JP2013093019A - 医療意思決定支援データベースおよび医療意思決定支援方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】上記データベースは、病名コードおよび検査コードを主キーとしてAUCおよび最適カットオフ値を管理する検査診断能テーブルと、病名コード、検査コードおよびカットオフ値を主キーとして陽性尤度比または陰性尤度比を管理し且つ前記検査診断能テーブルにカットオフ値ごとに多値従属するする診断特性テーブルと、を有する医療意思決定支援データベースであって、前記検査診断能テーブルおよび診断特性テーブルが、病歴テーブルに記録された病名コードと、検査結果テーブルに記録された検査結果と、の組み合わせのすべてについてROC解析を行って得られたものであることを特徴とする。
【選択図】図2
Description
しかしながら、例えば救急外来などにおいて、担当医の専門外の症例に対して緊急に対処する必要がある場合には、少ない情報から重要な決断を行わざるを得ない実情がある。このような場面では、診断の誤りおよび漏れのない、意思決定支援が不可欠である。このような医療分野における意思決定支援システムとしては、例えば心電図の自動解析システムなどの極く狭い分野に特化した実施例は存在するものの、総合的な診断支援システムはこれまでに知られていない。
少なくとも病名コードおよび検査コードを主キーとしてAUCおよび最適カットオフ値を管理する検査診断能テーブルと、少なくとも病名コード、検査コードおよびカットオフ値を主キーとして陽性尤度比または陰性尤度比を管理し且つ前記検査診断能テーブルにカットオフ値ごとに多値従属する診断特性テーブルと、を有する医療意思決定支援データベースであって、
前記検査診断能テーブルおよび診断特性テーブルが、
少なくとも患者番号および病歴登録日を主キーとして病名コードを管理する病歴テーブルと、少なくとも患者番号と検査コードと、を主キーとして検査結果を管理し且つ前記病歴テーブルに多値従属する検査結果テーブルと、を用い、前記病歴テーブルに記録された病名コードと、前記検査結果テーブルに記録された検査結果と、の組み合わせのすべてについてROC解析を行って得られたものであることを特徴とする、前記医療意思決定支援データベースによって達成される。
本発明の上記課題は、第2に、
上記の医療意思決定支援データベースを用いて行う医療意思決定支援方法によって達成される。この医療意思決定支援には、例えば確定診断支援、検査項目決定支援、治療イベントの効果確認支援などが含まれる。
さらに本発明は、医学生および研修医などに対する教育用としても極めて好適である。
上記検査診断能テーブルは、ある検査がある疾患(疑い病名)との関係において、該疾患を肯定または否定する確定診断を下すためにどの程度の信頼性を持ったものであるかを示すテーブルであり、検査結果と病名との組み合わせのすべてについてROC(Receiver Operatorating Characteristic、受信者動作特性)解析を行うことにより、1つの組み合わせに対して1テーブルずつが生成される。
この検査診断能テーブルは、少なくとも疾患の名称を示す病名コードおよび検査の名称を示す検査コード(検査項目コード)を主キーとする。感度特異度に直接的に影響を与える患者属性である、例えば性別、年齢(または年代)なども主キーとしてさらに設定してもよい。検査診断能テーブルは、ROC解析におけるAUC(Area Under the Curve、ROC曲線下面積)および最適カットオフ値を管理する。最適カットオフ値とは、ROC解析における感度(真陽性数÷検査陽性数)と特異度(真陰性数÷検査陰性数)との積が最大となるカットオフ値をいう。
この診断特性テーブルは、少なくとも病名コード、検査コードおよび上記等分点に対応するカットオフ値を主キーとし、好ましくは上記検査コードに対応する検査の検体となる材料(血液、尿などの別)を示す材料コードのほか、性別、年齢(または年代)などの患者属性も主キーとして設定してよい。当該検査が当該疾患との関係で、値が高い場合に陽性となる高値陽性事例であるのか、あるいは値が低い場合に陽性となる低値陽性事例であるのかを示す検査値大小の項目をさらに主キーとしてもよい。診断特性テーブルは、少なくとも感度および特異度を管理し、好ましくはさらに陽性尤度比および陰性尤度比を管理する。この陽性尤度比は、ROC解析の感度特異度を用いて下記数式で定義される値である。陽性尤度比は、その数値が高いほどその疾患である確率が高いことを示す。一方、陰性尤度比は、その数値が低いほどその疾患である確率が低く、ゼロに近ければその疾患の可能性を否定することができる指標である。
