以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態について図1〜図12に基づいて説明する。本実施形態の可変容量式スクロール型圧縮機10(以下、単に圧縮機10と略称する。)は、車両に搭載される車両用空調装置(図示略)の冷媒圧縮機として用いられるものである。この車両用空調装置は、圧縮機10→放熱器→膨張弁→蒸発器→圧縮機10の順で冷媒を循環させる周知の蒸気圧縮式冷凍機(冷凍サイクル)であり、蒸発器において冷媒が蒸発する際に車室内送風空気から吸熱することで、車室内送風空気を冷却するものである。なお、冷媒としては、通常のフロン系冷媒の他、HC系、二酸化炭素等を採用することができる。
圧縮機10は、上記の冷凍サイクルにおいて冷媒を吸入・圧縮して吐出する機能を担うものである。なお、圧縮機10は、図示しないVベルト、プーリ、電磁クラッチ等の動力伝達手段を介して車両走行用エンジン(以下、単にエンジンという。)により駆動される。
圧縮機10の詳細については、図1、図2により説明する。図1は本実施形態の圧縮機10の軸方向断面図であり、図2は図1のA−A断面図である。
図1に示すように、圧縮機10は、アルミニウム合金製のフロントハウジング11およびリアハウジング12を備えている。
フロントハウジング11内には、軸受13を介してシャフト14が回転可能に支持されている。このシャフト14は、図示しない電磁クラッチを介してエンジンの回転駆動力を受け、回転中心軸αを中心に回転する。なお、シャフト14の回転速度は、エンジンの回転数に応じて変動する。
シャフト14は、リアハウジング12側における軸受13に対向する部位で大径部14aとなっている。シャフト14の大径部14aは、リアハウジング12側の端面に、リアハウジング12側に突出するクランクシャフト15が圧入等の締結手段にて連結されている。
クランクシャフト15は、シャフト14の大径部14aにおけるシャフト14の回転中心軸αに対して中心軸βが偏心した位置に連結されている。クランクシャフト15の外周には、軸受15aおよびブッシュ15bを介して旋回スクロール21が回転可能に連結されている。
さらに、クランクシャフト15は、回転中心軸αを挟んで対向する位置にバランスウエイト15cを有しており、バランスウエイト15cによって、クランクシャフト15に作用する偏心力を相殺、すなわち、偏心に伴う回転アンバランスを調整している。
旋回スクロール21は、平板状の旋回基板部(第2基板部)21a、渦巻き状の旋回歯部21bおよびクランクシャフト15との連結部21cを有して構成される。旋回基板部21aは回転中心軸αに対して垂直に配置され、旋回基板部21aのリアハウジング12側端面から回転中心軸αに平行に突き出すように旋回歯部21bが配置される。この旋回歯部21bは、後述する固定スクロール22の固定歯部22bに接触して噛み合わされるように配置される。なお、本実施形態の旋回歯部21bの巻き数は、2巻きの歯部を用いている。
旋回基板部21aのシャフト14側端面の中央部には、クランクシャフト15との連結部21cが形成されている。なお、クランクシャフト15は、軸受15aおよびブッシュ15bを介して旋回基板部21aの連結部21cに回転自在に係合されている。
旋回基板部21aのシャフト14側端面には、旋回スクロール21の自転を防止するための自転防止ピン23が圧入されている。そして、フロントハウジング11の旋回基板部21aに対向する部位には、自転防止ピン23に隣接する位置に自転防止ピン24が圧入されている。各自転防止ピン23、24は、円環上のリング部材25により拘束されている。このリング部材25、各自転防止ピン23、24によって、旋回スクロール21の自転が防止される。つまり、リング部材25、各自転防止ピン23、24により、旋回スクロール21の自転防止機構が形成されている。
従って、シャフト14に連結されたクランクシャフト15の回転は、クランクシャフト15に係合された旋回スクロール21の公転運動として伝達され、旋回スクロール21は自転を伴わない公転を行うこととなる。換言すれば、シャフト14が回転すると、旋回スクロール21は回転中心軸αの周囲を旋回回転するようになっている。
固定スクロール22は、平板状の固定基板部(第1基板部)22a、渦巻き状の固定歯部22bおよびフロントハウジング11との結合部となる外周部22cを有して構成される。固定基板部22aは回転中心軸αに直交するように配置され、固定基板部22aのフロントハウジング11側端面から回転中心軸αに平行に突き出すように固定歯部22bが配置される。
また、前述の如く、固定歯部22bには、旋回歯部21bが接触して噛み合わされるように配置されており、旋回歯部21bと固定歯部22bとの間に冷媒が圧縮される一対の圧縮室Va、Vbが形成される。以下、一対の圧縮室Va、Vbを圧縮室Vともいう。
