JP2012126975A - 交流磁気特性に優れた軟磁性鋼部品およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】交流磁気特性に優れた軟磁性鋼部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】母相の化学成分組成が、C:0.002〜0.20%(質量%の意味。以下同じ。)、Si:1.2%以下(0%を含まない)、Mn:0.05〜2.6%、P:0.050%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Cr:4%以下(0%を含まない)、Al:0.002〜2.2%、N:0.01%以下(0%を含まない)、O:0.03%以下(0%を含まない)、残部:鉄および不可避不純物である鋼部品であり、且つ表層部に、下記式(1)を満足するP量(PD)を含有するP拡散層が形成されており、且つ前記P拡散層の厚みが20μm以上である軟磁性鋼部品である。下記式(1)中、PDはP拡散層に含まれるP量(質量%)、PBは鋼部品の母相に含まれるP量(質量%)を示している。
B+0.1≦PD≦2.0 ・・・(1)
【選択図】なし

Description

本発明は、軟磁性鋼部品およびその製造方法に関し、詳細には、交流磁界で用いられる軟磁性鋼部品およびその製造方法に関するものである。
軟磁性鋼部品は、例えば、自動車や産業機械などに用いられる交流磁界で駆動するモータの磁気回路を構成する部品(例えば、コア材)として使用されている。この軟磁性鋼部品は、従来では、複数の電磁鋼板を積層した積層体を打ち抜き加工等により製造されていた。しかしこうして得られた軟磁性鋼部品は、複数の電磁鋼板が積層されているため、強度や剛性が低かった。また、複数の電磁鋼板を積層する必要があるため、製造コストが高かった。
近年では、条鋼(例えば、棒鋼や線材)から軟磁性鋼部品を製造することが検討されている。軟磁性鋼部品の素材として条鋼を用いれば、冷間鍛造により部品形状に成形できるため、上述したように電磁鋼板同士を積層する工程を省略でき、製造コストを低減できる。また、条鋼を用いた場合には、積層構造ではないため、強度や剛性を高めることができる。
上記軟磁性鋼部品には、交流磁気特性が良好であることが求められる。具体的には、交流磁界中で使用したときの鉄損の低減が求められる。鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損との合計であるが、交流磁界中では渦電流損が鉄損の大半を占める。この渦電流損を低減するには、鋼の電気抵抗を高めることが有効である。
鋼の電気抵抗を高めて交流磁気特性を改善した軟磁性材料が特許文献1に提案されている。この文献には、軟磁性材料の電気抵抗を40μΩcm以上に高めるために、「2×(Al%+Si%)+Cr%」の関係式によって算出されるS値を4.5〜9の範囲に調整することが開示されている。
ところで上記条鋼には、部品形状に成形するために冷間鍛造性が良好であることも求められる。冷間鍛造性としては、変形抵抗が低く、変形能が高いことが必要である。変形抵抗を低くすることによって鍛造時の荷重を低減できるため、冷間鍛造で使用する金型の寿命を向上させることができる。また、変形能が高く、冷間鍛造しても割れが発生し難くすることによって軟磁性鋼部品を小型化したり、部品形状を複雑化できる。
交流磁気特性と高い変形能を有し、且つ変形抵抗が小さい軟磁性鋼材が特許文献2に提案されている。この文献には、交流磁気特性と変形能を改善するために、Si、Mn、Al、C、N、S、Pの含有量を最適化すればよいこと、また交流磁気特性と変形能を一層向上させ、かつ変形抵抗を改善するために、Tiを含有させれば良いことが開示されている。また、交流磁気特性を改善するには、鋼の電気抵抗を高める効果のあるSi、Mn、Alの固溶量を高くし、渦電流損を小さくすればよいことが記載されている。
また、特許文献3には、電気抵抗が高く、優れた高速応答性を有し、且つ量産可能にして製品コストの低減化を図り得る電磁弁用磁気回路部材が開示されている。この文献には、磁気回路部材の母材として電磁軟鉄あるいは低炭素鋼を用いることで切削加工性および冷間鍛造性を改善できること、磁気回路部材中にAlを含有させることにより電気抵抗が高くなり、渦電流損を低減できることが記載されている。磁気回路部材中にAlを含有させる方法としては、Al粉末とAl23粉末の混合粉にNH4Clを加えたものの中に電磁軟鉄製の磁気回路部材を埋め込み、水素気流中で900℃、3時間の加熱処理を施す方法を採用している。
また、特許文献4には、高周波磁気特性に優れた高珪素鋼材が提案されている。この文献には、電磁鋼板として高珪素鋼板が用いられること、また、この種の鋼板は、Siの含有量が増すほど鉄損が低減され、Si:6.5%では、磁歪が0となり、最大透磁率もピークとなり、優れた磁気特性を呈することが記載されている。一方、Si含有量が多くなると、加工性が著しく悪くなるため、冷間加工が困難になることも記載されている。高珪素鋼板を製造する方法としては、低珪素鋼を溶製して圧延により薄板とした後、表面からSiを浸透させる方法(滲珪法)が例示されている。この滲珪法によれば、加工後にSiを浸透させることができるため、加工性や形状不良の問題を生じることなく高周波磁気特性に優れた高珪素鋼板を製造できる。
