JP2013022036A - 生体用インプラント材とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 インプラント基材上に水溶液中からリン酸カルシウムを析出させて形成されるリン酸カルシウム皮膜について、インプラント基材との密着性を確保可能な皮膜の形成手段を提供する。
【解決手段】 所定の形状に成形されたインプラント基材に対してハイドロジェル層を設ける工程と、当該ハイドロジェル層の表面に水溶液中からリン酸カルシウム層を析出する工程とを有することを特徴とする生体用インプラント材の製造方法。
【選択図】 図1

Description

本発明は、歯科あるいは外科分野において用いられる、骨に埋入するインプラント材に関し、特に骨再生を促す生体用インプラントとその製造方法に関する。
形成外科分野における外傷や疾病による骨欠損部や、抜歯後の歯列欠損部の再建に対する治療法として、人工骨や人工関節、人工歯等の医療用インプラントを体内に挿入し、欠損部の代用とする治療法が知られている。この治療の際には、骨欠損部等に埋め込まれたインプラント埋入部位周辺に骨組織が形成されることで、インプラントと骨との間に繊維性組織を介さない物理的な密着状態(以下、オッセオインテグレーションと表記する)を良好に形成させることが重要な課題である。
インプラント埋入後に良好なオッセオインテグレーションを形成させる手段として、少なくてもその表面部が水酸アパタイトで形成されたインプラント材を用いることが従来より広く行われている。これは、水酸アパタイトが生体骨と繊維性組織等を介さずに直接結合を形成可能であることを利用するものであり、典型的には骨欠損部に必要とされる強度等に応じて、緻密質や多孔質の水酸アパタイト焼結体等からなるインプラント材が使用されている。また、特に大きな強度が必要とされる抜歯後の歯列欠損部の再建には、チタン等をインプラント材の基材として、その表面にプラズマスプレー法やサンドブラスト処理等により実質的に水に溶解しない高結晶性の水酸アパタイトを強固に結合させたものが使用されている(特許文献1,2)。
一方、インプラント埋入部位周辺等での骨形成の現象は、埋入部位周辺の骨芽細胞がコラーゲン線維とリン酸カルシウム微粒子を生産し、コラーゲン線維の上にリン酸カルシウム等が沈着してなる石灰化作用によってもたらされることが知られている。そして、当該骨形成をもたらす骨芽細胞による石灰化作用は、骨芽細胞の周囲のカルシウムイオンが豊富な場合で活発になることが知られている。このため、インプラント埋入部位周辺におけるカルシウムイオン濃度を高く保持することで、インプラント埋入後の早期のオッセオインテグレーション形成が期待される。
この点において、水酸アパタイト焼結体や、上記特許文献1、2に記載された方法でインプラント表面に被覆された高結晶性のリン酸カルシウムは、人体内における溶出速度が低いため、これらのリン酸カルシウム等から骨芽細胞へのカルシウムイオンの供給は実質的に生じないと考えられる。このため、上記のインプラント表面部のリン酸カルシウム等の効果は良好なオッセオインテグレーション形成を可能にするに留まり、石灰化作用の活発化によるオッセオインテグレーション形成速度の向上には作用していないと考えられる。
上記観点等から、これまでにも骨芽細胞へのカルシウムイオンの供給により骨形成を促進させる等を目的として、溶解性の高いリン酸カルシウムを被覆したインプラントの試みが行われている。例えば、特許文献3には、高結晶性の水酸アパタイト層を芯材の表面に被覆し、更にその外周に溶解性の高いリン酸カルシウム(α―TCP等)を被覆形成した複合インプラントが記載されている。
また、特許文献4には、インプラントの所定部位にα―TCP等の結晶度が90%以下のリン酸カルシウム系材料からなる消失性コーティング膜を形成し、当該コーティング膜に抗菌剤又は抗菌薬を含有させた生体インプラントが記載されている。
また、本発明者らは、コラーゲンフィブリル粒子を付着させたチタン基材の表面にリン酸カルシウムを水溶液から析出させて、溶解性の高いリン酸カルシウムを設けたインプラント材を制作する試みを行っている(非特許文献1)。
特開平11−047259号公報 特開平10−099348号公報(特許第29893253号) 特開平05−057011号公報 特開2008−73098号公報
吉田京子、本山美香、川井貴裕、鵜沼英郎、(社)日本セラミックス協会2009年年会講演予稿集、p.291
特許文献3,4においては、α―TCP等のリン酸カルシウムを基材上に被覆する手段として、溶射法やスパッタリング法等のようにα―TCP等の原料となる物質を物理的に励起して基材上に適用する手段が用いられている。このような手段によれば、基材上に適用された物質が基材に対して比較的高い強度で密着可能であると共に、急冷される際に非晶化を生じることを利用して水に対する高い溶解速度を得ている。しかしながら、溶射法やスパッタリング法等によりリン酸カルシウムを実際のインプラント基材上に被覆する手段によれば、特にインプラント基材の形状が複雑な場合には均一な膜厚の被膜を得ることが困難であるという問題を有する。つまり、インプラント基材上に溶解速度の高いリン酸カルシウムが残留した場合には、良好なオッセオインテグレーションが形成されないため、均一な膜厚で溶解速度の高いリン酸カルシウム層を形成することが困難な特許文献3,4に記載の技術によっては、必ずしも必要充分な量の高溶解速度のリン酸カルシウム層の形成が困難である。
