以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。尚、本発明に係るスクロール型流体機械は、圧縮機あるいは膨張機として使用することができるが、ここでは圧縮機の例で説明する。
まず、本発明の第1実施形態について図1~図6により説明する。
図1は本実施形態におけるスクロール型流体機械の全体構成を示す概略の断面図であり、図2は図1のA-A矢視断面図である。図3~図6はそれぞれスクロール型流体機械の部品図であり、図3はクランクシャフトの正面図、図4は揺動部材の正面図、図5はスラスト受け部の正面図、図6は可動スクロールの背面図である。
本実施形態におけるスクロール型流体機械100は、例えば車両用空調装置の冷媒回路に組み込まれ、冷媒回路の低圧側から吸入した冷媒(流体)を圧縮して吐出する圧縮機である。このスクロール型流体機械100は、スクロールユニット1と、ハウジング10と、駆動力をスクロールユニット1に伝達する駆動機構20とを備えている。スクロールユニット1及び駆動機構20は、ハウジング10の内部に収容されている。なお、本実施形態においては、スクロール型流体機械100は、スクロールユニット1の駆動源である電動モータ30をもハウジング10内に備える。さらに、スクロール型流体機械100は、電動モータ30の駆動制御用のインバータ40をハウジング10の内部に収容されており、いわゆるインバータ一体型電動圧縮機の例で説明する。
スクロールユニット1は、図1に示すように、互いに噛み合わされる固定スクロール2及び可動スクロール3を有する。スクロール型流体機械100は、可動スクロール3が固定スクロール2に接しつつ固定スクロール2の軸心X’周りに公転旋回運動し固定スクロール2との間に前記公転旋回運動に伴って容積変化する後述する複数の密閉空間Sを形成するように構成されている。また、本実施形態では、スクロールユニット1は、密閉空間Sにより冷媒を圧縮して吐出するように構成されている。例えば、固定スクロール2及び可動スクロール3はアルミニウム合金からなる。
具体的には、固定スクロール2は、概ね円盤状に形成されると共に中心部に吐出孔2a1が開口された第1底板2aと、第1底板2aの一端面に立設される渦巻状の第1ラップ2bとを有する。可動スクロール3は、第1底板2aの前記一端面と対向する一端面を有する概ね円盤状の第2底板3aと、第2底板3aの前記一端面に立設される渦巻状の第2ラップ3bとを有する。また、固定スクロール2の第1底板2aは可動スクロール3の第2底板3aより大きな径を有する。
固定スクロール2と可動スクロール3は、第1ラップ2bと第2ラップ3bとを互いに噛み合わせるように配置される。具体的には、固定スクロール2と可動スクロール3は、第1ラップ2bの周方向の角度と第2ラップ3bの周方向の角度が互いにずれた状態で、第1ラップ2bの側壁と第2ラップ3bの側壁が互いに部分的に接触するように配設される。これにより、第1ラップ2bと第2ラップ3bとの間に、複数の密閉空間S(本実施形態では圧縮室)が形成される。つまり、複数の密閉空間Sが固定スクロール2と可動スクロール3との間に形成される。また、固定スクロール2と可動スクロール3は、第1ラップ2bの突出端部と第2底板3aとの間に隙間(以下、第1ラップ端隙間という)を有し、第2ラップ3bの突出端部と第1底板2aとの間に隙間(以下、第2ラップ端隙間という)を有するように配設される。本実施形態では、第1ラップ2bの突出端部に形成される溝部と、第2ラップ3bの突出端部に形成される溝部とに、それぞれチップシール部材4が嵌め込まれている。このチップシール部材4により、密閉空間Sの気密性が適切に維持され、その結果、スクロール型流体機械100における冷媒の圧縮性能が維持される。なお、複数の密閉空間Sについては後に詳述する。
より具体的には、固定スクロール2は、第1底板2aの前記一端面における外縁部に立設される円筒状の円筒部2cを有している。円筒部2cは、ハウジング10の後述するセンターハウジング11の一端側(図1では上側)の開口の内径に合せた外径を有している。固定スクロール2は、第1ラップ2b及び円筒部2cをセンターハウジング11の内側に向けて、センターハウジング11の一端開口を塞ぐように、センターハウジング11内に嵌め込まれている。
本実施形態において、可動スクロール3の第2底板3aの背面3a1は、平坦な平面状に形成されている。なお、第2底板3aの背面3a1は、換言すると、第2底板3aの他端面、又は、第2底板3aにおける固定スクロール2とは反対側の端面ということもできる。
可動スクロール3は、駆動機構20を介して、その自転が阻止された状態で、固定スクロール2の軸心X’周りに公転旋回運動可能に構成されている。これにより、スクロールユニット1は、固定スクロール2と可動スクロール3との間の密閉空間Sを中央部に移動させ、その容積を徐々に減少させる。その結果、スクロールユニット1は、第1ラップ2b及び第2ラップ3bの渦巻外端部側から密閉空間S内に流入する冷媒を密閉空間S内で圧縮する。
このようにして、互いに噛み合わされる固定スクロール2及び可動スクロール3を有し、可動スクロール3が固定スクロール2に対して公転旋回運動することにより、固定スクロール2と可動スクロール3との間に前記公転旋回運動に伴って容積変化する複数の密閉空間Sを形成する、スクロールユニット1が構成されている。
なお、膨張機の場合には、密閉空間Sが逆に第1ラップ2b及び第2ラップ3bの中央部から渦巻外端部へ向かって移動されることにより、密閉空間Sの容積が増大方向に変化し、第1ラップ2b及び第2ラップ3bの中央部側から密閉空間S内に取込まれた流体が膨張される。また、本実施形態において、可動スクロール3が本発明に係る「第1スクロール及び第2スクロール」のうちの「一方のスクロール」に相当し、固定スクロール2が本発明に係る「第1スクロール及び第2スクロール」のうちの「他方のスクロール」に相当し、第2底板3aが本発明に係る「一方のスクロールの底板」に相当する。
ハウジング10は、センターハウジング11と、フロントハウジング12と、インバータカバー13と、リアハウジング14と、を有する。そして、これら(11,12,13,14)がボルト15などの締結部材によって一体的に締結されてスクロール型流体機械100のハウジング10が構成される。ハウジング10は例えばアルミニウム合金からなる。
センターハウジング11は、概ね円筒状の周壁部11aと周壁部11aの長手方向中間の内周面に沿って内側に突設される環状の突設部11bとを有する。センターハウジング11の内部には、主に、スクロールユニット1、駆動機構20、電動モータ30が収容される。周壁部11aの一端部には、リアハウジング14の外縁部14aの端面が当接されている。また、周壁部11aの他端側(図1では下側)の開口はフロントハウジング12により閉止される。
周壁部11aには、冷媒が流入する低圧側ポート(吸入ポート)C1が形成されている。冷媒回路の低圧側からの冷媒は、この低圧側ポートC1を介してセンターハウジング11内に吸入される。したがって、センターハウジング11内の空間は吸入室H1として機能している。なお、冷媒が吸入室H1内で電動モータ30の周囲等を流通することにより、電動モータ30が冷却されるように構成されている。そして、図1において、電動モータ30の上側の空間は、電動モータ30の下側の空間と連通し、電動モータ30の下側の空間と共に一つの吸入室H1を構成する。また、吸入室H1内には、駆動機構20等の摺動部位の潤滑のために、適量の潤滑オイルが貯留されている。そのため、吸入室H1において、冷媒は潤滑オイルとの混合流体として流れている。
突設部11bにおけるリアハウジング14側の端面11b1は駆動機構20の後述する駆動軸21aの回転軸心Xと直交する円環状の面として形成されている。この端面11b1には、駆動機構20の後述するスラスト受け部24が当接される。このスラスト受け部24とリアハウジング14との間に、固定スクロール2が挟持されることにより、固定スクロール2がスラスト受け部24と伴にセンターハウジング11内に固定されている。
