JP2012218996A - 密閉容器内での気相硫化処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】パイライトの粒子サイズが大きい事で太陽電池効率が悪化するのに対して、パイライトの粒子サイズを小さくするプロセスを提供する。
【解決手段】鉄/鉄化合物からパイライト型結晶構造を有する二硫化鉄へと硫化処理させるプロセスであり、密閉容器内において、水蒸気と硫黄を含む混合ガスと、該鉄/鉄化合物を気相中で接触させながら加熱して反応させることを特徴とする硫化処理方法である。
【選択図】図6

Description

本発明は、密閉容器内での気相硫化処理方法に関する。本発明の密閉容器内での気相硫化処理方法で得られたパイライト型結晶構造を有する二硫化鉄は、例えば、色素増感太陽電池の色素を量子ドット材料に置き換えた量子ドット増感型太陽電池の増感剤として用いられる。
太陽電池用材料としてパイライト(Pyrite)型結晶構造を有する二硫化鉄(以下、単にパイライト、または黄鉄鉱ともいう。)は有望視されている。例えば、非特許文献1には、このパイライトの微粒子を低温で簡易的に形成する方法が記載されている。
非特許文献1によれば、このパイライトは、シリコンに比べ光吸収係数が格段に高い為、厚さ20nmで太陽光の90%を吸収できる。その為、薄膜やドット状態でも太陽電池材料として使うことができる。また、パイライトの原料は安く、大量生産が可能である。
パイライトは、FeSの立方晶であり、同じFeSの結晶構造が異なる斜方晶の物質にマーカサイト(Marcasite)型結晶構造を有する二硫化鉄(単にマーカサイト、または白鉄鋼ともいう)が存在する。それぞれのバンドギャップは、パイライト:0.95eVであるに対して、マーカサイト:0.34eVであり、マーカサイトが共存する事で光電変換特性が大幅に低下することが懸念される。また、一般的に低温ではマーカサイトが出来やすく、通常高温に加熱しないと純パイライトが形成できない。通常の製法としては、500℃程度の高温のHSやS蒸気(イオウ蒸気)でアニールすることでパイライトが形成する。
しかしながら、非特許文献1では、オートクレーブ(密閉圧力容器)の中で、FeSO、Na、Sを入れ、200℃、48時間加熱することで純パイライトが得られることが報告されている。こうして得られた純パイライトの粒径は0.5〜1μm程度である(図5参照)。
「Hydrothermal synthesis and crystal structure of pyrite」 R.Wu Y.F. Zheng, X.G. Zhang, Y.F. Sun, J.B. Xu, J.K.Jian
現在、色素劣化の問題が無いことから色素増感型太陽電池の色素を量子ドット材料に置き換えた量子ドット増感型太陽電池が検討されはじめている(図1、図2参照)。ここで、当該量子ドット増感型太陽電池の増感剤として、パイライトの適用を考えた場合、パイライトのコンダクションバンド(CB)の位置は、下地半導体であるTiOナノ粒子のCBよりも低い位置にあり、電子注入が起こらないため、太陽電池として機能しない。詳しくは、図4に示すように、光電極のTiOナノ粒子のCB位置に対し、bulk(バルク)状のFeS(パイライト)増感剤のCB位置が低く、電子注入が起こらず(図中、×印で示す)太陽電池として機能しない。
しかしながら、このパイライトの粒子サイズを数ナノ程度まで小さくすることで、エネルギーバンドギャップが広がり、TiOのCBよりも高くなり、電子注入が起こるようになり、その結果、太陽電池として機能する。例えば、図4に示すように、粒径3.1nmのナノドットサイズのdot(ドット)状パイライト増感剤では、エネルギーバンドギャップが広がり、TiO光電極のCBよりも高くなり、電子注入が起こるようになり太陽電池として機能する。
ここで、上記したような既存の(バルク状)パイライトをその増感剤として用いる場合、図3のような状態となり、様々な問題が発生するので以下に問題点を箇条書きにする。
(1)バンドギャップを広げる為には、数nmサイズまでパイライトを微粒子化しないと電子注入(図中の矢印で示す)が起こりにくい(図3中、×印で示す)。上記のような既存の手法(例えば、非特許文献1の手法)で作製するとμmレベルの粒子31(粒径)の為、電子注入(図中の矢印で示す)が起こりにくい。
(2)また、μmレベルのパイライト粒子31では、下地半導体(光電極)のTiOナノ粒子20との界面における結合部が少なく、電子注入しにくい。そのため、電解質層40に用いる電解液でTiOナノ粒子20のCBを下げて電子注入させたとしても光電変換効率が非常に悪いと予想できる。
(3)μmレベルのパイライト粒子31では、当該パイライト粒子31自体の表面積が小さい為に、光電変換効率が非常に悪くなる事が予想される。
(4)パイライト粒子31自体が大きいと下地半導体のTiOナノ粒子120へ移動する前にパイライト粒子31内で電子が失活してしまう事が予想される。そのため、電解質層40に用いる電解液でTiOナノ粒子20のCBを下げても、TiOナノ粒子20への電子注入が起こらない可能性がある。
(5)上記のような既存の製法(非特許文献1の製法)は、パイライト粒子31だけを密閉圧力容器中で個別に形成してなるものであり、個別に得たパイライト粒子31を、さらにTiOナノ粒子20の上に吸着させる必要がある。このため、粒子形成後における吸着はその粒子が大きいと物理的に吸着しにくくなるという問題がある。
以上のことら、本発明は、上記のようにパイライトの粒子サイズが大きい事で太陽電池効率が悪化するのに対して、パイライトの粒子サイズを小さくするプロセスを提供する事で、上記課題を解決することを目的とするものである。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった。その結果、密閉容器内で硫黄を含むガスで加熱して硫化処理(固相表面と気相接触反応)することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、鉄/鉄化合物からパイライト型結晶構造を有する二硫化鉄へと硫化処理させるプロセスであり、密閉容器内において、水蒸気と硫黄を含む混合ガスと、該鉄/鉄化合物を気相中で接触させながら加熱して反応させることを特徴とする硫化処理方法である。ここで、本願の「明細書」、「特許請求の範囲」及び「要約書」の各書類において、鉄および/または鉄化合物を、単に鉄/鉄化合物とも称する。また、「水蒸気」とは「気化した水」という意味内容であり、より詳しくは「高温高圧で気化した状態の水」という意味内容である。
本発明によれば、密閉容器内で硫黄を含むガスで加熱して硫化処理(固相表面と気相接触反応)させる事で、密閉容器内の圧力が上がり、通常400〜500℃必要であったのが、200℃程度の低温でもパイライト(黄鉄鉱)が形成できる。そのことで高温加熱時に起きていた凝集を防ぐ事ができ、結果として、粒径の小さいパイライト型結晶構造を有する二硫化鉄を形成することができる。その結果、好適な電解液等と組合せることで、粒径の小さいパイライトからTiOナノ粒子に効率よく電子注入できるため、光電変換効率のよい量子ドット増感型太陽電池およびその増感剤を提供することができる。
量子ドット増感型太陽電池の代表的な実施形態を模式的に表す斜視図である。 量子ドット増感型太陽電池の代表的な実施形態を模式的に表す断面図である。 従来の一般的な量子ドット増感型太陽電池の抱える課題となる巨大なパイライト粒子を用いた光電極構造を模式的に表した断面図である。 エネルギーダイアグラム(下地TiOと増感剤FeSのバンドギャップとエネルギー準位の関係)を示す図面である。 従来製法(非特許文献1の製法)により得られた巨大なパイライト粒子のSEM画像を表す図面である。 図6aは本発明の硫化処理方法によりパイライト(増感剤)を製造する工程プロセスを示す工程図であって、導電性ガラスを準備する(a)工程を行った後の電池セルの概略立体図(斜視図)とその概略断面図である。図6bは、本発明の硫化処理方法によりパイライト(増感剤)を製造する工程プロセスを示す工程図であって、導電性ガラス上にN型半導体膜を形成する(b)工程を行った後の電池セルの概略立体図(斜視図)とその概略断面図である。図6cは、本発明の硫化処理方法によりパイライト(増感剤)を製造する工程プロセスを示す工程図であって、n型半導体膜表面にFe成分を吸着する(c)工程を行った後の電池セルの概略立体図(斜視図)とその概略断面図である。図6dは、本発明の硫化処理方法によりパイライト(増感剤)を製造する工程プロセスを示す工程図であって、n型半導体膜表面に吸着したFe成分を二硫化鉄へ硫化反応(硫化処理)を行う(d)工程を行った後の電池セルの概略立体図(斜視図)とその概略断面図である。図6eは、本発明の硫化処理方法によりパイライト(増感剤)を製造する工程プロセスを示す工程図であって、硫化処理後に電池セルとしての組立工程(アセンブリ工程)を行った後の完成した状態の電池セルの概略立体図(斜視図)とその概略断面図である。 鉄/鉄化合物の吸着方法として用いた電解めっき方法(FeS吸着)を模式的に表す概略図である。 図7の電解めっき方法(FeS吸着)により得られたサンプルを、硫化処理方法として、本実施形態による気相での反応方法を用いた概略図である。 図7の電解めっき方法(FeS吸着)により得られたサンプルを、硫化処理方法として液相での反応方法を用いた概略図である。 参考例1及び実施例1における効果図である。詳しくは、図9の左図は、図7の電解めっき方法により得られたサンプル(電解めっき後)の成分、SEM画像、結晶子径、結晶粒径を表した図面である。図9の中央図は、図7の電解めっき方法により得られたサンプルを、硫化処理方法として既存の製法による液相での反応方法を用いて得られた参考例1のサンプル(二硫化後(液相))の成分、SEM画像、結晶子径、結晶粒径を表した図面である。図9の右図は、図7の電解めっき方法により得られたサンプルを、本実施形態による気相での反応方法で得られた実施例1のサンプル(二硫化後(気相))の成分、SEM画像、結晶子径、結晶粒径を表した図面である。 硫化処理前サンプル(図7の陰極側の光電極となる基板320のTiO上に硫化鉄(Fe1−xS)のめっき膜320aが形成されるもの)におけるX線回折法による物質同定(XRD結果)を表す図面である。 硫化処理前サンプルをNアニールした場合におけるXRD結果を表す図面である。なお、図11中の「導電テープのピークと思われる」との書き込み部分に分析の為の誤差信号が現れており、これは分析時にサンプルを固定するための導電テープによるものと思われる。 液相で硫化処理した参考例1のサンプルのXRD結果を表す図面である。 気相で硫化処理した実施例1のサンプルのXRD結果を表す図面である。 液相で硫化処理した参考例1のサンプルと気相で硫化処理した実施例1のサンプルのXRD結果よりシェラーの式で算出したパイライトの結晶子径を表す図面である。 量産時における硫化処理の一実施形態である大型密閉容器(反応装置)の概略断面図である。 硫化処理方法において、密閉容器(反応装置)内での硫化処理の反応の推測イメージ図である。
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
<本発明の概要>
本実施形態は、鉄/鉄化合物からパイライト型結晶構造を有する二硫化鉄へと硫化処理させるプロセスであり、密閉容器内において、水蒸気と硫黄を含む混合ガスと、該鉄/鉄化合物を気相中で接触させながら加熱して反応させることを特徴とする硫化処理方法である。
本発明の硫化処理方法は、量子ドット増感型太陽電池の増感剤として適用し得るパイライトの粒子サイズを改善(小粒子化)し得る方法である。これは、従来の色素増感太陽電池の色素を金属の量子ドット材料に置き換えた耐久性に優れたオール無機(材料)で電池を作るという発明のコンセプトに基づきなされたものである。即ち、既存の量子ドット増感型太陽電池の増感剤では適用できなかった大きな粒子サイズのパイライトを小粒子化し得る方法を見出し得たものである。
本発明の硫化処理方法により得られるパイライトを増感剤(光吸収増感体となる半導体ドット)として適用し得る量子ドット増感型太陽電池としては、特に制限されるものではない。図1〜図3に、本発明の硫化処理方法により得られるパイライト(増感剤)の適用箇所を示す。このうち、図1は、量子ドット増感型太陽電池の代表的な実施形態を模式的に表す斜視図であり、図2は、量子ドット増感型太陽電池の代表的な実施形態を模式的に表す断面図である。図3は、従来の一般的な量子ドット増感型太陽電池の抱える課題となる巨大なパイライト粒子を用いた光電極構造を模式的に表した断面図である。また、図6(a)〜(e)は、本発明の硫化処理方法によりパイライト(増感剤)を製造する工程プロセスを示す工程図である。
(A)一般的な量子ドット増感型太陽電池のセル(単電池)の概要
本実施形態の量子ドット増感太陽電池のセル(単電池)の概要は、一般的に、図1、図2に示すような基本構造となる。即ち、量子ドット増感型太陽電池のセル1の概要は、光電極35と、該光電極35に対向して配置される対極50と、これらの電極35及び50間に配された電解質層40とを有し、電解質層40をシール材70でシールした構成となっている。この量子ドット増感型太陽電池は、いわば光電変換素子ともいえる。
