JP2012140674A - 冷間鍛造性に優れた鋼材、及びその製造方法 - Google Patents

冷間鍛造性に優れた鋼材、及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は変形抵抗の低減と共に変形能の向上を図り、優れた冷間鍛造性を発揮できる鋼材、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の鋼材は、C:0.15〜0.6%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.001〜0.05%、Cr:0.01〜0.5%、Al:0.01〜0.1%、N:0.01%以下(0%を含まない)を含有し、残部は鉄、及び不可避的不純物からなると共に、鋼の金属組織が、セメンタイトとフェライトを有し、全組織に対するセメンタイトとフェライトの合計面積率は95面積%以上であると共に、前記セメンタイトの90%以上のアスペクト比が3以下であって、且つ前記セメンタイトの平均重心間距離が1.5μm以上であり、更に前記フェライトの平均結晶粒径が5〜20μmであること。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車用部品、建設機械用部品等の各種部品の製造に用いられる冷間鍛造用鋼材に関し、特に球状化焼鈍後の変形抵抗が低く冷間鍛造性に優れた特性を有する鋼材、およびその製造方法に関するものである。
鋼材の冷間鍛造は、生産性が高いことから幅広い分野で利用されている。例えば自動車用部品、建設機械用部品等の各種部品を製造するにあたっては、炭素鋼、合金鋼などの熱間圧延材に冷間鍛造性を付与する目的で球状化焼鈍処理を施してから、冷間鍛造を行い、その後切削加工などを施すことによって所定の形状に成形した後、焼入れ焼戻し処理を行って最終的な強度調整が行われている。
近年は部品形状が複雑化・大型化する傾向にあり、それに伴って冷間鍛造される鋼材は、局部的に激しい変形を受けるために、変形能が低いと材料割れによる不良が発生しやすく、また変形抵抗が高いと工具ダイスや金型に過度な負荷がかかって破損するなど工具寿命が短くなるという問題が生じる。こうしたことから、冷間鍛造用鋼には、変形抵抗の低減と変形能の向上に優れた特性(冷間鍛造性)が求められている。
球状化焼鈍処理によって鋼材の冷間鍛造性向上を図る技術として例えば特許文献1には、フェライト粒径を15μm以下に微細化すると共に、球状セメンタイトの個数密度を増加(1mm2当りの球状セメンタイト個数=1.0×106×C含有量(%)個以上)させることによって、粗大なセメンタイトに起因する成形割れを低減して冷間加工性の向上を図る技術が提案されている。しかしながらこの技術では、球状セメンタイトの個数密度を増加させているために、セメンタイトの分散強化によって変形抵抗の上昇を招くことから、強度の軟質化の観点では不十分である。
また特許文献2には、B添加鋼(B:0.0003〜0.007%)を用いて、フェライトと球状炭化物からなる金属組織とすると共に、フェライトの結晶粒度を8以上、球状炭化物の個数を抑える(1mm2当りの球状炭化物の個数=1.5×106個×C含有量(%)個以下)ことによって、軟質化を図る技術が提案されている。しかしながらこの技術で対象となる鋼材はB添加鋼であって、通常のJIS規定の成分組成とは異なっているため適用範囲が限定されており、しかも製造条件も低温圧延が必要となるため圧延機への負荷が増大するという問題がある。またこの特許文献2の金属組織はラメラーパーライトを多く含むが、ラメラーパーライトに起因して変形抵抗上昇、変形能低下という問題が生じる。
特開2009−275250号公報 特開2001−11575号公報
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、変形抵抗の低減と共に変形能の向上を図り、優れた冷間鍛造性を発揮できる鋼材、およびその製造方法を提供することにある。
上記目的を達成し得た本発明は、C:0.15〜0.6%(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.001〜0.05%、Cr:0.01〜0.5%、Al:0.01〜0.1%、N:0.01%以下(0%を含まない)を含有し、残部は鉄、及び不可避的不純物からなると共に、鋼の金属組織が、セメンタイトとフェライトを有し、全組織に対するセメンタイトとフェライトの合計面積率は95面積%以上であると共に、前記セメンタイトの90%以上のアスペクト比が3以下であって、且つ前記セメンタイトの平均重心間距離が1.5μm以上であり、更に前記フェライトの平均結晶粒径が5〜20μmであることに要旨を有する冷間鍛造性に優れた鋼材である。
更に他の元素として、Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)、およびMo:0.25%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有することも好ましい実施態様である。
また更に他の元素として、Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、およびV:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有することも好ましい実施態様である。
更に他の元素として、Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)、およびREM:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有することも好ましい実施態様である。
