以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
(実施の形態)
図1は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置を適用した自動車の前部の外観を示す概略図である。本実施の形態に係る車両10は、車両用前照灯装置12と、後述するランプモードを切り替えるためにステアリングホイール14近傍に設けられたランプモード切替えスイッチ16と、車両が備える不図示のセンサが検出した情報や運転者によるランプモード切替えスイッチ16の切替え操作の情報を処理して車両用前照灯装置12に送信する車両制御部18と、を備える。
車両用前照灯装置12は、一対の前照灯ユニット20R,20Lと、各前照灯ユニット20R,20Lによる光の照射、すなわち配光パターンの形状や位置をそれぞれ制御する前照灯制御部22とを備える。前照灯制御部22は、車両制御部18から送信された信号に基づいて自車両より前方を走行する前走車との距離や位置に応じて前照灯ユニット20R,20Lを制御する。なお、本実施の形態に係る前照灯制御部22は、ランプモード切替えスイッチ16によるランプモードの切替えが行われると、選択されたランプモードに応じて前照灯ユニット20R,20Lによる光の照射を制御する。
ここで、ランプモード切替えスイッチ16により選択可能なランプモードとしては、「走行モード(ハイビームモード)」、「すれ違いモード(ロービームモード)」、「自動調整モード(遮光ハイビームモード)」が設定されている。なお、自動調整モードとは、前走車との距離や位置に応じて配光パターンが調整されるモードである。なお、詳細は後述するが、遮光ハイビームモードとは、ハイビーム配光パターンの一部の領域を適宜非照射状態にすることで、自車両より前方に存在する前走車に与えるグレアの低減と遠方での視認性の向上の両立を図ることが可能な遮光ハイビームを形成するモードである。
図2は、本実施の形態に係る前照灯装置の概略構成を示すブロック図である。左右一対の前照灯ユニット20R,20Lは、前照灯制御部(ECU)22に接続されている。前照灯制御部22は、車両制御部18を介してランプモード切替えスイッチ16が接続されており、ランプモード切替えスイッチ16から送信された信号に基づいて、選択された各ランプモードに応じたハイビームとロービームと遮光ハイビームとの切替え制御を行う。
また、図1には示していないが、車両10の前部には、自車両より前方領域に存在する前走車の位置や、前走車から自車両までの距離を検出する前走車検出手段24が設けられている。ここで、前走車には、自車両より前方を同方向に走行する先行車と自車両と反対方向に走行する対向車とが含まれる。前照灯制御部22は、前走車検出手段24の検出出力に基づいて前照灯ユニット20R,20Lにより形成する配光パターンを制御する。前照灯ユニット20R,20Lは、内部構造が左右対称であるほかは互いに同じ構成であり、右側のランプハウジング26R内にロービーム用灯具ユニット28Rおよびハイビーム用灯具ユニット30Rが、左側のランプハウジング26L内にロービーム用灯具ユニット28Lおよびハイビーム用灯具ユニット30Lがそれぞれ配置されている。
次に、車両用前照灯装置が備える前照灯ユニットについて説明する。上述の前照灯ユニット20R,20Lは左右対称の構造をしている以外は同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット20Rを例として説明し、左側の前照灯ユニット20Lの説明は省略する。
図3は、前照灯ユニットのうちハイビーム用灯具ユニット近傍の概略構成を示す断面図である。図4(a)は、ロービーム用灯具ユニットによる配光パターンを示す図、図4(b)は、ハイビーム用灯具ユニットによる配光パターンを示す図である。なお、ロービーム用灯具ユニット28R,28Lは、従来のユニットをそのまま適用することができるので、ここでは構成の説明を省略するが、点灯されたときには、図4(a)に示すように、自車の前方の直前領域を照明するすれ違いビーム(ロービーム)配光パターンLBPによる照明を行う。
次に、前照灯ユニット20Rにおけるハイビーム用灯具ユニット30Rの構成について説明する。なお、左側のハイビーム用灯具ユニット30Lは右側のハイビーム用灯具ユニット30Rと構成が同じであるため説明を省略する。ランプハウジング26Rは、前面を開口した容器状のランプボディ32と、ランプボディ32の前面開口部に取り付けられた前面レンズ34とで構成されている。ハイビーム用灯具ユニット30Rは、ランプハウジング26Rの内部に設けられており、図3に示すように回転放物面(パラボラ)が形成されたリフレクタ36と、リフレクタ36の焦点位置に配置された光源H1と、光源H1よりも若干車両前側に配置された光源H2と、を有する。
本実施の形態に係るハイビーム用灯具ユニット30Rでは、2つのフィラメントを一体に内蔵したいわゆるH4バルブ38が用いられており、H4バルブ38の後側のRフィラメント40が光源H1としての機能を、前側のFフィラメント42が光源H2としての機能を果たす。Fフィラメント42の上方のH4バルブ38表面にはインナーシェード44が設けられている。
前照灯ユニット20Rでは、Rフィラメント40、すなわちリフレクタ36の焦点位置にある光源H1が点灯すると、リフレクタ36で反射された光がランプ光軸Lxにほぼ平行な光束として出射される。そして、図4(b)に示すように、自車の左右方向中央部かつ水平方向の車両正面中央部の領域である第1照射領域SA1を照射する配光パターンHBP1が形成される。また、Fフィラメント42、すなわちリフレクタ36の焦点よりも前方に位置する光源H2が点灯すると、上方に向けて出射された光はインナーシェード44で遮光されるため、下方に向けて出射された光のみがリフレクタ36で反射されて前方を照射する。そのため、図4(b)に示すように、第1照射領域SA1よりも左右方向の両側で水平方向の上部の半円環状をした第2照射領域SA2を照射する配光パターンHBP2が形成される。そして、これらの配光パターンHBP1と配光パターンHBP2が重畳されてハイビーム配光パターンHBPが形成される。
次に、前走車検出手段24について詳述する。前走車検出手段24は、図2に示すように、CCDやMOS等の固体撮像素子を用いた撮像カメラ46と、画像認識装置48とを備える。画像認識装置48は、撮像カメラ46で撮影した画像を信号処理して画像解析を行い、撮像範囲内における先行車や対向車等の自車の前方に存在する前走車を認識し、認識した前走車の位置や前走車と自車との距離(車間距離)を検出する。そして、前走車の情報に基づいた検出信号が前照灯制御部22に出力されると、前照灯制御部22は、検出信号に基づいて前照灯ユニット20R,20Lの点灯状態、すなわち、ハイビーム配光パターンやロービーム配光パターンによる照射を切り替える。なお、前走車検出手段24は、ミリ波レーダやGPS装置等のほかの手段であってもよく、前走車が存在する位置の情報を取得できるものであればよい。
前照灯制御部22は、ランプモード切替えスイッチ16によりスイッチがオンされた場合に前照灯ユニット20R,20Lに電力を供給し点灯させる。このとき、ランプモード切替えスイッチ16の切替え状態によりロービーム用灯具ユニット28R,28Lおよびハイビーム用灯具ユニット30R,30Lの点灯・消灯が制御される。すなわち、ランプモード切替スイッチ16がロービームモードに切り替えられているときには、ロービーム用灯具ユニット28R,28Lのみが点灯され、ロービーム配光パターンによる前方照射が行われる。また、ランプモード切替スイッチ16がハイビームモードに切り替えられているときには、ロービーム用灯具ユニット28R,28Lおよびハイビーム用灯具ユニット30R,30Lが同時に点灯され、ハイビーム配光パターンによる前方照射が行われる。