一方、非特許文献1に記載されるように水溶液中からリン酸カルシウムを析出させる手段によれば、複雑形状のインプラント基材であっても水への溶解速度の高いリン酸カルシウムについて均一な皮膜の形成が期待されるが、一般に形成されるリン酸カルシウム皮膜の基材に対する密着性が低いため、良好な皮膜の形成が困難であるという問題がある。
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、インプラント基材上に水溶液中からリン酸カルシウムを析出させて形成されるリン酸カルシウム皮膜について、下地との密着性を確保可能な皮膜の形成手段を提供することを課題とする。また、水溶液中から析出したリン酸カルシウム皮膜を有することで、埋入部周囲へのカルシウムイオンを供給可能なインプラント材を提供することを課題とする。
上記課題を解決するための本願の第1の発明は、所定の形状に成形されたインプラント基材に対してハイドロジェル層を設ける工程と、当該ハイドロジェル層の表面に水溶液中からリン酸カルシウム層を析出する工程とを有することを特徴とする生体用インプラント材の製造方法に係るものである。
また、前記ハイドロジェル層の最大厚みが10μm以下とされることを特徴とする生体用インプラント材の製造方法に係るものである。
また、前記ハイドロジェル層の分散質の主成分として、生体に吸収可能なポリマーが用いられることを特徴とする生体用インプラント材の製造方法に係るものである。
また、前記ハイドロジェル層の分散質の主成分として、ゼラチン、又は、コラーゲン誘導体が用いられることを特徴とする生体用インプラント材の製造方法に係るものである。
また、前記リン酸カルシウム層は、50℃以下の水溶液から析出されることを特徴とする生体用インプラント材の製造方法に係るものである。
更に、上記課題を解決するための本願の第2の発明は、所定の形状を有するインプラント基材の表面部にハイドロジェル層と水溶液から析出されたリン酸カルシウム層とが設けられ、当該水溶液から析出されたリン酸カルシウム層が当該ハイドロジェル層の表面に析出されたものであることを特徴とする生体用インプラント材に係るものである。
また、前記ハイドロジェル層の最大厚みが10μm以下であることを特徴とする生体用インプラント材に係るものである。
また、前記ハイドロジェル層の分散質は、生体に吸収可能なポリマーを主成分とすることを特徴とする生体用インプラント材に係るものである。
また、前記ハイドロジェル層の分散質の主成分として、ゼラチン、又は、コラーゲン誘導体が用いられることを特徴とする生体用インプラント材に係るものである。
本発明のインプラント材の製造方法によれば、インプラント材の埋入時に剥離等を生じ難い密着強度で容易溶解性のリン酸カルシウム層をより均一にインプラント材表面に被覆することが可能になる。また、当該製造されたインプラント材によれば、より確実に早期のオッセオインテグレーションの達成が可能となる。
本発明に係るインプラント材の表面部の構造を示す概略図である。 各種の基材上にリン酸カルシウムを析出させた際の表面状態を示す図である。 本発明に係るインプラント材において、水溶液中から析出させたリン酸カルシウム層の一例をX線回折法で測定した結果である。 本発明に係るインプラント材において、水溶液中から析出させたリン酸カルシウム層の一例を赤外線吸収分光法で測定した結果である。 本発明のインプラントを生理食塩水に浸したときの、生理食塩水中のカルシウムイオン濃度の分析値である。 本発明の実施に係るインプラント材を含む各種インプラント材を糖尿病ラットの頭蓋骨欠損部に4週間埋入した後の組織切片画像の光学顕微鏡写真である。
図1には、本発明に係るインプラント材の表面部の構造を示す概略図を示す。図1に示すように、本発明に係るインプラント材1においては、所定の形状を有するインプラント基材2の表面部に水溶液から析出させた迅速溶解性のリン酸カルシウム層3が設けられると共に、その下地層として略均一な膜厚を有するハイドロジェル層4を設けたことを特徴とする。水溶液からの析出により迅速溶解性のリン酸カルシウム層3を形成する際に、当該リン酸カルシウム層3の下部に所定のハイドロジェル層4を配しておくことにより、略均一な厚みでリン酸カルシウム層の生成が可能になると共に、意外にも析出したリン酸カルシウム層の剥離を有効に防止することが可能となる。なお、本明細書においては、インプラント基材を基準として、インプラント基材の外部方向を「上部」等と表現し、よりインプラント基材に近い側を「下部」等と表現する場合がある。
図2には、各種の基材上に、以下の実施例で説明する方法等でリン酸カルシウムを析出させた際の表面状態を示す写真を示す。図2(A)は、硝酸処理により親水化し、アミノ基修飾したチタン基板上に、ハイドロジェル層を設けずにリン酸カルシウムを析出させた場合であり、析出後の乾燥工程等や、その後の取扱いにおいて析出させたリン酸カルシウム層が容易に剥離を生じることが観察された。これは、水溶液中から析出したリン酸カルシウムが単にチタン基板に付着しているのと同様の状態で層を形成しているためと考えられる。
