JP2013129351A - 車両のスタビリティファクタ推定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】路面の摩擦係数の如何に関係なく、スタビリティファクタを高精度に推定すること。
【解決手段】車両の旋回時の走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算する(S20〜90、S110〜160)車両のスタビリティファクタ推定装置であって、操舵輪のスリップ角及び操舵輪の横力の一方の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比が基準範囲内であるか否かを判定することにより(S100)、操舵輪のスリップ角及び操舵輪の横力の一方に対するセルフアライニングトルクの関係が線形である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算する(S150)。
【選択図】図2

Description

本発明は、車両のスタビリティファクタを推定する装置に係り、更に詳細には車両の走行データに基づいて車両のスタビリティファクタを推定する装置に係る。
車両が旋回する際の走行データに基づいて車両のスタビリティファクタを推定するスタビリティファクタ推定装置は既に知られている。例えば下記の特許文献1には、車両の走行データに基づいてスタビリティファクタの初期値に対する誤差を演算し、スタビリティファクタの初期値と演算された誤差との和としてスタビリティファクタを推定する装置が記載されている。また下記の特許文献2には、車両の規範ヨーレートに対し一次遅れの関係にある車両の過渡ヨーレートと車両の実ヨーレートとの偏差と車両の横加速度との関係に基づいて車両のスタビリティファクタを推定する装置が記載されている。
特開2005−255107号公報 国際公開第2011/036820号公報
〔発明が解決しようとする課題〕
車両のスタビリティファクタは車両の重量、車両の重心位置、前後輪のコーナリングパワーによって決定される。乗車人員や積載荷物等の積載荷重の変動がなければ、車両の重量や車両の重心位置は変化しない。よって積載荷重の変動がなければ、車両のスタビリティファクタは原則として変化しない。
一方、操舵輪のスリップ角と車両の横方向の路面の摩擦係数との関係は、図19に示されている如く走行路の状況によって異なる。図19より解る如く、路面の摩擦係数が低い場合には操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数の関係はスリップ角が小さい領域に於いても非線形になる。そのため図19のグラフの傾きに対応する操舵輪の等価コーナリングパワーも操舵輪のスリップ角に対し非線形になる。このことは前後輪のコーナリングパワーが操舵輪のスリップ角によって変化することと等価であるので、路面の摩擦係数が低い場合には操舵輪のスリップ角の変化によって車両のスタビリティファクタが変動することを意味する。従って従来のスタビリティファクタ推定装置に於いては、路面の摩擦係数の如何によって走行データに基づく車両のスタビリティファクタの推定精度が悪化することが避けられない。
本発明の主要な目的は、路面の摩擦係数の如何に関係なく従来のスタビリティファクタ推定装置に比してスタビリティファクタを高精度に推定することができるよう改善された車両のスタビリティファクタ推定装置を提供することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
本発明によれば、車両の旋回時の走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算する車両のスタビリティファクタ推定装置に於いて、操舵輪のスリップ角及び操舵輪の横力の一方に対するセルフアライニングトルクの関係が線形である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算することを特徴とする車両のスタビリティファクタ推定装置が提供される。
この構成によれば、操舵輪のスリップ角及び操舵輪の横力の一方に対するセルフアライニングトルクの関係が線形である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値が演算される。従って上記関係が非線形である状況に於ける走行データに基づいて不正確なスタビリティファクタの推定値が演算されることを防止し、これにより路面の摩擦係数の如何に関係なくスタビリティファクタを高精度に推定することができる。
また上記構成によれば、路面の摩擦係数を検出したり推定したりすることを要することなく、上記関係が非線形である状況に於ける走行データに基づいて不正確なスタビリティファクタの推定値が演算されることを防止することができる。
上記構成に於いて、操舵輪のスリップ角及び操舵輪の横力の一方の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比が基準範囲内であるか否かを判定し、前記関係が基準範囲内である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算するようになっていてよい。
この構成によれば、操舵輪のスリップ角及び操舵輪の横力の一方の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比が基準範囲内である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値が演算される。従って上記関係が基準範囲外である状況に於ける走行データに基づいて不正確なスタビリティファクタの推定値が演算されることを防止し、これによりスタビリティファクタを高精度に推定することができる。
また上記構成に於いて、車両の横加速度の大きさが予め設定された上限基準値以下である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算するようになっていてよい。
上述の図19に示された関係が線形である領域に於ける路面の摩擦係数μyの最大値は、操舵輪のスリップ角と車両の横加速度Gyとの関係が線形をなす領域に於ける車両の横加速度Gyの最大値に対応している。よってこの最大値に基づいて上限基準値を設定することにより、操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが線形の関係をなす領域に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算することができる。
上記構成によれば、車両の横加速度の大きさが予め設定された上限基準値以下である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値が演算される。従って上限基準値を上記最大値又はそれ以下の値に設定することにより、操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが線形の関係をなす領域に於ける走行データに基づいて正確なスタビリティファクタの推定値を演算することができる。
また上記構成に於いて、旋回中の車両の横加速度の大きさの最大値が予め設定された推定回避基準値未満であるときには、車両のスタビリティファクタの推定値を前回の旋回時に演算された値に戻すようになっていてよい。
路面の摩擦係数が極端に低い状況に於いては、車両の横加速度の大きさが予め設定された上限基準値以下であっても操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが非線形の関係をなす場合がある。このような状況に於いては旋回中の車両の横加速度の大きさが大きい値にならない。よって旋回中の車両の横加速度の大きさの最大値が予め設定された推定回避基準値未満であるときには、操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが非線形の関係をなす場合の可能性がある。
上記構成によれば、旋回中の車両の横加速度の大きさの最大値が予め設定された推定回避基準値未満であるときには、車両のスタビリティファクタの推定値が前回の旋回時に演算された値に戻される。従って操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが非線形の関係をなす場合にも、その状況に於いて演算された推定値がスタビリティファクタの推定値とされることを防止することができる。
また上記構成に於いて、旋回中に車両の走行データを記憶し、旋回終了時に旋回中に於ける車両の横加速度の大きさの最大値を求め、前記最大値に基づいて上限基準値を設定し、記憶されている走行データのうち車両の横加速度の大きさが前記上限基準値以下である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算するようになっていてよい。