特開平8−134603号公報 特開2006−328458号公報 特開昭63−318380号公報 特公平5−49744号公報
上記特許文献1では、鋼材の成分組成を調整することによって、軟磁性材料の電気抵抗を高めているが、鋼材の成分組成を調整する方法では、電気抵抗の向上作用に限界がある。また、上記特許文献2に開示されている軟磁性鋼材はTiを必須元素として含有するものであり、Tiを含有させた場合には、鋼材中にTiCやTiNなどの析出物を形成し、結晶粒を微細化して交流磁気特性を低下させるという問題が生じる。
ところで軟磁性鋼部品の渦電流損を低減して交流磁気特性を改善するには、表層部における電気抵抗を高める必要がある。表層部における電気抵抗を高める手段としては、上記特許文献3で提案されているように、部材の表面にAlを粉末塗布法によって含浸させる方法が知られている。しかし部材の表面にAlを含浸させた場合に、Al濃度が著しく高い層(例えば、Alを20質量%以上含有する層)が形成されると、その部分が非磁性相となり、交流磁気特性が低下することが分かった。また、上記特許文献4では、Si含有量を高めることによって鉄損を低減し、磁気特性を改善している。しかしSiを拡散浸透させる方法では、高価な生産設備と高度技術が必要となり、量産は困難である。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記特許文献1〜4とは異なる方法で、交流磁気特性に優れた軟磁性鋼部品およびその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、部品形状に成形するときの冷間鍛造性が良好な軟磁性鋼部品およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る交流磁気特性に優れた軟磁性鋼部品は、母相の化学成分組成が、C:0.002〜0.20%(質量%の意味。以下同じ。)、Si:1.2%以下(0%を含まない)、Mn:0.05〜2.6%、P:0.050%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Cr:4%以下(0%を含まない)、Al:0.002〜2.2%、N:0.01%以下(0%を含まない)、O:0.03%以下(0%を含まない)、残部:鉄および不可避不純物である鋼部品である。そして、この鋼部品は、表層部に、下記式(1)を満足するP量(PD)を含有するP拡散層が形成されており、且つ前記P拡散層の厚みが20μm以上である点に要旨を有している。
B+0.1≦PD≦2.0 ・・・(1)
上記式(1)中、PDはP拡散層に含まれるP量(質量%)、PBは鋼部品の母相に含まれるP量(質量%)を示している。
前記化学成分組成は、更に、下記式(2)を満足することが推奨される。下記式(2)中、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示している。
13×[C]+2×[Si]+[Mn]+[Cr]/5+[Al]≦2.8 ・・(2)
前記鋼部品は、更に、他の元素として、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、および/またはNi:0.5%以下(0%を含まない)を含有してもよい。
本発明に係る軟磁性鋼部品は、表面にP皮膜を有し、部品形状に加工された鋼材を加熱することによって製造できる。前記P皮膜は、リン酸塩を用いて形成することが好ましい。
本発明によれば、軟磁性鋼部品の表層部に、母相に含まれるP量よりも高い濃度でPを含有するP拡散層を所定の厚みで形成しているため、表層部の電気抵抗を高めることができ、渦電流損を低減できる結果、交流磁気特性を改善できる。また、本発明では、上記軟磁性鋼部品の素材となる鋼材に合金元素として含有させるC、Si、Mn、CrおよびAl量の関係を適切に調整することによって、鋼材の変形抵抗を小さく、変形能を良好にできるため、部品形状に成形するときの冷間鍛造性も改善できる。
図1は、実施例で用いた試験片について、P拡散層の厚みと交流最大磁束密度の比との関係を示すグラフである。 図2は、実施例で用いた試験片について、本発明で規定する式(1)の左辺の値(Z値)と変形抵抗との関係を示すグラフである。
本発明者は、上記特許文献1〜4とは異なる方法で、軟磁性鋼部品の表層部における電気抵抗を高め、渦電流損を低減して交流磁気特性を改善することについて検討を重ねた。その結果、
(1)表面にP皮膜を有し、且つ部品形状に加工された鋼材に熱処理を施すと、表面に存在するPが鋼材内部へ均一に拡散浸透し、P拡散層を形成すること、
(2)このP拡散層は、表層部の電気抵抗を高めるため、鋼部品の交流磁気特性を改善できること、