また、図2(B)は、非特許文献1に示された方法に従って、硝酸処理により親水化し、アミノ基修飾したチタン基板上に、ハイドロジェル層の代わりにコラーゲンフィブリルを化学結合し、その後にリン酸カルシウムを析出させた場合の外観を示す。コラーゲンフィブリルをチタン基板上に付着させることで、コラーゲンフィブリルが付着した部分においては析出したリン酸カルシウムがコラーゲンフィブリルに固着する傾向が見られたが、その他の部分においては析出したリン酸カルシウムが容易に剥離することが観察された。また、コラーゲンフィブリルが付着した部分により大量のリン酸カルシウムが析出し、全体としてリン酸カルシウムの析出を均一に行うことが困難であった。これは、使用したコラーゲンフィブリルが、コラーゲンゲルを機械的に粉砕して製造されるものであり、その粒子径を20ミクロン以下にすることが極めて困難である結果、基材表面においてコラーゲンフィブリルを均一な層状に塗布することが困難であり、実際には粒子状のコラーゲンフィブリルが点在して付着していたためと考えられる。
一方、図2(C)は、本発明の実施例1と同様の方法によりチタン基板上にハイドロジェルとしてのゼラチン層を略均一に設けた後、リン酸カルシウムを析出した場合の外観を示す。図2(C)に示すように、ゼラチン層等の上部にリン酸カルシウムを析出した場合には、リン酸カルシウムの均一な析出層が形成可能であると共に、その後の剥離等が有効に防止され、インプラント材としてリン酸カルシウム層を維持した状態で埋入が可能であった。
チタン基板上に比べてハイドロジェル層の表面に析出したリン酸カルシウム層において下地への密着性が高い理由は必ずしも明らかでないが、ハイドロジェル層においてゼラチン等の分散質が形成するネットワークに捕捉されて流動性を失った水相中においても一部のリン酸カルシウムが析出する結果、分散質のネットワークとリン酸カルシウム間に機械的な絡み合い構造が形成され、一定の密着強度が発現したものと推察される。また、リン酸カルシウムの析出後においては、チタン等の剛直な基板の上に柔軟性のあるハイドロジェル層を介してリン酸カルシウム層が存在するため、ハイドロジェル層の応力緩和効果によっても一定の密着が保持されるものと推察される。
リン酸カルシウム層の下層に設けられるハイドロジェル層の厚みは、インプラント材の用途などに応じて適宜決定することが可能であるが、典型的には最も厚い箇所においても10μm以下であることが好ましい。ハイドロジェル層の厚みが10μm以上になると、ハイドロジェル層の有する弾性に起因してリン酸カルシウム層の剥離が生じ易くなり、またインプラント埋入後のオッセオインテグレーションの形成に遅延を生じる傾向が見られる。また、ハイドロジェル層の厚みを平均で0.1〜5μmの範囲とすることで、リン酸カルシウム層の剥離が効果的に防止されると共に、早期のオッセオインテグレーションの形成が可能になる点で好ましい。ハイドロジェル層の厚みを平均で0.1μm以下にした場合、ハイドロジェル層の均一な形成が困難となって過剰に厚みの薄い部分を生じ易くなると共に、リン酸カルシウム層の剥離が生じ易くなる傾向が見られるため、典型的には平均で0.5〜2μm程度の厚みにすることが好ましい。
ハイドロジェル層を構成する成分としては、分散質が形成するネットワークに水が捕捉されて全体として固体状になるものであればリン酸カルシウムの密着層として使用することが可能であるが、インプラントの埋入後により確実にオッセオインテグレーションを形成させるためには、埋入後の一定期間内に体内で分解されて消失可能なものを使用することが望ましい。
特に、ゼラチン、フィブロイン、セリシン、カゼイン、フィブリンなどのペプチド、ペクチン、ヒアルロン酸などのグルコサミノグリカン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸などの脂肪族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸や、これらの混合物を主成分とする生体吸収性ポリマーを分散質の主成分とするハイドロジェル層を用いることで、インプラント埋入部周辺の組織から体内に吸収されて、良好なオッセオインテグレーションを形成可能である。
また、インプラントを埋入してリン酸カルシウムが溶失した後に骨芽細胞の増殖の環境形成を助けるゼラチンやコラーゲン誘導体等を分散質の主成分とするハイドロジェル層を使用することが特に好ましい。
ハイドロジェル層は、使用する成分が消失する速度等を考慮して、上記の範囲内の厚さで形成されるが、オッセオインテグレーションの形成を阻害しない範囲で、骨芽細胞の足場としての機能が発揮される程度の厚みにすることが好ましい。この点に関して、本発明のハイドロジェル層を形成する材料としてゼラチンを好ましく用いることができ、0.5〜2μm程度の厚みでゼラチンを主成分とするハイドロジェル層を形成することで、リン酸カルシウム層の接着の役割を果たすとともに、骨芽細胞に対しては増殖のための環境形成剤として作用し、適当な時期に消失してオッセオインテグレーションを形成することができる。
