本発明は、戸やカバー類などの開閉部材を枠体に係着した後、再び開く時の抵抗を少なくすると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生をできるだけ少なくする目的の、板バネ式マグネットキャッチに関するものである。
マグネットキャッチは、戸やカバー類などの開閉部材(扉を含め、以下、これらの総称として「戸」と記す)を枠体に係着する簡便な装置として広く利用されているが、幾つかの問題点がある。その一つは、比較的大きな係着力を得ようとすると、戸を再び開く時(以下、「戸開時」と記す)の抵抗が、往々にして大きくなることである。
また、引戸には、特に戸車を備えた軽快な引戸に於いて、閉めた時(以下、「戸閉時」と記す)に跳ね返りによる隙間が生じ易いという問題がある。これに対しては、図4に示したとほぼ同様の磁石ユニットを備えたマグネットキャッチを、引戸の表または裏面端部に取付けることが行われている他、戸袋に収納される形式の引戸にも利用できる商品として、引戸の走行方向面と枠体の当接面の一方に磁石、他の一方に受体を埋設する形式のマグネットキャッチがある。しかし、これらには戸開時の抵抗に関する上記問題が未解決であることに加え、建て付けの狂いや戸の変形のために隙間がある場合に、十分な機能を果たせないことがある、等の問題がある。この対策案として、磁石を円柱状とし、磁石の底部にコイルスプリングを組み込んだ構造の発明が既になされている。
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特開2001−73619号広報
磁石の底部にコイルスプリングを組込む上記発明2件は、引戸の跳ね返り防止効果に優れ、磁石が受体に及ぼす吸着力は従来装置と同じままであるが、戸が枠体から離れて受体が磁石を振り切るまでの間に慣性を得て、実感としての戸開時抵抗力を減少させるであろう。これはバネの効果により、戸開時抵抗力は磁石吸着力に等しいという従来概念を破る端緒を与えたものとして、注目される。しかし、戸開時抵抗力を減ずる効果は大きくはないであろうし、コイルスプリングの付いた磁石の埋設作業等、その取り付けが一般の家庭では容易に行えないことや、コスト高がその普及を妨げていると思われる。
本発明が解決しようとする課題は、戸開時の抵抗の軽減と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、吸着力の調整が可能であり、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させ、戸袋に収納する形式の引戸にも利用できるようなマグネットキャッチを、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易なように、提供することである。
請求項1記載の発明は、戸を枠体に係着するため、その一方に磁石を固定し、他の一方に、従来のマグネットキャッチでは鉄製剛体であるものを薄板バネに代え、それを片持ち支持方式で固定したことを特徴とし、以下の全ての発明の基本となるものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明に対し、板バネの磁石と対面する部分の少なくとも一部の断面2次モーメントを、板厚及び/または板幅を大きくすることにより、それ以外の部分(以下、「基部」と記す)より大きくしたことを特徴とする。板厚を部分的に厚くする方法としては、板バネの先端部分を折り曲げて接合する方法が簡便である。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明に対し、磁石と対面する鉄片を設け、その長さ方向中央部で溶接等の手段により板バネと接続したことを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1、2または3記載の発明に対し、戸が閉じられた状態で板バネの固定面方向へ一定のバネ力が掛かるよう、板バネに予歪を与えたことを特徴とする。予歪を与える方法としては、後述するように請求項2記載の板バネ先端部の厚み突出側を固定面に向ける方法、板バネ基部に「く」の字状の変形を与える方法、及びそれらを併用する方法等がある。
請求項5記載の発明は、請求項1、2、3または4記載の発明に対し、板バネをネジで固定するための座板を設け、そのネジ孔は長孔とし、座板を長孔に沿って移動させて板バネの先端から固定部までの長さを拡大または縮小させることにより、本装置による吸着力を調整できるようにしたことを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項1〜5記載の夫々の発明に対し、ヨーク付き磁石ユニットを収納する合成樹脂製ケースを設け、そのケースの開口部周縁で板バネとの主たる衝撃を受けるようにすると共に、板バネの表、裏とそれに当接する部材面の中、何れか一つ以上の面に、弾性皮膜を貼付したことを特徴とする。
請求項7記載の発明は、請求項1〜6記載の夫々の発明を引戸に適用した場合、その装置部材を埋設せずに取り付けたことにより戸閉時に発生する戸の走行方向面と枠体間の隙間を埋めるよう、その何れか一方に隙間防止材を具備したことを特徴とする。
図1は、本発明に掛かる板バネ式マグネットキャッチの基本原理を説明するため、装置の骨子を横方向に誇張し、その挙動を段階的に示した断面図である。
ある重さの戸に固定された剛性受体が、枠体に固定された磁石の全面に吸着された時の吸着力をM0、磁石と受体間の距離をx、受体が磁石の吸引力Nにより引寄せられてしまう限界位置をx1、その時の吸引力をN1とすると、磁石吸引力NはM0(x=0、図1(イ)の状態)からほぼx2に反比例して減衰することが一般に知られている。従って明らかに、従来のマグネットキャッチでは、戸を開くためにはM0以上の外力が初めに必要であり、x>x1となれば、戸の跳ね返りが引き戻されることはない。
ところが、受体を板バネに置き換えると、磁石吸着力をM、バネ力をPとして、x1の位置では図1(ロ)の状態になり、x>x1となっても、M>Pである限り、磁石は依然として板バネの少なくとも一部を吸着したままであり、外力が弱まればバネ力Pにより戸は引戻される。外力が強まるとxが増していき、板バネは戸の動きに引きずられて(ハ)の状態となる。磁石と板バネの接触面積は縮小するから、磁石吸着力Mは急速に減少し、遂にxに比例して増大するバネ力Pの方が大きくなり、板バネは磁石の吸着を振り切って離れる。その限界の状態を図1(ニ)、x=x2、M=M2とすると、当然、x1<x2、M2<M0である。即ち、板バネ式マグネットキャッチでは、M0より小さな力M2で戸を開くことができ、明らかに従来のマグネットキャッチで戸開時の抵抗が大きいという弱点を、軽減することができる。しかも、このように本発明の装置としての吸着力(以下、「装置吸着力」と記す)は、磁石と受体間の距離に伴い磁石吸着力Mが徐々にバネ力Pに変換され、従来装置の場合とは全く様相が異なって逆に最大値M2まで増大していくから、戸を引戻すためのバネ力Pは極めて容易にN1を超える。
しかしながら、マグネットキャッチの戸を引き戻す能力は、発生した跳ね返りエネルギーの吸収量の面でも検証されなければならない。それは従来マグネットキャッチでは、磁石吸引力Nに抗しながら戸を0からx1まで移動させる仕事量であるから、およそx1(M0+N1)/2である。ここで、戸開時抵抗力が0.5kg程度、磁石ユニットの吸着力が2.5kg程度の場合を想定して、仮にN1/M0=0.2とすると、上記エネルギー量は0.6x1M0である。即ち、これを超える跳ね返りを生じさせた場合は、x>x1となって戸を引き戻すことができない。
板バネ式マグネットキャッチでは、戸の引き戻し可能領域がx2まで拡大する。そして、バネ力Pと距離xは比例関係にあるから、吸収できるエネルギーはおよそx2M2/2で表すことができる。後述するように、請求項3の発明ではM2=M0となり、x=x1でP=N1(図1(ロ)の状態)となるような板バネではN1/M0=x1/x2という比例関係にあるから、上記の仮定の下ではx2=x1/0.2=5x1、従い、上記吸収エネルギーx2M2/2=2.5x1M0となる。他の請求項の発明で、例えばM2=1/2M0となっても、吸収エネルギーは1.25x1M0となって、従来値を容易に超えることができる。
請求項1記載の発明では既述のように、装置吸着力の最大値M2はM0以下であるが、これは跳ね返り防止能力を左右する因子でもあるため、小さ過ぎても不満足である。そこで請求項2記載の発明では、板バネの磁石と対面する部分の少なくとも一部の断面2次モーメントを基部より大きくしたから、x=x2の場面でも板バネと磁石の接触面積の縮小は抑制され、その結果として基部の柔軟性を維持しながら、装置吸着力の最大値M2の過小化を防ぐことができる。本発明の更なる応用として、一定範囲内で積極的に基部の板幅等を先端部より縮小すれば、そのバネ定数が低下するから、同値のM2を維持しながらx2を拡大し、跳ね返り防止能力を高めることができる。その上、板バネによる衝撃力を弱めるので、作動音を減ずる効果もある。尚、断面2次モーメントはバネ板厚の3乗と板幅に比例することは、周知である。
請求項2記載の発明ではM2を大きくすることができるが、戸開時の外力の増大と共に板バネは片持ちで磁石から後方より徐々に引き離されていくから、M2はM0と等値まではなり得ない。そこで請求項3記載の発明では、磁石と対面する部分を剛性鉄片とし、その長さ方向中央部にバネ力が負荷されるようにしたから、M2をM0と等値まで高めることができる。このことにより戸開時の抵抗は、前記コイルバネ式マグネットキャッチと同様、従来抵抗値M0に接近してしまうが、一定のバネ定数の下では戸閉時の跳ね返り防止能力を最大に高めることができるので、小さな磁石で跳ね返り防止を主目的とするマグネットキャッチに適する。
また、戸開時の抵抗を減少させることは、一方では、戸閉状態を保持する力、即ち「係着力」(x=0に於ける装置吸着力)を低下させることを意味するので、僅少な間隙は発生しても直ぐに引戻されるとは言え、戸閉状態が不安定となる可能性がある。そこで請求項4記載の発明では、図1に示すように、板バネ基部の磁石に近い部分に「く」の字状の予歪を与えたから、戸閉状態で一定のバネ力を確保できるようにした。板バネへの予歪は、請求項2記載の板バネ先端部分の厚み突出側を固定面に向けることによっても幾らか得られるが、これについては実施例1で後述する。
ところで、請求項1〜4記載の発明では装置吸着力の調整機能が無いので、戸の重さや使用者の好みに応じた調整ができない。請求項5記載の発明では、長孔に沿って座板を磁石より離す方向に移動すると、固定部から先の板バネ基部長さが拡大してバネ力は弱まり、逆方向ではバネ力は強まるから、装置吸着力を一定範囲内で調整することができる。周知の通り、バネ定数はバネ長さの3乗に反比例するから、僅かな調整で大きな効果を得ることができる。
