以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面における各部材の大きさや比率は説明の都合上誇張されており、実際の大きさや比率とは異なる。
[実施形態1]
実施形態1は、メタリック塗装、パール塗装などの異方性塗色について、色が違っても適用することのできる体系的かつ定量的な評価基準を用いた塗色評価方法である。なお、ソリッド塗装は従来より確実な良否判定(評価)が行えるため、本実施形態ではメタリック塗装およびパール塗装の評価方法を中心に説明する。
色差計では塗膜から発せられた光を規定角度で受光し、複数のチャンネル別に分光強度を求め、眼への刺激に換算する。色を表すには3つの値で立体座標を示すことが多く、塗装の場合では「Lab色空間」による表記が一般的に使われており、明るさ(L*)、赤色の強さ(a*)、黄色の強さ(b*)で示されることが多い。なお赤色の反対色は緑色、黄色の反対色は青色と定義されているため、a*がマイナスなら緑色、b*がマイナスなら青色の強さを表している。
色相の異なる色の明度以外の要素を比較するために、彩度(C*)が定義されa*、b*で表された座標の距離で計算される。彩度(C*)で表示した場合、補助座標として位相角から求める色相(H*)が定義される。
これらは人の感覚を観測し、値と感覚がほぼ均等になるよう定められた値である。しかし、2つの座標の距離をL*a*b*から求めても、色差として人間が感じる感覚と異なることが多い。色をカテゴリーとして広く座標のように感じる感覚と、隣接した2つの色の差に違和感を感じる感覚は異なるため、座標系で表示された測色値から色差を表す値に変換が必要になる。
さらに自動車の塗膜から発せられる色刺激は均一ではなく、明るい部分から暗い部分まで面もしくは立体物として捉えられた中に色差を感じる要素が入っている場合もある。このため測色値だけで人の評価を置き換えることは難しかった。
実施形態1の塗色評価方法は、大別して、色の評価に必要な基準を作るための準備段階と、準備段階で得られた基準により実際に塗装物の色の良否判定を行う評価段階よりなる。
図1は、準備段階の手順を示すフローチャートである。
この準備段階は、色差計により塗色を測定した結果から塗色を良否判定するための基準を作成するための処理である。
これには、まず、評価する塗色を、その発色形態により分類する(S1)。本実施形態では、塗料の種類から測定対象とする塗膜から発せられる光が、吸収、反射、干渉のどれで起きているか分類している。一般的にソリッド塗装では吸収が、メタリック塗装では反射が、パール塗装では干渉が起きて色が発せられている。
ソリッド塗装の塗膜は、一部波長の光を吸収する顔料などで構成されており、均一な色として認識される。たとえばどの方向から見ても緑色に見える色では、緑色に見える光の波長領域以外は吸収される顔料が塗料中に配合されている。したがって、ソリッド塗装の発色形態は吸収である。
メタリック塗装は、もともとの色(ベース色という)はソリッド塗装と同様に吸収によって起こるものであるが、塗膜の中に光反射性の金属粉(または金属片)が含まれていて、白色光が当たると、見る角度によって反射量が変わり白乃至グレーに変化して見える。したがって、もともとの色にこのような反射成分が加わるため、その発色形態は反射とする。含まれている金属粉(または金属片)はたとえば、アルミニウムやチタンなどである。
パール塗装もベース色はソリッド塗装と同様に吸収によって起こるものである。そしてパール塗装は、塗膜の中に光透過性の物質が含まれている。この光透過性の物質は屈折率が異なる複層の物質よりなる。このような複層の物質は、光透明性であるため、その物質を透過した光が干渉光となり、見る方向や光の当たる方向などによって色そのものや光沢感が変わって見える。したがって、もともとの色にこのような干渉光成分が加わるため、その発色形態は干渉とする。光透過性の物質は、マイカなどと称される。
メタリック塗装やパール塗装を構成する金属粉や複層の物質を総合的に光輝材と称している。このため、発色形態による分類を、この光輝材の有無およびその特性による分類に置き換えることができる。たとえば光輝材を含まない塗色(ソリッド塗装)、反射性の光輝材を含む塗色(メタリック塗装)、そして、光透過性の光輝材を含む塗色(パール塗装)というように分類することができる。
光輝材の大きさは、メタリック塗装もパール塗装も、自動車用の塗料の場合20乃至40μmの場合が多い。
上記の分類ごとに、複数の塗装物について目視による良否判定を行う(S2)。この良否判定は、同一分類内の複数の色および複数の塗装物について行う。良否判定は、目視により行われ、検査員(評価者)により「良品」と、「不良品」に分類する。さらに違和感の見え方を記録する。たとえば白、黒、赤、黄、青、緑、さえ、にごり、ギラなどであり、表記については評価者も記録する。
メタリック塗装およびパール塗装についてはその良否判定が難しい塗装物が多数出てくる。たとえば、検査員が複数いる場合は、全ての検査員が良品としたものを「良品」、逆に全ての検査員が不良品としたものを「不良品」とするが、検査員によって判定が分かれたものがある。また、検査員が判定に迷ったものなどもある。ここでは、このような検査員によって分類が分かれたもの、迷いがあったものなどを「良否境界品」とする。この良否境界品は、一緒に記録した色差計の値(後述S3)における明度差の分布が、「良品」と「不良品」の間の境界に位置するため、このように命名した。つまり、色差計の値(明度差)の分布として、「良品」と「不良品」の間の境界部分に集まるような塗色の集合を目視判定結果における「良否境界品」と云うことができる。
評価された塗装物に対し複数の受光角で計測(測色ともいう)を行う(S3)。測定された色差計の値は、S2による目視評価結果と対応させて記録する。この計測は、L*a*b*表色系での測色である。測色は、対象塗色の基準板に対する差(ΔL*、Δa*、Δb*)で表示する。ここで得られる明度差(ΔL*)は、色差を計測する基準と定めた板に対する差である。
なお、測色は、メタリック塗装およびパール塗装のベース色と共に、それらに含まれる光輝材からの光を十分に捉えられるようにする。具体的には色差計で受光する範囲を少なくとも光輝材が分散されている間隔より大きい範囲になるようにする。
評価品の受光角度別測色結果から、塗色の明度座標(L*)を横軸に、評価した塗装物の明度差(ΔL)を縦軸とするグラフを、塗色の発色形態別にプロットする(S4)。S2の判定結果と合わせれば、塗色明度(L*)が明るくなると「良品」と判断されるΔL*の値が大きくなって行くことがわかった(後述実施例の図5における良品(○印)参照)。
プロットするデータは、同一分類内の複数の色についてさらに複数の塗装物を測定したものである。したがって、プロットした結果は、同じ発色形態でありかつ同じ受光角度で測定したサンプルを並べ、「良品」「不良品」「良否境界品」と分類されたサンプルのΔL*の大きさと明度座標(L*)の関係を一つのグラフにまとめたものとなる。ただし、基準許容範囲を決定するためだけであれば、「良否境界品」と分類されたサンプルについてのグラフだけでもよい。
なお、S2〜4の順番は異なってもよい。たとえば、全ての塗装物について複数の角度により明度(L値)および明度差(ΔL*)を求めて、それをグラフにプロットし、その後、グラフから「良否境界品」以外の点を削除するなどしてもよい。
このプロット(上記S4)の結果から、「良品」と「不良品」の境界(すなわち「良否境界品」)の明度差(ΔL*)と、明度(L*値)との相関関係(グラフ上の曲線および曲線を表す式)を求める(S5)。相関関係はたとえば「良否境界品」について回帰計算によって求めればよい。これは、本実施形態の特徴の一つであり、上記グラフ上において一定の相関関係が認められるため、それを数式化するのである。なお、回帰計算は、「良品」と「不良品」の境界上(「良否境界品」)の各点における明度(L値)および明度差(ΔL*)の値を既存の統計計算ソフトウェアを用いて実施すればよい。したがって、S3〜S5までは、コンピュータを用いて相関関係式を求めるまでを一括して行うこともできる。たとえば、目視評価結果が「良否境界品」である複数の塗色の複数の塗装物について測定した明度の値をコンピュータに入力し、基準板による明度との明度差を算出させる。その後、コンピュータに明度と明度差の値から回帰計算を行わせて相関関係式を求めさせるようにすることもできる。
