以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に第1実施形態の車輪用軸受装置を示す。この車輪用軸受装置は、ハブ輪1を含む複列の車輪用軸受2と、等速自在継手3とが一体化されてなる。なお、以下の説明において、インボード側とは、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向内側となる側を意味し、アウトボード側とは、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向外側となる側を意味する。
等速自在継手3は、外側継手部材5と、外側継手部材5の内側に配された内側継手部材6と、外側継手部材5と内側継手部材6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外側継手部材5と内側継手部材6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内側継手部材6はその孔部内径6aにシャフト10の端部10aを圧入することによりスプライン嵌合してシャフト10とトルク伝達可能に結合されている。なお、シャフト10の端部10aには、シャフト抜け止め用の止め輪9が嵌合されている。
外側継手部材5はマウス部11と軸部(ステム部とも呼ばれる)12とからなり、マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部11の開口端まで延びている。内側継手部材6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
外側継手部材5のトラック溝14と内側継手部材6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝14,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込んである。ボール7は外側継手部材5のトラック溝14と内側継手部材6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。ケージ8は外側継手部材5と内側継手部材6との間に摺動可能に介在し、外球面8aにて外側継手部材5の内球面13と嵌合し、内球面8bにて内側継手部材6の外球面15と嵌合する。なお、この場合の等速自在継手3は、マウス部11の開口側で外輪トラック溝14を直線状とし、マウス部11の奥部側で内側継手部材トラック溝16をストレートにしたアンダーカットフリー型を示しているが、ツェッパ型等の他のタイプの等速自在継手であってもよい。
また、マウス部11の開口部はブーツ60にて塞がれている。ブーツ60は、大径部60aと、小径部60bと、大径部60aと小径部60bとを連結する蛇腹部60cとからなる。大径部60aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド61にて締結される。また、小径部60bがシャフト10のブーツ装着部10bに外嵌され、この状態でブーツバンド62にて締結されている。
軸受2のハブ輪1は、筒部20と、筒部20のアウトボード側の端部に設けられる車輪取り付け用のフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、アウトボード側のテーパ孔22bと、インボード側の大径孔22cとを備える。軸部嵌合孔22aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して外側継手部材5の軸部12とハブ輪1とが結合される。また、軸部嵌合孔22aと大径孔22cとの間には、テーパ部(テーパ孔)22dが設けられている。このテーパ部22dは、外側継手部材5の軸部12の軸端側に向けて縮径している。テーパ部22dのテーパ角度θ2(図8参照)は、例えば15°〜75°とされる。
ハブ輪1のインボード側の外周面には、小径の段差部23が形成される。この段差部23に内輪24を嵌合することで複列の内側軌道面(インナレース)28,29を有する内方部材が構成される。複列の内側軌道面のうち、アウトボード側の内側軌道面28はハブ輪1の外周面に形成され、インボード側の内側軌道面29は、内輪24の外周面に形成されている。軸受2は、この内方部材と、内方部材の外径側に配置され、内周に複列の外側軌道面(アウタレース)26,27を有する外方部材25と、外方部材25のアウトボード側の外側軌道面26とハブ輪1の内側軌道面28との間、および外方部材25のインボード側の外側軌道面27と内輪24の内側軌道面29との間に配置された転動体30としてのボールとで構成される。ハブ輪1と、ハブ輪1の外周に圧入される内輪24とで、内側軌道面28,29を有する内方部材を構成するので、車輪用軸受装置の軽量・コンパクト化を図ることができる。外方部材25の外周面には、外方部材25をナックルに固定するための止め輪31(図37参照)を収容する止め輪溝25aが形成されている。なお、外方部材25の両開口部にはシール部材S1、S2が装着されている。
この車輪用軸受2は、ハブ輪1のインボード側の円筒状端部を加締め、加締めによって形成された加締部31で内輪24を押圧することによって軸受内部に予圧を付与する構造である。これによって、内輪24をハブ輪1に固定することができる。ハブ輪1の端部に形成した加締部31で軸受2に予圧を付与した場合、外側継手部材5のマウス部11で予圧を付与する必要がない。従って、予圧量を考慮せずに外側継手部材5の軸部12を圧入することができ、ハブ輪1と外側継手部材5との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。図1に示す実施形態では、マウス部11をハブ輪1の端部(本実施形態では加締部31)と非接触にしており、これに対応して、軸方向で対向する、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとの間に隙間98が設けられる。マウス部11とハブ輪1を非接触とすることで、両者の接触による異音の発生を防止することができる。
ハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がこのボルト装着孔32に装着される。ハブ輪1には、図43に示す従来の車輪軸受装置のハブ輪に設けられていたパイロット部165が設けられていない。
凹凸嵌合構造Mは、図2(a),(b)に示すように、例えば、軸部12のアウトボード側の端部の外周面に設けられた軸方向に延びる複数の凸部35と、ハブ輪1の孔部22の内径面(本実施形態では、軸部嵌合孔22aの内径面37)に形成される複数の凹部36とで構成される。凸部35と凹部36とは、周方向全周にわたってタイトフィットしている。
この場合、各凸部35は、図2(b)に示すように、その断面が凸アール状の頂部を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の凹部36との嵌合領域は、図2(b)に示す範囲Aである。断面における凸部35の円周方向両側の中腹部から頂部に至る範囲で各凸部35と凹部36が嵌合している。周方向の隣り合う凸部35間において、ハブ輪1の内径面37よりも内径側に隙間40が形成されている。
図7(a)に示すように、凸部35は、その圧入開始側の端面35aの縁に丸みのない角部39を有する。ここで、「角部39」とは、端面35aと凸部35の側面35bとが交わることによって構成された山形の稜(多面体の隣り合った二つの面が交わってなす辺)を意味する。よって、角部にC面取りを施したものは除外されることとなるが、肉眼でC面取りがないと認められても、微視的に観察すればC面取り状のものが形成されていると認められる場合がある。また、角部は「丸みのない」ものとするが、同様に肉眼では確認できなくても、微視的にはR面取り状のものが形成されていると認められる場合がある。以上の事情から、本発明において、0.1mm以下のR面取りあるいは0.1mm以下のC面取りが形成された角部は、「丸みのない角部」に含まれるものとする。例えばモジュール0.48で歯数58枚の雄スプライン41を構成した場合に、R面取りの場合ではR0.02〜0.05mm程度のもの、C面取りの場合ではC0.02〜0.05mm程度のものは「丸みのない角部」に含める。ここで、モジュールとは、後述する凸部35のピッチ円径PCDを凸部35の歯数Zで割ったものである。
