以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。なお、図1及び図2において、X方向及びY方向は表示面に対して平行であり且つ互いに対して垂直な方向である。また、Z方向は、X方向及びY方向に対して垂直な方向である。
この表示体1は、図2に示すように、光透過層11と光反射層12との積層体を含んでいる。この例では、光透過層11側を前面側(観察者側)とし、光反射層12側を背面側としている。
光透過層11は、基材111とレリーフ構造形成層112とを含んでいる。
基材111は、光透過性を有している。基材111は、典型的には透明、特には無色透明である。基材111の材料としては、例えば、PET及びポリカーボネート(PC)のように比較的高い耐熱性を有している樹脂を用いることができる。
基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである。基材111は、レリーフ構造形成層112の下地としての役割を果たすとともに、レリーフ構造形成層112を損傷から保護する役割を果たす。基材111は、省略することができる。
レリーフ構造形成層112は、基材111上に形成された層である。レリーフ構造形成層112は、光透過性を有している。レリーフ構造形成層112は、典型的には透明、特には無色透明である。
レリーフ構造形成層112の表面のうち、図1に示す領域13及び領域17内に位置した部分には、それぞれ、後で詳述する第1レリーフ構造RS1及び第2レリーフ構造RS2が設けられている。そして、レリーフ構造形成層112の表面のうち、領域18内に位置した部分は平坦である。
レリーフ構造形成層112の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用することができる。レリーフ構造形成層112は、例えば、基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
光反射層12は、レリーフ構造形成層112のレリーフ構造RS1及びRS2が設けられた面を被覆している。光反射層12としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、光反射層12として、レリーフ構造形成層112とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、光反射層12として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、レリーフ構造形成層112と接触しているものの屈折率は、レリーフ構造形成層112の屈折率とは異なっていることが望ましい。光反射層12は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
光反射層12は、レリーフ構造形成層112のレリーフ構造RS1及びRS2が設けられた面の全体を被覆していてもよく、その一部のみを被覆していてもよい。レリーフ構造形成層112の一部のみを被覆した光反射層12、即ち、パターニングされた光反射層12は、例えば、気相堆積法により連続膜としての光反射層を形成し、その後、薬品などによりその一部を溶解させることによって得られる。或いは、パターニングされた光反射層12は、連続膜としての光反射層を形成し、その後、レリーフ構造形成層に対する光反射層の密着力と比較して光反射層に対する接着力がより高い接着材料を用いて光反射層の一部をレリーフ構造形成層から剥離することによって得られる。或いは、パターニングされた光反射層12は、マスクを用いて気相堆積を行うこと、又は、リフトオフプロセスを利用することにより得ることができる。
表示体1は、接着剤層、樹脂層及び印刷層などの他の層を更に含むことができる。
接着剤層は、例えば、光反射層12を被覆するように設ける。表示体1が光透過層11及び光反射層12の双方を含んでいる場合、通常、光反射層12の表面の形状は、光透過層11と光反射層12との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けると、光反射層12の表面が露出するのを防止できるため、先の界面のレリーフ構造の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。なお、光透過層11側を背面側とし、光反射層12側を前面側とする場合は、接着層は、光透過層11上に形成する。
樹脂層は、例えば、使用時に表示体1の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層、汚れの付着を抑制する防汚層、基材表面での光の反射を防止する反射防止層、又は帯電防止層である。樹脂層は、光透過層11と光反射層12との積層体に対して前面側に設ける。例えば、光透過層11側を背面側とし、光反射層12側を前面側とする場合、光反射層12を樹脂層によって被覆することで、光反射層12の損傷を抑制できるのに加え、その表面のレリーフ構造の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
印刷層は、光透過層11の観察者側に又は光透過性樹脂層112と光反射層12との間に設ける。印刷層を設けることで、表示体1の意匠性を向上させることができ、また、表示体1に表示させる情報を容易に追加できる。
次に、レリーフ構造RS1及びRS2について説明する。
図1及び図2に示す表示体1では、レリーフ構造形成層112の表面に、レリーフ構造RS1及びRS2が設けられている。