請求項1〜5記載の何れの板バネ式マグネットキャッチも、戸の開閉時に板バネが磁石、戸または枠体と衝突し、やや大きい音を発し易い。請求項6記載の板バネ式マグネットキャッチは、磁石と板バネの金属同士の衝突を避け、衝突する何れかの部材面に弾性皮膜を介することでこの作動音を減じ、かつ、磁石を衝撃や磨耗から保護する効果がある。
請求項1〜6記載の何れかの板バネ式マグネットキャッチを引戸の走行方向面に装着する場合、戸と枠体間に隙間を発生させないよう、それぞれの取付け位置に各構成部材の厚みだけの溝を掘り、埋設しなくてはならない。請求項7記載の板バネ式マグネットキャッチは、この予期される隙間分の厚みの隙間防止材を設けるため、かかる埋設作業が不要となり、本装置の取付けが簡易化されるばかりでなく、建て付けの狂いや戸の変形による隙間があっても、その隙間を縮小させる効果がある。
以上述べた通り、本発明による装置は何れも極めて簡単な構造であり、かつ、取付け容易であるため、経済的にも有利である。
図1は、本発明の基本原理を説明するための図である。
図2は、請求項2、4及び5記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例1)
図3は、請求項3、4及び5記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例2)
図4は、請求項2及び5記載の発明装置の開き戸への実施例を説明するための図である。(実施例3)
図5は、請求項7記載の発明装置を、戸袋に収納される形式の引戸の中央高さ付近に取付けた場合を示す、概観図である。(実施例4)
図6は、請求項2及び4〜7記載の発明装置の引戸への実施例を説明するための図である。(実施例4)
図7は、図6に於ける装置中央での縦断面図である。(実施例4)
図8は、磁石ユニットを内包したケースを幅方向に断裁した斜視図である。(実施例1、2、4)
戸開時の抵抗の軽減と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生をできるだけ減少させ、戸袋に収納される形式の引戸にも利用できるようなマグネットキャッチを、装置吸着力の調整も可能としながら、作動音を抑えつつ、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易に行えるように、実現した。
図2に、請求項2、4及び5記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1の対面の全部またはその一部である板バネ先端部2Aは、折り曲げ後固着され、基部より2倍の厚みにしてある。従い、この部分は基部との板厚比の3乗、即ち8倍の断面2次モーメントを持ち、実質的に殆ど剛体化されている。この板バネ先端部2Aの厚みが突出した側を固定面に向けたから、その部分は取付け時に差厚分だけ固定面から押し上げられ、請求項4記載の予歪を自動的に得ている。尚、本図及び次例の図3に示された、磁石ユニット15については実施例4で、請求項5に掛かる座板3については実施例3で説明する。
図3に、請求項3、4及び5記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1と対面する鉄片14は、その長さ方向中央部で板バネ2と溶接等の手段で固着されている。板バネ2の固着部2Bより下方は、鉄片14に対して自由であるから、バネ力は鉄片14の長手方向中央部を中心に均等に働く。板バネ2の基部には、請求項4記載の予歪を「く」の字状に与えているため、戸閉時に引戸11へ一定のバネ力が働く。
図4は、請求項2及び5記載の発明装置の開き戸(以下、「開き戸」と記した場合は、片開き戸と枠体を含めた戸の形態を意味し、「開き戸10」と記した場合は、扉単体を意味する。引戸も同じ)への実施例を示す説明図である。
図4に示すように、開き戸では先ず、戸口枠体12の上角の近傍に、上下着磁の磁石1を一対の鉄板からなるヨーク5Dで上下に挟んで形成した磁石ユニット15Dを、合成樹脂製のケース6D内に収めて複数のネジ4で固定する。このケース6Dは、開口した一側面から磁石ユニット15Dを露出させ、戸当りの機能も果たしている。そして、開き戸10の磁石1と対面する位置に、請求項2記載の板バネ2を請求項5記載の座板3及びネジ4で固定している。この座板3には長孔3Aが設けられており、これに沿って座板3をスライドさせ、板バネ2の先端から固定端までの長さを拡大または縮小させることにより、装置吸着力を一定範囲内で調整することができる。
図8は磁石ユニット15を内包したケース6を幅方向に断裁した斜視図である。磁石ユニット15は図8に示すように、上下着磁の磁石1を凹状のヨーク5内に2枚の合成樹脂板7を左右に挟んだ構造としている。そしてこれの四方を囲む形で、合成樹脂製ケース6内に収める。この形態は装置の厚みを薄くできるので、引き戸用のマグネットキャッチに適する。磁石ユニット15は、磁石1が磁力の強い種類のものほど当然小型化でき、取付け作業やコストの面で有利となる。尚、ケース6は底のある構造としても良いが、底無しとして磁石ユニット15の厚みを極力薄くした方が、後述の埋設の事情等で有利である。
図5は請求項7記載の発明装置を、戸袋13に収納される形式の引戸の中央高さ付近に取付けた場合を示す、概観図である。
図6は請求項2及び4〜7記載の発明装置の引戸への実施例を示す斜視図、図7は図6に於ける装置中央での縦断面図である。先ず、既述の磁石ユニット15を引戸11と当接する戸口枠体12の側面の任意の位置に、2本のネジ4で固定する。これとは反対に、磁石ユニット15は引戸11側に設けても良いが、ここでは図6の例に従って説明する。
本例に示した板バネ2は、先端部2Aを折り曲げて二重にした上、ケース6と同一幅とし、基部の幅を一定量縮小しているから、先端部2Aの断面2次モーメントは基部より十分に高められている。これは、装置吸着力の最大値M2を維持しながら基部の柔軟性を高め、そのことにより引戻し限界位置x2が増大して跳ね返り防止能力を高める効果を生む。そして、板バネ2の基部には、先端部2Aの板厚差による予歪効果に加え、「く」の字状の予歪を与えている。この板バネ2の上に既述の座板3を重ね、磁石1と対面する位置に2本のネジ4で引戸11に固定する。
図6、7及び8に示すように、磁石ユニット15は合成樹脂製ケース6内に収納され、ケース6の開口部周縁の高さをヨーク表面以上として、そこで板バネ2との主たる衝撃を受けるようにする。板バネ2の裏側に対しては、当接する引戸11の部分に弾性皮膜8を貼付しているから、戸開閉時の作動音を減ずることができる。この弾性皮膜8は、板バネ2の表または裏面、またはケース6周縁部に重複して貼付しても良い。尚、板バネ2基部の幅を先端部2Aより縮小したことは、板バネ2による衝撃力を弱めるので、作動音と弾性皮膜8の損耗を減ずる効果も生む。
ところで、上記した請求項1〜6記載の発明装置では、そのまま引戸に取付けては、それらの厚み分だけ引戸11と枠体12間に隙間を発生させるので、予めそれぞれの取付け位置に各厚み分の溝を掘り、埋設しなくてはならない(図1参照)。
請求項7記載の発明装置では図5、6及び7に示すように、枠体12の引戸11走行方向面と当接する面に於いて、装置部材を埋設せずに取付けたことにより発生する両者間の隙間を埋めるよう、隙間防止材9を設ける。これにより、引戸では請求項1〜6記載の発明装置で必要であった取付け位置への溝設置を不要とすることができ、本発明装置の取付けは極めて簡易化される。
M 磁石吸着力
M0 剛性受体が磁石の全面に吸着された時の吸着力
M2 板バネが磁石の吸着を振り切って離れる位置での磁石吸着力
N 磁石吸引力
N1 剛性受体が引寄せられてしまう限界位置での磁石吸引力
P バネ力
x 磁石と受体間の距離
x1 剛性受体が磁石吸引力により引寄せられてしまう限界位置
x2 板バネが磁石の吸着力を振り切って離れる限界位置
1 磁石
2 板バネ
2A 板バネ先端部
2B 板バネ固着部
3 座板
3A 長孔
4 ネジ
5 ヨーク
5D ヨーク
6 ケース
6D ケース
7 合成樹脂板
8 弾性皮膜
9 隙間防止材
10 開き戸
11 引戸
12 戸口枠体
13 戸袋
14 鉄片
15 磁石ユニット
15D 磁石ユニット
本発明は、戸やカバー類などの開閉部材(扉を含め、以下、これらの総称として「戸」と記す)を枠体に係着した後、再び開く時(以下、「戸開時」と記す)の抵抗を軽減すると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を少なくする目的の、板バネ式マグネットキャッチに関するものである。
マグネットキャッチは、戸を枠体に係着する簡便な装置として広く利用されているが、幾つかの問題点がある。その一つは、比較的大きな係着力を得ようとすると、戸開時の抵抗が大きくなり、軽い力で滑らかに開けないことがしばしば起こることである。
また、引戸には、特に戸車を備えた軽快な引戸に於いて、閉めた時(以下、「戸閉時」と記す)に跳ね返りによる隙間が生じ易いという問題がある。これに対しては、図4に示したとほぼ同様の磁石ユニットを備えたマグネットキャッチ(受体は剛性鉄片)を、引戸の表または裏面端部に取付けることが行われている他、戸袋に収納される形式の引戸にも利用できる商品として、引戸の走行方向面と枠体の当接面の一方に磁石、他の一方に鉄片を埋設する形式のマグネットキャッチがある。しかし、これらには戸開時の抵抗に関する上記問題が未解決であることに加え、建て付けの狂いや戸の変形のために隙間がある場合に、十分な機能を果たせないことがある、等の問題がある。この対策案として、磁石を円柱状とし、磁石の底部にコイルスプリングを組み込んだ構造の発明が既になされている。
特開2000−248811号広報
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磁石の底部にコイルスプリングを組込む上記発明2件は、引戸の跳ね返り防止効果に優れ、磁石が受体に及ぼす吸着力は従来装置と同じままであるが、戸が枠体から離れて受体が磁石を振り切るまでの間に慣性を得て、実感としての戸開時抵抗力を減少させるであろう。これはバネの効果により、戸開時抵抗力は磁石吸着力に等しいという従来概念を破る端緒を与えたものとして、注目される。しかし、戸開時抵抗力を減ずる効果は大きくはないであろうし、コイルスプリングの付いた磁石の埋設作業等、その取り付けが一般の家庭では容易に行えないことや、コスト高がその普及を妨げていると思われる。
本発明が解決しようとする課題は、戸開時の抵抗の軽減及び円滑化と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、吸着力の調整が可能であり、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させるようなマグネットキャッチを、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易なように、提供することである。