また本発明は、上記いずれかに記載の成分組成を満足する鋼を、熱間加工処理した後、室温まで冷却し、その後、A1点〜A1点+50℃の温度域に昇温して、昇温後に前記A1点〜A1点+50℃の温度域で0〜1hr保持してから、前記A1点〜A1点+50℃の温度域からA1点−100℃〜A1点−30℃までの温度域を10〜200℃/hrの平均冷却速度で冷却する焼鈍処理を2回以上行った後、A1点〜A1点+30℃の温度域に昇温して前記A1点〜A1点+30℃の温度域で保持してから冷却するにあたり、昇温の際にA1点に達してからA1点〜A1点+30℃の温度域に保持した後に冷却する際、A1点に達するまでのA1点〜A1点+30℃の温度域滞在時間を10分 〜2時間とし、前記A1点〜A1点+30℃の温度域からのA1点−100℃〜A1点−20℃までの冷却温度域を10〜100℃/hrの平均冷却速度で冷却した後、当該冷却温度域で10分〜5時間保持してから冷却することに要旨を有する冷間鍛造性に優れた鋼材の製造方法である。
本発明によれば、鋼の成分組成を規定すると共に、鋼の金属組織の割合やセメンタイトのサイズや分散状態、フェライト結晶粒の大きさ等を適切に制御することによって、冷間鍛造性(変形抵抗と変形能)に優れた鋼材を提供できる。即ち、冷間鍛造性に優れた特性を有する本発明の鋼材は、変形抵抗が低減されているため、金型などの塑性加工用治工具の摩耗や破壊を抑制でき、また変形能が向上されているため、圧造加工時の割れの発生も抑制できる。本発明の鋼材は冷間鍛造用鋼線や棒材に好適である。
本発明の球状化熱処理パターン(ヒートパターン)の概略説明図である。 実施例における各鋼の変形抵抗と炭素当量との関係図である。
本発明者らは鋼材の冷間鍛造性の改善を図るために、様々な角度から検討した。まず、鋼材の成分組成については、上記したようにB添加鋼が提案されているが、Bを添加すると焼入れ性が高くなって球状化熱処理を施すと、層状パーライトなど硬度の高い組織が形成されて変形抵抗が上昇してしまい冷間鍛造性を十分に向上させることが難しいことから、本発明ではBを添加しない成分組成を基本とした。
また鋼材の金属組織を適切に制御することが冷間鍛造性向上に有効であるとの考えに基づいて検討を重ねた。セメンタイトとフェライトの混合組織とすることが冷間鍛造性向上に有効であるが、特にフェライト粒径やセメンタイトのアスペクト比等も最適化することが冷間鍛造性を一層向上させる上で必要であることがわかった。金属組織に層状パーライトやベイナイト、マルテンサイトの割合が多くなると、鋼材の強度が上昇することがあることから、これら組織の割合を低くして鋼材の金属組織をセメンタイトとフェライトの混合組織とすることが冷間鍛造性を向上させるためには有効である。しかしセメンタイトとフェライトの混合組織とした場合であっても、セメンタイトの球状化が不十分であると、鋼材の強度を十分に低減できず、更にセメンタイトの球状化が図れたとしてもセメンタイトの分散状態によってはかえって析出強化が生じてしまうことから、セメンタイトの球状化の度合いや隣接するセメンタイトの距離を規定する必要がある。またフェライト結晶粒の大きさも冷間鍛造性に影響を及ぼし、結晶粒の大きさによってはかえって強度が上昇してしまうことから、フェライト結晶粒径のサイズを特定の範囲とする必要があることが分かった。さらに適切に上記金属組織を制御するには複数回加熱処理を行うことが有効であることも見出した。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであって、フェライト、及びセメンタイトの面積率を適切に制御する点、セメンタイトの結晶粒のアスペクト比と隣接するセメンタイトの粒子間距離(平均重心間距離)を特定の範囲に制御する点、フェライトの平均結晶粒径を特定の範囲に制御する点、及び鋼材の化学成分組成を適切に制御する点に特徴を有している。またこのような鋼材を得るための本発明の製法は、熱間圧延後の圧延材に複数回の熱処理を加えると共に、熱処理時の加熱温度、冷却速度等を適切に制御する点に特徴を有している。以下、本発明について具体的に説明する。
まず、鋼の金属組織について説明する。
金属組織:セメンタイトとフェライトを有すること
上記したように、セメンタイトとフェライトは鋼の変形抵抗を低減させて冷間鍛造性向上に寄与する金属組織である。もっとも上記したように単に球状化したセメンタイトとフェライトを含む金属組織とするだけでは、所望の軟質化を図ることができないことから、以下で詳述する様に、この金属組織の面積率、並びにセメンタイトのアスペクト比、セメンタイトの平均重心間距離、及びフェライト結晶粒の平均粒径等も満足する必要がある。
セメンタイトとフェライトの合計面積率:全組織に対して95面積%以上
本発明の鋼の冷間鍛造性向上効果は、金属組織をセメンタイトとフェライトの混合組織とすることによって発現するものである。このような効果を得るためには全組織に対するセメンタイトとフェライトの合計面積率は95面積%以上、好ましくは97面積%以上、より好ましくは99面積%以上である。なお、セメンタイトとフェライト以外の金属組織には、例えば製造過程で生成し得るマルテンサイトやベイナイトなどが含まれるが、これら組織の面積率が高くなると強度が高くなって冷間鍛造性が劣化することがあるため、全く含まれていなくてもよい。したがって全組織に対するセメンタイトとフェライトの合計面積率は、更に好ましくは100面積%である。
なお、セメンタイトとフェライトの比率は特に限定されないが、おおむねセメンタイト:フェライト=2〜20:98〜80に制御することが好ましい。
セメンタイトの90%以上のアスペクト比:3以下
セメンタイトは、アスペクト比(長径/短径)が3以下である必要がある。このアスペクト比が3よりも大きいと、強度を十分低減することが難しく、例えば界面で亀裂が発生して冷間鍛造時に割れが発生し易くなる。更に高ひずみ後の硬度上昇が顕著になり、金型などの塑性加工用治工具の寿命が低下する。アスペクト比は小さいほど良く、好ましいセメンタイトのアスペクト比は2.5以下、より好ましく2.0以下である。
