以下、本発明に係る第1の実施形態の位置制御装置1を車両用シート3に適用した場合の例として説明する。図1、図2に示す車両用シート3は、乗員が着座するシートクッション3aと、下端をシートクッション3aの後端部に連結され、該連結部を回動中心として車両の前後方向に傾動可能なシートバック3bと、を備えている。
車両用シート3は、車室内のフロアFL上に平行に配設された一対のレール4上に車両の前後方向に移動可能に装架されている。また車両用シート3は、車両用シート3全体の前後(図2の白抜矢印5)方向への移動、シートクッション3aの前部3afの上下(図2の白抜矢印7)方向への移動(昇降)、シートクッション3aの後部3arの上下(図2の白抜矢印8)方向への移動(昇降)、及びシートバック3bの前後(図2の白抜矢印6)方向への傾動を制御する本発明に係る位置制御装置1を備えている。なお、本実施形態において前後、左右、上下方向とは車両用シート3に着座者が着座した状態での方向と一致し、車両の前後、左右、上下方向と一致するものとする。
図1、図3に示すように位置制御装置1は、直流電流を供給されて回転駆動される各電気モータ(スライドモータ39、リクライニングモータ40、バーチカルフロントモータ41、リフタモータ42)と、該電気モータ39〜42を駆動し車両用シート3の4箇所の可動部材である車両用シート3全体、シートバック3b、シートクッション前部3af、及びシートクッション後部3arを各方向に移動(または傾動)させる移動手段(具体的には図3に示す後述する可動部材位置移動部2)と、電気モータ39〜42の回転に応じて発生されるリップルパルスを検出するパルス検出部(具体的には図3に示す後述するリップルパルス検出回路38)と、所望位置情報記憶部36と、現在位置情報記憶部44と、電流制御装置45(いずれも図3参照)と、を備えている。
可動部材位置移動部2は、マイクロコンピュータで構成される電子制御ユニット(以下「ECU」という)21と、バッテリー25と、を有している。図3に示すようにECU21は、制御部22を備えている。制御部22は、演算を行うCPUと、図示しないROM、RAM及びバックアップRAM等を備えて構成される。ROMは、各種制御プログラムや、これらのプログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されたメモリである。制御部22は、CPUによってROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づき演算処理を実行する。
RAMは制御部22での演算結果や外部から入力されるデータ等を一時的に記憶するメモリに相当し、バックアップRAMは記憶されたデータ等を保存する不揮発性のメモリからなる。制御部22のCPU、ROM、RAM、及びバックアップRAMは、夫々バス(図示せず)を介して互いに接続される。更に、これらは入力インターフェース23、及び出力インターフェース(図示せず)と接続される。
4つの電気モータ39〜42は、図示しないブラシ、及びコミュテータを介して直流電流を供給されることにより回転されるブラシ付き直流電気モータである。電気モータ39〜42は図3に示す移動手段を構成する可動部材位置移動部2が制御する後述するPWM制御で各回転を制御される。電気モータ39〜42と各可動部材との間は図示しない複数のねじ機構、及び該ねじ機構と連結された複数の軸部材によって連結されている。これにより可動部材位置移動部2によって制御される電気モータ39〜42の回転運動が各可動部材の各移動方向への運動に変換され、各可動部材を移動制御する。
4つの電気モータ39〜42は、制御部22の図略の出力インターフェースと、夫々リレー43、及び後述するPWM制御用の電圧を生成する電圧生成部60を介して接続されている。リレー43は、4つの電気モータ39〜42に夫々対応する4組のリレーからなり、4つの電気モータ39〜42は対応する1組のリレーにそれぞれ接続され、リレー43は電圧生成部60に接続される。各組のリレーは、一対のコイルと、一対の切替端子とからなる。そして、後述する操作スイッチ27のいずれかが操作されると、操作されたスイッチに対応する組のコイルへの通電がされ、該コイルに対応する電気モータが制御部22のPWM制御部22a、及び電圧生成部60によってPWM制御される。
制御部22には、ECU21の内部の電源回路24を介してバッテリー25が接続される。バッテリー25のプラス側端子は、イグニッションスイッチ26を介して入力インターフェース23に接続される。イグニッションスイッチ26をオンすると、電源回路24により安定化された一定の電圧(例えば5V)がECU21の各部に供給される。
