JP2013036890A - 位置検出装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】外部電源が不要な位置検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の位置検出装置は、磁化を有する磁性体層と、この磁性体層上に形成されスピン軌道相互作用を有する材料を含む導電パターン膜と、を含む。導体パターン膜は、磁性体層の磁化方向に交差する方向に延在し、かつ互いに平面上で交差する複数本の導体線からなる。磁性体層の任意の箇所が加熱又は冷却されることにより、磁性体層中の温度を変調し、スピンゼーベック効果を誘起することで、導電パターン膜中に電場を発生させ、それに伴う電位変化から温度変調の2次元位置と大きさの情報を推定可能である。
【選択図】図4

Description

本発明は、熱の生成した位置を検出する位置検出装置に関する。
2次元的な位置情報を検出可能な素子は、タッチパネルなどのユーザーインターフェースや、センサ・カメラなどの画像・情報取得装置など、様々なデバイスで活用されている。したがって、そのような2次元的な位置情報を検出可能な素子は、今後もクラウド社会におけるサイバー空間と実空間との間の接点として、ますます重要なものになると考えられる。
例えば、タッチパネル方式に関しては、抵抗膜方式、静電容量方式、赤外線方式など、多くの方式が提案・実証されている。
抵抗膜方式では、上部導電膜と下部導電膜とを近接配置し、これらのいずれか一方にバイアス電圧を印加した状態で待機させておく。ここで、外部からタッチによる圧力が加わると、タッチしたポイントで上部導電膜と下部導電膜とが接触・通電することから、その地点での電位を計測することで、座標を決定することができる。
静電容量方式では、パネル上に配置された電極もしくは導電膜に、駆動電圧を適切に印加した状態で待機させておく。ここで、指などでパネルをタッチすると、これが静電容量の変化が生じさせることから、これに付随した電圧変化を多地点で読み取ることで、タッチされたポイントを検出することができる。
赤外線方式では、パネル上の一端に赤外線発光素子(LED)、他端に赤外線受光素子(フォトトランジスタ)を、それぞれアレイ状に配置し、赤外線を連続的に走査した状態で待機させておく。ここで、外部から指などが近づくと、これによって赤外線が遮断され、該当する位置のフォトトランジスタがOFFになることから、タッチされたポイントを検出することができる。
特許文献1、2は、後述するごとく、それぞれ、本発明においても利用するスピンゼーベック効果などを利用した熱/スピン流変換素子、スピントロニクスデバイスを開示している。
特許文献3は、抵抗膜式タッチパネルの一例を開示している。また、非特許文献1は、スピンゼーベック理論について開示している。
特開2009−130070号公報 特開2009−295824号公報 特開2010−055453号公報
Physical Review B 81, 214418
しかしながら、抵抗膜方式、静電容量方式、赤外線方式等のタッチパネルでは、位置を検出するためにバイアス電圧印加や光学的走査等のプローブ駆動手段に外部電源を必要とすることから、待機電力が大きくなる。このため、電力供給が難しい場面では、そのようなタッチパネルの利用が制限される。そして、電池を用いた場合でも、その交換などの保守・管理負担が避けられない。将来的なセンサネットワークやユビキタス端末など、屋内・屋外問わず様々な場面での利用が期待される状況においては、電源が不要、もしくは実効的な発電機能が組み込まれた位置検出手段が求められる。
それ故、本発明の課題は、外部電源が不要な位置検出装置を提供することにある。
本発明によれば、磁化を有する磁性体層と、この磁性体層上に形成され、スピン軌道相互作用を有する材料を含む導体パターン膜であって、磁性体層の磁化方向に交差する方向に延在し、かつ互いに平面上で交差する複数本の導体線からなる前記導体パターン膜と、を含む位置検出装置が得られる。
具体的には、位置情報入力手段を用いて磁性体層の一部を加熱または冷却することで、磁性体層中に局所的な温度勾配を生じさせ、これによって駆動されるスピン流(スピンゼーベック効果)を、導体パターン膜中に誘起される熱起電力から読み取ることで、発熱が生じた場所の2次元座標の位置(2次元位置)を特定する。これによって、位置情報の入力が可能となる。
本発明による位置検出装置では、外部からの熱によって位置入力を行うことから、体温や環境熱などを用いれば、外部電源が不要な位置検出手段を提供できる。これにより、簡便な構成による低待機電力のタッチパネルやイメージセンサなどへの応用が可能となる。また、塗布プロセスや印刷プロセスなどを利用することが可能で、低コスト基板への大面積実装にも適している。
(a)〜(c)はスピンゼーベック効果の原理を説明する図である。 (a)〜(c)は本発明の第1の実施形態に係る位置検出装置を示す図である。 (a)、(b)は本発明の第1の実施形態に係る位置検出装置における電圧計を用いた位置検出方法を示す図である。 (a)〜(c)は本発明の第1の実施形態に係る位置検出装置おける位置検出動作を説明する図である。 (a)〜(c)は本発明の第1の実施形態に係る位置検出装置における、高分解能な位置決定方法を説明する図である。 (a)〜(f)は本発明の第1の実施例による位置検出装置を示す図である。 本発明の第1の実施例の変形例による位置検出装置を示す斜視図である。 本発明の第1の実施形態に係る位置検出装置の他の動作例を示す図である。 本発明の第2の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図および平面図である。 本発明の第2の実施例による位置検出装置を示す斜視図である。 本発明の第3の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図および平面図である。 本発明の第3の実施例による位置検出装置を示す斜視図である。 本発明の第4の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図および平面図である。 本発明の第4の実施例による位置検出装置を示す斜視図である。 本発明の第5の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図である。 本発明の第6の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図。 本発明の第6の実施例による位置検出装置を示す斜視図である。 本発明の第7の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図および平面図である。 本発明の第7の実施例による位置検出装置を示す斜視図である。 本発明の第8の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図および平面図である。 本発明の第8の実施例による位置検出装置を示す斜視図である。