また全セメンタイト中に占めるアスペクト比が3以下のセメンタイトを多くすることによって、鋼材の硬さの低減が図れると共に、粗大なセメンタイト(アスペクト比3超)に起因する局部的な割れの発生を抑制できるので、冷間鍛造性が向上する。一方、アスペクト比が3よりも大きいセメンタイトが残存している場合は鋼材の軟質化、延性向上が不十分となる。こうした観点から、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上のセメンタイトの大きさが、アスペクト比で3以下、好ましくは2.5以下とした。アスペクト比は個々のセメンタイトについて長径を求め、その長径の方向に直角な方向の径を短径とした場合における、長径/短径の比である。
なお、アスペクト比が3以下のセメンタイトであっても、極端に粗大なセメンタイトが存在すると冷間鍛造性を悪化させることがあるため、平均粒径が好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは3.0μm以下、より好ましくは2.0μm以下であることが望ましい。セメンタイトの平均粒径は、画像解析にて個々のセメンタイトの面積を求め、それらの面積を有する真円の直径値の平均値として求められる。
セメンタイトの平均重心間距離:1.5μm以上
上記したようにセメンタイトのアスペクト比を小さくすることは、冷間鍛造性向上に有効であるが、隣接するセメンタイト間の距離が近すぎると、鋼材を十分に軟質化できない。したがって隣接するセメンタイトの平均重心間距離を1.5μm以上とする。好ましくは1.7μm以上、より好ましくは1.9μm以上とするのがよい。このように適切に平均重心間距離を確保して隣接するセメンタイト粒同士を互いに独立させておくことで、冷間鍛造性が改善される。一方、セメンタイトの平均重心間距離が離れすぎていても効果が飽和するため、好ましい上限は10μm以下、より好ましく8μm以下である。
なお、平均重心間距離は画像解析において(1)接続する線は他の画像上を通らない、(2)接続する線が交差する場合は短い方の線を残すという制約の下で隣接する画像(セメンタイト粒)の重心を直線で結びその線分の長さを測定し、その平均した値である。この際、測定対象となるセメンタイトは、金属組織に含まれる全セメンタイトのうち、最短距離で隣接するセメンタイト間の距離であり、測定対象はアスペクト比が3以下のセメンタイトに限定されない。
フェライトの平均結晶粒径:5〜20μm
フェライトの平均結晶粒径が大きすぎると、軟質化が図れず、変形能が低下するため十分な冷間鍛造性を確保できない。したがってフェライトの平均結晶粒径は20μm以下、より好ましく18μm以下、更に好ましくは16μm以下である。一方、フェライトの平均結晶粒径が微細化し過ぎるとかえって強度が高くなる可能性があること、また、5μm未満の粒径とすることは製造条件的にも難しいことから、本発明においては5μm以上とした。好ましくは7μm以上、より好ましくは9μm以上とする。
冷間鍛造性に優れた特性を有する本発明の鋼は、上記鋼の金属組織を満足するだけでなく、鋼の化学成分組成も満足することが必要である。
C:0.15〜0.6%
Cは、冷間鍛造後の製品強度を確保するために必要な元素であり、0.15%以上含有させることによって、部品として必要な強度を確保できる。Cは、好ましくは0.20%以上、より好ましく0.25%以上である。しかしC量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて冷間鍛造性が劣化する。したがってC量は0.6%以下とする。C量は、好ましくは0.55%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
Si:0.05〜0.6%
Siは、脱酸元素として作用し、また固溶体硬化によって製品強度を確保するために必要な元素である。Siが少なすぎると、脱酸が不十分となり、溶製時にガス欠陥が発生しやすくなる。したがってSiは、0.05%以上、好ましくは0.06%以上、より好ましくは0.07%以上とする。しかしSi量が過剰になると、鋼の強度が過度に高くなり冷間鍛造性が劣化する。したがってSiは、0.6%以下、好ましくは0.55%以下、より好ましくは0.50%以下とする。
Mn:0.1〜1.5%
Mnは、焼入れ性を向上させて製品強度を向上させるのに必要な元素であり、0.1%以上、好ましくは0.12%以上、より好ましくは0.15%以上とする。しかしMnが過剰になると、焼入れ性が向上し過ぎて過剰にベイナイトが生成したり、マルテンサイトが生成し易くなり、強度が上昇して冷間鍛造性が劣化する。したがってMnは、1.5%以下、好ましくは1.2%以下、より好ましくは1.0%以下とする。
P:0.05%以下(0%を含まない)
Pは、鋼に不可避的に含まれる不純物元素であり、P量が過剰になると粒界偏析を起こし、延性劣化原因となるので、できるだけ低減する必要がある。したがってPは、0.05%以下、好ましくは0.045%以下、より好ましくは0.040%以下とする。なお、P量を0%とすることは工業的に困難である。
S:0.001〜0.05%
Sは、鋼に不可避的に含まれる不純物であるが、鋼中のMnと結合してMnS介在物を形成し、鋼の被削性を向上させるのに有効に作用する元素であり、0.001%以上、好ましくは0.003%以上、より好ましくは0.005%以上とする。しかしS量が過剰になると、MnS系介在物量が増大し、延性劣化原因となるので、出来るだけ低減する必要がある。したがってSは、0.05%以下、好ましくは0.045%以下、より好ましくは0.040%以下とする。
Cr:0.01〜0.5%