この構成によれば、旋回中に車両の走行データが記憶され、旋回終了時に旋回中に於ける車両の横加速度の大きさの最大値が求められ、その最大値に基づいて上限基準値が設定される。そして記憶されている走行データのうち車両の横加速度の大きさが上限基準値以下である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値が演算される。
従って上限基準値を上記最大値又はそれ以下の値に設定することにより、操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが線形の関係をなす領域に於ける走行データに基づいて正確なスタビリティファクタの推定値を演算することができる。
上記構成によれば、旋回中に於ける車両の横加速度の大きさの最大値に基づいて上限基準値が可変設定される。従って路面の摩擦係数や操舵輪の路面に対するグリップ性能が変化してもそれに応じて上限基準値を適値に設定することができる。
また上記構成に於いて、旋回中の車両の横加速度の大きさの最大値が予め設定された推定回避基準値未満であるときには、車両のスタビリティファクタの推定値を演算しないようになっていてよい。
この構成によれば、旋回中の車両の横加速度の大きさの最大値が予め設定された推定回避基準値未満であるときには、車両のスタビリティファクタの推定値は演算されない。従って操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが非線形の関係をなす場合に、その状況に於いてスタビリティファクタの推定値が演算されることを防止することができる。
また上記構成に於いて、車両の規範ヨーレートに対し一次遅れの関係にある車両の過渡ヨーレートと車両の実ヨーレートとの偏差の指標値をヨーレート偏差指標値として、第一の所定周波数以下の成分が除去された車両の横加速度と、第二の所定周波数以下の成分が除去されたヨーレート偏差指標値との関係に基づいて車両のスタビリティファクタを推定するようになっていてよい。
車両の横加速度の検出値より所定周波数以下の成分を除去することにより、車両の横加速度を検出する検出手段の零点オフセットに起因する誤差の如き定常的な検出誤差を除去することができる。同様にヨーレート偏差指標値を演算するための値より所定周波数以下の成分を除去することにより、車両の状態量を検出する検出手段の零点オフセットに起因する誤差の如き定常的な検出誤差を除去することができる。
上記構成によれば、零点オフセットに起因する誤差の如き定常的な検出誤差を低減した車両の横加速度及びヨーレート偏差指標値に基づいてスタビリティファクタを推定することができ、これにより高い精度にてスタビリティファクタを推定することができる。
図13に示された車両の二輪モデルに於いて、車両の質量及びヨー慣性モーメントをそれぞれM及びIとし、車両の重心102と前輪車軸及び後輪車軸との間の距離をそれぞれLf及びLrとし、車両のホイールベースをL(=Lf+Lr)とする。また前輪100f及び後輪100rのコーナリングフォースをそれぞれFf及びFrとし、前輪及び後輪のコーナリングパワーをそれぞれKf及びKrとする。また前輪100fの実舵角をδとし、前輪及び後輪のスリップ角をそれぞれβf及びβrとし、車体のスリップ角をβとする。更に車両の横加速度をGyとし、車両のヨーレートをγとし、車速をVとし、車両のヨー加角速度(ヨーレートγの微分値)をγdとする。車両の力及びモーメントの釣合い等により下記の式1〜6が成立する。
MGy=Ff+Fr ……(1)
Iγd=LfFf−LrFr ……(2)
Ff=−Kfβf ……(3)
Fr=−Krβr ……(4)
βf=β+(Lf/V)γ−δ ……(5)
βr=β−(Lr/V)γ ……(6)
上記式1〜6より下記の式7が成立する。
Figure 2013129351
車速Vが実質的に一定であると仮定し、ラプラス演算子をsとして上記式7をラプラス変換し、ヨーレートγについて整理することにより、下記の式8〜10が成立し、よってこれらの式により規範ヨーレートγ(s)が求められる。
Figure 2013129351
上記式9のKhはスタビリティファクタであり、上記式10のTpは車速依存の時定数をもつ一次遅れ系の車速Vにかかる係数、即ち本明細書に於いて「操舵応答時定数係数」と呼ぶ係数である。これらの値は車両のヨー運動に関する操舵応答を特徴付けるパラメータであり、車両の旋回特性を示す。また上記式8は前輪の実舵角δ、車速V、横加速度Gyより車両のヨーレートγを演算する式である。この線形化モデルより演算されるヨーレートを過渡ヨーレートγtrとすると、過渡ヨーレートγtrは下記の式11にて表される定常規範ヨーレートγtに対する一次遅れの値である。
Figure 2013129351
よって上記構成に於いて、過渡ヨーレートγtrは上記式8に対応する下記の式12に従って演算されてよい。
Figure 2013129351
車両の定常旋回時に於ける定常規範ヨーレートγtと検出ヨーレートγとの偏差Δγtは、スタビリティファクタの設計値及び真の値をそれぞれKhde及びKhreとして、下記の式13により表わされる。
Figure 2013129351
上記式13の両辺にL/Vを掛けてヨーレート偏差Δγtを前輪の舵角の偏差Δδtに換算すると、前輪の舵角の偏差Δδtは下記の式14により表わされる。この前輪の舵角の偏差Δδtは定常規範ヨーレートγtと検出ヨーレートγとの偏差の指標値の一つであり、車速に依存しない。
Δδt=(Khre−Khde)GyL ……(14)
よって定常規範ヨーレートと実ヨーレートγとの偏差の指標値として、式14に従って前輪の舵角の偏差Δδtを演算することができる。
式14より、横加速度Gyに対する前輪の舵角の偏差Δδtの関係、換言すれば横加速度Gy及び前輪の舵角の偏差Δδtの直交座標系に於ける両者の関係の勾配(Khre−Khde)Lを最小二乗法等により求めることにより、下記の式15に従ってスタビリティファクタの推定値Khpを求めることができることが解る。
Khp=Khde+勾配/L ……(15)
また車両のヨーレートγ、横加速度Gy、前輪の舵角δについてセンサの零点オフセットの誤差をそれぞれγ0、Gy0、δ0とすると、車両のヨーレート、横加速度、前輪の舵角の検出値はそれぞれγ+γ0、Gy+Gy0、δ+δ0である。よって車両の定常旋回時に於ける定常規範ヨーレートγtと検出ヨーレートとの偏差Δγtは下記の式16により表わされる。
Figure 2013129351
上記式16の両辺にL/Vを掛けてヨーレート偏差Δγtを前輪の舵角の偏差Δδtに換算すると、前輪の舵角の偏差Δδtは下記の式17により表わされる。下記の式17により表わされる車両の横加速度Gyと前輪の舵角の偏差Δδtとの関係は、図12に示される通りである。
Figure 2013129351
上記式17に於けるδ0−KhdeGy0Lは定数であるが、γ0L/Vは車速Vに応じて変化する。よって図141に示されたグラフの縦軸の切片が車速Vによって変化する。従って車両のヨーレートγの検出値にセンサの零点オフセットの誤差が含まれている場合には、横加速度Gyに対する前輪の舵角の偏差Δδtの関係が車速によって変化するため、スタビリティファクタを精度よく推定することができない。
またスタビリティファクタの推定精度を高くするためには、車速毎にスタビリティファクタを推定する等の対策が必要である。従ってスタビリティファクタの推定に必要なヨーレートγ等のデータが膨大になり、旋回特性推定装置の演算負荷が過大になると共に、スタビリティファクタの推定に長い時間を要するという問題がある。
ここで第一の所定周波数以下の成分が除去された車両の横加速度をGyftとし、第二の所定周波数以下の成分が除去された前輪の舵角の偏差をΔδtftとする。第一及び第二の所定周波数が車速Vに変化に伴うγ0L/Vの変化速度よりも十分に高い値であれば、Gyftには誤差Gy0は含まれておらず、Δδtftにも誤差γ0、δ0に起因する誤差は含まれていない。従って上記式14に対応する下記の式18が成立する。下記の式18により表わされる車両の横加速度Gyftと前輪の舵角の偏差Δδtftとの関係は、図12に示される通りであり、式18の直線は車速Vに関係なく原点を通る。
Δδtft=(Khre−Khde)GyftL ……(18)
よって横加速度Gyftに対する前輪の舵角の偏差Δδtftの関係、換言すれば横加速度Gyft及び前輪の舵角の偏差Δδtftの直交座標系に於ける両者の関係の勾配(Khre−Khde)Lを求め、上記式15に従ってスタビリティファクタの推定値Khpを求めることにより、センサの零点オフセットの誤差の影響を受けることなくスタビリティファクタの推定値Khpを求めることができる。
よって上記構成に於いて、横加速度Gyftに対する前輪の舵角の偏差Δδtftの比を勾配として上記式15に従ってスタビリティファクタの推定値が演算されてよい。
図16乃至図18は時系列波形X、時系列波形Y、及びXとYとのリサージュ波形を示すグラフである。特に図16は二つの時系列波形X及びYに位相差がない場合を示し、図17は時系列波形Yの位相が時系列波形Xの位相よりも遅れている場合を示し、図18は時系列波形Yの位相が時系列波形Xの位相よりも進んでいる場合を示している。特に図17及び18に於いて、太い一点鎖線はXの積算値とYの積算値とのリサージュ波形を示している。