請求項1記載の発明は、戸を枠体に係着するため、その一方に磁石を固定し、他の一方に、従来のマグネットキャッチでは剛性鉄片であるものを薄板バネに代え、それを片持ち支持方式で固定したことを特徴とし、以下の全ての発明の基本となるものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明に対し、板バネの磁石と対面する部分(以下、「先端部」と記す)の少なくとも一部の断面2次モーメントを、板厚及び/または板幅を大きくすることにより、それ以外の部分(以下、「基部」と記す)より大きくしたことを特徴とする。板厚を部分的に厚くする方法としては、先端部を折り曲げて接合する方法が簡便である。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明に対し、磁石と対面する鉄片を設け、その長さ方向中央部で溶接等の手段により板バネと接続したことを特徴とする。ここで、該鉄片の板厚は、剛性を得るために板バネ基部より当然厚くし、板幅については基部と同じか、または、基部より大きく(即ち、基部幅は鉄片幅以下に)するのが良い。
請求項4記載の発明は、請求項1、2または3記載の発明に対し、戸が閉じられた状態で板バネの固定面方向へ一定のバネ力が掛かるよう、板バネに予め歪(以下、「初期歪」と記す)を与えたことを特徴とする。初期歪を与える方法としては、後述するように請求項2記載の板バネ先端部の厚み突出側を固定面に向ける方法、基部に「く」の字状の変形を与える方法、及びそれらを併用する方法等がある。
請求項5記載の発明は、請求項1、2、3または4記載の発明に対し、板バネをネジで固定するための座板を設け、そのネジ孔は長孔とし、座板を長孔に沿って移動させて板バネの先端から座板先端までの長さを拡大または縮小させることにより、本装置による吸着力を調整できるようにしたことを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項1〜5記載の夫々の発明に対し、ヨーク付き磁石ユニットを収納する合成樹脂製ケースを設け、そのケースの開口部周縁で板バネとの主たる衝撃を受けるようにすると共に、板バネの表、裏とそれに対面する部材面の中、何れか一つ以上の面に、弾性皮膜を貼付したことを特徴とする。
図1は、本発明に掛かる板バネ式マグネットキャッチの基本原理を説明するため、装置の骨子を横方向に誇張し、その挙動を段階的に示した断面図である。
ある重さの戸に固定されたマグネットキャッチの剛性受体が、枠体に固定された磁石の全面に吸着された時の吸着力をM0、磁石と受体間(即ち、戸と枠体間)の距離をx、受体が磁石から離れた位置から吸引力Nにより引寄せられてしまう限界位置をx1、その時の吸引力をN1とすると、磁石吸引力NはM0(x=0、図1「イ」の状態)からほぼx2に反比例して減衰することが一般に知られている。従って明らかに、従来のマグネットキャッチでは、戸を開くためにはM0以上の強い外力が初めに必要であり、受体が磁石から離脱後も吸引力Nが働くもののx>x1となれば、戸の跳ね返りが引き戻されることはない。
ところが、受体を板バネに置き換えると、磁石吸着力をM、バネ力をPとして、x1の位置では図1「ロ」の状態になり、x>x1となっても、M>Pである限り、磁石は依然として板バネの少なくとも一部を吸着したままであり、外力が弱まればバネ力Pにより戸は引戻される。外力が強まるとxが増していき、板バネは戸の動きに引きずられて図1「ハ」の状態となる。磁石と板バネの接触面積は縮小するから、磁石吸着力Mは急速に減少し、遂にxに比例して増大するバネ力Pの方が大きくなり、板バネは磁石の吸着を振り切って離れる。その限界の状態を図1「ニ」、x=x2、M=M2とすると、当然、x1<x2、M2<M0である。即ち、板バネ式マグネットキャッチでは、M0より小さな力M2で戸を開くことができ、明らかに従来のマグネットキャッチで戸開時の抵抗が大きいという弱点を、軽減することができる。しかも、このように本発明の装置としての吸着力(以下、「装置吸着力」と記す。これは、ばね力Pに等しい)は、磁石と受体間の距離xに伴い磁石吸着力Mが徐々にバネ力Pとして蓄積され、従来装置の場合とは全く様相が異なって逆に最大値M2まで増大していくから、従来より滑らかに戸を開くことができる。
一方、マグネットキャッチの戸を引き戻す能力は、発生した跳ね返りエネルギーの吸収量の問題として検証することができる。それは従来マグネットキャッチでは、磁石吸引力Nに抗しながら戸を0からx1まで移動させる仕事量であり、かつ、Nは凹曲線状にM0からN1まで減衰するから、x1(M0+N1)/2未満である。ここで、戸開時抵抗力が0.5kg程度、磁石ユニットの吸着力が2.5kg程度の場合を想定して、仮にN1/M0=0.2とすると、上記エネルギー量は0.6x1M0未満である。即ち、これを超えるエネルギー量の跳ね返りを生じさせた場合は、x>x1となって戸を引き戻すことができない。
板バネ式マグネットキャッチでは、戸の引き戻し可能領域がx2まで拡大する。そして、バネ力Pと距離xは比例関係にあるから、吸収できるエネルギー量はx2M2/2で表すことができる。後述するように、請求項3の発明ではM2=M0となり、x=x1でP=N1(図1「ロ」の状態)となるような板バネではN1/M0=x1/x2という比例関係にあるから、上記の仮定(N1/M0=0.2)の下ではx2=x1/0.2=5x1、従い、上記吸収エネルギーx2M2/2=2.5x1M0となる。他の請求項の発明で、例えばM2=(1/2)M0となっても、吸収エネルギーは同様の比例関係から、x2M2/2=(5/2)x1(1/2)M0/2=(5/8)x1M0>0.6x1M0となって、従来値を超えることができる。但し、上記仮定は磁石吸着力を控えめとしたから、これをやや大きくすることにより、益々有利とすることができる。
請求項1記載の発明では既述のように、装置吸着力の最大値M2はM0以下であるが、これは跳ね返り防止能力を左右する因子でもあるため、小さ過ぎても不満足である。そこで請求項2記載の発明では、板バネ先端部の少なくとも一部の断面2次モーメントを基部より大きくしたから、x=x2の場面でも板バネと磁石の接触面積の縮小は抑制され、その結果として基部の柔軟性を維持しながら、装置吸着力の最大値M2の過小化を防ぐことができる。本発明の更なる応用として、一定範囲内(板バネがM2で降伏しない範囲)で積極的に基部の板幅を先端部より縮小すれば、そのバネ定数が低下するから、同値のM2を維持しながらx2を拡大し、跳ね返り防止能力を高めることができる。尚、断面2次モーメントはバネ板厚の3乗と板幅に比例することは、周知である。
請求項2記載の発明では請求項1記載の発明よりM2を大きくすることができるが、戸開時の外力の増大と共に板バネは片持ちで磁石から後方より徐々に引き離されていくから、M2はM0と等値まではなり得ない。そこで請求項3記載の発明では、磁石と対面する部分を剛性鉄片とし、その長さ方向中央部にバネ力が負荷されるようにしたから、M2をM0と等値まで高めることができる。このことにより戸開時の抵抗は、前記コイルバネを用いたマグネットキャッチと同様、従来抵抗値M0に接近してしまうが、一定のバネ定数の下では戸閉時の跳ね返り防止能力を最大に高めることができるので、小さな磁石で跳ね返り防止を主目的とするマグネットキャッチに適する。
尚、請求項3記載の発明に於いて、板バネ基部の板幅を一定範囲内で鉄片より小さくすれば、上記請求項2記載の発明と同様、x2を拡大し、跳ね返り防止能力を益々高めることができる。
また、戸開時の抵抗を減少させることは、一方では、戸閉状態を保持する力、即ちx=0に於ける装置吸着力、を低下させることを意味するので、僅少な間隙は発生しても直ぐに引戻されるとは言え、戸閉状態が不安定となる可能性がある。そこで請求項4記載の発明では、図1、3、6及び7に示すように、板バネ基部に「く」の字状の初期歪を与えたから、戸閉状態で一定のバネ力を確保できるようにした。板バネへの初期歪は、図2に示すように、請求項2記載の板バネ先端部の厚み突出側を固定面に向けることによっても幾らか得られるが、これについては実施例1で後述する。
ところで、請求項1〜4記載の発明では装置吸着力の調整機能が無いので、戸の重さや使用者の好みに応じた調整ができない。請求項5記載の発明では、長孔に沿って座板を磁石より離す方向に移動すると、座板先端から先の板バネ長さが拡大してバネ力は弱まり、逆方向ではバネ力は強まるから、装置吸着力を一定範囲内で調整することができる。周知の通り、バネ定数はバネ長さの3乗に反比例するから、僅かな調整で大きな効果を得ることができる。
請求項1〜5記載の何れの板バネ式マグネットキャッチも、戸の開閉時に板バネが磁石、戸または枠体と衝突し、やや大きい音を発し易い。請求項6記載の板バネ式マグネットキャッチは、磁石と板バネの金属同士の衝突を避け、衝突する何れか一つ以上の部材面に弾性皮膜を介することでこの作動音を減じ、かつ、磁石を衝撃や磨耗から保護する効果がある。
以上述べた通り、本発明による装置は何れも極めて簡単な構造であり、かつ、取付け容易であるため、経済的にも有利である。
図1は、本発明の基本原理を説明するための図である。
図2は、請求項2、4及び5記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例1)
図3は、請求項3、4及び5記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例2)
図4は、請求項2及び5記載の発明装置の開き戸への実施例を説明するための図である。(実施例3)
図5は、請求項1〜6の何れかに記載の発明装置を、戸袋に収納される形式の引戸に、隙間防止材を用いて簡易的に取付けた場合を示す、概観図である。(実施例1、2、4)
図6は、請求項2及び4〜6記載の発明装置の引戸への実施例を説明するための図である。(実施例4)
図7は、図6に於ける装置中央での縦断面図である。(実施例4)
図8は、磁石ユニットを内包したケースを幅方向に断裁した斜視図である。(実施例1、2、4)
戸開時の抵抗の軽減及び円滑化と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させ、戸袋に収納される形式の引戸にも利用できるようなマグネットキャッチを、装置吸着力の調整も可能としながら、作動音を抑えつつ、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易に行えるように、実現した。