制御部22の入力インターフェース23には、車両用シート3の各可動部材の現在位置を示す現在位置C(本発明の現在位置情報に相当し、以後、現在位置Cと称す)を任意の位置に調整するための操作スイッチ27が接続される。操作スイッチ27は、スライドスイッチ28a及び28bと、リクライニングスイッチ29a及び29bと、フロントバーチカルスイッチ30a及び30bと、リフタスイッチ31a及び31bとから構成される。
スライドスイッチ28a及び28bは、図2に示すように車両用シート3の全体を白抜き矢印5に示すように床面に取り付けられたレール4に沿って前又は後にスライドさせる操作スイッチである。リクライニングスイッチ29a及び29bは、シートクッション3aに連結支持されたシートバック3bを白抜き矢印6に示すように前倒し又は後倒しさせる操作スイッチである。また、フロントバーチカルスイッチ30a及び30bは、シートクッション3aの着座者が座る前部を白抜き矢印7に示すように垂直方向に上昇移動又は下降移動させる操作スイッチである。さらに、リフタスイッチ31a及び31bは、着座者が座るシートクッション3aの後部を白抜き矢印8に示すように上昇移動又は下降移動させるスイッチである。
また、入力インターフェース23には、上記操作スイッチ27の他に、メモリ再生スイッチ32、及び33と記憶スイッチ34とが接続される。メモリ再生スイッチ32、及び33は、1つの車両用シート3の各可動部材に対して停止させたい2つの所望位置Hを記憶させるためのスイッチである。すなわち、位置制御装置1では、各可動部材毎に着座者が所望する2種類の所望位置Hを記憶させることが可能である。
なお、本実施形態において所望位置Hとは、操作者が停止させたい所望位置を示す本発明の所望位置情報に相当し、車両用シート3に着座する着座者が自身の体型に合わせて各位置を調整した状態で本発明に係る所望位置情報記憶部36に記憶させる車両用シート3における各可動部材の位置である。
そして所望位置H以外の任意の現在位置Cに各可動部材(車両用シート3全体、シートバック3b、シートクッション前部3af、及びシートクッション後部3ar)が位置する状態において、メモリ再生スイッチ32または33が押されると各可動部材は各再生スイッチに対応した各所望位置Hに自動的に復帰するようになっている。
また、本実施形態において現在位置Cとは、移動された各可動部材(車両用シート3全体、シートバック3b、シートクッション前部3af、及びシートクッション後部3ar)の任意の位置であり、前述したとおり本発明の現在位置情報のことをいう。この現在位置Cを常に精度よく把握することによって所望位置Hと現在位置Cとの間の相対的な位置関係を精度よく把握することができる。そして精度よく把握された所望位置Hと現在位置Cとの間の相対的な位置関係に基づいて所望位置Hへの確実な復帰を可能とすることができる。
また、ECU21は、図3に示すように電気モータ39〜42のブラシとコミュテータとの間の断続によって供給電流に発生するリップル成分を抽出してパルス化したリップルパルスを出力するパルス検出部としてのリップルパルス検出回路38を備えている。
図3に示すリップルパルス検出回路38は本発明に係るパルス検出部であり、4つの電気モータ39〜42に流れるモータ電流に含まれるリップル成分をパルス化して、電気モータ39〜42に同期したリップルパルスを出力する。リップルパルス検出回路38は、電源回路24(バッテリ25)からの電圧を、作動対象とされたいずれかの電気モータ39〜42のインピーダンスと抵抗52とにより分圧し、分圧した電圧を、モータ回転信号として入力する。
図4に示すようにリップルパルス検出回路38は、スイッチド・キャパシタ・フィルタSCFと、リップルパルス成形回路46とを備えている。スイッチド・キャパシタ・フィルタSCFには、上述したモータ回転信号が入力される。スイッチド・キャパシタ・フィルタSCFは、モータ回転信号にリップル成分と共に重畳するノイズを所定の遮断周波数で除去する。図5に示すように、リップルパルス成形回路46は、ローパスフィルタLPF(高周波アクティブフィルタ)、第1微分回路DC1、増幅器AP、第2微分回路DC2、及び比較器CM等を備えている。
