JP2012529913A6 - エイコサペンタエン酸を高産生するよう改良されたヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)最適化株 - Google Patents

エイコサペンタエン酸を高産生するよう改良されたヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)最適化株 Download PDF

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Abstract

ω−3多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸[「EPA」]を、全脂肪酸の重量パーセント[「% TFA」]として計測して50重量パーセントより多く含み、且つEPA % TFAの、% TFAとして計測したリノール酸に対する比が少なくとも3.1である油を産生することが可能な油性酵母ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の改変株について記載する。これらの株は、他の異種Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C16/18エロンガーゼに加え、少なくとも1つのΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼマルチザイムを過剰発現し、さらにジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ、マロニルCoAシンテターゼ及び/又はアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼを過剰発現してもよい。少なくとも1つのペルオキシソーム生合成因子タンパク質の発現は下方制御される。前記宿主細胞内でEPAを産生する方法、細胞から得られる油、及びそれに由来する製品が特許請求される。

Description

本願は、各々が2009年6月16日に出願され、且つ各々が本明細書によって全体として参照により援用される米国仮特許出願第61/187366号明細書、同第61/187368号明細書及び同第61/187359号明細書の利益を主張する。
本発明はバイオテクノロジーの分野に含まれる。より具体的には、本発明は、ω−3多価不飽和脂肪酸[「PUFA」]のエイコサペンタエン酸を高濃度で効率的に産生する能力を有する油性酵母ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の改変株に関する。
エイコサペンタエン酸[「EPA」;シス−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸;ω−3]の臨床及び製薬における価値は周知されている(米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書)。同様に、組換え手段を用いて微生物中でEPAを産生する利点もまた、天然の微生物供給源からの、又は魚油及び海洋プランクトンからの単離を介するEPA産生に対比されるものとして広く認知されている。
文献に報告される最近の例のいくつかによれば、EPA産生に関与するω−3/ω−6多価不飽和脂肪酸[「PUFA」]生合成経路の様々な部分が植物及び非油性酵母に導入されているが、本出願人の譲受人は、油性酵母のヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の使用に主眼を置いて注力してきた(米国特許第7,238,482号明細書;米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書)。油性酵母は、天然で油を合成及び蓄積する能力を有する酵母として定義され、油の蓄積は細胞乾燥重量の少なくとも25%である。
より具体的には、米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書は、以下の遺伝子、すなわちΔ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ及びC16/18エロンガーゼの発現により、γ−リノレン酸[「GLA」;ω−6]が同時に合成されることなく組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株において全脂肪酸の9%のEPAが産生されることを実証した。
米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書はEPA産生に最適化された組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株について記載し、天然ペルオキシソーム生合成因子10タンパク質(PEX10)の破壊を含む宿主細胞中で以下の遺伝子、すなわちΔ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C16/18エロンガーゼ及びジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼを発現させることにより、組換えY.リポリティカ(Y.lipolytica)株において全脂肪酸の最大55.6%のEPAが産生されることを実証した。
上記に引用する開示はあるものの、EPAを商業的に生産するためには、最終油産物中のリノール酸[「LA」;ω−6]などの中間体脂肪酸、及び副産物脂肪酸の生成を最小限に抑える一方で、全脂質含量が高いことに加え、全脂肪酸の重量パーセントとしてのEPAの高産生を可能にし得る株の改良が必要とされている。本出願人は、改良されたヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)最適化株を設計することにより上述の問題を解決しており、この改良は、以下のうちの少なくとも1つを可能にする:全油画分中61.8%のEPAの産生、乾燥細胞重量の百分率として39.6%の全脂肪酸の産生、又はEPA対LA比が6.1の脂質の産生。
第1の実施形態において、本発明は、
(a)全脂肪酸の重量パーセントとして計測して少なくとも50重量パーセントのエイコサペンタエン酸
を含む油であって、
(b)前記油は、全脂肪酸の重量パーセントとして計測したエイコサペンタエン酸の、全脂肪酸の重量パーセントとして計測したリノール酸に対する比が少なくとも3.1である、
油を産生する組換えヤロウイア・エスピー(Yarrowia sp.)宿主細胞宿主細胞に関する。
第2の実施形態において、本発明は、請求項1の組換えヤロウイア・エスピー(Yarrowia sp.)宿主細胞であって、
(a)少なくとも1つのΔ8デサチュラーゼに連結された少なくとも1つのΔ9エロンガーゼを有するポリペプチドを含む少なくとも少なくとも1つのマルチザイムと、
(b)発現が下方制御された少なくとも1つのペルオキシソーム生合成因子タンパク質と、
(c)マロニルCoAシンテターゼ及びアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼからなる群から選択される酵素をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの組換えコンストラクトと、
を含む宿主細胞に関する。
好ましくは、マロニルCoAシンテターゼは、配列番号40及び配列番号42からなる群から選択される配列から本質的になる。
好ましくは、アシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼは、配列番号15、配列番号17、配列番号25、配列番号29、配列番号31及び配列番号32からなる群から選択される配列から本質的になる。
好ましくは、マルチザイムリンカーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7からなる群から選択される。
好ましくは、マルチザイムは、配列番号9、配列番号11及び配列番号13からなる群から選択される配列から本質的になる。
第3の実施形態において、本発明は、エイコサペンタエン酸を含む微生物油の作製方法であって、
a)本発明のいずれかの宿主細胞を培養するステップであって、エイコサペンタエン酸を含む微生物油が産生されるステップと、
b)ステップ(a)の微生物油を回収してもよいステップと、
を含む方法に関する。
第4の実施形態において、本発明は、本発明の方法により作製された油のさらなる処理に関する。
第5の実施形態において、本発明は、全脂肪酸の重量パーセントとして計測して少なくとも50重量パーセントのエイコサペンタエン酸を含む油を産生するための組換え宿主細胞であって、ATCC指定番号ATCC PTA−10025を有するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406;ATCC指定番号ATCC PTA−10026を有するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8412;及びATCC指定番号ATCC PTA−10027を有するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8259からなる群から選択される宿主細胞に関する。
生物寄託
以下の生物学的材料がAmerican Type Culture Collection(ATCC)、10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209に寄託され、以下の指定番号、受託番号及び寄託日を有する。
Figure 2012529913
上掲の生物学的材料は、「特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(Budapest Treaty on the International Recognition of the Deposit of Microorganisms for the Purposes of Patent Procedure)」の条項に基づき寄託された。掲載される寄託物は、指定された国際寄託当局において少なくとも30年間保管され、それを開示する特許の付与に伴い一般に利用可能となる。寄託物を利用可能であることは、政府の措置によって認められる特許権の特例における本発明の実施権をなすものではない。
図面の簡単な説明及び配列説明
ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路を示し、以下のこの経路の説明を考察するときに合わせて見るべきである。 ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路を示し、以下のこの経路の説明を考察するときに合わせて見るべきである。 全脂質画分中60.9%より高いEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y9481株、Y9497株及びY9502株の展開を図示する。 pY116についてのプラスミドマップを提供する。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pZKSL−5S5A5;及び、(B)pZP3−Pa777U。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pZKUM;及び、(B)pZKL2−5mB89C。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pZKL1−2SR9G85;及び、(B)pZSCP−Ma83。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pZKL4−398F2;及び、(B)pZP2−85m98F。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pZK16−ML8N;及び、(B)pZK16−ML。 全脂質画分中61.8%より多いEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8672株の展開を図示する。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pZKL2−5m89C;及び、(B)pY201、キメラYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子を含む。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pY168、キメラYAT1::YlAle1::Lip1遺伝子を含む;及び、(B)pY208、キメラYAT1::MaLPAAT1S::Lip1遺伝子を含む。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pY207、キメラYAT1::YlLPAAT1::Lip1遺伝子を含む;及び、(B)pY175、キメラYAT1::CeLPCATS::Lip1遺伝子を含む。 実施例に記載される株の各々におけるEPA % TFA、LA % TFA及びEPA % TFAのLA % TFAに対する比の比較を提供する。 以下についてのプラスミドマップを提供する:(A)pY222、キメラYAT1::ScLPAATS::Lip1遺伝子を含む;及び、(B)pY177、キメラYAT1::YlLPAAT1::Lip1遺伝子を含む。
本発明は、本願の一部をなす以下の詳細な説明及び添付の配列説明からより十全に理解することができる。
以下の配列は、米国特許法施行規則第1.821条〜第1.825条(「ヌクレオチド配列及び/又はアミノ酸配列の開示を含む特許出願要件−配列規則(Requirements for Patent Applications Containing Nucleotide Sequences and/or Amino Acid Sequence Disclosures−the Sequence Rules)」)に準拠し、世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998年)並びにEPO及びPCTの配列表要件(規則第5.2条及び第49.5条(a−bis)、及び実施細則(Administrative Instructions)第208条及び付属書C)に則っている。ヌクレオチド及びアミノ酸配列データに用いる記号及びフォーマットは、米国特許法施行規則第1.822条に規定される規則に準拠する。
配列番号1〜156は、表1に確認されるとおりのプロモーター、遺伝子若しくはタンパク質(若しくはその断片)をコードするORF又はプラスミドである。
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本明細書には、50%より多いエイコサペンタエン酸[「EPA」;20:5ω−3]を産生する能力を有するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の生産宿主株が記載される。この特定の多価不飽和脂肪酸[「PUFA」]の蓄積は、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ及びC16/18エロンガーゼ活性を有するタンパク質を含む機能性ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路を導入することにより達成され、それによりγ−リノレン酸[「GLA」]を最小限としたEPA油の産生が可能となる。従って本開示は、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)を改変することによりEPA及びその誘導体を商業的に生産可能とし得ることを実証する。産生方法、及びそれに由来する油もまた特許請求される。
EPAなどのPUFA(又はその誘導体)は、経静脈栄養を受けている患者向けに、又は栄養失調症の予防若しくは治療のため、食事の代用品、又はサプリメント、特に人工栄養乳として使用されている。或いは、精製PUFA(又はその誘導体)は、通常の使用で摂取者が食事補給に望ましい量を取り込み得るように配合されて調理油、油脂又はマーガリン中に加えられることもある。PUFAはまた、人工栄養乳、栄養サプリメント又は他の食製品中に加えられることもあり、抗炎症性又はコレステロール降下性の作用物質としての使用も見られ得る。その組成物は、ヒト又は獣医学の医薬用途に使用されてもよい。
ヒト又は動物が組換え手段により産生されたPUFAを補給すると、その加えられたPUFA、並びにその代謝産物のレベル上昇がもたらされ得る。例えば、EPAによって治療すると、EPAのみならず、エイコサノイド(すなわち、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサン)、ドコサペンタエン酸[「DPA」;シス−7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸;22:5ω−3]及びドコサヘキサエン酸[「DHA」;シス−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸;22:6ω−3]などのEPAの下流産物のレベル上昇ももたらされ得る。調節機序が複雑なため、様々なPUFAを組み合わせるか、又は種々のPUFA共役体を加えることにより、かかる機序を回避し、制御し、又は克服して、個体中に所望レベルの特定のPUFAを実現することが望ましい。
或いは、ドライ飼料、セミモイスト及びウェット飼料などの動物飼料及び水産養殖飼料の合成において、こうした配合物は概して栄養組成の少なくとも1〜2%がω−3及び/又はω−6 PUFAである必要があるため、本明細書に開示される方法論により作製されたPUFA、又はその誘導体を利用することができる。
本明細書に引用される全ての特許、特許出願、及び刊行物は、全体として参照により援用される。
本開示では、多数の用語及び略称が使用される。以下の定義を提供する。
「オープンリーディングフレーム」は「ORF」と略される。
「ポリメラーゼ連鎖反応」は「PCR」と略される。
「American Type Culture Collection」は「ATCC」と略される。
「多価不飽和脂肪酸」は「PUFA」と略される。
「トリアシルグリセロール」は「TAG」と略される。
「補酵素A」は「CoA」と略される。
「全脂肪酸」は「TFA」と略される。
「脂肪酸メチルエステル」は「FAME」と略される。
「乾燥細胞重量」は「DCW」と略される。
本明細書で使用されるとき、用語「発明」又は「本発明」は、特許請求の範囲及び本明細書に記載されるとおりの本発明のあらゆる態様及び実施形態を指すことが意図され、任意の特定の実施形態又は態様に限定されるものとして読まれてはならない。
用語「食製品」は、概してヒトによる摂取に好適な任意の食品を指す。典型的な食製品としては、限定はされないが、肉製品、穀物製品、ベーカリー食品、スナック食品、乳製品、飲料などが挙げられる。用語「食品類似物」、「機能性食品」、「医療用食品」及び「医療用栄養剤」は、米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書にあるとおりに定義される。
用語「医薬品」は、本明細書で使用されるとき、米国で販売される場合であればFederal Food,Drug and Cosmetic Actの第503条又は第505条によって規制されることになる化合物又は物質を意味する。
用語「人工栄養乳」は、ヒト母乳を擬製するために専らヒト乳児による摂取用に設計された食品を意味する。人工栄養乳の典型的な市販品の例としては、限定はされないが、Similac(登録商標)及びIsomil(登録商標)が挙げられる。
用語「食事サプリメント」は、(i)食事の補足を目的とし、従って従来の食品としての、又は料理若しくは食事の一品としての利用には相当せず;(ii)1つ又は複数の食物成分(例えば、ビタミン、ミネラル、ハーブ又は他の植物、アミノ酸、酵素及び腺を含む)又はその構成物質を含み;(iii)丸薬、カプセル、錠剤、又は液体として経口摂取されることが意図され;及び、(iv)食事サプリメントと表示される製品を指す。
用語「動物飼料」は、動物、例えば、ペット、農牧用動物等の家畜による摂取、又は食料生産用に飼育される動物向けに、例えば養魚が専ら意図される飼料を指す。用語「水産養殖飼料」、「海洋飼料」及び「飼料養分」は、米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書に定義されるとおりである。
本明細書で使用されるとき、用語「バイオマス」は、具体的には、商業的に有意な量でEPAを産生する組換え生産宿主の発酵により消耗又は使用された酵母細胞物質を指し、ここで好ましい生産宿主は、油性酵母ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の組換え株である。バイオマスは、全細胞、全細胞ライセート、ホモジナイズされた細胞、部分的に加水分解された細胞物質、及び/又は部分的に精製された細胞物質(例えば、微生物により産生された油)の形態であってもよい。
用語「脂質」は、脂溶性の(すなわち親油性の)天然に存在する分子を指す。脂質についての概説は、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に提供される(その表2を参照のこと)。
用語「グリセロリン脂質」は、脂肪酸がsn−1位及びsn−2位にあり、且つ極性頭部基(例えば、リン酸、コリン、エタノールアミン、グリセロール、イノシトール、セリン、カルジオリピン)がリン酸ジエステル結合を介してsn−3位につながったグリセロールコアを有する幅広い分子クラスを指す。従ってグリセロリン脂質には、ホスファチジン酸[「PA」]、ホスファチジルコリン[「PC」]、ホスファチジルエタノールアミン[「PE」]、ホスファチジルグリセロール[「PG」]、ホスファチジルイノシトール[「PI」]、ホスファチジルセリン[「PS」]及びカルジオリピン[「CL」]が含まれる。グリセロリン脂質は、様々なホスホイル(phosphoyl)頭部基に起因するのみならず、その脂肪酸の種々の鎖長及び飽和度の結果でもある著しい多様性を有する。概して、飽和脂肪酸及び一価不飽和脂肪酸はsn−1位でエステル化される一方、多価不飽和脂肪酸はsn−2位でエステル化される。
「リゾリン脂質」は、グリセロリン脂質から、sn−2位の脂肪酸を脱アシル化することにより誘導される。リゾリン脂質としては、例えば、リゾホスファチジン酸[「LPA」]、リゾホスファチジルコリン[「LPC」]、リゾホスファチジルエタノールアミン[「LPE」]、リゾホスファチジルセリン[「LPS」]、リゾホスファチジルグリセロール[「LPG」]及びリゾホスファチジルイノシトール[「LPI」]が挙げられる。
用語「油」は、25℃で液体であり、且つ通常は多価不飽和の脂質物質を指す。油性生物においては、油が全脂質の大部分を構成する。「油」は、主としてトリアシルグリセロール[「TAG」]からなるが、他の中性脂質、リン脂質及び遊離脂肪酸もまた含み得る。油中の脂肪酸組成と全脂質の脂肪酸組成とは概して同様である;従って、全脂質中のPUFA濃度の上昇又は低下は油中のPUFA濃度の上昇又は低下に対応し、及び逆も同様であり得る。
「中性脂質」は、一般に脂質体の細胞中に蓄積脂肪として見られる脂質を指し、細胞内pHでは脂質は荷電基を含まないため、このように呼ばれる。概して、中性脂質は完全に非極性であり、水に対する親和性を有しない。中性脂質は、概してグリセロールの脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、及び/又はトリエステルを指し、それぞれモノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール又はトリアシルグリセロールとも、又はまとめてアシルグリセロールとも称される。アシルグリセロールから遊離脂肪酸を放出させるには加水分解反応が起こらなければならない。
用語「トリアシルグリセロール」[「TAG」]は、グリセロール分子とエステル化された3個の脂肪酸アシル残基から構成される中性脂質を指す。TAGは、長鎖のPUFA及び飽和脂肪酸、並びにより短鎖の飽和及び不飽和脂肪酸を含み得る。
本明細書において用語「全脂肪酸」[「TFA」]は、例えばバイオマス又は油であってもよい所与の試料において塩基エステル交換法(当該技術分野において公知のとおり)により脂肪酸メチルエステル[「FAME」]に誘導体化され得る全ての細胞脂肪酸の合計を指す。従って、全脂肪酸には、中性脂質画分(ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール及びTAGを含む)及び極性脂質画分(例えば、PC及びPE画分を含む)の脂肪酸が含まれ、しかし遊離脂肪酸は含まれない。
細胞の「全脂質含量」という用語は、乾燥細胞重量[「DCW」]の百分率としてのTFAの尺度であり、しかしながら全脂質含量は、DCWの百分率としてのFAMEの尺度[「FAME % DCW」]として近似することができる。従って、全脂質含量[「TFA % DCW」]は、例えば100ミリグラムのDCW当たりの全脂肪酸のミリグラム数と等価である。
全脂質中の脂肪酸の濃度は、本明細書では、TFAの重量パーセント[「% TFA」]、例えば100ミリグラムのTFA当たりの所与の脂肪酸のミリグラム数として表される。本明細書の開示において特に具体的に指定しない限り、全脂質に対する所与の脂肪酸の百分率を参照するとき、それは% TFAとしての脂肪酸の濃度に等しい(例えば、全脂質の%EPAは、EPA % TFAに等しい)。
ある場合には、細胞中の所与の1つ又は複数の脂肪酸の含量を、乾燥細胞重量のその重量パーセント[「% DCW」]として表すことが有用である。従って、例えば、EPA % DCWは、以下の式、すなわち(EPA % TFA)*(TFA % DCW)]/100に従い決定され得る。しかしながら、乾燥細胞重量のその重量パーセント[「% DCW」]としての細胞中の所与の1つ又は複数の脂肪酸の含量は、(EPA % TFA)*(FAME % DCW)]/100として近似することもできる。
用語「脂質プロファイル」と「脂質組成」とは同義であり、特定の脂質画分中、例えば全脂質中又は油中に含まれる個別の脂肪酸の量を指し、ここでその量はTFAの重量パーセントとして表される。混合物中に存在する各個別の脂肪酸の合計は100とならなければならない。
用語「抽出油」は、油が合成された微生物などの他の細胞物質から分離された油を指す。抽出油は種々の方法により得られ、そのうち最も単純な方法は、物理的手段のみが関与する。例えば、様々な加圧構成(例えば、スクリュー、エキスペラー、ピストン、ビーズビーター等)を使用した機械的破砕により、細胞物質から油を分離することができる。或いは、油の抽出は、様々な有機溶媒(例えば、ヘキサン)による処理、酵素抽出、浸透圧ショック、超音波抽出、超臨界流体抽出(例えば、CO2抽出)、鹸化及びこれらの方法の組み合わせによって行うことができる。抽出油は、それが必ずしも精製又はさらなる濃縮を必要とするものではないことが要件とはならない。本明細書に記載される抽出油は、少なくとも50EPA % TFAを含み得る。
用語「ブレンド油」は、所望の組成が得られるよう本明細書に記載される抽出油を任意の組み合わせの、又は個別の油と混ぜ合わせ、すなわちブレンドすることにより得られる油を指す。従って、例えば異なる微生物由来の数種の油を互いに混合して所望のPUFA組成を得ることができる。それに代えて又は加えて、本明細書に開示されるPUFA含有油を魚油、植物油又は双方の混合物とブレンドして所望の組成物を得ることもできる。
用語「脂肪酸」は、約C12〜C22の様々な鎖長の長鎖脂肪族系酸(アルカン酸)を指し、しかしながらより長い鎖長及びより短い鎖長の双方の酸が公知である。大部分の鎖長はC16〜C22である。脂肪酸の構造は「X:Y」の単純な表記法により表され、ここではXが特定の脂肪酸中の炭素[「C」]原子の総数であり、及びYが二重結合の数である。「飽和脂肪酸」とそれに対する「不飽和脂肪酸」、「一価不飽和脂肪酸」とそれに対する「多価不飽和脂肪酸」[「PUFA」]、及び「オメガ6脂肪酸」[「ω−6」又は「n−6」]とそれに対する「オメガ3脂肪酸」[「ω−3」又は「n−3」]との違いに関するさらなる詳細は、本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許第7,238,482号明細書に提供される。
本明細書においてPUFAを記載するために使用される命名法を表2に示す。表題「省略表記」の列に、オメガ参照体系を使用して、炭素数、二重結合数、及びその目的上番号1が付されるオメガ炭素から数えてオメガ炭素に最も近い二重結合の位置を示す。表のその他の部分では、ω−3及びω−6脂肪酸及びそれらの前駆体の一般名、本明細書全体を通じて使用される略称、並びに各化合物の化学名を要約する。
Figure 2012529913
用語「PUFA生合成経路」は、オレイン酸をLA、EDA、GLA、DGLA、ARA、DTA及びDPAn−6などのω−6脂肪酸並びにALA、STA、ETrA、ETA、EPA、DPA及びDHAなどのω−3脂肪酸に変換する代謝過程を指す。この過程については文献に十分な記載がある(例えば、米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書を参照のこと)。要約すれば、この過程には、小胞体膜に存在する「PUFA生合成経路酵素」と称される一連の特定の伸長酵素及び不飽和化酵素を介した、炭素原子の付加による炭素鎖の伸長及び二重結合の付加による分子の不飽和化が関わる。より具体的には、「PUFA生合成経路酵素」は、PUFAの生合成に関連する以下の酵素(及び前記酵素をコードする遺伝子)のいずれかを指す:Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼ及び/又はC20/22エロンガーゼ。
用語「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」は、最小限として少なくとも1つのΔ9エロンガーゼ及び少なくとも1つのΔ8デサチュラーゼを含み、それによりそれぞれEDA及び/又はETrAを中間体脂肪酸としてLA及びALAからのDGLA及び/又はETAの生合成が可能なPUFA生合成経路を指し得る。他のデサチュラーゼ及びエロンガーゼの発現を伴うことで、ARA、DTA、DPAn−6、EPA、DPA及びDHAもまた合成され得る。
用語「デサチュラーゼ」は、対象の脂肪酸又は前駆体が産生されるように1つ又は複数の脂肪酸に不飽和化、すなわち二重結合の導入をもたらすことができるポリペプチドを指す。本明細書全体を通じ、オメガ参照体系を使用して特定の脂肪酸を参照するが、デルタ体系を使用して基質のカルボキシル末端から数えることによりデサチュラーゼの活性を示すことがより好都合である。本明細書において特に関心対象となるのは、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ及びΔ12デサチュラーゼである。他の有用なデサチュラーゼとしては、Δ4デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ及びΔ9デサチュラーゼを挙げることができる。
用語「エロンガーゼ」は、そのエロンガーゼが作用する脂肪酸基質より炭素2個分長い酸が産生されるように脂肪酸炭素鎖を伸長させることのできるポリペプチドを指す。この伸長プロセスは、国際公開第2005/047480号パンフレットに記載されるとおり、脂肪酸シンターゼと関連した多段階の機序で起こる。エロンガーゼ系により触媒される反応の例は、GLAからDGLAへの、STAからETAへの、ARAからDTAへの、及びEPAからDPAへの変換である。一般に、エロンガーゼの基質選択性はいくらか幅が広く、鎖長と不飽和の程度及び種類との双方により区別される。例えば、C14/16エロンガーゼはC14基質(例えば、ミリスチン酸)を利用し、C16/18エロンガーゼはC16基質(例えば、パルミチン酸)を利用し、C18/20エロンガーゼはC18基質(例えば、GLA、STA)を利用し、及びC20/22エロンガーゼ[Δ5エロンガーゼ又はC20エロンガーゼとも称される]はC20基質(例えば、ARA、EPA)を利用する。本明細書の目的上、2つの異なる種類のC18/20エロンガーゼが定義され得る:Δ6エロンガーゼはGLA及びSTAのそれぞれDGLA及びETAへの変換を触媒し、一方Δ9エロンガーゼはLA及びALAのそれぞれEDA及びETrAへの変換を触媒することができる。
用語「マルチザイム」又は「融合タンパク質」は、少なくとも2つの独立した分離可能な酵素活性を有する単一のポリペプチドを指し、ここで第1の酵素活性は、好ましくは第2の酵素活性と連結される(米国特許出願公開第2008−0254191−A1号明細書)。少なくとも2つの独立した分離可能な酵素活性の間の「連結」又は「結合」は、最小限として単一のポリペプチド結合からなり、しかしながら連結はまた、プロリンなどの1つのアミノ酸残基、又は少なくとも1つのプロリンアミノ酸残基を含むポリペプチドからなってもよい。好ましいリンカーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7からなる群から選択される。
