JP2013116837A - ガラスセラミックス - Google Patents

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Abstract

【課題】高いイオン伝導性と安定性を発現させることができ、リチウムイオン二次電池等の他、種々の電気化学デバイスにおける固体電解質として好適に用いることができるガラスセラミックスを提供する。
【解決手段】リチウム原子及び硫黄原子を含有するガラスセラミックスであって、該ガラスセラミックスは、硫化リチウム、三硫化二リン及び第3成分を、硫化リチウムのモル%をx、三硫化二リンのモル%をy、第3成分のモル%をzとすると、x=70.5〜80、y=0.1〜15、z=100−x−y、z>0を満たす割合で含む原料から得られ、該第3成分は、周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する硫化物であるガラスセラミックス。
【選択図】なし

Description

本発明は、ガラスセラミックスに関する。より詳しくは、リチウムイオン二次電池を始め、その他リチウムイオン一次電池等の電池材料として適用でき、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、表示素子等の電気化学デバイスへの適用や蓄電材料としての適用等が期待されるガラスセラミックスに関する。
固体状物質を用いて種々の機能性を発現させる技術分野において、例えば、電解質等の分野においては、固体電解質が従来の液体電解質に代わる安全性・安定性の高い電気化学材料として注目され、新たな研究開発が盛んに進められている。その性能向上は、エネルギー・材料関連技術の重要な検討項目の一つとなっている。その背景としては、近年、化石燃料からいわゆる環境エネルギーへの代替が検討される中、その貯蔵手段として、また、情報技術(IT)関連の電子機器の急速な普及やハイブリッド車及び電気自動車等の普及促進に伴って、これらの種々の用途における適用性、安全性が高く、電気化学的な信頼性、性能が高い電池や電気化学デバイスに対するニーズが高まっていることが挙げられる。
ところで、電解質の1つの代表的分野である電池分野においては、特に、容量が大きく、軽量のリチウムイオン電池が繰り返し充放電を行うことができる二次電池として今後の利用の拡大が更に期待されている。今日では、携帯電話やノートパソコン等の電子機器だけでなく、自動車や航空機等、様々な分野においても使用が広がり、この分野において最も研究、開発が活発に行われている。このようなリチウムイオン二次電池の研究開発においても、有機溶媒を電解液に使用したものが引火性、可燃性を有し、高温時や過充電・過放電状態での信頼性に課題を有し、甚だしい時には、発火や破裂爆発のような事態が起こる危険性が秘められていることから、その安全性を高めることは極めて重要な課題となっている。特に、リチウム二次電池の高いエネルギー密度を生かした用途展開として、ハイブリッド車用電源等の車載電源の開発が盛んであるが、更なる高エネルギー密度化が要求され、その結果、電池内部に含まれる信頼性阻害要因物質の増大が生じ、そのためにより一層の安全性確保が重要な課題となっている。
こうした技術的要求の流れの中、高分子材料や無機材料を用いたリチウムイオン伝導性固体電解質材料の研究、及び、それを用いた全固体リチウム二次電池の研究開発が進められている。特に、無機材料を用いたリチウムイオン伝導性固体電解質は、引火性・可燃性がないことに加え、耐熱性や電気化学的な安定性が高いことから研究が進められ、今日では、有機電解液に匹敵するイオン伝導度を有する固体電解質も得られるようになってきている。中でも、リチウムイオン伝導性固体電解質として、その構成材料に、硫黄原子を含む硫化物系リチウムイオン伝導体、及び、それを用いた全固体リチウム二次電池の研究が盛んとなっている。この硫化物系リチウムイオン伝導体には、非晶質系と結晶質系、及び、その混合体の存在が知られている。更に、これら材料には、リン、シリコン、ゲルマニウム、ホウ素等の原子を含む系が知られている。
これらの硫化物系リチウムイオン伝導体として、例えばLiS−P系電解質が注目を浴びており、このような硫化物系リチウムイオン伝導体の1つとして、LiS、P及びPを所定の割合で配合してメカニカルミリングにより合成されたガラス又はガラスセラミックスが開示されている(例えば、非特許文献1、2、3等参照)。
