上記従来のブレーキ装置においては、単に、ドラムブレーキであるということ、或いは、液圧の変動が大きいということだけで、不感帯幅(すなわち、制御開始閾値)を大きくするものである。このため、脈動により実際にリニア制御弁が過度に作動している状態(過度に開閉動作を繰り返す状態)であるか否かについては適切に判断されていない。従って、リニア制御弁が過度に作動しない状態であっても、不感帯が大きく設定されてしまう場合があり、その結果、ブレーキ操作に対する良好な制御応答性が損なわれる可能性がある。又、逆に、リニア制御弁が過度に作動している状態であっても適正な不感帯幅を設定できない場合もあり、その結果、リニア制御弁の耐久性(耐久寿命)を低下させてしまう可能性がある。
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的の一つは、リニア制御弁が過度に作動する状態を抑制しつつ、ブレーキ操作に対する制御応答性を適切に確保することができるブレーキ制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明による車両のブレーキ制御装置は、作動液の液圧を受けて車輪に制動力を与えるホイールシリンダと、前記ホイールシリンダに伝達される液圧を調整するリニア制御弁とを有する車両のブレーキ装置に適用される。このため、車両のブレーキ制御装置は、ブレーキ操作量検出手段、液圧検出手段、脈動検出手段及び制御手段を備えている。
前記ブレーキ操作量検出手段は、ブレーキ操作量を検出する。前記液圧検出手段は、前記ホイールシリンダに伝達される液圧を検出する。
前記脈動検出手段は、前記ホイールシリンダの液圧が脈動していることを検出する。すなわち、脈動検出手段は、前記ブレーキ操作量検出手段によって検出されたブレーキ操作量及び前記液圧検出手段によって検出された前記ホイールシリンダの液圧に基づいて、前記ホイールシリンダの液圧に脈動が発生しているか否かを検出する。これにより、例えば、ブレーキ装置がディスクブレーキ装置であればブレーキロータの肉厚が均一でなかったり、或いは、ブレーキ装置がドラムブレーキ装置であればブレーキドラムの真円度が悪かったりするときに、ホイールシリンダのピストンが周期的に押されることによって発生するホイールシリンダの体積変化に起因する液圧の脈動を検出することができる。
前記制御手段は、前記脈動検出手段によって検出される前記ホイールシリンダの液圧の脈動に応じて前記リニア制御弁を駆動制御する。これにより、上述したように発生するホイールシリンダの液圧の脈動に応じてリニア制御弁を電磁的に駆動制御することを抑制することができ、その結果、リニア制御弁の電磁的な過度な開閉動作頻度を低減することができる。
ここで、前記リニア制御弁は、スプリングによるバネ力、相対的に高圧の作動液が流通する上流側と相対的に低圧の作動液が流通する下流側との間で発生する差圧に起因する差圧力及び電流の供給に伴って発生する電磁吸引力の合力に応じて閉弁状態から開弁状態に移行する又は開弁状態から閉弁状態に移行するものである。
車両のブレーキ制御装置の特徴の一つは、前記制御手段が、前記脈動検出手段により、前記ブレーキ操作量検出手段が検出したブレーキ操作量に対応して前記ホイールシリンダに発生させるべき目標液圧と前記液圧検出手段が検出した検出液圧との偏差に伴う脈動の発生が検出されると、前記目標液圧を用いて前記リニア制御弁における前記差圧力を発生させる目標差圧を設定し、前記差圧力を発生させる差圧と所定の関係にあって、任意の差圧以下の差圧で前記リニア制御弁を閉弁状態に維持させるとともに前記任意の差圧よりも大きな差圧で前記リニア制御弁を開弁状態に移行させる前記電磁吸引力を発生させる開弁電流を、前記目標差圧を用いて決定し、前記決定した開弁電流を前記リニア制御弁に供給することにある。
これによれば、ブレーキ操作量に対応する目標液圧と検出液圧との偏差に伴う脈動が検出される状況において、制御手段は、目標液圧を用いてリニア制御弁の目標差圧を設定し、この目標差圧以下の差圧でリニア制御弁を閉弁状態に維持させるとともに目標差圧よりも大きな差圧でリニア制御弁を開弁状態に移行させる電磁吸引力を発生させる開弁電流を決定し、この決定した開弁電流をリニア制御弁に供給することができる。これにより、制御手段は、上述した脈動が検出されている間、開弁電流をリニア制御弁に供給し続けると、リニア制御弁においては、目標差圧の発生によって閉弁状態を維持する(逆にいえば開弁状態にぎりぎり移行する)程度の電磁吸引力を発生した状態となる。この状態において、リニア制御弁に発生する差圧が目標差圧よりも大きいときには差圧力が大きくなってリニア制御弁が自動的に開弁状態に移行し、リニア制御弁に発生する差圧が目標差圧と一致或いは目標差圧以下であるときには差圧力が小さくなってリニア制御弁が自動的に閉弁状態に移行する。
すなわち、開弁電流が供給されているリニア制御弁においては、発生した差圧の大きさ、言い換えれば、差圧力の大きさによって自動的に開弁状態又は閉弁状態に移行することができる。これにより、例えば、リニア制御弁に目標差圧と一致する差圧が発生すると、制御手段によって別途電磁的な閉弁駆動制御がなされなくても、リニア制御弁は自動的に閉弁状態に移行(又は維持)することができる。一方、例えば、リニア制御弁に目標差圧よりも大きな差圧が発生すると、制御手段によって別途電磁的な開弁駆動制御がなされなくても、リニア制御弁は自動的に開弁状態に移行(又は維持)することができる。
従って、リニア制御弁に対して開弁電流を供給することのみで、発生する差圧に応じて自動的に開閉動作させることができるため、リニア制御弁を電磁的に開閉駆動制御する必要がなく、その結果、検出液圧を目標液圧に一致させるための急激な開閉動作を確実に抑制することができるとともに過度な開閉動作頻度を効果的に抑制することができる。又、目標液圧を用いて目標差圧を設定することにより、開弁電流を供給することのみで、検出液圧と目標液圧との差圧に応じて自動的に開閉動作させることができるため、検出液圧を目標液圧に速やかに追従させることができて、ドライバによるブレーキ操作に対して極めて良好な制御応答性を確保することができる。従って、ドライバは、常に、良好なブレーキフィーリングを知覚しながら車両を運転することができる。
又、本発明の他の特徴の一つは、前記制御手段が、前記脈動検出手段によって前記目標液圧と前記検出液圧との偏差に伴う脈動の発生が検出されており、前記偏差の絶対値が制御開始閾値を超えたときに、前記制御開始閾値を、前記液圧の脈動が検出されていない場合における制御開始閾値を表す通常制御開始閾値よりも大きくすることにもある。この場合、前記制御手段は、例えば、前記目標液圧と前記検出液圧との偏差の絶対値が前記制御開始閾値以下になるまで、前記制御開始閾値を大きくすることができる。そして、これらの場合には、前記制御手段が、例えば、前記目標液圧と前記検出液圧との偏差の絶対値が制御開始閾値を超えたとき、前記検出液圧が前記目標液圧に近づくように前記リニア制御弁をフィードバック制御により駆動制御することができる。
これらによれば、制御手段がリニア制御弁を電磁的に開閉駆動制御する頻度を確実に低減することができる。従って、過度な開閉動作頻度を効果的に抑制することができて、リニア制御弁の耐久性を良好に確保することができる。又、目標液圧と検出液圧との偏差の絶対値が制御開始閾値を超えるような状況では、フィードバック制御によりリニア制御弁を電磁的に開閉駆動制御することにより、適切に検出液圧を目標液圧に追従させることができる。
又、本発明の他の特徴の一つは、前記脈動検出手段が、前記目標液圧と前記検出液圧との偏差の絶対値が制御開始閾値を超え、かつ、前記偏差の周期が車輪の1回転の周期以下である場合に、前記液圧が脈動していると判定することにもある。これによれば、液圧の脈動を適切に検出することができ、その結果、リニア制御弁が過度に作動する状態をより適切に抑制することができる。
又、本発明の他の特徴の一つは、前記リニア制御弁が、前記バネ力の大きさに対して、前記差圧力及び前記電磁吸引力の合力の大きさが大きいときに開弁状態に移行する常閉式電磁リニア制御弁であって、作動液の液圧を増圧する増圧機構と前記ホイールシリンダとの間に配置されて前記ホイールシリンダに伝達された液圧を増圧する増圧リニア制御弁と、前記ホイールシリンダと大気開放されて作動液を貯留するリザーバとの間に配置されて前記ホイールシリンダに伝達された液圧を減圧する減圧リニア制御弁とから構成されるものであり、前記制御手段が、前記増圧機構に連結された上流側の上流側液圧から前記ホイールシリンダに連結される下流側の前記目標液圧を減じた差圧を前記増圧リニア制御弁における目標差圧として設定し、前記ホイールシリンダに連結される上流側の前記目標液圧から前記リザーバに連結される下流側の大気圧を減じた差圧を前記減圧リニア制御弁における前記目標差圧として設定し、前記設定した前記増圧リニア制御弁における目標差圧に対応する開弁電流を決定するとともにこの決定した開弁電流を前記増圧リニア制御弁に供給し、前記設定した前記減圧リニア制御弁における目標差圧に対応する開弁電流を決定するとともにこの決定した開弁電流を前記減圧リニア制御弁に供給することにもある。