(光電極35の構成)
光電極35は、透明基板5と、透明導電膜10と、n型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)20と、光吸収増感体となる半導体量子ドット30により構成されている。この光電極35は、光(光源)90が照射される側(照射面)に設けられておる。例えば、図1、2に示すように、光照射側から透明基板5が設置され、該透明基板5上に薄い透明導電膜10がコーティング等により形成され透明電極15を構成している。さらに透明導電膜10上には、光励起下でアノードとして働くn型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)20が適度な空隙を持った状態で形成されている。さらにその上に光吸収増感体となる半導体量子ドット30が吸着された状態で存在する構造となっている。
(1)透明基板5
ここで、透明基板5は、光透過性が良好なものが好ましく、その具体例としては、ガラス基板の他、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、環状オレフィンポリマー、ポリエーテルサルフォン、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル等の透明樹脂基板(フィルム)、更には多結晶透明セラミックス基板などが挙げられる。ただし、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。特にフレキシブルな透明樹脂基板(フィルム)を用いる場合には、使用用途に応じて自由自在に変形させることができる。そのため、ビル・家屋や地面への固定用の太陽電池のほか、移動用ないし携帯用電源(バイク、自動車、船舶、飛行機、電車などの車両用(移動用)補助電源、携帯電話(スマートフォン)、携帯ゲーム、携帯パソコンなどの携帯用補助電源として幅広く適用できる。
透明基板5の厚さは特に制限されるものではなく、従来公知の色素増感型太陽電池に適用されている透明基板と同程度の厚さのものを用いることができる。
(2)透明導電膜10
透明導電膜10としては、特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、SnO膜、SbがドープされたSnO膜、FがドープされたSnO(FTO)膜、ZnO膜、AlがドープされたZnO膜、GaがドープされたZnO膜、SnがドープされたIn(ITO)膜、などの透明導電性金属酸化物膜で構成されたものなどが挙げられる。
また、透明導電膜10の厚さは、特に制限されるものではなく、従来公知の色素増感型太陽電池に適用されている透明基板と同程度の厚さのものを用いることができるが、0.01〜1.0μm程度であるのが好ましい。
更に、透明導電膜10を設けるための方法は、特に限定されず、例えば、塗布法、スパッタリング法、真空蒸着法、スプレーパイロリシス法、化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法等が挙げられる。
(3)透明電極15
また、透明電極15は、上記したように、例えば、ガラス基板等の透明基板5上に薄い透明導電膜10を適当な方法によりコーティングなどしてなるFTOガラスやITOガラス等の一体成形品(市販品)などを用いてもよい。
(4)n型半導体ナノ粒子20
n型半導体ナノ粒子20は、透明電極15の透明導電膜10の上に光励起下でアノードとして働くものであり、n型半導体ナノ粒子20は適度な空隙を持った状態で形成されている。
n型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)20は、n型半導体ナノ粒子(酸化物半導体微粒子)20の分散液を透明導電膜10上に塗布することによって得られる。
上記n型半導体ナノ粒子(酸化物半導体微粒子)20としては、特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バナジウム(V、VO)、酸化ニオブ(NbO、Nb)等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
n型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)20の粒子サイズ(平均粒子径)としては、10〜50nm、好ましくは10〜20nmの範囲である。粒子サイズ(平均粒子径)が、10nm以上あれば、表面積を大きくでき、半導体量子ドット(パイライト)30との界面結合が多くなるので光電変換効率を高めることができる。また、粒子サイズ(平均粒子径)が大きくなり過ぎると、n型半導体ナノ粒子内で電子が失活するため、粒子サイズ(平均粒子径)は50nm以下、特に20nm以下が望ましいといえる。但し、n型半導体ナノ粒子(TiO;チタニア粒子)同士はあまり凝集することがないので、50μ以下であれば電子が失活する問題もなく有効に活用できる。なお、n型半導体ナノ粒子の粒子サイズ(平均粒子径)は、製造メーカーのカタログなどの測定値をそのまま適用することができる。これはSEMにより独自に測定しても同様の結果になる為である。よって、SEMを用いて測定してもよいこことはいうまでもない。
上記分散液は、上記n型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)20と分散媒とをサンドミル、ビーズミル、ボールミル、3本ロールミル、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ヘンシェルミキサー、ジェットミル等の分散機で混合することにより得られる。
また、上記分散液は、分散機で混合して得た後、使用(塗布)直前に、超音波ホモジナイザー等を用いて超音波処理を施すのが好ましい。使用直前に超音波処理を施すことにより、本発明の光電変換素子の光電変換効率がより良好となる。これは、使用直前に超音波処理を施した分散液を用いて形成した酸化物半導体多孔質膜に対して、上述したイオン性液体が充填されやすいためと考えられる。
更に、上記分散液には、分散液中の上記酸化物半導体微粒子の再凝集を防ぐために、アセチルアセトン、塩酸、硝酸、界面活性剤、キレート剤等を添加してもよく、分散液の増粘のために、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール等の高分子やセルロース系の増粘剤等を添加してもよい。
上記分散液としては、酸化チタンペーストSP100、SP200(いずれも昭和電工社製)、酸化チタン微粒子Ti−Nanoxide T(ソーラロニクス社製)、Ti−Nanoxide D(ソーラロニクス社製)、チタニア塗布ペーストPECC01(ペクセル・テクノロジーズ社製)、チタニア粒子ペーストPST−18NR、PST−400C(いずれも日揮触媒化成社製)等の市販品を用いることも可能である。
上記分散液を透明導電膜上に塗布する方法としては、例えば、公知の湿式成膜法を用いることができる。
湿式成膜法としては、具体的には、例えば、スクリーンプリント法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法、スプレー塗布法等が挙げられる。
また、上記分散液を透明導電膜10上に塗布後、微粒子間の電子的なコンタクトの向上、透明導電膜10との密着性の向上、膜強度の向上を目的として、加熱処理、化学処理、プラズマ、オゾン処理等を行うのが好ましい。
加熱処理の温度としては、40℃〜700℃であるのが好ましく、40℃〜650℃であるのが好ましい。また、加熱処理の時間としては、特に制限はないが、通常は10秒〜24時間程度である。
化学処理としては、具体的には、例えば、四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキ処理、カルボン酸誘導体を用いた化学吸着処理、三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理等が挙げられる。
n型半導体ナノ粒子(酸化物半導体微粒子ともいう)20の厚さ(膜厚)としては、1〜20μm、好ましくは10μm前後(5〜15μm)の範囲である。
(5)半導体量子ドット(パイライト)30
光吸収増感体となる半導体量子ドット30は、n型半導体ナノ粒子20の上にさらに吸着された状態で存在する。半導体量子ドット30に用いられる材料としては、CdTe、CdSe、SnS、PbS、FeS、CdS等が挙げられるが、本実施形態では、上記した硫化処理方法により得られるパイライト(FeS)が用いられる。これは、CdSe、CdTe、CdSなど人体に非常に危険(有害)であるのに対し、パイライト(FeS)が、人体にも安全(無害)で安価なためである。但し、このパイライトは、非常に作り難くナノ粒子にするのが非常に難しいという問題があったが、本発明の硫化処理方法を用いることで、こうした問題を解決し得ることで人体にも安全で安いパイライトを半導体量子ドットに適用し得たものである。
本実施形態では、半導体量子ドット30に用いられる材料として、必ずしもパイライトのみを用いる必要はなく、他の半導体量子ドット30に用いられる材料と適宜組み合わせて用いてもよい。好ましくは、パイライトが50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に90質量%以上、なかでも95%質量以上である。特に好ましくは、本実施形態の硫化処理方法により得られる純パイライトである。しかしながら、本発明の製造方法をもってしても、出来上がったものが必ずしも100質量%パイライトとすることは困難である。即ち、極微量の不可避的な不純物やマーカサイトが混入することはさけられず、そうした極微量の不純物が含まれていてもよい。
半導体量子ドット30に用いるパイライトの平均粒径は、100〜200nm、好ましくは100〜150nm、より好ましくは100〜120nmの範囲である。これは、バンドギャップを広げる為には、パイライトを微粒子化することが必要であり、既存のμmレベルの粒子では、電子注入が起こりにくいが、上記範囲の平均粒子径であれば、電解質などの最適化により電子注入が起こり易くできるためである。図4はエネルギーダイアグラム(下地TiOと増感剤FeSのバンドギャップとエネルギー準位の関係)を示す図面である。図4に示すように、量子ドット増感型太陽電池の増感剤として、パイライトの適用を考えた場合、パイライトのコンダクションバンド(CB)の位置は、下地半導体であるTiOナノ粒子のCBよりも低い位置にあり、電子注入が起こらず、太陽電池として機能しない。詳しくは、光電極のTiOナノ粒子のCB位置に対し、既存のμmレベルのbulk(バルク)状のFeS(パイライト)増感剤のCB位置が低く、電子注入が起こらず太陽電池として機能しない。しかしながら、dot(ドット)状パイライト増感剤では、エネルギーバンドギャップが非常に広がり、TiO光電極のCBよりも高くなり、電子注入が起こるようになり太陽電池として機能する様子を表している。このように、このパイライトの粒子サイズを既存のμmレベルから上記範囲の平均粒径まで小さくすることで、エネルギーバンドギャップが同様に広がり、電解液等の組合せを最適化することで、TiOのCBよりも高くなり、電子注入が起こるようになる結果、太陽電池として有効に機能する。電解液の最適化では、(1)電解液中にLiを入れる、(2)電解液を酸性にすることで、pH1度当たり0.6eVづつチタニア(TiO)のCBを下げることができる。n型半導体ナノ粒子の場合、例えば、PbSだと簡単にナノレベルのものができるので、これを併用することでバンドギャップを拡げることができる。また図3に、従来の一般的な量子ドット増感型太陽電池の課題となるμmレベルのパイライト粒子を用いた光電極構造を模式的に表した断面図を示し、図5に従来製法(非特許文献1の製法)により得られたμmレベルのパイライト粒子のSEM画像を示す。図3、図5に示すように、既存のμmレベルのパイライト粒子31では、下地半導体のTiOナノ粒子20との界面結合部が少なく電解液40でTiOナノ粒子20のCBを下げても光電変換効率が非常に低い。しかしながら、上記範囲の平均粒径レベルであれば、TiOナノ粒子との界面結合部を大きくでき、光電変換効率を高めることができる(図2、図6(e)と図3を比較参照のこと)。更に図3に示すように、μmレベルのパイライト粒子31では、当該パイライト粒子31自体の表面積が小さい為に、光電変換効率が非常に低くなるが、上記範囲の平均粒径レベルであれば、パイライト粒子の表面積も大きくなり、TiOナノ粒子との界面結合部をより多くでき、光電変換効率をより高めることができる。また、既存のパイライト粒子31自体が大きいと電子が下地半導体のTiOナノ粒子120へ移動する前にパイライト粒子31内で失活してしまう。そのため、電解液でTiOナノ粒子20のCBを下げても、TiOナノ粒子20への電子注入が起こらないが、上記範囲の平均粒径レベルであれば、パイライト粒子内で電子が失活することなく、電子注入でき、光電変換効率を高めることもできる。なお、パイライトの平均粒径の測定は、SEMおよびTEMを用いて行うことができる。