また、ランプモード切替スイッチ16が遮光ハイビームモードに切り替えられているときには、前走車検出手段24からの検出信号に基づいて、ロービーム用灯具ユニット28R,28Lおよびハイビーム用灯具ユニット30R,30Lの点灯・消灯により、前走車の位置が所定の条件の場合には後述する遮光ハイビームによる前方照射が行われる。さらに、前照灯制御部22は、特にハイビーム用灯具ユニット30R,30Lの点灯・消灯を制御する際に、光源H1および光源H2にそれぞれ電力を供給するとき及び電力を遮断するときの点灯及び消灯のタイミングを独立して制御することが可能なように構成されている。また、電力の供給及び停止を所定の時間をかけて行うことが可能とされており、これにより光源H1と光源H2の明るさを徐々に明るくしたり、あるいは暗くしたりすることが可能とされている。
(遮光ハイビームモード)
次に、遮光ハイビームモードについて簡単に説明する。図5(a)〜(d)は、ハイビーム配光パターンを例示した図である。通常、運転者は、道路状況、前走車の有無や前走車までの距離等を勘案しながらハイビームを適宜使い分けて自車両前方の視認性を確保している。しかしながら、ハイビームは、中心光度が高いため、自車両よりかなり遠方に存在する前走車の運転者に対してもグレアを与えてしまう。そのため、ロービームが照射できる数十メートル先の領域よりもかなり遠方に前走車が存在していても、ハイビームを用いることができず、ハイビームの使用頻度が低かった。
最も単純で一般的なハイビーム配光パターンは、図5(a)に示すように、楕円状の配光パターンである。このようなハイビーム配光パターンは、左右方向が長い楕円形状を有しており、車両前方の視認性確保のため、H線上方(Hiビーム領域)にヘッドランプの光を照射している。そのため、前走車が存在している場合の使用頻度は決して高くはなかった。
そこで、このような問題を解決するために、ハイビーム配光パターンに工夫を加え、遠方の視界確保と前走車へ与えるグレアの低減との両立を可能にする遮光ハイビームを考案した。遮光ハイビームは、図5(a)に示すハイビーム配光パターンの一部の領域を非照射状態にする光である。例えば、前述の車両用前照灯装置12のハイビーム用灯具ユニット30において光源H1を消灯することで図4(b)に示す第1照射領域SA1が非照射状態(遮光部)となる遮光ハイビームが形成される。この際のハイビーム配光パターンは、図5(b)に示すようなドーナツ形状配光パターンとなる。その他にも、図5(c)に示すように、ハイビーム配光パターンのハイビーム領域の中央部を非照射状態(遮光部)とする凹状配光パターンや、図5(d)に示すように、ハイビーム領域の片側を非照射状態(遮光部)とする片側配光パターン等が遮光ハイビームによって形成されうる。
このように遮光ハイビームを形成できる前照灯ユニットであれば、前走車の存在により従来であればロービームで走行しなければならない状況であっても、前走車がハイビーム配光パターンの非照射領域(遮光部)内に存在する間は、遮光ハイビームにより走行が可能である。そのため、遮光ハイビームを用いた走行では、少なくとも、ロービームを用いた走行よりも広範囲に前方が照射されるため、前走車に与えるグレアが抑制されつつ遠方の視認性向上(路上、路肩、歩道等の歩行者や落下物の早期発見)が図られる。
このような遮光ハイビームを積極的に使用するためには、ハイビーム配光パターンにおける遮光可能な領域に前走車が存在するか否かの判定や、遮光部の形成を的確に行うことが望まれる。以下では、遮光ハイビームの制御について詳述する。
(前走車の位置)
遮光ハイビームの制御に当たっては前走車検出手段24で検出した情報から前走車の位置を数値化する必要がある。そこで、はじめに前走車の位置の数値化について説明する。図6(a)は、自車と前走車との位置関係を模式的に示した斜視図である。図6(b)は、自車と前走車との位置関係を模式的に示した側面図である。
図6(a)、図6(b)に示すように、前走車の位置Pは、自車との距離r、自車正面光軸方向に対する左右方向を示す左右方向角α、自車正面光軸方向に対する上下方向を示す上下方向角β、の3つの値で特定される。左右方向角αは、自車正面のY軸(スクリーン上はV−V線)を中心に自車線側(左)をマイナス、対向車線側(右)をプラスとする。上下方向角βは、自車正面のX軸(スクリーン上はH−H線)を中心に上方向をプラス、下方向をマイナスとする。なお、このような極座標系以外に、位置Pを(X,Y,Z)の直交座標系で表現する方法もあるが、本実施の形態では取扱いの容易さから極座標系(r,α,β)を用いて位置Pを表現する。
自車から見た場合、厳密には前走車は点ではなくある程度の広がりを持つ面となるが、遮光ハイビームは、自車と前走車との距離が20m〜1000m程度の範囲で機能することから、前走車の位置Pを点として極座標で表現し、面積に相当する値を左右余裕角αm、上下余裕角βmという補正値を用いて表現する。なお、左右余裕角αm、上下余裕角βmの詳細については後述する。また、前走車には自動車だけでなく、二輪車や自転車等が含まれていてもよい。
(前走車の計測領域)
次に、前走車検出手段24により前走車の位置Pを測定する範囲について説明する。図7(a)は、前走車に対する左右方向の計測領域を模式的に示した斜視図である。図7(b)は、前走車に対する上下方向の計測領域を模式的に示した側面図である。
図7(a)に示すように、前走車の左右(水平)方向の計測範囲αROIとすると、αROI=αROIR−αROILとなる。ここで、αROIRは、自車正面方向よりも右側の検出角度であり、αROILは、自車正面方向よりも左側の検出角度である。同様に、前走車の上下(垂直)方向の計測範囲βROIとすると、βROI=βROIU−βROIDとなる。ここで、βROIUは、自車正面方向よりも上側の検出角度であり、βROIDは、自車正面方向よりも下側の検出角度である。本実施の形態では、αROI、βROIで囲まれる空間的な領域を「計測領域」とし、(αROI、βROI)で表現する。
計測領域(αROI、βROI)は、前照灯ユニット20におけるハイビーム用灯具ユニット30や前走車検出手段24の性能を考慮して設定される。本実施の形態に係る車両用前照灯装置12は、前走車検出手段24による検出結果に基づき計測領域に前走車がいないと判定した場合、遮光ハイビームではなく通常のハイビームで前方を照射するよう制御する。これにより、前方の視認性をより向上することができる。
次に、上述のように計測領域を設ける理由およびその効果について説明する。ハイビームで照射することが可能な領域には限りがあり、ハイビーム用灯具ユニットの光源がハロゲンバルブかキセノンバルブか等、灯具ユニットによるハイビームの性能差で照射領域が変化する。そのため、ハイビームによる照射性能に応じて計測すべき領域を設定することで、ハイビームによりグレアの影響を受けない前走車を測定から除外することができる。また、例え前走車検出手段24により検出された前走車であっても、計測領域外であれば以後の演算処理から除外することができるため、車両制御部18や前照灯制御部22における演算負荷が軽減される。
なお、ハイビーム用灯具ユニットの光軸がスイブル可能な構成の場合、スイブル後の光軸方向を自車正面方向として前走車の位置Pが表現される。この際、計測領域もスイブル角θだけ移動する。また、本実施の形態では、光軸方向を自車正面方向とすることで、スイブル機能の有無にかかわらず前走車の位置Pが共通に表現されるため、遮光ハイビームの制御における演算が簡略化される。