凸部35としては、図7(b)に示すようにその頂部が平坦面44で形成されたものも使用することができる。
図1に示すように、外側継手部材5の軸部12の端部とハブ輪1の内径面37との間に軸部の抜けを規制するための抜け止め構造M1が設けられている。この抜け止め構造M1は、外側継手部材5の軸部12の端部からアウトボード側に延びてテーパ孔22bと軸方向で係合するテーパ状係止片65で構成される。テーパ状係止片65は、インボード側からアウトボード側に向かって拡径するリング状体からなり、その外周面65aの少なくとも一部がテーパ孔22bに圧接もしくは接触している。
この車輪用軸受装置では、凹凸嵌合構造Mへの異物侵入防止手段Wを、凹凸嵌合構造Mよりもインボード側、及びアウトボード側にそれぞれ設けている。
インボード側では、図1に示すように、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとの間の隙間98にシール部材99が嵌着され、このシール部材99でインボード側の異物侵入防止手段W1が構成されている。隙間98は、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとの間から、ハブ輪1の大径孔22cと軸部12との間に至るまで形成される。このように、隙間98のコーナ部、すなわちハブ輪1の加締部31と大径部22cとの境界部分にシール部材99を配置し、ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間の隙間98を塞ぐことで、この隙間98からの凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物の侵入を防止することができる。シール部材99としては、例えば、図11(a)に示すような市販のOリング等を使用することができる。シール部材99は、ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間に介在可能である限り任意のものが使用可能であり、Oリング以外にも、例えば図11(b)に示すようなガスケット等のようなものも使用可能である。
図1に示すアウトボード側の異物侵入防止手段W2は、係合部であるテーパ状係止片65と、テーパ孔22bの内径面との間に介在されるシール材(図示省略)とで構成することできる。この場合、テーパ状係止片65にシール材が塗布されることになる。すなわち、塗布後に硬化して、テーパ状係止片65と、テーパ孔22bの内径面の間において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材をテーパ状係止片65に塗布すればよい。なお、このシール材としては、この車輪用軸受装置が使用される雰囲気中において劣化しないものが選択される。
凸部35と凹部36との間にシール材を介在させ、これによって、異物侵入防止手段W(W3)を構成してもよい。この場合、凸部35の表面に、塗布後に硬化して、嵌合接触部位38間において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材を塗布すればよい。
上記凹凸嵌合構造Mは、以下の手順で得ることができる。
先ず、外側継手部材5の軸部12に、この実施形態では転造加工やプレス加工などの塑性加工(転造加工、プレス加工等)を用いて、軸方向に延びた多数の歯を有する雄スプライン41を形成する。図2(b)に示すように、雄スプライン41のうち、歯底41bを通る円、歯先41a、および歯先41aにつながる両側面で囲まれた領域が凸部35となる。なお、雄スプライン41は、塑性加工以外の切削加工等の加工方法を用いて形成してもよい。
雄スプライン41は、モジュールを0.5以下とし、通常使用されるスプラインのモジュールよりも小さい歯とするのが望ましい。これにより、スプライン41の成形性の向上を図ることができるとともに、雄スプライン41をハブ輪1の軸部嵌合孔22aに圧入する際の圧入荷重を小さくすることができる。軸部12の凸部35を雄スプライン41で形成することにより、この種のシャフトにスプラインを形成するための加工設備を活用することができ、低コストに凸部35を形成することが可能である。
次に、凸部35の圧入開始側の端面を切削加工で仕上げる。この切削加工は、切削工具として突切りバイトを使用して行なうのが望ましく、これにより切れ味の良い加工を行なうことができ、バリの発生が少ない。特に、塑性加工によって凸部35を形成した場合は、圧入開始側の端部が、塑性変形に特有のダレの発生により、いびつな形状となる場合がある。その一例として、図5は、凸部35における圧入開始側の端面に向けて軸方向に塑性流動が生じた結果、端部35dがいびつな形状となった状態を示している。すなわち、端部35dの端面351が、径方向外側へ行くにしたがって圧入開始端側へ傾斜し、端部周面352が端面に向けて縮径した状態を示している。この他、状況によっては、圧入開始側の端面が、径方向外側へ行くにしたがって圧入方向とは反対側へ傾斜したり、端部周面が端面に向けて拡径することもある。このように凸部35の圧入開始側の端部35dがいびつな形状となっていると、ハブ輪1の孔部22に対する圧入の際に、端縁による高い切り込み作用を得難く、凸部35による凹部36の成形性が悪化すると共に、圧入荷重が増大し、場合によっては凸部35に欠けが生じるおそれもある。
これに対し、図示の実施形態では、図6に示すように、凸部35の圧入開始側の端面を切削加工で仕上げることにより、図に斜線で示すいびつな端部35dを除去する。これによって、圧入開始側端面が切削面となり、圧入開始側端面に、図7(b)に示すように、丸みがなく且つ他方に切り込み可能な角部39を形成することができる。この丸みのない角部39によって、ハブ輪1の孔部22に対する圧入の際に、高い切り込み作用が得られ、圧入荷重を低く抑えることができる。この圧入開始側の端面仕上げのために除去すべき端部の範囲は、いびつな部分を除去でき、凹凸嵌合構造Mの機能上必要な凸部35の長さを維持するように決められ、軸方向に3mm以上の長さとするのが望ましい。
また、図8にクロスハッチングで示すように、軸部12の外径面に熱硬化処理を施して硬化層Hを形成する。硬化層Hは、凸部35の全体および歯底41bも含めて円周方向に連続して形成される。なお、硬化層Hの軸方向の形成範囲は、少なくとも雄スプライン41のアウトボード側の端縁から、外側継手部材5のマウス部11の底壁の内径部に至るまでの連続領域を含んだ範囲とする。熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。
その一方、ハブ輪1の内径側は未焼き状態に維持される。すなわち、ハブ輪1の孔部22の内径面37は熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。外側継手部材5の軸部12の硬化層Hとハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。例えば、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。ハブ輪1の内径面37のうち、少なくとも軸部嵌合孔22aの内径面37が未硬化部であれば足り、その他の内径面には熱硬化処理を施しても構わない。また、上記硬度差が確保されるのであれば、「未硬化部」とすべき上記領域に熱硬化処理を施してもよい。
この際、凸部35の高さ方向の中間部を、凹部形成前のハブ輪1の軸部嵌合孔22の内径面37の位置に対応させる。すなわち、図8に示すように、軸部嵌合孔22aの内径面37の内径寸法D4を、雄スプライン41の凸部35の最大外径寸法(雄スプライン41の歯先41aをとおる外接円の直径寸法)D5よりも小さく、雄スプライン41の歯底を結ぶ円の直径寸法D6よりも大きくなるように設定する(D6<D4<D5)。この場合、図7(b)に示すように、丸みのない角部39は、凸部35の端面35aの縁のうち、凹部36を形成する部位に配置される(軸部嵌合孔22aの内径面37よりも外径側に丸みのない角部39が形成される)。凸部35の端面35aの縁のうち、軸部嵌合孔22aの内径面よりも内径側の領域には、丸みを形成してもよい。
図8に示すように、軸部12の端面12aには、その外周縁部から前記テーパ状係止片65を構成するための短円筒部66が軸方向に沿って突出して形成される。短円筒部66の外径寸法D7は孔部22の嵌合孔22aの内径寸法D4よりも小さく設定されている。この短円筒部66は、後述するように、軸部12のハブ輪1の孔部22への圧入時の調芯部材として機能する。