この一対の圧縮室Va、Vbは、後述する冷媒吐出ポート22fを挟んで形成され、その容積(体積)が同等となる一対の密閉空間である。両スクロール21、22によって構成された一対の圧縮室Va、Vbは、その容積が、旋回スクロール21の旋回に応じて縮小して、冷媒が圧縮される。なお、本実施形態では、固定歯部22bの外周側と旋回歯部21bの内周側とで区画形成される密閉空間を第1圧縮室Vaとし、固定歯部22bの内周側と旋回歯部21bの外周側とで区画形成される密閉空間を第2圧縮室Vbとする(図2参照)。
ところで、圧縮機10では、圧縮工程時に各歯部21b、22bの巻き始め端部21e、22jが接触する構成とすると、各歯部21b、22bの巻き始め端部21e、21j付近に溜まった液冷媒やオイルが圧縮されることにより、圧縮室V内の圧力が急上昇することがある。この場合、各歯部21b、22bの付け根に大きな曲げ応力が作用するので、歯部の変形や破損が懸念される。
そこで、本実施形態の固定歯部22bには、その巻き始め端部22jにおける旋回歯部21bに対向する部位に、歯部同士が接触しないように、所定の範囲(歯逃がし範囲N)で歯部の幅を薄くする歯逃がし部22kが形成されている。具体的には、歯逃がし部22kは、図3(a)に示すように、旋回スクロール21が−N≦θo≦N(本実施形態では、N=90°)の範囲で回転変位した際に、旋回歯部21bと当接し得る部位に形成されている。ここで、θoは、旋回スクロール21が回転変位して、一対の圧縮室Va、Vbが連通して、各圧縮室Va、Vb内の冷媒が合流する際の旋回スクロールの回転角度(合流基準角度)を示している。
この歯逃がし部22kにおける歯逃がし量は、図3(b)のX、Y、およびZで示すように、最大幅が0.2mm〜0.4mm程度に設定される。なお、歯逃がし部22kの歯逃がし範囲は、歯逃がし量が最大幅の約半分以上となる範囲とする。例えば、歯逃がし量の最大幅が0.2mmである場合には、歯逃がし量の幅が0.1mm以上の範囲が歯逃がし範囲となる。
また、本実施形態の固定歯部22bは、その巻き終り端部22iが旋回歯部21bの巻き終り端部21d側まで延長されると共に、固定歯部22bにおける延長部位の内壁面(旋回歯部21bの外壁面と対向する壁面)が、当該延長部位以外の内壁面に連続する曲面で構成され、一対の圧縮室(Va、Vb)が非対称となる非対称渦巻構造となっている。なお、本実施形態の固定歯部22bの巻き終り端部22iは、固定スクロール22の外周部22cの内壁で構成されている。
このように、各スクロール21、22の歯部21b、22bを非対称渦巻構造とする場合、各第2圧縮室Vbの総容積が各第1圧縮室Vaの総容量よりも大きくなり、圧縮機10全体における圧縮室Vの最大容積(最大容量運転時の容量)を増大することができる。
固定スクロール22の外周部22cおよびフロントハウジング11は、図示しないシール材を介してネジ止めされており、結合部から冷媒が漏れないように結合されている。さらに、外周部22cには蒸発器下流側の冷媒を圧縮室Vの最外周部へ冷媒を吸入させる冷媒吸入口22d(図2参照)および吸入室22eが設けられている。なお、吸入室22eは、旋回スクロール21の最外周側に形成され、各圧縮室Va、Vbに冷媒を供給するための空間である。
また、固定基板部22aの中央側には、固定歯部22bの巻き始め端部22jに隣接する位置に、圧縮室Vの最内周部から冷媒を吐出させる冷媒吐出ポート(流体吐出部)22fが設けられている(図2参照)。この冷媒吐出ポート22fは、圧縮室Vの最内周部とリアハウジング12内部の吐出室12aとを連通させる冷媒通路を構成している。そして、冷媒吐出ポート22fの吐出室12a側には、吐出室12aから圧縮室Vに流体が逆流することを防止するリード弁状の吐出弁12bが配置されている。なお、吐出弁12bは、吐出弁12bの最大開度を規制する弁止板(弁押え)12cと共に、ボルト12dにより固定基板部22aに配設されている。
リアハウジング12は、内部に吐出室12aを形成するとともに、吐出弁12bや弁止板12c等を配置する空間を形成している。さらに、リアハウジング12には、吐出室12a内部の冷媒を放熱器上流側へ吐出する冷媒吐出口(図示略)が設けられている。
また、リアハウジング12は、固定基板部22aの固定歯部22b側と反対側の端面に、図示しないシール材を介してネジ止め等で結合されており、結合部から冷媒が漏れないようになっている。なお、本実施形態の旋回スクロール21、および固定スクロール22はアルミニウム合金製である。
ここで、本実施形態の固定基板部22aには、圧縮行程中の第1圧縮室Vaと吸入室22eとを冷媒戻し通路22lを介して連通させる長孔形状のサブバイパスポート(第1バイパス孔部)22gが形成されている。
このサブバイパスポート22gは、固定基板部22aにおける固定歯部22bの外周側に隣接する位置に、固定歯部22bの外周面に沿うように開口している(図2参照)。なお、第2圧縮室Vbは、上述のように、固定歯部22bの内周側と旋回歯部21bの外周側とで形成される密閉空間としているので、固定歯部22bの外周側に形成されたサブバイパスポート22gによって、第2圧縮室Vbと吸入室22eとは連通しない。
