JP2012200783A - 鋳片の連続鋳造方法および連続鋳造鋳片 - Google Patents

鋳片の連続鋳造方法および連続鋳造鋳片 Download PDF

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Abstract

【課題】連続鋳造鋳片の凝固組織および凝固二次組織の微細化および均一化を図ることが可能な連続鋳造方法およびこの連続鋳造方法による鋳片を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03%-0.20%,Si:0.005%-2.0%,Mn:0.2%-3.5%,P:0.1%以下およびS:0.01%以下を含有し、Bi,SnおよびTeのうちから選ばれた第1の構成元素の1種以上を合計で0.0001%-0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋳片の連続鋳造方法であって、前記鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をdとし、前記第1の構成元素を合計で0.0001%未満含有し、かつ圧下しないで鋳造した連続鋳造鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をd0とした場合に、dとd0の比の値d/d0が0.1-0.8となるように鋳片の厚さ方向中心部が凝固した直後に圧下することを特徴とする鋳片の連続鋳造方法、およびこの方法で得られた鋳片。
【選択図】なし

Description

本発明は、凝固組織および凝固二次組織が微細な鋳片の連続鋳造方法、およびその連続鋳造鋳片に関する。
近年、構造物の大型化や高強度化への要求に応えるため、構造物の素材となる極厚鋼板に対する品質の向上が、コストの低減とともに課題となっている。
従来、極厚鋼板は、インゴット鋳造により製造された大型鋼塊を分塊圧延することで分塊スラブを作製し、これを圧延することで製造されている。しかし、この分塊スラブを用いる場合には、大型鋼塊の上部に設けられた押し湯部や、底部に生成する偏析や引け巣を除去する必要があるため、歩留まりが低いという問題がある。
また、鋼板を製造するには分塊圧延といった工程が必要であり、製造コストが大幅に増大するとともに製造期間も長くなり、生産効率の低下を招いていた。
この問題を解決するため、極厚鋼板用の鋳片の製造に連続鋳造法が適用されるようになり、歩留まりの向上および生産効率の向上が図られてきている。
しかし、その場合、連続鋳造鋳片も極厚化するため、鋳片内部、特に中央部に粗大な凝固組織が生成し、その後に成長する結晶粒(以下「凝固二次組織」ともいう。)も粗大化することから、品質向上を阻害する新たな問題が生じてきた。
そのため、連続鋳造鋳片において粗大な凝固組織や凝固二次組織の生成を抑制する技術について、従来から多くの提案がなされてきた。
特許文献1には、鋼板の組成を最適化することにより、厚さ方向の硬度差が少なく、かつ均一なベイナイト組織を有する鋼を得る方法が開示されている。これは、Moを単独で添加したり、MoおよびNbを複合添加し、さらにTiおよびBを添加した鋼を制御圧延し、冷却する方法である。この方法によると、鋼板の組織が厚さ方向において均一であり、かつ鋼板の強度と低温靱性のバランスが飛躍的に向上するとされている。しかしながら、極厚鋼板を連続鋳造鋳片から作製する場合には、鋳片の厚さ方向に沿って中心に向かうほど凝固組織が粗大化するとともにミクロ偏析も著しくなり、その後に形成される凝固二次組織もその結晶粒の粒径が不均一となる。鋼板が厚いほど、鋳片内部の組織の不均一性は著しくなり、特に高強度が要求されるような極厚鋼板では組織の不均一性が非常に大きい。このような連続鋳造鋳片を制御圧延し、冷却しても、凝固組織が残存するため、鋼板の内部の組織を均一にすることは困難である。
特許文献2には、連続鋳造の際、タンディッシュ内の溶鋼の過熱度を低下させ、ストランド内の溶鋼に電磁気力を作用させて攪拌(電磁攪拌)するとともに、凝固末期に軽圧下することで、鋳片の凝固組織の微細化やセンターポロシティの低減を可能にする技術が開示されている。しかしながら、鋳片の凝固末期では凝固組織が形成されつつあり、溶鋼の見かけの粘性が大きくなるため、凝固組織を微細化できるほどの電磁攪拌の効果は期待できない。このため、粗大な凝固組織が残存することとなり、この凝固組織の間隙に生成したセンターポロシティを、軽圧下で圧着させることも困難である。