これによれば、制御手段が増圧リニア制御弁及び減圧リニア制御弁に対して、それぞれに設定された目標差圧に対応する開弁電流を供給すると、増圧リニア制御弁は、検出液圧が目標液圧よりも大きいときに発生する差圧が目標差圧以下となって自動的に閉弁状態を維持し、検出液圧が目標液圧以下のときに発生する差圧が目標差圧よりも大きいために自動的に開弁状態に移行して増圧することができる。一方、減圧リニア制御弁は、検出液圧が目標液圧よりも大きいときに発生する差圧が目標差圧よりも大きくなって自動的に開弁状態に移行して減圧し、検出液圧が目標液圧以下のときに発生する差圧が目標差圧以下となって自動的に閉弁状態を維持することができる。
すなわち、開弁電流が供給されている増圧リニア制御弁においては、制御手段によって別途電磁的な開閉駆動制御がなされなくても、発生した差圧の大きさ、言い換えれば、差圧力の大きさによって自動的に開弁状態又は閉弁状態に移行することができる。これにより、例えば、増圧リニア制御弁に目標差圧と一致する差圧が発生すると、ホイールシリンダの検出液圧が目標液圧と一致していて増圧する必要がないため、制御手段によって別途電磁的な閉弁駆動制御がなされなくても、増圧リニア制御弁は自動的に閉弁状態に移行(又は維持)することができる。又、例えば、増圧リニア制御弁に目標差圧よりも大きな差圧が発生すると、ホイールシリンダの検出液圧を目標液圧まで増圧する必要があるため、制御手段によって別途電磁的な開弁駆動制御がなされなくても、増圧リニア制御弁は自動的に開弁状態に移行(又は維持)することができる。
一方、開弁電流が供給されている減圧リニア制御弁においても、制御手段によって別途電磁的な開閉駆動制御がなされなくても、発生した差圧の大きさ、言い換えれば、差圧力の大きさによって自動的に開弁状態又は閉弁状態に移行することができる。これにより、例えば、減圧リニア制御弁に目標差圧と一致する差圧が発生すると、ホイールシリンダの検出液圧が目標液圧と一致していて減圧する必要がないため、制御手段によって別途電磁的な閉弁駆動制御がなされなくても、減圧リニア制御弁は自動的に閉弁状態に移行(又は維持)することができる。又、例えば、減圧リニア制御弁に目標差圧よりも大きな差圧が発生すると、ホイールシリンダの検出液圧を目標液圧まで減圧する必要があるため、制御手段によって別途電磁的な開弁駆動制御がなされなくても、減圧リニア制御弁は自動的に開弁状態に移行(又は維持)することができる。
従って、増圧リニア制御弁及び減圧リニア制御弁に対してそれぞれに対応する開弁電流を供給することのみで、発生する差圧に応じて自動的に開閉動作させることができるため、増圧リニア制御弁及び減圧リニア制御弁をそれぞれ電磁的に開閉駆動制御する必要がなく、その結果、検出液圧を目標液圧に一致させるための急激な開閉動作を確実に抑制することができるとともに過度な開閉動作頻度を効果的に抑制することができる。又、目標液圧を用いて目標差圧を設定することにより、開弁電流を供給することのみで、検出液圧と目標液圧との差圧に応じて自動的に開閉動作させることができるため、検出液圧を目標液圧に速やかに追従させることができて、ドライバによるブレーキ操作に対して極めて良好な制御応答性を確保することができる。従って、ドライバは、更に、良好なブレーキフィーリングを知覚しながら車両を運転することができる。
又、本発明の他の特徴の一つは、前記制御手段が、前記液圧検出手段によって検出された前記検出液圧に所定の値を有する補正値を加減して、前記検出液圧を補正することにもある。これによれば、例えば、外乱等の影響を受けて、液圧検出手段によって検出される検出液圧に誤差が発生する場合であっても、検出液圧を適切に補正することができる。従って、精度よく液圧の脈動を検出することができるとともにリニア制御弁に発生する差圧をより精度よく決定することができて、その結果、リニア制御弁が過度に作動する状態をより適切に抑制することができる。
更に、本発明の他の特徴の一つは、前記制御手段が、前記脈動検出手段により、前記ブレーキ操作量検出手段が検出したブレーキ操作量に対応して前記ホイールシリンダに発生させるべき目標液圧と前記液圧検出手段が検出した検出液圧との偏差に伴う脈動の発生が検出されると、前記目標液圧の液圧勾配と予め設定された所定の液圧勾配とを比較し、前記目標液圧の液圧勾配が前記所定の液圧勾配よりも大きいとき、又は、前記目標液圧の液圧勾配が前記所定の液圧勾配よりも小さいときに、前記リニア制御弁を閉弁状態から開弁状態に移行させる又は開弁状態から閉弁状態に移行させる電流を前記リニア制御弁に供給することにもある。これによれば、ドライバによるブレーキ操作に応じてリニア制御弁を駆動制御することができる。従って、ドライバによるブレーキ操作に応答性よく対応することができるため、良好なブレーキフィーリングが得られる。
以下、本発明の一実施形態に係る車両のブレーキ制御装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両のブレーキ制御装置の概略システム構成図である。
本実施形態のブレーキ制御装置は、ブレーキペダル10と、マスタシリンダユニット20と、動力液圧発生装置30と、液圧制御弁装置50と、ブレーキ制御を司るブレーキECU100とを含んで構成される。各車輪にそれぞれ設けられるブレーキユニット40FR,40FL,40RR,40RLは、ブレーキロータ41FR,41FL,41RR,41RLとブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ42FR,42FL,42RR,42RLとを備える。尚、ブレーキユニット40は、4輪ともにディスクブレーキ式に限るものではなく、例えば、4輪ともドラムブレーキ式であってもよいし、前輪がディスクブレーキ式、後輪がドラムブレーキ式等任意に組み合わせたものでもよい。尚、以下の説明においては、車輪毎に設けられる構成についてその符号の末尾に、右前輪についてはFR、左前輪についてはFL、右後輪についてはRR、左後輪についてはRLを付すものとするが、特に車輪位置を特定する必要がない場合には、末尾の符号を省略する。
ホイールシリンダ42FR,42FL,42RR,42RLは、液圧制御弁装置50に接続されて同装置50から供給される作動液(ブレーキフルード)の液圧が伝達されるようになっている。そして、液圧制御弁装置50から供給される液圧により、車輪と共にに回転するブレーキロータ41FR,41FL,41RR,41RLにブレーキパッドを押し付けて車輪に制動力を付与する。
マスタシリンダユニット20は、液圧ブースタ21、マスタシリンダ22、レギュレータ23、リザーバ24を備える。液圧ブースタ21は、ブレーキペダル10に連結されており、ブレーキペダル10に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ22に伝達する。液圧ブースタ21は、増圧機構としての動力液圧発生装置30からレギュレータ23を介して作動液が供給されることにより、ペダル踏力を増幅してマスタシリンダ22に伝達する。マスタシリンダ22は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ22とレギュレータ23との上部には、作動液を貯留するリザーバ24が設けられている。マスタシリンダ22は、ブレーキペダル10の踏み込みが解除されているときにリザーバ24と連通する。レギュレータ23は、リザーバ24と動力液圧発生装置30のアキュムレータ32との双方に連通し、リザーバ24を低圧源とするとともにアキュムレータ32を高圧源として、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。尚、以下の説明においては、レギュレータ23の液圧をレギュレータ圧と称呼する。マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一にする必要はなく、例えば、レギュレータ圧をマスタシリンダ圧よりも若干高圧になるように設定してもよい。