さらに、サブバイパスポート22gは、旋回歯部21bにおける固定基板部22aと当接する部位によって、第1圧縮室Vaと吸入室22eの連通を遮断可能な大きさに形成されている。つまり、旋回スクロール21が旋回する毎に、旋回歯部21bにおける固定基板部22aと当接する部位によって、サブバイパスポート22gが閉鎖されるようになっている。具体的には、サブバイパスポート22gにおける短径の幅寸法Xが旋回歯部21bの厚さ方向の幅寸法Yよりも小さくなる幅寸法としている。
また、固定基板部22aには、圧縮行程中の第2圧縮室Vbと吸入室22eとを冷媒戻し通路22lを介して連通させる長孔形状のメインバイパスポート(第2バイパス孔部)22hが形成されている。なお、メインバイパスポート22hおよびサブバイパスポート22gは、別個独立した孔で構成されている。
このメインバイパスポート22hは、固定基板部22aにおける固定歯部22bの外周側に隣接する位置に、固定歯部22bの外周面に沿うように開口している(図2参照)。なお、第1圧縮室Vaは、上述のように、固定歯部22bの外周側と旋回歯部21bの内周側とで形成される密閉空間としているので、固定歯部22bの内周側に形成されたメインバイパスポート22hによって、第1圧縮室Vaと吸入室22eとは連通しない。
さらに、メインバイパスポート22hは、旋回歯部21bにおける固定基板部22aと当接する部位によって、第2圧縮室Vbと吸入室22eの連通を遮断可能な大きさに形成されている。つまり、旋回スクロール21が旋回する毎に、旋回歯部21bにおける固定基板部22aと当接する部位によって、メインバイパスポート22hが閉鎖されるようになっている。具体的には、メインバイパスポート22hにおける短径の幅寸法Xが旋回歯部21bの厚さ方向の幅寸法Yよりも小さくなる幅寸法としている。
ここで、サブバイパスポート22gとメインバイパスポート22hの配置形態について図4、図5に基づいて説明する。図4は、本実施形態のサブバイパスポート22gとメインバイパスポート22hの位置を説明する説明図であり、図5は、本実施形態のサブバイパスポート22gの位置を説明する説明図である。図4に示す第1の仮想線L1は、旋回スクロール21の旋回中心Oとサブバイパスポート22gを結んだ仮想線であり、第2の仮想線L2は、旋回中心Oを通り、第1仮想線L1に対して直交する仮想線である。また、第3の仮想線L3は、旋回中心Oとメインバイパスポート22hとを結んだ仮想線である。なお、各図に示すように、各仮想線は、各バイパスポート22g、22hにおける旋回スクロール21の進角方向の先頭位置と旋回中心とを結んでいる。
メインバイパスポート22hは、図4に示すように、第1圧縮室Vaおよび吸入室22eが連通するタイミングと、第2圧縮室Vbおよび吸入室22eが連通するタイミングとがずれるように、第2の仮想線L2よりもサブバイパスポート22g側(第1バイパス孔部側)に開口するようにしている。換言すれば、メインバイパスポート22hは、第1の仮想線L1と第3の仮想線L3とのなす内角が90°以下となる位置に設けられている。なお、旋回スクロール21の進角方向の角度を正とした場合、メインバイパスポート22hは、第1の仮想線L1と第3の仮想線L3とのなす内角θが−90°≦θ≦90°となるように設けられている。なお、メインバイパスポート22hは、少なくともその一部(旋回スクロール21の進角方向の先端部位)が第2の仮想線L2上に開口していればよい。
より具体的には、本実施形態のメインバイパスポート22hは、第1の仮想線L1と第3の仮想線L3とが一致する位置、すなわち、第1の仮想線L1と第3の仮想線L3とのなす内角が0°となる位置に設けられている。勿論、メインバイパスポート22hは、例えば、図4の符号22h´、22h´´で示すように、第1の仮想線L1と第3の仮想線L3とのなす内角が90°となる位置に設けてもよい。
また、サブバイパスポート22gは、旋回スクロール21が回転変位して、一対の圧縮室Va、Vbが合流して冷媒吐出ポート22fから冷媒を吐出する際の旋回スクロール21の回転角度を合流基準角度としたとき、固定基板部22aにおける旋回スクロール21が合流基準角度に対して−90°以上、かつ、0°以下の範囲に進角した角度で旋回歯部21bと当接する部位に形成されている。すなわち、サブバイパスポート22gは、旋回スクロール21が合流基準角度に対して−90°以上、かつ、0°以下の範囲に進角した角度で閉鎖されるように形成されている。
より具体的には、本実施形態のサブバイパスポート22gは、図5に示すように、固定基板部22aにおける旋回スクロール21が合流基準角度に進角した回転角度で旋回歯部21bと当接する部位に形成されている。勿論、サブバイパスポート22gは、図5の符号22g´で示すように、固定基板部22aにおける旋回スクロール21が合流基準角度に対して、−90°進角(90°遅角)した角度で旋回歯部21bと当接する部位に設けてもよい。
また、本実施形態の圧縮機10には、サブバイパスポート22gおよびメインバイパスポート22hそれぞれを開閉する開閉手段27を備えている。この開閉手段27は、サブバイパスポート22gおよびメインバイパスポート22hを開閉することで、圧縮機10の吐出容量を変化させる吐出容量変更手段を構成している。
