従来、車輌の前部にフードを備えた自動車においては、車輌用フードパネルは、アウタパネル及びインナパネル並びにその他の補強材等により構成されており、車輌用フードパネルの剛性及び強度を高く確保するために、アウタパネルとインナパネルとが空間を介して接合されたものが使用されている。
従来の車輌用フードパネルにおいては、その剛性等の機械的性能を高く確保しつつ、歩行者と衝突した際の歩行者保護性能を向上させるために種々の技術が提案されている。
例えば特許文献1には、インナパネルの中央付近に複数本のハット型のビードを互いに平行に形成し、車輌用フードに要求される耐デント性及び張り剛性を確保すると共に、歩行者と衝突した際の歩行者保護性能を向上させる構造が提案されている。
歩行者保護性能の評価には、衝突時の加速度−時間波形から算出されるHIC値が一般的に用いられており、HIC値が小さいほど、衝突時における歩行者頭部への傷害が生じにくい。このため、前述のように、耐デント性及び張り剛性を確保した上で、このHIC値が低くなるフード構造が望まれている。
フードパネルの中央近傍に頭部が衝突したときの典型的な加速度波形は、衝突初期に頭部がフードパネルに接触した際に第1波が生じ、その後、頭部に押圧されたフードパネルが車両下方向に移動しパネルの下部に配置されているエンジン等の内蔵部品と接触した際に第2波が生じる。
そして、HIC値を低減するためには、特に加速度第2波を小さくすることが有効である。このためには、頭部衝突の際に、フードパネルが内蔵部品と接触する前に衝突エネルギを吸収することが必要であり、フードパネルと内蔵部品との隙間を十分に確保することが望ましい。
しかし、自動車として必要な部品を限られた空間のフード下に配置することを考慮すると、フードパネルと内蔵部品との隙間を十分に確保することが難しいことが多い。
このため、頭部衝突における加速度第1波をできるだけ大きくし、衝突初期のエネルギ吸収量を増大させることで変形ストロークを低減するか、又は、フードが内蔵部品に接触した際の加速度第2波が小さくなるようなフード構造が望まれている。
特許文献1に開示されているように、インナパネルに複数本のビードを互いに平行に形成することにより、インナパネルの曲げ剛性が向上し、歩行者の頭部が衝突した際のインナパネルの曲げ変形が抑制され、衝撃荷重をパネルに広く分散することができる。これにより、歩行者の頭部が衝突した際に、パネルが変位する面積、即ち、慣性重量が増加し、ビードを設けない場合に比して、頭部衝突の際の加速度第1波を大きくできる。また、ハット型に形成されたビードは、内蔵部品との接触時に、容易に開き変形するため、加速度第2波を小さくすることもできる。
よって、上記の特許文献1以外にも、インナパネルにビードを設ける技術が種々提案されている。例えば、特許文献2乃至5には、ハット型のビードを車輌の前後方向に延びるように形成したインナパネルが開示されており、ビードの縦壁を段付き形状にしたり(特許文献2)、ビードの底部の深さを変更したり(特許文献3)、ビード間に切り欠きを設けた(特許文献4)インナパネルが開示されている。また、車輌に衝突する歩行者が子供である場合には、フードパネルの前方に衝突することが多く、衝突する歩行者が大人である場合には、フードパネルの後方に衝突することが多いことから、インナパネルに設けるハット型のビードを、車輌の前後方向で異なった形状にする技術も開示されている(特許文献5)。
また、特許文献6においては、ビード間の距離が車輌の後方へ向けて広がるように、複数本のビードを車輌の前後方向に対して傾斜させて配置させることが開示されている。
一方、車輌用フードパネルとしては、歩行者保護性能以外にも満足するべき設計要件が多数存在する。例えば、車輌同士の前面衝突の場合には、フードパネルを側面視でくの字に折れ曲がるように変形させて衝撃を吸収し、車内へのパネル等の進入を防止することが必要である。特許文献7及び8には、車輌前後方向に延びるビード同士を車輌左右方向に延びる他のビード(クラッシュビードと称する)で連結したり、隣接するビード間をフランジで連結し、これにより、前面衝突時のフードパネルの折れ変形を容易にする技術が開示されている。
また、特許文献9乃至13には、ハット型ビードを車輌左右方向に延びるように形成したインナパネルが開示されており、前面衝突時のフードパネルの折れ変形を容易にする技術が開示されている。
しかしながら、上記従来技術には、以下のような問題点がある。即ち、特許文献1乃至8に開示されているように、ビードを車輌の前後方向に延びるように形成した場合においては、前面衝突時の衝突荷重に対するビードの変形剛性が高く、ビードが折れ変形しにくいという問題点がある。この問題点を改善するためには、例えばクラッシュビードの高さを高くし、前面衝突時の折れ変形を促進させることが行われている。しかし、クラッシュビードの高さを高くした場合においては、フードパネルは、歩行者の頭部が衝突した際にもクラッシュビードを起点として折れ変形しやすくなるという問題点がある。即ち、頭部衝突による加速度第1波のピーク後において、加速度が急激に低下し、衝突初期のエネルギ吸収量が小さくなり、エネルギ吸収ストロークが長くなって、HIC値が大きくなる(歩行者保護性能が低下する)。