用語「DGLAシンターゼ」は、Δ9エロンガーゼがΔ8デサチュラーゼに連結したマルチザイムを指す。用語「EgD9eS/EgD8M」は、Δ9エロンガーゼ「EgD9eS」(米国特許第7,645,604号明細書)をリンカー配列(すなわち、配列番号1[GAGPARPAGLPPATYYDSLAVMGS];米国特許出願公開第2008−0254191−A1号明細書)によってΔ8デサチュラーゼ「EgD8M」(米国特許第7,709,239号明細書)に連結することにより作られたDGLAシンターゼ(配列番号8及び9)を指す。同様に、用語「EaD9eS/EaD8S」は、Δ9エロンガーゼ「EaD9eS」(米国特許出願公開第2008−0254522−A1号明細書)を、配列番号1として示されるリンカー配列によってΔ8デサチュラーゼ「EaD8S」(米国特許出願公開第2008−0254521−A1号明細書)に連結することにより作られたDGLAシンターゼ(配列番号10及び11)を指す。さらに、用語「E389D9eS/EgD8M」は、Δ9エロンガーゼ「E389D9eS」(米国特許第7,645,604号明細書)を、配列番号1として示されるリンカー配列によってΔ8デサチュラーゼ「EgD8M」(上記)に連結することにより作られたDGLAシンターゼ(配列番号12及び13)を指す。
用語「変換効率」及び「基質変換率」は、デサチュラーゼ、エロンガーゼ又はマルチザイムなどの特定の酵素が基質を産物に変換する効率を指す。変換効率は、以下の式:([産物]/[基質+産物])*100に従い計測され、式中「産物」は、直接の産物及びそれから誘導された経路中の全ての産物を含む。
用語「C18からC20への伸長変換効率」は、C18//20エロンガーゼがC18基質(すなわち、LA、ALA、GLA、STA)をC20産物(すなわち、EDA、ETrA、DGLA、ETA)に変換することができる効率を指す。このようなC18//20エロンガーゼはΔ9エロンガーゼ又はΔ6エロンガーゼのいずれかであり得る。
用語「Δ9伸長変換効率」は、Δ9エロンガーゼがC18基質(すなわち、LA、ALA)をC20産物(すなわち、EDA、ETrA)に変換することができる効率を指す。
用語「アシルトランスフェラーゼ」は、アシル基をドナー脂質からアクセプター脂質分子に転移させることに関与する酵素を指す。
用語「アシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ」[「LPLAT」]は、様々なリゾリン脂質基質をsn−2位でアシル化する能力を有する幅広いアシルトランスフェラーゼクラスを指す。より具体的には、LPLATは、LPAのPAへの変換を触媒する能力を有するLPAアシルトランスフェラーゼ[「LPAAT」]、LPCのPCへの変換を触媒する能力を有するLPCアシルトランスフェラーゼ[「LPCAT」]、LPEのPEへの変換を触媒する能力を有するLPEアシルトランスフェラーゼ[「LPEAT」]、LPSのPSへの変換を触媒する能力を有するLPSアシルトランスフェラーゼ[「LPSAT」]、LPGのPGへの変換を触媒する能力を有するLPGアシルトランスフェラーゼ[「LPGAT」]、及びLPIのPIへの変換を触媒する能力を有するLPIアシルトランスフェラーゼ[「LPIAT」]を含む。LPLAT命名法の標準化は正式には行われていないため、当該技術分野では他の様々な呼称が用いられる(例えば、LPAATはまたアシルCoA:1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸2−O−アシルトランスフェラーゼ、1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ及び/又は1−アシルグリセロールリン酸アシルトランスフェラーゼ[「AGPAT」]とも称されており、及びLPCATは多くの場合にアシルCoA:1−アシルリゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼと称される)。加えて、一部のLPLAT、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1(ORF YOR175C;配列番号15)は幅広い特異性を有し、従って単一の酵素が、LPAAT、LPCAT及びLPEAT反応を含むいくつかのLPLAT反応の触媒能を有し得る点に留意することが重要である(Tamaki,H.ら、J.Biol.Chem.、282:34288〜34298頁(2007年);Stahl,U.ら、FEBS Letters、582:305〜309頁(2008年);Chen,Q.ら、FEBS Letters、581:5511〜5516頁(2007年);Benghezal,M.ら、J.Biol.Chem.、282:30845〜30855頁(2007年);Riekhofら、J.Biol.Chem.、282:28344〜28352頁(2007年))。
より具体的には、用語「少なくともリゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼ(lysophosphtidylcholine acyltransferase)[「LPCAT」]活性を有するポリペプチド」は、アシルCoA+1−アシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン → CoA+1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンの反応の触媒能を有する酵素(EC 2.3.1.23)を指し得る。2つの構造的に異なるタンパク質ファミリー、すなわちLPAATタンパク質ファミリー(Hishikawaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、105:2830〜2835頁(2008年);国際公開第2004/076617号パンフレット)及びALE1タンパク質ファミリー(Tamaki,H.ら、上記;Stahl,U.ら、上記;Chen,Q.ら、上記;Benghezal,M.ら、上記;Riekhofら、上記)におけるLPCAT活性について記載がなされている。
用語「LPCAT」は、1)LPCAT活性を有し(EC 2.3.1.23)、且つClustal Wアラインメント法に基づき配列番号15(ScAle1)及び配列番号17(YlAle1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも約45%のアミノ酸同一性を共有し;及び/又は2)LPCAT活性を有し(EC 2.3.1.23)、且つM(V/I)LxxKL(配列番号18)、RxKYYxxW(配列番号19)、SAxWHG(配列番号20)及びEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼ[「MBOAT」]タンパク質ファミリーモチーフを有するALE1タンパク質ファミリーのタンパク質を指す。ALE1ポリペプチドの例としては、ScAle1及びYlAle1が挙げられる。
用語「ScAle1」は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から単離された、配列番号14として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPCAT(配列番号15)を指す(ORF「YOR175C」)。対照的に、用語「ScAle1S」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現にコドン最適化された、S.セレビシエ(S.cerevisiae)に由来する合成LPCAT(すなわち、配列番号22及び23)を指す。
用語「YlAle1」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から単離された、配列番号16として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPCAT(配列番号17)を指す。
用語「LPCAT」はまた、LPCAT活性を有し(EC 2.3.1.23)、且つClustal Wアラインメント法に基づき配列番号25に示されるとおりのアミノ酸配列(CeLPCAT)と比較したとき少なくとも約90%のアミノ酸同一性を共有するタンパク質も指す。
用語「CeLPCAT」は、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)から単離された、配列番号24として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPCAT酵素(配列番号25)を指す。対照的に、用語「CeLPCATS」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現にコドン最適化された、C.エレガンス(C.elegans)に由来する合成LPCAT(すなわち、配列番号26及び27)を指す。
用語「少なくともリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ[「LPAAT」]活性を有するポリペプチド」は、アシルCoA+1−アシル−sn−グリセロール3−リン酸 → CoA+1,2−ジアシル−sn−グリセロール3−リン酸の反応の触媒能を有する酵素(EC 2.3.1.51)を指し得る。
用語「LPAAT」は、1)LPAAT活性を有し、且つClustal Wアラインメント法に基づき配列番号29(MaLPAAT1)、配列番号31(YlLPAAT1)及び配列番号32(ScLPAAT1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも約43.9%のアミノ酸同一性を共有し;及び/又は、2)LPAAT活性を有し、且つNHxxxxD(配列番号33)及びEGTR(配列番号34)からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼファミリーモチーフを有するタンパク質を指す。LPAATポリペプチドの例としては、ScLPAAT、MaLPAAT1及びYlLPAAT1が挙げられる。
用語「ScLPAAT」は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から単離されたLPAAT(配列番号32)を指す(ORF「YDL052C」)。
用語「MaLPAAT1」は、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)から単離された、配列番号28として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPAAT(配列番号29)を指す。対照的に、用語「MaLPAAT1S」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現にコドン最適化された、M.アルピナ(M.alpina)に由来する合成LPAAT(すなわち、配列番号35及び36)を指す。
用語「YlLPAAT1」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から単離された、配列番号30として示されるヌクレオチド配列によりコードされるLPAAT(配列番号31)を指す。
用語「オルソログ」は、系統樹解析の一つのクレードにあることによって明らかなとおり共通の祖先タンパク質から進化した、且つ同じ酵素反応を触媒する異なる種由来の相同タンパク質を指す。
用語「ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ」は、CDP−コリン及び1,2−ジアシルグリセロールからのホスファチジルコリンの合成を触媒する酵素(EC 2.7.8.2)を指す。この酵素は、ホスファチジルコリン[「PC」]生合成に関与するCDP−コリン経路の一部である。
用語「YlCPT1」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から単離された、配列番号37によりコードされるジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ酵素(配列番号38)を指す。YlCPT1については国際公開第2006/052870号パンフレットに記載されている(GenBank受託番号XM_501703(YALI0C10989g)もまた参照のこと)。
用語「マロン酸」は、国際純正・応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)[「IUPAC」]の体系的命名法によればプロパン二酸とも称され、CH2(COOH)2として示される化学構造を有するジカルボン酸を指す。マロン酸イオン又はプロパン二酸イオンは、マロン酸から2個の水素イオンが失われることにより誘導される(すなわち、CH2(COO)2 2-)。マロン酸の塩及びエステルとしては、限定はされないが、マロン酸ジエチル[(C252(C324)]、マロン酸ジメチル[(CH32(C324)]及びマロン酸二ナトリウム[Na2(C324)]が挙げられる。
「マロネート」は、マロン酸のイオン化形態、並びにそのエステル及び塩を指す。これらは全て、本明細書ではまとめて「マロネート」と称される。
「マロニルCoA」[CAS登録番号524−14−1]は、アセチルCoAのマロニルCoAへのカルボキシル化により形成され得るアシルチオエステルを指す。或いは、マロニルCoAは、基質のマロネートからマロニルCoAシンテターゼにより酵素産生される。
「マロニルCoAシンテターゼ」[EC 6.2.1.−]は、以下の酵素反応、すなわちマロネート+ATP+CoA → マロニルCoA+AMP+ピロリン酸(PPi)を触媒する。この酵素は、初めはマロネートで増殖したシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)から精製されたが(Kim,Y.S.及びS.K.Bang、J.Biol.Chem.、260:5098〜5104頁(1985年))、それ以降、マメ科植物の根粒中のバクテロイドから様々なリゾビウム属(Rhizobia)相同体が単離されている(例えば、Kim,Y.S.及びH.Z.Chae、Biochem.J.、273:511〜516頁(1991年)並びにKim,Y.S.及びS.W.Kang,、Biochem.J.、297:327〜333頁(1994年)を参照のこと)。
本明細書で使用されるとき、用語「rMCS」は、リゾビウム・レグミノサルム・ビーブイ・ビシエ(Rhizobium leguminosarum bv.viciae)3841から単離されたマロニルCoAシンテターゼ(配列番号40)(GenBank受託番号YP_766603)をコードする遺伝子(配列番号39)を指す。同様に、用語「MCS」は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現にコドン最適化された、リゾビウム・レグミノサルム・ビーブイ・ビシエ(Rhizobium leguminosarum bv.viciae)3841に由来するマロニルCoAシンテターゼをコードする合成遺伝子を指す(すなわち、配列番号41及び42)。
用語「ペルオキシソーム」は、あらゆる真核細胞に見られる遍在性の細胞小器官を指す。ペルオキシソームは、内容物をサイトゾルから分離し、且つ以下に記載される機能に不可欠な様々な膜タンパク質を含有する単一の脂質二重膜を有する。ペルオキシソームは「拡張シャトル機構」によってタンパク質を選択的に取り込む。より具体的には、ペルオキシンと称される少なくとも32種の既知のペルオキシソームタンパク質があり、これらがペルオキシソーム膜を介したATP加水分解によるタンパク質の取り込みプロセスに関与する。細胞タンパク質は、ペルオキシソームに取り込まれると、典型的には何らかの分解手段に供される。例えば、ペルオキシソームは、細胞に対して毒性の物質を分解することが可能な酸化酵素、例えば、カタラーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ及び尿酸オキシダーゼを含有する。或いは、ペルオキシソームはβ酸化と称されるプロセスで脂肪酸分子を分解してアセチルCoAの遊離分子を生成し、それらの分子がサイトゾルに送り戻される。
用語「ペルオキシソーム生合成因子タンパク質」、「ペルオキシン」及び「Pexタンパク質」は同義であり、ペルオキシソーム生合成に関わり、及び/又はペルオキシソーム膜を介したATP加水分解による細胞タンパク質の取り込みプロセスに関与するタンパク質を指す。これらのタンパク質のいずれかをコードする遺伝子の頭字語は「Pex遺伝子」である。命名法の体系については、Distelら、J.Cell Biol.、135:1〜3頁(1996年)によって記載されている。これまで様々な真核生物において少なくとも32種の異なるPex遺伝子が同定されている。ペルオキシソームの機能又は構造に異常を示した突然変異体の分析から、多くのPex遺伝子が単離されている。17種の異なる真菌種のゲノム配列のインシリコ解析を実施したKiel,J.A.K.W.ら(Traffic、7:1291〜1303頁(2006年))によるレビューに基づけば、以下のPexタンパク質が同定された:Pex1p、Pex2p、Pex3p、Pex3Bp、Pex4p、Pex5p、Pex5Bp、Pex5Cp、Pex5/20p、Pex6p、Pex7p、Pex8p、Pex10p、Pex12p、Pex13p、Pex14p、Pex15p、Pex16p、Pex17p、Pex14/17p、Pex18p、Pex19p、Pex20p、Pex21p、Pex21Bp、Pex22p、Pex22p様及びPex26p。まとめて、これらのタンパク質は本明細書では、「Pex遺伝子」によりコードされる「Pexタンパク質」と称される。
用語「保存ドメイン」又は「モチーフ」は、進化的に関連性を有するタンパク質のアラインメントされた配列に沿った特定の位置に保存されている一組のアミノ酸を意味する。他の位置にあるアミノ酸は相同タンパク質間で異なり得るが、特定の位置で高度に保存されたアミノ酸は、タンパク質の構造、安定性、又は活性に不可欠なアミノ酸を示す。これらのアミノ酸はタンパク質相同体ファミリーのアラインメントされた配列におけるそれらの高い保存度によって識別されるため、新しく決定された配列を有するタンパク質が既に同定されているタンパク質ファミリーに属するかどうかを判断するための識別子、すなわち「シグネチャ」として用いることができる。
少なくとも1つのペルオキシソーム生合成因子タンパク質において、又はそれと関連して用語「下方制御された」は、野生型タンパク質の活性と比較したときの天然ペルオキシソーム生合成因子タンパク質の活性の低下、又はその消失を指す。下方制御は、典型的には天然Pex遺伝子が、当該遺伝子の一部分に含まれる挿入、欠失、又は標的突然変異を指す「破壊」を有するときに起こり、その結果、遺伝子がゲノムから欠失し、タンパク質が翻訳されない完全な遺伝子ノックアウトか、又は挿入、欠失、アミノ酸置換若しくは他の標的突然変異を有する翻訳されたPexタンパク質かのいずれかとなる。タンパク質における破壊の位置は、例えば、タンパク質のN末端部分の範囲内又はタンパク質のC末端部分の範囲内であってもよい。破壊されたPexタンパク質は、破壊されなかったPexタンパク質に対して活性が低下し、機能できない可能性がある。Pexタンパク質の発現の低下又は不足をもたらす下方制御はまた、調節配列、転写及び翻訳因子及び/又はシグナル伝達経路の操作、又はセンス、アンチセンス若しくはRNAi技術の使用等によっても生じ得る。
用語「油性の」は、エネルギー源を油の形態で貯蔵する傾向を有する生物を指す(Weete、「Fungal Lipid Biochemistry」、第2版、Plenum、1980年所収)。用語「油性酵母」は、油を作ることのできる酵母として分類される微生物を指す。概して、油性微生物の細胞含油量はシグモイド曲線に従い、ここでは脂質の濃度が後期対数増殖期又は初期定常増殖期に最高値に達するまで増加し、次に後期定常期及び死滅期の間に徐々に減少する(Yongmanitchai及びWard、Appl.Environ.Microbiol.、57:419〜25頁(1991年))。油性微生物がその乾燥細胞重量の約25%を上回って油として蓄積することは稀ではない。油性酵母の例としては、何ら限定されるものではないが、以下の属、すなわちヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)及びリポマイセス属(Lipomyces)が挙げられる。
用語「発酵性炭素源」は、微生物がエネルギーを得るために代謝する炭素源を意味する。典型的な炭素源としては、限定はされないが、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、アルカン、脂肪酸、脂肪酸エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、二酸化炭素、メタノール、ホルムアルデヒド、ホルメート及び炭素含有アミンが挙げられる。
用語「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」、「核酸断片」及び「単離核酸断片」は、本明細書では同義的に使用される。これらの用語はヌクレオチド配列などを包含する。ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であるRNA又はDNAのポリマーであってよく、合成の、非天然の、又は改変されたヌクレオチド塩基を含んでもよい。DNAポリマーの形態のポリヌクレオチドは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAの1つ又は複数のセグメント、又はそれらの混合物からなり得る。ヌクレオチド(通常、その5’−一リン酸の形態で存在する)は、以下のとおりの一文字表記により示される:アデニレート又はデオキシアデニレート(それぞれRNA又はDNAについて)に対する「A」、シチジレート又はデオキシシチジレートに対する「C」、グアニレート又はデオキシグアニレートに対する「G」、ウリジレートに対する「U」、デオキシチミジレートに対する「T」、プリン(A又はG)に対する「R」、ピリミジン(C又はT)に対する「Y」、G又はTに対する「K」、A又はC又はTに対する「H」、イノシンに対する「I」、及び任意のヌクレオチドに対する「N」。
アミノ酸又はヌクレオチド配列の「実質的な部分」は、ポリペプチドのアミノ酸配列又は遺伝子のヌクレオチド配列を、当業者による手動での配列評価によるか、又はBLAST(Basic Local Alignment Search Tool;Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.、215:403〜410頁(1993年))などのアルゴリズムを用いるコンピュータにより自動化された配列比較及び同定によって当該のポリペプチド又は遺伝子を推定上同定するのに十分に含む部分である。概して、ポリペプチド又は核酸配列を既知のタンパク質又は遺伝子と相同であると推定上同定するためには、10個以上の連続するアミノ酸又は30個以上のヌクレオチドの配列が必要である。さらに、ヌクレオチド配列に関して、配列依存的な遺伝子同定(例えば、サザンハイブリダイゼーション)及び単離方法、例えば細菌コロニー又はバクテリオファージプラークのインサイチュハイブリダイゼーションにおいては、20〜30個の連続するヌクレオチドを含む遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブが用いられ得る。加えて、PCRでは、12〜15塩基の短鎖オリゴヌクレオチドが増幅プライマーとして用いられ、そのプライマーを含む特定の核酸断片が得られ得る。従って、ヌクレオチド配列の「実質的な部分」は、配列を含む核酸断片を具体的に同定し、及び/又は単離するのに十分な配列を含む。
用語「相補的」は、互いにハイブリダイズすることが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表して使用される。例えば、DNAに関して、アデノシンはチミンと相補的であり、シトシンはグアニンと相補的である。
「コドン縮重」は、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列に影響を及ぼすことなくヌクレオチド配列が変化することが可能な遺伝子コードにおける性質を指す。当業者は、所与のアミノ酸を指定するためのヌクレオチドコドンの使用において特定の宿主細胞が呈する「コドンバイアス」を十分に理解している。従って、宿主細胞における発現を向上させるために遺伝子を合成するときには、そのコドン使用頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用頻度に近付くように遺伝子を設計することが望ましい。
「合成遺伝子」は、当業者に公知の手順を用いて化学的に合成されるオリゴヌクレオチド構成要素から組み立てることができる。これらのオリゴヌクレオチド構成要素はアニールされ、次にライゲートされて遺伝子セグメントを形成し、次にそのセグメントが酵素的に組み立てられて遺伝子全体が構築される。従って遺伝子は、宿主細胞のコドンバイアスを反映するヌクレオチド配列の最適化に基づき、最適な遺伝子発現に適応したものとされる。当業者は、コドン使用が宿主に好都合なコドンに偏っている場合に遺伝子発現が成功する可能性を理解する。好ましいコドンの決定は、宿主細胞に由来する遺伝子の調査に基づくことができ、配列情報が利用可能である。例えば、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)についてのコドン使用プロファイルが米国特許第7,125,672号明細書に提供される。
「遺伝子」は、特異的タンパク質を発現する核酸断片を指し、これはコード領域のみを指すことも、又はコード配列の前にあり(5’非コード配列)、及びその後ろにある(3’非コード配列)調節配列を含むこともある。「天然遺伝子」は、その独自の調節配列と共に天然に存在するとおりの遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」は、天然遺伝子ではなく、天然では同時に存在することのない調節配列及びコード配列を含む任意の遺伝子を指す。従って、キメラ遺伝子は、異なる供給源に由来する調節配列及びコード配列か、又は同じ供給源に由来するが、天然に存在するものとは異なる形で構成された調節配列及びコード配列を含み得る。「内因性遺伝子」は、生物のゲノム中でその天然の位置にある天然遺伝子を指す。「外来性」遺伝子は、遺伝子導入によって宿主生物に導入される遺伝子を指す。外来性遺伝子は、非天然生物に挿入された天然遺伝子、天然宿主内の新しい位置に導入された天然遺伝子、又はキメラ遺伝子を含み得る。「導入遺伝子」は、形質転換手順によってゲノムに導入された遺伝子である。「コドン最適化遺伝子」は、そのコドン使用頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用頻度を模倣するよう設計された遺伝子である。
「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「好適な調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、その範囲内、又はその下流(3’非コード配列)に位置するヌクレオチド配列を指し、関連するコード配列の転写、RNAプロセシング若しくは安定性、又は翻訳に影響を及ぼす。調節配列としては、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、5’非翻訳リーダー配列(例えば、転写開始部位と翻訳開始コドンとの間の)、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位及びステム−ループ構造を挙げることができる。
「プロモーター」は、コード配列又は機能的RNAの発現を制御することが可能なDNA配列を指す。概して、コード配列はプロモーター配列の3’側に位置する。プロモーターは、全体として天然遺伝子から得られてもよく、又は天然に存在する異なるプロモーターに由来する異なるエレメントから構成されてもよく、又はさらには合成DNAセグメントを含んでもよい。当業者は、異なるプロモーターが異なる組織若しくは細胞型における、又は異なる発生段階での、又は異なる環境若しくは生理学的条件に応じた遺伝子の発現を誘導し得ることを理解する。ほとんどの細胞型においてほとんどの場合に遺伝子を発現させるプロモーターは、一般に「構成的プロモーター」と称される。さらに、ほとんどの場合に調節配列の正確な境界は完全には定義されていないため、異なる長さのDNA断片が同じプロモーター活性を有し得ることが認識される。
用語「3’非コード配列」及び「転写ターミネーター」は、コード配列の下流に位置するDNA配列を指す。これはポリアデニル化認識配列と、mRNAプロセシング又は遺伝子発現に作用することが可能な調節シグナルをコードする他の配列とを含む。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に作用することを特徴とする。3’領域は、関連するコード配列の転写、RNAプロセシング若しくは安定性、又は翻訳に影響を及ぼし得る。
用語「作動可能に連結された」は、一方の機能が他方によって影響を受けるように単一の核酸断片上において核酸配列が関連付けられていることを指す。例えば、プロモーターは、それがコード配列の発現に作用することが可能なとき、当該コード配列と作動可能に連結されている。すなわち、コード配列はプロモーターの転写制御下にある。コード配列は、調節配列にセンス方向又はアンチセンス方向に作動可能に連結され得る。
用語「発現」は、本明細書で使用されるとき、センス(mRNA)又はアンチセンスRNAの転写及び安定的な蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指すこともある。
「形質転換」は、核酸分子の宿主生物への導入を指す。核酸分子は、例えば自己複製するプラスミドであってもよく、又は核酸分子は宿主生物のゲノムに組み込まれてもよい。形質転換された核酸断片を含む宿主生物は、「トランスジェニック」又は「組換え」又は「形質転換された」生物又は「形質転換体」と称される。
「安定形質転換」は、遺伝学的に安定した遺伝をもたらす、核ゲノム及びオルガネラゲノムの双方を含めた宿主生物ゲノムへの核酸断片の導入を指す(すなわち、核酸断片は「安定的に組み込まれる」)。対照的に、「一過性形質転換」は、組み込み若しくは安定的な遺伝のない遺伝子発現をもたらす、宿主生物の核、又はDNAを含む細胞小器官への核酸断片の導入を指す。
用語「プラスミド」及び「ベクター」は、細胞の中央代謝の一部ではない、且つ通常は環状二本鎖DNA断片の形態の遺伝子を有することが多い追加的な染色体エレメントを指す。かかるエレメントは、任意の供給源由来の一本鎖又は二本鎖DNA又はRNAの直鎖状又は環状の自己複製配列、ゲノム組込み配列、ファージ又はヌクレオチド配列であってよく、そこでは複数のヌクレオチド配列がつなぎ合わされ、又は組み換えられて、1つ又は複数の発現カセットを細胞に導入することが可能な固有の構成となっている。
用語「発現カセット」は、選択された遺伝子のコード配列と、選択された遺伝子産物の発現に必要な、コード配列の前にある(5’非コード配列)及びその後ろにある(3’非コード配列)調節配列とを含むDNAの断片を指す。従って、発現カセットは典型的には、1)プロモーター配列;2)コード配列(すなわち、ORF)、及び3)真核生物では通常ポリアデニル化部位を含む3’非翻訳領域(すなわち、ターミネーター)から構成される。1つ又は複数の発現カセットは通常ベクター内に含まれ、クローニング及び形質転換が促進される。各宿主に適切な調節配列が使用される限り、種々の発現カセットを、細菌、酵母、植物及び哺乳動物細胞を含めた種々の生物に形質転換することができる。
用語「配列分析ソフトウェア」は、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の分析に有用な任意のコンピュータアルゴリズム又はソフトウェアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は市販のものであっても、又は独自に開発されてもよい。典型的な配列分析ソフトウェアとしては、限定はされないが、1)GCGプログラムスイート(Wisconsin Package バージョン9.0、Genetics Computer Group(GCG)、Madison,WI);2)BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschulら、J.Mol.Biol.、215:403〜410頁(1990年));3)DNASTAR(DNASTAR,Inc. Madison,WI);4)Sequencher(Gene Codes Corporation、Ann Arbor,MI);及び5)スミス−ウォーターマンアルゴリズムを組み込んだFASTAプログラム(W.R.Pearson、Comput.Methods Genome Res.、[Proc.Int.Symp.](1994年)、Meeting Date 1992、111〜20頁、編者:Suhai,Sandor、Plenum:New York,NY)を挙げることができる。本願の文脈の範囲内で、配列分析ソフトウェアを使用して分析が行われる場合、特記されない限り、分析の結果は参照されるプログラムの「デフォルト値」に基づき得ることは理解されるであろう。本明細書で使用されるとき「デフォルト値」は、初回の初期化時に最初にソフトウェアにロードされる任意の一組の値又はパラメータを意味し得る。