本発明の位置検出装置は、平面上の加熱された箇所または平面上の発熱した箇所を特定する装置であって、温度勾配から熱起電力を生成するスピンゼーベック効果を用いる。本発明の位置検出装置は、後述するいずれの実施形態においても、このスピンゼーベック効果による位置検出素子(熱電変換部)を有している。
さらに、本発明は、位置検出素子(熱電変換部)と、これとは別体に設けられ、熱電変換部の平面上の任意の箇所を加熱する加熱手段を含む位置検出システム、もしくは、熱電変換部と一体に形成され、種々の形態のエネルギーを受けて平面上の任意の箇所が発熱するエネルギー態様のインターフェース手段とを有する位置検出装置を提案する。
[原理]
本発明の位置検出装置は、発熱部分の2次元座標の位置を特定する素子であって、温度勾配から熱起電力を生成するスピンゼーベック効果を用いる。
図1は、上記特許文献1などで示されているスピンゼーベック効果の基本的な構成・原理を示す図である。基本的な素子構造は、基板上に成膜した磁化Mを有する磁性体層と、その磁性体層の上部に配置された金属ワイヤ膜とからなる。このような構造に対して面直方向の温度勾配を図面z方向に印加した場合、金属ワイヤ膜と磁性体層との間の界面にスピン流が誘起される。このスピン流を、金属ワイヤ膜における逆スピンホール効果によって電気的な起電力信号に変換することで、「温度勾配から熱起電力を生成する熱電変換」が可能となる。
上記非特許文献1(Physical Review B 81, 214418)などで示されている微視的なスピンゼーベック理論によると、金属ワイヤ膜/磁性体界面において誘起されるスピン流Jsは、この界面における「金属膜の電子温度Te」と「磁性体のマグノン温度Tm」の間の温度差ΔTme=|Tm−Te|によって駆動されることが分かっている。ここで、マグノン温度Tmとは、スピンの熱運動の激しさを表すパラメータに相当する。これにより、スピン流Jsは、以下の数式(1)のように、ΔTmeに比例する(ezは面直方向の単位ベクトル)。
Js∝ΔTme ez=(Tm−Te)ez ・・・ (1)
図1(a)のように、素子全体が一様な温度にある熱平衡状態においては、電子温度Teとマグノン温度Tmは常に等しく(ΔTme=0)、スピン流は駆動されない。したがって、金属ワイヤ膜において起電力は生じない。
これに対し、図1(b)のように、素子の上部面(金属ワイヤ膜側)を一様に加熱し、素子の上面と底面の間に温度差ΔTを印加した場合を考える。このとき電子温度Teとマグノン温度Tmは、周囲に生じる温度勾配分布との非局所的な相互作用を通して、それぞれ異なるメカニズムで温度変調を受ける結果、加熱部近傍の界面で有限の電子-マグノン温度差ΔTme=|Tm−Te|≠0が生じることになる。従って、この温度差ΔTmeを駆動源として、磁性体層から金属パターン膜へと界面スピン流Jsがポンピングされる。以上が、先に述べたスピンゼーベック効果の微視的な駆動メカニズムである。
この熱駆動されたスピン流Jsが、金属パターン膜中の逆スピンホール効果によって電場信号EISHEに変換されることで、金属パターン膜の端部間には起電力信号Vが生じる。ここで、電場EISHEとスピン流Js、磁化Mとの関係は、以下の数式(2)で与えられる。
ISHE=(θSHρ)Js×M/|M| ・・・ (2)
ここで、θSHはスピンホール角(電流-スピン流間の変換効率に相当)、ρは金属パターン膜のシート抵抗を表す。この数式(2)が示すように、熱誘起された電場EISHEは、スピン流Jsと磁化Mの両方に垂直な方向に生じる。従って、金属パターン膜面において生じる熱起電力Vも、スピン流及び温度勾配の方向(z方向)と磁化方向(x方向)にそれぞれ垂直な方向(y方向)において、大きな値を有する。
図1(b)では、上部面(金属パターン膜側)が一様に加熱された状況を仮定したが、この面の一部のみが局所的に加熱された場合でも、同様の熱起電力を観測することができる。この状況を図1(c)に示した。この場合、加熱された部分でのみ局所的に界面スピン流Jsが駆動され、局所電場EISHEが誘起される。
本発明では、この局所的に生じるスピンゼーベック効果を利用して位置検出を行う。
[第1の実施形態]
[構成]
図2は、本発明の第1の実施形態に係る位置検出装置の基本素子構造を示す図である。図2において、(a)は位置検出装置の斜視図であり、(b)は位置検出装置の加熱地点を含む断面図であり、(c)は位置検出装置の平面図である。
図示の位置検出装置の基本素子の最小構成単位は、磁性体層2と、この磁性体層2の上部に設けられた金属パターン膜5とからなる。また、必要に応じて、位置検出装置の基本素子は、磁性体層2を支える基板4、および素子を保護するカバー層3を用いる。
本第1の実施形態に係る位置検出装置では、2次元位置を電気的に検出するための金属パターン膜5の形状として、図面のx方向とy方向をそれぞれ長手(線)方向とするメッシュ形状を採用する。図2(a)では、金属パターン膜5の一例として、8×8本の金属線によって構成されるメッシュ構造を採用しており、ここでは、図2(c)に示されるように、x方向に伸びた金属線を上から金属線1〜8、y方向に伸びた金属線を左から金属線A〜Hと定義している。
この金属パターン膜5のメッシュ形状のように、金属膜内に複数の穴(非電導領域)を有するパターニング構造を用いることで、スピンゼーベック効果によって生じた逆スピンホール電場信号EISHEを、周縁部の電圧変化として効果的に検出することが可能となる。また、このように一体となった金属パターン膜5の構造は、金属マスク法や光リソグラフィ法、印刷法など、簡単なプロセスにより容易にパターニングができることから、生産性の高い素子作製が可能となる。なお、金属パターン膜5の形状は、ここで示したメッシュ形状に限定されない。
以下では、これらの各構成要素において、望ましい材料・構造・作製方法などについて説明する。