上記の記検査診断能テーブルおよび診断特性テーブルは、病歴テーブルと検査結果テーブルとを用い、病歴テーブルに記録された病名コードと検査結果テーブルに記録された検査結果との組み合わせのすべてについてROC解析を行うことにより生成することができる。1人の患者について行う検査は同時または近接した日時において複数であることが通常であるから、上記検査結果テーブルは検査項目を示す検査コードごとに病歴テーブルに多値従属する。病歴テーブルに記録された病名コードが複数ある場合には、これらのそれぞれを1要素としてROC解析が行われる。
病歴テーブルおよび検査結果テーブルは、日常の診療記録から生成することができる。電子カルテから下記する必要情報をコード化して各テーブルを生成すればよい。ただし、電子カルテからこれらのテーブルを生成するに際しては、患者のプライバシー保護の観点から、患者の特定を不能とするような措置をとることが好ましい。そのための方法としては、例えば完全ハッシュ関数などを用いて不可逆的な匿名化措置を施すことなどを挙げることができる。このとき、治療イベントの効果を確認するための便宜のためには同一患者内におけるイベントの相対的な時間関係を維持することが好ましい。また、検査結果に直接影響を与える患者属性として、患者の性別、年代、世代などに関する情報は維持することが好ましい。
検査結果テーブルは、上記の病歴テーブルに記載された患者番号によって特定される特定患者について行った個々の検査ごとに多値従属する。つまり、検査結果テーブルは、特定患者に対する個々の検査ごとに1枚ずつ生成されることとなる。検査結果テーブルは、少なくとも患者番号、検査日および検査コードを主キーとし、その他に材料コードも主キーとしてよい。検査結果テーブルは、検査結果を管理する。この検査結果には、数直線上の特定の数値がそのまま記録され、数値そのものが検査結果であるもの;
数直線上の特定の数値以上であること(≧)、特定の数値以下であること(≦)、特定の数値を超えること(>)、または特定の数値未満であること(<)が付された数値データ;
陽性もしくは陰性のいずれであるか、陽性であった場合はその程度が特定の記号で記録される定性検査結果(例えば尿蛋白検査における「−」、「+−」、「+」、「++」、「+++」など);および
日時型のデータなどが包含される。上記数値そのものが検査結果であるものは、当該数値そのものを検査結果として記録することができる。以上(≧)、未満(<)などが付された数値データは、当該数値が陽陰性判断の臨界値となるものであるため、当該数値のみを抽出してそのまま検査結果として記録してよい。定性検査結果については、記号の大小関係に応じた数値を適宜に定義して数値化して記録することが好ましい。日時型のデータは、時間軸の大小関係を考慮して初期値を変換し、複数データの相互比較が可能なように管理することが好ましい。
検査結果テーブルにおいて検査コードおよび場合により材料コードによって特定される個々の検査の詳細は、これらのコードを主キーとする検査項目マスタを参照することによって知ることができる。図12に、検査結果テーブルと検査項目マスタとの関係を説明するER図を示した。
検査診断能テーブルおよび診断特性テーブルを生成するために使用する病歴テーブル(およびこれに従属する検査結果テーブル)は、その数が多いほど得られるデータベースの予測精度が高くなる。従って、1疾患(病名)の陽性事例について、50事例(症例)以上の病歴テーブルを使用することが好ましく、100事例以上の病歴テーブルを使用することがより好ましい。
陰性事例については、例えば定期健康診断のうちの当該疾患を有しない検診者の検査結果を利用することができるほか、何らかの確定病名を有するものであっても当該疾患に陰性である患者の検査結果も陰性事例として採用してよい。従って陰性事例は比較的に対象件数が集まり易い。陰性事例数は、5,000例以上収集することが好ましい。しかしながら陰性事例が過度に多くても本発明の医療意思決定支援データベースの信頼性がさらに向上するものでもないから、陰性事例は件数に上限(例えば10,000件)を設定して、ある件数以下のデータのみを採用することとしてもよい。