(3)また、P拡散層を形成する位置を鋼部品の表層部とすることによって鋼材の磁気モーメントの低下を防止できるため交流磁気特性の改善効果が高くなることが判明した。
即ち、Pは、鋼材の表面から内部へ一様に拡散浸透するため、軟磁性鋼部品の表層部には、面状に局所的にPが濃化し過ぎた部分は形成されない。また、Pは結晶粒内よりも結晶粒界に優先的に拡散して濃化するため、結晶粒内を拡散するPよりも結晶粒界を拡散するPの方が、鋼材の奥深くまで拡散する。結晶粒界に沿って拡散したPは、線状の濃化部位を形成し、この濃化部位は高電気抵抗となるため、極めて高い渦電流抑制効果を発揮する。しかもPは、例えば、AlやSnと比べると結晶粒内を拡散し難いため、AlやSnよりも鋼材の奥深くまでは浸透し難く、鋼材の最表面近傍に集中して濃化する。そのため本発明の軟磁性鋼部品は、高周波の交流(例えば、10kHz)であっても交流磁気特性の改善が認められる(後記する実施例を参照)。
更に、Pは、鋼材表面から鋼材内部へ一様に拡散浸透するため、濃化ムラが生じ難く、非磁性相が形成されにくい。そのため交流磁気特性の劣化を防止できる。また、Pは2%程度までの添加であれば、鋼材自体の磁気特性を向上させることが知られている。従って、Pを拡散浸透させることによって、素地自体の磁気特性と表層部の電気抵抗の双方を高めることができるため、Pは交流磁気特性向上効果が高い元素である。
なお、従来では、上記特許文献2に開示されているように、鋼材に合金元素を多量に添加し、この合金元素量を最適化することによって鋼材の電気抵抗を高め、交流磁気特性を改善していた。一方、本発明によれば、鋼部品の表層部に上記P拡散層を設けることによって交流磁気特性向上効果が発揮される。従って本発明において鋼部品の素材として用いる鋼材は、含有させる合金元素量を低減できるため、変形抵抗を小さくできる。鋼材の変形抵抗を小さくすることによって、変形能が良好になるため、鋼材を部品形状に成形するときの冷間鍛造性も改善できる。
以下、本発明の軟磁性鋼部品について詳細に説明する。本発明の軟磁性鋼部品は表層部にP拡散層が形成されている。本発明においてP拡散層とは、下記式(1)を満足するP量(PD)を含有している領域を意味している。下記式(1)において、PDはP拡散層に含まれるP量(質量%)、PBは鋼部品の母相に含まれるP量(質量%)を示している。
B+0.1≦PD≦2.0 ・・・(1)
Dが、上記式(1)の左辺の値(PB+0.1)未満では、表層部の電気抵抗を高めることができないため、渦電流損を低減できず、交流磁気特性を改善できない。一方、PDが、上記式(1)の右辺の値(2.0)を超えると、Fe3Pの生成量が多くなり、磁気モーメントの低下および透磁率の低下が顕著となって交流磁気特性の改善効果が小さくなる。そこで本発明では、上記式(1)を満足する量のPを含有している領域をP拡散層と定義し、このP拡散層を鋼部品の表層部に形成することによって交流磁気特性を改善している。
上記表層部とは、軟磁性鋼部品のうち最表面を含む表面近傍を意味し、具体的には、最表面から深さ500μm位置程度までの領域を指す。
上記P拡散層は、最表面側から中心部に向かってP量が減少していることが好ましい。表層部におけるP濃度を傾斜させることによって交流磁気特性を効果的に向上させることができるからである。
上記P拡散層の厚みは20μm以上とすることによって、表層部の電気抵抗を高めることができるため、渦電流損が小さくなり、交流磁気特性を改善できる。上記P拡散層の厚みは大きい方が好ましく、好ましくは25μm以上、更に好ましくは30μm以上、特に好ましくは35μm以上である。P拡散層の厚みが増大するほど、交流磁気特性は改善される。なお、上記P拡散層の厚みの上限は特に限定されず、例えば、250μmを超えて生成していてもよいが、熱処理によるコスト増加を抑制する観点から、500μm以下であればよい。
上記表層部におけるP濃度(PD)は、鋼部品の最表面から深さ500μm位置までの領域を、例えば、電子線マイクロプローブX線分析計(Electron Probe X−ray Micro Analyzer;EPMA)で、深さ方向に等間隔(例えば、数μm間隔)で測定し、結晶粒内において測定した値に基づいてP拡散層の厚みを算出すればよい。
次に、本発明に係る軟磁性鋼部品の素材となる鋼材(母相)の成分組成について説明する。本発明で用いる鋼材は、C:0.002〜0.20%、Si:1.2%以下(0%を含まない)、Mn:0.05〜2.6%、P:0.050%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Cr:4%以下(0%を含まない)、Al:0.002〜2.2%、N:0.01%以下(0%を含まない)、O:0.03%以下(0%を含まない)を含有し、残部:鉄および不可避不純物である。こうした範囲を規定した理由は次の通りである。
