以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図面においては同様な構成および機能を有する部分については同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。また、図面は模式的に示されたものであり、各図における各種構造のサイズおよび位置関係等は正確に図示されたものではない。
なお、図1から図3、図5から図14および図16から図26には、加熱炉2、該加熱炉2に付属する各部および被加熱基板5,5Aの配置関係を明示するために、該加熱炉2の長手方向をX軸方向とする右手系のXYZ座標系が付されている。ここでは、該長手方向は、図1の図面視左右方向である。但し、複数のガス供給源S6、複数のガス排出調整部E7および制御部C1については、加熱炉2に対する配置関係が描かれたものではない。また、図1、図16〜図18および図23では、気体が流れる様子が破線の矢印によって模式的に描かれている。
<(1)一実施形態>
<(1−1)薄膜製造装置>
薄膜製造装置1は、加熱炉2、複数のガス供給部6、複数のガス排出部7、ヒーター8、複数のガス供給源S6、複数のガス排出調整部E7および制御部C1を備えている。図1では、加熱炉2、複数のガス供給部6、複数のガス排出部7およびヒーター8についてのXZ断面と、複数のガス供給源S6と、複数のガス排出調整部E7と、制御部C1とが模式的に示されている。図2では、加熱炉2およびヒーター8のXY断面と、複数のガス排出部7と、複数のガス排出調整部E7とが模式的に示されている。図3では、加熱炉2およびヒーター8のXY断面と、複数のガス供給部6と、複数のガス供給源S6とが模式的に示されている。
加熱炉2は、略直方体の箱形を有している筐体である。加熱炉2の外縁は、XY平面に略平行な2面、XZ平面に略平行な2面およびYZ平面に略平行な2面を有している。そして、加熱炉2は、内部空間2Iを有している。なお、加熱炉2は、略直方体のものに限られず、加熱対象物を配置することが可能な内部空間を有していれば良い。また、加熱炉2の材料としては、例えば、耐熱性に優れているニッケル基の超合金等が採用され得る。ニッケル基の超合金とは、ニッケルを50質量%以上含む合金である。ニッケル基の超合金としては、例えば、インコネル(登録商標)等が挙げられる。
内部空間2Iには、カセット4が配される。カセット4には、2以上の所定数の加熱対象物である基板(被加熱基板とも言う)5が一方向に配列されている状態で装着される。ここでは、一方向が、Y方向であり、2以上の所定数が7である。さらに、カセット4では、各被加熱基板5の表裏の主面がXY平面に略平行となる。つまり、隣り合う被加熱基板5同士が相互に対向し合っている。また、カセット4に装着されている隣り合う被加熱基板5の間隔は、例えば、略一定とされれば良い。
なお、図1から図3では、−Y側から1番目に配される被加熱基板5に符号51が付され、−Y側からm番目(ここではmは1〜7の整数)に配される被加熱基板5に符号5mが付されている。カセット4は、2以上の被加熱基板5が配置される略直方体の空間領域(基板配置領域とも言う)4Rを囲む相互に連結された12の枠体を主に有している。図1から図3では、カセット4の外縁が一点鎖線で示されている。
複数のガス供給部6は、内部空間2Iの下部において一方向に垂直な他方向に配列されている。ここでは、他方向がX方向である。また、隣り合うガス供給部6の間隔は、例えば、略一定とされれば良い。なお、図1および図3では、−X側から1番目に配されているガス供給部6に符号61が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜8の整数)に配されているガス供給部6に符号6nが付されている。
各ガス供給部61〜68は、内部空間2Iの上部に沿って−Y側の端部から+Y方向に延設されている管状の部材である。また、各ガス供給部61〜68には、+Z側に複数の開口60が設けられている。各ガス供給部61〜68では、複数の開口60がY方向に略一定の間隔で配列されている。
複数のガス供給源S6は、複数のガス供給部6に所定の気体を供給する。各ガス供給源S6は、例えば、所定の気体を貯蔵しているタンク、ポンプ、配管および弁等を有している。なお、図1および図3では、−X側から1番目に配されているガス供給源S6に符号S61が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜8の整数)に配されているガス供給源S6に符号S6nが付されている。
そして、n番目のガス供給源S6nが、n番目のガス供給部6nに接続されており、n番目のガス供給部6nによる内部空間2Iへの所定の気体の供給量を調整する。これにより、各ガス供給部6が、基板配置領域4Rに向けて所定の気体を供給する。所定の気体は、カルコゲン元素を含む気体である。なお、カルコゲン元素は、Se、Te、Sのうちの少なくとも1以上の元素であれば良い。さらに、所定の気体には、カルコゲン元素を含む気体の他に、還元性の気体および不活性の気体のうちの少なくとも一方の気体(非酸化性気体とも言う)が含まれていれば良い。
ここで、各ガス供給部6による内部空間2Iへの所定の気体の供給量によって、基板配置領域4Rにおいて、所定サイズの各空間領域を単位時間当たりに流れる気体に含まれているカルコゲン元素の供給量が調整され得る。
この場合、例えば、各ガス供給源S6が、各ガス供給部6への所定の気体の供給量を調整することで、複数のガス供給部6から内部空間2Iへ単位時間当たりに供給される所定の気体の量がX方向に高まり得る。これにより、基板配置領域4Rにおいて、所定サイズの空間領域を単位時間当たりに流れる気体に含まれているカルコゲン元素の供給量がX方向に高められ得る。なお、各ガス供給源S6から対応するガス供給部6へ供給される所定の気体におけるカルコゲン元素の濃度は略一定であれば良い。
ここで言う所定サイズの空間領域は、例えば、各被加熱基板5の一主面に接する所定サイズの空間領域であれば良い。具体的には、該各空間領域は、例えば、各被加熱基板5の一主面を仮想的に複数の領域(分割領域とも言う)に等分した場合、一分割領域について、該一分割領域から該一分割領域の法線方向に所定距離の範囲内にある空間であれば良い。なお、一分割領域は、例えば、一辺が数μm以上で且つ数十mm以下の長方形または正方形の領域であれば良い。また、所定距離は、例えば、数μm以上で且つ数mm以下の距離であれば良い。なお、所定距離は、例えば、カセット4に装着されている隣り合う2つの被加熱基板5の間隔と同一であっても良い。また、被加熱基板5の一主面は、例えば、被加熱基板5の−Y側の主面であれば良い。また、単位時間としては、例えば、数秒以上で且つ数十秒以下の範囲の任意の時間が採用され得る。
複数のガス排出部7は、内部空間2Iの上部においてX方向に配列されている。また、隣り合うガス排出部7の間隔は、例えば、略一定とされれば良い。なお、図1および図2では、−X側から1番目に配されているガス排出部7に符号71が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜8の整数)に配されているガス排出部7に符号7nが付されている。
各ガス排出部7は、1以上の管状の部材を含んでいれば良い。該各管状の部材の内部空間は、開口70を介して加熱炉2の内部空間2Iに連通している。図2では、各ガス排出部7に、複数の管状の部材ならびに複数の開口70が含まれている例が示されている。この場合、各ガス排出部7では、複数の開口70がY方向に略一定の間隔で配列されていれば良い。
複数のガス排出調整部E7は、複数のガス排出部7による内部空間2Iからの気体の排出を調整する。各ガス排出調整部E7は、例えば、排気用のポンプ、配管および弁等を有していれば良い。なお、図1および図2では、−X側から1番目に配されているガス排出調整部E7に符号E71が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜8の整数)に配されているガス排出調整部E7に符号E7nが付されている。