特許文献3には、連続鋳造鋳片を中心部まで凝固させた後、鋳片の厚さ方向中心部の温度と鋳片の表面温度との差を400℃以上とし、歪速度を1×10-3-1〜1×10-2-1として圧下することにより、微細組織を有し機械的性質に優れた連続鋳造鋳片を製造する方法が開示されている。この技術によれば、合金元素を添加することなく凝固二次組織が微細化した連続鋳造鋳片を安価に製造することができる。この連続鋳造鋳片を用いることにより、鋳片から極厚鋼板等を低圧下比で製造する際の特別な設備や複雑な製造工程は不要となる。また、この連続鋳造鋳片を熱間圧延加工することにより、厚さ方向中心部付近の材質特性に優れた鋼材を得ることが可能である。しかしながら、極厚鋼板を製造するための連続鋳造鋳片も極厚であることから、鋳片中央近傍の冷却速度は小さく、凝固組織が粗大となることから、凝固組織の形成に伴って生成するミクロ偏析も著しい。凝固二次組織を微細化するには、その前提となる凝固組織の微細化が十分である必要があるため、同文献に記載の技術では、凝固二次組織の微細化が不十分となり、所望の機械的特性に優れた鋼材を製造することは困難である。
特開2001−152248号公報 特開平5−69099号公報 特開2004−237291号公報 特開2008−290103号公報
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、連続鋳造鋳片の凝固組織および凝固二次組織の微細化および均一化を図ることが可能な連続鋳造方法およびこの連続鋳造方法による鋳片を提供することを目的とする。
大型構造物の素材となる極厚鋼板の機械的特性を確保するには、鋼板の圧延組織が鋼板内で均一であることが前提となる。連続鋳造法で製造され、極厚鋼板用の素材となる鋳片には、厚さ方向の中心近傍で粗大な凝固組織が形成されており、後工程の加熱処理および熱間圧延を経ても凝固組織の影響が残存する。
これは、鋳片の凝固過程で濃化した溶質元素が、凝固組織であるデンドライトの1次アーム間隙および2次アーム間隙に存在することによる。通常の操業範囲内の加熱処理では、この濃化した溶質元素を拡散させ、組成を均一とすることが困難であるため、この鋳片を熱間圧延しても、残存したデンドライトを含む凝固組織が単に圧延されるだけで、デンドライトの樹間には濃化した溶質元素が残存したままとなるからである。
また、鋳片の凝固組織は冷却速度に依存するため、鋼の成分が同一である場合には、冷却速度を速くすればデンドライトを小さくすることができる。しかし、極厚鋼板のように鋳片の厚さが大きくなると、凝固シェル自体が熱伝導律速となり、鋳片内部の冷却速度を速めることができない。このため、冷却速度を速くして製造した極厚鋼板では、鋳片表層のデンドライトは小さいものの、鋳片の厚さ方向の中心に向かってデンドライトが大きくなり、鋳片の厚さ方向の中心近傍ではデンドライトの1次アーム間隔が数mmに達する場合もある。このように、鋳片の表層部と中心近傍とではデンドライトの大きさの差が著しく、加熱処理および熱間圧延工程を経てもこの差の影響による溶質元素の濃度の不均一さを解消することができない。
極厚鋼板用の鋳片の場合、このようなデンドライトの大きさの差が特に顕著であり、この鋳片から得られた極厚鋼板は、部位によって機械的特性が異なり、不均一な状態となる。極厚鋼板は、単にそのまま鋼板として使用される場合は少なく、大入熱溶接によって構造物を構築したり、切削加工によって鋼板の厚さ方向のいずれかの部位が表面に露出したりする。
大入熱溶接を施した場合には熱影響部の範囲が広く、この熱影響部の位置によって靱性が異なる。また、鋳片の凝固組織が粗く、熱間圧延後の圧延組織が粗いほど、鋼板は靱性が低い。大型構造物の場合、海洋で使用されることもあり、低温靱性の確保が課題であるが、鋼板の圧延組織が粗いほど、靱性の低下が著しい。また、切削加工を施して使用する場合には、圧延組織の粗い部位が表面に露出することで、機械的特性が低下することとなる。