(存在領域の決定)
次に、存在領域の決定方法について説明する。ここで、存在領域(存在範囲)とは、前走車の位置に基づいて仮想的に算出される領域である。図8は、上空及び側面から見た場合の自車と前走車との位置関係および存在範囲との関係を模式的に示した図である。
本実施の形態に係る前照灯制御部22は、前走車検出手段24が検出した情報に基づいて自車の前方に設定されている計測領域内に存在する各前走車の位置Pnを算出し、各位置Pnを内包する存在範囲αEX,βEXに基づき存在領域として決定する。ここで、存在範囲αEX=αEXR−αEXLであり、右側存在角αEXRは、自車から見て最も右側の前走車の位置Pnに対応する角度、左側存在角αEXLは、自車から見て最も左側の前走車の位置P1に対応する角度として定義される。なお、αEXRの値はプラス、αEXLの値はマイナスである。
前照灯制御部22は、決定された存在領域の全部が、例えば、図5(b)〜図5(d)に示すような遮光部や、図4(b)に示すような第1照射領域SA1に含まれると判定した場合には、遮光部や第1照射領域SAを非照射状態にするよう前照灯ユニット20を制御する。これにより、前走車に与えるグレアを低減しつつ、図5(b)〜図5(d)に示すような遮光部や図4(b)に示す第1照射領域SA1以外のハイビーム領域についてはハイビーム配光パターンによる照射を維持して遠方視認性の向上を図ることができる。
一方、前照灯制御部22は、決定された存在領域の少なくとも一部が遮光部や第1照射領域SA1以外のハイビーム配光パターンの領域(例えば、図4(b)に示す第2照射領域SA2)に含まれる場合には、ハイビーム配光パターンが形成されないように前照灯ユニット20を制御する。これにより、前走車に与えるグレアを確実に防止することができる。
なお、本実施の形態に係る前照灯制御部22は、決定された存在領域の全部が前述の遮光部に含まれる場合であっても、第1の閾値(例えば前走車が先行車の場合は20m)と比較して自車両との距離が近い前走車が存在するときは、強制的にハイビーム配光パターンが形成されないように前照灯ユニット20を制御する。前走車の存在領域の全部がハイビーム配光パターンのうち遮光部等に含まれる場合、理想的には、遮光部を非照射状態にすることでハイビーム配光パターン自体が形成された状態で走行は可能である。しかしながら、前走車が接近している状況では時間あたりの前走車の位置の変化量が大きくなるため、ハイビーム配光パターンの遮光部を非照射状態にする制御が追従できなくなることも考えられる。そこで、第1の閾値と比較して自車両との距離が近い前走車が存在するときは、前照灯制御部22は、強制的にハイビーム配光パターンが形成されないようにし、ロービーム配光パターンのみによる照射が行われるように、前照灯ユニット20を制御する。これにより、接近した前走車へ与えるグレアをより確実に防止することができる。
また、本実施の形態に係る前照灯制御部22は、第2の閾値(例えば前走車が先行車の場合は200〜500mの間の値)と比較して自車両との距離が遠い車は前走車とみなさないようにしている。つまり、前照灯制御部22は、第2の閾値よりも遠い前走車の情報を取得しても、その前走車の位置を存在領域の決定の際の演算では用いないようにしている。その理由は、自車両との距離が十分に遠い車は、仮に存在領域に含まれていても自車両が形成した配光パターンから受けるグレアの程度は小さくなる。そのため、距離が十分に遠い車が存在する領域が遮光部に含まれてしまうと、ハイビーム配光パターンを形成した走行ができなくなり、前方視認性の向上という観点からは好ましくない。そこで、第2の閾値と比較して自車両との距離が遠い車を前走車とみなさないことで、より多くの状況でハイビーム配光パターンを形成した走行が可能となる。
また、前照灯制御部22は、前走車が対向車の場合、対向車との距離が前述の第1の閾値(前走車が先行車の場合)より大きい第3の閾値と比較して自車に近いときには、ハイビーム配光パターンが形成されないように前照灯ユニット20を制御する。存在領域に含まれる前走車が自車両と反対方向に走行する対向車の場合、自車両と同方向に走行する先行車と比較して、接近している状況での時間あたりの位置の変化量が大きくなり、ハイビーム配光パターンの一部の領域を非照射状態にする制御の追従がより困難になる。そこで、前走車が対向車の場合、対向車の距離を前述の第1の閾値より大きい第3の閾値と比較してハイビーム配光パターンの形成が制御されることで、対向車が近付く、より早い段階からハイビーム配光パターンの形成が停止され、対向車へ与えるグレアをより確実に防止することができる。
また、前照灯制御部22は、前走車が対向車の場合、前述の第2の閾値(前走車が先行車の場合)より大きい第4の閾値と比較して自車両との距離が遠い車は前走車とみなさない。ここで、第2の閾値は、前走車が先行車の場合の値として200〜500mの間で選択され、第4の閾値は、前走車が対向車の場合の値として300〜1000mの間で選択されている。自車両との距離が十分に遠い対向車は、仮に存在領域に含まれていても自車両が形成した配光パターンから受けるグレアの程度は小さくなる。そのため、距離が十分に遠い対向車が存在する領域が遮光部に含まれてしまうと、ハイビーム配光パターンを形成した走行ができなくなり、前方視認性の向上という観点からは好ましくない。しかしながら、前走車が対向車の場合、先行車と比較してハイビーム配光パターンから受けるグレアの影響は大きくなる。そこで、前述の第2の閾値より大きい第4の閾値と比較して自車両との距離が遠い対向車を前走車とみなさないことで、対向車に与えるグレアを低減しつつより多くの状況でハイビーム配光パターンを形成した走行が可能となる。
なお、前照灯制御部22は、前走車が先行車の場合に第1の閾値および第3の閾値を、前走車が対向車の場合に第2の閾値および第4の閾値を用いることで、より精度の高い遮光ハイビームの制御が可能となる。この場合、上述した各閾値の関係は第1の閾値<第2の閾値、第3の閾値<第4の閾値、第2の閾値<第4の閾値となる。各閾値は、ハイビーム用灯具ユニットの構成やそれに用いられている光源の種類によって適切な値を設定すればよい。
(相対速度に応じた閾値の決定)
前走車が先行車のときに第1の閾値が、前走車が対向車のときに第3の閾値が用いられる場合、第1の閾値および第3の閾値は自車と前走車との相対速度に応じて決定される。例えば、対向車と自車とがすれ違う場合、自車速度と対向車速度の和である相対速度が速いほど、また、車間距離が接近するほど、両車を結ぶ直線が両車の進行方向に対して成す角αnの単位時間当たりの変化(dαn/dt)は大きくなる。このとき、前走車検出手段24の計測能力、前照灯制御部22の演算能力、ハイビーム用灯具ユニット30の構造等の制約から、遮光ハイビームや通常のハイビームの制御が追従できず、前走車の運転者にグレアを与える可能性がある。また、例え遮光ハイビームや通常のハイビームの制御が追従できたとしても、運転者に対して配光パターンの切替え時の違和感を与える可能性もある。そのため、第1の閾値および第3の閾値が固定されている場合と比較して、自車と前走車との相対速度に応じてロービームに切り替えるための第1の閾値および第3の閾値が決定されることで、前走車の運転者にグレアを与えることなく、また、自車を運転する運転者が違和感を抱かずに、遮光ハイビームの制御が行われる。
