JP2012180340A - 脳機能低下抑制剤 - Google Patents

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けい子 海野
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Abstract

【課題】有効性が高く、且つ長期間に渡って適用しても安全な脳機能低下抑制作用を有する素材の提供。
【解決手段】青大豆種子又はその溶媒抽出物を含有する脳機能低下抑制剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、青大豆種子又はその溶媒抽出物を有効成分とする脳機能低下抑制剤に関する。
高齢社会が到来し、老化に伴う脳機能の低下に起因する脳疾患、例えば、記憶障害、認知症、アルツハイマー症候群等の患者の増大が危惧されている。あるいは、脳疾患に罹患していないまでも、モノ忘れが激しくなった、度忘れすることが多くなった等の事象は人々が日常多く経験するところである。脳疾患をはじめ各種疾病の要因には、一般に生体内で生成される活性酸素種が関与すると言われる。しかし、活性酸素種と脳疾病との関連性は完全に解明されておらず、また活性酸素種の生成を十分に抑制あるいは制御する技術は開発されていない。現状では、脳機能低下や脳疾患等に確実に有効な予防又は治療技術は存在しないと言わざるを得ない。
アルツハイマー病は、早期発見により症状の進行を遅らせることができるが、根治させる治療薬の開発が待たれている。この病気は、脳内でつくられるアミロイドβという小さなタンパク質が神経細胞の周囲に取り付き、細胞を死滅させることが原因のひとつと考えられている。アミロイドβは、脳神経細胞で作られる前駆体タンパク質(アミロイド前駆体タンパク質)が切断され、その断片の一部が成熟アミロイドβタンパク質になることで生成される。このアミロイドβタンパク質は相互に結合しやすく、結合した当該タンパク質が脳内に蓄積することで脳の中に老人斑が形成される。この老人斑は神経細胞を死滅させて、その結果としてアルツハイマー病が発病すると考えられている。
アミロイドβ凝集を分子レベルで抑制するための方法が研究されている。例えば、Aplp1遺伝子産物であるアミロイドβ様タンパク1(amyloid beta (A4) precursor-like protein 1)は、アミロイドβ様の構造を持っており、アミロイドβ同様アルツハイマー病の増悪因子として知られている(非特許文献1)。アミロイドβ様タンパク1の発現を抑制することで、アルツハイマー病等の脳機能障害を抑制することができると期待される(非特許文献2)。
また例えば、脳脊髄液の主要なタンパク質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(Ptgds遺伝子産物)は、アミロイドβと固く結合し、その凝集を抑えると考えられている。この酵素を作る遺伝子を欠いたマウスと正常のマウスの脳内にアミロイドβを加えると、遺伝子を欠いたマウスでは、正常のマウスと比較して、アミロイドβが脳内に3倍以上も凝集し、逆に、この酵素を遺伝的に多量につくるマウスでは、アミロイドβの脳内凝集量は、正常マウスの数分の1に減少することが報告されている(非特許文献3)。さらに、ヒトの脳脊髄液からこの酵素を除くと、アミロイドβ凝集を抑制する効果が半減することも報告されている(非特許文献3)。したがって、Ptgds遺伝子産物の発現亢進により、アルツハイマー病等の脳機能障害を抑制することができると期待されている。
一般に、老化に伴う脳機能低下は老化とともに徐々に進行するため、脳機能の低下に起因する脳疾患の発症に気付くまでの潜在的な罹患の期間が長く、且つ発症後の罹患期間も長い。そのため、その予防治療薬は、罹患前あるいは潜在的な罹患の段階から、長い年月に渡って服用可能であることが望ましい。
したがって、有効性が高く、且つ長期間に渡って適用しても安全な脳機能の低下抑制剤、あるいは脳疾患の予防又は治療薬が所望されているのが実状である。
近年、植物中に存在し、生理活性を有する天然物質についての関心が世界的に高まっており、医薬、健康食品等として実用化されている例も少なくない。