図16乃至図18より、Xの積算値に対するYの積算値の比によれば、二つの時系列波形X及びYに位相差がある場合にもその影響を低減して比Y/Xを求めることができることが解る。
よって上記構成に於いて、横加速度Gyftの積算値Gyftaに対する前輪の舵角の偏差Δδtftの積算値Δδtftaの比を勾配として、上記式15に従ってスタビリティファクタの推定値が演算されてよい。
尚以上に於いては車両の定常旋回時について説明したが、車両の過渡旋回時については前輪の舵角の偏差Δδtft及びその積算値Δδtftaに対し一次遅れのフィルタ処理が行われると共に、横加速度Gyft及びその積算値Gyftaに対し一次遅れのフィルタ処理が行われる。その場合一次遅れのフィルタ処理の時定数を同一にすることにより、一次遅れのフィルタ処理後の値に基づいて車両の定常旋回時の場合と同様に勾配を演算し、上記式15に従ってスタビリティファクタの推定値を演算することができる。
また上記構成に於いて、ハイパスフィルタ処理によって車両の横加速度より第一の所定周波数以下の成分が除去され、ハイパスフィルタ処理によってヨーレート偏差指標値より第二の所定周波数以下の成分が除去されてよい。
また上記構成に於いて、第一及び第二の所定周波数は同一の周波数であってよい。
また上記構成に於いて、車速をVとし、車両のホイールベースをLとして、車両の過渡ヨーレートと車両の実ヨーレートとの偏差にL/Vが乗算されることにより、車両の過渡ヨーレートと車両の実ヨーレートとの偏差を前輪の舵角の偏差に換算した値が演算されてよい。
本発明によるスタビリティファクタ推定装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。 第一の実施形態に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンを示すフローチャートである。 前輪のスリップ角αと前輪の横力Fywf及びセルフアライニングトルクSATとの関係を示すグラフである。 前輪の横力FywfとセルフアライニングトルクSATとの関係を示すグラフである。 本発明によるスタビリティファクタ推定装置の第二の実施形態に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンの要部を示すフローチャートである。 本発明によるスタビリティファクタ推定装置の第三の実施形態に於けるヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaの演算ルーチンを示すフローチャートである。 本発明によるスタビリティファクタ推定装置の第三の実施形態に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンを示すフローチャートである。 車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxと上限基準値Gy2の補正量ΔGy2との関係を示すグラフである。 第一の修正例に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンの要部を示すフローチャートである。 操舵周波数fsとハイパスフィルタ処理のカットオフ周波数fhcとの関係を示すグラフである。 第二の修正例に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンの要部を示すフローチャートである。 操舵周波数fsとハイパスフィルタ処理のカットオフ周波数fhcと車両の前後加速度Gxの絶対値との関係を示すグラフである。 スタビリティファクタを推定するための車両の二輪モデルを示す説明図である。 車両の横加速度Gyと前輪の舵角の偏差Δδtとの関係を示すグラフである。 第一の所定周波数以下の成分が除去された車両の横加速度Gyftと第二の所定周波数以下の成分が除去された前輪の舵角の偏差Δδtftとの関係を示すグラフである。 二つの時系列波形X及びYに位相差がない場合について、二つの時系列波形X、Y、及びXとYとのリサージュ波形を示すグラフである。 時系列波形Yの位相が時系列波形Xの位相よりも遅れている場合について、二つの時系列波形X、Y、及びXとYとのリサージュ波形を示すグラフである。 時系列波形Yの位相が時系列波形Xの位相よりも進んでいる場合について、二つの時系列波形X、Y、及びXとYとのリサージュ波形を示すグラフである。 種々の路面の摩擦係数について操舵輪のスリップ角と車両の横方向の路面の摩擦係数との関係を示すグラフである。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい幾つかの実施形態について詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は本発明によるスタビリティファクタ推定装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
図1に於いて、50は車両10の運動制御装置を全体的に示しており、本発明によるヨーレート推定装置は運動制御装置50の一部をなしている。車両10は左右の前輪12FL及び12FR及び左右の後輪12RL及び12RRを有している。操舵輪である左右の前輪12FL及び12FRは運転者によるステアリングホイール14の転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置16によりタイロッド18L及び18Rを介して操舵される。
各車輪の制動力は制動装置20の油圧回路22によりホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路22はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ28により制御され、また必要に応じて後に説明する如く電子制御装置30により制御される。
マスタシリンダ28にはマスタシリンダ圧力Pm、即ちマスタシリンダ内の圧力を検出する圧力センサ32が設けられ、ステアリングホイール14が連結されたステアリングコラムには操舵角θを検出する操舵角センサ34が設けられている。圧力センサ32により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号及び操舵角センサ34により検出された操舵角θを示す信号は電子制御装置30に入力される。
また車両10にはそれぞれ車両の実ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ36、車両の前後加速度Gxを検出する前後加速度センサ38、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサ40、車速Vを検出する車速42が設けられている。ヨーレートセンサ36により検出された実ヨーレートγを示す信号等も電子制御装置30に入力される。尚操舵角センサ34、ヨーレートセンサ36及び横加速度センサ40は車両の左旋回方向を正としてそれぞれ操舵角、実ヨーレート及び横加速度を検出する。
尚図には詳細に示されていないが、電子制御装置30は例えばCPUとROMとEEPROMとRAMとバッファメモリと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のマイクロコンピュータを含んでいる。ROMは規範ヨーレートγtの演算に使用されるスタビリティファクタKh及び操舵応答時定数係数Tpのデフォルト値Kh00及びTp00を記憶している。これらのデフォルト値は車両の出荷時に車両毎に設定される。またEEPROMはスタビリティファクタKhの推定値等を記憶し、スタビリティファクタKhの推定値等は後に詳細に説明する如く車両が旋回状態にあるときの車両の走行データに基づいて演算されることによって適宜更新される。
また図1に示されている如くエンジン制御装置44にはアクセルペダル46に設けられたアクセル開度センサ48よりアクセル開度Accを示す信号が入力される。エンジン制御装置44はアクセル開度Accに基づいてエンジン(図示せず)の出力を制御し、また必要に応じて電子制御装置30との間にて信号の授受を行う。尚エンジン制御装置44も例えばCPU、ROM、RAM、入出力ポート装置を含む一つのマイクロコンピュータ及び駆動回路にて構成されていてよい。
電子制御装置30は、後述の如く図2に示されたフローチャートに従い、車両が旋回を開始すると、操舵角の如き旋回走行データに基づいて定常規範ヨーレートγtを演算する。そして電子制御装置30は、定常規範ヨーレートγtに対し操舵応答時定数係数Tpによる一次遅れのフィルタ演算を行うことにより、一次遅れの過渡ヨーレートγtrを演算する。また電子制御装置30は、過渡ヨーレートγtrと車両の実ヨーレートγとの偏差γtr−γを前輪の舵角の偏差に置き換えたヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδを演算する。
