JP2012098553A - 結像光学系 - Google Patents

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隼佑 長谷
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Abstract

【課題】従来技術では、複雑な内部機構を設けない簡易的な構成では、物体位置の変動によるコマ収差と像面湾曲の増加を抑制することはできなかった。
【解決手段】以上の課題を解決するために、本発明の結像光学系は像面が射出瞳を中心とする球面形状であることを特徴としている。さらに好ましくは、本発明の結像光学系は、入射主光線の光軸となす角、光学系の焦点距離、射出瞳から像までの距離、像面の高さが物体距離移動による像面湾曲の変動を抑制するための所定の関係式を略満たすことを特徴としている。さらに好ましくは、本発明の結像光学系は、射出瞳と後側主平面が略一致することを特徴としている。
【選択図】図1

Description

本発明は、結像光学系に関するものである。特に、コンパクトな撮影レンズにも応用可能な発明である。
結像光学系においては一般的に物体位置が変動すると収差が発生する。このため、最短撮影距離より近くの物体の像は、いくら光学系と像面の間隔を変化させてピントを合わせようとしてもぼけてしまう。
そこで、従来においては、例えば特許文献1に開示されているように、最短撮影距離を小さくするために光学系の中の一部のレンズを動かす方式(内焦式)が採用されてきた。しかしながら、内焦式光学系は内部機構が複雑であり、その配置スペースも大きくなってしまう。このため、内焦式光学系は、携帯電話などのコンパクトな撮影レンズに応用することが難しかった。
一方、上記のような複雑な内部機構を設けずに物体位置の変動による収差を抑制するための技術も開示されている。例えば、特許文献2においては、物体位置の変動による像面湾曲の変動を適切に割り振る処理を行うことにより、焦点調整機構を設けることなく近点側と遠点側において画面周辺部での極端な像の劣化を抑制する技術が開示されている。しかしながら、上記特許文献2などの従来技術では物体位置の変動によるコマ収差を抑制することはできなかった。
特開平8−313803 特開2009−80413
そこで本発明は、複雑な内部機構を設けない簡易的な構成によってコマ収差を抑制可能な結像光学系を実現することを目的とするものである。
上記目的を達成するために、本発明の結像光学系は像面が射出瞳を中心とする球面形状であることを特徴とする。さらに好ましくは、本発明の結像光学系は、入射主光線の光軸となす角、光学系の焦点距離、射出瞳から像までの距離、像面の高さが物体距離移動による像面湾曲の変動を抑制するための所定の関係式を略満たすことを特徴とする。さらに好ましくは、本発明の結像光学系は、射出瞳と後側主平面が略一致することを特徴とする。
本発明により、光学系全体を繰り出すだけの簡易的な構成で物体位置の変動によるコマ収差の発生を抑制することができるため、結果として最短撮影距離を短くすることが可能になる。これにより、内部機構を複雑にできないコンパクトな撮影レンズなどへの応用が可能になる。
遠方物体の像が射出瞳を中心とした球面上に形成されている様子を示した図 メリジオナル光線の周辺光線の結像のずれの様子を示す図 遠方物体の像が射出瞳を中心とした球面状に形成されている状況において物体が移動したときの様子を示した図 軸外の微小物体に関して平面状の像面における大きさと射出瞳を中心とした球面形状の像面における大きさの関係を示す図 像面が平面である結像光学系の光路図 図5の結像光学系について、物体距離∞の場合と物体距離100mmの場合のスポットダイアグラムを示す図 像面が射出瞳を中心とした球面形状である結像光学系の光路図 図7の結像光学系について、物体距離∞の場合と物体距離100mmの場合のスポットダイアグラムを示す図 図5の結像光学系のレンズデータを示す図 図7の結像光学系のレンズデータを示す図
以下に、本発明の実施形態を説明する。実施形態1は主に請求項1に記載の発明に関し、実施形態2は主に請求項2、3に記載の発明に関し、実施形態3は主に請求項4に記載の発明に関する。
<実施形態1>
<構成>
本実施形態の結像光学系は、像面が射出瞳を中心とする球面形状であることを特徴とする。射出瞳を中心とする球面形状の像面とすることにより、結像光学系における物体移動によるコマ収差の増加を抑制することが可能になる。
ここで、射出瞳とは像界から見た絞りの像であり、射出瞳を中心とする球面形状とは射出瞳と光軸との交点を曲率中心とする球面形状をいうものである。