開閉手段27は、固定基板部22aに形成されたシリンダボア(円柱状の孔)27a、シリンダボア27a内を摺動可能に配置されたスプール弁体27b、スプール弁体27bに作用させる圧力を調整する圧力調整手段28等を備えている。
シリンダボア27aは、固定基板部22aの内部において、回転中心軸αに直交する方向に直線状に延びるように形成されている。スプール弁体27bは、シリンダボア27aの内径寸法と同等の外径寸法を有して構成されており、各バイパスポート22g、22hを開閉するものである。
このスプール弁体27bの摺動方向一端側には、スプール弁体27bの摺動方向他端側に向けてスプール弁体27bを押圧する力が作用する弾性力を発揮するコイルスプリング(図示略)が配設されている。なお、スプール弁体27bの摺動方向の一端側には、コイルスプリングの弾性力に加えて、吸入室22eにおける吸入圧Psが作用する。
一方、スプール弁体27bの摺動方向他端側には、固定絞り29を介して吐出室12aと連通する制御圧室30が形成されており、圧力調整手段28にて調整された制御圧Pcが作用する。
この圧力調整手段28は、吸入室22eと制御圧室30とを連通させる制御通路28aと、制御通路28aを開閉する電磁弁28bとから構成されている。なお、本実施形態の電磁弁28bは、非通電時開(ノーマルオープン)型の電磁弁を採用している。
ここで、開閉手段27の作動について図6に基づいて説明する。図6は、開閉手段27の作動を説明する説明図であり、図6の(a)が圧縮機10の最大容量(100%)運転時の作動を示し、(b)が圧縮機10の可変容量運転時の作動を示している。
圧縮機10の最大容量(100%)運転時には、電磁弁28bが閉じられ、図6(a)に示すように、制御通路28aが閉鎖され、吐出室12aから固定絞り29にて減圧された冷媒が制御圧室30に流れて、制御圧室30の圧力(制御圧)Pcが吐出圧Pdまで上昇する。これにより、スプール弁体27bが摺動方向一端側に移動して、サブバイパスポート22gおよびメインバイパスポート22hと吸入室22eとの連通が遮断される。
一方、圧縮機10の可変容量運転時には、電磁弁28bが開けられ、図6(b)に示すように、制御通路28aが開放され、吐出室12aから固定絞り29にて減圧された冷媒が制御圧室30を介して吸入室22e側に流れる。なお、吐出室12a内の冷媒は、固定絞り29にて充分に減圧された状態で制御圧室30に流れるので、電磁弁28bを開いたときには、吐出室12aよりも吸入室22e側からの圧力の方が、制御圧室30の圧力に大きく影響を及ぼすこととなる。このため、電磁弁28bを開いたときには、制御圧室30の圧力(制御圧)Pcが吸入圧Psに近い圧力にまで低下する。これにより、スプール弁体27bが摺動方向他端側に移動して、サブバイパスポート22gおよびメインバイパスポート22hと吸入室22eとが連通する。
次に、上記の構成において圧縮機10の作動について図7〜図12に基づいて説明する。図7は、旋回スクロール21の回転角度θと各圧縮室Va、Vbの圧力P1、P2との関係を説明する説明図(P−θ線図)である。なお、図7の(a)が圧縮機10の最大容量動作時のP−θ線図を示している。また、図7の(b)が本実施形態の圧縮機10の可変容量動作時のP−θ線図を示し、(c)が各バイパスポートを旋回中心Oに対して対称となる位置に設けた従来の圧縮機の可変容量動作時のP−θ線図を示している。なお、図7では、説明の都合上、最大容量動作時における第1圧縮室Vaの吸入行程完了時の回転角度θ´を0°とする。
圧縮機10のシャフト14に対して、Vベルト、プーリ、電磁クラッチ等の動力伝達手段を介して車両走行用エンジンの動力が伝達されると、シャフト14が回転し、当該シャフト14の回転に応じて、クランクシャフト15に連結された旋回スクロール21が回転中心軸αの周囲を旋回運動する。このとき、自転防止機構(自転防止ピン23、24、リング部材25)の作用によって旋回スクロール21はクランクシャフト15の中心軸β周りに自転することなく回転中心軸αの周囲を公転することとなる。
この公転によって、旋回歯部21bと固定歯部22bとの間に形成される圧縮室Vが外周側から内周側へ体積を縮小しながら移動する。これにより、吸入室22eから圧縮室Vの最外周部に吸入された冷媒が、外周側から内周側に移動しながら圧縮されて高圧となり、圧縮室Vの最内周部から冷媒吐出ポート22fを介して吐出室12aに吐出される。
その結果、本実施形態の圧縮機10は、車両用空調装置の冷媒圧縮機として機能して、冷媒吸入口22dより蒸発器下流側の冷媒を吸入して、冷媒吐出口(図示略)から放熱器上流側へ冷媒を吐出することができる。
ここで、圧縮機10の最大容量動作時(100%容量時)の作動を説明すると、最大容量動作時には、電磁弁28bへの通電を遮断することにより、各バイパスポート22g、22hが閉鎖された状態、すなわち、圧縮機10の吐出容量が最大容量となった状態で、吸入室22eから圧縮室Vの最外周部に吸入された冷媒が、一対の圧縮室Va、Vbそれぞれで圧縮されて、冷媒吐出ポート22fを介して吐出室12aに吐出される。
