JP2013094784A - 潤滑性と脱脂性に優れる鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】広い範囲の表面粗さにおいて優れた潤滑性を発揮し、かつ、脱脂性にも優れる潤滑剤を塗布したて加工性と脱脂性に優れる鋼板を提供する。
【解決手段】表面粗さが算術平均粗さRaで0.10〜2.00μmで、表面に水溶性潤滑油を塗布乾燥した後の固形油脂分の厚さが0.2〜1.5μmであり、バウデン式動摩擦試験機で測定した動摩擦係数が0.15未満である鋼板であり、当該鋼板は、ステンレス鋼板または耐熱鋼板であることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、潤滑性に優れ、しかも、加工後の脱脂性にも優れる潤滑皮膜を有し、厳しい加工を受ける用途に用いて好適なステンレス鋼板および耐熱鋼板に関するものである。
SUS429、SUS430LX等のフェライト系ステンレス鋼板や、SUH409L等の耐熱鋼板は、プレス加工で深絞り成形や張出し成形等の厳しい加工を受ける用途に用いられることがある。また、それらの鋼板は、近年、加工部材の軽量化や素材コストの削減等を目的として、板厚の薄肉化が進行している。そのため、上記用途に用いられる鋼板には、従来にも増して、加工性に優れることが求められるようになってきている。
上記のような厳しい加工を受ける用途に用いられる鋼板には、金型との間の摩擦係数が少なく、型かじりや焼き付きが起き難いことが要求され、そのための潤滑剤が種々開発されている。また、上記潤滑剤の効果は、塗布する潤滑剤の厚さ(量)の他に、鋼板の表面粗さによっても大きく影響されるため、加工用途に応じてそれらの値を適性範囲に制御する必要があることが知られている。
上記潤滑剤としては、一般に防錆油を兼ねたものが用いられているが、鋼板を加工する際、鋼板表面に塗布された防錆油が加工ラインに付着したり、周囲に飛散して、作業環境を悪化させたりするという問題がある。また、加工後の部材は、その後の塗装やめっき処理等のために、上記防錆油を除去する脱脂処理を施す必要がある。そのため、上記防錆油には、潤滑性に優れることの他に、脱脂性に優れること、あるいは、脱脂をすることなくそのまま使用できることが望まれている。
そこで、厳しい加工でも優れた潤滑性を有する鋼板として、特許文献1には、表面粗度がRaで0.20〜0.80μmの鋼板表面に、水溶性の潤滑油を鋼板表面に塗布乾燥させて固形油脂分を0.03〜0.15g/m付着させることによって、摩擦係数を低減した鋼板が、開示されている。また、特許文献2には、Ra≦0.4μmまたはRz≦4μmである鋼板の表面に、高粘度の潤滑油を1g/m以上塗布する、または、0.1μm以上の厚さの樹脂系もしくはワックス系の固形潤滑被膜を形成することで、プレス成形性を改善した鋼板が開示されている。
特開2007−296570号公報 特開平07−032056号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載された加工性とは、ゲージロール成形や板巻加工のことであり、金型との接触面に加わる圧力が、深絞り成形等と比較して格段に小さい加工を対象としている。そのため、特許文献1の技術を適用しても、深絞り成形等の厳しい加工に十分な効果が得られるとは限らない。また、特許文献1や特許文献2に記載された技術では、加工性の改善のみに主眼がおかれ、脱脂性についての十分な検討がなされていない。
また、鋼板の表面粗さは、加工性を確保する観点からは、適正範囲に制御することが好ましいが、加工する製品によっては、加工後の鋼板表面がそのまま製品表面となり、しかも、その表面粗さが上記適正範囲外であることがあり、斯かる場合には、上記特許文献の技術を適用することができない。したがって、鋼板の表面粗さに影響されることなく、広い範囲の表面粗さにおいて潤滑性に優れることが望ましい。