そして、n番目のガス排出調整部E7nが、n番目のガス排出部7nに接続されており、n番目のガス排出部7nによる内部空間2Iからの気体の排出量を調整する。ここで、ガス排出部7による内部空間2Iからの気体の排出量が多ければ、内部空間2Iにおいて、気体の排出を補うような気体の流れが生じ得る。このため、例えば、各ガス排出部7による内部空間2Iからの単位時間当たりの気体の排出量によって、基板配置領域4Rにおける所定サイズの各空間領域において単位時間当たりに流れる気体に含まれるカルコゲン元素の供給量が調整され得る。該気体は、複数のガス供給部6から基板配置領域4Rに向けて供給される気体である。
この場合、例えば、各ガス排出調整部E7が、各ガス排出部7による内部空間2Iからの気体の排出量を調整することで、複数のガス排出部7から単位時間当たりに排出される気体の量が、X方向に高まり得る。これにより、基板配置領域4Rにおいて、所定サイズの空間領域を単位時間当たりに流れる気体に含まれているカルコゲン元素の供給量がX方向に高められ得る。なお、各ガス供給部6から内部空間2Iへの所定の気体の供給量ならびに所定の気体におけるカルコゲン元素の濃度は、例えば、略一定であっても良い。
ヒーター8は、加熱炉2の周囲に巻かれている。該ヒーター8による加熱によって、内部空間2Iの基板配置領域4Rに配される複数の被加熱基板5が、例えば、400℃以上で且つ600℃以下の範囲内の所定温度まで略均一に加熱され得る。
制御部C1は、例えば、プロセッサを有しており、薄膜製造装置1の全体の動作を制御する。例えば、制御部C1によって、複数のガス供給源S6から複数のガス供給部6への気体の供給、複数のガス排出調整部E7による複数のガス排出部7を介した気体の排出、およびヒーター8による加熱等が制御され得る。
<(1−2)薄膜製造装置を用いた光電変換装置の製造>
ここで、上記構成を有する薄膜製造装置1を用いた光電変換装置121の製造プロセスの一例について説明する。
ここでは、薄膜製造装置1を用いて光電変換装置121の半導体層としての光吸収層131が形成される。光吸収層131は、第1導電型を有するI−III−VI族化合物半導体の層である。ここでは、第1導電型は、p型の導電型であれば良い。I−III−VI族化合物半導体とは、I−III−VI族化合物を主に含む半導体である。なお、I−III−VI族化合物を主に含む半導体とは、I−III−VI族化合物を70mol%以上含む半導体のことを言う。以下の記載においても、「主に含む」は「70mol%以上含む」ことを意味する。I−III−VI族化合物は、I−B族元素(11族元素とも言う)とIII−B族元素(13族元素とも言う)とVI−B族元素(16族元素とも言う)とを主に含む化合物である。I−III−VI族化合物としては、例えば、CuInSe2(CISとも言う)、Cu(In,Ga)Se2(CIGSとも言う)およびCu(In,Ga)(Se,S)2(CIGSSとも言う)等が採用され得る。ここでは、光吸収層131が、CIGSを主に含む。
図4は、薄膜製造装置1を用いた光電変換装置121の製造フローを例示するフローチャートである。図5から図12は、光電変換装置121の製造途中の様子を模式的に示すXY断面図である。図13は、光電変換装置121の構成を模式的に示す平面図である。図14は、図13において一点鎖線XIV−XIVで示した位置におけるXY断面を示す図である。
まず、図4のステップSp1では、基板101が準備される。図5は、基板101の一例を示す図である。基板101は、複数の光電変換セル110を支持するものである。基板101に含まれる主な材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂および金属等が採用され得る。また、基板101の厚さは、例えば、1mm以上で且つ3mm以下程度であれば良い。
次に、ステップSp2では、洗浄された基板101の略全面に、スパッタリング法または蒸着法等が用いられて、下部電極層102が形成される。図6には、下部電極層102が形成された状態が示されている。下部電極層102は、基板101の−Y側の主面(一主面とも言う)の上に設けられた導電層である。下部電極層102に含まれる主な材料としては、例えば、Mo、Al、Ti、TaおよびAu等の導電性を有する各種金属等が採用され得る。また、下部電極層102の厚さは、例えば、0.2μm以上で且つ1μm以下程度であれば良い。
ステップSp3では、下部電極層102の上面のうちの所定の形成対象位置からその直下の基板101の上面にかけて、Z方向に直線状に延在する溝部P1が形成される。図7には、溝部P1が形成された後の状態が示されている。溝部P1は、例えば、YAGレーザーまたはその他のレーザーの光が走査されつつ所定の形成対象位置に照射されることで形成され得る。
ステップSp4では、CIGSに含まれるカルコゲン元素以外の金属元素であるCu、InおよびGaならびに溶剤を少なくとも含んでいる原料溶液が下部電極層102の上から塗布されて第1皮膜としての皮膜(原料溶液皮膜とも言う)が形成される。これにより、原料溶液が一主面に塗布された基板101が準備される。該原料溶液皮膜の厚さは、例えば、数μm以上で且つ十数μm以下程度であれば良い。
原料溶液は、例えば、I−B族元素としてのCu、III−B族元素としてのInとGaおよびVI−B族元素としてのSeのうちの少なくともCu、InおよびGaに係る金属錯体が溶媒に溶解された溶液であれば良い。
ここで、原料溶液としては、I−B族元素としてのCuとGaとカルコゲン元素含有有機化合物とが含まれている単一源錯体が溶媒に溶解された原料溶液(第1の原料溶液とも言う)が採用され得る。なお、単一源錯体は、I−III−VI族化合物に含まれている、I−B族元素、III−B族元素およびVI−B族元素をすべて含んでいる錯体化合物である。該単一源錯体は、I−B族元素、III−B族元素およびVI−B族元素の化学反応によってI−III−VI族化合物を形成し得る前駆体として機能する。このため、単一源錯体は、単一源前駆体とも称される。
また、カルコゲン元素含有有機化合物は、カルコゲン元素を含む有機化合物である。カルコゲン元素含有有機化合物としては、例えば、チオール、スルフィド、ジスルフィド、チオフェン、スルホキシド、スルホン、チオケトン、スルホン酸、スルホン酸エステル、スルホン酸アミド、セレノール、セレニド、ジセレニド、セレノキシド、セレノン、テルロール、テルリドおよびジテルリド等が採用され得る。特に、チオール、スルフィド、ジスルフィド、セレノール、セレニド、ジセレニド、テルロール、テルリドおよびジテルリドは、配位力が高く、金属元素と安定な錯体を形成し易い。
I−B族元素としてCuが用いられ、カルコゲン元素含有有機化合物としてフェニルセレノールが用いられた場合、Gaを含む単一源錯体の構造としては、例えば、一般式(1)で示される構造が採用され得る。この単一源錯体は、上記特許文献3に示される方法によって作製され得る。なお、一般式(1)中のPhはフェニル基を示す。第1の原料溶液に含まれる溶媒として、例えば、ピリジンやアニリン等の極性溶媒が採用されれば、該溶媒によって単一源錯体が良好に溶解され得る。
また、ここでは、第1の原料溶液にInが含まれている。Inは、例えば、Inを含む単一源錯体の形態で第1の原料溶液に含まれていれば良い。該Inを含む単一源錯体の構造としては、例えば、一般式(2)で示される構造が採用され得る。
ステップSp5では、原料溶液皮膜が一主面上に形成された基板101が水分(具体的には、水蒸気)および酸素のうちの少なくとも一方を含む雰囲気で加熱される。これにより、下部電極層102上および溝部P1内に配されている原料溶液皮膜に対する乾燥処理が行われ、該原料溶液皮膜中の有機成分が熱分解された第2皮膜としての皮膜(乾燥皮膜とも言う)130が形成され得る。このとき、原料溶液皮膜に含まれている溶剤の蒸散および原料溶液皮膜に含まれている金属元素の一部の酸化が生じ得る。その結果、基板101の一主面上に一部が酸化された金属元素を含んでいる乾燥皮膜130が形成され得る。図8には、乾燥皮膜130が形成された状態が示されている。