また電子制御装置30は、車両の横加速度Gyに対し操舵応答時定数係数Tpによる一次遅れのフィルタ演算を行うことにより、一次遅れのフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftを演算する。そして電子制御装置30は、車両の横加速度Gyft及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδに基づき、バンドパスフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftbpf及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfを演算する。
また電子制御装置30は、ヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaを演算し、積算値の比Δδa/ΔGyaを演算する。また電子制御装置30は、定常規範ヨーレートγtの演算に供されたスタビリティファクタKhの初期値と、積算値の比Δδa/ΔGyaに基づく修正量との和としてスタビリティファクタKhの推定値を演算する。そして電子制御装置30は、予め設定された条件が成立しているときにスタビリティファクタKhの推定値をEEPROMに記憶する。
操舵輪としての前輪のスリップ角αに対する前輪の横力Fywf及びセルフアライニングトルクSATは図3に示された関係を有している。図3より解る如く、前輪のスリップ角αに対するセルフアライニングトルクSATの関係が線形であるスリップ角αの領域、即ちスリップ角αがα0以下の領域に於いては、前輪のスリップ角αに対する前輪の横力Fywfの関係も線形である。よって前輪のスリップ角αに対するセルフアライニングトルクSATの関係が線形であるスリップ角αの領域に於いては、前輪のコーナリングパワーは一定であり、後輪のコーナリングパワーも一定であると考えられる。
従って前輪のスリップ角αに対するセルフアライニングトルクSATの関係が線形であるスリップ角αの領域に於ける走行データに基づいてスタビリティファクタKhを推定すれば、前後輪のコーナリングパワーが一定である状況に於ける走行データに基づいてスタビリティファクタKhを高精度に推定することができる。
特にこの実施形態に於いては、電子制御装置30は、前輪のスリップ角α及びセルフアライニングトルクSATを推定し、前輪のスリップ角αに対するセルフアライニングトルクSATの比Rssを演算する。また電子制御装置30は、比Rssが基準範囲内にあるか否かの判別により、前輪のスリップ角αに対するセルフアライニングトルクSATの関係が線形であるか否かを判定する。そして電子制御装置30は、線形の関係があると判定された場合についてのみスタビリティファクタKhの推定値を演算する。
また電子制御装置30は、EEPROMに記憶されている運動制御用のスタビリティファクタKhdを使用して過渡ヨーレートγtrに対応する目標ヨーレートγttを演算し、ヨーレート検出値γと目標ヨーレートγttとの偏差としてヨーレート偏差Δγを演算する。そして電子制御装置30は、ヨーレート偏差Δγの大きさが基準値γo(正の値)を越えているか否かの判別により車両の旋回挙動が悪化しているか否かを判定し、車両の旋回挙動が悪化しているときには車両の旋回挙動が安定化するよう車両の運動を制御する。尚電子制御装置30が行う車両の運動制御は運動制御用のスタビリティファクタKhdを使用して演算される目標ヨーレートγttに基づいて車両の運動を制御するものである限り、任意の制御であってよい。
次に図2に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。このことは後述の他の実施形態についても同様である。
まずステップ10より制御が開始され、ステップ10に於いては前回の走行時にステップ190に於いて更新された最新の値がスタビリティファクタKhの初期値Kh0とされることにより、スタビリティファクタKhの初期化が行われる。なおEEPROMにスタビリティファクタKhの記憶値がない場合には、車両の出荷時に予め設定されているデフォルト値Kh00がスタビリティファクタKhの初期値Kh0とされる。
ステップ20に於いては各センサにより検出された操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ30に於いてはステップ20に於いて読み込まれた操舵角θ等に対し高周波ノイズを除去するためのローパスフィルタ処理が行われる。この場合のローパスフィルタ処理は例えば3.4Hzをカットオフ周波数とする一次のローパスフィルタ処理であってよい。
ステップ40に於いては車輪速度Vwiに基づいて車速Vが演算され、操舵角θに基づいて前輪の舵角δが演算されると共に、上記式11に従って定常規範ヨーレートγtが演算される。
ステップ50に於いては操舵応答時定数係数Tpが車両の出荷時に予め設定されているデフォルト値Tp00に設定される。尚車両の走行データに基づいて操舵応答時定数係数Tpが推定される場合には、操舵応答時定数係数Tpはその推定された値に設定されてよい。
ステップ60に於いては上記式12に従って操舵応答時定数係数Tpによる一次遅れのフィルタ演算が行われることにより、ステップ40にて演算された規範ヨーレートγtに基づく過渡ヨーレートγtrが演算される。
ステップ70に於いては車両の横加速度Gyに対し下記の式19に従って操舵応答時定数係数Tpによる一次遅れのフィルタ演算が行われることにより、一次遅れのフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftが演算される。
Figure 2013129351
ステップ80に於いては過渡ヨーレートγtrと実ヨーレートγとの偏差が前輪の舵角の偏差に置き換えられたヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδが下記の式20に従って演算される。
Figure 2013129351
ステップ90に於いてはステップ70に於いて演算された一次遅れのフィルタ処理後の車両の横加速度Gyft及びステップ80に於いて演算されたヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδに対しセンサの零点オフセットの影響を除去するためのハイパスフィルタ処理が行われる。この場合のハイパスフィルタ処理は例えば0.2Hzをカットオフ周波数とする一次のハイパスフィルタ処理であってよい。
上述の如くステップ30に於いてローパスフィルタ処理が行われているので、上記ハイパスフィルタ処理が行われることにより一次遅れのフィルタ処理後の車両の横加速度Gyft及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδに対しバンドパスフィルタ処理が行われることと同様の結果が得られる。よってステップ90に於いてハイパスフィルタ処理された車両の横加速度Gyft及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδをそれぞれバンドパスフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftbpf及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfと表記する。
ステップ100に於いては車両が高い信頼性にてスタビリティファクタKhを推定し得る状況にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには制御はステップ20へ戻り、肯定判別が行われたときには制御はステップ110へ進む。
この場合下記の(A1)及び(A2)が成立するときに、車両が高い信頼性にてスタビリティファクタKhを推定し得る状況にあると判定されてよい。
(A1)車両が旋回走行状態にある。
(A2)前輪のスリップ角αに対するセルフアライニングトルクSATの関係が線形である。
特に(A1)の判別は、車両の走行中に、車両の横加速度Gyの絶対値が基準値以上であるか否か、車両のヨーレートγの絶対値が基準値以上であるか否か、車両のヨーレートγと車速Vとの積の絶対値が基準値以上であるか否かの何れかにより行われてよい。
また(A2)の判別は、(A2a)前輪のスリップ角αが基準値α0以下であるか否か、又は(A2b)前輪のスリップ角αの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比が予め設定された第一の基準範囲内であるか否かにより行われてよい。
また前輪の横力FywfとセルフアライニングトルクSATとの間には図4に示された関係がある。よって前輪の横力Fywfが基準値Fywf0以下であれば、前輪の横力Fywfに対するセルフアライニングトルクSATの関係が線形であると言える。よって(A2)の判別は、(A2c)前輪の横力Fywfが基準値Fywf0以下であるか否か、又は(A2d)前輪の横力Fywfの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比が予め設定された第二の基準範囲内であるか否かにより行われてもよい。