次に、第1の閾値および第3の閾値を自車と前走車との相対速度に応じて決定する方法について詳述する。図9(a)は、上空から見た場合の自車と対向車がすれ違う状況を模式的に示した図である。図9(b)は、図9(a)に示す状況での成す角αnの単位時間当たりの変化とすれ違うまでの時間との関係を示すグラフである。図9(c)は、相対速度と各閾値との関係を示すグラフである。
前述のように、自車と前走車との相対速度が速いほど、また、車間距離が接近するほど、自車と前走車との成す角αnや図8に示す存在範囲αEX,βEXの単位時間当たりの変化量が増加する。そこで、この変化量の増加に基づき第1の閾値および第3の閾値を決定する具体例を以下に示す。なお、相対速度は前走車が自車に近付く方向をプラスとする。
本実施の形態では、自車と前走車との成す角αnの単位時間当たりの変化(dαn/dt)が大きくなる点に着目し、前照灯制御部22は、(dαn/dt)が限界値を超える限界時間tLMTを算出し、限界時間tLMTを超えない距離(第1の閾値、第3の閾値)を相対速度に応じて決定するように構成されている。ここで、(dαn/dt)の「限界値」とは、運転者が遮光部の存在に違和感や不快感を覚えない値や、遮光部の制御が追従できる値を考慮し、ハイビーム用灯具ユニットの構造や前照灯制御部22の処理能力等から設定された値である。
図9(a)は、自車が対向車とすれ違う状況を図示したものであり、対向車と自車正面方向の成す角αnは、αn=tan−1(w/d)で表すことができる。ここで、dは自車と対向車との距離である。そして、成す角αnを時間で微分することで単位時間当たりの成す角αnの変化(dαn/dt)が求められる。求められた(dαn/dt)と両車がすれ違うまでの時間tとは、図9(b)に示すような関係となる。ここで、図9(b)に示すグラフの横軸は、両車がすれ違うまでの時間をマイナスで表現し、t=0の時点で両車がすれ違うことを示している。
図9(b)に示す関係において、(dαn/dt)の限界値を設定することで、限界時間tLMTが算出される。このようにして算出された限界時間tLMTの値に基づいて、前照灯制御部22は、限界時間tLMTより以前であれば遮光ハイビームによる照射を可能とし、限界時間tLMTを超えた時点からロービームによる照射に切り替える制御を行う。
また、限界時間tLMTが算出されれば、両車の距離dすなわち第1の閾値や第3の閾値が相対速度vの関数として求まる(図9(c)参照)。例えば、相対速度v=200km/h(55.6m/s)、車線幅w=3.5mですれ違う状況で、ハイビーム用灯具ユニットの構造や前照灯制御部22の処理能力等から(dαn/dt)の限界値が5[°/s]と設定した場合、限界時間tLMT≒0.85[sec]となる。その結果、第3の閾値は、0.85×55.6≒47[m]と算出される。すなわち、相対速度v=200km/h、車線幅w=3.5[m]の状況下では、前照灯制御部22は、両車が47mよりも近付いた時点で強制的にロービームに切り替える。
なお、前走車が自車の真正面に存在する場合(α=0°)や相対速度が小さな場合を考慮し、図9(c)に示すように、第1の閾値および第3の閾値の最小値が設定されている。これにより、至近距離では強制的にロービームに切り替えられる。また、上述のような関数をあらかじめマップ化することで、複雑な計算処理を行うことなく第1の閾値や第3の閾値が算出されるため、前照灯制御部22による制御負担を軽減できる。
(対向角に応じた閾値係数)
前走車が先行車のときに第2の閾値が、前走車が対向車のときに第4の閾値が用いられる場合、第2の閾値および第4の閾値は、自車の光軸と前走車の走行方向とが成す対向角ωnに応じて補正される。ここで、対向角ωnに応じて閾値を補正するのは、対向角ωnによって前走車が受けるグレアの影響の程度が変わるからである。詳述すると、前走車が自車に対して平行(対向角ωn=0)に走行している場合に最も前走車に与えるグレアの影響が大きくなり、前走車が自車に対して対向角ωnが大きくなるにつれて前走車に与えるグレアの影響が小さくなる。
例えば、自車が走行中の道路前方に直交する道路があり、その道路を通行する車両が前走車として前述の存在範囲αEX、βEXに含まれる位置Pに存在していたとしても、その車両は自車のハイビームによるグレアの影響をほとんど受けない。そのため、このような前走車が存在しても存在範囲には含めないことが望ましい。ただし、交差する道路は直交する場合だけではないため、自車に対する前走車の走行方向により存在範囲に含めるか否かを決定する必要性から距離係数Rを設定し、これを第2の閾値や第4の閾値に乗じることにより、状況によって両閾値の値を小さくする補正が行われる。つまり、前走車の対向角が大きいほど存在範囲に含まれにくくなる。
図10(a)は、上空から見た場合の自車と前走車との対向角の関係を模式的に示した図である。図10(b)は、対向角と距離係数との関係を示すグラフである。
図10(a)に示すように、前走車の光軸と位置P1、P2にある前走車の走行方向との成す角が対向角ω1、ω2として定義される。そして、対向角ωの大きさにより距離係数Rを決定するために、図10(b)に示すようなf3関数が設定されている。また、対向角ω=±(π/2)の前走車は、先行車か対向車か区別できないが、自車の光軸と直交する前走車を存在範囲から除外する場合は対向角ω=±(π/2)のときの距離係数Rが0に設定された関数を、逆に存在範囲から除外すべきでない場合は対向角ω=±(π/2)のときの距離係数Rが0以外の値に設定された関数を用いる。なお、対向角が計測できない場合、または、対向角を加味しない制御の場合は、距離係数Rを固定値1とすればよい。対向角の計測は、例えば、GPSやミリ波レーダーの情報による前走車の位置の時間変化に基づいて算出することができる。
(ヒステリシス特性)
先行車が上述の各閾値近傍の距離で遠ざかったり近付いたりすると、配光パターンの切替が頻繁に生じることになる。また、自車と先行車との距離が一定であっても、測定誤差等により閾値と距離との大小関係が逆転し、配光パターンの切替が頻繁に生じる可能性もある。そこで、本実施の形態では、前走車との距離rと各閾値との比較において、ヒステリシス特性を利用した制御を行う。
図11は、本実施の形態の制御におけるヒステリシス特性を示した図である。前述のように、ロービームから遮光ハイビームへ、遮光ハイビームから通常ハイビームへ等の配光パターンの切替は、前走車との距離と閾値との比較結果や、遮光領域と存在領域との比較結果に基づき制御される。
しかしながら、例えば、自車の前方に先行車が一台だけ存在し追従走行している状況において、先行車との距離rpが第2の閾値付近で変化している場合、遮光ハイビームと通常ハイビームとの配光切替が頻発し、自車および先行車の運転者への不快感や視認性低下をもたらすおそれがある。そこで、これらを防止するために、本実施の形態では閾値ごとに幅(δ1〜δ4)が設けられている。図11に示す例では、閾値2が300m、δ2±30mに設定されており、前照灯制御部22は、先行車との距離rpが200mから徐々に増加し、330mになった時点で遮光ハイビームから通常ハイビームに切り替える。逆に、前照灯制御部22は、先行車との距離rpが330m以上から徐々に短くなり、270mになった時点で通常ハイビームから遮光ハイビームに切り替える。
このような配光の切替え制御により、先行車との距離が閾値付近で変化しても、±δ以内であれば、配光切替が発生しない。幅δの値は、距離の計測精度や実車評価(例えば運転者による官能評価)等によって決定すればよい。また、幅δの値は、閾値毎に設定されていてもよいし、各閾値共通に設定されていてもよい。