増圧機構としての動力液圧発生装置30は、動力液圧源であって、ポンプ31とアキュムレータ32とを備える。ポンプ31は、その吸入口がリザーバ24に接続され、吐出口がアキュムレータ32に接続され、モータ33を駆動することにより作動液を加圧する。アキュムレータ32は、ポンプ31により加圧された作動液の圧力エネルギーを窒素等の封入ガスの圧力エネルギーに変換して蓄える。又、アキュムレータ32は、マスタシリンダユニット20に設けられたリリーフバルブ25に接続されている。リリーフバルブ25は、作動液の圧力が所定の圧力以上に高まった場合に開弁し、作動液をリザーバ24に戻す。
このように、ブレーキ制御装置は、ホイールシリンダ42に作動液の液圧を付与する液圧源として、ドライバのブレーキ踏力(ブレーキペダル10を踏み込む力)を利用したマスタシリンダ22及びレギュレータ23と、ドライバのブレーキ踏力とは無関係に液圧を付与する動力液圧発生装置30とを備えている。そして、マスタシリンダ22、レギュレータ23及び動力液圧発生装置30は、それぞれ、マスタ配管11、レギュレータ配管12及びアキュムレータ配管13を介して液圧制御弁装置50に接続される。又、リザーバ24は、リザーバ配管14を介して液圧制御弁装置50に接続される。
液圧制御弁装置50は、各ホイールシリンダ42FR,42FL,42RR,42RLに接続される4つの個別流路51FR,51FL,51RR,51RLと、個別流路51FR,51FL,51RR,51RLを連通する主流路52と、主流路52とマスタ配管11とを接続するマスタ流路53と、主流路52とレギュレータ配管12とを接続するレギュレータ流路54と、主流路52とアキュムレータ配管13とを接続するアキュムレータ流路55とを備える。マスタ流路53、レギュレータ流路54及びアキュムレータ流路55は、それぞれ、主流路52に対して並列に接続される。
各個別流路51FR,51FL,51RR,51RLには、その途中部分に、それぞれ、ABS保持弁61FR,61FL,61RR,61RLが設けられる。ABS保持弁61は、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により開弁状態を維持し、ソレノイドの通電中においてのみ閉弁状態となる常開式電磁開閉弁である。ABS保持弁61は、開弁状態においては、作動液を双方向に流すことができ方向性を有さない。
又、各個別流路51FR,51FL,51RR,51RLには、ABS保持弁61FR,61FL,61RR,61RLと並列にリターンチェック弁62FR,62FL,62RR,62RLが設けられる。リターンチェック弁62は、主流路52からホイールシリンダ42に向かう作動液の流れを遮断し、ホイールシリンダ42から主流路52に向かう作動液の流れを許容する弁である。すなわち、ホイールシリンダ42の液圧(以下、ホイールシリンダ圧と称呼する。)が主流路52の液圧よりも高圧となる場合に機械的に弁体が開いてホイールシリンダ42の作動液を主流路52側に流し、ホイールシリンダ圧が主流路52の液圧と等しくなると弁体が閉弁するように構成されている。従って、ABS保持弁61が閉弁されてホイールシリンダ圧が保持されているときに、主流路52における制御液圧が低下してホイールシリンダ圧を下回った場合には、ABS保持弁61を閉弁状態に維持したままホイールシリンダ圧を主流路52の制御液圧になるまで減圧することができる。
又、各個別流路51FR,51FL,51RR,51RLには、それぞれ、減圧用個別流路56FR,56FL,56RR,56RLが接続される。各減圧用個別流路56は、リザーバ流路57に接続される。リザーバ流路57は、リザーバ配管14を介してリザーバ24に接続される。各減圧用個別流路56FR,56FL,56RR,56RLには、その途中部分に、それぞれ、ABS減圧弁63FR,63FL,63RR,63RLが設けられている。各ABS減圧弁63は、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により閉弁状態を維持し、ソレノイドの通電中においてのみ開弁状態となる常閉式電磁開閉弁である。各ABS減圧弁63は、開状態において作動液をホイールシリンダ42から減圧用個別流路56を介してリザーバ流路57に流すことでホイールシリンダ圧を低下させる。
尚、ABS保持弁61及びABS減圧弁63は、車輪がロックする傾向を有する(すなわち、車輪がスリップする傾向を有する)場合に、ホイールシリンダ圧を下げて車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御の作動時等に開閉制御されるものである。
主流路52には、その途中部分に連通弁64が設けられる。連通弁64は、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により閉弁状態を維持し、ソレノイドの通電中においてのみ開弁状態となる常閉式電磁開閉弁である。主流路52は、連通弁64を境として、一方側がマスタ流路53に接続される第1主流路521と、他方側がレギュレータ流路54及びアキュムレータ流路55に接続される第2主流路522とに区分けされる。連通弁64が閉弁状態にあるときには、第1主流路521と第2主流路522との間の作動液の流通が遮断され、連通弁64が開弁状態にあるときには、第1主流路521と第2主流路522との間の作動液の流通が双方向で許容される。
マスタ流路53には、その途中部分にマスタカット弁65が設けられる。マスタカット弁65は、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により開弁状態を維持し、ソレノイドの通電中においてのみ閉弁状態となる常開式電磁開閉弁である。マスタカット弁65が閉弁状態にあるときには、マスタシリンダ22と第1主流路521との間の作動液の流通が遮断され、マスタカット弁65が開弁状態にあるときには、マスタシリンダ22と第1主流路521との間の作動液の流通が双方向で許容される。
又、マスタ流路53には、マスタカット弁65が設けられる位置よりもマスタシリンダ22側において、シミュレータ流路71が分岐して設けられる。シミュレータ流路71には、シミュレータカット弁72を介してストロークシミュレータ70が接続される。シミュレータカット弁72は、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により閉弁状態を維持し、ソレノイドの通電時においてのみ開弁状態となる常閉式電磁開閉弁である。シミュレータカット弁72が閉弁状態にあるときには、マスタ流路53とストロークシミュレータ70との間の作動液の流通が遮断され、シミュレータカット弁72が開弁状態にあるときには、マスタ流路53とストロークシミュレータ70との間の作動液の流通が双方向に許容される。
ストロークシミュレータ70は、複数のピストンやスプリングを備えており、シミュレータカット弁72が開弁状態にあるときに、ブレーキ操作量に応じた量の作動液を内部に導入する。そして、ストロークシミュレータ70は、作動液を内部に導入することにより、ドライバによるブレーキペダル10のストローク操作を可能とするとともに、ペダル操作量に応じた反力を発生させて、ドライバのブレーキ操作フィーリングを良好にするものである。
レギュレータ流路54には、その途中部分にレギュレータカット弁66が設けられる。レギュレータカット弁66は、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により開弁状態を維持し、ソレノイドの通電中においてのみ閉弁状態となる常開式電磁開閉弁である。レギュレータカット弁66が閉弁状態にあるときには、レギュレータ23と第2主流路522との間の作動液の流通が遮断され、レギュレータカット弁66が開弁状態にあるときには、レギュレータ23と第2主流路522との間の作動液の流通が双方向で許容される。