前述のように、特許文献3では、鋼板の厚さ方向中心部近傍の凝固二次組織を微細化させ、機械的特性を向上させる技術が開示されている。しかし、同文献では凝固組織であるデンドライトについては考慮されておらず、凝固組織すなわちデンドライト1次アーム間隙および2次アーム間隙に溶質元素が濃化し、溶質元素の濃度が低いデンドライト樹芯と濃度が高い樹間が形成されることについては検討されていない。
このように、従来の技術では、凝固組織は均一な組成であることが前提とされており、単に凝固二次組織の大きさのみについて検討されている。
本発明者らは、鋳片の凝固組織および凝固二次組織と、加熱処理および熱間圧延工程を経た後の鋼板の圧延組織との関連について検討を進めた結果、凝固組織、凝固二次組織および圧延組織は相互に関連していることを明らかにした。凝固組織とはデンドライトをいい、加熱、圧延する前の連続鋳造鋳片で認識される。凝固二次組織とは、スラブ等の連続鋳造鋳片においてデンドライトとともに観察される結晶粒をいい、加熱、圧延する前の連続鋳造鋳片で認識される組織をいう。圧延組織とは、連続鋳造鋳片を加熱、圧延した鋼材で認識される組織をいう。
さらに、本発明者らは、後述する基礎実験により下記(a)〜(c)の知見を得た。
(a)鋼板、特に極厚鋼板の機械的特性を向上させるには、鋼板の圧延組織を微細化させると同時に均一化させる必要がある。鋼板圧延組織の微細化および均一化には、界面活性元素を溶鋼中に添加し、鋳片を連続鋳造することが効果的である。界面活性元素は、連続鋳造鋳片の凝固組織および凝固二次組織を微細化し、鋳片内の溶質元素の濃度を均一化させる作用を有する。
(b)鋼板の圧延組織の微細化および均一化には、連続鋳造鋳片の厚さ方向中心部の凝固が完了した直後に圧下した後、動的再結晶させることが効果的である。
(c)連続鋳造鋳片における結晶粒の粗大化の抑制を図るには、界面活性元素の添加に加えて、結晶粒界を固定する、いわゆるピン止め効果を有する元素を溶鋼中に添加して連続鋳造することが効果的である。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記の(1)および(2)に示す連続鋳造方法および(3)に示す連続鋳造鋳片にある。
(1)質量%で、C:0.03%〜0.20%、Si:0.005%〜2.0%、Mn:0.2%〜3.5%、P:0.1%以下およびS:0.01%以下を含有し、Bi、SnおよびTeのうちから選ばれた第1の構成元素の1種以上を合計で0.0001%〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋳片の連続鋳造方法であって、前記鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をdとし、前記第1の構成元素を合計で0.0001%未満含有し、かつ圧下しないで鋳造した連続鋳造鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をd0とした場合に、dとd0の比の値d/d0が0.1〜0.8となるように鋳片の厚さ方向中心部が凝固した直後に圧下することを特徴とする鋳片の連続鋳造方法。
(2)前記鋳片が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれた第2の構成元素の1種以上を合計で0.0002〜0.005%含有することを特徴とする前記(1)に記載の鋳片の連続鋳造方法。
(3)前記鋳片が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Mg、Ca、SrおよびBaを合計で0.0002〜0.005%含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の鋳片の連続鋳造方法。
(4)前記(1)または(2)に記載の連続鋳造方法によって製造された連続鋳造鋳片。
以下の説明では、鋼の成分組成についての「質量%」を、単に「%」と表記する。
本発明の連続鋳造方法によれば、単に界面活性元素を添加した場合よりも、凝固組織および凝固二次組織が微細であり、かつ表面品質の良好な鋳片を製造することができる。
また、本発明の連続鋳造鋳片は、凝固組織が微細かつ均一であるため、機械的特性が良好であり、大型構造物に用いられる極厚鋼板用の素材として適する。