本明細書で用いられる標準的な組換えDNA及び分子クローニング技術は当該技術分野において周知であり、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.及びManiatis,T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)(以下、「Maniatis」);Silhavy,T.J.、Bennan,M.L.及びEnquist,L.W.、「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984年);及びAusubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、刊行元Greene Publishing Assoc.及びWiley Interscience、Hoboken,NJ(1987年)により記載されている。
概して、油性微生物における脂質蓄積は、増殖培地中に存在する全体的な炭素対窒素比に応答して誘発される。このプロセスは、油性微生物における遊離パルミチン酸(16:0)のデノボ合成に至るもので、米国特許第7,238,482号明細書に詳細に記載されている。パルミチン酸は、より長鎖の飽和及び不飽和脂肪酸誘導体の前駆体であり、エロンガーゼ及びデサチュラーゼの作用により形成される(図1)。
脂肪酸の一次貯蔵単位であるTAGには多岐にわたる脂肪酸(飽和及び不飽和脂肪酸並びに短鎖及び長鎖脂肪酸を含む)が含まれる。本明細書に記載される方法及び宿主細胞では、TAGにEPAが含まれることが最も望ましく、しかしながらEPAの構造形態は限定されない(従って、例えばEPAは全脂質中に遊離脂肪酸として、又はアシルグリセロール、リン脂質、硫脂質若しくは糖脂質などのエステル化形態で存在してもよい)。
多くのPUFAはTAGに中性脂質として含まれて脂質体に貯蔵されるが、油性生物中の全PUFAの計測は、最小限としてPC、PE及びTAG画分にあるPUFAを含まなければならない点に留意することが重要である。
オレイン酸がEPAに変換される代謝過程には、炭素原子の付加による炭素鎖の伸長及び二重結合の付加による分子の不飽和化が関与する。これは、小胞体膜に存在する一連の特別な不飽和化酵素及び伸長酵素を必要とする。しかしながら、図1で分かるとおり、及び以下に記載するとおり、EPAの産生には複数の代替的な経路が存在する。
具体的には、図1は以下に記載される経路を示す。全ての経路について、オレイン酸がΔ12デサチュラーゼによって1番目のω−6脂肪酸であるリノール酸[「LA」]に最初に変換される必要がある。次に、「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」及び基質としてLAを用いて、以下のとおり長鎖ω−6脂肪酸が形成される:1)LAがΔ9エロンガーゼによってエイコサジエン酸[「EDA」]に変換される;2)EDAがΔ8デサチュラーゼによってジホモ−γ−リノレン酸[「DGLA」]に変換される;3)DGLAがΔ5デサチュラーゼによってアラキドン酸[「ARA」]に変換される;4)ARAがC20/22エロンガーゼによってドコサテトラエン酸[「DTA」]に変換される;及び、5)DTAがΔ4デサチュラーゼによってドコサペンタエン酸[「DPAn−6」]に変換される。
「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」はまた、基質としてα−リノレン酸[「ALA」]を用いて、以下のとおり長鎖ω−3脂肪酸を産生することもできる:1)LAがΔ15デサチュラーゼによって1番目のω−3脂肪酸であるALAに変換される;2)ALAがΔ9エロンガーゼによってエイコサトリエン酸[「ETrA」]に変換される;3)ETrAがΔ8デサチュラーゼによってエイコサテトラエン酸[「ETA」]に変換される;4)ETAがΔ5デサチュラーゼによってエイコサペンタエン酸[「EPA」]に変換される;5)EPAがC20/22エロンガーゼによってドコサペンタエン酸[「DPA」]に変換される;及び、6)DPAがΔ4デサチュラーゼによってドコサヘキサエン酸[「DHA」]に変換される。ω−6脂肪酸はω−3脂肪酸に変換されてもよい。例えば、ETA及びEPAは、Δ17デサチュラーゼ活性によってそれぞれDGLA及びARAから産生される。本明細書の目的上有利には、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路は、γ−リノレン酸[「GLA」]を多量に含まないEPA油を産生することが可能である。
ω−3/ω−6脂肪酸の代替的な生合成経路はΔ6デサチュラーゼ及びC18/20エロンガーゼを利用し、すなわち「Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路」である。より具体的には、LA及びALAがΔ6デサチュラーゼによってそれぞれGLA及びステアリドン酸[「STA」]に変換されてもよく;次に、C18/20エロンガーゼがGLAをDGLAに、及び/又はSTAをETAに変換する。
組換えヤロウイア・エスピー(Yarrowia sp.)宿主細胞においてEPAを経済的に商業生産するには、EPA濃度[「EPA % TFA」]及び全脂質含量[「TFA % DCW」]を含め、様々な変数を考慮する必要がある。さらに、所望の脂肪酸、すなわちEPAの産生を最大化するため、最終油産物中の中間体脂肪酸及び副産物脂肪酸の産生は低減することが望ましい。
中間体脂肪酸は、他の代謝経路酵素の作用によりEPAにさらに変換され得る脂肪酸(例えば、オレイン酸、LA、ALA、EDA、DGLA、ETA)である。対照的に、副産物脂肪酸(例えば、シアドン酸、ジュニペロン酸)は、EPAでもなく、又はEPAにさらに変換され得る中間体脂肪酸でもない、任意の産生される脂肪酸を指す。
米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書は、約23.6未満のLA % TFAで少なくとも約43.3EPA % TFAを含む微生物油(1.83のEPA:LA比)を産生する能力を有する組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の最適化株について記載している。好ましい株はY4305であり、その最大産生量は55.6EPA % TFAで、EPA:LA比は3.03であった。概して、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書のEPA株は、ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路の以下の遺伝子を含んだ:
a)Δ9エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子;及び、
b)Δ8デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子;及び、
c)Δ5デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子;及び、
d)Δ17デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子;及び、
e)Δ12デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子;及び、
f)C16/18エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子;及び、
g)任意選択で、ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子(CPT1)。
上記に記載される酵素機能を有する好ましい遺伝子の例を表3に示す(しかしながら、これらの遺伝子は限定を意図するものではない)。
Figure 2012529913
Figure 2012529913
Figure 2012529913
本明細書には、EPA % TFA及びEPA:LA比に基づくとき、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に記載される株と比べて改良された微生物油を産生する能力を有する組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の最適化株が提供される。上記に定義されるとおりの、及び米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に詳述されるとおりのω−3/ω−6脂肪酸生合成経路の遺伝子を発現することに加え、これらの改良株は以下を特色とする:
1)少なくとも1つのマルチザイムを含むこと、ここで前記マルチザイムは、少なくとも1つの脂肪酸Δ8デサチュラーゼに連結された少なくとも1つの脂肪酸Δ9エロンガーゼを有するポリペプチド[「DGLAシンターゼ」]を含む;
2)マロニルCoAシンテターゼ又はアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ[「LPLAT」]からなる群から選択される酵素をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含んでもよいこと;
3)発現が下方制御された少なくとも1つのペルオキシソーム生合成因子タンパク質を含むこと;
4)少なくとも約50EPA % TFAを産生すること;及び、
5)少なくとも約3.1のEPA:LA比を有すること。
本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2008−0254191−A1号明細書、特に実施例55及び56は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において異種発現させるとき、その個別のΔ9エロンガーゼ及び/又はΔ8デサチュラーゼカウンターパートに対して酵素活性が向上したDGLAシンターゼについて記載している。特に本明細書の開示に関連して、リンカー配列(すなわち、配列番号1[GAGPARPAGLPPATYYDSLAVMGS])を用いてΔ9エロンガーゼ(すなわち、EgD9eS、EaD9eS又はE389D9eS)がΔ8デサチュラーゼ(すなわち、EgD8M又はEaD8S)と融合され、それによりEgD9eS/EgD8M(配列番号8及び9)、EaD9eS/EaD8S(配列番号10及び11)及びE389D9eS/EgD8M(配列番号12及び13)が作成された。意外にも、2個の独立した酵素をリンカー領域により分離された1つの融合タンパク質として融合すると、LAからDGLAへのフラックスが増加したことから、Δ9エロンガーゼの産物が融合タンパク質においてΔ8デサチュラーゼを基質として直接導かれ得ることが示唆される。
以下の表4は、遺伝子融合の結果として、米国特許出願公開第2008−0254191−A1号明細書における変換効率の顕著な改良の概要を提供する。具体的には、太字で示される数字がエロンガーゼ又はデサチュラーゼ活性の改良率であり、一方、括弧書きで示される詳細が、遺伝子を単独で発現させたときのエロンガーゼ又はデサチュラーゼ変換効率と比べた、遺伝子融合物におけるエロンガーゼ又はデサチュラーゼ変換効率を提供する。
Figure 2012529913
上記の結果に基づけば、上記のEgD9eS/EgD8M、EaD9eS/EaD8S及びE389D9eS/EgD8M遺伝子融合物などの少なくとも1つのDGLAシンターゼの発現は、改良されたEPA % TFAをもたらす能力を有する改良型組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)最適化株において好ましい。この遺伝子融合物は、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)での発現に好適な好ましいΔ9エロンガーゼ及びΔ8デサチュラーゼの任意の組み合わせを用いて作成することができ;及び、リンカーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7からなる群から選択することができる。
先行研究では、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるPUFAの産生の改変に関連する遺伝子突然変異の多くが、発酵中のマロネートの副次的産生の増加をもたらす(マロネートは蓄積した全有機酸の約45%を占めた)ことが確認されている。異種マロニルCoAシンテターゼの発現によりこの効果が逆転し、マロネートの副次的産生の実質的な低減がもたらされた。
より具体的には、米国特許出願第12/637877号明細書(2009年12月15日に出願され、代理人整理番号CL4323を有する)は、産物の産生において、発酵中にそれ以上利用することのできない有機酸(特にマロネート)「副産物」の蓄積を回避するための一般化した方法について記載している。これにより、生物体内での炭素及びエネルギーの浪費が回避され、発酵プロセス中の最適pH範囲の維持に必要な塩基量が低減され、及び発酵廃蒸気中の中和が必要な副産物有機酸量が低減される。
マロニルCoAシンテターゼ[EC 6.2.1.−]は、以下の酵素反応を触媒する:マロネート+ATP+CoA → マロニルCoA+AMP+ピロリン酸(PPi)。副産物(すなわち、マロネート)をマロニルCoAに変換することにより、この基質を生物体内での脂肪酸の合成において利用することが可能となる。具体的には、脂肪酸の合成は、以下の式(H+及び水は無視する)により要約することができる:アセチルCoA+7マロニルCoA+14NADPH → パルミチン酸+7CO2+14NADP++8CoA。
米国特許出願第12/637877号明細書において、コドン最適化マロニルCoAシンテターゼが作成され、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)で発現された。具体的には、リゾビウム・レグミノサルム・ビーブイ・ビシエ(Rhizobium leguminosarum bv.viciae)3841由来のマロニルCoAシンテターゼ遺伝子(rMCS;配列番号39及び40、GenBank受託番号YP_766603に対応)のコード配列に基づきコドン最適化マロニルCoAシンテターゼ遺伝子(「MCS」、配列番号41)が設計された。翻訳開始部位の修飾に加え、1515bpのコード領域(終止コドンを含む)のうちの233bpが修飾され(15.4%)、219個のコドンが最適化され(43.4%)、GC含量が野生型遺伝子(すなわち、rMCS)における61.4%から合成遺伝子(すなわち、MCS)における55.6%まで低減され、及びヤロウイア属(Yarrowia)は翻訳開始に「GTG」コドンを使用できないため、翻訳開始コドン「ATG」がrMCS遺伝子(配列番号39)の前に付加された。コドン最適化MCS遺伝子(配列番号41)は、505アミノ酸のペプチド及び終止コドン(配列番号42)をコードする1518bpである。
49EPA % TFAをもたらすヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y4305U株におけるMCS(配列番号42)の発現により、脂肪酸プロファイル又は全脂質収率(TFA % DCW)のいずれにも影響が及ぶことなくマロネートの総量(g/g DCW)は約94%減少した。
上記の結果に基づけば、好ましくない副産物の生成を低減し、それにより製造コストを下げる手段として、改良型組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)最適化株において少なくとも1つのマロニルCoAシンテターゼを発現させることが望ましい。好ましいマロニルCoAシンテターゼは配列番号40及び42として示されるが、これらは本明細書の開示に限定されるべきではない。当業者は、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)での発現に好適な代替的な異種マロニルCoAシンテターゼを容易に特定し得る。
生体膜の主成分であるグリセロリン脂質は、sn−1位及びsn−2位にR基として脂肪酸が結合し、且つsn−3位にリン酸ジエステル結合を介して極性頭部基がつながったグリセロールコアを含む。以下の表5は、Kennedy及びWeiss(J.Biol.Chem.、222:193〜214頁(1956年))によって最初に記載されたデノボ生合成経路におけるステップを要約する。
Figure 2012529913
これらのデノボ合成の後、グリセロリン脂質は、sn−2位でその脂肪酸アシル組成の急速な代謝回転を受け得る。この「リモデリング」、又は「アシルエディティング」は、グリセロリン脂質の脱アシル化及び得られるリゾリン脂質の続く再アシル化が原因とされている。
Landsサイクル(Lands,W.E.、J.Biol.Chem.、231:883〜888頁(1958年))では、リモデリングは、1)ホスファチジルコリンのsn−2位から脂肪酸を遊離させるホスホリパーゼ、例えばホスホリパーゼA2と;2)sn−2位のリゾホスファチジルコリン[「LPC」]を再アシル化するアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ[「LPLAT」]、例えばリゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼ[「LPCAT」]との協調的作用によって起こる。他のグリセロリン脂質もまた、リゾホスファチジルエタノールアミンアシルトランスフェラーゼ[「LPEAT」]活性、リゾホスファチジルセリンアシルトランスフェラーゼ[「LPSAT」]活性、リゾホスファチジルグリセロールアシルトランスフェラーゼ[「LPGAT」]活性及びリゾホスファチジルイノシトールアシルトランスフェラーゼ[「LPIAT」]活性を有するLPLAT酵素を含め、そのそれぞれのリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性によりリモデリングに関与し得る。いずれの場合にも、LPLATは、細胞内アシルCoAプールからのアシルCoA脂肪酸の除去及びリン脂質プールにおけるsn−2位での様々なリゾリン脂質基質のアシル化に関与する。最後に、LPLATはまた、LPAからのPAのデノボ生合成に関与するLPAAT酵素も含む。
他の場合、このsn−2位リモデリングは、LPCAT活性を有する酵素の正反応及び逆反応が原因とされている(Stymne S.及びA.K.Stobart、Biochem J.、223(2):305〜314頁(1984年))。
Shindouらによるいくつかの最近のレビューに、グリセロリン脂質生合成の概要及びLPLATの役割が提供されている(J.Biol.Chem.、284(1):1〜5頁(2009年);J.Lipid Res.、50:S46〜S51頁(2009年))。さらに、保存モチーフの存在に基づき多数のLPLATが一般文献及び特許文献に報告されている。
より具体的には、様々なLPLATモチーフが提案されており、分析されたアラインメントに含まれる特定の種に基づき僅かな違いがある。例えば、Shindouら(Biochem.Biophys.Res.Comm.、383:320〜325頁(2009年))は、ヒト(Homo sapiens)、ニワトリ(Gallus gallus)、ダニオ・レリオ(Danio rerio)及びカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)由来の配列のアラインメントに基づき、以下の膜結合型O−アシルトランスフェラーゼ[「MBOAT」]ファミリーモチーフがLPLAT活性に重要となることを提案した:WD、WHGxxxGYxxxF(配列番号99)、YxxxxF(配列番号100)及びYxxxYFxxH(配列番号101)。そのうち、WD、WHGxxxGYxxxF及びYxxxxFモチーフはScAle(配列番号15)及びYlAle1(配列番号17)に存在するが、YxxxYFxxHモチーフは存在しない。Ale1相同体の代替的な非植物モチーフもまた、米国特許出願公開第2008−0145867−A1号明細書に記載されている;具体的にそれらとしては、M−[V/I]−[L/I]−xxK−[L/V/I]−xxxxxxDG(配列番号102)、RxKYYxxWxxx−[E/D]−[A/G]xxxxGxG−[F/Y]−xG(配列番号103)、EX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号21)及びSAxWHGxxPGYxx−[T/F]−F(配列番号104)が挙げられる。
同様に、Lewin,T.W.ら(Biochemistry、38:5764〜5771頁(1999年)及びYamashitaら(Biochim.Biophys.Acta、1771:1202〜1215頁(2007年))は、細菌、酵母、線虫及び哺乳動物由来の配列のアラインメントに基づき、以下の1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ[「LPAAT」]ファミリーモチーフがLPLAT活性に重要となることを提案した:NHxxxxD(配列番号33)、GxxFI−[D/R]−R(配列番号105)、EGTR(配列番号34)及び[V/I]−[P/X]−[I/V/L]−[I/V]−P−[V/I](配列番号106)又はIVPIVM(配列番号107)のいずれか。NHxxxxD及びEGTRモチーフはMaLPAAT1(配列番号29)、YlLPAAT1(配列番号31)及びCeLPCAT(配列番号25)に存在するが、他のLPAATファミリーモチーフは存在しない。
本明細書に記載されるものを含め、公開されているAle1、LPCAT及びLPAATタンパク質配列に基づけば、本明細書における改良型組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)最適化株に含められるLPLATは、M(V/I)LxxKL(配列番号18)、RxKYYxxW(配列番号19)、SAxWHG(配列番号20)及びEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号21)からなる群から選択されるMBOATファミリーモチーフ、又はNHxxxxD(配列番号33)及びEGTR(配列番号34)からなる群から選択される1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼファミリーモチーフのいずれかを有する。
脂肪酸生合成ではアシルCoAプールとリン脂質プールとの間でアシル基が迅速に交換される必要があるため、LPLATのPUFA産生に対する効果が検討されている。具体的には、不飽和化が主にリン脂質のsn−2位で起こる一方、アシルCoAプールにおいて伸長が起こる。
より具体的には、これまでに、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のTAG画分中のEPA蓄積においてはLPCATが重要であり得るという仮説が立てられている(米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書)。この文献に記載されるとおり、この仮説は以下の研究に基づいた:1)Stymne S.及びA.K.Stobart(Biochem.J.、223(2):305〜314頁(1984年))、アシルCoAプールとPCプールとの間の交換がLPCATの正反応及び逆反応に起因し得るという仮説を立てた;2)Domergue,F.ら(J.Bio.Chem.、278:35115頁(2003年))、PCのsn−2位にGLAが蓄積されたこと、及び酵母ではARAを効率的に合成できなかったことが、アシルCoAプール内で起こるPUFA生合成に関わる伸長ステップの結果であり、一方、主にPCのsn−2位でΔ5及びΔ6不飽和化ステップが起こったことを示唆した;3)Abbadi,A.ら(The Plant Cell、16:2734〜2748頁(2004年))、トランスジェニック油糧種子植物におけるPUFA蓄積の制約条件に関する分析に基づき、LPCATがΔ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路の再構成の成功に重要な役割を果たすことを示唆した;及び、4)国際公開第2004/076617 A2号パンフレット及び国際公開第2004/087902 A2号パンフレットにおけるRenz,A.らの研究。
より具体的には、国際公開第2004/076617 A2号パンフレットが、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(クローンT06E8.1)からのLPCAT[「CeLPCAT」]の単離について記載し、それぞれ18:2脂肪酸又はα−リノレン[「ALA」;18:3]脂肪酸を外因的に加えたサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の改変株においてLPCATを発現させたときの、それぞれΔ6不飽和化及びΔ6伸長の効率の増加、並びに長鎖PUFAエイコサジエン酸[「EDA」;20:2]及びエイコサテトラエン酸[「ETA」;20:4]の生合成の増加を報告している。
国際公開第2004/087902 A2号パンフレット(実施例16)は、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT様タンパク質(28アミノ酸残基のN末端伸長部を除いて同じである、それぞれ417アミノ酸長又は389アミノ酸長を有するタンパク質によりコードされる)の単離について記載し、国際公開第2004/076617 A2号パンフレットと同様の方法を用いてこれらのタンパク質の一方を発現させると、EDA及びETA生合成の同様の改良がもたらされることを報告している。
国際公開第2004/076617号パンフレット及び国際公開第2004/087902号パンフレットは双方とも、EDA及びETA生合成の改良がCeLPLAT及び一部のLPAAT様タンパク質における可逆的LPCAT活性に起因する(但し全てのLPAAT様タンパク質がLPCAT活性を有するわけではない)ことを教示している。さらにRenz,A.らは、LPCATにより、デサチュラーゼがPC共役脂肪酸における二重結合の導入を触媒する一方でエロンガーゼが専らCoAエステル化脂肪酸(アシルCoA)の伸長を触媒するため、新規に合成された脂肪酸のリン脂質とアシルCoAプールとの間での効率的且つ連続的な交換が可能となったものと結論付けた。
多数の他の参考文献が、概して、トランスジェニック生物の油において所望の脂肪酸の量を増加させたり、全含油量を増加させたり、又は所望の脂肪酸の含量を選択的に増加させたりするためのLPLATのPUFA生合成遺伝子との同時発現の利点について記載している(例えば、国際公開第2006/069936号パンフレット、国際公開第2006/052870号パンフレット、国際公開第2009/001315号パンフレット、国際公開第2009/014140号パンフレット)。
本明細書では(及び2009年6月16日に出願された、代理人整理番号CL4361USPRVを有し、全体として参照により援用される、本出願人の譲受人の同時出願された米国仮特許出願第61/187359号明細書では)、LPAAT及びLPCATがヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のTAG画分中におけるEPA蓄積に実に重要であることが実証される。具体的には、LPLATの過剰発現によりΔ9エロンガーゼ変換効率の向上をもたらし得ることが分かった。既に定義したとおり、変換効率は、Δ9エロンガーゼなどの特定の酵素が基質(例えば、LA)を産物(例えば、EDA)に変換することのできる効率を指す用語である。従って、EPAを産生するよう改変された株において、Δ9エロンガーゼ変換効率が向上し、EPA % TFA及び/又はEPA % DCWの増加がもたらされることが実証された。
これらの結果、及びさらなる補足的研究が、LC−PUFA産生組換え油性微生物宿主細胞におけるC18からC20への伸長変換効率を向上させるための以下の特許請求される方法の基礎であり、前記方法は、
a)少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドを前記LC−PUFA産生組換え宿主細胞に導入するステップであって、前記ポリペプチドが、
(i)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号15(ScAle1)及び配列番号17(YlAle1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも45%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(ii)M(V/I)LxxKL(配列番号18)、RxKYYxxW(配列番号19)、SAxWHG(配列番号20)及びEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号21)からなる群から選択される少なくとも1つの膜結合型O−アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
(iii)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号25に示されるとおりのアミノ酸配列(CeLPCAT)と比較したとき少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;
(iv)Clustal Wアラインメント法に基づき配列番号29(MaLPAAT1)、配列番号31(YlLPAAT1)及び配列番号32(ScLPAAT1)からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較したとき少なくとも43.9%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド;及び
(v)NHxxxxD(配列番号33)及びEGTR(配列番号34)からなる群から選択される少なくとも1つの1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼタンパク質ファミリーモチーフを有するポリペプチド;
からなる群から選択され、
前記少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離ポリヌクレオチドが、少なくとも1つの調節配列に作動可能に連結され、前記調節配列は同じであるか又は異なる、ステップと、
b)油性微生物宿主細胞を増殖するステップと、
を含み、油性微生物宿主細胞のC18からC20への伸長変換効率は対照宿主細胞と比べて増加する。
好ましくは、少なくともアシルCoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは安定的に組み込まれ、C18からC20への伸長変換の増加は少なくとも約4%である。
より好ましくは、C18からC20への伸長変換効率の増加は、少なくとも1つのLC−PUFA産生油性微生物宿主細胞において、対照宿主細胞と比較したとき少なくとも約4〜10%、より好ましくは少なくとも約10〜20%、より好ましくは少なくとも約20〜40%、及び最も好ましくは少なくとも約40〜60%又はそれ以上である。
上記に記載されるC18からC20への伸長変換効率の改良に基づけば、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に記載される株と比べて向上したEPA % TFAを産生する能力を有する組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)最適化株は、上記の方法に定義されるとおりの少なくとも1つのアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ[「LPLAT」]を含んでもよい。好ましい実施形態において、LPLATのアミノ酸配列は、配列番号15(ScAle1)、配列番号16(YlAle1)、配列番号25(CeLPCAT)、配列番号29(MaLPAAT1)、配列番号31(YlLPAAT1)及び配列番号32(ScLPAAT1)からなる群から選択される。
米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書は、組換えヤロウイア・エスピー(Yarrowia sp.)において有用な様々なノックアウトについて、形質転換体の選択に有用なもの、脂肪酸分解及びTAG分解を低減するもの、及び表現型上「中性の」突然変異をもたらすように思われるもの(ここでヤロウイア属(Yarrowia)宿主細胞は影響を受けないように見える)を含め、記載している。しかしながら、最も好ましいものは、全脂肪酸に対するEPAの濃度[「EPA % TFA」]の上昇をもたらす遺伝子ノックアウト(例えば、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子ノックアウト、ペルオキシソーム生合成因子タンパク質[「PEX」]遺伝子ノックアウト)である。