典型的に使用されるゼラチンとしては、ウシ、ブタまたは魚類由来のI型、II型またはIII型のアテロコラーゲンを加熱またはコラゲナーゼ酵素で分解して得られるゼラチンが挙げられる。コラーゲンはプロリン等の疎水性アミノ酸が外側に配列しているのに対し、コラーゲン由来の2次構造を変化させたゼラチンは、親水性アミノ酸が外側に配列している割合が高く、ハイドロジェル層として好適に用いることができる。なお、本発明においてゼラチンは、コラーゲンペプチドといったポリペプチドで代替可能であり、このようなポリペプチドを包含する広い意味で使用する場合がある。
また、インプラント材の実用性を高めるために、ハイドロジェル層は、その下地となる層の材質やハイドロジェル層の成分等に応じて、適宜の手段により下地層との結合を生じていることが好ましい。例えば、ハイドロジェル層としてゼラチン、フィブロイン等のカルボキシル基を含むものを用いる場合には、下地層表面に適宜の手段によりアミノ基を設けておくことで、カルボキシル基との脱水縮合によりペプチド結合(−CONH−)が形成され、これによりハイドロジェル層を固定化することが可能である。
ハイドロジェル層を形成する手段は特に限定されず、適宜の手段により形成することが可能であり、例えば、ハイドロジェルを形成する組成物を含有した水溶液に基材を含浸する方法や、塗布による方法等、一般に用いられる方法により使用することができる。
本発明において、ハイドロジェル層の上に形成されて、インプラントの埋入後に溶出して埋入部の周囲にカルシウムイオン等を供給する迅速溶解性のリン酸カルシウムの組成は、生体に対して有害でなく、水溶液等に対しての溶解速度が確保できるものであれば特に限定されないが、典型的には水酸アパタイト(Ca10(PO(OH))、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)、リン酸水素カルシウム2水和物(CaHPO・2HO)や、それらの混合物が挙げられる。
なお、括弧内の各組成は理想的なものであり、同様の構造を有するものであれば、それぞれの固溶体等も本発明におけるリン酸カルシウムの範囲に含まれる。
上記のリン酸カルシウムをハイドロジェル層の上に析出させる手段としては、カルシウムイオン、リン酸イオン等を含む水溶液中にハイドロジェル層を設けたインプラント基材を浸漬し、目的組成のリン酸カルシウムが析出するようにイオン濃度、pH等の環境を適宜設定することで、平衡を保ちつつハイドロジェル層の上にリン酸カルシウムを析出させることができる。
また、このリン酸カルシウムの析出の際の温度を低くすることで、析出するリン酸カルシウムの結晶度を低くすることであり、これによってリン酸カルシウムの水または体液に対する溶解速度を高めることが可能である。本願発明で好ましく使用される迅速溶解性のリン酸カルシウムとしては、典型的には50℃以下の温度で水溶液中から析出したものにおいて結晶性が低く、インプラント材の埋入後に埋入部の周囲への溶解速度が高い点で好ましく用いられる。特に20〜40℃の温度範囲で析出したリン酸カルシウムによれば、インプラント埋入部の周囲に良好にカルシウムイオンを供給できる点で好ましい。また、リン酸カルシウムの析出に使用する水溶液の成分にも依存するが、一般にリン酸カルシウムの析出温度が20℃未満になると、インプラント材の製造時のリン酸カルシウムの析出速度が低下し、リン酸カルシウム層の形成に長時間が必要になる傾向が見られる。
また、リン酸カルシウムの析出の際に、リン酸カルシウムの析出反応の平衡に関与するイオンなどをハイドロジェル層から供給する等の手段により、リン酸カルシウムの析出反応をハイドロジェル層の表面部で生じさせることがハイドロジェル層とリン酸カルシウム層との密着性を高められる点で望ましい。これは、ハイドロジェル層の表面部よりリン酸カルシウムの析出に関与するイオンを供給することで、ハイドロジェル層に捕捉された水相中においても一部のリン酸カルシウムの析出が生じて、ハイドロジェル層の分散質のネットワークとリン酸カルシウム間に機械的な絡み合い構造が生じるためと考えられる。また、ハイドロジェル層から供給されるイオンなどにリン酸カルシウムの析出を促進することで、リン酸カルシウムの析出反応を生じる場所がハイドロジェル層の表面部に限定されるため、より効率的にリン酸カルシウムの析出を行うことが可能である。
ハイドロジェル層の表面部において選択的にリン酸カルシウムを析出させる手段の一例として、例えば、ハイドロジェル層の表面にウレアーゼを固定化し、このウレアーゼから発生するOH-を利用してカルシウムイオン、リン酸イオン等を含む溶液で処理することでハイドロジェル層の表面にリン酸カルシウムを析出させる方法があげられる。
ハイドロジェル層の表面に析出されるリン酸カルシウム層の厚さは一般的に1〜50μmとすることが好ましく、更に好適には5〜30μmの範囲にあることが好ましい。当該リン酸カルシウムはインプラント材の埋入後に溶解して、埋入部の周囲にカルシウムイオンを供給するものであるため、層の厚さが1μmより薄いと骨芽細胞の増殖・分化・石灰化を促す効果に乏しくなり好ましくない。一方、50μmよりも厚いと、ゼラチン層から剥がれやすくなるので好ましくない。