ステップ110に於いては前サイクルのステップ130に於いて演算された現在のバンドパスフィルタ処理後のヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaを調整する必要があるか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには制御はステップ130へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ120へ進む。
この場合下記の(B1)又は(B2)が成立するときに、積算値Δδa及びΔGyaを調整する必要があると判定されてよい。尚(B2)は操舵応答時定数係数Tpが推定され、ステップ50に於いて操舵応答時定数係数Tpが推定された値に設定される場合の判定条件である。
(B1)積算値Δδa及びΔGyaが前回調整されたときのスタビリティファクタKhと、前サイクルのステップ150に於いて推定された現在のスタビリティファクタKhとの偏差ΔKhの絶対値がスタビリティファクタの偏差についての基準値を越えている。
(B2)積算値Δδa及びΔGyaが前回調整されたときの操舵応答時定数係数Tpと、現サイクルのステップ50に於いて設定された現在の操舵応答時定数係数Tpとの偏差ΔTpの絶対値が操舵応答時定数係数の偏差についての基準値を越えている。
ステップ120に於いてはバンドパスフィルタ処理後のヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδaの予め設定された下限値をΔδamin(正の定数)とし、バンドパスフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaの予め設定された下限値をΔGyamin(正の定数)として、下記の式21に従って調整ゲインGajが演算される。尚下記の式21のMINは括弧内の値の最小値を選択することを意味し、MAXは括弧内の値の最大値を選択することを意味する。このことは同様の他の式についても同一である。
Figure 2013129351
またステップ120に於いては下記の式22及び23に従って調整後のヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaが演算される。
Δδa=現在のΔδa×Gaj ……(22)
ΔGya=現在のΔGya×Gaj ……(23)
ステップ130に於いては車両の横加速度Gyftbpfが正の値であるときには、ヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaがそれぞれ下記の式24及び25に従って演算される。
Δδa=現在のΔδa+Δδbpf ……(24)
ΔGya=現在のΔGya+Gyftbpf ……(25)
また車両の横加速度Gyftbpfが正の値ではないときには、ヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaがそれぞれ下記の式26及び27に従って演算される。
Δδa=現在のΔδa−Δδbpf ……(26)
ΔGya=現在のΔGya−Gyftbpf ……(27)
ステップ140に於いてはヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδaを車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaにて除算することにより、積算値の比Δδa/ΔGyaが演算される。
ステップ150に於いては上記式15に於けるスタビリティファクタの設計値Khdeがスタビリティファクタの初期値Kh0とされた下記の式28に従ってスタビリティファクタKhの推定値が演算される。
Kh=Kh0+(Δδa/ΔGya)/L ……(28)
ステップ160に於いてスタビリティファクタKhの推定値がEEPROMに記憶され、これによりEEPROMに記憶されているスタビリティファクタKhの推定値が更新される。
上述の如く構成された第一の実施形態の作動に於いては、ステップ40に於いて定常規範ヨーレートγtが演算され、ステップ60に於いて定常規範ヨーレートγtに基づき過渡ヨーレートγtrが演算される。またステップ70に於いて一次遅れのフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftが演算され、ステップ80に於いて過渡ヨーレートγtrと実ヨーレートγとの偏差が前輪の舵角の偏差に置き換えられたヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδが演算される。
ステップ90に於いては車両の横加速度Gyft及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδに対しハイパスフィルタ処理が行われることにより、バンドパスフィルタ処理後の実ヨーレートγbpfが演算される。そしてバンドパスフィルタ処理後の実ヨーレートγbpfと過渡ヨーレートγtrbpfとの偏差の大きさが前輪の舵角の偏差の大きさに置き換えられた値としてバンドパスフィルタ処理後のヨーレート偏差指標値の前輪舵角偏差換算値Δδbpfが演算される。
そしてステップ130に於いてヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaが演算される。またステップ140に於いてヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδaを車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaにて除算することにより、積算値の比Δδa/ΔGyaが演算される。
更にステップ150に於いて定常規範ヨーレートγtの演算に供されたスタビリティファクタKhの初期値Kh0と、積算値の比Δδa/ΔGyaに基づく修正量との和として、スタビリティファクタKhの推定値が演算される。
かくして上述の第一の実施形態によれば、車両の過渡ヨーレートγtrが真のヨーレートに近づくよう、車両の定常規範ヨーレートγtの演算に供されたスタビリティファクタの初期値をヨーレートの偏差と車両の横加速度との関係に基づいて修正した値としてスタビリティファクタKhの推定値を演算することができる。よってスタビリティファクタの推定値が真のスタビリティファクタに近づくようスタビリティファクタの推定値を修正し、これにより真のスタビリティファクタに近い値としてスタビリティファクタの推定値を求めることができる。
特に上述の第一の実施形態によれば、ステップ100に於いて(A1)及び(A2)の成立判定により車両が高い信頼性にてスタビリティファクタKhを推定し得る状況にあるか否かが判別され、肯定判別が行われたときにのみステップ110以降が実行される。従ってステップ100の判定が行われない場合に比して、車両のスタビリティファクタKhを正確な値に演算することができる。
この場合(A2)の判別は、(A2a)前輪のスリップ角αが基準値α0以下であるか否か、又は(A2b)前輪のスリップ角αの変化量に対するセルフアライニングトルクSATの変化量の比が第一の基準範囲内であるか否かにより行われる。従って前輪のスリップ角αに対する前輪の横力Fywfの関係が線形の状況に於ける車両の走行データに基づいて車両のスタビリティファクタKhを正確に推定することができる。
[第二の実施形態]
図5は本発明によるスタビリティファクタ推定装置の第二の実施形態に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンの要部を示すフローチャートである。尚図5に於いて図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。このことは後述の図6及び図7についても同様である。
この第二の実施形態に於いては、ステップ90が完了すると、制御はステップ101へ進む。ステップ101に於いては車両の横加速度Gyの絶対値が下限基準値Gy1(正の定数)よりも大きい値から下限基準値Gy1よりも小さい値へ変化したか否かの判別、即ち旋回終了時であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ103へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ102へ進む。
ステップ102に於いては車両の横加速度Gyの絶対値が下限基準値Gy1以上で上限基準値Gy2(正の定数)以下であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ110へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ20へ戻る。