この最大容量動作時における第1圧縮室Vaの圧力P1および第2圧縮室Vbの圧力P2と、旋回スクロール21の回転角度との関係は、図7(a)に示す関係となる。すなわち、各圧縮室Va、Vbでは、旋回スクロール21の回転角度θ´が0°付近に進角した際に圧縮工程が開始され、旋回スクロール21の回転角度が増えるに伴って、各圧縮室Va、Vbにおける圧力が同様に上昇する。
次に、圧縮機10の可変容量動作時の作動について図8、図9に基づいて説明する。ここで、図8は、実際の圧縮室内の圧力と旋回スクロールの回転角度との関係を説明する説明図である。図9は、圧縮機10の可変容量動作時の作動を説明する説明図である。図9の(a)は、最大容量動作時における第2圧縮室Vbの吸入行程完了時の状態であって、回転角度θ=0°(θ=360°)を示し、(b)は、回転角度θ=90°(θ=450°)の状態、(c)は回転角度θ=180°(θ=540°)の状態、(d)は回転角度θ=270°(630°)の状態を示している。なお、図9では、第2圧縮室Vbにおける吸入行程完了時の回転角度を0°とする。
圧縮機10の可変容量動作時には、電磁弁28bへ通電することにより、各バイパスポート22g、22hが開放された状態、すなわち可変容量状態となり、吸入室22eから圧縮室Vの最外周部に吸入された冷媒が、各圧縮室Va、Vbで圧縮されて、冷媒吐出ポート22fを介して吐出室12aに吐出される。
ここで、一対の圧縮室(第1圧縮室Vaおよび第2圧縮室Vb)と各バイパスポート22g、22hとの関係に注目して本実施形態の可変容量動作時の作動を説明する。
まず、第2圧縮室Vbでは、図9(a)中のVb1で示す容積で冷媒の吸入行程を完了する(回転角度θ=0°)。この状態では、メインバイパスポート22hが旋回歯部21bにおける固定基板部22aと当接する部位にて閉鎖されるので、第2圧縮室Vb内の冷媒はメインバイパスポート22hを介して吸入室22eへと流れない。
その後、図9(b)中のVb2で示す容量(回転角度θ=90°での容量)へと移行する際に、メインバイパスポート22hが開口して、第2圧縮室Vb内の冷媒が、メインバイパスポート22hを介して吸入室22eへと流れる。つまり、第2圧縮室Vbでは、冷媒の圧縮ができない状態となる。
そして、第2圧縮室Vbと吸入室22eとが連通した状態のまま、図9(c)中のVb3(回転角度θ=180°での容量)→図9(d)中のVb4(回転角度θ=270°での容量)へと容積を縮小しながら移行する。つまり、図9(a)に示す状態(第2圧縮室Vbの吸入行程が完了した状態)以降、第2圧縮室Vb内の冷媒は、メインバイパスポート22hを介して吸入室22eへと流れ、第2圧縮室Vbでは冷媒の圧縮を行わないこととなる。
次に、図9(a)中のVb5で示す容積へと移行すると、メインバイパスポート22hと吸入室22eとの連通が遮断されて、第2圧縮室Vb内の冷媒が圧縮される(圧縮開始)。そして、図9(a)中のVb5で示す容積→図9(b)中のVb6で示す容積へと容積を縮小しながら移行する。
次に、図9(c)中のVb7で示す容積へと移行すると、第2圧縮室Vb、および冷媒吐出ポート22fが連通し、容積が小さくなり吐出圧に達すると、第2圧縮室Vb内の冷媒が冷媒吐出ポート22fを介して吐出室12aに吐出される。
一方、第1圧縮室Vaでは、図9(c)中のVa1で示す容積で冷媒の吸入行程を完了する(回転角度θ=180°)。この状態では、サブバイパスポート22gが旋回歯部21bにおける固定基板部22aと当接する部位にて閉鎖されるので、第1圧縮室Va内の冷媒はサブバイパスポート22gを介して吸入室22eへと流れない。
その後、図9(d)中のVa2で示す容量(回転角度θ=270°での容量)へと移行する際に、サブバイパスポート22gが開口して、第1圧縮室Va内の冷媒が、サブバイパスポート22gを介して吸入室22eへと流れる。つまり、第1圧縮室Vaでは、冷媒の圧縮ができない状態となる。
そして、第1圧縮室Vaと吸入室22eとが連通した状態のまま、図9(a)中のVa3(回転角度θ=0°での容量)→図9(b)中のVa4(回転角度θ=90°での容量)へと容積を縮小しながら移行する。つまり、図9(c)に示す状態(第1圧縮室Vaの吸入行程が完了した状態)以降、第1圧縮室Va内の冷媒は、サブバイパスポート22gを介して吸入室22eへと流れ、第1圧縮室Vaでは冷媒の圧縮を行わないこととなる。
そして、図9(c)中のVa5→図9(d)中のVa6で示す容積へと移行する際に、サブバイパスポート22gと吸入室22eとの連通が遮断されて、第1圧縮室Va内の冷媒が圧縮される(圧縮開始)。そして、図9(d)中のVa6で示す容積となると、第1圧縮室Va、第2圧縮室Vb、および冷媒吐出ポート22fが連通し、容積が小さくなり吐出圧に達すると、第1圧縮室Va内の冷媒が冷媒吐出ポート22fを介して吐出室12aに吐出される。なお、第1圧縮室Vaと第2圧縮室Vbとが連通してから、旋回スクロール21が360°進角した位置で、圧縮工程が完了する。