ローパスフィルタLPFは、スイッチド・キャパシタ・フィルタSCFの出力信号に含まれるノイズを除去する。このノイズが除去されたスイッチド・キャパシタ・フィルタSCFの出力信号を第1微分回路DC1で微分して直流成分の減衰を行い、リップル成分のみの信号が得られる。この信号を増幅器APで増幅した後、第2微分回路DC2に通すと、その信号に対して90°位相の遅れた信号が得られる。そして、増幅器APの出力信号と第2微分回路DC2の出力信号を比較器CMで比較することにより、上記電気モータ39〜42の回転に同期したその回転数(回転速度)に応じた周波数のリップルパルスが得られる。このようにして、制御部22は、電気モータ39〜42に電流が通電されているときにはリップルパルスを常時検出する。
また、制御部22が備える現在位置情報記憶部44は、CPUによってなる演算部44aと、記憶部44bとを有する(図3参照)。演算部44aは、リップルパルス検出回路38と接続され、電気モータ39〜42の回転に伴い発生するリップルパルス数を入力してカウントし、4つの電気モータ39〜42の回転軸の回転位置をそれぞれ演算する。これによって電気モータ39〜42の回転に連動する車両用シート3の各可動部材の移動量を導出する。
詳細に説明すると、現在位置情報記憶部44の演算部44aは、各可動部材の移動開始前に現在位置情報記憶部44の記憶部44bに記憶されている移動開始位置、即ち移動前の現在位置C(先回の現在位置Cと称す)を読み出す。そして移動によってカウントしたリップルパルス数を先回の現在位置Cに加減算して移動後の現在位置Cを演算する。これにより4つの電気モータ39〜42の各回転に応じて変化する車両用シート3の各可動部材の位置を現在位置Cによって導出する。なお、上述の移動量の演算は公知技術であるため詳細な説明は省略する。
なお、上記において移動開始位置は、今回車両が始動されたときに現在位置情報記憶部44から読み出された現在位置C(先回の現在位置C)のことをいう。つまり、先回、車両が停止された時に現在位置Cとして現在位置情報記憶部44の記憶部44bに記憶された位置情報をいう。そして、今回、新たに車両が始動された後に、各可動部材が操作スイッチ27の操作によって所定量だけ移動された場合に、各可動部材が停止された任意の位置の情報は、先回の現在位置Cに対し移動したリップルパルスのカウント数だけ加減算(演算)がされる。そして各可動部材が停止された任意の現在位置Cは最新の現在位置Cとされ現在位置情報記憶部44の記憶部44bを構成するバックアップRAMに記憶される。
また、制御部22は、電気モータ39〜42をPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御するための電圧生成部60を有している。PWM制御は、デューティ比を変化させることによって電気モータ39〜42に供給する供給電圧を制御する。これによって電気モータ39〜42に供給する電流を制御して電気モータ39〜42の回転速度、即ち可動部材の移動速度を制御するものである。なおPWM制御は、公知技術であるため詳細な説明は省略する。
電圧生成部60は、このような供給電圧(電流)を、PWM制御信号を用いて生成する。電圧生成部60は、図6に示すような降圧チョッパ回路で構成される。降圧チョッパ回路は、主にMOS−FET(Metal Oxide Semiconductor−Field Effect Transistor)60a、ダイオード60b、コイル60c、コンデンサ60dから構成される。
降圧チョッパ回路の入力段(MOS−FET60aのソース端子)には電源回路24からの電圧が入力される。降圧チョッパ回路の出力段には夫々リレー43を介して電気モータ39〜42が接続される。電源回路24の所定の出力電圧はチョッパ回路が当該出力電圧以下に降圧し、4つの電気モータ39〜42に供給電圧としてそれぞれ供給する。このような供給電圧の電圧値は、制御部22のPWM制御部22aが各電気モータ39〜42の現在位置Cや、各可動部材の作動状態に応じて決定する。このため、MOS−FET60aのゲート端子は制御部22のPWM制御部22aに接続され、PWM制御部22aは、PWM制御に係るPWM制御信号を生成し出力する。
このようなPWM制御信号に基づき、電圧生成部60の出力電圧(供給電圧)は以下の(数1)式のように決定される(ただし、負荷及び損失を無視した場合とする)。
(数1)
Vout=(Ton/T)×Vin
ただし、Vin:入力電圧、Vout:出力電圧、T:1周期の時間、Ton:1周期あたりのオン時間である。
