JP2012110352A - 酵母培養培地補添物 - Google Patents

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Abstract

【課題】廃糖蜜由来の成分を用いない酵母培養培地を提供することが、本発明の課題である。さらに、そのような酵母培養培地を調製するために、培地に補添される因子を同定・合成することが、本発明の課題である。
【解決手段】上記課題は、廃糖蜜中において酵母の増殖を促進する因子として以下の構造式を有する化合物を同定することによって、解決された。本発明に従って、高糖生地発酵力を増強するための酵母培養培地補添物、酵母培養培地、合成培地、半合成培地、酵母の増殖方法、パン酵母の製造方法、およびその方法によって製造されたパンが提供される。さらに、本発明に従って、フラボノイド類を含有する、酵母培養培地もまた提供される。
【選択図】なし

Description

本発明は、酵母培養培地補添物および/または酵母培養培地の成分として利用可能な新規の化合物に関する発明である。本発明はまた、酵母、特にパン酵母の培養培地および培養方法、ならびに、この培養方法によって製造されたパン酵母およびそのパン酵母を用いるパンの製造方法および製造されたパンに関する。
製パンに使用するパン酵母の製造は、製糖過程で副産物として生じる廃糖蜜を原料として行われている。廃糖蜜を使用するパン酵母の製造方法は周知であり、例えば、非特許文献1に詳細に記載されている。
現在のところ、パン酵母製造に使用する廃糖蜜のほとんどは東南アジア諸国からの輸入でまかなわれている。しかし、製糖技術の向上による廃糖蜜の品質低下や世界情勢の変化といった要因により、優良な廃糖蜜を安定的に確保することが難しく、パン酵母の品質の安定化が困難な状況にある。今後、廃糖蜜の供給に関する状況はさらに厳しさを増すものと予想されている。そのため、廃糖蜜をより効率的に利用する方法の確立が望まれる。
また、廃糖蜜の成分は、産出国、産出工場や産出年度によっても差がある一方で、フィリピンなどの外国産廃糖蜜は、その製造構造の特定が産業構造上困難である。そのため、パン酵母培養に適した成分の廃糖蜜を選択するためには、数種の廃糖蜜を入手してから、選択することが必要とされる。しかし、廃糖蜜の中にはパン酵母の培養に適当でない成分を含むものもあり、必ずしもパン酵母培養に好適な廃糖蜜を常に入手できるとは限らない。そのため、実際のパン酵母の製造においては、パン酵母培養に不適切な廃糖蜜を使用せざるを得ない場合もある。
廃糖蜜を使用するパン酵母の製造方法においては、数種類の廃糖蜜を混合使用することによる組成成分の片寄りの排除、廃糖蜜の選択、培養条件の調整、および甜菜糖工場廃液及び/又はその処理物の添加(例えば、特許文献1)などが試みられているが、廃糖蜜の使用により生じる問題を解決するには至っていない。
これら廃糖蜜の使用により生じる問題を解決するために、培養原料として廃糖蜜からの脱却を図り、合成原料を培地成分として常に安定した品質のパン酵母を製造する試みがなされている。しかしながら、十分な発酵力を有するパン酵母製造に適した合成培地または半合成培地は、いまだ開発されていない。その原因の1つは、廃糖蜜に含まれるサトウキビ由来の成分からパン酵母の性能向上に必要な有効成分の同定が困難なことにある。
上記問題を解決するために、例えば、特許文献2は、廃糖蜜由来の画分を含むパン酵母用培養培地を開示する。しかし、特許文献2においては、廃糖蜜中の成分を特定していないため、依然として廃糖蜜を使用することが必要であるとう問題がある。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
特開平10−136975号公報 特開2004−298139公報
田中康夫・松本博編、「製パンの科学 II 製パン材料の科学」、株式会社 光琳、1992年9月
従って、廃糖蜜由来の成分を用いない酵母培養培地、および/または廃糖蜜の必要量を低減した酵母培養培地を提供することが、本発明の課題である。さらに、そのような酵母培養培地を調製するために、培地に補添される因子を同定することが、本発明の課題である。
上記課題は、廃糖蜜中において酵母の増殖を促進する因子としての単一の化合物を同定し、その化合物の構造を決定し、化学合成することによって、解決された。
従って、本発明は酵母の増殖を促進する化合物、その化合物の合成方法、その化合物を含有する培養培地補添物、酵母の培養方法および増殖方法を提供する。さらに、本発明の化合物を用ることによって、従来のパンよりも優れた特性(例えば、パンの物性、官能性などが挙げられるが、これに限定されない)を有するパンを製造することが可能になった。さらに、本発明に従って、廃糖蜜中の酵母の増殖を促進する因子を含有する画分が提供される。
従って、本発明は、以下を提供する。
(項目1) 高糖生地発酵力を増強するための酵母培養培地補添物であって、
a)以下の構造式:
で示される化合物であって、ここで、R、R、および、Rはそれぞれ独立して、HO−またはHCO−である化合物;
b)上記(a)の化合物をアグリコンとして含む配糖体;および
c)上記(a)の化合物の縮合物、
からなる群から選択される化合物を含有する、補添物。
(項目2) 項目1に記載の補添物であって、以下の構造式:
で示される化合物を含有する、補添物。
(項目3) 酵母培養培地であって、
a)以下の構造式:
で示される化合物であって、ここで、R、R、および、Rはそれぞれ独立して、HO−またはHCO−である化合物;
b)上記(a)の化合物をアグリコンとして含む配糖体;および
c)上記(a)の化合物の縮合物、
からなる群から選択される化合物を含有する、培養培地。
(項目4) 項目3に記載の培養培地であって、以下の構造式:
で示される化合物を含有する、培養培地。
(項目5) 合成培地である、項目3に記載の培地。
(項目6) 半合成培地である、項目3に記載の培地。
(項目7) 酵母の増殖方法であって、該方法は、以下:
a)項目3に記載の酵母培養培地を提供する工程;および
b)該酵母培養培地中で酵母を培養する工程、
を包含する、方法。
(項目8) パン酵母の製造方法であって、該方法は、以下:
a)項目3に記載の酵母培養培地を提供する工程;
b)該酵母培養培地中でパン酵母を培養する工程;および
c)該培養工程後にパン酵母を回収する工程、
を包含する、方法。
(項目9) 項目8に記載の方法によって製造された、パン酵母。
(項目10) パンの製造方法であって、以下:
a)項目9に記載のパン酵母を用いて生地を作製する工程;および
b)該生地を焼成する工程、
を包含する、方法。
(項目11) 項目10に記載の方法によって製造された、パン。
(項目12) フラボノイド類を含有する、酵母培養培地補添物。
(項目13) 項目12に記載の酵母培養培地補添物であって、ここで、前記フラボノイド類が、アルブチン、(−)−没食子酸エピガロカテキン、ルテオリン、アピゲニン、ガラクチノール、ペラルゴニジンからなる群から選択される、補添物。
(項目14) フラボノイド類を含有する、酵母培養培地。
(項目15) 項目14に記載の酵母培養培地であって、ここで、前記フラボノイド類が、アルブチン、(−)−没食子酸エピガロカテキン、ルテオリン、アピゲニン、ガラクチノール、ペラルゴニジンからなる群から選択される、培地。
本発明に従って、酵母の増殖を促進する化合物、その化合物の合成方法、その化合物を含有する培養培地補添物、酵母の培養方法および増殖方法が提供される。さらに、本発明の化合物を用ることによって、従来のパンよりも優れた特性(例えば、パンの物性、官能性などが挙げられるが、これに限定されない)を有するパンを製造することが可能になった。また、本発明の化合物を用いてパン酵母を製造した場合、廃糖蜜またはその画分を用いる従来のパン酵母製造方法と比較して、製造廃液に対する環境負荷が著しく軽減された。さらに、本発明に従って、廃糖蜜中の酵母の増殖を促進する因子を含有する画分が提供された。
パン生地は、例えば、菓子パン生地、フランスパン生地、食パン生地など、その種類に応じてパン酵母が発酵する条件が異なる。本発明において初めて、パン生地の種類に応じた発酵条件に適した、パン酵母を製造するための有効成分を廃糖蜜から単離・精製し、その構造を決定した。この有効成分としての具体的化合物の同定の結果、廃糖蜜を用いることなく、パン酵母などの酵母の増殖・生産に適切な培養培地を提供することが可能となった。また、本発明の化合物を用いる場合、従前必要とされていた廃糖蜜の量よりも少ない量の廃糖蜜を用いて、同程度に優れた酵母培養培地を提供することが可能となるため、たとえ廃糖蜜または廃糖蜜由来成分を用いる場合であっても、廃糖蜜に対する依存度を低減することが可能となった。
パン酵母などの酵母製造に有効な成分を高純度に精製、および/または、化学的に合成して使用することによって、廃糖蜜中に混在するパン酵母製造の障害となる成分の培地への混入を避け、その結果、より効率的に廃糖蜜を使用することも可能になった。
従って、本発明の化合物は、廃糖蜜の供給に起因する問題を解決する。また、本発明の化合物を使用することによって、常に一定量の均質な有効成分を培地中に含有させることが可能となり、その結果、廃糖蜜の成分のばらつきにより生じる問題をも改善する。
図1は、Fr.15画分をODSカラムにて精製した結果を示す。 図2は、Q−5−1画分の化合物のH−NMR(CDOD)測定の結果を示す。 図3は、Q−5−1画分の化合物の13C−NMR(CDOD)測定の結果を示す。 図4は、Q−5−1画分の化合物のESI−MS(ポジティブ)測定の結果を示す。 図5は、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールの合成スキームを示す。 図6は、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオール画分であるF2−3画分を用いた場合と、外国糖蜜を用いた場合のBODおよびCODを示すグラフである。 図7は、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオール画分であるF2−3画分を用いた場合と、外国糖蜜を用いた場合の色度を示すグラフである。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
(用語の定義)
本明細書において使用する場合、用語「パン」とは、穀粒粉を練って生地を作製し、その生地を焼成することによって産生される食品をいう。
本明細書において使用する場合、用語「穀粒粉」とは、穀類植物の可食の粒または種子の全体を粉状にしたものをいう。穀粒粉としては、例えば、小麦粉、ライ麦粉などが挙げられるが、これに限定されない。
本明細書において「酵母」とは、大部分の生活環を単細胞で経過する真菌類をいう。代表的な酵母としては、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属に属する酵母、特にSaccharomyces cerevisiae、Saccharomyces ludwigii、およびSchizosaccharomyces pombeが挙げられる。
本明細書において「パン酵母」とは、パンの製造に使用される、Saccharomyces cerevisiaeに属し、パンの製造に使用される酵母をいう。
本明細書において使用する場合、用語「発酵」とは、配合原材料中の物質の少なくとも一部が、菌によって分解される現象をいう。
本明細書において使用する場合、用語「配合原材料」とは、パン類のような発酵食品の発酵のために使用される原材料の中で、菌(例えば、パン酵母および乳酸菌など)以外のものをいう。
本明細書において、「フラボノイド類」とは、植物に含まれる色素成分の総称でポリフェノール化合物の中の一群の総称をいう。
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。
本発明において培地中に添加される糖としては、グルコース、タロース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、およびこれらの混合物、ならびにデキストロースが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、合成培地および半合成培地に添加されるリン酸源としては、KHPO、KHPO、KPOなどのカリウム塩およびその水和物、NaHPO、NaHPO、NaPOなどのナトリウム塩およびその水和物、ならびに他の金属塩およびその水和物が挙げられる。好ましくは、リン酸源は、KHPOである。