Crは、鋼の焼入れ性を高め、製品強度を向上させるために有効に作用する元素である。こうした効果を発揮させるには、Crは0.01%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上である。しかし、Cr量が過剰になると、強度が高くなり過ぎて冷間鍛造性を劣化させることから、Cr量は0.5%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下である。
Al:0.01〜0.1%
Alは、脱酸剤として有用であると共に、AlはNと結合してAlNを析出し、加工時に結晶粒が異常成長して強度が低下するのを防止する元素である。また、Alは、脱酸剤としても作用する。こうした効果を発揮させるためには、Alは、0.01%以上、好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上とする。しかしAlが過剰になると、Al23が過剰に生成して冷間鍛造性を劣化させる。したがってAlは0.1%以下、好ましくは0.090%以下、より好ましくは0.080%以下とする。
N:0.01%以下(0%を含まない)
Nは、鋼に不可避的に含まれる不純物であるが、鋼中に固溶Nが含まれていると、ひずみ時効による硬度上昇、延性低下を招き、冷間鍛造性が劣化する。したがってNは、0.01%以下、好ましくは0.009%以下、より好ましくは0.008%以下とする。
本発明に係る鋼の成分組成は上記の通りであり、残部は、鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、B、As、Sb、Snなど)の混入が許容される。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の元素として、Cu、Ni、Mo、Ti、Nb、V、Mg、Ca、Li、及びREMなどを積極的に含有させてもよい。
Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)、及びMo:0.25%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素
Cu、Ni、及びMoは、焼入れ性を向上させると共に、製品強度を高めるのに有効に作用する元素である。こうした作用は、これらの元素の含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるには、Cu、Ni、及びMoは夫々好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.08%以上である、更に好ましくは0.10%以上である。しかし過剰に含有させると過冷組織が過剰に生成し、強度が高くなりすぎて冷間鍛造性が低下する。したがってCu、Ni、及びMoは夫々0.25%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.22%以下、更に好ましくは0.20%以下である。なお、Cu、Ni、及びMoは、夫々、単独で含有させてもよいし、2種以上を含有させてもよく、また2種以上を含有させる場合の含有量は夫々上記範囲で任意の含有量でよい。
Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、及びV:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素
Ti、Nb、Vは、Nと結合して化合物(窒化物)を形成し、鋼中の固溶N量を低減させて、変形抵抗低減効果が得られる元素である。こうした効果を発揮させるためには、Ti、Nb、Vは夫々、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.06%以上、更に好ましくは0.08%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、窒化物量が増加し、変形抵抗が上昇して冷間鍛造性が劣化するため、Ti、Nbは夫々好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.18%以下、更に好ましくは、0.15%以下であり、Vは好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.3%以下、更に好ましくは1.0%以下である。なお、Ti、Nb、およびVは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。
Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)、およびREM:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素
Mg、Ca、Li、及びREMは、MnS等の硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼の変形能を向上させるのに有効な元素である。こうした作用はその含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるためには、Mg、Ca、Li及びREMは夫々好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0005%以上である。しかし過剰に含有させてもその効果は飽和し、含有量に見合う効果が期待できないので、Mg及びLiは夫々好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.018%以下、更に好ましくは0.015%以下、CaとREMは夫々好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.045%以下、更に好ましくは0.040%以下である。なお、Ca、Mg、Li、およびREMは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。