より具体的には、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書は、一部の好ましい組換えヤロウイア属(Yarrowia)産生宿主において、宿主が、Pex1p(配列番号108)、Pex2p(配列番号109)、Pex3p(配列番号110)、Pex3Bp(配列番号111)、Pex4p(配列番号112)、Pex5p(配列番号113)、Pex6p(配列番号114)、Pex7p(配列番号115)、Pex8p(配列番号116)、Pex10p(配列番号117)、Pex12p(配列番号118)、Pex13p(配列番号119)、Pex14p(配列番号120)、Pex16p(配列番号121)、Pex17p(配列番号122)、Pex19p(配列番号123)、Pex20p(配列番号124)、Pex22p(配列番号125)及びPex26p(配列番号126)からなる群から選択されるペルオキシソーム生合成因子タンパク質をコードする天然遺伝子を欠くことを企図する。より好ましい破壊されるペルオキシソーム生合成因子タンパク質は、Pex2p、Pex3p、Pex10p、Pex12p及びPex16pであり、しかしながらデータはPex10pに関してのみ提供されている。
国際公開第2009/046248号パンフレットは、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のΔPex16株、ΔPex3株及びΔPex10株を比較することにより、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に提供される仮説及び研究を裏付け、展開している。この明細書における結果は、EPA産生について改変された非破壊株と比べてPex10の破壊がEPA % TFAの3.3倍の増加及びC20 PUFA量の1.7倍の増加に関与することを実証した。同様に、DGLA産生について改変されたΔPex16株において、DGLA % TFAの1.65倍の増加及びC20 PUFA % TFAの1.3倍の増加が認められた。DGLA産生について改変されたΔPex3株では、DGLA % TFAの2.0倍の増加及びC20 PUFA % TFAの1.7倍の増加が認められた。
これらの結果、及びさらなる補足的研究が、全脂質含量と全脂質画分と油画分とを有する油性真核生物において全脂肪酸の重量パーセントに対する1つのPUFA又はPUFAの組み合わせの重量パーセントを増加させるための以下の特許請求される方法の基礎であり、前記方法は、
a)ペルオキシソーム生合成因子タンパク質をコードする天然遺伝子の破壊であって、それによりPEX破壊生物が作り出される破壊と;機能的PUFA生合成経路をコードする遺伝子とを含む油性真核生物を提供するステップと、
b)全脂肪酸の重量パーセントに対する全脂質画分及び油画分における少なくとも1つのPUFAの重量パーセントが、天然ペルオキシソーム生合成因子タンパク質が破壊されていない油性真核生物の重量パーセントと比較したとき増加する条件下で、PEX破壊生物を成長させるステップと、
を含む。
全脂肪酸の百分率として増加するPUFAの量は、1)PUFA中間体又は副産物に対照されるものとしての、機能的PUFA生合成経路の所望の最終産物であるPUFA;2)C20からC22へのPUFA;及び/又は、3)全PUFAであり得る。
全脂肪酸の重量パーセントに対するPUFAの1つ又は組み合わせの重量パーセントを増加させることに加え、ある場合には、細胞の全脂質含量(TFA % DCW)を増加又は減少させてもよい。これは、PEX遺伝子における破壊がPEX破壊細胞中の全脂質量を増加させるか、又は減少させるかに関わらず、破壊によって常に、あるPUFA又はPUFAの組み合わせの重量パーセントの増加が生じることを意味する。
上記に基づけば、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に記載される株と比べて改良されたEPA % TFAを産生する能力を有する組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)最適化株は、発現が下方制御された(すなわち、それによりPEX破壊生物をもたらす)少なくとも1つのペルオキシソーム生合成因子タンパク質を含み得る。好ましい株において、下方制御されるペルオキシソーム生合成因子タンパク質は、Pex3p(配列番号110)、Pex10p(配列番号117)、又はPex16p(配列番号121)である。
当業者は、天然ヤロウイア属(Yarrowia)遺伝子の破壊を実現する多数の技術を利用することが可能であるが、概して以下の技法、例えば:1)標的遺伝子の全て又は一部の挿入、置換及び/又は欠失による遺伝子の破壊;又は、2)タンパク質の発現を制御する調節配列の操作により、特定の遺伝子の内因性活性を低下又は消失させることができる。これらの技法はいずれも、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書、並びに国際公開第2009/046248号パンフレットで考察されている。当業者は、既存の文献にこれらの及び他の方法についての十分な記載がなさており、本明細書に記載される方法、宿主細胞、及び産物に限定されないことを理解するであろう。当業者はまた、任意の特定の油性酵母での使用に最も適した技法も理解するであろう。
最適化株は、少なくとも約40〜50EPA % TFA、好ましくは少なくとも約50〜55EPA % TFA、より好ましくは少なくとも約55〜60EPA % TFA、より好ましくは少なくとも60〜70EPA % TFA、及び最も好ましくは少なくとも約70〜80EPA % TFAを産生し得る。
当業者にはあきらかであろうとおり、少なくとも約50EPA % TFAを産生する多数の異なる最適化ヤロウイア(Yarrrowia)株が、本明細書に記載される方法論を用いて改変され得る。従って、全脂肪酸の百分率としてのEPAの濃度[「EPA % TFA」]及び全脂質含量[「TFA % DCW」]の双方が乾燥細胞重量の百分率としてのEPAの細胞内含量[「EPA % DCW」]に影響を及ぼすため、商業目的に好ましい株の選択には改変株の全脂質含量もまた考慮され得る。すなわち、EPA % DCWは、(EPA % TFA)*(TFA % DCW)]/100として計算される。例えば、50EPA % TFAを産生し、且つ24TFA % DCWを有する株、55EPA % TFAを産生し、且つ21.82TFA % DCWを有する株、60EPA % TFAを産生し、且つ20TFA % DCWを有する株、65EPA % TFAを産生し、且つ18.46TFA % DCWを有する株及び70EPA % TFAを産生し、且つ17.14TFA % DCWを有する株は全て、12EPA % DCWを産生する。好ましい実施形態において、改良型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrrowia lipolytica)最適化株は、少なくとも約10〜12EPA % DCW、好ましくは少なくとも約12〜14EPA % DCW、より好ましくは少なくとも約14〜16EPA % DCW、より好ましくは少なくとも約16〜18EPA % DCW、より好ましくは少なくとも約18〜20EPA % DCW、より好ましくは少なくとも約20〜22EPA % DCW、より好ましくは少なくとも約22〜24EPA % DCW、及び最も好ましくは少なくとも約24〜26EPA % DCWを産生し得る。
少なくとも約50EPA % TFAを有することに加え、改良型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrrowia lipolytica)最適化株中、又はそこからの抽出油若しくは未濃縮油中の脂質プロファイルは、少なくとも約3.1のEPA % TFA対LA % TFA比を有し得る。米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書(表23)に実証されるとおり、EPA、LA及びオレイン酸は、40EPA % TFA超を産生するY.リポリティカ(Y.lipolytica)株の脂質プロファイルに存在する脂肪酸の約76〜80%を構成した。そのうち、LA % TFAはオレイン酸 % TFAと比べて約3倍高かった。この観察結果に基づけば、当業者は、中間体脂肪酸であるLAの濃度を最小限に抑える(その結果EPA:LA比が上昇する)ことで、PUFA生合成経路中に「詰め込まれる」炭素が多くなり、EPA合成の増加が可能となり得ることを理解するであろう。好ましい実施形態において、EPA:LA比は少なくとも約3.1〜3.5、より好ましくは少なくとも約3.5〜4.5、より好ましくは少なくとも約4.5〜5.5、及び最も好ましくは少なくとも約5.5〜6.5である。
本明細書に記載される改良型最適化組換えY.リポリティカ(Y.lipolytica)株により産生される脂質はまた、GLA又はDHAが約0.5%未満であり(約0.1%に至るまでの検出可能レベルを有する機器を使用するGC分析によって計測したとき)、且つ飽和脂肪酸含量が約8%未満であることも特色とし得る。この低率の飽和脂肪酸(すなわち、16:0及び18:0)は、ヒト及び動物に実質的な健康上の利益をもたらす。
外来性タンパク質の高レベル発現を導く調節配列を含む微生物発現系及び発現ベクターは、当業者に公知である。それらのいずれかを使用して、好ましいデサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1、DGLAシンターゼ、マロニルCoAシンテターゼ及びアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼタンパク質をコードするキメラ遺伝子を構築することができる。次にそうしたキメラ遺伝子が、標準的な形質転換方法を用いてヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に導入されることで、コードされる酵素の高レベル発現がもたらされ得る。
ヤロウイア属(Yarrowia)宿主細胞の形質転換に有用なベクター(例えば、コンストラクト、プラスミド)及びDNA発現カセットは、当該技術分野において公知である。コンストラクト中に存在する配列の具体的な選択は、所望の発現産物、宿主細胞の性質、及び形質転換細胞の非形質転換細胞との提案される分離手段に依存する。しかしながら、典型的にはベクターは、少なくとも1つの発現カセットと、選択可能なマーカーと、自己複製又は染色体への組込みを可能にする配列とを含む。好適な発現カセットは、典型的には転写開始を制御する遺伝子の領域5’(例えば、プロモーター)と、遺伝子コード配列と、転写終結を制御するDNA断片の領域3’(すなわち、ターミネーター)とを含む。双方の制御領域が形質転換宿主細胞の遺伝子に由来する場合が最も好ましいが、制御領域は必ずしも産生宿主(例えば、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))にとって天然の遺伝子に由来しなくともよい。
別個の複製ベクターから2個以上の遺伝子を発現させる場合、各ベクターが異なる選択手段を有することが望ましく、及び安定した発現を維持し、且つコンストラクト間でのエレメントの混合を防止するため、他のコンストラクトと相同性を欠くものでなければならない。調節領域、選択手段及び導入したコンストラクトの増殖方法の妥当な選択は、導入された遺伝子の全てが所望の産物の合成を提供するために必要なレベルで発現するように実験的に決定することができる。
1つ又は複数の対象遺伝子を含むコンストラクト又はベクターは、任意の標準的な技術によりヤロウイア属(Yarrowia)などの宿主細胞に導入され得る。それらの技法としては、形質転換(例えば、酢酸リチウム形質転換[Methods in Enzymology、194:186〜187頁(1991年)])、遺伝子銃衝撃(bolistic impact)、電気穿孔、マイクロインジェクション、又は1つ又は複数の対象遺伝子を宿主細胞に導入する任意の他の方法が挙げられる。ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に対して本明細書では、米国特許第4,880,741号明細書及び米国特許第5,071,764号明細書及びChen,D.C.ら(Appl.Microbiol.Biotechnol.、48(2):232〜235頁(1997年))に記載されるとおりの直鎖化されたDNA断片に基づく組込み技法がより好ましい。
便宜上、DNA配列を取り込むように任意の方法によって操作された宿主細胞(例えば、発現カセット)が、本明細書では「形質転換された」、「形質転換体」又は「組換え」と称される。形質転換宿主は発現カセットの少なくとも1つのコピーを有し、及び発現カセットがゲノムに組み込まれるか、又は複数のコピー数を有する染色体外エレメントに存在するかに応じて、2つ以上を有してもよい。形質転換宿主細胞は、米国特許第7,238,482号明細書及び米国特許第7,259,255号明細書に記載されるとおり、様々な選択技法により同定することができる。
本明細書で用いられる好ましい選択方法は、カナマイシン、ハイグロマイシン及びアミノグリコシドG418に対する耐性、並びにウラシル、ロイシン、リジン、トリプトファン又はヒスチジン欠損培地での増殖能力である。代替的実施形態では、酵母Ura−突然変異体の選択に5−フルオロオロチン酸(5−フルオロウラシル−6−カルボン酸一水和物;「5−FOA」)が使用され(米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書)、又は形質転換体の選択にスルホニル尿素除草剤耐性を付与する天然アセトヒドロキシ酸シンターゼ(又はアセト乳酸シンターゼ;E.C. 4.1.3.18)(国際公開第2006/052870号パンフレット)が利用される。米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書には、部位特異的リコンビナーゼ系を使用することにより、一対の好ましい選択マーカーを再利用してそれらを複数の逐次的な形質転換に使用する独自の方法もまた教示されている。
当業者には周知のとおり、単に遺伝子(例えば、デサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1、DGLAシンターゼ、マロニルCoAシンテターゼ、アシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ)をクローニングベクターに挿入するだけは、所望の速度、濃度、量等でのその発現は確実とはならない。転写、RNA安定性、翻訳、タンパク質安定性及びタンパク質位置、酸素制限及び宿主細胞からの分泌の側面を制御する多数の異なる遺伝要素を操作することが求められ得る。より具体的には、遺伝子発現は、以下を変えることにより制御されてもよい:関連する転写プロモーター及びターミネーター配列の性質;クローニングされた遺伝子のコピー数;遺伝子がプラスミドから産生されるか、又は宿主細胞のゲノムに組み込まれるか;合成された外来性タンパク質の最終的な細胞内位置;宿主生物中での翻訳効率;宿主細胞内でのクローニングされた遺伝子タンパク質の固有の安定性;及び、その頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用頻度に近付くような、クローニングされた遺伝子内でのコドン使用。これらの過剰発現方法のいくつかは以下で考察し、例えば、デサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1タンパク質、DGLAシンターゼ、マロニルCoAシンテターゼ及びアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼの過剰発現手段として、組換えヤロウイア属(Yarrowia)宿主細胞において有用である。
所望の1つ又は複数の遺伝子の発現は、より強力なプロモーター(調節性のものであっても、又は構成的なものであっても)を使用して、mRNA又はコードされたタンパク質のいずれかから不安定な配列を除去する/欠失させることによるか、又は安定的な配列をmRNAに付加することによって発現の増加を生じさせることにより、転写レベルで増加し得る(米国特許第4,910,141号明細書)。
ヤロウイア属(Yarrowia)宿主細胞中での異種遺伝子又はその一部の発現を駆動するのに有用な転写開始制御領域又はプロモーターは多数あり、当業者に公知である。発現は、誘導的又は構成的な形で達成され得る。誘導的発現は、対象遺伝子に作動可能に連結された調節性プロモーターの活性を誘導することにより達成することができ、一方、構成的発現は、対象遺伝子に作動可能に連結された構成的プロモーターを使用することにより実現することができる。事実上、ヤロウイア属(Yarrowia)中でのデサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1、DGLAシンターゼ、マロニルCoAシンテターゼ及びアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を導くことが可能な任意のプロモーター(すなわち、天然、合成、又はキメラ)が好適であり得るが、宿主種由来の転写及び翻訳領域が特に有用である。
概して、終結領域は遺伝子の3’領域に由来することができ、開始領域はそこから得られてもよく、又は異なる遺伝子から得られてもよい。多数の終結領域が公知であり、様々な宿主において、終結領域が由来したものと同じ及び異なる属及び種のいずれで利用されるときにも満足に機能する。終結領域は、通常任意の特定の特性のためというより便宜上の問題として選択される。好ましくは、終結領域は酵母遺伝子に由来する。3’領域はまた、当業者が入手可能な情報を利用して、転写ターミネーターとして機能する3’領域配列を設計及び合成することができるとおりの、合成のものであってもよい。終結部位はなくてもよいが、極めて好ましい。
限定することは意図されないが、本明細書の開示において有用な好ましいプロモーター領域及び終結領域は、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に教示されるものである。
PUFA生合成経路デサチュラーゼ、エロンガーゼ及びDGLAシンターゼ遺伝子及び/又はCPT1、マロニルCoAシンテターゼ及びアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ遺伝子の追加的なコピー(すなわち、1つより多いコピー)をヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に導入し、それによりEPA産生及び蓄積を増加させてもよい。具体的には、遺伝子の追加的なコピーが、単一の発現コンストラクト内にクローニングされてもよい;及び/又は、1つ又は複数のクローニングされた遺伝子の追加的なコピーが、プラスミドコピー数を増加させることによるか、又はクローニングされた遺伝子をゲノムに複数組み込むことにより宿主細胞に導入されてもよい(下記)。
本明細書の方法論によりY.リポリティカ(Y.lipolytica)最適化株を調製するとき、多くの場合に様々なデサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1、DGLAシンターゼ、マロニルCoAシンテターゼ及びアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼのコピーが参照される点に留意することが重要である。例えば、Δ9エロンガーゼの2コピーが必要な場合、これは、1)単一の種から単離された特定のΔ9エロンガーゼについての同じコード配列の2つのコピー;又は、2)種「A」から単離されたΔ9エロンガーゼについての1つのコード配列及び種「B」から単離されたΔ9エロンガーゼについての1つのコード配列であって、ひいては合わせて2つのΔ9エロンガーゼをもたらすコード配列を指し得る。
概して、油性酵母での発現に好適なDNAカセット(例えば、プロモーター、ORF及びターミネーターを含むキメラ遺伝子を含む)が得られると、それは宿主細胞中での自己複製能を有するプラスミドベクター内に置かれるか、又は宿主細胞のゲノムに直接組み込まれる。発現カセットの組込みは、宿主ゲノム中でランダムに行うことができ、又は宿主遺伝子座との標的組換えに十分な宿主ゲノムとの相同性領域を含むコンストラクトを使用することによって標的化することもできる。本明細書でそれに頼るわけではないが、転写及び翻訳調節領域の全て又は一部は、コンストラクトが内因性遺伝子座に標的化される場合には内因性遺伝子座により提供することができる。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)で遺伝子を発現させる好ましい方法は、直鎖状DNA断片の宿主ゲノムへの組込みによるものである。ゲノム内の複数の部位に組み込むことが、遺伝子の高レベル発現が望ましい場合に特に有用であり得る。好ましい遺伝子座としては、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に教示されるものが挙げられる。
Juretzekら(Yeast、18:97〜113頁(2001年))は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における組み込まれたDNA断片の安定性が、使用される個々の形質転換体、受容株及び標的化プラットフォームに依存することを指摘している。従って、当業者は、所望の発現レベル及びパターンを呈する株を得るため、複数の形質転換体をスクリーニングしなければならないことを認識するであろう。かかるスクリーニングは、DNAブロットのサザン解析(Southern,J.Mol.Biol.、98:503頁(1975年))、mRNA発現のノーザン解析(Kroczek,J.Chromatogr.Biomed.Appl.、618(1〜2):133〜145頁(1993年))、タンパク質発現のウェスタン解析、PUFA産物の表現型分析又はGC分析によって達成され得る。
形質転換された微生物宿主細胞は、キメラ遺伝子(例えば、デサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1、DGLAシンターゼ、マロニルCoAシンテターゼ、アシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼをコードする)の発現を最適化し、且つ最大の、及び最も経済的なEPA収率をもたらす条件下で増殖される。概して培地条件は、炭素源の種類及び量、窒素源の種類及び量、炭素対窒素比、種々のミネラルイオンの量、酸素レベル、増殖温度、pH、バイオマス産生期間の長さ、油蓄積期間の長さ並びに細胞回収の時期及び方法を変更することによって最適化され得る。ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)は、概して、酵母エキス−ペプトン−デキストロースブロス[「YPD」]などの複合培地又は増殖に必要な成分が欠けていることにより所望の発現カセットが強制的に選択される限定最少培地(例えば、酵母窒素ベース(DIFCO Laboratories、Detroit,MI))で増殖される。
本明細書に記載される方法及び宿主細胞用の発酵培地は、米国特許第7,238,482号明細書及び米国特許出願第12/641,929号明細書(2009年12月19日に出願された)に教示されるような好適な炭素源を含まなければならない。本発明に利用される炭素源は多種多様な炭素含有供給源を包含し得ることが企図されるが、好ましい炭素源は、糖類、グリセロール及び/又は脂肪酸である。最も好ましくは、10〜22個の炭素を含有するグルコース、スクロース、転化スクロース、フルクトース及び/又は脂肪酸である。例えば、発酵性炭素源は、転化スクロース、グルコース、フルクトース及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよく、但しグルコースは転化スクロース及び/又はフルクトースとの組み合わせで使用されるものとする。
用語「転化スクロース」は、本明細書では「転化糖」とも称され、スクロースの加水分解から生じる等量のフルクトースとグルコースとを含む混合物を指す。転化スクロースは、25〜50%のグルコースと25〜50%のフルクトースとを含む混合物であってもよい。転化スクロースはまたスクロースを含んでもよく、その量は加水分解度に依存する。
窒素は、無機源(例えば、(NH42SO4)又は有機源(例えば、尿素又はグルタミン酸)から供給され得る。適切な炭素源及び窒素源に加え、発酵培地はまた、好適なミネラル、塩、補因子、緩衝剤、ビタミン及び当業者に公知の、EPA高産生油性酵母の成長及びEPAを産生する酵素経路の促進に好適な他の成分も含まなければならない。特に、脂質及びPUFAの合成を促進するFe+2、Cu+2、Mn+2、Co+2、Zn+2及びMg+2などのいくつかの金属イオンに注意が払われる(Nakahara,T.ら、Ind.Appl.Single Cell Oils.、D.J.Kyle及びR.Colin編、61〜97頁(1992年))。
本明細書に記載される方法及び宿主細胞に好ましい増殖培地は、酵母窒素ベース(DIFCO Laboratories、Detroit,MI)などの一般的な市販品として調製済みの培地である。他の限定又は合成増殖培地もまた使用することができ、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の増殖に適した培地は微生物学又は発酵科学の当業者によって判断され得る。発酵に好適なpH範囲は、典型的には約pH4.0〜pH8.0であり、なかでもpH5.5〜pH7.5が初期成長条件の範囲として好ましい。発酵は好気性条件下又は嫌気性条件下で行われてもよく、微好気性条件が好ましい。
典型的には、油性酵母細胞での高レベルのPUFAの蓄積には、増殖と脂肪の合成/貯蔵との間で代謝状態が「平衡」しなければならないため、2段階プロセスを要する。従って、最も好ましくは、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)でのEPA産生には二段階発酵プロセスが必要である。この手法は、米国特許第7,238,482号明細書に、様々な好適な発酵プロセス設計(すなわち、バッチ、フェドバッチ及び連続)及び増殖中の考慮事項として記載される。
本明細書におけるいくつかの態様において、一次産物は油性酵母バイオマスである。そのため、バイオマスからのEPA含有油の単離及び精製は(すなわち、全細胞バイオマスが産物である場合)、不要のこともある。
しかしながら、特定の最終用途及び/又は産物形態では、部分的に精製されたバイオマス、精製油、及び/又は精製EPAをもたらすために、バイオマスからのEPA含有油の部分的及び/又は完全な単離/精製が必要となり得る。EPAを含むPUFAは、宿主微生物(例えば、ヤロウイア属(Yarrowia))中で遊離脂肪酸として、又はアシルグリセロール、リン脂質、硫脂質若しくは糖脂質などのエステル化された形態で存在し得る。これらの脂肪酸は、当該技術分野において公知の様々な手段によって宿主細胞から抽出され得る。酵母脂質についての抽出技法、品質分析及び許容基準の一つのレビューが、Z.Jacobs(Critical Reviews in Biotechnology、12(5/6):463〜491頁(1992年))のレビューである。下流プロセシングの簡略なレビューもまた、A.Singh及びO.Ward(Adv.Appl.Microbiol.、45:271〜312頁(1997年))によって利用可能となっている。
概して、ヤロウイア属(Yarrowia)バイオマスからのEPA及び他のPUFAの精製手段としては、有機溶媒、音波処理、超臨界流体抽出(例えば、二酸化炭素を使用)、鹸化及び物理的手段、例えばプレス、ビーズビーター、又はそれらの組み合わせによる抽出(例えば、米国特許第6,797,303号明細書及び米国特許第5,648,564号明細書)を挙げることができる。さらなる詳細については、米国特許第7,238,482号明細書の教示が参照される。
純化及び/又は精製されたEPAを含有する油は水素化されてもよく、それにより様々な溶融特性及びテクスチャを有する脂肪がもたらされる。スプレッド、製菓用脂肪、ハードバター、マーガリン、ベーキングショートニング等を含めた多くの加工脂肪は、室温で様々な固形度を必要とし、原料油の物理的特性を変化させることによってのみ生産することができる。これは、最も一般的には、接触水素化により実現される(さらなる詳細及び参考文献については国際公開第2006/052870号パンフレットを参照のこと)。
EPAを含む油性酵母バイオマスを含む食製品、人工栄養乳、機能性食品、医療用食品、医療用栄養剤、食事サプリメント、医薬組成物、動物飼料、及びパーソナルケア製品が、本明細書に提供される。同様に、組換え油性酵母バイオマスから単離されたEPA又はEPAを含む微生物油を含む食製品、人工栄養乳、機能性食品、医療用食品、医療用栄養剤、食事サプリメント、医薬組成物、動物飼料、及びパーソナルケア製品もまた提供される。
加工及び配合技術分野の当業者は、バイオマス、部分的に精製されたバイオマス、精製油、及び/又は精製EPAのどのような量及び組成を、標的種及び/又は最終用途に従い特定の製品に加え得るかを理解し得る。より具体的には、「有効」量が製品配合物に含められなければならず、しかしながらこの量は、食品若しくは飼料製品、その製品による補給が意図される食事、又は医療用食品若しくは医療用栄養剤による補正又は治療が意図される医学的状態に依存し得る。最も望ましくは、EPAの有効量は、ω−3/ω−6 PUFAの摂取に伴う望ましい健康上の特性を提供するのに十分であり得る。典型的には、製品に含められるEPAの量は、いくつか例を挙げれば、加工条件に関連する損失、典型的な取扱い及び保管条件、製品中でのEPAの安定性、及び標的種によるバイオアベイラビリティ/生体吸収効率が考慮される。
加工及び配合技術分野の当業者は、本明細書に記載される組換えヤロウイア属(Yarrowia)産生宿主細胞から産生された油を濃縮し、それにより全脂質画分が少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%又はさらには少なくとも約90%のEPAを含むように、全脂質画分中のEPAの濃度を上昇させる方法に精通しているであろう。本明細書に記載される精製油を他の精製脂肪酸(例えば、LA、GLA、EDA、DGLA、ARA、DTA、DPAn−6、ALA、STA、ETrA、ETA、DPA及びDHA)と、又は代替的な脂肪酸を好ましい濃度で含有する油とブレンドする手段もまた、当業者には公知である。これらの技法により、個々に合わせて調整された脂肪酸プロファイルを含む油を作り出すことが容易に可能となる。
パーソナルケア製品:パーソナルケア製品との関連においてω−3脂肪酸は、皮膚のコンディショニング効果を亢進するために使用され得る皮膚用配合物に特定の用途を有する。当業者は、有効量の関連する1つ又は複数のω−3脂肪酸又はそれを含む油をスキンケア組成物にどのように提供すればよいかを理解しているであろう。PUFA油又はω−3脂肪酸に加え、スキンケア組成物は化粧品として許容可能なスキンケア組成物用媒体をさらに含んでもよく、その例はPhilippeらにより米国特許第6,280,747号明細書に記載されている。例えば、化粧品として許容可能な媒体は、組成物の総重量に対して概して約10重量%〜約90重量%の割合で脂肪物質を含有する無水組成物であってもよく、ここで脂肪相は少なくとも1つの液体、固体又は半固体脂肪物質を含む。脂肪物質としては、限定はされないが、オイル、ワックス、ゴム、及びいわゆるペースト状脂肪物質が挙げられる。或いは、組成物は、油中水型又は水中油型乳剤などの安定的な分散体の形態であってもよい。加えて、組成物は、限定はされないが、抗酸化剤、保存剤、充填剤、界面活性剤、UVA及び/又はUVB日焼け防止剤、芳香剤、増粘剤、湿潤剤、アニオン性又は非イオン性又は両性ポリマー、及び色素を含めた1つ又は複数の従来の化粧品用又は皮膚科学的添加剤又は補助剤を含有してもよい。
食物:現在の市場は、ω−3及び/又はω−6脂肪酸(特にLA、GLA、ARA、EPA、DPA及びDHA)を取り入れた広範な種類の食品及び飼料製品を抱えている。本明細書に記載される酵母バイオマス、部分的に精製されたバイオマス、精製油、及び/又は精製EPAは、食製品中で現在の配合物の健康上の利益を付与する機能を果たし得ることが企図される。
食製品としては、限定はされないが、食品類似物、飲料、肉製品、穀物製品、ベーカリー食品、スナック食品及び乳製品を挙げることができる。
食品類似物は、当業者に周知の方法を用いて作製され得る。肉類似物、チーズ類似物、乳類似物などを挙げることができる。大豆から作製される肉類似物は、大豆タンパク質又は豆腐、及び共に混合される他の成分を含んで様々な種類の肉を擬製する。これらの肉代替物は、冷凍、缶詰又は乾燥食品として販売される。通常、肉代替物は、それが代わりをする食品と同じ方法で使用され得る。肉類似物の例としては、限定はされないが、ハム類似物、ソーセージ類似物、ベーコン類似物などが挙げられる。
食品類似物は、その機能上及び組成上の特性に応じて模造物又は代用物として分類することができる。例えば、模造チーズは、それが代わりとなるよう設計されるチーズに似ているだけでよい。しかしながら、製品が代わりをするチーズと栄養的に等価であり、且つ当該のチーズについての最小限の組成要件を満たす場合に限り、その製品は概して代用チーズと称され得る。従って、代用チーズは、多くの場合に模造チーズより高いタンパク質レベルを有し、ビタミン及びミネラルが補強されている。
乳類似体又はノンデイリー食製品としては、限定はされないが、模造ミルク及びノンデイリー冷菓(例えば、大豆及び/又は大豆タンパク質製品から作られるもの)が挙げられる。
肉製品は、幅広い種類の製品を包含する。米国では「肉」は、ウシ、ブタ及びヒツジから生産される「赤身肉」を含む。赤身肉に加え、ニワトリ、シチメンチョウ、ガチョウ、ホロホロチョウ、アヒルを含む家禽品目及び魚介類がある。広範な種類の調味肉及び加工肉製品がある:生、塩漬けしてフライしたもの、及び塩漬けして調理したもの。ソーセージ及びホットドッグが加工肉製品の例である。従って、用語「肉製品」は本明細書で使用されるとき、限定はされないが、加工肉製品を含む。