ケイイチ ミナミ(Keiichi Minami)外3名、ジャーナル オブ パワーソーシズ(Journal of Power Sources)、189(2009)、651−654頁 ケイイチ ミナミ(Keiichi Minami)外3名、ソリッド ステイト イオニクス(Solid State Ionics)、192(2011)、122−125頁 ノブヤ マチダ(Nobuya Machida)外3名、ソリッド ステイト イオニクス(Solid State Ionics)、176(2005)、473−479頁
上記のように、LiS−P系電解質として、LiS、P及びPを所定の割合で配合したものを原料として用いたリチウムイオン伝導体が公表されている。しかしながら非特許文献1や2に開示のものは、高いイオン伝導性を示すものの、電解質中に不安定なP 4−構造単位を含むために、安定性が充分に高いとはいえない。また、非特許文献3に開示のものは、イオン伝導度が充分に高いとはいえない。このような固体電解質は種々の電気化学デバイス、中でも近年利用が急速に拡大しているリチウム二次電池での利用を大きな目的の1つとしており、リチウム二次電池への適用により適したものとするために、高いイオン伝導性と安定性を発現するものを開発することが求められている。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高いイオン伝導性と安定性を発現させることができ、リチウムイオン二次電池等の他、種々の電気化学デバイスにおける固体電解質として好適に用いることができるガラスセラミックスを提供することを目的とする。
本発明者は、高いイオン伝導性を発現させることができる固体電解質等に好適な固体状物質について種々検討し、特殊な硫化リンである三硫化二リンに着目した。そして、硫化リチウム、三硫化二リン及び周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する硫化物の3種を成分とし、これらを特定の割合で配合した原料から得られた、ガラスの中に多数の微細な結晶が析出したガラスセラミックスが、高いイオン伝導性と共に安定性を発現することを見出した。
更に本発明者は、リチウム原子及び硫黄原子を含有し、ラマンスペクトルにおいて、PS 3−やP 4−に帰属されるピークを有するガラスセラミックスが高いイオン伝導性を発現することを見出し、このようなガラスセラミックスが固体電解質として好適に用いることができることも見出した。更に、このようなガラスセラミックスについて種々検討したところ、このようなガラスセラミックスの中でもXRDスペクトルにおいて、2θ=18.8±0.5deg、及び、29.7±0.5degのピークを有するものが、より高いイオン伝導性を発現することをも見出し、上記課題を解決できることに想到した。
すなわち本発明は、リチウム原子及び硫黄原子を含有するガラスセラミックスであって、該ガラスセラミックスは、硫化リチウム、三硫化二リン及び第3成分を、硫化リチウムのモル%をx、三硫化二リンのモル%をy、第3成分のモル%をzとすると、x=70.5〜80、y=0.1〜15、z=100−x−y、z>0を満たす割合で含む原料から得られ、該第3成分は、周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する硫化物であることを特徴とするガラスセラミックスである。
本発明はまた、リチウム原子及び硫黄原子を含有するガラスセラミックスであって、該ガラスセラミックスは、ラマンスペクトルにおいて、PS 3−及びP 4−のピークを有することを特徴とするガラスセラミックスでもある。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
以下においては、リチウム原子及び硫黄原子を含有するガラスセラミックスであって、硫化リチウム、三硫化二リン、及び、周期律表第13〜15族の原子の硫化物からなる3種の成分をそれぞれ所定のモル%で含む原料から得られるものを本発明の第1のガラスセラミックスと記載し、リチウム原子及び硫黄原子を含有するガラスセラミックスであって、ラマンスペクトルにおいて、PS 3−及びP 4−のピークを有するガラスセラミックスを本発明の第2のガラスセラミックスと記載する。また、本発明の第1のガラスセラミックスと本発明の第2のガラスセラミックスとをまとめて本発明のガラスセラミックスと記載する。