本明細書において、「カザミノ酸」とは、カゼインの加水分解物をいう。この加水分解は、酸加水分解であっても、酵素による加水分解であってもよい。
本明細書において、「発酵能」とは、酵母を培養した場合に、糖質を無酸素的に分解した代謝産物を生じる能力をいう。酵母の発酵には、代表的には、アルコール発酵、グリセロール発酵などが挙げられるが、これらに限定されない。発酵能を示す指標としては、例えば、低糖条件における発酵能(F10)、高糖状態における発酵能(F40)、およびマルトース発酵力(Fm)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの発酵能の指標は、酵母の流加培養によって測定される。また、パン生地から生じる炭酸ガスを測定して、パン生地の発酵力を測定するファーモグラフという方法もまた、発酵能を測定するために、使用可能である。本明細書において、「発酵能」は、「発酵力」と互換可能に使用される。
本明細書において、「流加培養」とは、酵母の培養期間中に、ある特定の物質を培養槽に供給し、培養産物を培養終了時点まで培養槽の外に抜き出さない、培養方法をいう。流加培養としては、供給する物質を連続的に加える連続流加培養と、不連続的に加える逐次流加培養が挙げられる。また、流加培養の途中で、必要に応じて、培養液を取り出してもよい。
本明細書において使用する場合、「合成培地」とは、酵母エキスも、廃糖蜜も含有しない培地をいう。合成培地としては、SD培地、および改変SD培地が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において使用する場合、「SD培地」とは、以下と同等の組成を有する培地をいう:
・Yeast Nitrogen Base without amino acids
without ammonium sulphate(Difco社、Detroit,MIまたは同等品) 1.7g/L
・硫酸アンモニウム 5g/L、および
・デキストロース 20g/L。
本明細書において使用する場合、「改変SD培地」とは、以下と同等の組成を有する培地をいう:
・ビオチン 60μg/L、
・パントテン酸カルシウム 2400μg/L、
・葉酸 12μg/L、
・イノシトール 12000μg/L、
・ナイアシン 2400μg/L、
・p−アミノ安息香酸 1200μg/L、
・塩酸ピリドキシン 2400μg/L、
・リボフラビン 1200μg/L、
・塩酸チアミン 2400μg/L、
・HBO 3000μg/L、
・CuSO 240μg/L、
・KI 600μg/L、
・FeCl 1200μg/L、
・MnSO 2400μg/L、
・NaMoO 1200μg/L、
・ZnSO 2400μg/L、
・MgSO 3g/L、
・CaCl 600mg/L、
・NaCl 600mg/L、
・KHPO 6g/L、
・硫安 5g/L(または尿素2.25g/L)、および
・グルコース 30g/L。
当業者は、上記のような周知の培地の組成を利用して、本発明に従ってアミノ酸、ビオチン、カザミノ酸、および/または廃糖蜜画分を添加することによって、本発明の合成培地または半合成培地を容易に作製することができる。
本明細書において使用する場合、「半合成培地」とは、合成培地に、廃糖蜜から精製または部分精製した成分または画分を添加した培地をいう。
本明細書において使用する場合、「糖蜜培地」とは、廃糖蜜のような糖蜜を、精製することなく使用して調製された培地をいう。
本明細書において使用する場合、「精製」とは、廃糖蜜に含まれる特定の物質を、天然の状態の廃糖蜜中においてその物質とともに存在する他の物質と分離する方法をいう。従って、本明細書において使用する場合、「精製」は、「部分精製」を包含する。また、本明細書において使用する場合、用語「分画」は「精製」と互換可能に使用される。
本明細書において使用する場合、「有効成分」とは、パン酵母の培養において、合成培地に添加した場合に、製造されるパン酵母の増殖速度・発酵能を改善するのに有効な成分をいう。
本明細書において使用する場合、元の糖蜜から得られる所定の化合物についての「糖当たりで元の糖蜜に含まれるn倍量」とは、100gの元の糖蜜に含まれる糖の量をx[g]、100gの元の糖蜜に含まれる所定の成分の量をy[g]、培地に添加する糖の総量をs[g]とした場合に、以下の式
n×y÷x×s
によって計算される量[g]をいう。例えば、元々の精製源である廃糖蜜に糖が35%含まれていると仮定し、100gの廃糖蜜から所定の化合物について3.5gの画分が単離された場合、糖1gあたりの画分の収量は0.1gとなる。従って、合成培地にその画分を「1倍量」添加する場合、添加する糖1グラムあたり0.1gを添加することになる。
(基本技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、微生物学、発酵工学、生化学、遺伝子工学、分子生物学、遺伝学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。
本明細書において使用される代表的な基本技術を以下に説明するが、これらはあくまで例示であり、本発明が以下の説明に限定されることは意図しない。
(流加培養)
流加培養の条件は、当該分野において周知である。代表的な流加培養を以下に例示するが、流加培養の条件は、これに限定されない。流加培養条件を適宜変化させることは、当業者が容易になし得ることである。
例えば、代表的な流加培養は、YMPD培地(0.3% イーストエキス、0.3% マルトエキス、0.5% ペプトン、3% グルコース)で培養した酵母菌体1.2gを種酵母として、所定の培地に播種した後、糖蜜溶液(260g/Lの糖に相当する廃糖蜜に19.49g/Lの尿素、および52g/LのKHPOを添加した溶液)を用いて30℃で連続流加することによって行われる。