次いで、外側継手部材5の軸部12の付け根部(マウス部側)にOリング等のシール部材99を外嵌し、ハブ輪1の軸心と等速自在継手3の外側継手部材5の軸心とを合わせた状態で、ハブ輪1の孔部22に外側継手部材5の軸部12を圧入する。この際、軸部12のうち、雄スプライン部41および短円筒部66を含むアウトボード側領域の外径面に予めシール材を塗布しておく。上記のように、ハブ輪1の孔部22に圧入方向に沿って縮径するテーパ部22dを形成しているので、このテーパ部22dが圧入開始時のハブ輪孔部22と軸部12との芯出しを行なう。また、軸部嵌合孔22aの内径寸法D4、凸部35の最大外径寸法D5、および雄スプライン41の歯底の最小外径寸法D6とが前記のような関係であるので、軸部12をハブ輪1の軸部嵌合孔22aに圧入することにより、この凸部35がハブ輪1のインボード側端面の内径部に食い込み、ハブ輪1の肉を切り込む。軸部12を押し進めることで、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37が凸部35で削り取られ、又は押出されて、内径面37に軸部12の凸部35に対応した形状の凹部36が形成される。この際、凸部35の端面35aの縁に丸みのない角部39が形成されているので、凸部35によるハブ輪1の切り込みがスムーズに行われ、圧入荷重の増大を防止することができる。また、軸部12の凸部35の硬度をハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37よりも20ポイント以上高くしているので、ハブ輪1の内径面37への凹部形成が容易となる。また、軸部側の硬度を高くすることで、軸部12の捩り強度を向上させることができる。
この圧入工程を経ることによって、図2(a),(b)に示すように、軸部12の凸部35で、これに嵌合する凹部36が形成される。凸部35が、ハブ輪1の内径面37に食い込んでいくことによって、孔部22が僅かに拡径した状態となり、凸部35の軸方向の移動を許容する。その一方で、軸方向の移動が停止すれば、内径面37が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時にハブ輪1が外径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35のうち、凹部36と嵌合する部分の表面に付与される。このため、凹部36は、その軸方向全体にわたって凸部35の表面と密着する。これによって凹凸嵌合構造Mが構成される。凸部35と凹部36の嵌合部38には、シール材が介在しているので、この嵌合部38への異物の侵入防止を図ることができる。
また、軸部12の圧入に伴い、ハブ輪1側で塑性変形が生じるため、凹部36の表面には加工硬化が生じる。このため、凹部36側のハブ輪1の内径面37が硬化して、回転トルク伝達性の向上を図ることができる。
図8に示すように、テーパ部22dは、軸部12の圧入を開始する際のガイドとして機能させることができる。そのため、ハブ輪1の孔部22に対して外側継手部材5の軸部12を、芯ずれを生じさせることなく圧入させることができる。また、短円筒部66の外径D7を、孔部22の嵌合孔22aの内径寸法D4よりも小さく設定しているので、短円筒部66を調芯部材として機能させることができ、芯ずれを防止しつつ軸部12をハブ輪1に圧入することができ、より安定した圧入が可能となる。
図1に示すように、凹凸嵌合構造Mは、極力、軸受2の軌道面26、27、28、29の内径側を避けて配置することが求められる。特にインナレース28、29上における接触角が通る線との交点の内径側を避け、これらの交点の間の軸方向領域に凹凸嵌合造Mを形成することが望まれる。これにより、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑えることができる。従って、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受を提供することができる。
図33等に示すように、外側継手部材5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入する際には、外側継手部材5のマウス部11の外径面に、段差面Gを設け、仮想線で示す圧入用治具Kをこの段差面Gに係合させて、この圧入用治具Kから段差面Gに圧入荷重(軸方向荷重)を付与すればよい。この時、凸部35の形状精度を管理することに加え、圧入用治具Kの圧入ストロークを精度よく管理することで、凹凸嵌合構造Mにおける後述の嵌合長Lを高精度化することができる。なお、段差面Gとしては周方向全周に設けても、周方向に沿って所定ピッチで設けてもよい。使用する圧入用治具も、これらの段差面Gの形状に対応して軸方向荷重を付与できるものであればよい。
図9に示すように、凹凸嵌合構造Mを介して外側継手部材5の軸部12とハブ輪1とが一体化された状態では、短円筒部66が嵌合孔22aからアウトボード側に突出する。
この短円筒部66は、治具67を使用して拡径方向に塑性変形される。治具67は、円柱状の本体部68と、この本体部68の先端部に連設される円錐台部69とを備える。治具67の円錐台部69は、その傾斜面69aの傾斜角度がテーパ孔22bの傾斜角度と略同一され、かつ、その先端の外径が短円筒部66の内径と同一乃至僅かに短円筒部66の内径よりも小さい寸法に設定されている。治具67の円錐台部69を、テーパ孔22bを介してアウトボード側から嵌入することによって矢印α方向の荷重を付加し、これによって、図10に示すように、短円筒部66に矢印β方向の拡径力を付与する。この際、治具67の円錐台部69によって、短円筒部66が外径側に塑性変形し、テーパ孔22bの内径面に押し付けされる。これに伴い、予め短円筒部66の外径面に塗布されたシール材がテーパ孔22bの内径面に密着し、異物侵入防止手段W2を構成する。また、塑性変形した短円筒部66がテーパ孔22bの内径面と係合するテーパ状係止片65となり、軸部12の抜け止め構造M1を構成する。なお、治具67により矢印α方向の荷重を付加する際には、ハブ輪1や等速自在継手3等の一部を図示しない固定部材で支持して荷重を受ければよい。短円筒部66の内径面は軸端側に拡径するテーパ形状でも良い。このような形状にしておけば、鍛造で軸部12の内径面を成形することが可能となり、コスト低減に繋がる。
また、治具67の矢印α方向の荷重を低減させるため、短円筒部66に切り欠きを入れても良いし、治具67の円錐台部69の円錐面を周方向で部分的に配置するものでも良い。短円筒部66に切り欠きを入れた場合、短円筒部66を拡径し易くなる。また、治具67の円錐台部69の円錐面を周方向で部分的に配置するものである場合、短円筒部66を拡径させる部位が円周上の一部になるため、治具67の押し込み荷重を低減させることができる。
以上に述べた凹凸嵌合構造Mでは、凸部35と凹部36との嵌合部位38の全体が密着しているので、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。このため、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生もない。
また、凹部36が形成される部材(第1の実施形態ではハブ輪1)には、雌スプライン等を予め形成しておく必要がない。従って、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要としないことから組立性の向上を図ることができる。さらに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持できる。また、ハブ輪1の内径側は比較的軟らかいため、ハブ輪1の凹部は、軸部12の凸部35と高い密着性をもって嵌合する。そのため、径方向及び円周方向におけるガタの防止により一層有効となる。
特に、図5に示すように、凸部35に設けた丸みのない角部39によって、ハブ輪1の孔部22の内径面37を切り出す、又は押出すことができるので、圧入荷重の増大を防止できる。