事例数が上記の件数に満たない場合には、例えばジャックナイフ法(jack−knife method)、ブートストラップ法(bootstrap method)などのリサンプリング法を適用することができる。つまり、事例(元データ)の中から標本数n個の事例をランダムに復元抽出し、該復元抽出した事例についてROC解析を行う。この復元抽出およびROC解析の操作をN回繰り返し、その平均値を採用することにより、データベースの信頼性を高めることができる。ここで、上記標本数としては、陽性事例について、例えば50〜95例、好ましくは75〜90例;陰性事例について、例えば1,000〜3,500例、好ましくは1,500〜2,500例とすることができる。繰り返し数Nとしては、陽性事例、陰性事例とも、例えば1,000〜3,000回、好ましくは1,500〜2,500回とすることができる。
事例数が上記の上限値よりも多い場合であっても、上記と同様のリサンプリング法を適用することによって、より正確な検査診断特性を与えるデータベースを構築することができる。
上記のROC解析についての説明は、検査結果(検査値)が高い値のときに陽性である場合(高値陽性事例)を例として述べた。高値陽性事例として計算したAUCが0.5を下回った場合には、低値陽性事例として再計算し、AUCを0.5以上としたうえで、診断特性テーブルおよび検査診断能テーブルを生成することが好ましい。低値陽性事例とするには、閾値の大小関係を逆転して再計算すればよい。
この医療意思決定支援データベースは、構築後直ちに運用に供することができる。しかしながら、運用開始後にも、診療記録は日々増加して蓄積されて行く。この新規の記録は、構築済みの医療意思決定支援データベースに取り込むことができ、またそうすることにより、アップデートされた最新の診断基準をデータベースに学習させることができることとなるから、好ましい。この取り込みは、具体的には、例えば以下のようにして行うことができる。
すなわち、新規の診療記録がある一定件数(例えば2,000〜10,000件)に達するごとに、あるいは一定の期間(例えば3か月〜1年)ごとに、新規の診療記録を対象として、全病名と全検査結果との組み合わせのすべてについてROC解析を行い、その解析結果(AUC、最適カットオフ値など)を既存の検査診断能テーブルに書き加えることにより更新する。そして、医療意思決定支援データベースの運用にあたっては、複数回のROC解析の平均値を採用することとすればよい。ここで、例えば全部のROC解析の平均値を採用することができ、あるいは更新回数が十分に多い場合には、最新のものから一定回数前までの更新分(例えば500〜3,000更新分)の平均値または移動平均値を採用してもよい。
以下順次に説明する。
本発明の医療意思決定支援データベースに対して、特定患者に対して行われた検査の検査コードを有する診断特性テーブルのうちから該患者の検査結果をカットオフ値として有する診断特性テーブル(等しい値がない場合には、最も近い値を有するもの)を参照して該診断特性テーブルに記録された陽性尤度比が予め定められた臨界値以上である場合に該診断特性テーブルに記録された病名コード(推定病名)を抽出し、該病名コードを出力するクエリ(query)を与えることにより、確定診断支援を行うことができる。このとき、疑い病名をこれに対応する陽性尤度比とともにリストとして表示することにより、その患者が該疾患の陽性である蓋然性をも同時に知ることができる。
上記陽性尤度比が予め定められた臨界値以上であるとは、当該検査結果が当該疾患に陽性である蓋然性が高いことを担保するための要件であり、例えば5以上に設定することができ、10以上に設定することができる。
検査結果テーブルから、患者を特定する患者番号および検査日を特定する日付指定パラメータを用いて、指定した患者について特定の日に行った特定の検査の結果を抽出する。同時に、検査診断能テーブルを参照して、当該検査によって確定診断を下し得る疑い病名を抽出する。図17の例では、AUC値が0.6を超えるとの条件を病名指定パラメータとして与えると、当該検査診断能テーブルに多値従属する複数の診断特性テーブルを参照して、指定患者の検査結果をカットオフ値とした場合にAUC値が0.6を超える疑い病名(例えば糖尿病)を抽出し、中間出力として出力する。このとき、当該検査の結果の値をカットオフ値として有する診断特性テーブルが存在しない場合には、検査結果に最も近いカットオフ値を有する診断特性テーブルが参照される(列サブクエリ)。図17の中間出力において、カードが2枚あるように描かれているのは、ここで抽出される疑い病名が1つとは限らないことを示している。
次いで、上記で得られた中間出力(疑い病名)につき、指定患者の検査結果(またはこれに最も近い値)をカットオフ値として有する診断特性テーブルを参照して、陽性尤度比および/または陰性尤度比とともに、例えばリストとして出力することができる。