アキュムレータ流路55には、その途中部分に増圧リニア制御弁67Aが設けられる。又、アキュムレータ流路55が接続される第2主流路522は、減圧リニア制御弁67Bを介してリザーバ流路57に接続される。増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bは、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により閉弁状態を維持し、ソレノイドへの通電量(電流値)の増加に従って開度を増加させる常閉式電磁リニア制御弁である。増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bは、スプリングが弁体を閉弁方向に付勢するバネ力と、相対的に高圧の作動液が流通する一次側(入口側)及び相対的に低圧の作動液が流通する二次側(出口側)の差圧によって弁体が開弁方向に付勢される差圧力との差分である閉弁力により閉弁状態を維持する。一方、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bは、ソレノイドへの通電により発生する弁体を開弁させる方向に作用する電磁吸引力がこの閉弁力を上回った場合、すなわち、電磁吸引力>閉弁力(=バネ力−差圧力)を満たす場合には、弁体に作用する力のバランスに応じた開度で開弁する。従って、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bは、ソレノイドへの通電量(電流値)を制御することにより、差圧力すなわち一次側(入口側)と二次側(出口側)との差圧に応じた開度を調整することができる。ここで、この増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bは、本発明におけるリニア制御弁に相当する。尚、以下の説明において、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bの両者について区別する必要がない場合には、単に、リニア制御弁67と称呼する。
動力液圧発生装置30及び液圧制御弁装置50は、ブレーキECU100により駆動制御される。ブレーキECU100は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、ポンプ駆動回路、電磁弁駆動回路、各種のセンサ信号を入力するインターフェース、通信インターフェース等を備えている。液圧制御弁装置50に設けられた各電磁開閉弁及びリニア制御弁67は、全てブレーキECU100に接続され、ブレーキECU100から出力されるソレノイド駆動信号により開閉状態及び開度(リニア制御弁67の場合)が制御される。又、動力液圧発生装置30に設けられたモータ33についても、ブレーキECU100に接続され、ブレーキECU100から出力されるモータ駆動信号により駆動制御される。
液圧制御弁装置50には、液圧検出手段として、アキュムレータ圧センサ101、レギュレータ圧センサ102、制御圧センサ103が設けられる。アキュムレータ圧センサ101は、増圧リニア制御弁67Aよりも動力液圧発生装置30側(上流側)のアキュムレータ流路55における作動液の圧力であるアキュムレータ圧Paccを検出する。アキュムレータ圧センサ101は、検出したアキュムレータ圧Paccを表す信号をブレーキECU100に出力する。ブレーキECU100は、アキュムレータ圧Paccを所定の周期で読み込み、アキュムレータ圧Paccが予め設定された最低設定圧を下回る場合にはモータ33を駆動してポンプ31により作動液を加圧し、常にアキュムレータ圧Paccが設定圧力範囲内に維持されるように制御する。
レギュレータ圧センサ102は、レギュレータカット弁66よりもレギュレータ23側(上流側)のレギュレータ流路54における作動液の圧力であるレギュレータ圧Pregを検出する。レギュレータ圧センサ102は、検出したレギュレータ圧Pregを表す信号をブレーキECU100に出力する。制御圧センサ103は、第1主流路521における作動液の圧力である制御圧Pxを表す信号をブレーキECU100に出力する。
又、ブレーキECU100には、ブレーキペダル10に設けられたブレーキ操作量検出手段としてのペダルストロークセンサ104が接続される。ペダルストロークセンサ104は、ブレーキペダル10の踏み込み量(操作量)であるペダルストロークを検出し、検出したペダルストロークSpを表す信号をブレーキECU100に出力する。更にブレーキECU100には、車輪速センサ105が接続される。車輪速センサ105は、左右前後輪の回転速度である車輪速を検出し、検出した車輪速Vxを表す信号をブレーキECU100に出力する。
次に、ブレーキECU100が実行するブレーキ制御について説明しておく。ブレーキECU100は、動力液圧発生装置30から出力される液圧をリニア制御弁67にて調圧してホイールシリンダ42に伝達するリニア制御モードと、ドライバの踏力により発生した液圧をホイールシリンダに伝達するバックアップモードとの少なくとも2つの制御モードによりブレーキ制御を選択的に実行する。本実施形態における特徴は、リニア制御モードにおいて適用されるものであるため、バックアップモードについての説明は省略する。
リニア制御モードにおいては、マスタカット弁65及びレギュレータカット弁66は、ソレノイドへの通電により閉弁状態に維持され、連通弁64は、ソレノイドへの通電により開弁状態に維持される。又、シミュレータカット弁72は、ソレノイドへの通電により開弁状態に維持される。又、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bは、ソレノイドへの通電制御状態におかれて、通電量に応じた開度に制御される。更に、ABS保持弁61及びABS減圧弁63については、周知のアンチロックブレーキ制御等で必要に応じて開閉され、通常においては、ABS保持弁61は開弁状態に維持され、ABS減圧弁63は閉弁状態に維持される。
ここで、リニア制御モードにおいては、マスタカット弁65及びレギュレータカット弁66が共に閉弁状態に維持されるため、マスタシリンダユニット20から出力される液圧は、ホイールシリンダ42に伝達されない。又、連通弁64が開弁状態に維持されるとともに、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bが通電制御状態におかれる。このため、動力液圧発生装置30から出力される液圧(すなわち、アキュムレータ圧)が増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bによって調圧されて4輪のホイールシリンダ42にに伝達される。この場合、各ホイールシリンダ42は、主流路52により連通されているため、ホイールシリンダ圧が4輪で全て同じ値となる。このホイールシリンダ圧は、制御圧センサ103により検出することができる。
本実施形態のブレーキ制御装置が設けられる車両は、例えば、バッテリ電源により駆動されるモータを備えた電気自動車や、モータに加えてガソリン燃料により駆動される内燃機関をも備えたハイブリッド車両である。このような車両においては、車輪の回転エネルギーをモータが電気エネルギーに変換することによって発電し、この発電電力をバッテリに回生させることによって制動力を得る回生制動を行うことが可能である。このような回生制動を行う場合には、車両を制動させるために必要な総制動力から回生による制動力分を除いた制動力をブレーキ制御装置で発生させることにより、回生制動と液圧制動とを併用したブレーキ回生協調制御を行うことができる。
そして、ブレーキECU100は、制動要求を受けてブレーキ回生協調制御を開始する。制動要求は、例えば、ドライバがブレーキペダル10を踏み込み操作した場合等、車両に制動力を付与すべきときに発生する。ブレーキECU100は、制動要求を受けると、ブレーキ操作量として、ペダルストロークセンサ104により検出されるブレーキペダル10のペダルストロークSpを取得し、このペダルストロークSpに基づいて目標制動力を演算する。ここで、目標制動力は、ペダルストロークSpが大きいほど大きな値に設定される。尚、ペダルストロークセンサ104により検出されるペダルストロークSpを用いることに代えて、レギュレータ圧センサ102により検出されるレギュレータ圧Pregに基づいてブレーキ操作量を検出するように実施することも可能である。又、他にもブレーキペダル10の踏み込み力を検出する踏力センサを設けて、踏力に基づいてブレーキ操作量を検出するように実施することも可能である。
ブレーキECU100は、演算した目標制動力を表す情報をハイブリッドECU(図示省略)に送信する。ハイブリッドECUは、目標制動力のうち、電力回生により発生させた制動力を演算して、その演算結果である回生制動力を表す情報をブレーキECU100に送信する。これにより、ブレーキECU100は、目標制動力から回生制動力を減算することによりブレーキ制御装置で発生させるべき制動力である目標液圧制動力を演算する。ハイブリッドECUで行う電力回生により発生する回生制動力は、モータの回転速度により変化するだけではなく、バッテリの充電状態(SOC)等によっても回生電力制御により変化する。従って、目標制動力から回生制動力を減算することにより、適切な目標液圧制動力を演算することができる。
