以下、本発明のシャシーダイナモメータとして、試験車両である四輪自動車の前輪又は後輪の何れか一方のみをローラに載置し、そのローラを駆動ローラとしてダイナモメータに連結したシャシーダイナモメータの一実施形態を第1実施形態として説明し、前輪及び後輪をそれぞれ前ローラ,後ローラに載置し、各ローラを駆動ローラとして前輪ダイナモメータ,後輪ダイナモメータにそれぞれ連結したシャシーダイナモメータの一実施形態を第2実施形態として説明する。
第1実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、図1及び図2に示すように、例えば前輪駆動車である試験車両Sの前輪S1を載置する前ローラX11と、前ローラX11を駆動ローラとして連結したダイナモメータMと、ダイナモメータMの駆動を制御する制御部Cとを備えたものである。ダイナモメータMの両端部を左右一対の前ローラX11にそれぞれ取り付け、ダイナモメータMの電流に応じて左右一対の前ローラX11を駆動可能に構成している。なお、ダイナモメータMは、図1に示すようにローラベースX2上に固定した揺動軸受X3に揺動可能に支持されている。また、試験車両Sの車両自体は適宜の固定手段X4によって固定されている。
本実施形態のシャシーダイナモメータXにおける制御部Cは、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、図示しない記憶部から適宜のプログラムを読み込んで実行することにより、各種ハードウェアとプログラムとを協働させて以下の各機能手段を実現する機能部である。具体的に、この制御部は、図3及び図4に示すように、タイヤ推定トルク演算手段1と、タイヤ推定駆動力演算手段2と、車両加速力演算手段3と、加速度演算手段4と、駆動ローラ加速力演算手段5と、トルク指令生成手段6と、電流制御手段7とを備えている。なお、図示していないが、制御部Cを構成する電子機器や回路などのハードウェハを適宜の操作計測盤(コントロール盤)やインバータ盤に実装・収容している。
タイヤ推定トルク演算手段1は、ダイナモメータMの検出トルクTD(検出揺動トルク)と検出回転速度ωDから駆動ローラに対応するタイヤ、すなわち本実施形態では前輪S1の推定トルクであるタイヤ推定トルクを演算するものである。ここで、ダイナモメータMの検出トルクTDは、適宜のトルク検出部によって検出したダイナモメータMのトルクであり、ダイナモメータMの検出回転速度ωDは、適宜の回転速度検出部によって検出したダイナモメータMの回転速度である。
このタイヤ推定トルク演算手段1によってタイヤ推定トルクを求める処理は、図4で示すブロック線図で表すことができる。同図からも把握できるように、タイヤ推定トルク演算手段1における演算処理は加減乗除演算処理であり、微分演算処理は一切行わない。
このようなタイヤトルク(駆動力)の推定原理を図6に示す。図6において、TDはダイナモトルク[Nm]であり、TTはタイヤトルク[Nm](ダイナモ軸換算)であり、TT0はタイヤ推定トルク[Nm](ダイナモ軸換算)であり、JDはダイナモ慣性モーメント[kgm2](ローラの慣性含む)であり、JD0はダイナモ慣性モーメント[kgm2](ローラの慣性含む)(オブザーバ設定値)であり、ωDはダイナモ速度[rad/s]であり、ωD0はダイナモ推定速度[rad/s]であり、Gはオブザーバゲイン[Nm/(rad/s)]である。そして、以下の式(1)乃至式(3)で表す伝達関数に基づいて、式(1)に式(2)(3)を代入すると以下の式(4)となる。ここで、本実施形態では、ダイナモトルクTDの極性とタイヤトルクTTの極性を逆に定義している。
そして、式(4)において、T
D=0とし、伝達関数の形、つまりT
T0/T
Tに整理すると以下の式(5)となる。
この式(5)はGが定数の場合、時定数τでJ
D0/J
Dに収束する一次遅れの特性となる。つまり、オブザーバのJ
D0に実機(シャシーダイナモメータX)の慣性モーメントJ
Dを設定することにより、タイヤトルクT
Tを推定することが可能となる。ここで、図6は上述したように、ダイナモトルクT
Dの極性とタイヤトルクT
Tの極性を逆に定義した場合におけるタイヤトルクT
Tの推定原理である。したがって、図4に示すように、本実施形態のタイヤ推定トルク演算手段1では、オブザーバのタイヤ推定トルクT
T0に「−1」を乗算する処理を行うことで、ダイナモトルクダイナモトルクT
Dの極性とタイヤトルクT
Tの極性を合わせるようにしている。すなわち、オブザーバ出力のタイヤ推定トルク全体に対して「−1」を乗算し、極性対応を図っている。
タイヤ推定駆動力演算手段2は、タイヤ推定トルク演算手段1で求めたタイヤ推定トルクと駆動ローラである前ローラX11の半径RDに基づいて推定されるタイヤの駆動力(タイヤ推定駆動力FT)を演算するものである。具体的に、このタイヤ推定駆動力演算手段2は、タイヤ推定トルクを前ローラX11の半径RDで除算する演算処理によってタイヤ推定駆動力FTを求めるものである。
車両加速力演算手段3は、タイヤ推定駆動力演算手段2で求めたタイヤ推定駆動力FTと、車速に基づいて設定された走行抵抗FLとに基づいて試験車両Sの加速力Fを演算するものである。具体的に、この車両加速力演算手段3は、タイヤ推定駆動力FTから、走行抵抗FLを減算する演算処理によって車両加速力Fを求めるものである。なお、走行抵抗FLは、惰行法、ABC法、テーブル法等の既知の方法により既定値(推定値)として与えることができる。
加速度演算手段4は、車両加速力演算手段3で求めた試験車両Sの加速力Fと試験車両Sの慣性質量mとに基づいてダイナモメータMの加速度aを演算するものである。具体的に、この加速度演算手段4は、試験車両Sの加速力Fを試験車両Sの慣性質量mで除算する演算処理によってダイナモメータMの加速度aを求めるものである。
駆動ローラ加速力演算手段5は、加速度演算手段4で求めたダイナモメータMの加速度aとダイナモメータMの慣性質量mDとに基づいて駆動ローラの加速力mDaを演算するものである。具体的に、この駆動ローラ加速力演算手段5は、ダイナモメータMの加速度aにダイナモメータMの慣性質量mDを乗算する演算処理によって駆動ローラである前輪X11の加速力mDaを求めるものである。
トルク指令生成手段6は、駆動ローラ加速力演算手段5で求めた駆動ローラX11の加速力mDaとタイヤ推定駆動力演算手段2で求めたタイヤの推定駆動力(タイヤ推定駆動力FT)との差分値と、駆動ローラX11の半径RDとに基づく演算処理によって走行トルクと電気慣性トルクとを含むトルク指令TLEを生成するものである。具体的に、このトルク指令生成手段6は、駆動ローラX11の加速力mDaとタイヤ推定駆動力FTとの差分値に駆動ローラX11の半径RDを乗算する演算処理によって、走行抵抗トルクと電気慣性トルクとを含むトルク指令TLEを生成するものである。なお、シャシーダイナモメータX自体に機械損失(メカロス)があり、これによる減速を防止するため、本実施形態では、トルク指令生成手段6において、走行抵抗トルクと電気慣性トルクからなるトルク指令TLEに、メカロスに相当するトルクを加算したトルク指令TDを生成するように構成している。
電流制御手段7は、トルク指令生成手段6で生成したトルク指令TLEに基づいてダイナモメータMの電流IDを制御(交流電流制御:ACR)するものである。
ここで、試験車両Sの加速力Fは以下の運動方程式で表すことができる。
F=FT−FL=ma=(mD+mE)a
上記式において、FTはタイヤ駆動力であり、FLは試験車両Sの走行抵抗であり、mDはシャシーダイナモメータの慣性質量であり、mEは電気慣性である。タイヤ駆動力FTはシャシーダイナモメータXのローラ表面に作用し、シャシーダイナモメータXの慣性質量mDを駆動する力となる。試験車両Sの慣性質量mとの差分m−mD=mEをシャシーダイナモメータXが電気制御により模擬し、走行抵抗FLに相当する力をシャシーダイナモメータXが電気制御により吸収する。したがって、シャシーダイナモメータXの電気制御における指令は走行抵抗FLと電気慣性mEに相当する力mE・aになり、これらの合力FL+mE・aが下式で表すことができる。なお、「−」は合力FL+mE・aがタイヤ駆動力FTを吸収する吸収力となることを意味する。
FT−FL=(mD+mE)a
FT−mDa=FL+mEa
mDa−FT=−FL−mEa
このような式に着目し、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、走行抵抗FLと電気慣性mEを電気制御により模擬するように構成したものである。したがって、ダイナモメータMのトルク指令TLEは以下の式で表すことができる。
TLE=(−FL−mEa)RD=(mDa−FT)RD
ここで、RDは駆動ローラX11の半径RDである。すなわち、トルク指令生成手段6では、駆動ローラ加速力演算手段5で求めた駆動ローラX11の加速力mDaとタイヤ推定駆動力演算手段2で求めたタイヤの推定駆動力(タイヤ推定駆動力)FTとの差分値である「mDa−FT」に、駆動ローラX11の半径RDを乗算することによってトルク(Nm)に換算した値「(mDa−FT)RD」をトルク指令TLEとして生成し、このトルク指令TLEに基づいてダイナモメータMの電流IDを制御することによって、ダイナモメータMのトルク制御を適切に行うことができる。
次に、図4及び図5を参照しながら、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXによって試験車両Sを目標速度で走行させる際の処理手順について説明する。
先ず、試験車両Sの前輪S1を前ローラX11に載置し、試験車両Sを目標速度で走行させるべくダイナモメータMを駆動させる。この状態で、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、ダイナモメータMに関連付けて設けたトルク検出部(揺動トルク検出部)及び回転速度検出部によって検出したダイナモメータMの検出トルクTD及び検出回転速度ωDに基づいて、タイヤ推定トルク演算手段1によってタイヤ推定トルクを求める(タイヤ推定トルク演算ステップP1)。次いで、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、タイヤ推定駆動力演算手段2によって、タイヤ推定トルク演算ステップP1で求めたタイヤ推定トルクを駆動ローラである前ローラX11の半径RDで除算してタイヤ推定駆動力FTを求める(タイヤ推定駆動力演算ステップP2)。
引き続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、車両加速力演算手段3によって、タイヤ推定駆動力演算ステップP2で求めたタイヤ推定駆動力FTから、車速に基づいて設定された走行抵抗FLを減算して試験車両Sの加速力Fを求める(車両加速力演算ステップP3)。次に、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、加速度演算手段4によって、車両加速力演算ステップP3で求めた試験車両Sの加速力Fを試験車両Sの慣性質量mで除算してダイナモメータMの加速度aを求める(加速度演算ステップP4)。
加速度演算ステップP4に続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、駆動ローラ加速力演算手段5によって、加速度演算ステップP4で求めたダイナモメータMの加速度aにダイナモメータMの慣性質量mDを乗算して駆動ローラX11の加速力mDaを求める(駆動ローラ加速力演算ステップP5)。引き続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、トルク指令生成手段6によって、先ず駆動ローラ加速力演算ステップP5で求めた駆動ローラX11の加速力mDaとタイヤ推定駆動力演算手段2で求めたタイヤ推定駆動力FTとの差分値を求め、この差分値に駆動ローラX11の半径RDを乗算して、走行抵抗トルクと電気慣性トルクとの合計値であるトルク指令TLEを生成する(トルク指令生成ステップP6)。本実施形態では、上述したようにシャシーダイナモメータX自体の機械損失(メカロス)による減速を防止するため、トルク指令生成ステップP6では、メカロスに相当するトルクをトルク指令TLEに加算したトルク指令TDを生成する。そして、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、電流制御手段7によって、トルク指令生成ステップP6で生成したトルク指令TDに基づいてダイナモメータMの電流IDを制御する(電流制御ステップP7)。なお、トルク指令TDの極性が「+」であれば駆動ローラX11を正転方向Aに加速(駆動)する一方、トルク指令TDの極性が「−」であれば駆動ローラX11を逆転方向Bに加速(吸収)する(図1参照)。
以上の演算処理を行うことによって、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、試験車両Sの加速力Fに相当する走行抵抗トルク及び電気慣性トルクを含むトルク指令TLEに基づいてダイナモメータMのトルク制御を適切に行うことができ、電気制御による適切な模擬試験状態を実現することができる。しかも、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、応答性の低下を招来し得る微分演算を必要としていないため、即応性に優れたものである。
なお、上述したシャシーダイナモメータXの第1変形例として図7に示す態様を挙げることができる。
この第1変形例に係るシャシーダイナモメータXは、第1実施形態として例示したシャシーダイナモメータXと比較して、制御部Cが、上述の各手段に加えて、加速度演算手段4で求めたダイナモメータMの加速度aを積分して試験車両Sの車速Vを求める車速演算手段8と、車速演算手段8で求めた試験車両Sの車速Vを駆動ローラX11の半径RDで除算して回転速度指令ωDを求める回転速度指令演算手段9と、回転速度指令演算手段9で求めた回転速度指令ωDとダイナモメータMの検出回転速度ωDとに基づく比例積分演算により同期トルクTωを求める同期トルク演算手段10とを備えている点、及びトルク指令生成手段6が、走行抵抗トルク及び電気慣性トルクと同期トルク演算手段10で求めた同期トルクTωとを含むトルク指令TLEを生成するものである点で異なる。