この前面衝突に関する問題点を解決するためには、特許文献9乃至13の技術のように、ビードを車輌左右方向に延びるように形成すればよい。しかしながら、特許文献9のインナパネルは、ビードを車輌左右方向の両側部間に延びるように形成しているため、車輌前後方向に延びるビード間にクラッシュビード又はフランジ等を設けた場合と同様に、歩行者の頭部が衝突した際に、フードパネルが側面視でくの字に折れ変形しやすく、頭部衝突による加速度第1波のピーク後において、加速度が急激に低下し、パネルによるエネルギ吸収量が小さくなり、HIC値が大きくなる。
歩行者が衝突した際のフードパネルの折れ変形を抑制するために、特許文献10においては、ビードが車輌前後方向に容易に開き変形しないように、ビードのインナパネル側の上縁部に開き変形を抑制するための形状凍結ビードを設けている。歩行者が衝突した際のビードの開き変形を抑制するためには、例えば特許文献11に開示されているように、ビードの上縁部とアウタパネルとの接合面とを曲面で繋ぐ手法も採用されている。しかし、特許文献10及び11においては、インナパネルに設けるビードを、車輌幅方向又は車輌前後方向に一律に同等の形状で形成しており、頭部衝突時における歩行者保護性能が、車輌幅方向に不均一になることを考慮した形状ではない。
歩行者が衝突した際のフードパネルの折れ変形を抑制するために、特許文献12及び13においては、インナパネルの中央にアウタパネルとの接合面を設け、この接合面の内側に車輌左右方向に延びるビードを形成している。
図11は、上記特許文献12及び13に開示された従来の車輌用フードパネルを示す図である。なお、インナパネルの構造の理解を容易にするために、アウタパネルは2点鎖線にて示す。図11に示すように、従来の車輌用フードパネル10は、インナパネル11及びアウタパネル12により構成されており、例えばインナパネル11の外縁部は、アウタパネル12の外縁部にヘム加工により接合されている。図11(a)に示すように、インナパネル11の中央には、アウタパネル12にマスチック接合されるマスチック座面11aが形成されており、その周囲を取り囲むように縦壁14が形成されている。そして、図11(b)及び図11(c)に示すように、マスチック座面11aとアウタパネル12との間に例えばエポキシ樹脂又は変性シリコーン樹脂等からなるマスチック接着剤13が塗布されて、マスチック座面11dとアウタパネル12とが接合されている。また、インナパネル11には、マスチック座面11aに取り囲まれるように、マスチック座面11aの端縁から下方に延出し車輌左右方向に延びるように断面凹形状の複数本のビード11bが並列的に設けられている。即ち、各ビード11bの周囲には、縦壁11c及び11dが設けられており、各ビード11bの底部とマスチック座面11aとは、車輌前方側及び後方側の縦壁11c並びに車輌左右方向端部の側部縦壁11dにより連絡されている。図11(b)及び図11(c)に示すように、従来のフードパネル10においては、各ビード11bは、マスチック座面11aからの底部の深さが車輌前後方向及び車輌左右方向に均一である。
図11に示すように、従来の車輌用フードパネル10においては、ビード11bの側部縦壁11dよりも車輌左右方向における外側には、アウタパネル12に接合されるマスチック座面11aが形成されており、歩行者がパネルに衝突した際には、フードパネル10に印加される応力は、ビード11bを介して車輌左右方向に伝播すると共に、各ビードの車輌左右方向端部に設けられた側部縦壁11dを介して、マスチック座面11aに伝播する。そして、マスチック座面11a及びその周囲の縦壁14を介して、応力が車輌前後方向にも伝播することにより、加速度第1波のピーク値を大きくできる。また、車輌左右方向におけるビード11bの端部には、各ビード11bを連結するようにマスチック座面11aが車輌前後方向に延びるように設けられているため、特に、ビード11bの端部付近に歩行者が衝突した際に、極端な折れ変形が生じることを防止できる。更に、ハット型の各ビード11bは、車輌の内蔵物に接触した際に潰れやすく、これにより、衝突エネルギの吸収量を大きくできる。