ブレーキECU100は、演算した目標液圧制動力に基づいて、この目標液圧制動力に対応した各ホイールシリンダ42の目標液圧を演算し、ホイールシリンダ圧が目標液圧と等しくなるように、フィードバック制御により増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bの駆動電流を制御する。すなわち、ブレーキECU100は、制御圧センサ103によって検出された制御圧Px(=ホイールシリンダ圧)が目標液圧に追従するように、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bの各ソレノイドに流す電流を制御する。
これにより、作動液が動力液圧発生装置30から増圧リニア制御弁67Aを介して各ホイールシリンダ42に供給され、車輪に制動力が発生する。又、必要に応じて、ホイールシリンダ42から作動液が減圧リニア制御弁67Bを介して排出され、車輪に発生する制動力が適切に調整される。
尚、本発明は、ブレーキ回生協調制御を行うことを必須とするものではないため、回生制動力を発生させない車両においても適用することができる。この場合には、ブレーキ操作量に基づいて目標液圧を直接演算すれば良い。目標液圧は、例えば、マップや計算式等を使って、ブレーキ操作量が大きくなるほど大きな値に設定される。
上述したように、ブレーキECU100は、リニア制御モードにおいて、制御圧センサ103により検出される制御圧Px(以下、検出液圧Pxとも称呼する。)が目標液圧P*に追従するように、リニア制御弁67(詳しくは、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67B)の各ソレノイドに流す電流を制御する。通常において、ブレーキECU100は、こうした電流制御を行うにあたって、リニア制御弁67に通電しない不感帯を設定する場合がある。このように設定される不感帯は、目標液圧P*を中心としてプラス側とマイナス側とにおいて所定の幅で設定される。そして、このような不感帯が設定される場合において、ブレーキECU100は、検出液圧Pxが不感帯に入っている場合には、原則、リニア制御弁67に通電しない。一方、不感帯が設定される場合において、検出液圧Pxが不感帯から外れると、ブレーキECU100は、目標液圧P*と検出液圧Pxとの偏差に応じて、この偏差をゼロに近づけるようにリニア制御弁67への通電を制御する。この場合、ブレーキECU100は、例えば、目標液圧P*と検出液圧Pxとの偏差(P*−Px)を用いたPID制御等の周知のフィードバック制御を行う。
ここで、上述したように、ブレーキECU100は、検出液圧Pxが前記不感帯を外れるとリニア制御弁67への通電制御を開始する。すなわち、通常において、前記不感帯の境界は、リニア制御弁67の通電が開始される点となる。このため、本実施形態においては、目標液圧P*から不感帯の境界までの幅を制御開始閾値Xと称呼する。尚、制御開始閾値を、目標液圧P*±(不感帯幅)と定義してもよいが、本実施形態においては、後述するように、不感帯の幅を可変する場合を例示的に示すため、以下の説明が煩雑とならないように、目標液圧から不感帯の境界までの幅を制御開始閾値と定義し、不感帯の幅を可変することを制御開始閾値を可変することと同一の意味として取り扱うものとする。又、本実施形態においては、制御開始閾値は、目標液圧P*に対してプラス側の値とマイナス側の値とを同一にした場合を例示するが、それぞれ異なるように実施可能であることは言うまでもない。
ブレーキユニット40においては、回転するブレーキロータ41にブレーキパッドを押し付けて車輪に制動力を付与する。このため、ブレーキパッドとブレーキロータ41との摩擦摺動に伴って、ブレーキロータ41の摩擦摺動面における肉厚が薄くなり、ブレーキロータ41の回転方向(摩擦摺動面の周方向)にて肉厚差が生じる場合がある。この場合には、回転しているブレーキロータ41にブレーキパッドを押し付けて摩擦摺動させると、前記肉厚差に起因してブレーキパッドがブレーキロータ41の回転軸線方向(摩擦摺動面に垂直方向)にて繰り返し変位し、その結果、ホイールシリンダ42内のピストンが動かされてホイールシリンダ42内の液圧が脈動するようになる。
尚、本実施形態においては、ブレーキユニット40としてディスクブレーキ式を採用しているが、これに代えて、ドラムブレーキ式を採用することも可能である。ドラムブレーキ式を採用した場合には、車輪と一体的に回転するブレーキドラムと、ブレーキドラムの内側に設けられた一対のシューと、シューを拡開させるホイールシリンダとを備えており、ホイールシリンダに液圧が供給されることによって一対のシューが拡開してブレーキドラムの内周面(摩擦摺動面)に対して摩擦摺動し、車輪に制動力を付与する。このように、ドラムブレーキ式を採用する場合、例えば、ブレーキドラムの回転中心軸が車輪の回転中心軸に対して偏心した状態でブレーキドラムが組み付けられていたり、ブレーキドラムの真円度が良好でない場合には、回転しているブレーキドラムにシューがを押し付けて摩擦摺動させると、前記偏心や真円度に起因してシューがブレーキドラムの半径方向(摩擦摺動面に垂直方向)にて繰り返し変位し、その結果、ホイールシリンダ内のピストンが動かされてホイールシリンダ内の液圧が脈動するようになる。
上記のように、ホイールシリンダ42内の液圧に脈動が発生する状況では、所謂、ブレーキ振動が発生する。そして、発生した液圧の脈動は、図2に左後輪を例示的に示すような伝搬経路によって制御圧センサ103に伝達される。このため、図3の上段のグラフに示すように、検出液圧Pxが脈動し、検出液圧Pxと目標液圧P*との偏差が制御開始閾値Xを超えるようになると、図3の下段のグラフに示すように、ブレーキECU100が電磁的に開閉駆動制御することによって、リニア制御弁67が電磁的な開弁動作と電磁的な閉弁動作とを繰り返すようになる。すなわち、リニア制御弁67が過度に電磁的な動作を繰り返してしまうため、リニア制御弁67の耐久寿命が低下する可能性がある。
このため、従来から、リニア制御弁67が過度に作動する状態であるか否か、言い換えれば、検出液圧Px(=ホイールシリンダ圧)の脈動の発生が検出、推定或いは予測されるか否かを判断し、リニア制御弁67が過度に作動する状態であると判断した場合には、制御開始閾値Xを大きくして不感帯幅を大きくし、リニア制御弁67が過度に作動しないようにすることが一般的な方法として採用される。尚、リニア制御弁67が過度に作動する状態であると判断した場合に制御開始閾値Xを大きくして不感帯幅を大きくする点については本発明に直接関係しないためその説明を省略するが、検出液圧Px(=ホイールシリンダ圧)に脈動が発生したか否かの判定については以下に簡単に説明しておく。
検出液圧Px(=ホイールシリンダ圧)に脈動が発生したか否かの判定について、ブレーキECU100は、例えば、図4に示す脈動検出プログラムを実行し、脈動が検出されるすなわち脈動が発生したか否かを判定する。尚、検出液圧Px(=ホイールシリンダ圧)に発生した脈動を精度よく検出するために、ブレーキECU100は、車両が走行中であって、ブレーキ操作量あるいは目標液圧P*が一定に維持されているブレーキ保持状態となる場合においてのみ脈動検出プログラムを実行する。
ブレーキECU100は、ステップS10にて脈動検出プログラムの実行を開始し、ステップS11にて、車輪速センサ105により検出される車輪速Vxを読み込む。続いて、ブレーキECU100は、ステップS12において、制御圧センサ103により検出される検出液圧Pxを読み込みメモリに記憶し、ステップS13に進む。ステップS13においては、ブレーキECU100は、前記ステップS11にて読み込んだ車輪速Vxに基づき、車輪が1回転したか否かを判定し、車輪が1回転していないときには「No」と判定してステップS20にて脈動検出プログラムを一旦終了し、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。従って、車輪が1回転するまで、ステップS11〜S13の各ステップ処理が繰り返し実行されて、検出液圧Pxがサンプリングされる。尚、車輪が1回転するまでの期間における脈動検出判定結果は、「脈動無し」に設定される。
一方、ブレーキECU100は、前記ステップS11及びステップS12の各ステップ処理を繰り返し、ステップS13にて車輪が1回転したことを検出すると、「Yes」と判定してステップS14に進む。ステップS14においては、ブレーキECU100は、車輪が1回転した期間における検出液圧Pxの変動量ΔPxを計算する。この変動量ΔPxは、例えば、サンプリングした検出液圧Pxの最大値Px_maxと最小値Px_minとの差分として計算される。