レリーフ構造RS1は、レリーフ構造形成層112の表面であって、図1に示す領域13に対応した位置に設けられている。ここでは、レリーフ構造形成層112の表面には3つのレリーフ構造RS1が設けられており、これらレリーフ構造RS1は、図1に示す文字「T」、「O」及び「P」をそれぞれ表示する。
レリーフ構造RS2は、レリーフ構造形成層112の表面であって、図1に示す領域17に対応した位置に設けられている。これらレリーフ構造RS2は、レリーフ構造RS1が表示する文字「T」、「O」及び「P」の影をそれぞれ表示する。
レリーフ構造RS1及びRS2は、以下に説明するように構造が異なっている。
(第1レリーフ構造)
第1レリーフ構造RS1について説明するに当り、まず、回折格子の格子定数(溝のピッチ)と、照明光の波長と、照明光の入射角と、回折光の射出角との関係について説明する。
照明光源を用いて回折格子に照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向及び波長に応じて特定の方向に強い回折光を射出する。
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の溝の長さ方向に対して垂直な面内で光が進行する場合、下記の式(1)から算出することができる。
式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
図3は、小さな格子定数を有している回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図4は、大きな格子定数を有している回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
点光源LSは、波長が赤色域内にある光成分Rと、波長が緑色域内にある光成分Gと、波長が青色域内にある光成分Bとを含んだ白色光を放射する。点光源LSが放射した光成分G、B及びRは、回折格子GRに入射角αで入射する。回折格子GRは、光成分Gの一部として回折光DL_gを射出角β_gで射出し、光成分Bの一部として回折光DL_bを射出角β_bで射出し、光成分Rの一部として回折光DL_rを射出角β_rで射出する。なお、図示していないが、回折格子GRは、他の次数の回折光も式(1)によって導出される角度で射出する。
このように、一定の照明条件のもとでは、回折格子は、回折光を、その波長に応じて異なる射出角で射出する。それ故、太陽及び蛍光灯などの白色光源下では、回折格子は、波長が異なる光が別々の角度で射出する。従って、このような照明条件下では、回折格子の表示色は、観察角度の変化に伴って虹色に変化する。また、格子定数が大きいほど、回折光は正反射光RLに近い方向に射出され、射出角β_g、β_b及びβ_rの相違は小さくなる。
次に、回折格子の格子定数と、照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
式(1)によると、格子定数dの回折格子に対して、入射角αで照明光を入射させると、この回折格子は、射出角βで回折光を射出する。この際、波長λの光についての回折効率は、回折格子の格子定数及び溝の深さ等に応じて変化し、下記式(2)から算出することができる。
ここで、ηは回折効率(0乃至1の値)を表し、rは回折格子の溝の深さを表し、Lは回折格子の溝の幅を表し、dは格子定数を表し、θは照明光の入射角を表し、λは照明光及び回折光の波長を表している。なお、この式(2)は、溝の長さ方向に垂直な断面が矩形波状であり、溝が比較的浅い回折格子についてのみ成り立つものである。
式(2)から明らかなように、回折効率ηは、溝の深さr、格子定数d、入射角θ及び波長λに応じて変化する。また、回折効率ηは、回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
次に、レリーフ構造RS1の構造と光学的性質とについて説明する。
図5は、図1に示す表示体に採用可能な第1レリーフ構造の一例を概略的に示す平面図である。図6は、図5に示す構造のVI−VI線に沿った断面図である。
レリーフ構造RS1は、平滑な第1反射面21と、上面及び側面を各々が有している複数の凸部又は底面及び側壁を各々が有している複数の凹部とを含んでいる。凸部の上面又は凹部の底面は、反射面21に対して平行であり且つ平滑な第2反射面22である。なお、ここでは、一例として、第2反射面22は、基材111側から見たときに凸部の上面を構成していることとする。
凸部又は凹部は、反射面21に垂直な方向から見たときに一方向に延びた形状を有し且つ長さ方向が揃っている。即ち、反射面22は、反射面21に垂直な方向から見たときに一方向に延びた形状を有し且つ長さ方向が揃っている。ここでは、反射面22は、X方向に延びた形状を有している。
反射面22の平均幅は、例えば0.5μm乃至5μmの範囲内にあり、典型的には1μm乃至2μmの範囲内にある。平均幅を過剰に大きく又は小さくすると、レリーフ構造RS1の表示色が薄くなる。
反射面22の幅方向における平均寸法に対する長さ方向における平均寸法の比、即ち、反射面22の平均幅に対する平均長さの比は、例えば2以上であり、典型的には10以上である。この比を小さくすると、後述する光学的異方性を観察者に知覚させることが難しくなる。
3つのレリーフ構造RS1の1つは、他の2つとは、反射面22の長さ方向が異なっている。ここでは、一例として、図1の文字「T」及び「P」をそれぞれ表示する2つのレリーフ構造RS1は反射面22の長さ方向がX方向に平行であり、文字「O」を表示する1つのレリーフ構造RS1は反射面22の長さ方向がY方向に平行であるとする。