例えば、ポリフェノール化合物は植物の二次代謝産物であり、植物界に普遍的かつ多種、多量に存在することが知られ、多彩な生理活性を示すため薬学、植物化学等の分野で以前から注目されてきた。健康食品分野で最近着目されている茶ポリフェノール、特にカテキン類は、抗菌、抗ウイルス、抗突然変異、抗酸化、血圧上昇抑制、血中コレステロール低下、抗う蝕、抗アレルギー、腸内フローラ改善、消臭等の様々な作用を持つことが知られている。
大豆は、我国で常食される最もポピュラーな食品の一つで、その種子には、ダイジン、ゲニスチン等のイソフラボン類等のポリフェノール類を含む。大豆イソフラボン類の効用として、高血圧症予防、中性脂肪低下等が提唱されている。大豆イソフラボン及び大豆イソフラボン配糖体を含む抗うつ剤、抗更年期障害剤、抗老人性痴呆症剤、抗アルツハイマー剤も知られている(特許文献1)
大豆は、その成熟種子の色から黄色の普通大豆、種子が緑色の青大豆、種子が黒色の黒大豆等に分類される。このうち、青大豆種子の生理活性効果については、青大豆種子の溶媒抽出物を含有する抗アレルギー剤(特許文献2)が報告されている。
しかし、青大豆種子の脳機能低下抑制効果に着目し、その利用を図った例はこれまで知られていないのが実状であった。
特開2003−113117号公報 特開2010−53125号公報 White et al, J Neurosci, 1998, 18:6207-17. Heber et al, J Neurosci, 2000, 20:7951-63. Kanekiyo et al, Proc Natl Acad Sci U S A, 2007, 104:6412-7.
本発明は、斯かる従来の実状に鑑み、有効性が高く、且つ長期間に渡って適用しても安全な脳機能低下抑制作用を有する素材の提供を課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、青大豆種子又はその溶媒抽出物が、優れた脳萎縮抑制効果、学習能力や記憶力の低下抑制効果等を有し、脳機能の低下を抑制する作用を発揮し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、青大豆種子又はその溶媒抽出物を含有する脳機能低下抑制剤を提供することにより、上記課題を解決したものである。
本発明の脳機能低下抑制剤は、学習能力や記憶力等の低下を抑制する効果、脳萎縮を抑制する効果、認知症の発症を抑制する効果等を発揮する。また当該剤によれば、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβの合成や脳内への蓄積を、分子レベルで抑制することができる。したがって、本発明の脳機能低下抑制剤によれば、脳機能低下抑制作用、すなわち、認知症、アルツハイマー症候群等の脳の病的障害を予防・治療・改善する作用、ならびに学習・記憶・思考能力及び言語・時空間・抽象的事象等の認知・弁別能力等の低下を抑制する作用が期待できる。また当該剤は、長期服用しても副作用の心配がなく安全性が高い。したがって、本発明の脳機能低下抑制剤は、脳機能の低下を抑制するための医薬、飲食品、及び飼料に利用することができる。
12月齢SMAP10マウスの大脳湿重量(各群n=12、エラーバー=±S.E.)。 11月齢SMAP10マウスのステップスルー受動回避試験における学習時間(各群n=12、エラーバー=±S.E.)。 12月齢SMAP10マウスの学習記憶能。ステップスルー受動回避試験の1ヵ月後における学習記憶率(各群n=12)。 12月齢SMAP10マウスのY字迷路試験における自発的交替行動率(各群n=12、エラーバー=±S.E.)。 脾臓細胞におけるPtgds遺伝子発現量の変化(各群n=3)。 Neuroblastoma細胞におけるAplp1遺伝子発現量の変化(各群n=3)。
本発明の脳機能低下抑制剤は、青大豆種子又はその溶媒抽出物を有効成分として含有する。本発明の脳機能低下抑制剤は、青大豆種子又はその溶媒抽出物から実質的に構成されるものを含む。