以下においては、まず本発明の第1のガラスセラミックスについて記載する。
本発明の第1のガラスセラミックスは、硫化リチウム、三硫化二リン、及び、周期律表第13〜15族の原子の硫化物からなる3種の成分をそれぞれ所定のモル%で含む原料から得られるものである。なお、硫化リチウム、三硫化二リン、及び、周期律表第13〜15族の原子の硫化物の3種の成分は異なるものであり、周期律表第13〜15族の原子の硫化物は、成分の1つである三硫化二リンとは異なる化合物である。また、ガラスセラミックスの原料は、硫化リチウム、三硫化二リン、及び、周期律表第13〜15族の原子の硫化物の3種の成分をそれぞれ所定のモル%で含むものである限り、硫化リチウム、三硫化二リン、及び、周期律表第13〜15族の原子の硫化物のいずれにも該当しないその他の成分を含んでいてもよいが、原料全体100質量%に対して、これら3種の成分の合計割合が80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、90質量%以上であり、更に好ましくは、95質量%以上であり、特に好ましくは、97質量%以上であり、最も好ましくは、原料が実質的にこれら3種の成分のみからなることである。ここで、上記硫化リチウムは、硫黄元素とリチウム元素とを1:2(モル比)で含むものであれば特に限定されるものではなく、化合物である硫化リチウムを用いてもよく、硫黄と金属リチウムとを1:2(モル比)となるように別々に加えても差し支えない。また、三硫化二リンは、硫黄元素とリン元素とを3:2(モル比)で含むものであれば特に限定されるものではなく、化合物である三硫化二リンを用いてもよく、硫黄とリンとを3:2(モル比)となるように別々に加えても差し支えない。
上記周期律表第13〜15族の原子の硫化物としては、B、Al、Ga、Si、Ge、P及びAsのいずれかの原子の硫化物であることが好ましい。より好ましくは、B、Al、Si、Ge及びPのいずれかの原子の硫化物であり、更に好ましくは、P、Si原子の硫化物であり、特に好ましくはP原子の硫化物である。
これらの中でも、周期律表第13〜15族の原子の硫化物は、硫化リン、硫化ケイ素、硫化アルミニウム、硫化ゲルマニウム及び硫化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましい。これらの硫化物を具体的に表すと、P、P、P、P、P10等の硫化リン、SiS等の硫化ケイ素、Al等の硫化アルミニウム、GeS等の硫化ゲルマニウム、B等の硫化ホウ素が挙げられる。これらの中でも、より好ましくは、硫化リン、硫化ケイ素であり、更に好ましくは硫化リンであり、中でも、Pが特に好ましい。
周期律表第13〜15族の原子の硫化物は、1種を用いてもよく2種以上を用いてもよい。
また、周期律表第13〜15族の原子の硫化物としては、周期律表第13〜15族の原子が硫化物の形態となったものを用いてもよく、周期律表第13〜15族の原子(単体)と、該原子と反応して周期律表第13〜15族の原子の硫化物を形成する原料となる物質(単体や化合物)とを、周期律表第13〜15族の原子の硫化物を形成するための適切なモル比で別々に加えても差し支えない。
上記周期律表第13〜15族の原子の硫化物としてPを用いて、本発明の比率(モル%)で硫化リチウム、三硫化二リン及びPを配合した原料からガラスセラミックスを製造した場合、ガラスセラミックスは、主にPS 3−骨格とP 4−骨格とを有するものとなる。これに対し、上述した先行技術文献1、2に開示の割合でLiS、P及びPを配合した原料から得られたリチウムイオン伝導体は、主にPS 3−骨格とP 4−骨格とを有するものである。P 4−骨格は、2つのP原子の間に存在するS原子が不安定であるため、安定性の低い骨格であり、このため、得られるリチウムイオン伝導体もまた、安定性が充分とはいえないものである。これに対し、P 4−骨格はP 4−骨格に比べて安定性が高いと考えられ、したがって、本発明のガラスセラミックスは、先行技術文献に開示のリチウムイオン伝導体よりも安定性が高く、高いイオン伝導性を安定的に発現することができるものであると考えられる。