図2に、請求項2、4及び5記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1の対面の板バネ先端部2Aは、折り曲げ後固着され、基部より2倍の厚みにしてある。従い、この部分は基部との板厚比の3乗、即ち8倍の断面2次モーメントを持ち、実質的に殆ど剛体化されている。この板バネ先端部2Aの厚みが突出した側を固定面に向けたから、その部分は取付け時に差厚分だけ固定面から押し上げられ、請求項4記載の初期歪を自動的に得ている。尚、本図及び次例の図3に示された、磁石ユニット15については実施例4で、請求項5に掛かる座板3については実施例3で説明する。
図3に、請求項3、4及び5記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1と対面する鉄片14は、その長手方向中央部で板バネ2と溶接等の手段で固着されている。板バネ2の固定部2Bより下方は、鉄片14に対して自由であるから、バネ力は鉄片14の長さ方向中央部を中心に均等に働く。板バネ2の基部には、請求項4記載の初期歪を「く」の字状に与えているため、戸閉時に引戸11へ一定のバネ力が働く。
図4は、請求項2及び5記載の発明装置の開き戸(以下、「開き戸」と記した場合は、片開き戸と枠体を含めた戸の形態を意味し、「開き戸10」と記した場合は、扉単体を意味する。引戸も同じ)への実施例を示す説明図である。
図4に示すように、開き戸では先ず、戸口枠体12の上角の近傍に、上下着磁の磁石1を一対の鉄板からなるヨーク5Dで上下に挟んで形成した磁石ユニット15Dを、合成樹脂製のケース6D内に収めて複数のネジ4で固定する。このケース6Dは、開口した一側面から磁石ユニット15Dを露出させ、戸当りの機能も果たしている。そして、開き戸10の磁石1と対面する位置に、請求項2記載の板バネ2を請求項5記載の座板3及びネジ4で固定している。この座板3には長孔3Aが設けられており、これに沿って座板3をスライドさせ、板バネ2の先端から座板先端までの長さを拡大または縮小させることにより、装置吸着力を一定範囲内で調整することができる。
図8は磁石ユニット15を内包したケース6を幅方向に断裁した斜視図である。磁石ユニット15は、上下着磁の磁石1を凹状のヨーク5内に2枚の合成樹脂板7を左右に挟んだ構造としている。そしてこれの四方を囲む形で、合成樹脂製ケース6内に収める。この形態は装置の厚みを薄くできるので、引き戸用のマグネットキャッチに適する。磁石ユニット15は、磁石1が磁力の強い種類のものほど当然小型化でき、取付け作業やコストの面で有利となる。尚、ケース6は底のある構造としても良いが、底無しとして磁石ユニット15の厚みを極力薄くした方が、後述の埋設の事情等で有利である。
図5は請求項1〜6の何れかに記載の発明装置を戸袋13に収納される形式の引戸に、隙間防止材9を用いて装置部材を埋設せず簡易的に取付けた場合を示す、概観図である。
図6は請求項2及び4〜6記載の発明装置の引戸への実施例の詳細を示す斜視図、図7は図6に於ける装置中央での縦断面図である。先ず、既述の磁石ユニット15を引戸11と当接する戸口枠体12の側面の任意の位置に、2本のネジ4で固定する。
本例に示した板バネ2は請求項2を適用し、先端部2Aを折り曲げて二重にした上、ケース6と同一幅とし、基部の幅を一定量縮小しているから、先端部2Aの断面2次モーメントは基部より十分に高められている。これは既述のように、装置吸着力の最大値M2を維持しながら基部の柔軟性を高め、そのことにより引戻し限界位置x2が増大して跳ね返り防止能力を高める効果を生む。そして、板バネ2の基部には、先端部2Aの板厚差による初期歪効果に加えて、「く」の字状の初期歪を与えている。この板バネ2の上に既述の座板3を重ね、磁石1と対面する位置に2本のネジ4で引戸11に固定する。
図6、7及び8に示すように、磁石ユニット15は合成樹脂製ケース6内に収納されているが、ケース6の開口部周縁の高さを僅かにヨーク表面以上として、そこで板バネ2との主たる衝撃を受けるようにする。板バネ2の裏側に対しては、当接する引戸11の部分に弾性皮膜8を貼付しているから、戸開閉時の作動音を減ずることができる。この弾性皮膜8は、板バネ2の表または裏面、またはケース6周縁部や磁石1表面に重複して貼付しても良い。尚、板バネ2基部の幅を先端部2Aより縮小したことは、板バネ2による衝撃力を弱めるので、作動音と弾性皮膜8の損耗を減ずる効果も生む。
ところで、上記した何れの発明装置でも、袋戸形式の引戸のように戸の表または裏側に取付けることが困難なため、走行方向面に取付けたい場合、そのまま取付けては、それらの厚み分だけ引戸11と枠体12間に隙間を発生させるので、予めそれぞれの取付け位置に各厚み分の溝を掘り、埋設しなくてはならない(図1参照)。
本実施例では図5、6及び7に示すように、枠体12の引戸11走行方向面と当接する面に於いて、装置部材を埋設せずに取付けたことにより発生する両者間の隙間を埋めるよう、隙間防止材9を設けた。これにより、上記した袋戸形式の引戸で必要であった溝設置を不要とすることができ、本発明装置の取付けは極めて簡易化される。
M 磁石吸着力
M0 剛性受体が磁石の全面に吸着された時の吸着力
M2 板バネが磁石の吸着を振り切って離れる位置での磁石吸着力
N 磁石吸引力
N1 剛性受体が引寄せられてしまう限界位置での磁石吸引力
P バネ力
x 磁石と受体間、即ち、戸と枠体間の距離
x1 剛性受体が磁石吸引力により引寄せられてしまう限界位置でのx値
x2 板バネが磁石の吸着力を振り切って離れる限界位置でのx値
1 磁石
2 板バネ
2A 板バネ先端部
2B 板バネ固定部
3 座板
3A 長孔
4 ネジ
5 ヨーク
5D ヨーク
6 ケース
6D ケース
7 合成樹脂板
8 弾性皮膜
9 隙間防止材
10 開き戸
11 引戸
12 戸口枠体
13 戸袋
14 鉄片
15 磁石ユニット
15D 磁石ユニット
本発明は、戸やカバー類などの開閉部材(扉を含め、以下、これらの総称として「戸」と記す)を枠体に係着した後、再び開く時(以下、「戸開時」と記す)の抵抗を軽減すると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を少なくする、板バネ式マグネットキャッチに関する。
特開2000−248811号公報
特開2001−73619号公報
請求項1記載の発明は、可動体たる戸を枠体に係着するため、その一方に磁石を固定し、他の一方に、従来のマグネットキャッチでは剛性鉄片であるものを薄板バネに代え、それを片持ち支持方式で固定したことを特徴とし、以下の全ての発明の基本となるものである。ここで板バネは、それが直接磁石に接する構造の場合には、マグネットキャッチとしての基本条件から当然磁性体でなければならないが、後述の他の鉄片を介する構造の場合には、非磁性体でも良い。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明に対し、板バネの磁石と対面する部分(以下、「先端部」と記す)の少なくとも一部の断面2次モーメントを、板厚及び/または板幅を大きくすることにより、それ以外の部分(以下、「基部」と記す)より大きくしたことを特徴とする。板厚を部分的に厚くする方法としては、先端部を折り曲げて接合する方法が簡便であるが、磁石と対面する鉄片を設け、その全面で板バネと接合しても良い。
請求項6記載の発明は、請求項1〜5記載の夫々の発明に対し、ヨーク付き磁石ユニットを収納する合成樹脂製ケースを設け、そのケースの開口部周縁で板バネとの主たる衝撃を受けるようにすると共に、板バネの表、裏とそれに対面する部材(即ち、磁石、ケースの開口部周縁及び板バネの固定基盤たる、戸または枠体)面の中、何れか一つ以上の面に、弾性皮膜を貼付したことを特徴とする。
ある重さの戸に固定されたマグネットキャッチの剛性受体が、枠体に固定された磁石の全面に吸着された時の吸着力をM0、磁石と受体間(即ち、戸と枠体間)の距離をx、受体が磁石から離れた位置から吸引力Nにより引寄せられてしまう限界位置をx1、その時の吸引力をN1とすると、磁石吸引力NはM0(x=0、図1「イ」の状態)からほぼx2に反比例して減衰することが一般に知られている。従って明らかに、従来のマグネットキャッチでは、戸を開くためにはM0以上の強い外力が初めに必要であり、受体が磁石から離脱後も吸引力Nが働くものの、それは急激に減衰してx>x1となれば、跳ね返った戸が引き戻されることはない。
一方、マグネットキャッチの戸を引き戻す能力は、発生した跳ね返りエネルギーの吸収量の問題として検証することができる。それは従来マグネットキャッチでは、磁石吸引力Nに抗しながら戸を0からx1まで移動させる仕事量であり、かつ、Nはx 2 に反比例して凹曲線状にM0からN1まで減衰するから、x1(M0+N1)/2未満である。ここで、戸開時抵抗力が0.5kg程度、磁石ユニットの吸着力が2.5kg程度の場合を想定して、仮にN1/M0=0.2とすると、上記エネルギー量は0.6x1M0未満である。即ち、これを超えるエネルギー量の跳ね返りを生じさせた場合は、x>x1となって戸を引き戻すことができない。
請求項1記載の発明では既述のように、装置吸着力の最大値M2はM0以下であるが、これは跳ね返り防止能力を左右する因子でもあるため、小さ過ぎても不満足である。そこで請求項2記載の発明では、板バネ先端部の少なくとも一部の断面2次モーメントを基部より大きくしたから、x=x2の場面でも板バネと磁石の接触面積の縮小は抑制され、その結果として基部の柔軟性を維持しながら、装置吸着力の最大値M2の過小化を防ぐことができる。本発明の更なる応用として、一定範囲内(板バネがM2で降伏しない範囲)で積極的に基部の板幅を先端部より縮小すれば、そのバネ定数が低下するから、同値のM2を維持しながらx2を拡大し、跳ね返り防止能力を高めることができる。尚、角材の断面2次モーメントは板厚の3乗と板幅に比例することは、周知である。
図3に、請求項3、4及び5記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1と対面する鉄片14は、その長さ方向中央部で板バネ2と溶接等の手段で固着されている。板バネ2の固定部2Bより下方は、鉄片14に対して自由であるから、バネ力は鉄片14の長さ方向中央部を中心に均等に働く。板バネ2の基部には、請求項4記載の初期歪を「く」の字状に与えているため、戸閉時に引戸11へ一定のバネ力が働く。
図6、7及び8に示すように、磁石ユニット15は合成樹脂製ケース6内に収納されているが、ケース6の開口部周縁の高さを僅かにヨーク表面以上として、そこで板バネ2との主たる衝撃を受けるようにする。更に、板バネ2の裏側に対しては、当接する引戸11の部分に弾性皮膜8を貼付しているから、戸開閉時の作動音を減ずることができる。この弾性皮膜8は、板バネ2の表または裏面、またはケース6周縁部や磁石1表面に重複して貼付しても良い。尚、板バネ2基部の幅を先端部2Aより縮小したことは、板バネ2による衝撃力を弱めるので、作動音と弾性皮膜8の損耗を減ずる効果も生む。
本発明は、戸やカバー類などの開閉部材(扉を含め、以下、これらの総称として「戸」と記す)を枠体に係着した後、再び開く時(以下、「戸開時」と記す)の抵抗を軽減すると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を少なくする、板バネ式マグネットキャッチに関する。