凸部又は凹部の配列は、肉眼で知覚可能な回折光を射出する回折格子又はホログラムを構成しないように定められている。ここでは、幅方向に隣り合った反射面22の中心線間距離は不規則であり、反射面22の幅も不規則である。幅方向に隣り合った反射面22の中心線間距離は一定であってもよい。或いは、反射面22の幅は等しくてもよい。
幅方向に隣り合った反射面22の中心線間距離の平均は、例えば0.5μm乃至5μmの範囲内にあり、典型的には2μm乃至4μmの範囲内にある。平均中心線間距離を大きくすると、レリーフ構造RS1の表示色が薄くなる。平均中心線間距離を小さくすると、光を吸収することによる反射防止効果が起きやすくなり、表示色の彩度が低下する。
反射面22は、様々な長さを有している。また、反射面22の長さ方向に関するそれら位置は不規則である。反射面22は、等しい長さを有していてもよく、長さ方向に関して規則的に配置されていてもよい。
各レリーフ構造RS1では、それが含んでいる全ての反射面22について、反射面21を基準とした反射面22の高さは一定である。そして、この高さは、レリーフ構造RS1を特定の方向から白色光で照明したときに、可視域内の波長を有し、反射面21によって反射される第1反射光と、この波長を有し、反射面22によって反射される第2反射光とが、強め合う干渉又は弱め合う干渉を生じることにより、反射光として着色光を射出するように定められている。この高さは、例えば、0.1μm乃至0.5μmの範囲内にあり、典型的には0.15μm乃至0.4μmの範囲内にある。
この高さを小さくすると、レリーフ構造RS1が射出する着色光の色が薄くなる。また、この高さを小さくすると、製造時の外的要因、例えば、製造装置の状態及び環境の変動並びに材料組成の僅かな変化が、レリーフ構造RS1の光学的性質に及ぼす影響が大きくなる。他方、この高さが大きい場合、レリーフ構造RS1を高い形状精度及び寸法精度で形成することが難しい。
反射面21の端から反射面22への端へと延びた凸部の側面(凹部の場合は側壁)は、例えば、反射面21に対してほぼ垂直である。この側壁(又は側面)は、反射面21に対して傾いていてもよい。
反射面21に平行な平面へのレリーフ構造RS1の正射影の面積をSとした場合、面積Sに対する反射面21の面積S1の比S1/Sは、例えば20%乃至80%の範囲内にあり、典型的には40%乃至60%の範囲内にある。また、面積Sに対する反射面22の面積S2の比S2/Sは、例えば80%乃至20%の範囲内にあり、典型的には60%乃至40%の範囲内にある。そして、面積S1と面積S2との和S1+S2の面積Sに対する比(S1+S2)/Sは、例えば10%乃至100%であり、典型的には50%乃至100%である。比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に、最も明るい表示が可能である。一例によると、比S1/S及びS2/Sの一方が20%であり、他方が80%である場合に達成可能な明るさは、比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に達成可能な明るさの約3割である。
図7は、図1に示す表示体に採用可能な第1レリーフ構造の別の例を概略的に示す平面図である。
図7に示すレリーフ構造RS1は、以下の点を除いて、図5及び図6を参照しながら説明したレリーフ構造RS1と同様である。
即ち、図7に示すレリーフ構造RS1では、基材111側から見たときに、反射面22の長さ方向は、X方向に対して時計回りに45°の角度を成している。そして、図7に示す反射面22は、反射面21に対して垂直な方向から見たときに、図5に示す反射面22と比較して端部がより丸い。
このように、反射面22の長さ方向は任意である。また、反射面21に垂直な方向から見たときに、反射面22は、矩形、長円形及び楕円形などの様々な形状を有し得る。レリーフ構造RS1の各々は、反射面21に垂直な方向から見た形状が異なる反射面22を、例えば、矩形、長円形及び楕円形の反射面22を含んでいてもよい。
図8は、回折格子が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図9は、第1レリーフ構造が散乱光を射出する様子を概略的に示す図である。
図8に示す回折格子は、長さ方向がX方向に対して平行であり、Y方向に一定のピッチで配列した複数の溝GRからなる。X方向に対して垂直な方向から回折格子に照明光ILが入射すると、回折格子は、X方向に対して垂直な方向に、回折光DL_r、DL_g及びDL_bを射出する。回折光DL_r、DL_g及びDL_bの各射出角は、式(1)から求められる。
図9に示すレリーフ構造RS1では、反射面22は、長さ方向がX方向に平行であり、不規則に配置されている。このようなレリーフ構造RS1は、Y方向に沿って格子定数が変化した回折格子と見なすことができる。そして、式(1)から明らかなように、波長λの光の射出角βは格子定数dに応じて変化する。従って、X方向に対して垂直な方向からレリーフ構造RS1に照明光ILが入射すると、レリーフ構造RS1はX方向に対して垂直な方向に散乱光を射出する。
それ故、レリーフ構造RS1をX方向に対して垂直な方向から白色光で照明した場合、レリーフ構造RS1は、散乱光として白色光を射出する筈である。しかしながら、この場合、レリーフ構造RS1は着色光を射出する。この理由を以下に説明する。