実施例において示すように、上記の工程によりインプラント材の表面に設けられる迅速溶解性のリン酸カルシウムは、インプラント材の埋入後に溶解して比較的短時間にインプラント材の埋入部の周囲のカルシウムイオン濃度をその飽和濃度に上昇させ、その後、当該リン酸カルシウムが消失するまでの一定期間、当該飽和濃度を維持する機能を有する。このため、インプラント材の表面に設けられるリン酸カルシウムの厚さは、インプラント埋入部周辺の骨再生がほぼ終了し、オッセオインテグレーションが形成され始める初期に消失する程度以下にすることが好ましい。飽和濃度の維持のために溶解するリン酸カルシウムの溶解速度や、飽和濃度を維持することが好ましい期間は、インプラント材が埋入される部分や目的に応じて変化するため、上記の工程によりハイドロジェル層上に析出されるリン酸カルシウムの厚さは機械的強度等により要求される範囲内において、インプラント材の目的等に応じて適宜決定されるべきである。
本発明におけるインプラント材の基材としては、チタン、チタン合金、クロム等の金属や、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウム(水酸アパタイト)などのセラミックス等、通常にインプラント材料として使用されるものが特に限定せず利用できるが、特にその表面部においては生体骨と良好なオッセオインテグレーションを形成可能な酸化チタン、水酸アパタイトなどの材質を有することが好ましい。
また、本発明におけるハイドロジェル層やリン酸カルシウム層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、インプラントの埋入部周辺の炎症を抑制する等の作用を示す薬剤を適宜混入することも可能である。
本発明においては、上記基材の表面に所定のハイドロジェル層と迅速溶解性のリン酸カルシウム層が設けられることにより、生体に埋入された後に当該リン酸カルシウム層からのカルシウムイオンの供給により効果的にインプラント埋入部周辺の骨生成が促進され、オッセオインテグレーション生成までの期間が短縮される。また、所定期間後にハイドロジェル層と迅速溶解性のリン酸カルシウム層の両層が消失し、基材と生体骨間のオッセオインテグレーションが生成される。
以下、本発明の具体的実施形態の一例について説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態においては、特に歯列欠損部の再建用のインプラント材として、基材としてチタン合金を使用する場合について説明する。この実施形態のインプラント材は、(1)基材とするチタン合金を用いたインプラント基材の表面処理と、(2)基材表面へのハイドロジェル層としてのゼラチンの固定化と、(3)このハイドロジェル層表面上へリン酸カルシウムを析出する工程により製造される。
<インプラント基材の表面酸化>
本実施例においては、インプラント基材に用いるチタン合金の表面に酸化皮膜を形成してオッセオインテグレーションを形成し易くすると共に、ハイドロジェル層を良好に固定化するための前処理を行う。
典型的には、純チタン(チタン合金)をインプラントの形状に加工を施した後に表面洗浄・脱脂を行って表面を清浄にしたものを、1〜15mol/Lの硝酸に浸し、10〜50℃の温度で1〜60分間保持する。これにより表面が酸化チタンに酸化され、表面にTi−OH基が現れる。この処理により、生体骨との親和性が高まり、オッセオインテグレーションの形成が容易になる。
基材の表面を酸化して水酸基を導入する手段は上記に限定されず、その他、プラズマ処理や、アルカリ処理等、一般的に行われている方法を利用することができる。
<ハイドロジェル層の形成>
ハイドロジェル層は、一般にハイドロジェル層の分散質となる成分とその架橋剤等を共に溶解させた水溶液中に上記の表面処理を行ったインプラント基材を浸漬することで、ハイドロジェルをインプラント基材の表面に析出させて形成される。
その際に、ハイドロジェル層とインプラント基材表面との密着強度が充分でない場合には、その材質等に応じた手段によりその密着強度を高めることが好ましい。例えば、ハイドロジェル層としてゼラチンのようにカルボキシル基(−COOH)を有するものを使用する場合、公知の手段(R. Muller, J. Abke, E. Schnell, D. Scharnweber, R. Kujat,C. Englert, D. Taheri, M. Nerlich, P. Angele, Biomaterials, vol,27, p.4049-4068 (2006))に従って、以下のような手段により予めインプラント基材表面にアミノ基(−NH)を付与しておくことで、アミノ基とカルボキシル基を脱水縮合させてペプチド結合(−CONH−)を形成することによって、化学結合を用いてハイドロジェル層をインプラント基材表面に固定化することができる。