なお、有機成分の熱分解時の雰囲気のガスとしては、例えば、窒素およびアルゴン等に代表される不活性ガスと水との混合ガス、水素等に代表される還元ガスと水との混合ガス、あるいは、不活性ガスと還元ガスと水との混合ガスが採用され得る。また、加熱温度は、50℃以上で且つ350℃以下であれば良い。水を含む雰囲気のガスにおける水の濃度は、例えば、10ppmv以上で且つ1000ppmv以下であれば良い。特に、水の濃度が50ppmv以上で且つ150ppmv以下であれば、加熱時において乾燥皮膜130にクラックが生じ難く、下部電極層102からの乾燥皮膜130の剥離が生じ難い。これにより、ステップSp8における加熱処理によって光吸収層131の結晶化が良好に生じ得る。その結果、光電変換装置121の光電変換効率が向上し得る。なお、上記有機成分の熱分解時の雰囲気のガスにおいて、水に代えてあるいは水に加えて、酸素が用いられても良い。
また、有機成分の熱分解時には、雰囲気中の水分および酸素のうちの少なくとも一方によって原料溶液皮膜中の金属元素等が酸化することで酸化物等が生じ得る。このため、乾燥皮膜130にはある程度の量の酸素が含有され得る。そして、有機成分の熱分解時に、水分および酸素のうちの少なくとも一方を含む雰囲気中で原料溶液皮膜が加熱されることで、Ga等の金属元素が原料溶液皮膜から消失し難くなり得る。これにより、乾燥皮膜130におけるカルコゲン元素以外の金属元素の比率が、理想的な組成のCIGSにおけるカルコゲン元素以外の金属元素の比率に近い値から乖離し難くなる。その結果、乾燥皮膜130に対してステップSp8の加熱処理が行われることによって光電変換効率が高い光吸収層131が形成され得る。なお、乾燥皮膜130では、面内において酸素含有量の多少のばらつきが生じ得る。
ところで、有機成分の熱分解時に、水分および酸素のうちの少なくとも一方を含む雰囲気中で原料溶液皮膜が加熱されることで、Ga等の金属元素が原料溶液皮膜から消失し難くなる要因としては、幾つかの要因が想定され得る。例えば、Gaは、他のI−B族金属およびIII−B族金属に比べて融点が非常に低い。このため、有機成分が熱分解される際に、液状のGaが生成されることによってGaが気化され易くなる。これに対し、有機成分の熱分解が行われる雰囲気中の水分および酸素のうちの少なくとも一方の存在によってGaの酸化物等が形成され、Gaの気化が抑制されることが想定され得る。
ここで、ステップSp1〜Sp5の処理が、複数の基板101に対して行われることで、基板101の一主面上に下部電極層102と乾燥皮膜130とがそれぞれ積層されている複数の被加熱基板5が準備され得る。つまり、乾燥皮膜130が一主面上にそれぞれ配されている複数の被加熱基板5が準備され得る。該乾燥皮膜130には、光吸収層131に主に含まれる化合物半導体としてのCIGSに含有されるカルコゲン元素以外の金属元素が少なくとも含まれている。
ステップSp6では、各被加熱基板5の乾燥皮膜130について、酸素含有量の面内分布が取得される。例えば、分割領域毎に酸素含有量が得られることで、酸素含有量の面内分布が取得されれば良い。
例えば、ステップSp5で準備される複数の被加熱基板5のうち、ステップSp7以降の工程において用いられる2以上の被加熱基板5とは異なる別の被加熱基板5に配されている乾燥皮膜130を対象とした酸素濃度と厚さの測定が行われれば良い。なお、乾燥皮膜130の各分割領域における酸素濃度と厚さとが分かれば、該各分割領域について、体積が一義的に求まり、該体積と酸素濃度とに基づいて各分割領域における酸素含有量が求まり得る。
乾燥皮膜130における酸素濃度の測定は、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS; Secondary Ion Mass Spectrometry)によって実現され得る。また、乾燥皮膜130の厚さは、X線を用いた膜厚測定器、膜厚計および反射干渉計等によって測定され得る。そして、例えば、この測定結果に基づき、該2以上の被加熱基板5の乾燥皮膜130に係る酸素含有量の面内分布が測定され得る。
なお、乾燥皮膜130の厚さが略均一の所定値に設定される場合は、乾燥皮膜130の厚さが測定されずとも、乾燥皮膜130を対象とした酸素濃度の測定が行われれば、乾燥皮膜130の各分割領域における酸素含有量が一義的に求まり得る。別の観点から言えば、乾燥皮膜130の厚さが略均一の所定値に設定される場合は、各分割領域における酸素濃度が該各分割領域における酸素含有量を間接的に示し得る。
ここで、測定対象の被加熱基板5に配されている乾燥皮膜130と、該乾燥皮膜130と略同一の条件で形成された他の乾燥皮膜130とについては、略同一の酸素含有量の面内分布が実現され得る。このため、該他の乾燥皮膜130を対象とした測定で得られる酸素含有量の面内分布が、ステップSp7以降の工程で用いられる2以上の被加熱基板5に配されている乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布として採用され得る。この場合、ステップSp7以降の工程において用いられる2以上の被加熱基板5を対象とした物理的な測定による乾燥皮膜130の損傷の低減または回避、ならびに乾燥皮膜130についての酸素含有量を得るための測定に要する時間の短縮が図られ得る。
ステップSp7では、カセット4に2以上の所定数の被加熱基板5が配列され、該カセット4が薄膜製造装置1の加熱炉2内に配されることで、該所定数の被加熱基板5が基板配置領域4Rに配される。ここで、2以上の所定数の被加熱基板5は、ステップSp1〜Sp5で準備される複数の被加熱基板5のうちの全ての被加熱基板5であっても良いし、一部の被加熱基板5であっても良い。なお、ここでは、例えば、7枚の被加熱基板5が配列される。このとき、2以上の所定数の被加熱基板5において各乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布が相互に略同一であれば良い。このような2以上の所定数の被加熱基板5は、ステップSp1〜Sp5の処理が略同一の条件下で行われることで準備され得る。
ステップSp8では、薄膜製造装置1において、2以上の被加熱基板5に対する加熱処理が行われる。該加熱処理は、カルコゲン元素の気体と非酸化性気体とを含む雰囲気中で行われれば良い。具体的には、各乾燥皮膜130に接している所定サイズの各空間領域に、該各乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布に応じて単位時間当たりのカルコゲン元素の供給量が異なるようにカルコゲン元素を含む気体が流される。例えば、各空間領域に対する単位時間当たりのカルコゲン元素の供給量については、最小量が1とされると、最大量は1.5程度まで高められれば良い。これにより、加熱処理の際に、各乾燥皮膜130において、不要な酸素がカルコゲン元素に置換され得る。このため、各乾燥皮膜130において、酸素含有量が略均一に低減され、カルコゲン元素の含有量が略均一に高められ得る。すなわち、光電変換効率が高い光吸収層131が形成され得る。その結果、光電変換装置121における光電変換効率が向上し得る。
ここでは、例えば、複数のガス供給部6によるカルコゲン元素を含む所定の気体の内部空間2Iへの供給、および複数のガス排出部7による内部空間2I内からの排気のうちの少なくとも一方が調整される。これにより、所定サイズの各空間領域において単位時間当たりに流れる気体に含まれるカルコゲン元素の供給量が調整され得る。
所定の気体の内部空間2Iへの供給の調整は、例えば、各ガス供給部6による内部空間2Iへの単位時間当たりの所定の気体の供給量の調整であれば良い。これにより、複数のガス供給部6による内部空間2Iへの所定の気体の供給が容易に調整され得る。
具体的には、例えば、複数のガス供給部6のうち、各乾燥皮膜130において酸素含有量が相対的に高い部分の近くに配されているガス供給部6による所定の気体の供給量が相対的に高められれば良い。換言すれば、複数のガス供給部6のうち、各乾燥皮膜130において酸素含有量が相対的に低い部分の近くに配されているガス供給部6による所定の気体の供給量が相対的に低減されれば良い。そして、各乾燥皮膜130についての酸素含有量が+X方向に行けば行くほど高まる傾向を示す場合は、複数のガス供給部6による単位時間当たりの所定の気体の内部空間2Iへの供給量が、該複数のガス供給部6の+X方向の配列順に従って高められれば良い。