マグネットキャッチは、戸を枠体に係着する簡便な装置として広く利用されているが、幾つかの問題点がある。その一つは、比較的大きな係着力を得ようとすると、戸開時の抵抗が大きくなり、軽い力で滑らかに開けないことがしばしば起こることである。この対策案として一つには、折畳みドア用に考えられた発明ではあるが、磁石と対向する受体側を弾性に富んだ帯状板片とする構造の発明が既になされている。
また、引戸には、特に戸車を備えた軽快な引戸に於いて、閉めた時(以下、「戸閉時」と記す)に跳ね返りによる隙間が生じ易いという問題がある。これと上記戸開時抵抗力の問題も含めた対策案として、磁石を円柱状とし、磁石の底部にコイルスプリングを組み込んだ構造の発明が既になされている。
特開2000−248811号公報
特開昭54−109227号公報
磁石の底部にコイルスプリングを組込む上記特許文献1の発明は、引戸の跳ね返り防止効果に優れ、磁石が受体に及ぼす吸着力は従来装置と同じままであるが、戸が枠体から離れて受体が磁石を振り切るまでの間に慣性を得て、実感としての戸開時抵抗力を減少させるであろう。これはバネの効果により、戸開時抵抗力は磁石吸着力に等しいという従来概念を破る端緒を与えたものとして、注目される。しかし、コイルスプリングの付いた磁石の埋設作業等、その取り付けが一般家庭では容易に行えないことや、コスト高がその普及を妨げていると思われる。一方、折畳みドアに対する上記特許文献2の発明は、戸の係着力を過小化させてしまう場合があり、また、両発明の共通の問題点として、装置による吸着力はバネ力に等しくなるから、戸を閉じた状態での吸着力は微弱であり、そのため不安定となり、例えば震動が起こった場合に騒音を発したりすることが懸念される。
本発明が解決しようとする課題は、戸開時抵抗の軽減及び円滑化と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させるようなマグネットキャッチを、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易なように、提供することである。
請求項1記載の発明は、可動体たる戸を枠体に係着するため、その一方に磁石を固定し、他の一方に板バネをその後端部で固定し、前端部に磁着受部を設ける構成のマグネットキャッチに於いて、該磁着受部の少なくとも一部の板厚及び/または板幅を、磁着受部以外の板バネ主体部(以下、「主体部」と記す)以上とし、更に、板バネを固定する時点で板バネの固定面を押す方向へ初期バネ力が生じ、その力で板バネ静止時に自身を常に固定面に押し付けるようにした。
磁着受部板厚を主体部より厚くする方法としては、板厚差のある板材を用いる方法以外に、磁着受部を折り曲げて接合する方法が簡便であるが、磁石に対向する鉄片を設け、その全面で板バネと接合しても良く、本発明ではその方法に拘らない。
前記初期バネ力を与える方法としては、板バネ側面視形状が「く」の字形であって、くの字の谷側が板バネ固定面に向くよう前記主体部に僅かな変形を与える方法、板バネ磁着受部の板厚を主体部より大きくし、板厚の段差がある側を固定面に向けて板バネを固定する方法、及びそれらを併用する方法がある。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明に対し、磁石に対向する鉄片を設けて磁着受部とし、その長さ中央部で溶接等の手段により板バネと局部的に接合し、接合していない重なり部は離着自由とした。
図1は、請求項1の発明に掛かる板バネ式マグネットキャッチの基本原理を説明するため、装置の骨子を横方向に誇張し、その挙動を段階的に示した断面図である。
ある重さの戸に固定されたマグネットキャッチの剛性受体が、枠体に固定された磁石の全面に吸着された時の吸着力をM0、磁石と受体間(即ち、戸と枠体間)の距離をx、受体が磁石から離れた位置から吸引力Nにより引寄せられてしまう限界位置をx1、その時の吸引力をN1とすると、磁石吸引力NはM0(x=0、図1「イ」の状態)からほぼx2に反比例して減衰することが一般に知られている。従って明らかに、バネが組み込まれていない従来のマグネットキャッチでは、戸を開くためにはM0以上の強い外力が初め一挙に必要であり、受体が磁石から離脱後も吸引力Nが働くものの、それは急激に減衰してx>x1となれば、跳ね返った戸が引き戻されることはない。
ところが、受体を板バネに置き換えると、磁石吸着力をM、バネ力をPとして、x1の位置では図1「ロ」の状態になり、x>x1となっても、M>Pである限り、磁石は依然として板バネの少なくとも一部を吸着したままであり、外力が弱まればバネ力Pにより戸は引戻される。外力が強まるとxが増していき、板バネは戸の動きに引きずられて図1「ハ」の状態となる。磁石と板バネの接触面積は縮小するから、磁石吸着力Mは急速に減少し、遂にxに比例して増大するバネ力Pの方が大きくなり、板バネは磁石の吸着を振り切って離れる。その限界の状態を図1「ニ」、x=x2、M=M2とすると、当然、x1<x2、M2<M0である。即ち、板バネ式マグネットキャッチでは、M0より小さな力M2で戸を開くことができ、明らかに従来のマグネットキャッチで戸開時の抵抗が大きいという弱点を、軽減することができる。しかも、このように本発明の装置としての吸着力(以下、「装置吸着力」と記す。これは、ばね力Pに等しい)は、磁石と受体間の距離xに伴い磁石吸着力Mが徐々にバネ力Pとして蓄積され、従来装置の場合とは全く様相が異なって逆に最大値M2まで増大していくから、従来より滑らかに戸を開くことができる。
一方、マグネットキャッチの跳ね返った戸を引戻す能力は、バネが組み込まれていない従来のマグネットキャッチでは、受体が磁石から離脱してしまえば、磁石吸引力Nは急速に減衰するから僅かな距離x 1 で戸を引戻すことができなくなるのに対し、板バネ式マグネットキャッチでは、既述したように、戸の引戻し可能領域がx 1 を大きく超えてx 2 まで拡大する。しかも、バネ力Pと距離xは比例関係にあるから、従来装置とは全く逆に戸が枠体から離れるほど引戻し力が増大する。但し、前記のM 2 <M 0 という限界がある。
既述のように、装置吸着力の最大値M2はM0以下であるが、これは戸を係着する力そのものであるし、跳ね返り防止能力を左右する因子でもあるため、小さ過ぎても不満足である。そこで本発明では、磁着受部の少なくとも一部の板幅及び/または板厚を主体部以上として、断面2次モーメントを大きくできるようにしたから、x=x2の場面でも板バネと磁石の接触面積の縮小は抑制され、その結果として主体部の柔軟性を維持しながら、装置吸着力の最大値M2の過小化を防ぐことができる。他方、板バネがM2で降伏しない範囲で積極的に主体部の板幅を磁着受部より縮小すれば、磁着受部は元のまま主体部のバネ定数が低下するから、同値のM2を維持しながらx2を拡大し、跳ね返り防止能力を高めることができる。
また、装置吸着力Mはバネ力Pに等しいから、戸閉状態を保持する力、即ちx=0近辺に於ける装置吸着力は微弱となるため、僅少な間隙は発生しても直ぐに引戻されるとは言え、戸閉状態が不安定となる可能性がある。そこで本発明では、図1、3、6及び7に示すように、主体部に予め変形を与えて板バネ固定時に初期バネ力を蓄えたから、戸閉状態で一定のバネ力を確保できるようにした。板バネへの初期バネ力は、図2に示すように、板バネ磁着受部を主体部より厚くした場合には、板厚の段差がある側を固定面に向けて板バネを固定することによっても幾らか得られるが、これで不十分な場合には、図6に示すように、前記主体部に変形を与える方法と併用すれば良い。
上記の通り、請求項1記載の発明ではある程度M2を大きくすることができるが、戸開時の外力の増大と共に板バネは片持ちで磁石から後方より徐々に引き離されていくから、M2はM0と等値まではなり得ない。そこで請求項2記載の発明では、磁石と対面する部分を剛性鉄片とし、その長さ中央部にバネ力が負荷され、戸開時鉄片は片端から徐々にではなくほぼ一挙に磁石から離脱するようにしたから、M2をM0と等値または等値付近にまで高めることができる。即ち、請求項1の発明は、一挙に大きな戸開時抵抗力を発生させるという従来装置の弱点を改善することができるものの、戸を係着する力は大きく減じたくないという要求には、磁石吸着力を上げるしかないのに対し、請求項2の発明は磁石をそのままで、該要求を満足させることができる。このことにより戸開時抵抗力は従来抵抗値M0に接近してしまうが、該抵抗を円滑化する効果は維持し、かつ、一定のバネ定数の下では戸閉時の跳ね返り防止能力を最大に高めることができる。
以上述べた通り、本発明による装置は何れも極めて簡単な構造であり、かつ、取付け容易であるため、経済的にも有利である。
図1は、本発明の基本原理を説明するための図である。
図2は、請求項1記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例1)
図3は、請求項2記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例2)
図4は、請求項1記載の発明装置の開き戸への実施例を説明するための図である。(実施例3)
図5は、請求項1または2に記載の発明装置を、戸袋に収納される形式の引戸に、隙間防止材を用いて簡易的に取付けた場合を示す、概観図である。(実施例1、2、4)
図6は、請求項1記載の発明装置の引戸への実施例を説明するための図である。(実施例4)
図7は、板バネが磁石に吸着された状態での、図6に於ける装置中央での縦断面図である。(実施例4)
戸開時の抵抗の軽減及び円滑化と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させ、戸袋に収納される形式の引戸にも利用できるようなマグネットキャッチを、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易に行えるように、実現した。
図2に、請求項1記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1に対向する磁着受部2Aは、折り曲げ後固着され、主体部より2倍の厚みにしてある。従い、この部分は主体部との板厚比の3乗、即ち8倍の断面2次モーメントを持ち、著しく変形抵抗を増している。この磁着受部2Aの板厚段差がある側を固定面に向けたから、その部分は取付け時に差厚分だけ固定面から押し上げられ、初期バネ力を自動的に得ている。
図3に、請求項2記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1に対向する鉄片14は、その長さ中央部で板バネ2と溶接等の手段で固着されている。板バネ2の接合部2Bより下方の重なり部は、鉄片14に対して離着自由であるから、バネ力は鉄片14の長さ中央部を中心にほぼ均等に働く。板バネ2の主体部には、板バネ側面視が「く」の字形となるよう予め僅かに変形を与えているため、くの字の谷側が板バネ固定面に向くよう板バネを取付けた時に、接合部2Bが固定面より押し上げられて初期バネ力が生成され、これにより戸閉時に引戸11へ一定のバネ力が働く。
