JP2012255186A - 熱処理方法および被熱処理物 - Google Patents
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Abstract
【課題】短時間の焼入れで炭素濃度勾配を形成する熱処理方法および当該方法により熱処理された被熱処理物を提供すること。
【解決手段】材料に黒鉛鋼を使用した被熱処理物10に対する熱処理方法であって、黒鉛22が母相21に固溶する加熱温度で被熱処理物10の表面層を一定時間加熱する第1工程(a),(b)と、被熱処理物10の表面層に焼入れをするための温度で、被熱処理物10の表面層を加熱して焼入れを行う第2工程(d)とを有する熱処理方法。
【選択図】 図1
【解決手段】材料に黒鉛鋼を使用した被熱処理物10に対する熱処理方法であって、黒鉛22が母相21に固溶する加熱温度で被熱処理物10の表面層を一定時間加熱する第1工程(a),(b)と、被熱処理物10の表面層に焼入れをするための温度で、被熱処理物10の表面層を加熱して焼入れを行う第2工程(d)とを有する熱処理方法。
【選択図】 図1
Description
本発明は、短い処理時間で高い表面硬さと炭素濃度勾配を付けることを可能にする熱処理方法および当該方法により熱処理された被熱処理物に関する。
強度確保のための熱処理には、下記特許文献1に記載するような方法がある。当該熱処理方法は、黒鉛鋼を使用して表面を高周波焼入れするものである。すなわち、黒鉛鋼による部材の高周波焼入れは、表層を硬化させると共に芯部にフェライトとマルテンサイトの2相組織を生成させ、高周波焼入れにより表層を硬化させるだけでなく、さらに熱影響を芯部にまで及ぼし、黒鉛をフェライトに固溶させて芯部をフェライトとマルテンサイトの2相組織にするというものである。
しかし、黒鉛鋼を使用した従来の高周波焼入れは、十分な炭素濃度勾配を付けることができず、圧縮残留応力による疲労強度が十分なものではなかった。炭素濃度勾配を付けるための方法としては、例えば前記特許文献2に記載する浸炭焼入れなどがある。炭素鋼の部品に対し透過浸炭によって所定値まで炭素濃度を均一に上昇させ、浸炭拡散処理により内外表面の炭素濃度を上昇させて部品表面からの距離に応じた炭素濃度勾配を付けるものである。しかし、この方法では炭素の拡散に長い時間を要し、熱処理に1時間或いはそれ以上の時間がかかるため生産効率が悪かった。
本発明は、かかる課題を解決すべく、短時間の焼入れで炭素濃度勾配を形成する熱処理方法および当該方法により熱処理された被熱処理物を提供することを目的とする。
本発明に係る熱処理方法は、材料に黒鉛鋼を使用した被熱処理物に対するものであって、黒鉛が母相に固溶する加熱温度で前記被熱処理物の表面層を一定時間加熱する第1工程と、前記被熱処理物の表面層に焼入れをするための温度で、前記被熱処理物の表面層を加熱して焼入れを行う第2工程とを有することを特徴とする。
また、本発明に係る熱処理方法は、前記第1工程で加熱後に所定温度にまで空冷させることが好ましい。
また、本発明に係る熱処理方法は、前記被熱処理物がギヤ部品であることが好ましい。
また、本発明に係る熱処理方法は、前記第1工程で加熱後に所定温度にまで空冷させることが好ましい。
また、本発明に係る熱処理方法は、前記被熱処理物がギヤ部品であることが好ましい。
本発明に係る被熱処理物は、材料に黒鉛鋼を使用して形成されたものであり、表面層は黒鉛が母相に固溶しており、内部に向かうにつれて固溶していない黒鉛を有しているとともに、表面に焼入れが施されていることを特徴とする。
本発明に係るギヤ部品は、材料に黒鉛鋼を使用して形成されたものであって、歯の表面層は黒鉛が母相に固溶しており、歯の内部に向かうにつれて固溶していない黒鉛を有しているとともに、歯の表面に焼入れが施されていることを特徴とする。
本発明に係るギヤ部品は、材料に黒鉛鋼を使用して形成されたものであって、歯の表面層は黒鉛が母相に固溶しており、歯の内部に向かうにつれて固溶していない黒鉛を有しているとともに、歯の表面に焼入れが施されていることを特徴とする。