上記硫化リチウム、三硫化二リン、及び、周期律表第13〜15族の原子の化合物からなる3種の成分のモル%は、3種の成分の合計を100モル%とし、硫化リチウムのモル%をx、三硫化二リンのモル%をy、周期律表第13〜15族の原子の硫化物のモル%をzとすると、x=70.5〜80、y=0.1〜15、z=100−x−yであるが、硫化リチウムのモル%であるx、三硫化二リンのモル%であるyは、x=72〜80、y=0.1〜10であることが好ましい。このようなモル%であると、当該原料から得られるガラスセラミックスがよりイオン伝導性に優れたものとなる。より好ましくは、x=74〜80、y=2〜8であり、更に好ましくは、x=74〜80、y=3〜8であり、特に好ましくは、x=74〜78、y=3〜8であり、最も好ましくは、x=74〜78、y=3〜7である。なお、いずれの場合も、周期律表第13〜15族の原子の硫化物のモル%であるzは、z=100−x−yである。
本発明の第1のガラスセラミックスの好ましい形態の1つとしては、本発明の第1のガラスセラミックスに対して何モル%かのα−アルミナが添加されたガラスセラミックス組成物の形態である。α−アルミナを添加することにより、電解質の機械強度が向上し、電解質膜への成型が容易となる。
α−アルミナの添加量としては、ガラスセラミックスとα−アルミナ全体を100モル%とすると、1〜50モル%とすることが好ましい。より好ましくは、5〜45モル%、9〜40モル%、12〜30モル%、又は、15〜25モル%、20〜25モル%である。これらの範囲とすることにより、α−アルミナを添加する効果を充分に発揮させることができる。
上記α−アルミナ(Al)としては特に限定されず、通常α−アルミナと呼ばれるものを用いることができる。
次に、本発明の第2のガラスセラミックスについて記載する。
本発明の第2のガラスセラミックスは、リチウム原子及び硫黄原子を含有するガラスセラミックスであって、ラマンスペクトルにおいて、PS 3−及びP 4−のピークを有するものである。このようなガラスセラミックスは、PS 3−及びP 4−に起因する安定な構造を有し、従来のLiS−P系電解質に比べてイオン伝導性と安定性をより両立することができるという効果を充分に発揮するものとなる。
上記ラマンスペクトルの測定条件としては、後述する発明を実施するための形態に記載した測定条件と同様にすればよい。
上述した本発明の第2のガラスセラミックスは、後述する発明を実施するための形態において裏付けられているように、これまでに報告例のない新しい結晶相(New Phase)やthio−LISICON III類似の結晶相を有するものとすることができる。それにより、従来の結晶質又は非晶質のガラスとは異なった優れた特性(高いイオン伝導性と安定性との両立等)を発揮することができるものとなる。
本発明の第2のガラスセラミックスは、XRDスペクトルにおいて、2θ=18.8±0.5deg、及び、29.7±0.5degのピークを有することが好ましい。ラマンスペクトルにおいて、PS 3−及びP 4−のピークを有するガラスセラミックスであって、更にXRDスペクトルにおいてこのようなピークを有するものは、高いイオン伝導性を発現することになる。
XRDスペクトルは、後述する発明を実施するための形態において用いられている方法により測定することができる。
本発明の第2のガラスセラミックスは、リチウム原子及び硫黄原子を含有し、ラマンスペクトルにおいて、PS 3−及びP 4−のピークを有するものである限り、その原料は特に制限されず、ガラスセラミックスが含有するリン原子、硫黄原子、リチウム原子の由来となる化合物が少なくとも1種ずつ含まれていればよく、これらの原子を有する化合物は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。またこれら3つの原子の2つ又は3つが1つの化合物から由来することとなってもよい。
また本発明の第2のガラスセラミックスは、リン原子、硫黄原子、リチウム原子を含有する限り、その他の原子を含むものであってもよい。すなわち、本発明の第2のガラスセラミックスの原料となる化合物は、リン原子、硫黄原子、リチウム原子以外の原子を含有するものであってもよく、そのような原子を1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。リン原子、硫黄原子、リチウム原子以外の原子としては、ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、酸素原子が好ましい。より好ましくは、アルミニウム原子、ケイ素原子、酸素原子であり、更に好ましくは、アルミニウム原子、酸素原子である。