本発明は、上記の従来技術が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、広い範囲の表面粗さにおいて優れた潤滑性を発揮し、かつ、脱脂性にも優れる潤滑剤を塗布した加工性と脱脂性に優れる鋼板を提供することにある。
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた。その結果、潤滑剤として水溶性のものを用い、その潤滑材を鋼板表面に塗布・乾燥させた後の固形油脂分を所定量以上確保することにより、鋼板表面粗さの広い範囲にわたって優れた加工性を発現することができることを見出し、本発明を開発するに至った。
すなわち、本発明は、表面粗さが算術平均粗さRaで0.10〜2.00μmで、表面に水溶性潤滑油を塗布乾燥した後の固形油脂分の厚さが0.2〜1.5μmであり、バウデン式動摩擦試験機で測定した動摩擦係数が0.15未満であることを特徴とする鋼板である。
本発明における上記鋼板は、ステンレス鋼板または耐熱鋼板であることを特徴とする。
本発明によれば、ステンレス鋼板や耐熱鋼板を、プレス油等の潤滑油を塗布することなく、絞り加工等の厳しい加工が可能となるので、生産性の向上や不良率の低減に大きく寄与する。また、本発明で用いる潤滑剤は、水溶性で、脱脂性に優れているので、生産性の向上、作業環境の改善のみならず、製造コストの低減にも大きく寄与する。
摩擦係数を測定するバウデン試験機を説明する図である。
以下、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。
まず、本発明の鋼板は、その表面粗さが、JIS B0601(2001)に規定される算術平均粗さRaで0.10〜2.00μmの範囲のものであることが必要である。表面粗さがRaで0.10μm未満の鋼板は、冷間圧延や調質圧延におけるロール粗度を、特別に管理して製造する必要があること、また、斯かる表面粗さの鋼板は、一般に表面の美麗さが要求される用途に用いられるもので、通常、深絞り用途には用いられないからである。また、表面粗さが小さいと、加工時に型かじりが発生し易くなる。一方、Raが2.00μmを超える表面粗さも、やはり、通常の製造方法で得られる粗度範囲を超えており、特別な粗度のロールを用いて調質圧延するか、酸洗等で表面を荒らす工程が必要となり、生産性に劣ることから好ましくない。
なお、本発明においては、鋼板の表面粗さが小さくても潤滑向上効果を得られるが、表面粗度が小さいと、潤滑剤を保持する効果も小さくなるので、表面の美麗さを要求されない限り、ある程度の大きさの表面粗さを有することが好ましく、この観点からは、表面粗さはRa:0.80μm超えであることが好ましく、1.00μm以上であることがより好ましい。
また、本発明で用いる潤滑剤は、水溶性であることが必要である。水溶性であれば、過度のアルカリ脱脂や有機溶剤脱脂等を用いることなく、軽度のアルカリ脱脂や水洗で潤滑材を除去することができるからである。上記潤滑剤としては、特に限定するものではないが、例えば、水溶性エステル樹脂:15〜20mass%、グリコールエーテル系溶剤:3〜5mass%、ポリエチレンワックス:5mass%以下、残部:水からなる潤滑剤等を好適に用いることができる。
また、上記潤滑剤を鋼板表面に塗布する厚さ(量)は、塗布・乾燥後の固形油脂分の厚さで0.2〜1.5μmの範囲に制御する必要がある。固形油脂分の厚さが0.2μm未満では、潤滑剤の量が少な過ぎて潤滑効果が十分に得られない。一方、1.5μmを超えると、潤滑剤の効果が飽和してしまうからである。好ましくは、0.4〜1.2μmの範囲である。
なお、上記潤滑剤を塗布する方法は、ロールコート方式やスプレー方式、フローコート方式等いずれの方法を用いてもよく、特に制限はない。