図3に示すように、凹凸嵌合構造Mは、凸部35の圧入開始側端部から、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aとテーパ部22dとの境界部に至るまでの領域に形成される。凸部35はこの境界部よりもインボード側まで延びている。本発明では、凹凸嵌合構造Mを設計する際に、凹凸嵌合構造Mにおける凸部35と凹部36の嵌合長L(図3参照)の値と、複数の凸部35のピッチ円径PCD(図4参照)の値とが、それぞれ公差を規定して管理される。ピッチ円径PCDは、図4に示すように、凸部35のうち、凹部36に嵌合する領域(嵌合部38)と凹部36に嵌合しない領域との境界部を通る円Rから凸部35の歯先41aに至るまでの距離の中間点を通る円の直径を意味する。
これらの管理項目から、Q=2L/PCDとしてQを演算すると、Qが大きくなるほど凹凸嵌合構造Mを含む円筒面が全体的に細長い形状となり、Qが小さくなるほど該円筒面が太く短い形状となる。Qの上限値は、通常、凹凸嵌合構造Mの径寸法が最も小さいときに適用される。凹凸嵌合構造Mの径が小さい場合、嵌合部38の軸方向長さを長くして必要な結合強度を確保することになる。Qが1.0程度あれば十分な結合強度が得られるが、これよりもQが大きくなると、嵌合長Lが長くなりすぎて凹凸嵌合構造Mの大型化(長大化)、延いては軸受装置の大型化を招く。また、材料コストや加工コストも高騰するため、軸受装置の高コスト化を招く。一方、Qの下限値は、通常、凹凸嵌合構造Mの径寸法が大きい場合に適用される。凹凸嵌合構造Mの径寸法が大きい場合、嵌合長Lは短くできるが、0.2を下回ると十分な強度を得ることができない。
以上から、加締部31と、軸方向で加締部31に対向する外側継手部材のマウス部11のバック面11aとを非接触とした非接触タイプの車輪用軸受装置においては、0.20≦Q≦1.0に設定するのが望ましい。車輪用軸受装置において、例えば外側継手部材5の軸部12の最小径としては21.974mmが用いられ、最大径としては41.201mmが使用される。公差を含めた最小の嵌合長Lを前者で6.4mmに設定し、後者で12.4mmに設定することにより、Qの値が前者で0.583、後者で0.602となり、前記の範囲を満たすことができる。
凸部35によって凹部36を成形する際、凸部35の圧入開始側端部では、肉の流動が乱れるため、凸部35間の溝部分への肉の充足が不安定となる。この充足不安定部では凹部36の成形精度が低下し、そのため凸部35に対する凹部36の密着度が悪くなって結合強度の低下を招く。また、例えば凸部35の圧入を繰り返した場合等には、凸部の圧入開始側端部に摩耗・欠けが生じるおそれもあり、この欠損分でも凸部35と凹部36の密着度が低下して結合強度の低下を招く。従って、嵌合長Lの設定に際しては、このような充足不安定部や凸部35の欠損を考慮に入れて嵌合長Lに余裕を持たせる必要がある。本発明者らの検証によれば、凹凸嵌合構造の嵌合長Lを4mm以上にしておけば、仮に充足不安定部や凸部35の欠損が生じたとしても、軸部12の軸径によらず、ハブ輪1と外側継手部材5との間で十分な結合強度を確保できることが判明した。従って、上記0.20≦Q≦1.0の条件に加え、嵌合長L≧4mmの条件を追加することで、より安定して必要な結合強度を有する凹凸嵌合構造Mを得ることができる。
また、本発明では、図4に示すように、各凸部35のピッチ円(PCD)上において、径方向線(半径線)と凸部側面35bとが成す角度θを0°≦θ1≦45°の範囲に設定する。これにより、圧入後のハブ輪1の拡径量を小さくし、圧入性の向上を図ることができる。これは、凸部35を圧入することによって、ハブ輪1の孔部22が拡径するが、θ1が大きすぎると、圧入時の拡径力が働き易くなるため、圧入終了時におけるハブ輪1外径の拡径量が大きくなり、ハブ輪1外径部や軸受の内輪24外径部の引張応力(フープ応力)が高くなること、およびトルク伝達時に径方向への分力が大きくなるため、ハブ輪1の外径が拡径し、ハブ輪1外径部や内輪24外径部の引張応力(フープ応力)が高くなること、等による。これら引張応力(フープ応力)の増加は、軸受寿命の低下を招く。
また、本発明では、凸部35の歯数をZとして、0.30≦PCD/Z≦1.0にしている。PCD/Zが小さすぎる場合、凹部36を形成すべき部材(例えばハブ輪1)に対する凸部35の圧入代の適用範囲が非常に狭く、寸法公差も狭くなるため、圧入が困難となる。また、ハブ輪1の孔部22と継手外輪5の軸部12との芯出しが難しく、圧入時に少しでも傾きが出た場合、圧入した凸部全域が他方に食い込むおそれがある。PCD/Zが1.0以上の場合、1つの凸部35で加工する体積(除体積)が大きくなるため、凸部35による凹部36の成形性が悪化し、圧入荷重も高くなる。
特に、20°≦θ1≦35°とするとともに、0.33≦PCD/Z≦0.7とすることによって、凸部35において材料に特殊鋼や表面処理を用いなくても、また、鋭利な形状にしなくても、一般的な機械構造用鋼を用いて圧入時に凸部35による凹部36の成形が可能となり、圧入後のハブ輪の外径の拡径量を低く抑えることが出来る。しかも、θ1を20°以上とすることにより、軸部12側に凸部35を設ける場合、転造加工による凸部35の成形が可能となる。
図2(a),(b)に示す雄スプライン41では、一例として、凸部35のピッチと凹部36のピッチとが同一値に設定されている。このため、図2(b)に示すように、凸部35の高さ方向の中間部において、凸部35の周方向厚さL3と、隣接する凸部間の溝幅L4とがほぼ同一となっている。
これに対して、図38(a)に示すように、凸部35の高さ方向の中間部において、凸部35の周方向厚さL5を、隣接する凸部間の溝幅L6よりも小さくしてもよい。換言すれば、凸部35の高さ方向の中間部において、軸部12側の凸部35の周方向厚さ(歯厚)L5を、ハブ輪1側の突出部分43の周方向厚さ(歯厚)L6よりも小さくする。
各凸部35において上記関係を満たすことにより、軸部12側の凸部35の周方向厚さL5の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、ハブ輪1側の突出部分43の周方向厚さの総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定することが可能となる。これによって、ハブ輪1側の突出部分43のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。
この場合、全ての凸部35と突出部分43について、L5<L6の関係を満足させる必要はなく、周方向厚さの総和がハブ輪1側の突出部分43における周方向厚さの総和よりも小さくなる限り、一部の凸部35と突出部分43については、L5=L6とし、あるいはL5>L6に設定することができる。
図38(a)では、凸部35を断面台形に形成しているが、図38(b)に示すように、インボリュート形状の断面に形成することもできる。
以上の実施形態では、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとを比接触にした場合を例示しているが、図42に示すように、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとを当接させてもよい。この場合、外側継手部材5の軸部12の位置決めが行われるので、車輪軸受装置の寸法精度が安定すると共に、凹凸嵌合構造Mの嵌合部38の軸方向長さを安定化させて、トルク伝達性の向上を図ることができる。このようにハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとを当接させる場合、両者の接触面圧は100MPa以下とするのが望ましい。接触面圧が100MPaを超えると、大トルク負荷時に外側継手部材5とハブ輪1との捩れ量に差が生じ、この差によって接触部に急激なスリップが生じて異音を発生するおそれがあるからである。従って、接触面圧を100MPa以下とすることで、異音の発生を防止して静粛な車輪用軸受装置を提供することができる。
このようにハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとを接触させた場合、両者を非接触にする場合に比べて、トルク負荷時のモーメント荷重に対する軸受装置の強度が増す。この場合、凹凸嵌合構造Mの必要強度も小さくできる。そのため非接触タイプに比べて、Q(=2L/PCD)の値、特に上限値を非接触タイプよりも小さくすることができる。本発明者らの検証により、凸部35のピッチ円径PCDと、凹凸嵌合構造Mにおける凸部35と凹部36の嵌合長Lとを寸法管理の対象として、両者を0.20≦Q≦0.84の関係を満たすようにすれば、ハブ輪1と外側継手部材5との間で必要な結合強度を確保しながらコンパクトな凹凸嵌合構造Mを提供できることが判明した。凹凸嵌合構造Mの嵌合長Lは、上記と同様の理由から4mm以上とする。この場合の嵌合長Lは、凸部35の形状精度を管理することに加え、適当な基準面(例えばハブ輪1のフランジ部21のアウトボード側端面)と加締め部31の端面との間の距離を管理することで精度良く得ることができる。