流加培養の条件は当該分野において周知であり、当業者は、流加培養条件を適宜選択・改変し得る。
(培養した酵母の回収)
本発明の培養培地を用いて増殖した酵母は、当該分野において周知の種々の方法によって回収することができる。このような回収方法としては、例えば、遠心分離、自然沈降、濾過(濾紙または合成フィルターなどを用いる)などが挙げられるが、これに限定されない。
(発酵能の測定)
本明細書において、発酵能を測定する場合には、例示的に、低糖条件における発酵能(F10)、高糖状態における発酵能(F40)、およびマルトース発酵力(Fm)を指標として用いたが、これら以外の指標も、当業者には周知である。また、パン生地から生じる炭酸ガスを測定して、パン生地の発酵力を測定するファーモグラフという装置を用いる方法もまた、発酵能を測定するために、使用可能である。
説明のために、これらの指標の代表的な測定方法を以下に説明するが、本明細書において使用される発酵能の測定方法は、以下に限定されない。
(発酵能の測定:低糖条件における発酵能(F10)の測定)
低糖条件における発酵能(F10)とは、10%(重量/容量)のスクロース溶液中で、30℃、120分間発酵させた際の炭酸ガス発生量である。
(発酵能の測定:高糖状態における発酵能(F40)の測定)
高糖状態における発酵能(F40)とは、40%スクロース溶液中で、30℃、120分間発酵させた際の炭酸ガス発生量である。
(発酵能の測定:マルトース発酵力(Fm)の測定)
マルトース発酵力(Fm)とは、5%マルトース溶液中で、30℃、120分間発酵させた際の炭酸ガス発生量である。この場合、Fmを、Fm(5)とも記載する。
(高糖生地発酵力の測定)
生地糖配合対小麦20〜40%の生地におけるガス発生量をファーモグラフ(ATTO社、東京
)により測定する。
小麦を100%とした場合の相対量(重量%)を、砂糖 30%、塩 0.5%、イースト 4%、ショートニング 6%、脱脂粉乳 2%、水 52%として、これらを配合し、3分間ミキシングを行い、ミキシング終了時の温度が28℃になるようにし、その後40gに生地を分割する。Fermograph(ATTO社)にて30℃ 2時間、生地のガス発生量を測定し、高糖生地発酵力(ml/120分)とする。
(パン生地の製造方法)
パン生地の製造方法としては、例えば、直捏生地法、中種生地法、および、液種生地法が挙げられるが、これに限定されない。
直捏生地法は、配合原材料の全てを菌とともに混捏した生地を用いる方法である。中種生地法は、配合原材料の一部と菌とで生地種を作り、発酵させ、そして、この発酵産物を、残りの配合原材料に加えて生地を生成する方法である。液種生地法は、配合原材料の一部と菌との混合液(液種)を調製して、この混合液を、残りの配合原材料に添加して生地を生成する方法である。
例えば、中種生地法を用いる場合は、限定されることはないが、配合原材料の一部と菌を混捏した生地を調製して、この生地を発酵させ、その発酵産物を、残りの配合原材料に添加して、さらに発酵させる。各発酵プロセスの温度は、代表的には、常温(例えば、23〜30℃)で行われる。上記中種生地法において、発酵産物を、残りの配合原材料に添加する際には、発酵産物から菌を分離しても、しなくてもよい。
例えば、液種生地法を用いる場合は、限定されることはないが、配合原材料の一部と菌を混捏した生地を懸濁液として調製して、この溶液を発酵させ、その発酵溶液を、残りの配合原材料に添加して、さらに発酵させる。各発酵プロセスの温度は、代表的には、常温(例えば、23〜30℃)で行われる。上記液種生地法において、発酵溶液を、残りの配合原材料に添加する際には、発酵溶液から菌を分離しても、しなくてもよい。
上記方法によって製造されたパン生地を発酵させ、焼成することによってパンを製造する。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
(実施例1:糖蜜からの有効成分の精製)
(第1段階:Fr.15の取得方法)
以下の手順で、糖蜜からの有効成分を含む画分を得た:
・オリエンタル酵母社東京工場の調整糖蜜を水で3倍に希釈した
・糖蜜希釈液1LをアンバーライトXAD−2(オルガノ社、東京都江東区新砂一丁目2番8号)に吸着させ、10倍量の水で洗浄後、5倍量の40%メタノールで溶出した
・ロータリーエバポレーターでメタノールを除去した
・メタノール除去後の溶液を限外ろ過(分画分子量5000)に供し、通過した画分をエバポレーターに供して、水分の一部を除去した
・上記溶出画分を、ゲルろ過用のShodex GF−310 HQ(昭光通商(株) 東京都港区芝公園1−7−13)、にて分取した(1ml/分、溶出時間20〜21分)。
・分取した画分中、高糖生地発酵力を示した画分を、Fr.15と称した。
(第2段階:ODSカラムを用いるFr.15画分のさらなる精製)
以下の手順で、上記Fr.15画分をさらにODSカラムにて精製した。具体的な精製条件は、以下のとおりである:
・カラム YMC ODS−A 内径4.6×長さ250mm(株式会社ワイエムシィ、京都市下京区五条通烏丸西入醍醐町284番地YMC烏丸五条ビル)。
・移動相 A=0.05%ギ酸、B=アセトニトリル:B 10%(30分)、10%〜80%(70分、直線勾配)
・流速 1.0/分
・検出 PDA(フォトダイオードアレイ検出器、UV210nm)を用いた。
この精製工程の結果を図1に示す。図1に示すように、Q−1からQ−7の7つのピークが検出された。そこで、これらピーク画分の各々を、微量流加培養試験系を用いて評価した。具体的には、以下の手順を用いた:
・Q−1からQ−7のピーク画分について、糖当たりで元の糖蜜に含まれる9.8倍量を合成培地改変YNB(ビオチン 60μg、パントテン酸カルシウム 2.5mg、葉酸
13μg、イノシトール 13mg、ナイアシン 2.5mg、p−アミノ安息香酸 1.3mg、塩酸ピリドキシン 2.5mg、リボフラビン 1.3mg、塩酸チアミン