フロントハウジング12は、全体として一端開口の箱状に形成されており、センターハウジング11の周壁部11aの他端側の開口を閉止する箱底部12aと、箱底部12aの外縁部に突設される側壁部12bとを有し、内部にインバータ40を収容する。箱底部12aの中央部には、駆動軸21aの端部(図1では下端部)を支持するフロントベアリング16を保持する筒状の支持部12a1がセンターハウジング11の内側に向って突設されている。
インバータカバー13は、板状に形成され、フロントハウジング12の前記一端開口を閉止するものであり、ボルト15によりフロントハウジング12の側壁部12bに締結される。
リアハウジング14は、センターハウジング11の周壁部11aの外径に合わせた外径を有する概ね円盤状に形成され、その中央部14bが外方に膨出するように形成されている。そして、このリアハウジング14は、その外縁部14aが周壁部11aの一端部に適宜本数のボルト15などの締結部材によって締結されている。
また、リアハウジング14の外縁部14aにおける径方向の内側部位14a1は、センターハウジング11の周壁部11aの内周面より内側に張り出している。この内側部位14a1が固定スクロール2の第1底板2aの外縁部に当接することにより、固定スクロール2がスラスト受け部24とリアハウジング14(詳しくは、内側部位14a1)との間に挟持される。リアハウジング14の膨出形成された中央部14bと第1底板2aとにより、冷媒の吐出室H2が区画される。固定スクロール2におけるリアハウジング14の内側部位14a1との当接部位(前記外縁部)には、シール部材17が設けられている。吐出室H2は第1底板2aの中心部に形成された吐出孔2a1を経由して密閉空間Sに連通する。そして、この吐出室H2には、一方弁18が吐出孔2a1の開口を覆うように設けられている。この一方弁18は、吐出室H2から密閉空間Sへの流れを規制する逆止弁である。吐出室H2内には、密閉空間Sで圧縮された冷媒が吐出孔2a1及び一方弁18を介して吐出される。吐出室H2内の圧縮冷媒はリアハウジング14に形成される吐出ポート(図示省略)を介して冷媒回路の高圧側に吐出される。
駆動機構20は、可動スクロール3の自転を阻止すると共に可動スクロール3に固定スクロール2の軸心X’周りの公転駆動力を伝達するための機構である。
図1及び図2に示すように、本実施形態において、駆動機構20は、クランクシャフト21と、旋回軸受22と、環状の揺動部材23と、スラスト受け部24と、自転阻止機構部25と、リアベアリング26と、連結ピン25aと、を含む。
図1及び図3に示すように、クランクシャフト21は、スクロールユニット1を駆動するためのシャフトであり、駆動軸21aと偏心軸21bとを有する。駆動軸21aは、回転軸心X周りに回転駆動される。駆動軸21aの回転軸心Xは固定スクロール2の軸心X’に合わせられている。偏心軸21bは駆動軸21aの軸方向の一端部(図1では上端部)に回転軸心Xに対して偏心して設けられる。クランクシャフト21は例えば合金鋼からなる。
駆動軸21aの前記一端部には、フランジ状に形成されたフランジ部21a1が偏心軸21bと一体に設けられている。駆動軸21aの他端部は、縮径され、支持部12a1に嵌合されるフロントベアリング16によって回転可能に支持されている。
本実施形態では、偏心軸21bと一体に形成されたフランジ部21a1に、可動スクロール3に対する重量バランスを確保するためのカウンターウェイト27がクランクシャフト21と別体で形成されている。カウンターウェイト27は、フランジ部21a1にリベットなどの締結部材(図示省略)により固定されている。具体的には、カウンターウェイト27は、概ね扇状に形成されており、駆動軸21aの前記一端部において、フランジ部21a1の外周部における所定角度部位に、フランジ部21a1のフランジ面と概ね面一になるように固定されている。
偏心軸21bは、具体的には、駆動軸21aの回転軸心Xに対して偏心した軸心を中心とした円形断面を有し、スクロールユニット1側に向って延伸している。
本実施形態では、偏心軸21bには、回転軸心Xと同心の円形孔21b1が形成されている。つまり、偏心軸21bの外径の中心は、駆動軸21aの回転軸心Xに対して偏心した軸心上に位置するが、偏心軸21bの内径の中心は、駆動軸21aの回転軸心X上に位置している。換言すると、偏心軸21bは筒状に形成されており、筒外径の中心は、固定スクロール2の第1ラップ2b及び可動スクロール3の第2ラップ3bが適切に摺動するように、筒内径の中心に対して偏心している。
本実施形態では、偏心軸21bは、駆動軸21aと別体で形成されている。具体的には、偏心軸21bの円形孔21b1の孔径は駆動軸21aの外径に合わせられており、偏心軸21bを貫通している。フランジ部21a1は偏心軸21bの一端部の外周に鍔状に形成されている。駆動軸21aの前記一端部が偏心軸21bの円形孔21b1にリアベアリング26の収容領域を残して圧入されることにより、偏心軸21bが駆動軸21aの前記一端部に固定されている。つまり、円形孔21b1の孔壁面と駆動軸21aの前記一端部の端面とにより、クランクシャフト21の一端部(偏心軸側端部)に、円形凹部が形成される。この円形凹部には、後述するスラスト受け部24の凸部24bが挿入される。
旋回軸受22は、偏心軸21bと嵌合する軸受であり、例えば、偏心軸21bの外周面に外嵌される軸受である。本実施形態では、旋回軸受22は、円筒状のすべり軸受からなる。旋回軸受22は、概ね偏心軸21bのフランジ部21a1のフランジ面からの突設高さに合わせた高さを有している。
揺動部材23は、旋回軸受22の外周面に外嵌される。揺動部材23は、旋回軸受22の高さに合わせた厚みを有した円盤状に形成され、例えば、アルミニウム系合金材からなる。揺動部材23の中心部には、旋回軸受22の外径に合わせた内径を有する旋回軸受用取付孔23aが開口されている。
図4に示すように、揺動部材23の外縁部における周方向に等間隔に離間した複数(図2及び図4では、6箇所)の部位には、それぞれ、後述する連結ピン25aが挿通される孔(以下では、挿通孔という)23bが貫通されている。揺動部材23は、その外縁部における各挿通孔23bの間の領域がそれぞれ径方向内側に凹むように形成されている。これにより、揺動部材23の軽量化が図られている。また、揺動部材23の外縁部の凹みは、後述するスラスト受け部24の貫通孔24aと伴に、吸入室H1からスクロールユニット1の第1ラップ2b及び第2ラップ3bの渦巻外端部付近に形成される空間H4へ冷媒(詳しくは冷媒と潤滑オイルとの混合流体)を導入するための冷媒導入通路として機能することになる。したがって、揺動部材23の外縁部の凹みにより、前記冷媒導入通路が十分に確保され、前記冷媒導入通路の圧損の低減を容易に図ることができる。そして、揺動部材23の旋回軸受用取付孔23aの孔壁面と偏心軸21bの外周面との間に、旋回軸受22が取り付けられている。旋回軸受22は、例えば、偏心軸21bの外周面と旋回軸受用取付孔23aの孔壁面のいずれか一方の面に沿って圧入されると共に、偏心軸21bの外周面と旋回軸受用取付孔23aの孔壁面のいずれか他方の面に沿って摺動可能に嵌合される。これにより、揺動部材23は、旋回軸受22を介して偏心軸21bの軸心(つまり、駆動軸21aの回転軸心Xに対して偏心した軸心)周りに回動可能に偏心軸21bに取り付けられている。なお、旋回軸受22は、偏心軸21bの外周面と旋回軸受用取付孔23aの孔壁面の双方の面に対して、それぞれ、摺動可能に嵌合されてもよい。
スラスト受け部24は、図1に示すように、可動スクロール3の第2底板3aと揺動部材23との間に設けられ、可動スクロール3の第2底板3aの背面3a1に対向し可動スクロール3からのスラスト力を受けるスラスト受け面24cを有するものである。本実施形態では、スラスト受け面24cは、第2底板3aの背面3a1と同様に、平坦な平面状に形成されている。