通常、ダイナモメータMの機械慣性は車両慣性よりも小さいため、タイヤの駆動力が急激に変化すると実車両よりも速度変動が僅かに大きくなる。このような事象は、タイヤ推定駆動力手段2の応答が十分に高ければ特に問題とはならないが、第1変形例に係るシャシーダイナモメータXであれば、速度制御(ASR)を内在するものとなり、応答精度をより一層高めることができ、タイヤの駆動力が急激に変化した場合にも実車両と同等の速度変動を実現することができる。また、この第1変形例に係るシャシーダイナモメータXにおいても、微分処理は行わないため、応答性は良好である。
また、第1実施形態のシャシーダイナモメータXのさらに異なる変形例(第2変形例)として、図8に示す態様を挙げることができる。
この第2変形例に係るシャシーダイナモメータXは、上述したシャシーダイナモメータXと比較して、トルク指令生成手段6が、トルク指令TDとダイナモメータMの検出トルクTDとに基づく比例積分演算により最終トルク指令を生成するものであり、電流制御手段7が、最終トルク指令に基づいてダイナモメータMの電流IDを制御するものである点のみが異なる。
具体的には、トルク指令生成手段6は、上述した手順により走行抵抗トルクと電気慣性トルクとの和であるトルク指令TDと、ダイナモメータMの検出トルクTDとの差分値を比例積分演算した値を、トルク指令TDに含ませた(加えた)指令を最終トルク指令として生成し、電流制御手段7に出力するものである。そして、電流制御手段7が、このような最終トルク指令に基づいてダイナモメータMの電流IDを制御することにより、検出トルクTD(検出揺動トルク)をフィードバック制御可能なトルク制御(ATR)を備えた態様となり、制御精度が向上する。この第2変形例に係るシャシーダイナモメータXにおいても、微分処理は不要であるため、応答性は良好である。
また、図9に示すように、第1変形例と第2変形例とを組み合わせたシャシーダイナモメータXを実現することもできる。
また、上述した第1実施形態及びその変形例(第1変形例、第2変形例)では、前輪駆動車である試験車両Sの前輪S1を前ローラX11に載置し、前ローラX11のみを駆動ローラとしてダイナモメータMに連結した態様を例示したが、試験車両Sが後輪駆動車であれば、その試験車両Sの後輪S2を後ローラX12に載置し、後ローラX12のみを駆動ローラとしてダイナモメータMに連結したシャシーダイナモメータXを構成することができる。当該段落において、前輪駆動車とは、左右の前輪同士を接続する前車軸を駆動させる車両を意味し、後輪駆動車とは、左右の後輪同士を接続する後車軸を駆動させる車両を意味する。
次に第2実施形態に係るシャシーダイナモメータXについて図10乃至図12を参照して説明する。
第2実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、図10に示すように、四輪駆動車(左右の前輪同士を接続する前車軸と、左右の後輪同士を接続する後車軸の両方向を駆動させる前後輪駆動車)である試験車両Sの前輪S1が載置可能な前ローラX11を駆動ローラとして連結した前輪ダイナモメータM1と、試験車両Sの後輪S2が載置可能な後ローラX12を駆動ローラとして連結した後輪ダイナモメータM2と、これら前輪ダイナモメータM1及び後輪ダイナモメータM2の駆動を制御する共通の制御部C(図11参照)とを備えたものである。なお、前輪ダイナモメータM1及び後輪ダイナモメータM2は、図10に示すように共通のベースX5上のローラベースX2に設けた揺動軸受3に揺動可能に支持されている。また、試験車両Sの車両自体は適宜の固定手段X4によって固定されている。
この制御部Cは、上述した第一実施形態のシャシーダイナモメータXにおける制御部Cと略同様の手段を備えたものであるが、前輪ダイナモメータM1及び後輪ダイナモメータM2のそれぞれに対応付けた手段と、前輪ダイナモメータM1及び後輪ダイナモメータM2に共通の手段とがある。具体的には、図11に示す様に、上述の第1実施形態で示した制御部Cの各手段のうち、タイヤ推定トルク演算手段1、タイヤ推定駆動力演算手段2、駆動ローラ加速力演算手段5、トルク指令生成手段6、及び電流制御手段7に相当する手段は、前輪ダイナモメータM1及び後輪ダイナモメータM2にそれぞれ対応付けて有する一方、車両加速力演算手段3及び加速度演算手段4に相当する手段は、前輪ダイナモメータM1及び後輪ダイナモメータM2に共通のものとして有している。以下に詳述する。
この第2実施形態に係るシャシーダイナモメータXの制御部Cは、図11及び図12に示すように、前タイヤ推定トルク演算手段11と、前タイヤ推定駆動力演算手段21と、後タイヤ推定トルク演算手段12と、後タイヤ推定駆動力演算手段22と、車両加速力演算手段3と、加速度演算手段4と、前ローラ加速力演算手段51と、前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61と、前輪ダイナモメータ電流制御手段71と、後ローラ加速力演算手段52と、後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62と、後輪ダイナモメータ電流制御手段72とを備えている。
前タイヤ推定トルク演算手段11は、前輪ダイナモメータM1の検出トルクTDF及び検出回転速度ωDFから、前タイヤS1の推定トルクである前タイヤ推定トルクを演算するものであり、後タイヤ推定トルク演算手段12は、後輪ダイナモメータM2の検出トルクTDR及び検出回転速度ωDRから、後タイヤS2の推定トルクである後タイヤ推定トルクを演算するものである。ここで、各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の検出トルクTDF,TDRは、適宜のトルク検出部によって検出した各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)のトルクであり、各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の検出回転速度ωDF,ωDRは、適宜の回転速度検出部によって検出した各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の回転速度である。なお、符号の末尾に付した「F」はフロント(前)を意味し、「R」はリア(後)を意味している。
各タイヤ推定トルク演算手段(前タイヤ推定トルク演算手段11,後タイヤ推定トルク演算手段12)によって各タイヤ推定トルク(前タイヤ推定トルク,後タイヤ推定トルク)を求める処理及び推定する原理は、図12及び図6で示すブロック線図で表すことができる。同図からも把握できるように、各タイヤ推定トルク演算手段(前タイヤ推定トルク演算手段11,後タイヤ推定トルク演算手段12)における演算処理は加減乗除演算処理であり、微分演算処理は一切行わない。
前タイヤ推定駆動力演算手段21は、前タイヤ推定トルク演算手段11で求めた前タイヤ推定トルクと前ローラX11の半径RDFに基づいて推定される前タイヤS1の駆動力(前タイヤ推定駆動力FTF)を演算するものであり、後タイヤ推定駆動力演算手段22は、後タイヤ推定トルク演算手段12で求めた後タイヤ推定トルクと後ローラX12の半径RDRに基づいて推定される後タイヤS2の駆動力(後タイヤ推定駆動力FTR)を演算するものであ。具体的に、各タイヤ推定駆動力演算手段(前タイヤ推定駆動力演算手段21,後タイヤ推定駆動力演算手段22)は、各タイヤ推定トルク(前タイヤ推定トルク,後タイヤ推定トルク)を各ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の半径RDF,RDRで除算する演算処理によって各タイヤ推定駆動力(前タイヤ推定駆動力FTF,後タイヤ推定駆動力FTR)を求めるものである。
車両加速力演算手段3は、各タイヤ推定駆動力演算手段(前タイヤ推定駆動力演算手段21,後タイヤ推定駆動力演算手段22)で求めた各タイヤ推定駆動力FT、つまり前タイヤ推定駆動力FTF及び後タイヤ推定駆動力FTRの合計と、車速に基づいて設定された走行抵抗FLとに基づいて試験車両Sの加速力Fを演算するものである。具体的に、この車両加速力演算手段3は、各タイヤ推定駆動力(前タイヤ推定駆動力FTF及び後タイヤ推定駆動力FTR)の合計値から走行抵抗FLを減算する演算処理によって試験車両Sの加速力Fを求めるものである。
加速度演算手段4は、車両加速力演算手段3で求めた試験車両Sの加速力Fと試験車両Sの慣性質量mとに基づいて各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)に共通の加速度aを演算するものである。具体的に、この加速度演算手段4は、試験車両Sの加速力Fを試験車両Sの慣性質量mで除算する演算処理によって各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)に共通の加速度aを求めるものである。
前ローラ加速力演算手段51は、加速度演算手段4で求めた前輪ダイナモメータM1の加速度aと前輪ダイナモメータM1の慣性質量mDとに基づいて前ローラX11の加速力Fを演算するものであり、後ローラ加速力演算手段52は、加速度演算手段4で求めた後輪ダイナモメータM2の加速度aと後輪ダイナモメータM2の慣性質量mDとに基づいて後ローラX12の加速力Fを演算するものである。具体的に、各ローラ加速力演算手段(前ローラ加速力演算手段51,後ローラ加速力演算手段52)は、各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の加速度aに各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の慣性質量mDF,mDRを乗算する演算処理によって各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の加速力mDF・a,mDR・aを求めるものである。
前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61は、前ローラ加速力演算手段51で求めた前ローラX11の加速力Fと前タイヤ推定駆動力演算手段21で求めた前タイヤ推定駆動力FTFとの差分値と、前ローラX11の半径RDFとに基づく演算処理によって走行トルクと電気慣性トルクとの合計値である前輪ダイナモメータトルク指令TLEFを生成するものであり、後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62は、後ローラ加速力演算手段52で求めた後ローラX12の加速力Fと後タイヤ推定駆動力演算手段22で求めた後タイヤ推定駆動力FTRとの差分値と、後ローラX12の半径RDRとに基づく演算処理によって走行トルクと電気慣性トルクとの合計値である後輪ダイナモメータトルク指令TLERを生成するものである。具体的に、各トルク指令生成手段(前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62)は、各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の加速力mDF・a,mDR・aと各タイヤ推定駆動力(前タイヤ推定駆動力FTF,後タイヤ推定駆動力FTR)との差分値に各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の半径RDF,RDRをそれぞれ乗算する演算処理によって、走行抵抗トルクと電気慣性トルクとを含むトルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TLEF,後輪ダイナモメータトルク指令TLER)を生成するものである。なお、シャシーダイナモメータX自体に機械損失(メカロス)があり、これによる減速を防止するため、本実施形態では、各トルク指令生成手段(前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62)において、メカロスに相当するトルクをそれぞれのダイナモメータトルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TLEF,後輪ダイナモメータトルク指令TLER)に加算したトルク指令TDF,TDRを生成するように構成している。具体的に、前輪ダイナモメータトルク指令TLEFに加算するメカロストルクは、前輪ダイナモメータM1のメカロスに相当するトルクであり、後輪ダイナモメータトルク指令TLERに加算するメカロストルクは、後輪ダイナモメータM2のメカロスに相当するトルクである。
前輪ダイナモメータ電流制御手段71は、前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61で生成した前輪ダイナモメータトルク指令TDFに基づいて前輪ダイナモメータM1の電流IDFを制御するものであり、後輪ダイナモメータ電流制御手段72は、後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62で生成した後輪ダイナモメータトルク指令TDRに基づいて後輪ダイナモメータM2の電流IDRを制御するものである。
ここで、試験車両Sの加速力Fは、以下の運動方程式で表すことができる。
F=FT−FL=ma=(mD+mE)a
上記式において、FTはタイヤ駆動力であり、FLは試験車両Sの走行抵抗であり、mDはシャシーダイナモメータの慣性質量であり、mEは電気慣性である。タイヤ駆動力FTはシャシーダイナモメータXのローラ表面に作用し、シャシーダイナモメータXの慣性質量mDを駆動する力となる。試験車両Sの慣性質量mとの差分m−mD=mEをシャシーダイナモメータXが電気制御により模擬し、走行抵抗FLに相当する力をシャシーダイナモメータXが電気制御により吸収する。したがって、シャシーダイナモメータXの電気制御における指令は走行抵抗FLと電気慣性mEに相当する力mE・aになり、これらの合力FL+mE・aが下式で表すことができる。なお、「−」は合力FL+mE・aがタイヤ駆動力FTを吸収する吸収力となることを意味する。