また、内部空間2I内からの排気の調整は、例えば、各ガス排出部7による内部空間2Iからの単位時間当たりの気体の排気量の調整であれば良い。これにより、複数のガス排出部7による内部空間2Iからの気体の排出が容易に調整され得る。
具体的には、例えば、複数のガス排出部7のうち、各乾燥皮膜130において酸素含有量が相対的に高い部分の近くに配されているガス排出部7による気体の排出量が相対的に高められれば良い。換言すれば、複数のガス排出部7のうち、各乾燥皮膜130において酸素含有量が相対的に低い部分の近くに配されているガス排出部7による気体の排出量が相対的に低減されれば良い。そして、各乾燥皮膜130についての酸素含有量が+X方向に行けば行くほど高まる傾向を示す場合は、複数のガス排出部7による単位時間当たりの内部空間2Iからの気体の排出量が、該複数のガス排出部7の+X方向の配列順に従って高められれば良い。
また、加熱処理における熱処理温度は、例えば、400℃以上で且つ600℃以下であれば良い。そして、該加熱処理によって、各乾燥皮膜130におけるCIGSの結晶化が進み、CIGSを主に含む光吸収層131が形成され得る。これにより、2以上の被加熱基板5は、基板101上に良好かつ均一な光吸収層131がそれぞれ配されている処理後基板150となる。
なお、複数のガス供給部6による内部空間2Iへの単位時間当たりの気体の供給量については、例えば、薄膜製造装置1が用いられた実験結果に基づいて最適な供給量に設定され得る。詳細には、例えば、複数のガス供給部6による内部空間2Iへの単位時間当たりの所定の気体の供給量と、各被加熱基板5についての酸素含有量の面内分布と、各処理後基板150におけるCIGSの組成の面内分布との関係に従って、最適な供給量が設定され得る。
また、複数のガス排出部7による内部空間2Iからの単位時間当たりの気体の排出量については、例えば、薄膜製造装置1が用いられた実験結果に基づいて最適な排出量に設定され得る。詳細には、例えば、複数のガス排出部7による内部空間2Iからの単位時間当たりの気体の排出量と、各被加熱基板5についての酸素含有量の面内分布と、各処理後基板150におけるCIGSの組成の面内分布との関係に従って、最適な排出量が設定され得る。
ステップSp9では、光電変換装置121の製造プロセスにおけるその後の工程が行われる。ここで、その後の工程の一例について説明する。
まず、ステップSp8で形成された光吸収層131の上に、バッファ層132が形成される。バッファ層132は、光吸収層131の第1導電型とは異なる第2導電型を有する半導体を主に含んでいる。ここでは、第2導電型は、n型の導電型であれば良い。該バッファ層132は、化学浴槽堆積法(CBD法)によって形成され得る。例えば、酢酸カドミウムとチオ尿素とがアンモニア水に溶解させられることで作製された溶液に光吸収層131が浸漬されることで、CdSを主に含むバッファ層132が形成され得る。これにより、光吸収層131とバッファ層132とが積層されている光電変換層103が形成され得る。図9には、光電変換層103が形成された状態が示されている。
次に、バッファ層132の上面のうちの所定の形成対象位置から下部電極層102の上面に至る領域に、Z方向に直線状に延在する溝部P2が形成される。図10には、溝部P2が形成された後の状態が示されている。溝部P2は、スクライブ針が用いられたメカニカルスクライビング等によって形成され得る。
次に、光電変換層103の上面から溝部P2の内部にかけて上部電極層104が形成される。図11には、上部電極層104が形成された後の状態が示されている。上部電極層104は、スパッタリング法、蒸着法または化学的気相成長(CVD)法等によって形成され得る。例えば、バッファ層132上に、Alが添加されたZnOを主に含む透明な導電膜としての上部電極層104が形成される。このとき、溝部P2内に、上部電極層104のうちの垂下する部分(垂下部とも言う)104aが形成される。
次に、上部電極層104の上面のうちの所定の形成対象位置から溝部P2の内部にかけて集電電極105が形成される。図12には、集電電極105が形成された後の状態が示されている。集電電極105は、上部電極層104の一主面上に設けられる線状の電極部である。集電電極105は、複数の集電部105aと連結部105bと垂下部105cとを備えている。集電電極105は、例えば、銀等の金属粉が樹脂製のバインダー等に分散させられた金属ペーストが所定のパターンを有するように印刷され、印刷後の金属ペーストが乾燥によって固化されることで形成され得る。
そして、集電電極105が形成された後、上部電極層104の上面のうちの所定の形成対象位置から下部電極層102の上面に至る領域に、Z方向に直線状に延在する溝部P3が形成される。これにより、図13および図14で示される基板101上に複数の光電変換セル110が配されている光電変換装置121が得られる。溝部P3は、溝部P2と同様に、スクライブ針が用いられたメカニカルスクライビング等によって形成され得る。
なお、図13および図14で示されるように、複数の集電部105aは、Z軸方向に離間しており、各集電部105aがX軸方向に延在している。連結部105bは、Z軸方向に延設されており、各集電部105aが接続されている。垂下部105cは、連結部105bの下部に接続され、溝部P2内に配されている。ここで、垂下部105cと垂下部104aとを含む接続部145が、溝部P2を通って隣の光電変換セル110から延伸されている下部電極層102に接続する。つまり、光電変換装置121では、基板101上に配されている複数の光電変換セル110が電気的に直列に接続されている。図13および図14では、2つの光電変換セル110が描かれているが、光電変換装置121には、3以上の所定数の光電変換セル110がX方向に配列され得る。
<(1−3)酸素含有量の面内分布の測定を含む光電変換装置の製造>
図15は、乾燥皮膜130を対象とした酸素含有量の面内分布の測定を含む薄膜製造装置1を用いた光電変換装置121の製造フローを例示するフローチャートである。
ステップST1〜ST5では、図4のステップSp1〜Sp5と同様な処理が行われる。
具体的には、ステップST1では、ステップST7における光電変換装置121の製造に用いられる2以上の基板101とは異なる別の基板101が準備される。次に、ステップST1で準備された基板101の一主面上に下部電極層102が形成され(ステップST2)、下部電極層102の上面から基板101の上面にかけて溝部P1が形成される(ステップST3)。その次に、下部電極層102および溝部P1が形成された基板101が対象とされ、該基板101の一主面上において、下部電極層102上および溝部P1内に原料溶液が塗布される(ステップST4)。これにより、第3皮膜としての原料溶液皮膜が配されている基板が形成され得る。
その後、該基板が水分および酸素のうちの少なくとも一方を含む雰囲気中において加熱されることで、原料溶液皮膜に対する乾燥処理が行われ、該原料溶液皮膜中の有機成分が熱分解された第4皮膜としての乾燥皮膜130が形成される(ステップST5)。このとき、原料溶液皮膜に含まれている溶剤の蒸散および原料溶液皮膜に含まれている金属元素の一部の酸化が生じ得る。これにより、基板101の一主面上に一部が酸化された金属元素を含んでいる乾燥皮膜130が形成され得る。その結果、被加熱基板5と同様に乾燥皮膜130が配されている測定用の基板(測定用基板とも言う)が形成され得る。
ステップST6では、測定用基板の乾燥皮膜130について、酸素含有量の面内分布が測定される。つまり、ステップST7における光電変換装置121の製造に用いられる2以上の基板101とは異なる別の基板101に配されている乾燥皮膜130を対象とした酸素含有量の測定が行われる。そして、この測定結果に基づいて、該2以上の基板に配されている各乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布がそれぞれ取得され得る。