本実施形態では、スラスト受け部24は、ハウジング10と別体で形成されている。具体的には、スラスト受け部24は、例えば、可動スクロール3、揺動部材23及びハウジング10等に採用される材料(例えば、アルミニウム系合金)よりも良好な耐摩耗性を有する鋼材等の適宜の部材からなる。スラスト受け部24は、センターハウジング11の前記一端側(図1では上側)の開口の内径に合せた外径を有した概ね円盤状に形成されている。スラスト受け部24における揺動部材側端面(つまり、スラスト受け面24cとは反対側の端面)はセンターハウジング11の突設部11bの端面11b1に当接している。スラスト受け部24は、例えば、その外縁部が固定スクロール2の円筒部2cの先端面と突設部11bの端面11b1との間に挟持されることにより、センターハウジング11内に固定される。固定スクロール2に対するスラスト受け部24の周方向についての角度位置は、図示省略したピン及びピン穴等の適宜の位置決め手段により定められている。
本実施形態では、センターハウジング11内の空間は、スラスト受け部24により、スクロールユニット1の収容領域(図1では、上側の空間)とクランクシャフト21を含む駆動機構20の主要な構成要素の収容領域(図1では、下側の空間)とに区画される。また、クランクシャフト21は、スラスト受け部24とフロントベアリング16によって回転軸心X方向の遊び量が規制されている。
図1及び図5に示すように、スラスト受け部24の外縁部には、当該外縁部を貫通する複数の貫通孔24aが開口されている。本実施形態では、貫通孔24aは、円形に開口され、スラスト受け部24の外縁部における周方向に等間隔に離間した複数(図5では、6箇所)の部位に開口されている。
本実施形態では、スラスト受け部24の揺動部材側端面の中央部位に、円柱状の凸部24bが突設されている。凸部24bはリアベアリング26の内径に合せた外径を有する。凸部24bの突出高さは、概ね旋回軸受22の高さに合わせられている。凸部24bの外周面には、リアベアリング26が外嵌される。
また、スラスト受け部24の貫通孔24aは、前述したように、空間H4へ冷媒を導入するための冷媒導入通路として機能する。この貫通孔24aは、空間H4と吸入室H1との間を連通しているので、空間H4内の圧力は吸入室H1内の圧力(吸入室内圧力)と等しい。
図1及び図6に示すように、可動スクロール3の第2底板3aの外縁部には、複数の孔3cが開口されている。この可動スクロール3の孔3cは、揺動部材23に開口される挿通孔23bの開口位置と同一の位置に開口されている。
図7及び図8は、所定の公転旋回角度位置(以下では、位相角という)における可動スクロール3の噛合状態を説明するための概念図であり、図7は要部縦断面図、図8は図7に示すB-B矢視断面図である。図7及び図8に示す要部の形状は図1のものと完全に一致していない。図1では、図の簡略化のため第1ラップ2b及び第2ラップ3bの数を減じて図示されている。また、図1に示す可動スクロール3の位相角と図7及び図8に示す可動スクロール3の位相角は異なる。図7及び図8では、図の簡略化のため可動スクロール3の孔3cは図示省略されている。
図7に示すように、スクロール型流体機械100は、可動スクロール3の第2底板3aにおける固定スクロール2とは反対側(つまり、背面3a1側)に形成される背圧室H3を備えている。スクロール型流体機械100は、可動スクロール3を背圧室H3内の圧力(背圧室内圧力)により固定スクロール2側に向けて押圧しつつスクロールユニット1を回転させる。
背圧室H3は、可動スクロール3の第2底板3aにおける背面3a1と、スラスト受け部24のスラスト受け面24cと、背面3a1とスラスト受け面24cとの間において多重の環状に配置される複数(図では三個)の環状シール部材19とにより複数の領域(図では三領域)に区画されている。背圧室H3は、当該背圧室H3内の圧力より低圧の領域との連通が遮断されている。つまり、スクロール型流体機械100では、背圧室H3と吸入室H1とが直接的に連通しておらず、背圧室H3内の圧力を逃がすための逃がし通路(放圧通路)が積極的に設けられていない。
図7及び図8に示すように、可動スクロール3の第2底板3aをその板厚方向に貫通する貫通孔3dが前記複数の領域のそれぞれの領域に対応して開口されている。また、背圧室H3の前記複数の領域のそれぞれの領域は、当該領域に対応する貫通孔3dを介して、複数の密閉空間Sのうち当該貫通孔3dが開口(接続)する密閉空間Sに連通している。
本実施形態では、複数の環状シール部材19は、環状の内側シール部材19aと、内側シール部材19aの外側に環状に配置される外側シール部材19cと、内側シール部材19aと外側シール部材19cとの間に環状に配置される中間シール部材19bとからなる。各シール部材19a,19b,19cは、可動スクロール3の第2底板3aの背面3a1に形成される対応する溝部3eに嵌め込まれ、可動スクロール3の軸心周りに同心状に配置されている。
具体的には、図6に示すように、内側シール部材19a用の溝部3eと中間シール部材19b用の溝部3eは、それぞれ円形環状に形成されている。外側シール部材19c用の溝部3eは、可動スクロール3が固定スクロール2の軸心X’周りに公転旋回運動する際に、スラスト受け部24における複数の貫通孔24aの領域と重複しないように形成されている。つまり、外側シール部材19c用の溝部3eは、可動スクロール3の第2底板3aの背面3a1における貫通孔24aの移動領域に対応する部位を避けて内側に湾曲するように形成されている。各シール部材19a,19b,19cは対応する溝部3eに合わせた形状でそれぞれ形成されている。
本実施形態では、背圧室H3は、図7に示すように、内側シール部材19aの内側の中心領域H3aと、内側シール部材19aと中間シール部材19bとの間の中間領域H3bと、中間シール部材19bと外側シール部材19cとの間の外側領域H3cとに区画されている。つまり、前記複数の領域とは、中心領域H3aと中間領域H3bと外側領域H3cである。
また、背面3a1の各溝部3eに嵌め込まれた状態の各シール部材(19a,19b,19c)は、背面3a1から所定突出高さ分だけはみ出す。そして、溝部3eに嵌め込まれた各シール部材(19a,19b,19c)は、背面3a1に押圧されてつぶし代の分だけ変形し、この状態で、背面3a1から僅かにはみ出している。したがって、背圧室H3は、各シール部材(19a,19b,19c)のつぶし代に応じた僅かな隙間高さを有する。前記隙間高さは、例えば、1~200μm程度になるように設定されている。
図7及び図8に示す状態(位相角)では、固定スクロール2と可動スクロール3との間には、複数の密閉空間Sとして、中心空間Saと、中心空間Saを間に挟むように互いに対向する一対の三日月状の中間空間Sb1,Sb2と、中心空間Sa及び一対の三日月状の中間空間Sb1,Sb2を間に挟むように互いに対向する一対の三日月状の外側空間Sc1,Sc2とが形成されている。そして、貫通孔3dは、前記複数の領域としての中心領域H3a、中間領域H3b、外側領域H3cのそれぞれの領域(H3a,H3b,H3c)に対応して開口されている。各貫通孔3dは、例えば、全体として概ね一列になるように配置されている。図7及び図8に示す状態では、第2底板3aにおける内側シール部材19a用の溝部3eの内側の部位に開口された貫通孔3dは中心領域H3aと中心空間Saとの間を連通している。第2底板3aにおける内側シール部材19a用の溝部3eと中間シール部材19b用の溝部3eとの間の部位に開口された貫通孔3dは中間領域H3bと一対の中間空間Sb1,Sb2のうちの一方(図8では下側の中間空間Sb2)との間を連通している。第2底板3aにおける中間シール部材19b用の溝部3eと外側シール部材19c用の溝部3eとの間の部位に開口された貫通孔3dは外側領域H3cと一対の外側空間Sc1,Sc2のうちの一方(図8では上側の外側空間Sc1)との間を連通している。