このような考えを更に発展させ、遮光領域(遮光部)と存在領域との比較の場合も同様に、遮光領域が存在領域に含まれる状態から含まれなくなる状態に変化する場合と、逆に、遮光領域が存在領域に含まれない状態から含まれる状態に変化する場合とでは、前述のようなヒステリシス特性を利用して配光を切り替える時点が異なるように制御してもよい。これによっても、頻繁な配光切替の発生を抑止することができる。
(余裕角)
次に、先に簡単に述べた余裕角について説明する。余裕角とは、前走車の位置Pの計測誤差や配光パターンに影響する前照灯ユニットの構造のバラツキ等を考慮して設定されている。図8に示すように、存在範囲は、実際に前走車が存在している領域よりも左右余裕角αm、上下余裕角βm分だけ大きめに設定されており、前走車に対するグレアが確実に防止されるようになっている。また、余裕角は、前走車の位置Pを点として表現した場合に生じる前走車の面積(幅や高さ)の問題を補完する役割も担うパラメータである。
このような事情を踏まえ、本実施の形態に係る前照灯制御部22は、自車両から見て前走車が含まれる基準範囲よりも所定の左右余裕角αm、上下余裕角βmだけ広がった存在範囲αEX、βEXに基づいて存在領域を決定し、存在領域の全部が例えば遮光領域に含まれる場合には、遮光領域を非照射状態にするよう前照灯ユニット20を制御し、存在領域の少なくとも一部が遮光領域以外のハイビーム配光パターンの領域に含まれる場合には、ハイビーム配光パターン自体が形成されないように前照灯ユニット20を制御する。
例えば、非照射状態にすることが可能な遮光領域の境界と存在領域の境界とが近い場合、前走車の位置情報の検出誤差や前照灯ユニット20の各部品の公差によるハイビーム配光パターンのバラツキによっては、本来ハイビーム配光パターンが到達しないはずの前走車がハイビーム配光パターンにより照射される可能性がある。そこで、本実施の形態に係る前照灯制御部22では、自車両から見て前走車が含まれる基準範囲よりも所定の角度だけ広がった補正範囲に基づいて広めに存在領域が決定されるので、前走車に対するグレアをより確実に防止することができる。
また、前照灯制御部22は、基準範囲に加えて上下方向の端に位置する前走車から上下余裕角βmだけ広がった上下方向の存在範囲βEXに基づいて存在領域を決定している。前走車自体には上下方向に空間的な広がりがあるため、前走車を点として存在領域を決定すると前走車の上下方向の部分が存在領域外となる可能性がある。そこで、このような方法により存在領域が決定されると、存在領域から前走車の上下方向の部分がはみ出すようなことが回避される。その結果、精度の高い遮光ハイビーム制御が実現される。
また、前照灯制御部22は、基準範囲に加えて水平方向の端に位置する前走車から左右余裕角αmだけ広がった水平方向の存在範囲αEXに基づいて存在領域を決定している。前走車自体には水平方向に空間的な広がりがあるため、前走車を点として存在領域を決定すると前走車の水平方向の部分が存在領域外となる可能性がある。そこで、このような方法により存在領域が決定されると、存在領域から前走車の水平方向の部分がはみ出すようなことが回避される。その結果、精度の高い遮光ハイビーム制御が実現される。
遮光ハイビーム配光パターンの目的の一つは、自車両に対して水平方向に位置する歩行者や障害物の早期発見による事故防止である。この観点では、存在領域を決定する際に基準範囲に加えられる水平方向補正範囲をあまり大きくすると、ハイビーム配光パターンの非照射状態にすることが可能な遮光領域に存在領域の全部が含まれなくなる可能性が高くなる。その結果、前走車に与えるグレアを確実に防止することができるものの、歩行者や障害物の早期発見という点では更なる改善の余地がある。一方、大型バスやトラックなどのように運転者のアイポイントが普通車より高い車両の場合、ハイビーム配光パターンによるグレアの発生の低減が重視される。
このような事情を勘案して、本実施の形態に係る前照灯制御部22は、基準範囲に加えて上下方向の端に位置する前走車から上下余裕角βmだけ広がった上下方向の存在範囲βEX、および、基準範囲に加えて水平方向の端に位置する前走車から左右余裕角αmだけ広がった水平方向の補正範囲αmに基づいて存在領域を決定する。ここで、左右余裕角αmは、上下余裕角βmよりも小さく設定されている。その結果、前走車の左右方向の位置に対するハイビーム配光パターンの制御は、グレアの低減よりもハイビーム配光パターンによる照射の維持が優先され、前走車の上下方向の位置に対するハイビーム配光パターンの制御は、グレアの低減が優先される。
上述の構成を制御方法としてとらえると、本実施の形態に係る車両用前照灯装置の制御方法は、自車両より前方を走行する前走車の存在領域を定めるステップと、ハイビーム配光パターンのうち非照射状態とすることができる遮光領域(遮光部)と存在領域とを比較するステップと、ハイビーム配光パターンのうち遮光領域以外の領域と存在領域とに重複がある場合、ハイビーム配光パターンが形成されないように前照灯ユニットを制御するステップと、を含んでいる。存在領域を定めるステップは、自車両から見て前走車が含まれる基準範囲よりも所定の角度だけ広がった補正範囲に基づいて存在領域を決定している。
例えば、非照射状態にすることが可能な遮光領域の境界と存在領域の境界とが近い場合、前走車の位置情報の検出誤差や前照灯ユニットの各部品の公差によるハイビーム配光パターンのバラツキによっては、本来ハイビーム配光パターンが到達しないはずの前走車がハイビーム配光パターンにより照射される可能性がある。そこで、この制御方法によると、自車両から見て前走車が含まれる基準範囲よりも所定の角度だけ広がった補正範囲に基づいて広めに存在領域が決定されるので、前走車に対するグレアをより確実に防止することができる。
図12は、前走車との距離rと左右余裕角αmおよび上下余裕角βmとの関係を示す図である。図12に示すように、左右余裕角αmおよび上下余裕角βmの値は一定ではなく、前走車との距離rに応じて変化し、前走車が遠方であるほど小さな値となるように設定されている。この理由は、前走車が遠方に位置するほど自車から見た像(面積)は小さくなるため、これに応じて余裕角も小さくすることで遮光ハイビームで走行可能な状況を多くすることができ、自車の遠方視認性の向上と前走車に与えるグレアの低減を両立できるからである。
このように、前照灯制御部22は、自車両と前走車との距離に応じて算出された上下余裕角βmを用いている。これにより、例えば、前走車がより遠方であれば、距離に応じて上下余裕角βmを小さくしても、前走車の上下方向の一部分がはみ出さないような存在領域を決定することができる。反対に、前走車がより近接していれば、距離に応じて上下余裕角βmを大きくすることで、前走車の上下方向の一部分がはみ出さないような存在領域を決定することができる。したがって、上下余裕角βmが固定の場合と比較して、前走車に与えるグレアの低減と視認性の向上をより高いレベルで両立することができる。
同様に、前照灯制御部22は、自車両と前走車との距離に応じて算出された左右余裕角αmを用いている。これにより、例えば、前走車がより遠方であれば、距離に応じて左右余裕角αmを小さくしても、前走車の水平方向の一部分がはみ出さないような存在領域を決定することができる。反対に、前走車がより近接していれば、距離に応じて左右余裕角αmを大きくすることで、前走車の水平方向の一部分がはみ出さないような存在領域を決定することができる。したがって、左右余裕角αmが固定の場合と比較して、前走車に与えるグレアの低減と視認性の向上をより高いレベルで両立することができる。
なお、前述の基準範囲は、前走車のすべてを包含する多角形として一意に定められている。これにより、簡便にかつ再現性よく基準範囲が定められる。