本発明の連続鋳造方法は、質量%で、C:0.03%〜0.20%、Si:0.005%〜2.0%、Mn:0.2%〜3.5%、P:0.1%以下およびS:0.01%以下を含有し、Bi、SnおよびTeのうちから選ばれた第1の構成元素の1種以上を合計で0.0001%〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋳片の連続鋳造方法であって、前記鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をdとし、前記第1の構成元素を合計で0.0001%未満含有し、かつ圧下しないで鋳造した連続鋳造鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をd0とした場合に、dとd0の比の値d/d0が0.1〜0.8となるように鋳片の厚さ方向中心部が凝固した直後に圧下することを特徴とする。
以下に、本発明の連続鋳造方法を上述のとおり規定するために行った基礎実験、および本発明の方法の好ましい態様について説明する。
1.基礎実験(1)
1−1.実験条件
試料は、0.11%C−1.5%Mn鋼の連続鋳造鋳片から、鋳片の鋳造方向に垂直な断面の全体を含むように採取したものとした。試料の寸法は、厚さ240mm、幅1200mm、長さ8000mmとし、同様の試料を同一鋳片から複数採取した。
各試料について、異なる条件で加熱処理を施した後、圧延し、鋼板とした。また、圧延せずに加熱処理のみを施した試料および加熱処理を施さずに圧延した鋼板も作製した。加熱温度は、1100℃、1200℃および1250℃とし、加熱時間は2時間、5時間、10時間および24時間とした。
圧延は、熱間圧延とし、最終厚さが200mm、150mmおよび50mmとなるように圧下率を変えて行った。これらの鋼板から、組織観察用の試料を採取した。組織観察用試料の凝固組織の顕出にはピクリン酸飽和溶液を用い、圧延組織の顕出には10%ナイタール溶液を用いた。
1−2.実験結果
組織観察の結果、加熱処理および熱間圧延の条件によらず、いずれの試料においても、凝固組織としてデンドライト形状を有する組織が観察された。ただし、圧延条件が同一の場合には、加熱温度が高いほど、また加熱時間が長いほど、観察されるデンドライト形状がやや不明瞭になるものの、デンドライトの大きさは変わらなかった。圧延組織は、鋼板の部位によって大きさは異なるものの、いずれも形状は柱状の組織であった。
今回の実験で、(1)デンドライト樹芯部の組織はフェライトで大きな柱状形状であること、(2)デンドライト間隙はベイナイトで細かな柱状形状を呈すること、ならびに(3)凝固組織および圧延組織のいずれも均一でないことが初めて判明した。
最終製品である鋼板の圧延組織を均一にするには、凝固組織を微細化すること、およびデンドライト間隙に濃化した溶質元素について、加工熱処理工程での拡散を促進させればよい。
本発明者らは、特許文献6において、鋼中に界面活性元素を添加することで、凝固組織であるデンドライト組織を微細化可能とする技術を開示してきた。この技術によれば、デンドライト間隙に濃化した溶質元素の拡散が促進され、凝固後の組織の均一化が図れることがわかっている。界面活性元素としては、Bi、SnおよびTeが挙げられる。
また、結晶粒の粗大化抑制には、結晶粒界をピン止めすることも有効であることが従来から知られている。ピン止め効果を有する元素としてはMg、Ca、SrおよびBaが挙げられる。
そこで、本発明者らは、上述の基礎実験(1)に用いた鋳片に加えて、Biを含有する鋳片、ならびにBiおよびMgを含有する鋳片を用いた実験(基礎実験(2))を行った。
2.基礎実験(2)
鋳片がBiを0.0010%、またはBiを0.0010%およびMgを0.0005%含有する点以外は基礎実験(1)と同様の条件で、実験を行った。BiおよびMgは、溶鋼に添加して含有させた。いずれの組成の鋳片とも、厚さ240mmの鋳片に対して、1200℃、2時間の加熱処理を施した後、最終厚さが50mmとなるように熱間圧延し、鋼板を作製した。
これらの鋼板の圧延組織を、基礎実験(1)において同様の条件で作製した、BiおよびMgのいずれも添加しない鋼板(以下「無添加鋼板」という。)と比較した。無添加鋼板では、BiおよびMgの含有率はいずれも測定限界以下であった。