そして、得られた相関関係を示す曲線の明度差(ΔL*)を、その分類内における角度ごとの良品判定を行うための基準となる許容範囲(基準許容範囲という)にする(S6)。つまり、同じ分類内であれば、色が違っても得られた相関関係を示す曲線の明度差(ΔL*)の絶対値が良否判定のための基準となるのである。
そして、得られた基準許容範囲を用いて、色ごとに良品判定を行うための明度差の許容範囲を決める(S7)。これには、その色が属する分類の相関関係の曲線(相関関係式でもよい。以下同様)から、その色の基準板の角度ごとの明度(L*)の値における相関関係の曲線が示す明度差(ΔL*)の絶対値を許容範囲とする。
この許容範囲は、後述する実施例のとおり、目視によってその許容範囲内の明度差であればまったく色の違いを判別できない範囲となっている。このことからこの許容範囲を数値基準として良不良を行えば、色差計を用いた明度の測定だけで、これまで判定の難しかった、メタリック塗装やパール塗装の良否判定を行うことができる。
以上が準備段階である。この準備段階により、塗装の発色形態である吸収、反射、干渉(すなわち、ソリッド塗装、メタリック塗装、パール塗装)のそれぞれについて、分類の中における色に依存しない体系的かつ定量的な基準となる基準許容範囲を得ることができる。そして、得られた基準許容範囲からは、個別の色ごとの許容範囲を決定することができる。
以上のようにして許容範囲を決定した後、評価段階として塗装物についての評価を実施する。
図2は、塗装物の塗色を評価する評価段階の手順を示すフローチャートである。
まず、被評価塗装物の塗色が吸収、反射、干渉(すなわち、ソリッド塗装、メタリック塗装、パール塗装)のいずれであるか分類する(S11)。
続いて、色差計で被評価塗装物の明度(L*)を各受光角で測定する(S12)。なお、基準板の明度(L*)はあらかじめを測定しておく。
そして、基準板の明度と測定した明度と明度差(ΔL*)を算出する(S13)。その後、得られた明度差(ΔL*)の値(絶対値)がその色の許容範囲(上記S7で得られた受光角別許容範囲)に入っているか否かを判定する(S14)。
これにより、各分類ごとに、どの色であっても、同じ判定基準で塗色の良否判定を行うことができる。特に、これまで判定が難しかったメタリック塗装およびパール塗装について、その中の色に関係なく、多くの色について判定可能である。したがって、既存の塗色の塗装物を用いて、一度準備段階として許容範囲を求めるだけで、さまざまな色の塗装を判定することができる。特に準備段階で使用した塗色以外の色、たとえばこれまでにない新色の判定にも、同じ基準を用いることができる。
また、従来の技術では、ΔL*を例として明度の座標だけで判定してきたが、色相や彩度の評価要素も加えた、総合判定式として表すこともできる。
色差の判定には、たとえば印刷業界などでは、CIEΔE2000が適用できると言われてきた。印刷された品では、色が均一であり、さらに3色のインクの吸収によって色を再現していることが多い。しかし、自動車の塗装などにおいては、メタリック塗装やパール塗装などが反射光や干渉光を発するので、CIEΔE2000で求めた許容範囲と合致しない例が多かった。しかし今回、反射光や干渉光による人への刺激は、吸収で再現された色に対し色差を感じにくいことがわかり、これを評価することができる総合判定式を導きだした。
ここでCIEΔE2000の式(色差式)は周知のように、下記(1)式のとおり定義されており、色相・明度・彩度別に、人の色差の感じ方について研究された結果を反映した補正項が設定されている。なお、式中、ΔE2000をΔE00と記す。
また、式中、Cは彩度、Hは色相であり、△Lは明度差、△Cは彩度差、△Hは色相差、KL、KC、およびKHはパラメトリック係数、SL、SC、およびSHは明度差、彩度差、および色相差のぞれぞれの重価係数、RTはローテーション関数である。各記号の上にバーの付加している値は、2色の色差対の平均値であることを表す。したがって、ここでは基準板と被評価塗装物のそれぞれの値の平均値となる。パラメトリック係数KL、KC、KHは試験条件により適宜設定される値であるが、標準条件下では全て1に設定する。色相角およびθは度である。
そして、本実施形態では、この総合判定式を「ΔEn09」と命名して作成した。総合判定式は、ΔE00の式を利用して、そのなかのSLの値を、既に説明した相関関係の式の値を用いることとしたものである。SC、SH、およびRTについては、ソリッド塗装、メタリック塗装、パール塗装共にΔE00と共通とした。これにより、ΔE00との関連性を継続しつつ、メタリック塗装やパール塗装などでも人の見た目の刺激と関連付けされた評価をできるようになる。
ここで、自動車における塗色の管理においては、全部品が組みつけられて車両になった場合に御客様が見て違和感をもたないようにすることが、その目的となっている。このため、角度ごとの良否判定も重要であるが、角度ごとに良不良を決める上記許容範囲だけでなく、自動車車体全体としての塗色の見え方も定量的に評価にする必要がある。たとえば、ボディやバンパー、その他のカラー部品は、塗色仕様に応じて指定された塗料で塗装されるので、発生する色差は塗料仕様の範囲内で制約される。具体的には、塗装された条件や塗料ロット差などで発生する色差となる。
そこで、塗料仕様、すなわち塗色が指定された被塗装物間では、塗膜から発せられる光に類似性があり、既に説明したように、ボディやバンパー、その他のカラー部品についても、それぞれにおいて、ソリッド塗装、メタリック塗装、パール塗装を吸収、反射、干渉で分類して、全体を見たときに定量的に図ることのできる関係式を定めておけば、塗色の標準となる色の測定結果を元に、目視評価とほぼ適合する許容範囲を導くことができる。
さらに、自動車車体に取り付けられた部品間の色の違いについても評価することができる。たとえば、自動車車体に取り付けられたさまざまな部品間では、面違いや曲面の関係のほかに、部品間の隙間の大きさ、モールによる分断、キャラクターラインによる不連続感などによって、目視では錯視現象が起きて色が違うように見えてしまうことがある。しかし、本実施形態のように、明度差および/またはΔEn09の値として定量的に管理することで、錯視現象により色が違うように見える場合などでも、形状に対する色管理を定量的に評価することが可能となる。
[実施形態1の実施例]
ここでは、実際に色差計を用いた測定結果から、目視評価に相当する閾値を求める例を説明する。
塗色の測色はx−rite社製マルチアングル分光測色計MA−68IIを用いた。図3は測定角度を説明するための説明図であり、ここでは見る方向によって明るさや色が変わる塗色に対して考案された5つの角度を示している。図示するように、塗装面からの仰角θ=45度の位置に光源を配置した。また光源は塗装面の照明中心0(ゼロ)から1000mm離して設置した。光源は白色光である。そして、測定角度は、正反射方向を0度とし、光源方向への角度として、15度、25度、45度、75度、および110度であり、それぞれの角度で明度L*を測定した。測定位置は塗装面の照明中心0(ゼロ)から図示した各角度の矢印方向に500mmの位置である。
図4は、ソリッド塗装、メタリック塗装、パール塗装のそれぞれに分類された塗色について、複数の色を複数の塗装物について測定したL*、a*、およびb*の値の一部を示す図表である。ここでは各分類について約100点(合計約300点)のサンプルを測定した。なお、図4に示した測定値は、本実施例の理解のために、L*、a*、およびb*の測定値の一例を示すものであり、本実施例として測定した値の全てではない。
図5〜7は、メタリック塗装について、「良否境界品」の明度(L*)および明度差(ΔL*)の値をプロットしたグラフ(縦軸明度差(ΔL*)、横軸明度(L*))と、その回帰計算により得られた曲線を示すグラフである。各図の(a)は明度(L*)および明度差(ΔL*)の値をプロットしたグラフ、各図の(b)は回帰計算により得られた曲線を示すグラフである。そして、図5は角度15度のグラフである(この角度のみ、参考のために「良品(○印)」および「不良品(△印)」もプロットして示した)。図6は角度25度のグラフである。図7は角度45度、75度、および110度のグラフである。
続いて、図8〜10は、パール塗装について、「良否境界品」の明度(L*)および明度差(ΔL*)の値をプロットしたグラフ(縦軸明度差(ΔL*)、横軸明度(L*))と、その回帰計算により得られた曲線を示すグラフである。各図の(a)は明度(L*)および明度差(ΔL*)の値をプロットしたグラフ、各図の(b)は回帰計算により得られた曲線を示すグラフである。そして、図8は角度15度のグラフである。図9は角度25度のグラフである。図10は角度45度、75度、および110度のグラフである。