2.5mg、HBO 4mg、CuSO 240μg、KI 600μg、FeCl 1.3mg、MnSO 2.5mg、NaMoO 1.3mg、ZnSO 2.5mg、MgSO 4g、CaCl 600mg、NaCl 600mg、KHPO 460mg、硫安 5g、グルコース 30g)に初期添加して培養した。培養後得られた菌体の高糖生地発酵力(ml/120分)を測定したところ、Q−5ピーク画分では、合成培地改変YNBの試験区と比較して高糖生地発酵力の上昇効果が観察された。そこで次に、合成培地改変YNBにQ−5ピーク画分(糖当たりで元の糖蜜に含まれる9.8倍量、5.3mg)を添加した場合(表1でのM.YNB+Q−5)と、合成培地改変YNB(表1でのM.YNB)とについて、菌体炭水化物含量;CH(%)、細胞内トレハロース含量;Treh(%)、菌体窒素含量;N(%)を分析した。その結果を、表1に示す。
表1に示されるように、有意に高い高糖生地発酵力を示したQ−5ピーク画分は、炭水化物含量、細胞内トレハロース含量、および、対糖収率のいずれについての上昇効果を示さなかった。Q−5以外のいずれか1つのピークをM.YNBとともに用いた場合、これら
の上昇効果は再現されなかった。また、Q−1〜Q−7単独では炭水化物含量、細胞内トレハロース含量、および、対糖収率のいずれについての上昇効果を示さなかった。
これら結果から、炭水化物含量、細胞内トレハロース含量、および、対糖収率の上昇に関与する化合物が複数存在し、それらが協同して作用することによって効果を奏するが、ODSカラムによる分画によりこれら複数の化合物が分散したために効果が確認されなかったと考えられる。一般に、細胞の状態に変化を生じる因子は、必ずしも単一の化合物であるとは限らず、むしろ、上記の炭水化物含量、細胞内トレハロース含量、および、対糖収率の場合のように、複数の因子が協同して作用した結果である場合が多い。そのため、細胞に特定の作用を起こす因子を単一の化合物レベルで同定することは、困難である。また、単一の化合物が細胞に特定の生理作用をもたらすことは、予想外の効果であるといえる。
(第3段階:Q−5のさらなる精製)
Q−5のピーク画分を拡大すると、大きなピークの前後に小さいピークが含まれており、従って、Q−5は、完全には精製されていないことが確認された。そこで、Q−5ピーク画分をさらに精製するために、Q−5フラクションをODSカラム(YMC ODS−A 内径4.6mm×長さ250mm)(株式会社ワイエムシィ、京都市下京区五条通烏丸西入醍醐町284番地YMC烏丸五条ビル)を用いて、0.1%ギ酸を含む8%アセトニトル溶液で分離した。Q−5のフラクションで最も大きいピークを、画分Q−5−1として単離した。画分Q−5−1が1.7mg得られた。得られた物質をCDODに溶解させてNMR(JOEL ECA600)、ESI−MS(Applied Biosystems API200)、TOF−MS(Applied Biosystems Voyger−DE STR)、FT−IR(JASCO FT/IR−680plus)を用いて測定した。この物質のH−NMR(CDOD)測定の結果、図2に示したようにδ3.83とδ3.74に−OMeに由来するケミカルシフトが得られた。また、δ6.71に芳香環に属するプロトンのケミカルシフトが得られた。13C−NMR(CDOD)測定の結果、図3に示したように芳香環があり、置換基が対象に配置していることが判明した。また、ESI−MS(ポジティブ)を測定したところ図4に示したように、親イオンのマススペクトルは確認できなかったが、m/z 281.1[M+Na]のマススペクトルや各フラグメントのマススペクトルが得られた。
従って、上記化合物は、以下の特徴を有する:
性状:白色無定型物質
質量分析:ESI−MS(ポジティブ)m/z 281[M+Na]
赤外吸収スペクトル(cm−1):3411、1593、1125。
核磁気共鳴スペクトル(H−NMR、600MHz、CDOD) δ:6.71(2H,s,H−2,6),4.58(1H,d,H−7),3.83(6H,s,H−10,12),3.74(3H,s,H−11),3.66(1H,m,H−8),3.46(2H,dd,H−9)
核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR、600MHz、CDOD) δ:155.1
(C−3,5),140.5(C−1),139.0(C−4),105.9(C−2,6), 78.1(C−8),76.0(C−7),65.0(C−9)。
以上の結果から、Q−5−1の分子式はC1218(m/z 258.11)であり、その構造式は以下に示したように芳香族環に3個のメトキシ基とグリセロールが結合した1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールであると結論付けられた。
(実施例2:Q−5−1画分の化合物の合成)
実施例1において構造決定された化合物が、実際に高糖生地発酵力上昇の原因であることを確認するために、以下の手順で1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを化学合成し、そしてその活性を確認した。
(第一工程)
窒素雰囲気下、200mlフラスコ中の3,4,5−トリメトキシケイ皮酸 5.49gを含むTHF溶液40mlにトリエチルアミン2.38g(23.50mmol)を加え氷浴で−10℃まで冷却した。その溶液にエチルクロロアセテート2.55g(23.50mmol)を滴下し同温度で1時間攪拌した。窒素雰囲気下でろ過し、ろ液を濃縮して次反応に使用した。
(第二工程)
第一工程で得られた粗生成物を13.5mlのメタノールに溶解し氷浴で冷却しながら、水素化ホウ素ナトリウム3.33g(88.03mmol)を徐々に加えた。その後、6M−HClを加えて反応を停止させ、クロロホルムで抽出を行った。得られた粗生成物は、ヘキサン:酢酸エチル=10:1のカラムクロマトグラフィーで精製した。その結果、二工程の合計収率は67%であり、3.45gを得た。
(第三工程)
50mlのフラスコにOsO(オスミウム(VIII)オキシド、微小カプセル化;和光純薬製MC)1g、および、第二工程で得られた化合物2.94g(13.11mmol)、および、1−メチルピロリジノンン3.23g(27.53mmol)を仕込みアセトン−HO−MeCNの1:1:1溶液20mlに懸濁した。室温で1日攪拌した後、ろ過、濃縮し粗生成物を得た。精製はCHCl:MeOH=10:1のカラムクロマトグラフィーで行い、収率30%で1.02gの目的物を得た。さらに再精製を調製用TLCで行い500mgの目的物を得た。上記合成スキ−ムを、図5に概説する。