<概論>
まず、射出瞳を中心とする球面形状の像面とすることによって物体移動によるコマ収差の増加が抑制されるメカニズムについて、以下図を用いて簡単に説明する。図1は、遠方物体の像が、射出瞳を中心とした球面上に形成されている様子を示した図である。この図において、遠方にある物点Aは像点Bに結像する。この状況において、物点Aが物点A′に移動するように物体位置を変動させると、像点Bは主光線上を動いて像点B′に移動する。しかしながら、像が作られる面に対して垂直に光が入射することから上下の光線の対称性は崩れず、コマ収差が発生しないことになる。
<収差論>
図1で示したメカニズムについて以下収差論を用いて説明する。レンズの構成が変化しない全体繰り出し式合焦機構の光学系においては、物体平面が移動した後の3次のコマ収差係数IIは次式で表せる(レンズ設計法(松居吉哉著)P.97)。
Figure 2012098553
ここで、κとδは物体移動のパラメータ、II、III、Vはそれぞれコマ収差係数、非点収差係数、歪曲収差係数を表し、IS、II S、IVS はそれぞれ瞳の球面収差係数、瞳のコマ収差係数、瞳の球欠像面湾曲収差係数を表す。
物体移動によるコマ収差の増加を抑制するためには数1の式において 2III+IV S =0 , V+2IIS =0, IS =0 とすることが好ましい。瞳の球面収差への要求 IS=0 は、他の収差とは全く独立に満足させることが可能である。δに関しては、低次の移動に関する
Figure 2012098553
を満足する事がもっとも重要である。一般に非点収差係数IIIは0を目標とするものであるから、IVS=0 を満たす条件を考えることになる。
像面湾曲に関して、瞳の収差係数と物体の収差係数は以下の関係を持っている。
Figure 2012098553
g は入射瞳から物体までの距離(左方が負)、g' は射出瞳から像までの距離を、N, N' は物界の屈折率、像界の屈折率をそれぞれ表す。
一般にN=N´=1であり、無限遠方に物体がある時を基準とすれば、g=∞である。よってIVS=0 となるためには、
Figure 2012098553
となる。これが物体移動の低次のコマ収差発生を無くすための条件である。
数4の式を満たす像面湾曲の形状について考える。図2は、メリジオナル光線の周辺光線の結像のずれの様子を示す図である。この図において、メリジオナル光線の周辺光線の結像のずれをΔx, Δyとすると、像面湾曲による収差量 Δy は次式で表される。
Figure 2012098553
ここで、 g"は射出瞳から像面までの距離であり、物体が無限遠方にある時はg"=N'fとなる。また、ωは入射光線の傾きである。Rは主光線を基準としたときの主平面上の光線の位置を示す。
さらに、III=0, IV= 1, N=N '=1, g '=f の条件を与えると、
Figure 2012098553
となる。
また、図2より、
Figure 2012098553
の関係式が成り立つ。
よって、数6、数7の式から
Figure 2012098553
となる。これは像面が射出瞳を中心とした球面になる事を示している。
以上のことから、射出瞳を中心とした球面形状の像面とすることにより、物体平面が移動した後の3次のコマ収差係数の増加を抑制することが可能になり、結果として物体移動によるコマ収差の増加を抑制することが可能になる。
なお、本実施形態の結像光学系においては、像面が射出瞳を中心とする球面形状となることを理想としているが、射出瞳を中心とする球面形状に像面が完全に一致することを要求するものではない。例えば、射出瞳を中心とする球面形状に対して像面の曲率が±10%誤差の範囲内である場合でも物体移動によるコマ収差の増加を抑制することが可能である。つまり、本実施形態の発明の技術的範囲は、像面が射出瞳を中心とする球面形状と略一致する結像光学系にも及ぶものである。
<効果>
本実施形態の結像光学系では、簡易的な構成のみで物体位置の変動によるコマ収差の発生を抑制し、結果として最短撮影距離を短くすることが可能になる。これにより、内部機構を複雑にできないカメラレンズなどへの応用が可能になる。
<実施形態2>
<構成>
本実施形態の結像光学系は、像面が射出瞳を中心とする球面形状であり、さらに入射主光線の光軸となす角、光学系の焦点距離、射出瞳から像までの距離、像面の高さが物体距離移動による像面湾曲の変動を抑制するための所定の関係式を満たすことを特徴とする。これにより、物体移動によるコマ収差の増加を抑制すると同時に、物体移動による像面湾曲の変動を抑制することが可能になる。
<収差論>