穀物食製品は、穀物粒の加工から得られる食製品である。穀物粒は、食用の穀粒(種子)を産出する草科の任意の植物を含む。最も一般的な穀粒は、大麦、トウモロコシ、キビ、オート麦、キノア、米、ライ麦、モロコシ、ライ小麦、小麦及び野生米である。穀物食製品の例としては、限定はされないが、全粒、粉砕粒、粗粒、穀粉、ふすま、胚芽、朝食用シリアル、押出し食品、パスタなどが挙げられる。
ベーカリー品目製品は、上記に挙げた穀物食製品であって、焼き上げられた、又は焼上げと同等の方法で加工された、すなわち熱に供することにより乾燥若しくは硬化させた穀物食品のいずれかを含む。ベーカリー品目製品の例としては、限定はされないが、パン、ケーキ、ドーナツ、バー、パスタ、パン粉、焼き上げたスナック食品、ミニビスケット、ミニクラッカー、ミニクッキー、及びミニプレッツェルが挙げられる。上述したとおり、組換えEPA産生宿主細胞由来の油を成分として使用することができる。
スナック食製品は、上記又は下記の食製品のいずれかを含む。
フライド食製品は、フライされている上記又は下記の食製品のいずれかを含む。
飲料は液体又は乾燥粉末形態であり得る。例えば、非炭酸飲料;生の、冷凍の、缶入りの又は濃縮されたフルーツジュース;風味付き又は風味付けされていない乳飲料等を挙げることができる。成人用及び乳児用の栄養配合物は当該技術分野において周知されており、市販されている(例えば、Ross Products Division,Abbott LaboratoriesからのSimilac(登録商標)、Ensure(登録商標)、Jevity(登録商標)、及びAlimentum(登録商標))。
乳製品は、乳に由来する製品である。乳類似物又はノンデイリー製品は、上記で考察したとおり乳以外の原料、例えば豆乳に由来する。これらの製品としては、限定はされないが:全乳、脱脂乳、発酵乳製品、例えば、ヨーグルト又は酸乳、クリーム、バター、練乳、粉ミルク、コーヒーホワイトナー、コーヒークリーマー、アイスクリーム、チーズ等が挙げられる。
ヤロウイア属(Yarrowia)バイオマス、部分的に精製されたバイオマス、精製油、及び/又は精製EPAを含めることのできるさらなる食製品は、例えば、チューイングガム、糖菓及び糖衣菓、ゼラチン及びプディング、ハード及びソフトキャンデー、ジャム及びゼリー、精製グラニュー糖、砂糖代用品、加糖のソース、トッピング及びシロップ、並びにドライブレンドされた粉末ミックスである。
人工栄養乳:人工栄養乳は、乳児及び幼児に与えられる液体又は再構成粉末である。「人工栄養乳」は、本明細書では、乳児の哺乳においてヒト母乳に代用することのできる腸内栄養製品として定義され、典型的には水溶液中に所望の割合の炭水化物及びタンパク質と混合された所望の割合の脂肪から構成される(例えば、米国特許第4,670,285号明細書を参照のこと)。全世界的な組成研究、並びに専門家集団により規定されるレベルに基づけば、平均ヒト母乳は、典型的には約0.20%〜0.40%の全脂肪酸を含み(脂肪からのカロリーが約50%であると仮定);及び、概してDHA対ARA比は約1:1〜1:2の範囲であり得る(例えば、Enfamil LIPIL(商標)[Mead Johnson & Company]及びSimilac Advance(商標)[Ross Products Division,Abbott Laboratories]の配合を参照のこと)。人工栄養乳は、多くの場合に乳児にとって唯一の栄養源であるため、乳児の食事において果たすべき特定の役割を有する。乳児にとって母乳による授乳がなお最良の栄養であるが、人工栄養乳はそれにほぼ匹敵する、赤ん坊が生存できるのみならず発育する次善のものである。
健康食製品及び医薬品:本バイオマス、部分的に精製されたバイオマス、精製油、及び/又は精製EPAは、機能性食品、医療用食品、医療用栄養剤及び食事サプリメントを含む健康食製品において健康上の利益を付与するために配合物中に使用されてもよい。加えて、ヤロウイア属(Yarrowia)バイオマス、部分的に精製されたバイオマス、精製油、及び/又は精製EPAは、標準的な医薬組成物に使用されてもよい。本ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)改変株又はそれから産生されるEPAを含む微生物油は、上述の食製品のいずれにも容易に組み込むことができ、それにより例えば機能性食品又は医療用食品がもたらされる。例えば、EPAを含むより高濃縮の配合物としては、ヒト又はヒト以外の動物において食事サプリメントとして使用することのできるカプセル、粉末、錠剤、ソフトカプセル、ジェルキャップ、濃縮液及び乳剤が挙げられる。
動物飼料製品:動物飼料は、本明細書では、ヒト以外の動物用の飼料としての使用又は飼料中への混合が意図される製品として一般的に定義される。本明細書に記載されるヤロウイア属(Yarrowia)バイオマス、部分的に精製されたバイオマス、精製油、及び/又は精製EPAは、様々な動物飼料中の成分として使用することができる。
より具体的には、限定として解釈されてはならないが、組換えヤロウイア属(Yarrowia)宿主細胞由来のEPA産物は、ペット用食製品、反芻動物用及び家禽用食製品並びに水産養殖用食製品中に使用され得ることが予想される。ペット用食製品は、イヌ、ネコ、鳥類、爬虫類、げっ歯類などのペットに給餌されるよう意図された製品である。これらの製品は、上記の穀物及び健康食製品、並びに肉及び肉副製品、大豆タンパク質製品、牧草及び乾草製品(アルファルファ、チモシー、オート麦又はブロムグラスなど)並びに野菜を含むことができる。反芻動物用及び家禽用食製品は、その製品が、例えばシチメンチョウ、ニワトリ、ウシ及びブタに給餌されるよう意図される場合の食製品である。上記のペット用食品と同様に、これらの製品は、上記に列挙したとおりの穀物及び健康食製品、大豆タンパク質製品、肉及び肉副製品、並びに牧草及び乾草製品を含み得る。水産養殖用食製品(又は「海洋飼料」)は、淡水又は海水中の水生生物及び/又は動物の繁殖、培養又は養殖に関する水産養殖での使用が意図される製品である。
高濃度のEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の本改変株は、多くの動物飼料配合物中に含めることが特に有用であろうと考えられる。必要なω−3 PUFAを提供することに加え、酵母それ自体が、動物の全般的な健康及び栄養に寄与し、且つ配合物の食味を向上させ得るタンパク質及び他の栄養(例えば、ビタミン、ミネラル、核酸、複合炭水化物等)の有用な供給源である。従って、組換えヤロウイア属(Yarrowia)産生宿主を含む酵母バイオマスの添加は、動物飼料配合物中の優れた追加的な飼料栄養源となるであろうことが企図される(さらなる詳細については米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書を参照のこと)。
次に、高濃度のEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の本改変株は、多くの水産養殖飼料中に含めることが特に有用であろうことは明らかである。必要なω−3及び/又はω−6 PUFAを提供することに加え、酵母それ自体が、配合物の美味性を向上させ得る有用なタンパク質源である。代替的実施形態では、本Y.リポリティカ(Y.lipolytica)株により産生される油は、細胞マスからの抽出及び精製後、水産養殖飼料配合物中に直接添加することができる。
EPAがそれ自体として重要なω−3脂肪酸であるという認識が高まっている。結果として、本明細書では、本明細書に記載される組換えヤロウイア属(Yarrowia)産生宿主のEPA濃縮油が、様々な治療用途、例えば、炎症、心血管疾患、遺伝子発現の栄養制御及び異常脂質血症において、具体的には、冠動脈心疾患、高血圧、炎症性障害、II型糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、神経性食欲不振症、熱傷、変形性関節症、骨粗鬆症、うつ病、及び注意欠陥傷害/多動性障害を含む臨床病態の治療において極めて広範囲にわたる有用性を有し得ることが予想される。
米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書は、EPAと炎症、EPAと心血管疾患、ω−3 PUFAと遺伝子発現の栄養制御、及びω−3 PUFAと異常脂質血症に関するさらなるヒト臨床試験について記載しており、当該明細書中で参照されるべきである。最近になって、110人の健常対象者において無作為二重盲検プラセボ対照試験が実施され、ここで対象者には、心血管疾患リスク要因、有害イベント及び安全性パラメータに対する油の効果を評価する手段として、以下のうちの1つが6週間にわたり与えられた:600mg/日のEPA、1800mg/日のEPA、600mg/日のDHA又はオリーブ油(プラセボ)(Gillies,P.、「The New Science of Omega−3 Fatty Acids:Differential Nutritional Pharmacology」 Texas Human Nutrition Conference、Texas A&M University、2010年2月。600mgEPA/日を補給することにより、既に正常範囲にある健康なコレステロール値が維持されることが分かった。注目すべきことに、この試験のEPA油はヤロウイア・リポリティカ(Yarrowa lipolytica)の改変株に由来した。
本発明は、以下の実施例においてさらに定義される。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものではあるが、あくまでも例示として提供されるに過ぎないことは理解されなければならない。上記の考察及びこれらの実施例から、当業者は本発明の本質的な特徴を確認することができ、及びその趣旨及び精神から逸脱することなく本発明の様々な変更及び修正を行い、本発明を様々な利用法及び条件に適合させることができる。
一般的方法
実施例において用いられる標準的な組換えDNA及び分子クローニング技術は当該技術分野において公知であり、1)Sambrook,J.、Fritsch,E.F.及びManiatis,T、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」;Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)(Maniatis);2)T.J.Silhavy、M.L.Bennan、及びL.W.Enquist、「Experiments with Gene Fusions」;Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984年);及び、3)Ausubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、刊行元Greene Publishing Assoc.及びWiley−Interscience、Hoboken,NJ(1987年)により記載がなされている。
微生物培養物の維持及び成長に好適な材料及び方法は、当該技術分野において公知である。以下の例における使用に好適な技法は、「Manual of Methods for General Bacteriology」(Phillipp Gerhardt、R.G.E.Murray、Ralph N.Costilow、Eugene W.Nester、Willis A.Wood、Noel R.Krieg及びG.Briggs Phillips編)、American Society for Microbiology:Washington,D.C.(1994年))において;又はThomas D.Brockにより「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、第2版、Sinauer Associates:Sunderland,MA(1989年)において示されるとおり見出され得る。微生物細胞の成長及び維持に使用される全ての試薬、制限酵素及び材料は、特記されない限り、Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI)、DIFCO Laboratories(Detroit,MI)、New England Biolabs,Inc.(Beverly,MA)、GIBCO/BRL(Gaithersburg,MD)、又はSigma Chemical Company(St.Louis,MO)から得た。大腸菌(E.coli)株は、基本的にはルリア・ベルターニ[「LB」]プレートにおいて37℃で増殖した。
全般的な分子クローニングは標準方法により実施した(Sambrookら、上記)。サブクローニングにPCR又は部位特異的突然変異誘発が関わった場合、コンストラクトを配列決定し、配列にエラーが導入されていないことを確認した。PCR産物は、PromegaのpGEM−T−easyーベクター(Madison,WI)にクローニングした。
略称の意味は以下のとおりである:「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「d」は日を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「M」はモル濃度を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmole」はマイクロモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「U」は単位を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kB」はキロベースを意味し、「DCW」は乾燥細胞重量を意味し、及び「TFA」は全脂肪酸を意味する。
発現カセットの命名法
発現カセットの構造は「X::Y::Z」の単純な表記法により表され、ここではXがプロモーター断片を表し、Yが遺伝子断片を表し、及びZがターミネーター断片を表し、これらは全て、互いに作動可能に連結されている。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換及び培養
American Type Culture Collection(Rockville,MD)からヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株ATCC番号20362を購入した。ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、以下に示す配合によるいくつかの培地中、28〜30℃でルーチン的に増殖した。寒天プレートは、標準方法論に従い、各液体培地に20g/Lの寒天を添加することにより必要に応じて調製した。
YPD寒天培地(リットル当たり):10gの酵母エキス[Difco]、20gのBactoペプトン[Difco]、及び20gのグルコース。
基本最少培地[「MM」](リットル当たり):20gのグルコース、アミノ酸を含まない1.7gの酵母窒素ベース、1.0gのプロリン、及びpH6.1(調整不要)。
最少培地+ウラシル[「MM+ウラシル又はMMU」](リットル当たり):上記のMM培地を調製し、0.1gのウラシル及び0.1gのウリジンを添加する。
最少培地+ウラシル+スルホニル尿素[「MMU+SU」](リットル当たり):上記のMMU培地を調製し、280mgのスルホニル尿素を添加する。
最少培地+ウラシル+リジン[「MMUraLys」](リットル当たり):上記のMM培地を調製し、0.1gのウラシル、0.1gのウリジン及び0.1gのリジンを添加する。
最少培地+5−フルオロオロチン酸[「MM+5−FOA」](リットル当たり):20gのグルコース、6.7gの酵母窒素ベース、75mgのウラシル、75mgのウリジン及び適当量のFOA(Zymo Research Corp.、Orange,CA)、100mg/L〜1000mg/Lの濃度範囲に対するFOA活性試験に基づく(供給業者から受け取る各バッチ内でばらつきが生じるため)。
高グルコース培地[「HGM」](リットル当たり):80のグルコース、2.58gのKH2PO4及び5.36gのK2HPO4、pH7.5(調整不要)。
酵母エキス非含有発酵培地[「YE非含有FM」](リットル当たり):6.70g/Lの酵母窒素ベース、6.00gのKH2PO4、2.00gのK2HPO4、1.50gのMgSO4*7H2O、及び20gのグルコース。
発酵培地[「FM」](リットル当たり):6.70g/Lの酵母窒素ベース、6.00gのKH2PO4、2.00gのK2HPO4、1.50gのMgSO4*7H2O、20gのグルコース及び5.00gの酵母エキス(BBL)。
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)の形質転換は、本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に記載されるとおり実施した。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の脂肪酸分析
脂肪酸[「FA」]分析のため、Bligh,E.G.及びDyer,W.J.(Can.J.Biochem.Physiol.,37:911〜917頁(1959年))に記載されるとおり遠心により細胞を回収し、脂質を抽出した。脂質抽出物のナトリウムメトキシドとのエステル交換反応により脂肪酸メチルエステル[「FAME」]を調製し(Roughan,G.、及びNishida I.、Arch Biochem Biophys.、276(1):38〜46頁(1990年))、続いて30m×0.25mm(内径)HP−INNOWAX(Hewlett−Packard)カラムを装着したHewlett−Packard 6890 GCにより分析した。オーブン温度は、3.5℃/分で170℃(25分間維持)から185℃とした。
直接的な塩基エステル交換反応のため、ヤロウイア属(Yarrowia)細胞(0.5mL培養物)を回収し、蒸留水で1回洗浄し、Speed−Vacにおいて5〜10分間真空乾燥した。ナトリウムメトキシド(1%の100μl)及び既知量のC15:0トリアシルグリセロール(C15:0 TAG;カタログ番号T−145、Nu−Check Prep、Elysian,MN)を試料に添加し、次に試料をボルテックスにかけ、50℃で30分間揺動させた。3滴の1M NaCl及び400μlヘキサンを添加した後、試料をボルテックスにかけ、回転させた。上層を取り出し、GCにより分析した。
GC分析によって記録されたFAMEピークを、既知の脂肪酸と比較したときのその滞留時間により特定し、FAMEピーク面積について既知量の内部標準(C15:0 TAG)と比較することにより定量化した。従って、任意の脂肪酸FAMEの近似量(μg)[「μg FAME」]は式:(特定の脂肪酸についてのFAMEピーク面積/標準FAMEピーク面積)*(標準C15:0 TAGのμg)により計算され、一方、C15:0 TAGの1μgは0.9503μgの脂肪酸に等しいため、任意の脂肪酸の量(μg)[「μg FA」]は式:(特定の脂肪酸についてのFAMEピーク面積/標準FAMEピーク面積)*(標準C15:0 TAGのμg)*0.9503により計算される。0.9503の変換係数は、0.95〜0.96の範囲をとる多くの脂肪酸について決定される値の近似であることに留意されたい。
各個別の脂肪酸の量をTFAの重量パーセントとして要約する脂質プロファイルを、個別のFAMEピーク面積を全てのFAMEピーク面積の合計で除して100を乗じることにより決定した。
フラスコアッセイによるヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中の全脂質含量及び組成の分析
特定のY.リポリティカ(Y.lipolytica)株中の全脂質含量及び組成を詳細に分析するため、以下のとおりフラスコアッセイを実施した。具体的には、新しく画線した細胞の1つのループを3mLのFM培地に接種し、250rpm及び30℃で一晩増殖した。OD600nmを計測し、125mLフラスコ内の25mLのFM培地に0.3の最終OD600nmまで細胞のアリコートを添加した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で2日後、遠心により6mLの培養物を回収し、125mLフラスコ内の25mLのHGM中に再懸濁した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で5日後、1mLのアリコートを用いて脂肪酸分析(上記)を行い、及び10mLを乾燥させて乾燥細胞重量[「DCW」]を決定した。
DCWを決定するため、Beckman GS−6R遠心分離機のBeckman GH−3.8ロータにおいて4000rpmで5分間遠心することにより、10mLの培養物を回収した。ペレットを25mLの水中に再懸濁し、再度上記のとおりに回収した。洗浄したペレットを20mLの水中に再懸濁し、予め秤量したアルミニウム皿に移した。細胞懸濁液を真空オーブンにおいて80℃で一晩乾燥させた。細胞の重量を決定した。
細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]を計算し、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]、及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を表にまとめたデータと併せて検討する。フラスコアッセイからのデータは、細胞の全乾燥細胞重量[「DCW」]、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する表として提供する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA、EPA及びその他として特定され得る。
実施例1
全脂肪酸の約46%のDGLAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)L135株(Ura3+、Leu−、Δpex3)の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来する、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現により全脂質に対して約46%のDGLAを産生する能力を有するL135株の構築について記載する。
要約すれば、図2に図解されるとおり、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362から、Y2224株(野生型ヤロウイア属(Yarrowia)株ATCC番号20362のUra3遺伝子の自律的突然変異によるFOA耐性突然変異体)、Y4001株(17%EDAを産生、Leu−表現型)、Y4001U1株(Leu−及びUra−)、Y4036株(18%DGLAを産生、Leu−表現型)及びY4036U株(Leu−及びUra−)の構築を介してL135株を誘導した。Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株及びY4036U株の構築に関するさらなる詳細は、本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2008−0254191号明細書の一般的方法に記載されている。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY4036U株の最終的な遺伝子型は、Ura3−、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCTであった(ここでFmD12はフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼ遺伝子[米国特許第7,504,259号明細書]であり;ME3Sはモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)に由来するコドン最適化C16/18エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,470,532号明細書]であり;EgD9eはユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,645,604号明細書]であり;EgD9eSはユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来するコドン最適化Δ9エロンガーゼ遺伝子[米国特許第7,645,604号明細書]であり;EgD8Mは合成突然変異Δ8デサチュラーゼ[米国特許第7,709,239号明細書]であって、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来するもの[米国特許第7,256,033号明細書]である)。
Pex3の染色体欠失を有するL135株の生成
L135株の構築については、本明細書によって参照により本明細書に援用される国際公開第2009/046248号パンフレットの実施例12に記載されている。要約すれば、コンストラクトpY157を使用して、Y4036U株においてペルオキシソーム生合成因子3タンパク質[ペルオキシソーム形成タンパク質ペルオキシン3又は「Pex3p」]をコードする染色体遺伝子をノックアウトし、それによりL135株(Y4036株(Δpex3)とも称される)を産生した。L135株における染色体Pex3遺伝子のノックアウトは、Y4036株(その天然Pex3pがノックアウトされていない)と比較して以下をもたらした:より高い脂質含量(TFA % DCW)(約6.0%、対4.7%)、より高いDGLA % TFA(46%、対19%)、より高いDGLA % DCW(約2.8%、対0.9%)及びLA % TFAの低下(12%、対30%)。加えて、Δ9エロンガーゼ変換効率が、Y4036株における約48%からL135株における83%に増加した。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するL135株の最終的な遺伝子型は、Ura3+、Leu−、Pex3−、未知1−、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCTであった。
実施例2
全脂肪酸[「TFA」]の約18%〜約41%のARAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来する、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現により全脂質に対して約41%のARAを産生する能力を有するY8006株の構築について記載する。
Y8006株(図2)を生じさせるには、Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株、Y4036U株及びL135株(実施例1に記載される)の構築、並びにL135U9株及びY8002株の構築が必要であった。
L135U9(Leu−、Ura3−)株の生成
L135株中のプラスミドpY116(図3;配列番号127;本明細書によって参照により本明細書に援用される国際公開第2008/073367号パンフレットの実施例7に記載される)においてCreリコンビナーゼ酵素を一時的に発現させることによりL135U株を作成し、Leu−及びUra−表現型を産生した。プラスミドpY116を使用して、新しく増殖したL135細胞の形質転換を一般的方法に従い行った。形質転換体細胞をMMLeuUraに播種し、30℃で3〜4日間維持した。3つのコロニーを選び取り、30℃の3mLの液体YPD培地に接種して250rpm/分で1日間振盪した。培養物を液体MMLeuUra培地で1:50,000希釈し、100μLを新しいYPD培地に播種して30℃で2日間維持した。3つのプレートの各々から8つのコロニーを選び取り(合計24コロニー)、MMLeu及びMMLeuUra選択プレート上に画線した。MMLeuUraプレートで増殖でき、しかしMMLeuプレートでは増殖できなかったコロニーを選択し、GCにより分析してC20:2(EDA)の存在について確認した。Leu−及びUra−表現型を有する1つの株をL135U9と命名した。
TFAの約32%のARAを産生するY8002株の生成
コンストラクトpZKSL−5S5A5(図4A;配列番号128)を生成して3つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子をL135U9株のLys遺伝子座に組み込み、それによりARAの産生を可能にした。pZKSL−5S5A5プラスミドは以下の成分を含んだ。
Figure 2012529913
pZKSL−5S5A5プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるL135U9株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMUraLysプレートに播種し、30℃で2〜3日間維持した。次に単一コロニーをMMUraLysプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMUraLysに接種して250rpm/分で2日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZKSL−5S5A5の3つのキメラ遺伝子を含む形質転換体にはARAが存在し、しかし親L135U9株には存在しないことが示された。TFAの約32.2%、32.9%、34.4%、32.1%及び38.6%のARAを産生した5個の株(すなわち、#28、#62、#73、#84及び#95)を、それぞれY8000株、Y8001株、Y8002株、Y8003株及びY8004株と命名した。さらなる分析により、pZKSL−5S5A5の3つのキメラ遺伝子がY8000株、Y8001株、Y8002株、Y8003株及びY8004株のLys5部位に組み込まれなかったことが示された。全ての株がLys+表現型を有した。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8000株、Y8001株、Y8002株、Y8003株及びY8004株の最終的な遺伝子型は、Ura−、Pex3−、未知1−、未知2−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Octであった。
TFAの約41%のARAを産生するY8006株の生成
コンストラクトpZP3−Pa777U(図4B;配列番号129;本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表9に記載される)を生成して3つのΔ17デサチュラーゼ遺伝子をY8002株のPox3遺伝子座(GenBank受託番号AJ001301)に組み込んだ。
pZP3−Pa777UプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8002株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で2〜3日間維持した。次に単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZP3−Pa777Uの3つのキメラ遺伝子を含む選択された96個の形質転換体のほとんどにTFAの26%〜31%のEPAが存在し、しかし親Y8002株には存在しないことが示された。株#69はTFAの約38%のEPAを産生し、Y8007と命名した。EPAを産生せず、しかしTFAの約41%のARAを産生した株が1つあった(すなわち、株#9)。この株はY8006と命名した。Y8006株におけるEPA産生の欠如に基づき、野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するその遺伝子型は、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、Leu+、Lys+、Ura+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Octであると推定された。
対照的に、野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8007株の最終的な遺伝子型は、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、Leu+、Lys+、Ura+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Acoであった(ここでPaD17は、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼ[米国特許第7,556,949号明細書]であり、PaD17Sは、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)由来のコドン最適化Δ17デサチュラーゼである[米国特許第7,556,949号明細書]。
Y8006株及びY8007株におけるPox3遺伝子座(GenBank受託番号AJ001301)へのpZP3−Pa777Uの3つのキメラ遺伝子の組込みは確認されなかった。
実施例3