Cは、鋼材の強度と延性をバランスよく確保するために重要な元素である。しかしCが0.20%を超えると、強度が高くなり過ぎて変形抵抗が大きくなり、冷間鍛造性が悪くなる。また、鋼中に固溶したCにより部品成形時にひずみ時効が生じ、交流磁気特性も悪くなる。従ってCは0.20%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.08%以下である。Cは少ないほど強度が低下し、延性が向上するため冷間鍛造性が良好となる。しかしC量を低減し過ぎると鋼部品の強度が低下し過ぎる。従ってCは0.002%以上、好ましくは0.003%以上である。
Siは、固溶することで鋼材の電気抵抗を大きくし、渦電流損を少なくして交流磁気特性を改善するのに寄与する元素である。また、鋼部品の金属組織をフェライト化し、交流磁気特性を向上する作用も有している。しかし1.2%を超えて含有させると、変形抵抗が大きくなり、冷間鍛造性が悪くなる。従ってSiは1.2%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下である。特に、鋼材の変形抵抗を小さくして冷間鍛造性を改善するには、Siを0.7%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下である。
Mnは、溶製時に脱酸剤として用いられる元素であり、鋼中ではSと結合してSによる脆化を抑制する作用を有している。また、鋼中のSと結合してMnSを形成したり、鋼中の酸化物の周囲にMnSが複合析出して複合析出物を形成することで、鋼部品の電気抵抗を高めて交流磁気特性を改善する作用を有している。従ってMnは0.05%以上、好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.15%以上である。しかしMnが2.6%を超えると、変形抵抗が大きくなり過ぎて冷間鍛造性が劣化する。また、Mnが過剰になると、磁気モーメントが低下し、交流磁気特性が劣化する。従ってMnは2.6%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下である。
母相(母材)に含まれるPが粒界に偏析すると変形能が低下し、冷間鍛造時に割れを発生させる原因となる。また、過剰に含有すると交流磁気特性も劣化する。従って母相に含まれるPは0.050%以下、好ましくは0.02%以下、更に好ましくは0.01%以下とする。
Sは、Mn等と結合して硫化物を形成し、この硫化物が粒界に析出することによって変形能が低下する。従ってSは0.05%以下、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.015%以下である。
Crは、鋼部品の電気抵抗を大きくし、渦電流損を低減して交流磁気特性を向上させるのに作用する元素である。また、鋼部品の金属組織をフェライト化し、交流磁気特性を向上する作用も有している。こうした作用を有効に発揮させるには、Crは0.005%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.008%以上である。しかしCrが4%を超えると固溶したCrによりフェライト組織の硬度が上昇し過ぎるため変形能が低下し、冷間鍛造時に割れが発生する。従ってCrは4%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下である。
Alは、鋼部品の電気抵抗を高め、渦電流損を低減して交流磁気特性を改善するのに作用する元素である。また、Alは、SiやCrと同様に、鋼部品の金属組織をフェライト化して交流磁気特性を向上する作用も有している。従ってAlは0.002%以上、好ましくは0.003%以上含有させる。しかし2.2%を超えて含有させると、鋼材の変形抵抗が大きくなり過ぎて冷間鍛造性が劣化する。従ってAlは2.2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下である。
Nは、鋼材を時効硬化させる元素であり、0.01%を超えて含有すると鋼材の変形能が低下し、冷間鍛造時に割れが発生する原因となる。従ってNは0.01%以下、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.005%以下である。Nはできるだけ低減することが望ましい。
O(酸素)は、鋼中に酸化物を形成し、鋼材の変形能を低下させて冷間鍛造時に割れを発生させる元素である。また、鋼中に形成された酸化物は交流磁気特性を劣化させる原因となる。従ってOは0.03%以下、好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.005%以下である。Oはできるだけ低減することが望ましい。
上記鋼材の残部は、鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって混入する元素が許容される。