(存在領域に基づく照射モード決定フロー)
図13は、前走車の存在領域に基づく照射モードの決定方法を示すフローチャートである。このフローは、ランプモード切替スイッチ16により「自動調整モード(遮光ハイビームモード)」が選択されている際に所定のタイミングで繰り返し実行される。所定のタイミングとしては、例えば、前走車検出手段24により計測領域に前走車を検出した場合に開始することが考えられる。以下、前照灯制御部22における処理について説明する。
はじめに、前照灯制御部22は、ランプ(照射)モードを示すFLAGを0にリセットすると同時に、右側存在角αEXRを+∞、左側存在角αEXL及び存在範囲βEXを−∞に設定する(S10)。ここで、±∞は、前照灯制御部22で変数として扱える最大値及び最小値であればよい。
次に、前走車検出手段24から取得した情報に基づいて検出された位置Pnにある前走車nが先行車か否かが判定される(S12)。後述するが、前走車が複数台検出された場合は、この処理が台数分繰り返される。前走車nが対向車の場合(S12のNo)、図9(c)に示す関数を用いて相対速度vから第3の閾値(閾値3)が求められる(S14)。前走車nまでの距離rnが第3の閾値±δよりも小さい場合(S16のYes)、ハイビームで走行するには自車と前走車nとが近すぎるため、照射モードFLAGにロービームを示す値が設定され(S18)、この処理が一度終了する。
一方、前走車nまでの距離rnが第3の閾値±δ以上の場合(S16のNo)、前走車nまでの距離rnと(Rn×第4の閾値(閾値4))±δとが比較される(S20)。Rnは、自車と前走車との対向角ωに応じて算出される補正係数である。距離rnが(Rn×第4の閾値)±δより大きい場合(S20のYes)、ステップS22に移行する。距離rnが(Rn×第4の閾値)±δ未満の場合(S20のNo)、図12に示す関数を用いて距離rnから左右余裕角αmが算出される(S24)。
次に、前走車nの位置Pnを示すパラメータの一つである左右方向角αnから左右余裕角αmを引いた値がそれまでに設定されている左側存在角αEXLより小さいか否か、つまり前走車nが自車の光軸方向から最も左側に離れた位置に存在しているか否かが判定される(S26)。(αn−αm)<αEXLの場合(S26のYes)、前走車nは最も左側に位置していると判定され、αEXL=αn−αmが新たに左側存在角αEXLの値として記憶される(S28)。
(αn−αm)<αEXLでない場合(S26のNo)、左右方向角αnに左右余裕角αmを足した値がそれまでに設定されている右側存在角αEXRより大きいか否か、つまり前走車nが自車の光軸方向から最も右側に離れた位置に存在しているか否かが判定される(S30)。(αn+αm)>αEXRの場合(S30のYes)、前走車nは最も右側に位置していると判定され、αEXR=αn+αmが新たに左側存在角αEXRの値として記憶される(S32)。
(αn+αm)>αEXRでない場合(S30のNo)、前走車nの位置Pnを示すパラメータの一つである上下方向角βnに上下余裕角βmを足した値がそれまでに設定されている存在範囲βEXより大きいか否か、つまり前走車nが自車の光軸方向から最も上側に離れた位置に存在しているか否かが判定される(S34)。(βn+βm)>βEXの場合(S34のYes)、前走車nは最も上側に位置していると判定され、βEX=βn+βmが新たに存在範囲βEXの値として記憶される(S36)。(βn+βm)>βEXでない場合(S34のNo)、ステップS22に移行する。
次に、前走車nが先行車の場合(S12のYes)、図9(c)に示す関数を用いて相対速度vから第1の閾値(閾値1)が求められる(S38)。前走車nまでの距離rnが第1の閾値±δよりも小さい場合(S40のYes)、ハイビームで走行するには自車と前走車nとが近すぎるため、照射モードFLAGにロービームを示す値が設定され(S18)、この処理が一度終了する。
一方、前走車nまでの距離rnが第1の閾値±δ以上の場合(S40のNo)、前走車nまでの距離rnと(Rn×第2の閾値(閾値2))±δとが比較される(S42)。距離rnが(Rn×第2の閾値)±δより大きい場合(S42のYes)、ステップS22に移行する。距離rnが(Rn×第2の閾値)±δ未満の場合(S42のNo)、図12に示す関数を用いて距離rnから左右余裕角αmが算出される(S24)。以下、ステップS26〜S36までの処理は前走車nが対向車の場合と同様である。
以上の処理を、検出した前走車の数Nだけ繰り返したか否かを判定し(S22)、繰り返していない場合(S22のNo)、再度ステップS12〜S42の処理が適宜実行される。一方、検出した前走車の数NだけステップS12〜S42の処理が繰り返された場合(S22のYes)、左側存在角αEXLが初期設定値である−∞と同じであるか否かが判定される(S44)。
αEXL=−∞の場合(S44のYes)、存在領域の決定に寄与する前走車がなかったことを示す。例えば、検出された前走車が第2の閾値より遠方の先行車や第4の閾値より遠方の対向車であった場合などである。このような場合、通常ハイビームによる走行を続けても前走車にグレアを与える可能性が少ないため、照射モードFLAGに通常ハイビームを示す値が設定され(S46)、この処理が一度終了する。αEXL=−∞でない場合(S44のNo)、遮光ハイビームにより遮光すべき前走車が存在し、通常ハイビームによる走行を続けると前走車にグレアを与える可能性があるため、照射モードFLAGに遮光ハイビームを示す値が設定され(S48)、この処理が一度終了する。なお、図13のフローチャートに示す処理を実行中に矛盾が生じるような場合には、ロービームに強制的に切り替えるフェール動作を盛り込んでもよい。
上述のように、前走車nの位置Pnの左右方向の存在範囲は自車光軸方向に対して(αn−αm)から(αn+αm)で囲まれる範囲となる。そして、前走車が複数の場合、各前走車の存在範囲を重ね合わせて得られる全存在範囲の最小値を左側存在角αEXL、最大値を右側存在角αEXRとし、最終的に存在範囲αEX=αEXR−αEXLが求められる。
同様に、上述の処理において前走車の上下方向の存在範囲βEXについても求められているが、H−H線(水平線)より下方に位置している前走車を含めずに存在範囲を決定している。水平線より下方に位置している前走車の場合、ハイビーム配光パターンの形成の有無にかかわらずロービーム配光パターンにより照射されている。そこで、水平線より下方に位置している前走車を含めずに存在領域を決定することで、前走車がハイビーム配光パターンの照射範囲に含まれている状況であってもハイビーム配光パターンを形成した走行が可能となる。
これらの事情を踏まえ、本実施の形態に係る前照灯制御部22は、自車両から見て水平線より上方に位置していない前走車を含めずに存在領域を決定し、存在領域の全部が例えば遮光領域に含まれる場合には、遮光領域を非照射状態にするよう前照灯ユニット20を制御し、存在領域の少なくとも一部が遮光領域以外のハイビーム配光パターンの領域に含まれる場合には、ハイビーム配光パターン自体が形成されないように、つまりロービームで照射されるように前照灯ユニット20を制御する。
上述の構成を制御方法としてとらえると、本実施の形態に係る車両用前照灯装置の制御方法は、自車両より前方を走行する前走車の存在領域を定めるステップと、ハイビーム配光パターンのうち非照射状態とすることができる遮光領域(遮光部)と存在領域とを比較するステップと、ハイビーム配光パターンのうち遮光領域以外の領域と存在領域とに重複がある場合、ハイビーム配光パターンが形成されないように前照灯ユニットを制御するステップと、を含む。存在領域を定めるステップは、自車両から見て上下方向の所定の範囲に位置しない前走車を含めずに存在領域を決定する。