すなわち、疑い病名として抽出された病名コードのうちの1つと、
特定患者に対して行われた複数種の検査のうちのある1つの検査コードと、
を有する診断特性テーブルを参照して該診断特性テーブルに記録された陰性尤度比が予め定められた臨界値未満である場合に、上記抽出された疑い病名を表示しないこととすればよい。
上記陰性尤度比が予め定められた臨界値未満であるとは、当該検査結果が当該疾患に陰性である蓋然性が高いことを担保するための要件であり、例えば1未満に設定することができ、0.5未満に設定することができる。陰性尤度比が前記臨界値未満である場合には、当該病名に陰性である蓋然性が高いから、当該疑い病名を前記リストから削除するのである。
本発明の医療意思決定支援データベースに対して、特定疾患(疑い病名)の病名コードを有する検査診断能テーブルのうちからAUCが予め定められた臨界値以上である検査診断能テーブルを参照し、該検査診断能テーブルに記録された検査コードを抽出し、該検査コードを出力するクエリを与えることにより、検査項目決定支援を行うことができる。前記AUCとともに検査コードを表示することにより、その検査項目が当該疾患の確定診断に役立つ程度を同時に知ることができる。
上記AUCが予め定められた臨界値以上であるとは、当該検査が当該疾患の確定診断に役立つことを担保するための要件であり、例えば0.6以上に設定することができ、0.7以上に設定することができる。
上記の一連の処理を、糖尿病を例として図15に簡略化して示した。これらの処理は、必ずしも時系列に沿って行われるわけではないが、便宜上、以下に時系列的に説明する。
先ず、病名コード指定パラメータによって、糖尿病に関係する検査診断能テーブルを抽出する(通常は複数が抽出される)。次いで、各検査に付随する検査項目マスタおよび各検査にそれぞれ多値従属する診断特性テーブルを参照して、上記の検査診断能テーブルから、患者数(N)が例えば100以上であり、AUCが例えば0.7以上である検査のみをさらに抽出し、陽性尤度比および/または陰性尤度比とともに、例えばAUCの大きい順にリストとして出力する。
ここではじめに行う検査は、例えば一般健康診断で行う定型的な数種の簡易検査程度で足り、そのような場合であっても、ある程度に絞り込まれた疑い病名が出力されるから、上記の方法を組み合わせて使用する方法の利点は大きい。
このような適用により、担当医が専門外の場合であっても適切な診断を行うことができるとともに、検査に伴う患者の身体的、時間的および経済的負担を可及的に軽減することができ、何よりも適切な治療を早期に実施することが可能となる利点がある。
例えば投薬クール(kur)の開始または終了のイベント日を検出して、その前後の陽性尤度比または陰性尤度比を比較することにより、当該投薬治療の効果を知ることができ、治療方法の選択に有用な情報となる。
投薬クールは、一般的に投薬期間および休薬期間を繰り返すサイクルから構成され、各クールの開始日および終了日のそれぞれを投薬イベントとして解析し、評価する必要がある。しかしながら個々の患者の処方歴には、一定期間分、例えば2週間分、の薬品を処方したことを示す処方歴しか記録されないから、この処方歴を実施薬歴に展開するとよい。そして展開後の実施薬歴の投薬日の日付けの差分を求めることにより、休薬期間を知ることができる。図14に、投薬クールのイベント日検出に提供するための、投薬実施歴テーブルの一例を示した。このテーブルは、患者番号、投薬日および薬品コードを主キーとし、用量を管理する。
患者を特定するためのパラメータおよび期間指定パラメータにより、特定患者に対する特定期間における処方歴を抽出する(この部分は図示せず)。そして投薬がこの処方歴に記載されたとおりに実施されたと仮定して、処方歴を投薬実施歴テーブルに展開する。このとき、複数の薬剤が処方されている場合には、薬剤ごとにテーブルを作成し、例えば1日複数回使用する薬剤の場合には1日あたりの合計使用量に丸めてテーブルに記載する。
上記のようにして得られた投薬実施歴テーブルには、特定の薬剤について投薬を実施した(と仮定された)日付の集合が含まれる。この1つの投薬実施歴テーブルを、A、Bと名付け、その直積をとる。すると、投薬実施日のうちの2つの組み合わせのすべてからなる集合が得られる。
次いで、時間軸上で未来方向を負(マイナス)として、上記各組み合わせの日付の差分(A−B)をとる(例えば同じ年の9月1日−9月2日=−1日、9月3日−9月1日=+2日)。この差分が0または正(プラス)の値であって、且つ所定の休薬期間パラメータ値よりも小さな値である日付の組み合わせを抽出する。そして、抽出された日付の組み合わせを投薬実施歴テーブルAの日付でグループ化したときに、重複レコード数が1である日付を投薬開始日として出力する。