全脂肪酸[「TFA」]の約24%〜約56%のEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来する、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現により全脂質に対して約56%のEPAを産生する能力を有するY8412株の構築について記載する。
Y8412株(図2)を生じさせるには、Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株、Y4036U株及びL135株(実施例1に記載される)、L135U9株及びY8002株(実施例2に記載される)、並びにY8006U6株、Y8069株、Y8069U株、Y8154株、Y8154U株、Y8269株及びY8269U株の構築が必要であった。
Y8006U6(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用してUra3突然変異遺伝子をY8006株のUra3遺伝子に組み込んだ。
プラスミドpZKUMをSalI/PacIで消化し、次に一般的方法によるY8006株の形質転換に使用した。形質転換後、細胞をMM+5−FOA選択プレートに播種し、30℃で2〜3日間維持した。
MM+5−FOAプレート上で成長した合計8個の形質転換体を選び取り、MMプレート及びMM+5−FOAプレートに別個に再度画線した。8株全てがUra−表現型を有した(すなわち、細胞はMM+5−FOAプレート上では増殖できたが、MMプレート上では増殖できなかった)。細胞をMM+5−FOAプレートから剥がし取り、一般的方法により脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#1、#2、#4、#5、#6及び#7に、それぞれ22.9%、25.5%、23.6%、21.6%、21.6%及び25%のARAが存在することが示された。これらの6個の株は、それぞれY8006U1株、Y8006U2株、Y8006U3株、Y8006U4株、Y8006U5株及びY8006U6株(まとめて、Y8006U株)と命名した。
TFAの約37.5%のEPAを産生するY8069株の生成
コンストラクトpZP3−Pa777U(図4B;配列番号129;本明細書によって参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表9に記載される)を使用して3つのΔ17デサチュラーゼ遺伝子をY8006U6株のPox3遺伝子座(GenBank受託番号AJ001301)に組み込んだ。
pZP3−Pa777UプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8006U6株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で2〜3日間維持した。次に単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZP3−Pa777Uの3つのキメラ遺伝子を含む形質転換体にEPAが存在し、しかし親Y8006U6株には存在しないことが示された。選択した24個の株のほとんどが、TFAの24〜37%のEPAを産生した。TFAの37.5%、43.7%、37.9%及び37.5%のEPAを産生した4つの株(すなわち、#1、#6、#11及び#14)を、それぞれY8066、Y8067、Y8068及びY8069と命名した。pZP3−Pa777Uの3つのキメラ遺伝子の、Y8066株、Y8067株、Y8068株及びY8069株のPox3遺伝子座(GenBank受託番号AJ001301)への組込みは確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8066株、Y8067株、Y8068株及びY8069株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Acoであった。
Y8069U株(Ura3−)の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(上記)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8069株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計3個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、MM+5−FOAプレート上で成長したpZKUM形質転換体株#1、#2及び#3に、それぞれ22.4%、21.9%及び21.5%のEPAが存在することが示された。これらの3個の株を、それぞれY8069U1株、Y8069U2株、及びY8069U3株(まとめて、Y8069U株)と命名した。
TFAの約44.8%のEPAを産生するY8154株の生成
コンストラクトpZKL2−5mB89C(図5B;配列番号131)を生成して1つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子、1つのΔ9エロンガーゼ遺伝子、1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、及び1つのヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(CPT1)をY8069U3株のLip2遺伝子座(GenBank受託番号AJ012632)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。pZKL2−5mB89Cプラスミドは以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
pZKL2−5mB89CプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8069U3株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、選択した96個の株のほとんどがTFAの約38〜44%のEPAを産生したことが示された。TFAの約44.7%、45.2%、45.4%、44.8%、46.1%、48.6%及び45.9%のEPAを産出した7個の株(すなわち、#1、#39、#49、#62、#70、#85及び#92)を、それぞれY8151株、Y8152株、Y8153株、Y8154株、Y8155株、Y8156株及びY8157株と命名した。これらのEPA株においてLip2遺伝子のノックアウトは確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8151株、Y8152株、Y8153株、Y8154株、Y8155株、Y8156株及びY8157株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAIN::EgD5SM::Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Acoであった。
Y8154U1(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(上記)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8154株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#7においてTFAの23.1%のEPAがあったことが示された。この株をY8154U1株と命名した。
TFAの約45.3%のEPAを産生するY8269株の生成
コンストラクトpZKL1−2SR9G85(図6A;配列番号132)を生成して1つのDGLAシンターゼ、1つのΔ12デサチュラーゼ遺伝子及び1つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子をY8154U1株のLip1遺伝子座(GenBank受託番号Z50020)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。DGLAシンターゼは、Δ8デサチュラーゼに連結されたΔ9エロンガーゼを含むマルチザイムである。
pZKL1−2SR9G85プラスミドは以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
pZKL1−2SR9G85プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8154U1株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、選択した96個の株のほとんどが全脂質の40〜44.5%のEPAを産生したことが示された。TFAの約44.8%、45.3%、47%、44.6%及び44.7%のEPAを産生した5個の株(すなわち、#44、#46、#47、#66及び#87)を、それぞれY8268、Y8269、Y8270、Y8271及びY8272と命名した。Lip1遺伝子座(GenBank受託番号Z50020)のノックアウトは、これらのEPA株では確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8268株、Y8269株、Y8270株、Y8271株及びY8272株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、YAT1::ME3S::Pex16、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAIN::EgD5SM::Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Acoであった。
Y8269U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(上記)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8269株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#2、#3及び#5において、それぞれTFAの23.0%、23.1%及び24.2%のEPAがあったことが示された。これらの株を、それぞれY8269U1株、Y8269U2株及びY8269U3株(まとめて、Y8269U株)と命名した。
TFAの約51.2%のEPA及び55.8%のEPAを産生するY8406株及びY8412株の生成
コンストラクトpZSCP−Ma83(図6B;配列番号133)を生成して1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、1つのC16/18エロンガーゼ遺伝子及び1つのマロニルCoAシンテターゼ遺伝子をY8269U1株のSCP2遺伝子座(GenBank受託番号XM_503410)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。pZSCP−Ma83プラスミドは以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
pZSCP−Ma83プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8269U1株、Y8269U2株及びY8269U3株の別個の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
各pZSCP−Ma83形質転換(すなわち、Y8269U1、Y8269U2及びY8269U3)により得られた合計96個の株をGCにより分析した。選択した288個の株のほとんどがTFAの43〜47%のEPAを産生した。TFAの約51.3%、47.9%、50.8%、48%、47.8%、47.8%及び47.8%のEPAを産生した7個のY8269U1のpZSCP−Ma83による形質転換株(すなわち、#59、#61、#65、#67、#70、#81及び#94)を、それぞれY8404株、Y8405株、Y8406株、Y8407株、Y8408株、Y8409株及びY8410株と命名した。TFAの約48.8%、50.8%、及び49.3%のEPAを産生したこれらのY8269U2のpZSCP−Ma83による形質転換株(すなわち、#4、#13及び#17)を、それぞれY8411、Y8412及びY8413と命名した。さらに、TFAの約49.3%及び53.5%のEPAを産生した2個のY8269U3のpZSCP−Ma83による形質転換株(すなわち、#2及び#16)を、それぞれY8414及びY8415と命名した。
Y8404株、Y8405株、Y8406株、Y8407株、Y8408株、Y8409株、Y8410株、Y8411株、Y8412株、Y8413株、Y8414株及びY8415株におけるSCP2遺伝子座(GenBank受託番号XM_503410)のノックアウトは、pZSCP−Ma83による形質転換によって産生されたこれらのEPA株のいずれにおいても確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8404株、Y8405株、Y8406株、Y8407株、Y8408株、Y8409株、Y8410株、Y8411株、Y8412株、Y8413株、Y8414株及びY8415株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、未知7−、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::ME3S::Pex20、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、GPD::EaD8S::Pex16、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAIN::EgD5SM::Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Aco、YAT1::MCS::Lip1であった。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株は2009年5月14日にAmerican Type Culture Collectionに寄託され、指定番号ATCC PTA−10025を有する。ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8412株は2009年5月14日にAmerican Type Culture Collectionに寄託され、指定番号ATCC PTA−10026を有する。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y8404株、Y8405株、Y8406株、Y8407株、Y8408株、Y8409株、Y8410株、Y8411株、Y8412株、Y8413株、Y8414株及びY8415株のYPDプレートからの細胞を増殖し、一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。表10は、細胞の全乾燥細胞重量[「DCW」]、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA、EPA及びその他として特定され得る。
Figure 2012529913
実施例4
37.6%の全脂質含量で全脂肪酸[「TFA」]の約53.6%のEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8647株の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来する、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現により37.6%の全脂質含量[「TFA % DCW」]で全脂質に対して約53.6%のEPAを産生する能力を有するY8647株の構築について記載する。Y8647株(図2)を生じさせるには、Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株、Y4036U株及びL135株(実施例1に記載される)、L135U9株及びY8002株(実施例2に記載される)、Y8006U6株、Y8069株、Y8069U株、Y8154株、Y8154U株、Y8269株及びY8269U株(実施例3に記載される)、並びにY8412U6株の構築が必要であった。
Y8412U6(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8412株(実施例3)のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#4及び#6において、それぞれTFAの25.9%及び26.9%のEPAがあったことが示された。これらの2個の株を、それぞれY8412U6株及びY8412U8株(まとめて、Y8412U株)と命名した。
Y8647株の生成
コンストラクトpZKL4−398F2(図7A;配列番号134)を生成して1つのC16/18エロンガーゼ遺伝子、1つのDGLAシンターゼ、及び1つのΔ12デサチュラーゼ遺伝子をY8412U6株のヤロウイア属(Yarrowia)リパーゼ様遺伝子座(Lip4と命名される、GenBank受託番号XM_503825)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。pZKL4−398F2プラスミドは以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
pZKL4−398F2プラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8412U6株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、選択した96個の形質転換体株のほとんどがTFAの50〜52.7%のEPAを産生したことが示された。TFAの約52.8%、53.1%、52.8%、53.2%、53.1%、52.8%、及び52.9%のEPAを産生した7個の株(すなわち、#31、#35、#38、#41、#60、#61及び#95)を、それぞれY8646、Y8647、Y8648、Y8649、Y8650、Y8651及びY8652と命名した。
これらのEPA株におけるLip4遺伝子座(GenBank受託番号XM_503825)のノックアウトは確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8646株、Y8647株、Y8648株、Y8649株、Y8650株、Y8651株及びY8652株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、未知7−、未知8−、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::ME3S::Pex20、YAT1::ME3S::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、GPD::EaD8S::Pex16、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、FBAINm::EaD9eS/EaD8S::Lip2、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、GPDIN::FmD12::Pex16、EXP1::EgD5M::Pex16、FBAIN::EgD5SM:Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Aco、YAT1::MCS::Lip1であった。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y8647株、Y8648株、Y8649株及びY8650株のYPDプレートからの細胞を増殖し、一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。表12は、細胞の全乾燥細胞重量[「DCW」]、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する。脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA、EPA及びその他として特定される。
Figure 2012529913
実施例5
39.6%の全脂質含量で全脂肪酸[「TFA」]の約54.5%のEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y9028株の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来する、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現により39.6%の全脂質含量[「TFA % DCW」]で全脂質に対して約54.5%のEPAを産生する能力を有するY9028株の構築について記載する。Y9028株(図2)を生じさせるには、Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株、Y4036U株及びL135株(実施例1に記載される)、L135U9株及びY8002株(実施例2に記載される)、Y8006U6株、Y8069株、Y8069U株、Y8154株、Y8154U株、Y8269株及びY8269U株(実施例3に記載される)、Y8412U6株及びY8647株(実施例4に記載される)、並びにY8467U株の構築が必要であった。
Y8647U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8647株(実施例4)のUra3遺伝子に組み込んだ。合計12個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#1、#3、#4及び#12において、それぞれTFAの30.2%、29.2%、28.1%及び29.9%のEPAがあったことが示された。これらの4個の株を、それぞれY8647U1株、Y8647U2株、Y8647U3株、及びY8647U6株(まとめて、Y8647U株)と命名した。
株Y9028の生成
コンストラクトpZP2−85m98F(図7B;配列番号135)を生成して1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、1つのDGLAシンターゼ及び1つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子を、Y8647U3株のヤロウイア属(Yarrowia)Pox2遺伝子座(GenBank受託番号AJ001300)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。pZP2−85m98Fプラスミドは以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
pZP2−85m98FプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8647U1株、Y8647U2株、Y8647U3株及びY8647U6株の個別の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、Y8647U1のpZP2−85m98Fによる形質転換株の選択した48個のほとんどが、TFAの49〜52%のEPAを産生したことが示された。TFAの約52.6%及び52.1%のEPAを産生した2個の株(すなわち、#30及び#31)を、それぞれY9024及びY9025と命名した。
Y8647U2のpZP2−85m98Fによる形質転換株の選択した60個のほとんどが、TFAの49〜51.9%のEPAを産生した。株#6はTFAの約52%のEPAを産生し、Y9026と命名した。
Y8647U3のpZP2−85m98Fによる形質転換株の選択した60個のほとんどが、TFAの50〜52.2%のEPAを産生した。TFAの約53.2%、53.7%、54.0%、52.9%、53.4%及び52.3%のEPAを産生した6個の株(すなわち、#5、#6、#14、#15、#20及び#34)を、それぞれY9027、Y9028、Y9029、Y9030、Y9031及びY9032と命名した。
同様に、GC分析により、Y8647U6のpZP2−85m98Fによる形質転換株の選択した48個のほとんどが、TFAの50〜52.1%のEPAを産生したことが示された。TFAの約52.2%及び52.8%のEPAを産生した2個の株(すなわち、#27及び#44)を、それぞれY9033及びY9034と命名した。
Y9024株、Y9025株、Y9026株、Y9027株、Y9028株、Y9029株、Y9030株、Y9031株、Y9032株、Y9033株及びY9034株におけるPox2遺伝子座(GenBank受託番号AJ001300)のノックアウトは、pZP2−85m98Fによる形質転換によって産生されたこれらのEPA株のいずれにおいても確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するこれらの株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、未知7−、未知8−、未知9−、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::ME3S::Pex20、YAT1::ME3S::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、GPD::EaD8S::Pex16(2コピー)、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、YAT1::EgD9eS/EgD8M::Aco、FBAINm::EaD9eS/EaD8S::Lip2、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、GPDIN::FmD12::Pex16、EXP1::EgD5M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::;Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、EXP1::EgD5SM::Lip1、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Aco、YAT1::MCS::Lip1であった。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y9028株、Y9029株及びY9031株のYPDプレートからの細胞を増殖し、一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。
以下の表14は、細胞の全乾燥細胞重量[「DCW」]、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA、EPA及びその他として特定される。
Figure 2012529913
実施例6
少なくとも約35%の全脂質含量で全脂肪酸[「TFA」]の少なくとも約57%のEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y9481株及びY9502株の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来し、且つΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を発現するY9481株及びY9502株の構築について記載する。Y9481株は35%の全脂質含量[「TFA % DCW」]で全脂質に対して約60.9%のEPAを産生する能力を有し、一方Y9502株は、37.1%のTFA % DCWで全脂質に対して約57%のEPAを産生する能力を有する。
Y9481株及びY9502株(図2)を生じさせるには、Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株、Y4036U株及びL135株(実施例1に記載される)、L135U9株及びY8002株(実施例2に記載される)、Y8006U6株、Y8069株、Y8069U株、Y8154株、Y8154U株、Y8269株及びY8269U株(実施例3に記載される)、Y8412U6株及びY8647株(実施例4に記載される)、Y8467U株及びY9028株(実施例5に記載される)及びY9028U株の構築が必要であった。
Y9028U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY9028株(実施例5)のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#1、#3、#4、及び#5において、それぞれTFAの24.1%、24.9%、24.5%及び24.5%のEPAがあったことが示された。これらの4個の株を、それぞれY9028U1株、Y9028U2株、Y9028U3株、及びY9028U4株(まとめて、Y9028U株)と命名した。
組込みベクターpZK16−ML8Nの構成要素
コンストラクトpZK16−ML8N(図8A;配列番号136)を生成して1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、1つのマロニルCoAシンテターゼ遺伝子、及び1つのリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子[「LPAAT」]をY9028U2株のヤロウイア属(Yarrowia)YALI0B14795p遺伝子座(GenBank受託番号XM_500900)に組み込んだ。pZK16−ML8Nプラスミドは以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
組込みベクターpZK16−MLの構成要素
コンストラクトpZK16−ML(図8B;配列番号137)を生成して1つのマロニルCoAシンテターゼ遺伝子及び1つのリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子[「LPAAT」]をY9028U2株のヤロウイア属(Yarrowia)YALI0B14795p遺伝子座(GenBank受託番号XM_500900)に組み込んだ。pZK16−MLプラスミドの構成要素はpZK16−ML8N(上記)の構成要素と同じである;しかしながら、pZK16−ML8NのキメラYAT1::EgD8M::Pex20遺伝子はない。
Y9481株及びY9502株の生成
pZK16−ML8Nプラスミド及びpZK16−MLプラスミドを各々AscI/SphIで個別に消化し、次に一般的方法によるY9028U2株の形質転換に別個に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZK16−ML8Nを含むY9028U2株の選択した96個のほとんどがTFAの50〜55.4%のEPAを産生したことが示された。TFAの約58.1%、61.4%、56.2%、58.1%、57.5%、57.0%、55.9%、57.6%、57.8%、55.5%、57.6%、58.1%、57.1%、56.2%及び58.6%のEPAを産生した15個の株(すなわち、#8、#18、#21、#24、#29、#48、#60、#66、#68、#75、#76、#78、#90、#95及び#96)を、それぞれY9472、Y9473、Y9474、Y9475、Y9476、Y9477、Y9478、Y9479、Y9480、Y9481、Y9482、Y9483、Y9484、Y9485及びY9486と命名した。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するこれらのpZK16−ML8N形質転換体株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、未知7−、未知8−、未知9−、未知10−、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::ME3S::Pex20、YAT1::ME3S::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Pex20、GPD::EaD8S::Pex16(2コピー)、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、YAT1::EgD9eS/EgD8M::Aco、FBAINm::EaD9eS/EaD8S::Lip2、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、GPDIN::FmD12::Pex16、EXP1::EgD5M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、EXP1::EgD5SM::Lip1、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Aco、YAT1::MCS::Lip1、FBA::MCS::Lip1、YAT1::MaLPAAT1S::Pex16であった。