図4は、請求項1記載の発明装置の開き戸(以下、「開き戸」と記した場合は、片開き戸と枠体を含めた戸の形態を意味し、「開き戸10」と記した場合は、扉単体を意味する。引戸も同じ)への実施例を示す説明図である。
図4に示すように、開き戸では先ず、戸口枠体12の上角の近傍に、上下着磁の磁石1を一対の鉄板からなるヨーク5Dで上下に挟んで形成した磁石ユニット15Dを、合成樹脂製のケース6D内に収めて複数のネジ4で固定する。このケース6Dは、開口した一側面から磁石ユニット15Dを露出させ、戸当りの機能も果たしている。そして、開き戸10の磁石1と磁着受部2Aが対向するよう、板バネ主体部後端を座板3及びネジ4で固定している。この座板3には長孔3Aが設けられており、これに沿って座板3をスライドさせ、板バネ2の先端から座板先端までの長さを拡大または縮小させることにより、装置吸着力を一定範囲内で調整することができる。
図5は請求項1または2に記載の発明装置を戸袋13に収納される形式の引戸に、隙間防止材9を用いて装置部材を埋設せず簡易的に取付けた場合を示す、概観図である。
図6は請求項1記載の発明装置の引戸への実施例の詳細を示す斜視図、図7は板バネ2が磁石1に吸着された状態での、図6に於ける装置中央での縦断面図である。上下着磁の磁石1を凹状のヨーク5内に収めて成る磁石ユニット15は、合成樹脂製ケース6内に収められている。先ず、これを引戸11と当接する戸口枠体12の側面の任意の位置に、2本のネジ4で固定する。
本例に示した板バネ2は磁着受部2Aを折り曲げて二重にした上、ケース6と同一幅とし、主体部の幅を一定量縮小しているから、磁着受部2Aの断面2次モーメントは主体部より十分に高められている。そして、主体部には磁着受部2Aの板厚差による初期バネ力効果に加えて、側面視が「く」の字形の変形を与えている。この主体部後端の上に既述の座板3を重ね、磁石1と対面する位置に2本のネジ4で引戸11に固定する。
図6及び7に示すように、磁石ユニット15は合成樹脂製ケース6内に収納されているが、ケース6の開口部周縁の高さを僅かにヨーク表面以上として、そこで板バネ2との主たる衝撃を受けるようにする。更に、板バネ2の裏側に対しては、当接する引戸11の部分に弾性皮膜8を貼付しているから、戸開閉時の作動音を減ずることができる。この弾性皮膜8は、板バネ2の表または裏面、またはケース6周縁部や磁石1表面に重複して貼付しても良い。
ところで、上記した何れの発明装置でも、袋戸形式の引戸のように戸の表または裏側に取付けることが困難なため、走行方向面に取付けたい場合、そのまま取付けては、それらの厚み分だけ引戸11と枠体12間に隙間を発生させるので、図1に概略示したように、予めそれぞれの取付け位置に各厚み分の溝を掘り、埋設しなくてはならない。
本実施例では図5、6及び7に示すように、枠体12の引戸11走行方向面と当接する面に於いて、装置部材を埋設せずに取付けたことにより発生する両者間の隙間を埋めるよう、隙間防止材9を設けた。これにより、上記した袋戸形式の引戸で必要であった溝設置を不要とすることができ、本発明装置の取付けは極めて簡易化される。
M 磁石吸着力
M0 剛性受体が磁石の全面に吸着された時の吸着力
M2 板バネが磁石の吸着を振り切って離れる位置での磁石吸着力
N 磁石吸引力
N1 剛性受体が引寄せられてしまう限界位置での磁石吸引力
P バネ力
x 磁石と受体間、即ち、戸と枠体間の距離
x1 剛性受体が磁石吸引力により引寄せられてしまう限界位置でのx値
x2 板バネが磁石の吸着力を振り切って離れる限界位置でのx値
1 磁石
2 板バネ
2A 磁着受部
2B 接合部
3 座板
3A 長孔
4 ネジ
5 ヨーク
5D ヨーク
6 ケース
6D ケース
8 弾性皮膜
9 隙間防止材
10 開き戸
11 引戸
12 戸口枠体
13 戸袋
14 鉄片
15 磁石ユニット
15D 磁石ユニット
本発明は、戸やカバー類などの開閉部材(扉を含め、以下、これらの総称として「戸」と記す)を枠体に係着した後、再び開く時(以下、「戸開時」と記す)の抵抗を軽減すると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を少なくする、板バネ式マグネットキャッチに関する。
マグネットキャッチは、戸を枠体に係着する簡便な装置として広く利用されているが、幾つかの問題点がある。その一つは、比較的大きな係着力を得ようとすると、戸開時の抵抗が大きくなり、軽い力で滑らかに開けないことがしばしば起こることである。
また、引戸には、特に戸車を備えた軽快な引戸に於いて、閉めた時(以下、「戸閉時」と記す)に跳ね返りによる隙間が生じ易いという問題がある。これと上記戸開時抵抗力の問題も含めた対策案として、磁石を円柱状とし、磁石の底部にコイルスプリングを組み込んだ構造の発明が既になされている。
特開2000−248811号公報
特開2001−73619号公報
磁石の底部にコイルスプリングを組込む上記発明2件は、引戸の跳ね返り防止効果に優れ、磁石が受体に及ぼす吸着力は従来装置と同じままであるが、戸が枠体から離れて受体が磁石を振り切るまでの間に慣性を得て、実感としての戸開時抵抗力を減少させるであろう。これはバネの効果により、戸開時抵抗力は磁石吸着力に等しいという従来概念を破る端緒を与えたものとして、注目される。しかし、コイルスプリングの付いた磁石の埋設作業等、その取り付けが一般家庭では容易に行えないことや、コスト高がその普及を妨げていると思われる。また、装置による吸着力はバネ力に等しくなるから、戸を閉じた状態での吸着力は微弱であり、そのため不安定となり、例えば震動が起こった場合に騒音を発したりすることが懸念される。
本発明が解決しようとする課題は、戸開時抵抗の軽減及び円滑化と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させるようなマグネットキャッチを、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易なように、提供することである。
請求項1記載の発明は、可動体たる戸を枠体に係着するため、その一方に磁石を固定し、他の一方に板バネをその片端だけで固定する構成のマグネットキャッチに於いて、磁着受部の少なくとも一部の板厚及び/または板幅を、板バネ主体部以上とし、更に、板バネを固定する時点で板バネの固定面を押す方向へ初期バネ力が生じ、その力で板バネ静止時に自身を常に固定面に押し付けるようにした。
磁着受部板厚を主体部より厚くする方法としては、磁着受部を折り曲げて接合する方法が簡便であるが、磁石に対向する鉄片を設け、その全面で板バネと接合しても良く、本発明ではその方法に拘らない。
前記初期バネ力を与える方法としては、板バネ側面視形状が「く」の字形であって、くの字の谷側が板バネ固定面に向くよう前記主体部に僅かな変形を与える方法、板バネ磁着受部の板厚を主体部より大きくし、板厚の段差がある側を固定面に向けて主体部後端を固定する方法、及びそれらを併用する方法がある。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明に対し、磁石に対向する鉄片を設けて磁着受部とし、その長さ方向中央部で溶接等の手段により板バネと局部的に接続し、接続していない重なり部は離着自由とした。
図1は、請求項1の発明に掛かる板バネ式マグネットキャッチの基本原理を説明するため、装置の骨子を横方向に誇張し、その挙動を段階的に示した断面図である。
ある重さの戸に固定されたマグネットキャッチの剛性受体が、枠体に固定された磁石の全面に吸着された時の吸着力をM0、磁石と受体間(即ち、戸と枠体間)の距離をx、受体が磁石から離れた位置から吸引力Nにより引寄せられてしまう限界位置をx1、その時の吸引力をN1とすると、磁石吸引力NはM0(x=0、図1「イ」の状態)からほぼx2に反比例して減衰することが一般に知られている。従って明らかに、バネが組み込まれていない従来のマグネットキャッチでは、戸を開くためにはM0以上の強い外力が初め一挙に必要であり、受体が磁石から離脱後も吸引力Nが働くものの、それは急激に減衰してx>x1となれば、跳ね返った戸が引き戻されることはない。
ところが、受体を板バネに置き換えると、磁石吸着力をM、バネ力をPとして、x1の位置では図1「ロ」の状態になり、x>x1となっても、M>Pである限り、磁石は依然として板バネの少なくとも一部を吸着したままであり、外力が弱まればバネ力Pにより戸は引戻される。外力が強まるとxが増していき、板バネは戸の動きに引きずられて図1「ハ」の状態となる。磁石と板バネの接触面積は縮小するから、磁石吸着力Mは急速に減少し、遂にxに比例して増大するバネ力Pの方が大きくなり、板バネは磁石の吸着を振り切って離れる。その限界の状態を図1「ニ」、x=x2、M=M2とすると、当然、x1<x2、M2<M0である。即ち、板バネ式マグネットキャッチでは、M0より小さな力M2で戸を開くことができ、明らかに従来のマグネットキャッチで戸開時の抵抗が大きいという弱点を、軽減することができる。しかも、このように本発明の装置としての吸着力(以下、「装置吸着力」と記す。これは、ばね力Pに等しい)は、磁石と受体間の距離xに伴い磁石吸着力Mが徐々にバネ力Pとして蓄積され、従来装置の場合とは全く様相が異なって逆に最大値M2まで増大していくから、従来より滑らかに戸を開くことができる。
一方、マグネットキャッチの跳ね返った戸を引戻す能力は、バネが組み込まれていない従来のマグネットキャッチでは、受体が磁石から離脱してしまえば、磁石吸引力Nは急速に減衰するから僅かな距離x 1 で戸を引戻すことができなくなるのに対し、板バネ式マグネットキャッチでは、既述したように、戸の引戻し可能領域がx 1 を大きく超えてx2まで拡大する。しかも、バネ力Pと距離xは比例関係にあるから、従来装置とは全く逆に戸が枠体から離れるほど引戻し力が増大する。但し、前記のM 2 <M 0 という限界がある。
既述のように、装置吸着力の最大値M2はM0以下であるが、これは戸を係着する力そのものであるし、跳ね返り防止能力を左右する因子でもあるため、小さ過ぎても不満足である。そこで本発明では、磁着受部の少なくとも一部の板幅及び/または板厚を主体部以上として、断面2次モーメントを大きくできるようにしたから、x=x2の場面でも板バネと磁石の接触面積の縮小は抑制され、その結果として主体部の柔軟性を維持しながら、装置吸着力の最大値M2の過小化を防ぐことができる。他方、板バネがM2で降伏しない範囲で積極的に主体部の板幅を磁着受部より縮小すれば、磁着受部は元のまま主体部のバネ定数が低下するから、同値のM2を維持しながらx2を拡大し、跳ね返り防止能力を高めることができる。