磁性体層2は、膜面(図2のxy面)に平行な一方向の磁化を有しているものとする。スピンゼーベック効果の発現に必要な対称性を満たすために、磁性体層2は、金属パターン膜5における金属線1〜8の長手方向(x方向)に対しても、金属線A〜Hの長手方向(y方向)に対しても、有限な角度をもつ方向に磁化を有するものとする。具体的には、XY面内で30〜60°、120〜150°、−30〜−60°、−120〜−150°のいずれかの範囲内の磁化方向を有することが望ましい。特に、x方向とy方向の中間(xy面内の45°、135°、−45°、−135°のいずれか)に磁化方向を有することが最も望ましい。
金属パターン膜5に生じる熱起電力信号によって高い分解能を有する位置検出機能を実現するためには、これに接する磁性体層2の材料として、電気伝導性の低い材料を採用することが望ましい。加えて、磁性体層2の材料としては、(1)熱が逃げるのを防いで(温度差を保持して)高感度な熱起電力を生成する、(2)熱拡散を抑制して高い位置検出分解能を実現する、という2つの目的から、熱伝導率の小さい材料を用いることが望ましい。以上の理由から、本第1の実施形態では、伝導電子による導電性が無く、熱伝導も小さな磁性絶縁体を用いる。
磁性体層2の具体的な材料としては、例えばガーネットフェライト、スピネルフェライトなどの酸化物磁性材料を適用することができる。このようなガーネット磁性体は、引き上げ法やブリッジマン法といった融液からの結晶成長法などで作製できるほか、液相エピタキシャル成長法によっても結晶薄膜が作製できる。また、例えば、有機金属堆積法(MOD法)、ゾルゲル法、エアロゾルデポジション法(AD法)といった塗布・印刷ベースの成膜方法によっても、磁性体層2を基板4上に成膜することができる。このような生産性の高い成膜法を用いれば、大面積基板にも一括成膜することが可能で、低コストな位置検出装置の実装が可能となる。
また、YIGなどのガーネット膜は、広い波長範囲で透過性が高いことから、タッチパネル素子のように、ディスプレイ等と組み合わせて用いる透明な位置入力デバイスとしての応用に特に適している。
さらに、磁性体層2として保磁力を有する磁性材料を用いれば、一旦外部磁場などで磁化方向を初期化しておくことで、ゼロ磁場の下でも動作可能な素子が得られる。
金属パターン膜5は、逆スピンホール効果を用いて熱起電力を取り出すために、スピン軌道相互作用を有する材料を含んでいる。例えば、金属パターン膜5の材料としては、スピン軌道相互作用の比較的大きなAuやPt、Pd、Irなどの金属材料、またはそれらを含有する合金材料を用いる。また、金属パターン膜5の材料としては、Cuなどの低コスト・低抵抗金属に、上記のようなスピン軌道相互作用を有する不純物を少量(1〜10%程度)ドープした材料を用いた場合でも、熱起電力を取り出すことができる。
このような金属パターン膜5は、金属マスク法や光リソグラフィ法などのパターニングプロセスと併用して、スパッタや蒸着などの方法で成膜する。また、金属パターン膜5は、インクジェット法やスクリーン印刷法などの方法でも作製できる。
ここで、スピン流を高い効率で無駄なく電気に変換するためには、金属パターン膜5の厚さは、少なくとも金属材料のスピン拡散長以上に設定するのが好ましい。例えば、金属パターン膜5の材料が、Auであれば50nm以上、Ptであれば10nm以上に設定するのが望ましい。ただし、本第1の実施形態のように熱起電力を電圧信号として電位計で読み取る用途では、シート抵抗ρが大きいほうが望ましく、このため金属パターン膜5が薄いほどより大きな電圧出力が得られる。これら両方を考慮すると、金属パターン膜5の厚さは、金属材料のスピン拡散長程度が最も望ましい。例えば、金属パターン膜5の材料が、Auであれば50〜100nm程度、Ptであれば10〜30nm程度に設定する。
なお、タッチパネル素子のように透明な位置入力デバイスとして用いる場合、金属パターン膜5の占有率(金属材料と空気によって構成されるパターン膜の中で、金属材料が占める割合)は、50%以下が望ましく、20%以下であることがより望ましい。具体的には、本第1の実施形態のようなメッシュ形状の金属パターン膜5の場合、金属線の幅が、隣り合う金属線間の間隔の半分以下であることが望ましく、5分の1以下であることがより望ましい。
上述したように、金属パターン膜5は、磁性体層2上に形成され、スピン軌道相互作用を有する材料を含む導電パターン膜であって、磁性体層2の磁化方向に交差する方向に延在し、かつ互いに平面上で交差する複数本の導体線からなる、導体パターン膜である。そして、上述したように、金属パターン膜(導体パターン膜)5の厚さが非常に薄く、抵抗が大きいので、複数本の導体線が平面上で交差していても、電圧出力を得ることができる。
カバー層3は、素子の保護のために、必要に応じて用いる。具体的な構成に関しては、カバー層3は、素子(熱起電力生成部)を保護可能できる材料・構造であれば、詳細は問わない。例えば、カバー層3の材料として、アクリル系樹脂やポリイミドなどの有機樹脂材料を用いれば、印刷・塗布プロセスでカバー層3を作成することができる。ただし、感度が重要となる用途では、入力された熱を磁性体層2に効果的に伝えるために、カバー層3の材料としては、面直方向に熱伝導率の大きな材料か、膜厚が小さくても素子の保護が可能となるような材料を用いることが望ましく、膜厚は200μm以下が望ましい。
基板4としては、磁性体層2や金属パターン膜5を支えることができるものであれば、材料や構造は問わない。基板4の材料としては、例えば石英ガラス等のアモルファス絶縁体や、ポリイミド等の有機樹脂材料などを用いることができる。また、基板4は、必ずしも板状の形状である必要はない。
周囲環境からの流入する熱や温度揺らぎが大きく、これによる背景雑音や誤動作といった影響が大きい場合には、基板4の材料として、熱伝導率が小さな材料を用いるか、厚みが十分大きな構造を用いて十分な熱容量を確保することが好ましい。
なお、磁性体層2を直接固定して安定して利用できるような利用環境下や、磁性体層2自体が十分大きな熱容量を有する場合には、基板4は無くてもよい。
〔基本動作および検出方法の説明〕
次に、本発明の第1の実施形態による位置検出装置における位置情報の検出方法について説明する。
まず、前述のように、温度勾配が印加されない熱平衡状態では、金属パターン膜5の電子温度Teと磁性体層2のマグノン温度Tmは等しい一定値を取る。このため、スピンゼーベック効果(電子―マグノン温度差ΔTme)によるスピン流は駆動されず、熱起電力も生じない(V1〜V8 ,VA〜VH=0V)。