また、本実施形態の硫化処理方法では、TiOナノ粒子20の上にパイライト粒子30を気相反応により化学吸着させるため、粒子形成後における吸着力は非常に強く安定させることができる。これは、既存の非特許文献1の製法では、パイライト粒子31だけを密閉圧力容器中で形成する方法であった為、得られたパイライト粒子31を、さらにTiOナノ粒子20の上に吸着させる必要がある。しかしながら、粒子形成後における吸着はそのパイライト粒子31がμmレベルと大きいと物理的に吸着しにくくなる。そのため、半導体量子ドット30として長期間安定に利用するのが困難であるほか、フレキシブルタイプの量子ドット増感型太陽電池の増感剤としては全く適用し得ないものであった。
以上のように本実施形態では、既存のパイライト粒子31のように、粒子サイズが大きいと、電子失活、電子不注入、光電変換効率低下という太陽電池効率が低下する等の問題が生じていたのに対して、パイライトの粒子サイズを小さくすることで、こうした課題を効率よく解決し得るものである。
半導体量子ドット(パイライト)30の厚さ(膜厚)は、薄ければ薄いほどよく、パイライトの吸収係数から20nm以上、好ましくは20nm以上100nm未満、より好ましくは20〜数十μm(50μm程度)の範囲である。20nmあれば、90%の光を吸収することができるためである。また、100nm以上だと発生した電子が失活するおそれがある。
以上が光電極35部分であり、本発明となるプロセス(鉄/鉄化合物からパイライトへと硫化処理(固相表面と気相接触反応)させるプロセス)の適用箇所である。
(光電極35以外の構成)
量子ドット増感型太陽電池のセル1として使う為には、光電極35の構成と、該光電極35に対向して配置される対向電極65の構成と、これらの電極35及び65間に配された電解質層40とを有し、電解質層40をシール材70でシールした構成となっている。
(対向電極65の構成)
対向電極65は、該光電極35に対向して配置される対極50を有する対極基板60により構成されている。但し、対向電極65は、対極50と対極基板60とを一体化した金属基板を用いてもよい。金属基板(対向電極)65としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン等の金属を用いることができる。
(7)対極50
対極50とは、図1、2に示すように、光電極35に対向して配置される電極導電膜である。対極基板60の表面に設ける対極50(電極導電膜)としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン等の金属;炭素;酸化スズ;アンチモンやフッ素がドープされた酸化スズ;酸化亜鉛;アルミニウムやガリウムがドープされた酸化亜鉛;スズがドープされた酸化インジウム;等の導電性金属酸化物;等の導電膜が挙げられる。
対極50(電極導電膜)の厚さや形成方法は、光電極35を構成する透明導電膜10と同様のものを挙げることができる。
(8)対極基板60
対極基板60としては、ガラス基板、樹脂基板のほか、セラミックス基板や金属基板等を用いることができる。樹脂基板としては、光電極35を構成する透明基板5で例示した透明樹脂基板(フィルム)に加えて、不透明あるいは透明性に劣る一般的な樹脂基板も用いることができる。金属基板としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン等の金属を用いることができる。セラミックス基板としては、特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
(9)対向電極65
本発明においては、対向電極65として、対極基板60上に導電性高分子膜を形成させた電極(対極50)や導電性高分子フィルム電極(対極50)を用いてもよい。
上記導電性高分子としては、特に制限されるものではなく従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等が挙げられる。
対極基板60板上に導電性高分子膜を形成させる方法は、通常湿式成膜法として知られているディッピング法やスピンコーティング法等を用いて、高分子分散液から基板上に導電高分子膜を形成することができる。
導電性高分子分散液としては、特開2006−169291号公報で開示したポリアニリン分散液や市販品であるポリチオフェン誘導体水分散液(バイトロンP、バイエル社製)、三菱レイヨン社製(アクアセーブ、ポリアニリン誘導体水溶液)等を用いることができる。
また、対極基板60が上記金属基板(導電基板)である場合、上記手法に加えて電解重合法によっても対極基板60上に導電性高分子膜を形成させることができる。導電性高分子フィルム電極は、電解重合法によって電極上に形成された導電性高分子フィルムを電極から剥離した自立性フィルムまたは導電性高分子分散液から通常湿式成膜法として知られているキャスティング法やスピンコーティング法等を用いて形成された自立性フィルム等を用いることもできる。ここで言う導電性高分子分散液は、導電性高分子微粒子が溶媒中に分散している状態と導電性高分子が溶媒中に溶解している状態とが混在しているものを、便宜上導電性高分子分散液としている。
(10)電解質層40
電解質層40は、図1、2に示すように、光電極35および対向電極65の間に設けられるイオンを伝導するための層である。光電変換素子である量子ドット増感型太陽電池において、電解質層40に用いられる電解質としては、特に限定されなく、液体系(イオン液体を含む)でも固体系(ゲルを含む)でもいずれでもよく、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すものが望ましい。ここで、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すということは、光電変換素子の作用する電位領域において、可逆的な電気化学的に酸化還元反応を起こし得ることをいう。例えば、図2に示すように、半導体量子ドット30に光25が照射されると半導体量子ドット30内で電子が励起されて光励起下でアノードとして働くn型半導体ナノ粒子20に注入される。電子はn型半導体ナノ粒子20内を拡散して透明電極15(透明導電膜10)に到達する(図中の電解質層内の下向きの矢印参照)。対極50では電子が電解質層40内の電解質(NaS+Sの混合溶液)に注入され、S がS2−に還元される。S2−は溶液(電解液)中を拡散し半導体量子ドット30に到達したものは電子を与えてS に酸化される(図中の電解質層内の上向きの矢印参照)。典型的には、通常、水素基準電極(NHE)に対して−1〜+2VvsNHEの電位領域で可逆的であることが望ましい。
電解質としては、イオン伝導度が、通常室温で1×10−7S/cm以上、好ましくは1×10−6S/cm以上、さらに好ましくは1×10−5S/cm以上であるものが望ましい。なお、イオン伝導度は、複素インピーダンス法などの一般的な手法で求めること
ができる。
また、電解質は、酸化体の拡散係数が1×10−9cm/s以上、好ましくは1×10−8cm/s以上、さらに好ましくは1×10−7cm/s以上を示すものが望ましい。なお、拡散係数は、イオン伝導性を示す一指標であり、定電位電流特性測定、サイクリックボルタモグラム測定などの一般的な手法で求めることができる。
電解質の吸収の立ち上がりは、半導体量子ドット30を吸着する前のn型半導体ナノ粒子20の吸収の立ち上がりより長波長にあることが好ましい。例えば、n型半導体ナノ粒子20として酸化チタン(TiO)ナノ粒子を用いる場合は、吸収端波長が380nmである。一方、ヨウ素レドックス剤を含む電解質は400nm付近に吸収端波長がある。吸収は分光光度計による汎用的手法を用いることができるが、散乱性の大きなナノ粒子を焼結した酸化チタンなどの金属酸化物の場合は、光音響分光法(PAS)、フォトディフラクティブ分光(PDS)を用いることができる。吸収端は、金属酸化物の吸収端付近の波長から少なくとも100nm以上長波長側の透明領域の吸収係数をベース値とし、吸収の立ち上がり波長を決定する。
電解質層40の厚さは、特に限定されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、また3mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。
液体系の電解質としては特に限定されるものではなく、通常、溶媒、可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質(溶媒に可溶なもの)およびさらに必要に応じて支持電解質を基本的成分として構成される。また、これらに加え、所望によりさらに紫外線吸収剤、アミン化合物などの他の任意成分を含有させてもよい。
溶媒としては、一般に電気化学セルや電池に用いられる溶媒であればいずれも使用することができる。具体的には、無水酢酸、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、アセトニトリル、3−メチル−2−オキサゾリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメトキシエタン、プロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジオキソラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸エチルジメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリへキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリス(トリフフロロメチル)、リン酸トリス(ペンタフロロエチル)、リン酸トリフェニルポリエチレングリコール、及びポリエチレングリコール等が使用可能である。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、3−メチル−2−オキサゾリジノン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジオキソラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが好ましい。また、常温溶融塩類も用いることができる。ここで、常温溶融塩とは、常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩を示すものである。
常温溶融塩の例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
(ここで、Rは炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオン、SeCN、ClO 、BF 、CFSO 、(CFSO、(CSO、PF 、AsF 、CHCOO、CH(C)SO 、(CSO、ジシアンジアミドイオン、トリシアノメタンイオンまたはチオシアネートイオンを示す。)
(ここで、RおよびRは各々炭素数1〜10のアルキル基(好ましくはメチル基またはエチル基)、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基(好ましくはベンジル基)を示しており、互いに同一でも異なっても良い。また、Xはハロゲンイオン、SeCN、ClO 、BF 、CFSO 、(CFSO、(CSO、PF 、AsF 、CHCOO、CH(C)SO 、(CSO、ジシアンジアミドイオン、トリシアノメタンイオンまたはチオシアネートイオンを示す。)
(ここで、R、R、R、Rは、各々炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(フェニル基など)、またはメトキシメチル基などを示し、互いに同一でも異なってもよい。また、Xはハロゲンイオン、SeCN、ClO 、BF 、CFSO 、(CFSO、(CSO、PF 、AsF 、CHCOO、CH(C)SO 、(CSO、ジシアンジアミドイオン、トリシアノメタンイオンまたはチオシアネートイオンを示す。)
溶媒はその1種を単独で使用しても良いし、また2種以上を混合して使用しても良い。
可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質は、通常、いわゆるレドックス材と称されるものであるが、特にその種類を制限するものではない。かかる物質としては、例えば、フェロセン、p−ベンゾキノン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン、テトラチアフルバレン、アントラセン、p−トルイルアミン等を挙げることができる。また、LiI、NaI、KI、CsI、CaI、4級イミダゾリウムのヨウ素塩、テトラアルキルアンモニウムのヨウ素塩、BrとLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBrなどの金属臭化物などが挙げられ、また、Brとテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ビピリジニウムブロマイド、臭素塩、フェロシアン酸−フェリシアン酸塩などの錯塩、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド、ヒドロキノン−キノン、ビオロゲン色素、コバルト錯体などを挙げることができる。