本発明の第2のガラスセラミックスの原料化合物として特に好ましくは、硫化リチウム、三硫化二リン、及び、周期律表第13〜15族のうち少なくとも一つの原子を有する硫化物の3種類を用いることである。これら3種類を用いる場合、硫化リチウムのモル%をx、三硫化二リンのモル%をy、第3成分のモル%をzとすると、
x=70.5〜80、y=0.1〜15、z=100−x−y、z>0
を満たす割合で用いることが好ましい。すなわち、本発明の第2のガラスセラミックスが本発明の第1のガラスセラミックスにも該当するものであることは本発明の好適な実施形態である。本発明の第2のガラスセラミックスが本発明の第1のガラスセラミックスにも該当するものである場合、上述した本発明の第1のガラスセラミックスの好ましい形態は本発明の第2のガラスセラミックスの好ましい形態となる。
本発明の第2のガラスセラミックスもまた、ガラスセラミックスに対して何モル%かのα−アルミナが添加されたガラスセラミックス組成物の形態であることが好ましい。α−アルミナを添加することにより、電解質の機械強度が向上し、電解質膜への成型が容易となる。α−アルミナの添加量やα−アルミナとして使用可能なものは、上述した本発明の第1のガラスセラミックスと同様である。
本発明のガラスセラミックスの製造方法は特に制限されず、溶融急冷法、メカニカルミリングによる方法、不活性ガス又は真空中で500℃以下で焼成する方法、原料混合物の粉砕/ペレット化/焼成を繰り返す方法等を用いることができる。また、これらの製造方法を組み合わせてもよく、メカニカルミリングの後に焼成を行ってもよい。なお、硫化リチウムが酸素や水と反応性を有するため、窒素やアルゴンなどの不活性乾燥ガス雰囲気下や真空中で反応を行うことが好ましい。
溶融急冷法としては、1000℃前後で融解した原料混合物を液体窒素や双冷却ロールに流下する方法を用いることができる。メカニカルミリングとしては、ボールミル等の高せん断粉砕混合装置を用いて原料を混合する方法を用いることができる。
メカニカルミリングによる方法、不活性ガス又は真空中で500℃以下で焼成する方法、又は、原料混合物の粉砕/ペレット化/焼成を繰り返す方法を用いる場合、原料を粉砕し、50μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは10μm以下にまで小粒径化するとともに、反応前に均一に混合することが好ましい。これにより、反応時間を短縮し、また、得られる硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の特性の振れを小さくすることができる。
上記ガラスセラミックスの製造方法の中でも、メカニカルミリングによる方法が好ましい。より好ましくは、メカニカルミリングの後、又は同時に焼成を行うことである。メカニカルミリングの後、又は同時に焼成を行うことにより、ガラスの中に多数の微細な結晶が析出したガラスセラミックスを容易に製造することができる。
メカニカルミリングを行う装置としては、遊星ボールミルを用いる装置、振動ボールミル、ビーズミルを用いる装置等を用いることができる。
焼成の温度は50〜500℃であることが好ましい。このような温度で焼成することで、ガラスの中に多数の微細な結晶を充分に析出させることができる。より好ましくは、100〜350℃である。
本発明のガラスセラミックスは、電池材料として好適に適用でき、また、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、表示素子等の電気化学デバイスへの適用や蓄電材料としての適用等が期待されるものである。中でも、安全性が高く、優れたイオン伝導性を安定的に発揮することができる本発明のガラスセラミックスは、近年、自動車や電子機器等、様々な分野への使用が拡大し、高い電池性能と高い安全性との両立が求められるリチウム二次電池の電解質として好適に用いることができるものである。
このような、本発明のガラスセラミックスを用いるリチウム二次電池もまた、本発明の1つである。本発明のガラスセラミックスは、高いイオン伝導度と安定性を有するため、本発明のガラスセラミックスを用いた場合、容量劣化の少ない優れたリチウム二次電池を提供することが可能となる。