図11はメタリック塗装における各角度の相関関係の曲線をまとめたグラフである。また、図12はパール塗装における各角度の相関関係の曲線をまとめたグラフである。さらに参考のために、図13はソリッド塗装について同様の手法により得られた相関関係の曲線をまとめたグラフである。
図11および12のグラフから、メタリック塗装(反射)およびパール塗装(干渉)については、塗色の明度の値(横軸)が大きくなると、色差の許容幅(縦軸)は大きくなる関係にあることがわかった。一方、ソリッド塗装(吸収)においては、このような関係は認められなかった。
シルバーメタリック塗装において、その基準板の明度を測定したところ、15度の基準板L*が130、25度の基準板L*が95、45度の基準板L*が65、75度の基準板L*が44、110度の基準板L*が38であった。
この値を図11に示したメタリック塗装のグラフに当てはめてみると、15度では、横軸(L*)130の位置で、縦軸の明度差(ΔL*)の値は8.0である。したがって、明度差(ΔL*)の許容範囲は±8.0となる。同様に、25度では±4.8、45度では±3.0、75度では±2.8、110度では±1.8となる。
さらに他の色についても同様に許容範囲を求めた。グレーメタリック塗装では、15度の基準板L*が83、25度の基準板L*が66、45度の基準板L*が39、75度の基準板L*が21、110度の基準板L*が14であった。これらの値を図11に示したメタリック塗装のグラフに当てはめると、明度差(ΔL*)の許容範囲は、15度では±6.3、25度では±4.0、45度では±3.0、75度では±1.5、110度では±1.0となる。
同様にパール塗装についても、許容範囲を求めた。パールホワイト塗装では、15度の基準板L*が106、25度の基準板L*が94、45度の基準板L*が85、75度の基準板L*が84、110度の基準板L*が183であった。これらの値を図12に示したパール塗装のグラフに当てはめると、明度差(ΔL*)の許容範囲は、15度では±5.8、25度では±2.5、45度では±2.0、75度では±2.0、110度では±2.0となる。
同様に、パールグレー塗装では、15度の基準板L*が39、25度の基準板L*が30、45度の基準板L*が17、75度の基準板L*が7、110度の基準板L*が5であった。これらの値を図12に示したパール塗装のグラフに当てはめると、明度差(ΔL*)の許容範囲は、15度では±4.5、25度では±2.8、45度では±1.1、75度では±0.9、110度では±0.5となる。
各塗色を目視により評価したところ、上述した全ての塗色について、その許容範囲内で明度差(ΔL*)が異なっていても、基準板との色の違いは認められなかった。したがって、上述した許容範囲は目視による色の感じかたとよく一致することがわかった。
上述した許容範囲による評価した結果、良品と判定されたものを集めた場合、許容範囲の中央値である0よりも一定の方向((−L)方向または(+L)方向)にずれた位置にその分布が偏ることがある。このような場合、許容範囲の中心が0となる絶対値を用いるのではなく、中央値を(−ΔL)方向または(+ΔL)方向にずらして、それぞれの方向におけるしきい値を設けるようにしてもよい。
具体的には、たとえば、面合わせと塗装再現の関係で基準板の明度と塗装物の明度の集合における中央値との間にずれがある場合、その分布から中央値を求めた結果、15度でΔL*−4.0、45度でΔL*+2.0、75度でΔL*+1.5などとなる。これらの値は、中央値を補正するための値となる。
この中央値を反映させてΔL*のしきい値を求めると、15度で−12〜+4となる。その範囲は16で、中央値を0とした上記許容範囲における±8.0と許容範囲の幅としては同じである。同様に、45度では+0.8〜+4.8、75度では+1.3〜+4.3となる。
このような基準板からのズレを規定しなければいけない原因はさまざまであるが、その一つは部品の取り付け位置における面合わせや隙間などにより、測定装置の受光部がずれてしまって角度ごとに正確な値を測定できないような場合に生じることがある。
図14〜16は、車体に対して部品が取り付けられている部分の断面図である。部品としては、たとえば、バンパー、マットガード、フロントおよびリアのフェンダー、ランプなどさまざまな部品である。
図14は車体と部品が設計上は連続した曲線となるようにつき合わされている状態を示していて、部品と車体の法線が目視評価者に対し同一方向に向いている。この状態では、突合せ部の境界線領域の法線方向は同一である。しかし、全体的に連続した曲線となっているため、基準板のような平面を測定した場合とずれが生じることがある。
図15は、車体、部品ともに、製造誤差はないものの、取り付け時において突合せ部の境界線領域で車体と部品がズレでしまっている場合である。この場合、取り付け誤差の許容範囲であっても境界線領域の法線方向が異なることになる。そして、部品側が車体に対して乗り上げ、法線方向が変わり図14とは部品の色が違って見えてしまう現象が観察される。このため、基準板を測定した場合とずれが生じることがある。
図16は、部品の一部に製造誤差が発生している場合である。この場合、取り付け時のずれはないが、やはり境界線領域の法線方向が異なることになる。このような場合、図15とは逆に部品側の凹みによって、図14とは部品の色が違って見えてしまう現象が観察される。この場合も、基準板を測定した場合とずれが生じることがある。
このような車体に対する部品の組み付け状態などによって中央値がずれた場合に、その値を補正して、許容範囲に上限および下限となるしきい値を設定すれば、一層、確実に定量的な評価を行うことができる。
次に、ΔEn09を用いた評価の実施例を説明する。
ここでは、上述したとおり、明度の測定にx−rite社製マルチアングル分光測色計MA−68IIを用いている。この装置は、図3のように5角度で受光した色差を計測することができる。
下記(2)式は、ΔEn09の値を算出するために、x−rite社製マルチアングル分光測色計MA−68IIに用いる計算式である。ここでは行列式として示した。
ここで、15、25、45、75、および110の添え字は角度を示す。また、添え字Nは、評価する塗装物を示す。Lt、at、bt、Ht、Ctは、上述した中央値を補正する値である。上述した例では明度についてのみ説明したが、同じようにa*、b*についても中央値を補正する値を求めて、Ht、Ctはa*、b*の中央値を補正する値から変換すればよい。なお、中央値を補正する必要がなければ、これらLt、at、bt、Ht、Ctの値はなくてよい。L*、a*、およびb*は、塗装物の色を測定した値である。
そして、この実施例における計算式においても、既に説明したように、SC、SH、およびRTについては、ソリッド塗装、メタリック塗装、パール塗装に共通の値でよい。また、KL、KC、KHの値は1としている。
そして、SLの値は、下記式のとおり、相関関係の曲線を表す式が入ることになる。
ソリッド塗装でのSLは下記(3)式に示すとおりである。各角度共に共通の値でよい。
SLN=1+0.015(L*−50)2/{20+(L*−50)2} …(3)
メタリック塗装でのSLは角度ごとに下記(4)〜(8)式に示すとおりである。なお、Lnは自然対数である(以下同様)。
SLN15=1.2499Ln(L* 15)−0.036 ただし、8<L* 15<125 …(4)
SLN25=0.4524Ln(L* 25)+1.0638 ただし、8<L* 25<105 …(5)
SLN45=0.2712Ln(L* 45)+0.5517 ただし、8<L* 45<90 …(6)
SLN75=0.4379Ln(L* 75)+0.029 ただし、8<L* 75<90 …(7)
SLN110=0.4229Ln(L* 110)+0.1342 ただし、8<L* 110<90 …(8)
パール塗装でのSLは角度ごとに下記(9)〜(13)式に示すとおりである。
SLN15=3.3395Ln(L* 15)−8.3341 ただし、50<L* 15<150 …(9)
SLN25=2.1574Ln(L* 25)−4.948 ただし、35<L* 25<110 …(10)
SLN45=1.83Ln(L* 45)−39581 ただし、20<L* 45<70 …(111)
SLN75=1.4613Ln(L* 75)−2.6403 ただし、12<L* 75<50 …(12)