同様に、GC分析により、pZK16−MLを含むY9028U2株の選択した96個のほとんどがTFAの51〜55.5%のEPAを産生したことが示された。TFAの約56.5%、57.4%、56.8%、57.0%、56.4%、57.3%、58.2%、55.6%、57.8%、55.6%、57.6%、56.8%、55.8%、56.4%、56.1%及び57%のEPAを産生した16個の株(すなわち、#4、#8、#15、#16、#39、#44、#46、#63、#66、#80、#85、#86、#88、#89、#90及び#96)を、それぞれY9496、Y9497、Y9498、Y9499、Y9500、Y9501、Y9502、Y9503、Y9504、Y9505、Y9506、Y9507、Y9508、Y9509、Y9510及びY9511と命名した。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するこれらのpZK16−ML形質転換体株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、未知7−、未知8−、未知9−、未知10−、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::ME3S::Pex20、YAT1::ME3S::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、GPAT::EgD9e::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD8M::Lip1、GPD::EaD8S::Pex16(2コピー)、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、YAT1::EgD9eS/EgD8M::Aco、FBAINm::EaD9eS/EaD8S::Lip2、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、GPDIN::FmD12::Pex16、EXP1::EgD5M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、GPDIN::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、EXP1::EgD5SM::Lip1、YAT1::EaD5SM::Oct、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT::Aco、YAT1::MCS::Lip1、FBA::MCS::Lip1、YAT1::MaLPAAT1S::Pex16であった。
Y9472株、Y9473株、Y9474株、Y9475株、Y9476株、Y9477株、Y9478株、Y9479株、Y9480株、Y9481株、Y94782株、Y9483株、Y9484株、Y9485株、Y9486株、Y9496株、Y9497株、Y9498株、Y9499株、Y9500株、Y9501株、Y9502株、Y9503株、Y9504株、Y9505株、Y9506株、Y9507株、Y9508株、Y9509株、Y9510株及びY9511株におけるYALI0B14795p遺伝子座(GenBank受託番号XM_500900)のノックアウトは、pZK16−ML8N又はpZK16−MLによる形質転換によって産生されたこれらのEPA株のいずれにおいても確認されなかった。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y9477株、Y9481株、Y9486株、Y9497株、Y9502株、Y9504株、Y9508株及びY9510株のYPDプレートからの細胞を増殖し、一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。
以下の表16は、細胞の全乾燥細胞重量[「DCW」]、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA、EPA及びその他として特定される。
Figure 2012529913
実施例7
26.5%の全脂質含量で全脂肪酸[「TFA」]の約61.8%のEPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8672株の生成
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に由来する、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現により26.5%の全脂質含量[「TFA % DCW」]で全脂質に対して約61.8%のEPAを産生する能力を有するY8672株の構築について記載する。Y8672株(図9)を生じさせるには、Y2224株、Y4001株、Y4001U株、Y4036株、Y4036U株及びL135株(実施例1に記載される)、L135U9株及びY8002株(実施例2に記載される)、Y8006U6株、Y8069株、Y8069U株(実施例3に記載される)及びY8145株、Y8145U株、Y8259株、Y8259U株、Y8367株及びY8367U株の構築が必要であった。
TFAの約48.5%のEPAを産生するY8145株の生成
コンストラクトpZKL2−5m89C(図10;配列番号138)を生成して1つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子、1つのΔ9エロンガーゼ遺伝子、1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、及び1つのY.リポリティカ(Y.lipolytica)ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(CPT1)をY8069U3株(実施例3)のLip2遺伝子座(GenBank受託番号AJ012632)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。pZKL2−5m89Cプラスミドは以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
pZKL2−5m89CプラスミドをAscI/SphIで消化し、次に一般的方法によるY8069U3株の形質転換に使用した。形質転換体細胞をMMプレートに播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一コロニーをMMプレートに再度画線し、次に30℃の液体MMに接種して250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心により回収し、HGM中に再懸濁した後、250rpm/分で5日間振盪した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、選択した96個の株のほとんどがTFAの38〜44.5%のEPAを産生したことが示された。TFAの約45.1%、45.6%、45.0%及び45.6%のEPAを産生した4個の株(すなわち、#10、#50、#70及び#89)を、それぞれY8143、Y8144、Y8145及びY8146と命名した。Lip2遺伝子座(GenBank受託番号AJ012632)のノックアウトは、これらのEPA株では確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8143株、Y8144株、Y8145株及びY8146株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5SM::Pex20、YAT1::EgD5SM::Aco、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、GPD::YlCPT1::Acoであった。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y8143株、Y8144株、Y8145株及びY8146株のYPDプレートからの細胞を増殖し、一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。
Figure 2012529913
Y8145U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8145株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#5、#6及び#7において、それぞれTFAの22.5%、22.6%及び23.4%のEPAがあったことが示された。これらの3つの株を、それぞれY8145U1株、Y8145U2株及びY8145U3株(まとめて、Y8145U株)と命名した。
TFAの約53.9%EPAを産生するY8259株の生成
コンストラクトpZKL1−2SR9G85(実施例3、図6A;配列番号132)を生成して1つのDGLAシンターゼ遺伝子、1つのΔ12デサチュラーゼ遺伝子及び1つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子を、Y8145U株のLip1遺伝子座(GenBank受託番号Z50020)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。
pZKL1−2SR9G85プラスミドをAscI/SphIで消化し、次にY8154U1株のpZKL1−2SR9G85形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でY8145U1株の形質転換に使用した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、選択した96株のほとんどが全脂質の40〜44.0%のEPAを産生したことが示された。TFAの約45.2%、47%、44.4%、44.3%及び45.2%のEPAを産生した5個の株(すなわち、#7、#14、#48、#56及び#60)を、それぞれY8255、Y8256、Y8257、Y8258及びY8259と命名した。Lip1遺伝子座(GenBank受託番号Z50020)のノックアウトは、これらのEPA株では確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するこれらの株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::ACO、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1、EXP1::EgD8M::Pex16、YAT1::E389S/EgD8M::Lip1、FBAIN::EgD5SM::Pex20、YAT1::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、EXP1::EgD5M::Pex16、YAT1::EaD5SM::Oct; YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、GPD::YlCPT1::Acoであった。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8259株は、2009年5月14日にAmerican Type Culture Collectionに寄託され、指定番号ATCC PTA−10027を有する。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y8256株及びY8259株のYPDプレートからの細胞を増殖し、一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。
Figure 2012529913
Y8259U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8259株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#3においてTFAの26.6%のEPAがあったことが示された。この株をY8259U株と命名した。
TFAの約58.3%EPAを産生するY8367株の生成
コンストラクトpZP2−85m98F(実施例5、図7B;配列番号135)を生成して1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、1つのDGLAシンターゼ、及び1つのΔ5デサチュラーゼ遺伝子を、Y8259U株のヤロウイア属(Yarrowia)Pox2遺伝子座(GenBank受託番号AJ001300)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。
pZP2−85m98FプラスミドをAscI/SphIで消化し、次にY8647U3株のpZP2−85m98F形質転換についての記載(実施例5)と同様の方法によるY8259U株の形質転換に使用した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZP2−85m98Fを含むY8259U株の選択した96個のほとんどがTFAの41〜46%のEPAを産生したことが示された。TFAの約46.7%、46.5%、47.4%及び46.9%のEPAを産生した4個の株(すなわち、#26、#33、#77及び#81)を、それぞれY8367、Y8368、Y8369及びY8370と命名した。Pox2遺伝子座(GenBank受託番号AJ001300)のノックアウトは、これらのEPA株では確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8367株、Y8368株、Y8369株及びY8370株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、未知7−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::ACO、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1、EXP1::EgD8M::Pex16、GPD::EaD8S::Pex16、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、YAT1::EgD9eS/EgD8M::Aco、FBAIN::EgD5SM::Pex20、YAT1::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、EXP1::EgD5M::Pex16、EXP1::EgD5SM::Lip1、YAT1::EaD5SM::Oct、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、GPD::YlCPT1::Acoであった。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y8367株、Y8368株、Y8369株及びY8370株のYPDプレートからの細胞を増殖し、一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。
Figure 2012529913
Y8367U(Ura3−)株の生成
Ura3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8367株のUra3遺伝子に組み込んだ。合計8個の形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#2、#3及び#6において、それぞれTFAの25.6%、25.5%及び25.4%のEPAがあったことが示された。これらの3つの株を、それぞれY8367U1株、Y8367U2株及びY8367U3株(まとめて、Y8367U株)と命名した。
TFAの約61.8%のEPAを産生するY8672株の生成
コンストラクトpZSCP−Ma83(実施例3、図6B;配列番号133)を生成して1つのΔ8デサチュラーゼ遺伝子、1つのC16/18エロンガーゼ遺伝子及び1つのマロニルCoAシンテターゼ遺伝子をY8637U株のSCP2遺伝子座(GenBank受託番号XM_503410)に組み込み、それによりEPAの高レベル産生を可能にした。
pZSCP−Ma83プラスミドをAscI/SphIで消化し、次にY8269U1株のpZSCP−Ma83形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でY8367U1株の形質転換に使用した。一般的方法に従い細胞を脂肪酸分析に供した。
GC分析により、pZSCP−Ma83を含むY8367U1株の選択した96個のほとんどがTFAの46〜52.5%のEPAを産生したことが示された。TFAの約53.2%、52.8%、52.7%、52.9%、53.0%、52.6%、53.1%及び52.7%のEPAを産生した8個の株(すなわち、#8、#40、#43、#44、#61、#63、#68及び#70)を、それぞれY8666、Y8667、Y8668、Y8669、Y8670、Y8671、Y8672及びY8673と命名した。SCP2遺伝子座(GenBank受託番号XM_503410)のノックアウトは、これらのEPA株では確認されなかった。
野生型ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362に対するY8666株、Y8667株、Y8668株、Y8669株、Y8670株、Y8671株、Y8672株及びY8673株の最終的な遺伝子型は、Ura+、Pex3−、未知1−、未知2−、未知3−、未知4−、未知5−、未知6−、未知7−、未知8−、Leu+、Lys+、YAT1::ME3S::Pex16、GPD::ME3S::Pex20、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、EXP1::FmD12S::ACO、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1、EXP1::EgD8M::Pex16、GPD::EaD8S::Pex16(2コピー)、YAT1::E389D9eS/EgD8M::Lip1、YAT1::EgD9eS/EgD8M::Aco、FBAIN::EgD5SM::Pex20、YAT1::EgD5SM::Aco、GPM::EgD5SM::Oct、EXP1::EgD5M::Pex16、EXP1::EgD5SM::Lip1、YAT1::EaD5SM::Oct、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、GPD::YlCPT1::Aco、YAT1::MCS::Lip1であった。
フラスコアッセイによる全脂質含量及び組成の分析
Y8666株、Y8669株、Y8679株及びY8672株のYPDプレートからの細胞を増殖し、一般的方法に従い全脂質含量及び組成について分析した。
Figure 2012529913
実施例8
種々のLPLAT ORFを含む様々な発現ベクターの構築
本実施例は、各々がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に好適なLPLAT ORFを含む一連のベクターの構築について記載する。LPLAT ORFは、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Ale1、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT1、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1及びカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCATを含んだ。実施例9は、これらのベクターをヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株に形質転換した後に得られた結果について記載する。
LPLATの起源
特許及び公開文献において様々なLPLATが同定されているが、それらの遺伝子の機能についてはこれまで直接比較されたことがない。表22は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に対して異種遺伝子をコドン最適化した後に(下記)本実施例で利用される、公開されているLPLAT(すなわち、ScAle1、ScLPAAT、MaLPAAT1及びCeLPCAT)及び本明細書で同定されるLPLATオルソログ(すなわち、YlAle1及びYlLPAAT1)を要約する。
Figure 2012529913
より具体的には、ScLPAAT(配列番号32)及びScAle1(配列番号15)タンパク質配列を問い合わせ配列として使用して、「Yeast project Genolevures」(Center for Bioinformatics、LaBRI、Talence Cedex、仏国)の公開されているY.リポリティカ(Y.lipolytica)タンパク質データベースからオルソログを同定した(Dujon,B.ら、Nature、430(6995):35〜44頁(2004年)もまた参照のこと)。ベストヒットの分析に基づき、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)由来のAle1及びLPAATオルソログが、本明細書ではそれぞれYlAle1(配列番号17)及びYlLPAAT(配列番号31)として同定される。それぞれScAle1及びScLPAATのオルソログとしてのYlAle1及びYlLPAAT1のアイデンティティについて、レシプロカルBLAST(reciprocal BLAST)を行うことによりさらに確認し、すなわち配列番号17及び31をサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)公開タンパク質データベースに対する問い合わせ配列として使用して、ベストヒットとしてそれぞれScAle1及びScLPAATを求めた。
ScAle1(配列番号15)、YlAle1(配列番号17)、ScLPAAT(配列番号32)、MaLPAAT1(配列番号29)、YlLPAAT1(配列番号31)及びCeLPCAT(配列番号25)として上記で同定されたLPLATタンパク質を、LASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(DNASTAR,Inc.、Madison,WI)のMegAlign(商標)プログラム(バージョン8.0.2)のClustal W(スロー(slow)、アキュレート(accurate)、Gonnetオプション;Thompsonら、Nucleic Acids Res.、22:4673〜4680頁(1994年))の方法を用いてアラインメントした。その結果から表23を作成し、ここでは類似性パーセントが表の上三角部分に示され、一方、分散パーセント(percent divergence)が下三角部分に示される。
Figure 2012529913
この方法により明らかにされる同一性パーセントから、LPAATポリペプチドの各々の間の最小同一性パーセント及びAle1ポリペプチドの各々の間の最小同一性パーセントを決定することが可能となった。LPAATポリペプチド間の同一性の範囲は34.0%同一性(MaLPAAT1及びYlLPAAT1)〜43.9%同一性(ScLPAAT及びYlLPAAT1)であった一方、ScAle1及びYlAle1ポリペプチド間の同一性は45%であった。
膜結合型O−アシルトランスフェラーゼ[「MBOAT」]ファミリーモチーフ:National Center for Biotechnology Information[「NCBI」]BLASTP2.2.20(タンパク質−タンパク質Basic Local Alignment Search Tool;Altschulら、Nucleic Acids Res.、25:3389〜3402頁(1997年);及びAltschulら、FEBS J.、272:5101〜5109頁(2005年))検索を、「nr」タンパク質データベース(全ての非重複GenBank CDS翻訳、Brookhaven Protein Data Bank[「PDB」]からの三次元構造に由来する配列、SWISS−PROTタンパク質配列データベースの最新の大規模な公開に含まれる配列、WGSプロジェクトからの環境試料のものを除くPIR及びPRFを含む)における真菌タンパク質に対する問い合わせ配列としてScAle1(配列番号15)を使用し、デフォルトパラメータ(期待値閾値=10;ワードサイズ=3;スコアリングパラメータ行列=BLOSUM62;ギャップコスト:存在=11、伸長=1)を使用して行うことにより、ScAle1タンパク質配列(配列番号15)のオルソログを同定した。以下のヒットが得られた。
Figure 2012529913
Figure 2012529913
表24の酵母及び真菌タンパク質配列を、DNASTARを使用してアラインメントした。Clustal Wアラインメント法を用いて多重配列アラインメント及び同一性パーセント計算を実施した(上記)。
より具体的には、Clustal Wアラインメント法を用いた多重タンパク質アラインメントのデフォルトパラメータは、以下に対応した:ギャップペナルティ=10、ギャップ長ペナルティ=0.2、ディレイディバージェント配列(Delay Divergent Seqs)(%)=30、DNAトランジションウェイト(DNA Transition Weight)=0.5、タンパク質ウェイト行列=Gonnetシリーズ、DNAウェイト行列=IUB、「スロー−アキュレート(slow−accurate)」オプション付き。得られたアラインメントを分析し、米国特許出願公開第2008−0145867−A1号明細書に特定されるとおりの、Ale1相同体についての非植物モチーフの存在又は不在を決定した。具体的にそれらとしては、M−[V/I]−[L/I]−xxK−[L/V/I]−xxxxxxDG(配列番号102)、RxKYYxxWxxx−[E/D]−[A/G]xxxxGxG−[F/Y]−xG(配列番号103)、EX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号21)及びSAxWHGxxPGYxx−[T/F]−F(配列番号104)(式中、Xは任意のアミノ酸残基をコードする)が挙げられる。配列番号104のHis残基は、タンパク質内における活性部位残基と見られることが報告されている。
アラインメントを行った33個の生物全てにおいて完全に保存されていたのは、1つのモチーフ、すなわちEX11WNX2−[T/V]−X2W(配列番号21)のみであった。他のM−[V/I]−[L/I]−xxK−[L/V/I]−xxxxxxDG(配列番号102)、RxKYYxxWxxx−[E/D]−[A/G]xxxxGxG−[F/Y]−xG(配列番号103)及びSAxWHGxxPGYxx−[T/F]−F(配列番号104)モチーフは、部分的にのみ保存されていた。従って、本方法論の目的上、これらのモチーフを適切に切断し、0ミスマッチ(すなわち、SAxWHG[配列番号20])、1ミスマッチ(すなわち、RxKYYxxW[配列番号19])、又は2ミスマッチ(すなわち、M(V/I)(L/I)xxK(LVI)[配列番号18])に適合させた。
1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ[「LPAAT」]ファミリーモチーフ:ScLPAAT(配列番号18)、MaLPAAT1(配列番号15)及びYlLPAAT1(配列番号17)を含むタンパク質アラインメントの分析から、1−アシル−sn−グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼファミリーモチーフEGTR(配列番号20)がLPAATオルソログの各々に存在することが明らかとなった。これに基づき、MaLPAAT1をLPAAT候補として同定し、これは国際公開第2004/087902号パンフレットに開示されるモルティエレラ・アルピナ(Morteriella alpina)LPAAT様タンパク質(すなわち、配列番号93及び95)とは明確に区別可能なものであった。
EGTR(配列番号20)モチーフは、国際公開第2004/087902号パンフレットではLPCAT配列中にないものの、CeLPCAT(配列番号2)に存在することは注目に値する。他の残基がLPAAT配列及びLPAAT様タンパク質のLPCAT配列を区別しているように思われる。かかる残基の一つは、EGTR(配列番号20)モチーフの伸長部であり得る。具体的には、ScLPAAT(配列番号18)、MaLPAAT1(配列番号15)及びYlLPAAT1(配列番号17)のEGTRモチーフは直後にセリン残基が続くが、CeLPCATのEGTRモチーフは直後にアスパラギン残基が続く。対照的に、国際公開第2004/087902号パンフレットの2つのLPCATは、EGTRモチーフにおいてアルギニン残基の代わりにバリンを有し、このモチーフは直後にバリン残基が続く。
コドン最適化サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1遺伝子を含むpY201の構築
「ScAle1」(配列番号14)と命名されるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ORFを、DNA2.0(Menlo Park、CA)によってヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に最適化した。コドン最適化に加え、合成遺伝子には5’Pci1及び3’Not1クローニング部位を導入した(すなわち、ScAle1S;配列番号22)。ScAle1S遺伝子のいずれの修飾によっても、コードされるタンパク質のアミノ酸配列は変化しなかった(すなわち、コドン最適化遺伝子によりコードされるタンパク質配列[すなわち、配列番号23]は、野生型タンパク質配列[すなわち、配列番号15]と同じである)。ScAle1SをpJ201(DNA2.0)にクローニングしてpJ201:ScAle1Sを得た。
ScAle1Sを含む1863bpのPci1/Not1断片をpJ201:ScAle1Sから切り取り、それを使用してpY201(配列番号139;表25;図10A)を作成した。キメラYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子を含むことに加え、pY201はまた、必要に応じて、Creリコンビナーゼ媒介組換えにより続いて除去するためのLoxP部位が隣接するY.リポリティカ(Y.lipolytica)URA3選択マーカーも含む。YAT1::ScAle1S::Lip1キメラ遺伝子及びURA3遺伝子の双方とも、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)Pox3遺伝子の5’領域及び3’領域との相同性を有する断片が隣接し、それにより二重相同組換えによる組込みが促進されるが、しかしながらY.リポリティカ(Y.lipolytica)への組込みは、通常は相同組換えなしに行われることが知られている。従って、これによりコンストラクトpY201は以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Ale1遺伝子を含むpY168の構築
「YlAle1」と命名されるヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ORF(GenBank受託番号XP_505624;配列番号16)をヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362 cDNAライブラリからPCRプライマー798及び799(それぞれ配列番号141及び142)を使用してPCR増幅した。加えて、YATプロモーターをpY201(配列番号139)からPCRプライマー800及び801(それぞれ配列番号143及び144)により増幅した。互いにいくらかの重複を有する2つのPCR産物が生じるようにプライマー対を設計したため、次にYAT1::YlAle1融合断片を、プライマー798及び801(それぞれ配列番号141及び144)並びに鋳型としての2つのPCR断片を使用して重複PCRにより増幅した。PCRは、RoboCycler Gradient 40 PCR機(Stratagene)において、製造者の推奨及びPfu Ultra(商標)High−Fidelity DNAポリメラーゼ(Stratagene、カタログ番号600380)を用いて実行した。増幅は以下のとおり実行した:95℃で4分間の初期変性、続いて95℃で30秒間の変性を30サイクル、55℃で1分間のアニーリング、及び72℃で1分間の伸長。72℃で10分間の最終伸長サイクルを実行した後、4℃で反応を終了させた。
YAT1::YlAle1融合断片を含むPCR産物をゲル精製し、ClaI/NotIで消化した。このCla1−Not1断片を、同様に消化した(それによりYAT1::ScAle1S断片を除去した)pY201にライゲートし、キメラYAT1::YlAle1::Lip1遺伝子を含むpY168(配列番号145)を生じさせた。ヤロウイア属(Yarrowia)Ale1 ORFのDNA配列をDNA配列決定によって確認した。pY168(図10B;配列番号145)中に存在する構成要素は、pY201においてYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子(図10A)である代わりにpY168ではYAT1::YlAle1::Lip1遺伝子であることを除き、pY201中に存在する構成要素と同じである。YlAle1は図10Bでは「Yl LPCAT」と表示されることに留意されたい。