回折格子では、溝の幅L及び格子定数dは一定である。それ故、式(2)から明らかなように、回折格子の回折効率ηは、溝の深さr(又は凸部の高さ)と照明光の波長λとの関数であると言える。これを踏まえて、回折格子を白色光で照明しながら観察することを考えると、或る波長域の回折効率が他の波長域の回折効率と比較して低くなること、及び、これら波長域は溝の深さrに依存することを理解できる。このように、回折格子を白色光で照明した場合に観察者が知覚する色には、照明光の入射角θ及び格子定数d並びに観察方向だけでなく、溝の深さrも影響を及ぼす。
レリーフ構造RS1は、回折格子とは異なり、一定の格子定数dを有しておらず、散乱光を射出する。それ故、レリーフ構造RS1を白色光で照明した場合に観察者が知覚する色には、観察方向並びに反射面22幅及びの中心線間距離は大きな影響を及ぼさない。
また、表示に反射光を利用する表示体を観察する場合、通常、この表示体に対する照明光の入射角は特定の範囲内にある。そして、多くの場合、照明光は拡散光である。それ故、レリーフ構造RS1を白色光で照明した場合、観察者が知覚する色に照明条件が及ぼす影響は小さい。
従って、レリーフ構造RS1が表示する色は、主として、反射面21を基準とした反射面22の高さに依存し、照明条件、観察条件、並びに反射面22幅及びの中心線間距離がこれに及ぼす影響は小さい。従って、レリーフ構造RS1を白色光で照明した場合、観察者に届く光は、白色照明光と比較して特定の波長域の強度が低いスペクトルを有することとなる。そして、このスペクトルは、照明方向又は観察方向を多少変化させたとしても、大きく変化することはない。
例えば、レリーフ構造RS1が射出する光の強度が、青色の波長域(例えば波長460nm)において低く、赤色の波長域(例えば波長630nm)及び緑色の波長域(例えば波長540nm)において高い場合には、観察者は黄色を知覚する。また、レリーフ構造RS1が射出する光の強度が、赤色の波長域において低く、緑色及び青色の波長域において高い場合には、観察者はシアン色(薄い水色)を知覚する。そして、反射面22の長さ方向に対して垂直な面内で照明方向又は観察方向を多少変化させても、この表示色は殆ど変化しない。
なお、レリーフ構造RS1が表示する色は、反射面22の長さ方向に対して垂直な面内で観察方向を多少変化させても殆ど変化しないが、観察方向が反射面21に対して成す角度を小さくすると、レリーフ構造RS1が射出する光の強度は低くなる。そして、観察方向を反射面21に対してほぼ平行にすると、レリーフ構造RS1は光を射出しなくなる。
また、レリーフ構造RS1は、Y方向に対して垂直であり且つX方向に対して傾いた方向から照明した場合、X方向に対して垂直な方向から照明した場合と比較して、より小さな光散乱能を示す。Y方向に対して垂直であり且つX方向に対して傾いた方向から照明した場合、式(2)を利用して説明した着色効果は小さい。レリーフ構造RS1は、Y方向に対して垂直であり且つX方向に対して傾いた方向から照明し、これをY方向に対して垂直な方向から観察した場合、観察者は、典型的には無彩色、例えば銀白色を知覚する。
このように、レリーフ構造RS1を反射面21の法線の周りで回転させながら斜め方向から観察した場合、表示色は、有彩色と無彩色、例えば銀白色との間で変化する。そして、レリーフ構造RS1を反射面22の長さ方向に平行な軸の周りで揺動させながら、この軸に対して垂直な方向から観察した場合には、一般的な回折格子ほど表示色が大きく変化することはない。
このような視覚効果は、一般的な印刷物によって達成できないのは勿論、回折格子及びホログラムで達成することもできず、また、光散乱構造と着色層との組み合わせによって達成することもできない。即ち、レリーフ構造RS1は、極めて特殊な視覚効果を提供する。
なお、図5乃至図7及び図9を参照しながら説明したレリーフ構造RS1と類似した光散乱構造は従来から知られているが、そのような光散乱構造は、式(2)を利用して説明した着色効果を示さない。これについて、以下に説明する。
図10は、光散乱構造の一例を概略的に示す断面図である。図11は、光散乱構造の他の例を概略的に示す断面図である。
図10及び図11に示す光散乱構造RSは、レリーフ構造である。これら光散乱構造RSは、複数の溝GRを幅方向に配列した構造を有している。各光散乱構造RSにおいて、溝GRの幅及び中心線間距離は不規則である。
図10に示す光散乱構造RSは、溝GRの長さ方向に対して垂直な断面が歪んだ正弦波状である。他方、図11に示す光散乱構造RSは、溝GRの長さ方向に対して垂直な断面が矩形波状である。
図10に示す構造RSは、反射面21及び22に相当する平面を含んでいない。それ故、この光散乱構造RSは、式(2)を利用して説明した着色効果を示さない。
図11に示す構造RSは、反射面21及び22にそれぞれ対応した反射面21’及び22’を含んでいるものの、式(2)を利用して説明した着色効果を示すほど十分な形状精度で形成されている訳ではない。具体的には、反射面21’及び22’には微細な凹凸が存在しているか、又は、反射面21’を基準とした反射面22’の高さは不均一である。これは、通常の製造プロセスでは、式(2)を利用して説明した着色効果を示すほど光散乱構造を十分な形状精度で形成することは難しいこと、及び、光散乱構造には高い形状精度は要求されず、寧ろ、不規則な形状は光散乱能の観点で有利であることなどに起因している。