本発明において「青大豆」とは、完熟状態の種子において種皮及び/又は胚の全部又は一部が緑色を呈するダイズ(Glycine max)品種の総称である。青大豆としては、例えば、キヨミドリ、越後みどり(エチゴミドリ)、大袖振、音更大袖(振)、大袖の舞、早生緑、くらかけ、スズカリ、青丸くん、青目大豆、あきたみどり、秋試縁1号、岩手みどり、双青、青入道、黒神、あやみどり、信農青豆、秘伝、ひたし豆、天津青大豆、青仁大豆(Chinese green soybean)等の品種が含まれる。
一般に、青大豆には、あきたみどりのように、種皮及び胚が緑色を呈する品種と、大袖振のように種皮のみが緑色を呈する品種が知られているが、本発明の青大豆は、いずれの品種であってもよい。好ましくは種皮及び胚が緑色を呈する品種である。また、青大豆であっても「臍」の色は、品種により黄、緑、暗褐色、黒と様々であるが、特に制限しない。
「完熟状態」とは、種子が発芽能力を有するまでに十分に成熟した状態をいう。一般に枝豆と称される未成熟な状態の大豆種子は、黄色大豆又は黒大豆であっても緑色を呈している。しかし、このような未成熟状態時のみに緑色を呈する品種は、本発明の青大豆には該当しない。また、ここでいう「緑色」とは、波長490nm〜570nmの反射光に基づいてヒトの眼によって認識される色彩をいう。したがって、「緑色」とは、前記波長の範囲内であれば、その濃度を制限するものではなく、例えば、淡緑色、黄緑色、緑、青緑色、濃緑色及び黒緑色を包含する。
上記「種子」は、種皮及び/又は胚を含み、胚は、子葉及び胚軸を含む。
本発明の脳機能低下抑制剤に含有される「青大豆種子」としては、青大豆種子をそのまま使用してもよく、あるいは青大豆種子を切断又は粉砕したもの、乾燥したもの、乾燥後粉砕したもの、圧搾抽出した搾汁等を使用してもよい。
本発明の脳機能低下抑制剤に含有される「青大豆種子の溶媒抽出物」は、上記のような青大豆種子をそのまま、あるいは切断又は粉砕したもの、乾燥したもの、乾燥後粉砕したもの、圧搾抽出した搾汁等から、公知の方法によって抽出して得られた抽出物であり得る。抽出方法は特に制限されないが、上記青大豆種子又はその切断若しくは粉砕物、乾燥物、乾燥後粉砕物、搾汁等を、溶媒中に浸漬、攪拌又は還流等する方法、ならびに超臨界流体抽出法等が挙げられる。
抽出に用いることができる溶媒は、好ましくは水又は有機溶媒が挙げられる。具体的には、水としては、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水等が挙げられ、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の低級アルコール、および1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温で液体であるアルコール;ジエチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の有機溶媒の中では、操作性や環境性の点から、室温で液体であるアルコール、例えば、炭素原子数1〜4の低級アルコールを用いるのが好ましく、残留溶媒による安全性の観点からはエタノールを用いるのがより好ましい。
上記有機溶媒には、有機溶媒にさらに水性成分が含まれている含水有機溶媒も包含される。抽出効率を高く保持する観点からは、上記含水有機溶媒中の水性成分の含有量は、通常80体積%以下、好ましくは65体積%以下、より好ましくは50体積%以下であるのが望ましい。含水有機溶媒としては、好ましくは上記のようなアルコールにさらに水性成分が含まれている含水アルコール、より好ましくは含水エタノールが用いられる。
本発明において青大豆種子の溶媒抽出物を調製するために用いられる好ましい抽出溶媒としては、水、及び含水エタノール等の含水アルコールが挙げられる。
具体的な抽出方法としては、例えば、青大豆種子を、減圧、常圧あるいは加圧下で、室温あるいは加温した溶媒中に加え、浸漬や攪拌しながら抽出する方法、溶媒中で還流しながら抽出する方法等が挙げられる。その際、抽出温度は5℃から溶媒の沸点以下の温度とするのが適切であり、抽出時間は使用する溶媒の種類や抽出条件、含水有機溶媒の場合にはさらに水性成分含有量によっても異なるが、30分〜72時間程度とするのが適切である。還流操作により抽出を行う場合は、青大豆の抽出物が変性や熱分解を起こさないように低沸点の溶媒を用いるのが好ましい。また、二酸化炭素等を用いる超臨界流体抽出法により抽出操作を実施することもできる。