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT1遺伝子を含むpY208の構築
「MaLPAAT1」(配列番号28)と命名されるモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)ORFを、DNA2.0(Menlo Park、CA)によってヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に最適化した。コドン最適化に加え、合成遺伝子には5’Pci1及び3’Not1クローニング部位を導入した(すなわち、MaLPAAT1S;配列番号35)。MaLPAAT1S遺伝子のいずれの修飾によっても、コードされるタンパク質のアミノ酸配列は変化しなかった(すなわち、コドン最適化遺伝子によりコードされるタンパク質配列[すなわち、配列番号36]は野生型タンパク質配列[すなわち、配列番号29]と同じである)。MaLPAAT1SをpJ201(DNA2.0)にクローニングしてpJ201:MaLPAAT1Sを得た。
MaLPAAT1Sを含む945bpのPci1/Not1断片をpJ201:MaLPAAT1Sから切り取り、それを使用して、pY201(配列番号139)の2つの断片との3ウェイライゲーションでpY208(配列番号146)を作成した。具体的には、MaLPAAT1断片を3530bpのSph−NotI pY201断片及び4248bpのNcoI−SphI pY201断片とライゲートしてpY208を得た。pY208(図11A;配列番号146)中に存在する構成要素は、pY201においてYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子(図10A)である代わりにpY208ではYAT1::MaLPAAT1S::Lip1遺伝子であることを除き、pY201中に存在する構成要素と同じである。
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1遺伝子を含むpY207の構築
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)由来の推定LPAAT1(本明細書では「YlLPAAT1」と命名される;配列番号30及び31)については、米国特許第7,189,559号明細書及びGenBank受託番号XP_504127に記載がなされた。このタンパク質は、「uniprot|P33333サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YDL052c SLC1脂肪酸アシルトランスフェラーゼと同様」との注釈が付けられている。
鋳型としてのヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362 cDNAライブラリ並びにPCRプライマー856及び857(それぞれ配列番号147及び148)を使用して、YlLPAAT1 ORF(配列番号30)をPCR増幅した。PCRは、pY168の合成前のYAT1::Yl Ale1融合断片の増幅についての上記の記載と同じ構成要素及び条件を用いて実行した。
YlLPAAT1 ORFを含むPCR産物をPciI及びNotIで消化し、次にpY168からの2つの断片との3ウェイライゲーションに利用した。具体的には、YlLPAAT1断片を3530bpのSph−NotI pY168断片及び4248bpのNcoI−SphI pY168断片とライゲートし、キメラYAT1::YlLPAAT1::Lip1遺伝子を含むpY207を産生した。DNA配列決定によりY.リポリティカ(Y.lipolytica)LPAAT1 ORFを確認した。pY207(図11B;配列番号149)中に存在する構成要素は、pY201においてYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子(図10A)である代わりにpY207ではキメラYAT1::YlLPAAT1::Lip1遺伝子であることを除き、pY201中に存在する構成要素と同じである。YlLPAAT1は図11Bでは「Yl LPAT1 ORF」と表示されることに留意されたい。
カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCAT遺伝子を含むpY175の構築
「CeLPCAT」と命名されるカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)ORF(配列番号24)を、GenScript Corporation(Piscataway,NJ)によりヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に最適化した。コドン最適化に加え、合成遺伝子には5’Nco1及び3’Not1クローニング部位を導入した(すなわち、CeLPCATS;配列番号26)。CeLPCATS遺伝子のいずれの修飾によっても、コードされるタンパク質のアミノ酸配列は変化しなかった(すなわち、コドン最適化遺伝子によりコードされるタンパク質配列[すなわち、配列番号27]は、野生型タンパク質配列[すなわち、配列番号25]と同じである)。
CeLPCATSを含むNco1−Not1断片を使用して、pY168(配列番号145)からの2つの断片との3ウェイライゲーションでpY175(配列番号150)を作成した。具体的には、CeLPCATSを含むNco1−Not1断片を3530bpのSph−NotI pY168断片及び4248bpのNcoI−SphI pY168断片とライゲートしてpY175を得た。pY175(図12A;配列番号150)中に存在する構成要素は、pY201においてYAT1::ScAle1S::Lip1遺伝子(図10A)である代わりにpY175ではYAT1::CeLPCATS::Lip1遺伝子であることを除き、pY201中に存在する構成要素と同じである。CeLPCATSは図12Aでは「Ce.LPCATsyn」と表示されることに留意されたい。
実施例9
EPA産生ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株における種々のLPLATの機能に関する特性決定
EPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株を使用して、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Ale1、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Ale1、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)LPAAT1、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1及びカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)LPCATの過剰発現の効果について、それらをヤロウイア属(Yarrowia)宿主染色体に安定的に組み込んだ後、機能に関して特性決定した。これは、宿主がその天然LPLAT、すなわちAle1及びLPAAT1を含むにもかかわらずであった。
形質転換及び増殖
Ura3遺伝子(実施例3)を破壊するため、コンストラクトpZKUM(図5A;配列番号130;米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書の表15に記載される)を使用して、Y8006株のpZKUM形質転換についての記載(実施例3)と同様の方法でUra3突然変異遺伝子をY8406株のUra3遺伝子に組み込んだ。いくつかの形質転換体を増殖させ、Ura−表現型を有することを確認した。
GC分析により、pZKUM形質転換体株#4及び#5においてFAMEの26.1%のEPAがあったことが示された。これらの2つの株を、それぞれY8406U1株及びY8406U2株(まとめて、Y8406U株)と命名した。
次にヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株を、実施例8に記載される組込みベクターの直鎖状SphI−AscI断片により個々に形質転換し、ここで各LPLATはヤロウイア属(Yarrowia)YAT1プロモーターの制御下にあった。具体的には、ベクターpY201(YAT1::ScAle1S::Lip1)、pY168(YAT1::YlAle1::Lip1)、pY208(YAT1::MaLPAAT1S::Lip1)、pY207(YAT1::YlLPAAT1::Lip1)及びpY175(YAT1::CeLPCATS::Lip1)を一般的方法に従い形質転換した。
各形質転換混合物をMM寒天プレートに播種した。いくつかの得られたURA+形質転換体を選び取り、アミノ酸を含まない6.7gのDifco酵母窒素ベース、5gの酵母エキス、6gのKH2PO4、2gのK2HPO4、1.5gのMgSO4・7H2O、1.5mgのチアミンHCl、及び20gのグルコースをL当たりに含有する3mLのFM培地(Biomyxカタログ番号CM−6681、Biomyx Technology、San Diego,CA)に接種した。シェーカーにおいて200rpm及び30℃で2日間増殖した後、培養物を遠心により回収し、pH7.5に調整された、0.63%リン酸一カリウム、2.7%リン酸二カリウム、8.0%グルコースを含有する3mLのHGM培地(カタログ番号2G2080、Teknova Inc.、Hollister,CA)に再懸濁した。シェーカーにおいて200rpm及び30℃で5日間増殖した後、培養物の1mLアリコートを遠心により回収し、GCにより分析した。具体的には、培養細胞を13,000rpmで1分間遠心することにより回収し、全脂質を抽出し、エステル交換により脂肪酸メチルエステル[「FAME」]を調製し、続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した(一般的方法)(一般的方法)。
3mL培養物の脂肪酸組成に基づき、選択した形質転換体をさらに特性決定した。具体的には、発現ベクターpY201(ScAle1Sを含む)により形質転換したY8406U株のクローン#5及び#11を選択し、それぞれ「Y8406U::ScAle1S−5」及び「Y8406U::ScAle1S−11」と命名した;発現ベクターpY168(YlAle1を含む)により形質転換したY8406U株のクローン#16を選択し、「Y8406U::YlAle1」と命名した;発現ベクターpY208(MaLPAAT1Sを含む)により形質転換したY8406U株のクローン#8を選択し、「Y8406U::MaLPAAT1S」と命名した;発現ベクターpY207(YlLPAAT1を含む)により形質転換したY8406U株のクローン#21を選択し、「Y8406U::YlLPAAT1」と命名した;及び発現ベクターpY175(CeLPCATSを含む)により形質転換したY8406U株のクローン#23を選択し、「Y8406U::CeLPCATS」と命名した。加えて、Y8406株(Y8406U(Ura−)株に対する親であったUra+株)を対照として使用した。
各選択した形質転換体及び対照をMM寒天プレートに画線した。次に、新しく画線した細胞の1つのループを3mLのFM培地に接種し、250rpm及び30℃で一晩増殖した。OD600nmを計測し、125mLフラスコ内の25mLのFM培地に0.3の最終OD600nmまで細胞のアリコートを添加した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で2日後、遠心により6mLの培養物を回収し、125mLフラスコ内の25mLのHGM中に再懸濁した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で5日後、1mLのアリコートを用いてGC分析(上記)を行い、及び10mLを乾燥させて乾燥細胞重量[「DCW」]を決定した。
DCWを決定するため、Beckman GS−6R遠心分離機のBeckman GH−3.8ロータにおいて4000rpmで5分間遠心することにより、10mLの培養物を回収した。ペレットを25mLの水中に再懸濁し、再度上記のとおりに回収した。洗浄したペレットを20mLの水中に再懸濁し、予め秤量したアルミニウム皿に移した。細胞懸濁液を真空オーブンにおいて80℃で一晩乾燥させた。細胞の重量を決定した。
脂質含量、脂肪酸組成及び変換効率
同じ条件下で合計4つの別個の実験を実施した。実験1は対照Y8406株をY8406U::ScAle1S−5株と比較した。実験2は対照Y8406株をY8406U::YlAle1株と比較した。実験3は対照Y8406株をY8406U::YlAle1株、Y8406U::ScAle1S−11株、及びY8406U::MaLPAAT1S株と比較した。実験4は対照Y8406株をY8406U::MaLPAAT1S株、Y8406U::YlLPAAT1株及びY8406U::CeLPCATS株と比較した。
各実験において、対照Y8406株及び形質転換体Y8406U株の1、2又は3個の同型培養物[「レプリケート」]について、DCWの百分率として脂質含量、脂肪酸組成及びEPAを定量化した。加えて、各Y8406U形質転換体のデータをY8406対照の%として表す。以下の表26は、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA及びEPAとして特定される。
表27は、PUFA生合成経路で機能し、且つEPA産生に必要な各デサチュラーゼ及びΔ9エロンガーゼの変換効率を要約する。具体的には、Δ12デサチュラーゼ変換効率[「Δ12 CE」]、Δ8デサチュラーゼ変換効率[「Δ8 CE」]、Δ5デサチュラーゼ変換効率[「Δ5 CE」]、Δ17デサチュラーゼ変換効率[「Δ17 CE」]及びΔ9伸長変換効率[「Δ9e CE」]が、各対照Y8406株及び形質転換体Y8406U株について提供される;各Y8406U形質転換体のデータをY8406対照の%として表す。変換効率は以下の式により計算した:産物/(産物+基質)*100(ここで産物は、産物と産物誘導体との双方を含む)。
Figure 2012529913
Figure 2012529913
表26及び表27の実験1、2及び3に関するデータに基づけば、EPA株のY8406U::ScAle1S−5、Y8406U::ScAle1S−11、Y8406U::YlAle1及びY8406U::MaLPAAT1SにおけるLPLATの過剰発現は、TFAの重量%としてのLA(18:2)濃度[「LA % TFA」]の大幅な低下(対照の67%以下に至る)、TFAの重量%としてのEPA濃度[「EPA % TFA」]の増加(対照の少なくとも12%に上る)、及びΔ9エロンガーゼの変換効率の増加(対照の少なくとも16%に上る)をもたらす。Y8406U::ScAle1S−5及びY8406U::ScAle1S−11と比較して、Y8406U::YlAle1はより低いLA % TFA、より高いEPA % TFA、より良好なΔ9伸長変換効率、並びに僅かに低いTFA % DCW及びEPA % DCWを有する。Y8406U::YlAle1とY8406U::MaLPAAT1Sとは、MaLPAAT1Sの過剰発現がより低いLA % TFA、EPA % TFA、及びEPA % DCWをもたらしたことを除き、同程度である。
実験4は、EPA株のY8406U::YlAle1、Y8406U::MaLPAAT1S及びY8406U::CeLPCATSにおけるLPLATの過剰発現が、LA % TFAの大幅な低下(対照の67%以下に至る)、EPA % TFAの増加(対照の少なくとも9%に上る)、及びΔ9エロンガーゼの変換効率の増加(対照の少なくとも13%に上る)をもたらすことを示す。Y8406U::CeLPCATSと比較して、Y8406U::YlLPAAT1及びY8406U::MaLPAAT1Sの双方が、より低いLA % TFA、より高いEPA % TFA、より高いEPA % DCW、及び僅かに良好なTFA % DCWを有する。Y8406U::YlLPAAT1とY8406U::MaLPAAT1Sとは、MaLPAAT1Sの過剰発現がより低いLA % TFA、僅かに低いEPA % TFA及びEPA % DCW、並びに僅かに良好なΔ9エロンガーゼ変換効率をもたらすことを除き、同程度である。
当該技術分野では、ほとんどの不飽和化がリン脂質のsn−2位で起こり、一方脂肪酸伸長がアシルCoAで起こることが公知である。さらに、ScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S及びYlLPAAT1は、アシルCoAプールからアシル基のみをリゾリン脂質、例えばリゾホスファチジン酸[「LPA」]及びリゾホスファチジルコリン[「LPC」]のsn−2位に組み込むものと予想された。従って、ScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S、及びYlLPAAT1の発現により、リン脂質における基質の利用能が向上するため不飽和化の向上がもたらされ、且つCoAプールにおける基質の利用能の向上を必要とする伸長の向上はもたらされないものと予想された。本発明者らのデータ(上記)は、意外にも、ScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S及びYlLPAAT1の発現によって、EPAを産生するヤロウイア属(Yarrowia)株におけるΔ9エロンガーゼ変換効率が大幅に向上し、しかし不飽和化(Δ12デサチュラーゼ変換効率、Δ8デサチュラーゼ変換効率、Δ5デサチュラーゼ変換効率又はΔ17デサチュラーゼ変換効率として計測される)は向上しなかったことを示している。
CeLPCATは、LA又はGLAを供給されたサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)においてΔ6伸長変換効率を向上させることが過去に示された(国際公開第2004/076617号パンフレット)。これは、リン脂質からCoAプールに脂肪酸を放出するその可逆的なLPCAT活性に起因した。脂肪酸の供給なしに高レベルLC−PUFAを産生するよう改変された油性微生物、例えばヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるΔ9伸長変換効率の向上は、国際公開第2004/076617号パンフレットでは企図されなかった。
さらに、EPAを産生するヤロウイア属(Yarrowia)株におけるPUFAの蓄積レベル又は全脂質含量のいずれかが、ScAle1S、YlAle1、MaLPAAT1S、YlLPAAT1及びCeLPCATSの発現によって大きく変化することはなかった。
先行研究は、Δ6伸長及びΔ9伸長の双方が、リン脂質とアシルCoAプールとの間でのアシル基の転移の不足により長鎖PUFA生合成における障害となることを示している。上記に実証される、LPLATの過剰発現によりもたらされるΔ9エロンガーゼ変換効率の向上に基づけば、本明細書に記載されるLPLAT及びそれらのオルソログ、例えばScLPAATもまたΔ6伸長変換効率を向上させるであろうことが予想される。
実施例10
LPAAT ORF及び自己複製配列を含む発現ベクターの構築
本実施例は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に組み込まないLPAAT遺伝子発現に好適な、自己複製配列[「ARS」]とLPAAT ORFとを含むベクターの構築について記載する。ORFは、配列番号32をコードするサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)LPAATと、配列番号31をコードするヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1とを含んだ。実施例11は、これらのベクターをY.リポリティカ(Y.lipolytica)に形質転換した後に得られた結果について記載する。
コドン最適化サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)LPAAT遺伝子を含むpY222の構築
「ScLPAAT」と命名されるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ORF(配列番号32)を、DNA2.0(Menlo Park,CA)によってヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現に最適化した。コドン最適化に加え、合成遺伝子には5’Pci1及び3’Not1クローニング部位を導入した(すなわち、ScLPAATS;配列番号151)。ScLPAATS遺伝子のいずれの修飾によっても、コードされるタンパク質のアミノ酸配列は変化しなかった(すなわち、コドン最適化遺伝子によりコードされるタンパク質配列[すなわち、配列番号152]は、野生型タンパク質配列[すなわち、配列番号32]と同じである)。ScLPAATSをpJ201(DNA2.0)にクローニングしてpJ201:ScLPAATSを得た。
ScLPAATSを含む926bpのPci1/Not1断片をpJ201:ScLPAATSから切り取り、NcoI−Not1で切断したpYAT−DG2−1にクローニングしてpY222(配列番号153;表28;図14A)を作成した。従って、pY222は以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1遺伝子を含むpY177の構築
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)セントロメア及び自己複製配列[「ARS」]を、プライマー869(配列番号154)及びプライマー870(配列番号155)を使用する標準的なPCRにより、プラスミドpYAT−DG2−1を鋳型として増幅した。PCR産物をAscI/AvrIIで消化し、AscI−AvrII消化pY207(配列番号149;実施例8)にクローニングしてpY177(配列番号156;表29;図14B)を作成した。従って、pY177中に存在する構成要素は、AscIとAvrIIとの間の373bpのpY207配列がARSを含む1341bpの配列に置き換えられたことを除き、pY207(図12A)中に存在するものと同じである。より具体的には、pY177は以下の構成要素を含んだ。
Figure 2012529913
実施例11
EPA産生ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株における種々のLPAATの機能に関する特性決定
EPAを産生するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株を使用して、自己複製プラスミドに組み込まないサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)LPAATS(配列番号151)及びヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LPAAT1(配列番号30)の発現の効果を、機能に関して特性決定した。これは、宿主がその天然LPAATを含むにもかかわらずであった。
形質転換及び増殖
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406U株(実施例9)を実施例10の切断していないプラスミドにより個々に形質転換した。具体的には、ベクターpY177(YAT1::YlLPAAT1::Lip1)[配列番号156]及びpY222(YAT1::ScLPAATS::Lip1)[配列番号153]を一般的方法に従い形質転換した。
各形質転換混合物をMM寒天プレートに播種した。いくつかの得られたURA+形質転換体を選び取り、3mLのCSM−U培地(Teknovaカタログ番号C8140、Teknova Inc.、Hollister,CA)に接種した。ここでCSM−U培地は、ウラシル非含有0.13%アミノ酸ドロップアウトパウダー、0.17%酵母窒素ベース、0.5%(NH42SO4、及び2.0%グルコースを含むグルコース含有ウラシル非含有CMブロスを指す。シェーカーにおいて200rpm及び30℃で2日間増殖した後、培養物を遠心により回収し、3mLのHGM培地(カタログ番号2G2080、Teknova Inc.)に再懸濁した。シェーカーにおいて5日間増殖した後、培養物の1mLアリコートを回収し、実施例9に記載するとおりGCにより分析した。
3mL培養物の脂肪酸組成に基づき、選択した形質転換体をフラスコアッセイによりさらに特性決定した。具体的には、発現ベクターpY222(ScLPAATSを含む)により形質転換したY8406U株のクローン#5及び#6を選択し、それぞれ「Y8406U::ScLPAATS−5」及び「Y8406U::ScLPAATS−6」と命名した;発現ベクターpY177(YlLPAAT1を含む)により形質転換したY8406U株のクローン#1を選択し、「Y8406U::YlLPAAT1」と命名した。加えて、Y8406株(Y8406U(Ura−)株に対する親であったUra+株)を対照として使用した。
各選択した形質転換体及び対照をMM寒天プレートに画線した。次に、新しく画線した細胞の1つのループを3mLのCSM−U培地に接種し、250rpm及び30℃で一晩増殖した。OD600nmを計測し、125mLフラスコ内の25mLのCSM−U培地に0.3の最終OD600nmまで細胞のアリコートを添加した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で2日後、遠心により6mLの培養物を回収し、125mLフラスコ内の25mLのHGM中に再懸濁した。振盪インキュベーターにおいて250rpm及び30℃で5日後、実施例9に記載されるとおり1mLのアリコートを用いてGC分析を行い、及び10mLを乾燥させて乾燥細胞重量[「DCW」]を決定した。
脂質含量、脂肪酸組成及び変換効率
対照Y8406株及び形質転換体Y8406U株の2個の同型培養物[「レプリケート」]について、DCWの百分率として脂質含量、脂肪酸組成及びEPAを定量化した。加えて、各Y8406U形質転換体のデータをY8406対照の%として表す。以下の表30は、細胞の全脂質含量[「TFA % DCW」]、TFAの重量パーセントとしての各脂肪酸の濃度[「% TFA」]及び乾燥細胞重量の百分率としてのEPA含量[「EPA % DCW」]を要約する。より具体的には、脂肪酸は、16:0(パルミチン酸)、16:1(パルミトオレイン酸)、18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、ALA、EDA、DGLA、ARA、ETrA、ETA及びEPAとして特定される。
表31は、実施例9の記載と同じ方法で、PUFA生合成経路で機能し、且つEPA産生に必要な各デサチュラーゼ及びΔ9エロンガーゼの変換効率を要約する。
Figure 2012529913
Figure 2012529913
上記の表30及び表31におけるデータに基づけば、EPA株のY8406U::YlLPAAT1、Y8406U::ScLPAATS−5及びY8406U::ScLPAATS−6におけるScLPAATS及びYlLPAAT1の双方の過剰発現は、TFAの重量%としてのLA(18:2)濃度[「LA % TFA」]の低下(対照の76%以下に至る)、及びΔ9エロンガーゼの変換効率の増加(対照の少なくとも7%に上る)をもたらした。ScLPAATSとYlLPAAT1とは脂質プロファイルに対して同様の効果を有する。
次に上記で得られた結果を実施例9で得られた結果と比較したが、LPLATの特性決定には異なる手段を利用した。具体的には、実施例9では、ベクターがARS配列を含まなかったため、LPLATを有する直鎖化DNAを染色体に組み込むことにより形質転換した。その結果、安定的な組み込みがもたらされ、前培養及び2日間の増殖の双方の間に比較的高濃度の非選択的FM増殖培地で株を増殖し、その後HGMに移した。
実施例11では、複製プラスミドに対するYlLPAAT1及びScLPAATSの機能に関する特性決定を行った。従って、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株を、各LPAAT及びARS配列を含む環状DNAにより形質転換した。これらのプラスミドを維持し、組込みなしに遺伝子発現をアッセイするため、HGMに移す前に、前培養及び2日間の増殖の双方の間に選択培地(すなわち、CSM−U培地)で形質転換体を増殖させる必要があった。
上記に記載されるこれらの違いは、実施例9及び11においてYlLPAAT1の発現により示されるとおり、脂質プロファイル及び含量の違いに寄与し得る。実施例9でYlLPAATを発現させたとき、対照と比べたLA % TFA、EPA % TFA、及びΔ9エロンガーゼ変換効率の変化は、それぞれ63%、115%、及び115%であったが、一方、実施例11でYlLPAATを発現させたときの対照と比べたLA % TFA、EPA % TFA、及びΔ9エロンガーゼ変換効率の変化は、それぞれ76%、101%、及び107%であった。従って、実施例11におけるΔ9伸長及びLC−PUFA生合成の改良は、実施例9で観察されるものと比較したとき最小限となる。これらの違いは、染色体への組込みの「位置効果」及び/又は異なる増殖条件に起因し得る。
LC−PUFA生合成の改良(LA % TFAの低下、EPA % TFAの増加及びΔ9エロンガーゼ変換効率の増加として計測される)は、複製プラスミド上のヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406株に形質転換されたときのScLPAATS及びYlLPAATの双方について同程度であるため、双方のLPLAATとも宿主染色体に安定的に組み込まれた場合には同様に機能し得ると予想される。従って、ScLPAATSは、宿主染色体に安定的に組み込まれた場合、実施例9での観察と同様に脂質プロファイルを改良する可能性が高い。

Claims (9)

  1. (a)全脂肪酸の重量パーセントとして計測して少なくとも50重量パーセントのエイコサペンタエン酸、
    を含む油であって、
    (b)前記油は、全脂肪酸の重量パーセントとして計測したエイコサペンタエン酸の、全脂肪酸の重量パーセントとして計測したリノール酸に対する比が少なくとも3.1である、
    油を産生する組換えヤロウイア・エスピー(Yarrowia sp.)宿主細胞。
  2. (a)少なくとも1つのΔ8デサチュラーゼに連結された少なくとも1つのΔ9エロンガーゼを有するポリペプチドを含む少なくとも1つのマルチザイムと、
    (b)発現が下方制御された少なくとも1つのペルオキシソーム生合成因子タンパク質と、
    (c)マロニルCoAシンテターゼ及びアシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼからなる群から選択される酵素をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの組換えコンストラクトと、
    を含む、請求項1に記載の組換えヤロウイア・エスピー(Yarrowia sp.)宿主細胞。
  3. 前記マロニルCoAシンテターゼが、配列番号40及び配列番号42からなる群から選択される配列から本質的になる、請求項2に記載の組換え宿主細胞。
  4. 前記アシルCoAリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼが、配列番号15、配列番号17、配列番号25、配列番号29、配列番号31及び配列番号32からなる群から選択される配列から本質的になる、請求項2に記載の組換え宿主細胞。
  5. 前記マルチザイムリンカーが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7からなる群から選択される、請求項2に記載の組換え宿主細胞。
  6. 前記マルチザイムが、配列番号9、配列番号11及び配列番号13からなる群から選択される配列から本質的になる、請求項2に記載の組換え宿主細胞。
  7. エイコサペンタエン酸を含む微生物油の作製方法であって、
    a)請求項1〜5のいずれか一項に記載の宿主細胞を培養するステップであって、エイコサペンタエン酸を含む微生物油が産生されるステップと、
    b)ステップ(a)の前記微生物油を回収してもよいステップと、
    を含む方法。
  8. ステップ(b)の前記回収された油がさらに処理される、請求項7に記載の方法。
  9. 全脂肪酸の重量パーセントとして計測して少なくとも50重量パーセントのエイコサペンタエン酸を含む油を産生するための組換え宿主細胞であって、ATCC指定番号ATCC PTA−10025を有するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8406;ATCC指定番号ATCC PTA−10026を有するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8412;及びATCC指定番号ATCC PTA−10027を有するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y8259からなる群から選択される宿主細胞。
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