なお、上記したように本願発明ではBを添加しないことを前提とするが、Bは不可避的に不純物として混入する場合もある。B含有量が多くなると冷間鍛造性を悪化させることから、Bは出来るだけ少ない方がよく、不可避的に混入するような場合があったとしても、その上限は0.0003%未満とする。Bは好ましくは0.0002%以下、より好ましくは0.0001%以下とする。
上記金属組織を有する鋼材を得るには、熱間圧延後、複数回の熱処理を行うと共に、熱処理条件を適切に制御することが有効である。
上記本発明の鋼材は、上記成分組成を満足する鋼を、熱間加工処理した後、室温まで一旦冷却してから、熱処理を行う。具体的な熱処理条件は、室温からA1点〜A1点+50℃の温度域に昇温して、昇温後に前記A1点〜A1点+50℃の温度域で0〜1hr保持してから、前記A1点〜A1点+50℃の温度域からA1点−100℃〜A1点−30℃までの温度域を10〜200℃/hrの平均冷却速度で冷却する焼鈍処理を2回以上行った後、A1点〜A1点+30℃の温度域に昇温して前記A1点〜A1点+30℃の温度域で保持してから冷却するにあたり、昇温の際にA1点に達してからA1点〜A1点+30℃の温度域に保持した後に冷却する際、A1点に達するまでのA1点〜A1点+30℃の温度域滞在時間を10分〜2時間とし、前記A1点〜A1点+30℃の温度域からのA1点−100℃〜A1点−20℃までの冷却温度域を10〜100℃/hrの平均冷却速度で冷却した後、当該冷却温度域で10分〜5時間保持してから更に冷却することによって製造できる。
特に上記金属組織を満足する鋼とするには、熱間加工後の熱処理条件を適切に制御することが望ましい。以下、本発明の熱処理条件を図1を参照にしながら説明するが、本発明の熱処理パターンは図1に限定されず、適宜変更することができる。例えば図1では1回目の焼鈍処理をA1点〜A1点+30℃の範囲で行い、2回目の焼鈍処理をA1点〜A1点+50℃の範囲で行っているが、これに限定されず、本発明の範囲内(A1点〜A1点+50℃)で変化させることができる。また図1では1回目の焼鈍後、直ちに2回目の焼鈍を行っているが、これに限定されず、1回目と2回目の焼鈍間隔は例えば0〜2時間の範囲内で制御することもできる。
本発明で規定する熱処理は、上記成分組成を満足する鋼を熱間加工処理した後に施すものであるが、熱間加工処理条件は特に限定されず、所望の温度(例えば800〜1300℃程度)で加工を施せばよい。
熱間加工後の鋼材(ここで鋼材の温度は室温である)をA1点〜A1点+50℃の温度域に加熱する(図1中、1)。鋼材を上記温度域に加熱(昇温速度は例えば30℃/hr〜100℃/hr)することによって、層状セメンタイトを溶解させて分断しつつ、該セメンタイトを部分的に残存させることができる。この残存セメンタイトが核となって球状化したセメンタイトを成長させることができ、またアスペクト比が大きいセメンタイト(層状セメンタイト、棒状パーライト)の析出を防ぎつつ粒子間距離(平均重心間距離)を大きくすることができる。加熱温度がA1点よりも低いと層状セメンタイトを十分に溶解・分断することができないため、アスペクト比の大きいセメンタイトが残存して硬度が高くなってしまう。一方、A1点+50℃を超えて加熱すると、セメンタイトが全て溶けてしまうため、球状セメンタイトの核となるセメンタイトがなく、所望のアスペクト比の球状セメンタイトが得られなくなると共に、続く冷却によって層状セメンタイトが析出して強度が高くなってしまう。またフェライトの結晶粒径も大きくなり過ぎる。好ましい加熱温度はA1点+5℃以上、より好ましくはA1点+10℃以上であって、好ましくはA1点+40℃以下、より好ましくはA1点+30℃以下である。
続いて加熱された昇温後の鋼材を該温度域(A1点〜A1点+50℃)で0分〜1hr保持する(図1中、2)。ここで保持するとは、当該温度域において、略同一の温度を維持する時間をいい、昇温後から冷却開始までの期間をいう(図1中、H)。当該温度域で鋼材を保持することによって、セメンタイトの溶解・分断を促進できる。保持時間が長すぎるとセメンタイトの溶解が進みすぎてしまい、アスペクト比3以下の球状セメンタイトが得られなくなることがある。したがって保持時間は1hr以下、好ましくは50分以下、より好ましく40分以下とする。保持時間の下限は特に限定されず、上記加熱によって層状のセメンタイトが十分に溶解・分断して、球状セメンタイトの核となる程度に残存していれば一定時間保持することなく、昇温後、保持することなく直ちに後記する冷却を行ってもよい。したがって保持時間の下限は0分であるが、好ましくは0.5分以上、より好ましく1分以上である。なお、鋼材をA1点+30℃〜A1点+50℃の温度範囲に加熱する場合は、セメンタイトが溶解し易い温度域であるため、保持時間が長いとセメンタイトが溶解し過ぎてしまい、アスペクト比3以下のセメンタイトを得ることが難しくなることから、保持時間は20分以下、より好ましくは15分以下とすることが望ましい。
次に上記温度域(A1点〜A1点+50℃)から、A1点−100℃〜A1点−30℃までの温度域を10〜200℃/hrの平均冷却速度で冷却する(図1中、3)。上記温度域からA1点−100℃〜A1点−30℃の温度域まで冷却することによって上記加熱によって残留したセメンタイトへ固溶Cを凝集させて、球状化したセメンタイトを成長させることができる。この際、平均冷却速度が速すぎると、セメンタイトが成長するよりも、むしろ層状セメンタイトが再析出するため望ましくない。したがって平均冷却速度を200℃/hr以下とする。好ましい平均冷却速度は100℃/hr以下、より好ましい平均冷却速度は80℃/hr以下である。一方、平均冷却速度が遅すぎるとフェライト粒径が粗大化すると共に、処理に時間がかかりすぎるため望ましくない。したがって平均冷却速度は10℃/hr以上、好ましくは15℃/hr以上、より好ましくは20℃/hr以上である。