尚下限基準値Gy1は車両がスタビリティファクタKhの推定に必要な旋回状態にあるか否かの基準値である。また上限基準値Gy2は、例えば図19に於けるサマータイヤのウエットアスファルトについて操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが線形の関係をなす領域に於ける路面の摩擦係数μyの最大値に対応する車両の横加速度Gyである。
ステップ103に於いては車両の旋回中に於ける車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxが求められる。そして最大値Gymaxが基準値Gy3よりも小さいか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ104へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ20へ戻る。
尚基準値Gy3は路面の摩擦係数が低い走行路を旋回走行するような状況に於いてスタビリティファクタKhの推定が行われることを防止するための基準値であり、下限基準値Gy1よりも大きく上限基準値Gy2よりも小さい正の定数である。
ステップ104に於いては今回の旋回中に推定されEEPROMに記憶されたスタビリティファクタKhの推定値が前回の旋回中に推定されEEPROMに記憶された値に書き換えられることによりスタビリティファクタKhの推定値が復元される。
同様にステップ105に於いてはヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaについて復元処理が行われる。即ち今回の旋回中に演算されEEPROMに記憶されたΔδbpfの積算値Δδa及びGyftbpfの積算値ΔGyaがそれぞれ前回の旋回中に演算されEEPROMに記憶された値に書き換えられる。
かくして第二の実施形態によれば、ステップ102に於いて車両の横加速度Gyの絶対値が下限基準値Gy1以上で上限基準値Gy2以下であると判別されたときにのみステップ110以降が実行される。よって前輪のスリップ角αに対する前輪の横力Fywfの関係が非線形の状況に於ける車両の走行データに基づいて車両のスタビリティファクタKhを不正確に推定する虞れを低減することができる。従ってステップ102の判定が行われない場合に比して、車両のスタビリティファクタKhを正確な値に演算することができる。
特に第二の実施形態によれば、旋回終了時にステップ103が実行され、車両の旋回中に於ける車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxが基準値Gy3よりも小さいか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ104及び105に於いてスタビリティファクタKhの推定値等が前回の旋回中に演算された値に復元される。
従って路面の摩擦係数が低い走行路を旋回走行するような状況に於いてスタビリティファクタKhの推定値が演算されることによりスタビリティファクタKhが不正確に推定されることを防止することができる。また路面の摩擦係数の検出や推定を要することなく路面の摩擦係数が低い走行路を旋回走行するような状況に於いてスタビリティファクタKhの推定値が演算されることを防止することができる。
[第三の実施形態]
図6は本発明によるスタビリティファクタ推定装置の第三の実施形態に於けるヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaの演算ルーチンを示すフローチャート、図7は第三の実施形態に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンを示すフローチャートである。
この第三の実施形態に於いては、図6に示されている如く、ステップ20の次にステップ25が実行され、ステップ25に於いては車両の横加速度Gyの絶対値が下限基準値Gy1以上であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ30へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ20へ戻る。
またテップ90の次にステップ95が実行され、ステップ95に於いてはヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaが車両の横加速度Gyと共に時系列にEEPROMに記憶される。そしてステップ95が完了すると制御はステップ20へ戻る。
この第三の実施形態に於いては、図7に示されている如く、ステップ200よりスタビリティファクタKhの推定演算の制御が開始され、ステップ200に於いては上述の第一及び第二の実施形態に於けるステップ10の場合と同様の初期化が行われる。
ステップ210に於いては第二の実施形態に於けるステップ101の場合と同様に、車両の横加速度Gyの絶対値が下限基準値Gy1よりも大きい値から下限基準値Gy1よりも小さい値へ変化したか否かの判別、即ち旋回終了時であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ215へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ205へ戻る。
ステップ215に於いては第二の実施形態に於けるステップ103の場合と同様に、車両の旋回中に於ける車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxが求められ、最大値Gymaxが基準値Gy3よりも小さいか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ220へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ20へ戻る。
ステップ220に於いては車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxに基づき図8に示されたグラフに対応するマップより上限基準値Gy2の補正量ΔGy2が演算される。
ステップ225に於いては上限基準値Gy2がその標準値Gy20(正の定数)と補正量ΔGy2との和に演算される。尚標準値Gy20は第二の実施形態の上限基準値Gy2と同様の値であってよい。即ち標準値Gy20は、例えば前述の図19に於けるサマータイヤの場合について操舵輪のスリップ角に対する車両の横方向の路面の摩擦係数μyが線形の関係をなす領域に於ける路面の摩擦係数μyの最大値に対応する車両の横加速度Gyであってよい。
ステップ230に於いては車両の横加速度Gyの絶対値が下限基準値Gy1以上で上限基準値Gy2以下であるときの走行データに基づいて第一の実施形態のステップ130の場合と同様に積算値Δδa及びΔGyaが演算される。そしてステップ240乃至250がそれぞれ第一の実施形態のステップ140乃至150の場合と同様に実行される。
かくして第三の実施形態によれば、車両の横加速度Gyの絶対値が下限基準値Gy1よりも大きいときには、換言すれば車両が旋回状態にあるときには、ステップ30乃至95が実行される。これによりヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaが演算され、それらの値が車両の横加速度Gyと共に時系列にEEPROMに記憶される。
しかし旋回終了時にステップ215が実行され、車両の旋回中に於ける車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxが基準値Gy3よりも小さいか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ230乃至及び260に於いて車両の横加速度Gyの絶対値が下限基準値Gy1以上で上限基準値Gy2以下であるときの走行データに基づいてスタビリティファクタKhの推定値が演算される。
従って第三の実施形態によっても、路面の摩擦係数が低い走行路を旋回走行するような状況に於いてスタビリティファクタKhの推定値が演算されることによりスタビリティファクタKhが不正確に推定されることを防止することができる。また路面の摩擦係数の検出や推定を要することなく路面の摩擦係数が低い走行路を旋回走行するような状況に於いてスタビリティファクタKhの推定値が演算されることを防止することができる。
特に第三の実施形態によれば、ステップ220に於いて車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxに基づき上限基準値Gy2の補正量ΔGy2が演算され、ステップ225に於いては上限基準値Gy2がその標準値Gy20と補正量ΔGy2との和に演算される。よって路面の摩擦係数が高くタイヤのグリップ性能が高いときには、換言すれば前輪のスリップ角αに対する前輪の横力Fywfの線形関係の範囲が大きいときには、上限基準値Gy2を大きくすることができる。従って車両の走行状況に応じてスタビリティファクタKhの推定値を演算するための車両の旋回状況の範囲を路面の摩擦係数やタイヤのグリップ性能等に応じて可変設定することができる。