電圧生成部60が時間Tを一定で制御する形態であれば(即ち、所定の周波数帯域で制御する定周波数制御であれば)、PWM制御部22aは、出力電圧を高くする場合にはオン時間が長くなるように制御し、出力電圧を低くする場合にはオン時間が短くなるように制御する。ここで、制御部22は、常に出力電圧を一定に保持するように制御するわけではなく、適宜状況に応じて出力電圧を変更するように制御する。このように、制御部22のPWM制御部22aと電圧生成部60とによって電流制御装置45が構成される(図3、図6参照)。
電流制御装置45は、移動中の各可動部材が操作者の任意の現在位置、または所望位置情報記憶部36に記憶された所望位置Hにそれぞれ精度よく停止できるよう電圧値(電流値)を制御する。そのため、図8の上段に示す電気モータ39〜42の停止制御時のPWM制御電圧特性、及び下段に示すモータ回転数特性に示すように、電気モータの回転軸が停止位置(図8においては所望位置H)に近づくと所定の点であるQ点から電圧値(電流値)を所定の勾配(傾き)で漸減させ低下させる。これにより電気モータ39〜42の回転数、及び回転トルクを漸減させて低下させる。そして電圧値(電流値)が0になる前に電気モータ39〜42の回転軸が図8のS点(=所望位置H)で停止するよう制御する。
つまり、PWM制御のデューティ比を漸減させることによって電気モータ39〜42の回転数を下げて回転トルクを減少させ、やがて回転トルクと、電気モータ39〜42の回転方向とは逆方向に電気モータ39〜42の回転軸に作用するフリクションと、をS点で釣り合わせて電気モータ39〜42の回転を停止させる。
このときのデューティ比を漸減させて得る所定の勾配は、デューティ比を漸減させる制御の開始点であるQ点と、停止させたい所望位置H(または任意の位置)に略一致する位置であるS点と、を結んで形成される勾配をいう。このときS点においては、必ず電流が通電されるよう制御されている。
そして本実施形態においては、所定の勾配の大きさは、デューティ比を漸減させる制御に入る直前の電気モータ39〜42に印加されている電圧の大きさと回転軸の回転速度とを考慮に入れて導出している。つまり、制御部22が電気モータ39〜42の前記電圧と回転速度に基づいて回転軸の慣性力を演算し、該慣性力の影響を考慮に入れた上で勾配を導出している。これにより、精度よく電気モータ39〜42の停止位置を制御している。
具体的には慣性力が大きいときには、回転に関する慣性力が大きい分だけデューティ比の勾配を緩やかにして、慣性力が小さくなった位置で回転が停止するよう制御する。
また慣性力が小さいときには、デューティ比の勾配を急にして、該小さな慣性力に応じた短い時間で電気モータ39〜42の回転が停止するよう制御する。本実施形態では、このような制御を組み込むことにより、より精度の高い所望位置Hへの停止を実現している。
なお、上記において電気モータ39〜42の回転軸の回転速度はリップルパルスの発生周期から導出できる。
また、デューティ比の勾配は上述の形態のように適宜演算して導出するものに限らず、初めから設定しておいてもよい。これによっても相応の効果が得られる。また、デューティ比の所定の勾配は、直線状でなく階段状に減少させてもよい。
さらに、本実施形態においては、電気モータ39〜42が停止する瞬間には、発生するリップルパルスを確実にカウントするために電気モータ39〜42には電流制御装置45によって確実に電圧(電流)が供給されている必要がある。このため電気モータ39〜42の停止位置の変動要因となる電気モータ39〜42の回転軸の回転フリクションのばらつき等について事前に実験等によって調査し、電気モータ39〜42が停止する以前に電気モータ39〜42への電流の供給が停止されることのないように制御することが必要である。
次に本実施形態に係る位置制御装置1の作用について図9に基づいて説明する。説明に当たっては可動部材として前後方向に移動する車両用シート3全体(以降、シート3全体と称する)のみについて説明する。今回の説明においてシート3全体は運転席とする。シート3全体以外の可動部材であるシートバック3b、シートクッション前部3af、及びシートクッション後部3arについてはシート3全体と同様の作動であるので説明を省略する。
まず初めに、既に所望位置Hが所望位置情報記憶部36に記憶されており、そして所望位置Hに位置していたシート3全体を、所望位置Hから前方に移動させる場合について説明する(図9(a)参照)。