時間軸上で未来方向を正(プラス)として同様の操作を行うと、最終的に抽出された組み合わせを日付でグループ化したときに、重複レコード数が1である日付が投薬終了日となる。
上記休薬期間パラメータは、薬剤種、治療計画、患者の様態(特に薬剤代謝に関係する腎臓の機能)などによって適宜に決定される日数であり、投薬実施歴テーブルから前回クールの投薬イベントを排除する機能を有する。図18では、この値を14日に設定している。
上記と略同様の手法により、投薬クール以外の治療イベントの開始・終了も検出することができる。
具体的には、
前記特定患者の確定診断病名に対応する病名コードおよび前記特定患者に対して行った上記特定の検査の検査コードを有し、且つ前記特定患者に対して行った上記特定の検査の前記イベント日よりも前の検査結果をカットオフ値として有する診断特性テーブルに記録された陽性尤度比または陰性尤度比と、
前記特定患者の確定診断病名に対応する病名コードおよび前記特定患者に対して行った上記特定の検査の検査コードを有し、且つ前記特定患者に対して行った上記特定の検査の前記イベント日よりも後の検査結果をカットオフ値として有する診断特性テーブルに記録された陽性尤度比または陰性尤度比と、
を比較することにより、指定患者の疾患に対する当該治療の有効性を知ることができる。当該治療が指定患者の疾患に対して有効であれば、上記陽性尤度比が減少し、および/または、陰性尤度比が上昇するが、有効性が低ければ、これらの値は有意の変化を示さない。治療イベントの前後における陽性尤度比または陰性尤度比の変化の程度を知ることにより、指定患者の疾患に対する当該治療の有効性を定量的に把握することが可能となる。
すなわち、上記で解析した治療イベントをROC解析に組み込むことによって、特定の疾患に対する特定の治療イベントの効果を予測するためのデータベースを構築することができる。
該データベースは、検査診断能テーブルおよびこれに多値従属する診断特性テーブルからなることは、上述の場合と同様であるが、この場合の検査診断能テーブルおよび診断特性テーブルは、それぞれ、治療イベント種別をさらに主キーとし、該治療イベントの効果コードを管理する。上記治療イベント種別とは、例えば投薬、投薬中止、手術、入退院などの種別をいう。上記効果コードとは、上記治療イベントの効果を表す指標であって、例えば治癒、効果なし、悪化、死亡などの別をいう。
このデータベースは、上記のデータを付加するほかは、上記に説明してきたデータベースと同様のROC解析によって構築および更新することができる。このデータベースは、本発明の医療意思決定支援データベースと一体として構築されていてもよく、独立した別個のデータベースとして存在していてもよい。
治療イベントの効果の予測は、例えば次のようにして行うことができる。
特定の患者の確定診断病名に対応する病名コードおよびある特定の治療イベント種別を有する診断特性テーブルを解析し、該治療イベントの結果(効果コード)に対する影響が大きな影響を与える検査項目を、AUCを指標として抽出する。この抽出された検査項目は、当該疾患の確定診断のために有効な検査項目と一致するとは限らない。
そして、特定患者の当該検査項目の検査結果を調べることによって、当該患者に対する当該治療イベントの効果を予測することができる。
この予測は、例えば抗癌剤の投与効果を予測する際に、特に有用である。抗癌剤は、通常、一定の休薬期間を介して複数クール実施される。ここで、第1クールの投薬は、多くの患者に対して効果的であるが、第2クール以降の投薬は患者によって有効である場合も効果がない場合もあり、あるいは悪影響を及ぼす場合もある。従って、特定の患者に対する特定の抗癌剤の投薬を第2クール以降も継続するかの判断に際して、上記治療イベントの効果を予測するためのデータベースは有用である。
図1のシステムは、病院情報システム、データウェアハウス、教育研究用データウェアハウスおよびシンクライアントシステムから構成されている。以下の実施例では、病院系のデータウェアハウスおよび教育研究用データウェアハウスを用いて行った。教育研究用データウェアハウスにおいては、患者のプライバシー保護のため匿名化したデータベースを用い、データの漏洩の危険を回避するためにシンクライアント方式を用いた。
本実施例では、データとして高知大学医学部附属病院の診療記録を正規化処理したデータウェアハウスを作成し、これを元にすべての組み合わせでROC計算を行って医療意思決定支援データベースを構築した。