組織観察の結果、無添加鋼板では結晶粒径が1000±110μmであったのに対して、Bi単独添加鋼板では550±50μm、BiとMgの複合添加鋼板では450±40μmであった。このように、Bi単独添加鋼板およびBiとMgの複合添加鋼板は、無添加鋼板と比べて結晶粒の粗大化が抑制されており、さらに結晶粒径の偏差も小さかった。また、BiとMgの複合添加鋼板は、Bi単独添加鋼板と比べて結晶粒の粗大化の抑制効果が大きかった。
3.基礎実験(3)
次に、動的再結晶の効果を検討するための鋳造実験を行った。この実験では、相対する2面がその面に垂直な方向に駆動可能な金型に溶鋼を流し込んでインゴットを鋳造した。このインゴットの厚さ方向中心部には鋳造時に熱電対を埋設した。溶鋼として0.11%C−1.5%Mn鋼を用い、インゴットの重さは2kgとした。
熱電対温度が低下して、鋼の固相線温度に達した直後に、金型の駆動可能な2面を駆動させることにより、インゴットに様々な歪速度の圧縮力を加えた。
このようにして作製したインゴットから、組織観察用の試料として厚さ方向中心部の10mm×10mmの部分を含む試料を採取した。組織の顕出は基礎実験(1)と同条件とした。
組織観察の結果、鋳片の圧縮によって凝固二次組織の微細化効果が得られることがわかった。また、圧縮時の歪速度が2×10-3-1より小さいと鋳片の凝固二次組織の微細化効果が得られないこと、および歪速度が1×10-1-1より大きい場合には凝固二次組織の微細化効果が飽和することがわかった。以上の結果、および歪速度を大きくするには圧下設備を大きくする必要があることを踏まえ、本発明では歪速度の範囲を2×10-3-1〜1×10-1-1とした。
さらに、界面活性元素としてBi、ピン止め効果を有する元素としてMgを用い、Bi単独またはBiおよびMgを添加した溶鋼を用いて、歪み速度の範囲を上記の2×10-3-1〜1×10-1-1の範囲で変化させる実験も行った。その結果、Biのみの添加、およびBiとMgの添加のいずれも、添加しない場合と比べて凝固二次組織がより微細化しており、BiおよびMgの添加によって凝固二次組織の微細化効果が高まることがわかった。また、界面活性元素としてSnおよびTe、ピン止め効果を有する元素としてCa、SrおよびBaを使用した場合にも同様の効果が得られることがわかった。
以上の基礎実験から、界面活性元素による凝固組織の微細化効果と凝固二次組織の成長抑制効果、およびピン止め効果を有する元素による凝固二次組織のピン止め効果を有する連続鋳造鋳片に対して、鋳片中央部の凝固が完了した直後に動的再結晶の効果を利用することで、凝固二次組織が微細な鋳片の製造が可能であることがわかった。本発明は、この基礎実験から得られた上述の(a)〜(c)の知見に基づいて完成された。
4.鋳片の組成の範囲および限定理由
次に、本発明における鋳片の組成の限定理由について説明する。
4−1.必須元素
4−1−1.第1の構成元素(基本構成元素)
C:0.03%〜0.20%
Cは、鋼の強度向上に寄与する元素である。極厚鋼板を大型構造物用として十分な強度にするには、C含有率を0.03%以上とする必要がある。しかし、C含有率が0.20%を超えると、鋼の溶接性が劣化する。これらのことから、本発明では、C含有率を0.03%〜0.20%とする。
Si:0.005%〜2.0%
Siは、鋼の曲げ性をさほど劣化させることなく強度の向上に寄与する元素である。しかし、Si含有率が2.0%を超えると、非めっき鋼板の場合には化成処理性が、溶融亜鉛めっき鋼板の場合にはめっきの濡れ性、合金化処理性およびめっき密着性が、それぞれ劣化する。これらのことから、本発明では、Si含有率を0.005%〜2.0%とする。
Mn:0.2%〜3.5%
Mnは、鋼の強度向上に寄与する元素である。極厚鋼板を大型構造物用として十分な強度にするには、Mn含有率を1.2%以上とする必要がある。しかし、Mn含有率が3.5%を超えると、転炉における鋼の溶解や精錬が困難になるだけでなく、溶接性が劣化する。これらのことから、本発明では、Mn含有率を0.2%〜3.5%とする。
P:0.1%以下
Pは、一般には鋼に不可避的に含有される不純物であるものの、固溶強化元素でもあり鋼板の強化に有効であるため、積極的に含有させてもかまわない。しかしながら、P含有率が0.1%を超えると溶接性が劣化する。そのため、本発明では、P含有率を0.1%以下とする。より確実に鋼板を強化するには、P含有率を0.003%以上とすることが好ましい。