SLN110=0.9213Ln(L* 110)+−1.1547 ただし、8<L* 110<42 …(13)
上述した(3)〜(13)式を用いることで、ΔEn09による色差の値を得ることができる。その許容範囲は、既に説明したように、各分類ごとの許容範囲の上限および下限のしきい値を式に当てはめてΔEn09とすれば、色差における許容範囲となる。
CIEΔE2000ではΔC、ΔHを使った概念で算出をしているが、ΔaとΔbを使って許容範囲を決めることもできる。つまりΔaとΔbの最大値・最小値として許容範囲を適用させる。
図17は、aおよびbとSC、SHの関係を説明するための説明図である。図17(a)に示すように、aおよびbを2次元直交座標とすると、SC、SHはaおよびbの正比例直線に対して楕円範囲を示すベクトルとしてあらわされる。SCはaおよびbの正比例直線方向のベクトル、SHは、正比例直線に対して直交する方向のベクトルである。
この関係を利用して、図17(b)に示すように、Sa(SC)とSb(SC)で規定される楕円におけるaおよびbの値が、ΔaとΔbの許容範囲となる。ここで、Sa(SC)は、図示するように、SC方向のベクトルを長辺とする正三角形のa軸方向の一辺となるベクトルである。一方、Sb(SC)は、SC方向のベクトルを長辺とする正三角形のb軸方向の一辺となるベクトルである。したがって、Sa(SC)およびSb(SC)のそれぞれのa軸方向の長さ、b軸方向の長さがΔaとΔbの許容範囲となる。このSCの値は、(1)式中で用いるSCの値である。そしてこれを許容範囲とする際には、上述した明度差による許容範囲の上限値および下限値(または中央値を補正した上限下限しきい値)からSCの値を求めておけば、その値をSHの許容範囲として利用することができるようになる。
また図17(c)に示すように、Sa(SH)とSb(SH)で規定される楕円におけるaおよびbの値を、ΔaとΔbの許容範囲とすることもできる。ここで、Sa(SH)は、図示するように、SH方向のベクトルを長辺とする正三角形のa軸方向の一辺となるベクトルである。一方、Sb(SH)は、SH方向のベクトルを長辺とする正三角形のb軸方向の一辺となるベクトルである。したがって、Sa(SH)およびSb(SH)のそれぞれのa軸方向の長さ、b軸方向の長さがΔaとΔbの許容範囲となる。このSHの値も、(1)式中で用いるSHの値である。そしてこれを許容範囲とする際には、上述した明度差による許容範囲の上限値および下限値(または中央値を補正した上限下限しきい値)からSHの値を求めておけば、その値をSHの許容範囲として利用することができるようになる。
さらに、彩度を表すC値による許容範囲を決めることもできる。図18は、彩度C*と彩度差ΔC*の関係を示すグラフである。このグラフから彩度C*と彩度差ΔC*の関係は、比例していることがわかる。また、(C*)2=(a*)2+(b*)2の関係がある。これらの関係を用いて、上述したCIEΔE2000やΔEn09を求める際に用いた関係式から、明度差ΔL*による許容範囲を彩度差ΔC*(絶対値)に変換することで、彩度を表すC値による許容範囲を決めることができる。同様にΔHによる許容範囲に変換することも可能である。
以上の実施例のように、明度・彩度・色相に起因する色差体系化に加え、多角度測色におけるメタリックやパールの違いも体系化して同一比較できるような指標を整備したことで、形状の違いと色差の感じ方を比較できるようになった。
本実施例で求めた式と値を用いて車種ごと、部位ごとに、さらに目視評価を積み重ねた結果、しきい値をさらに広げることが可能であることがわかった(物によっては狭くせざるを得ないものもあった)。
図19は、車種や部位について、取り付け部の部品形状の違いからそれぞれの色の許容範囲を1とした場合に、どの程度許容範囲を広げられるかを倍数で示したグラフである。
なお、図においては、その一例として、角度75度のものを示した。最も狭いもので0.8倍、広いもので1.8倍となった。他の角度においても同様に許容範囲幅を目視評価と対応させて、拡張または狭めるようにすればよい。
なお、図19において、Z34、L53E、S51、V36、CV36、HV36は車種を示すための記号である。BODY(およびBody)は車体、BMPR(およびBmpr)はバンパー、FDRはフェンダーを示し、FR(およびFr)はフロント、RRはリアを示す。
このように目視評価の結果とつき合わせることを積み重ねてゆくことで、車種の違いによる車体形状の違い、部品の組み合わせや組み付け誤差の違いなどによって生じるしきい値を厳密に規定することができる。これも、本実施形態および実施例によって、塗色を定量的、かつ体系的に扱えるようになった成果である。すなわち、塗装の発色形態ごとに許容範囲を定めることで、それに対して目視評価の結果がどのように違うかが定量的にもわかるようになる。このため、その違いを倍数として示すことができるようになるのである。
以上説明した実施形態1および実施例によれば、以下の効果を奏する。
実施形態1では、まず、塗色から発せられる光をその発色形態により吸収、反射、干渉のいずれかに分類する。そして各分類ごとに光学強度から換算された値(L*、a*、b*、および派生値)で出力される計測結果を目視評価に関連付けた基準許容範囲を作成する。そして被評価塗装物の塗色が属する分類の基準許容範囲を用いて、具体的な被評価塗装物の塗色の良否を判定するための許容範囲を決定する。この許容範囲により被評価塗装物の塗色を評価することとした。これにより、メタリック塗装やパール塗装などの異方性塗色においても、その発色形態ごとに、同じ基準で体系的かつ定量的な許容範囲を決定することができるようになる。したがって、メタリック塗装やパール塗装などの異方性塗色を評価する際には、それら塗色を発色形態で分類して、それぞれの発色形態ごとにあらかじめ決められた基準となる許容範囲を用いて評価すればよい。
これは、特にこれまでにない新色が加わった場合に有効である。従来は新色が加わった場合、その新色について基準板と比較して目視評価に対し色差計で得られた色差の範囲を求め直す必要があった。しかし本実施形態および実施例を用いれば、既に得られている基準許容範囲を用いて、新色の具体的な良否を判定するための許容範囲を求めるだけで、新色の評価を行うことができるようになる。
また、基準許容範囲は、各分類ごとに、一つの分類内において良否不明な複数の色の複数の塗装物による明度と明度差の相関関係を示す曲線または当該曲線を表す式とした。これは、これまで、良否不明であった塗色について、明度と明度差の関係を体系的に明確化したものである。そして、この相関関係を良否判定の基準とすることで、これまで、良否判定が難しかったメタリック塗装やパール塗装などの異方性塗色の評価基準を得ることができる。
また、色ごとの許容範囲を決める際には、発色形態の各分類ごとに基準許容範囲が決められているため、被評価塗装物の塗色の基準板の明度がわかれば、その値をもとに基準許容範囲から簡単に個別の色に対する許容範囲を決めることができる。このことは、塗色の評価においては、塗色を発色形態により分類して、その色が属する発色形態の基準許容範囲を用いて、その色の許容範囲を決めればよい。このため、特に、新色のように、これまで良否判定を行うための許容範囲が具体的に決まっていない色でも、その色の基準板さえあれば簡単に許容範囲を決めて評価することができる。
また、塗色の評価を積み重ねて、良品とされた塗装物の塗色の明度差の中央値が、絶対値の中央値である0(ゼロ)からずれている場合には、許容範囲の幅を変更せずに、中央値を補正するだけで、より適切な上限下限のしきい値を求めることができる。
さらに、発色形態ごとに求めた基準許容範囲は、目視検査の結果をつき合わせて行くことを積み重ねることで、さらに精度の高い許容範囲になるように補正することも可能である。
また、発色形態による分類は、塗膜に含まれる光輝材の有無および光輝材が含まれる場合はその特性によって分類することで、塗色がどの発色形態に属するか容易に分類することができる。
以上説明した実施形態1および実施例では、基準板としてあらかじめ用意されたものを用いることを前提としている。しかし、本実施形態および実施例は、基準板としてあらかじめ用意されたものを用いなくても実施可能である。たとえば、自動車車体の塗色の評価であれば、塗装が終わっている自動車車体のどこか良品と見られる塗装部分を基準板と同等とみなし、その明度を測定して、これを基準板の明度とする。そして既に説明したとおり、その塗装が属する発色形態における基準許容範囲から、基準板とした色による許容範囲を決めて評価すればよい。このような基準板とした色も基準色である。