FT−FL=(mD+mE)a
FT−mDa=FL+mEa
mDa−FT=−FL−mEa
ここで、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、走行抵抗FLと電気慣性mEを電気制御により模擬するものである。したがって、各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)のトルク指令TLEは以下の式で表すことができる。
TLE=(−FL−mEa)RD=(mDa−FT)RD
ここで、RDは各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の半径である。すなわち、各トルク指令生成手段(前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62)では、各駆動ローラ加速力演算手段(前ローラ加速力演算手段51,後ローラ加速力演算手段52)で求めた各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の加速力mD・a(具体的には、mDF・a,mDR・a)と各タイヤ推定駆動力演算手段(前タイヤ推定駆動力演算手段21,後タイヤ推定駆動力演算手段22)で求めた各タイヤ推定駆動力FT(具体的には、前タイヤ推定駆動力FTF,後タイヤ推定駆動力FTR)との差分値である「mDa−FT」(具体的には、「mDF・a−FTF」,「mDR・a−FTR」)に、各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の半径RDF,RDRを乗算することによってトルク(Nm)に換算した値「(mD・a−FT)RD」(具体的には、「(mDF・a−FTF)RDF」,「(mDR・a−FTR)RDR」)を各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)のトルク指令TLE(具体的には、前輪ダイナモメータM1のトルク指令TLEF,後輪ダイナモメータM2のTLER)として生成し、このトルク指令TLEに基づいて各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の電流IDF,IDRを制御することによって、各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)のトルク制御を適切に行うことができる。
次に、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXによって試験車両Sを目標速度で走行させる際の処理手順について図12及び図13を参照しながら説明する。
先ず、試験車両Sの前輪S1を前ローラX11に載置するとともに、後輪S2を後ローラX12に載置し、試験車両Sを目標速度で走行させるべく各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)を駆動させる。この状態で、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)に関連付けて設けたトルク検出部(揺動トルク検出部)及び回転速度検出部によって検出した各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の検出トルクTDF,TDR及び検出回転速度ωDF,ωDRに基づいて、各タイヤ推定トルク演算手段(前タイヤ推定トルク演算手段11,後タイヤ推定トルク演算手段12)によって前タイヤS1の推定トルクと後タイヤS2の推定トルクを求める(タイヤ推定トルク演算ステップP11)。次いで、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、各タイヤ推定駆動力演算手段(前タイヤ推定駆動力演算手段21,後タイヤ推定駆動力演算手段22)によって、タイヤ推定トルク演算ステップP11で求めた各タイヤ(前タイヤS1,後タイヤS2)の推定トルクをそれぞれ対応する駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の半径RDF,RDRで除算して前タイヤ推定駆動力FTFと後タイヤ推定駆動力FTRをそれぞれ求める(タイヤ推定駆動力演算ステップP12)。
引き続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、車両加速力演算手段3によって、タイヤ推定駆動力演算ステップP12で求めた前タイヤ推定駆動力FTFと後タイヤ推定駆動力FTRとの合計値から、車速に基づいて設定された走行抵抗FLを減算して試験車両Sの加速力Fを求める(車両加速力演算ステップP13)。次に、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、加速度演算手段4によって、車両加速力演算ステップP13で求めた試験車両Sの加速力Fを試験車両Sの慣性質量mで除算して各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の加速度aを求める(加速度演算ステップP14)。
加速度演算ステップP14に続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、各駆動ローラ加速力演算手段(前ローラ加速力演算手段51,後ローラ加速力演算手段52)によって、加速度演算ステップP14で求めた各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の加速度aにそれぞれのダイナモメータM(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の慣性質量mDF,mDRを乗算して各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の加速力mDF・a,mDR・aを求める(駆動ローラ加速力演算ステップP15)。引き続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、各トルク指令生成手段(前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62)によって、先ず駆動ローラ加速力演算ステップP15で求めた各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の加速力mDF・a,mDR・aと各タイヤ推定駆動力演算手段(前タイヤ推定駆動力演算手段21,後タイヤ推定駆動力演算手段22)で求めた各タイヤ推定駆動力(前タイヤ推定駆動力FTF,後タイヤ推定駆動力FTR)との差分値を求め、各差分値に各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の半径RDF,RDRを乗算して、走行抵抗トルクと電気慣性トルクとの和である各トルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TLEF,後輪ダイナモメータトルク指令TLER)を生成する(トルク指令生成ステップP16)。本実施形態では、上述したようにシャシーダイナモメータX自体の機械損失(メカロス)による減速を防止するため、トルク指令生成ステップP16では、メカロスに相当するトルクを各トルク指令TLEF,TLEFに加算したトルク指令TDF,TDRを生成する。具体的に、前輪ダイナモメータトルク指令TLEFに加算するメカロストルクは、前輪ダイナモメータM1のメカロスに相当するトルクであり、後輪ダイナモメータトルク指令TLERに加算するメカロストルクは、後輪ダイナモメータM2のメカロスに相当するトルクである。そして、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、各電流制御手段(前輪ダイナモメータ電流制御手段71,後輪ダイナモメータ電流制御手段72)によって、トルク指令生成ステップP16で生成した各トルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TDF,後輪ダイナモメータトルク指令TDR)に基づいて各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の電流IDF,IDRを制御する(電流制御ステップP17)。なお、各トルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TDF,後輪ダイナモメータトルク指令TDR)の極性が「+」であれば各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)を正転方向Aに加速(駆動)する一方、トルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TDF,後輪ダイナモメータトルク指令TDR)の極性が「−」であれば各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)を逆転方向Bに加速(吸収)する(図10参照)。
以上の演算処理を行うことによって、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、試験車両として四輪駆動車を適用する場合においても、試験車両Sの加速力Fに相当する走行抵抗トルク及び電気慣性トルクを含む各トルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TDF,後輪ダイナモメータトルク指令TDR)に基づいて各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)のトルク制御を適切に行うことができ、前ローラX11に接続した前輪ダイナモメータM1と、後ローラX12に接続した後輪ダイナモメータM2とによって前後輪S1,S2の速度をすぐに一致させるように制御することができ、電気制御による適切な模擬試験状態を実現することができる。しかも、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、応答性の低下を招来し得る微分演算を必要としていないため、即応性に優れたものである。特に、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、例えば、試験実施前に予め実車を加速・定速・低速で試験走行させて前タイヤと後タイヤの駆動力を求めておき、その駆動力配分比のパターンに基づいて前輪ダイナモメータ及び後輪ダイナモメータの負荷配分比をデフォルト値として設定するという作業が不要でありながらも、前タイヤS1と後タイヤS2の車速を一致させるように制御しながら試験車両Sを所定の目標速度で走行させることができる。
なお、上述した第2実施形態に係るシャシーダイナモメータXの第1変形例として図14に示す態様を挙げることができる。
この第1変形例に係るシャシーダイナモメータXは、第2実施形態として例示したシャシーダイナモメータXと比較して、制御部Cが、上述の各手段に加えて、加速度演算手段4で求めた前輪ダイナモメータM1及び後輪ダイナモメータM2に共通となる加速度aを積分して試験車両Sの車速Vを求める共通の車速演算手段8と、車速演算手段8で求めた試験車両Sの車速Vを各駆動ローラ(前ローラX11,後ローラX12)の半径RDF,RDRで除算して各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の回転速度指令ωDF,ωDRを求める各回転速度指令演算手段(前輪ダイナモメータ回転速度指令演算手段91,後輪ダイナモメータ回転速度指令演算手段92)と、各回転速度指令演算手段(前輪ダイナモメータ回転速度指令演算手段91,後輪ダイナモメータ回転速度指令演算手段92)で求めた各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の回転速度指令ωDF,ωDRと各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の検出回転速度ωDF,ωDRとに基づく比例積分演算によりそれぞれ同期トルクTωF,TωRを求める各同期トルク演算手段(前輪ダイナモメータ同期トルク演算手段101,後輪ダイナモメータ同期トルク演算手段102)とを備えている点、及び各トルク指令生成手段(前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62)が、走行抵抗トルク及び電気慣性トルクと各同期トルク演算手段(前輪ダイナモメータ同期トルク演算手段101,後輪ダイナモメータ同期トルク演算手段102)で求めた同期トルクTωF,TωRとを含むトルク指令を生成するものである点で異なる。
通常、ダイナモメータMの機械慣性が車両慣性よりも小さいため、タイヤの駆動力が急激に変化すると実車両よりも速度変動が僅かに大きくなる。このような事象は、タイヤ推定駆動力手段21,22の応答が十分に高ければ特に問題とはならないが、第1変形例に係るシャシーダイナモメータXであれば、速度制御(ASR)を内在するものとなり、応答精度をより一層高めることができ、タイヤの駆動力が急激に変化した場合にも実車両と同等の速度変動を実現することができる。また、この第1変形例に係るシャシーダイナモメータXにおいても、微分処理は行わないため、応答性は良好である。
また、第2実施形態のシャシーダイナモメータXのさらに異なる変形例(第2変形例)として、図15に示す態様を挙げることができる。