また、上記潤滑剤を塗布した鋼板は、厳しい加工においても優れた潤滑効果を発揮するためには、バウデン式動摩擦試験機(以下、「バウデン試験機」ともいう)で測定した動摩擦係数が0.15未満であることが必要である。好ましくは0.10以下である。このような低い動摩擦係数は、上述した水溶性の潤滑剤を塗布・乾燥後の固形油脂分の厚さが0.2μm以上となるよう塗布することにより得ることができる。ただし、表面粗さがRaで0.10μm未満となると、鋼板と金型との接触圧によって潤滑剤が膜切れを起こし、一方、表面粗さがRaで2.00μmを超えると、固形油脂分を塗布しても、潤滑剤が鋼板表面の凹部に入り込んで、凸部の潤滑効果が得られなくなり、摩擦係数が上昇する。
ここで、上記動摩擦係数の測定方法は、バウデン試験機を用いた動摩擦係数であることが必要である。というのは、バウデン試験は、平板と球形の接触子との間の動摩擦係数を測定することができるため、鋼板が金型と点接触するような厳しい条件における動摩擦係数を測定することができるからである。
なお、本発明は、主にSUS429、SUS430LX等のフェライト系ステンレス鋼板や、SUH409L等の耐熱鋼板を対象としている。ただし、SPCC〜SPCENクラスの一般冷延鋼板や、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼板に適用しても、加工性を改善することができる。
JIS G4312規定のSUH409Lの鋼素材を熱間圧延し、冷間圧延して板厚:0.8mmの冷延板とし、仕上焼鈍した後、調質圧延におけるロール粗度を変えることで、表1に示したように、鋼板の表面粗さRaを0.07〜2.40μmの範囲で変化させた。
次いで、上記鋼板表面から試験片を採取し、その表面に、先述した水溶性エステル樹脂:15〜20mass%、グリコールエーテル系溶剤:3〜5mass%、ポリエチレンワックス:5mass%以下、残部:水からなる潤滑剤の塗布量を種々に変えて塗布し、乾燥して固形油脂分の厚さを0.1〜1.7μmの範囲で変化させ、摩擦係数測定用の試験片と、加工性評価用試験片を作製し、以下の評価試験に供した。
<摩擦係数の測定>
摩擦係数は、図1に示したようなバウデン試験機を用い、19.6Nの荷重を負荷したSUS−2製(10mmφ)の鋼球を、滑り速度:4mm/minで、試験片上の26mmの距離を50回往復して摺動させ、その際に測定された最大摩擦係数を、その鋼板が有する動摩擦係数と評価した。
<加工性の評価>
JIS Z2247(1998)に準拠してエリクセン試験を実施し、割れが生じたときの成形高さを測定した。その結果、エリクセン値が12.0mm以上を加工性優(○)、10mm以上12.0mm未満を加工性良(△)、10.0mm未満を加工性劣(×)と評価し、良以上を合格範囲とした。
<脱脂性の評価>
アルカリ洗浄液ホメザリン(花王(株)製)を濃度:5mass%、液温:20℃に調整した洗浄液を用意し、この溶液中に試験片を10秒間浸漬して脱脂した後、洗浄水中に浸漬して5秒間水洗し、その後、試験片を引き上げ、鋼板表面の水濡れ面積を目視観察し、以下の基準で脱脂性を評価し、良以上を合格範囲とした。
(脱脂性の評価基準)
・水濡れ面積が95%以上:脱脂性優(○)
・水濡れ面積が90%以上95%未満:脱脂性良(△)
・水濡れ面積が90%未満:脱脂性劣(×)
Figure 2013094784
上記評価試験の結果を、表1中に併記した。この結果から、本発明の条件に適合する発明例の鋼板は、加工性と脱脂性が共に優れていることがわかる。

Claims (2)

  1. 表面粗さが算術平均粗さRaで0.10〜2.00μmで、表面に水溶性潤滑油を塗布乾燥した後の固形油脂分の厚さが0.2〜1.5μmであり、バウデン式動摩擦試験機で測定した動摩擦係数が0.15未満であることを特徴とする鋼板。
  2. 上記鋼板は、ステンレス鋼板または耐熱鋼板であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
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