ここでは、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS)によって測定用基板の乾燥皮膜130が対象とされて分割領域毎に酸素濃度が測定されれば良い。また、乾燥皮膜130の厚さが、例えば、X線を用いた膜厚測定器、膜厚計および反射干渉計等によって測定されれば良い。これにより、乾燥皮膜130における酸素含有量の面内分布が測定され得る。なお、乾燥皮膜130の厚さが略均一の所定値であれば、乾燥皮膜130を対象とした酸素濃度の面内分布の測定によって、乾燥皮膜130における酸素含有量の面内分布が測定され得る。
ステップST7では、図4で示された薄膜製造装置1を用いた光電変換装置121の製造が実施される。なお、この場合、図4のステップSp6において、最近に行われたステップST6の処理において測定された酸素含有量の面内分布が、各被加熱基板5の乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布として取得される。
ステップST8では、図4のステップSp4で使用される原料溶液の仕様について変更の有無が判定される。ここで、原料溶液の仕様が変更されていなければ、ステップST9に進む。また、原料溶液の仕様が変更されていれば、ステップST1に戻る。ここで、原料溶液の仕様が変更されていれば、原料溶液の粘度等が異なり得る。このため、原料溶液の塗布によって形成される原料溶液皮膜の厚さ等が変化し得る。つまり、第1皮膜としての原料溶液皮膜の仕様が変更され得る。その結果、乾燥皮膜130における酸素含有量の面内分布が変化し得る。そこで、原料溶液の仕様が変更される度に、ステップST1〜ST6の処理が改めて行われることで、乾燥皮膜130における酸素含有量の面内分布が測定される。これにより、図4のステップSp6において得られる乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布の信頼性が高まり得る。
ステップST9では、ステップSp4で使用される塗布装置およびステップSp5で使用される乾燥装置のうちの少なくとも一方の装置の変更の有無が判定される。ここで、塗布装置および乾燥装置の何れの装置も変更されていなければ、ステップST10に進む。また、塗布装置および乾燥装置の少なくとも一方の装置が変更されていれば、ステップST1に戻る。
ここで、塗布装置が変更されれば、原料溶液の塗布によって形成される原料溶液皮膜の厚さの分布等が変化し得る。また、乾燥装置が変更されれば、例えば、原料溶液皮膜中の金属元素が酸化される度合い等が変化し得る。その結果、乾燥皮膜130における酸素含有量の面内分布が変化し得る。そこで、塗布装置と乾燥装置の組み合わせ毎に、ステップST1〜ST6の処理が改めて行われることで、乾燥皮膜130における酸素含有量の面内分布が測定される。これにより、図4のステップSp6において得られる乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布の信頼性が高まり得る。
なお、塗布装置および乾燥装置のうちの少なくとも一方の装置の仕様が変更される度に、ステップST1〜ST6の処理が改めて行われても良い。換言すれば、塗布装置および乾燥装置の仕様の組み合わせ毎に、ステップST1〜ST6の処理が改めて行われることで、乾燥皮膜130における酸素含有量の面内分布が測定されても良い。この場合、酸素含有量の面内分布を測定する頻度が低減される。その結果、光電変換装置121の生産効率が向上し得る。
ステップST10では、光電変換装置121の製造が継続されるか否かが判定される。ここで、光電変換装置121の製造が継続されるのであれば、ステップST7に戻る。また、光電変換装置121の製造が継続されないのであれば、本動作フローが終了される。
<(1−4)一実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態では、原料溶液の塗布によって一主面上に原料溶液皮膜が形成された基板101が水分および酸素のうちの少なくとも一方を含む雰囲気で加熱される。これにより、原料溶液皮膜中の有機成分が熱分解され且つ一部が酸化された金属元素を含んでいる乾燥皮膜130が形成され得る。これにより、乾燥皮膜130におけるカルコゲン元素以外の金属元素の比率が、理想的な組成のCIGSにおけるカルコゲン元素以外の金属元素の比率に近い値から乖離し難くなる。
また、一主面に乾燥皮膜130がそれぞれ配されている2以上の被加熱基板5が加熱炉2に配置される。そして、加熱炉2において、2以上の被加熱基板5が加熱される。この加熱処理の際、各乾燥皮膜130に接している所定サイズの各空間領域に、該各乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布に応じて単位時間当たりのカルコゲン元素の供給量が異なるようにカルコゲン元素を含む気体が流される。これにより、加熱処理の際に、各乾燥皮膜130において、不要な酸素がカルコゲン元素に置換され得る。このため、各乾燥皮膜130において、酸素含有量が略均一に低減され、カルコゲン元素の含有量が略均一に高められ得る。すなわち、光電変換効率が高い光吸収層131が形成され得る。その結果、光電変換装置121における光電変換効率が向上し得る。
さらに、一加熱炉2において2以上の被加熱基板5に対して一度に加熱処理が施されることで、2以上の光吸収層131が形成される。このため、カルコゲン元素を含む化合物半導体の均一な薄膜が大量に生産され得る。その結果、光電変換効率が高い光電変換装置121が容易に大量生産され得る。
<(2)変形例>
なお、本発明は上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
<(2−1)第1変形例>
上記一実施形態では、例えば、各ガス排出部7による内部空間2Iからの単位時間当たりの気体の排出量の調整によって、所定サイズの各空間領域において単位時間当たりに流れる気体に含まれるカルコゲン元素の供給量が調整されたが、これに限られない。例えば、内部空間2Iから気体を排出する複数のガス排出部7が配されている密度(配設密度とも言う)によって、所定サイズの各空間領域において単位時間当たりに流れる気体に含まれるカルコゲン元素の供給量が調整されても良い。
具体的には、例えば、薄膜製造装置1において、複数のガス排出調整部E7によって、複数のガス排出部7のうちの一部のガス排出部7によって内部空間2I内の気体が排出されるように調整されれば良い。そして、例えば、各乾燥皮膜130において酸素含有量が+X方向に行けば行くほど高まる傾向を示す場合は、内部空間2Iから気体を排出する複数のガス排出部7の配設密度が+X方向に高められれば良い。
図16では、斜線のハッチングが付されているガス排出調整部E7の弁の開放によって、対応するガス排出部7を介して内部空間2Iの気体が排出される様子が示されている。図16には、3,5,7,8番目のガス排出部73,75,77,78を介して内部空間2Iの気体が排出される様子が示されている。この場合、制御部C1による制御によって、例えば、各ガス排出部73,75,77,78を介して内部空間2Iから単位時間当たりに排出される気体の量が略一定とされても良い。
なお、内部空間2Iから気体を排出する複数のガス排出部7の配設密度は、薄膜製造装置1が用いられた実験結果に基づいて最適な配設密度に設定され得る。また、複数のガス排出調整部E7および複数のガス排出部7のうち、内部空間2Iからの気体の排出に使用されないガス排出調整部E7およびガス排出部7は省略されても良い。
<(2−2)第2変形例>
上記一実施形態では、例えば、各ガス供給部6による内部空間2Iへの単位時間当たりの所定の気体の供給量の調整によって、所定サイズの各空間領域において単位時間当たりに流れる気体に含まれるカルコゲン元素の供給量が調整されたが、これに限られない。例えば、内部空間2Iへ気体を供給する複数のガス供給部6が配されている密度(配設密度とも言う)によって、所定サイズの各空間領域において単位時間当たりに流れる気体に含まれるカルコゲン元素の供給量が調整されても良い。
具体的には、例えば、薄膜製造装置1において、複数のガス供給源S6によって、複数のガス供給部6のうちの一部のガス供給部6によって内部空間2Iへ所定の気体が供給されるように調整されれば良い。そして、例えば、各乾燥皮膜130において酸素含有量が+X方向に行けば行くほど高まる傾向を示す場合は、内部空間2Iへ所定の気体を供給する複数のガス供給部6の配設密度が、+X方向に高められれば良い。