レドックス材は、酸化体、還元体のどちらか一方のみを用いてもよいし、酸化体と還元体を適当なモル比で混合し、添加することもできる。また、電気化学的応答性を示すように、これら酸化還元対を添加するなどしても良い。そのような性質を示す材料としては、ハロゲンイオン、SCN、ClO 、BF 、CFSO 、(CFSO、(CSO、PF 、AsF 、CHCOO、CH(C)SO 、および(CSOから選ばれる対アニオンを有するフェロセニウムなどのメタロセニウム塩などのほか、ヨウ素、臭素、塩素などのハロゲン類を用いることもできる。
また、他の可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質としては、ハロゲンイオン、SCNおよびSeCNから選ばれる対アニオン(X)を有する塩が挙げられる。これらの塩の例としては、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩、グアニジウム塩などが例示できる。
4級アンモニウム塩としては、具体的には、(CH、(C、(n−C、さらには、
等が挙げられる。
ホスホニウム塩としては、具体的には、(CH、(C、(C、(C、さらには、
等が挙げられる。
また、イミダゾリウム塩としては、以下の一般式で示されるものが挙げられる。
ここで、RおよびRは各々炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基を示しており、互いに同一でも異なっても良い。また、R〜Rは各々、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基を示しており、互いに同一でも異なっても良い。Xはハロゲンイオン、SCN、またはSeCNを示す。
このようなイミダゾリウム塩の具体例としては、1−プロピル−2,3−ジメチル−イミダゾリウム塩、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム塩等が挙げられる。
もちろん、これらの混合物も好適に用いることができる。
また、可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質として、レドックス性常温溶融塩類も用いることができる。ここで、レドックス性常温溶融塩とは、常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩を示すものであって、かつ可逆的な電気化学的酸化還元反応を行うことができるものである。可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質として、レドックス性常温溶融塩類を用いる場合、前記溶媒は用いても、用いなくてもどちらの形態でもよい。
レドックス性常温溶融塩はその1種を単独で使用することができ、また2種以上を混合しても使用することもできる。
レドックス性常温溶融塩の例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
(ここで、Rは炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオン、SeCNまたはSCNを示す。)
(ここで、RおよびRは各々炭素数1〜10のアルキル基(好ましくはメチル基またはエチル基)、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基(好ましくはベンジル基)を示しており、互いに同一でも異なっても良い。また、Xはハロゲンイオン、SeCNまたはSCNを示す。)
(ここで、R、R、R、Rは、各々炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(フェニル基など)、またはメトキシメチル基などを示し、互いに同一でも異なってもよい。また、Xはハロゲンイオン、SeCNまたはSCNを示す。)
可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質の使用量は、溶媒に溶解する限りにおいては特に限定されるものではないが、通常溶媒に対して、1〜50質量%、好ましくは3〜30質量%であることが望ましい。
また、必要に応じて加えられる支持電解質としては、電気化学の分野又は電池の分野で通常使用される塩類、酸類、アルカリ類、常温溶融塩類が使用できる。
塩類としては、特に制限はなく、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩、環状4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、環状4級ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩、グアニジウム塩などが使用できる。
塩類の具体例としては、ClO 、BF 、CFSO 、(CFSO、(CSO、PF 、AsF 、CHCOO、CH(C)SO 、(CSO、およびジシアンジアミドイオン(DCA)から選ばれる対アニオンを有するアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、4級アンモニウム塩、環状4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、環状4級ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩、あるいはグアニジウム塩が挙げられる。
アルカリ金属、アルカリ土類金属塩の具体例としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON、CHCOOLi、CH(C)SOLi、Li(CSOC、LiDCA、Mg(ClO、Mg(BF、Mg(PF、Mg(CFSO、Mg[(CFSON]、Mg[(CSON]、Mg(CHCOO)、Mg[CH(C)SO、Mg[(CSOC]、Mg(DCA)等が挙げられる。
4級アンモニウム塩、環状4級アンモニウム塩の具体例としては、(CHNBF、(CNBF、(n−CNBF、(CNBr、(CNClO、(n−CNClO、CH(CNBF、(CH(CNBF、(CHNSOCF、(CNSOCF、(n−CNSOCF、さらには、
等が挙げられる。
またホスホニウム塩、環状ホスホニウム塩の具体例としては、(CHPBF、(CPBF、(CPBF、(CPBF、さらには、
等が挙げられる。
また、イミダゾリウム塩の具体例としては、1−プロピル−2,3−ジメチル−イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート等が挙げられる。
また、グアニジウム塩の具体例としては、塩酸グアニジウム、チアシアン酸グアニジウム、硝酸グアニジウムなどが挙げられる。
また、これらの混合物も好適に用いることができる。
また、酸類も特に限定されず、無機酸、有機酸などが使用でき、具体的には硫酸、塩酸、リン酸類、スルホン酸類、カルボン酸類などが使用できる。
アルカリ類も特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどがいずれも使用可能である。
常温溶融塩類としては、前記した化合物が用いられる。
支持電解質の使用量については特に制限はなく、任意であるが、通常、電解質中の濃度として、0.01〜10mol/L、好ましくは0.05〜1mol/L程度を含有させることができる。
次に、所望により電解質層140に添加する任意成分に関して説明する。
任意成分としては、紫外線吸収剤、アミン化合物などを挙げることができる。用いることができる紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物、ベンゾフェノン骨格を有する化合物等の有機紫外線吸収剤が代表的な物として挙げられる。
ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が好適に挙げられる。
一般式(1)において、Rは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基を示す。ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。Rの置換位置は、ベンゾトリアゾール骨格の4位または5位であるが、ハロゲン原子およびアルキル基は通常4位に位置する。Rは、水素原子または炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基を示す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。Rは、炭素数1〜10、好ましくは1〜3のアルキレン基またはアルキリデン基を示す。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等を挙げることができ、またアルキリデン基としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基等が挙げられる。
一般式(1)で示される化合物の具体例としては、3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパン酸、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンエタン酸、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシベンゼンエタン酸、3−(5−メチル−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1−メチルエチル)−4−ヒドロキシベンゼンプロパン酸、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパン酸オクチルエステル等が挙げられる。
ベンゾフェノン骨格を有する化合物としては、例えば、下記の一般式(2)〜(4)で示される化合物が好適に挙げられる。
上記一般式(2)〜(4)において、R、R、R、R、R11、及びR12は、互いに同一もしくは異なる基であって、ヒドロキシル基、炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基またはアルコキシ基を示す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、及びシクロヘキシル基等を挙げることができる。またアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、i−プロポキシ基、及びブトキシ基等を挙げることができる。
、R、及びR10は、炭素数1〜10、好ましくは1〜3のアルキレン基またはアルキリデン基を示す。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、及びプロピレン基等を挙げることができる。アルキリデン基としては、例えば、エチリデン基、及びプロピリデン基等が挙げられる。
p1、p2、p3、q1、q2、及びq3は、それぞれ別個に0乃至3の整数を表す。
上記一般式(2)〜(4)で表されるベンゾフェノン骨格を有する化合物の好ましい例としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−カルボン酸、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−カルボン酸、4−(2−ヒドロキシベンゾイル)−3−ヒドロキシベンゼンプロパン酸、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。もちろん、これらを二種以上組み合わせて使用することができる。
紫外線吸収剤の使用は任意であり、また使用する場合の使用量も特に制限されるものではないが、使用する場合は電解質中に0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、20質量%以下、好ましくは10質量%以下の範囲の量で含有させることが望ましい。