以下、物体距離移動による像面湾曲の変動を抑制するメカニズムについて収差論を用いて説明する。図3は、遠方物体の像が射出瞳を中心とした球面状に形成されている状況において、物体が移動したときの様子を示した図である。この図に示すように物体が移動したときには像面も移動する。このとき、軸上の像点の移動に伴い球面状の像面が移動することになるが、物体移動による像面湾曲の変動を抑制するためには、軸外の像点が移動後においてもこの球面上に存在する必要がある。以下その条件について説明する。
軸上の近軸倍率をβ0とすると、物体移動距離D0と像面移動距離Dの関係は次式で表される。
Figure 2012098553
さらに、軸外主光線の回りの微小光束の結像を考える。図3では図示の都合上、αが大きく示されているが実際は微小な角を想定している。また、物点に対するメリジョナル面内の光線が主光線に対してなす角度をα0とし、像点でなす角度をαとする。軸外物点は主光線方向に
Figure 2012098553
の距離だけ移動する。よって、軸外物点の主光線方向への移動量は、主光線回りの微小光束のメリジオナル面内の縦倍率が(α0/α)2なので、
Figure 2012098553
となる。
図3においてA´B´の長さは、球面状の像面が光軸方向にD動くので、それにcosθをかけたものになる。
Figure 2012098553
よって、数11と数12の式の値が一致すれば、物体移動しても像面湾曲が変化しないことになる。すなわち
Figure 2012098553
が像面湾曲が変化しないための条件である。
この条件は厳密にいえば、メリジオナル像面湾曲が発生しないための条件である。しかし、ペッツバール和は物体移動によって変化しないので(レンズ設計法(松居吉哉著):P.109〜P.111)、少なくとも3次収差の領域ではサジッタル像面湾曲も変化せず、ひいては非点収差も発生しないことになる。
ここで、軸外物点近傍の微小物体の大きさをdy0、像点近傍での大きさをdy′とすると、ヘルムホルツラグランジの不変式より
Figure 2012098553
の関係式が成り立つ。
図4は、軸外の微小物体に関して平面状の像面における大きさと射出瞳を中心とした球面形状の像面における大きさの関係を示す図である。この図において、平面状の像面での主光線の像高をyとし、軸外での微小物体の大きさをdyとすると、
Figure 2012098553
の関係式が成り立つ。
また、図3に示すように、物体の高さをy0とし、入射瞳から物体までの距離をL0とすると、
Figure 2012098553
となる。これを微分すると、
Figure 2012098553
となる。
また、像高yについて、射影関係を表す関数G(sinθ0)を用いて次のように表すとしても一般性は失われない。
Figure 2012098553
ここでfは、物体距離 L0 が無限遠のときには焦点距離fと等しくなる。
数18の式を微分して
Figure 2012098553
の関係式を得る。ここで´は導関数を意味する。
また、近軸倍率β0
Figure 2012098553
と表される。
数9、13、14、15、17、19、20の式から、
Figure 2012098553
の関係式を得る。ここで、物体距離が無限遠方である時を基準とすると、f=fである。
このとき数21の式は、
Figure 2012098553
となる。
さらに変数分離し、積分の形にすると、
Figure 2012098553
となる。
数23の式の右辺は
Figure 2012098553
となる。ここでFは第1種楕円積分であり、
Figure 2012098553
と定義される。
数23の左辺はf・G/g'=tan(z)とおくと
Figure 2012098553
となる。
よって、
Figure 2012098553
が物体移動によって、像面湾曲が変化しないための条件である。
数27の式はあらわな表現ではないので、実用的ではない。そこで、数22の式のGをsinθ0の関数として展開し、整理すると、
Figure 2012098553
となる。
以上のように、像面を射出瞳を中心とした球面形状とし、像の射影関係を数27の式または数28の式が成り立つようにすることで、物体移動によるコマ収差の増加を抑制すると同時に、物体移動による像面湾曲の変動を抑制することが可能となる。
なお、本実施形態の結像光学系においては、像の射影関係を数27の式または数28の式とすることを理想としているが、像の射影関係を数27の式または数28の式に完全に一致させることを要求するものではない。例えば、数27の式または数28の式の左辺と右辺が±10%誤差の範囲内である場合でも物体移動による像面湾曲の変動を抑制することが可能である。つまり、本実施形態の発明の技術的範囲は、像面が射出瞳を中心とする球面形状に略一致する結像光学系にも及ぶものである。