具体的には、各患者の患者番号および病歴登録日を主キーとする病歴テーブルと、患者番号、検査日、検査コードおよび材料コードを主キーとする検査結果テーブルと、を基礎データとして用い、検査結果と、特定病名の確定診断(陽性または陰性)と、の組み合わせのすべてについてROC解析を行い、診断検査能テーブルおよび診断特性テーブルを生成した。
(1)匿名化処理
匿名化処理は以下のように行った。
先ず個々の患者番号について完全ハッシュ関数を用いて不可逆的な匿名化番号を生成した。さらに、個々の患者のデータに付随したイベント日付け(来院日、入院日、退院日、検査日、手術日など)のすべてを患者の生年月日からの相対日数に変換することにより、同一患者内におけるイベントの相対的な時間関係は維持しつつ絶対的な日時を隠蔽する処理を加えた。ただし、解析の便宜のため、患者の年代、世代などに関する情報は残した。
(2)データウェアハウスの解析対象
データウェアハウスは、高知大学医学部附属病院の日常診療によって蓄積された30年間の診療記録を対象として作成した。この診療記録は、1,000症例以上が記録された528の病名および連続数値への変換が可能な719項目の検体検査結果を含む。
陽性群は、目的病名の確定診断日から14日以内で最も診断日に近い日の検査を解析対象とした。陰性群は、生涯で目的確定病名がない患者の検査と、他の病名を有する患者の該他の病名の確定診断日から14日以内で最も診断日に近い日の検査と、について上限5,000件を解析対象とした。陰性群は、目的病名が疑い病名として挙げられた場合であっても結果的に陰性と判断された場合を含む。
診療記録の検査歴テーブルに含まれる文字データは、以下のルールで変換して得た数値を増設したテーブル列に格納して使用した。
以上(≧)、未満(<)などが付された数値データは、数値のみを抽出してそのまま数値データとした(例えば「10以上」および「1,000未満」は、それぞれ、「10」および「1,000」とした。)。定性検査結果については、記号の大小関係に応じた数値を適宜に定義して数値化した(例えば尿蛋白などの陽陰性判断における「−」、「+−」、「+」、「++」および「+++」は、それぞれ、「0」、「0.5」、「1」、「2」および「3」と定義した。)。日時型のデータは、時間軸の大小関係を考慮して初期値を変換した。
測定法の異なる検査結果については、これを正規化する処理を行った。これは、長期時系列データの解析の便宜を考慮したものである。
検査コードについては高知大学医学部附属病院独自のコードをそのまま使用し、必要に応じて該コードを臨床検査項目分類コードJLAC10に変換するマスタを準備した。これは、JLAC10に定義されていない検査項目、分析装置固有の情報などの検索も可能にするためである。
上記のデータを解析対象として、病名および検査結果の全組み合わせについてROC解析を行い、検査診断能テーブルおよび診断特性テーブルを生成した。
ROCによる網羅的な解析は、Visual Studio C#(Microsoft Corporation製)を用いて自作したデータベース連携プログラムを用いて行った。データウェアハウスからの対象データの読み出し、ROC計算および計算結果の検査診断能テーブルへの書き込みからなる一連の動作を、病名および検査結果の全組み合わせについて自動的に行うシステムを構築し、該システムによる自動計算を行った。このシステムにはさらに、特定の検査結果(検査値)が高い値のときに陽性(高値陽性事例)であるのか低い値のときに陽性(低値陽性事例)であるのかを自動的に判断する機能を付加した。すなわち、例えば高値陽性事例として計算したAUC(曲線下面積)が0.5を下回った場合には、低値陽性事例として再計算することとした。
このシステムによる病名および検査結果の値の全組み合わせについてのROC計算には約5日を要した。この時間の大部分は、データの読み出しと計算結果の書き込みに要した時間であった。ただし、以下の実施例2以下の検索事例においては、一瞬のレスポンスで結果を得ることができた。
図2に、生成した検査診断能テーブルおよび診断特性テーブルの概略を、ER図の形式で示した。
両テーブルとも、病名コード、検査コード(検査項目コード)および材料コードのほか、感度特異度に直接的に影響を与える患者属性として、性別および年齢別(年代別)の管理が可能となるような構造とした。