本発明では上記条件での熱処理を2回以上行う必要がある(図1中、1、2、3と、1’、2’、3’で2回を表す)。1回だけの熱処理では層状セメンタイトを十分に溶解・分断できず、また得られる球状セメンタイトのアスペクト比は3を超えて大きいままであるため、強度低下が不十分である。また隣接する球状セメンタイト間の平均重心間距離も十分に広げることができず、更にフェライト粒径も大きいままであるため、所望の冷間鍛造性が得られない。上記熱処理を複数回行うと、加熱によってセメンタイトが溶けて徐々にサイズダウンしていき、特に微細化された球状セメンタイトは加熱の度に溶けて消失するため、平均重心間距離を大きくすることができる。また適切な冷却速度で冷却することによって、固溶Cの凝集によって球状セメンタイトが成長するため、所望の比率のアスペクト比が得られるようになる。更にフェライト径も所望の範囲の大きさとすることができる。なお、複数回行う熱処理は、本発明で規定する範囲内であれば夫々異なる条件で熱処理を行ってもよい。
上記熱処理の繰り返し回数は特に限定されず、目的の金属組織を得ることができるように行えばよい。ただし、球状化熱処理材の軟質化を更に進めるには、繰り返し回数は好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上である。一方、繰り返し回数が多すぎると効果が飽和することがあるため、好ましくは80回以下、より好ましくは60回以下である。
上記熱処理を複数回行った後(最終熱処理以外の上記複数回の熱処理をまとめて前段熱処理ということがある)、最終熱処理としてA1点〜A1点+30℃の温度域に加熱する。最終加熱処理は上記前段熱処理と同様にセメンタイトのアスペクト比や平均重心間距離、フェライトの結晶粒径等の金属組織制御を目的として行うものである。すなわち、これら金属組織は上記前段熱処理によって既に望ましい状態になっているものの、規定範囲を外れるセメンタイトのアスペクト比や平均重心間距離、フェライトの平均結晶粒径等が存在するため、これらを本発明で規定する所定の範囲に制御する目的で、熱処理条件をより厳密に制御して最終熱処理を行う。
まず上記前段熱処理後、鋼材をA1点〜A1点+30℃の温度域まで加熱する(図1中、10)。最終熱処理における加熱温度がA1点よりも低いと不要なセメンタイトを十分に溶解することができずに残存するため、セメンタイトの平均重心間距離を所望の範囲とすることが難しくなる。一方、A1点+30℃を超えて加熱すると、前段加熱処理で形成したセメンタイトが溶けてしまい、所望のアスペクト比のセメンタイトが得られなくなる。好ましい加熱温度はA1点+5℃以上、より好ましくはA1点+10℃以上であって、好ましくはA1点+25℃以下、より好ましくはA1点+20℃以下である。
またA1点に達してから上記温度域(A1点〜A1点+30℃)で保持して再びAl点を下回る温度になるまでの鋼材滞在時間は10分〜2時間とする(図1中、H2とRで示される太線部分が滞在時間対象領域である)。上記温度域(A1点〜A1点+30℃)での滞在時間(A1点→A1点〜A1点+30℃→A1点)が10分より短いと、微細なセメンタイトが十分に溶解されず、平均重心間距離を十分に大きくすることが難しくなる。一方上記温度域での滞在時間が2時間を超えると、セメンタイトの多くが溶解してしまい、その後の冷却時に層状セメンタイトなどアスペクト比の大きいセメンタイトが析出し易くなり、またフェライトの結晶粒径が粗大化してしまうため、所望の冷間鍛造性が得られなくなる。滞在時間は好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、好ましくは1.5時間以下、より好ましくは60分以下である。
なお、上記温度域での保持時間(A1〜A1+30℃の温度域での保持時間、図1中、H2で示す部分)は特に限定されず、上記温度域での滞在時間が10分〜2時間となる範囲であればよい。
上記A1点〜A1点+30℃の温度域で保持した後、A1点−100℃〜A1点−20℃まで冷却する(図1中、30)。この際、冷却速度によっては層状セメンタイトが析出したり、微細なセメンタイトが多数析出して平均重心間距離が短くなって硬度が上昇することがある。したがって球状セメンタイトの成長を促す観点から冷却速度を適切に制御する必要がある。平均冷却速度が100℃/hrを超えると球状セメンタイトの成長が不十分となる。また平均冷却速度が10℃/hrを下回ると粗大なフェライトが析出する。したがって、平均冷却速度は10〜100℃/hrの範囲内に制御することとした。好ましくは15℃/hr以上、より好ましくは20℃/hr以上、好ましくは80℃/hr以下、より好ましくは60℃/hr以下である。
平均冷却温度をA1点−100℃〜A1点−20℃までとしたのは、この温度域まで上記平均冷却速度で冷却することによって、固溶Cを凝集させてセメンタイトの成長を促進できるからである。
そして鋼材を上記温度域(A1点−100℃〜A1点−20℃)において10分〜5時間保持する(図1中、40の箇所であり、H3で示される太線部分)。上記温度域で一定時間保持することによって、より一層多くの固溶Cをセメンタイトに凝集させて、上記所望のアスペクト比のセメンタイトの割合を90%以上とできるからである。保持時間が短すぎる場合、このような効果を得ることができず、また冷却後に硬度が上昇してしまう。したがって保持時間は10分以上、好ましくは20分以上、更に好ましくは30分以上とする必要がある。一方、保持時間が長すぎても得られる効果が飽和することから、5時間以下とする。好ましくは4時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは2時間以下である。
上記A1点−100℃〜A1点−20℃の温度域で上記所定時間保持した後、鋼材を冷却する。冷却条件としては、空気中で放冷(特に温度制御などを行わない)するなどして鋼材の温度を室温など所望の温度に低下させればよい(図1中、50)。ここで放冷とは、おおむね平均冷却速度が5〜20℃/sの範囲内で冷却することをいう。