<効果>
本実施形態の結像光学系では、物体移動によるコマ収差の増加を抑制すると同時に、物体移動による像面湾曲の変動を抑制することが可能になる。
<実施形態3>
<光性>
本実施形態の結像光学系は、基本的に実施形態1、2と同様であるが、さらに射出瞳と後側主平面が略一致することを特徴とする。当該特徴により、物体移動によるコマ収差の増加をさらに高い精度で抑制することが可能になる。
<収差論>
以下、射出瞳と後側主平面を略一致させることによって、物体移動によるコマ収差の増加を高い精度で抑制できる理由について収差論を用いて説明する。実施形態1の結像光学系においては、コマ収差を示す数1の式のδの2乗の項は無視していた。この項をなくすためには
Figure 2012098553
を満たす必要がある。
3次収差論から、瞳と主平面が一致する場合には
Figure 2012098553
が成り立つ。瞳と主平面が一致する場合にはf=g´となるので数27の式は、
Figure 2012098553
となる。
よって、像面湾曲が変化しない条件は、
Figure 2012098553
となる。
すなわち歪曲収差がない
Figure 2012098553
であれば、像面湾曲が変化しない。
数33の式と数30の式より、数29の式が成り立つことが分かる。よって、瞳と主平面が一致する場合には、数1の式のδの2乗の項も抑制することが可能になる。
なお、本実施形態の結像光学系においては、射出瞳と後側主平面が一致することを理想としているが、射出瞳と後側主平面が完全に一致することを要求するものではない。例えば、結像光学系全体のスケールに対して射出瞳と後側主平面の間隔が±10%誤差の範囲内である場合でも数1の式の2乗の項をある程度抑制することが可能になる。つまり、本実施形態の発明の技術的範囲は、射出瞳と後側主平面が略一致する結像光学系にも及ぶものである。
<効果>
本実施形態の結像光学系により、実施形態1、2の効果に加えて、物体移動によるコマ収差の増加をさらに高い精度で抑制することが可能になる。
本実施例においては、本件発明の効果を検証するために、像面が平面である場合と射出瞳を中心とした球面状の場合を比較する。また、効果が明確になるように、数1の式のδの2乗の項も抑制する場合を考える。(すなわち理想的な場合でも歪曲収差がないことが望ましい。)
図5は像面が平面である結像光学系の光路図を示し、図9はそのレンズデータを表す。また、図6は、図5の結像光学系について物体距離∞の場合と物体距離100mmの場合のスポットダイアグラムを示す図である(横軸:デフォーカス、縦軸:像高)。ここで、焦点距離(f)は6mm、FナンバーはF/3.7、画角は±25度としている。
図6が示すように像面が平面である場合には、物体距離が100mmとなると像の周辺でのスポットダイアグラムが悪くなる。
一方、図7は像面が射出瞳を中心とした球面形状である結像光学系の光路図を示し、図10はそのレンズデータを表す。図8は、図7の結像光学系について物体距離∞の場合と物体距離100mmの場合のスポットダイアグラムを示す図である(横軸:デフォーカス、縦軸:像高)。ここで、焦点距離(f)は6mm、FナンバーはF/3.7、画角は±25度としている。
図8が示すように、像面が射出瞳を中心とした球面形状である物体距離が100mmとなっても像の周辺でのスポットダイアグラムが悪くなっていない。
以上のことから、射出瞳を中心とした球面形状の像面とすることにより、像面が平面である場合と比較して、物体移動による収差の増加を抑制することが可能になる。
1…入射瞳、2…射出瞳、3…前側主面、4…後側主面、11…主光線

Claims (4)

  1. 像面が射出瞳を中心とする球面形状であることを特徴とする結像光学系。
  2. 入射主光線の光軸となす角(θ)、光学系の焦点距離(f)、射出瞳から像までの距離(g')、像面の高さ(y)が、以下の関係式を略満たすことを特徴とする請求項1に記載の結像光学系。
    Figure 2012098553
  3. 入射主光線の光軸となす角(θ)、光学系の焦点距離(f)、射出瞳から像までの距離(g')、像面の高さ(y)が、以下の関係式を略満たすことを特徴とする請求項1に記載の結像光学系。
    Figure 2012098553
  4. 射出瞳と後側主平面が略一致することを特徴とする請求項1から3のいずれか一に記載の結像光学系。
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