本発明によれば、材料に黒鉛鋼を使用し、炭素濃度勾配を形成する第1工程と表面焼入れを行う第2工程との2段階で熱処理を行うようにしたため、短時間の熱処理で、圧縮残留応力による疲労強度が向上し、被削性に優れ、しかも表面硬さを向上させた被熱処理物が得られる。
次に、本発明に係る熱処理方法および被熱処理物について、実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。被熱処理物の例として平歯車などのギヤ部品を例に挙げて説明する。本実施形態ではギヤ部品の材料に黒鉛鋼を使用する。黒鉛鋼は、母相中に析出した黒鉛が切削加工時に潤滑剤として作用することにより被削性が高いものである。炭素鋼では炭素量が大きくなることによって被削性が低下してしまうが、黒鉛鋼を使用することによりその点を改善することができる。
黒鉛鋼としては、例えば重量%でCが0.60%、Siが0.25%、Mnが0.3%、Pが0.009%、Sが0.011%、Cuが0.01%、Niが0.01%、Crが0.05%、Moが0.10%、Nbが0.023%、そしてBが0.0017%の成分によるものを使用する。炭素量0.6%の黒鉛鋼は、従来高周波焼入れに使用されていた炭素量0.45%の炭素鋼などよりも焼入れによって硬くすることが可能である。その一方で、黒鉛という形で炭素を有しており、母相の炭素量が0.2〜0.3程度であるため被削性に優れる。また、炭素量が多いことによって焼入れ後の高い炭素濃度勾配を形成することができる。
次に、炭素鋼によって形成された被熱処理物の熱処理方法について説明する。本実施形態では2段階に分けた熱処理によって焼入れを行う。図1は、ギヤ部品の歯部について熱処理による内部の変化をイメージした図である。また、図2は、本実施形態の熱処理方法を温度と時間のグラフでイメージした図である。ギヤ部品は、前述した黒鉛鋼の材料を使用し、歯切り加工や成形加工などによって作られ、その後に図2に示す第1工程と第2工程による熱処理が行われる。
熱処理前のギヤ部品10は、図1(a)に示すように母相21中に黒鉛22が点在している。こうしたギヤ部品10を、第1工程では例えば電気炉を使用した加熱が行われる。具体的には、図2(a)に示すように、900℃の温度で1分程度(t1〜t2)加熱(第1加熱)し、その後720℃程度以下まで空冷によって冷却する。900℃にまで加熱することにより母相21内の黒鉛22が溶け込んで固溶していく。先ず、図1(b)に示すように、900℃に加熱された表面部分から黒鉛22が固溶し、内部側はその後の熱の伝わりよって徐々に固溶が進んでいく。
第1工程は、黒鉛22を母相21に固溶させるための工程であるが、表面から内部にまで均等に行うものではない。図1(c)に示す炭素濃度勾配を形成するために行われるものである。すなわち、第1加熱後の母相21の炭素濃度勾配を見た場合、表層部分11では黒鉛22が完全に溶け込んで炭素濃度がほぼ0.6%になるが、内部に行くに従って内部層12〜15にかけて徐々に溶け込み量が少なくなる。そして、中心の内部層15では、母相自体の炭素濃度である0.2〜0.3%程度である。
ギヤ部品10は、900℃で1分程度の第1加熱を行うことにより炭素濃度勾配が形成され、その後の冷却によって炭素濃度勾配が安定する。つまり、次の第2工程では更に高温で焼入れが行われるが、その時の高温加熱によってギヤ部品の内部に熱が入ってしまい、不必要に黒鉛が固溶して炭素濃度勾配が壊されてしまうおそれがある。ただし、部品の形状などの条件によっては、第1加熱から連続して第2工程の加熱(第2加熱)を行っても熱の影響を受けず、或いは受けたとしても炭素濃度勾配が適切に得られのであれば、第1工程での空冷を省略することも考えられる。
次に、第2工程では、ギヤ部品10に対して焼入れが行われる。図2(b)に示すように、ギヤ部品10の表面を950℃にまで一気に加熱させ、その後、ギヤ部品10の表面を冷却液により急冷する。第2工程では、高周波焼入れ装置を使用したギヤ部品10に対する高周波焼入れが行われる。高周波焼入れ装置を使用した高周波誘導加熱では、周波数を高くしたことによる表皮効果によってギヤ部品10の表面のみ加熱することができる。また、焼入れ時間を短くすることができ、第2加熱(t3〜t4)に要する時間は0.4秒程度である。なお、第1工程と第2工程とは、例えば同じ高周波焼入れ装置を使用して行うようにしてもよい。それにより、ギヤ部品10を移送するしたりする手間が省け、作業性の効率化や製造時間の短縮が可能になる。