電解質に含有させることができるアミン化合物としては、特に限定されず、各種脂肪族アミン、芳香族アミンが用いられるが、例えば、ピリジン誘導体、アニリン誘導体、キノリン誘導体、イミダゾール誘導体などが代表的なものとして挙げられる。これらのアミン化合物を添加することで、開放電圧の向上が見込まれる。これらの化合物の具体例としては、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、4−エチルピリジン、4−プロピルピリジン、4−t−ブチル−ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、2−ジメチルアミノピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、4−ピリジノピリジン、4−ピロリジノピリジン、4−(2−アミノエチル)ピリジン、2−(2−アミノエチル)ピリジン、2−メトキシメチルピリジン、ピコリン酸、2−ピリジンメタノール、2−ピリジンエタノール、3−ピリジンメタノール、2,3−シクロペンテノピリジン、ニコチンアミド、ニコチン酸、4,4’−ビピリジン、2,2’−ビピリジン等のピリジン誘導体や、アニリン、ジメチルアニリン等のアニリン誘導体、キノリン、イソキノリンなどのキノリン誘導体、ベンズイミダゾール、N−メチルベンズイミダゾールなどのイミダゾール誘導体が挙げられる。
前記アミン化合物の使用は任意であり、また使用する場合の使用量も特に制限されるものではないが、使用する場合は電解質中の濃度として、0.001〜10mol/L、好ましくは0.01〜1mol/Lであることが望ましい。
また、本発明において用いる電解質としては、前記のような液体系でもよいが、固体化が可能であるとの観点から、高分子固体電解質が特に好ましい。高分子固体電解質としては、特に好ましいものとして、(a)高分子マトリックス(成分(a))に、少なくとも(b)可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質(成分(b))を含有し、所望により(c)可塑剤(成分(c))をさらに含有するものが挙げられる。また、これらに加え、所望によりさらに前記した支持電解質、紫外線吸収剤、アミン化合物などの他の任意成分を含有させてもよい。高分子固体電解質としては、前記成分(b)または、成分(b)と成分(c)、あるいはさらなる任意成分が、高分子マトリックス中に保持されることによって固体状態またはゲル状態が形成される。
本発明において高分子マトリックス(成分(a))として使用できる材料としては、高分子マトリックス単体で、あるいは可塑剤の添加や、支持電解質の添加、または可塑剤と支持電解質の添加によって固体状態またはゲル状態が形成されれば特に制限は無く、一般的に用いられるいわゆる高分子化合物を用いることができる。
上記高分子マトリックスとしての特性を示す高分子化合物としては、ヘキサフロロプロピレン、テトラフロロエチレン、トリフロロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、フッ化ビニリデンなどのモノマーを重合または共重合して得られる高分子化合物を挙げることができる。またこれらの高分子化合物は単独で用いても良く、また混合して用いても良い。これらの中でも、特にポリフッ化ビニリデン系高分子化合物が好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系高分子化合物としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、あるいはフッ化ビニリデンと他の重合性モノマー、好適にはラジカル重合性モノマーとの共重合体を挙げることができる。フッ化ビニリデンと共重合させる他の重合性モノマー(以下、共重合性モノマーという。)としては、具体的には、ヘキサフロロプロピレン、テトラフロロエチレン、トリフロロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレンなどを例示することができる。これらの中でも、特にカルボキシル基を有するモノマーとの共重合体が好ましい。すなわち、ポリフッ化ビニリデン系高分子化合物としては、カルボキシル基を含有するものが好ましい。
これらの共重合性モノマーは、モノマー全量に対して0.1〜50mol%、好ましくは1〜25mol%の範囲で使用することができる。
共重合性モノマーとしては、好適にはヘキサフロロプロピレンが用いられる。本発明においては、特にフッ化ビニリデンにヘキサフロロプロピレンを1〜25mol%共重合させたフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合体を高分子マトリックスとするイオン伝導性フィルムとして好ましく用いることができる。また共重合比の異なる2種類以上のフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合体を混合して使用しても良い。
また、これらの共重合性モノマーを2種類以上用いてフッ化ビニリデンと共重合させることもできる。例えば、フッ化ビニリデン+ヘキサフロロプロピレン+テトラフロロエチレン、フッ化ビニリデン+ヘキサフロロプロピレン+アクリル酸、フッ化ビニリデン+ヘキサフロロプロピレン+無水マレイン酸、フッ化ビニリデン+テトラフロロエチレン+エチレン、フッ化ビニリデン+テトラフロロエチレン+プロピレンなどの組み合わせで共重合させて得られる共重合体を使用することもできる。
さらに、本発明においては高分子マトリックスとしてポリフッ化ビニリデン系高分子化合物に、ポリアクリル酸系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリメタクリル酸系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリロニトリル系高分子化合物およびポリエーテル系高分子化合物から選ばれる高分子化合物を1種類以上混合して使用することもできる。あるいはポリフッ化ビニリデン系高分子化合物に、上記した高分子化合物のモノマーを2種以上共重合させて得られる共重合体を1種類以上混合して使用することもできる。このときの単独重合体あるいは共重合体の配合割合は、ポリフッ化ビニリデン系高分子化合物100質量部に対して、通常200質量部以下とすることが好ましい。
本発明において用いられるポリフッ化ビニリデン系高分子化合物の重量平均分子量は、通常10,000〜2,000,000であり、好ましくは100,000〜1,000,000の範囲のものが好適に使用することができる。
可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質(成分(b))としては、液体系電解質において例示した可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質を挙げることができる。
可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質(成分(b))の使用量については特に制限はないが、通常、高分子固体電解質中に0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、かつ70質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下の量で含有させることができる。
なお、成分(b)は、可塑剤(成分(c))と併用することが好ましい。
可塑剤(成分(c))は、可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質に対する溶媒として作用する。かかる可塑剤としては、一般に電気化学セルや電池において電解質溶媒として使用され得るものであればいずれも使用することができ、具体的には液体系電解質にお
いて例示した各種溶媒を挙げることができる。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、3−メチル−2−オキサゾリジノン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジオキソラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが好ましい。また、前述した常温溶融塩類も用いることができる。可塑剤はその1種を単独で使用しても良いし、また2種以上を混合して使用しても良い。
可塑剤(成分(c))の使用量は特に制限はないが、通常、高分子固体電解質中に20質量%以上、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、かつ98質量%以下、好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下の量で含有させることができる。
成分(b)と成分(c)を併用する場合、成分(b)は、成分(c)に溶解しかつ高分子固体電解質とした際にも析出等が起こらない混合比とすることが望ましく、好ましくは成分(b)/成分(c)が質量比で0.01〜0.5、さらに好ましくは0.03〜0.3の範囲である。
また、成分(a)に対しては、好ましくは成分(a)/(成分(b)+成分(c))質量比が1/20〜1/1、さらに好ましくは1/10〜1/2の範囲であることが望ましい。
これらに加え、固体電解質中には、所望によりさらに支持電解質、紫外線吸収剤、アミン化合物などの他の任意成分を含有させてもよい。
高分子固体電解質における支持電解質の使用量については特に制限はなく任意であるが
、通常、高分子固体電解質中に0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、かつ70質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下の量で含有させることができる。また、紫外線吸収剤、アミン化合物などの種類および含有量は液体電解質において例示した通りである。
本発明において高分子固体電解質はイオン伝導性フィルムとして用いることができる。例えば、前記成分(a)および(b)、あるいはさらに所望により配合される任意成分からなる高分子固体電解質を公知の方法によりフィルムに成形することによりイオン伝導性フィルムを得ることが出来る。この場合の成形方法としては特に限定されず、押出し成型、キャスト法によるフィルム状態で得る方法、スピンコート法、ディップコート法や、注入法、含浸法などを挙げることができる。
押出し成型については常法により行うことができ、前記混合物を過熱溶融した後、フィルム成型することが行われる。
キャスト法については、前記混合物をさらに適当な希釈剤にて粘度調整を行い、キャスト法に用いられる通常のコータにて塗布し、乾燥することで成膜することができる。コータとしては、ドクタコータ、ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、リバースロールコータ、グラビアコータ、スプレイコータ、カーテンコータを用いることができ、粘度および膜厚により使い分けることができる。
スピンコート法については、前記混合物をさらに適当な希釈剤にて粘度調整を行い、市販のスピンコーターにて塗布し、乾燥することで成膜することができる。
ディップコート法については、前記混合物をさらに適当な希釈剤にて粘度調整を行って混合物溶液を作製し、適当な基盤を混合物溶液より引き上げた後、乾燥することで成膜することができる。
(10)シール材70
量子ドット増感型太陽電池のセル1は、対電極35の透明基板5と対向電極65の対極基板60を所定の間隔を隔てて対向させ、これら基板間の周縁部をシール材70でシール(密封)して、セル1を形成した構造を有する。
セル1の電極基板(透明基板5と対極基板60)間の間隔は、通常5〜300μm、好ましくは10〜100μmが望ましい。また上記電極間の間隔は、少なくとも。透明導電膜10と、n型半導体ナノ粒子20と、半導体量子ドット30と電解質層40と、対極50それぞれに必要な厚さを十分に確保する必要がある。
シールの方法としては、特に限定されないが、各種シール材により種々の周知の方法を用いることができる。
シール材70としては、特に限定されるものではなく、電池セル1の内部を密封し外部と隔絶して、電池セル1の性能に影響を与える成分、例えば、水分や酸素、一酸化炭素などの活性ガスなどの透過を阻止することが可能な材料であれば良い。例えば、樹脂やゴムなどの高分子材料が挙げられる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン、ポリシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸セルロース、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニールアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシアノアクリレート、ポリアミドなどが例示できる。またゴムとしては、天然ゴムや合成ゴムが挙げられ、具体的には、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトリルゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルゴムなどが例示できる。また、シール材として硬化性樹脂を用いることもできる。かかる硬化性樹脂は特に限定されるものではなく、熱硬化型、光硬化型、電子線硬化型などの種々の硬化型のものが利用可能である。利用できる硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニールアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシアノアクリレート、ポリアミド等が挙げられる。これらは単独で用いても、また、2種あるいはそれ以上を混合して用いてもよい。また、これらを変成したり、フィラーを加えるなどして種々の改良を加えたものであっても良い。これらの中でも特にエポキシ樹脂、アクリル変成したエポキシ樹脂(この場合は、含有するエポキシ基1モルに対してアクリル基が0.01〜0.3モル、好ましくは0.05〜0.2モル含むようにアクリル変成したエポキシ樹脂)等が望ましい。