さらに本実施形態は、たとえば、自動車車体の一部を塗装しなおす際の色合わせにも適用可能である。具体的にはたとえば、あらかじめ塗りなおす自動車車体の塗色に近いと思われる塗料(色合わせした塗料)を複数用意し、鋼板にその色を塗装した色ごとのサンプルを作成する。一方、自動車車体の塗装の明度を測定して、これを基準板(基準色)の明度とする。そして自動車車体の塗色が属する発色形態の基準許容範囲を用いて、測定した自動車車体の明度から、その色における許容範囲を決定する。その後、この許容範囲を用いて各サンプルを評価して、用いる色を決定する。これによりもともとの自動車車体の色と見た目でほとんど変わらない塗色を決定することができる。
また、本実施形態では、少なくとも明度を測定できる計測器(測色器)があれば、塗色の評価を行うことができる。
また、上述した実施形態では、塗色評価方法を準備段階と、評価段階に大別したが、これは説明のためのものであり、実施に当たってはこのような段階わけはしなくてもよい。たとえば、準備段階におけるS1〜6までのステップにより各分類ごとの基準評価範囲をあらかじめ決定しておく。そして、評価すべき塗装物や塗色が出てきた段階で、その色の個別の色の評価範囲を決定する(S7)。その後、個別の塗装物の塗色を評価する(S11〜14)ことを実行するなどである。
その他さまざまな変形が可能である。
[実施形態2]
上述の実施形態1では、評価対象としての塗色仕様がわかっていることを前提としている。したがって、その塗色仕様から使っている光輝材が特定できるので、その塗色の発色形態が吸収、反射、干渉のどれに分類されるかが容易にわかる。
しかし、塗色によっては分類が容易ではないこともある。つまり、塗色仕様が不明である場合、見た目で、ソリッド塗装か、メタリック塗装か、あるいはパール塗装かを分類しなければならない状態である。しかし、見た目だけでは、分類が難しい場合もある。
本実施形態2では、色差計を用いて、評価対象の塗装がメタリック塗装かパール塗装かを分類する方法である。
図20は、繰り返し分光反射率の測定を行い、光輝材を含み粒子状の反射がみられる塗膜面の分類を試みた結果を示すグラフであり、メタリック塗装およびパール塗装における、角度および波長ごとの反射率を示す。図において、(a)列の図はメタリック塗装(メタリックシルバー)のグラフであり、それぞれ15〜110度のグラフである。(b)列の図はパール塗装(ホワイトパール)のグラフであり、それぞれ15〜110度のグラフである。各図において、縦軸は反射率、横軸は測定対象物上での測定位置である(おおむね1mm間隔(厳密に1mmではなく、2mm程度はなれてもよい))。基準板としては白色板を用い、x−rite社製マルチアングル分光測色計MA−68IIを用いて白色板に対する反射率を測定した。白色光源を用いて、反射光を波長400〜700nmの中で20nmごとに分光して波長ごとの反射率を得た。各グラフでは波長ごとの反射率をまとめて示した(一つの線が一つの波長に対応する)。
メタリック塗装およびパール塗装では、図20に示すように測定対象物の測定面をずらしながら繰り返し測定をすると、粒子の微細に異なる分布から来る、測定値の違いを得ることができる。メタリック塗装およびパール塗装では、光輝材が塗膜中に分散されているため、定点測定とした場合、たまたま光輝材から反射光または干渉光成分を測定できない場合がある。これを塗装面における光の照射点と塗装面の位置を相対的に移動させながら測定することで、光輝材からの反射光や干渉光を必ず捉えることができるようになる。
図20の(a)列の図から、メタリック塗装は、波長の違いによる反射率のばらつきが少ない。一方、パール塗装は、波長によって反射率が大きくばらついていることがわかる。特に角度が正反射方向(図3参照)に近い15度や25度で顕著な違いがある。
したがって、メタリック塗装とパール塗装を分類するためには、複数の波長による反射率から、波長ごとに反射率がばらつく場合、特に15度や25度でばらついている場合は、パール塗装であると判別することができる。一方、波長ごとの反射率がほとんど同じであればメタリック塗装である。ばらつきの程度は、図20からメタリック塗装では、±1%未満であることから、±1%以上反射率のばらついている角度(15度や25度)があればパール塗装と判断してよい。なお、このようなばらつきの範囲は、分類があらかじめわかっている塗色の反射率のばらつきと比較することで判断してもよい。たとえば、メタリック塗装(反射)であることがわかっている塗色を反射率と、分類不明な塗色とを比較する。その結果、分類不明な塗色の方のばらつきが大きければパール塗装と判断する。一方、同程度のばらつきであれば、分類不明な塗色はメタリック塗装と判断する。
このような反射率の違いは、塗色中に含まれる光輝材の違いに起因する。メタリック塗装は光輝材として反射性の光輝材を含む。光輝材に当たった光が光輝材表面で反射する場合、波長によって反射方向が変化することはない。このためメタリック塗装では、どの各ででも、どの波長でもほとんど同程度の反射率になっている。一方、パール塗装は光透過性の光輝材を含む。光透過性の光輝材を透過した光は屈折が起こる。屈折率は波長により異なる。このため波長ごとに光輝材から出る光の方向が異なることになる。このため、波長ごとに反射率が異なることとなっている。
図21は、測定器の受光部に偏光フィルムを挿んで図20で測定したパール塗色の分類を試みた結果を示すグラフである。(a)図の列は縦変更フィルム、(b)列の図は横偏光フィルム、(c)列の図は偏光フィルムなしである。なお、縦とは図3に示した光源から正反射方向に沿う方向であり(図示右から左への方向)、横とはこれに直交する方向である。測定自体は、上記図14と同じである。
図21に示すように、偏光フィルムを介して測定することで、測定位置の違いや塗装面による乱反射による変動(横軸方向の変動)が抑えられて、波長の違いによる反射率の違いがよくわかるようになる。なお、このような塗装面での乱反射を抑制するためには、光が一定方向に揃うようにするためのレンズを含有するシート状のフィルム、ピンホールの開いた遮光フィルムなどを介在させて測定することでも同様の効果がある(光規制部材という)。
このように本実施形態2では、評価対象の塗装物に複数の波長からなる光を当ててその反射率から発色形態を分類する。このため、発色形態が不明な塗色を分類することができる。分類した後は、上述した実施形態1に従い、塗装物の塗色評価を行うことで、発色形態が不明な塗色についても、良否判定を行うことができるようになる。
反射率の測定は、塗装面と測定点との位置を相対的に移動させながら測定することとした。これにより確実に塗膜中の光輝材からの光(波長)を捉えることができる。
[実施形態3]
本実施形態3は、メタリック塗装、パール塗装などの異方性塗色について、塗色を構成する光輝材や顔料の種類や配合が違っても体系的かつ定量的に塗色を評価するための塗色評価装置である。
図22は、塗色評価装置を説明するためのブロック図である。この塗色評価装置は、光源(照明手段)11、可変色フィルター12、第1偏光フィルター13、反射鏡14、第2偏光フィルター15、レンズ16、およびカメラ(撮影手段)17を備える。また、カメラ17で撮影した画像を処理するためのコンピュータ(画像処理手段)18が接続されている。
光源11から出た光は、可変色フィルター12、第1偏光フィルター13を通り、反射鏡14によって塗装面100方向へ導かれる(反射させて光を塗装面100に当てる)。塗装面100からの光は、第2偏光フィルター15、レンズ16を経て、カメラ17によって撮影される。
光源11は白色光源であり、塗装面を照明する。この光源11は、分光分布の偏りのない白色光源が望ましく、たとえばハロゲンランプが使用される。そのほか分光分布の偏りがないものであれば、白色LEDランプなどでもよい。光源11は、その位置が調整自在となっている。