また、戸開時の抵抗を減少させることは、一方では、戸閉状態を保持する力、即ちx=0に於ける装置吸着力、を低下させることを意味するので、僅少な間隙は発生しても直ぐに引戻されるとは言え、戸閉状態が不安定となる可能性がある。そこで本発明では、図1、3、6及び7に示すように、主体部に予め変形を与えて板バネ固定時に初期バネ力を蓄えたから、戸閉状態で一定のバネ力を確保できるようにした。板バネへの初期バネ力は、図2に示すように、板バネ磁着受部を主体部より厚くした場合には、板厚の段差がある側を固定面に向けて主体部後端を固定することによっても幾らか得られるが、これで不十分な場合には、図6に示すように、前記主体部に変形を与える方法と併用すれば良い。
上記の通り、請求項1記載の発明ではある程度M2を大きくすることができるが、戸開時の外力の増大と共に板バネは片持ちで磁石から後方より徐々に引き離されていくから、M2はM0と等値まではなり得ない。そこで請求項2記載の発明では、磁石と対向する部分を剛性鉄片とし、その長さ方向中央部にバネ力が負荷され、戸開時鉄片は片端から徐々にではなく一挙に磁石から離脱するようにしたから、M2をM0と等値まで高めることができる。即ち、請求項1の発明は、一挙に大きな戸開時抵抗力を発生させるという従来装置の弱点を改善することができるものの、戸を係着する力は大きく減じたくないという要求には、磁石吸着力を上げるしかないのに対し、請求項2の発明は磁石をそのままで、該要求を満足させることができる。このことにより戸開時抵抗力は従来抵抗値M0に接近してしまうが、該抵抗を円滑化する効果は維持し、かつ、一定のバネ定数の下では戸閉時の跳ね返り防止能力を最大に高めることができる。
以上述べた通り、本発明による装置は何れも極めて簡単な構造であり、かつ、取付け容易であるため、経済的にも有利である。
本発明の基本原理を説明するための図である。
請求項1記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例1)
請求項2記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例2)
請求項1記載の発明装置の開き戸への実施例を説明するための図である。(実施例3)
請求項1または2に記載の発明装置を、戸袋に収納される形式の引戸に、隙間防止材を用いて簡易的に取付けた場合を示す、概観図である。(実施例1、2、4)
請求項1記載の発明装置の引戸への実施例を説明するための図である。(実施例4)
板バネが磁石に吸着された状態での、図6に於ける装置中央での縦断面図である。(実施例4)
戸開時の抵抗の軽減及び円滑化と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させ、戸袋に収納される形式の引戸にも利用できるようなマグネットキャッチを、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易に行えるように、実現した。
図2に、請求項1記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1に対向する磁着受部2Aは、折り曲げ後固着され、主体部より2倍の厚みにしてある。従い、この部分は主体部との板厚比の3乗、即ち8倍の断面2次モーメントを持ち、著しく変形抵抗を増している。この磁着受部2Aの板厚段差がある側を固定面に向けたから、その部分は取付け時に差厚分だけ固定面から押し上げられ、初期バネ力を自動的に得ている。
図3に、請求項2記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1に対向する鉄片14は、その長さ方向中央部で板バネ2と溶接等の手段で固着されている。板バネ2の固定部2Bより下方の重なり部は、鉄片14に対して離着自由であるから、バネ力は鉄片14の長さ方向中央部を中心に均等に働く。板バネ2の主体部には、板バネ側面視が「く」の字形となるよう予め僅かに変形を与えているため、くの字の谷側が板バネ固定面に向くよう板バネを取付けた時に、固定部2Bが固定面より押し上げられて初期バネ力が生成され、これにより戸閉時に引戸11へ一定のバネ力が働く。
図4は、請求項1記載の発明装置の開き戸(以下、「開き戸」と記した場合は、片開き戸と枠体を含めた戸の形態を意味し、「開き戸10」と記した場合は、扉単体を意味する。引戸も同じ)への実施例を示す説明図である。
図4に示すように、開き戸では先ず、戸口枠体12の上角の近傍に、上下着磁の磁石1を一対の鉄板からなるヨーク5Dで上下に挟んで形成した磁石ユニット15Dを、合成樹脂製のケース6D内に収めて複数のネジ4で固定する。このケース6Dは、開口した一側面から磁石ユニット15Dを露出させ、戸当りの機能も果たしている。そして、開き戸10の磁石1と磁着受部2Aが対向するよう、板バネ主体部後端を座板3及びネジ4で固定している。この座板3には長孔3Aが設けられており、これに沿って座板3をスライドさせ、板バネ2の先端から座板先端までの長さを拡大または縮小させることにより、装置吸着力を一定範囲内で調整することができる。
図5は請求項1または2に記載の発明装置を戸袋13に収納される形式の引戸に、隙間防止材9を用いて装置部材を埋設せず簡易的に取付けた場合を示す、概観図である。
図6は請求項1記載の発明装置の引戸への実施例の詳細を示す斜視図、図7は板バネ2が磁石1に吸着された状態での、図6に於ける装置中央での縦断面図である。上下着磁の磁石1を凹状のヨーク5内に収めて成る磁石ユニット15は、合成樹脂製ケース6内に収められている。先ず、これを引戸11と当接する戸口枠体12の側面の任意の位置に、2本のネジ4で固定する。
本例に示した板バネ2は磁着受部2Aを折り曲げて二重にした上、ケース6と同一幅とし、主体部の幅を一定量縮小しているから、磁着受部2Aの断面2次モーメントは主体部より十分に高められている。そして、主体部には磁着受部2Aの板厚差による初期バネ力効果に加えて、側面視が「く」の字形の変形を与えている。この主体部後端の上に既述の座板3を重ね、磁石1と対面する位置に2本のネジ4で引戸11に固定する。
図6及び7に示すように、磁石ユニット15は合成樹脂製ケース6内に収納されているが、ケース6の開口部周縁の高さを僅かにヨーク表面以上として、そこで板バネ2との主たる衝撃を受けるようにする。更に、板バネ2の裏側に対しては、当接する引戸11の部分に弾性皮膜8を貼付しているから、戸開閉時の作動音を減ずることができる。この弾性皮膜8は、板バネ2の表または裏面、またはケース6周縁部や磁石1表面に重複して貼付しても良い。
ところで、上記した何れの発明装置でも、袋戸形式の引戸のように戸の表または裏側に取付けることが困難なため、走行方向面に取付けたい場合、そのまま取付けては、それらの厚み分だけ引戸11と枠体12間に隙間を発生させるので、図1に概略示したように、予めそれぞれの取付け位置に各厚み分の溝を掘り、埋設しなくてはならない。
本実施例では図5、6及び7に示すように、枠体12の引戸11走行方向面と当接する面に於いて、装置部材を埋設せずに取付けたことにより発生する両者間の隙間を埋めるよう、隙間防止材9を設けた。これにより、上記した袋戸形式の引戸で必要であった溝設置を不要とすることができ、本発明装置の取付けは極めて簡易化される。
M 磁石吸着力
M0 剛性受体が磁石の全面に吸着された時の吸着力
M2 板バネが磁石の吸着を振り切って離れる位置での磁石吸着力
N 磁石吸引力
N1 剛性受体が引寄せられてしまう限界位置での磁石吸引力
P バネ力
x 磁石と受体間、即ち、戸と枠体間の距離
x1 剛性受体が磁石吸引力により引寄せられてしまう限界位置でのx値
x2 板バネが磁石の吸着力を振り切って離れる限界位置でのx値
1 磁石
2 板バネ
2A 磁着受部
2B 板バネ固定部
3 座板
3A 長孔
4 ネジ
5 ヨーク
5D ヨーク
6 ケース
6D ケース
8 弾性皮膜
9 隙間防止材
10 開き戸
11 引戸
12 戸口枠体
13 戸袋
14 鉄片
15 磁石ユニット
15D 磁石ユニット
本発明は、戸やカバー類などの開閉部材(扉を含め、以下、これらの総称として「戸」と記す)を枠体に係着した後、再び開く時(以下、「戸開時」と記す)の抵抗を軽減すると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を少なくする、板バネ式マグネットキャッチに関する。
マグネットキャッチは、戸を枠体に係着する簡便な装置として広く利用されているが、幾つかの問題点がある。その一つは、比較的大きな係着力を得ようとすると、戸開時の抵抗が大きくなり、軽い力で滑らかに開けないことがしばしば起こることである。
また、引戸には、特に戸車を備えた軽快な引戸に於いて、閉めた時(以下、「戸閉時」と記す)に跳ね返りによる隙間が生じ易いという問題がある。これと上記戸開時抵抗力の問題も含めた対策案として、磁石を円柱状とし、磁石の底部にコイルスプリングを組み込んだ構造の発明が既になされている。
特開2000−248811号公報
特開2001−73619号公報
磁石の底部にコイルスプリングを組込む上記発明2件は、引戸の跳ね返り防止効果に優れ、磁石が受体に及ぼす吸着力は従来装置と同じままであるが、戸が枠体から離れて受体が磁石を振り切るまでの間に慣性を得て、実感としての戸開時抵抗力を減少させるであろう。これはバネの効果により、戸開時抵抗力は磁石吸着力に等しいという従来概念を破る端緒を与えたものとして、注目される。しかし、コイルスプリングの付いた磁石の埋設作業等、その取り付けが一般家庭では容易に行えないことや、コスト高がその普及を妨げていると思われる。また、装置による吸着力はバネ力に等しくなるから、戸を閉じた状態での吸着力は微弱であり、そのため不安定となり、例えば震動が起こった場合に騒音を発したりすることが懸念される。
本発明が解決しようとする課題は、戸開時抵抗の軽減及び円滑化と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させるようなマグネットキャッチを、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易なように、提供することである。
請求項1記載の発明は、可動体たる戸を枠体に係着するため、その一方に磁石を固定し、他の一方に板バネをその片端だけで固定する構成のマグネットキャッチに於いて、磁着受部の少なくとも一部の板厚及び/または板幅を、板バネ主体部以上とし、かつ、板バネを固定する時点で板バネの固定面を押す方向へ初期バネ力が生じ、その力で板バネ静止時に自身を常に固定面に押し付けるようにした。
磁着受部板厚を主体部より厚くする方法としては、磁着受部を折り曲げて接合する方法が簡便であるが、磁石に対向する鉄片を設け、その全面で板バネと接合しても良く、本発明ではその方法に拘らない。