前記樹脂やゴム中には、基板間の間隔を調節するなどの目的でスペーサー材料を含んでも良い。この目的のために利用するスペーサー材料は、少なくとも非導電性の材料であって、その形状は特に限定されるものではなく、シート状、球状、繊維状、棒状などいずれでも良い。
次に、これらのシール材70を用いて透明基板5と対極基板60の基板間をシールする方法を下記に例示するが、シール方法としてはこれらに限定されるものではなく、各種の周知の方法が適用可能である。
(1)予め、シールする形状に加工、成形したシール材を作製した後、透明基板5と対極基板60の基板間に挟み込む方法。
(2)硬化性樹脂のペーストを基板表面に公知の印刷方法を用いて所望の形状に形成する方法。
(3)基板表面にシール材70を随時塗布していく方法。
(4)シール材70をノズルから吐出させながら掃引し、基板上に任意のパターンを形成する方法。
これらのうちでは、特に(4)による方法が好ましい。
なお、シール材70は、透明基板5と対極基板60の両方に塗布しても良いし、どちらか一方のみに塗布しても良い。
硬化性樹脂を塗布した場合には、透明基板5と対極基板60の基板を貼り合わせたのち硬化させるが、硬化方法は用いる硬化性樹脂により異なることは言うまでもない。
熱硬化の場合では、室温で硬化可能なものも用いることができるが、通常加熱が必要な場合は、室温から150℃の間で、好ましくは室温から100℃の間で硬化できればよい。また、硬化に要する時間は、量子ドット増感太陽電池特性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは24時間以内、より好ましくは1時間以内である。
光硬化の場合では、開始剤の吸収波長に適合したランプであれば、低圧、高圧、超高圧の各水銀ランプ、キセノンランプ、白熱ランプ、レーザー光などが利用できる。硬化の際には素子全面を均一露光することで、全面同時硬化させても良いし、ランプや光源を移動させたり、光ファイバーなどの導光性材料を利用することによって集光したスポット光を走査して逐次硬化させても良い。また、2回以上繰り返すことによって硬化させても良い。
前記方法により作製されるシール部には、1カ所以上の注入口あるいは排気口を設けることもできる。注入口は、例えば、意図的にシール材70を塗布しないなどによって容易に作ることができるが、その形状は単にシール材70により仕切られた二つの空間を導通していればどのようなものでも良いし、例えば、中空材料などを使って、導通させることもできる。
電解質又はその前駆体の注入方法については、一般的な方法である真空注入法が使用可能であるが、目的が達成できればどのような方法でも使用可能である。
また注入口は、通常電解質又はその前駆体を注入した後、封止材などにより封止する。
封止操作は、特に限定されないが、できるだけ不活性ガス雰囲気下か湿度の極めて低い状態で行うことが望ましい。
封止材としては、特に限定されないが、例えば注入口部分に注入、充填あるいは塗布することにより電池セル1の内部を密封し外部とを隔絶して、電池セル1の性能に影響を与える成分、例えば、水分や酸素、一酸化炭素などの活性ガスなどの透過を阻止することが可能な材料であれば特に制限されることはない。
かかる封止材としてはガラスやセラミックなどの無機材料、樹脂やゴムなどの高分子材料が挙げられる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン、ポリシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸セルロース、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニールアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシアノアクリレート、ポリアミドなどが例示できる。またゴムとしては、天然ゴムや合成ゴムが挙げられ、具体的には、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトリルゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルゴムなどが例示できる。
また、封止材として硬化性樹脂などを用い、それらを封止口に注入、充填あるいは塗布したのち硬化せしめて塞いでもよい。かかる硬化性樹脂としては特に限定されるものではなく、熱硬化型、光硬化型、電子線硬化型などの種々の硬化型材料が利用可能である。利用できる硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニールアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシアノアクリレート、ポリアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いても、また、2種あるいはそれ以上を混合して用いてもよい。また、これらを変成したり、フィラーを加えるなどして、種々の改良を加えたものであっても良い。これらの中では耐溶剤性の点から特にエポキシ樹脂が好ましい。また、アクリル変成したエポキシ樹脂で光硬化型のものも好ましく用いられる。この場合は、含有するエポキシ基1モルに対してアクリル基が0.01〜0.3モル、好ましくは0.05〜0.2モル含むようにアクリル変成したエポキシ樹脂が良い。
熱硬化の場合では、室温で硬化可能なものも用いることができるが、加熱が必要な場合は各種オーブン、赤外線ヒーター、電熱ヒーター、面状発熱体などを用いて加熱することができる。通常は室温から150℃の間で、好ましくは室温から100℃の間で硬化できればよい。また、硬化に要する時間は、量子ドット増感太陽電池特性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは24時間以内、より好ましくは1時間以内である。
光硬化の場合では、開始剤の吸収波長に適合したランプであれば、低圧、高圧、超高圧の各水銀ランプ、キセノンランプ、白熱ランプ、レーザー光などが利用できる。硬化の際には電池セル1の素子全面を均一露光し、全面同時硬化しても良いし、ランプや光源を移動させたり、光ファイバーなどの導光性材料で導いたり、ミラー等を利用することによって集光したスポット光を走査して逐次硬化しても良い。
上記の封止材は単独で用いるほか、適当に選択した2種以上を併用してもよい。なお、電解質又はその前駆体として電解質前駆体を用いた場合、その前駆体を電解質とするための操作、例えば光重合、光架橋、熱重合、熱架橋などを行う必要があるが、当該操作は、注入直後に行ってもよく、封止操作後に行なってもよい。
(B)量子ドット増感太陽電池(及びセル1)の発電メカニズム
図2、図6(e)に示すように、本実施形態の量子ドット増感太陽電池(及びセル1)の発電メカニズムとしては、一般的に半導体量子ドット30は光(光源)90を吸収し、電子を放出する。電子は、n型半導体ナノ粒子20に注入され、n型半導体ナノ粒子20内を通り、透明導電膜10へと伝わる。更に電子は、外部回路80を介して対極50へ移動し、電解質層40内の電解質溶液のイオンを還元する。還元された電解質は再び、半導体量子ドット30上で酸化される。この動作を繰り返す事で電気が流れる仕組みになっている。
(C)量子ドット増感太陽電池(及びセル1)の製造方法の概要
一般的な量子ドット増感型太陽電池のセル1の製造方法を順を追って説明する。
図6(a)〜(e)は、量子ドット増感型太陽電池のセル1の製造工程図であって、それぞれ上部が立体図(斜視図)となり、下部がその断面図である。
図6(a)に示した透明電極15(透明基板5+透明導電膜10)の上に、図6(b)に示すように、TiO等のn型半導体のナノ粒子20からなるペースト膜を形成する。この時、ペーストの製法は一般的にはナノ粒子を水、分散剤、増粘材に混ぜた状態でペーストし、その後アニールにて焼き固めるケースが多い。
その後、図6(c)でFe/Fe化合物30aをn型半導体のナノ粒子20の上に吸着させる。その後、図6(d)の工程にて硫化処理(固相表面と気相接触反応)を施し、(c)で吸着したFe/Fe化合物30aが、パイライト型結晶構造を有する二硫化鉄(立方晶のFeS)へと変わる。最後に図6(e)の工程にて対向電極65(対極50+対極基板60)で挟み、基板(電極)間の空隙部分(電解質層40)をシール材70でシール後、注入口より電解質を注入し封止する。この時、電解質は液体でも固体でもどちらでもよい。
以上が、量子ドット増感太陽電池(及びセル1)の製造方法の概要である。
次に、図6(c)の鉄/鉄化合物の吸着の所と、図6(d)の本実施形態の硫化処理方法の部分について詳しく説明する。
(D)鉄/鉄化合物の吸着方法
図6(c)の工程で吸着されている鉄/鉄化合物30aは、主に、成分ではFe、FeS、Fe(1−x)S、FeOOH、α―Fe、γ―Fe、FeSOのうちのいずれか1種または2種以上の組み合わせから構成される。鉄/鉄化合物30aの吸着方法としては、図7に示すように電解めっき、Feのスパッタ、蒸着、Feイオンを含んだ硝酸鉄溶液や有機溶媒への浸漬、Feナノ粒子を溶媒に溶かせて浸漬する方法等が挙げられる。以下、本実施形態においては、電解めっきを用いた鉄/鉄化合物30aの吸着方法を例により説明するが、本発明がこれらに何ら制限されるものでないことは言うまでもない。好ましくは電解めっき法である。かかる方法を用いることで凝集させることなく、鉄/鉄化合物30aを吸着させることができる点で優れている。
図7は、鉄/鉄化合物30aの吸着方法として用いた電解めっき方法(具体的には鉄化合物FeSの吸着)を模式的に表す概略図である。図7に示すように、陽極側にPt電極板310、陰極側に光電極となる基板320(詳しくは、図6(b)の工程で得られた基板、詳しくは透明導電膜10)を用いて電源部330と電気的に接続した。Pt電極板310と基板320は一定間隔を隔てて対向するようにして、めっき浴340中に浸漬した。この際、図に示すように、陰極側に光電極となる基板320(詳しくは、図6(b)の工程で得られた基板のn型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)20が完全にめっき液中に浸漬するようにし、Pt電極板310でめっき条件が制限されないように基板320に比して十分大きな基板(面積)を採用した。めっき浴340のめっき液300は、Feイオンの入った溶液とする。例えば、FeSO水溶液とNa水溶液の混合物でもよい。
ここで、陰極側に光電極となる基板320に対して電源部330を通じて電流を流すことで、該基板320のTiO((図6(b)のn型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)20参照)上に硫化鉄(Fe1−xS)のめっき膜320aが形成される。(図6(c)の鉄/鉄化合物30a参照)。なお、この時の硫化処理前サンプル(図7の陰極側の光電極となる基板320のTiO上に硫化鉄(Fe1−xS)のめっき膜320aが形成されるもの)におけるX線回折法による物質同定(XRD結果)を図10に表す。この時の図10の硫化処理前サンプルのXRDの結果であるが、FeSの成分は見られない。恐らく、めっき後は結晶が形成されておらず、アモルファスの状態であると考えられる。また、硫化処理前サンプルをNアニールした場合におけるXRD結果を図11に表す。図11に示すように、このサンプルをNアニールすることで硫化鉄(Fe1−xS)がXRDで検出される。このことから、めっき直後は元々硫化鉄(Fe1−xS)の成分をもっているが十分に結晶となっていない状態であると考えられる。また、この時、めっき膜320aの膜厚は、めっき電流密度と時間のパラメータで任意の厚さに仕上げることができる。
(E)気相での反応方法を用いた硫化処理方法
図8aは、図7の電解めっき方法(FeS吸着)により得られたサンプルを、硫化処理方法として、本実施形態による気相での反応方法を用いた概略図である。
(工程a)