上記手順にて合成した化合物について、NMR測定を行い、実施例1において精製された化合物のNMRと同一であることを確認した。
(実施例3:1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールの高糖生地発酵力の測定)
Q−5−1画分に含まれる化合物である1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールについて、その高糖生地発酵力を確認した。
実施例1においてQ−5画分について行った実験と同様の実験を、実施例2において合成した1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールについて行った。その結果を表2に示す。
上記の表中、ネガティブコントロール(標中の「添加量:なし」)としては、合成培地改変YNBを用いた。培地に添加する糖1gあたりに0.12mgの1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを添加した場合の添加量を「×1」とした。培地100mlに糖を4.34g添加して、実験を行った。
上記の結果から明らかなように、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールは、極微量培養培地に添加しただけでも、高糖生地発酵力の向上効果を発揮した。
以上の結果から、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールは、高糖生地発酵力向上効果を奏する、廃糖蜜に含まれる成分であり、非常に低濃度で高糖生地発酵力向上効果を奏することが実証された。
(実施例4:1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを豊富に含む画分の同定)
1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールの単離をより簡便にするために、以下のように、糖蜜より1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを高純度かつ豊富に含む画分を同定した。
糖蜜(翔南製糖社製)を出発原材料として用いた。糖蜜をBrix30%に希釈し(糖蜜をレフブリックス計(DIGITAL REFRACTOMOETER PR−101:株式会社アタゴ:東京都板橋区本町32−10)で30%になるように希釈)、遠心分離(10,000rpm,20分)により不溶残渣を除いた上清液をF−0とし、機能成分分離の試料とした。F−0画分14,000mlを合成吸着剤であるDAIAION HP20(三菱化学社製)に吸着させ水で十分に洗浄し、非吸着画分を集めた。これを減圧濃縮してF−1画分5,400mlを得た。次に、10%イソプロパノールで溶出し、この画分をF2−1画分とした。さらに、30%イソプロパノールおよび50%イソプロパノールで溶出させ、それぞれを減圧濃縮後、凍結乾燥してF2−2画分、F2−3画分とした。最後に、50%イソプロパノール+2%アンモニア水で溶出された画分をF2−4とした。F1は溶液状の画分で、F2−1〜F2−4は溶出後に凍結乾燥を施した粉末状の画分である。F2−1画分とF2−2画分との合計の収量は325gであり、F2−3画分の収量は49.9gであった。これら画分中の1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオール濃度について試験したところ、F2−3画分に45.5μg/g含まれていた。従って、F2−3画分を、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオール画分として用いて、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールの特性を試験することが可能である。
(実施例5:1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを添加した培地を用いて製造されたパン酵母を用いて製造されたパンの特性)
実施例4で調製した1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオール画分を用いて、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを添加した培地を用いて製造されたパン酵母を用いて製造されたパンの特性を確認した。
30Lジャー培養に使用したM.YNBの培地組成は、以下のとおりである:
・p−アミノ安息香酸 56mg、
・ビオチン 2.8mg、
・パントテン酸カルシウム 112mg、
・葉酸 0.6μg、
・イノシトール 560mg、
・ナイアシン 112mg、
・塩酸ピリドキシン 112mg、
・リボフラビン 56mg、
・塩酸チアミン 112mg、
・HBO 140mg、
・CuSO・5HO 17.5μg、
・KI 28mg、
・FeCl 56mg、
・MnSO・5HO 179mg、
・NaMoO・2HO 66mg、
・ZnSO・7HO 199mg、
・MgSO・7HO 287g、
・CaCl 28g、
・NaCl 28g、
・KHPO 39.3g、
・尿素 88.7g、および
・グルコース 1400g。
ビタミン・ミネラルの添加量は微量流加培養試験系と糖当たりの量が同一となるようにした。グルコースのみ流加添加し、その他成分は初期添加した。半合成培地では、F2−3を糖当たりで元の廃糖蜜に含まれる量(26.0g)を、M.YNBに初期添加した。また、添加量を元の廃糖蜜の1/5倍量(5.2 g)とした試験についても行った。F2−3は不溶性成分を含むので、水に懸濁後遠心分離し、上清のみを添加した。外国糖蜜(フィリピン、インドネシア、およびタイなどの東南アジア製)の試験区では、糖蜜をM.