上記鋼材は、更に他の元素として、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、および/またはNi:0.5%以下(0%を含まない)を含有してもよい。CuとNiは、不可避的に混入してくる元素であり、CuまたはNiが0.5%を超えて過剰に含有すると、磁気モーメントが低下して交流磁束密度が却って低下するためCuとNiの好ましい上限を0.5%と定めた。Cuはより好ましくは0.1%以下、Niはより好ましくは0.1%以下である。
本発明で用いる鋼材は、化学成分組成が上記範囲を満足すると共に、下記式(2)を満足していることが推奨される。下記式(2)は、鋼材に含まれる合金元素のうち、鋼材の変形抵抗に影響を及ぼす元素を抽出し、各元素の影響度合いに基づいて規定した関係式を示している。下記式(2)の左辺の値をZ値としたとき、Z値を好ましくは2.8以下に抑えることによって変形抵抗を小さくでき、冷間鍛造性の改善が可能となる。なお、下記式(2)中、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示している。
13×[C]+2×[Si]+[Mn]+[Cr]/5+[Al]≦2.8 ・・(2)
即ち、C、Si、Mn、Cr、Alは、鋼材の電気抵抗を高め、渦電流損を低減して交流磁気特性を改善するのに作用する元素である。従って従来では積極的に添加されていた。しかしこれらの元素は、いずれも鋼中に固溶したり、析出物を形成して鋼材の強度を高め、鋼材の変形抵抗を大きくするのにも作用する。そのため含有量が多くなると、冷間鍛造性が劣化する傾向が認められた。
これに対し、本発明では、上述したように、軟磁性鋼部品の表層部にP拡散層を形成することによって交流磁気特性を改善できるため、C、Si、Mn、Cr、Alの含有量を低減できる。従って本発明では、これらの元素の含有量に基づいて算出されるZ値を好ましくは2.8以下に抑えることによって鋼材の冷間鍛造性を更に向上させることができる。Z値は、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。
次に、本発明の軟磁性鋼部品を製造する方法について説明する。上記軟磁性鋼部品は、表面にP皮膜を有している鋼材を熱処理することによって製造できる。即ち、鋼材の表面にP皮膜を形成し、これを熱処理することによって、鋼材表面からPを拡散浸透させることができ、鋼部品の表層部に上記P拡散層を形成できる。また、Pは、結晶粒内よりも結晶粒界に優先的に拡散して濃化しやすいため、上記熱処理によってPを線状に限定的に濃化させることもできる。このように本発明では、鋼材の表面からPを一様に拡散浸透させているため、軟磁性鋼部品の表層部にPが面状に局所的に濃化することを防止できる。また、本発明で用いる鋼材は、上述したように、C、Si、Mn、Cr、Alの合金元素量に基づいて算出される上記Z値を所定値以下に抑えているため、変形抵抗を小さくでき、冷間鍛造性を一層良好にできるという作用も発揮される。
熱処理前の上記鋼材は、表面にP皮膜を有し、部品形状に加工されていればよく、鋼材の表面にP皮膜を形成する工程と、鋼材を部品形状に加工する工程の順番は特に限定されない。即ち、上記鋼材を部品形状に加工してからP皮膜を形成してもよいし、上記鋼材にP皮膜を形成してから部品形状に加工してもよい。部品形状への加工は、例えば、冷間鍛造によって行えばよい。
上記P皮膜は、P元素を含有する皮膜(P含有皮膜)であればよく、上記P皮膜を形成する方法は特に限定されず、例えば、リン酸塩を塗布して形成する方法や、固形浸リン法、液体浸リン法などが挙げられる。
リン酸塩を塗布してP皮膜(リン酸塩皮膜)を形成する方法とは、伸線加工時には、潤滑性を高めるために鋼材の表面にリン酸塩含有潤滑剤を塗布するため、伸線後にこのリン酸塩含有潤滑剤を除去せずに、部品形状に加工することによって鋼材表面にP皮膜を形成する方法である。このように潤滑剤として用いたリン酸塩含有潤滑剤を利用することによってP皮膜を形成する工程を省略できる。上記リン酸塩としては、リン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛鉄、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸マンガン、リン酸ナトリウムなどを用いることができる。
固形浸リン法によりP皮膜を形成する方法とは、鋼材とリン鉄をルツボに入れ、これらを加熱(例えば、800〜1000℃)することによって気体反応で鋼材表面にP皮膜を形成する方法である。
液体浸リン法によりP皮膜を形成する方法とは、リン酸ナトリウムを添加した溶融塩に鋼材を浸漬させて鋼材表面にP皮膜を形成する方法である。
なお、部品形状に加工した後の鋼材表面に、上記方法によってP皮膜を形成してもよい。
上記熱処理は、鋼部品の表層部にP拡散層の厚みが20μm以上形成されるように加熱温度と加熱時間を調整すればよく、例えば、加熱温度は700℃以上、加熱時間は1時間以上の範囲で調整することが好ましい。加熱温度が700℃を下回るか、加熱時間が1時間より短いと、Pが鋼材内部へ充分に拡散浸透しないため、所望のP拡散層を形成することが困難となる。後記する実施例で実証しているように、加熱温度を700℃に設定する場合は、長時間(実施例では10時間)加熱することによってP拡散層を20μmの厚みで形成できる。