上記最終熱処理は必須工程であるので、本発明では図1に示したように少なくとも前段熱処理(2回以上)と最終熱処理を合わせて3回の加熱処理が行われる。そして上記一連の熱処理を施すことによって鋼の金属組織に対するセメンタイトとフェライトの合計面積率を95面積%以上とすることができると共に、セメンタイトの90%以上のアスペクト比が3以下であって、且つセメンタイトの平均重心間距離が1.5μm以上であり、更にフェライトの平均結晶粒径が5〜20μmである鋼材を得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1に示す化学成分組成の鋼(残部は鉄および不可避不純物)20kgを真空誘導炉で溶解してインゴットに鋳造し、該インゴットを1200℃に熱間鍛造してビレットを得てから冷却した。続いてビレットを900℃に加熱した後、熱間鍛造して直径17mmの丸棒としてから空冷した。得られた丸棒を下記表2に示す条件で球状化焼鈍処理を行って試験片を作製した。
得られた試験片について下記試験に基づいて金属組織、及び金属組織の面積割合、アスペクト比3以下のセメンタイトの割合、セメンタイトの平均重心間距離、フェライト平均結晶粒径、変形抵抗について調べた。結果を表3、4に示す。
(金属組織の観察)
上記各試験片について、下記に示す手順で金属組織、及び金属組織の面積割合を測定した。
球状化焼鈍後の各試験片を、(長手方向(圧延方向)に対して垂直に切断、縦断面が観察できるよう樹脂に埋め込んでから)、D/4位置(Dは線材直径)で該切断面をナイタール腐食し、光学顕微鏡で観察した結果、今回の実施例で作成した試料は全てほぼ100%がセメンタイトとフェライトであることを確認した。
(球状セメンタイトのアスペクト比)
上記金属組織の観察と同様に試験片を垂直に切断した後、樹脂に埋め込んでからエメリー紙、ダイヤモンドバフ、電解研磨によって切断面を鏡面研磨した。その後ピクラールでエッチングした後、試験片の鏡面研磨面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:観察倍率は組織サイズに応じて2000〜5000倍で観察・画像撮影した。任意の10箇所で観察を行い、各観察箇所の写真を撮影した。撮影した画像を画像解析装置(Media Cybernetics社製:Image−Pro Plus)を使って画像の解析を行い、球状セメンタイトのアスペクト比を求めると共に、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合を求めた。
(球状セメンタイトの平均重心間距離)
上記と同様にして試験片を鏡面研磨して、2000〜5000倍で10視野について写真撮影を行い、画像解析によって平均重心間距離を求めて平均化した。
(フェライトの粒径)
上記の金属組織の観察と同じ測定領域(縦断面のD/4位置)において、画像解析装置により、フェライト粒度番号Nを比較法(JIS G0552「鋼のフェライト結晶粒度試験方法」)によって求め、下記式から粒径Dαを求めた。
α=0.254/[2(N-1)/2]×100
(圧縮試験による変形抵抗)
上記各試験片から直径10mm×長さ15mm円柱状の圧縮試験片を切り出して、室温下で端面高速圧縮試験を行って測定した。圧縮時における歪速度は10s-1とし、圧縮率は70%とし、70%での鋼の変形抵抗値を測定した。また70%圧縮後に各試験片に割れが生じているか目視で確認した。
上記結果より、本発明の要件を満足する表3、4のNo.16〜27、31〜43、53、54は変形抵抗が低減されており、割れも発生することなく、優れた冷間鍛造性を有していた。一方で本発明の要件を満足しない例では以下の様な不具合を有していた。
本発明の製造条件(加熱温度、保持温度、冷却速度などの熱処理条件)を満足しないNo.1〜15、28〜30、44〜52、55、56では、本発明で規定する金属組織の要件(面積率、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合、球状セメンタイトの平均重心間距離、フェライト粒径)を満足せず、変形抵抗に劣った。
詳細には、熱処理を1回しか行わなかったNo.1〜15では、アスペクト比が3以下の球状セメンタイトの割合が、25〜63%程度しか得られなかったため、変形抵抗が高かった。
本発明の成分組成を満足しないNo.28は、変形抵抗が高く、またNo.29、30では、本発明で規定する成分組成と金属組織の要件(アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合、セメンタイトの平均重心間距離)を満足せず、変形抵抗を満足しなかった。
また複数回の熱処理を行った例のうち、No.44は、1回目の加熱後の冷却速度が本発明の規定を外れる300℃/hrでおこなった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低く、また球状セメンタイトの平均重心間距離が不十分であった。
No.45は、熱処理時の加熱温度がA1点〜A1点+50℃の温度域を外れると共に、最終熱処理時の冷却速度が遅かった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低く、また球状セメンタイトの平均重心間距離が不十分であった。またフェライト粒径が粗大化していた。
No.46は、最終熱処理時の加熱温度域(A1点〜A1点+30℃)での滞在時間が短く(8分)、また冷却速度が速すぎた例である。この例では、球状化セメンタイトの平均重心間距離が不十分であった。
No.47は、最終熱処理時の加熱温度域(A1点〜A1点+30℃)よりも高く、また該温度域での滞在時間が長かった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低く、またフェライト粒径が粗大化していた。