この第2実施形態の第2変形例に係るシャシーダイナモメータXは、上述したシャシーダイナモメータXと比較して、各トルク指令生成手段(前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62)が、各トルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TDF,後輪ダイナモメータトルク指令TDR)と各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の検出トルクTDF,TDRとに基づく比例積分演算によりそれぞれの最終トルク指令を生成するものであり、各電流制御手段(前輪ダイナモメータ電流制御手段71,後輪ダイナモメータ電流制御手段72)が、各最終トルク指令に基づいて各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の電流IDF,IDRを制御するものである点のみが異なる。
具体的には、各トルク指令生成手段(前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,後輪ダイナモメータトルク指令生成手段62)は、上述した手順により走行抵抗トルクと電気慣性トルクを含む各トルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TDF,後輪ダイナモメータトルク指令TDR)と、各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の検出トルクTDF,TDRとの差分値を比例積分演算した値を、各トルク指令(前輪ダイナモメータトルク指令TDF,後輪ダイナモメータトルク指令TDR)に含ませた(加えた)指令をそれぞれの最終トルク指令(前輪ダイナモメータ最終トルク指令,後輪ダイナモメータ最終トルク指令)として生成し、対応する各電流制御手段(前輪ダイナモメータ電流制御手段71,後輪ダイナモメータ電流制御手段72)に出力するものである。そして、各電流制御手段(前輪ダイナモメータ電流制御手段71,後輪ダイナモメータ電流制御手段72)が、このような最終トルク指令に基づいて各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の電流IDF,IDRを制御することにより、各ダイナモメータ(前輪ダイナモメータM1,後輪ダイナモメータM2)の検出トルク(検出揺動トルク)TDF,TDRをフィードバック制御可能なトルク制御(ATR)を備えた態様となり、制御精度が向上する。この第2変形例に係るシャシーダイナモメータXにおいても、微分処理は不要であるため、応答性は良好である。
また、図16に示すように、第1変形例と第2変形例とを組み合わせたシャシーダイナモメータXを実現することもできる。なお、上述した第1実施形態及び第2実施形態の各変形例(第1変形例、第2変形例、第1変形例と第2変形例とを組み合わせた変形例)における同期トルク演算手段として、回転速度指令演算手段9で求めた回転速度指令ωDとダイナモメータMの検出回転速度ωDとに基づく比例演算、或いは一次遅れのゲインを高く設定した演算など、比例積分演算以外の偏差増幅演算により同期トルクTωを求める構成を採用することができる。これと同様に、各実施形態における第2変形例、及び第1変形例と第2変形例とを組み合わせた変形例におけるトルク指令生成手段が、トルク指令TDとダイナモメータMの検出トルクTDとに基づく比例演算、或いは一次遅れのゲインを高く設定した演算など、比例積分演算以外の偏差増幅演算により最終トルク指令を生成するものであってもよい。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、試験車両が二輪車であってもよい。この場合、駆動ローラは左右一対ではなくてもよい。
また、上述した各実施形態及び各変形例では、シャシーダイナモメータ自体の機械損失(メカロス)による減速を防止するため、トルク指令生成手段、前輪ダイナモメータトルク指令生成手段、後輪ダイナモメータトルク指令生成手段において、走行抵抗トルクと電気慣性トルクからなるトルク指令に、ダイナモメータのメカロスに相当するトルクを加算したトルク指令を生成するように構成した態様を例示したが、例えば、車両加速力演算手段において、車速に基づいて設定された走行抵抗とダイナモメータ自体のメカロスとの差分値を、タイヤ推定駆動力から減算することによって試験車両の加速力を求めるように構成することもできる。なお、シャシーダイナモメータ自体の機械損失(メカロス)が無視できる程度のものであれば、トルク指令生成手段、前輪ダイナモメータトルク指令生成手段、後輪ダイナモメータトルク指令生成手段、或いは車両加速度演算手段において、メカロスに基づく値を用いて演算処理する必要はない。
また、第1実施形態及びその変形例では、試験車両として前輪駆動車を適用し、試験車両の左右の前タイヤを載置する左右一対の前ローラに共通のダイナモメータを連結し、制御部がこのダイナモメータの駆動を制御する態様を例示し、また、第2実施形態及びその変形例では、試験車両として前後輪駆動車を適用し、試験車両の左右の前タイヤを載置する左右一対の前ローラに共通の前輪ダイナモメータを連結するとともに、試験車両の左右の後タイヤを載置する左右一対の後ローラに共通の後輪ダイナモメータを連結し、制御部が前輪ダイナモメータ及び後輪ダイナモメータの駆動を制御する態様を例示したが、試験車両が、左右の車輪をそれぞれ個別に駆動させる車両であれば、車輪毎に対応するローラと、そのローラを駆動ローラとして連結したダイナモメータとを備えたシャシーダイナモメータを構成すればよい。この場合、ローラとダイナモメータの数は相互に一致する。そして、ローラ及びダイナモメータの数が「1」である場合には、制御部による制御(制御部が有する各手段の構成)を、第1実施形態及びその変形例と同様または準じた制御にすることによって、第1実施形態及びその変形例と同様の作用効果を得ることができる。一方、ローラ及びダイナモメータの数が「2」である場合には、制御部による制御(制御部が有する各手段の構成)を、第2実施形態及びその変形例における「前タイヤ」、「後タイヤ」、「前輪ローラ」、「後輪ローラ」、「前輪ダイナモメータ」、「後輪ダイナモメータ」をそれぞれ「左タイヤ」、「右タイヤ」、「左ローラ」、「右ローラ」、「左ダイナモメータ」、「右ダイナモメータ」に代替する(読み替える)ことで、第2実施形態及びその変形例と同様または準じた制御を実現することができ、第2実施形態及びその変形例と同様の作用効果を得ることができる。
さらに、試験車両が、左右の前輪をそれぞれ個別に駆動させるとともに、左右の後輪をそれぞれ個別に駆動させるものである場合、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪をそれぞれ載置する左前ローラ、右前ローラ、左後ローラ、右後ローラと、各ローラ(左前ローラ、右前ローラ、左後ローラ、右後ローラ)にそれぞれ連結した左前輪ダイナモメータ、右前輪ダイナモメータ、左後輪ダイナモメータ、右後輪ダイナモメータと、これら各ダイナモメータの駆動を制御する共通の制御部とを備えたシャシーダイナモメータを構成すればよい。この場合、制御部が有する各手段のうち、第1実施形態及びその変形例におけるタイヤ推定トルク演算手段1、タイヤ推定駆動力演算手段2、駆動ローラ加速力演算手段5、トルク指令生成手段6、電流制御手段7、回転速度指令演算手段9、同期トルク演算手段10に相当する手段は、左前輪ダイナモメータ、右前輪ダイナモメータ、左後輪ダイナモメータ及び右後輪ダイナモメータにそれぞれ対応付けて有する一方、車両加速力演算手段3、加速度演算手段4、車速演算手段8に相当する手段は、左前輪ダイナモメータ、右前輪ダイナモメータ、左後輪ダイナモメータ及び右後輪ダイナモメータに共通のものとして有するものとすればよい。すなわち、例えば図12、図14乃至図16では、ダイナモメータの数が「2」であるシャシーダイナモメータの制御部は、第1実施形態及びその変形例におけるタイヤ推定トルク演算手段1、タイヤ推定駆動力演算手段2、駆動ローラ加速力演算手段5、トルク指令生成手段6、電流制御手段7、回転速度指令演算手段9、同期トルク演算手段10に相当する手段をそれぞれ「2」備え、車両加速力演算手段3への入力系統、及び加速度演算手段4や車速演算手段8からの出力系統は2系統となる。これに対して、左前輪ダイナモメータ、右前輪ダイナモメータ、左後輪ダイナモメータ及び右後輪ダイナモメータを備えたシャシーダイナモメータにおける制御部は、第1実施形態及びその変形例における第1実施形態及びその変形例におけるタイヤ推定トルク演算手段1、タイヤ推定駆動力演算手段2、駆動ローラ加速力演算手段5、トルク指令生成手段6、電流制御手段7、回転速度指令演算手段9、同期トルク演算手段10に相当する手段をそれぞれ各ダイナモメータに関連付けて備えているため、これらタイヤ推定トルク演算手段1、タイヤ推定駆動力演算手段2、駆動ローラ加速力演算手段5、トルク指令生成手段6、電流制御手段7、回転速度指令演算手段9、同期トルク演算手段10に相当する手段をそれぞれ「4」つずつ備えたものとなり、車両加速力演算手段3への入力系統、及び加速度演算手段4や車速演算手段8からの出力系統は4系統となる。このように車輪ごとに個別駆動させる自動車を試験車両とする場合にも、車輪の数に応じてローラ及びダイナモメータの数を適宜変更することによって上記実施形態と同様または準じた効果を得ることができる。
さらに、左右一対の車輪を車両の進行方向に3組有する六輪車や4組有する八輪車を試験車両としてもよい。そして、左右の車輪を共通の車軸で接続した(連結された)試験車両である場合には、駆動させる車軸の数と同数のダイナモメータを備えたシャシーダイナモメータを構成すればよく、左右の車輪を共通の車軸で接続せずに個別に駆動させる試験車両である場合には、駆動させる車輪の数と同数のダイナモメータを備えたシャシーダイナモメータを構成すればよい。
ここで、試験車両が左右の車輪を共通の車軸で接続せずに個別に駆動させる車両である場合に好適に用いられるシャシーダイナモメータを本発明の第3実施形態として以下に詳述する。
第3実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、試験車両として、例えば図17乃至図20に示すように、左右一対の前輪S1,S2及び左右一対の後輪S3,S4を備え、各タイヤS1,S2,S3,S4が他のタイヤとは独立して駆動される四輪車を適用し、各タイヤS1,S2,S3,S4をそれぞれ駆動タイヤとし、各駆動タイヤS1,S2,S3,S4を個別に載置した各ローラ(左前ローラX11,右前X12,左後X13,右後X14)を駆動ローラとしてそれぞれ個別に連結した複数のダイナモメータ(左前輪ダイナモメータM1,右前輪ダイナモメータM2,左後輪ダイナモメータM3,右後輪ダイナモメータM4の合計4つ)を備えた構成を有する。
具体的に、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、左前タイヤS1,右前タイヤS2をそれぞれ載置する左前ローラX11,右前ローラX12に、それぞれ左前輪ダイナモメータM1,右前輪ダイナモメーアM2を個別に連結するとともに、左後タイヤS3,右後タイヤS4をそれぞれ載置する左後ローラX13,右後ローラX14に、それぞれ左後輪ダイナモメータM3,右後輪ダイナモメーアM4を個別に連結し、これら各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の電流に応じて各駆動ローラX11,X12,X13,X14を駆動可能に構成している。なお、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4は、ローラベースX2上に固定した揺動軸受X3にそれぞれ揺動可能に支持されている。また、試験車両Sの車両自体は適宜の固定手段X4によって固定されている。
本実施形態のシャシーダイナモメータXは、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の駆動を制御する制御部Cを備えている。制御部Cは、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、図示しない記憶部から適宜のプログラムを読み込んで実行することにより、各種ハードウェアとプログラムとを協働させて以下の各機能手段を実現する機能部である。
本実施形態における制御部Cは、上述した第2実施形態のシャシーダイナモメータXにおける制御部Cに準じた手段を備えたものであり、個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎にそれぞれ対応付けた手段と、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通の手段とがある。具体的には、上述の第2実施形態で示した制御部Cの各手段のうち、タイヤ推定トルク演算手段1、タイヤ推定駆動力演算手段2、駆動ローラ加速力演算手段5、トルク指令生成手段6、及び電流制御手段7に相当する手段は、個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎にそれぞれ対応付けて有する一方、車両加速力演算手段3及び加速度演算手段4に相当する手段は、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通のものとして有している。以下に詳述する。
すなわち、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXの制御部Cは、図21乃至図23に示すように、個別駆動タイヤ推定トルク演算手段1と、個別駆動タイヤ推定駆動力演算手段2と、車両加速力演算手段3と、加速度演算手段4と、個別駆動ローラ加速力演算手段5と、個別ダイナモメータトルク指令生成手段6と、個別ダイナモメータ電流制御手段7とを備えている。なお、図示していないが、制御部Cを構成する電子機器や回路などのハードウェハを適宜の操作計測盤(コントロール盤)やインバータ盤に実装・収容している。