上記加熱温度は750℃以上とすることがより好ましく、更に好ましくは800℃以上、特に好ましくは850℃以上、一層好ましくは900℃以上、最も好ましくは950℃以上である。加熱温度は、Pを表面側から内部に向かって拡散浸透させるために、できるだけ高く設定することが望ましい。
上記加熱時間は2時間以上とすることがより好ましく、更に好ましくは3時間以上である。加熱時間は、Pを表面側から内部に向かって拡散浸透させるために、できるだけ長くすることが望ましい。但し、加熱時間を長くし過ぎると生産性が悪くなるため、上限は例えば15時間とするのがよい。
なお、後記する実施例で実証しているように、上記熱処理は、上記加熱温度を800℃以上、上記加熱時間を1時間以上とすることによって、高周波(実施例では周波数10kHz)の交流磁場でも良好な交流磁気特性を有する軟磁性鋼部品を製造できる。
上記熱処理は、還元性雰囲気で行うのがよい。還元性ガスとしては、例えば、水素を含有すればよい。
上記加熱温度に加熱するときの昇温速度は、例えば、100〜400℃/時間とすればよい。また、熱処理後、室温まで冷却するときの降温速度は、例えば、100〜400℃/時間とすればよい。
こうして得られる本発明に係る軟磁性鋼部品は、例えば、自動車や産業機械に実装されている鋼部品のうち、磁力を介して駆動する電装部品や電磁コイルの鉄芯として用いられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記実験例1では、軟磁性鋼部品の交流磁気特性を評価し、下記実験例2では、軟磁性鋼部品の素材となる鋼材の冷間鍛造性について評価した。
[実験例1]
下記表1に示す化学成分を含有する鋼(残部は、鉄および不可避不純物)を真空溶製して150kgの溶製材を作製した。下記表1に、参考値として、上記式(2)の左辺の値(Z値)を算出して示す。
得られた溶製材を鍛伸加工して直径40mmの鋼材を製造し、この鋼材からリング状の試験片を切り出し、この試験片にP拡散層を設けたときの交流磁気特性を次の手順で評価した。具体的には、上記鋼材(直径40mm)から、外径38mm、内径30mm、厚み4mmのリング状試験片を切り出し、この試験片の表面に、リン酸亜鉛皮膜を形成した後、熱処理して表面のPを試験片内部へ拡散浸透させた。熱処理は、水素還元雰囲気中で、下記表2に示す温度まで昇温速度300℃/時間で加熱した後、この温度で下記表2に示す時間保持して行った。熱処理後は、室温まで降温速度300℃/時間で室温まで冷却した。下記表2に、熱処理時の加熱温度、および保持時間を夫々示す。
次に、P拡散層を形成した試験片の表層部におけるP濃度をEPMA(日本電子株式会社製「JXA−8900RL(装置名)」)を用い、EPMAのビーム直径を1μmとし、1μm間隔で測定し、上記式(1)を満足するP量(PD)を含有するP拡散層が形成されているかどうか評価した。なお、EPMAライン分析によれば、粒界におけるP量が検出されることがあるが、粒界におけるP量が検出されたとしても、EPMAの測定結果には、粒界の周辺に存在している粒内におけるP量も含まれ、これらのP量が平均化された値が測定値となるため、EPMAの測定結果を結晶粒内において測定した値として問題はない。
母相のP量(PB)は、直径40mm×厚み5mmの円柱材を塩酸にて溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定した。なお、測定した母相のP量(PB)は、下記表1に示したP量と一致していた。
また、上記式(1)を満足するP量(PD)を含有するP拡散層の厚みを求めた。結果を下記表2に示す。なお、試験片の表層部では、最表面のP量が最も多く、中心部に向かうほどP量は減少しており、傾斜組成であることが分かった。
次に、熱処理して得られた試験片の交流磁気特性を評価した。
〈交流磁気特性の評価〉
交流磁気特性は、試験片の交流最大磁束密度を測定して評価した。交流最大磁束密度の値が大きくなるということは、P拡散層が形成されることで表層部の電気抵抗が大きくなり、渦電流損が低減される結果、交流磁気特性が改善されていることを示している。詳細な測定方法は次の通りである。熱処理した試験片に、磁界印加用の1次コイルと磁束検出用の2次コイルを巻線し、自動磁化測定装置(岩通製BHアナライザ:SY−8232)を用いてB−H曲線を測定し、交流最大磁束密度を求めた。B−H曲線を測定するにあたって、鉄損に伴う発熱によって、試験片の温度が上昇するのを防止するため、試験片は絶縁処理したうえで、20℃の水中に浸漬しながら測定を行った。交流最大磁束密度は、磁界振幅を800A/m、周波数を5kHzとしたときの値を求めた。また、参考として、鋼種αを用いた試験片については、周波数を10kHzとして測定も行った。結果を下記表2に示す。