そして、続くステップS15においては、ブレーキECU100は、車輪が1回転する間の変動量ΔPxが脈動判定基準値ΔPaよりも大きいか否かを判定し、変動量ΔPa以下であれば、「No」と判定してステップS16に進み、液圧に脈動が発生していない(液圧の脈動無し)と判定する。一方、変動量ΔPxが脈動判定基準値ΔPaよりも大きければ、ブレーキECU100は「Yes」と判定してステップS17に進み、液圧に脈動が発生している(液圧の脈動有り)と判定する。ここで、脈動判定基準値ΔPaは、リニア制御弁67が過度に作動する状態を判定する脈動の大きさを表す値に予め設定されるものであり、例えば、制御開始閾値Xを増加させていない通常の制御開始閾値を表す通常制御開始閾値X0と同じ値等任意に設定することができる。
続いて、ブレーキECU100は、前記ステップS15及びステップS17の各ステップ処理を実行することによって脈動有りと判定すると、ステップS18にて、検出液圧Pxの変動量ΔPxをメモリに記憶する。そして、ブレーキECU100は、ステップS19において、脈動の有無の判定結果をメモリに記憶し、ステップS20にて脈動検出プログラムの実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。
このように、図4に示した脈動検出プログラムを実行することにより、ブレーキECU100は、車輪が1回転した後は、現時点から車輪の1回転分だけ遡った時点までの期間の検出液圧Pxに基づいて車輪1回転分の変動量ΔPxを計算し、この変動量ΔPxに基づいて液圧脈動の有無を判定することができる。そして、ブレーキECU100は、変動量ΔPxと脈動有無の判定結果とを更新可能に記憶することができる。尚、ブレーキECU100は、ブレーキ保持状態が解除された場合には、脈動判定結果及び変動量ΔPxをメモリに記憶保持した状態で、脈動検出プログラムの実行を一旦停止する。そして、再度、ブレーキ保持状態が検出されると、脈動検出プログラムの実行を再開する。このとき、ブレーキECU100は、再開時における車輪の1回転が検出されるまでの期間の初期値として、メモリに記憶されている脈動判定結果及び変動量ΔPxが使用される。
そして、ブレーキECU100は、例えば、上述したようにメモリに記憶されている脈動判定結果に基づき、液圧脈動が発生していなければ制御開始閾値Xを増加させることなく通常制御開始閾値X0に設定することができる。一方、液圧脈動が発生していれば、ブレーキECU100は、制御開始閾値Xを増加させる。このとき、ブレーキECU100は、例えば、上述したようにメモリに記憶されている検出液圧Pxの変動量ΔPxだけ制御開始閾値Xを増加させることができる。すなわち、ブレーキECU100は、通常制御開始閾値X0に変動量ΔPxを加算した値を制御開始閾値X(=X0+ΔPx)として設定することができる。
ところで、上記のように検出液圧Px(=ホイールシリンダ圧)に脈動が発生し、制御開始閾値Xを大きくした場合には、リニア制御弁67が過度に作動する状態は良好に回避することができて、リニア制御弁67の耐久性を良好に確保することができる。しかしながら、制御開始閾値Xを大きくした場合には、図5に概略的に示すように、例えば、ドライバによるブレーキ操作量の変更に伴う目標液圧P*の変化(図5においてはブレーキペダル10の踏み増しに伴う目標液圧P*の増加)が生じた場合、ブレーキECU100によるブレーキ制御が遅れる傾向にあり、その結果、リニア制御弁67の制御作動(具体的には通電制御)も遅れてドライバが知覚するブレーキフィーリング(より具体的には、ブレーキ操作に対する応答性)に違和感を覚える可能性がある。従って、単に、制御開始閾値Xを大きくするのみでは、リニア制御弁67の耐久性の確保と、良好なブレーキフィーリングの確保とを両立させることは難しい。
そこで、本実施形態においては、検出液圧Px(=ホイールシリンダ圧)の脈動を検出、推定或いは予測した場合、若しくは、既に通常制御開始閾値X0に比して制御開始閾値Xを大きくしている場合には、目標液圧P*と検出液圧Pxとの偏差(P*−Px)が通常制御開始閾値Xよりも小さい状況であっても、すなわち、上述した不感帯に入っている状況であっても、リニア制御弁67(増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67B)に対して所定の電流を供給し続けるように電流印加制御を実行する。ただし、所定の電流の大きさとしては、リニア制御弁67における「閉弁力(=バネ力−差圧力)」を僅かに上回る「電磁吸引力」を生じさせる電流の大きさであり、検出液圧Px(=ホイールシリンダ圧)が目標液圧P*となったときの「差圧力」によってリニア制御弁67が自動的に(電磁的な制御を行うことなく)閉弁状態に移行できる電流の大きさである。以下、この電流印加制御について詳細に説明する。
常閉式電磁リニア制御弁であるリニア制御弁67は、図6に概略的に示すように、「バネ力−差圧力」で決定される「閉弁力」に比してコイルに通電することによって発生する「電磁吸引力」が僅かでも大きければ開弁状態に移行し、「電磁吸引力」が「開弁力」以下であれば閉弁状態を維持する。この場合、「バネ力」が一定であるとすれば、「差圧力」を発生させる一次側(入口側)と二次側(出口側)との差圧の大きさと、「電磁吸引力」を発生させるコイルに供給される電流の大きさとの関係は、図7に示すように表すことができる。尚、図7のグラフにおいては、差圧に基づいて決定される電流は、閉弁状態からようやく開弁状態に移行する開弁電流を表す。
ここで、図7に示した差圧と電流(開弁電流)の関係によれば、任意の差圧に対応して決定される開弁電流よりも大きな電流をコイルに供給すると、「電磁吸引力」が「閉弁力(=バネ力−差圧力)」よりも大きくなってリニア制御弁67は開弁状態に移行する。又、任意の差圧に対応して決定される開弁電流以下の電流をコイルに供給すると、「電磁吸引力」が「閉弁力(=バネ力−差圧力)」以下となってリニア制御弁67は閉弁状態を維持する。
逆にいえば、任意の開弁電流をコイルに供給して所定の「電磁吸引力」を発生させている状態では、前記任意の開弁電流に対応する差圧よりも大きな差圧が発生すると所定の「電磁吸引力」が「閉弁力(=バネ力−差圧力)」よりも相対的に大きくなってリニア制御弁67は開弁状態に移行し、前記任意の開弁電流に対応する差圧以下の差圧が発生すると所定の「電磁吸引力」が「閉弁力(=バネ力−差圧力)」よりも相対的に小さくリニア制御弁67は閉弁状態に移行するようになる。すなわち、一定の開弁電流を供給して所定の「電磁吸引力」を継続して発生させている状況では、リニア制御弁67の上流側と下流側とで発生する差圧の大きさに応じて、別途電磁的な開閉駆動制御に依らず、自動的にリニア制御弁67を開弁状態又は閉弁状態に移行させることができる。
具体的に説明すると、任意の開弁電流を供給して所定の「電磁吸引力」を発生させている状況において、図7に示した関係に従って決定される前記任意の開弁電流に対応する差圧の大きさよりも大きな差圧がリニア制御弁67に発生すれば、リニア制御弁67を電磁的に開弁状態に制御しなくても発生した差圧(より詳しくは差圧力)によって自動的に開弁状態に移行する。一方で、図7に示した関係に従って決定される前記任意の開弁電流に対応する差圧の大きさ以下の差圧がリニア制御弁67に発生すれば、リニア制御弁67を電磁的に閉弁状態に制御しなくても発生した差圧(より詳しくは差圧力)によって自動的に閉弁状態に移行する。
この場合、増圧リニア制御弁67Aにおいては、上流側である一次側(入口側)の液圧がアキュムレータ圧センサ101によって検出される相対的に高圧のアキュムレータ圧Paccとなり、下流側である二次側(出口側)の液圧が制御圧センサ103によって検出される相対的に低圧の制御圧Px(=ホイールシリンダ圧)となる。従って、増圧リニア制御弁67Aにおける差圧は、アキュムレータ圧Paccから制御圧Pxを減じることによって決定される。又、減圧リニア制御弁67Bにおいては、上流側である一次側(入口側)の液圧が制御圧センサ103によって検出される相対的に高圧の制御圧Px(=ホイールシリンダ圧)となり、下流側である二次側(出口側)の液圧が相対的に低圧の大気圧(=リザーバ圧)となる。従って、減圧リニア制御弁67Bにおける差圧は、制御圧Pxから大気圧を減じる、すなわち、制御圧Pxとして決定される。