また、図10及び図11に示す何れの光散乱構造RSにおいても、多くの場合、溝GRの深さは0.1μm以下である。この場合、式(2)を利用して説明した着色効果を得ることはできない。即ち、この場合、可視域、例えば、約380nm乃至約700nmの波長範囲内の一部の波長域における回折効率を、他の波長域における回折効率よりも小さくする効果は得られない。
次に、レリーフ構造RS1及び回折格子が示す光学効果の相違を、データを参照しながら説明する。
図12は、回折格子が射出する回折光のスペクトルの一例を示すグラフである。図12には、正弦波状の断面形状を有しているレリーフ型回折格子を白色光で照明した場合にこの回折格子が特定の方向に射出する回折光の強度(明るさ)を示している。
図12に示すように、回折格子が特定の方向に射出する回折光は、狭い波長域内においてのみ高い強度を示す。それ故、回折格子を観察すると、彩度の高い色が知覚される。
なお、図12に示すスペクトルは、実際の測定結果に準ずるものである。即ち、図12に示すスペクトルは、白色照明が理想的な点光源でなくある程度の面積を有していること、及び、回折光を検出する検出器の受光面がある程度の面積を有していることなどの現実と同様の条件を設定したコンピュータシミュレーションによって得られたものである。照明光源を理想的な点光源であり、回折光を検出する検出器の受光面の面積が無視できる程度に小さい場合、精密に加工された回折格子からの回折光を測定すると、単一波長の光が検出される。
図13は、回折格子が射出する回折光のスペクトルと観察角度との関係の一例を示すグラフである。図13には、正弦波状の断面形状を有しているレリーフ型回折格子を、回折格子を構成している溝の長さ方向に対して垂直な特定の方向から白色光で照明しながら、溝の長さ方向に対して垂直な面内で観察方向を変化させた場合に観察者が観察する回折光のスペクトルの変化を示している。
図13に示すように、観察方向の変化に応じて、回折格子が射出する回折光のスペクトルも変化する。具体的には、観察方向の変化に応じて、回折格子が射出する回折光のピーク波長も変化する。そして、図12を参照しながら説明したように、回折格子が特定の方向に射出する回折光は、狭い波長域内においてのみ高い強度を示す。従って、回折格子は、照明方向又は観察方向が僅かに変化しただけで、観察者によって知覚される色が大きく変化し、それ故、虹色に光って見える。
上記の通り、白色光で照明した場合、回折格子が特定の方向に射出する回折光は、狭い波長域内においてのみ高い強度を示す。これに対し、レリーフ構造RS1を白色光で照明した場合、レリーフ構造RS1が射出する光のスペクトルは、例えば、図14及び図15に示すように、比較的広い波長範囲に亘って高い強度を示す。
図14は、第1反射面を基準とした第2反射面の高さを或る値に設定した場合に第1レリーフ構造が射出する着色光のスペクトルの一例を示すグラフである。図15は、第1反射面を基準とした第2反射面の高さを他の値に設定した場合に第1レリーフ構造が射出する着色光のスペクトルの一例を示すグラフである。
図14に示すスペクトルでは、長波長域(550nm以上の波長域)における強度が低く、短波長域における強度が高い。このようなスペクトルを有している表示光を観察すると、観察者は、短波長域内の光が混ざり合ってなる色、具体的には、青、シアン及び緑の混色を知覚する。
図15に示すスペクトルでは、450nm近傍の波長域における強度が低く、他の波長域、特には550nm乃至600nmの波長域における強度が高い。この場合、観察者は、白色から青色を除いてなる色、具体的には黄色系の色を知覚する。
これから明らかなように、レリーフ構造RS1が表示する色は、回折格子が表示する色と比較して彩度が低い。
また、レリーフ構造RS1が表示する色は、回折格子が表示する色と比較して観察角度依存性が小さい。
図16は、第1レリーフ構造が射出する着色光のスペクトルと観察角度との関係の一例を示すグラフである。図16には、レリーフ構造RS1を、反射面22の長さ方向に対して垂直な特定の方向から白色光で照明しながら、反射面22の長さ方向に対して垂直な面内で観察方向を変化させた場合に観察者が観察する散乱光のスペクトルの変化を示している。
図16に示すスペクトルから明らかなように、観察角度を変化させると、レリーフ構造RS1が射出する光は、強度の変化を生じるものの、そのスペクトルの形状は殆ど変化しない。それ故、レリーフ構造RS1を反射面22の長さ方向に平行な軸の周りで揺動させても、観察者は、レリーフ構造RS1が表示する色の変化を殆ど知覚しない。
反射面22の中心線間距離の平均は、例えば、0.5μm乃至5μmの範囲内とする。式(1)から明らかなように、平均中心間距離を小さくすると、波長の変化に応じた射出角の変化が大きくなり、その結果、観察者が表示光を観察可能な角度範囲が広くなる。他方、平均中心間距離を大きくすると、波長の変化に応じた射出角の変化が大きくなり、その結果、観察者が表示光を観察可能な角度範囲が狭くなる。即ち、平均中心間距離を小さくすることで、射出光を知覚可能な範囲がより広くなり、画像を視認し易い表示体が得られる。他方、平均中心間距離を大きくすることで、射出光を知覚可能な範囲を限定することができる。
以上説明したように、レリーフ構造RS1は、反射面22の長さ方向に対して垂直な方向から観察した場合には混色を表示する。そして、この表示色は、反射面22の長さ方向に対して垂直な面内で観察方向を多少変化させても殆ど変化しない。また、レリーフ構造RS1は、反射面22の幅方向に対して垂直な方向から観察した場合には無彩色を表示する。このように、レリーフ構造RS1は、極めて特徴的な視覚効果を提供する。