このようなフードパネルにおいては、以下のような問題点がある。即ち、図11に示す従来のフードパネルにおいては、衝突エネルギを車輌の前後方向に伝播させられる構成は、ビード11bの車輌左右方向における端部に設けられた側部縦壁11d、側部縦壁11dによりビード11bの底部に連絡されたマスチック座面11aのうち車輌左右方向における端部の領域、及びマスチック座面11aの周囲を取り囲む縦壁14のうち車輌左右方向の端部の領域である。このように、衝突時の応力を伝播させられる構成を車輌左右方向の端部に偏らせて設けた場合には、車輌左右方向中央部と端部とでフードパネルの歩行者保護性能が異なるという問題点がある。即ち、図12(b)に示すように、ビードの側部縦壁11d付近(図12(a)におけるI部)においては、側部縦壁11d及びマスチック座面を取り囲む縦壁14の剛性により、歩行者衝突時に変形加速度が大きく、変形ストロークが短くなり、加速度第1波のピーク後における変形加速度の急激な低下も抑制される。一方、フードパネルの車輌左右方向の中央付近(図12におけるH部)においては、衝突エネルギを車輌の前後方向に伝播させる側部縦壁11d及びマスチック座面11aの周囲の縦壁14からの距離が大きく、また、車輌の前方側及び後方側の縦壁11cには、その平面部分の傾斜を抑制するような構成も設けられていないことから、縦壁11c間が開き変形しやすくなる。よって、加速度第1波後の加速度が小さくなり、衝突ストロークは長くなる。また、車輌前後方向の端部付近においても、車輌左右方向ほどは顕著ではないが、縦壁14の剛性により、歩行者衝突時に変形加速度が大きく、変形ストロークが短くなり、加速度第1波のピーク後における変形加速度の急激な低下を抑制できるのに対して、車輌前後方向の中央付近においては、その効果が得られない。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、車輌の前面衝突時の折れ変形性能を維持しつつ、歩行者の頭部衝突位置によらず高い歩行者保護性能を有する車輌用フードパネルを提供することを目的とする。
本発明に係る車輌用フードパネルは、アウタパネルとインナパネルとが互いに接合された車輌用フードパネルにおいて、前記インナパネルは、その中央に設けられ前記アウタパネルにマスチック接合されるマスチック座面と、このマスチック座面に取り囲まれるように設けられ前記マスチック座面の端縁から下方に延出し車輌左右方向に延びるように並列的に設けられた断面凹形状の複数個のビードと、を有し、前記各ビードは、底部と、この底部と前記マスチック座面の端縁とを連絡する縦壁と、を有し、車輌前後方向における中央部のビードは、車輌前後方向における両端部のビードよりも前記マスチック座面からの前記底部の深さが深くなるように設けられていることを特徴とする。
上述の車輌用フードパネルにおいて、前記車輌前後方向における中央部のビードは、前記マスチック座面からの前記底部の深さが、車輌左右方向における両端部よりも車輌左右方向における中央部の方が深くなるように設けられていることが好ましい。この場合に、前記車輌前後方向における中央部のビードは、その底部が車輌左右方向について端部側が中央部よりも浅くなるように設けられていることが好ましい。
本発明に係る他の車輌用フードパネルは、アウタパネルとインナパネルとが互いに接合された車輌用フードパネルにおいて、前記インナパネルは、その中央に設けられ前記アウタパネルにマスチック接合されるマスチック座面と、このマスチック座面に取り囲まれるように設けられ前記マスチック座面の端縁から下方に延出し車輌左右方向に延びるように並列的に設けられた断面凹形状の複数個のビードと、を有し、前記各ビードは、底部と、この底部と前記マスチック座面の端縁とを連絡する縦壁と、を有し、車輌前後方向における中央部のビードは、その底部が車輌左右方向について中央部が端部側よりも深くなるように設けられていることを特徴とする。
上述の車輌用フードパネルにおいて、例えば前記複数個のビードの底部を含む包絡面は、前記マスチック座面からの深さが車輌前後方向における端部側から中央部へと深くなるように傾斜して設けられている。また、前記車輌前後方向における中央部のビードは、その底部と車輌前方側の縦壁とのなす角度及び底部と車輌後方側の縦壁とのなす角度がいずれも車輌左右方向で均一であることが好ましい。
上述の車輌用フードパネルにおいて、前記ビードの底部は、前記マスチック座面から17.5乃至22.5mm深い位置に設けられており、車輌前方及び後方の縦壁との間に25乃至45°の角度をなすように設けられていることが好ましい。