S:0.01%以下
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、曲げ性および溶接性の観点からは、含有率は低いほど好ましい。そのため、本発明では、S含有率を0.01%以下とする。S含有率は、0.005%以下が好ましく、0.003%以下がさらに好ましい。
4−1−2.第2の構成元素(界面活性元素)
Bi、SnおよびTeの1種以上:合計で0.0001%〜0.03%
Bi、SnおよびTeは、いずれも鋼の凝固過程において界面活性元素として作用し、デンドライト状の凝固組織を微細化する効果を有する元素である。これらの元素のうちの1種を含有させるだけでもこの微細化効果を得ることができる。この微細化効果を十分に得るには、これらの元素の含有率を合計で0.0001%以上とする必要がある。また、これらの元素の含有率が合計で0.03%を超えると、これらの元素の粗大な酸化物が生成し、鋼の靱性を低下させる。以上のことから、本発明では、Bi、SnおよびTeの1種以上の含有率を、合計で0.0001%〜0.03%とする。
4−2.任意元素
Feの一部に代えて、以下の任意元素を含有させてもよい。
4−2−1.ピン止め効果を有する元素
Mg、Ca、SrおよびBaの1種以上:合計で0.0002〜0.005%
Mg、Ca、SrおよびBaは、それぞれ溶鋼中の酸素と反応して酸化物を生成し、ピン止め効果を有する元素である。これらの元素の酸化物は、それぞれ単独、またはAl23、Ti23等の1種以上を含有するものとして生成する。これらの酸化物は鋼中で微細分散する。この効果を得るには、これらの元素の含有率を合計で0.0002%以上とする必要がある。また、これらの元素の含有率が合計で0.005%を超えると、鋼中の粗大な酸化物系介在物の量が、鋼の靱性を低下させる程度に増加する。以上のことから、本発明では、Mg、Ca、SrおよびBaの1種以上の含有率を、合計で0.0002〜0.005%とする。
4−2−2.その他の任意元素
Cu:1%以下およびNi:1%以下
CuおよびNiは、いずれも鋼の強度向上に寄与する元素である。しかし、それぞれの元素の含有率が1%を超えると強度向上の効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるだけでなく、鋼が硬質となって圧延が困難となる。そのため、CuおよびNiの含有率は、それぞれ1%以下とすることが好ましい。
Al:0.001%〜1.5%
Alは、鋼を脱酸させるために添加される元素であり、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させるのに有効に作用する元素である。しかし、Al含有率が1.5%を超えると、溶接性が劣化するとともに、酸化物系介在物が増加するため、鋼板の表面性状も劣化する。これらのことから、本発明では、Al含有率を0.001%〜1.5%とすることが好ましい。
Ti:0.005〜0.03%
Tiは、主として炭窒化物を析出し、その析出強化作用により鋼の強度の向上に寄与する有効な元素である。Ti含有率が0.005%未満では、炭窒化物の析出強化作用により強度を向上させる効果が充分ではなく、一方、Ti含有率が0.03%を超えて高くなると、鋼中に粗大な析出物や介在物を形成して、鋼の靭性を低下させる。これらのことから、本発明では、Ti含有率を0.005〜0.03%とすることが好ましい。
N:0.01%以下
Nは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、鋼板の曲げ性の観点からは、含有率は低いほど好ましい。そのため、本発明では、N含有率を0.01%以下とすることが好ましい。
O:0.006%以下
Oは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、鋼中に粗大な介在物を形成して鋼の靭性を低下させるため、含有率は低いほど好ましい。そのため、本発明では、O含有率を0.006%以下とすることが好ましい。
4−3.鋼組成の限定の効果