比較材として、上記鋼種αおよび鋼種βから切り出したリング状の試験片に、850℃、3時間の磁気焼鈍を行なった後、リン酸亜鉛皮膜の形成、および熱処理を行なわず(即ち、P拡散層を設けず)、上記と同様に、磁界印加用の1次コイルと磁束検出用の2次コイルを巻線したものを作製し(以下、未処理品という)、これのB−H曲線を測定して交流最大磁束密度を求めた。その結果、鋼種αを用いた未処理品の交流最大磁束密度は周波数が5kHzのときが67mT、周波数が10kHzのときが51mT、鋼種βを用いた未処理品の交流最大磁束密度は108mTであった。
また、下記表2には、上記鋼種αおよび鋼種βから切り出したリング状の試験片に、850℃、3時間の磁気焼鈍を行なった後、上記と同じ条件でリン酸亜鉛皮膜を形成し、熱処理を行なわずに、上記と同様に、磁界印加用の1次コイルと磁束検出用の2次コイルを巻線したものを作製し、これのB−H曲線を測定して交流最大磁束密度を求めた結果を示す(No.1、12)。
未処理品の交流最大磁束密度に対するP拡散層を設けた場合の交流最大磁束密度の比(P拡散層有り/未処理品)を算出し、下記表2に示す。なお、下記表2のNo.1とNo.12については、未処理品の交流最大磁束密度に対するP拡散層を設けない場合の交流最大磁束密度の比(P拡散層無し/未処理品)を算出した。
交流最大磁束密度の比の値に基づいて、下記基準で交流磁気特性を評価し、評価結果を下記表2に併せて示す。本発明では、周波数5kHzで測定したときの交流最大磁束密度の比が1.10以上の場合(評価○または評価◎)を交流磁気特性に優れていると評価する。
<評価基準>
◎(合格):交流最大磁束密度の比が1.20以上
(即ち、比較材(P拡散層無し)の交流最大磁束密度に対して20%以上増加。)
○(合格):交流最大磁束密度の比が1.10以上、1.20未満
(即ち、比較材(P拡散層無し)の交流最大磁束密度に対して10%以上30%未満の範囲で増加。)
×(不合格):交流最大磁束密度の比が1.10未満
(即ち、比較材(P拡散層無し)の交流最大磁束密度に対する増加率が10%未満。)
下記表2から次のように考察できる。
まず、周波数5kHzで交流最大磁束密度を測定した結果について考察する。
No.1とNo.12は、P皮膜を形成した後、熱処理を行なっていない比較例であり、P拡散層が形成されていなかった。従って交流最大磁束密度が未処理品と同程度であるか(No.12)、未処理品よりも低くなっていた(No.1)。
No.2、3、13、14は、いずれも本発明で規定する要件を満足しない例であり、P拡散層が薄過ぎるため、交流磁気特性を改善できていない。
No.4〜11、15〜21は、いずれも本発明で規定する要件を満足している例であり、試験片の表層部に所望の厚みのP拡散層を形成できているため、P拡散層を設けていない比較材(未処理品)と比べて交流磁気特性を改善できている。特に、P拡散層の厚みが30μm以上の場合には、交流最大磁束密度の比が1.20以上となり、交流磁気特性に特に優れていることが分かる(No.7〜11、18〜21)。
また、表2から、P拡散層を形成するための熱処理温度を高くするか、或いは熱処理時間を長くするほど、P拡散層の厚みは大きくなることが分かる。
次に、鋼種αを用いた試験片について、周波数5kHzで交流最大磁束密度を測定した結果と周波数10kHzで交流最大磁束密度を測定した結果に基づいて考察する。No.5〜11は、周波数が10kHzの交流磁場においても交流磁気特性に優れていることが分かる。一方、No.4は、周波数が5kHzの場合は交流磁気特性に優れているが、周波数を10kHzにすると交流磁気特性の改善効果が低下することが分かる。この結果から、高周波磁場で使用する場合には、P拡散層の厚みは、25μm以上とすることが推奨されることが分かる。
次に、図1に、P拡散層の厚みと交流最大磁束密度の比との関係を示す。図1では、鋼種αを用いた試験片(No.1〜11)について、周波数5kHzで測定した結果を○、周波数10kHzで測定した結果を□、鋼種βを用いた試験片(No.12〜21)について、周波数5kHzで測定した結果を▲で夫々示した。図1から明らかなように、P拡散層の厚みが大きくなるほど、交流最大磁束密度の比も大きくなる傾向が認められ、交流磁気特性を改善できることが分かる。
Figure 2012126975
Figure 2012126975
[実験例2]
下記表3に示す化学成分を含有する鋼(残部は、鉄および不可避不純物)を真空溶製して150kgの溶製材を作製した。下記表3に、上記式(2)の左辺の値(Z値)を算出して示す。なお、下記表3に示したNo.31、34に示した鋼の化学成分は、上記表1に示した鋼種α、鋼種βと夫々同じである。
Z値=13×[C]+2×[Si]+[Mn]+[Cr]/5+[Al]
得られた溶製材を鍛伸加工して直径40mmの鋼材を製造し、次の手順で冷間鍛造性を評価した。
〈冷間鍛造性の評価〉