本発明に係る車輌用フードパネルは、インナパネルがアウタパネルにマスチック接合されるマスチック座面を有し、マスチック座面に取り囲まれるようにマスチック座面から下方に延出し車輌左右方向に延びるように断面凹形状の複数個のビードが設けられており、車輌前後方向における中央部のビードは、車輌前後方向における両端部のビードよりもマスチック座面からの底部の深さが深くなるように設けられている。又は、車輌前後方向における中央部のビードは、その底部が車輌左右方向について中央部が端部側よりも深くなるように設けられている。よって、フードパネルの中央付近に歩行者の頭部が衝突した場合には、フードパネルの端部付近に歩行者の頭部が衝突した場合に比して、インナパネルがフードの内蔵物に2次衝突するタイミングが早くなるため、1次衝突後の変形加速度の低下が抑制される。これにより、車輌前後方向におけるフードパネルの中央部において、衝突初期のエネルギの吸収量が増大して2次衝突における加速度第2波のピーク値を小さくすることができ、歩行者保護性能が向上する。一方、車輌前後方向及び左右方向の端部においては、縦壁の剛性により、安定した歩行者保護性能が得られる。よって、本発明によれば、歩行者の頭部衝突位置によらず、高い歩行者保護性能を確保することができる。
以下、本発明について、詳細に説明する。先ず、本発明の第1実施形態に係る車輌用フードパネルの構成について説明する。図1(a)は本発明の第1実施形態に係る車輌用フードパネルを示す平面図、図1(b)は、図1(a)におけるA−A断面図、図1(c)は同じくB−B断面図、図2は図1(c)におけるC部拡大図である。図1に示すように、本実施形態に係る車輌用フードパネル1は、図11に示す従来の車輌用フードパネル10と同様に、インナパネル3及びアウタパネル2を有しており、例えばインナパネル3の外縁部は、アウタパネル2の外縁部にヘム加工により接合されている。インナパネル3及びアウタパネル2は、例えば鉄、アルミニウム又はアルミニウム合金等の金属板から成形されており、板厚は例えば0.7乃至1.1mmである。図1に示すように、インナパネル3の中央には、アウタパネル2にマスチック接合されるマスチック座面31が形成されており、その周囲を取り囲むように縦壁33が形成されている。そして、図1(b)及び図1(c)に示すように、マスチック座面31とアウタパネル2との間に例えばエポキシ樹脂又は変性シリコーン樹脂等からなるマスチック接着剤4が塗布されて、マスチック座面31とアウタパネル2とが接合されている。インナパネル3には、マスチック座面31に取り囲まれるように、マスチック座面31の端縁から下方に延出し車輌左右方向に延びるように断面凹形状の複数本のビード32が並列的に設けられている。即ち、各ビード32の底部32aとマスチック座面31とは、車輌前方側の縦壁32b及び後方側の縦壁32c並びに車輌左右方向端部の側部縦壁32eにより連絡されている。各ビード32の底部32aとマスチック座面31の車輌左右方向における両端縁とを連絡する側部縦壁32eは、例えば車輌前方側の縦壁32bと車輌後方側の縦壁32cとを結ぶ湾曲面により構成されている。
本実施形態においては、図11に示す従来の車輌用フードパネル10と同様に、車輌前方側及び後方側の縦壁32b、32cは、双方が平面により構成されており、各縦壁32b、32cは、平面視で車輌左右方向に延び上端縁及び下端縁が平坦になるように、例えば直線状に設けられている。よって、歩行者がパネルに衝突した際に、インナパネル3に印加される応力は、ビード32を介して車輌左右方向に伝播すると共に、各ビードの車輌左右方向端部に設けられた側部縦壁32eを介して、マスチック座面31に伝播する。そして、マスチック座面31及びその周囲の縦壁33を介して、応力が車輌前後方向にも伝播することにより、加速度第1波のピーク値を大きくできる。また、ハット型の各ビード32は、車輌の内蔵物に接触した際に潰れやすく、これにより、衝突エネルギの吸収量を大きくでき、加速度第2波のピーク値を小さくできる。
しかし、このような構造の場合、インナパネルに印加される応力を車輌の前後方向に伝播させられる構成は、ビード32の車輌左右方向における端部に設けられた側部縦壁32e、ビード32の底部に連絡されたマスチック座面31のうち車輌左右方向における端部の領域、及びマスチック座面31の周囲を取り囲む縦壁33のうち車輌左右方向の端部の領域である。このため、フードパネルの車輌左右方向における中央部、即ち、特にマスチック座面31の車輌前後方向に延在する部分及びマスチック座面の周囲の縦壁からの距離が遠い部分に歩行者の頭部が衝突した場合、縦壁32b,32cの平面部分の傾斜角度の変化を抑制するような構成も設けられていないことから、縦壁32c同士が開き変形しやすくなって加速度第1波後の加速度が小さくなり、衝突ストロークが長くなり、これにより、フードパネルの歩行者保護性能が、特に車輌の左右方向に不均一になるという問題点があった。また、車輌の前後方向端部に歩行者頭部が衝突する場合でもマスチック座面31の外周に位置する縦壁33が変形に抵抗することで、加速度低下が抑制されるのに対して、中央部近傍では、これらの縦壁の影響も小さく、前後方向端部と比較しても、歩行者保護性能が低いという問題があった。