ここで、図2(a)に示すように、外部から何らかの加熱(または冷却)手段10によって磁性体層2の一部を加熱(冷却)すると、その周辺に局所的な温度勾配が生じる。これによる局所的スピンゼーベック効果の結果、図2(b)の断面図のように、加熱地点近傍の金属パターン膜5/磁性体層2界面において、スピン流が誘起される。このスピン流は、金属パターン膜5における逆スピンホール効果を通して、局所的な電場信号EISHEを生成し、電気的に測定可能な起電力信号へと変換される。この熱起電力信号を、素子周縁部の電位(電圧)分布の変化を計測することで、発熱が生じた2次元座標の位置を特定することができる。尚、本発明における「加熱」としては、「冷却」をも、負の過熱として含むものとする。
位置情報を検出するには、金属パターン膜5において生じる熱起電力を評価する必要がある。評価方法は様々だが、本第1の実施形態では、図3のように、金属パターン膜5を構成する金属線1〜8、金属線A〜Hのそれぞれにおいて、これら両端の間の各電圧差(V1〜V8 ,VA〜VH)を熱起電力として測定し、2次元位置推定のための参照信号として記録できるようにする。
素子面内のどの2次元位置で加熱が生じたかの決定(すなわち、位置情報の入力)は、16個の電圧信号の大きさを相対的に比較することによって実現される。ここでは、主に電圧信号VA〜VHはx座標の決定に(図3(b))、電圧信号V1〜V8 はy座標の決定に(図3(a))それぞれ利用される。具体的には、加熱が生じた地点に近い金属線(A〜H、1〜8のいずれか)において、大きな電圧信号が観測されることから、これによって加熱地点のx座標、y座標の決定が可能となる。
なお、図3(a)ではV1〜V8 を、図3(b)ではVA〜VHを、それぞれ一括して検出する実施形態を示しているが、電圧信号の検出方法はこれに限られず、16個の電圧信号を一つずつ測定してもよい。また逆に、電圧計のインピーダンスが十分大きく、それぞれの電圧計測の間の相互影響が小さい場合は、16個の電圧信号を一括で測定してもよい。
なお、この方法で検出できる情報は、2次元位置情報のみに限られない。スピンゼーベック現象に基づいて生じる熱起電力の大きさは、近似的には加熱部分の温度上昇量に比例することから、電圧信号(V1〜V8 ,VA〜VH)の大きさから、この温度上昇量の推定が可能となる。加えて、温度上昇が生じた場所の空間的な広がりについても、複数の電圧信号から推定することができる。
〔具体的な位置検出動作〕
図4に、加熱位置に応じた熱起電力生成の具体例を示す。この図4では主に、金属パターン膜5の中の金属線A〜Hに生じる熱起電力から、x座標の位置を検出する方法について述べる。
図4(a)のように、外部から加熱手段10によってある地点(ここでは一例として、金属線3と金属線Cの交点)が加熱された場合を考える。このとき、この近傍での温度上昇の空間分布を反映して、加熱地点を中心とした有限な電子-マグノン温度差ΔTmeが、図4(b)のように生成される。
これによるスピンゼーベック効果よって金属線/磁性体層の界面ではスピン流が駆動され、金属線A〜Hのそれぞれにおいて熱起電力が生成される。なお、これら金属線の両端での出力電圧信号VA〜VHは、金属線の全体に渡ってこのスピンゼーベック効果(局所電場EISHE)を積算(積分)した信号として現れる(図4の右上図参照)。この結果、信号Vは、図4(c)に示すように、温度上昇の空間分布(x座標依存性)にほぼ比例したものとなり、加熱地点に近い金属線ほど大きな電圧信号を示す。ただし実際の実験では、金属線同士の交点における電気的な相互干渉によって、このような比例関係からずれる場合がある。
図4では一例として、金属線C上で加熱が生じた場合を示したが、加熱が生じた位置によって、金属線A〜Hで生じる電圧信号の分布が大きく異なる。したがって、この起電力分布を測定・記録し、それから温度上昇の空間分布(x座標依存性)を逆に解析・推定することによって、加熱が生じたX位置を決定することができる。
なお、図4では代表的な位置検出例のみを示しているが、実際にはより細かい(高分解能な)位置検出も可能である。
例えば、図5に示すように、金属線Cと金属線Dの間のある点が加熱された場合を考える。このとき、電圧信号VCとVDに着目する。図5(a)のように、金属線Cに近い点が加熱された場合は、VC>VDとなる。図5(b)のように、金属線Dに近い点が加熱された場合は、VC<VDとなる。図5(c)のように、金属線Cと金属線Dの中間点が加熱された場合は、VC=VDとなる。このように、電圧信号VCとVDの大きさを調べることで、金属線Cと金属線Dとの間において、より細かい位置の特定が可能となる。
以上、図4、図5に基づいて、金属線A〜Hの測定によるx方向位置の検出手順について説明した。なお、同様の方法を金属線1〜8について当てはめると、y方向位置についての位置検出も可能となる。このようにして、金属線A〜H、金属線1〜8の熱起電力から、加熱が生じた2次元位置を特定することができる。
加熱手段10としては、熱を持つものであれば何でも利用できることから、体温を持つ指や、先端が加熱されたペンなどで位置情報の入力が可能となる。待機時に電圧等のバイアス印加が不要であることから、待機電力の極めて小さなユーザーインターフェースなどに利用できる。
なお、本第1の実施形態での位置入力の動作原理は、磁性体層の温度分布を局所的に変化させることであることから、加熱手段10の代わりに冷却手段を用いてもよい。例えば、位置検出装置をIT機器などの高温熱源に貼り付けてあらかじめ加熱しておき、外部から室温の冷却手段を近づけることでも、局所的に温度分布を変化させることが可能となる。
また、図2では、金属パターン膜5/磁性体層2/基板4の順で積層した素子構造を示したが、金属パターン膜5と磁性体層2の積層順を逆転して、磁性体層2/金属パターン膜5/基板4の積層構造を採用してもよい。このような素子構造では、磁性体層2として熱伝導率の小さな磁性絶縁体材料を用いることができることから、上部から加熱手段10で加熱された場合に、水平(xy)方向への熱の広がりが小さく抑えられ、空間分解能を向上させる効果を示す。
[実施例1]
次に、図6を参照して、本発明の具体的な第1の実施例に係る位置検出装置について説明する。
第1の実施例に係る位置検出装置の素子構造において、図6(a)の斜視図に示すように、磁性体層2としてはスラブ形状のイットリウム鉄ガーネット(以後「YIG」と呼ぶ。組成はY3Fe512)層を、金属パターン膜5としてはPtからなるメッシュ形状の金属膜をそれぞれ用いている。なお、本第1の実施例に係る位置検出装置では、基板4とカバー層3とは用いていない。
