単位時間当たりの変化量(開方向の変化量)を大きめに設定する(チップイン時のスロットルバルブ33の開度制御に対するなまし率を小さく設定する)。逆に、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向である場合には、チップイン時におけるスロットルバルブ33の開度の単位時間当たりの変化量(開方向の変化量)を小さめに設定する(チップイン時のスロットルバルブ33の開度制御に対するなまし率を大きく設定する)。
図10は、このチップイン特性調整動作が行われる際のスロットルバルブ33の開度変化を示したタイミングチャートである。図中の実線は、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向でもコンフォートモード走行志向でもない場合における通常のチップイン時のスロットル開度の変化を示している。そして、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定された場合には、図中に破線で示す曲線のように、チップイン時におけるスロットルバルブ33の開度の単位時間当たりの変化量を大きめに設定する。一方、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定された場合には、図中に一点鎖線で示す曲線のように、チップイン時におけるスロットルバルブ33の開度の単位時間当たりの変化量を小さめに設定する。これにより、スポーツモード走行志向である場合のチップイン時の車両の応答性を高め、コンフォートモード走行志向である場合のチップイン時における快適な乗り心地を実現できるようにしている。
次に、チップアウト特性調整動作について説明する。運転者の走行志向がスポーツモード走行志向である場合には、チップアウト時におけるスロットルバルブ33の開度の単位時間当たりの変化量(閉方向の変化量)を大きめに設定する(チップアウト時のスロットルバルブ33の開度制御に対するなまし率を小さく設定する)。逆に、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向である場合には、チップアウト時におけるスロットルバルブ33の開度の単位時間当たりの変化量(閉方向の変化量)を小さめに設定する(チップアウト時のスロットルバルブ33の開度制御に対するなまし率を大きく設定する)。
図11は、このチップアウト特性調整動作が行われる際のスロットルバルブ33の開度変化を示したタイミングチャートである。図中の実線は、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向でもコンフォートモード走行志向でもない場合における通常のチップアウト時のスロットル開度の変化を示している。そして、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定された場合には、図中に破線で示す曲線のように、チップアウト時におけるスロットルバルブ33の開度の単位時間当たりの変化量を大きめに設定する。一方、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定された場合には、図中に一点鎖線で示す曲線のように、チップアウト時におけるスロットルバルブ33の開度の単位時間当たりの変化量を小さめに設定する。これにより、スポーツモード走行志向である場合のチップアウト時の車両の応答性を高め、コンフォートモード走行志向である場合のチップアウト時における快適な乗り心地を実現できるようにしている。
(A−3)フューエルカットオン、フューエルカットオフ特性調整動作
フューエルカットオン、フューエルカットオフ特性調整動作は、アクセルペダル全閉時の被駆動時に実行されるフューエルカット動作時に、運転者の走行志向を反映して、フューエルカットオン時(インジェクタ35からの燃料噴射を停止する際)のエンジントルク特性や、フューエルカットオフ時(インジェクタ35からの燃料噴射を再開する際)のエンジントルク特性を調整する動作である。
先ず、フューエルカットオン特性調整動作について説明する。運転者の走行志向がスポーツモード走行志向である場合には、フューエルカットオン時におけるエンジントルク特性としては、急速にトルクを低下させて早期にフューエルカット(燃料噴射の停止)を行う(エンジントルク制御に対するなまし率を小さく設定する)。逆に、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向である場合には、フューエルカットオン時におけるエンジントルク特性としては、トルクの低下を緩やかにしフューエルカットを遅延させる(エンジントルク制御に対するなまし率を大きく設定する)。
図12は、このフューエルカットオン特性調整動作が行われる際のエンジントルクの変化を示したタイミングチャートである。図中の実線は、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向でもコンフォートモード走行志向でもない場合における通常のフューエルカットオン時のエンジントルク特性を示している。そして、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定された場合には、図中に破線で示すように、フューエルカットオン時におけるエンジントルクの単位時間当たりの変化量を大きめに設定する。一方、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定された場合には、図中に一点鎖線で示すように、フューエルカットオン時におけるエンジントルクの単位時間当たりの変化量を小さめに設定する。