ついで、抽出液および残渣を含む混合物を、必要に応じて濾過あるいは遠心分離等に供し、残渣である固形成分を除去して抽出液を得る。なお、除去した固形成分を再度、抽出操作に供することもでき、さらにこの操作を何回か繰り返してもよい。
必要に応じて、上記青大豆種子又はその切断若しくは粉砕物、乾燥物等は、上記抽出工程にかける前に、予めヘキサン等を用いて脱脂されていてもよい。
このようにして得られた抽出液は、そのまま青大豆種子の溶媒抽出物として本発明に用いてもよく、あるいは必要に応じて、さらに濃縮あるいは凍結乾燥やスプレードライ等の方法により乾燥、粉末化したものとして使用するか、又は液状、粉末状又はペースト状に調製して使用してもよい。
抽出液を乾燥する場合、具体的な乾燥方法は、青大豆種子の溶媒抽出物が変性や熱分解を起こさない条件下で行いうる方法であれば、どのような方法でもよく、例えば、必要に応じて賦形剤を添加し、濾過、遠心分離、遠心濾過、スプレードライ、スプレークール、ドラムドライ、真空乾燥、凍結乾燥等にかける方法が挙げられる。なお、これらの方法は、単独で又は組み合わせて採用できる。
斯くして得られる青大豆種子又はその溶媒抽出物を含有する組成物は、後記実施例に示されるように、老化モデルマウスにおいて、黄大豆種子含有組成物と比較して優れた脳萎縮抑制効果、学習能力及び記憶力の低下抑制効果等を発揮した。また後記実施例に示されるように、青大豆種子又はその溶媒抽出物は、アルツハイマー症候群の原因となるアミロイドβの合成に関わる遺伝子の発現を抑制し、一方でアミロイドβの脳内への蓄積抑制に関わる遺伝子の発現を亢進する効果を発揮した。したがって、青大豆種子又はその溶媒抽出物は、脳機能低下抑制、特に老化に伴う脳機能低下の抑制;学習能力又は記憶力の低下の抑制;脳萎縮の抑制;アルツハイマー病等の認知症の発症の抑制及び/若しくは改善、等のために使用することができる。
本発明の脳機能低下抑制剤の有効成分である青大豆種子又はその溶媒抽出物は、青大豆種子を原料としているため風味がよく、そのまま単独でも充分な量を経口摂取することが可能であり、且つ長期間の継続的摂取が容易である。また青大豆種子は、食品として長期間利用され、安全性が確認されている物質であるため、長期投与又は摂取しても副作用の心配がない。したがって、健常者や成人だけでなく、小児、高齢者及び病弱者に対しても、安全且つ継続的に使用することができる。さらに、本発明の脳機能低下抑制剤の有効成分である青大豆種子又はその溶媒抽出物は、青大豆種子をそのまま使用して、又は青大豆種子から溶媒抽出のみの操作で得られた抽出物から、簡便に製造することができるため、経済的にも優れている。
したがって、本発明の脳機能低下抑制剤は、ヒト又は動物用の医薬、飲食品、飼料等として、あるいはそれらを製造するために有用である。
よって、本発明はまた、青大豆種子又はその溶媒抽出物を有効成分として含有する医薬、飲食品、及び飼料を提供する。当該医薬、飲食品、及び飼料は、脳機能低下抑制、特に老化に伴う脳機能低下の抑制;学習能力又は記憶力の低下の抑制;脳萎縮の抑制;アルツハイマー病等の認知症の発症の抑制及び/若しくは改善、等のために使用することができる。
本発明の医薬は、上記青大豆種子又はその溶媒抽出物を有効成分として含有する脳機能低下抑制薬、特に老化に伴う脳機能低下の抑制薬;学習能力又は記憶力の低下の抑制薬;脳萎縮の抑制薬;アルツハイマー病等の認知症の発症の抑制薬及び/若しくは改善薬、等であり得る。
本発明の医薬の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、吸入剤、坐剤等の経腸製剤、点滴剤、注射剤等が挙げられる。これらのうちでは、経口剤が好ましい。
なお、液剤、懸濁剤等の液体製剤は、服用直前に水または他の適当な媒体に溶解または懸濁する形であってもよく、また錠剤、顆粒剤の場合には周知の方法でその表面をコーティングされていてもよい。