自転阻止機構部25は、可動スクロール3の自転を阻止するための機構である。本実施形態では、自転阻止機構部25は、スラスト受け部24の外縁部を貫通する前述した複数の貫通孔24aと、貫通孔24aを貫通すると共に揺動部材23の外縁部と可動スクロール3の第2底板3aの外縁部との間を連結する連結ピン25aとにより構成されている。連結ピン25aは、その中間部が貫通孔24aの孔壁面に摺接することにより、可動スクロール3の自転を阻止すると共に可動スクロール3の前記公転駆動力を可動スクロール3に伝達する。つまり、本実施形態では、連結ピン25aは、前記公転駆動力の伝達機能と可動スクロール3の自転阻止機能とを兼ね備えている。揺動部材23における挿通孔23b及び可動スクロール3における孔3cは、貫通孔24aに対応した位置に形成されている。貫通孔24aの内径は、挿通孔23b及び孔3cの内径より大きく、例えば、可動スクロール3の必要とする公転旋回半径に応じて定められる。連結ピン25aは、例えば、スラスト受け部24と同様に鋼材からなり、貫通孔24aより小径の円柱状に形成されている。このようにして、連結ピン25aの中間部が貫通孔24aの孔壁面に摺接することにより、可動スクロール3の自転を阻止する自転阻止機構部25が構成されている。また、自転阻止機構部25を備える駆動機構20は、連結ピン25aを有し、当該連結ピン25aを介して前記公転駆動力を可動スクロール3に伝達している。
本実施形態では、連結ピン25aの一端部は、揺動部材23の外縁部に形成される孔である挿通孔23bに圧入され、連結ピン25aの他端部は、可動スクロール3の外縁部に形成される孔3cに遊嵌されている。可動スクロール3は、連結ピン25aにより揺動部材23と連結されることにより、揺動部材23と一体に結合される。
リアベアリング26は、スラスト受け部24の凸部24bの外周面と偏心軸21bの円形孔21b1の内周面との間に嵌め込まれ、クランクシャフト21における一端部である偏心軸21bを回転軸心X周りに回転可能に支持する軸受である。リアベアリング26は、例えば、リアベアリング26の外周面が円形孔21b1の内周面に対して摺動すると共に、リアベアリング26の内周面が凸部24bの外周面に対して摺動可能に、凸部24bの外周面と円形孔21b1の内周面との間に嵌め込まれている。リアベアリング26は、例えば、旋回軸受22と同様に円筒状のすべり軸受からなる。これにより、クランクシャフト21における前記一端部(偏心軸側端部)は、リアベアリング26により回転可能に支持され、クランクシャフト21における他端部(インバータ側端部)は、支持部12a1に嵌合されるフロントベアリング16によって回転可能に支持され、クランクシャフト21の両端部がハウジング10内において回動可能に支持される。また、クランクシャフト21の前記一端部はスラスト受け部24の凸部24bを介して回転可能に支持されている。つまり、本実施形態では、クランクシャフト21における前記一端部である偏心軸21bは、スラスト受け部24によって回転軸心X周りに回転可能に支持されている。なお、リアベアリング26における円形孔21b1や凸部24bに対する径方向の合計クリアランス(つまりラジアルクリアランス)は、旋回軸受22における揺動部材23や偏心軸21bに対する径方向の合計クリアランス(ラジアルクリアランス)よりも小さくなるように設定されている。このようにして、クランクシャフト21の振れ回りを抑えると共に、組付け誤差を吸収できるように構成されている。
本実施形態では、クランクシャフト21の両端部を回動可能に支持する軸受としてのリアベアリング26とフロントベアリング16は、クランクシャフト21と共に、ハウジング10(詳しくは、センターハウジング11)の内部に収容されている。そして、ハウジング10内の空間は、前述したようにスラスト受け部24により、スクロールユニット1の収容領域と、クランクシャフト21の収容領域とに区画されており、クランクシャフト21を回動可能に支持する軸受(リアベアリング26及びフロントベアリング16)は、クランクシャフト21の前記収容領域内に配置されている。
そして、本実施形態では、複数の環状シール部材19(内側シール部材19a,中間シール部材19b,外側シール部材19c)のうち最も外側の環状シール部材(つまり、外側シール部材19c)は、クランクシャフト21の前記収容領域と背圧室H3の内部との間の連通を遮断している。
電動モータ30は、スクロールユニット1の駆動源であり、駆動軸21aの回転駆動力を発生させるものである。電動モータ30は、駆動軸21aと一体にハウジング10(詳しくは、センターハウジング11)内に備えられる。電動モータ30は、ロータ31と、ロータ31の径方向外側に配置されるステータコアユニット32とを含んで構成される。電動モータ30としては、例えば、三相交流モータが適用される。例えば車両のバッテリー(図示省略)からの直流電流が、インバータ40により交流電流に変換され、電動モータ30へ給電される。
ロータ31は、その径方向中心に形成された軸孔に嵌合(例えば圧入)される駆動軸21aを介して、ステータコアユニット32の径方向内側で回転可能に支持される。インバータ40からの給電によりステータコアユニット32に磁界が発生すると、ロータ31に回転動力が作用して駆動軸21aが回転駆動される。
以上のように構成されたスクロール型流体機械100では、電動モータ30により駆動軸21aが回転駆動されると、偏心軸21bが旋回軸受22、揺動部材23と伴に固定スクロール2の軸心X’周りに公転し、この公転駆動力は、連結ピン25aを介して可動スクロール3へ伝達される。このとき、可動スクロール3は、連結ピン25aを介して揺動部材23と一体に結合されて、揺動部材23と一体的に公転旋回運動する。スクロール型流体機械100は、この公転旋回運動により、固定スクロール2と可動スクロール3との間の密閉空間Sに流入する冷媒を圧縮する。
次に、スクロール型流体機械100における冷媒の流れを説明する。
冷媒回路の低圧側からの冷媒は、低圧側ポートC1を介して吸入室H1に導入され、電動モータ30を冷却しつつ、揺動部材23側に向って流れる。揺動部材23側に導かれた冷媒は、その後、冷媒導入通路としての貫通孔24aや揺動部材23の外縁部の凹みを介してスクロールユニット1の渦巻外端部付近の空間H4に導かれる。そして、空間H4内の冷媒は、第1ラップ2bと第2ラップ3bとの間の密閉空間S内に取り込まれ、この密閉空間S内で圧縮される。圧縮された冷媒は、吐出孔2a1及び一方弁18を経由して吐出室H2に吐出され、その後、吐出室H2から図示省略した吐出ポートを介して冷媒回路の高圧側に吐出される。つまり、本実施形態では、低圧側ポートC1からハウジング10内の電動モータ30の周囲に流入した冷媒は、貫通孔24aを経由して、固定スクロール2の第1ラップ2b及び可動スクロール3の第2ラップ3bの渦巻外端部付近に形成される空間H4へ導かれている。また、例えば、図7及び図8に示す状態(位相角)では、複数の密閉空間Sにおける外側空間Sc1内の冷媒の一部は対応する貫通孔3dを介して背圧室H3における外側領域H3cに流入し、同様に、中間空間Sb2内の冷媒の一部は対応する貫通孔3dを介して中間領域H3bに流入し、中心空間Sa内の冷媒の一部は対応する貫通孔3dを介して中心領域H3aに流入する。
図9は、可動スクロール3に作用するスラスト方向の荷重について説明するための概念図である。また、下記の表1には、図7及び図8に示す状態において、各密閉空間Sa,Sb1,Sb2,Sc1,Sc2における圧力、この圧力の作用する第2底板3aの面積、及び、圧縮反力による荷重(つまり、図中下向きの荷重)と、背圧室H3の各領域H3a,H3b,H3cにおける背圧、この背圧の作用する第2底板3aの面積、及び、背圧荷重(つまり、図中上向きの荷重)が示されている。
図9に示すように、スクロール型流体機械100は圧縮機であるため、複数の密閉空間Sの全体の圧力分布は、概ね可動スクロール3の第2底板3aの外周部から中心部に向かって上昇する分布を示す。そのため、可動スクロール3に作用するスラスト方向(回転軸心X方向)の圧縮反力は概ね可動スクロール3の第2底板3aの前記外周部から前記中心部に向かうにしたがって上昇する。また、貫通孔3dによる連通効果により、背圧室H3の全体の圧力分布は、複数の密閉空間Sの全体の圧力分布に概ね合致している。
そして、可動スクロール3には、下記の式1を概ね満たすスラスト方向の荷重が上下から作用している。ただし、Fは密閉空間Sの気密を確保するために必要な最小シール保持力である。
