JP2013044728A - 金属内部への侵入水素量の測定装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金属材料からなる被検体の一方の面を腐食環境に暴露し腐食反応により発生する水素の侵入面、他方の面を水素検出面とするとき、該水素検出面側に、複数のセル群で構成された電気化学セルを設け、該セル群の個々のセルの内部にpHが9〜13の電解質水溶液を充填すると共に、それぞれ独立した参照電極と対極を設置し、該セル群のうち少なくとも一つのセルを残余電流を補正するための基準セルとし、該基準セルの水素検出領域に対応する水素侵入面側の領域に、腐食環境との接触を遮断するための保護膜を設け、
該基準セル以外のセルで検出したアノード電流値を、該基準セルで検出した残余電流値により補正し、この補正したアノード電流値に基づいて腐食面側からの侵入水素量を算出する。
【選択図】図2
Description
鋼材に侵入する水素は、鋼板の腐食に伴って発生し、その一部が鋼材に侵入することによって引き起こされると考えられている。このような観点から、鋼材への水素侵入に着目した遅れ破壊の評価方法が種々提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、鋼中への水素侵入は陰極チャージにより強制的に水素を侵入させる加速試験であることから、実際の使用環境とは異なる条件の下で、供試材の種類による遅れ破壊発現の優劣をつけることはできるものの、実際の使用環境での腐食に伴う水素侵入量で遅れ破壊が起こるか否かを推定するための判断材料にはならない。
しかしながら、非特許文献2に開示のチオシアン酸アンモニウムを用いた水素侵入量の評価方法においては、表面の腐食による水素侵入を得られるものではなく、例えば近年自動車の防錆用途として用いられる亜鉛めっき等が水素侵入に及ぼす影響を測定できるものではない。
じかしながら、非特許文献3に開示の大気暴露試験によって得られるデータは、いずれも地勢的な特定環境と結びついた環境因子の下での試験結果にすぎず、構造体の移動に伴い変化する種々の環境下における腐食を継続的に把握することについては、考慮が払われていない。
また、非特許文献3に示された鋼板の片面を外部環境に暴露する試験装置を用いた大気暴露における水素透過試験では、環境の温度変化に伴うアノード側の残余電流の変化が考慮されていないことから、測定値の定量性にも問題があった。
しかしながら、上記した振動などの物理的要因や地勢的な環境変化が避けられない移動体について、腐食に伴う水素侵入量を継続的かつ定量的に計測した例は、これまで皆無であった。
「 金属材料の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する方法であって、被検体の片面を腐食環境に暴露し腐食反応により発生する水素の侵入面とする一方、該被検体の他面を水素検出面とし、該水素検出面側の電位を−0.1〜+0.3V vs SCEに保持した状態で該検出面に拡散してくる水素の流束をアノード電流として測定するに際し、
該被検体の水素検出面側に、少なくとも2つに分割された複数のセル群で構成された電気化学セルを配置し、該セル群の個々のセルの内部にはpHが9〜13の電解質水溶液を充填すると共に、それぞれ独立した参照電極と対極を設置し、
該セル群のうち少なくとも一つのセルを残余電流を補正するための基準セルとし、該基準セルの水素侵入面側に対応する箇所には腐食環境との接触を遮断する保護膜を設け、
該基準セル以外のセルで検出したアノード電流値を、該基準セルで検出した残余電流値により補正し、この補正したアノード電流値に基づいて腐食面側からの侵入水素量を算出することを特徴とする金属内部への侵入水素量の測定方法。」
を開発し、特許文献2において開示した。
本発明は、上掲した特許文献2に記載の「金属内部への侵入水素量の測定方法」の実施に供して好適な金属内部への侵入水素量の測定装置を提案することを目的とする。
1.金属材料からなる被検体の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する装置であって、
該被検体の一方の面を腐食環境に暴露し腐食反応により発生する水素の侵入面、他方の面を水素検出面とするとき、
該水素検出面側に、複数のセル群で構成された電気化学セルを設け、該セル群の個々のセルの内部にpHが9〜13の電解質水溶液を充填すると共に、それぞれ独立した参照電極と対極を設置し、
該セル群のうち少なくとも一つのセルを残余電流を補正するための基準セルとし、該基準セルの水素検出領域に対応する水素侵入面側の領域に、腐食環境との接触を遮断するための保護膜を設け、