図17では、斜線のハッチングが付されているガス供給源S6の弁の開放によって、対応するガス供給部6によって内部空間2Iに所定の気体が供給される様子が示されている。具体的には、図17には、3,5,7,8番目のガス供給部63,65,67,68によって内部空間2Iへ所定の気体が供給される様子が示されている。この場合、制御部C1による制御によって、例えば、各ガス供給部63,65,67,68によって内部空間2Iへ単位時間当たりに供給される気体の量が略一定とされても良い。
なお、内部空間2Iへ所定の気体を供給する複数のガス供給部6の配設密度は、薄膜製造装置1が用いられた実験結果に基づいて最適な配設密度に設定され得る。また、複数のガス供給源S6および複数のガス供給部6のうち、内部空間2Iへの所定の気体の供給に使用されないガス供給源S6およびガス供給部6は省略されても良い。
<(2−3)第3変形例>
上記一実施形態では、各乾燥皮膜130に接している所定サイズの各空間領域に、各乾燥皮膜130における酸素含有量の面内分布に応じて単位時間当たりのカルコゲン元素の供給量が異なるようにカルコゲン元素を含む気体が流されたが、これに限られない。例えば、各乾燥皮膜130に接している所定サイズの空間領域に、各乾燥皮膜130についての酸素含有量に応じて単位時間当たりのカルコゲン元素の供給量が異なるようにカルコゲン元素を含む気体が流されても良い。以下、第3変形例のうち、上記一実施形態と異なる点について主に説明する。
例えば、図18で示されるように、薄膜製造装置1の内部空間2Iに配されるカセット4が、カセット4Aに変更されれば良い。また、図19では、図2と同様に、加熱炉2およびヒーター8のXY断面と、複数のガス排出部7と、複数のガス排出調整部E7とが模式的に示されている。図20では、図3と同様に、加熱炉2およびヒーター8のXY断面と、複数のガス供給部6と、複数のガス供給源S6とが模式的に示されている。
図18から図20で示されるように、カセット4Aには、2以上の所定数の被加熱基板5AがX方向に配列されている状態で装着される。ここでは、2以上の所定数が8である。また、カセット4Aでは、各被加熱基板5Aの表裏の主面がYZ平面に略平行となる。つまり、隣り合う被加熱基板5A同士が相互に対向し合っている。また、カセット4Aに装着されている隣り合う被加熱基板5Aの間隔は、例えば、略一定とされれば良い。さらに、被加熱基板5Aは、上記一実施形態に係る被加熱基板5とほぼ同様な構成を有していれば良い。
なお、光電変換装置121の製造途中の様子ならびに完成品を示す図5〜図14については、X軸、Y軸およびZ軸が、例えば、Z軸、X軸およびY軸にそれぞれ置換されれば良い。また、光電変換装置121の製造フロー、および乾燥皮膜130を対象とした酸素含有量の面内分布の測定を含む薄膜製造装置1を用いた光電変換装置121の製造フローは、図4および図15で示された上記一実施形態と同様なフローであれば良い。
図18から図20では、−X側から1番目に配される被加熱基板5に符号5A1が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜8の整数)に配される被加熱基板5Aに符号5Anが付されている。カセット4Aは、2以上の被加熱基板5Aが配置される略直方体の基板配置領域4Rを囲む相互に連結された12の枠体を主に有している。図18から図20では、カセット4Aの外縁が一点鎖線で示されている。
ここでは、図19で示されるように、−Z側から見た場合、例えば、n番目の被加熱基板5Anが、n番目(nは1〜8の整数)のガス排出部7nよりも若干+X側に配される。換言すれば、−Z側から見た場合、例えば、n番目の被加熱基板5Anが、n番目のガス排出部7nとn+1番目のガス排出部7n+1との間に配される。また、図20で示されるように、+Z側から見た場合、例えば、n番目(nは1〜8の整数)の被加熱基板5Anが、n番目のガス供給部6nよりも若干+X側に配される。換言すれば、+Z側から見た場合、例えば、n番目の被加熱基板5Anが、n番目のガス供給部6nとn+1番目のガス供給部6n+1との間に配される。
そして、2以上の被加熱基板5Aに対する加熱処理時には、所定サイズの各空間領域に、該各乾燥皮膜130についての酸素含有量に応じて単位時間当たりのカルコゲン元素の供給量が異なるようにカルコゲン元素を含む気体が流されれば良い。
ここで言う所定サイズの空間領域は、例えば、各被加熱基板5Aの−X側の一主面に接する所定サイズの空間領域であれば良い。具体的には、所定サイズの空間領域は、例えば、各被加熱基板5Aの−X側の一主面から該一主面の法線方向に所定距離の範囲内にある空間であれば良い。より具体的には、所定サイズは、例えば、隣り合う被加熱基板5Aの間に位置する空間のサイズであれば良い。また、単位時間としては、例えば、数秒以上で且つ数十秒以下の範囲の任意の時間が採用され得る。
このような構成が採用されることによって、複数の乾燥皮膜130における酸素含有量のばらつきにも拘わらず、複数の乾燥皮膜130において、酸素含有量が略均一に低減され、カルコゲン元素の含有量が略均一に高められ得る。すなわち、光電変換効率が高い複数の光吸収層131がそれぞれ形成され得る。その結果、光電変換効率が高い光電変換装置121が大量に生産され得る。
なお、本変形例でも、上記一実施形態と同様に、例えば、複数のガス供給部6によるカルコゲン元素を含んでいる所定の気体の内部空間2Iへの供給、および複数のガス排出部7による内部空間2I内からの排気のうちの少なくとも一方が調整される。これにより、所定サイズの各空間領域において単位時間当たりに流れる気体に含まれるカルコゲン元素の供給量が調整され得る。
所定の気体の内部空間2Iへの供給の調整については、上記一実施形態および上記第2変形例の少なくとも一方における所定の気体の内部空間2Iへの供給の調整が採用されれば良い。これにより、複数のガス供給部6による内部空間2Iへの所定の気体の供給が容易に調整され得る。
具体的には、例えば、複数のガス供給部6のうち、複数の乾燥皮膜130のうちの酸素含有量が相対的に高い乾燥皮膜130の近くに配されているガス供給部6による所定の気体の供給量が相対的に高められれば良い。換言すれば、複数のガス供給部6のうち、複数の乾燥皮膜130のうちの酸素含有量が相対的に低い乾燥皮膜130の近くに配されているガス供給部6による所定の気体の供給量が相対的に低減されれば良い。例えば、複数の乾燥皮膜130についての酸素含有量が+X方向に行けば行くほど高まる傾向を示す場合、複数のガス供給部6による単位時間当たりの所定の気体の供給量が、該複数のガス供給部6の+X方向の配列順に従って高められれば良い。
また、内部空間2I内からの排気の調整については、上記一実施形態および上記第1変形例の少なくとも一方における排気の調整が採用されれば良い。これにより、複数のガス排出部7による内部空間2Iからの気体の排出が容易に調整され得る。
具体的には、例えば、複数のガス排出部7のうち、複数の乾燥皮膜130のうちの酸素含有量が相対的に高い乾燥皮膜130の近くに配されているガス排出部7による気体の排出量が相対的に高められれば良い。換言すれば、複数のガス排出部7のうち、複数の乾燥皮膜130のうちの酸素含有量が相対的に低い乾燥皮膜130の近くに配されているガス排出部7による気体の排出量が相対的に低減されれば良い。例えば、複数の乾燥皮膜130に係る酸素含有量が+X方向に行けば行くほど高まる傾向を示す場合、複数のガス排出部7による単位時間当たりの気体の排出量が、該複数のガス排出部7の+X方向の配列順に従って高められれば良い。
<(2−4)その他の変形例>
◎例えば、上記一実施形態および上記第1〜3変形例では、光吸収層131が、I−III−VI族化合物半導体を含んでいたが、これに限られない。例えば、光吸収層131に含まれる化合物半導体は、カルコゲン元素を含む化合物半導体であれば良い。カルコゲン元素を含む化合物半導体としては、例えば、Cu、Zn、Sn、Sの4元素を主に含むI−II−IV−VI族化合物半導体(CZTS)、およびCdとTeの2元素を主に含むII−VI族化合物半導体が採用され得る。すなわち、本発明は、カルコゲン元素を含む化合物半導体の薄膜を製造する技術一般に適用され得る。