個別駆動タイヤ推定トルク演算手段1は、個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4の検出トルク(検出左前輪揺動トルクTDFL,検出右前輪揺動トルクTDFR,検出左後輪揺動トルクTDRL,検出右後輪揺動トルクTDRR)及び検出回転速度(検出左前輪回転速度ωDFL,検出右前輪回転速度ωDFR,検出左後輪回転速度ωDRL,検出右後輪回転速度ωDRR)から、各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の推定トルクである個別駆動タイヤ推定トルクを個別の駆動タイヤS1,S2,S3,S4毎に演算するものである。
ここで、各ダイナモメータ(左前輪ダイナモメータM1,右前輪ダイナモメータM2,左後輪ダイナモメータM3,右後輪ダイナモメータM4)の検出トルクTDFL,TDFR,TDRL,TDRRは、適宜のトルク検出部によって検出した各ダイナモメータM1,M2,M3,M4のトルクであり、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4のそれぞれの検出回転速度ωDFL,ωDFR,ωDRL,ωDRRは、適宜の回転速度検出部によって検出した各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の回転速度である。なお、符号の末尾に付した「FL」,「FR」は左フロント,右フロントを意味し、「RL」,「RR」は左リア,右リアをそれぞれ意味している。
個別駆動タイヤ推定トルク演算手段1は、左前駆動タイヤ推定トルク演算手段11,右前駆動タイヤ推定トルク演算手段12,左後駆動タイヤ推定トルク演算手段13,右後駆動タイヤ推定トルク演算手段14を備え、これら各駆動タイヤ推定トルク演算手段11,12,13,14によって個別の駆動タイヤS1,S2,S3,S4の推定トルク(個別駆動タイヤ推定トルク)を求めるものであり、その処理及び推定する原理は、図22、図23及び図6で示すブロック線図で表すことができる。これらの図からも把握できるように、個別駆動タイヤ推定トルク演算手段1における演算処理は加減乗除演算処理であり、微分演算処理は一切行わない。
個別駆動タイヤ推定駆動力演算手段2は、個別駆動タイヤ推定トルク演算手段1で求めた個別駆動タイヤ推定トルクと各ローラX11,X12,X13,X14のそれぞれの半径に基づいて推定される各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の駆動力(個別駆動タイヤ推定駆動力(左前駆動タイヤ推定駆動力FTFL,右前駆動タイヤ推定駆動力FTFR,左後駆動タイヤ推定駆動力FTRL,右後駆動タイヤ推定駆動力FTRR))を駆動タイヤS1,S2,S3,S4毎に演算するものである。具体的に、個別駆動タイヤ推定駆動力演算手段2は、左前駆動タイヤ推定駆動力演算手段21,右前駆動タイヤ推定駆動力演算手段22,左後駆動タイヤ推定駆動力演算手段23,右後駆動タイヤ推定駆動力演算手段24を備え、これら各駆動タイヤ推定駆動力演算手段21,22,23,24が、各駆動タイヤS1,S2,S3,S4それぞれについて個別駆動タイヤ推定トルク演算手段1で求めた個別駆動タイヤ推定トルクを対応する各駆動ローラX11,X12,X13,X14の半径RDFL,RDFR,RDRL,RDRRで除算する演算処理によって各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の推定駆動力(個別駆動タイヤ推定駆動力(左前駆動タイヤ推定駆動力FTFL,右前駆動タイヤ推定駆動力FTFR,左後駆動タイヤ推定駆動力FTRL,右後駆動タイヤ推定駆動力FTRR))を駆動タイヤS1,S2,S3,S4毎に求めるものである。
車両加速力演算手段3は、個別駆動タイヤ推定駆動力演算手段2で求めた個別の駆動タイヤ推定駆動力FTFL,FTFR,FTRL,FTRRの合計値と、車速に基づいて設定された走行抵抗FLとに基づいて試験車両Sの加速力Fを演算するものである。具体的に、この車両加速力演算手段3は、個別駆動タイヤ推定駆動力FTFL,FTFR,FTRL,FTRRの合計値から走行抵抗FLを減算する演算処理によって試験車両Sの加速力Fを求めるものである。
加速度演算手段4は、車両加速力演算手段3で求めた試験車両Sの加速力Fと試験車両Sの慣性質量mとに基づいて個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通の加速度aを演算するものである。具体的に、この加速度演算手段4は、試験車両Sの加速力Fを試験車両Sの慣性質量mで除算する演算処理によって各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通の加速度aを求めるものである。
個別駆動ローラ加速力演算手段5は、加速度演算手段4で求めた各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通の加速度aと各ダイナモメータM1,M2,M3,M4のそれぞれの慣性質量mDFL,mDFR,mDRL,mDRRとに基づいて各駆動ローラX11,X12,X13,X14の加速力を個別の駆動ローラX11,X12,X13,X14毎に演算するものである。具体的に、個別駆動ローラ加速力演算手段5は、左前駆動ローラ加速力演算手段51,右前駆動ローラ加速力演算手段52,左後駆動ローラ加速力演算手段53,右後駆動ローラ加速力演算手段54を備え、これら各駆動ローラ加速力演算手段51,52,53,54が、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通の加速度aに各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の慣性質量mDFL,mDFR,mDRL,mDRRをそれぞれ乗算する演算処理によって各駆動ローラX11,X12,X13,X14の加速力(左前駆動ローラx11の加速力mDFL・a,右前駆動ローラx12の加速力mDFR・a,左後駆動ローラx13の加速力mDRL・a,右後駆動ローラx14の加速力mDRR・a)を個別の駆動ローラX11,X12,X13,X14毎に求めるものである。
個別ダイナモメータトルク指令生成手段6は、個別駆動ローラ加速力演算手段5で求めた個別の駆動ローラX11,X12,X13,X14の加速力mDFL・a,mDFR・a,mDRL・a,mDRR・aと個別駆動タイヤ推定駆動力演算手段2で求めた個別の駆動タイヤ推定駆動力FTFL,FTFR,FTRL,FTRRとの差分値と、各駆動ローラX11,X12,X13,X14のそれぞれ半径RDFL,RDFR,RDRL,RDRRとに基づく演算処理によって走行トルクと電気慣性トルクとの合計値である個別ダイナモメータトルク指令(左前輪ダイナモメータトルク指令TLEFL,右前輪ダイナモメータトルク指令TLEFR,左後輪ダイナモメータトルク指令TLERL,右後輪ダイナモメータトルク指令TLERR)を個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に生成するものである。具体的に、個別ダイナモメータトルク指令生成手段6は、左前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,右前輪ダイナモメータトルク指令生成手段62,左後輪ダイナモメータトルク指令生成手段63,右後輪ダイナモメータトルク指令生成手段64を備え、これら各ダイナモメータトルク指令生成手段61,62,63,64が、各駆動ローラX11,X12,X13,X14の加速力mDFL・a,mDFR・a,mDRL・a,mDRR・aと各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の個別タイヤ推定駆動力(左前駆動タイヤ推定駆動力FTFL,右前駆動タイヤ推定駆動力FTFR,左後駆動タイヤ推定駆動力FTRL,右後駆動タイヤ推定駆動力FTRR)との差分値に各駆動ローラX11,X12,X13,X14の半径RDFL,RDFR,RDRL,RDRRをそれぞれ乗算する演算処理によって、走行抵抗トルクと電気慣性トルクとを含むトルク指令(左前輪ダイナモメータトルク指令TLEFL,右前輪ダイナモメータトルク指令TLEFR,左後輪ダイナモメータトルク指令TLERL,右後輪ダイナモメータトルク指令TLERR)を個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に生成するものである。
なお、シャシーダイナモメータX自体に機械損失(メカロス)があり、これによる減速を防止するため、本実施形態では、個別ダイナモメータトルク指令生成手段6において、メカロスに相当するトルクをそれぞれの個別ダイナモメータトルク指令TLEFL,TLEFR,TLERL,TLERRに加算したトルク指令TDFL,TDFR,TDRL,TDRRを生成するように構成している。具体的に、個別ダイナモメータトルク指令TLEFL,TLEFR,TLERL,TLERRに加算するメカロストルクは、対応する個々のダイナモメータM1,M2,M3,M4のメカロスに相当するトルクである。
個別ダイナモメータ電流制御手段7は、個別ダイナモメータトルク指令生成手段6で生成した個別ダイナモメータトルク指令TDFL,TDFR,TDRL,TDRRに基づいて個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎の電流(左前輪ダイナモメータM1の電流IDFL,右前輪ダイナモメータM2の電流IDFR,左後輪ダイナモメータM3の電流IDRL,右後輪ダイナモメータM4の電流IDRR)を制御するものである。
ここで、試験車両Sの加速力Fは、以下の運動方程式で表すことができる。
F=FT−FL=ma=(mD+mE)a
上記式において、FTはタイヤ駆動力であり、FLは試験車両Sの走行抵抗であり、mDはシャシーダイナモメータの慣性質量であり、mEは電気慣性である。タイヤ駆動力FTはシャシーダイナモメータXのローラ表面に作用し、シャシーダイナモメータXの慣性質量mDを駆動する力となる。試験車両Sの慣性質量mとの差分m−mD=mEをシャシーダイナモメータXが電気制御により模擬し、走行抵抗FLに相当する力をシャシーダイナモメータXが電気制御により吸収する。したがって、シャシーダイナモメータXの電気制御における指令は走行抵抗FLと電気慣性mEに相当する力mE・aになり、これらの合力FL+mE・aが下式で表すことができる。なお、「−」は合力FL+mE・aがタイヤ駆動力FTを吸収する吸収力となることを意味する。
FT−FL=(mD+mE)a
FT−mDa=FL+mEa
mDa−FT=−FL−mEa
ここで、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、走行抵抗FLと電気慣性mEを電気制御により模擬するものである。したがって、個別のダイナモメータ(左前輪ダイナモメータM1,右前輪ダイナモメータM2,左後輪ダイナモメータM3,右後輪ダイナモメータM4)毎のトルク指令TLE(具体的には左前輪ダイナモメータTLEFL,右前輪ダイナモメータTLEFR,左後輪ダイナモメータTLERL,右後輪ダイナモメータTLERR)は以下の式で表すことができる。
TLE=(−FL−mEa)RD=(mDa−FT)RD
ここで、RDは各駆動ローラX1(左前駆動ローラX11,右前駆動ローラX12,左後駆動ローラX13,右後駆動ローラX14)の半径(本実施形態では全て同じ半径の駆動ローラを適用)である。すなわち、各個別ダイナモメータトルク指令生成手段6では、個別駆動ローラ加速力演算手段5で求めた各駆動ローラX11,X12,X13,X14の加速力mD・a(具体的には、mDFL・a,mDFR・a,mDRL・a,mDRR・a)と個別駆動タイヤ推定駆動力演算手段2で求めた個別駆動タイヤ推定駆動力FT(具体的には、左前駆動タイヤ推定駆動力FTFL,右前駆動タイヤ推定駆動力FTFR,左後駆動タイヤ推定駆動力FTRL,右後駆動タイヤ推定駆動力FTRR)との差分値である「mDa−FT」(具体的には、「mDFL・a−FTFL」,「mDFR・a−FTFR」,「mDRL・a−FTRL」,「mDRR・a−FTRR」)に、各駆動ローラX11,X12,X13,X14の半径RDFL,RDFR,RDRL,RDRRを乗算することによってトルク(Nm)に換算した値「(mD・a−FT)RD」(具体的には、「(mDFL・a−FTFL)RDFL」,「(mDFR・a−FTFR)RDFR」,「(mDRL・a−FTRL)RDRL」,「(mDRR・a−FTRR)RDRR」を個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4のそれぞれのトルク指令TLEFL,TLEFR,TLERL,TLERRとして生成し、これらのトルク指令TLEFL,TLEFR,TLERL,TLERRに基づいて各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の電流ID(具体的には左前輪ダイナモメータM1の電流IDFL,右前輪ダイナモメータM2の電流IDFR,左後輪ダイナモメータM3の電流IDRL,右後輪ダイナモメータM4の電流IDRR)を制御することによって、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4のトルク制御を適切に行うことができる。
次に、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXによって試験車両Sを目標速度で走行させる際の処理手順について図22乃至図24を参照しながら説明する。