また、この表示体1は、反射面22の長さ方向が異なる複数のレリーフ構造RS1を含んでいる。具体的には、図1の文字「T」及び「P」をそれぞれ表示する2つのレリーフ構造RS1は反射面22の長さ方向がX方向に平行であり、文字「O」を表示する1つのレリーフ構造RS1は反射面22の長さ方向がY方向に平行である。
それ故、表示体1をX方向に対して垂直な斜め方向から観察した場合、表示体1は、文字「T」及び「P」に対応した領域13において有彩色、具体的には混色を表示し、文字「O」に対応した領域13において無彩色を表示する。また、表示体1をY方向に対して垂直な斜め方向から観察した場合、表示体1は、文字「T」及び「P」に対応した領域13において無彩色を表示し、文字「O」に対応した領域13において有彩色、具体的には混色を表示する。即ち、表示体1は、観察方向に応じて異なる像を表示し得る。
或るレリーフ構造RS1と他のレリーフ構造RS1とで、反射面21を基準とした反射面22の高さを異ならしめてもよい。こうすると、それらレリーフ構造RS1に、上記の混色として、異なる有彩色を表示させることができる。特に、或るレリーフ構造RS1と他のレリーフ構造RS1とで、反射面21を基準とした反射面22の高さを0.02μm以上異ならしめると、それらレリーフ構造RS1が表示する混色の相違を、肉眼で容易に判別することができる。
(第2レリーフ構造)
図2に示すように、第2レリーフ構造RS2は、レリーフ構造形成層112の表面に設けられている。第2レリーフ構造RS2は、構造色を表示する。第2レリーフ構造RS2は、第1レリーフ構造RS1とは異なる光学効果を示す。なお、第2レリーフ構造RS2は省略することができる。
第2レリーフ構造RS2は、例えば、回折格子又はホログラムである。或いは、第2レリーフ構造RS2は、観察方向に拘らず無彩色を表示する光散乱構造である。或いは、第2レリーフ構造RS2は、光吸収構造である。光散乱構造及び光吸収構造については、後で図面を参照しながら説明する。
上記の通り、第2レリーフ構造RS2は、第1レリーフ構造RS1とは異なる光学効果を示す。それ故、第2レリーフ構造RS2を設けた場合、第2レリーフ構造RS2を省略した場合と比較して、第1レリーフ構造RS1が示す特徴的な光学効果が際立つ。また、第2レリーフ構造RS2を設けると、より複雑な視覚効果を達成でき、表示体1の偽造もより困難になる。
この表示体1には、様々な変形が可能である。
図17は、変形例に係る表示体を概略的に示す平面図である。
図17に示す表示体1は、以下の構成を採用したこと以外は、図1及び図2などを参照しながら説明した表示体1と同様である。即ち、図17に示す表示体1は、領域13及び17の代わりに、領域14乃至16及び19を含んでいる。領域14乃至16の各々においては、レリーフ構造形成層112の表面に第1レリーフ構造RS1が設けられている。他方、領域19においては、レリーフ構造形成層112の表面に第2レリーフ構造RS2が設けられている。
なお、図17において、A方向は、表示体1を基材111側から観察した場合に、X方向に対して反時計回りに45°の角度を成している方向である。また、B方向は、表示体1を基材111側から観察した場合に、X方向に対して時計回りに45°の角度を成している方向である。
領域14乃至16は、第2反射面22の長さ方向が異なっている。ここでは、反射面22の長さ方向は、領域14ではX方向に対して平行であり、領域15ではY方向に対して平行である。そして、領域16では、反射面22の長さ方向は、X方向に対して斜めである。例えば、領域16では、反射面22の長さ方向はB方向に対して平行である。
領域19では、レリーフ構造形成層112の表面に、第2レリーフ構造RS2として、各々が先細りした形状を有している複数の凸部又は凹部23が設けられている。これら凸部又は凹部23は、例えば、可視域の最短波長よりも短い中心間距離で、二次元的に配列している。ここでは、一例として、凸部又は凹部23は、X方向とY方向とに規則的に配列していることとする。
この表示体1をX方向に対して垂直な斜め方向から観察した場合、領域14は混色を表示し、領域15は無彩色、例えば銀白色を表示し、領域16は無彩色を又は無彩色に近い混色を表示する。また、この表示体1をY方向に対して垂直な斜め方向から観察した場合、領域14は無彩色、例えば銀白色を表示し、領域15は混色を表示し、領域16は無彩色を又は無彩色に近い混色を表示する。
表示体1をA方向に対して垂直な斜め方向から観察した場合、領域14及び15は無彩色を又は無彩色に近い混色を表示し、領域16は無彩色、例えば銀白色を表示する。そして、表示体1をB方向に対して垂直な斜め方向から観察した場合、領域14及び15は無彩色を又は無彩色に近い混色を表示し、領域16は混色を表示する。
なお、何れの場合であっても、例えば、照明方向と観察方向とが表示面の法線に対して対称の関係にあるときには、領域19は黒色又は暗灰色を表示する。
このように、反射面22の長さ方向が異なる3つ以上の領域を設けた場合、反射面22の長さ方向が異なる領域を2つ設けた場合と比較して、より複雑な視覚効果を達成することができる。前者の場合、勿論、反射面21を基準とした反射面22の高さは、レリーフ構造RS1を設けた3つ以上の領域間で等しくしてもよく、異なっていてもよい。
表示体1には、規則的に配置された複数の画素によって像を表示する構成を採用してもよい。例えば、表示体1には、反射面22の長さ方向が等しいレリーフ構造RS1を一部の画素に配置し、これらレリーフ構造RS1の配置に対応した形状の像を表示する構成を採用してもよい。図18及び図19に、画素の配置の例を示す。