可変色フィルター12は、さまざまな色のフィルターが光源11からの光をさえぎるように配置されている。そして、各色フィルターの位置が変更できるようにしてあって、色フィルターの位置を変更することで、光源11から出た光の色(すなわち波長)を変更して塗装面100に照射できるようにしている。図23は可変色フィルター12の一例を示す概略図である。可変色フィルター12は、図23(a)に示すように、円盤121の外周に沿って設けられた複数の穴に、それぞれ異なる色の色フィルターフィルム122が貼り付けられている。円盤121は支柱123によって支えられている。支柱123先端には円盤121が回転自在に取り付けられている。図23(b)は、図23(a)の矢印b方向から見た図である。図示するように、円盤121を回転させることで色フィルターフィルム122の位置を変えて、光源11からの光(白色光)のなかからその色フィルターフィルム122の波長のみ透過させることができる。なお、色フィルターフィルム122のうちの少なくとも一つは、光源11からの光をそのまま透過させると埋めフィルムまたは色フィルターフィルムが張られていない。つまり、白色光をそのまま照射できるようにしてある。または可変色フィルター12そのもの、または円盤121を取り外して白色光をそのまま照射できるようにしておく。
なお、可変色フィルター12に変えて、特定の波長のみ通すバンドパスフィルターを用いることもできる。
第1偏光フィルター13および第2偏光フィルター15は、偏光フィルターであるが、これらの作用については後述する。第1偏光フィルター13の設置位置は、光源11から塗装面100までの光の経路中であればどこに置いてもよい。第2偏光フィルター15の設置位置は、塗装面100からカメラ17までの光の経路中であれば、どこに置いてもよい。
反射鏡14は、光源11からの光を反射させて、その向きを変えることができる。このために、反射鏡14は、その向きが変更自在となっている。
レンズ16は、カメラ17の焦点が塗装面100に合うように焦点調整すると共に、その内部に絞りと露出時間調整のためのシャッター(いずれも不図示)が備えられている。
カメラ17は、撮像素子(カラーイメージセンサー)を備え、少なくとも静止画を撮影する。カメラ17は、撮影した画像をコンピュータ18によって画像処理するためにデジタルカメラであることが好ましい。このカメラ17は、図示Cで示す点線の位置を移動することで、塗装面100を撮影する角度が変更自在となるように支持されている。
図24は、このカメラ17の可変動作を行うための支持部材の一例を示す概略図である。この支持部材は、図示するように、半円形(円弧は真円の一部である)のガイド171を備える。カメラ17は、このガイド171に沿って移動すると共に、カメラ17の向きが常に半円の中心を向くように取り付けられている。また、ガイド171には、角度目盛り(不図示)が刻まれている。これにより、カメラ17をガイド171に沿って移動させるだけで、簡単に、塗装面100に対しての撮影角度を変えることができる。また、角度目盛りによって撮影角度がわかる。また、カメラ17の塗装面100からの高さも適宜調整可能としている。
カメラ17の設置角度は、実施形態1と同様であり、たとえば、光源11からの光の照射角度が塗装面に対して仰角θ=45度であるとき、正反射方向を0度とし、光源方向への角度として、15度、25度、45度、75度、および110度などである。もちろんそのほか所望する角度での撮影が可能である。
コンピュータ18は画像処理手段であり、カメラ17で撮影した画像を処理する。このためにコンピュータ18には画像処理ソフトウェアが導入されていて、後述する手順によって被評価塗装物の塗色の評価を行う。カメラ17で撮影した画像は、直接コンピュータに送ることができるようになっている。また、コンピュータ18には、ディスプレイ(不図示)が接続されている。なお、カメラ17からの画像は直接コンピュータ18へ送るのではなく、いったんサーバーに蓄積しておいて、ネットワークを介して管理室など別な場所にあるコンピュータ18へ送るようにしておいてもよい。
以下、この塗色評価装置の作用を説明する。
塗装膜は、実施形態1において説明したとおり、その発色形態として、ソリッド塗装は吸収、メタリック塗装は反射、パール塗装は干渉に分類できる。これはそれら塗装の塗膜中に含まれる光輝材の特性によって決まる。ソリッド塗装には光輝材が含まれていない。そして、メタリック塗装およびパール塗装では、塗膜中に光輝材が分散されている。このため、色差計のように、ある特定のポイントの明度を測定する装置の場合、通常単一の受光素子を用いているため、入ってくる光は全て同じ光として捉えるしかない。したがって、塗装面100における測定範囲の大きさが、光輝材が分散されている密度より小さい場合、光輝材からの反射光や干渉光を捉えることができたり、できなかったりする。一方、測定範囲が広いと、今度はベース色と反射光や干渉光が混ざり合った色を捉えているだけとなり、光輝材からの光のみを分離して捉えることができない。
そこで、本実施形態3では、カメラ17によって塗装面100の2次元画像を撮影し、カメラ17の分解能によって撮影された画像から、塗装(ベース面)からの光、光輝材からの反射光または干渉光による光を分離することとした。
図25および26は、上記塗色評価装置を用いて、塗装面100を撮影する際に、カメラ17に到達する光の成分を説明するための説明図であって、図25は第1および第2偏光フィルター13および15を入れずに撮影した場合の説明図、図26は第1および第2偏光フィルター13および15を入れて撮影した場合の説明図である。
なお、図においては、光を反射する光輝材(反射材という)と、光を透過して屈折させ干渉光を発する光輝材(干渉材という)が同一塗膜内に存在するごとく描いているが、これは説明のためである。一部に両方の光輝材を含む塗膜もあるが、多くの場合、メタリック塗装は反射材のみ、パール塗装は干渉材のみである。
そして、図25に示すように、第1および第2偏光フィルター13および15を入れずに撮影すると、ベース面からの拡散反射光(すなわち吸収による色)と、反射材による反射光、および干渉材からの干渉光が混合された状態でカメラ17に入ってくる。このため撮影された画像は(後述)、それらの光成分が混ざり合っているため、ベース面からの光と、光輝材による反射光および干渉光を分離することができない。
しかし、カメラ17で撮影された画像にはベース面からの光と、光輝材による反射光および干渉光がそれ座俺含まれている。そこでカメラ17の撮像素子の分解能を少なくとも反射材や干渉材からの光を分離できる程度の分解能を有するようにしておけば、それぞれからの光を後から分離することができる。ただし、偏光フィルターなしでは、いかに分解能が高くても、撮像素子における一つひとつの画素のどの画素に、ベース面からの光、光輝材による反射光および干渉光のいずれが入っているかを見分けることができない。
一方、図26に示すように、第1および第2偏光フィルター13および15を入れて撮影すると、塗装面からの反射光はカメラ17まで到達するが、反射材による反射光、および干渉材からの干渉光はカメラ17まで到達しない。
ここで、光源から照明光の変更方向(振動方向)は、さまざまな方向であり一定の偏光方向を有していない。一方、ベース面での反射光は、塗装面からの反射光も一部含まれるが、ほとんどが拡散光である。これは塗装面での反射光の偏光方向が塗装面に対して平行な方向のみの光成分が大部分であり、これは正反射光として反射するため、光源からの照明光の照射方向とカメラ位置の関係からほとんど入ってこないためである。なお光源から照明方向は図示するように塗装面に対して45度、カメラ位置は塗装面と垂直である。一方、塗膜内部に入る光の偏光方向は塗装面に対して垂直な方向である。そして、この塗膜内に入った塗装面に対して垂直な偏光方向の光の一部が塗膜内にある光輝材によって反射または屈折して塗装面から外に出てくる。このため、偏光フィルターの向きを統制することで、基本的に塗装面に対して垂直な偏光方向光が反射した光のみを遮断することができる。したがって、図26に示した偏光フィルターを入れて撮影した場合の画像は、塗装面からの拡散反射光のみとなって光輝材由来の反射光や干渉光は撮影しない(カメラ17に到達しない)ようにできる。
ここで偏光フィルターは、原理的には、カメラ17の前に1枚でもよいが、測定する塗装面の傾きや、光輝材による光の偏光方向の変化などに対応するために、本実施形態3では第1偏光フィルター13と第2偏光フィルター15の2つ使用している。これら第1偏光フィルター13と第2偏光フィルター15の、それぞれの相対的な偏光方向の角度は、光輝材由来の光が最も暗くなる位置となるように調整する(第1偏光フィルター13と第2偏光フィルター15が直交して真っ暗となる位置ではない)。
これらのことから、第1および第2偏光フィルター13および15なしで撮影した画像から第1および第2偏光フィルター13および15ありで撮影した画像を減算処理(画像処理)することで、光輝材由来の反射光および干渉光のみの画像を得ることができる。