検査診断能テーブルではAUCおよび最適カットオフ値を管理するようにした。一方診断特性テーブルは、ROC曲線の横軸を300等分したカットオフ値ごとの計算結果を1枚のテーブルとして検査診断能テーブルに多値従属とすることにより、患者ごとの検査結果問い合わせの際に陽性尤度比一覧・院生尤度比一覧の検索を高速に行うことのできる構造とした。
診断特性テーブルには、さらに陽性尤度比と陰性尤度比を格納した。陽性尤度比は、その数値が高いほどその疾患である確率が高いことを示し;
陰性尤度比は、その数値が低いほどその疾患である確率が低く、ゼロに近ければその疾患の可能性を否定することができる指標である。
図3に、糖尿病と血糖(グルコース)とのROC解析の例を示した。最適カットオフ値は112mg/dL以上であり(高値陽性事例)、AUCは0.77であった。
また、図4に、鉄欠乏性貧血とMCH(平均赤血球血色素量)とのROC解析の例を示した。最適カットオフ値は29.5pg以下であり(低値陽性事例)、AUCは0.733であった。なお、図4は、鉄欠乏性貧血とMCHとの関係が低値陽性事例であることを自動判別して再計算して得た結果である。
上記の高値陽性事例および低値陽性事例の双方とも、最適カットオフ値として教科書的な値に近い値を得た。
本実施例では、上記実施例1で構築した医療意思決定支援データベースを用いて、特定の病名を診断するための検査項目を、診断能の高い順に出力した例を示す。
上記医療意思決定支援データベースに対して、AUC値が0.7を超え、且つデータ数が100件以上である検査項目をAUC値が大きい順に出力させるクエリを作成して検索した。ここで使用したクエリを図5に示した。このクエリは、
図15に示した概念をコード化したものである。
(1)糖尿病の診断に適した検査項目
表1に、糖尿病の診断に適した検査の診断特性について出力した例を示した。
表1によると、血糖の日内変動のうちの食事前の空腹時血糖が上位に来た。Hb−A1c(ヘモグロビンA1c)値は、特異度としては血糖よりも高かったが、AUC値としては血糖よりも劣っていた。
(2)褥瘡の診断に適した検査項目
表2に、褥瘡の診断に適した検査の診断特性について出力した例を示した。
しかしながら、蛋白分画検査の分画データがリストの上位を占める結果となったことは、実に意外であった。
本実施例では、上記実施例1で構築した医療意思決定支援データベースを用いて、特定の検査項目から診断可能である病名を、診断能の高い順に出力した例を示す。
上記医療意思決定支援データベースに対して、AUC値が0.7を超え、且つデータ数が100件以上である病名をAUC値が大きい順に出力させるクエリを作成して検索した。ここで使用したクエリを図6に示した。このクエリは、図16に示した概念をコード化したものである。
表3に、ALB(アルブミン)の検査結果の値から診断可能な病名のリストを示した。
本実施例では、上記実施例1で構築した医療意思決定支援データベースを用いて、特定の患者の検査結果から推定病名を出力した例を示す。
検査結果テーブル(TAKENR)から、ある患者の検査結果の値を選択し、その結果値に最も近いカットオフ値で、評価すべき病名コードに対する診断特性テーブル(ROCSeSp)を抽出するクエリを作成して検索した。ここで使用したクエリを図7および図8に示した。図7および図8は連続して一連のクエリを示す。これらのクエリは、図17に示した概念をコード化したものである。
推定病名リストの出力例を表4に示した(推定病名の一部のみを掲載)。表5は、表4にリストされた推定病名を最大尤度比の大きい順にソートしたものを、最も関係する検査項目とともに表示した例である。
診療システムあるいは検査情報システムの検査結果問い合わせ画面に、測定された検査結果の値から検査性能テーブルを検索し、陽性尤度比の高い(例えば5以上)検査項目が複数ある病名に対して最大陽性尤度比順に病名をリストアップした後、最小陰性尤度比がゼロに近い(例えば0.5未満)病名を除外することにより、さらに精度を向上することができる。
実施例4のクエリによって病名でグループ化集計したリストに対して、診断の安全性を高める目的で、複数項目の検査において陽性病名を示した例のみを最大陽性尤度比MAX(LRP)の大きい順に表示して疑われる病名を抽出し、さらに最小陰性尤度比MIN(LRN)が低値の項目を除外する要求を加えたクエリ例を図9および図10に示した。図9および図10は連続して一連のクエリを示す。上記複数項目検査の個数は、図10における“having count(*)”の数値を変更することにより調整することができる。図9の例ではこの値>1であり、2項目以上の検査で陽性の場合のみが抽出される。