この制御方法によると、自車両から見て上下方向の所定の範囲に位置していない前走車を含めずに存在領域を決定するため、ハイビーム配光パターンによるグレアの影響が少ない上下方向の位置に前走車が存在する場合にはハイビーム配光パターンによる照射を維持することができ、結果的により多くの状況でハイビーム配光パターンを形成した走行が可能となる。
(スイブル可能な灯具ユニット)
以下では、ハイビーム用灯具ユニットがスイブル可能な構成の場合における遮光ハイビームの制御について説明する。灯具ユニットがスイブル可能に構成されていることで、遮光部の中心位置を移動できない場合であっても、遮光ハイビームによる走行が可能な状況を増やすことができる。図14(a)は、車両が曲路を走行中に光軸がスイブルした状況(スイブル角の補正なし)における存在範囲と遮光範囲との関係を上方から見た際の図である。図14(b)は、車両が曲路を走行中に光軸がスイブルした状況(スイブル角の補正あり)における存在範囲と遮光範囲との関係を上方から見た際の図である。
図14(a)では、自車が曲路走行中であり、光軸がスイブル角θだけスイブルしている際に、前走車が存在する存在範囲αEX全てを遮光できないために遮光ハイビームによる走行ができずにロービームで走行しなければならない状況を示した図である。これに対して、図14(b)では、車両用前照灯装置が、通常のスイブル角θに補正角θrを加えた角度でスイブルしており、存在範囲αEXの全てが遮光範囲αBに含まれるため、遮光ハイビームによる走行が可能となる。なお、このようなスイブル角の補正が可能なスイブル機能を利用することで、自車が曲路走行中の場合だけでなく、直進中であっても遮光ハイビームによる走行が可能な状況を増やすことができる。
ところで、本来、スイブル角θは、曲路での前方視界確保を目的としており、そのために最適化されている。そのような設定のスイブル角θを遮光ハイビームによる走行を優先させるためにむやみに補正することは必ずしも好ましいこととはいえない。一般的に、スイブル可能な最大角度は、灯具ユニットの構造にもよるが±20°程度である。例えば、自車が右カーブを通常ハイビームで走行中で光軸が右に20°スイブルしている場合に、左遠方に車両が現れたからといって遮光ハイビームに切り替えて光軸を左側にスイブルし直しては遠方視認距離が低下してしまう。特に、スイブル角が大きくなる曲率の大きな急カーブであるほど、自車に近い箇所を注視しながら運転するため、前述のような制御は好ましくない。
そこで、このような現象を防止しつつ、遮光ハイビームでの走行が可能な状況を増やすための方法について説明する。図15は、スイブル角と最大補正角との関係を示した図である。図15に示すように、遮光ハイビームを実現するための補正角θrの上限を最大補正角θr−maxとし、スイブル角が大きいほど最大補正角θr−maxが小さくなるような関数が設定されている。補正角θrは、最大補正角θr−maxの範囲で最適値(遮光ハイビームによる走行が可能な最小の補正角)が設定される。
(遮光ハイビームモードにおける基本制御方法)
図16は、上空及び側面から見た場合の自車と前走車との位置関係および各領域の関係を模式的に示した図である。本実施の形態の基本的な制御思想は、計測領域内の前走車存在領域を遮光領域に内包できる期間は遮光ハイビーム状態を維持するように制御する点である。
つまり、本実施の形態で説明される発明を車両用前照灯装置の制御方法としてとらえると、この方法は、自車両より前方を走行する前走車が存在する存在領域とハイビーム配光パターンの一部に形成可能な遮光領域(非照射領域)とを比較し、存在領域の全部が遮光領域に含まれる場合には、遮光領域が形成されているハイビーム配光パターンを形成するように前照灯ユニットを制御するとともに、存在領域の少なくとも一部が遮光領域以外のハイビーム配光パターンの領域に含まれる場合には、ハイビーム配光パターンが形成されないように前照灯ユニットを制御する。
また、車両用前照灯装置12が光軸をスイブル可能な構造や遮光領域を可変できるような構造を有している場合、前照灯制御部22は、最小の遮光領域で存在領域を内包するようにスイブル量(スイブル角θ+補正角θr)や遮光領域を可変制御することができる。その結果、前走車に与えるグレアの低減と視認性の向上が高いレベルで両立される。
図17は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置12における、ロービーム(Loビーム)、遮光ハイビーム(遮光Hiビーム)、通常ハイビーム(Hiビーム)の配光パターンを模式的に示した図である。図18は、本実施の形態に係る遮光ハイビームモードにおける前照灯ユニットの制御方法を示すフローチャートである。
ランプモード切替スイッチ16により遮光ハイビームモードが選択されると、前走車の計測等を行うための初期設定が行われ(S50)、計測制御が実行されるか否かが判定される(S52)。なお、遮光ハイビームモードにおける配光パターンの切替は、車両に設けられた「制御OFFスイッチ」がオンであったり、運転者の意志で切替操作が行われたりした場合、スイッチ等の信号状態や操作内容を優先しロービームモードまたは通常ハイビームモードに切り替えられる。
計測制御が実行されない場合(S52のNo)、予め設定されている処理によりロービームまたは通常ハイビームによる照射に切り替えられる(S54)。計測制御が実行された場合(S52のYes)、図13に示すような方法で存在領域が算出され、その存在領域に応じた照射モードFLAGが設定される(S56)。計測では、自車両に搭載されたカメラやレーダ装置の情報、車同士の通信や道路に設置された各種装置と車との通信に含まれる各車両に搭載されたGPS装置からの位置情報、道路に設置された車両検出装置などのインフラ情報に含まれる位置情報などに基づき、自車前方の車両の位置と距離から存在範囲が求められる。上述の処理では、計測が正常に行われない場合にはロービームモードに切り替える等のフェール制御を含ませてもよい。
照射モードFLAGにロービームを示す値が設定されている場合(S58のYes)、ロービームモードによる照射に切り替えられる(S60)。照射モードFLAGにロービームを示す値が設定されていない場合(S58のNo)、照射モードFLAGに通常ハイビームを示す値が設定されているか否かが判定される(S62)。照射モードFLAGに通常ハイビームを示す値が設定されている場合(S62のYes)、通常ハイビームモードによる照射に切り替えられる(S64)。照射モードFLAGに通常ハイビームを示す値が設定されていない場合(S62のNo)、照射モードFLAGには遮光ハイビームモードを示す値が設定されていることになる。
そこで、前照灯制御部22は、算出された存在領域に含まれる前走車にグレアを与えないように遮光領域を形成することができるか否かを判定する(S66)。この際、前照灯ユニットの構造や機能によって遮光範囲を変化させることができたり、スイブル角の補正ができたりする場合は、そのような条件も加味して存在領域を遮光できるか否かが判定される。遮光領域を変化させたり光軸をスイブルさせたりしても存在領域を遮光できない場合(S66のNo)、前走車にグレアを与えないようにロービームモードによる照射に切り替えられる(S68)。存在領域を遮光できる場合(S66のYes)、遮光ハイビームモードによる照射に切り替えられ(S70)、前走車にグレアを与えずに視認性の向上も図られる。