図18は、画素の配置の一例を概略的に示す平面図である。図19は、画素の配置の他の例を概略的に示す平面図である。
図18では、矩形状の画素PXを、X方向とY方向に対して傾いた方向とに配列している。図19では、六角形状の画素PXを、X方向に対して傾いた方向とY方向とに配列している。このように、同一の形状の画素PXを二次元的に配列してもよい。この場合、表示体1の設計が容易であり、また、オンデマンドでの製造も容易である。
画素PXは、他の形状を有していてもよい。例えば、画素PXは、正方形及び平行四辺形などの矩形以外の四角形状を有していてもよい。或いは、画素PXは、三角形状を有していてもよい。これらの形状を有している画素PXは、隙間なく配置することができる。勿論、画素PXは、円形状などの更に他の形状を有していてもよい。
画素PXの2つの配列方向は、互いに対して斜めであってもよく、互いに対して垂直であってもよい。
反射面22の長さ方向が異なる複数のレリーフ構造RS1を1つの領域内に配置して、この領域が観察方向に応じて異なる形状の像を表示する構成を採用してもよい。例えば、反射面22の長さ方向が第1方向に平行なレリーフ構造RS1のための第1画素と、反射面22の長さ方向が第2方向に平行なレリーフ構造RS1のための第2画素との配置を、それらが表示面内で均一に分布するように予め定めておき、一部の第1画素に、反射面22の長さ方向が第1方向に平行なレリーフ構造RS1を設け、一部の第2画素に、反射面22の長さ方向が第2方向に平行なレリーフ構造RS1を設けてもよい。この場合、第1及び第2画素は、ストライプ状に配置してもよく、マトリクス状に配置してもよい。
なお、表示体1は、画素PXの形状及び配列が異なる複数の領域を含んでいてもよい。また、1つの領域内に配置する画素PXは、異なる形状を有していてもよい。
図20は、画素の配置の更に他の例を概略的に示す平面図である。
図20では、不定形の画素PXが、二次元的に隙間なく配置されている。このように、画素PXの形状及び配置には、様々な変更が可能である。
画素PXは、例えば、最長の辺が3μm乃至300μmの範囲内の寸法を有するように設計する。画素PXの寸法が大きいと、高い解像度で像を表示することができない。画素PXの寸法が小さいと、画素PX内に十分な数の凸部又は凹部を精度よく形成することが困難となる。
図21は、2つの画像を表示するように第1レリーフ構造を配置した表示体の一例を概略的に示す平面図である。図22は、図21の表示体が一方の画像を表示している様子を概略的に示す平面図である。図23は、図21の表示体が他方の画像を表示している様子を概略的に示す平面図である。
図21に示す表示体1は、以下の構成を採用したこと以外は、図1及び図2等を参照しながら説明した表示体1と同様である。即ち、この表示体1では、図1の領域17を省略している。そして、領域13の代わりに、図17を参照しながら説明した領域14及び15を配置している。
また、この表示体1には、以下の設計を採用している。即ち、反射面22の長さ方向がX方向に平行なレリーフ構造RS1のための第1画素と、反射面22の長さ方向がY方向に平行なレリーフ構造RS1のための第2画素との配置を、それらが市松模様状の配列を構成するように定めている。そして、一部の第1画素に、反射面22の長さ方向がX方向に平行なレリーフ構造RS1を設け、一部の第2画素に、反射面22の長さ方向がY方向に平行なレリーフ構造RS1を設けている。レリーフ構造RS1が設けられた第1画素は、文字「A」に対応した配列を形成している。他方、レリーフ構造RS1が設けられた第2画素は、文字「S」に対応した配列を形成している。
この表示体1は、X方向に対して垂直な斜め方向から観察した場合、図22に示す像Iaを表示する。また、この表示体1は、Y方向に対して垂直な斜め方向から観察した場合、図23に示す像Ibを表示する。即ち、この表示体1は、その表示面の法線の周りで回転させると、表示画像が文字「A」と文字「B」との間で切り替わる。
このような像の変化を、通常のインキ又はトナーを用いて得られる印刷物で実現することは不可能である。また、回折格子又はホログラムを利用した場合、像の変化は実現できるものの、表示画像が虹色に光ってしまう。即ち、回折格子又はホログラムを利用したとしても、図21を参照しながら説明した表示体1と同様の視覚効果を達成することはできない。
なお、領域14と領域15とで、反射面21を基準とした反射面22の高さを異ならしめると、表示体1に、文字「A」と文字「S」とを異なる色で表示させることができる。
反射面22の長さ方向が異なる2種類のレリーフ構造RS1に2つの像を表示させる場合、それら反射面22の長さ方向は略直交させることが望ましい。こうすると、2つの像が同時に見えること、又は、2つの表示色が混ざってしまうことを回避できる。それ故、視認性に優れた像を表示すること、及び、観察者に像の切り替わりを明確に知覚させることができる。なお、勿論、反射面22の長さ方向が異なる3種類以上のレリーフ構造RS1に3つ以上の像を表示させることも可能である。
上記の通り、表示体1は、第2レリーフ構造RS2を含み得る。第2レリーフ構造RS2は、例えば、回折格子、ホログラム、光吸収構造、観察方向に拘らず無彩色を表示する光散乱構造、又は、それらの2つ以上の組み合わせである。
表示体1が第2レリーフ構造RS2として回折格子及びホログラムなどの回折構造を含んでいる場合、表示体1に、虹色に輝く分光色を表示させることができる。また、この場合、照明方向及び観察方向に応じて回折光の波長及び強度が変化することを利用して、上述したのと同様の像の切り替わりを実現すること、又は、第2レリーフ構造RS2に立体像を表示させることができる。