このとき、操作者(着座者)は、車両用シート3のシートクッション3a上に着座し、最も運転しやすい場所を探策するためスライドスイッチ28aを押してシート3全体を前進させる。このとき、スライドモータ39(電気モータ)は、PWM制御による所定のデューティ比で駆動され、正転(または逆転)される。
移動開始時においては、所望位置Hと現在位置C(先回の現在位置C)とは一致(所望位置H=現在位置C)しているので現在位置C(先回の現在位置C)は0からのスタートとなる。なお、本実施形態においては、前方に移動する側をプラス側、後方に移動する側をマイナス側として演算する。
シート3全体が前方に向かって移動を開始すると、リップルパルス検出回路38はモータ電流に発生するリップルパルスを検出する。検出されたリップルパルスは現在位置情報記憶部44の演算部44aによって適宜カウントされ現在位置Cが随時演算される。そして操作者が、最適な位置を見つけ、シート3全体を停止するためスライドスイッチ28aの停止操作をすると、略同時に電流制御装置45がPWM制御のデューティ比を漸減させる制御を開始する。
このとき、操作者は停止の意思表示としてスライドスイッチ28aの停止操作を行っている。これにより、例えばデューティ比の勾配を緩やかにし、シート3全体をゆっくり停止させていたのでは、操作者が意図した停止位置と実際に停止した位置に大きな違いが生じ、操作者が違和感をもつ虞がある。
そのため、操作者が停止させようとした任意の位置の近傍にシート3全体を精度よく停止させるため、図9(a)に示すようにシート3全体を移動させる途中においてはモータの回転数を下げシート3全体の移動速度を小さくしシート3全体に慣性力があまりかからないよう制御することが好ましい。
また図9(a)に示すように漸減させるデューティ比の勾配pは、若干、急勾配な特性とすることによって短時間でシート3全体が停止できるよう制御することが好ましい。これらによって電流制御装置45がシート3全体の停止操作を検知した時、シート3全体には大きな慣性力が加わっていないので、デューティ比の勾配を急にして減速制御しても、シート3全体を短時間で停止させることができる。
これにより操作者が停止を意図した位置の近傍でシート3全体を停止させることができ、操作者が違和感を覚えることはない。ただし、上記の場合、シート3全体が急激に停止し操作者がショックを受けることがないよう事前に評価を行い最適なデューティ比の勾配を選定することが好ましい。そして、上述の制御においてはスライドモータ39が停止するまでスライドモータ39には通電がされているので確実にリップルパルスをカウントできる。よってカウントしたリップルパルスに基づきスライドモータ39の停止位置を精度よく把握することができ、延いてはシート3全体の停止位置を精度よく把握することができる。
停止位置のリップルパルスのカウント値+αは、所望位置H(先回の現在位置C)の値0に加算される。これによって操作者によって移動されたシート3全体の現在位置Cは所望位置Hに対して+αの位置にあることが把握でき、+αがバックアップRAMによってなる現在位置情報記憶部44の記憶部44bに現在位置Cとして更新されて記憶される(図9(a)参照)。
また、図9(b)に示すように、先回の現在位置Cが+αの位置にあるシート3全体がスライドスイッチ28bの操作によって、所望位置Hよりもさらに後方でリップルパルスのカウント値が−βの位置まで移動された場合は、現在位置Cは(α−β)となり、記憶部44bに記憶される現在位置Cが(α−β)に更新される。つまり、現在位置Cは所望位置Hから(α−β)だけ離間していることになる。このとき、シート3全体の停止方法は図9(a)と同様である。
次に、図9(c)に示す、先回の現在位置Cが上述した(α−β)の位置にあるときから、所望位置Hにシート3全体を復帰させる場合について説明する(このとき本実施形態においてはシート3全体は前方(プラス側)に向かって移動する)。
操作者はシート3全体を復帰させるために、所望位置情報記憶部36に記憶させる際に適用したメモリ再生スイッチ32、または33のいずれかを押す。これにより移動手段が作動し、シート3全体が所望位置Hに向かって移動を開始する。
現在位置情報記憶部44の演算部44aは、作動開始時からカウントしたリップルパルスを(α−β)に適宜加算し、最新の現在位置Cを随時演算していく。
電流制御装置45は、演算部44aが演算する現在位置Cとスライドモータ39の回転速度とを監視する。そして電流制御装置45は、現在位置Cの値が0になる位置(=所望位置H)でスライドモータ39の回転トルクと、回転フリクションとが釣合って回転が停止するように、スライドモータ39に印加される電圧、及び回転軸の回転速度に応じて演算し導出した勾配dに基づきQ点を演算する。