図27は、偏光フィルターなしで撮影した画像、偏光フィルターありで撮影した画像、および減算処理により得られる光輝材由来の反射光および干渉光のみの画像を示す図面代用写真である。
これら画像の撮影は、光源11とカメラ17の設置位置(それぞれの角度)の関係が、光源11からの光の照射各が塗装面100に対して仰角45度、カメラ17が塗装面100から垂直方向で、光源からの照明光に対して45度で入射する角度としている。このような光源11とカメラ17との設置位置の関係から、偏光フィルターなしの場合も偏光フィルターありの場合も、塗膜表面からの正反射成分はカメラ17に入らず、塗膜内部のベース面からの間接的な反射成分(拡散光)と、光輝材由来の反射光および干渉光が入ることになる。また、カメラ17の設置位置は、塗装面100から70mm(図22におけるh)、カメラ17(撮像素子)の解像度は、1024×768ピクセルで、素子面積4.8×3.6mmである。また、塗装面100上の撮影範囲は9mm四方となるように設定してある。光源11の照度は7200lx(ルクス)である。レンズの絞り値は16で撮影した。露光時間(シャッタースピード)は、光輝材成分の光がサチュレーション(飽和)しないように、それぞれの画像を撮影する際に調整してある。なお、露光時間を固定して絞りを調整することでサチュレーションしないようにしてもよい。ここで、サチュレーションしないとは、撮像素子におけるダイナミックレンジの範囲で画素の信号レベルが最高値を越えないようにすることである。たとえば、8ビットカラーの場合、その階調は0〜255である。したがって、撮像素子から得られる画素の信号値が255(階調最大値)となった場合は、露光時間または絞りを調整して、それ以下となるようにすることである。特に、メタリック塗装では、その光輝材である反射材からの反射光が強く現れる場合がある。このような場合に、画素が飽和しないように、露出時間または絞りを適宜調整して、適切な露光量で撮影する。
このため、評価に使用する明度や彩度の値を求める際には、同じ露出量で撮影された状態となるように画素からの信号値(階調値)を換算する必要がある。なお、カメラのダイナミックレンジが十分に大きければ、絞り、露出時間ともに、塗色によらず同じにできる。絞り、露出時間が同じであれば、信号値の換算は必要ない。
図27(a)に示すように、第1および第2偏光フィルター13および15なしで撮影した画像は、全体に粒状感のある画像の中に、よく見ると光輝材による光が点在した画像となっている。そしてこの画像は、既に説明したように、ベース面からの拡散光、反射材による反射光、および干渉材からの干渉光が混合された状態である。
図27(b)に示すように、第1および第2偏光フィルター13および15ありで撮影した画像は、全体に粒状感のある画像となっているが、図27(a)にあった光輝材による光の点は存在しない。
そこで、図27(c)に示すように、図27(a)の画像から図27(b)の画像を減算処理することで、図27(a)にあった光輝材により点在している光成分のみを取り出した画像(光輝材成分画像という)を得ることができる。
画像処理は、コンピュータ18内の画像処理ソフトウェアによって行う。その処理内容は、第1および第2偏光フィルター13および15のなし/ありで同じ位置を撮影し、第1および第2偏光フィルター13および15なしの画像の各画素の階調値から第1および第2偏光フィルター13および15ありの画像の各画素の階調値を減算すればよい。
この減算処理によって、光輝材成分の光を分離することができる。しかし、これだけでは、光輝材は反射材なのか干渉材なのかは分離できない。
ここで、反射材からの反射光成分は、全反射であるため、白色光を当てれば白色光の全ての波長を満遍なく反射している。一方、干渉光は、光透過性の光輝材(干渉材)を透過してさまざまに屈折した光である。しかも波長により屈折率が異なるため、受光した光成分は、ベース面の色とは異なる波長が含まれるようになる。
そこで図27(c)のようにして取り出された光輝材成分の点在する光が画像全体としてどのような波長の光であるかを分析する、すなわち、画像の彩度を求めることで、反射材からの光であるか、干渉材からの干渉光であるかを分離することができる。
図28は、ベース面からの拡散反射光、反射材による反射光、干渉材による干渉光のそれぞれについて、検出される波長とその割合(面積比率)を示すグラフであって。図(a)は波長を示すグラフ、(b)は面積比率を示すグラフである。
図示するように、ベース面からの拡散反射光は、ベース面における顔料の発する波長(顔料に吸収されない色の波長)に明度のピークがある。反射材による反射光は、同様に顔料の影響を受けて、顔料からのピーク波長とほぼ同じ位置にピークがあるが、全体としては白色光を当てている関係でそのほかの波長も満遍なく明度が上昇している。これらに対し、干渉光はベース面からの拡散反射光や反射材の反射光とは異なる位置に波長のピークがあることがわかる。また、図28(b)から、これらの光の占める割合がわかる。最も多くの面積を占めるのがベース面からの拡散反射光である。そして干渉光および反射材の反射光は、拡散反射光よりも少ない。これは、メタリック塗装やパール塗装でも、見た目で感じる色はそのベース色であり、その色の中できらきらした感じ(メタリック感)やさまざまに色変化した感じ(パール感)が見られるのと一致する。
図29は、実際のメタリック塗装およびパール塗装において得られた光輝材成分画像と共に、画像全体の平均明度、点在する光の代表点の拡大画像、拡大画像における明度、画像全体の彩度、および粒子感がコンピュータ18に接続されたディスプレイに映し出された画像の図面代用写真である。なお、光源11およびカメラ位置、照度などは、図27に示した画像を撮影したときと同じである。
ここで、平均明度(図示「平均:%」の表示)とは、画像全体の各画素の明度値の平均値であるが、ここでは、基準となる白色拡散反射板との相対値として示している。ここでは、白色拡散反射板を撮影したときの信号値(階調値)と被評価塗色を撮影したときの最も明るい点の信号値(階調値)が同じとなるように露光時間を調整する。そしてそれぞれの露光時間の相対値を明度の相対値とした。拡大画像の明度も同様である。彩度(図示「粒子彩度」の値)は拡大画像内のR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の信号値からHSVに変換し、S(色彩)画像を用いて彩度を算出した値である。また、粒子感(図示「粒子感:dB」の値)はその画素についてdB=20×log(最も輝度の高いがその輝度(ピーク値)/全体の平均輝度)である。この粒子感は、人が塗装面100を見たときに感じるザラザラした感じを表す指標として用いている。この値が小さい方が粒子感(ザラザラした感じ)は少ない。
図29(a)に示すように、パール塗装であるホワイトパールでは、平均明度64%、拡大画素1(図示「拡大1」、以下同様)の明度388%、拡大画素2の明度876%、粒子彩度13.68、粒子感22.7dBであった。
図29(b)に示すように、パール塗装であるダークブルーパールでは、平均明度3%、拡大画素1の明度65%、拡大画素2の明度88%、粒子彩度10.3、粒子感27.7dBであった。
図29(c)に示すように、メタリック塗装であるグレイアッシュシルバーメタリックでは、平均明度21%、拡大画素1の明度313%、拡大画素2の明度214%、粒子彩度2.12、粒子感27.7dBであった。
図29(d)に示すように、メタリック塗装であるダークグレーメタリックでは、平均明度5%、拡大画素1の明度173%、拡大画素2の明度147%、粒子彩度12.17、粒子感28.9dBであった。
これらの結果から、明度は、もともとのベース色の明るさの影響により、明るい色系のホワイトパールやグレイアッシュメタリックでは、暗い色系のダークブルーパールやダークグレーメタリックより高い値となっている。
一方、全体の彩度を示す粒子彩度の値は、いずれもパール塗装の方がメタリック塗装よりも大きな値を示している。これはパール塗装では、メタリック塗装よりベース色を異なる波長成分が多く含まれていることを示している。
以上のことから、被評価塗装物を、偏光フィルターなし/ありで撮影して、それらを減算処理することで得られた光輝材成分の光の画像から明度、彩度などを求めることで、メタリック塗装やパール塗装などこれまで定量的な評価が難しかった塗色についても、それらの色を示す指標である、明度や彩度などの数値として確実に評価することができるようになる。