本発明の医薬は、有効成分である青大豆種子又はその溶媒抽出物に、慣用される添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を剤型に応じて配合し、常法に従って製造することができる。必要に応じてさらに、青大豆種子又はその溶媒抽出物以外の他の有効成分又は薬効成分を配合してもよい。
本発明の医薬における青大豆種子又はその溶媒抽出物の含有量は、その剤型により異なるが、当該溶媒抽出物の乾燥質量を基準として、通常は、0.001〜99質量%、好ましくは0.01〜80質量%の範囲である。
上記医薬は、青大豆種子の溶媒抽出物の乾燥質量を基準として、成人1日当たり0.01〜100gの範囲で投与される。経口投与の場合、一般的な1日当たりの投与量は、0.1〜50gであるが、該抽出物は安全性の高いものであるため、その投与量をさらに増やすこともできる。上記1日当たりの投与量は、1回で投与してもよいが、数回に分けて投与してもよい。
上記1日当たりの投与量を適切に投与できるよう、本発明の医薬の剤型又は投与レジメンを、1日当たりの投与量が管理できる形にすることが望ましい。
本発明の飲食品又は飼料は、上記青大豆種子又はその溶媒抽出物を有効成分として含有し、且つ脳機能低下抑制、特に老化に伴う脳機能低下の抑制;学習能力又は記憶力の低下の抑制;脳萎縮の抑制;アルツハイマー病等の認知症の発症の抑制及び/若しくは改善、等の効果を企図して、その旨を表示した健康食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品、家畜、競走馬、鑑賞動物等のための飼料、ペットフード等であり得る。
本発明の飲食品及び飼料の形態は特に制限されず、本発明の剤を配合できる全ての形態が含まれる。例えば当該形態としては、固形、半固形または液状であり得、あるいは、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態が挙げられる。
具体的な飲食品の形態の例としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ又はソース類、菓子(例えばビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)等が挙げられる。
本発明の飼料は飲食品とほぼ同様の組成や形態で利用できることから、本明細書における飲食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることが出来る。
上記飲食品及び飼料は、有効成分である青大豆種子又はその溶媒抽出物に飲食品や飼料の製造に用いられる他の飲食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(たとえば呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を配合して、常法に従って製造することができる。あるいは、通常食されている飲食品又は飼料に上記青大豆種子又はその溶媒抽出物を配合することにより、本発明に係る飲食品又は飼料を製造することができる。
本発明の飲食品及び飼料における青大豆種子又はその溶媒抽出物の含有量は、食品の形態により異なるが、当該溶媒抽出物の乾燥質量を基準として、通常は、0.001〜80質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは1〜50質量%の範囲である。
上記飲食品及び飼料は、青大豆種子の溶媒抽出物の乾燥質量を基準として、成人1日当たり0.01〜100gの範囲で摂取される。好ましい1日当たりの摂取量は、0.1〜50gであるが、該抽出物は安全性の高いものであるため、その摂取量をさらに増やすこともできる。上記1日当たりの摂取量は、1回で摂取してもよいが、数回に分けて摂取してもよい。
上記1日当たりの摂取量を適切に摂取できるよう、本発明の飲食品又は飼料の形態を、1日当たりの摂取量が管理できる形にすることが望ましい。