YNBと糖量が同一となるように流加添加して培養を行った。
4種類の培地を用いて培養後に得られた菌体を使用して菌体組成分析、生地発酵力試験、製パン試験を行った。生地発酵力試験は糖濃度30%の高糖生地発酵力のみならず、糖濃度0,5,15,25,40%の配合についても試験を行った。また、培養後、菌体を除いた培養廃液のBOD、COD、色度を分析した。
製パン試験の配合は、以下のとおりである(対粉100%):
・小麦粉 100
・イースト 3(オリエンタル酵母工業、東京都板橋区小豆沢3-6-10)
・食塩 1
・砂糖 25
・脱脂粉乳 3(全国酪農協会、東京都渋谷区代々木1丁目 37−20 )・ショートニング 10(製品名クスコロワイヤル、ミヨシ油脂株式会社、東京都葛飾区堀切4-66-1)
・水 61
・製パン改良剤 0.1(製品名C-アンティ オリエンタル酵母工業、東京都板橋区小豆沢3-6-10)
製パンの製造工程は、以下のとおりである:
・ミキシング 17分間
・捏上温度 25℃
・フロアタイム 60分間(28℃)
・分割重量 220g(ワンローフ)、50g(コッペパン)
・ベンチタイム 20分間(室温)
・ホイロ発酵 35℃
ワンローフ型上1cmまで
コッペパン75分間
・焼成条件 ワンローフ 上火 175℃ 20分間
下火 190℃
コッペパン 上火 200℃ 9分間
下火 190℃。
コッペパンの体積は3Dレーザースキャナ(ASTEX)を用いて測定した。ホイロ時間はワンローフの型上1cmとなるまでの時間を測定した。BOD、COD、色度は常法に従って分析を行った。
(結果)
表3に培養後得られた菌体を分析した結果を示した。
培養終了時のpHを測定したところ、M.YNBの試験区は3.39で、M.YNBにF2−3を添加した試験区の値が3.57、3.48であり同等の値を示した。外国糖蜜の試験区と比較すると、M.YNBの試験区およびF2−3を添加した試験区は低いpHを示したが、増殖・菌体性能に影響を及ぼすほど低い値ではなかった。
対糖収率では、M.YNBの試験区とM.YNBにF2−3を添加した試験区の値が同等の値であり、F2−3の添加効果は観察されなかった。しかし、倍加時間では、M.YNBの試験区と比較して、F2−3を5.2g添加した試験区では0.6時間短縮していた。さらにF2−3を26g添加した試験区では、倍加時間がM.YNBの試験区と比較して約1.0時間短縮され、外国糖蜜の試験区と同等の値を示した。以上の結果より、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールは増殖速度上昇効果を有すると考えられた。
菌体組成では、M.YNBの試験区と比較してF2−3の添加により細胞内トレハロース含量が上昇することが明らかとなった。F2−3添加により細胞内トレハロース含量が上昇する現象は微量流加培養試験系においても観察された。インベルターゼ活性・Fm (7)はM.YNBの試験区と比較してF2−3の添加により低下することが明らかとなった。また、F2−3の添加量が増加するほど、インベルターゼ活性・Fm(7)は低下する現象が観察された。
糖濃度0%の生地試験では、F2−3を添加した試験区はM.YNBの試験区と比較して低い発酵力を示した。F2−3にはマルトース発酵を阻害する成分が含まれていると考えられた。糖濃度5〜30%の生地試験においては、F2−3を添加した試験区はM.YNBの試験区と比較して同等の値を示した。微量流加培養試験系においては、糖濃度30
%の高糖生地試発酵力試験で、F2−3を添加した試験区はM.YNBの試験区と比較して明らかに高い値を示した。この点は微量流加培養試験系と30Lジャー培養試験系で類似性が観察されなかった。糖濃度40%の生地発酵力では、F2−3を添加した試験区はM.YNBの試験区と比較して明らかに高い値を示すことが明らかとなった。また、菓子パン配合の製パン試験では、F2−3を26g添加した試験区はM.YNBの試験区および外国糖蜜の試験区と比較して明らかに高いホイロ発酵力を示すことが明らかとなった。外国糖蜜の試験区はM.YNBの試験区と比較して生地の糖濃度が上昇するほど、発酵力が低下する現象が観察された。以上の結果から、F2−3添加により、生地中の糖濃度が上昇しても発酵力が低下しないことが明らかなり、1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールは浸透圧ストレス耐性を上昇させる活性を有すると考えられた。
培養廃液のBODを分析したところ、M.YNBの試験区は外国糖蜜の試験区と比較して約1/5と明らかに低い値を示した。CODも同様にM.YNBの試験区は外国糖蜜の試験区と比較して約1/12と明らかに低い値を示した。F2−3を添加した試験区はM.YNBの試験区と比較して同等の値を示した。糖蜜に含まれる色素に特有なO.D.470nmの色度を測定したところ、外国糖蜜の試験区と比較してM.YNBの試験区は明らかに低い値を示した。F2−3を添加してもM.YNBの試験区と比較して同等の色度を示した。