[式1]
Pd×A3+P2×A2+P1×A1+F=Pd×B3+P2×B2+P1×B1
したがって、可動スクロール3において、下向きの圧縮反力による荷重及び下向きの最小シール保持力Fと、上向きの背圧荷重とが概ねバランスしている。なお、P1が吸入圧Psと略等しいとみなす場合や、渦巻中央の三室(つまり、中心空間Sa及び一対の中間空間Sb1,Sb2の三室)が合体した状態(位相角)では、下記の式2が概ね満たされる。したがって、背圧室H3は、三室に限らず、二室であっても、可動スクロール3のスラスト方向の荷重アンバランスが効果的に低減される。
[式2]
Pd×A3+P2×A2+F=Pd×B3+P2×B2
本実施形態によるスクロール型流体機械100では、背圧室H3は、当該背圧室H3内の圧力より低圧の領域(圧縮機である本実施形態の場合には吸入室H1)に連通していない。つまり、背圧室H3内の圧力を逃がすための特許文献1の上記冷媒排出経路や特許文献2の上記絞り通路のような逃がし通路(放圧通路)が、スクロール型流体機械100では積極的に設けられていない。したがって、スクロール型流体機械100では、圧縮動作により得た高圧の冷媒(流体)の一部を背圧形成のために貫通孔3dを介して背圧室H3へ供給したとしても、その冷媒(流体)が背圧室H3内の圧力より低圧の領域(吸入室H1)へ垂れ流されることはない。その結果、エネルギーロスの低減を図ることができる。
本実施形態によるスクロール型流体機械100では、可動スクロール3の第2底板3aの背面3a1に作用する背圧全体の圧力分布を、第2底板3aの密閉室側端面に作用する複数の密閉空間Sの全体の圧力分布に概ね合わせることができる。また、貫通孔3dは単に第2底板3aを板厚方向に貫通しているだけであるため、従来の流路よりも流路長が短いと共にその流路経路が簡素である。したがって、貫通孔3dを介した流体としての冷媒の流通過程における圧力損失が従来よりも低くなる。これらにより、スクロール型流体機械100では、可動スクロール3に作用するスラスト方向の荷重と背圧荷重との荷重アンバランスを効果的に低減することができる。
このようにして、エネルギーロスを低減可能であると共に、スクロールユニット1における可動スクロール3のスラスト方向の荷重アンバランスを効果的に低減可能なスクロール型流体機械100を提供することができる。また、背圧室H3の圧力調整のための特別な制御弁等を必要とせず、簡素な構造で安定した背圧荷重を付与することができる。そして、適度な背圧により、可動スクロール3の第2底板3aの背面3a1とスラスト受け面24cとの摺動抵抗が低減され、動力損失が低減され、効率が向上する。
本実施形態では、第2底板3aの背面3a1及びスラスト受け面24cは、それぞれ平坦な平面状に形成されている。したがって、環状シール部材19のつぶし代に応じた高さを有する隙間により、背圧室H3が容易に形成される。また、背圧室H3は僅かな隙間により形成されている。したがって、例えば、液圧縮などの際に密閉空間(圧縮室)Sの圧力が急激に上昇した場合には、背圧室H3内の圧力は、貫通孔3dを介して密閉空間S内の急激な圧力の上昇に即時に追従する。その結果、液圧縮などの際であっても、密閉空間S内の圧力との均一化(近似化)が即時になされ、適度な背圧の維持を図ることができる。
本実施形態では、複数の環状シール部材19は、内側シール部材19aと、内側シール部材19aの外側の外側シール部材19cと、内側シール部材19aと外側シール部材19cとの間の中間シール部材19bとからなる。また、背圧室H3は、内側シール部材19aの内側の中心領域H3aと、内側シール部材19aと中間シール部材19bとの間の中間領域H3bと、中間シール部材19bと外側シール部材19cとの間の外側領域H3cとに区画されている。したがって、複数の密閉空間Sが低圧(P1:Sc1,Sc2)、中間圧(P2:Sb1,Sb2)、高圧(Pd:Sa)の空間に区分され、これらの圧力の流体(冷媒)が複数の領域(H3a,H3b,H3c)のうち厚み方向に近接する領域に供給されることになる。なお、本実施形態では、密閉空間Sは、低圧、中間圧、高圧の三つの圧力域に区分され得るラップ形状とし、これに対応して背圧室H3は三室に区分されるものとした。しかし、これに限らず、密閉空間Sは二つの圧力域に区分され得るラップ形状とし、これに対応して背圧室H3は二室に区分される構成としたり、密閉空間Sは四つ以上の圧力域に区分され得るラップ形状とし、これに対応して背圧室H3は四室以上に区分される構成としたりしてもよい。
本実施形態では、ハウジング10の内部に、スクロールユニット1とクランクシャフト21と、クランクシャフト21を回動可能に支持する軸受(リアベアリング26とフロントベアリング16)とが収容されており、ハウジング10内の空間は、スラスト受け部24により、スクロールユニット1の収容領域と、クランクシャフト21の収容領域とに区画されている。そして、クランクシャフト21を回動可能に支持する軸受は、クランクシャフト21の前記収容領域内に配置されている。つまり、クランクシャフト21用の軸受は背圧室H3の外に配置されている。したがって、背圧室H3の構造自体には軸受摺動用の潤滑油の供給を考慮する必要がない。また、背圧室H3の気密を確保するためにクランクシャフト21とこのシャフトの前記軸受との間の軸シールが不要となるため、軸シールに起因する動力損失がなくなる。
本実施形態では、具体的には、複数の環状シール部材19のうち最も外側の環状シール部材(つまり、外側シール部材19c)は、ハウジング10内におけるクランクシャフト21の前記収容領域と背圧室H3の内部との間の連通を遮断している。これにより、高圧領域(本実施形態では吐出圧Pdの領域)である背圧室H3の中心領域H3aが、低圧領域(本実施形態では吸入圧Psの領域)であるクランクシャフト21の前記収容領域に対して、少なくとも二重(本実施形態では三重)の環状シール部材19によりシールされる。したがって、背圧室H3の気密性が簡素且つ確実に確保される。
本実施形態では、駆動機構20は、スラスト受け部24の外縁部を貫通する複数の貫通孔24aと、貫通孔24aを貫通すると共に揺動部材23の外縁部と可動スクロール3の第2底板3aの外縁部との間を連結する連結ピン25aを有している。したがって、駆動軸21aが回転駆動されると、偏心軸21bが旋回軸受22及び揺動部材23と伴に固定スクロール2の軸心X’周りに公転し、この公転駆動力は、連結ピン25aを介して可動スクロール3へ伝達される。このように、可動スクロール3を固定スクロール2の軸心X’周りの公転させる公転駆動力は、連結ピン25aにより伝達されるため、公転駆動力の伝達構造に起因した可動スクロール3の第2底板3aの歪みは抑制又は防止される。
また、スクロール型流体機械100では、自転阻止機構部25の連結ピン25aは、その中間部が貫通孔24aの孔壁面に摺接することにより、可動スクロール3の自転を阻止すると共に前記公転駆動力を可動スクロール3に伝達する。このため、貫通孔24aの孔壁面における孔深さ方向の全体(つまり、本実施形態では、スラスト受け部24の厚み全体)に亘って前記孔壁面を連結ピン25aの摺接用の面として有効に用いることができる。したがって、孔深さ方向についてのデットスペースはなく、その分、ハウジング10の小型化を図ることができる。