より具体的には、フューエルカット条件(F/C条件)が成立した後に、点火プラグ2の点火タイミングを次第に遅角させていくことでエンジントルクを低下させ、このエンジントルクが所定値に達した時点で燃料噴射を停止する。この場合に、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定されている場合には、単位時間当たりにおける点火遅角量を大きく設定し、早期にエンジントルクを低下させて燃料噴射も早期に停止させるようにする。一方、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定されている場合には、単位時間当たりにおける点火遅角量を小さく設定し、エンジントルクの低下を遅延させて燃料噴射の停止も遅延させるようにする。
これにより、スポーツモード走行志向である場合のフューエルカットオン時の車両の応答性を高め、コンフォートモード走行志向である場合のフューエルカットオン時における快適な乗り心地を実現できるようにしている。
次に、フューエルカットオフ特性調整動作について説明する。運転者の走行志向がスポーツモード走行志向である場合には、フューエルカットオフ時におけるエンジントルク特性としては、急速にトルクを上昇させていく。逆に、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向である場合には、フューエルカットオフ時におけるエンジントルク特性としては、トルクの上昇を緩やかにしていく。
図13は、このフューエルカットオフ特性調整動作が行われる際のエンジントルクの変化を示したタイミングチャートである。図中の実線は、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向でもコンフォートモード走行志向でもない場合における通常のフューエルカットオフ時のエンジントルク特性を示している。そして、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定された場合には、図中に破線で示すように、フューエルカットオフ時におけるエンジントルクの単位時間当たりの変化量を大きめに設定する。一方、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定された場合には、図中に一点鎖線で示すように、フューエルカットオフ時におけるエンジントルクの単位時間当たりの変化量を小さめに設定する。
より具体的には、フューエルカット解除条件(F/C解除条件)が成立した後に、燃料噴射を再開させると共に点火プラグ2の点火タイミングを次第に進角させていくことでエンジントルクを上昇させていき、アクセルペダルの踏み込み量等に応じた目標エンジントルクが得られるようにする。この場合に、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定されている場合には、単位時間当たりにおける点火進角量を大きく設定し、早期にエンジントルクを上昇させるようにする。一方、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定されている場合には、単位時間当たりにおける点火進角量を小さく設定し、エンジントルクの上昇を遅延させるようにする。
これにより、スポーツモード走行志向である場合のフューエルカットオフ時の車両の応答性を高め、コンフォートモード走行志向である場合のフューエルカットオフ時における快適な乗り心地を実現できるようにしている。
(A−4)VDIM介入タイミング調整動作
VDIM介入タイミング調整動作は、運転者の走行志向を反映して、上述したVDIM制御の介入タイミングを調整する動作である。
具体的には、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向である場合には、VDIM制御の介入タイミングを遅く設定し、逆に、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向である場合には、VDIM制御の介入タイミングを早く設定する。
図14は、走行志向に応じたVDIM制御の介入タイミングを設定するためのVDIM介入タイミングマップを示す図である。このマップに従い、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向である場合に、その志向が高いほどVDIM制御の介入タイミングを遅く設定する。逆に、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向である場合に、その志向が高いほどVDIM制御の介入タイミングを早く設定する。これにより、スポーツモード走行志向である場合には、運転者の操作(アクセルペダルやステアリングの操作)に応じた車両制御が比較的長い時間継続して行われるのに対し、コンフォートモード走行志向である場合には、走行安定性を早期に得ることができる車両制御が実行されるようにしている。
(A−5)エアサスペンション特性調整動作
エアサスペンション特性調整動作は、運転者の走行志向を反映して、上述したエアサスペンションシステム100における減衰特性を調整する動作である。
具体的には、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向である場合には、エアサスペンションシステム100における減衰力を高く設定して操縦安定性を重視する走行状態が得られるようにする。逆に、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向である場合には、エアサスペンションシステム100における減衰力を低く設定して快適な乗り心地を重視する走行状態が得られるようにする。
−走行志向反映制御の手順−