先ず、試験車両Sの左前輪S1,右前輪S2をそれぞれ左前駆動ローラX11,右前駆動ローラX12に載置するとともに、左後輪S3,右後輪S4を左後駆動ローラX13,右後駆動ローラX14にそれぞれ載置し、試験車両Sを目標速度で走行させるべく各ダイナモメータ(左前輪ダイナモメータM1,右前輪ダイナモメータM2,左後輪ダイナモメータM3,右後輪ダイナモメータM4)を駆動させる。この状態で、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に関連付けて設けたトルク検出部(揺動トルク検出部)及び回転速度検出部によって検出した各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の検出トルクTDFL,TDFR,TDRL,TDRR及び検出回転速度ωDFL,ωDFR,ωDRL,ωDRRに基づいて、個別駆動タイヤ推定トルク演算手段1によって各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の推定トルクの推定トルクを駆動タイヤS1,S2,S3,S4毎に求める(タイヤ推定トルク演算ステップP21)。
次いで、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、個別駆動タイヤ推定駆動力演算手段2によって、タイヤ推定トルク演算ステップP21で求めた各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の推定トルクをそれぞれ対応する駆動ローラX11,X12,X13,X14)の半径RDFL,RDFR,RDRL,RDRRで除算して各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の推定駆動力FTFL,FTFR,FTRL,FTRRをそれぞれ求める(個別タイヤ推定駆動力演算ステップP22)。
引き続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、車両加速力演算手段3によって、個別タイヤ推定駆動力演算ステップP22で求めた各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の推定駆動力FTFL,FTFR,FTRL,FTRRの合計値から、車速に基づいて設定された走行抵抗FLを減算して試験車両Sの加速力Fを求める(車両加速力演算ステップP23)。次に、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、加速度演算手段4によって、車両加速力演算ステップP23で求めた試験車両Sの加速力Fを試験車両Sの慣性質量mで除算して各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通の加速度aを求める(加速度演算ステップP24)。
加速度演算ステップP24に続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、個別駆動ローラ加速力演算手段5によって、加速度演算ステップP24で求めた各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通の加速度aに各ダイナモメータM1,M2,M3,M4のそれぞれの慣性質量mDFL,mDFR,mDRL,mDRRを個別に乗算して各駆動ローラX11,X12,X13,X14の加速力mDFL・a,mDFR・a,mDRL・a,mDRR・aを駆動ローラ毎X11,X12,X13,X14に求める(個別駆動ローラ加速力演算ステップP25)。
引き続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、個別トルク指令生成手段6によって、先ず個別駆動ローラ加速力演算ステップP25で求めた各駆動ローラX11,X12,X13,X14の加速力mDFL・a,mDFR・a,mDRL・a,mDRR・aと個別駆動タイヤ推定駆動力演算手段2で求めた各駆動タイヤS1,S2,S3,S4の推定駆動力FTFL,FTFR,FTRL,FTRRとの差分値を求め、各差分値に各駆動ローラX11,X12,X13,X14の半径RDFL,RDFR,RDRL,RDRRを乗算して、走行抵抗トルクと電気慣性トルクとの和である個別のダイナモメータトルク指令TLEFL,TLEFR,TLERL,TLERRをダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に生成する(個別ダイナモメータトルク指令生成ステップP26)。
本実施形態では、上述したようにシャシーダイナモメータX自体の機械損失(メカロス)による減速を防止するため、個別ダイナモメータトルク指令生成ステップP26では、メカロスに相当するトルクを各トルク指令TLEFL,TLEFR,TLERL,TLERRに加算したトルク指令TDFL,TDFR,TDRL,TDRRを生成する。具体的に、左前輪ダイナモメータトルク指令TLEFLに加算するメカロストルクは、左前輪ダイナモメータM1のメカロスに相当するトルクであり、左後輪ダイナモメータトルク指令TLERLに加算するメカロストルクは、左後輪ダイナモメータM3のメカロスに相当するトルクである。同様に、右前輪ダイナモメータトルク指令TLEFR,右後輪ダイナモメータトルク指令TLERRにそれぞれ加算するメカロストルクは、右前輪ダイナモメータM2のメカロスに相当するトルク,右後輪ダイナモメータM4のメカロスに相当するトルクである。
そして、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、個別ダイナモメータ電流制御手段7によって、個別ダイナモメータトルク指令生成ステップP26で生成した各トルク指令TDFL,TDFR,TDRL,TDRRに基づいて各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の電流IDFL,IDFR,IDRL,IDRRをダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に個別に制御する(個別ダイナモメータ電流制御ステップP27)。なお、各トルク指令TDFL,TDFR,TDRL,TDRRの極性が「+」であれば各駆動ローラX11,X12,X13,X14を正転方向Aに加速(駆動)する一方、トルク指令TDFL,TDFR,TDRL,TDRRの極性が「−」であれば各駆動ローラX11,X12,X13,X14を逆転方向Bに加速(吸収)する(図17及び図18参照)。
以上の演算処理を行うことによって、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、試験車両として4本のタイヤS1,S2,S3,S4をそれぞれ個別に駆動させるタイプの車両を適用する場合においても、試験車両Sの加速力Fに相当する走行抵抗トルク及び電気慣性トルクを含む各トルク指令(左前輪ダイナモメータトルク指令TDFL,右前輪ダイナモメータトルク指令TDFR,左後輪ダイナモメータトルク指令TDRL,右後輪ダイナモメータトルク指令TDRR)に基づいて各ダイナモメータ(左前輪ダイナモメータM1,右前輪ダイナモメータM2,左後輪ダイナモメータM3,右後輪ダイナモメータM4)のトルク制御を適切に行うことができ、左前駆動ローラX11に接続した左前輪ダイナモメータM1と、右前駆動ローラX12に接続した右前輪ダイナモメータM2と、左後駆動ローラX13に接続した左後輪ダイナモメータM3と、右後駆動ローラX14に接続した右後輪ダイナモメータM4とによって全てのタイヤS1,S2,S3,S4の速度をすぐに一致させるように制御することができ、電気制御による適切な模擬試験状態を実現することができる。しかも、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、応答性の低下を招来し得る微分演算を必要としていないため、即応性に優れたものである。特に、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、例えば、試験実施前に予め実車を加速・定速・低速で試験走行させて各駆動タイヤの駆動力を求めておき、その駆動力配分比のパターンに基づいて個別のダイナモメータの負荷配分比をデフォルト値として設定するという作業が不要でありながらも、各タイヤS1,S2,S3,S4の車速を一致させるように制御しながら試験車両Sを所定の目標速度で走行させることができる。
なお、上述した第3実施形態に係るシャシーダイナモメータXの第1変形例として図25及び図26に示す態様を挙げることができる。
この第1変形例に係るシャシーダイナモメータXは、第3実施形態として例示したシャシーダイナモメータXと比較して、制御部Cが、上述の各手段に加えて、加速度演算手段4で求めた各ダイナモメータM1,M2,M3,M4に共通となる加速度aを積分して試験車両Sの車速Vを求める共通の車速演算手段8と、車速演算手段8で求めた試験車両Sの車速Vを各駆動ローラ(左前駆動ローラX11,右前駆動ローラX12,左後駆動ローラX13,右後駆動ローラX14)のそれぞれの半径RDFL,RDFR,RDRL,RDRRで除算して各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の回転速度指令ωDFL,ωDFR,ωDRL,ωDRRを個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に求める個別ダイナモメータ回転速度指令演算手段と、個別ダイナモメータ回転速度指令演算手段で求めた各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の回転速度指令ωDFL,ωDFR,ωDRL,ωDRRと各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の検出回転速度ωDFL,ωDFR,ωDRL,ωDRRとに基づく偏差増幅演算により同期トルクTωFL,TωFR,TωRL,TωRRを個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に求める個別ダイナモメータ同期トルク演算手段とを備えている点、及び個別ダイナモメータトルク指令生成手段6が、走行抵抗トルク及び電気慣性トルクと個別ダイナモメータ同期トルク演算手段で求めた同期トルクTωFL,TωFR,TωRL,TωRRとを含むトルク指令を個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に生成するものである点で異なる。
具体的に、個別ダイナモメータ回転速度指令演算手段は、左前輪ダイナモメータ回転速度指令演算手段91,右前輪ダイナモメータ回転速度指令演算手段92、左後輪ダイナモメータ回転速度指令演算手段93、及び右後輪ダイナモメータ回転速度指令演算手段94を備え、これら各ダイナモメータ回転速度指令演算手段91,92,93,94が、車速演算手段8で求めた試験車両Sの車速Vを各駆動ローラX11,X12,X13,X14のそれぞれの半径RDFL,RDFR,RDRL,RDRRで除算することで、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の回転速度指令ωDFL,ωDFR,ωDRL,ωDRRをダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に求めるものである。
また、ダイナモメータ同期トルク演算手段は、左前輪ダイナモメータ同期トルク演算手段101,右前輪ダイナモメータ同期トルク演算手段102、左後輪ダイナモメータ同期トルク演算手段103,右後輪ダイナモメータ同期トルク演算手段104を備え、これら各ダイナモメータ同期トルク演算手段101,102,103,104が、個別ダイナモメータ回転速度指令演算手段で求めた各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の回転速度指令ωDFL,ωDFR,ωDRL,ωDRRと、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の検出回転速度ωDFL,ωDFR,ωDRL,ωDRRとに基づく偏差増幅演算(例えば比例積分演算)によって、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の同期トルクTωFL,TωFR,TωRL,TωRRを個別のダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に求めるものである。
通常、ダイナモメータMの機械慣性が車両慣性よりも小さいため、タイヤの駆動力が急激に変化すると実車両よりも速度変動が僅かに大きくなる。このような事象は、個別駆動タイヤ推定駆動力手段2の応答が十分に高ければ特に問題とはならないが、第1変形例に係るシャシーダイナモメータXであれば、速度制御(ASR)を内在するものとなり、応答精度をより一層高めることができ、駆動タイヤS1,S2,S3,S4の駆動力が急激に変化した場合にも実車両と同等の速度変動を実現することができる。また、この第1変形例に係るシャシーダイナモメータXにおいても、微分処理は行わないため、応答性は良好である。
また、第3実施形態のシャシーダイナモメータXのさらに異なる変形例(第2変形例)として、図27及び図28に示す態様を挙げることができる。
この第3実施形態の第2変形例に係るシャシーダイナモメータXは、上述したシャシーダイナモメータXと比較して、個別ダイナモメータトルク指令生成手段6(左前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,右前輪ダイナモメータトルク指令生成手段62,左後輪ダイナモメータトルク指令生成手段63,右後輪ダイナモメータトルク指令生成手段64)が、各トルク指令(左前輪ダイナモメータトルク指令TDFL,右前輪ダイナモメータトルク指令TDFR,左後輪ダイナモメータトルク指令TDRL,右後輪ダイナモメータトルク指令TDRR)と各ダイナモメータ(左前輪ダイナモメータM1,右前輪ダイナモメータM2,左後輪ダイナモメータM3,右後輪ダイナモメータM4)のそれぞれの検出トルクTDFL,TDFR,TDRL,TDRRとに基づく偏差増幅演算(例えば比例積分演算)により個別のダイナモメータ最終トルク指令をダイナモメータM1,M2,M3,M4毎に生成するものであり、個別ダイナモメータ電流制御手段7(左前輪ダイナモメータ電流制御手段71,右前輪ダイナモメータ電流制御手段72,左後輪ダイナモメータ電流制御手段73,右後輪ダイナモメータ電流制御手段74)が、個別のダイナモメータ最終トルク指令に基づいて各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の電流IDFL,IDFR,IDRL,IDRRを個別に制御するものである点のみが異なる。