つまり、アミノアルキルトリアルコキシシラン等の一般名で表されるアミノ基を有するシランカップリング剤を1〜50重量%程度含むアルコール溶液を作成し、上記硝酸処理を施したインプラント基材を浸漬する。この状態で10〜40℃の温度で1〜48時間保持することにより、インプラント基材(Ti)の表面の水酸基(−OH)とシランカップリング剤のアルコキシル基(Si−OR、RはC2n+1で表されるアルキル基)とが(1)式のように縮合し、インプラント基材表面にアミノ基(−NH)が結合される。
上記反応に用いるシランカップリング剤としては、アミノプロピルトリエトキシシラン等の一般に入手可能なシランカップリング剤が使用できる。また、インプラント基材をアルコール溶液から取り出して、空気中で50〜150℃の温度で乾燥させることで、(1)式の反応をさらに進行させることができる。
次に、ゼラチンの水溶液にカルボジイミドなどの架橋剤を溶かしたものに、上記でアミノ基を結合したインプラント基材を浸して、20〜50℃の温度で6〜72時間保持する。この過程でインプラント基材表面のアミノ基とゼラチンのカルボキシル基(−COOH)が脱水縮合し、ペプチド結合(−CONH−)することによって、ゼラチンをインプラント基材表面に固定化することができる。
なお、上記ではハイドロジェル層であるゼラチン層とインプラント基材とを化学的に固定する手段を用いる場合について記載したが、ハイドロジェル層とインプラント基材との密着力が充分である場合には、格別の手段を用いる必要はない。
上記工程によれば、1μm以下の厚さでインプラント基材(Ti)と化学的に結合したゼラチン層が得られる。ハイドロジェル層は、その上部に析出するリン酸カルシウムとインプラント基材のバインダー層となり、インプラントを体内に埋入した後で骨芽細胞の増殖の環境形成の役割を果たす一方で、インプラント基材上に過度に残留した場合にはオッセオインテグレーション形成の妨げになるため、必要以上に厚く設けることは望ましくない。
<リン酸カルシウム層の形成>
上記インプラント基材表面に所定の厚さで設けたハイドロジェル層上にリン酸カルシウムを析出させる工程は、析出させようとするリン酸カルシウムの組成などに応じて所定の濃度でカルシウムイオンやリン酸イオン等を含有する水溶液中にインプラント基材を浸漬して行う。
本願発明においては、ハイドロジェル層と析出するリン酸カルシウムとの密着性を向上するために、ハイドロジェル層の表面近傍でリン酸カルシウムを析出することが望ましい。ハイドロジェル層の表面近傍でリン酸カルシウムを析出させる方法は特に制限されないが、例えば、ハイドロジェル層を設けたインプラント基材をカルシウムイオン、又はリン酸イオンの一方のみを有する水溶液中に浸漬して、当該イオンをハイドロジェル層の表面に含侵させ、その後に他方のイオンを有する水溶液中に浸漬することで、両イオンを反応させてリン酸カルシウムを析出させる等の方法を用いることができる。また、ハイドロジェル層の表面に予めリン酸カルシウムの析出に関与するOH-等のイオン種を含有させておいたものをカルシウムイオンやリン酸イオン等を含有する水溶液中に浸漬し、当該OH-等のイオン種の関与によりハイドロジェル層の表面で選択的にリン酸カルシウムを析出させてもよい。
また、以下に説明する本願発明の実施例においては、尿素を加水分解してアンモニアを生じる酵素であるウレアーゼをハイドロジェル層の表面に固定化すると共に、カルシウムイオン、リン酸イオンと共に尿素を含む水溶液に浸漬することで、ハイドロジェル層の表面近傍でOH-イオンを継続的に発生させ、このOH-イオンの関与によってリン酸カルシウムをハイドロジェル層の表面近傍で析出させている。この方法によれば、カルシウムイオン等を含む水溶液に浸漬する時間を変えることにより、リン酸カルシウムの析出量を調整可能な点で好ましい。
具体的には、ハイドロジェル層としてゼラチン等が固定化されたインプラント材を、ウレアーゼとカルボジイミドを溶かした水溶液に入れ、20〜50℃の温度、好ましくは30〜40℃の温度で6〜72時間保持する。この過程で、ゼラチン表面のカルボキシル基またはアミノ基と、ウレアーゼのアミノ基またはカルボキシル基が脱水縮合し、ゼラチン表面にウレアーゼを固定化することができる。
次に、カルシウムイオン1〜100mmol/L、リン酸イオン1〜100mmol/L、尿素10〜100mmol/Lを含む水溶液に、先の工程で準備されたウレアーゼを固定化したインプラント材を浸し、20〜50℃の温度で15分から24時間保持する。この過程で、ウレアーゼの作用により尿素がアンモニアに変わり、アンモニアはリン酸カルシウムをインプラントの表面に選択的に析出させる。
リン酸カルシウム層の厚さは一般的に1〜50μmの範囲にすることが好ましく、5〜30μmであるのがより好ましい。リン酸カルシウム層の厚さは、1μmより薄いと骨芽細胞の増殖・分化・石灰化を促す効果に乏しくなり、50μmよりも厚いと、ハイドロジェル層から剥がれやすくなるので好ましくない。このように、ハイドロジェル層及びリン酸カルシウム層の厚さには必ずしも高い均一性が求められるものではなく、ある程度の不均一を有するものであってもよい。