連続鋳造鋳片の鋼組成を上述の範囲とすることにより、連続鋳造鋳片の凝固組織を一定の範囲で微細化することができる。この組成の鋳片を、以下の方法で圧下して歪を加えることにより、さらに凝固組織を微細化することができる。
5.連続鋳造鋳片の鋳造方法(圧下方法)
上述の鋼組成であり、通常の連続鋳造方法で鋳造した鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をdとする。また、上述の第1の構成元素を合計で0.0001%未満含有し、かつ圧下しないで通常の連続鋳造方法で鋳造した鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をd0とする。
本発明の連続鋳造鋳片の鋳造方法では、上述の鋼組成であり、通常の連続鋳造方法で鋳造した鋳片を、厚さ方向中心部が完全に凝固した直後に圧下用ロール対を使用して圧下する。このとき、圧下の際の歪速度は2×10-3-1〜1×10-1-1の範囲とし、dとd0の比の値d/d0が0.1〜0.8となるように圧下する。
このように連続鋳造鋳片を圧下して歪を加えることにより、鋳片の凝固組織を微細化し、均一化することができるとともに、鋳片の表面割れを少なくし、良好な表面品質とすることができる。また、この連続鋳造鋳片に熱間圧延を施して得られた鋼板は、内部組織が均一であるため大型構造物用の素材として適している。
本発明の鋳片の連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。
1.試験条件
1−1.鋳造条件
溶鋼成分:上述の基本構成元素(C、Si、Mn、PおよびS)およびその他の任意元素(Cu、Ni、Al、Ti、NおよびO)が後述する表1に記載された組成に調製された溶鋼を使用し、界面活性元素(Bi、SnおよびTe)およびピン止め効果を有する元素(Mg、Ca、SrおよびBa)(以下、界面活性元素およびピン止め効果を有する元素を総称して「添加金属」ともいう。)については下記の添加方法により添加して表1に示される組成に調製
溶鋼温度:1570℃(タンディッシュ内溶鋼温度)
鋳型サイズ:幅1200mm×厚さ240mm
鋳造速度:1.0m/分
添加金属の添加方法:添加金属を充填した直径3mmの鉄被ワイヤーを溶鋼に添加
添加金属の添加位置:Bi、SnおよびTeはレードル内、Mg、Ca、SrおよびBaはタンディッシュ内
圧下用ロール径:直径500mm
圧下条件:表2に示される歪速度で圧下
本試験では、溶鋼成分および圧下条件を変化させて連続鋳造を行い、連続鋳造鋳片を製造した。本発明例の試験において鋳造された溶鋼の成分組成および圧下条件を表1中の試験番号1〜8の欄に示し、比較例の試験において鋳造された溶鋼の成分組成および圧下条件を同表中の試験番号9〜11の欄に示した。表1において「−」はその元素の含有率が測定限界以下であることを示し、以下、元素について含有率が測定限界以下であることを「含まない」ともいう。
Figure 2012200783
Figure 2012200783
試験番号1〜8は、いずれも上述の必須元素(基本構成元素および界面活性元素)およびその他の任意元素を全て規定範囲内で含有し、圧下時の歪速度が規定範囲内である、本発明例である。試験番号1〜4はピン止め効果を有する元素をいずれも含まず、試験番号5〜8はピン止め効果を有する元素を規定範囲内で含有した。
試験番号9および11は、基本構成元素およびその他の任意元素を規定範囲内で含有し、界面活性元素およびピン止め効果を有する元素はいずれも含まない比較例であり、試験番号9は鋳片を圧下せず、試験番号11は鋳片の圧下時の歪速度が規定範囲内であった。試験番号10は必須元素およびその他の任意元素を規定範囲内で含有し、鋳片を圧下しない比較例である。
1−2.評価条件
連続鋳造方法の効果の評価は、鋳片の外観観察および組織観察によって行った。組織観察用の試験片は、圧下後の連続鋳造鋳片の中央部の横断面位置から採取した。この試料を用いて、デンドライト1次アーム間隔および結晶粒径の測定を行った。
試料は、観察面をエメリー・ペーパーおよび研磨剤(粒径が6μmおよび1μmのダイヤモンドの砥粒)を順に使用して研磨した。研磨面の組織の顕出に用いた溶液は、デンドライト組織を観察する場合にはピクリン酸飽和溶液、結晶粒径の測定には10%ナイタール溶液とした。