ここで、バイパスポートを旋回中心Oに対して対称となる位置に設けた従来の圧縮機の可変容量動作時における第1圧縮室Vaの圧力P1および第2圧縮室Vbの圧力P2と、旋回スクロール21の回転角度θ´との関係は、図7(c)に示す関係となる。すなわち、図7(c)に示すように、各圧縮室Va、Vbでは、旋回スクロール21の回転角度θ´が270°付近に進角した際に圧縮工程が開始され、旋回スクロール21の回転角度が増えるに伴って、各圧縮室Va、Vbにおける圧力が同様に上昇する。
これに対して、本実施形態の圧縮機10の可変容量動作時における第1圧縮室Vaの圧力P1および第2圧縮室Vbの圧力P2と、旋回スクロール21の回転角度θ´との関係は、図7(b)に示す関係となる。すなわち、図7(b)に示すように、第2圧縮室Vbでは、旋回スクロール21の回転角度θ´が180°付近に進角した際に圧縮工程が開始され、旋回スクロール21の回転角度が増えるに伴って、第2圧縮室Vbにおける圧力が上昇する。一方、第1圧縮室Vaでは、旋回スクロール21の回転角度θ´が360°付近に進角した際に圧縮工程が開始され、旋回スクロール21の回転角度が増えるに伴って、第1圧縮室Vaにおける圧力が上昇する。そして、旋回スクロール21の回転角度θ´が約400°付近に進角した際に、各圧縮室Va、Vbが合流して、各圧縮室Va、Vbが均圧した後、さらに圧縮される。
このように、本実施形態の圧縮機10では、旋回スクロール21の回転角度θ´が180°付近に進角した際に、一対の圧縮室Vのうち、一方の圧縮室(第2圧縮室Vb)にて圧縮工程が開始されるので、従来の圧縮機に比べて、可変容量動作時における圧縮工程を長くすることができる。
ところで、図7(b)に示すP−θ線図では、旋回スクロール21の回転角度θ´が約400°進角した際に、第1圧縮室Vaと第2圧縮室Vbとが連通することによって、圧縮室の容積の増大による膨張行程が生じるように図示されているが、実際には、図8に示すP−θ線図で示すように膨張行程の発生が抑制される。なお、図8では、実際のP−θ線図を太実線(P2)および太破線(P1)で示し、図7(b)に示すP−θ線図を細実線(P2´)および細破線(P1´)で示している。
この理由について説明すると、本実施形態の固定歯部22bには、その巻き始め端部22jに歯逃がし部22kを設けているので、圧縮工程の完了から歯逃がし範囲Nまでの間は、圧縮室V内に存する高圧冷媒が、歯逃がし部22kを介して、360°遅角した位置に存する第1圧縮室Va(次回、冷媒を吐出する第1圧縮室Va)に漏れる。
これにより、第1圧縮室Vaにおける冷媒の圧力が上昇することで、第2圧縮室Vbとの圧力差が縮小されるので、第1圧縮室Vaと第2圧縮室Vbとが合流する際、膨張行程の発生が抑制されることとなる。
ここで、歯逃がし部22kから漏れる高圧冷媒によって第1圧縮室Va内の冷媒が昇圧される範囲は、旋回スクロール21の回転角度θ´が合流基準角度θoから合流基準角度θoに対して歯逃がし範囲N°遅角した範囲(θo−N≦θ´≦θo)となる。
このため、第1圧縮室Vaにおける圧縮開始のタイミングを歯逃がし部22kから高圧冷媒が漏れる範囲に設定する構成、すなわち、サブバイパスポート22gが歯逃がし部22kから高圧冷媒が漏れる範囲で閉鎖される構成とすることによって、歯逃がし部22kから高圧冷媒によって、第1圧縮室Va内の冷媒を昇圧させることができる。一方、第2圧縮室Vbにおいては、歯逃がし部22kの冷媒が漏れる影響を低減することができる。
なお、本実施形態のサブバイパスポート22gは、旋回スクロール21が合流基準角度に進角した角度で閉鎖されるように形成されているので、歯逃がし部22kから高圧冷媒によって、第1圧縮室Va内の冷媒を昇圧させることができる。
以上説明した本実施形態の構成によれば、可変容量動作時において、各圧縮室Va、Vbにおける吸入室22eと連通するタイミングをずらしているので、圧縮開始時における各圧縮室Va、Vb内の容積が異なる容積となり、各バイパスポート22g、22hを旋回中心Oに対して対称となる位置に設ける構成に比べて、可変容量動作時における圧縮工程を長くすることができる。
特に、本実施形態では、メインバイパスポート22hをサブバイパスポート22gに対して近い位置に設けるので、可変容量動作時に一対の圧縮室Va、Vbにおける一方の容積と他方の容積との差を拡大することができ、可変容量作動時における圧縮工程を充分に長くすることができる。
従って、可変容量動作時において、圧縮過程における流体の圧縮が緩やかとなり、各圧縮室Va、Vbからの冷媒漏れを抑制することができる。この結果、可変容量動作時の圧縮効率低下を抑制することが可能となる。
ここで、可変容量式スクロール型圧縮機では、可変容量動作時の効率悪化がないものと仮定した場合、図10に示すように、固定容量式スクロール型圧縮機に比べて、年間で必要となされる動力(年間積算動力)を約25%低減することができる。なお、図10は、可変容量式スクロール型圧縮機と固定容量式スクロール型圧縮機の年間積算動力を説明する説明図であり、車両用空調装置の冷房能力を同一とした条件におけるシミュレーション結果である。