これにより、制御圧Px(=ホイールシリンダ圧)を目標液圧P*に追従させる場合、増圧リニア制御弁67Aに発生する差圧(Pacc−Px)を目標液圧P*を用いて目標差圧(Pacc−P*)に設定するとともに減圧リニア制御弁67Bに発生する差圧(Px)を目標液圧P*を用いて目標差圧(P*)に設定する。そして、図7に示した関係に基づき、増圧リニア制御弁67Aに対して目標差圧(Pacc−P*)に対応する開弁電流を決定して供給し続けるとともに減圧リニア制御弁67Bに対して目標差圧(P*)に対応する開弁電流を決定して供給し続ける。その結果、図8に概略的に示すように、ホイールシリンダ42におけるホイールシリンダ圧すなわち制御圧Px(検出液圧Px)が目標液圧P*よりも大きい状況Aでは、増圧リニア制御弁67Aにおいては目標差圧(Pacc−P*)>差圧(Pacc−Px)となるために閉弁状態に自動的に維持される一方で、減圧リニア制御弁67Bにおいては差圧(Px)>目標差圧(P*)となるために開弁状態に自動的に移行する。逆に、図8に概略的に示すように、ホイールシリンダ42におけるホイールシリンダ圧すなわち制御圧Px(検出液圧Px)が目標液圧P*よりも小さい状況Bでは、増圧リニア制御弁67Aにおいては目標差圧(Pacc−P*)<差圧(Pacc−Px)となるために開弁状態に自動的に移行する一方で、減圧リニア制御弁67Bにおいては差圧(Px)<目標差圧(P*)となるために閉弁状態が自動的に維持される。
すなわち、図8に概略的に示すように、ホイールシリンダ42におけるホイールシリンダ圧すなわち制御圧Px(検出液圧Px)が目標液圧P*よりも大きい状況Aでは、制御圧Pxを目標液圧P*まで減圧する必要がある。具体的に、この状況Aにおいては、増圧リニア制御弁67Aを閉弁状態にしてホイールシリンダ42に対して高圧のアキュムレータ圧Paccが供給されないようにし、減圧リニア制御弁67Bを開弁状態にしてホイールシリンダ42のホイールシリンダ圧(検出液圧Px)を減少させる必要がある。この場合、ブレーキECU100が増圧リニア制御弁67Aに目標差圧(Pacc−P*)に対応する電流を供給し、減圧リニア制御弁67Bに目標差圧(P*)に対応する電流を供給するのみで、増圧リニア制御弁67Aは発生している差圧(Pacc−Px)が目標差圧(Pacc−P*)よりも小さいために自動的に閉弁状態を維持し、減圧リニア制御弁67Bは発生している差圧(Px)が目標差圧(P*)よりも大きいために自動的に開弁状態に移行する。従って、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bが自動的に(すなわち、別途電磁的な開閉駆動制御がなされることなく)閉弁状態を維持し又は開弁状態に移行することによって、作動頻度を効果的に低減することができるとともに、ホイールシリンダ圧(検出液圧Px)を応答性よく目標液圧P*に追従させることができて良好なブレーキフィーリングを得ることができる。
又、図8に概略的に示すように、ホイールシリンダ42におけるホイールシリンダ圧すなわち制御圧Px(検出液圧Px)が目標液圧P*以下となる状況Bでは、制御圧Pxを目標液圧P*まで増圧(加圧)する必要がある。具体的に、この状況Bにおいては、増圧リニア制御弁67Aを開弁状態にしてホイールシリンダ42に対して高圧のアキュムレータ圧Paccを供給するようにし、減圧リニア制御弁67Bを閉弁状態にしてホイールシリンダ42のホイールシリンダ圧(検出液圧Px)を減少させないようにする必要がある。この場合においても、ブレーキECU100が増圧リニア制御弁67Aに目標差圧(Pacc−P*)に対応する開弁電流を供給し、減圧リニア制御弁67Bに目標差圧(P*)に対応する開弁電流を供給するのみで、増圧リニア制御弁67Aは発生している差圧(Pacc−Px)が目標差圧(Pacc−P*)よりも大きいために自動的に開弁状態に移行し、減圧リニア制御弁67Bは発生している差圧(Px)が目標差圧(P*)よりも小さいために自動的に閉弁状態を維持する。従って、この状況Bにおいても、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bが自動的に(すなわち、別途電磁的な開閉駆動制御がなされることなく)閉弁状態を維持し又は開弁状態に移行することによって、作動頻度を効果的に低減することができるとともに、ホイールシリンダ圧(検出液圧Px)を応答性よく目標液圧P*に追従させることができて良好なブレーキフィーリングを得ることができる。
このことに基づき、ブレーキECU100は、図9に示す制御プログラムを実行し、リニア制御弁67の作動を制御する。
すなわち、ブレーキECU100は、ステップS50にて、制御プログラムの実行を開始し、続くステップS51にて、ブレーキECU100は、上述したブレーキ制御で演算された目標液圧P*を読み込むとともに、アキュムレータ圧センサ101及び制御圧センサ103からそれぞれアキュムレータ圧Pacc及び制御圧Px(検出液圧Px)を読み込む。続いて、ブレーキECU100は、ステップS52にて、前記ステップS51にて読み込んだ目標液圧P*及び制御圧Px(検出液圧Px)の偏差(P*−Px)の大きさが、上述したように脈動の発生に伴って設定された制御開始閾値Xの大きさよりも小さい、言い換えれば、|P*−Px|<|X|が成立するか否かを判定する。尚、この場合、偏差(P*−Px)の大きさが通常制御開始閾値X0の大きさよりも小さいか否かを判定するように実施することも可能である。
具体的に、ブレーキECU100は、|P*−Px|<|X|が成立すれば、「Yes」と判定してステップS53に進む。一方、ブレーキECU100は、|P*−Px|<|X|が成立しない、すなわち、|P*−Px|≧|X|が成立すれば、「No」と判定してステップS54に進む。
ステップS53においては、ブレーキECU100は、上述した電流印加制御を実行する。すなわち、ブレーキECU100は、前記ステップS51にて読み込んだ目標液圧P*、アキュムレータ圧Pacc及び制御圧Px(検出液圧Px)を用い、まず、増圧リニア制御弁67Aについて、目標液圧P*を用いた目標差圧(Pacc−P*)を決定し、図7に示した関係に基づいて開弁電流を決定する。又、ブレーキECU100は、減圧リニア制御弁67Bについて、目標液圧P*を用いた目標差圧(P*)を決定し、図7に示した関係に基づいて開弁電流を決定する。すなわち、このステップS53においては、リニア制御弁67に対する開弁電流を決定し、この決定した開弁電流を供給する、所謂、フィードフォワード(FF)制御により、電流印加制御を実行する。そして、ブレーキECU100は、電流印加制御を実行すると、ステップS55に進んでこの制御プログラムの実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS50にて同プログラムの実行を開始する。
ステップS54においては、ブレーキECU100は、図10に示すように、目標液圧P*及び制御圧Px(検出液圧Px)の偏差(P*−Px)が制御開始閾値Xよりも大きくなった場合における通電制御を実行する。すなわち、前記ステップS53にて実行される電流印加制御は、FF制御であるため、例えば、アキュムレータ圧センサ101や制御圧センサ103の検出ばらつき等の外乱に対して制御圧Px(検出液圧Px)を目標液圧P*に追従させる精度が若干劣る場合がある。従って、目標液圧P*及び制御圧Px(検出液圧Px)の偏差(P*−Px)が制御開始閾値Xよりも大きくなる場合がある。この場合には、従来から実施されているように、例えば、目標液圧P*と検出液圧Pxとの偏差(P*−Px)や図10に示すような目標液圧P*の勾配と偏差(P*−Px)を用いたPID制御等により、目標液圧P*と検出液圧Px(制御圧Px)、更には、これらの変化量を用いてリニア制御弁67を流通する作動液の流量を調整する電流を増減させるフィードバック(FB)制御を実行する。そして、ブレーキECU100は、FB制御による通電制御を実行すると、ステップS55に進んでこの制御プログラムの実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS50にて同プログラムの実行を開始する。
以上の説明からも理解できるように、この実施形態によれば、ブレーキECU100が増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bに対して、それぞれに設定された目標差圧(Pacc−P*)及び目標差圧(P*)に対応する開弁電流を供給すると、増圧リニア制御弁67Aは、検出液圧Pxが目標液圧P*よりも大きいときに発生する差圧(Pacc−Px)が目標差圧(Pacc−P*)以下となって自動的に閉弁状態を維持し、検出液圧Pxが目標液圧P*以下のときに発生する差圧(Pacc−Px)が目標差圧(Pacc−P*)よりも大きいために自動的に開弁状態に移行して増圧することができる。一方、減圧リニア制御弁67Bは、検出液圧Pxが目標液圧P*よりも大きいときに発生する差圧(Px)が目標差圧(P*)よりも大きくなって自動的に開弁状態に移行して減圧し、検出液圧Pxが目標液圧P*以下のときには発生する差圧(Px)が目標差圧(P*)以下となって自動的に閉弁状態を維持することができる。