上記リチウム二次電池は、主に正極、電解質、負極より構成される。正極は、正極活物質、本発明のガラスセラミックス及び/又はバインダー、並びに、必要に応じて導電助剤等の添加剤を含む正極合剤組成物から形成される。また、負極は、負極活物質、本発明のガラスセラミックス及び/又はバインダー、並びに、必要に応じて導電助剤等の添加剤を含む負極合剤組成物から形成される。
上記正極活物質としては、硫黄、遷移金属硫化物、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン−コバルト複合酸化物系正極活物質、ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物系正極活物質、五酸化バナジウム、バナジン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄のリチウム塩、ポリアセチレン、ポリピレン、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリピロール、ポリフラン、ポリアズレン等のリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できる化合物又は単体のうち1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、硫黄、遷移金属硫化物、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン−コバルト複合酸化物系正極活物質、ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物系正極活物質、オリビン型リン酸鉄のリチウム塩が好ましい。蓄電容量の面から、硫黄、遷移金属硫化物が更に好ましい。
このような、硫黄及び/又は遷移金属硫化物を正極活物質として用いるリチウム二次電池は、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記正極合剤組成物、負極合剤組成物に用いる導電助剤としては、主に導電性カーボンが用いられる。導電性カーボンとしては、特に制限されるものではなく、例えばケッチェンブラックやアセチレンブラックなどの粒子状カーボンブラック、気相成長カーボンファイバーやカーボンナノチューブなどのファイバー状カーボン、グラファイトや黒鉛などの結晶性カーボン等を挙げることができ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
上記正極合剤組成物、負極合剤組成物に用いるバインダーとしては、フッ化ビニリデン系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、スチレン−ブタジエン系ポリマー、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
なお、上記正極合剤組成物や負極合剤組成物が、本発明のガラスセラミックスを含む場合、当該ガラスセラミックスのバインダー能により、バインダーを用いることなく正極合剤や負極合剤を形成することができる。上記正極合剤組成物や負極合剤組成物が本発明のガラスセラミックスを含むことは、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記正極合剤組成物は、更に他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、特に制限されず、アニオン性、ノニオン性若しくはカチオン性の界面活性剤、又は、高分子分散剤等の種々の分散剤や結着性を有するゴム成分、ポリ(メタ)アクリル酸等などを用いることができる。分散剤により、正極活性物質及び導電助剤の微粒子化を促進し、分散性を向上させることで、より安定した正極膜の伝導度を達成できる。
上記負極活物質としては、負極活物質として一般に用いられるものを用いることができ、特に制限されるものではなく、重合体、有機物、ピッチ等を焼成して得られたカーボンや天然黒鉛、リチウム金属及び、Al、Si、Ge、Sn、Pb、In、Zn及びTiから選ばれる少なくとも1種、或いは各元素を含むリチウム合金、或いは各元素を含む酸化物、チタン酸リチウム等のリチウムを可逆的に吸蔵、放出可能な材料等を用いることができ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