鋼材の冷間鍛造性は、試験片を50%圧縮加工したときの変形抵抗と、圧縮加工したときの変形能で評価した。具体的には、鋼材の変形抵抗(N/mm2)は、上記鋼材から直径16mm×高さ24mmの試験片を切り出し、試験片の高さが50%となるように圧縮加工して測定した。圧縮加工は、ひずみ速度10/秒で端面拘束圧縮して行った。測定した変形抵抗を下記表3に示す。本発明では、変形抵抗が580N/mm2未満を合格、580N/mm2以上を不合格として評価した。また、上記Z値と、測定した変形抵抗の値との関係を図2に示す。
一方、鋼材の変形能は、上記条件で圧縮加工した後、試験片を目視および光学顕微鏡(観察倍率:40倍)で観察し、割れ発生の有無を調べて評価した。割れ発生の有無を下記表3に示す。割れが発生してない場合を合格、割れが発生している場合を不合格とする。
本発明では、上記変形抵抗と変形能の両方が合格基準を満足している場合を「冷間鍛造性に優れている」と評価し、少なくともいずれか一方が合格基準を満足していない場合を「冷間鍛造性に劣っている」と評価した。
下記表3と図2から次のように考察できる。No.31、32、34、36、40、42、49、50〜52は、鋼材の化学成分組成が本発明で規定する要件を満足する例であり、変形抵抗が580N/mm2未満で、且つ圧縮加工時に割れが発生しておらず、冷間鍛造性に優れている。
これに対し、No.33、35、37〜39、41、43〜48は、鋼材の化学成分組成が本発明で規定する要件を満足していない例であり、変形抵抗が580N/mm2以上であるか、圧縮加工時に割れが発生したため、冷間鍛造性に劣っている。
詳細には、No.33、35、37は、夫々、C、Si、Mnが本発明で規定する上限値を超えている例であり、上記Z値が2.8より大きいため、変形抵抗が580N/mm2以上になった。No.38は、Pが本発明で規定する上限値を超えている例であり、Pの粒界偏析量が増加したため、変形能が低下し、圧縮加工時に割れが発生した。No.39は、Sが本発明で規定する上限値を超えている例である。硫化物が粒界に多く析出したため、変形能が低下し、圧縮加工時に割れが発生した。No.41は、Crが本発明で規定する上限値を超えている例である。固溶したCrによりフェライト組織の硬度が上昇し過ぎて変形能が低下し、圧縮加工時に割れが発生した。No.43は、Alが本発明で規定する上限値を超えているため、変形抵抗が580N/mm2以上になった。No.44は、Nが本発明で規定する上限値を超えている例である。過剰なNによって時効硬化して変形能が低下し、圧縮加工時に割れが発生した。No.45は、O(酸素)が本発明で規定する上限値を超えている例である。過剰なOにより鋼中に酸化物が多く生成し、この酸化物が鋼材の変形能を低下させ、圧縮加工時に割れが発生した。No.46〜48は、鋼材の化学成分組成は本発明で規定する範囲を満足しているが、上記Z値が2.8を超えているため、変形抵抗が580N/mm2以上になった。
Figure 2012126975

Claims (5)

  1. 母相の化学成分組成が、
    C :0.002〜0.20%(質量%の意味。以下同じ。)、
    Si:1.2%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.05〜2.6%、
    P :0.050%以下(0%を含まない)、
    S :0.05%以下(0%を含まない)、
    Cr:4%以下(0%を含まない)、
    Al:0.002〜2.2%、
    N :0.01%以下(0%を含まない)、
    O :0.03%以下(0%を含まない)、
    残部:鉄および不可避不純物
    である鋼部品であり、且つ
    表層部に、下記式(1)を満足するP量(PD)を含有するP拡散層が形成されており、且つ
    前記P拡散層の厚みが20μm以上であることを特徴とする交流磁気特性に優れた軟磁性鋼部品。
    B+0.1≦PD≦2.0 ・・・(1)
    [式(1)中、PDはP拡散層に含まれるP量(質量%)、PBは鋼部品の母相に含まれるP量(質量%)を示している。]
  2. 前記化学成分組成が、更に、下記式(2)を満足するものである請求項1に記載の軟磁性鋼部品。
    13×[C]+2×[Si]+[Mn]+[Cr]/5+[Al]≦2.8 ・・(2)
    [式(2)中、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示している。]
  3. 前記鋼部品は、更に、他の元素として、
    Cu:0.5%以下(0%を含まない)、および/または
    Ni:0.5%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の軟磁性鋼部品。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性鋼部品を製造する方法であって、
    表面にP皮膜を有し、且つ部品形状に加工された鋼材を加熱することを特徴とする交流磁気特性に優れた軟磁性鋼部品の製造方法。
  5. 前記P皮膜を、リン酸塩を用いて形成する請求項4に記載の製造方法。
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