すなわち、開弁電流が供給されている増圧リニア制御弁67Aにおいては、ブレーキECU100によって別途電磁的な開閉駆動制御がなされなくても、発生した差圧(Pacc−Px)の大きさ、言い換えれば、差圧力の大きさによって自動的に開弁状態又は閉弁状態に移行することができる。これにより、例えば、増圧リニア制御弁67Aに目標差圧(Pacc−P*)と一致する差圧(Pacc−Px)が発生すると、ホイールシリンダ42の検出液圧Pxが目標液圧P*と一致していて増圧する必要がないため、ブレーキECU100によって別途電磁的な閉弁駆動制御がなされなくても、増圧リニア制御弁67Aは自動的に閉弁状態に移行(又は維持)することができる。又、例えば、増圧リニア制御弁67Aに目標差圧(Pacc−P*)よりも大きな差圧(Pacc−Px)が発生すると、ホイールシリンダ42の検出液圧Pxを目標液圧P*まで増圧する必要があるため、ブレーキECU100によって別途電磁的な開弁駆動制御がなされなくても、増圧リニア制御弁67Aは自動的に開弁状態に移行(又は維持)することができる。
一方、開弁電流が供給されている減圧リニア制御弁67Bにおいても、ブレーキECU100によって別途電磁的な開閉駆動制御がなされなくても、発生した差圧(Px)の大きさ、言い換えれば、差圧力の大きさによって自動的に開弁状態又は閉弁状態に移行することができる。これにより、例えば、減圧リニア制御弁67Bに目標差圧(P*)と一致する差圧(Px)が発生すると、ホイールシリンダ42の検出液圧Pxが目標液圧P*と一致していて減圧する必要がないため、ブレーキECU100によって別途電磁的な閉弁駆動制御がなされなくても、減圧リニア制御弁67Bは自動的に閉弁状態に移行(又は維持)することができる。又、例えば、減圧リニア制御弁67Bに目標差圧(P*)よりも大きな差圧(Px)が発生すると、ホイールシリンダの検出液圧Pxを目標液圧P*まで減圧する必要があるため、ブレーキECU100によって別途電磁的な開弁駆動制御がなされなくても、減圧リニア制御弁67Bは自動的に開弁状態に移行(又は維持)することができる。
従って、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bに対してそれぞれに対応する開弁電流を供給することのみで、発生する差圧(Pacc−Px)及び差圧(Px)に応じて自動的に開閉動作させることができるため、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bをそれぞれ電磁的に開閉駆動制御する必要がなく、その結果、検出液圧Pxを目標液圧P*に一致させるための急激な開閉動作を確実に抑制することができるとともに過度な開閉動作頻度を効果的に抑制することができる。又、目標液圧P*を用いて目標差圧(Pacc−P*)及び目標差圧(P*)を設定することにより、開弁電流を供給することのみで、検出液圧Pxと目標液圧P*との差圧(Px−P*)に応じて自動的に開閉動作させることができるため、検出液圧Pxを目標液圧P*に速やかに追従させることができて、ドライバによるブレーキ操作に対して極めて良好な制御応答性を確保することができる。従って、ドライバは、更に、良好なブレーキフィーリングを知覚しながら車両を運転することができる。
上記実施形態における電流印加制御においては、論理的に、図7に示した関係に基づき、所望の開弁電流をリニア制御弁67に供給し続けることにより、目標液圧P*に一致するホイールシリンダ圧(検出液圧Px)を応答性よく実現することができる。しかしながら、現実的には、リニア制御弁67の有する特性のばらつきや、上述したようなアキュムレータ圧センサ101や制御圧センサ103の検出ばらつき等の外乱により、図11に示すように、目標液圧P*に対してホイールシリンダ圧(検出液圧Px)が増減する状態が生じる可能性がある。そして、このような増減する状態が生じている状況下で上述した電流印加制御を実行すると、例えば、ドライバが意図する制動力(すなわち目標液圧P*)からのずれ量が徐々に大きくなって良好なブレーキフィーリングを保つことが困難となる場合がある。
そこで、電流印加制御の実行に際し、前記外乱を考慮して所定の値を有する補正値αを加減して、例えば、検出液圧Pxを補正することにより、上述した図8により示した状況Aにおいては、ブレーキECU100は、差圧(Pacc−P*)>差圧(Pacc−Px+α)が成立するときには増圧リニア制御弁67Aを閉弁させるために、同制御弁67Aへの開弁電流の供給を遮断する。また、例えば、上述した図8により示した状況Bにおいては、ブレーキECU100は、差圧(P*)>差圧(Px)+αが成立するときには減圧リニア制御弁67Bを閉弁させるために、同制御弁67Bへの開弁電流の供給を遮断する。これにより、上述した電流印加制御を実行したときに、外乱の影響によって検出液圧Pxと目標液圧P*とのずれ量が徐々に大きくなってしまうことを効果的に防止することができ、良好なブレーキフィーリングを保つことができる。尚、補正値αについては、増圧リニア制御弁67Aと減圧リニア制御弁67Bとで、それぞれ、任意の値であってもよい。
又、上記実施形態における電流印加制御においては、図8を用いて説明したように、目標液圧P*と制御圧Px(検出液圧Px)の偏差(P*−Px)に応じて、開弁電流が供給されているリニア制御弁67が開弁状態又は閉弁状態となるようにした。この場合、このような偏差(P*−Px)に基づくことに代えて、例えば、ドライバのブレーキ操作量に対応して決定(計算)される目標液圧P*の勾配(以下、目標液圧勾配と称呼する。)に基づき、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bのいずれかに開弁状態に移行できる程度の電流を供給するように実施することも可能である。
具体的に説明すると、例えば、ドライバによるブレーキペダル10の踏み込み操作がなされ、目標液圧勾配が予め設定された所定の液圧勾配(正の値)よりも大きい場合には、より速やかにホイールシリンダ42のホイールシリンダ圧を増圧(加圧)するために増圧リニア制御弁67Aに対して電流を供給し、減圧リニア制御弁67Bには電流を供給しない。すなわち、この場合には、増圧リニア制御弁67Aを速やかに開弁状態に移行させ、減圧リニア制御弁67Bを閉弁状態で維持する。一方、ドライバによるブレーキペダル10の戻し操作がなされ、目標液圧勾配が予め設定された所定の液圧勾配(負の値)よりも小さい場合には、より速やかにホイールシリンダ42のホイールシリンダ圧を減圧するために増圧リニア制御弁67Aには電流を供給せず、減圧リニア制御弁67Bに対して電流を供給する。すなわち、この場合には、増圧リニア制御弁67Aを閉弁状態で維持し、減圧リニア制御弁67Bを速やかに開弁状態に移行する。これにより、ドライバによるブレーキ操作に応答性よく対応することができるため、良好なブレーキフィーリングが得られる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、ブレーキ制御装置は、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bとからなるリニア制御弁にて4輪のホイールシリンダ42の液圧を共通に制御するブレーキ制御装置に適用しているが、各車輪ごとに別々のリニア制御弁を設けて各輪のホイールシリンダの液圧をリニア制御弁で独立して調圧するブレーキ制御装置に適用してもよい。
又、上記実施形態においては、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bが共に常閉式電磁リニア制御弁であるとして実施した。この場合、増圧リニア制御弁67A及び減圧リニア制御弁67Bが共に或いは一方が常開式電磁リニア制御弁であるとして実施することも可能である。この場合においても、ブレーキECU100は、目標差圧(Pacc−P*)及び目標差圧(P*)に対応する開弁電流を決定し、この決定した開弁電流を供給することのみで、増圧リニア制御弁67Aを発生している差圧(Pacc−Px)の大きさと目標差圧(Pacc−P*)の大きさとの関係に応じて自動的に閉弁状態又は開弁状態に移行させ、減圧リニア制御弁67Bを発生している差圧(Px)の大きさと目標差圧(P*)の大きさとの関係に応じて自動的に閉弁状態又は開弁状態に移行させることができる。