該基準セル以外のセルで検出したアノード電流値を、該基準セルで検出した残余電流値により補正し、この補正したアノード電流値に基づいて腐食面側からの侵入水素量を算出することを特徴とする金属内部への侵入水素量の測定装置。
また、本発明装置を用いれば、自動車、船舶、鉄道車両などの移動体を構成する金属材料の各部位が、その使用状態で曝される腐食環境下で腐食することに伴い発生し、金属材料中に侵入する水素の量を連続的にモニタリングすることが可能となり、実際の使用環境での腐食に伴う水素侵入量で遅れ破壊が生じるか否かを判断するために必要な情報を得ることができる。
図中、符号3a,3bは参照電極、4a,4bは電極であり、特に4bは対電極または係数電極という。そして、電極4aは、定電位を付与するポテンショスタットまたは定電流を付与するガルバノスタットと接続され、一方と電極4bは、定電位を付与するポテンショスタットと接続されている。なお、5a,5bは、対電極4a,4bで発生するガス等の影響を除去するための焼結ガラスフリットである。
本来の電気化学的水素透過法は、図1に示したように、試料の片面側を陰極にして水素を電解チャージし、反対面側を陽極にして引き抜く手法であるが、これを応用して、水素チャージ面側に相当する面を腐食環境に曝すという研究が報告されている(前掲非特許文献3)。
しかしながら、非特許文献3に開示された測定方法では、温度の変化による測定電流値の変化が考慮されていないという問題があったことは、前述したとおりである。また、電気化学的水素透過法によって水素検出面側で測定されるアノード電流には、水素の酸化電流の他に、供試材の不動態保持電流が重畳されている。この不動態保持電流は、残余電流の主体をなすもので、様々な因子に影響されるが、特に温度による変化が大きい。
同図において、各セルにおける鋼板の表面温度、セル内の電解質溶液の温度等はすべて同じ温度とする。また、基準セル7aの水素侵入面側には保護膜10が設けられている。このような保護膜10で被覆された部分は腐食せず、従って水素侵入も起こらないことから、基準セルの水素検出面側で測定される電流は残余電流そのものと考えられる。
水素検出面側の表面電位を水素のイオン化反応に十分な電位に保持することで、拡散によって検出面側に到達した水素はすべて水素イオンとして取り出される。なお、本発明において、水素検出面側の鋼板の表面は不動態化されている。これにより、水素検出側で検出されるアノード電流が実質的に水素透過電流に相当すると考えることができる。
従って、かくして得られた電流値を、基準セルて求めた残余電流値で補正することにより、温度変化に伴う残余電流の変化にかかわらず、正確なアノード電流値を計測することができ、その結果、このアノード電流値に基づいて正確な侵入水素量を算出することが可能になるのである。
ここで、SCEは、飽和カロメル電極のことであり、このSCEの標準水素電極(SHE)に対 する電位は+0.244 V(vs SHE,25℃)で示される。
ただし、Ag/AgCl電極のような塩化物を含む電極を用いる場合、アノード極室溶液中へ の塩化物イオンによる汚染によって、サンプル表面の不動態が破壊されて残余電流が大きくなり、測定値が不正確になるおそれがある。
ここで、SSEは、銀−塩化銀電極のことであり、このSSEの標準水素電極(SHE)に対する電位は+0.199 V(vs SHE,25℃)で示される。
また、Niで被覆する場合は、ワット浴等の既う知のめっき浴中で陰極電解することで、Niめっきを行えばよい。Niめっきの膜厚も10〜100nmにすることが好ましい。
さらに、Niめっきの上に、PdやPd合金をめっきすることもできる。
従って、本発明の測定装置を、自動車、船舶、鉄道車両などの移動体に取り付ければ、移動体を構成する金属材料の各部位が、その使用状態で曝される環境の変化に左右されることなく、金属材料中に侵入する水素量を連続的かつ正確にモニタリングすることができる。
その結果、各種移動体にについて、それらの実際の使用環境での腐食に伴う水素侵入量で遅れ破壊が生じるか否かを的確に判断することが可能となる。
そこで、上記した溶液漏出の原因について調査した結果、低温時に内部溶液が凍結し、溶液が膨張することによって、セルが破損するためであることが明らかとなった。
本発明の特徴である移動体の金属部位内部へ侵入する水素量を正確にモニタリングするためには、冬季走行においても安定した正確な侵入水素量の測定が必要である。
一般的な市街地における走行環境下においては、移動体の発熱を考慮するとセル内部の電解液が−5℃以下になることは少ないと考えられるため、電解液の凝固点温度を−5℃以下にすれば良いと考えられる。