本実施形態では、スラスト受け部24の揺動部材側端面の中央部位に、円柱状の凸部24bが突設され、偏心軸21bには、回転軸心Xと同心の円形孔21b1が形成される構成としている。そして、駆動機構20は、凸部24bの外周面と円形孔21b1の内周面との間に嵌め込まれ、クランクシャフト21における前記一端部(偏心軸側端部)を回転可能に支持するリアベアリング26を、さらに含んでいる。つまり、クランクシャフト21の前記一端部についての軸受構造は、揺動部材23を回動可能に支持する旋回軸受22の内側の領域内に集約されている。これにより、クランクシャフト21の前記一端部(換言すると、可動スクロール側端部)の軸受位置を可動スクロール3の近傍に設定することができるため、冷媒の圧縮時に生じる圧縮反力に起因してクランクシャフト21と係合する軸受に作用する回転モーメント荷重を低減することができ、当該軸受の耐久性が向上する。また、駆動機構20の主要部位(揺動部材23、旋回軸受22、偏心軸21b、リアベアリング26)は揺動部材23の外形に応じた領域内に集約されることになるため、ハウジング10の小型化やハウジング10内の空間を有効活用することができる。また、クランクシャフト21の可動スクロール側についての軸受構造は、スラスト受け部24の一部(凸部24b)とクランクシャフト21の一部(偏心軸21b)を用いて構成されている。したがって、クランクシャフト21の可動スクロール側の軸受を支持するために、ハウジング10に軸受支持部を形成する必要はなく、その結果、ハウジング10の構造が簡素化される。
本実施形態では、電動モータ30を駆動軸21aと一体にハウジング10内に備え、スクロールユニット1は密閉空間Sにより冷媒を圧縮して吐出し、ハウジング10には、冷媒が流入する低圧側ポートC1が形成される構成としている。そして、低圧側ポートC1からハウジング10内の電動モータ30の周囲に流入した冷媒は、貫通孔24aを経由して、第1ラップ2b及び第2ラップ3bの渦巻外端部付近に形成される空間H4へ導かれている。つまり、貫通孔24aは、自転阻止機構部25としての機能だけでなく、吸入室H1から空間H4へ冷媒を導入するための冷媒導入通路としての機能も有している。したがって、前記冷媒導入通路をハウジング10等に別に形成する必要がなく、スクロール型流体機械100の生産性等を向上させることができる。また、揺動部材23の外縁部の前記凹みについても冷媒導入通路としての機能を有し、貫通孔24aと同様の効果を奏する。
本実施形態では、連結ピン25aの一端部は揺動部材23の外縁部に形成される挿通孔23bに圧入され、連結ピン25aの他端部は可動スクロール3の外縁部に形成される孔3cに遊嵌されている。つまり、連結ピン25aにおける駆動側(揺動部材23側)については遊び(ピン外面と孔3cの孔壁面との隙間)を無くし、連結ピン25aにおける従動側(可動スクロール3側)については遊びを設けている。これにより、第1ラップ2b、第2ラップ3b等の製造公差は連結ピン25aの前記従動側の遊びにより吸収される。
本実施形態では、偏心軸21bは、駆動軸21aと別体で形成されている。これにより、偏心軸21bを駆動軸21aと一体に形成する場合と比較すると、容易に、クランクシャフト21を製造することができる。つまり、一体形成の場合、例えば、偏心軸21bを成形加工機等のタイムチャージの高い機械等により成形加工しなければならないところ、別体形成とすることにより、汎用機械により加工することができ、その結果、製造コストを低減することができる。
本実施形態では、スラスト受け部24は、ハウジング10と別体で形成されている。これにより、耐摩耗性の要求の高いスラスト受け部24については耐摩耗性を考慮した材料を採用し又は表面処理等を施し、ハウジング10については軽量化等を優先した材料を用いることができる。
本実施形態では、カウンターウェイト27がクランクシャフト21と別体に形成されている。これにより、カウンターウェイト27の製造コストを低減することができる。また、特許文献1に記載された従来のスクロール型流体機械では、カウンターウェイトは、可動スクロールとクランクシャフトの可動スクロール側の軸受との間において、ハウジング10の径方向に狭い空間に配置される構成であるため、カウンターウェイトの前記径方向についてのサイズを短くする必要があった。そのため、カウンターウェイトの重心位置が駆動軸の回転軸心に近くなり、その結果、必要とする重量バランス確保のためにはカウンターウェイトの重量を重くせざるを得なかった。一方、本実施形態では、カウンターウェイト27は、駆動軸21aの前記一端部において、当該カウンターウェイト27とスラスト受け部24との間に旋回軸受22が位置するように設けられている。したがって、カウンターウェイト27は、駆動軸21aの前記一端部の外周部とハウジング10(センターハウジング11)の内周面との間の広い空間に配置することができるため、カウンターウェイト27の重心位置を駆動軸21aの回転軸心Xから従来よりも遠ざけることができる。したがって、カウンターウェイト27を従来のカウンターウェイトよりも軽量化することができる。
なお、本実施形態において、クランクシャフト21の前記一端部側(偏心軸側)についての軸受構造は、揺動部材23を回動可能に支持する旋回軸受22の内側の領域内に集約される構成としたが、これに限らない、例えば、リアベアリング26に替って、クランクシャフト21の可動スクロール側端部を支持する軸受をフランジ部21a1と電動モータ30との間の領域に設け、この軸受を支持する軸受支持部をハウジング10(センターハウジング11)の内周面から張り出すように設けてもよい。また、連結ピン25aの一端部が揺動部材23の挿通孔23bに圧入され、連結ピン25aの他端部が可動スクロール3の孔3cに遊嵌されるものとしたが、これに限らず、連結ピン25aの両端部が対応する孔(挿通孔23b、孔3c)に圧入されてもよいし、適度に遊嵌されていてもよい。さらに、偏心軸21bは駆動軸21aと一体に形成されてもよいし、スラスト受け部24はハウジング10と一体に形成されてもよい。また、リアベアリング26を収容するために、偏心軸21bを貫通する円形孔21b1を設けたが、これに限らない。貫通孔24aの他に、吸入室H1と空間H4との間を連通する孔がスラスト受け部24に貫通形成されていてもよい。これにより、冷媒導入通路が増え、圧力損失がさらに軽減し、その結果、消費動力がさらに低減する。
また、本実施形態では、スクロール型流体機械100は、いわゆるインバータ一体型の場合を一例に挙げて説明したが、これに限らず、インバータ40と別体であってもよい。また、電動モータ30を内蔵するものとしたが、電動モータ30をハウジング10外に設けてもよい。そして、駆動源として電動モータ30を用いたが、これに限らず、車両のエンジンから駆動軸21aに回転動力を伝達するように構成してもよい。また、各実施形態では、流体は冷媒であるものとしたが、これに限らず、適宜の流体を適用することができる。
ここで、上記第1実施形態では、クランクシャフト21は一軸であるものとしたが、これに限らず、図10や図11に示すように、二軸であってもよい。図10は、本発明の第2実施形態を示すスクロール型流体機械100’の概略断面図であり、図11は本発明の第3実施形態を示すスクロール型流体機械100”の概略断面図である。まず、第2実施形態のスクロール型流体機械100’について、第1実施形態と同一要素には同一符号を付してあり、主に第1実施形態と異なる部分について、それぞれ簡単に説明する。
図10に示す第2実施形態にかかるスクロール型流体機械100’は、膨張機である。スクロール型流体機械100’は、互いに噛み合わされる第1スクロール及び第2スクロールの一方のスクロール(図中左側のスクロール)と他方のスクロール(図中右側のスクロール)の両スクロールが公転旋回運動可能に構成されている。つまり、前記一方のスクロールが前記他方のスクロールに対して公転旋回運動し、前記他方のスクロールが前記一方のスクロールに対して公転旋回運動する。なお、以下では、前記一方のスクロールを左スクロール2’といい、前記他方のスクロールを右スクロール3’という。
スクロール型流体機械100’では、スクロールユニット1は、左スクロール2’及び右スクロール3’の両方のスクロールが公転旋回運動することにより、左スクロール2’と右スクロール3’との間に前記公転旋回運動に伴って容積変化する複数の密閉空間Sを形成する。密閉空間Sは左スクロール2’の第1ラップ2’b及び右スクロール3’の第2ラップ3’bの中央部から渦巻外端部へ向かって移動されることにより、密閉空間Sの容積が増大方向に変化し、第1ラップ2’b及び第2ラップ3’bの中央部側から密閉空間S内に取込まれた流体が膨張される。スクロール型流体機械100’では、流体の膨張エネルギーにより左スクロール2’及び右スクロール3’が二軸のクランクシャフト21により公転旋回運動可能に支持され、この公転旋回運動が回転運動に変換されて外部へ出力されるように構成されている。