また前輪のスリップ角αに対する前輪の横力Fywfの線形関係の範囲の拡張に対応して上限基準値Gy2を大きくすることができるので、標準値Gy20を大きい値に設定しなくてもよい。従って上限基準値Gy2が一定の高い値に設定される場合に比して、例えば路面の摩擦係数が高くなくタイヤのグリップ性能も高くない状況に於いてスタビリティファクタKhが不正確に推定される虞れを低減することができる。
尚上述の各実施形態によれば、ステップ30にてローパスフィルタ処理された操舵角θ等に基づいて定常規範ヨーレートγtが演算される。そしてステップ90に於いて車両の横加速度Gyft及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδに対しハイパスフィルタ処理が行われることにより、バンドパスフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftbpf及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfが演算される。更にステップ130に於いてヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaが演算され、ステップ140に於いてそれらの比として積算値の比Δδa/ΔGyaが演算される。
従って検出される操舵角θ等に含まれる高周波ノイズを除去することができるだけでなく、ヨーレートセンサ36等の零点オフセットの影響を除去することができる。よってセンサの零点オフセットの影響を排除して車両の横加速度Gyftbpf及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfを演算することができるので、ハイパスフィルタ処理が行われない場合に比してスタビリティファクタKhを正確に推定することができる。また定常規範ヨーレートγtの演算に供される操舵角θ、横加速度Gy及び実ヨーレートγに対しハイパスフィルタ処理が行われる場合に比して、ハイパスフィルタ処理の回数を低減することができ、これにより電子制御装置30の演算負荷を低減することができる。
尚、操舵角θ等に対しローパスフィルタ処理されることなく車両の横加速度Gy及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδに対しバンドパスフィルタ処理が行われてもよい。その場合には高周波ノイズを効果的に除去しつつ、スタビリティファクタKhを正確に推定することができると共に、上述の実施形態の場合に比してフィルタ処理に要する演算の回数を低減することができ、これにより電子制御装置30の演算負荷を低減することができる。
また上述の各実施形態によれば、バンドパスフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGya及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδaに基づいて、定常規範ヨーレートγtの演算に供されたスタビリティファクタKhの初期値Kh0に対する修正量を演算するための比Δδa/ΔGyaが演算される。
従ってバンドパスフィルタ処理後の車両の横加速度Gyftbpf及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfに基づいて修正量を演算するための比Δδbpf/ΔGyftbpfが求められる場合に比して、車両の横加速度Gyftbpf若しくはヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの瞬間的な変動に起因してスタビリティファクタKhが不正確に推定される虞れを低減することができる。
また上述の各実施形態によれば、積算値Δδaは過渡ヨーレートγtrと実ヨーレートγとの偏差が前輪の舵角の偏差に置き換えられたヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδの積算値である。従って車速Vの影響を受けることなくスタビリティファクタKhを推定することができる。よってヨーレート偏差指標値の積算値が例えば過渡ヨーレートγtrと実ヨーレートγとの偏差の積算値である場合に比して、スタビリティファクタKhを正確に推定することができる。また車速V毎にスタビリティファクタKhを推定したり、目標ヨーレートγttの演算に供されるスタビリティファクタKhを車速Vによって変更したりする煩雑さを回避し、必要な演算回数や記憶手段の容量を低減することができる。
また上述の第一及び第二の実施形態によれば、ステップ110に於いてはヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaを調整する必要があるか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときにはステップ120に於いて1以下の調整ゲインGajが演算される。そしてステップ130に於いて調整ゲインGajにて調整された後のヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaが演算される。
従って例えば車両の積載状況が大きく変化することにより、前回積算値Δδa及びΔGyaが調整されたときのスタビリティファクタKhと、前サイクルのステップ150に於いて推定された現在のスタビリティファクタKhとの偏差ΔKhの大きさが大きくなったような状況に於いて、それ以前のヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaがスタビリティファクタKhの推定に悪影響を及ぼすことを確実に防止することができる。
また上述の第一及び第二の実施形態によれば、ステップ120に於いてヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδa及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaに基づいて式21に従って調整ゲインGajが演算される。従ってヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδbpfの積算値Δδaの大きさ及び車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaの大きさに応じて調整ゲインGajを可変設定することができる。よって調整ゲインGajが一定である場合に比して、調整ゲインGajが大きすぎることに起因してスタビリティファクタの推定誤差が大きくなる虞れを低減することができると共に、逆に調整ゲインGajが小さすぎることに起因してスタビリティファクタの推定のS/N比が低下する虞れを低減することができる。
[第一の修正例]
図9は第一及び第二の実施形態を一部修正する第一の修正例に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンの要部を示すフローチャートである。尚図5に於いて、図3に示されたステップに対応するステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されており、このことは後述の他の修正例のフローチャートについても同様である。
この第一の修正例に於いては、ステップ80が完了すると、ステップ82に於いて単位時間当たりの運転者による往復操舵の回数が操舵周波数fsとして演算される。また操舵周波数fsが低いほどステップ90に於けるハイパスフィルタ処理のカットオフ周波数fhcが小さくなるよう、操舵周波数fsに基づき図10に示されたグラフに対応するマップよりカットオフ周波数fhcが演算される。
そしてステップ190に於ける車両の横加速度Gyft及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδのハイパスフィルタ処理に於いては、カットオフ周波数がステップ82に於いて演算されたカットオフ周波数fhcに設定される。
上述の各実施形態に於いては、ステップ90に於けるハイパスフィルタ処理のカットオフ周波数fhcは一定である。従ってセンサの零点オフセットの影響が確実に除去されるようカットオフ周波数fhcが高い値に設定されると、単位時間当たりの運転者による往復操舵の回数が少ない状況に於いてスタビリティファクタKhを推定することができなくなる虞れがある。逆にカットオフ周波数fhcが低い値に設定されると、単位時間当たりの運転者による往復操舵の回数が多い状況に於いてセンサの零点オフセットの影響を効果的に除去することができなくなる虞れがある。
これに対し第一の修正例によれば、操舵周波数fsが低いほどカットオフ周波数fhcが小さくなるよう、操舵周波数fsに応じてカットオフ周波数fhcが可変設定される。従って単位時間当たりの運転者による往復操舵の回数が多い状況に於いてセンサの零点オフセットの影響を効果的に除去しつつ、単位時間当たりの運転者による往復操舵の回数が少ない状況に於いてスタビリティファクタKhを推定することができなくなることを防止することができる。