具体的には、個別ダイナモメータトルク指令生成手段6(左前輪ダイナモメータトルク指令生成手段61,右前輪ダイナモメータトルク指令生成手段62,左後輪ダイナモメータトルク指令生成手段63,右後輪ダイナモメータトルク指令生成手段64)は、上述した手順により走行抵抗トルクと電気慣性トルクを含む各トルク指令TDFL,TDFR,TDRL,TDRRと、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の検出トルクTDFL,TDFR,TDRL,TDRRとの差分値を偏差増幅演算(例えば比例積分演算)した値を、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4のトルク指令TDFL,TDFR,TDRL,TDRRに含ませた(加えた)指令をそれぞれのダイナモメータM1,M2,M3,M4の最終トルク指令(左前輪ダイナモメータ最終トルク指令,右前輪ダイナモメータ最終トルク指令,左後輪ダイナモメータ最終トルク指令,右後輪ダイナモメータ最終トルク指令)として生成し、個別ダイナモメータ電流制御手段7(左前輪ダイナモメータ電流制御手段71,右前輪ダイナモメータ電流制御手段72,左後輪ダイナモメータ電流制御手段73,右後輪ダイナモメータ電流制御手段74)に出力するものである。そして、個別電流制御手段7(左前輪ダイナモメータ電流制御手段71,右前輪ダイナモメータ電流制御手段72,左後輪ダイナモメータ電流制御手段73,右後輪ダイナモメータ電流制御手段74)が、このような各最終トルク指令に基づいてそれぞれのダイナモメータM1,M2,M3,M4の電流IDFL,IDFR,IDRL,IDRRを個別に制御することにより、各ダイナモメータM1,M2,M3,M4の検出トルクTDFL,TDFR,TDRL,TDRRをフィードバック制御可能なトルク制御(ATR)を備えた態様となり、制御精度が向上する。この第2変形例に係るシャシーダイナモメータXにおいても、微分処理は不要であるため、応答性は良好である。
また、図29及び図30に示すように、第1変形例と第2変形例とを組み合わせたシャシーダイナモメータXを実現することもできる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、試験車両がタイヤを2本備え、それぞれのタイヤを個別に駆動可能な駆動タイヤに設定した二輪車であってもよい。この場合、2本のタイヤは、車両の前後にそれぞれ1本ずつ設けられたものであってもよいし、車両の左右に1本ずつ設けられたものであってもよい。そして、各タイヤをそれぞれ個別に載置するローラを駆動ローラとし、各駆動ローラにそれぞれダイナモメータを個別に連結したシャシーダイナモメータを構成することが可能である。
また、試験車両が、タイヤを3本以上備えたものであり、これら複数のタイヤのうち他のタイヤとは独立して駆動可能なタイヤである駆動タイヤを複数本備えた車両である場合、各駆動タイヤを個別に載置するローラを駆動ローラとし、各駆動ローラにそれぞれダイナモメータを個別に連結したシャシーダイナモメータを構成することもできる。
次に、本発明に係るシャシーダイナモメータの第4実施形態として、図31乃至図34、及び第1実施形態に係るシャシーダイナモメータXを説明する際に用いた図4を参照しながら説明する。第4実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、試験車両として例えば前輪S1及び後輪S2をそれぞれ1本ずつ有する二輪車Sを適用し、前輪S1又は後輪S2の何れか一方のみ(図示例では後輪S1)を駆動タイヤとし、その駆動タイヤS2を載置したローラX12を単一の駆動ローラX12としてダイナモメータM1に連結した構成を有する。
第4実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、単一のダイナモメータMの駆動を制御する制御部Cを備えたものである。ダイナモメータMの一端部を単一の駆動ローラX12に取り付け、ダイナモメータMの電流に応じて駆動ローラX12を駆動可能に構成している。なお、ダイナモメータMは、ローラベースX2上に固定した揺動軸受X3に揺動可能に支持されている。また、試験車両Sの車両自体は適宜の固定手段X4によって固定されている。なお、駆動タイヤではないタイヤ(本実施形態では前輪S1)は、適宜の台またはローラ(駆動ローラではないローラ)等に載置しておけばよい。
本実施形態のシャシーダイナモメータXにおける制御部Cは、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、図示しない記憶部から適宜のプログラムを読み込んで実行することにより、各種ハードウェアとプログラムとを協働させて以下の各機能手段を実現する機能部である。具体的に、この制御部は、図33及び図4に示すように、駆動タイヤ推定トルク演算手段1と、駆動タイヤ推定駆動力演算手段2と、車両加速力演算手段3と、加速度演算手段4と、駆動ローラ加速力演算手段5と、ダイナモメータトルク指令生成手段6と、ダイナモメータ電流制御手段7とを備えている。なお、図示していないが、制御部Cを構成する電子機器や回路などのハードウェハを適宜の操作計測盤(コントロール盤)やインバータ盤に実装・収容している。すなわち、本実施形態における制御部Cの構成及び制御は、以下に述べるように第1実施形態における制御部Cと同等または略同等である。
駆動タイヤ推定トルク演算手段1は、ダイナモメータMの検出トルクTD(検出揺動トルク)と検出回転速度ωDから駆動ローラX12に対応するタイヤ、すなわち本実施形態では後輪S2の推定トルクであるタイヤ推定トルクを演算するものである。ここで、ダイナモメータMの検出トルクTDは、適宜のトルク検出部によって検出したダイナモメータMのトルクであり、ダイナモメータMの検出回転速度ωDは、適宜の回転速度検出部によって検出したダイナモメータMの回転速度である。
この駆動タイヤ推定トルク演算手段1によってタイヤ推定トルクを求める処理は、図4で示すブロック線図で表すことができる。同図及びタイヤトルク(駆動力)の推定原理を示す図6からも把握できるように、駆動タイヤ推定トルク演算手段1における演算処理は加減乗除演算処理であり、微分演算処理は一切行わない。
駆動タイヤ推定駆動力演算手段2は、駆動タイヤ推定トルク演算手段1で求めたタイヤ推定トルクと駆動ローラである後ローラX12の半径RDに基づいて推定されるタイヤの駆動力(駆動タイヤ推定駆動力FT)を演算するものである。具体的に、この駆動タイヤ推定駆動力演算手段2は、タイヤ推定トルクを後ローラX12の半径RDで除算する演算処理によって駆動タイヤ推定駆動力FTを求めるものである。
車両加速力演算手段3は、駆動タイヤ推定駆動力演算手段2で求めた駆動タイヤ推定駆動力FTと、車速に基づいて設定された走行抵抗FLとに基づいて試験車両Sの加速力Fを演算するものである。具体的に、この車両加速力演算手段3は、駆動タイヤ推定駆動力FTから、走行抵抗FLを減算する演算処理によって車両加速力Fを求めるものである。なお、走行抵抗FLは、惰行法、ABC法、テーブル法等の既知の方法により既定値(推定値)として与えることができる。
加速度演算手段4は、車両加速力演算手段3で求めた試験車両Sの加速力Fと試験車両Sの慣性質量mとに基づいてダイナモメータMの加速度aを演算するものである。具体的に、この加速度演算手段4は、試験車両Sの加速力Fを試験車両Sの慣性質量mで除算する演算処理によってダイナモメータMの加速度aを求めるものである。
駆動ローラ加速力演算手段5は、加速度演算手段4で求めたダイナモメータMの加速度aとダイナモメータMの慣性質量mDとに基づいて駆動ローラX11の加速力mDaを演算するものである。具体的に、この駆動ローラ加速力演算手段5は、ダイナモメータMの加速度aにダイナモメータMの慣性質量mDを乗算する演算処理によって駆動ローラX12の加速力mDaを求めるものである。
ダイナモメータトルク指令生成手段6は、駆動ローラ加速力演算手段5で求めた駆動ローラX12の加速力mDaと駆動タイヤ推定駆動力演算手段2で求めたタイヤの推定駆動力(駆動タイヤ推定駆動力FT)との差分値と、駆動ローラX12の半径RDとに基づく演算処理によって走行トルクと電気慣性トルクとを含むトルク指令TLEを生成するものである。具体的に、このダイナモメータトルク指令生成手段6は、駆動ローラX12の加速力mDaと駆動タイヤ推定駆動力FTとの差分値に駆動ローラX12の半径RDを乗算する演算処理によって、走行抵抗トルクと電気慣性トルクとを含むトルク指令TLEを生成するものである。なお、シャシーダイナモメータX自体に機械損失(メカロス)があり、これによる減速を防止するため、本実施形態では、ダイナモメータトルク指令生成手段6において、走行抵抗トルクと電気慣性トルクからなるトルク指令TLEに、メカロスに相当するトルクを加算したトルク指令TDを生成するように構成している。
ダイナモメータ電流制御手段7は、ダイナモメータトルク指令生成手段6で生成したトルク指令TLEに基づいてダイナモメータMの電流IDを制御(交流電流制御:ACR)するものである。
ここで、試験車両Sの加速力Fは以下の運動方程式で表すことができる。
F=FT−FL=ma=(mD+mE)a
上記式において、FTはタイヤ駆動力であり、FLは試験車両Sの走行抵抗であり、mDはシャシーダイナモメータの慣性質量であり、mEは電気慣性である。タイヤ駆動力FTはシャシーダイナモメータXのローラ表面に作用し、シャシーダイナモメータXの慣性質量mDを駆動する力となる。試験車両Sの慣性質量mとの差分m−mD=mEをシャシーダイナモメータXが電気制御により模擬し、走行抵抗FLに相当する力をシャシーダイナモメータXが電気制御により吸収する。したがって、シャシーダイナモメータXの電気制御における指令は走行抵抗FLと電気慣性mEに相当する力mE・aになり、これらの合力FL+mE・aが下式で表すことができる。なお、「−」は合力FL+mE・aがタイヤ駆動力FTを吸収する吸収力となることを意味する。
FT−FL=(mD+mE)a
FT−mDa=FL+mEa
mDa−FT=−FL−mEa
このような式に着目し、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、走行抵抗FLと電気慣性mEを電気制御により模擬するように構成したものである。したがって、ダイナモメータMのトルク指令TLEは以下の式で表すことができる。
TLE=(−FL−mEa)RD=(mDa−FT)RD
ここで、RDは駆動ローラX12の半径RDである。すなわち、ダイナモメータトルク指令生成手段6では、駆動ローラ加速力演算手段5で求めた駆動ローラX1の加速力mDaと駆動タイヤ推定駆動力演算手段2で求めたタイヤの推定駆動力(駆動タイヤ推定駆動力)FTとの差分値である「mDa−FT」に、駆動ローラX12の半径RDを乗算することによってトルク(Nm)に換算した値「(mDa−FT)RD」をトルク指令TLEとして生成し、このトルク指令TLEに基づいてダイナモメータMの電流IDを制御することによって、ダイナモメータMのトルク制御を適切に行うことができる。
次に、図4及び図34を参照しながら、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXによって試験車両Sを目標速度で走行させる際の処理手順について説明する。
先ず、試験車両Sの後輪S2を後ローラX12に載置し、試験車両Sを目標速度で走行させるべくダイナモメータMを駆動させる。この状態で、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、ダイナモメータMに関連付けて設けたトルク検出部(揺動トルク検出部)及び回転速度検出部によって検出したダイナモメータMの検出トルクTD及び検出回転速度ωDに基づいて、駆動タイヤ推定トルク演算手段1によってタイヤ推定トルクを求める(駆動タイヤ推定トルク演算ステップP31)。次いで、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、駆動タイヤ推定駆動力演算手段2によって、駆動タイヤ推定トルク演算ステップP31で求めたタイヤ推定トルクを駆動ローラX12の半径RDで除算して駆動タイヤ推定駆動力FTを求める(駆動タイヤ推定駆動力演算ステップP32)。
引き続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、車両加速力演算手段3によって、駆動タイヤ推定駆動力演算ステップP32で求めた駆動タイヤ推定駆動力FTから、車速に基づいて設定された走行抵抗FLを減算して試験車両Sの加速力Fを求める(車両加速力演算ステップP33)。次に、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、加速度演算手段4によって、車両加速力演算ステップP33で求めた試験車両Sの加速力Fを試験車両Sの慣性質量mで除算してダイナモメータMの加速度aを求める(加速度演算ステップP34)。