図1に示す車輪用軸受装置では、外側継手部材5の軸部12の端部からアウトボード側に延びるテーパ状係止片65をテーパ孔22bの内径面に圧接もしくは接触させることで、外側継手部材5の軸部12の端部とハブ輪1の内径面37との間に軸部12の抜け止め構造M1を設けている。この抜け止め構造M1によって、ハブ輪1からの外側継手部材5の軸部12のインボード側への抜けを防止し、安定した連結状態を維持することができる。また、抜け止め構造M1がテーパ状係止片65であるので、従来のようなねじ締結を省略できる。このため、軸部12にハブ輪1の孔部22から突出するねじ部を形成する必要がなく、軽量化を図ることができるとともに、ねじ締結作業を省略でき、組立作業性の向上を図ることができる。しかも、テーパ状係止片65では、外側継手部材5の軸部12の一部を拡径させればよく、抜け止め構造M1の形成を容易に行うことができる。なお、外側継手部材5の軸部12のアウトボード側への移動は、軸部12をさらに圧入する方向への押圧力が必要であり、外側継手部材5の軸部12のアウトボード側への位置ズレは生じにくく、かつ、たとえこの方向に位置ズレしたとしても、外側継手部材5のマウス部11の底部がハブ輪1の加締部31に当接するので、ハブ輪1から外側継手部材5の軸部12が抜けることがない。
また、以上に述べた車輪用軸受装置では、凹凸嵌合構造Mのインボード側およびアウトボード側にそれぞれ異物侵入防止手段W1、W2を設けているので、凹凸嵌合構造Mへの軸方向両端側からの雨水や異物の侵入が防止され、凸部35と凹部36との密着性を長期間安定して維持することが可能となる。
軸部12に形成される凸部35として、図12(a)〜図12(c)に示すように、凸部35の圧入開始側の端面35aの頂部に切欠部53を設けたものも使用することができる。図12(a)はC面取りで形成した切欠部53(図13(a)参照)、図12(b)はR面取りで形成した切欠部53(図13b参照)を例示している。この他、図12(c)及び図13(c)に示すように、外径側の一つのコーナ部にC面取り状の切欠部53を形成してもよい。なお、図12(a)および(b)の構成では、端面35aのうち、切欠部53を除く両斜辺に丸みのない角部39を構成することができ、図12(c)の構成では、切欠部53を除く両斜辺および頂辺に丸みのない角部39を構成することができる。これらに加えて、切欠き部53の縁に丸みのない角部39を構成してもよい。
このように切欠部53を設けることによって、圧入時等における凸部35の圧入開始側の端面35aにおいて、頂部の欠けや変形等の損傷を防止することができる。このため、雄スプライン41の取扱いが容易となり、凸部35の圧入開始端において保護対策を別途施す必要がなく、管理工数を削減できて低コスト化を図ることができる。しかも、凸部35に硬度をあげるための焼入れ処理を行う場合、焼き割れの発生を防止することもできる。
切欠部53を設けた場合、図13(a)〜(c)に示すように、切欠部53の径方向長さa、すなわち凸部35の頂部54から切欠部53の反頂部側の端縁53aまでの径方向長さaは、ハブ輪1に対する凸部35の圧入代をΔd(図8の軸部12の最大外径寸法D5と、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径寸法D4との径差(D5−D4)で表される)として、0<a<Δd/2の範囲に設定される。これは、図12(a)〜(c)に示すTUVWの平面上に凸部35を投影したとき、図13(a)〜(c)に示すように、ハブ輪1の内径面37よりも外径側に、切欠部53の反頂部側の端縁53aが存在することを意味する。この場合、丸みのない角部39が内径面37よりも外径側に形成されるので、内径面37を確実に切り込むことができる。具体的には、切欠部53の径方向長さaは0.3mm以下とするのが好ましい。図12(a)および図12(c)に示すC面取りの傾斜角度や、図12(b)に示すR面取りの曲率半径は、0<a<Δd/2の関係式を満たす範囲で任意に設定できる。
図13(a)〜(c)では、軸方向の断面において凸部35の圧入開始側端面35aと軸線とがなす交差角を90°としているが、図14と図15(a)に示すように、交差角θ3を90°よりも小さくし、あるいは図15(b)に示すように、θ3を90°よりも大きく設定することも可能である。
この交差角θ3は、50°≦θ3≦110°の範囲に設定するのが望ましい。交差角θ3が50°未満では、圧入荷重が増大すると共に、凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化し、交差角θ3が110°を越えれば、端面35aが圧入方向側へ傾斜しすぎて凸部35に欠けが生じるおそれがあるからである。より好ましくは、交差角θ3を70°≦θ3≦110°の範囲に設定する。
図16に、抜け止め構造M1の他の構成例を示す。この車輪用軸受装置では、軸部12に図8に示す短円筒部66を形成せず、軸部12の中実状の一端部に外径方向へ突出するテーパ状係止片70を設けて軸部12の抜け止め構造M1を構成している。
このテーパ状係止片70は、図17に示す治具71を使用して形成することができる。治具71は、円柱状の本体部72と、この本体部72の先端部に連設される円筒部73とを備え、円筒部73の先端にくさび部75が形成されている。くさび部75を軸部12のアウトボード側の端部に打ち込めば(矢印α方向の荷重を付加すれば)、図18に示すように、軸部12の軸端の外径側領域が外径側に塑性変形する。これによって、テーパ状係止片70が形成され、テーパ状係止片70の少なくとも一部がテーパ孔22bの内径面に圧接もしくは接触することになる。このため、図1等に示すテーパ状係止片65と同様に、ハブ輪1からの軸部12の抜けを確実に防止することができる。テーパ状係止片70の外径面とテーパ孔部22bの内径面との間にシール材を介在させて異物侵入防止手段W2を構成することもできる。
図19に、抜け止め構造M1の他の構成例を示す。この抜け止め構造M1は、軸部12の一部を外径方向へ突出するように加締めることによって、外鍔状係止片76を構成したものである。ハブ輪1の軸部嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に段付面22eを介在させ、この段付面22eに外鍔状係止片76を圧接もしくは接触させている。
この外鍔状係止片76は、図20に示す治具77を使用して形成することができる。この治具77は円筒体78を備える。円筒体78の外径D8を軸部12の端部の外径D10よりも大きく設定するとともに、円筒体78の内径D9を軸部12の端部の外径D10より小さく設定している。
このため、この治具77と外側継手部材5の軸部12との軸心を合わせ、この状態で治具77の端面77aによって、軸部12の端面12aに矢印α方向に荷重を付加すれば、図21に示すように、軸部12の端面12aの外周側が圧潰して、外鍔状係止片76を形成することができる。
この外鍔状係止片76が段付面22eと軸方向で係合することにより、図1等に示すテーパ状係止片65と同様に、ハブ輪1からの軸部12の抜けを確実に防止することができる。外鍔状係止片76と段付面22eとの間にシール材を介在させて、異物侵入防止手段W2を構成してもよい。
外鍔状係止片76は、図22(a)に示すように、環状に連続して形成する他、図22(b)に示すように、複数の外鍔状係止片76を周方向に沿って所定ピッチで間欠配置してもよい。図22(b)に示す外鍔状係止片76は、押圧部が周方向に沿って所定ピッチ(例えば、90°ピッチ)で配設された治具を使用することによって形成することができる。
ハブ輪1に対して外側継手部材5の軸部12を圧入する際には、図23および図24に示すように、凸部35の切り出しまたは押し出し作用で凹部36から材料がはみ出し、はみ出し部45が形成される。はみ出し部45は、凸部35のうち、凹部36と嵌合する部分の容積に相当する量が生じる。