次に、上述した走行志向反映制御を実際に実行する場合の制御手順について説明する。ここでは、シフトレバー操作判定動作によって運転者の走行志向を判定して車両走行状態を制御する場合を第1実施形態として、また、クラッチペダル操作判定動作によって運転者の走行志向を判定して車両走行状態を制御する場合を第2実施形態としてそれぞれ説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態は、上記シフトレバー操作判定動作としてインプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量(dNi/dt)に基づく判定動作を採用し、走行志向反映動作としてスロットル開度特性調整動作及びVDIM介入タイミング調整動作を採用した場合について説明する。
図15は第1実施形態における制御動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、イグニッションスイッチのON操作後、数msec毎に実行される。
先ず、ステップST1において、変速操作が開始されたか否かを判定する。具体的には、上記クラッチ装置6の操作が行われ、且つシフトレバーLの操作が開始されたか否かを判定することになる。上記クラッチ装置6の操作が行われたか否かは上記クラッチストロークセンサ8Bからの出力信号に基づいて判定される。また、シフトレバーLの操作が開始されたか否かの判定は上記シフト操作方向位置センサ8Dからの出力信号に基づいて判定される。また、クラッチ操作、シフトレバー操作の何れかのみで変速開始を判定してもよい。
変速操作が開始されておらず、ステップST1でNO判定された場合には、走行志向反映動作を実行することなくリターンされる。
一方、変速操作が開始され、ステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、車両の暖機は完了しているか否かを判定する。この判定を行う理由は上述のとおりである。車両の暖機が完了しておらず、ステップST2でNO判定された場合には、走行志向反映動作を実行することなくリターンされる。
一方、車両の暖機が完了しており、ステップST2でYES判定された場合には、ステップST3に移り、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量(dNi/dt)の絶対値が所定の閾値α1未満であるか否かを判定する。つまり、シフトレバーLの手動操作速度が比較的低いか否かを判定する。ここで絶対値を用いるのは、変速操作がアップシフト操作及びダウンシフト操作の何れであっても判定を可能にするためである。
インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量(dNi/dt)の絶対値が所定の閾値α1未満であり、ステップST3でYES判定された場合には、ステップST4に移り、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定し、その情報を上記RAM93に記憶してステップST5に移る。
ステップST5では、スロットル開度特性をコンフォートモードに設定する。つまり、アクセルペダルの踏み込み量に対するスロットルバルブ33の開度を小さめに設定する(図9において一点鎖線で示す特性を参照)。また、VDIM介入タイミングをコンフォートモードに設定する。つまり、VDIM制御の介入タイミングを遅く設定する。
一方、上記ステップST3において、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量(dNi/dt)の絶対値が所定の閾値α1以上でありNO判定された場合には、ステップST6に移り、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量(dNi/dt)の絶対値が所定の閾値α2を超えているか否かを判定する。つまり、シフトレバーLの手動操作速度が比較的高いか否かを判定する。この閾値α2は上記閾値α1よりも所定量だけ大きいものである。ここで絶対値を用いるのも、変速操作がアップシフト操作及びダウンシフト操作の何れであっても判定を可能にするためである。
インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量(dNi/dt)の絶対値が所定の閾値α2を超えており、ステップST6でYES判定された場合には、ステップST7に移り、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定し、その情報を上記RAM93に記憶してステップST8に移る。
ステップST8では、スロットル開度特性をスポーツモードに設定する。つまり、アクセルペダルの踏み込み量に対するスロットルバルブ33の開度を大きめに設定する(図9において破線で示す特性を参照)。また、VDIM介入タイミングをスポーツモードに設定する。つまり、VDIM制御の介入タイミングを早く設定する。
一方、上記ステップST6において、インプットシャフトISの回転数の単位時間当たりの変化量(dNi/dt)の絶対値が所定の閾値α2以下でありNO判定された場合には、運転者の走行志向はスポーツモード走行志向でもコンフォートモード走行志向でもないと判定し、そのままリターンする。
以上の動作が変速操作が開始される度に実行され、運転者の走行志向に応じたスロットル開度特性及びVDIM制御の介入タイミングが設定されることになる。
(第2実施形態)
第2実施形態は、上記クラッチペダル操作判定動作としてクラッチトルク及びクラッチ操作速度(クラッチストローク位置の変化速度)に基づく判定動作を採用し、走行志向反映動作としてスロットル開度特性調整動作及びVDIM介入タイミング調整動作を採用した場合について説明する。
図16は第2実施形態における制御動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートでは、上述した第1実施形態で示したフローチャート(図15)と同一動作については同一のステップ番号を付している。本実施形態におけるフローチャートも、イグニッションスイッチのON操作後、数msec毎に実行される。