以上の結果から1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを添加した半合成培地培養系は廃糖蜜培養系と比較して、BOD・COD・色度が明らかに低い値を示し、廃糖蜜培養系と比較して培養廃液の処理コストが大幅に低減できると考えられた。
(実施例6:1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを添加した培地を用いるパン製造による環境負荷の低減)
1−(3,4,5−トリメトキシフェニル)プロパン−1,2,3−トリオールを添加した培地を用いて、微量流加培養系を用いて、実際の工場培養に近い30Lジャー培養系で評価し、半合成培地培養系によるパン酵母を製造し、その製造廃液の環境負荷を評価した。
(方法と結果)
培養廃液のBODを分析したところ、M.YNBの試験区は外国糖蜜の試験区と比較して約1/5と明らかに低い値を示した(図6)。CODも同様にM.YNBの試験区は外国糖蜜の試験区と比較して約1/12と明らかに低い値を示した。F2−3を添加した試験区はM.YNBの試験区と比較して同等の値を示した。糖蜜に含まれる色素に特有なO.D.470nmの色度を測定したところ、外国糖蜜の試験区と比較してM.YNBの試験区は明らかに低い値を示した。F2−3を添加してもM.YNBの試験区と比較して同等の色度を示した(図7)。以上の結果からF2−3を添加した半合成培地培養系は廃糖蜜培養系と比較して、BOD・COD・色度が明らかに低い値を示し、廃糖蜜培養系と比較して培養廃液の処理コストが大幅に低減できると考えられた。
(実施例7:フラボノイド類)
サトウキビ及び廃糖蜜に豊富に含まれるフラボノイド類がパン酵母培地の補添物として有用化否かについて、実験を行った。実験試料として市販されているフラボノイドを6種購入し、ミニ流加培養法による機能評価を実施した。
(方法)
フラボノイド類として、アルブチン(フラボノイドではないが配糖体のアグリコン)、(−)−没食子酸エピガロカテキン(フラボノイド、カテキン類)、ルテオリン(フラボノイド、フラボン類)、アピゲニン(フラボノイド、フラボン類)、ガラクチノール(フラボノイドでないが、配糖体)、ペラルゴニジン(フラボノイド、アントシアニン類)を用いて、過去の報告から、廃糖蜜に含まれていると予想される量、および、その10倍量をM.YNBに初期添加して微量流加培養試験を行った。
(結果)
各フラボノイド類を添加して微量流加培養を行い、得られた菌体を用いて、菌体炭水化物含量;CH(%)、細胞内トレハロース含量;Treh(%)、菌体窒素含量;N(%)、対糖収率(%)、高糖生地発酵力について分析を行った結果を、以下の表4に示した。
アルブチンは90mgの添加により、細胞内トレハロース含量、対糖収率、高糖生地発酵力上昇効果が確認された。アルブチンは、チロシナーゼ(カテコールオキシダーゼ)の活性を阻害するが、これにより、酵母のストレス耐性が上昇するメカニズムは不明である。また、エピガロカテキン90mg添加により、細胞内トレハロース含量、対糖収率、高糖生地発酵力上昇効果が確認され、ペラルゴニジン(アントシアニンのアグリコン)5 mg添加により、高糖生地発酵力上昇効果が観察された。エピガロカテキン、ペラルゴニジンはいずれもポリフェノール類であり、これら物質の抗酸化作用により、酵母のストレス耐性が上昇した可能性が考えられた。ガラクチノールは164 mgの添加により、対糖収率上昇効果が観察された。ガラクチノールはmyo−イノシトールにガラクトースが結合した配糖体であるので、対糖収率の上昇はイノシトールによるものであると示唆された。
以上の結果から、フラボノイド類のいくつかは機能性成分として機能することが示された。特定の化学構造を有するフラボノイドのみが機能性を示したことから、パン酵母製造における機能性発現には特異性が高いことが考えられた。また、活性は90mg以上の比較的高度で添加して場合に検出された。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明によって提供される化合物を用いて、廃糖蜜由来の画分を用いない酵母培養培地、および廃糖蜜由来の画分の添加量を低減した酵母培養培地、ならびに酵母培養培地補添物が提供される。このような化合物用いる酵母の培養方法および製造方法、ならびに生産された酵母も提供される。さらに、このような酵母を用いる、パンの製造方法および製造されたパンもまた、提供される。

Claims (1)

  1. 本明細書に記載の発明。
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