このはみ出し部45を放置すれば、これが脱落して車両の内部に入り込むおそれがある。これに対し、図23および図24に示すように、軸部12の外径面に、はみ出し部45を収納するポケット部50を形成すれば、はみ出し部45は、カールしつつポケット部50内に収納され、保持されるため、はみ出し部45の脱落を防止して、上記不具合を解消することができる。
ポケット部50は、例えば軸部12の雄スプライン41よりもアウトボード側の外径面に周方向溝51を設けることによって形成することができる。この場合、硬化層Hは、図25のクロスハッチングで示すように、ポケット部50には設けず、雄スプライン41のアウトボード側の端縁から外側継手部材5のマウス部11の底壁の内径部までの連続領域に形成する。図25では、硬化層Hをポケット部50まで到達させていないが、ポケット部にまで硬化層Hを到達させてもよい。この場合でも、外鍔状係止片76を形成する短円筒部66には硬化層を形成しない。
ポケット部50は、軸部12に対する切削加工、転造加工、プレス加工等によって形成することができる。特に、切削加工によってポケット部50を形成する場合は、凸部35の圧入開始側端面の仕上げ加工と共に行なうのが望ましい。これにより、両加工を別個に行なう場合に比し、工程数を減少させ製造コストを低減させることができる。図26は、図3に示す雄スプライン41を形成した軸部12に対して、凸部35の圧入開始側端面の仕上げ加工と、ポケット部50を設けるための切削加工とを同時に行なった状態を示している。これにより、丸みがなく且つ他方に切り込み可能な角部39と、ポケット部50とが形成されている。
なお、軸部12にポケット部50を形成した後に転造加工やプレス加工によって雄スプライン41を形成すると、図3について説明したのと同様に、凸部35における圧入開始側の端部が塑性変形によって、いびつな形状となる場合がある。図27は、圧入開始側の端面に向けて軸方向に塑性流動が生じた結果、端部35eがいびつな形状となった状態を示している。すなわち、端部53eの端面353が、径方向外側へ行くにしたがって圧入開始側へ傾斜し、端部周面354が端面に向けて縮径した状態を示している。このように凸部35の圧入開始側の端部35eがいびつな形状となっていると、図3に示した場合と同様、ハブ輪1の孔部22に対する圧入の際に、端縁による高い切り込み作用を得難く、凸部35による凹部36の成形性が悪化すると共に圧入荷重が増大し、場合によっては凸部35に欠けが生じるおそれもある。
これに対して、図26に示すように、ポケット部50形成と同時に圧入開始側の端面を切削加工で仕上げることにより、丸みがなく且つ他方に切り込み可能な角部39を形成することができる。この丸みのない角部39によって、ハブ輪1の孔部に対する圧入の際に、高い切り込み作用が得られ、圧入荷重を低く抑えることができる。
図28〜図30に、軸部12の抜け止め構造M1の他の構成例を示す。このうち、図28はボルトナット結合を用いた抜け止め構造M1を表す。詳細には、軸部12にねじ軸部80を連設し、このねじ軸部80にナット部材81を螺着して、ナット部材81を孔部22の段付面22eに当接させたものである。図29は、止め輪85で軸部12の抜け止め構造M1を構成したものであり、雄スプライン41よりもアウトボード側に軸延長部83を設けるとともに、この軸延長部83に周方向溝84を設け、この周方向溝84に止め輪85を嵌着している。図30は、軸部の外径面とハブ輪の内径面との間を溶接して抜け止め構造M1を構成したものであり、軸部12のアウトボード側の外径面と、ハブ輪1の孔部22のうちアウトボード側の開口部端縁とを溶接にて接合している。
軸部12の抜け止め構造M1は、図31に示すように省略することもできる。この場合、図32に示すように、周方向溝51は、その雄スプライン41側の側面51aが、軸方向に対して直交する平面であり、その反対側の側面51bは、溝底51cからアウトボード側に向かって拡径するテーパ面である。周方向溝51の側面51bよりもアウトボード側には、調芯用の円盤状の鍔部52が設けられている。
鍔部52の外径寸法が嵌合孔22aの孔径よりも大きいと、鍔部52自体が嵌合孔22aに圧入されることになる。この際、芯ずれがあれば、このまま凸部35がハブ輪1に圧入され、軸部12の軸心とハブ輪1の軸心とが合っていない状態で軸部12とハブ輪1とが連結されることになる。かかる不具合を防止するため、鍔部52の外径寸法D7a(図32参照)は、孔部22の軸部嵌合孔22aの孔径D4よりも僅かに小さく設定され、鍔部52の外径面52aと孔部22の嵌合孔22aの内径面との間に微小隙間tが設けられている。その一方で、鍔部52の外径寸法が嵌合孔22aの孔径よりも小さすぎると、調芯用として機能しない。従って、鍔部52の外径面52aと孔部22の嵌合孔22aの内径面との間の微小隙間tは、0.01mm〜0.2mm程度に設定するのが好ましい。鍔部52の外径寸法D7aを嵌合孔22aの孔径と同一にしてもよい。
このように、ポケット部50のアウトボード側に、ハブ輪1の孔部22との調芯用の鍔部52を設けることによって、ポケット部50内のはみ出し部45の鍔部52側への飛び出しがなくなり、はみ出し部45をより確実にポケット部50内に収納することができる。しかも、鍔部52は調芯機能を有するので、芯ずれを防止しつつ軸部12をハブ輪1に圧入することができる。このため、外側継手部材5とハブ輪1とを高精度に連結でき、安定したトルク伝達が可能となる。
なお、図31に示す抜け止め構造M1を有しない車輪用軸受装置において、軸部12に設けた調芯用の鍔部52を省略することもできる。
図33は外側継手部材5の軸部12とハブ輪1との分離を許容した実施形態を示す。この実施形態では、図33と図34に示すように、ハブ輪1は、筒部20と、筒部20のアウトボード側の端部に設けられフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、アウトボード側のテーパ孔22bとを有し、軸部嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に、内径方向へ突出する内壁22gが設けられている。外側継手部材5の軸部12とハブ輪1は、凹凸嵌合構造Mを介して結合されている。内壁22gのアウトボード側の端面には凹窪部91が設けられている。
孔部22は、軸部嵌合孔22aよりもインボード側に大径部86を有し、軸部嵌合孔22aよりもアウトボード側に小径部88を有する。大径部86と軸部嵌合孔22aとの間には、テーパ部(テーパ孔)89aが設けられている。このテーパ部89aは、ハブ輪1と外側継手部材5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部89aのテーパ角度θ2は、例えば15°〜75°とされる。なお、軸部嵌合孔22aと小径部88との間にもテーパ部89bが設けられている。
この実施形態では、上記と同様で凹凸嵌合構造Mが構成される。すなわち、軸部12に凸部35を形成した上で、この軸部12をハブ輪1の軸部嵌合孔22aに圧入し、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37に、凸部35と密着嵌合する凹部36を形成する。
軸部12の圧入後には、アウトボード側から軸部12のねじ孔90にボルト部材94を螺着する。ボルト部材94は、フランジ付き頭部94aと、ねじ軸部94bとからなる。ねじ軸部94bは、大径の基部95aと、小径の本体部95bと、先端側のねじ部95cとを有する。この場合、内壁22gに貫通孔96が設けられ、この貫通孔96にボルト部材94の軸部94bが挿通されて、ねじ部95cが軸部12のねじ孔90に螺着される。図34に示すように、貫通孔96の孔径d1は、軸部94bの大径の基部95aの外径d2よりも僅かに大きく設定される。具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる。なお、ねじ部95cの最大外径は、大径の基部95aの外径と同じか基部95aの外径よりも僅かに小さい程度とする。
このように、ボルト部材94を軸部12のねじ孔90に螺着することによって、ボルト部材94の頭部94aのフランジ部100が内壁22gの凹窪部91に当接する。これによって、軸部12のアウトボード側の端面92とボルト部材94の頭部94aとで内壁22gが挟持され、ハブ輪1と外側継手部材5の軸方向の位置決めが行われる。同時に図35に示すように、軸部12の小径部12dの外径面、内壁22gの端面、およびハブ輪1の内径面の小径部88とで囲まれた空間にポケット部97が形成される。