◎また、上記一実施形態および上記第1〜3変形例では、所定の気体の内部空間2Iへの供給の調整は、例えば、各ガス供給部6による内部空間2Iへの単位時間当たりの所定の気体の供給量の調整であったが、これに限られない。例えば、各ガス供給部6によって一加熱炉2内へ供給される所定の気体におけるカルコゲン元素の濃度によって、基板配置領域4Rにおける所定サイズの各空間領域を単位時間当たりに流れる気体に含まれているカルコゲン元素の供給量が調整されても良い。
例えば、複数のガス供給源S6が、カルコゲン元素の濃度が相互に異なる気体を複数のガス供給部6に供給することで、複数のガス供給部6から内部空間2Iへ供給される所定の気体におけるカルコゲン元素の濃度がX方向に高まり得る。これにより、基板配置領域4Rにおいて、所定サイズの空間領域を単位時間当たりに流れる気体に含まれているカルコゲン元素の供給量がX方向に高められ得る。この場合、例えば、各ガス供給源S6から対応するガス供給部6へ単位時間当たりに供給される所定の気体の供給量は略一定であれば良い。
◎また、上記一実施形態ならびに上記第1および第2変形例では、一加熱炉2内に配列される2以上の所定数の被加熱基板5において各乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布が相互に略同一であったがこれに限られない。例えば、各開口60による所定の気体の供給の調整、および各開口70による気体の排出の調整のうちの少なくとも一方の調整が可能であれば、各乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布が相互に略同一でなくても良い。この場合、各乾燥皮膜130についての酸素含有量の面内分布に応じて単位時間当たりのカルコゲン元素の供給量が異なるようにカルコゲン元素を含む気体が流され得る。
◎また、上記一実施形態ならびに上記第1および第2変形例では、カセット4に2以上の所定数の被加熱基板5が一方向に配列されたが、これに限られない。例えば、カセット4には、1以上の被加熱基板5が配されれば良い。このような構成であっても、一乾燥皮膜130において、酸素含有量が略均一に低減され、カルコゲン元素の含有量が略均一に高められ得る。このため、光電変換効率が高い光吸収層131が形成され、光電変換装置121における光電変換効率が向上し得る。
◎また、上記一実施形態ならびに上記第1から第3変形例では、原料溶液の塗布によって第1皮膜および第3皮膜としての原料溶液皮膜が形成されたが、これに限られない。原料溶液皮膜の代わりに、例えば、スパッタリング法または蒸着法等によって、カルコゲン元素を含む化合物半導体に含まれるカルコゲン元素以外の金属元素を少なくとも含んだ第1皮膜および第3皮膜としての原料皮膜が下部電極層102上に形成されても良い。この場合、例えば、原料皮膜が、水分および酸素のうちの少なくとも一方を含む雰囲気において加熱されることによって、金属元素の一部の酸化を生じさせて、乾燥皮膜130の代わりに、第2皮膜および第4皮膜としての被加熱皮膜が形成されれば良い。
◎なお、上記一実施形態および各種変形例をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<(A)原料溶液の調製>
原料溶液は、次の工程[A1]〜[A4]が行われることで調製された。
[A1]10mmolのCu(CH3CN)4・PF6と、20mmolのP(C6H5)3とが、100mlのアセトニトリルに溶解されることで、第1溶液が生成された。そして、該第1溶液が、室温としての25℃において5時間攪拌されることで、第1錯体溶液が調製された。
[A2]40mmolのNaOCH3と、カルコゲン元素含有有機化合物である40mmolのHSeC6H5とが、300mlのメタノールに溶解されることで、第2溶液が生成された。さらに、該第2溶液に、6mmolのInCl3と4mmolのGaCl3とが溶解されることで、第3溶液が生成された。そして、該第3溶液が室温において5時間攪拌されることで、第2錯体溶液が調製された。
[A3]上記工程[A1]で調製された第1錯体溶液に、上記工程[A2]で調製された第2錯体溶液を滴下することで、白い析出物(沈殿物)を生じさせた。該沈殿物が抽出されて、メタノールで洗浄された後に、室温で乾燥されることで、上記一般式(1)および上記一般式(2)で示される単一源前駆体の混合体を含む沈殿物が得られた。この単一源前駆体の混合体では、1つの錯体分子に、CuとGaとSeとが含まれるか、またはCuとInとSeとが含まれる。
[A4]上記工程[A3]で得られた単一源前駆体の混合体を含む沈殿物に、有機溶媒であるピリジンが添加されることによって、単一源前駆体の濃度が45質量%である原料溶液が作製された。
<(B)実施例に係る半導体層の作製>
ガラスを主に含む基板101が準備された。該基板101は、長辺が800mmで短辺が500mmの長方形の主面を有していた。次に、該基板101の一主面上にMoを主に含む下部電極層102が形成された。その次に、下部電極層102の上面から基板101の上面にかけて基板101の主面の短辺に略平行な8本の溝部P1が、該基板101の主面の長辺に沿った方向に等間隔に形成された。更に、窒素ガスの雰囲気下において下部電極層102の上面に原料溶液がブレード法によって塗布されることによって、厚さが略均一の所定値である原料溶液皮膜が形成された。
次に、原料溶液皮膜が、水分を含む窒素ガスの雰囲気下において、約300℃で約10分間加熱されることによって、原料溶液皮膜の乾燥処理が行われて、原料溶液皮膜中の有機成分が熱分解によって除去された。これにより、厚さが略一定である有機成分が除去された乾燥皮膜130が形成された。ここでは、水分を含む窒素ガスにおける水の濃度が100ppmvとされた。
ここで、乾燥皮膜130の各分割領域の酸素濃度がSIMSによって測定された。各分割領域は、図21で示されるように、乾燥皮膜130が長辺方向に7等分され且つ短辺方向に5等分されたマトリックス状の35個の各領域とされた。なお、図21では、基板101の長辺方向がX方向とされ、該基板101の短辺方向がZ方向とされている。つまり、乾燥皮膜130は、X方向に沿った各行に7個の分割領域が配され、Z方向に沿った各列に5個の分割領域が配されているものとして扱われた。そして、図21では、乾燥皮膜130のうち、−X側から+X方向にx番目(xは1〜7の整数)に配され且つ−Z側から+Z方向にz番目(zは1〜5の整数)に配されている分割領域に、符号Axzが付されている。
ここで、乾燥皮膜130については、図22で示されている各分割領域の酸素濃度の測定結果が得られた。具体的には、分割領域A11,A15,A21,A24,A33,A35,A41,A42,A44,A53,A61,A71,A74,A75における酸素濃度が、それぞれ11,6.8,8.4,10,7.5,8,6.5,4.5,11,8,6.7,8,10,8.3(×1021atoms/cm3)であった。ここでは、乾燥皮膜130の厚さが略均一の所定値であり、各分割領域における酸素濃度が、各分割領域における酸素含有量を間接的に示していた。
次に、乾燥皮膜130が、Se蒸気と水素ガスとの混合ガスの雰囲気において、約300℃で約15分間加熱された後に、約550℃で約1時間加熱されることで、主にCIGSを含む実施例に係る半導体層としての光吸収層131が形成された。なお、乾燥皮膜130に向けて供給される混合ガスにおけるSe蒸気の濃度は、20ppmvであった。
乾燥皮膜130に対する加熱処理は、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1によって行われた。この加熱処理の際、図23で示されるように、乾燥皮膜130のうちの酸素濃度が相対的に高い分割領域に接する所定サイズの空間領域において単位時間当たりに流れる混合ガスの流量が相対的に大きくなるように、混合ガスの供給と排気とが調整された。具体的には、4,6,8番目のガス排出部74,76,78を介して内部空間2I内の気体が排出されることで、内部空間2Iから気体を排出する複数のガス排出部7が配されている配設密度が調整された。また、1,3,8番目のガス供給部61,63,68によって内部空間2Iに混合ガスが供給されることで、内部空間2Iに混合ガスを供給する複数のガス供給部6が配されている配設密度が調整された。