そして,かかる有機化合物としては、特に制限はされないものの、イソプロピルアルコールやグリセリン、エチレングリコールなどが特に好適であることが判明した。さらに、電気化学的活性の低い極性溶媒であるジメチルスルフォキシド(DMSO)やジメチルフォルモアミド(DMFA)なども有利に適合することが判明した。
ここに、かような有機化合物の好適な添加割合は、5〜30体積%程度である。また、添加量を増加するに従って凝固点はより降下する。
これらの有機化合物は、ウィンドウォッシャー液等にも充填されている有機化合物類であり、万が一漏出した場合においても環境への悪影響はほとんどない。
気泡を水素検出面に接しないように配する方法については、特に限定はされないが、例えばセル内部に気泡を入れた袋状の物を配しても良いし、図4及び図5のようなセルの内部構造とすればよい。図4,5中、符号11が気泡、12が電解液であり、13でOリングを示す。
なお、気泡の量は特に規定されないが、水の凝固における体積膨張を考慮すると、体積率で溶液の5〜15%程度とすることが好ましい。気泡に酸素が存在する場合、水素検出面のアノード反応に影響を与える為、気泡の種類は不活性ガスが好ましい。
実験は、図2に示した構造になるセル数4個(CH1〜4)の測定装置を用いて行った。被検体としては、水素検出面側にPdを厚み:100nmでめっきした板厚:1.0mmの軟鋼板を用いた。基準セルはチャンネル3(CH3)であり、このCH3の腐食面側に対応する箇所には保護膜としてステンレス箔を貼着した。各セルの腐食面側の表面に0.5M NaClを300mL 滴 下、ついで25℃,35%RH(相対湿度)で4時間以上乾燥したのち、25℃,85%RH(相対湿度 )に24時間以上保持し、その後、段階的に温度を上昇させた。水素検出面の電位は0V vs SCEに保持した。この時の温度変化および湿度変化を図6に示す。
本来、鋼板表面で腐食の起こっていない基準電極(CH3)のアノード電流密度値も、温度の上昇に伴って上昇していることが分かる。これは、水素検出面側のPdの酸化電流による残余電流が温度の上昇により増加したためと考えられる。このように、残余電流の温度依存性は、無視できないレベルである。
4Chのアノード電流密度値が他のChに比べて小さかったのは、最初に滴下した0.2M NaClの位置がずれていたために、検出面に対応する水素侵入面側の腐食面積が小さかったた めである。
そして、上記のようにして求めた透過水素電流密度値から、次式により、透過水素量(侵入水素量)を算出する。
かくして、温度変化の如何にかかわらず、正確な透過水素電流値ひいては透過水素量(侵入水素量)を検出することができる。
透過水素電流密度 iH (mA/cm2=10-6A/cm2)
単位面積当たりの透過水素量 MH(mol/scm2),mH(個/scm2)
MH = iH × 1.036×10-11 (mol/scm2),
mH = iH × 6.24×1012 (個/scm2)
実施例1で用いた測定装置を、実際に自動車に搭載し、図9に模式的に示す計測システムを構築した。4チャンネルセルの設置箇所は、a)フェンダー、b)室内、c)床下(フロア下面)の3箇所とした。バッテリー駆動のマルチチャンネルポテンショスタットを作成し、専用バッテリーと一緒にトランク内に収納した。供試材は、実施例1と同じ板厚:1.0mmの軟鋼板とし、月曜日から金曜日までの5日間、毎日、9:00〜15:00の6時間にわたって製鉄所の構内を平均時速:40km/hで走行する。なお、15:00から翌日の9:00 までは駐車場に停車する。
試験片をセットしてから初期の5日間で、各部位での腐食はまだほとんど起きておらず、図10に示したとおり、発明例のアノード電流密度は設置部位による違いは見られなかった。これに対し、比較例では、設置部位によるアノード電流密度の違いが見られた。この違いは、設置部位により、昼間の日照で温度が上昇した部位(フェンダー)と、あまり温度が上昇しなかった(床下)部位の違いと考えられる。
実測されたアノード電流密度値について、本発明に従い、基準電極による補正を行うことにより、温度変化の影響を受けることなしに正確なアノード電流密度値(透過水素電流密度値)が得られることが分かる。
使用した鋼板は商用の軟鋼板(厚さ:0.8mm)を用い、40×50mmにせん断加工を行い、両面を♯2000まで研磨した。ついで、研磨時に形成される加工層を除去するために両面を弗酸と過酸化水素水の混合液からなる水溶液により約60μm 化学研磨を行った。
(水素検出面へのめっき)
水素検出面に商用のK−ピュアパラジウムめっき液(小島化学社製)を用いて約100mmのPdめっきを行った。
(セル内の電解質水溶液)
電解質水溶液として、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液にジメチルスルフォキシド(DMSO)を種々の比率で添加したものを用い、各場合における凝固点を測定した。