以上は、基本的な本実施形態の塗色評価装置の作用であるが、本装置は既に説明したように、カメラ17の撮影角度を変更できるようにしている。この角度変更機能を利用して、塗装面100をさまざまな角度で撮影を行えば、角度ごとの評価を行うことができる。
また、色フィルターを用いることで、特定の波長(特定の色)の光のみを照射して、その波長に対する評価のみを行うことができる。
図30は、上述した塗色評価装置による評価手順を示すフローチャートである。
まず、評価したい角度となるように、塗装面100に対して、光源11(反射鏡14の向き)およびカメラ17を設置する(S21)。そして、第1および第2偏光フィルター13および15なしの場合と、第1および第2偏光フィルター13および15ありの場合の画像を撮影してコンピュータ18に取り込む(S22)。ここまでは人手による作業となる。
その後、あらかじめプログラムされた手順にしたがってコンピュータ18により処理を行う。コンピュータ18の処理はこのフローチャートのS23〜25である。
コンピュータ18は、取得した第1および第2偏光フィルター13および15なし画像から第1および第2偏光フィルター13および15あり画像を減算処理する(S23)。
続いてコンピュータ18は、得られた減算処理後の画像(光輝材成分画像)から画像全体の平均明度、画像全体の彩度、および粒子感を算出する(S24)。なお、塗装物における塗色の評価においては、塗色全体としての評価のため、点在する光の一つひとつの明度や彩度などは算出しなくてもよい。なお、これら点在する光の一つひとつの明度や彩度も参考のためにこの段階で算出することもできる。
その後、コンピュータ18は、あらかじめ基準板の基準色によって、同様にして得られた全体の明度および彩度と、S4で求めた被評価塗装物の明度および彩度との差を取って明度差および彩度差を求めて、それらの値があらかじめ決められたしきい値の範囲内となっているかどうかにより良否判定結果を出力する(S25)。なお、基準板の基準色とは、あらかじめ評価対象の塗色用に作成さえたものであるが、このほかに基準となる塗装から得られる色であってもよい。また、良否判定までは行わず、被評価塗装物の明度および彩度の値が知りたいだけであれば、このS25については実行しなくてもよい。
S24およびS25の結果はあらかじめ決められた記録媒体上の指定エリアに記憶させる。また、必要に応じてディスプレイに表示したり、プリントアウトするなどしてもよい。
以上説明した本実施形態3によれば以下の効果を奏する。
色差計による計測範囲より広い範囲を写すカメラ17によって、偏光フィルターを入れた場合と入れない場合で被評価塗装物の塗装面100を撮影する。そして偏光フィルターを入れた場合と入れない場合のそれぞれの画像の差分を取ることで塗膜中の光輝材から反射光および/または干渉光のみを抽出する。そしてこの抽出した光が存在する画像の明度および/または彩度を求めることとした。これにより、メタリック塗装やパール塗装など光輝材が分散している塗色についても光輝材成分の色を、同じ動作により体系化して、定量的に評価することができるようになる。
第1および第2偏光フィルター13および15を入れる場合と入れない場合の撮影は、まず、第1および第2偏光フィルター13および15がない状態でベース面からの光と光輝材からの光を含む画像を撮影する。ついで第1および第2偏光フィルター13および15を入れてベース面からの光のみの画像を撮影する。そして、これらの画像の差分を取ること(減算処理)で光輝材からの光のみを含む画像を分離した。これにより、容易に光輝材からの光のみを含む画像を得ることができる。そして、この減算処理により光輝材からの光がない場合はソリッド塗装、光輝材からの光がある場合はメタリック塗装またはパール塗装であり、さらに彩度が大きければパール塗装であると判断することができる。なお、第1および第2偏光フィルター13および15を入れる場合と入れない場合の撮影順序は逆であってもよい。
また、カメラ17および光源11の位置を変更可能とすることで、さまざまな角度による明度および彩度を測定することができる。
なお、本実施形態3では、カメラ17および光源11の位置を変更することとしたが、これに代えて、複数のカメラや光源を用意して、決められた撮影角度の位置にそれぞれカメラおよび光源を設置するようにしてもよい。図31は、複数角度に対してそれぞれカメラを設置した例を示す図である。図示するように、円弧状のガイド171に対して、決められた測定角度ごとにカメラ172〜175を設置する。なお、図示する場合には、カメラは4台としているが、カメラの台数は必要な角度に合わせて適宜用意すればよく図示に限定されない。また、各カメラ171〜174の位置は微調整可能なようにそれぞれ移動可能となるようにしておいてもよい。
このように、複数の測定角度ごとにそれぞれカメラを設置することで、いちいちカメラや光源の位置を変更しなくても、所望する測定角度での明度や彩度の値を連続的に短時間で得ることができる。これは、特に量産ラインなどに好適であり、塗色の評価(検査)時間を短縮することができる。
同様にして光源から照射される光の角度を違えた複数の光源を備えてもよい。この場合も、角度の違う複数の照明光を切り替えてカメラにより撮影することで、カメラや光源位置の変更などにともなう作業時間を省くことができる。
また、可変色フィルター12を介して撮影することで、さまざまな波長による特性も定量的に評価することが可能となる。この可変色フィルター12は本実施形態では、光源11の前に設置して、塗装円を証明する光の波長を変えることとした。これに代えて可変色フィルター12をカメラ17前に配置して、カメラ17に入る光の波長を制限するようにしても、同様の効果が得られる。したがって、可変色フィルター12の設置位置は、光源11から塗装面100までの光の経路中、または塗装面100からカメラ17までの光の経路中であれば、どこに置いてもよい。
また、本実施形態3においては、さらに、測定環境の光を測定するための照度計や、他のカメラなどを配置することができる。
図32は、測定環境の照度測定する照度計を配設した例を示すブロック図である。照度計を設けた以外の構成は既に説明した図22と同じである。
照度計177を設置する場合は、塗装面100上であって、光源11からの光が直接入らない位置とする。なお、光源11からの光が直接入る位置に設置しなければならないときには、光源を切って環境の照度を測定するとよい。
また、図33は、測定環境の照度測定するカメラを配設した例を示すブロック図である。カメラを設けた以外の構成は既に説明した図22と同じである。
カメラ178を設置する場合は、少なくともカメラ17によって撮影する塗装面の範囲を撮影できる位置に設ける。
このような照度計177や他のカメラ178を環境光測定手段という。このような測定環境の光を測定することで、塗色を評価する環境が変わった場合でも、それを補正して環境に違いによって評価結果違ってしまうようなことを防止することができる。
これにはたとえば、環境光の照度を変えて、カメラ17によっては白色拡散反射板を撮影する。このときカメラの撮影位置近傍に環境光の照度を測定する照度計を設置するか、または、カメラ17を含む測定系全体を撮影できる位置に他のカメラを設置して、環境光の照度を測定する。そして、照度計また他のカメラによって得られる照度と、白色拡散反射板を撮影した画像の全体明度との差を取って、これを補正値とする。
被評価塗装物の塗色を評価する際には、この補正値によって被評価塗装物の塗装面を撮影して得られた明度や彩度を補正すればよい。
また、このような補正ではなく、照度計または他のカメラによって得られる環境の照度が常に一定となるように、環境照明の明るさを変えるようにしてもよい。
以上実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、実施形態1、2、実施形態3はそれぞれ個別に実施できる塗色評価方法と塗色評価装置であるが、たとえばこれらを合わせて塗色の評価を行うこともできる。たとえば実施形態2によって被評価塗装物の塗色の分類を行い、実施形態1によりその基準となる許容範囲および個別色の許容範囲をあらかじめ求めておく。その後実施形態3の塗色評価装置によって被評価塗装物の塗色の明度や彩度などを計測する。そして、塗色評価装置によって測定された明度や彩度などの値があらかじめ求めた許容範囲内であるか否かを判定する容易にしてもよい。そのほか、本発明の範囲は特許請求の範囲に記載された事項によって判断されるものであって、実施形態として例示した内容に限定的に解釈されるものではなくさまざまな変形形態が可能である。