そして、電流制御装置45は、求めたQ点にスライドモータ39の回転が到達したことを検知すると導出した勾配dに合わせてデューティ比を漸減させる制御を開始する。これにより、その後、スライドモータ39の回転トルクが減少し、やがて回転トルクと電気モータ39〜42のフリクションとが釣り合ってスライドモータ39の回転が所望位置H近傍で停止される。
停止されたとき現在位置情報記憶部44の演算部44aによって演算された現在位置Cの値は略0になっている。ただし、現在位置Cの値が0から例え若干ズレていても、本発明においてはスライドモータ39の回転が停止するまでスライドモータ39には電流が供給され発生されるリップルパルスをカウントできるので、停止位置は精度よく把握できている。これにより、次回からの移動は所望位置Hからのスタートではなく精度よく把握されたズレた位置からのスタートとすることができるので、ズレが累積されることはない。そして更新された現在位置CがバックアップRAMによってなる現在位置情報記憶部44の記憶部44bに記憶される。
なお、図9(c)において、シート3全体の停止目標位置は予め記憶している所望位置Hであり、操作者の突然の操作によって急遽決定される位置ではない。そのため移動手段はシート3全体を所望位置Hの近傍までモータ回転数を高くすることによって高速で移動させ、その後、移動速度を低下させ、後述するシート3全体の停止処理を行なうよう制御することが好ましい。これによってシート3全体の移動に時間がかかり操作者にストレスがかかることを回避できる。ただし、シート3全体を所望位置Hまでどのような速度で移動させるのかは、実施者によって任意に決定すればよく、ここに示した方法に限らない。
また、本実施形態においては前方に移動したときリップルパルスのカウント数を加算し、後方に移動したとき減算した。しかしこれに限らず加算と減算を逆にし、前方に移動したときに減算するようにしてもよい。
上述の説明から明らかな様に、第1の実施形態によれば、電気モータ39〜42の供給電流はPWM制御によって電圧制御される。そして電気モータ39〜42によって駆動される各可動部材を停止させるときには、まずPWM制御のデューティ比を制御することによって電圧値(電流値)を低下させる。これにより電気モータ39〜42の回転数を低下させ、回転駆動力を減少させていく。このように各可動部材を停止させたい任意の現在位置C、または所望位置Hに近づけ、電気モータの回転フリクションと釣り合わせることによって任意の現在位置C、または所望位置H近傍で停止できるようデューティ比を制御するので各可動部材が停止するまで電気モータ39〜42にはPWM制御による通電がされ続ける。これによりリップルパルスは各可動部材の停止の瞬間まで発生し続けカウントされるので、各可動部材の停止位置が精度よく把握できる。また、電気モータ39〜42の回転を制御するPWM制御によって各可動部材の停止制御も行うため、停止制御のためのシステムの追加が必要なく低コストに対応できる。
また、第1の実施形態によれば、位置制御を精度よく、かつ低コストで行なうことができる車両用シート用の位置制御装置1が車両用シートにおける前後方向にスライドする車両用シート3、上下に昇降するシートクッションの前後部3af、3ar、及び前後方向に傾動するシートバック3bの移動を制御する。このように、多くの移動部を有する車両用シートの各部の駆動に回転センサを使用しない位置制御装置1を適用し制御するので、効果的に低コストで位置制御精度のよい車両用シートを構築できる。
次に、本発明に係る位置制御装置の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態の位置制御装置1に対しブレーキ装置103を備えるものである。
つまり第1の実施形態においては電気モータ39〜42の回転を停止させるために、まず電気モータ39〜42を制御するPWM制御のデューティ比を漸減し電気モータ39〜42への電流を低下させることによって回転数を低下させ、回転力を減少させた。その後さらにデューティ比を小さくし電気モータ39〜42の回転フリクションと回転力とを釣り合わせることによって各可動部材が任意の現在位置C、または所望位置H近傍で停止できるよう制御した。