本願発明者等は、この問題点を解決するために、種々検討を行った。そして、車輌前後方向における中央部のビードを、車輌前後方向における両端部のビードよりもマスチック座面からの底部の深さが深くなるように設けるか、又は車輌前後方向における中央部のビードをその底部が車輌左右方向について中央部が端部側よりも深くなるように設ければ、歩行者がフードパネルに衝突した際における上記利点を維持しつつ、1次衝突後の変形加速度の低下が顕著にあらわれるフードパネルの車輌前後方向における中央部のビードについては、インナパネルの下部に配置される内蔵部品に早いタイミングで2次衝突させ、これにより、1次衝突後の変形加速度の低下が抑制され、1次衝突における衝突エネルギの吸収量の低下を防止することができ、更に、2次衝突における加速度第2波のピーク値を小さくして、歩行者保護性能を向上させることができることを知見した。
本実施形態においては、図1に示すように、車輌用フードパネル1は、車輌前後方向に並ぶように4本のビード32が設けられており、図1(b)に示すように、中央部の2本のビード32は、両端部の2本のビード32よりもビード深さが深くなるように設けられている。本実施形態においては、図1(c)に示すように、各ビード32は、車輌左右方向におけるビード深さは、均一になるように設けられている。
本発明においては、車輌の左右方向におけるフードパネルの歩行者保護性能の不均一化を効果的に防止するためには、ビードの底部32aは、図2にビード深さhとして示すように、マスチック座面31から17.5乃至22.5mm深い位置に設けられていることが好ましい。なお、本実施形態においては、マスチック座面31からビード底部32aまでの深さhは、車輌前後方向における中央部のビード32の方が車輌前後方向における両端部のビード32よりも深くなるように設けられているが、上記ビード深さhの好ましい範囲は、全てのビード32について適用される範囲である。
また、ビードの底部32aは、図2(c)に角度θとして示すように、車輌前方側及び後方側の縦壁32b,32cとの間に25乃至45°の角度をなすように設けられていることが好ましい。これにより、ビード32が車輌の内蔵物に接触した際に、衝突エネルギの吸収量を効果的に大きくすることができる。なお、ビード深さhが浅くなりすぎると、歩行者衝突時において、加速度第1波のピーク値が小さくなり、衝突初期における衝突エネルギの吸収量が不足し、加速度第2波のピーク値が高くなり、HIC値が高くなる(歩行者保護性能が低下する)。逆に、ビード深さが深くなりすぎると、フードの内蔵物への衝突までの時間が長くなり、衝突初期における衝突エネルギの吸収を十分に得られないまま2次衝突が発生し、やはり、加速度第2波のピーク値が高くなり、HIC値が高くなる(歩行者保護性能が低下する)。また、ビードの底部32aが縦壁32b,32cとの間になす角度が45°を超えると、プレス成形によりインナパネル3にビード32を形成する際に、縦壁の傾斜角度が急であることにより、成形部位が破断しやすくなる。また、2次衝突の際には、縦壁がフードの内蔵物に対して垂直に近い進入角度で衝突することにより、ビードの潰れ変形が抑制され、加速度第2波のピーク値までの変形ストロークが短くなり、加速度第2波のピーク値も大きくなりやすくなる。一方、ビードの底部32aに対する縦壁32b,32cの傾斜角度を25°未満に緩やかにすると、ハット型断面のビード32が、特にアウタパネル2(マスチック接合面31)に近接する部分において、開き変形しやすくなり、歩行者衝突時の加速度第1波後の加速度が小さくなり、衝突時のストロークが長くなりやすくなる。
次に、第1実施形態に係る車輌用フードパネルの動作について説明する。歩行者がフードパネル1に衝突すると、その衝撃は、先ず、アウタパネル2に伝播し、衝突部付近において、アウタパネル2が変形する。そして、この変形応力が、マスチック座面31を介して、衝突部付近のインナパネル3に伝播する。図3に示すように、歩行者がフードパネル1の車輌左右方向における端部(図3(a)におけるE部)付近に衝突した場合においては、図3(b)に示すように、縦壁32e及び縦壁33が変形に対する抵抗として作用し、1次衝突時の変形加速度が大きく、1次衝突後の変形加速度の低下も小さく抑えることができる。よって、1次衝突における衝突エネルギの吸収量を大きくでき、2次衝突における加速度第2波のピーク値を小さくでき、変形ストロークも短くすることができる。なお、フードパネル1の車輌前後方向における両端部付近のビード32については、その車輌左右方向の中央部(図3(a)におけるF部)付近に歩行者が衝突した場合には、縦壁33が変形に対する抵抗として作用することによって変形加速度と変形ストロークとの関係は、E部と同様の傾向を示す。