上記の工程で析出するリン酸カルシウムは、析出温度を20〜50℃の範囲とすることで非常に微細な結晶粒を有するものとなり、またその化学組成もカルシウムイオンの一部が水素イオンで置き換えられ、リン酸イオンや水酸基の一部が炭酸イオンで置き換えられているなど、自然の骨と同じように水や体液に対して速やかに溶解する性質を持つ。
以下、本発明について具体的に実施した例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、上記説明した方法でインプラント基材上に析出させたリン酸カルシウムが、迅速溶解性を示すものであることを確認した。
インプラント基材には、直径4.0mm、厚さ2.0mmの円盤状の純チタン基板(表面積:約0.45cm)を用いた。このチタン基材を15mol/Lの濃硝酸に浸し、室温で10分間保持して表面を酸化させた。表面酸化を行った純チタン基板を赤外線反射分光法で測定したところ、表面に−OH基が固定されていることが確認された。
次に、アミノプロピルトリエトキシシラン5.0gをエタノール25.0gに溶解した溶液に、上記の表面酸化したチタンを入れ、25℃で24時間保持した後に120℃で30分間乾燥した。この状態で赤外線反射分光法を使用して測定したところ、基板表面にアミノ基が結合されていることが観察された。
次いで、50mLのpH5.8のリン酸緩衝溶液(KHPO 0.05mol/L、NaOH 0.0036mol/L)に、水溶性カルボジイミド0.15g、ゼラチン(ゼライス株式会社製、RM−100B)0.01gを溶解し、これにアミノ基を結合したチタンを浸し、37℃で24時間保持してチタン表面に0.5μm程度の厚みでゼラチンを固定化した。
次に、ウレアーゼ(関東化学株式会社。タチナタ豆由来、5000U/g)を0.030gとカルボジイミド0.150gをpH5.8のリン酸緩衝溶液50mLに溶かした水溶液に、ゼラチンを固定化したチタン基板を入れ、約37℃の温度で24時間保持することで、ゼラチンの表面にウレアーゼを固定した。
そして、リン酸カルシウムを析出させるために、硝酸カルシウム四水和物10.0mmol/L、リン酸二水素アンモニウム6.0mmol/L、尿素10.0mmol/Lを含む水溶液に、先の工程で準備したウレアーゼ固定後のチタン基板を浸し、約37℃の温度で3時間保持して約10μmの厚さのリン酸カルシウム層を析出させた。析出させたリン酸カルシウム層は、チタン基板の全面に略均一であり、剥離などは観察されなかった。
上記によりチタン基板上に析出したリン酸カルシウム層をX線回折法で測定した結果を図3に示す。図3に示すように、回折角5°付近にリン酸八カルシウムに特有の回折線ピークaと、26°〜40°の範囲に低結晶性の水酸アパタイトに特有の回折線ピークc、d、e、fが見られることから、リン酸カルシウム層はリン酸八カルシウムと低結晶性の水酸アパタイトの混合相であることが示された。これらはどちらも、高結晶性水酸アパタイトに比較して、水に対して迅速に溶解する性質をもつことが知られている。
また、チタン基板上に析出したリン酸カルシウム層について赤外線吸収分光法で測定した結果を図4に示す。図4Aのスペクトルに示すように、1400〜1650cm−1の範囲に炭酸イオンの特有の吸収が見られたことから、析出したリン酸カルシウムは、カルシウムの一部が水素イオンで置換され、リン酸イオンと水酸基の一部が炭酸イオンに置換された水酸アパタイトであることが推察された。なお、図4Bは比較のために高純度・高結晶性の市販水酸アパタイト粉末のスペクトルであり、ここには炭酸イオンに特有の吸収は見られない。
上記でリン酸カルシウムを析出させたチタン基板を50mLの生理食塩水(NaCl:0.9%水溶液)で室温に保ちながら3日間保持した。その際の、1〜3日経過後における生理食塩水中のカルシウムイオン濃度を誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP)で測定した結果を図5に示す。
図5に示すとおり、1日経過後には約1.0×10−4mol/L程度の濃度のカルシウムイオンが生理食塩水に存在すると共に、3日経過後にも同様のカルシウムイオン濃度が観察された。また、3日経過後においてもチタン基板表面には未溶解のリン酸カルシウム層が存在していた。また、pH6.5の水に対する水酸アパタイトの飽和溶液におけるカルシウムイオン濃度は約1.0×10−4mol/Lであることが知られており、上記測定されたカルシウムイオン濃度はこれに良く一致した。
以上のことから、上記工程によりチタン基板(表面積:約0.45cm)上に析出させたリン酸カルシウムは、1日以下で50mLの生理食塩水に対して、その飽和濃度まで溶解可能な溶解速度を有する迅速溶解性のリン酸カルシウムであることが示された。
[実施例2]
実施例2においては、形状が異なる以外は実施例1と同様の方法でチタン基板上にゼラチン層を介してリン酸カルシウムを析出させたものをインプラント材として、糖尿病ラットの頭蓋骨の欠損部分に埋設して他のインプラント材との経過の違いをインプラント埋入部周辺の骨生成等の組織変化から観察した。実施例2で使用した糖尿病ラットは、糖尿病を発症させることで骨形成能力を劣化させたラットである。