また、図11に示すように、固定容量式スクロール型圧縮機の年間積算動力に対する可変容量式スクロール型圧縮機の年間積算動力の年間動力比(%)は、可変容量式スクロール型圧縮機の中間容量(可変容量動作時の圧縮機の吐出容量)が小さいほど低下し、可変容量式スクロール型圧縮機における省動力効果が大きくなる。なお、図11は、固定容量式スクロール型圧縮機の年間積算動力に対する可変容量式スクロール型圧縮機の年間積算動力の動力比と、可変容量式スクロール型圧縮機の中間容量との関係を説明する説明図である。
しかしながら、可変容量式スクロール型圧縮機の中間容量が小さくなりすぎると(例えば、40%以下)、圧縮工程を短縮することになるので、圧縮機10の圧縮効率が悪化してしまうという背反がある。
これに対して、本実施形態の圧縮機10によれば、図12に示すように、中間容量が小さくなったとしても、各バイパスポート22g、22hを旋回中心Oに対して対称となる位置に設けた従来の圧縮機に比べて、圧縮効率が高くなる。なお、図12は、圧縮機10の中間容量と圧縮効率との関係を説明する説明図である。
特に、メインバイパスポート22hを、サブバイパスポート22gに対して、−90°以上、かつ90°以下の相対角度の範囲に設ける構成とした場合には、従来に比べて充分な圧縮効率を得ることができる。例えば、本実施形態の圧縮機10の中間容量を約50%にした場合の圧縮効率は、従来の圧縮機にて中間容量を約65%にした場合の圧縮効率と同等となる。
このように、本実施形態の圧縮機10では、圧縮効率の低下を抑制しつつ、可変容量式スクロール型圧縮機における省動力効果を向上させることができる。
また、本実施形態の固定スクロール22の固定歯部22bは、その巻き終り端部22iを、旋回スクロール21の旋回歯部21bの巻き終り端部21d側まで延長する構造(所謂、非対称渦巻構造)としている。これにより、圧縮機10の中間容量を小さくするのではなく、最大容量動作時の吐出容量を大きくすることで、最大容量動作時の吐出容量に対する中間容量の相対的な比率を低下させることができる。この結果、圧縮効率の低下を充分に抑制しつつ、可変容量式スクロール型圧縮機における省動力効果の向上を図ることができる。
ところで、各バイパスポート22g、22hを旋回中心Oに対して対称となる位置に設ける場合、開閉手段27を構成するシリンダボア27aを旋回中心O付近に設けられた冷媒吐出ポート22fを避けて設ける必要があり、開閉手段27の構成が複雑化する虞がある。
これに対して、本実施形態では、メインバイパスポート22hが、第2の仮想線L2よりもサブバイパスポート22g側に開口しているので、開閉手段27のシリンダボア27aを、冷媒吐出ポート22fを避けて設ける必要がない。このため、各バイパスポート22g、22hを開閉する開閉手段27を簡素な構成で実現することが可能となる。
さらに、本実施形態では、各バイパスポート22g、22hそれぞれを、吸入室22e付近に設ける構成としているので、加熱された冷媒が各バイパスポート22g、22hを介して吸入室22eに戻り易くなる。この結果、圧縮機10における吸入冷媒の密度低下の影響が小さくなり、圧縮機10の性能低下を抑制することが可能となる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図13に基づいて説明する。図13は、本実施形態の圧縮機10の作動を説明する説明図である。なお、図13は、第1実施形態の図9に対応する図面である。
上述の第1実施形態では、メインバイパスポート22hを第1の仮想線L1と第3の仮想線L3とが一致する位置に設け、サブバイパスポート22gとメインバイパスポート22hを別個独立した孔で構成している。これに対して、本実施形態では、サブバイパスポート22gとメインバイパスポート22hを共通の孔で構成している点が第1実施形態と相違している。本実施形態では、第1実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
本実施形態では、図13に示すように、固定基板部22aにおける冷媒戻し通路22lから約360°内側の位置に1つの丸孔を形成し、この丸孔における旋回スクロール21の内周側に位置する部位をサブバイパスポート22gとし、旋回スクロール21の外周側に位置する部位をメインバイパスポート22hとしている。
このような構成であっても、第1実施形態と同様に、可変容量動作時において、圧縮過程における流体の圧縮が緩やかとなり、各圧縮室Va、Vbからの冷媒漏れを抑制することができるので、可変容量動作時の圧縮効率低下を抑制することが可能となる。
また、本実施形態のように、各バイパスポート22g、22hを1つの丸孔で構成する場合、圧縮機10の製造段階において、バイパスポートの加工を容易なものとすることができるので、製造コストの低減を図ることが可能となる。