第2工程の高周波焼入れにより、図1(d)に示すように、ギヤ部品10の表面部には硬化層18が形成される。そのためギヤ部品10は、硬化層18によって表面硬さを確保でき、その内部には表層部分11及び内部層12〜15による炭素濃度勾配が形成され圧縮残留応力による疲労強度も確保することができる。図3は、回転曲げ疲労試験の結果をグラフにして示した図であり、縦軸に応力振幅をとり、横軸に破断繰り返し数をとっている。また、図4はその回転曲げ疲労試験に使用した試験片を示した図である。
試験片30は、段付の丸棒であり中央部分に環状溝31が形成されたものである。回転曲げ疲労試験では、試験片30に曲げ荷重を作用させながら回転させ、環状溝31が破断するまでの繰り返し数(回転数)を計測した。回転曲げ疲労試験では、形状は同じであるが、材料や熱処理方法の違いによる4パターンの試験片30A〜30Dを用意して行った。試験片30Aはクロムモリブデン鋼によって形成し、浸炭焼入れしたものである。
一方で、試験片30B〜30Dは、いずれも黒鉛鋼によって形成し、高周波焼入れしたものである。ただし、試験片30B,30Cは、共に第1工程を省略し第2工程の高周波焼入れのみを行ったものであり、硬化層18の表面からの深さに違いがある。硬化層18の深さが、試験片30Bは1.37mmであるのに対し、試験片30Cは0.88mmである。そして、試験片30Dは、第1工程と第2工程とを行ったものであり硬化層18の表面からの深さは1.06mmである。
このような4パターンの試験片30A〜30Dについて行った回転曲げ疲労試験を比較すると、浸炭焼入れの試験片30Aは所定の応力振幅の場合に200万回程度で破断してしまったが、高周波焼入れの試験片30B〜30Dでは同じ応力振幅でも破断しなかった。一方、黒鉛鋼を高周波焼入れした試験片30B〜30Dは、第1工程を省略した試験片30B,30Cよりも、第1工程と第2工程とを共に行った試験片30Dに良い結果が出た。これにより、試験片30B,30Cの場合、高周波焼入れだけであると十分な炭素濃度勾配が得られないため、耐久性が試験片30Dに比べ若干劣る。試験片30Dは、第1工程により積極的に炭素濃度勾配が形成されているため、試験片30B,30Cに比べ耐久性に優れている。
次に、図5は、硬さ試験の結果をグラフに示した図であり、横軸に表面からの深さをとり、縦軸に硬さをとっている。この硬さ試験では、4パターンの高周波焼入れを試験片40A〜40Dについて行った。試験片40Aは第1工程を省略して第2工程の高周波焼入れのみ行ったものである。一方、試験片40B,40C,40Dは第1工程と第2工程とを行ったものであるが、その順番通りに第1工程での第1加熱時間(図2(a)に示すt1〜t2の時間)を1分、3分、5分と変化させた。
すると、第1工程を省略した試験片40Aに比べ、第1工程を実行した試験片40B〜40Dの方が高い硬度を得ることができた。しかし、加熱時間を変えて行った試験片40B〜40Dの硬度は、いずれの値にも特に大きな差が見られなかった。従って、今回の試験片では、第1工程での第1加熱(t1〜t2)に長い時間を要せず、1分行えば十分であることが分かった。ただし、この第1工程の加熱時間は、被熱処理物のサイズや熱処理方法によって異なるため、黒鉛を母相の表面から内部にまで均等に固溶させず、炭素濃度勾配が生じるように固溶させるための適切な加熱時間を設定する。