YIG層2は、焼結法によって作製された厚さ1mmの多結晶スラブで、サイズは8×8mmのものを用いている。スラブの表面は、Ptとの良好な界面を得るために、あらかじめアルミナペーストで研磨を行っている。
このYIGスラブの上に、パターニングのための金属マスクを介して、スパッタ法によりPtメッシュ膜5を成膜している。Ptメッシュ膜5の厚さは、15nmであり、x方向とy方向に伸びる8本ずつ(計16本)のPtワイヤによって構成されている。このPtワイヤの長さは5mm、幅は0.1mmで、隣り合うPtワイヤ間の間隔は0.7mmである。
本第1の実施例の位置検出装置では、スピンゼーベック効果による熱電変換対称性の実験的検証のため、YIG層2の磁化方向を、外部磁場Hの印加によって反転制御できるような実験セットアップを用いている。ここで、外部磁場Hの方向(すなわちYIG層2の磁化方向)は、Ptメッシュ形状の2軸(x軸およびy軸)に対して中間方向(xy面の45度方向、もしくは−135度方向)になるよう設定されている。
このような位置検出装置に対して、外部から局所加熱を行うことで、位置情報を入力する。ここでは、加熱手段10として、波長670nm、出力300mWのレーザー光をPtワイヤ/YIGスラブに対して照射する。
図6では一例として、金属線(Ptワイヤ)2およびGとが交差する場所にレーザー光を照射し、この地点を局所加熱した状況を示している。本実験では、この加熱地点の2次元座標の位置を、Ptワイヤで生成される熱起電力によって検出する。
まず、y座標推定のための参照信号を得るために、図6(a)に示すように、金属線1〜8それぞれの両端で生じる電圧信号(V1〜V8 )を測定した。図6(b)には、この電圧信号の測定値を、横軸を外部磁場Hとしてプロットしたグラフを示している。加熱位置近傍の金属線1,2,3において、大きな熱起電力信号が明確に観測されている。また、外部磁場によって磁化方向を反転させると、熱起電力の符号が反転する様子も示されている。図6(c)は、この8本の金属線両端における電圧出力の絶対値を、横軸を金属線のy座標としてプロットしたグラフを示している。このようにして、電圧信号V1〜V8 の測定値から加熱が生じたy座標を推定することが可能となる。
同様にして、x座標推定のための参照信号を得るために、図6(d)に示すように、金属線A〜Hそれぞれの両端で生じる電圧信号(VA〜VH)を測定し、図6(e)、図6(f)に示す電圧信号を得た。これらから、加熱が生じたx座標を推定することが可能となる。
以上の手順によって、加熱地点の2次元座標の位置の決定が可能となる。図6では特定の地点を加熱した場合の出力電圧の生成分布について示したが、異なる地点が加熱された場合、それに対応して異なる出力電圧の生成分布が得られる。
異なる加熱場所に対応して、異なる電圧生成分布が得られることから、これを利用した位置情報入力機能が実現される。
[変形例]
上記の第1の実施例では、磁性体層2としてスラブ材料を用いたが、磁性体層2は薄膜であっても構わない。
図7は、磁性体層2として薄膜磁性体を用いた、本発明の第1の実施例の変形例の位置検出装置を示す斜視図である。
本変形例の位置検出装置では、磁性体層2として、Yサイトの一部をBiで置換したイットリウム鉄ガーネット(以降、「Bi:YIG」。組成はBiYFe12)膜を用いる。金属パターン膜5にはPt膜を用いる。ここで、Bi:YIG膜2の厚さは65nm、Pt膜5の厚さは10nmとする。
基板4としては膜厚500μmの石英ガラス基板を、カバー層3としては膜厚100μmの合成サファイア板を用いる。加熱手段10としては、先端が40℃に加熱されたペンを用いる。
Bi:YIGからなる磁性体層2は、有機金属分解法(MOD法)によって成膜する。溶液は(株)高純度化学研究所製のMOD溶液を用いる。この溶液中では、適切なモル比率(Bi:Y:Fe=1:2:5)からなる金属原材料が酢酸エステルに3%の濃度で溶解されている。この溶液をスピンコート(回転数100rpm、30s回転)で石英ガラス基板上に塗布し、150℃のホットプレートで5分間乾燥させた後、電気炉中で720℃の高温で14時間焼結させる。これにより、石英ガラス基板上に膜厚約65nmのBi:YIG(BiYFe12)膜が形成される。
その後、Ptによるメッシュ構造からなる金属パターン膜5を、金属マスクを通してスパッタにより成膜する。最後に、これらの上に、カバー層3として、厚さ100μmの合成サファイア板をかぶせて金属パターン膜/磁性体層を保護する。
(第1の実施形態の別の起電力計測方法)
上記の第1の実施形態では、図3のように、金属線の両端間の電圧信号(V1〜V8 ,VA〜VH)を計測する位置検出方法を説明したが、熱起電力の計測方法はこれに限られない。例えば、図8のように、金属パターン膜5のある一点(図8では右下の端点)をグラウンドに接地して、これを基準としてその他の周縁部の電位を計測することでも、位置検出が可能となる。
[第2〜第5の実施の形態]
第1の実施形態では、位置情報の入力に加熱手段10を利用したが、位置検出素子の中に、外部トリガーによって熱を発生させる仕組みを内蔵させれば、その他の手段でも位置情報の入力が可能となる。実際、熱は最も一般的なエネルギー形態であり、電磁波や振動などの様々なエネルギーも、最終的に熱になることが多い。さらには、物質間の化学反応や相変化などでも熱が生成される。そこで、第1の実施形態で示した熱センサを応用すれば、様々な形態のセンサを構成することができる。以下では、電磁波センサ、接触(摩擦熱)検知センサ、ガスセンサ、圧力センサなどへの応用について示す。
[第2の実施形態:電磁波検知による位置検出装置]
図9は、本発明の第2の実施形態である電磁波センサの斜視図および平面図を示す。第1の実施形態の位置検出装置との違いは、図示の電磁波センサは、金属パターン膜/磁性体層の上に、絶縁材料からなる絶縁層(スペーサー層)32を挟んで、新たに電磁波吸収膜31を配置した点にある。
このような構造の電磁波センサに対し、図9に示すように外部から電磁波30が照射されると、電磁波30が電磁波吸収膜31によって吸収され、その位置で発熱が生じる。この発熱による熱起電力を、金属パターン膜で測定・記録することで、電磁波が照射された2次元位置を特定することができる。
ここで、電磁波吸収膜31としては、電磁波30をよく吸収して発熱する材料を用いる。具体的な材料の選択は波長に依存するが、電磁波吸収膜31は、例えば赤外線であれば金黒膜(金の超微粒子膜)やニッケル・クロム合金膜など、可視光であればCIGS(Cu(In、Ga)Se2)膜やフラーレン膜などが利用できる。また、カーボンブラックやカーボンナノチューブなどからなるカーボン膜などは、塗布・印刷による成膜にも適しており、赤外〜可視域の広い範囲で利用できる。