しかし、第2の実施形態においては、電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aの回転を停止させるために、電気モータ39〜42に電流が通電され回転力が残存する状態において回転軸39a〜42aに直接外力を付与し回転を強制的に停止させるものである。以上の点のみが第1の実施形態と異なり、よって主に変更点についてのみ説明し、第1の実施形態と同様部分については説明を省略する。また、同様の部品については同様の符号を付して説明する。
なお、第2の実施形態においては、電気モータ39〜42を回転制御する方法として第1の実施形態と同様にPWM制御を適用して説明するが、電気モータ39〜42を回転制御する方法としては、PWM制御でなくともよい。例えば、一般的なパルス制御法、抵抗制御法、またはスイッチング制御法等でもよく、電気モータ39〜42を回転制御できればどのような制御方法でもよい。
図10に示す第2の実施形態に係る位置制御装置101は、第1の実施形態に係る位置制御装置1に対し、ブレーキ装置103と、ブレーキ装置103の作動を制御する制御部22に設けられた停止制御部22bとを備えている。
図11に示すブレーキ装置103は、電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aに外力を付与することによって電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aを停止させる。
ブレーキ装置103は、押圧部104と、油圧ポンプ105と、を備えている。押圧部104は、対向する2枚の摩擦板104a、104aを備え、摩擦板104a、104aが電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aを油圧力によって回転軸39a〜42aと直交する方向両側から挟み込んで押圧する。そして押圧した摩擦板104a、104aが回転軸39a〜42aの回転を摩擦力によって停止させる。電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aの回転が停止したのちには、電気モータ39〜42への通電が停止される。
油圧ポンプ105は、シリンダ105bと、シリンダ105bに嵌合されるピストン105aと、ピストン105aを往復駆動させる電磁モータ107と、からなる。
シリンダ105b内にはリザーバタンク108からリザーバタンク108に貯留されたオイルOが供給され充填されている。電磁モータ107の回転は、歯車の組み合わせによってピストン105aの軸方向の作動に変換されてピストン105aが往復動される。これによってピストン105aはシリンダ105b内でオイルを押して押圧部104に油圧を供給し押圧部104の摩擦板104a、104aを作動させる。電磁モータ107の作動は制御部22の停止制御部22bによって制御されている。
なお、ブレーキ装置は、上記の形態に限らず停止制御部22bからの停止指令に基づき所定の大きさの外力を電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aに付与でき回転軸39a〜42aの回転を停止させることができればどのようなものでもよい。例えば、電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aの回りに電磁石を配置し、電磁力によって回転を停止させてもよい。
また、ブレーキ装置103は電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aを停止させるのではなく、各可動部材に外力を付与することによって各可動部材を停止させ、延いては電気モータ39〜42を停止させる様に構成してもよい。これによっても同様の効果が得られる。
次に、第2の実施形態の位置制御装置101の作用について図12に基づいて説明する。まず初めに、第1の実施形態と同様に既に所望位置Hが所望位置情報記憶部36に記憶されており、そして所望位置Hに位置していたシート3全体を、所望位置Hから前方に移動させる場合について説明する(図12(a)参照)。
図12(a)に示すように、操作者がスライドスイッチ28aを押し、シート3全体が前方に向かって移動を開始すると、第1の実施形態と同様にリップルパルス検出回路38はモータ電流に発生するリップルパルスを検出し現在位置Cが随時演算される。そして操作者が、スライドスイッチ28aの停止操作をすると、図11に示すブレーキ装置103の電磁モータ107が停止制御部22bの指令によって作動され押圧部104a、104aがスライドモータ39の回転軸39aを両側から押圧する。そしてブレーキ装置103は所定の外力(押圧力)をスライドモータ39の回転軸39aに付与して短時間で回転を停止させる。これによりシート3全体は、操作者が停止を意図した位置の近傍で停止され操作者が停止位置に対して違和感を覚えることはない。