No.48は、熱処理(前段熱処理)を1回しか行わずに最終熱処理を行っており、その際最終熱処理時の冷却速度が速かった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低く、球状セメンタイトの平均重心間距離も不十分であった。
No.49は、最終熱処理時の加熱温度域での滞在時間が長く、冷却後の温度域(A1点−100℃〜A1点−20℃)での保持時間が短かった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低く、球状セメンタイトの平均重心間距離も不十分であった。
No.50は、熱処理時の加熱温度がA1点〜A1点+50℃の温度域よりも低かった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低く、球状セメンタイトの平均重心間距離も不十分であった。
No.51は、熱処理時の冷却温度がA1点−100℃〜A1点−20℃の温度域よりも高かった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低く、球状セメンタイトの平均重心間距離も不十分であった。
No.52は、最終熱処理時冷却後の温度域(A1点−100℃〜A1点−20℃)での保持時間が短かった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低く、球状セメンタイトの平均重心間距離も不十分であった。
No.55は、最終熱処理時の加熱温度域での滞在時間が短く、また冷却速度が速すぎた例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低くかった。
No.56は、熱処理(前段熱処理)を1回しか行わずに最終熱処理を行っており、その際最終熱処理時の冷却速度が速かった例である。この例では、アスペクト比3以下の球状セメンタイトの割合が低くかった。
上記No.44〜52、55、56はいずれも変形抵抗が高かった。
参考として上記実施例における各鋼の変形抵抗と炭素当量との関係について図2に示す。鋼材の成分(炭素当量)が異なると、基準となる変形抵抗の値も異なることから、成分(炭素当量)別の変形抵抗を図2で示した。図2に示されているように、本発明の鋼は変形抵抗が低くなっていることがわかる。なお、炭素当量(Ceq)は、「冷間鍛造用炭素鋼線材の変形抵抗と延性に関するデータシート」 Journal of the JSTP vol.27 no.304(1986−5) 第571頁図7記載の「C+1/5(Si+Mn)/%」に基づいて算出した値である。

Claims (5)

  1. C:0.15〜0.6%(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、
    Si:0.05〜0.6%、
    Mn:0.1〜1.5%、
    P:0.05%以下(0%を含まない)、
    S:0.001〜0.05%、
    Cr:0.01〜0.5%、
    Al:0.01〜0.1%、
    N:0.01%以下(0%を含まない)
    を含有し、残部は鉄、及び不可避的不純物からなると共に、
    鋼の金属組織が、セメンタイトとフェライトを有し、全組織に対するセメンタイトとフェライトの合計面積率は95面積%以上であると共に、前記セメンタイトの90%以上のアスペクト比が3以下であって、且つ前記セメンタイトの平均重心間距離が1.5μm以上であり、更に前記フェライトの平均結晶粒径が5〜20μmであることを特徴とする冷間鍛造性に優れた鋼材。
  2. 更に他の元素として、
    Cu:0.25%以下(0%を含まない)、
    Ni:0.25%以下(0%を含まない)、および
    Mo:0.25%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1に記載の鋼材。
  3. 更に他の元素として、
    Ti:0.2%以下(0%を含まない)、
    Nb:0.2%以下(0%を含まない)、および
    V:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1または2に記載の鋼材。
  4. 更に他の元素として、
    Mg:0.02%以下(0%を含まない)、
    Ca:0.05%以下(0%を含まない)、
    Li:0.02%以下(0%を含まない)、および
    REM:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の鋼材。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の成分組成を満足する鋼を、熱間加工処理した後、室温まで冷却し、その後、A1点〜A1点+50℃の温度域に昇温して、昇温後に前記A1点〜A1点+50℃の温度域で0〜1hr保持してから、前記A1点〜A1点+50℃の温度域からA1点−100℃〜A1点−30℃までの温度域を10〜200℃/hrの平均冷却速度で冷却する焼鈍処理を2回以上行った後、
    A1点〜A1点+30℃の温度域に昇温して前記A1点〜A1点+30℃の温度域で保持してから冷却するにあたり、昇温の際にA1点に達してからA1点〜A1点+30℃の温度域に保持した後に冷却する際、A1点に達するまでの前記A1点〜A1点+30℃の温度域滞在時間を10分 〜2時間とし、前記A1点〜A1点+30℃の温度域からのA1点−100℃〜A1点−20℃までの冷却温度域を10〜100℃/hrの平均冷却速度で冷却した後、当該冷却温度域で10分〜5時間保持してから更に冷却することを特徴とする冷間鍛造性に優れた鋼材の製造方法。
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