絶縁層(スペーサー層)32は、金属パターン膜5での熱起電力生成動作を妨げないための絶縁層の役割を果たす。電磁波吸収膜31自体が絶縁体である場合は、スペーサー層32は無くてもよい。
電磁波吸収膜31を覆うカバー層3(図9には図示せず)には、電磁波30をできるだけ透過する材料を用いる。必要に応じて、カバー層3の上部に波長フィルタを設けることで、特定の波長のみを検出するようにすることもできる。また、カバー層3の上部に部分反射鏡を設けて、カバー層3の厚みを最適化することで、特定の波長に対して機能する共振器を構成し、電磁波検出感度を向上することもできる。
なお、感度が重要となる用途では、これら電磁波吸収膜31、絶縁層32、カバー層3としては、入力された熱を磁性体層2に効果的に伝えるために、面直方向に熱伝導率の大きな材料か、膜厚が小さくても素子の保護が可能となるような材料を用いることが望ましく、膜厚はそれぞれ100μm以下が望ましい。感度・分解能を両立するさらに望ましい形態としては、これらの層において、面直方向に高い熱伝導を有し、面内方向に低い熱伝導を有する材料・構造を採用する。具体的には、面直方向に配向したカーボンファイバー等のフィラーを埋め込んだ材料を用いたり、面内でピクセルごとに材料を分割した(切り込みを入れた)構造を利用したりして、異方的な伝熱構造を実現する。
以上の原理により、非常に簡単な素子構成により、外部電源不要なイメージセンサなどへの応用が可能となる。
[実施例2]
図10は、本発明の具体的な第2の実施例による電磁波センサ(位置検出装置)を示す斜視図である。
本第2の実施例では、第1の実施例と同様に、磁性体層2としては厚さ1mmのYIG層、金属パターン膜5には厚さ10nmのPtメッシュ膜を用いる。
ここでは電磁波30として、波長10μm程度の赤外線を利用する。電磁波吸収膜31としては、この波長の電磁波を効率的に吸収できるカーボンブラック膜を利用する。電磁波吸収膜31の膜厚は200nmとする。基板4(図10では図示せず)としては膜厚500μmの石英ガラス基板を、スペーサー層32としては膜厚200nmのポリイミド層を、カバー層3(図10では図示せず)としては膜厚50μmのアクリル樹脂を用いる。
作製方法としては、まずYIG層2上にPtメッシュ膜5をスパッタにより成膜し、そのPtメッシュ膜5の上にポリイミド層32を原料溶液の塗布・乾燥により成膜する。さらに、ポリイミド層32の上に、電磁波吸収膜である膜厚200nmのカーボンブラック膜31を、原材料のスピンコートにより全体に塗布成膜する。最後に、これらの上に、アクリル材料としてポリメタクリル酸メチルを溶かした有機溶液を塗布し、100℃程度の高温で乾燥させ、厚さ100μmのカバー層3(図10では図示せず)を作成する。
このような構成の赤外線センサを活用することにより、非常に簡単な構成で、監視用の赤外線カメラやサーモグラフィなどを構成することができる。
[第3の実施形態:摩擦熱検知による位置検出装置]
図11は、本発明の第3の実施形態である接触検知センサ(もしくは摩擦熱センサ)の斜視図および平面図である。この素子は、第1の実施形態で示した位置検出装置において、カバー層3の代わりに、摩擦熱発生体41を用いている。第2の実施形態と同様に、必要に応じてスペーサー層32を挿入する。
このような構造の接触検知センサに対し、図11のように、摩擦熱発生手段40で摩擦熱発生体41の一部を擦るなどして接触させると、この摩擦熱発生体41の接触部において発熱が生じる。この熱を、第1の実施形態で説明した位置検出装置によって検知することで、接触が生じた2次元位置を測定・記録することができる。
摩擦熱発生体41の表面は、摩擦熱発生手段40との接触によって発熱が生じるよう、表面を適切に加工する。また、表面で発生した熱を効率よく磁性体層2へ伝えるため、摩擦熱発生体41は、保護膜として機能する範囲でできるだけ薄くするか、熱伝導率の高い材料で構成することが望ましい。
このような素子により、外部電源が不要で待機電力ゼロのユーザーインターフェースが実現される。例えばペンで摩擦熱発生体31を擦ることによる文字入力などが可能となる。
なお、摩擦熱の発生方法については、ここで示した方法に限られない。他の形態としては、例えば摩擦熱発生体41として外部からの圧力や振動によって摩擦熱を発生する機械部品で構成することで、荷重や衝撃を摩擦熱発生手段40として用いた位置検出装置を構成することもできる。
[実施例3]
図12は、本発明の具体的な第3の実施例による接触検知センサ(位置検出装置)を示す斜視図である。
本第3の実施例では、上記第1の実施例と同様に、磁性体層2としては厚さ1mmのYIG層、金属パターン膜5には厚さ10nmのPtメッシュ膜を用いる。
ここでは摩擦熱発生体41として、表面に小さな凹凸を有して粗面となっている合成サファイアを用いる。摩擦熱発生体41の膜厚は200nmとする。摩擦熱発生手段40には先端がアルミナでコートされたペンを用いる。基板4としては膜厚500μmの石英ガラス基板を、絶縁層(スペーサー層)32にはポリイミド樹脂を用いる。
[第4の実施形態:ガス検知による位置検出装置]
図13は、本発明の第4の実施形態に係る浮遊体センサを示す斜視図および平面図である。第1の実施形態との違いは、図示の浮遊体センサは、金属パターン膜/磁性体層の上に、絶縁材料である絶縁層(スペーサー層)32を介して、新たに浮遊体吸着用の浮遊体検知膜(触媒膜)51を配置した点にある。
この浮遊体検知膜(触媒膜)51としては、例えば特定の浮遊体(ガス)50が吸着した場合に、発熱を伴う化学反応を生じる触媒など、公知の化学材料を用いることができる。その他、浮遊体検知膜(触媒膜)51として、触媒を含有する多孔質体を含む膜を用いることもできる。絶縁層(スペーサー層)32は、金属パターン膜5での熱起電力生成動作を妨げないための絶縁層の役割を果たすが、用いる浮遊体検知膜(触媒膜)51によっては必ずしも必要ない。また、ガスによっては、磁性体層2もしくは金属パターン膜5を直接、浮遊体検知膜として利用することもできる。
このような構造の浮遊体センサに対し、外部からガスなどの浮遊体50が飛来した場合、浮遊体検知膜(触媒膜)51に吸着した地点で化学反応に伴う発熱が生じ、磁性体層2の一部が加熱される。この熱を、第1の実施形態で説明した位置検出装置によって検知することで、浮遊体が吸着した2次元位置を測定・記録することができる。