スクロール型流体機械100’では、背圧室H3は、左スクロール2’の底板2’aにおける右スクロール3’とは反対側と、右スクロール3’の底板3’aにおける左スクロール2’とは反対側とに形成される。左スクロール2’用の背圧室H3は、左スクロール2’の底板2’aにおける背面2’a1と、この背面2’a1に対向し左スクロール2’からのスラスト力を受けるスラスト受け面24c’と、背面2’a1とスラスト受け面24c’との間において多重の環状に配置される複数の環状シール部材19とにより複数の領域に区画されている。右スクロール3’用の背圧室H3は、右スクロール3’の底板3’aにおける背面3’a1と、この背面3’a1に対向し左スクロール2’からのスラスト力を受けるスラスト受け面24c’と、背面3’a1とスラスト受け面24c’との間において多重の環状に配置される複数の環状シール部材19とにより区画されている。背圧室H3は、当該背圧室H3内の圧力より低圧の領域との連通が遮断されている。つまり、スクロール型流体機械100’では、背圧室H3と膨張した低圧の流体の排出領域とが直接的に連通しておらず、背圧室H3内の圧力を逃がすための逃がし通路(放圧通路)が積極的に設けられていない。
背面2’a1、背面3’a1、各スラスト受け面24c’は、それぞれ平坦な平面状に形成されている。各スラスト受け面24c’はハウジング10の内面により構成されている。
第2実施形態では、左スクロール2’用の環状シール部材19は同心状に二つ設けられ、左スクロール2’用の背圧室H3は二つの領域に区画されている。左スクロール2’の底板2’a用の貫通孔3dは、板厚方向に貫通し、前記二つの領域のそれぞれの領域に対応して開口されている。左スクロール2’において前記二つの領域のそれぞれの領域は、当該領域に対応する貫通孔3dを介して、前記複数の密閉空間Sのうち当該貫通孔3dが開口する密閉空間Sに連通している。
また、右スクロール3’用の環状シール部材19も同心状に二つ設けられている。右スクロール3’の底板3’aの中央部及びハウジング10におけるスラスト受け面24c’の形成部位には、流体としての高圧ガスの導入ポートC1’が開口されている。右スクロール3’用の二つの環状シール部材19のうちの内側の環状シール部材19は、導入ポートC1’を囲むように配置されている。右スクロール3’用の背圧室H3は内側の環状シール部材19と外側の環状シール部材19との間に一つの領域として区画されている。右スクロール3’の底板3’a用の貫通孔3dは、板厚方向に貫通し、前記一つの領域に対応して開口されている。右スクロール3’において前記一つの領域は、貫通孔3dを介して、前記複数の密閉空間Sのうち当該貫通孔3dが開口する外周部の密閉空間Sに連通している。
クランクシャフト21は、互いに平行に配置されるメインシャフト21’とサブシャフト21”の二軸からなる。クランクシャフト21は、流体の膨張エネルギーを外部へ出力するため、つまり、スクロールユニット1からの動力を出力するための出力軸として機能する。メインシャフト21’及びサブシャフト21”は、スクロールユニット1の外周部を貫通するようにそれぞれ配置されている。メインシャフト21’は、二つの第1軸受51によりハウジング10内で回転可能に支持されている。サブシャフト21”は、二つの第2軸受52によりハウジング10内で回転可能に支持されている。メインシャフト21’及びサブシャフト21”の一端部はそれぞれハウジング10を貫通している。ハウジング10におけるメインシャフト21’及びサブシャフト21”の貫通部位には、軸シール53がそれぞれ設けられている。メインシャフト21’の一端部にはプーリ60が取付けられている。このプーリ60を介してスクロールユニットからの動力が外部に出力(伝達)される。ハウジング10外において、メインシャフト21’の一端側とサブシャフト21”の一端側は、両シャフトの挙動補正用のタイミングベルト61により連結されている。図では、第1軸受51及び第2軸受52として、転がり軸受が示されているが、これに限らず、すべり軸受でもよい。
二つの第1軸受51の間においてメインシャフト21’における左スクロール2’及び右スクロール3’の貫通部位には、メインシャフト21’の回転軸心に対して偏心した円柱状の第1偏心部54がそれぞれ設けられている。また、二つの第2軸受52の間においてサブシャフト21”における左スクロール2’及び右スクロール3’の貫通部位には、サブシャフト21”の回転軸心に対して偏心した円柱状の第2偏心部55がそれぞれ設けられている。二つの第1偏心部54は互いに位相を180異ならせて偏心され、二つの第2偏心部55も互いに位相を180異ならせて偏心されている。また、二つの第1偏心部54の位相と二つの第2偏心部55の位相はタイミングベルト61により互いに合わせられている。
二つの第1偏心部54の外周面と左スクロール2’及び右スクロール3’の貫通部位の孔内壁面との間には、それぞれ第1偏心軸受56が設けられている。また、二つの第2偏心部55の外周面と左スクロール2’及び右スクロール3’の貫通部位の孔内壁面との間にも、それぞれ第2偏心軸受57が設けられている。図では、第1偏心軸受56及び第2偏心軸受57として、転がり軸受が示されているが、これに限らず、すべり軸受でもよい。二つの第1軸受51及び二つの第1偏心軸受56により、左スクロール2’が右スクロール3’に対して公転旋回半径r0で公転旋回運動可能に支持され、二つの第2軸受52及び二つの第2偏心軸受57により、右スクロール3’が左スクロール2’に対して公転旋回半径r0で公転旋回運動可能に支持されている。つまり、一方のスクロール(左スクロール2’又は右スクロール3’)が他方のスクロール(右スクロール3’又は左スクロール2’)に対して公転旋回半径r0で公転旋回運動する。ここで、メインシャフト21’の第1偏心部54以外の部位の直径d1と第1偏心部54の直径d2とは、d2=d1+r0の関係を満たし、サブシャフト21”の第2偏心部55以外の部位の直径d3と第2偏心部55の直径d4とは、d4=d3+r0の関係を満たしている。換言すると、左スクロール2’はメインシャフト21’の回転軸心に対してr0の半分の公転旋回半径で公転旋回運動し、右スクロール3’はサブシャフト21”の回転軸心に対してr0の半分の公転旋回半径で公転旋回運動する。したがって、複数の密閉空間Sの全体積が一軸構造の場合と同じであるものとすると、各シャフト21’,21”に対する各スクロール2’,3’が一軸構造における公転旋回半径の半分となる。このため、各スクロール2’,3’の公転旋回運動により発生する遠心力が一軸構造の遠心力の半分となり、スクロールユニット1の軸受構造への負荷が一軸構造の場合よりも低くなる。したがって、一軸構造よりも、許容負荷が小さい軸受構造を採用することができる上、遠心力による各スクロール2’,3’の変形も低減することができる。また、高速の公転旋回運動にも耐え得るスクロールユニット1を提供することができる。
また、左スクロール2’及び右スクロール3’は、メインシャフト21’に二つの第1偏心部54を介して互いに180°位相を異ならせて連結され、サブシャフト21”に二つの第2偏心部55を介して互いに180°位相を異ならせて連結されている。このため、左スクロール2’及び右スクロール3’自体がカウンターウェイトとなり、別途カウンターウェイトを設ける必要はない。また、メインシャフト21’及びサブシャフト21”自体が左スクロール2’及び右スクロール3’の自転防止機構となるため、別途自転防止機構を設ける必要はない。そして、左スクロール2’及び右スクロール3’は、メインシャフト21’とサブシャフト21”との間に配置されており、自転防止機構としては従来のいわゆるピン&ホール方式の自転防止機構と比較するとスクロールユニットの中央部から遠く離れた位置に配置されている。したがって、各軸受51,52,56,57におけるラジアルクリアランスを考慮しても、スクロールユニット1内におけるラップの角度ズレ(位相ズレ)が従来のピン&ホール方式における角度ズレよりも少ない。