さらに、本発明の医薬、飲食品及び飼料には、上記で挙げた成分以外に、他の添加剤、例えば、共役リノール酸、タウリン、グルタチオン、カルニチン、クレアチン、コエンザイムQ、グルクロン酸、グルクロノラクトン、トウガラシエキス、ショウガエキス、カカオエキス、ガラナエキス、ガルシニアエキス、テアニン、γ−アミノ酪酸、カプサイシン、カプシエイト、各種有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、カテキン類、キサンチン誘導体、フラクトオリゴ糖等の難消化性オリゴ糖、ポリビニルピロリドン等を配合してもよい。
これらの添加剤の配合量は、本発明の医薬、飲食品及び飼料の剤型又は形態、当該添加剤の種類および所望する摂取量に応じて適宜決められるが、当該医薬、飲食品及び飼料中、0.01〜70質量%の範囲内であり、好ましくは0.1〜50質量%の範囲内である。
以下に本発明の脳機能低下抑制剤の製造例、試験例等を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの範囲内に限定されるものではない。下記の説明中の%は、特に記載がない限り質量%を表す。
本発明品1 青大豆種子の水抽出物の製造
青大豆(エチゴミドリ)を破砕したもの1kgに水12Lを加え、95℃で60分間加熱して抽出を行った。遠心分離して沈殿を除去し、上清を濾過して不溶物を除去し、得られた濾液を凍結乾燥して粉末346gを得た。
比較品1 黄大豆(普通大豆)種子の水抽出物の製造
普通大豆(フクユタカ)を破砕したもの400gに水4Lを加え、95℃で60分間加熱して抽出を行った。遠心分離して沈殿を除去し、上清を濾過して不溶物を除去し、得られた濾液を凍結乾燥して粉末145gを得た。
試験例
(サンプル)
4週齢のSAMP10マウス(日本エスエルシー株式会社)を購入し、1群12匹として下記表1に記載の3群に分け、各々異なる試験食を与えて飼育した。各群マウスに、表1記載の飼料を1月齢から12月齢まで自由摂取させた。下記試験1〜4に記載の手順でマウスの大脳湿重量の測定、及び学習・記憶能の測定を行った。各群における平均摂餌量は、青大豆摂取群5.6g±0.1/day、普通大豆摂取群5.1g±0.1/day、対照群5.7g±0.1/dayであった。
(試験1 大脳湿重量)
老化モデルマウスであるSAMP10では、加齢に伴い大脳湿重量が減少し大脳の萎縮が認められる。各群12月齢のマウスを深麻酔下で屠殺し、脳を取り出し、大脳湿重量を測定した。その結果、青大豆摂取群では12月齢における大脳の萎縮が抑制されていた(図1)。このことから、青大豆の摂取は加齢に伴う脳萎縮を抑制する作用があることが示唆された。一方、普通大豆摂取群では、対照群に比較し、さらに脳萎縮を進行させた。
(試験2 学習能)
学習能力低下抑制効果の判定は、11月齢の時点で、マウスが暗いところを好む性質を利用したステップスルー受動回避試験により行った。すなわち、下記手順により、飼育ケージに暗室を設置し、暗いところを好むマウスが暗室に入った時に弱い電気ショックを与えることによって、「暗室に入らないこと」をマウスに学習させ、学習に要する時間を測定し、各群間で比較した。
(方法)
(1)マウスを明室に入れ、1分後に暗室入り口のドアを開けた。
(2)ドアを開けてからマウスが暗室に移動するまでの時間を測定した。
(3)マウスが暗室に移動した時点でドアを閉め、50μAの電流を1秒間床に流し、
マウスに電気ショックを与えた。
(4)暗室の蓋を開け静かにマウスを取りだし、再び明室に入れた。
(5)1分後に上記と同様に暗室のドアを開け、マウスが暗室に入るまでの時間を測定し 、暗室に入ったら電気ショックを与えた。
(6)この試験を繰り返し、マウスが暗室に入らないで5分間明室に留まることができた 時点でテストを終了した。
(7)1匹につき最大5回の試験を行い、1回5分間のテスト時間の中で「明室に留まる
ことができなかった時間:(300−明室にいた時間(秒))」について合計時間 を求め、「学習に要した時間」とし、マウスの学習能を判定した。
(結果)
その結果、青大豆摂取群では学習に要する時間が対照群に比べ短く、青大豆には学習効果を高めるか、早める効果があることが示唆され、今回老化モデルで効果を確認していることから、加齢に伴う学習能の低下が抑制されていることが示唆された。普通大豆摂取群でも学習能低下抑制の傾向が見られたが、青大豆摂取群の方が作用は強かった(図2)。