遮光領域の形状を変化させることができる前照灯ユニットを備える車両用前照灯装置の場合、最小の遮光領域で存在領域を内包するように遮光領域の形状を制御するとよい。これにより自車の遠方視認性向上と前走車の運転者に与えるグレアの低減がより高いレベルで両立される。また、スイブル可能な前照灯ユニットを備える車両用前照灯装置の場合、最小の光軸移動量で遮光領域が存在領域を内包するようにスイブル角を制御するとよい。これにより、前方視界の低下を招くことのない範囲でスイブル機能を利用して遮光ハイビームモードでの走行期間の拡大が図られる。また、遮光領域の形状を変化させることができ、かつ、スイブル可能な前照灯ユニットを備える車両用前照灯装置の場合、スイブル角の補正最大角の範囲内において、最小の遮光領域で存在領域を内包するように遮光領域の形状を可変制御するとよい。
上述のように、制御に必要な各数値の定義、基本的な制御方法について説明した。以下では、遮光ハイビームモードの実施例を具体的に説明する。図19は、遮光ハイビームの配光パターンと遮光部の構成との組合せを例示した表である。
[実施例1]
本実施例に係る前照灯ユニットは、ハイビーム配光パターンの内部の領域に遮光部(矩形または円形)が形成されるように構成され、かつ、スイブル機能が設けられている。図20(a)は、実施例1に係る車両用前照灯装置を備えた自車が直線路を走行中に前走車を照射している状態を示す模式図である。図20(b)は、実施例1に係る車両用前照灯装置を備えた自車が曲路を走行中に前走車を照射している状態を示す模式図である。図21(a)は、図20(a)に示す状況において自車から見た遮光範囲をスクリーン上に置き換えた図である。図21(b)は、図20(a)に示す状況において自車から見た存在範囲をスクリーン上に置き換えた図である。
本実施例に係る車両用前照灯装置を備えた車両は、図20(a)に示すような直線路において、遮光範囲内に前走車の存在範囲を内包できる期間は遮光ハイビームモードで走行する。また、本実施例に係る車両用前照灯装置を備えた車両は、図20(b)に示すような曲路等において、そのままでは存在範囲を内包できないよう場合であっても光軸をスイブルすることで内包可能な場合にはスイブル制御を行い、可能な限り遮光ハイビームモードで走行する。
ここで、遮光範囲は、遮光範囲αBおよび遮光範囲βBで表され、遮光領域(αB、βB)が形成される。同様に、存在範囲は、存在範囲αEXおよび存在範囲βEXで表され、存在領域(αEX、βEX)が形成される。遮光範囲αBおよび存在範囲αEXは、
αB=αBR−αBL
αEX=αEXR−αEXL
で表される。
そして、図13に示す処理により求められた右側存在角αEXR、左側存在角αEXL、存在範囲βEXの値と、遮光範囲との大小を比較することで、遮光可能か否かが判定される。なお、本実施例では、前述の遮光範囲と存在範囲との比較だけでなく、図13に示すフローチャートに示されている各閾値により判別される前走車との距離も考慮されて照射モードが選択される。図22は、実施例1における制御条件の詳細を示した表である。
スイブル機能を有する車両用前照灯装置は、図15に示す、スイブル角θを変数とする関数f4から決定される最大補正角θr−maxを超えない範囲で補正角θrを設定する。そして、補正角θrだけ光軸のスイブル角θを増減することで、遮光範囲に存在範囲を含ませることができるか否かを判定する。そして、前照灯制御部22は、遮光範囲に存在範囲を内包させられない場合はロービームモードに、遮光範囲に存在範囲を内包させられる場合は補正角θrだけ光軸をスイブルして遮光ハイビームに切り替える。この際、前照灯制御部22は、補正角θrの絶対値が最小の値となるように、すなわち、補正によるスイブル量が最小の角度となるように光軸の動きを制御する。なお、スイブル角を補正することなく遮光範囲に存在範囲を内包させられる場合には、補正のためのスイブルは行わない。
なお、補正角θr分だけ光軸を補正する場合、補正後の光軸に合わせ計測領域も設定される。しかしながら、補正角θrはあくまでも走行中の道路の曲率等から求められるスイブル角θに対するものであり、補正後の光軸をスイブル角θとして、その上で更に補正角を求めるような制御は行わない。これにより、補正後の光軸方向の角度に補正角が加わり、際限なく光軸がずれてしまうというような事態が回避される。
[実施例2]
本実施例に係る前照灯ユニットは、ハイビーム配光パターンのH−H線上方の中央部の領域に遮光部(凹部)が形成されるように、かつ、遮光部の形状を変化させられるように構成されている。図23は、実施例2に係る車両用前照灯装置を備えた自車が直線路を走行中に前走車を照射している状態を示す模式図である。図24(a)は、図23に示す状況において自車から見た遮光可能な範囲をスクリーン上に置き換えた図である。図24(b)は、図23に示す状況において自車から見た存在範囲をスクリーン上に置き換えた図である。
本実施例に係る車両用前照灯装置を備えた車両は、図23に示すような直線路において、遮光可能な範囲内に前走車の存在範囲を内包できる期間内では、存在範囲の変化に遮光範囲を追従させながら、可能な限り遮光ハイビームモードで走行する。
ここで、存在範囲は、存在範囲αEXおよび存在範囲βEXで表され、存在領域(αEX、βEX)が形成される。しかし、遮光範囲は、ハイビーム配光パターンにおけるH−H線上方を左右に分割するよう存在するため、上下方向を示す遮光範囲βBは設定されておらず、遮光範囲αBで遮光領域(αB、−)が形成される。遮光範囲αBおよび存在範囲αEXは、
αB=αBR−αBL
αEX=αEXR−αEXL
で表される。
また、本実施例では、遮光範囲を変化させることが可能なため、その可変遮光範囲αLMTは、
αLMT=αBRLMT−αBLLMT
で表される。
そして、図13に示す処理により求められた前走車の存在範囲が、可変遮光範囲(αBLLMT≦αBL、かつ、αBR≦αBRLMT)に内包される期間は、遮光範囲を存在範囲に一致させるよう遮光範囲が可変制御され、遮光ハイビームモードによる走行が継続される。なお、本実施例では、前述の可変遮光範囲と存在範囲との比較だけでなく、図13に示すフローチャートに示されている各閾値により判別される前走車との距離も考慮されて照射モードが選択される。図25は、実施例2における制御条件の詳細を示した表である。
上述の実施の形態や実施例で例示されている車両用前照灯装置は、換言すれば以下のようにもとらえられる。
本実施の形態に係る車両用前照灯装置において、前照灯制御部22は、前走車が複数の場合であっても、それら複数の前走車を含む単一の存在領域を定める手段と、定められた単一の存在領域が一部の領域に含まれる場合、一部の領域を非照射状態にする手段と、を含む。これにより、複数の前走車を含む単一の存在領域の全部が、ハイビーム配光パターンのうち非照射状態にすることが可能な一部の領域に含まれる場合には、その一部の領域を非照射状態にすることで前走車に与えるグレアを低減することができる。また、前走車が複数の場合であっても単一の存在領域が定められるため、ハイビーム配光パターンのうち非照射状態にすることが可能な一部の領域との比較が一度で済む。そのため、前照灯制御部22における処理の負担が軽減される。
なお、本実施の形態の説明における遮光「範囲」と遮光「領域」、存在「領域」と存在「範囲」との関係は、3次元の「領域」をスクリーン上に投影した「範囲」と考えれば、互いに変換可能な関係を有するパラメータとしてとらえることができる。
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。