(検出面側のセルの構成)
図11に示す2個のセルを有する構造のものを用い、7a,7bにあたる部位の構造を以下のように変更した。
構造A:図5に示す構造で、気泡を含まず、電解液を充填した。
構造B:図5に示す構造とし、気泡量は電解水溶液体積の15vol%とし、気泡は窒素を封入した。
セルの1つのチャンネル上にはエポキシ系樹脂及びステンレス箔を配することで温度変化を補正するために腐食をしないセルを設置した。
以上のセルを、商用の乗用車に搭載し、製鉄所内を2011年1月18日から2月2日まで15日間走行した。気象庁HPより期間中の最低気温変化を図12に示す。なお、凍結による内容液漏出を防ぐため、腐食される鋼板面以外を袋で覆った上で走行を行った。
さらに、期間終了後、No.2及びNo.4のセルを実験室に設置している−20℃の冷凍試験機内に放置し、セルの破損状態について調べた結果も、表1に併記する。
No.1は、電解液に水酸化ナトリウム水溶液のみの比較例であるが、1月27日にセルの破損による電解液の漏出が認められたものの、発明例であるNo.2〜No.4にはセルの破損は認められなかった。
また、期間1においては、鋼板表面にほとんど腐食した形跡は認められなかったため、腐食による鋼板への水素侵入はなく、電流値は検出されないはずであるが、温度補正を行わない場合、比較的大きな電流値が検出されていることが分かる。これは上述したとおり、気温変化による残余電流変化と考えられ、発明例による温度補正を行うことで、温度変化を除去できていることが分かる。
さらに、ジメチルスルフォキシド(DMSO)を添加したNo.2〜No.4と、添加していないNo.1を比較すると、その電流値に差異は認められないことから、ジメチルスルフォキシド(DMSO)を添加することによる精度への影響はないことが分かる。
次に、期間2及び期間3においては、路面水上を走行したため、鋼板の腐食が認められ、それに対応する電流密度の増加が認められたが、腐食に伴い発生し鋼板中に侵入する水素量をモニタリングできていることが分かる。
さらに、−20℃の低温環境に保持した場合、セルNo.2には破損が認められた。一方、内部に気泡を配したセルNo.4の場合には凍結は認められたもののセルの破損は認められなかった。このことから、想定を超える気温変化に対してもセル内部に気泡を配することによって、破損を抑制できることが確認された。
2 試料
3 参照電極
4 電極
4b 対電極
5 焼結ガラスフリット
6 被検体(鋼板)
7 セル
7a 基準セル
8 対極
9 参照電極
10 保護膜
11 気泡
12 電解液
13 Oリング
Claims (5)
- 金属材料からなる被検体の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する装置であって、
該被検体の一方の面を腐食環境に暴露し腐食反応により発生する水素の侵入面、他方の面を水素検出面とするとき、
該水素検出面側に、複数のセル群で構成された電気化学セルを設け、該セル群の個々のセルの内部にpHが9〜13の電解質水溶液を充填すると共に、それぞれ独立した参照電極と対極を設置し、
該セル群のうち少なくとも一つのセルを残余電流を補正するための基準セルとし、該基準セルの水素検出領域に対応する水素侵入面側の領域に、腐食環境との接触を遮断するための保護膜を設け、
該基準セル以外のセルで検出したアノード電流値を、該基準セルで検出した残余電流値により補正し、この補正したアノード電流値に基づいて腐食面側からの侵入水素量を算出することを特徴とする金属内部への侵入水素量の測定装置。 - 前記参照電極としてIr/Ir酸化物電極を用いることを特徴とする請求項1に記載の金属内部への侵入水素量の測定装置。
- 前記電解質水溶液中に、凍結防止のために有機化合物を添加したことを特徴とする請求項1または2に記載の金属内部への侵入水素量の測定装置。
- 前記電解質水溶液中に添加する有機化合物が、イソプロピルアルコール、グリセリンまたはエチレングリコールあるいはジメチルスルフォキシドまたはジメチルフォルモアミドであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の金属内部への侵入水素量の測定装置。
- 前記電解質水溶液を充填した電気化学セルの内部に、水素検出面との接触を避けて、気泡を配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属内部への侵入水素量の測定装置。
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