よって、本実施形態の被熱処理物つまりギヤ部品10に黒鉛鋼を使用し、2段階に分けた熱処理工程によって焼入れを行うようにしたため、短時間で熱処理を行うことができ、必要な表面硬さや圧縮残留応力による疲労強度を確保することができた。すなわち、従来の真空浸炭焼入れでは1時間ほどの時間を要していたのに対し、本実施形態では、加熱時間が数十秒乃至1分程度の第1加熱とほぼ瞬間(0.4秒程度)の第2加熱によって行われるため、極めて短時間で熱処理を終えることができるようになった。また、材料に黒鉛鋼を使用すること、焼入れを行う第2工程とは別に第1工程を行うことにより、ギヤ部品10に炭素濃度勾配を形成し、疲労強度を向上させることが可能になった。また、材料に黒鉛鋼を使用したことで被削性に優れ、しかも炭素量が多いため焼入れによる表面硬さを向上させることができた。
以上、本発明に係る熱処理方法および当該方法により熱処理された被熱処理物について一実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々に変更することが可能である。
本発明の被熱処理物はギヤ部品10に限らず様々な製品に対応することができ、黒鉛鋼も実施形態で挙げた成分のものに限るわけではない。
また、前記実施形態では、第1工程と第2工程とを電気炉と高周波焼入れ装置とに分けて行う場合を説明したが、両工程を一台の高周波焼入れ装置で行うようにしてもよい。
本発明の被熱処理物はギヤ部品10に限らず様々な製品に対応することができ、黒鉛鋼も実施形態で挙げた成分のものに限るわけではない。
また、前記実施形態では、第1工程と第2工程とを電気炉と高周波焼入れ装置とに分けて行う場合を説明したが、両工程を一台の高周波焼入れ装置で行うようにしてもよい。
10 ギヤ部品
21 母相
22 黒鉛
21 母相
22 黒鉛
Claims (5)
- 材料に黒鉛鋼を使用した被熱処理物に対する熱処理方法であって、黒鉛が母相に固溶する加熱温度で前記被熱処理物の表面層を一定時間加熱する第1工程と、前記被熱処理物の表面層に焼入れをするための温度で、前記被熱処理物の表面層を加熱して焼入れを行う第2工程とを有することを特徴とする熱処理方法。
- 請求項1に記載する熱処理方法において、
前記第1工程では、加熱後に所定温度にまで空冷させることを特徴とする熱処理方法。 - 請求項1又は請求項2に記載する熱処理方法において、
前記被熱処理物がギヤ部品であることを特徴とする熱処理方法。 - 材料に黒鉛鋼を使用して形成されたものであり、表面層は黒鉛が母相に固溶しており、内部に向かうにつれて固溶していない黒鉛を有しているとともに、表面に焼入れが施されていることを特徴とする被熱処理物。
- 材料に黒鉛鋼を使用して形成されたギヤ部品であって、歯の表面層は黒鉛が母相に固溶しており、歯の内部に向かうにつれて固溶していない黒鉛を有しているとともに、歯の表面に焼入れが施されていることを特徴とするギヤ部品。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2011128370A JP2012255186A (ja) | 2011-06-08 | 2011-06-08 | 熱処理方法および被熱処理物 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2011128370A JP2012255186A (ja) | 2011-06-08 | 2011-06-08 | 熱処理方法および被熱処理物 |
Publications (1)
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JP2011128370A Withdrawn JP2012255186A (ja) | 2011-06-08 | 2011-06-08 | 熱処理方法および被熱処理物 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN107178600A (zh) * | 2016-03-11 | 2017-09-19 | 迪尔公司 | 复合齿轮以及制造这种齿轮的方法 |
-
2011
- 2011-06-08 JP JP2011128370A patent/JP2012255186A/ja not_active Withdrawn
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