デンドライト1次アーム間隔は、光学顕微鏡を用いて倍率10倍で試料を観察して測定した。結晶粒径は、光学顕微鏡を用いて倍率10倍で試料を観察して結晶粒の円相当直径を求めた。デンドライト1次アーム間隔および結晶粒径のいずれも、観察視野(30mm×30mm)内での測定結果の平均値をその試料の値とした。
また、鋳片表面の割れの長さは、鋳片表面に存在するスケールをワイヤー・ブラシで除去し、鋳片表面1m2の領域を目視観察することによって測定した。
2.試験結果
上記条件で作製した連続鋳造鋳片について、「デンドライト1次アーム間隔比λ/λ0」、「結晶粒径比d/d0」および「表面割れ指数」を評価項目として評価を行い、その結果を前記表2に示した。
「デンドライト1次アーム間隔比λ/λ0」は、比較例である試験番号9を基準とした場合の、連続鋳造鋳片の厚さ方向中心部におけるデンドライト1次アーム間隔の比である。試験番号9では、界面活性元素の含有率が0.00001%未満、ピン止め効果を有する元素の含有率が0.00002%未満であり、連続鋳造鋳片を圧下しない鋼である。
「結晶粒径比d/d0」は、試験番号9を基準とした場合の、連続鋳造鋳片の厚さ方向中心部における結晶粒径の比である。また、「表面割れ指数」は、試験番号9を基準とした場合の、鋳片表面1m2当たりに発生した割れの総長さの比である。
比較例のうち試験番号9および10の結果から、連続鋳造鋳片を圧下しない場合であっても、Biを含有させることによって、デンドライト組織および結晶粒のいずれも微細化することが可能であることがわかる。また、試験番号11の結果から、界面活性元素もピン止め効果を有する元素のいずれも含有しない連続鋳造鋳片を圧下した場合にも、デンドライト組織は変化しないが、結晶粒を微細化することが可能であることがわかる。
一方、本発明例の結果からわかるように、本発明の連続鋳造方法によれば、比較例の場合よりも大きなデンドライト組織の微細化効果および結晶粒の微細化効果を得ることができる。
試験番号1〜4の結果から、界面活性元素を添加して製造した連続鋳造鋳片に圧下を加えると、デンドライト組織および結晶粒のいずれも微細化することが可能であることがわかる。また、試験番号5〜8の結果から、界面活性元素に加えてピン止め効果を有する元素を添加すると、結晶粒径をさらに微細化することが可能であることがわかる。
また、表面割れ指数の結果から、本発明の連続鋳造方法によれば、表面割れの少ない、表面品質の良好な連続鋳造鋳片を得ることができることがわかる。
本発明の連続鋳造方法によれば、単に界面活性元素を添加した場合よりも、凝固組織および凝固二次組織が微細であり、かつ表面品質の良好な鋳片を製造することができる。
また、本発明の連続鋳造鋳片は、凝固組織が微細かつ均一であるため、機械的特性が良好であり、大型構造物に用いられる極厚鋼板用の素材として適する。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.03%〜0.20%、Si:0.005%〜2.0%、Mn:0.2%〜3.5%、P:0.1%以下およびS:0.01%以下を含有し、Bi、SnおよびTeのうちから選ばれた第1の構成元素の1種以上を合計で0.0001%〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋳片の連続鋳造方法であって、
    前記鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をdとし、
    前記第1の構成元素を合計で0.0001%未満含有し、かつ圧下しないで鋳造した連続鋳造鋳片の厚さ方向中心における結晶粒径をd0とした場合に、
    dとd0の比の値d/d0が0.1〜0.8となるように鋳片の厚さ方向中心部が凝固した直後に圧下することを特徴とする鋳片の連続鋳造方法。
  2. 前記鋳片が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれた第2の構成元素の1種以上を合計で0.0002〜0.005%含有することを特徴とする請求項1に記載の鋳片の連続鋳造方法。
  3. 請求項1または2に記載の連続鋳造方法によって製造された連続鋳造鋳片。
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