一方、歩行者がフードパネル1の車輌前後方向及び左右方向における中央部(図3(a)におけるD部)付近に衝突した場合においては、インナパネル3に印加される応力は、車輌の左右方向に延びるように設けられたビード32を介して車輌左右方向に伝播する。各ビード32は、車輌左右方向の両端部において、側部縦壁32eによりマスチック座面31に連絡されており、更に、マスチック座面31は、その周囲の縦壁33に連絡されているため、ビード32を介して車輌左右方向に伝播した応力は、側部縦壁32e及びマスチック座面31を介して、車輌前後方向にも伝播し、これにより、加速度第1波のピーク値を大きくできる。しかし、この車輌前後方向及び車輌左右方向における中央部は、側部縦壁32e及びマスチック座面31の周囲の縦壁33からの距離が大きく、また、車輌の前方側及び後方側の縦壁32b、32cには、その平面部分の傾斜を抑制するような構成も設けられていないことから、縦壁32b及び縦壁32c間が開き変形しやすくなる。よって、図3(b)に示すように、加速度第1波がピーク値に達した後に、変形加速度が急激に低下する。
本実施形態においては、フードパネル1の車輌前後方向における中央部のビード32は、車輌前後方向における両端部のビード32よりもマスチック座面31からの底部の深さが深くなるように設けられているか、又は車輌前後方向における中央部のビードの底部が車輌左右方向について中央部が端部側よりも深くなるように設けられているので、フードパネルの中央部付近に歩行者の頭部が衝突した場合、中央部のビード32は、両端部のビードよりも早いタイミングでフードの内蔵物に接触する。よって、図3(b)に示すように、変形加速度が小さい期間を短縮できる。
逆に、マスチック座面外周の縦壁33や、側部縦壁32eの近傍においては、これらの変形抵抗が高いため、加速度第1波のピーク後の加速度が比較的高い値を示す領域、即ち、フードパネルの車輌左右方向における両端部付近又は車輌前後方向における両端部付近に歩行者の頭部が衝突した場合、中央部に比してビード深さが浅いことにより、衝突後期における衝突加速度が大きくなることによるHIC値の増大も防止できる。即ち、本実施形態のフードパネル1によれば、歩行者の衝突部位によらず、HIC値を小さくできる。
歩行者の衝突によるフードパネル1の変形が進行すると、車輌前後方向における中央部のビードが潰れ変形している期間内に、両端部のビードがフードの内蔵物に2次衝突して潰れ変形し始める。即ち、車輌前後方向における中央部のビードは、両端部のビードよりも2次衝突により潰れ変形する期間が長くなる。そして、車輌前後方向における中央部及び両端部のビードがフードの内蔵物に衝突して潰れ変形していくため、2次衝突による変形応力を車輌の前後方向に分散させることができる。よって、図3(b)に示すように、車輌前後方向における中央部のビードについても、2次衝突による加速度第2波のピーク値を小さくすることができ、衝突ストロークが長くなることも防止できる。即ち、本実施形態のフードパネル1によれば、歩行者の衝突部位によらず、HIC値を小さくできる。
なお、本実施形態においては、ハット型のビードは、車輌左右方向に延びるように設けられているため、車輌同士の前面衝突の際には、フードパネルが側面視でくの字状に折れ変形しやすくなる。よって、衝撃エネルギの吸収が効率よく行われ、車内へのパネル等の進入を防止できる。
次に、本実施形態の車輌用フードパネルについて、ビードの車輌前方側及び後方側の縦壁32b、32cがビードの底部32aとの間になす角度θの上限値の規定理由について図4を参照して説明する。図4は、縦壁の傾斜角度を変化させた場合における歩行者衝突時の変形加速度とストロークとの関係を示す図である。本実施形態においては、車輌前方側及び後方側の縦壁32b、32cの傾斜角度θは、上述の如く、25乃至45°の範囲であることが好ましく、図4に二点鎖線で示すように、縦壁の傾斜角度θを25乃至45°の範囲とした場合には、車輌前後方向における中央部のビードは、図3(b)と同様の変形の傾向を示す。しかし、傾斜角度θが45°を超えると、2次衝突の際には、縦壁がフードの内蔵物に対して垂直に近い進入角度で衝突することになり、ビードの潰れ変形が抑制されるため、図4に示すように、加速度第2波のピーク値までの変形ストロークが短くなり、加速度第2波のピーク値も大きくなりやすくなる。よって、本発明においては、ビードの底部32aは、車輌前方側及び後方側の縦壁32b、32cとの間に、25乃至45°の角度をなして設けられていることが好ましい。
次に、本発明の第2実施形態に係る車輌用フードパネルについて説明する。図5(a)は本発明の第2実施形態に係る車輌用フードパネルを示す平面図、図5(b)は、図5(a)におけるA−A断面図、図5(c)は同じくB−B断面図である。本実施形態においては、フードパネルの車輌前後方向における中央部のビード32が、両端部のビードよりもマスチック座面31からの深さが深くなるように設けられている場合を図示している。本実施形態が第1実施形態と異なるのは、図5(c)に示すように、各ビード32の深さが、車輌左右方向における両端部から中央部へ向けて徐々に深くなるように傾斜して設けられ、その底部32aは車輌左右方向について端部側が浅くなるように設けられている点にある。その他の構成は第1実施形態と同様である。