前記初期バネ力を与える方法としては、板バネ側面視形状が「く」の字形であって、くの字の谷側が板バネ固定面に向くよう前記主体部に僅かな変形を与える方法、または、主体部に前記変形を与え、かつ、板バネ磁着受部の板厚を主体部より大きくし、板厚の段差がある側を固定面に向けて主体部後端を固定する方法がある。
請求項2の発明は、請求項1記載の発明に対し、磁石に対向する鉄片を設けて磁着受部とし、その長さ方向中央部で溶接等の手段により板バネと局部的に接続し、接続していない重なり部は離着自由とした。
図1は、請求項1の発明に掛かる板バネ式マグネットキャッチの基本原理を説明するため、装置の骨子を横方向に誇張し、その挙動を段階的に示した断面図である。
ある重さの戸に固定されたマグネットキャッチの剛性受体が、枠体に固定された磁石の全面に吸着された時の吸着力をM0、磁石と受体間(即ち、戸と枠体間)の距離をx、受体が磁石から離れた位置から吸引力Nにより引寄せられてしまう限界位置をx1、その時の吸引力をN1とすると、磁石吸引力NはM0(x=0、図1「イ」の状態)からほぼx2に反比例して減衰することが一般に知られている。従って明らかに、バネが組み込まれていない従来のマグネットキャッチでは、戸を開くためにはM0以上の強い外力が初め一挙に必要であり、受体が磁石から離脱後も吸引力Nが働くものの、それは急激に減衰してx>x1となれば、跳ね返った戸が引き戻されることはない。
ところが、受体を板バネに置き換えると、磁石吸着力をM、バネ力をPとして、x1の位置では図1「ロ」の状態になり、x>x1となっても、M>Pである限り、磁石は依然として板バネの少なくとも一部を吸着したままであり、外力が弱まればバネ力Pにより戸は引戻される。外力が強まるとxが増していき、板バネは戸の動きに引きずられて図1「ハ」の状態となる。磁石と板バネの接触面積は縮小するから、磁石吸着力Mは急速に減少し、遂にxに比例して増大するバネ力Pの方が大きくなり、板バネは磁石の吸着を振り切って離れる。その限界の状態を図1「ニ」、x=x2、M=M2とすると、当然、x1<x2、M2<M0である。即ち、板バネ式マグネットキャッチでは、M0より小さな力M2で戸を開くことができ、明らかに従来のマグネットキャッチで戸開時の抵抗が大きいという弱点を、軽減することができる。しかも、このように本発明の装置としての吸着力(以下、「装置吸着力」と記す。これは、ばね力Pに等しい)は、磁石と受体間の距離xに伴い磁石吸着力Mが徐々にバネ力Pとして蓄積され、従来装置の場合とは全く様相が異なって逆に最大値M2まで増大していくから、従来より滑らかに戸を開くことができる。
一方、マグネットキャッチの跳ね返った戸を引戻す能力は、バネが組み込まれていない従来のマグネットキャッチでは、受体が磁石から離脱してしまえば、磁石吸引力Nは急速に減衰するから僅かな距離x1で戸を引戻すことができなくなるのに対し、板バネ式マグネットキャッチでは、既述したように、戸の引戻し可能領域がx1を大きく超えてx2まで拡大する。しかも、バネ力Pと距離xは比例関係にあるから、従来装置とは全く逆に戸が枠体から離れるほど引戻し力が増大する。但し、前記のM2<M0という限界がある。
既述のように、装置吸着力の最大値M2はM0以下であるが、これは戸を係着する力そのものであるし、跳ね返り防止能力を左右する因子でもあるため、小さ過ぎても不満足である。そこで請求項1記載の発明では、磁着受部の少なくとも一部の板幅及び/または板厚を主体部以上として、断面2次モーメントを大きくできるようにしたから、x=x2の場面でも板バネと磁石の接触面積の縮小は抑制され、その結果として主体部の柔軟性を維持しながら、装置吸着力の最大値M2の過小化を防ぐことができる。他方、板バネがM2で降伏しない範囲で積極的に主体部の板幅を磁着受部より縮小すれば、磁着受部は元のまま主体部のバネ定数が低下するから、同値のM2を維持しながらx2を拡大し、跳ね返り防止能力を高めることができる。
また、戸開時の抵抗を減少させることは、一方では、戸閉状態を保持する力、即ちx=0に於ける装置吸着力、を低下させることを意味するので、僅少な間隙は発生しても直ぐに引戻されるとは言え、戸閉状態が不安定となる可能性がある。そこで本発明では、図1、2、5及び6に示すように、主体部に予め変形を与えて板バネ固定時に初期バネ力を蓄えたから、戸閉状態で一定のバネ力を確保できるようにした。板バネへの初期バネ力を得るには、前記方法に加え、図5に示すように、板バネ磁着受部を主体部より厚くし、板厚の段差がある側を固定面に向けて主体部後端を固定する方法と併用しても良い。
上記の通り、請求項1記載の発明ではある程度M2を大きくすることができるが、戸開時の外力の増大と共に板バネは片持ちで磁石から後方より徐々に引き離されていくから、M2はM0と等値まではなり得ない。そこで請求項2記載の発明では、磁石と対向する部分を剛性鉄片とし、その長さ方向中央部にバネ力が負荷され、戸開時鉄片は片端から徐々にではなく一挙に磁石から離脱するようにしたから、M2をM0と等値まで高めることができる。即ち、請求項1の発明は、一挙に大きな戸開時抵抗力を発生させるという従来装置の弱点を改善することができるものの、戸を係着する力は大きく減じたくないという要求には、磁石吸着力を上げるしかないのに対し、請求項2の発明は磁石をそのままで、該要求を満足させることができる。このことにより戸開時抵抗力は従来抵抗値M0に接近してしまうが、該抵抗を円滑化する効果は維持し、かつ、一定のバネ定数の下では戸閉時の跳ね返り防止能力を最大に高めることができる。
以上述べた通り、本発明による装置は何れも極めて簡単な構造であり、かつ、取付け容易であるため、経済的にも有利である。
請求項1記載の発明の基本原理を説明するための図である。
請求項2記載の発明装置の実施例を説明するための図である。(実施例1)
請求項1記載の発明装置の開き戸への実施例を説明するための図である。(実施例2)
請求項1または2に記載の発明装置を、戸袋に収納される形式の引戸に、隙間防止材を用いて簡易的に取付けた場合を示す、概観図である。(実施例1、3)
請求項1記載の発明装置の引戸への実施例を説明するための図である。(実施例3)
板バネが磁石に吸着された状態での、図5に於ける装置中央での縦断面図である。(実施例3)
戸開時の抵抗の軽減及び円滑化と、安定した戸閉状態の維持を両立させると共に、戸の跳ね返りによる隙間発生を減少させ、戸袋に収納される形式の引戸にも利用できるようなマグネットキャッチを、簡単構造で、かつ、既存の戸への取付けも容易に行えるように、実現した。
図2に、請求項2記載の発明装置の実施例を示すが、磁石1に対向する鉄片14は、その長さ方向中央部で板バネ2と溶接等の手段で局部的に固着されている。板バネ2の固定部2Bより下方の重なり部は、鉄片14に対して離着自由であるから、バネ力は鉄片14の長さ方向中央部を中心に均等に働く。板バネ2の主体部には、板バネ側面視が「く」の字形となるよう予め僅かに変形を与えているため、くの字の谷側が板バネ固定面に向くよう板バネを取付けた時に、固定部2Bが固定面より押し上げられて初期バネ力が生成され、これにより戸閉時に引戸11へ一定のバネ力が働く。
図3は、請求項1記載の発明装置の開き戸(以下、「開き戸」と記した場合は、片開き戸と枠体を含めた戸の形態を意味し、「開き戸10」と記した場合は、扉単体を意味する。引戸も同じ)への実施例を示す説明図である。
図3に示すように、開き戸では先ず、戸口枠体12の上角の近傍に、上下着磁の磁石1を一対の鉄板からなるヨーク5Dで上下に挟んで形成した磁石ユニット15Dを、合成樹脂製のケース6D内に収めて複数のネジ4で固定する。このケース6Dは、開口した一側面から磁石ユニット15Dを露出させ、戸当りの機能も果たしている。そして、開き戸10の磁石1と磁着受部2Aが対向するよう、板バネ主体部後端を座板3及びネジ4で固定している。この座板3には長孔3Aが設けられており、これに沿って座板3をスライドさせ、板バネ2の先端から座板先端までの長さを拡大または縮小させることにより、装置吸着力を一定範囲内で調整することができる。
図4は請求項1または2に記載の発明装置を戸袋13に収納される形式の引戸に、隙間防止材9を用いて装置部材を埋設せず簡易的に取付けた場合を示す、概観図である。
図5は請求項1記載の発明装置の引戸への実施例の詳細を示す斜視図、図6は板バネ2が磁石1に吸着された状態での、図5に於ける装置中央での縦断面図である。上下着磁の磁石1を凹状のヨーク5内に収めて成る磁石ユニット15は、合成樹脂製ケース6内に収められている。先ず、これを引戸11と当接する戸口枠体12の側面の任意の位置に、2本のネジ4で固定する。
本例に示した板バネ2は磁着受部2Aを折り曲げて二重にした上、ケース6と同一幅とし、主体部の幅を一定量縮小しているから、磁着受部2Aの断面2次モーメントは主体部より十分に高められている。そして、主体部には、磁着受部2Aの板厚差による初期バネ力効果に加えて、側面視が「く」の字形の変形を与えている。この主体部後端の上に既述の座板3を重ね、磁石1と対向する位置に2本のネジ4で引戸11に固定する。
図5及び6に示すように、磁石ユニット15は合成樹脂製ケース6内に収納されているが、ケース6の開口部周縁の高さを僅かにヨーク表面以上として、そこで板バネ2との主たる衝撃を受けるようにする。更に、板バネ2の裏側に対しては、当接する引戸11の部分に弾性皮膜8を貼付しているから、戸開閉時の作動音を減ずることができる。この弾性皮膜8は、板バネ2の表または裏面、またはケース6周縁部や磁石1表面に重複して貼付しても良い。
ところで、上記した何れの発明装置でも、袋戸形式の引戸のように戸の表または裏側に取付けることが困難なため、走行方向面に取付けたい場合、そのまま取付けては、それらの厚み分だけ引戸11と枠体12間に隙間を発生させるので、図1に概略示したように、予めそれぞれの取付け位置に各厚み分の溝を掘り、埋設しなくてはならない。
本実施例では図4、5及び6に示すように、枠体12の引戸11走行方向面と当接する面に於いて、装置部材を埋設せずに取付けたことにより発生する両者間の隙間を埋めるよう、隙間防止材9を設けた。これにより、上記した袋戸形式の引戸で必要であった溝設置を不要とすることができ、本発明装置の取付けは極めて簡易化される。
M 磁石吸着力
M0 剛性受体が磁石の全面に吸着された時の吸着力
M2 板バネが磁石の吸着を振り切って離れる位置での磁石吸着力
N 磁石吸引力
N1 剛性受体が引寄せられてしまう限界位置での磁石吸引力
P バネ力
x 磁石と受体間、即ち、戸と枠体間の距離
x1 剛性受体が磁石吸引力により引寄せられてしまう限界位置でのx値
x2 板バネが磁石の吸着力を振り切って離れる限界位置でのx値
1 磁石
2 板バネ
2A 磁着受部
2B 板バネ固定部
3 座板
3A 長孔
4 ネジ
5 ヨーク
5D ヨーク
6 ケース
6D ケース
9 隙間防止材
10 開き戸
11 引戸
12 戸口枠体
13 戸袋
14 鉄片
15 磁石ユニット
15D 磁石ユニット