尚カットオフ周波数fhcは操舵周波数fsに基づきマップより演算されるようになっているが、操舵周波数fsの関数として演算されてもよい。
[第二の修正例]
図11は上述の実施形態を一部修正する第二の修正例に於けるスタビリティファクタKhの推定演算ルーチンの要部を示すフローチャートである。
この第二の修正例に於いては、ステップ80が完了すると、ステップ84に於いて単位時間当たりの運転者による往復操舵の回数が操舵周波数fsとして演算される。また操舵周波数fsが低いほどハイパスフィルタ処理のカットオフ周波数fhcが小さくなると共に、車両の前後加速度Gxの絶対値が大きいほどハイパスフィルタ処理のカットオフ周波数fhcが大きくなるよう、操舵周波数fs及び車両の前後加速度Gxの絶対値に基づき図12に示されたグラフに対応するマップよりカットオフ周波数fhcが演算される。
そしてステップ90に於ける車両の横加速度Gyft及びヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値Δδのハイパスフィルタ処理に於いては、カットオフ周波数がステップ84に於いて演算されたカットオフ周波数fhcに設定される。
操舵角センサ34の零点オフセットに起因する前輪の舵角δの誤差をδ0とし、横加速度センサ40の零点オフセットに起因する車両の横加速度Gyの誤差をGy0とする。またヨーレートセンサ36の零点オフセットに起因する車両のヨーレートγの誤差をγ0とする。これらの誤差を考慮すると、前輪の舵角の偏差Δδtは上記式17にて表される。
よってセンサの零点オフセットの影響は上記式17の第2項乃至第4項、即ちδ0−KhdeGy0L−γ0L/Vである。従って車速Vの変化、即ち車両の前後加速度Gxの大きさが大きいほど、定常規範ヨーレートγtの変化に与えるセンサの零点オフセットの影響が大きくなり、逆に車両の前後加速度Gxの大きさが小さいほど、定常規範ヨーレートγtの変化に与えるセンサの零点オフセットの影響が小さくなる。
第二の修正例によれば、車両の前後加速度Gxの絶対値が大きいほどハイパスフィルタ処理のカットオフ周波数fhcが大きくなるよう、車両の前後加速度Gxの絶対値にも基づいてカットオフ周波数fhcが可変設定される。従って上述の第一の修正例と同様の作用効果が得られると共に、車速Vの変化に拘らずセンサの零点オフセットの影響を効果的に除去することができる。
尚カットオフ周波数fhcは操舵周波数fs及び車両の前後加速度Gxの絶対値に基づきマップより演算されるようになっているが、操舵周波数fs及び車両の前後加速度Gxの絶対値の関数として演算されてもよい。
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施形態及び各修正例に於いては、走行路の状況や車両の制動状況は判定されないが、走行路が悪路である場合や車両が制動中である場合にはスタビリティファクタKhの推定値が演算されないよう修正されてもよい。
また上述の第一の実施形態に於いては、ステップ100に於ける第一又は第二の基準範囲は予め設定された範囲である。しかしこれらの基準範囲は車両の横加速度Gyの大きさが小さい状況に於いてそれぞれ前輪のスリップ角α又は前輪の横力Fywfに対するセルフアライニングトルクSATの比に基づいて可変設定されてもよい。
また上述の第二の実施形態に於いては、旋回中に於ける車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxが基準値Gy3よりも小さいと判別されたときにはスタビリティファクタKhの推定値等が前回の旋回中に演算された値に復元される。しかし路面の摩擦係数が検出又は推定され、路面の摩擦係数が低いときには車両の横加速度Gyの絶対値がステップ102の基準範囲内にあるか否かに関係なくスタビリティファクタKhの推定値の演算が行われないよう修正されてもよい。その場合にはステップ103乃至105が省略されてもよい。
同様に上述の第三の実施形態に於いては、旋回中に於ける車両の横加速度Gyの絶対値の最大値Gymaxが基準値Gy3よりも小さいと判別されたときにはステップ230の基準範囲内のデータに基づくスタビリティファクタKhの推定値等の演算が行われない。しかし路面の摩擦係数が検出又は推定され、路面の摩擦係数が低いときにはスタビリティファクタKhの推定値を演算するための積算値Δδa及びΔGyaの演算の演算が行われないよう修正されてもよい。その場合にはステップ215に於ける最大値Gymaxの演算は行われるが、ステップ215に於ける判別が省略されてもよい。
また上述の各実施形態及び各修正例に於いては、ステップ80に於いて過渡ヨーレートγtrと実ヨーレートγとの偏差が前輪の舵角の偏差に置き換えられたヨーレート偏差の前輪舵角偏差換算値が演算されるようになっている。しかし過渡ヨーレートγtrと実ヨーレートγとの偏差がハイパスフィルタ処理されることによりバンドパスフィルタ処理後のヨーレート偏差Δγbpfが演算され、積算値の比Δδa/ΔGyaに代えて車両の横加速度Gyftbpfの積算値ΔGyaに対するヨーレート偏差Δγbpfの積算値Δγaの比が演算され、積算値の比Δγbpf/ΔGyaに基づいて下記の式29に従ってスタビリティファクタKhの推定値が演算されてもよい。
Kh=Kh0+(Δγbpf/ΔGya)/V ……(29)
また式29に従ってスタビリティファクタKhの推定値が演算される場合には、複数の車速域が設定され、各車速域毎にスタビリティファクタKhの推定値が演算されることが好ましい。また車両の運動制御に於ける目標ヨーレートの演算に供されるスタビリティファクタKhも各車速域毎に推定された値に設定されることが好ましい。
また上述の各実施形態及び各修正例に於いては、調整ゲインGajは1以下の範囲内にて第一の調整ゲイン(Δδamin/|現在のΔδa|)及び第二の調整ゲイン(ΔGyamin/|現在のΔGya|)のうちの大きい方に設定されるようになっている。しかし第一及び第二の調整ゲインの一方が省略され、第一及び第二の調整ゲインの他方が調整ゲインGajとされるよう修正されてもよい。
16…パワーステアリング装置、20…制動装置、30…電子制御装置、36…ヨーレートセンサ、38…前後加速度センサ、40…横加速度センサ、44…エンジン制御装置、46…アクセル開度センサ

Claims (7)

  1. 車両の旋回時の走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算する車両のスタビリティファクタ推定装置に於いて、操舵輪のスリップ角及び操舵輪の横力の一方に対するセルフアライニングトルクの関係が線形である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算することを特徴とする車両のスタビリティファクタ推定装置。
  2. 操舵輪のスリップ角及び操舵輪の横力の一方の変化量に対するセルフアライニングトルクの変化量の比が基準範囲内であるか否かを判定し、前記関係が基準範囲内である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両のスタビリティファクタ推定装置。
  3. 車両の横加速度の大きさが予め設定された上限基準値以下である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両のスタビリティファクタ推定装置。
  4. 旋回中の車両の横加速度の大きさの最大値が予め設定された推定回避基準値未満であるときには、車両のスタビリティファクタの推定値を前回の旋回時に演算された値に戻すことを特徴とする請求項3に記載の車両のスタビリティファクタ推定装置。
  5. 旋回中に車両の走行データを記憶し、旋回終了時に旋回中に於ける車両の横加速度の大きさの最大値を求め、前記最大値に基づいて上限基準値を設定し、記憶されている走行データのうち車両の横加速度の大きさが前記上限基準値以下である状況に於ける走行データに基づいて車両のスタビリティファクタの推定値を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両のスタビリティファクタ推定装置。
  6. 旋回中の車両の横加速度の大きさの最大値が予め設定された推定回避基準値未満であるときには、車両のスタビリティファクタの推定値を演算しないことを特徴とする請求項5に記載の車両のスタビリティファクタ推定装置。
  7. 車両の規範ヨーレートに対し一次遅れの関係にある車両の過渡ヨーレートと車両の実ヨーレートとの偏差の指標値をヨーレート偏差指標値として、第一の所定周波数以下の成分が除去された車両の横加速度と、第二の所定周波数以下の成分が除去されたヨーレート偏差指標値との関係に基づいて車両のスタビリティファクタを推定することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一つに記載の車両のスタビリティファクタ推定装置。
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