図33では、軸部12のアウトボード側の端面92とボルト部材94の頭部94aとで内壁22gを軸方向に挟持することにより、ハブ輪1と外側継手部材5との軸方向の位置決めが行われているが、例えば、凹凸嵌合構造Mを構成する軸部12の凸部35の軸方向の食い込み深さでもって、ハブ輪1に対する外側継手部材5の相対的な軸方向位置を管理する場合には、軸部12のアウトボード側の端面92と内壁22gは非接触としてもよい。また、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとを当接させた場合(図42参照)には、ボルト部材94の頭部94aとマウス部11のバック面11aとでハブ輪1を挟持してもよい。これにより、軸方向の曲げ剛性が向上して曲げに強くなり、耐久性に優れた高品質な車輪用軸受装置を提供することができる。しかも、この接触によって、圧入時のハブ輪1の位置決めも行えるので、車輪用軸受装置の寸法精度の安定化を図ると共に、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定化させることができ、トルク伝達性の向上を図ることができる。さらに、この接触によってシール構造を構成できるので、加締部31側からの異物の侵入を防止することができ、凹凸嵌合構造Mの嵌合状態を長期間安定して維持することができる。
ボルト部材94の座面100aと内壁22gとの間にシール材(図示省略)を介在させることにより、座面100aと内壁22gの凹窪部91の底面との間の密封性を確保することができる。これにより、アウトボード側からの凹凸嵌合構造Mへ雨水や異物の侵入が防止される。シール材としては、かかる密封性を確保できるように、種々の樹脂からなるシール材を選択して塗布すればよい。
軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、凸部35で孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料がはみ出し部45となり、図35に示すように、軸部12の小径部12dの外径側に設けられたポケット部97にカールした状態で収納される。このように、はみ出し部45を収納するポケット部97を設けることによって、はみ出し部45をこのポケット部97内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。これにより、はみ出し部45をポケット部97に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を通じて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
外側継手部材5とハブ輪1を分離する際には、図33に示す状態から、ボルト部材94を取外した後、ハブ輪1と外側継手部材5の間に凹凸嵌合構造Mの嵌合力以上の引抜き力を与えてハブ輪1から外側継手部材5を引き抜く。この引き抜きは、図36に示すような治具120を用いて行うことができる。治具120は、基盤121と、この基盤121のねじ孔122に螺合する押圧用ボルト部材123と、軸部12のねじ孔90に螺合されるねじ軸126とを備える。基盤121には貫孔124が設けられ、この貫孔124にハブ輪1のボルト33が挿通され、ナット部材125がこのボルト33に螺合される。この際、基盤121とハブ輪1のフランジ21とが重ね合わされて、基盤121がハブ輪1に取り付けられる。
このように、基盤121をハブ輪1に取り付けた後、基部126aが内壁22gからアウトボード側へ突出するように、軸部12のねじ孔90にねじ軸126を螺合させる。この基部126aの突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定される。また、ねじ軸126と、押圧用ボルト部材123とは、同一軸心上に配設される。
その後は、押圧用ボルト部材123をアウトボード側から基盤121のねじ孔122に螺着し、この状態で、矢印方向にボルト部材123を螺進させる。この際、ねじ軸126と、押圧用ボルト部材123とは、同一軸心上に配設されているので、ボルト部材123がねじ軸126をインボード側に押圧する。これによって、外側継手部材5がハブ輪1に対してインボード側へ移動して、図37に示すように、ハブ輪1から外側継手部材5が外れる。
また、ハブ輪1から外側継手部材5が外れた状態からは、例えば、図34に示すボルト部材94を使用して再度、ハブ輪1と外側継手部材5とを連結することができる。すなわち、図36のハブ輪1から基盤121を取外すとともに、軸部12からねじ軸126を取外した状態として、図34のボルト部材94を貫通孔96を介して軸部12のねじ孔90に螺合させる。この状態では、軸部12側の雄スプライン41と、前回の圧入によって形成されたハブ輪1の雌スプライン42との位相を合わせる。
次いで、この状態にて、ボルト部材94をねじ孔90に対して螺進させる。これによって、軸部12がハブ輪1内へ嵌入していく。この際、孔部22が僅かに拡径した状態となって、軸部12の軸方向の進入を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、前回の圧入と同様、凸部35の凹部との嵌合部位の全体が対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mが再度構成され、外側継手部材5とハブ輪1が再結合される。以上に述べたハブ輪1と外側継手部材5の分離、および再結合は、図36および図37に示すように、軸受2の外方部材25を車両のナックルに取り付けたままの状態で行うことができる。
特に、ボルト部材94をねじ孔90に対して螺進させる際に、図33に示すように、ボルト部材94の基部95aが、貫通孔96に対応した状態となる。しかも、図34に示すように、貫通孔96の孔径d1は、軸部94bの大径の基部95aの外径d2よりも僅かに大きく設定される(具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる)ので、ボルト部材94の基部95aの外径と、貫通孔96の内径とが、ボルト部材94がねじ孔90を螺進する際のガイドを構成することができ、芯ずれすることなく、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。なお、貫通孔96の軸方向長さが短すぎると、安定したガイド機能を発揮できず、逆に長すぎると、内壁22gの厚さ寸法が大となって、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを確保できず、かつハブ輪1の重量が大となる。貫通孔96の長さは、以上の事情を勘案して決定する。
なお、図35に示すように、軸部12のねじ孔90の開口部に、開口側に向かって拡開するテーパ部90aを形成すれば、図36のねじ軸126や図34のボルト部材94をねじ孔90に螺合させ易くなる。
1回目(孔部22の内径面37に凹部36を成形する圧入)の圧入では、圧入荷重が比較的大きいので、軸部12の圧入に際しては、プレス機等を使用する必要がある。これに対して、このような再度の圧入では、圧入荷重が1回目の圧入荷重よりも小さいため、プレス機等を使用することなく、安定して正確に軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。このため、現場での外側継手部材5とハブ輪1との分離・連結が可能となる。
以上の各実施形態では、軸部12に雄スプライン41を形成することで、軸部側に凸部35を形成した場合を例示しているが、これとは逆に、図39及び図41(a),(b)に示すように、ハブ輪1の孔部22の内径面に雌スプライン61を形成することで、ハブ輪1側に凸部35を形成してもよい。この場合、軸部12に雄スプライン41を形成した場合と同様に、例えば、ハブ輪1の雌スプライン61に熱硬化処理を施し、軸部12の外径面は未焼き状態とする等の手段で、ハブ輪1の凸部35の硬度を軸部の外径面よりもHRCで20ポイント以上硬くする。雌スプライン61は、公知のブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することができる。熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。凸部35のうち、圧入開始側の端面の縁には、丸みのない角部39を形成する。