(試験3 学習記憶能)
学習能の判定を行った1ヶ月後(12月齢の時点)で、マウスが試験2で行った「暗室に入らないこと」の学習を記憶しているかどうか調べるため、再びステップスルー受動回避試験を下記手順にて行い、暗室に入らなかったマウスの割合を求めた。
(方法)
(1)11月齢時、試験2のステップスルー受動回避試験を行った翌日に、記憶能強化の ため再度同じ受動回避試験を行い、マウスが暗室に入らないで5分間明室に留まる ことができた時点でテストを終了した。これによりマウスは2日間で最大10回の テストを受けた。
(2)1ヶ月後に再び受動回避試験を行った。
(3)5分間明室に留まることができたマウスは、試験を「記憶していた」と判断した。 一方、5分以内に暗室に入ってしまったマウスは試験を「記憶していなかった」と 判断した。試験は1回で終了した。
(4)下記の式に従い、試験を行ったマウスの中で「記憶していた」マウスの割合を求
め、記憶能を判定した。
学習記憶率=「記憶していた」マウス数/各群のマウス数
(結果)
その結果、青大豆摂取群では対照群、普通大豆摂取群に比べ「記憶していた」マウスが多く存在していた(図3)。このことから、青大豆は記憶を延長させる作用があることが示唆された。一方、普通大豆摂取群では、対照群に比較し、さらに「記憶していた」マウスが減少しており、普通大豆では学習記憶能を低下させることが示唆された。
(試験4 空間作業記憶能)
マウスが新しいところを探索する性質を利用し、Y字迷路を用いた空間作業記憶試験を行った。すなわち、マウスは本来、ルート選択の際、以前とは異なるルートを選択するので、Y字迷路では、3方向のアームのそれぞれに向かうが、記憶が低下すると同じアームを選択する割合が増える。したがって、アーム探索行動を定量することで記憶能とすることができる。具体的には、下記の手順にて行った。
(方法)
(1)Y迷路(室町機械(株)、MYM-01M)を用い、No.1のアームにマウスを静かに置 いた。
(2)8分間自由に探索させ、その間マウスが侵入したアーム(No.1〜3)の順番と探 索回数(総エントリー数)を記録した。
(3)マウスが連続して3つの異なるアームを探索した場合は、各々のアームを探索した
ことを「記憶していた」と判断し、その回数(自発的交替行動数)を求めた。
(4)下記の式に従い自発的交替行動率を求めた。
自発的交替行動率=自発的交替行動数/(総エントリー数−2)
この自発的交替行動率をマウスの空間作業記憶能の指標とした。
(結果)
その結果、対照群に比べ、普通大豆及び青大豆摂取群のマウスは自発的交替行動率が高く、さらに青大豆摂取群は、普通大豆摂取群に比べても自発的交替行動率が高かった(図4)。このことから、青大豆は、記憶能の改善作用または、記憶能の低下を予防する作用があることが示唆された。
(試験5 Ptgds遺伝子発現量への影響)
リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(Ptgds遺伝子産物)は、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβタンパク質と結合して、その脳内での凝集を抑えることで、アルツハイマー病の進行遅延に役割を果たすと考えられている(非特許文献3)。この酵素をコードする遺伝子(brain:Ptgds)について、青大豆の投与により実際に遺伝子発現の増加がおこるかどうかを調べた。
(方法)
Ptgds遺伝子の確認試験として、以下の手順で試験を行った。
細胞としてはマウスBalb/cマウスより脾臓細胞を調製し使用した。細胞は各ウェルあたり5×106個となるよう培養プレートに分注し、10%FBSを含むRPMI1640培地で培養した。細胞の活性化剤としてカルシウムイオノフォアA23187終濃度 0.5μM及びホルボールエステル終濃度0.5ng/mlを添加し、さらに本発明品1の青大豆水抽出物又は比較品1の普通大豆水抽出物をそれぞれ終濃度で200μg/mlとなるよう添加し、37℃、5%CO2の条件下、6時間培養した。培養した細胞から全RNAをTaKaRa FastPure(登録商標)RNA Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて抽出し、この全RNAを鋳型にPrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを作成した。作成したcDNAを鋳型に定量的PCRによりmRNA量を定量した。定量的PCRにはSYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM II(タカラバイオ株式会社)を用い、プライマーは以下の配列のものを使用した。定量結果はβアクチンの定量結果で補正した。