加速度演算ステップP34に続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、駆動ローラ加速力演算手段5によって、加速度演算ステップP34で求めたダイナモメータMの加速度aにダイナモメータMの慣性質量mDを乗算して駆動ローラX12の加速力mDaを求める(駆動ローラ加速力演算ステップP35)。引き続いて、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、ダイナモメータトルク指令生成手段6によって、先ず駆動ローラ加速力演算ステップP35で求めた駆動ローラX11の加速力mDaと駆動タイヤ推定駆動力演算手段2で求めた駆動タイヤ推定駆動力FTとの差分値を求め、この差分値に駆動ローラX12の半径RDを乗算して、走行抵抗トルクと電気慣性トルクとの合計値であるトルク指令TLEを生成する(ダイナモメータトルク指令生成ステップP36)。本実施形態では、上述したようにシャシーダイナモメータX自体の機械損失(メカロス)による減速を防止するため、ダイナモメータトルク指令生成ステップP36では、メカロスに相当するトルクをトルク指令TLEに加算したトルク指令TDを生成する。そして、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、ダイナモメータ電流制御手段7によって、ダイナモメータトルク指令生成ステップP36で生成したトルク指令TDに基づいてダイナモメータMの電流IDを制御する(ダイナモメータ電流制御ステップP37)。なお、トルク指令TDの極性が「+」であれば駆動ローラX12を正転方向Aに加速(駆動)する一方、トルク指令TDの極性が「−」であれば駆動ローラX12を逆転方向Bに加速(吸収)する(図31参照)。
以上の演算処理を行うことによって、本実施形態のシャシーダイナモメータXは、試験車両Sの加速力Fに相当する走行抵抗トルク及び電気慣性トルクを含むトルク指令TLEに基づいてダイナモメータMのトルク制御を適切に行うことができ、電気制御による適切な模擬試験状態を実現することができる。しかも、本実施形態に係るシャシーダイナモメータXは、応答性の低下を招来し得る微分演算を必要としていないため、即応性に優れたものである。
なお、上述したシャシーダイナモメータXの第1変形例として図7に示す態様を挙げることができる。
この第1変形例に係るシャシーダイナモメータXは、第4実施形態として例示したシャシーダイナモメータXと比較して、制御部Cが、上述の各手段に加えて、加速度演算手段4で求めたダイナモメータMの加速度aを積分して試験車両Sの車速Vを求める車速演算手段8と、車速演算手段8で求めた試験車両Sの車速Vを駆動ローラX12の半径RDで除算して回転速度指令ωDを求める回転速度指令演算手段9と、回転速度指令演算手段9で求めた回転速度指令ωDとダイナモメータMの検出回転速度ωDとに基づく偏差増幅演算により同期トルクTωを求める同期トルク演算手段10とを備えている点、及びダイナモメータトルク指令生成手段6が、走行抵抗トルク及び電気慣性トルクと同期トルク演算手段10で求めた同期トルクTωとを含むトルク指令TLEを生成するものである点で異なる。
通常、ダイナモメータMの機械慣性は車両慣性よりも小さいため、タイヤの駆動力が急激に変化すると実車両よりも速度変動が僅かに大きくなる。このような事象は、駆動タイヤ推定駆動力手段2の応答が十分に高ければ特に問題とはならないが、第1変形例に係るシャシーダイナモメータXであれば、速度制御(ASR)を内在するものとなり、応答精度をより一層高めることができ、タイヤの駆動力が急激に変化した場合にも実車両と同等の速度変動を実現することができる。また、この第1変形例に係るシャシーダイナモメータXにおいても、微分処理は行わないため、応答性は良好である。
また、第4実施形態のシャシーダイナモメータXのさらに異なる変形例(第2変形例)として、図8に示す態様を挙げることができる。
この第2変形例に係るシャシーダイナモメータXは、上述したシャシーダイナモメータXと比較して、ダイナモメータトルク指令生成手段6が、トルク指令TDとダイナモメータMの検出トルクTDとに基づく偏差増幅演算(例えば比例積分演算)により最終トルク指令を生成するものであり、ダイナモメータ電流制御手段7が、最終トルク指令に基づいてダイナモメータMの電流IDを制御するものである点のみが異なる。
具体的には、ダイナモメータトルク指令生成手段6は、上述した手順により走行抵抗トルクと電気慣性トルクとの和であるトルク指令TDと、ダイナモメータMの検出トルクTDとの差分値を偏差増幅演算(例えば比例積分演算)した値を、トルク指令TDに含ませた(加えた)指令を最終トルク指令として生成し、ダイナモメータ電流制御手段7に出力するものである。そして、ダイナモメータ電流制御手段7が、このような最終トルク指令に基づいてダイナモメータMの電流IDを制御することにより、検出トルクTD(検出揺動トルク)をフィードバック制御可能なトルク制御(ATR)を備えた態様となり、制御精度が向上する。この第2変形例に係るシャシーダイナモメータXにおいても、微分処理は不要であるため、応答性は良好である。
また、図9に示すように、第1変形例と第2変形例とを組み合わせたシャシーダイナモメータXを実現することもできる。
また、上述した第4実施形態及びその変形例(第1変形例、第2変形例)では、試験車両Sの後輪S2を後ローラX12に載置し、後ローラX12のみを単一の駆動ローラとしてダイナモメータMに連結した態様を例示したが、試験車両Sの駆動タイヤが後輪S2ではなく、前輪S1であれば、前輪を載置する前ローラ(図示省略)を単一の駆動ローラとしてダイナモメータMに連結したシャシーダイナモメータXを構成してもよい。
また、左右一対のタイヤ2本のみを有する車両(例えば立ち乗り二輪車と称されるもの)が試験車両である場合に、左右一対のタイヤの少なくとも一方が他方とは独立して駆動可能(共通の車軸に連結されていない)な構成であれば、駆動可能な一方のタイヤを駆動タイヤとし、この駆動タイヤを載置するローラを単一の駆動ローラとし、この駆動ローラに連結した単一のダイナモメータを備えた本発明のシャシーダイナモメータを構成することができる。また、試験車両が、左右一対のタイヤを有する二輪車(例えば立ち乗り二輪車)である場合、左右一対のタイヤが共通の車軸(シャフト)の両端部に取り付けられ且つ一体回転可能な構成であれば、本発明のシャシーダイナモメータは、これら左右一対のタイヤを駆動タイヤとし、これら駆動タイヤを個別に載置する左右一対のローラを駆動ローラとし、これら駆動ローラ同士を連結する単一のダイナモメータを備えた構成にすることもできる。
また、タイヤを3本以上有し、そのうち1本のタイヤのみが他のタイヤから独立して駆動可能な駆動タイヤである車両を試験車両とした場合には、駆動タイヤを載置するローラを単一の駆動ローラとして単一のダイナモメータに連結したシャシーダイナモを構成してもよい。
また、試験車両が、タイヤを3本以上有し、そのうち共通の車軸に取り付けた複数本のタイヤを共通の車軸周りに一体回転可能に構成したものである場合、共通の車軸に取り付けた複数本のタイヤを駆動タイヤとし、これら各駆動タイヤを載置するそれぞれのローラを駆動ローラとして単一のダイナモメータに連結したシャシーダイナモを構成してもよい。そして、この場合の単一のダイナモメータの駆動制御は、第1実施形態または第4実施形態で示した何れの駆動制御によっても実現することができる。
或いは、1本のタイヤのみを備えた車両を試験車両とした場合には、その単一のタイヤを載置するローラを単一の駆動ローラとして単一のダイナモメータに連結したシャシーダイナモを構成することも可能である。
また、試験車両が、他のタイヤから独立して駆動可能なタイヤ(単独駆動タイヤ)と、共通の車軸周りに一体回転駆動可能に連結されたタイヤ(車軸連結駆動タイヤ)とを備えた車両である場合には、単独駆動タイヤを載置する駆動ローラに連結したダイナモメータと、車軸連結駆動タイヤを載置する一対の駆動ローラに連結したダイナモメータとを備えたシャシーダイナモメータを構成すればよく、これら各ダイナモメータの駆動制御は、上述の第2実施形態及び第3実施形態で示した構成及び制御に準じた構成及び制御によって行うことができる。
また、上述した各実施形態及び各変形例において、タイヤ推定トルク演算手段,個別駆動タイヤ推定トルク演算手段,駆動タイヤ推定トルク演算手段、これらタイヤ推定トルク演算手段は、図6に示すタイヤトルク(駆動力)の推定原理に基づいてタイヤ推定トルク(駆動タイヤ推定トルク)を演算するものである。ここで、図6ではダイナモトルクTDの極性とタイヤトルクTTの極性を逆に定義(タイヤトルクTT及びタイヤ推定トルクTT0はダイナモトルクと逆極性に定義)している。
一方、本発明におけるタイヤ推定トルク演算手段(個別駆動タイヤ推定トルク演算手段,駆動タイヤ推定トルク演算手段も含む)として、図35に示すタイヤトルク(駆動力)の推定原理に基づいてタイヤ推定トルク(駆動タイヤ推定トルク)を演算するものを適用することができる。図35に示すタイヤトルクの推定原理図は、図6に示すタイヤトルクの推定原理図と比較して、タイヤトルクTT及びタイヤ推定トルクTT0の極性をダイナモトルクTDの極性と同じにしている(ダイナモトルクの極性「+」をタイヤトルクの正転(前進)加速方向に定義している)点で異なる。
図35において、TDはダイナモトルク[Nm]であり、TTはタイヤトルク[Nm](ダイナモ軸換算)であり、TT0はタイヤ推定トルク[Nm](ダイナモ軸換算)であり、JDはダイナモ慣性モーメント[kgm2](ローラの慣性含む)であり、JD0はダイナモ慣性モーメント[kgm2](ローラの慣性含む)(オブザーバ設定値)であり、ωDはダイナモ速度[rad/s]であり、ωD0はダイナモ推定速度[rad/s]であり、Gはオブザーバゲイン[Nm/(rad/s)]である。そして、以下の式(11)乃至式(13)で表す伝達関数に基づいて、式(11)に式(12)(13)を代入すると以下の式(14)となる。
そして、式(14)において、T
D=0とし、伝達関数の形、つまりT
T0/T
Tに整理すると以下の式(15)となる。
この式(15)はGが定数の場合、時定数τでJ
D0/J
Dに収束する一次遅れの特性となる。つまり、オブザーバのJ
D0に実機(シャシーダイナモメータX)の慣性モーメントJ
Dを設定することにより、タイヤトルクT
Tを推定することが可能となる。また、上記式より、タイヤ推定トルクT
T0の精度はオブザーバに設定したダイナモ慣性モーメントJ
D0精度に支配され、応答は時定数τ(換言するとオブザーバゲインG)に支配される。
そして、式(14)においてT
T=0とし、伝達関数の形、つまりT
T0/T
Dに整理すると以下の式(16)となる。
この式(16)は、タイヤトルクT
T=0(シャシーダイナモ単体)の場合、J
D0=J
Dに調整できれば、ダイナモトルクT
Dを発生させてもタイヤ推定トルクT
T0はゼロとなることを意味する。
以上より、シャシーダイナモ単体でダイナモトルクT
Dを発生させ、タイヤ推定トルクT
Toがゼロになるようにオブザーバのダイナモ慣性モーメントJ
D0を調整する。具体的には、ダイナモトルクT
Dに正トルクを指示して、タイヤ推定トルクT
T0に正トルクが現れる場合、J
D0>J
DであるためJ
D0を小さくし、ダイナモトルクT
Dに正トルクを指示して、タイヤ推定トルクT
T0に負トルクが現れる場合、J
D0<J
DであるためJ
D0を大きくする。また、ダイナモトルクT
Dに負トルクを指示して、タイヤ推定トルクT
T0に正トルクが現れる場合、J
D0<J
DであるためJ
D0を大きくし、ダイナモトルクT
Dに負トルクを指示して、タイヤ推定トルクT
T0に負トルクが現れる場合、J
D0>J
DであるためJ
D0を小さくする。以上の方法でダイナモ慣性モーメントJ
D0を調整することができる。
また、式(15)は、上述の式(5)と同じである。したがって、式(5)を利用したタイヤトルク(駆動力)の推定原理に基づいてタイヤ推定トルク(駆動タイヤ推定トルク)を演算する上述の各実施形態及び各変形例におけるタイヤ推定トルク演算手段,個別駆動タイヤ推定トルク演算手段,駆動タイヤ推定トルク演算手段、これらタイヤ推定トルク演算手段でも、式(16)を利用し、上述の方法でダイナモ慣性モーメントJ
D0を調整することができる。
図36は、図35に示すタイヤトルクの推定原理を用いてタイヤ推定トルクを演算するタイヤ推定トルク演算手段(個別駆動タイヤ推定トルク演算手段,駆動タイヤ推定トルク演算手段)を備えたシャシーダイナモメータのブロック線図の一例を図4(第1実施形態に係るシャシーダイナモメータのブロック線図)に対応させて示す図である。タイヤトルクの極性とダイナモトルクの極性とを同じにしたことにより、タイヤ推定トルク演算手段(オブザーバ)において、タイヤトルクの極性とダイナモトルクの極性が逆であれば必要な「オブザーバのタイヤ推定トルクTT0に「−1」を乗算する」処理が不要となる。なお、図4以外の各実施形態やそれらの変形例に係るシャシーダイナモメータのブロック線図(具体的には、図7乃至図9、図12、図14乃至図16、図22、図23、図25乃至図30)において符号1、11、12、13、14の何れかを付したタイヤ推定トルク演算手段(個別駆動タイヤ推定トルク演算手段,駆動タイヤ推定トルク演算手段)もまた、図35に示すタイヤトルク(駆動タイヤトルク)の推定原理を用いてタイヤ推定トルク(駆動タイヤ推定トルク)を演算するものであれば、「オブザーバのタイヤ推定トルクTT0に「−1」を乗算する」処理が不要になり、図36に準じたブロック線図で示すことができる(図示省略)。
また、上述した第3実施形態及び第4実施形態の各変形例(第1変形例、第2変形例、第1変形例と第2変形例とを組み合わせた変形例)における同期トルク演算手段として、回転速度指令演算手段9で求めた回転速度指令ωDとダイナモメータMの検出回転速度ωDとに基づく比例演算、或いは一次遅れのゲインを高く設定した演算など、比例積分演算以外の偏差増幅演算により同期トルクTωを求める構成を採用することができる。これと同様に、第3実施形態及び第4実施形態における第2変形例、及び第1変形例と第2変形例とを組み合わせた変形例におけるトルク指令生成手段が、トルク指令TDとダイナモメータMの検出トルクTDとに基づく比例演算、或いは一次遅れのゲインを高く設定した演算など、比例積分演算以外の偏差増幅演算により最終トルク指令を生成するものであってもよい。
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。