また、図40に示すように、ハブ輪1に対して外側継手部材5の軸部12を圧入する際に形成されるはみ出し部45’を収納するためのポケット部50’を設けるのが望ましい。これにより、圧入を円滑に行なうことができると共に、はみ出し部45’の破片が移動して軸部12とハブ輪1の大径孔22cの間に挟まるという事態が生じるのを防止することができる。また、このようにポケット部50’ではみ出し部45’の破片を収容することで、図39に示すように、シール部材99を軸部12に取り付ける場合であっても、その破片によるシール部材99の損傷を防止することができる。
ポケット部50’は、例えばハブ輪1の孔部22における雌スプライン61よりもインボード側の内径面に周方向溝を設けることによって形成することができる。この場合、硬化層Hは、図39のクロスハッチングで示すように、ポケット部50’には設けず、雌スプライン61のインボード側の端縁からアウトボード側のテーパ孔22bに形成する。図39では、硬化層をポケット部50’まで到達させていないが、ポケット部にまで硬化層Hを到達させてもよい。
図39及び図40は、雌スプライン61を形成した孔部22に対して、凸部35の圧入開始側端面の仕上げ加工と、ポケット部を設けるための切削加工とを同時に行なった状態を示している。これにより、丸みがなく且つ他方に切り込み可能な角部39と、ポケット部50’とが形成されている。この同時加工によれば、両加工を別個に行なう場合に比し、工程数を減少させ製造コストを低減させることができる。
その後、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部35で、軸部12の外周面に凸部35と嵌合する凹部36が形成され、これによって、凸部35と凹部36の嵌合部位全体を密着させた凹凸嵌合構造Mが構成される。凸部35と凹部36の嵌合部位38は、図41(b)に示す範囲Bである。軸部12の外周面よりも外径側で、かつ周方向に隣合う凸部35間には隙間62が形成される。
凸部35の高さ方向の中間部が、凹部形成前の軸部12の外径面の位置に対応する。すなわち、軸部12の外径寸法D11は、雌スプライン61の凸部35の最小内径寸法D12(雌スプライン61の歯先61aを通る円の直径寸法)よりも大きく、雌スプライン61の最大内径寸法D13(雌スプライン61の歯底6aを通る円の直径寸法)よりも小さく設定される(D12<D11<D13)。
この場合であっても、圧入によってはみ出し部45’が形成されるので、このはみ出し部45’を収納するポケット部50’を設けるのが好ましい。はみ出し部45’は軸部12のインボード側に形成されるので、ポケット部は、凹凸嵌合構造Mよりもインボード側で、かつハブ輪1側に設ける。
このように、ハブ輪1の孔部22の内径面に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設ける場合、軸部12側の熱硬化処理を行う必要がないので、等速自在継手3の外側継手部材5の生産性に優れる、という利点が得られる。
この実施形態においても、軸方向で加締部31に対向する外側継手部材5のマウス部11のバック面11aと加締め部31とを非接触にし、あるいは両者を接触させることもできる。前者の場合は、凸部35のピッチ円径PCDと、凹凸嵌合構造Mにおける凸部35と凹部36の嵌合長Lとを寸法管理対象として、両者を0.20≦2L/PCD≦1.0の範囲に設定し、後者の場合は0.20≦2L/PCD≦0.84の範囲に設定する。上記と同様の理由から、何れの場合も嵌合長Lは4mm以上にする。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、凸部35の圧入開始側の端面を切削加工で仕上げる工程は、軸部12の外径面又は孔部22の内径面に熱硬化処理を施して硬化層Hを形成する工程の後に行なってもよい。但し、切削が容易であり、切れ味が良く、バリの出にくい切削工具を使用するという点から、凸部35端面の仕上げ工程を熱硬化処理工程の前に行なうのが望ましい。
また、凹凸嵌合構造Mの凸部35の断面形状として、図2(b)、および図38(a)(b)に示す形状以外にも、半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の断面形状を有する凸部35を採用することができ、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。凸部35は、軸部12やハブ輪11とは別体のキーのようなもので形成することもできる。
また、ハブ輪1の孔部22としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部22に嵌挿する軸部12の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部12を圧入する際には、凸部35の少なくとも圧入開始側の端面を含む端部領域の硬度が、圧入される側の硬度よりも高ければよく、必ずしも凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。図2(b)および図41(b)では、スプラインの歯底と凹部36が形成された部材との間に隙間40,62が形成されているが、凸部35間の溝の全体を相手側の部材で充足させてもよい。
凹部が形成される部材の凹部形成面には、予め、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部36の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部35の圧入時に形成されるはみ出し部45の容量を減少させることができるので、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部45を少なくできるので、ポケット部50,50’の容積を小さくでき、ポケット部50,50’の加工性及び軸部12の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、三角形状、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
以上の実施形態では、軸受2の転動体30としてボールを使用する場合を例示したが、転動体30としては、ボール以外にころを使用することもできる。また、前記実施形態では、本発明を第3世代の車輪用軸受装置に適用しているが、第1世代や第2世代、さらには第4世代の車輪軸受装置にも同様に適用することができる。なお、凸部35を圧入する場合、凹部36が形成される側を固定して、凸部35を形成している側を移動させても、逆に、凸部35を形成している側を固定して、凹部36が形成される側を移動させてもよい。あるいは、両者を移動させてもよい。等速自在継手3において、内輪6とシャフト10とを前記各実施形態に記載した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
なお、軸部12の抜け止め構造M1において、例えば、図29に示すような止め輪85等を使用する場合、軸部12の端部に抜け止め構造M1を設けず、軸部12の付け根部側(マウス側)に設けることもできる。
図33に示す実施形態において、ハブ輪1と軸部12とのボルト固定を行うボルト部材94の座面100aと、内壁22gとの間に介在されるシール材は、ボルト部材94の座面100a側に樹脂を塗布して構成する他、逆に、内壁22g側に樹脂を塗布して構成してもよい。また、座面100a側および内壁22g側の双方に樹脂を塗布するようにしてもよい。なお、ボルト部材94を螺着する際において、ボルト部材94の座面100aと、内壁22gの凹窪部91の底面とが密着性に優れるものであれば、このようなシール材を省略することも可能である。例えば、凹窪部91の底面を研削すれば、ボルト部材94の座面100aとの密着性が向上するので、シール材の塗布を省略することが可能となる。密着性が確保される限り、凹窪部91への研削加工を省略し、鍛造肌や旋削仕上げ状態を、そのまま残すこともできる。
また、ポケット部50,50’の形状は、生じるはみ出し部45を収納(収容)できるものであれば足り、その形状は問わない。また、ポケット部50,50’の容量は、少なくとも予想されるはみ出し部45の発生量よりも、大きくする。