先ず、ステップST1の判定動作(変速操作が開始されたか否かの判定動作)及びステップST2の判定動作(車両の暖機が完了したか否かの判定動作)において共にYES判定された場合には、ステップST10に移り、現在、変速機構において何れかの変速段が成立している状態であるか否かを判定する。変速段が成立しておらず、ステップST10でNO判定された場合には、走行志向反映動作を実行することなくリターンされる。
一方、変速段が成立しており、ステップST10でYES判定された場合には、ステップST3’に移り、クラッチトルクが所定の閾値β1未満であり且つクラッチ操作速度が所定の閾値γ1未満であるか否かを判定する。つまり、クラッチペダル70の操作速度が比較的低いか否かを判定する。
クラッチトルクが所定の閾値β1未満であり且つクラッチ操作速度が所定の閾値γ1未満であって、ステップST3’でYES判定された場合には、ステップST4に移り、運転者の走行志向がコンフォートモード走行志向であると判定し、その情報を上記RAM93に記憶してステップST5に移る。このステップST5の動作は上述した第1実施形態の場合と同様である。
一方、上記ステップST3’においてNO判定された場合には、ステップST6’に移り、クラッチトルクが所定の閾値β2を超えており且つクラッチ操作速度が所定の閾値γ2を超えているか否かを判定する。つまり、クラッチペダル70の操作速度が比較的高いか否かを判定する。この閾値β2は上記閾値β1よりも所定量だけ大きいものであり、また、閾値γ2は上記閾値γ1よりも所定量だけ大きいものである。
クラッチトルクが所定の閾値β2を超えており且つクラッチ操作速度が所定の閾値γ2を超えており、ステップST6’でYES判定された場合には、ステップST7に移り、運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であると判定し、その情報を上記RAM93に記憶してステップST8に移る。このステップST8の動作も上述した第1実施形態の場合と同様である。
一方、上記ステップST6’においてNO判定された場合には、運転者の走行志向はスポーツモード走行志向でもコンフォートモード走行志向でもないと判定し、そのままリターンする。
以上の動作が変速操作が開始される度に実行され、運転者の走行志向に応じたスロットル開度特性及びVDIM制御の介入タイミングが設定されることになる。
以上説明してきたように、本実施形態では、運転者の変速操作やクラッチ操作から得られる情報に基づいて運転者の走行志向がスポーツモード走行志向であるのか、コンフォートモード走行志向であるのかを判定し(上記シフトレバー操作判定動作(S−1)〜(S−6)、クラッチペダル操作判定動作(C−1)〜(C−3)を参照)、その判定結果に応じて、車両の制御状態を変更するようにしている(上記走行志向反映動作(A−1)〜(A−5)を参照)。これにより、運転者の走行志向に応じた車両の走行状態を実現することができ、手動変速機MTを搭載した車両の商品性を高めることができる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態では、シフトレバー操作判定動作やクラッチペダル操作判定動作によって運転者の走行志向を判定する場合について説明したが、このようなシフトレバー操作判定動作やクラッチペダル操作判定動作は、運転者の運転の熟練度を判定する指標としても利用可能である。つまり、シフトレバー操作判定動作やクラッチペダル操作判定動作によって運転者の運転の熟練度を判定し、その判定結果に応じて上述した走行志向反映動作と同様の制御動作(運転熟練度反映動作)を行うようにすることも可能である。
更には、上記シフトレバー操作判定動作やクラッチペダル操作判定動作は、運転者の疲労度合いを判定する指標としても利用可能である。つまり、シフトレバー操作判定動作やクラッチペダル操作判定動作によって運転者の疲労度合いを判定し、その判定結果に応じて上述した走行志向反映動作と同様の制御動作(疲労度合い反映動作)を行うようにすることも可能である。また、この疲労度合い反映動作として、運転者に休憩を促すような報知を行うようにしてもよい。
また、上記実施形態では、クラッチペダル70の操作量(踏み込み量)を検出する手段としてクラッチストロークセンサ8Bが設けられていた。本発明はこれに限らず、クラッチペダル70が所定位置に達した時点でON/OFFが切り換わるクラッチスイッチを設けることでクラッチペダル70の操作量が検出できるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、シフトレバーLの操作位置を検出する手段としてセレクト操作方向位置センサ8C及びシフト操作方向位置センサ8Dが設けられていた。本発明はこれに限らず、各変速段毎にシフトポジションセンサを配置するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、FR型車両に搭載され、前進6速段、後進1速段の同期噛み合い式手動変速機を搭載した車両に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両等、その他の形態の車両に搭載された手動変速機にも適用可能である。また、上記とは段数の異なる変速機(例えば前進5速段のもの)に対しても適用可能である。
また、上記実施形態では、駆動源としてガソリンエンジン1を搭載した車両に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限られることなく、ディーゼルエンジンを搭載した車両や、エンジン(内燃機関)と電動機(例えば走行用モータまたはモータジェネレータ等)を搭載したハイブリッド車にも適用することができる。