実験は、8週齢の糖尿病ラットの頭蓋骨に硬膜を傷つけないように形成した直径4.3mmの骨欠損部に各種のインプラント材を埋入して開口部を縫合し、インプラント材が完全に頭皮下にある状態で経過を観察し、インプラント材を埋入してから4週間後にラットを安楽死させ組織切片の観察を行った。
使用したインプラント材は、実施例1と同様の方法で作成したゼラチン層と迅速溶解性のリン酸カルシウム層で被覆したチタン基板からなるもの(第1群)、第1群と同様のチタン基板に実施例1と同様の方法でゼラチン(0.5μm厚)のみを被覆したチタン基板からなるもの(第2群)、硝酸処理のみを行ったチタン基板からなるもの(第3群)であり、各群をそれぞれ3匹の糖尿病ラットの頭蓋骨に対して埋入してインプラント埋入部周辺の骨生成等の組織変化を観察した。
図6には、上記各群のインプラント材を埋入して骨生成等を行ったラット頭蓋骨欠損部の組織切片写真を示す。それぞれ、図6(A)が第1群、(B)第2群、(C)第3群のインプラント材を用いた場合を示す。なお、組織切片作製の際には、生体骨を破壊しないように応力をかけてインプラント材を骨との界面で機械的に分離することでインプラント材を摘出除去した。
図6(A)〜(C)において、黒線で囲まれた部位が「新生骨5」、「新生血管6」、および「繊維状組織7」であって、インプラント材の埋入後に生成された組織である。
ゼラチン層と迅速溶解性のリン酸カルシウム層で被覆したチタン基板をインプラント材とした場合(第1群)では、既存骨8とインプラント埋入部位9とのすき間に成熟した新生骨5が形成されると共に、当該新生骨の内部には新生血管6が存在し、良好な骨再生が生じたことが推察される。
一方、リン酸カルシウム層を設けず、ゼラチン層のみで被覆を行った場合(第2群)では、既存骨とインプラント材の間に新生骨5の形成が見られるが、新生血管はまだ形成されていないなど、幼若な新生骨であることが推察された。また、被覆を行っていないチタン基板をインプラント材とした場合(第3群)では、既存骨とインプラント材とのすき間に新生骨の形成は全く見られず、繊維性組織7が形成されていることが観察される。
以上のように、本発明によりハイドロジェル層を中間層として水溶液中から析出したリン酸カルシウムを被覆したインプラント材は、骨形成を促す機能を持つ医療用インプラントとして有効であることが示された。
本発明の生体用インプラント材およびその製造方法によれば、インプラント基材との密着性を確保可能な皮膜の形成手段を提供することが可能である。そのため、欠損した骨等の空隙を埋めることができるなど、産業用として利用することができる。
1 インプラント材
2 インプラント基材
3 迅速溶解性のリン酸カルシウム層
4 ハイドロジェル層
5 新生骨
6 新生血管
7 繊維性組織
8 既存骨
9 インプラント埋入部位

Claims (9)

  1. 所定の形状に成形されたインプラント基材に対してハイドロジェル層を設ける工程と、当該ハイドロジェル層の表面に水溶液中からリン酸カルシウム層を析出する工程とを有することを特徴とする生体用インプラント材の製造方法。
  2. 前記ハイドロジェル層の最大厚みが10μm以下とされることを特徴とする請求項1に記載の生体用インプラント材の製造方法。
  3. 前記ハイドロジェル層の分散質の主成分として、生体に吸収可能なポリマーが用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生体用インプラント材の製造方法。
  4. 前記ハイドロジェル層の分散質の主成分として、ゼラチン、又は、コラーゲン誘導体が用いられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の生体用インプラント材の製造方法。
  5. 前記リン酸カルシウム層は、50℃以下の水溶液から析出されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の生体用インプラント材の製造方法。
  6. 所定の形状を有するインプラント基材の表面部にハイドロジェル層と水溶液から析出されたリン酸カルシウム層とが設けられ、当該水溶液から析出されたリン酸カルシウム層が当該ハイドロジェル層の表面に析出されたものであることを特徴とする生体用インプラント材。
  7. 前記ハイドロジェル層の最大厚みが10μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の生体用インプラント材。
  8. 前記ハイドロジェル層の分散質の主成分が、生体が吸収可能なポリマーであることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の生体用インプラント材。
  9. 前記ハイドロジェル層の分散質の主成分が、ゼラチン、又は、コラーゲン誘導体であることを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載の生体用インプラント材。
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