また、第2実施形態では、第1実施形態と同様に、ハウジング10の内部に、スクロールユニット1と、スクロールユニット1からの動力を出力するためのクランクシャフト21と、クランクシャフト21を回動可能に支持する軸受(51,52,56,57)が収容されている。また、軸受(51,52,56,57)は、背圧室H3の外に配置されている。したがって、背圧室H3の構造自体には軸受摺動用の潤滑油の供給を考慮する必要がないため、膨張機として特に好適なスクロール型流体機械100’を提供することができる。また、背圧室H3の気密を確保するためにクランクシャフト21とこのシャフトの前記軸受との間の軸シールが不要となるため、この軸シールに起因する動力損失がなくなる。また、複数の環状シール部材19のうち最も外側の環状シール部材(外側シール部材19c)は、ハウジング10内におけるクランクシャフト21の収容領域と背圧室H3の内部との間の連通を遮断している。これにより、背圧室H3の気密性が簡素且つ確実に確保される。
次に、スクロール型流体機械100’における冷媒の流れを説明する。
高圧ガスは、導入ポートC1’を介して渦巻中央部の密閉空間S内に導入され、この密閉空間S内で膨張する。この膨張エネルギーによる左スクロール2’及び右スクロール3’の公転旋回運動に伴って密閉空間S内のガスはさらに膨張しつつ渦巻外端部側へ移動する。膨張して低圧になったガスは、例えば、サブシャフト21”の収容領域に連通する排出ポートC2’を介して外部へ排出又は回収される。また、複数の密閉空間Sにおけるガスの一部は対応する貫通孔3dを介して板厚方向に近接する背圧室H3に流入する。
第2実施形態によるスクロール型流体機械100’においては、第1実施形態と同様に、エネルギーロスの低減を図ることができると共に、少なくとも左スクロール2’に作用するスラスト方向の荷重と背圧荷重との荷重アンバランスを効果的に低減することができる。
図11に示す第3実施形態にかかるスクロール型流体機械100”は、第1実施形態と同様に流体としての冷媒を圧縮して吐出する圧縮機であるが、クランクシャフト21は第2実施形態と同様に二軸構造である。以下では、第2実施形態のスクロール型流体機械100”について、第2実施形態と同一要素には同一符号を付してあり、主に第2実施形態と異なる部分について、それぞれ簡単に説明する。
スクロール型流体機械100”では、密閉空間Sは左スクロール2’の第1ラップ2’b及び右スクロール3’の第2ラップ3’bの中央部から渦巻外端部へ向かって移動されることにより、密閉空間Sの容積が減少方向に変化し、第1ラップ2’b及び第2ラップ3’bの中央部側から密閉空間S内に取込まれた流体が圧縮される。スクロール型流体機械100’では、流体の膨張エネルギーにより左スクロール2’及び右スクロール3’が二軸のクランクシャフト21により公転旋回運動可能に支持される。ハウジング10には、メイン駆動シャフト70がメイン軸受71を介して回転可能に支持されており、このメイン駆動シャフト70のハウジング10外に突出された一端部には、図示省略した電動モータやエンジン等の外部駆動源が接続されている。メイン駆動シャフト70の他端部には、メイン歯車80が取付けられている。
スクロール型流体機械100”では、クランクシャフト21は、第1実施形態と同様に、スクロールユニット1を駆動するための駆動軸(入力軸)として機能する。メインシャフト21’及びサブシャフト21”は、ハウジング10内に配置されている。ハウジング10内の空間は、スラスト受け部24により、クランクシャフト21及びメイン駆動シャフト70の回転軸心方向に二つの領域に区画されている。メインシャフト21’及びサブシャフト21”の一端部はそれぞれスラスト受け部24を貫通し、前記二つの領域のうちのメイン駆動シャフト70側の領域内に位置している。スラスト受け部24におけるメインシャフト21’及びサブシャフト21”の貫通部位には、第1軸受51の一方と第2軸受52の一方とがそれぞれ設けられている。メインシャフト21’及びサブシャフト21”の一端部には、メイン歯車80と噛み合うサブ歯車81がそれぞれ取り付けられている。二つの第1偏心部54の位相と二つの第2偏心部55の位相はサブ歯車81により互いに合わせられている。これにより、前記外部駆動源によりメイン駆動シャフト70が回転駆動されると、この回転力はメイン歯車80及びサブ歯車81を介してメインシャフト21’及びサブシャフト21”に伝達される。そして、伝達された回転力は、第1偏心部54及び第1偏心軸受56と第2偏心部55及び第2偏心軸受57とを介して左スクロール2’及び右スクロール3’の公転旋回力に変換される。また、メイン歯車80の歯数とサブ歯車81の歯数の比に応じて増速させることが可能であり、小型化を図ることができる。
スクロール型流体機械100”では、スクロール型流体機械100’と同様に、各スクロール2’,3’の公転旋回運動により発生する遠心力は一軸構造の遠心力の半分となり、別途カウンターウェイト及び自転防止機構を設ける必要はなく、スクロールユニット1内におけるラップの角度ズレ(位相ズレ)が従来のピン&ホール方式における角度ズレよりも少なく、複数の環状シール部材19により背圧室H3の気密性が簡素且つ確実に確保される。
次に、スクロール型流体機械100”における冷媒の流れを説明する。
冷媒回路の低圧側からの冷媒は、ハウジング10における第2偏心軸受57等が設けられる領域における周方向の所定部位に開口される低圧側ポートC1”を介して吸入室H1に導入され、スクロールユニット1の渦巻外端部付近の空間H4に導かれる。そして、空間H4内の冷媒は、第1ラップ2’bと第2ラップ3’bとの間の密閉空間S内に取り込まれ、この密閉空間S内で圧縮される。圧縮された冷媒は、右スクロール3’の底板3’aの中央部及びハウジング10を貫通する高圧側ポートC2”を介して冷媒回路の高圧側に吐出される。また、複数の密閉空間Sにおけるガスの一部は対応する貫通孔3dを介して板厚方向に近接する背圧室H3に流入する。
第3実施形態によるスクロール型流体機械100”においても、第1実施形態と同様に、少なくとも左スクロール2’に作用するスラスト方向の荷重と背圧荷重との荷重アンバランスを効果的に低減することができる。
また、スクロール型流体機械100”では、背圧室H3の気密を確保するためにクランクシャフト21とこのシャフトの前記軸受との間の軸シールが不要である上、クランクシャフト21の全体がハウジング10内に配置されているため、第2実施形態のような軸シール53も不要である。したがって、動力損失をより効果的に低減することができる。なお、例えば、第2実施形態において、クランクシャフト21を回転駆動させる電動モータをハウジング10内に収容することにより、軸シール53が不要となり、第3実施形態と同様に、動力損失が効果的に低減される。
また、第2実施形態のスクロール型流体機械100’は膨張機であるものとしたが、これに限らず、圧縮機でもよい。この場合、例えば、スクロールユニット1の出力側の構造(プーリ60及びタイミングベルト61等)に代って、第3実施形態のスクロール型流体機械100”の入力側の構造(メイン駆動シャフト70、メイン歯車80及びサブ歯車81等)の構造を適用すればよい。また、第3実施形態のスクロール型流体機械100”は圧縮機であるものとしたが、これに限らず、膨張機でもよい。この場合、例えば、スクロール型流体機械100”の入力側の構造(メイン駆動シャフト70、メイン歯車80及びサブ歯車81等)の構造に代って、第2実施形態のスクロールユニット1の出力側の構造(プーリ60及びタイミングベルト61等)を適用すればよい。
また、第2実施形態及び第3実施形態において、左スクロール2’及び右スクロール3”の両スクロールが互いに公転旋回運動するものとしたが、これに限らず、左スクロール2’又は右スクロール3”のみが公転旋回運動してもよい。
以上、本発明の好ましい実施形態について幾つか説明したが、本発明は上記実施形態及び上記変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。