本実施形態においては、加速度第1波後の変形加速度の低下が特に顕著なフードパネルの中央部における歩行者の頭部衝突に対応するために、中央部のビード深さが最も深く設けられており、車輌左右方向の両端部へ向けてビード深さが徐々に浅くなるように設けられている。即ち、歩行者の頭部衝突時において、加速度第1波のピーク後における低加速度の状態が継続する期間は、フードパネルの中央に歩行者の頭部が衝突した場合がもっとも長い。そして、車輌前後方向及び車輌左右方向における端部側へいくほど、早い段階でマスチック座面外周の縦壁33及びビードの側部縦壁32e付近の変形抵抗の影響を受けて、加速度が大きくなるタイミングは早くなる。本実施形態においては、車輌左右方向に中央部から端部へと連続的に深さを浅くしていくことで、積極的にインナパネルとインナパネル下の内蔵物との接触タイミングを変化させ、第1実施形態に比して、車輌左右方向における歩行者保護性能の不均一化を更に効果的に防止することができる。
なお、本実施形態においては、全てのビード32について、ビード深さを車輌左右方向における両端部から中央部へ向けて徐々に深くなるように設けているが、ビード深さを車輌左右方向で変化させる構成は、少なくとも車輌左右方向における歩行者保護性能の不均一化が顕著であるビード32、即ち、車輌前後方向における中央部のビード32に付加すればよく、車輌前後方向の両端部のビード32については、本実施形態の構成を有しなくてもよい。また、本実施形態においては、車両前後方向の中央部に設けたビードの深さを、車両前後方向の端部に位置するビードに比して深くなるように図示しているが、図13に示すように、車両前後方向に配置するビードの深さは同一であっても良い。本構造でも、車両左右方向の中央部付近に歩行者の頭部が衝突した際には、中央部のビードを深く設定していることにより、車輌左右方向における歩行者保護性能の不均一化を抑制する効果を得ることができる。
また、図14に示すように、本実施形態においては、複数個のビードの底部32aを含む包絡面を、マスチック座面31からの深さが車輌前後方向における端部側から中央部へと深くなるように傾斜して設けてもよい。このような構造を採用することで、フードパネルの中央部付近におけるビード深さをより深く設定することが可能になる。即ち、ビード深さを車輌前後方向で一定にする構造に比して、更に積極的にビード深さをコントロールして、フードパネルがフード下の内蔵物と接触するタイミングをコントロールすることが可能となり、車輌前後方向における歩行者保護性能をより均一にすることができる。
次に、本第2実施形態に係る車輌用フードパネルの変形例について説明する。図6(a)乃至(c)は、本発明の第2実施形態に係る車輌用フードパネルの変形例を示す図である。第2実施形態においては、各ビード32の深さを車輌左右方向で徐々に変化させているが、本変形例においては、各ビード32には、車輌左右方向における中央部と両端部との間の中間部に段差が設けられており、この段差部分にてビード深さが変化するように構成されている。本変形例においても、フードパネルの中央付近に歩行者の頭部が衝突した際には、インナパネルとインナパネル下の内蔵物とが接触するタイミングが早くなる一方、車輌左右方向端部側に歩行者の頭部が衝突した場合にはインナパネルとインナパネル下の内蔵物とが接触するタイミングが遅くなる。これにより、車輌左右方向における歩行者保護性能の不均一化を効果的に防止することができる。本変形例においては、衝突部位が車輌の左右方向に連続的に推移していく第2実施形態に比して、歩行者保護性能を均一化できる効果は若干低下するが、車輌左右方向における中央部と両端部との間の中間部に設けられた段差により、開き変形を抑制でき、加速度第1波のピーク後における急激な加速度低下を抑制し、衝突初期のエネルギ吸収量を大きくすることが出来る。
なお、本変形例においても、ビード深さを車輌左右方向で変化させる構成は、少なくとも車輌左右方向における歩行者保護性能の不均一化が顕著であるビード32、即ち、車輌前後方向における中央部のビード32に付加すればよく、車輌前後方向の両端部のビード32については、このような構成を有しなくてもよい。