これにより、簡便な構成で、外部電源不要な大面積浮遊体センサなどが実現できる。なお、実際には、浮遊体50は気体に限らず、液体や固体(粉塵)などを想定してもよい。また、浮遊体検知の原理についても、浮遊体吸着に伴って発熱が生じるものであれば、詳細は問わない。
[実施例4]
図14は、本発明の具体的な第4の実施例による浮遊体センサを示す斜視図である。
本第4の実施例では、第1の実施例と同様に、磁性体層2としては厚さ1mmのYIG層、金属パターン膜5には厚さ10nmのPtメッシュ膜を用いる。これらは、膜厚500μmの石英ガラス基板4(図14中では図示せず)の上に、前述の第1の実施例と同様の方法で成膜する。
ここでは浮遊体50として水素ガスを想定し、金属パターン膜5として用いるPt膜が、水素ガス検知を行う触媒として、浮遊体検知膜51を兼ねている。
[第5の実施形態:圧力検知による位置検出装置]
図15は、本発明の第5の実施形態に係る位置検出装置を示す図である。これまでの実施形態との違いは、図示の位置検出装置は、基板4と磁性体層2との間に、ドットスペーサ53を介して配置された上部発熱層61及び下部発熱層62を有する点にある。
ここで、上部発熱層61と下部発熱層62としては、互いに接することで発熱を生じるような材料の組み合わせを用いる。
また、ドットスペーサ53は、待機時にこれらを空間的に隔離する役割を果たす。ドットスペーサ53の材料としては、有機樹脂などの熱伝導率が小さなものを用いる。
これに対して外部から圧力印加手段60が加わると、上部発熱層61が下方に歪み、上部発熱層61と下部発熱層52と部分的に接触する。この結果、接触した部分のみ局所的な発熱が生じることから、この熱を第1の実施形態で説明した位置検出装置によって検知することで、圧力が加わった2次元位置を測定・記録することができる。
上部発熱層61と下部発熱層62が接触することによる発熱の原理としては、以下のように様々なものが利用できる。
例えば、化学反応する2つの材料を、上部発熱層61および下部発熱層62に利用することができる。これにより、これらが接触した場所で化学反応が生じ、局所的な反応熱が生じる。
また、上部発熱層61と下部発熱層62との間に外部からバイアス電圧を印加した状態で待機させ、上部発熱層61と下部発熱層62が接触した場所でのみ電流が流れるような構成にしてもよい。この場合、この部分の電気抵抗によるオーミック発熱を位置入力に利用できる。
さらに、上部発熱層61を下部発熱層62に押し付けた際の圧力(もしくは歪み)をトリガーとして発熱を生じさせることもできる。例えば、圧力印加に起因する化学反応や相変化に伴って生じる反応熱・潜熱などを、同様の方法で測定することで位置検出が可能となる。
この他、下記実施例に示すように上部発熱層61と下部発熱層62が接触した際の摩擦熱を利用することもできる。
[第6〜第8の実施形態]
これまでの実施形態では、外部の熱あるいは熱勾配が存在しない平衡状態での待機の下で、外部から熱が加わる位置を、金属パターン膜に生じる熱起電力を通して検出していた。このような素子を用いれば、外部電源のない状況下でも、待機電力ゼロで利用できるインターフェースが利用できる。
ただし、これらの方法では、外部から素子を加熱する手段を利用する必要があることから、それが難しい状況下では利用が制限される。
一方、身の回りには、体温やディスプレイ、IT機器など、様々な定常熱源や定常温度勾配が存在する。このような温度勾配を有効活用すれば、外部からの加熱を用いなくても、有用なインターフェースを構成することができる。
残りの3つの実施形態では、このようにあらかじめ定常熱源あるいは定常温度勾配が利用できる状況での位置検出装置について説明する。
[第6の実施形態:圧力検知による位置検出装置]
図16は、本発明の第6の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図である。上記の第5の実施形態と同様に、この実施形態でも、圧力の印加によって位置検出を行う。
第5の実施形態と大きく異なる点として、本第6の実施形態では、基板4の代わりに、室温より高い(もしくは低い)温度を有する熱源58を利用している。このような熱源としては、例えばディスプレイや、IT機器の側面、太陽光が当たる建築物の壁や窓など、様々なものが利用できる。
次に、第6の実施形態に係る位置検出装置の動作原理について説明する。
本第6の実施形態に係る位置検出装置では、熱源58の上部に、ドットスペーサ53を介して、金属パターン膜/磁性体層が配置されている。待機時には、金属パターン膜/磁性体層と熱源とは、ドットスペーサ53によって空間的に分離している。ドットスペーサ53の材料としては、有機樹脂などの熱伝導率が小さなものを用いる。これにより、金属パターン膜/磁性体層と熱源58との間では、待機時には熱の移動が小さく、互いに異なる温度分布を取り得るものとする。
この状況で、図16のように、外部からある一点に圧力印加手段70が印加されると、この部分で熱源58と金属パターン膜/磁性体層とが接触し、これらの間に大きな熱移動が生じる。これによって、金属パターン膜/磁性体層が局所的に加熱され、これに伴う温度分布の変化を、第1の実施形態と同様の方法で、金属パターン膜5における熱起電力変化から検出することができる。
[実施例6]
図17は、本発明の具体的な第6の実施例による位置検出装置を示す図である。
熱源58としては、温度が40℃と、室温以上に設定されているディスプレイの表面を利用する。
本第6の実施例では、磁性体層2としては厚さ0.1mmのYIG層、金属パターン膜5には厚さ10nmのPtメッシュ膜を用いる。これらは、上記の合成サファイア板の上に、前述の第1の実施例と同様の方法で成膜する。その後、これを熱源58の上部に、アクリルウレタン樹脂からなる直径10μmのドットスペーサ53を介して配置する。
待機時には、Pt/YIGと、熱源58とは、アクリルウレタン樹脂のドットスペーサ53によって、空間的に分離して配置されている。このとき、これらの間の熱の移動は小さい。これらは、外部から圧力印加用のペン70によって押し付けられることによって互いに接触し、大きな熱移動を生じる。
[第7の実施形態:接触検知による位置検出装置]
図18は、本発明の第7の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図および平面図である。
図示の位置検出装置の素子形態としては、第1の実施形態とほぼ同じだが、ここでも基板4の代わりに、室温より高い(もしくは低い)温度を有する熱源58を利用している。この結果、待機時には、素子には熱源58の影響で、定常的な面直温度勾配が生じている。