上記負極合剤組成物は、更に他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、上記正極合剤組成物が含むことができる他の添加剤と同様のものを用いることができる。他の添加剤として分散剤を用いると、負極活性物質及び導電助剤の微粒子化を促進し、分散性を向上させることで、より安定した負極膜の伝導度を達成できる。
本発明のガラスセラミックスは、イオン伝導性(イオン伝導度)に優れるものである。また、本発明のガラスセラミックスを用いたリチウム二次電池、すなわち、本発明のリチウム二次電池は、初期容量、サイクル特性等の電気的特性に優れるものである。
本発明のガラスセラミックスは、後述する実施例と同様の方法によりイオン伝導度を測定した場合に、25℃におけるイオン伝導度が0.2mS/cm以上であることが好ましい。より好ましくは、0.5mS/cm以上である。
本発明のガラスセラミックスは、上述の構成よりなり、従来のLiS−P系電解質に比べてイオン伝導性と安定性をより両立することができ、リチウムイオン二次電池等の他、種々の電気化学デバイスに適用するための実用的な性質により優れたガラスセラミックスである。
本発明のガラスセラミックスの実施形態について、ラマンスペクトル測定を行った結果である。xLiS・1P・4Pについて、x=13、14、15、16、17でPS 3−とP 4−に帰属されるピークが観測されたことを示している。 本発明のガラスセラミックスの実施形態について、ラマンスペクトル測定を行った結果である。15LiS・yP・(5−y)Pについて、y=0.5、0.75、1、1.25、1.5、2ではPS 3−とP 4−に帰属されるピークが観測され、y=0ではPS 3−に帰属されるピークが観測されたものの、P 4−に帰属されるピークは観測されなかったことを示している。 本発明のガラスセラミックスの実施形態について、XRD(X線回折)測定を行った結果である。xLiS・1P・4Pについて、x=15、16、17ではこれまでに報告例のない新しい結晶相(New Phase)に帰属される回折パターン(2θ=18.8±0.5deg、及び、29.7±0.5deg)が観測され、x=13、14ではthio−LISICON III類似の結晶相に帰属される回折パターンが観測されたことを示している。 本発明のガラスセラミックスの実施形態について、XRD(X線回折)測定を行った結果である。15LiS・yP・(5−y)Pについて、y=1、1.5ではこれまでに報告例のない新しい結晶相(New Phase)に帰属される回折パターン(2θ=18.8±0.5deg、及び、29.7±0.5deg)が観測され、y=0、0.5ではthio−LISICON III類似の結晶相に帰属される回折パターンが観測されたことを示している。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
酸素や水分の影響を防ぐため、原料の秤量や混合等の操作は、不活性ガス雰囲気下で雰囲気を管理し、露点を−50℃以下に制御したグローブボックス内で行った。また測定に際して、グローブボックスから取り出す際には、密閉状態で取り出した。測定の際は、次の条件で行った。
[ラマンスペクトル測定]
NRS-3100(日本分光社製)を用いて、下記の条件で測定を行った。
励起波長532nm、露光時間10s、積算回数10回
[XRD(X線回折)測定]
X線回折装置(RINT2000、Rigaku製)を用いて測定を行った。
[ペレット作成]
乳鉢で十分すり潰した無機固体電解質120mgを内径10mmの金型に計り取り、均一に充填した後プレス機にかけ、3.8t/cmで加圧成型した。
[イオン伝導度]
作成したペレットをIn電極で挟み込み、E4980A(Agilent社製)を用い、複素インピーダンス法にて測定した。
(実施例1)
硫化リチウム(LiS)42.7部、三硫化二リン(P)8.6部、硫化リン(P)48.6部をグローブボックス中で秤量し、これをメノウ乳鉢で粉砕・混合した後、粉砕用ジルコニアボールと共に遊星ボールミル用ステンレスポット内に充填・密封し、グローブボックスから取り出し、遊星ボールミル粉砕機を用いて380rpmで、30時間混合粉砕し、非晶質ガラスを得た。非晶質ガラスの入った遊星ボールミル用ステンレスポットを280℃の電気炉に入れ、非晶質ガラスを280℃で熱処理することにより、ガラスセラミックスを得た。