図8aに示すように、内壁がテフロン等の反応に寄与しない材質でできた密閉容器401の中に硫黄を含む溶液450を入れる。なお、硫黄を含む溶液450は、図8aに示すように、光電極基板430が浸漬しない程度まで入れておくのが好ましい。特に本実施形態では、図8aに示すように、密閉容器401内において、水蒸気と硫黄を含む混合ガスと、該鉄/鉄化合物30aを気相中で接触させながら加熱して反応させることができるように、光電極基板430が内在される気相部分460を設けておくことが重要である。
ここで、硫黄を含む溶液450としては、チオ硫酸ナトリウム溶液、硫化ナトリウム溶液及び硫化水素ナトリウム溶液のうちの1種類以上であることが望ましい。これは、上記した本発明の効果以外にも以下の効果があるためである。即ち、通常、硫化処理には硫黄蒸気あるいは、硫化水素ガスが必要であり、爆発性や毒性が問題となり、安全対策を施した設備が必要となる。しかしながら、チオ硫酸ナトリウム溶液、硫化ナトリウム溶液及び硫化水素ナトリウム溶液の1種類以上を扱うことで少なくとも加熱しない限り、硫化水素が発生しないといったことから、反応前と反応後は硫化水素が発生しない安全な溶液として扱えるためである。なお、これらチオ硫酸ナトリウム溶液、硫化ナトリウム溶液及び硫化水素ナトリウム溶液(更には硫黄を含む溶液)には、例えば、水、水とアルコールの混合溶液、水とアンモニアとの混合溶液などが含まれているが、これらに制限されるものではない。
さらに、この反応液(硫黄を含む溶液)450に光電極基板430が浸漬しないように支持部材440を入れる(更に支持する)方法としては、特に制限されるものではない。例えば、(1)この反応液(硫黄を含む溶液)450に光電極基板430が浸漬しない様に複数の支持部材440を適用な間隔をあけて垂直にたてて(縦向き)に入れる(固定する)。この支持部材440は、反応に影響しない、テフロンやガラス材料等が望ましく、棒状(円柱、三角柱、四角柱等)で上底及び下底が平坦で安定したものがよい。(2)また、気相部分460に適当な目開きサイズの網目状、格子状、菱形状、矩形状、波状などのテフロン被覆した金網等を支持部材(図示せず)として水平に載置(固定)してもよい。(3)さらに、気相部分460に適当な間隔でテフロンやガラス材料の複数の棒状(円柱、三角柱、四角柱等)の支持部材(図示せず)を水平方向(横向き)に並べて載置(固定)してもよい。(4)あるいは、密閉容器401の上部から適当な挟持部材(=支持部材)(図示せず)で光電極基板430の両側面から挟み込む(支持する)ようにしてもよい。(5)また、密閉容器401の上部から適当な紐状、鎖状、鎖釜状部材(=支持部材)(図示せず)で先端部が鍵爪(フック)状、吸盤状のもので光電極基板430の両側面部または端部4箇所を支持するようにしてもよい。(6)上記(5)の支持部材の先端部を適用の仮止材(着脱自在な粘着剤)や縛るなどして固定するなどして光電極基板430の両側面部または端部4箇所を支持するようにしてもよい。(7)さらにこれら(1)〜(6)等の方法を適当に組み合わせてもよいなど、特に制限されるものではない。なお、硫黄を含む溶液450は、上記(1)〜(7)等のいずれの形態においても、図8aに示すように、支持部材上の光電極基板430が浸漬しない位置まで入れておけばよい(図8a参照)。
即ち、本実施形態では、図8に示すように、密閉容器401内に硫黄を含む溶液450が含まれており、少なくとも電荷分離用半導体基板430に鉄/鉄化合物30a(ないしめっき膜320a)が吸着された反応面が、該硫黄を含む溶液450に直接接触していない位置に配置された状態で反応させることが望ましい。これは、上記してきた本発明の作用効果に加えて、以下の効果がある。即ち、硫黄を含む溶液450と鉄/鉄化合物30aの存在する面(鉄/鉄化合物30a(めっき膜320a)が吸着された反応面)を分離(離間)して設置することで、液相の中の反応ではなく、水蒸気と硫黄を含んだ気相の中での反応となる。その結果、液相中での反応に比べて、乾式で反応できる為、二硫化鉄の凝集が防止でき、微粒子化に繋がる。(図9の中央部(参考例1)と右図(実施例1)とを対比参照願います。)。なお、上記電荷分離用半導体基板430とは、図6(b)に示すような、Fe/Fe化合物30aを吸着させる前の、n型半導体のナノ粒子20が吸着された段階の基板(いわゆるチタニア基板)をいう。よって、電荷分離用半導体基板に前記鉄/鉄化合物が吸着された反応面を有する構成が図6(c)に示す基板であり、図6(d)のように、更に硫化処理により、半導体量子ドット(パイライト)30が形成された基板(量子ドット増感型太陽電池のセル1の光電極となる基板430)を指すものではない。
支持部材440上の光電極基板430は、図8に示すように気相部分460にあればよく、横向きに寝かせるように水平に載置するのが安定性の観点から望ましいが、垂直に立てて設置(固定)させてもよいし、斜めに建てかけてもよいなど特に制限されるものではない。
支持部材440上の光電極基板430の反応面である鉄/鉄化合物30aの存在する面(めっき膜320aが吸着された面)を、密閉容器401の反溶液側(溶液面に対向しない逆向きの面側)ないしは該容器401の上方面に向けて設置させて反応させることが望ましい。これは、上記してきた本発明の作用効果に加えて、以下の効果がある。即ち、反溶液側(溶液面に対向しない逆向きの面側)とすることで、加熱時の突沸等が起こったとしても、その溶液が直接基板430にかかる事がなく、安定して気相反応できる。結果として液450中の介在による凝集を防ぐ事ができ、微粒子化にも繋がる。
(工程b)
次に、密閉容器401内において、上記した支持部材440の上に光電極基板430を設置させて、水蒸気と硫黄を含む混合ガスと、該鉄/鉄化合物30a(めっき膜320a)を気相中で接触させながら加熱して反応させるものである。具体的には、上記した支持部材440の上に光電極基板430を設置させて、加熱して反応させる際の、容器内温度は、180℃以上、好ましくは180℃〜500℃であり、パイライト粒子の凝集防止の観点から、より好ましくは180〜200℃の範囲で定温加熱を行うものである。容器内温度としたのは、雰囲気加熱しているので、容器内温度は全部同じ温度となっているためである。容器内温度が180℃未満の場合には、硫化処理がされない為(パイライトが生成されない為)である。また、容器内温度の上限値については特に制限されるものではないが、気相などで行う場合には500℃でも問題ない。また、加熱して反応させる際の容器内の圧力は、水の蒸気圧になっており、温度により変化する(決定される)。また加熱して反応させる際の反応時間は、24時間以上、好ましくは24〜96時間の範囲である。反応時間が24時間未満であれば、硫化処理がされない為(パイライトが生成されない為)である。なお、反応時間の上限値は特に制限されるもの得はないが、ある程度時間を経過することで粒子の凝集が進むようになることから96時間以下が好ましいといえる。
上記硫化処理(加熱して反応)をすることで、密閉容器401上部の気相部分460に、硫黄を含む溶液450側から加熱により水蒸気と硫黄を含む混合ガス(図示せず)が発生する。こうして発生した混合ガスと、支持部材440上(気相部分)に載置された光電極基板430表面(反応面)の鉄/鉄化合物(FeS)30a(めっき膜320a)を気相中で接触させながら加熱して反応(硫化処理)させることができる。これにより、上記してきた本発明の作用効果に加えて、以下の効果がある。即ち、密閉容器401内で硫黄を含むガスで加熱して硫化処理させる事で、容器401内の圧力が上がり、通常400〜500℃必要であったのが、200℃程度の低温でもパイライト(立方晶の二硫化鉄)が形成できる。これにより高温加熱時に起きていた凝集を防ぐ事ができる。結果として、粒径の小さい純パイライト(立方晶の二硫化鉄)の形成が可能となる点で優れている(図9の中央図の参考例1と右図の実施例1を対比参照のこと)。
水蒸気と硫黄を含む混合ガスとしては、具体的には、例えば、水蒸気と硫化水素の混合ガス、水蒸気と硫黄蒸気の混合ガス、水蒸気と硫化水素と硫黄蒸気の混合ガスなどが挙げられるがこれらに制限されるものではない。但し、本実施形態は、これらに何ら制限されるものではなく、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば、各種硫黄含有ガスやその他のガスを含んでいてもよい。好ましくは、密閉容器401の気相部分460は、不活性ガスで封入されていることが望ましい。これは、上記してきた本発明の作用効果に加えて、以下の効果がある。即ち、密閉容器401の気相部分460をN等の不活性ガスで封止することで、酸化鉄(量子ドット増感型太陽電池の増感剤として機能し得ない)の生成が防止できる点で優れている。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、18族の希ガス元素貸し(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス、ラドンガス)などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。経済性の観点からは、窒素ガスが好ましい。
本実施形態の硫化処理方法によれば、図9の右図に示すように、結晶粒径(平均粒径)として100nm程度まで微粒子化することができるものである。これにより、上記したような改善された電解質などの好適な構成部材を組み合わせる(最適化させる)ことにより、粒径の小さいパイライトからTiOナノ粒子のようなn型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)20に効率よく電子注入できる。そのため、光電変換効率のよい量子ドット増感型太陽電池およびその増感剤を提供することができる。
なお、図13は、本実施形態による気相で硫化処理して得られた二硫化鉄粒子のサンプルのXRD結果を表す図面である。図13に示すように、得られた二硫化鉄粒子をXRD分析した結果、パイライト(立方晶のFeS)であることがわかる。
図14は、液相で硫化処理した参考例1のサンプルと気相で硫化処理した実施例1のサンプルのXRD結果よりシェラーの式で算出したパイライトの結晶子径を表す図面である。図14にXRDの半値幅から求められる結晶子径(1次粒子径)を示すが、液相に比べ、気相反応にしたことで、どの結晶方位に関しても、結晶子径が小さくできることがわかる。
(F)気相での反応方法を用いた硫化処理方法を量産装置として展開する場合
図15は、量産時における硫化処理の一実施形態である大型密閉容器(反応装置)の概略断面図である。図8aに示すラボレベルの装置を量産装置として展開する場合、図15に示したような、フラットでかつ大型の密閉容器(反応容器)500に硫黄を含む溶液530を入れさらに、液相と分離させる為の仕切り部材510を容器500内に設置する。なお、この時、仕切り部材510は、反応に寄与しないテフロン等安定した材質、更には反応に寄与せず、貴下強度にも優れるようなテフロンで被覆した鋼材などであることが望ましい。その上に光電極基板520をのせて、加熱させる。これにより、水蒸気と硫黄を含む混合ガスと、光電極基板520の反応面の鉄/鉄化合物30a(めっき膜320a)を気相中で接触させながら加熱して反応させるものである。これにより、大量生産が可能となり、性能及び品質が安定かつ均質した製品を安価に提供することが可能となる。
量産装置で加熱する場合の加熱方法としては、大型の密閉容器500ごと周囲加熱(チャンバ等)する方法でも、大型の密閉容器500にヒータを接触させて加熱する方法でもよく、従来公知の方法を適用することができる。
さらに、この反応液(硫黄を含む溶液)530に光電極基板520が浸漬しないように仕切り部材510を容器500内に設置する方法としては、特に制限されるものではない。例えば、(1)この反応液(硫黄を含む溶液)530に光電極基板430が浸漬しないように複数の図8aで用いた支持部材440=仕切り部材510として用い、適用な間隔をあけて垂直にたてて(縦向き)に入れてもよい(固定してもよい)。この仕切り部材510も、反応に影響しない、テフロン材料、テフロン被覆材料、ガラス材料等が望ましく、棒状(円柱、三角柱、四角柱等)で上底及び下底が平坦で安定したものがよい。(2)また、気相部分540に適当な目開きサイズの網目状、格子状、菱形状、矩形状、波状などのテフロン被覆した金網等を仕切り部材510として水平に載置(固定)してもよい。(3)さらに、図15に示すように、気相部分540に適当な間隔でテフロン材料、テフロン被覆材料、ガラス材料等の棒状(円柱、三角柱、四角柱等)の仕切り部材510を複数の水平方向(横向き)に並べて載置(固定)してもよい。(4)あるいは、密閉容器401の上部から適当な挟持部材(=支持部材)(図示せず)で光電極基板430の両側面から挟み込む(支持する)ようにしてもよい。(5)また、密閉容器401の上部から適当な紐状、鎖状、鎖釜状部材(=支持部材)(図示せず)で先端部が鍵爪(フック)状、吸盤状のもので光電極基板430の両側面部または端部4箇所を支持するようにしてもよい。(6)上記(5)の支持部材の先端部を適用の仮止材(着脱自在な粘着剤)や縛るなどして固定するなどして光電極基板430の両側面部または端部4箇所を支持するようにしてもよい。(7)さらにこれら(1)〜(6)等の方法を適当に組み合わせてもよいなど、特に制限されるものではない。なお、硫黄の含まれた溶液450は、上記(1)〜(7)等のいずれの形態においても、図8aに示すように、支持部材上の光電極基板430が浸漬しない位置まで入れておけばよい(図8a参照)。