この状態で、室温の局所冷却手段80が押し当てられると、この部分で局所的に放熱(冷却)が促進されることから、金属パターン膜/磁性体層に印加される温度勾配が局所的に大きくなり、スピン流に伴う電場が増大する。これに伴う電位分布の変化を、第1の実施形態と同様の方法で検出することにより、位置情報の推定が可能となる。
[実施例7]
図19は、本発明の具体的な第7の実施例による位置検出装置を示す斜視図である。
本第7の実施例では、磁性体層2としては厚さ0.1mmのYIG層、金属パターン膜5には厚さ10nmのPtメッシュ膜を用いる。
熱源58としては、温度が40℃と、室温以上に設定されているディスプレイの表面を利用する。カバー層3(図19では図示せず)には、厚さ100μmの合成サファイア板を用いる。
さらに、冷却手段80として、室温のペンを用いる。
[第8の実施形態:磁場などの検知による位置検出装置]
これまでの実施形態では、外部からの磁性体層の加熱、すなわち格子温度の変調を利用した位置検出手法について説明してきたが、定常温度勾配を利用できる状況では、外部からの加熱で格子温度Tp(通常の意味での温度)を変える代わりに、他の様々な自由度によってマグノン温度Tm(マグノンの熱運動の激しさを表す有効温度パラメータ)の方を変調することでも、位置検出応用が可能となる。
図20は、そのような第8の実施形態に係る位置検出装置を示す斜視図および平面図である。図示の位置検出装置の基本的な素子構成は、第7の実施形態とほぼ同じで、温度勾配が存在する状況下での定常スピン流を利用する。第7の実施形態との構成上の唯一の違いは、図示の位置検出装置は、局所冷却手段80の代わりに磁気特性変調手段90を用いる点にある。
磁気特性変調手段90としては、局所的な電場・磁場や、局所的な圧力、電磁波を利用することができる。これにより、マグノンが感じる有効ポテンシャルが実効的に変調される結果、前述したマグノン温度Tmが変調される。これにより、格子温度Tpとマグノン温度Tmの差が局所的に変化することから、これに伴う熱起電力の変化を金属パターン膜5中で観測することにより、位置情報の取得が可能となる。
[実施例8]
図21は、局所磁場によるマグノン変調を利用した本発明の具体的な第8の実施例による位置検出装置を示す斜視図である。
本第8の実施例による位置検出装置では、磁性体層2としては厚さ0.1mmのYIG層、金属パターン膜5には10nmのPtメッシュ膜を用いる。
熱源58としては、温度が40℃と、室温以上に設定されているディスプレイの表面を利用する。
磁気特性変調手段90としては、先端にフェライト磁石を有するペンを用いる。これによって、マグノン温度Tmを変調して、位置入力を行う。
上述して本発明の実施形態(実施例)の効果について説明する。
本発明の実施形態(実施例)で示した構造により、外部電源が不要な位置検出装置が可能となり、簡便な構成による低待機電力のタッチパネルやイメージセンサなどを実現することができる。また、塗布プロセスや印刷プロセスなどを利用することが可能で、低コスト基板への大面積実装にも適している。
以上、実施形態(実施例)を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態(実施例)に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
2 磁性体層
3 カバー層
4 基板
5 金属パターン膜(導体パターン膜)
10 加熱手段
30 電磁波
31 電磁波吸収膜
32 スペーサー層
40 摩擦熱発生手段
41 摩擦熱発生体
50 浮遊体(ガス)
51 浮遊体検知膜(触媒膜)
53 ドットスペーサ
60 圧力印加手段
61 上部発熱層
62 下部発熱層
70 圧力印加手段
80 局所冷却手段
90 磁気特性変調手段

Claims (10)

  1. 磁化を有する磁性体層と、
    該磁性体層上に形成され、スピン軌道相互作用を有する材料を含む導電パターン膜であって、前記磁性体層の磁化方向に交差する方向に延在し、かつ互いに平面上で交差する複数本の導体線からなる前記導体パターン膜と、
    を含む位置検出装置であって、
    前記磁性体層の任意の箇所が加熱又は冷却されることにより、前記導電パターン膜および前記磁性体層中の有効温度を変調し、スピンゼーベック効果を誘起することで、前記導電パターン膜中に電場を発生させ、それに伴う電位変化から温度変調の2次元位置と大きさの情報を推定可能としたことを特徴とする、位置検出装置。
  2. 前記導電パターン膜は、膜面内に複数の非導電領域を含むことを特徴とする、請求項1に記載の位置検出装置。
  3. 前記導電パターン膜は、メッシュ形状を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の位置検出装置。
  4. 前記磁性体層の磁化方向は、前記導電パターン膜のメッシュ形状が有する2つの軸のいずれに対しても平行でないことを特徴とする、請求項3に記載の位置検出装置。
  5. 前記導電パターン膜の周縁部に、電圧を読み取るための複数の端子を有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の位置検出装置。
  6. 前記磁性体層を局所的に加熱もしくは冷却することで、位置情報を入力する位置情報入力手段を更に含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の位置検出装置。
  7. 前記導体パターン膜を介して前記磁性体層上に配置された電磁波吸収膜をさらに含み、
    前記位置情報入力手段は、前記電磁波吸収膜に電磁波を照射する電磁波照射手段からなることを特徴とする、請求項6に記載の位置検出装置。
  8. 前記導体パターン膜を介して前記磁性体層上に配置された摩擦熱発生体をさらに含み、
    前記位置情報入力手段は、前記摩擦熱発生体に摩擦熱を発生させる摩擦熱発生手段からなることを特徴とする、請求項6に記載の位置検出装置。
  9. 前記導体パターン膜を介して前記磁性体層上に配置された浮遊体検知層をさらに含み、
    前記位置情報入力手段は、前記浮遊体検知層上に飛来する浮遊体からなることを特徴とする、請求項6に記載の位置検出装置。
  10. 前記磁性体層に対して温度勾配を印加する手段をさらに備え、
    前記位置情報入力手段は、有効温度分布を変調することを特徴とする、請求項6に記載の位置検出装置。
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