(実施例2〜10)
合成に用いる原料の組成を表1に示す様にしたこと以外は、実施例1と同様の方法でガラスセラミックスを得た。得られたガラスセラミックスのイオン伝導度を表1に示す。実施例1〜10においてはいずれのガラスセラミックスも25℃で0.2mS/cm程度以上の高いイオン伝導度を示した。
(比較例1)
合成に用いる原料の組成を表1に示す様にしたこと以外は、実施例1と同様の方法でガラスセラミックスを得た。得られたガラスセラミックスのイオン伝導度を表1に示す。
Figure 2013116837
ガラスセラミックスを構成する骨格を確認するため、実施例1〜10及び比較例1のガラスセラミックスについて、ラマンスペクトル測定を行った。その結果を図1、2に示す。図1、2に示すように、実施例1〜10のガラスセラミックスにおいてはPS 3−とP 4−に帰属されるピークが観測され、実施例1〜10のガラスセラミックスが安定な構造であることが分かる。また、比較例1のガラスセラミックスにおいては、PS 3−に帰属されるピークのみが観測された。
ガラスセラミックス中に存在する結晶相の結晶構造を確認するため、実施例1〜6、実施例9及び比較例1のガラスセラミックスについて、XRD(X線回折)測定を行った。その結果を図3、4に示す。図3、4に示すように、実施例1〜3及び実施例9のガラスセラミックスにおいては、これまでに報告例のない新しい結晶相(New Phase)、実施例4、5のガラスセラミックスにおいてはthio−LISICON III類似の結晶相に帰属される回折パターンが観測され、高イオン伝導性を有する結晶相が析出していることが分かる。比較例1のガラスセラミックスにおいては、thio−LISICON III類似の結晶相に帰属される回折パターンが観測された。
なお、上記実施例においては、硫化リンを第3成分とし、ガラスセラミックスを形成する成分を種々の組成としたものが調製されているが、周期律表第15族のリン原子を有する硫化物を該15族と近接する族である13族や14族の原子を有する硫化物としても同様の効果が得られることとなる。すなわち、硫化リチウム、三硫化二リン及び第3成分からなる3種の成分を特定の比率(モル%)で含む原料から得られるガラスセラミックスであって、該第3成分を周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有するものとすれば、ガラスセラミックスを構成する元素間の相互作用により発揮される高いイオン伝導性と安定性とを両立できるという作用機序は、すべて同様であるものと考えられる。したがって、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。

Claims (4)

  1. リチウム原子及び硫黄原子を含有するガラスセラミックスであって、
    該ガラスセラミックスは、硫化リチウム、三硫化二リン及び第3成分を、
    硫化リチウムのモル%をx、三硫化二リンのモル%をy、第3成分のモル%をzとすると、
    x=70.5〜80、y=0.1〜15、z=100−x−y、z>0
    を満たす割合で含む原料から得られ、
    該第3成分は、周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する硫化物であることを特徴とするガラスセラミックス。
  2. 前記第3成分は、硫化リン、硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム及び硫化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミックス。
  3. リチウム原子及び硫黄原子を含有するガラスセラミックスであって、
    該ガラスセラミックスは、ラマンスペクトルにおいて、PS 3−及びP 4−のピークを有することを特徴とするガラスセラミックス。
  4. 前記ガラスセラミックスは、XRDスペクトルにおいて、2θ=18.8±0.5deg、及び、29.7±0.5degのピークを有することを特徴とする請求項3に記載のガラスセラミックス。
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