投薬クールの開始または終了のイベント日を検出して、その前後の陽性尤度比または陰性尤度比を比較することにより、当該投薬治療の効果評価、治療方法の選択などに有用な情報を得ることができる。本実施例では、投薬クールのイベント日を動的に検出できる仕組みのクエリ例を図11に示した。このクエリは、図18に示した概念をコード化したものである。
本事例は、休薬期間が14日以上の患者番号および投薬クール開始日を検索するクエリ例である。このクエリ例では、検索すべき休薬期間を任意に変更可能なため、例えば腎障害などで1日おきに投薬した場合や、休薬期間が異なる薬剤の場合でも、クールの開始あるいは終了日を動的に検出することができる。
Claims (6)
- 少なくとも病名コードおよび検査コードを主キーとしてAUCおよび最適カットオフ値を管理する検査診断能テーブルと、少なくとも病名コード、検査コードおよびカットオフ値を主キーとして陽性尤度比または陰性尤度比を管理し且つ前記検査診断能テーブルにカットオフ値ごとに多値従属する診断特性テーブルと、を有する医療意思決定支援データベースであって、
前記検査診断能テーブルおよび診断特性テーブルが、
少なくとも患者番号および病歴登録日を主キーとして病名コードを管理する病歴テーブルと、少なくとも患者番号と検査コードと、を主キーとして検査結果を管理し且つ前記病歴テーブルに多値従属する検査結果テーブルと、を用い、前記病歴テーブルに記録された病名コードと、前記検査結果テーブルに記録された検査結果と、の組み合わせのすべてについてROC解析を行って得られたものであることを特徴とする、前記医療意思決定支援データベース。 - 請求項1に記載の医療意思決定支援データベースを用いて行う病名の確定診断支援方法であって、
特定患者に対して行われた検査の検査コードを有する診断特性テーブルのうちから該患者の検査結果をカットオフ値として有する診断特性テーブルを参照して該診断特性テーブルに記録された陽性尤度比が予め定められた臨界値以上である場合に該診断特性テーブルに記録された病名コードを抽出し、該病名コードをこれに対応する該陽性尤度比とともにリストとして表示するステップを経ることを特徴とする、前記確定診断支援方法。 - 特定患者に対して行われた検査が複数種の検査であり、
1つの検査について抽出された病名コードと、
前記特定患者に対して行われた他の検査の検査コードと、
を有する診断特性テーブルのうちから該患者の前記他の検査結果をカットオフ値として有する診断特性テーブルを参照して該診断特性テーブルに記録された陽性尤度比を、前記病名コードと前記1つの検査とを有する診断特性テーブルに記録された陽性尤度比とともにリストとして表示するステップを経る、請求項2に記載の確定診断支援方法。 - さらに、前記表示された病名コードのうちの1つと、
前記特定患者に対して行われた複数種の検査のうちの1つの検査コードと、
を有する診断特性テーブルを参照して該診断特性テーブルに記録された陰性尤度比が予め定められた臨界値未満である場合に該診断特性テーブルに記録された病名コードおよびこれに対応する陽性尤度比を前記リストから削除して表示するステップを経る、請求項3に記載の確定診断支援方法。 - 請求項1に記載の医療意思決定支援データベースを用いて行う病名の確定診断のための検査項目決定支援方法であって、
特定患者の疑い病名の病名コードを有する検査診断能テーブルのうちからAUCが予め定められた臨界値以上である検査診断能テーブルを参照して該検査診断能テーブルに記録された検査コードをAUCとともに表示するステップを経ることを特徴とする、前記検査項目決定支援方法。 - 請求項1に記載の医療意思決定支援データベースを用いて行う治療イベントの効果確認支援方法であって、
特定患者の治療イベントの開始または終了のイベント日を検出し、
前記特定患者の確定診断病名に対応する病名コードおよび前記特定患者に対して行った1つの検査の検査コードを有し且つ前記特定患者に対して行った前記1つの検査の前記イベント日よりも前の検査結果をカットオフ値として有する診断特性テーブルに記録された陽性尤度比または陰性尤度比と、
前記特定患者の確定診断病名に対応する病名コードおよび前記特定患者に対して行った前記1つの検査の検査コードを有し且つ前記特定患者に対して行った前記1つの検査の前記イベント日よりも後の検査結果をカットオフ値として有する診断特性テーブルに記録された陽性尤度比または陰性尤度比と、
を比較表示するステップを経ることを特徴とする、前記治療イベントの効果確認支援方法。
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