そして、このときスライドモータ39が停止するまでスライドモータ39には電流が供給され続けるよう制御されているので停止するまで確実にリップルパルスをカウントできる。これにより、スライドモータ39の停止位置を精度よく把握することができ、延いては可動部材であるシート3全体の停止位置を精度よく把握することができる。
そして、停止位置のリップルパルスのカウント値+αが所望位置Hの値0に加算される。これによって操作者によって移動されたシート3全体は所望位置Hに対して+αの位置にあることがわかり、+αが制御部22のバックアップRAMによってなる現在位置情報記憶部44の記憶部44aに現在位置Cとして記憶される。
次に+αの位置にあるシート3全体が所望位置Hに復帰する場合について説明する(図12(b)参照)。シート3全体を復帰させるために、所望位置情報記憶部36に記憶させる際に適用したメモリ再生スイッチ32、または33のいずれかを押すと移動手段が作動し、シート3全体が所望位置Hに向かって移動を開始する。
現在位置情報記憶部44の演算部44aは、作動開始時の先回の現在位置C(+α)からリップルパルスを減算し、現在位置Cを演算していく。そして、制御部22の停止制御部22bは現在位置Cを監視し、監視する現在位置Cが0(所望位置H)に接近するとブレーキ装置103を作動させ、スライドモータ39の回転軸39aに制動をかけ始める。そして現在位置Cの値が0になる位置でスライドモータ39の回転が停止するようブレーキ装置103によって回転軸39aに大きな制動力をかけ、所望位置Hでスライドモータ39が確実に停止するよう制御する。
このとき、スライドモータ39が停止した位置では現在位置情報記憶部44の演算部44aが演算した現在位置Cの値は略0になっている。しかし、例え、現在位置Cの値が0からズレていても、本発明においてはスライドモータ39の回転が停止するまでスライドモータ39には電流が供給されており、発生されるリップルパルスをカウントできるので、停止位置は精度よく把握できている。これにより、第1の実施形態と同様に次回からの移動は所望位置Hからのスタートではなく精度よく把握されたズレた位置からのスタートとすることができるので、ズレが累積されることはない。
なお、第2の実施形態においては、ブレーキ装置103によってスライドモータ39に代表される電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aに外力を付与して制動力とした。しかし、この形態に限らず、外力を各可動部材に直接付与して各可動部材を停止させ,延いては電気モータ39〜42を停止させてもよい。これによっても同様の効果が得られる。
また、本実施形態においては、電流制御装置45によってモータへの供給電流を低下させた後に、ブレーキ装置103による制動力(ブレーキ)を電気モータ39〜42の回転軸39a〜42aに付与してもよい。これにより、必要なブレーキ力を低減でき電気モータ39〜42はより確実に停止できる。
上述の説明から明らかなように、第2の実施形態によれば、電気モータ39〜42の回転軸、及び可動部材(車両用シート3全体、シートバック3b、シートクッション前部3af、及びシートクッション後部3ar)の少なくとも一方に制動力となる外力を付与し、停止させたい任意の現在位置C、または所望位置Hに各可動部材が精度よく停止できるよう外力の大きさを制御して停止させた。このため各可動部材が停止するまで電気モータ39〜42には通電がされている。これによりリップルパルスは各可動部材の停止の瞬間まで確実に発生し続け、カウントされるので、各可動部材の停止位置が精度よく把握でき、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
また、電気モータ39〜42の回転軸39a〜42a、及び各可動部材の少なくとも一方に外力を付与して、停止させたい各可動部材が任意の現在位置C、または所望位置Hに到達した瞬間に停止させることができるので、さらに停止位置の精度を向上させることができる。
さらに、本発明はメモリシート以外にも、車両用パワーウィンド、サンルーフ等の開閉体等、また車両用以外にもモータで位置決め駆動される可動体全てに適用できる。