但し、このような構成では、圧縮機10の最大容量動作時において、圧力差がある一対の圧縮室Va、Vbが連通してしまう。このため、圧縮機10の最大容量動作時に固定基板部22aの丸孔を閉鎖し、圧縮機10の可変容量動作時に固定基板部22aの丸孔を開放するような丸孔開閉手段を設ける必要がある。この丸孔開閉手段としては、丸孔内を圧縮機10の軸方向に摺動する弁体等で構成すればよい。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図14および図15に基づいて説明する。図14は本実施形態の圧縮機10の軸方向断面図であり、図15は図14のB−B断面図である。
本実施形態の圧縮機10は、各スクロール21、22における外周側に形成される圧縮室Vが内周側に形成される圧縮室Vに比べて容積が大きくなるように構成されている点が第1、第2実施形態と相違している。本実施形態では、第1、第2実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
図14、図15に示すように、本実施形態の固定基板部22aには、固定歯部22bが突設された端面に、固定歯部22bの渦巻き方向に沿って冷媒吐出ポート22f側で高く、外周部22c側で低くなるように段部22mが形成されている。なお、固定基板部22aは、段部22mによって、旋回スクロール21の旋回基板部21aに対向する部位が、冷媒吐出ポート22f側に設けられた底の浅い端面と、外周部22c側に設けられた底の深い端面とで構成される。
そして、固定歯部22bは、旋回基板部21a側に延びる先端部が、圧縮機10の軸方向に直交する方向に揃うように、外周部22c側の渦巻き高さH1が、冷媒吐出ポート22f側の渦巻き高さH2に比べて高くなるように構成されている。
一方、旋回スクロール21の旋回歯部21bは、固定基板部22a側に延びる先端部が、冷媒吐出ポート22f側に設けられた底の浅い端面、および外周部22c側に設けられた底の深い端面に当接するように、外側の渦巻き高さH1が、内側の渦巻き高さH2に比べて高くなるように構成されている。
このように、固定スクロール22の固定歯部22bおよび旋回スクロール21の旋回歯部21bそれぞれを、固定基板部22aおよび旋回基板部21aからの渦巻き高さが、渦巻きの内側に比べて外側が高くなるようにすることで、各スクロール21、22における外周側に形成される圧縮室の容積を、内周側に形成される圧縮室に比べて大きくすることができる。
ここで、固定基板部22aに形成された段部22mは、サブバイパスポート22gにおける旋回スクロールの進角方向の先端部が形成された位置に設けられている。すなわち、サブバイパスポート22gが設けられた位置に対して渦巻きの外側に形成される圧縮室の容積が、渦巻き中心側の圧縮室の容積に比べて大きくなる。このため、可変容量動作時には、容積が大きい圧縮室内の冷媒が吸入室22eに戻され、容積が小さい圧縮室内の冷媒が圧縮されることとなる。
従って、可変容量動作時における圧縮機10の吐出容量(中間容量)を小さくすることなく、最大容量動作時の圧縮機10の吐出容量が大きくなるので、最大容量動作時の圧縮機10の吐出容量に対する中間容量の比を低下させることができる。この結果、圧縮効率の低下を充分に抑制しつつ、可変容量式スクロール型圧縮機における省動力効果の向上を図ることができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
(1)上述の各実施形態のように、固定歯部22bおよび旋回歯部21bを非対称渦巻構造とする方が好ましいが、固定歯部22bの巻き終り端部22iと旋回歯部21bの巻き終り端部21dとが旋回中心Oを挟んで対向する対称渦巻構造を採用してもよい。
(2)上述の各実施形態では、固定歯部22bの巻き始め端部22jに歯逃がし部22kを形成しているが、歯逃がし部22kを旋回歯部21bの巻き始め端部21eに形成する構成としてもよい。
(3)上述の各実施形態では、各バイパスポート22g、22hの形状を長孔形状としているが、丸孔形状としてもよい。また、複数の丸孔を組み合わせて各バイパスポート22g、22hを形成してもよい。
(4)上述の各実施形態では、スプール弁体27b等によって各バイパスポート22g、22hを開閉する開閉手段を構成しているが、各バイパスポート22g、22hを開閉可能であれば、他の開閉手段を採用してもよい。
(5)上述の各実施形態では、固定スクロール22の固定歯部22bに歯逃がし部22を設ける構成としているが、旋回スクロール21の旋回歯部21bに歯逃がし部を設ける構成としてもよい。
(6)上述の各実施形態では、自転防止機構を自転防止ピン23、24およびリング部材25によって構成しているが、自転防止機構の構成はこれに限定されず、例えば、周知のオルダムリング式、ボールカップリング式等を採用することができる。
(7)本発明の可変容量式スクロール型圧縮機の適用は、Vベルト、プーリ、電磁クラッチ等の動力伝達手段を介して車両走行用エンジンにより駆動される圧縮機に限定されず、例えば、電動モータにより駆動される電動圧縮機に適用してもよい。
(8)本発明の可変容量式スクロール型圧縮機の適用は、車両用空調装置の冷媒圧縮機に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであれば、様々な装置の圧縮機として適用することができる。