Ptgds : 5'-GGAAAAACCAGTGTGAGACCA-3'(配列番号1)
5'-ACTGACACGGAGTGGATGCT-3'(配列番号2)
β-Actin: 5'-TGCACCACACCTTCTACAATGA-3'(配列番号3)
5'-CAGCCTGGATAGCAACGTACAT-3'(配列番号4)
(結果)
結果を図5に示す。青大豆摂取群では、普通大豆摂取群に比べてPtgds遺伝子発現量は顕著に増大した。本発明の脳機能低下抑制剤の投与により、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の発現量を亢進せしめ、その結果アルツハイマー病等の脳機能障害を抑制することができると期待される。
(試験6 Aplp1遺伝子発現量への影響)
試験5と同様の手順で、アルツハイマー病の増悪因子として知られているアミロイドβ様タンパク1をコードする遺伝子Aplp1についても、青大豆の投与により遺伝子発現の変化がおこるかどうかを調べた。
(方法)
Aplp1遺伝子の確認試験として、以下の手順で試験を行った。
細胞としてはマウスNeuroblastoma細胞SH-SY5Yを使用した。細胞は各ウェルあたり1×106個となるよう培養プレートに分注し、10% FBS, 45% Minimum Essential Medium, 45% Nutrient Mixture F-12 HAM培地で培養した。ここに本発明品1の青大豆水抽出物又は比較品1の普通大豆水抽出物を終濃度で200μg/mlとなるよう添加し、37℃、5%CO2の条件下、6時間培養した。培養した細胞から全RNAをTaKaRa FastPure RNA Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて抽出し、この全RNAを鋳型にPrimeScript(登録商標)RT reagent Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを作成した。作成したcDNAを鋳型に定量的PCRによりmRNA量を定量した。定量的PCRにはSYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM II(タカラバイオ株式会社)を用い、プライマーは以下の配列のものを使用した。定量結果はβアクチンの定量結果で補正した。
Aplp1 : 5'-AGCGTAGGATGCGCCAGATTA-3'(配列番号5)
5'-TCTGTCGGCTTTAGGCAGGTTC-3'(配列番号6)
β-Actin: 5'-TGCACCACACCTTCTACAATGA-3'(配列番号3)
5'-CAGCCTGGATAGCAACGTACAT-3'(配列番号4)
(結果)
結果を図6に示す。青大豆摂取群では、普通大豆摂取群に比べてAplp1遺伝子発現量は顕著に減少した。本発明の脳機能低下抑制剤の投与により、アミロイドβ様タンパク1の発現量を低下せしめ、その結果アルツハイマー病等の脳機能障害を抑制することができると期待される。

Claims (5)

  1. 青大豆種子又はその溶媒抽出物を含有する脳機能低下抑制剤。
  2. 脳萎縮抑制作用を有する請求項1記載の抑制剤。
  3. 記憶力低下抑制作用を有する請求項1記載の抑制剤。
  4. 学習能力低下抑制作用を有する請求項1記載の抑制剤。
  5. 認知症の抑制作用を有する請求項1記載の抑制剤。
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