<(C)参考例1に係る半導体層の作製>
上述した実施例に係る半導体層の作製と同一条件の同一工程によって、基板101の一主面上に溝部P1を含む下部電極層102と乾燥皮膜130とがこの順に形成された。
次に、乾燥皮膜130が、Se蒸気と水素ガスとの混合ガスの雰囲気において、約300℃で約15分間加熱された後に、約550℃で約1時間加熱されることで、主にCIGSを含む参考例1に係る半導体層としての光吸収層が形成された。なお、乾燥皮膜130に向けて供給される混合ガスにおけるSe蒸気の濃度は、20ppmvであった。
ここでは、乾燥皮膜130に対する加熱処理は、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1によって行われた。この加熱処理の際、図23で示される薄膜製造装置1において、全てのガス供給部6によって内部空間2Iに混合ガスが供給され、全てのガス排出部7を介して内部空間2I内の気体が排出された。すなわち、乾燥皮膜130のうちの酸素濃度の高低に拘わらず、各分割領域に接する所定サイズの各空間領域において単位時間当たりに流れる混合ガスの流量が略一定とされた。
<(D)参考例2に係る半導体層の作製>
上述した実施例に係る半導体層の作製と同一条件の同一工程によって、基板101の一主面上に溝部P1を含む下部電極層102と原料溶液皮膜とがこの順に形成された。
次に、原料溶液皮膜が、水分が殆ど含まれていない窒素ガスの雰囲気下において、約300℃で約10分間加熱されることによって、原料溶液皮膜の乾燥処理が行われて、原料溶液皮膜中の有機成分が熱分解によって除去された。これにより、厚さが略一定である有機成分が除去された乾燥皮膜が形成された。
その次に、乾燥皮膜が、Se蒸気と水素ガスとの混合ガスの雰囲気において、約300℃で約15分間加熱された後に、約550℃で約1時間加熱されることで、主にCIGSを含む参考例2に係る半導体層としての光吸収層が形成された。なお、乾燥皮膜130に向けて供給される混合ガスにおけるSe蒸気の濃度は、20ppmvであった。
ここでは、乾燥皮膜に対する加熱処理は、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1によって行われた。この加熱処理の際、図23で示される薄膜製造装置1において、全てのガス供給部6によって内部空間2Iに混合ガスが供給され、全てのガス排出部7を介して内部空間2I内の気体が排出された。
<(E)光電変換装置の作製>
上述した実施例に係る光吸収層131、参考例1に係る光吸収層および参考例2に係る光吸収層の各光吸収層の上に、それぞれ、バッファ層132、溝部P2、上部電極層104、集電電極105および溝部P3が順に形成された。これによって、実施例に係る光電変換装置121、参考例1に係る光電変換装置および参考例2に係る光電変換装置が作製された。ここで形成される上記各部は、上記一実施形態に係る光電変換装置121の製造プロセスと同様な工程によって形成された。
具体的には、各光吸収層が配されている基板101が、アンモニア水に酢酸カドミウムおよびチオ尿素が溶解された溶液に浸漬されることで、各光吸収層上に厚さが50nmであるCdSを主に含んでいるバッファ層132が形成された。溝部P2は、スクライブ針が用いられたメカニカルスクライビングによって形成された。また、バッファ層132上に、スパッタリング法によってAlがドープされたZnOを主に含む透明な上部電極層104が形成された。また、上部電極層104の上面のうちの所定の形成対象位置から溝部P2の内部にかけて集電電極105が形成された。集電電極105は、例えば、銀の金属粉が樹脂製のバインダーに分散させられた金属ペーストが所定のパターンを有するように印刷され、印刷後の金属ペーストが乾燥によって固化されることで形成された。さらに、溝部P3は、スクライブ針が用いられたメカニカルスクライビングによって形成された。なお、溝部P3は、図21で示されたZ方向に沿った5列の分割領域における隣り合う各列間を区分する位置に形成された。
<(F)光電変換装置における光電変換効率の測定>
上述のように作製された実施例に係る光電変換装置121、参考例1に係る光電変換装置および参考例2に係る光電変換装置の光電変換効率が、定常光ソーラーシミュレーターによって測定された。
具体的には、図21で示された35個の分割領域に対応するように、各光電変換装置が切断によって35個の光電変換装置(分割光電変換装置とも言う)に分割された。そして、各分割光電変換装置の下部電極層102および集電電極105に出力用の配線が設けられた。そして、定常光ソーラーシミュレーターでは、分割光電変換装置の受光面に対する光の照射強度が100mW/cm2であり、且つエアマス(AM)が1.5である条件下で光電変換効率が測定された。なお、光電変換効率は、分割光電変換装置において太陽光のエネルギーが電気エネルギーに変換される割合を示す。ここでは、分割光電変換装置から出力される電気エネルギーの値が、分割光電変換装置に入射される太陽光のエネルギーの値で除されて、100が乗じられることで、光電変換効率が導出された。
<(G)光電変換装置における光電変換効率の測定結果>
図24は、実施例に係る光電変換装置121における光電変換効率の面内分布を示す図である。実施例に係る光電変換装置121のうち、図21で示される分割領域A11,A15,A24,A31,A32,A35,A43,A51,A54,A62,A71,A74,A75にそれぞれ対応する分割光電変換装置における光電変換効率は、それぞれ13.5%,12.9%,11.8%,13.6%,13.4%,13.2%,12.6%,12.7%,11.9%,13.0%,12.6%,12.5%,13.8%であった。そして、光電変換効率の平均値が12.9%であり、且つ光電変換効率のばらつきを示す標準偏差σが0.62であった。
図25は、参考例1に係る光電変換装置における光電変換効率の面内分布を示す図である。参考例1に係る光電変換装置のうち、図21で示される分割領域A11,A15,A24,A31,A32,A35,A43,A51,A54,A62,A65,A71,A74,A75にそれぞれ対応する分割光電変換装置における光電変換効率は、それぞれ11.8%,12.9%,11.9%,12.5%,13.6%,11.4%,12.1%,13.1%,11.9%,10.5%,11.3%,12.6%,10.9%,12.0%であった。そして、光電変換効率の平均値が12%であり、且つ光電変換効率のばらつきを示す標準偏差σが0.86であった。
図26は、参考例2に係る光電変換装置における光電変換効率の面内分布を示す図である。参考例2に係る光電変換装置のうち、図21で示される分割領域A11,A15,A24,A32,A35,A43,A51,A54,A62,A71,A74,A75にそれぞれ対応する分割光電変換装置における光電変換効率は、それぞれ10.7%,12.1%,11.6%,10.6%,11.7%,12.4%,11.3%,11.5%,11.1%,10.5%,11.8%,8.3%であった。そして、光電変換効率の平均値が11.5%であり、且つ光電変換効率のばらつきを示す標準偏差σが0.62であった。
図24から図26で示されるように、原料溶液皮膜が熱分解される際の雰囲気に水分が殆ど含まれていない場合よりも、原料溶液皮膜が熱分解される際の雰囲気に水分が含まれている場合の方が、光電変換装置における光電変換効率が高まることが分かった。そして、乾燥皮膜に対する加熱処理時に、該乾燥皮膜についての酸素含有量の面内分布に応じて単位時間当たりのカルコゲン元素の供給量を異ならせることで、光電変換装置における光電変換効率のばらつきが低減され、光電変換効率がさらに高まることが分かった。実施例に係る光吸収層131では、理想的な組成に近いCIGSの層が均一に形成されているものと推定された。