次に、本発明の第3実施形態に係る車輌用フードパネルについて説明する。図7(a)は本発明の第3実施形態に係る車輌用フードパネルを示す平面図、図7(b)は、図7(a)におけるA−A断面図、図7(c)は同じくB−B断面図である。また、図8(a),図8(b)は本発明の車輌用フードパネルにおいて、ビード底部の幅が一定である場合及び縦壁の傾斜角度が一定である場合を示す図であって、図7(a)におけるG−G断面図である。第2実施形態のように、各ビードの底部32aの幅が車輌左右方向に一定となるように設けられている場合においては、ビード深さを車輌左右方向に変化させた場合に、図8(a)に示すように、ビード32の車輌前方側及び後方側の縦壁32b,32cは、底部32aに対する傾斜角度θが車輌左右方向における中央部(図8における破線部分)の方が両端部よりも大きくなる。よって、2次衝突の際に、フード内蔵物に対する縦壁32b,32cの進入角度が車輌左右方向に異なり、車輌左右方向における中央部においては、両端部に比して、加速度第2波のピーク値までの変形ストロークが短くなり、加速度第2波のピーク値も大きくなりやすくなる。
本実施形態においては、図7及び図8(b)に示すように、各ビード32は、その底部32aと車輌前方側の縦壁32bとのなす角度及び底部32aと車輌後方側の縦壁32cとのなす角度θがいずれも車輌左右方向で均一であり、これにより、各ビードの底部32aの幅は、車輌左右方向における両端部から中央部へ向けて徐々に狭くなるように設けられている。よって、2次衝突時における変形ストローク及び加速度第2波のピーク値が車輌左右方向に不均一になることが防止される。また、ビードの縦壁32b,32cの傾斜角度θに特定の幅をもたせなくてもよいため、縦壁の傾斜角度θの設定可能範囲を有効に活用することができ、車輌用フードパネルの設計の自由度も向上する。
なお、本実施形態においても、車輌左右方向におけるビード深さを変化させる構成は、少なくとも車輌左右方向における歩行者保護性能の不均一化が顕著であるビード32、即ち、車輌前後方向における中央部のビード32に付加すればよく、車輌前後方向の両端部のビード32については、本実施形態の構成を有しなくてもよい。
また、本実施形態においては、第2実施形態と同様に、各ビード32の深さを車輌左右方向で徐々に変化させているが、図9に示すように、各ビード32の車輌左右方向における中央部と両端部との間の中間部に段差を設け、この段差部分にてビード深さが変化するように構成してもよい。この変形例においては、衝突部位が連続的に推移していく第3実施形態に比して、歩行者保護性能の不均一化を防止できる効果は若干低下するが、ビード32の車輌左右方向における中央部と両端部との間の中間部に設けられた段差を介して車両前後方向に応力を伝播させやすくする効果が得られる。また、2次衝突時には、各ビード32は、先ず、車輌左右方向における中央部がフードの内蔵物に衝突し、その後、車輌左右方向における両端部がフードの内蔵物に衝突する。
次に、本発明の第4実施形態に係る車輌用フードパネルについて説明する。図10は、本発明の第4実施形態に係る車輌用フードパネルを示す平面図である。図10に示すように、本実施形態の車輌用フードパネル1は、第1実施形態のフードパネルにおいて、インナパネル3に設けられた各ビード32の縦壁32b,32cの上端縁及び下端縁を、平面視で、車輌の前方に凸となるように湾曲させている。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
本実施形態においては、各縦壁32b,32cの湾曲した部分は、車輌の前後方向に延出した成分を有することから、補強リブとして作用し、1次衝突時にはビード32の開き変形が更に生じにくくなり、衝突エネルギを、縦壁の湾曲した部分を介して、車輌前後方向に効果的に伝播させることができる。よって、応力が車輌の左右方向に分散され、フードパネルにおける歩行者保護性能が車輌の左右方向に不均一になることを、第1実施形態よりも効果的に防止できる。
各ビード32の湾曲した上端縁は、例えば、平面視で、車輌左右方向における中央部の曲率半径R0が車輌左右方向における両端部の曲率半径RSよりも小さくなるように設けられていることが好ましく、これにより、上記効果が更に期待できる。
なお、本実施形態においては、各ビード32の縦壁32b,32cは、少なくともその上端縁が湾曲するような形状で設けられていればよく、下端縁については平坦になるように設けられていてもよい。また、本実施形態においては、縦壁の湾曲は、車輌の前方に凸となるように設けられているが、縦壁を車輌の後方に凸となるように設けてもよい。更に、車輌前方の縦壁32b及び後方の縦壁32cの一方のみが湾曲するように設けられていてもよい。
更にまた、本実施形態においては、第1実施形態のフードパネルにおいて、ビード32の縦壁を湾曲するように設けているが、第2実施形態及び第3実施形態のフードパネルにおいて、ビードの縦壁を湾曲するように設けた場合においても、車輌左右方向における歩行者保護性能の不均一化を更に効果的に防止できる。