(G)硫化処理の推定メカニズム
密閉容器内で起こっている反応は図16に示すメカニズムを推定している。
硫黄を含む溶液としてチオ硫酸ナトリウム水溶液を加えた場合においては、
mNaaq→aNaSO+bNaS+cSとなり、NaSが発生する。ここで発生したNaSが硫黄を含む溶液(チオ硫酸ナトリウム水溶液)の水と反応し、
NaS+2HO→2NaOH+HS↑からHSを発生していると考えられる。密閉容器内で発生した水蒸気とHSガスの混合ガスと、Fe/Fe化合物が気相中で接触しながら加熱下(180〜200℃で24〜48時間)で反応(二硫化)して、パイライト(立方晶の二硫化鉄)になったと推定できる。
なお、硫化処理時の加熱温度を180〜200℃と低温化できた理由として、以下の3つが考えられる。
(1)高い全圧(蒸気圧)により反応が促進されている。200℃の場合、水の蒸気圧は1.55MPaとなり、通常の15倍以上となる。全圧が高い事で、密閉容器内の反応が促進される可能性がある。
(2)Fe/Fe化合物が親水性を有している。発生したHSガスが水蒸気との混合ガスを形成し、Fe/Fe化合物と反応している。Fe/Fe化合物を吸着したサンプルの水和性がよく、水分子(特に水蒸気、中でも水蒸気とHSガスとの混合ガス)の存在が反応を促進させている可能性がある。
(3)高いHS分圧により反応が促進されている。(チオ硫酸が減少していた分量40%全てHSまで反応したとすると89mL発生する、このとき用いた密閉容器は50mLである。)。
また、気相でも反応、かつ粒成長が抑えられる推定理由としては、蒸気の状態で硫化できるためと考えられる。
以下、実施例に基づき本発明の硫化処理方法につき、より詳しく説明する。
<参考例1>液相での反応方法を用いた硫化処理方法
ここで、参考例1としたのは、従来の製法(非特許文献1)とは根本的に異なるためである。即ち、参考例1では、鉄/鉄化合物を吸着させた光電極基板420を液相中で反応(硫化処理)させたものであるのに対し、従来の製法(非特許文献1)では、鉄の成分も溶液中に入れて、結晶化(バルク化)させて二硫化鉄のみを作製しているためである。
図8bは、図7の電解めっき方法(FeS吸着)により得られたサンプルを、硫化処理方法として液相での反応方法を用いた概略図である。
図8bに示すように、参考例1の硫化処理方法では、内壁が反応に寄与しないテフロン材質でできた密閉容器(内容積50ml)400内に硫黄を含む溶液410が入っている。ここで、本溶液410としては、チオ硫酸ナトリウム水溶液を用いた。密閉容器400の気相部分には窒素ガスを封入した。この溶液410の中に、鉄成分(鉄/鉄化合物)を吸着させた光電極基板420(図7の電解めっき方法(鉄/鉄化合物としてFeSをめっき吸着)により得られたサンプル)を浸漬し、それを加熱し、反応させた。硫化処理条件としては、非特許文献1に記載の通り、温度200℃で48時間、定温加熱を行うことで、液相での反応(硫化処理)を行った。
図9は、参考例1及び実施例1における効果図である。詳しくは、図9の左図は、図7の電解めっき方法により得られたサンプル(電解めっき後)の成分、SEM画像、結晶子径、結晶粒径を表した図面である。図9の中央図は、図7の電解めっき方法により得られたサンプルを、硫化処理方法として既存の製法による液相での反応方法を用いて得られた参考例1のサンプル(二硫化後(液相))の成分、SEM画像、結晶子径、結晶粒径を表した図面である。図9の右図は、図7の電解めっき方法により得られたサンプルを、本実施形態による気相での反応方法で得られた実施例1のサンプル(二硫化後(気相))の成分、SEM画像、結晶子径、結晶粒径を表した図面である。
図9より、硫化処理の結果、既存の製法により得られた参考例1のサンプル(二硫化後(液相))では、中央図に示すように光電極基板420は、電解めっき後の黒色→灰色(図面では黒色;二硫化鉄)に変化していることが確認できた。また、結晶粒子としては結晶粒径(平均粒径)0.5〜1μm程度までしか細粒化できないことが確認できた。
図12は、液相で硫化処理した参考例1のサンプルのXRD結果を表す図面である。参考例1のサンプルを、XRD分析を行った結果、TiO(n型半導体ナノ粒子20)とパイライトと透明基板5の透明導電膜10の材料(参考例1ではSnOを用いた)であるSnOが検出された。このことより、電解めっきで吸着させた鉄成分がパイライトへと硫化処理されていることが分かった。
光電極(基板)の断面構造の変化としては、図6(c)から図6(d)の反応(硫化処理)である。即ち、硫化処理することで、図6(d)に示すように、TiO粒子(n型半導体ナノ粒子20)上に純パイライト30が形成されることになる。但し、液相で硫化処理した参考例1のサンプルでは、図3に示すように、TiO粒子(n型半導体ナノ粒子20)上に形成される純パイライト30が十分に細粒化されずに、粒子サイズの大きな純パイライト30が形成される。そのため、上述したような様々な問題(箇条書きの(1)〜(5)参照)が発生する。
(参考例1に対する考察・作用効果)
この液相反応においても、非特許文献1以前の従来技術では純パイライトを得るのに500℃での硫化処理が必要であったのに対し、200℃程度で、硫化水素等を使用せずに簡便な方法にて形成できる。
<実施例1>気相での反応方法を用いた硫化処理方法
図8aは、図7の電解めっき方法(FeS吸着)により得られたサンプルを、硫化処理方法として、本実施例による気相での反応方法を用いた概略図である。
図8aに示すように、内壁が反応に寄与しないテフロン材質でできた密閉容器(内容積50ml)401の中に硫黄を含む溶液450(容器内の3分の2程度の高さまで:図8a参照)を40ml入れた。ここで、本溶液450としては、参考例1と同様に、チオ硫酸ナトリウム水溶液を用いた。さらに、この反応液(硫黄を含む溶液)450に光電極基板430(図7の電解めっき方法(鉄/鉄化合物としてFeSめっき吸着)により得られたサンプル)が浸漬しないように10本の支持部材440を垂直方向に立てて入れた(図8a参照)。この支持部材440は、反応に影響しない、直径3mm×高さ35mmの円柱棒状のテフロン材料で上底及び下底が平坦で安定したものを用いた。また、密閉容器401の気相部分には窒素ガスを封入した。この支持部材440の上に光電極基板430の鉄/鉄化合物の存在する面を、密閉容器401の反溶液側ないしは容器上方面に向けて設置させて、参考例1と同様に、温度200℃で48時間、定温加熱を行った。なお、硫黄を含む溶液450は、図8aに示すように、光電極基板430が浸漬しない位置まで入れた状態とした。こうすることで、密閉容器401上部の気相部分460に、チオ硫酸ナトリウム水溶液450から加熱により水蒸気とHSを含む混合ガスが発生させた。更にこの混合ガスと、支持部材440上に載置された光電極基板430の鉄/鉄化合物の反応面を気相中で接触させながら加熱して反応(二硫化反応)させた。
硫化処理の結果、図9の右図に示すように、実施例1のサンプル(二硫化後(気相))では、光電極基板420は、電解めっき後の黒色→灰色(図面では黒色;二硫化鉄)に変化していることが確認できた。また、結晶粒子としては結晶粒径(平均粒径)100nm程度の微粒子が形成されていることが確認できた。
図13は、気相で硫化処理した実施例1のサンプルのXRD結果を表す図面である。実施例1のサンプルを、XRD分析を行った結果、TiO(n型半導体ナノ粒子20)とパイライトと透明基板5の透明導電膜10の材料(実施例1ではSnOを用いた)であるSnOが検出された。このことより、電解めっきで吸着させた鉄成分がパイライトへと硫化処理されていることが判明した。下記表1は、図12(液相)と図13(気相)の結晶相同定結果をまとめたものである。
図14は、液相で硫化処理した参考例1のサンプルと気相で硫化処理した実施例1のサンプルのXRD結果よりシェラーの式で算出したパイライトの結晶子径を表す図面である。図14より、XRDの半値幅から求められる結晶子径(1次粒子径;結晶子径)は、液相(参考例1のサンプル)に比べ、気相反応にしたことで、実施例1のサンプルでは、どの結晶方位に関しても、結晶子径が小さくなっていることが確認できた。
(実施例1に対する考察・作用効果)
参考例1の作用効果に加えて、粒子サイズ(平均粒径)は、液相(参考例1のサンプル)の1μmから比べて約1/10へと大幅に微粒子化することができる。そのことにより、光電極基板に吸着させる場合、下地のTiO粒子(n型半導体ナノ粒子20)との界面における結合部が増えて(実施例1のサンプルを模した図2、6と参考例1のサンプルを模した図3、5を対比参照のこと)、電子注入しやすくなる。また、パイライト自体の表面積が増える事で、光電変換効率が高くなる事が容易に予想される。
さらに、パイライト粒子30自体が小さくなることで、TiO粒子20へ移動する前に粒子サイズの大きなパイライト粒子131(図3参照)内で電子が失活してしまっていたのが、失活せずにTiO粒子20まで到達することができる(図2、6参照)。その結果、光電効率を向上させることが可能となる。
<実施例2>実施例1を量産装置として展開した例
実施例1を量産装置にて展開するため、図15に示したような、フラットでかつ大型の密閉容器(反応容器)500に硫黄を含む溶液(反応液)530(容器500内の3分の2程度の高さまで:図15参照)を入れた。ここで、本溶液530としては、参考例1と同様に、チオ硫酸ナトリウム水溶液を用いた。さらに液相と分離させる為の仕切り部材510を容器500内の溶液(反応液)530の液面よりも高い位置に設置した。なお、この時、仕切り部材510は反応に寄与しないテフロン被覆鋼材を用いた。その上に光電極基板520(図7の電解めっき方法(鉄/鉄化合物としてFeSをめっき吸着)により得られたサンプル)を縦5個×横5個の合計25個を載せ、気相部分540に窒素ガスを封入し、実施例1と同様に、温度200℃で48時間、定温加熱を行った。加熱方法としては容器ごと周囲加熱でも、容器にヒータを接触させて加熱しても構わないが、本実施例では前者を採用した。更に本実施例では、図15に示すように、気相部分540に適当な間隔でテフロン被覆鋼材の棒状(四角柱)の仕切り部材510を20本の水平方向(横向き)に並べて載置(固定)した。
なお、硫黄を含む溶液530は、図15に示すように、光電極基板520が浸漬しない位置まで入れた状態とした。こうすることで、密閉容器500上部の気相部分540に、チオ硫酸ナトリウム水溶液530から加熱により水蒸気とHSを含む混合ガスが発生させた。更にこの混合ガスと、仕切り部材510上に載置された光電極基板520の鉄/鉄化合物の反応面を気相中で接触させながら加熱して反応(二硫化反応)させた。
(実施例2に対する考察・作用効果)
参考例1及び実施例1の効果に加えて、大型で安定しており、一括で硫化処理することが可能となる。
1 量子ドット増感型太陽電池のセル、
5 透明基板、
10 透明導電膜、
15 透明電極、
20 n型半導体ナノ粒子(酸化物半導体多孔質膜)、
30 半導体量子ドット、
30a Fe/Fe化合物、
31 μmレベルのパイライト粒子、
35 光電極、
40 電解質層、
50 対極、
60 対極基板、
65 対向電極
70 シール材、
80 外部回路、
90 光(光源)、
300 めっき液、
310 Pt電極板、
320 光電極となる基板、
320a 硫化鉄(Fe1−xS)のめっき膜、
330 電源部、
340 めっき浴、
400、401 密閉容器、
410、450、530 硫黄を含む溶液、
420、430、520 光電極基板、
440 支持部材、
460、540 気相部分、
500 フラットでかつ大型の密閉容器、
510 仕切り部材。

Claims (5)

  1. 鉄/鉄化合物からパイライト型結晶構造を有する二硫化鉄へと硫化処理させるプロセスであり、密閉容器内において、水蒸気と硫黄を含む混合ガスと、該鉄/鉄化合物を気相中で接触させながら加熱して反応させることを特徴とする硫化処理方法。
  2. 前記密閉容器内に硫黄を含む溶液が含まれており、少なくとも電荷分離用半導体基板に前記鉄/鉄化合物が吸着された反応面が、該硫黄を含む溶液に直接接触していない位置に配置された状態で反応させることを特徴とする請求項1に記載の硫化処理方法。
  3. 前記硫黄を含む溶液は、チオ硫酸ナトリウム溶液、硫化ナトリウム溶液及び硫化水素ナトリウム溶液のうちの1種類以上であることを特徴とする請求項2に記載の硫化処理方法。
  4. 前記密閉容器の気相部分は不活性ガスで封入されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の硫化処理方法。
  5. 前記鉄または鉄化合物の存在する面を、前記密閉容器の反溶液側ないしは該容器上方面に向けて設置させて反応させる事を特徴とする請求項2〜4のいずれか記載の硫化処理方法。
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