また、第2レリーフ構造RS2に光吸収構造又は観察方向に拘らず無彩色を表示する光散乱構造を採用した場合、以下の視覚効果が得られる。
図24は、第2レリーフ構造に採用可能な構造の一例を概略的に示す斜視図である。図25は、第2レリーフ構造に採用可能な構造の他の例を概略的に示す斜視図である。
図24に示すレリーフ構造RS2は、光吸収構造である。このレリーフ構造RS2は、図17の領域19について上述したのと同様の構造を有している。
図24には、一例として、凸部又は凹部23として、略円錐形状の凸部を描いている。凸部又は凹部23の形状は、角錐状であってもよい。
凸部又は凹部23は、例えば、可視域の最短波長よりも短い中心間距離で又は400nm以下の中心間距離で二次元的に配列している。また、凸部又は凹部23の高さ又は深さは、例えば300μm乃至450μmの範囲内にある。中心間距離が十分に短い場合、高さ又は深さが大きいほど、反射防止効果が高くなる。但し、高さ又は深さが過剰に大きな凸部又は凹部23は、高い精度で形成することが難しい。
凸部又は凹部23は、規則的に配列している。この場合、斜め方向からレリーフ構造RS2を白色光で照明すると、このレリーフ構造RS2は、正反射光を観察可能な角度範囲内には回折光を射出せず、正反射光を観察不可能な角度範囲内に回折光を射出する。即ち、表示面の法線の角度を0°として、照明方向を含む角度範囲を正の角度範囲とした場合、このレリーフ構造RS2は、負の角度範囲内には回折光を射出せず、正の角度範囲内に回折光を射出する。即ち、凸部又は凹部23が規則的に配列したレリーフ構造RS2は、通常の観察条件のもとでは無彩色、例えば暗灰色乃至黒色を表示し、特殊な観察条件のもとで分光色を表示する。
凸部又は凹部23の配置は不規則であってもよい。この場合、観察条件に拘らず、レリーフ構造RS2は、例えば暗灰色乃至黒色を表示する。
図25に示すレリーフ構造RS2は、光散乱構造である。このレリーフ構造RS2は、複数の凸部又は凹部24を含んでいる。図25には、一例として、凸部又は凹部24として、先細り形状の凸部を描いている。凸部又は凹部24は、様々な寸法及び形状を有しており、不規則に配置されている。凸部又は凹部24の多くは、Z方向に対して垂直な最大寸法が例えば3μm以上であり、Z方向の寸法が例えば1μm以上である。このレリーフ構造RS2は、白色光で照明した場合、照明方向及び観察方向に拘らず無彩色、例えば白色を表示する。
凸部又は凹部24は、不規則に配置されていれば、寸法及び形状の少なくとも一方が等しくてもよい。また、凸部又は凹部24は、Z方向に対して垂直な一方向に延びた形状を有していてもよい。こうすると、レリーフ構造RS2に光散乱異方性を付与することができる。即ち、こうすると、表示体1を斜め方向から照明しながらZ方向に対して平行な軸の周りで回転させた場合に、レリーフ構造RS2の光散乱能が変化する。
上述した表示体1は、例えば、以下の方法により製造する。
まず、基材111上に、表面にレリーフ構造RS1及びRS2が設けられたレリーフ構造形成層112を形成する。
レリーフ構造RS1について上述した効果を得るためには、レリーフ構造RS1を極めて高い精度で形成する必要がある。形状精度及び寸法精度に優れたレリーフ構造RS1は、例えば、以下に説明する第1乃至第3方法の何れかによって形成することができる。
第1方法では、まず、平滑な表面上に、均一な厚さを有している樹脂層を形成する。樹脂層の材料としては、例えば、電子線などの荷電粒子線を照射することによって現像液に対して不溶化するもの又は可溶化するものを使用する。次いで、電子線などの荷電粒子線で、所定のパターンを樹脂層に描画する。その後、樹脂層を現像処理に供して、反射面21又は22に対応したパターンを得る。
このようにして得られるパターンの上面には、深さ又は高さが例えば10nm程度の凹凸がある。そこで、パターンを加熱して、上面を平滑化する。ここでは、上面のみを熱フローさせるために、パターンの上面に例えば100℃乃至150℃の熱風を吹きかける。なお、この加熱は、パターンの側面の形状が大きく変化しないように、1秒乃至5秒程度の短い時間で完了する。また、この加熱は、例えば、パターンをその下面側から冷却しながら行う。
第2方法は、平滑化を以下の方法で行うこと以外は、第1方法と同様である。即ち、第2方法では、上面に凹凸を有しているパターンを、例えば酸素プラズマを用いたアッシングに供する。これにより、パターンの上面を部分的に除去し、これを平滑化する。
第1及び第2方法は、簡便であるものの、条件等の最適化は必ずしも容易ではない。以下の第3方法によれば、第1及び第2方法と比較して、製造工程は複雑化するものの、より容易に高い形状精度及び寸法精度を実現することができる。
第3方法は、平滑化を以下の方法で行うこと以外は、第1方法と同様である。即ち、第3方法では、上面に凹凸を有しているパターンの開口部を形成した後、このパターンを構成している第1材料と比較してより高い軟化点を有している第2材料を全面に塗布する。これにより、パターンの開口部を第2材料で充填する。次に、第1材料からなるパターンの上面が露出するまで、第2材料からなる膜の表面を研磨する。その後、平滑な表面を有している平板を第1材料からなるパターンと第2材料からなる膜とに押し当てながら、これを、第1材料の軟化点以上であり且つ第2材料の軟化点未満の温度に加熱する。これにより、先のパターンの上面で第1材料の熱フローを生じさせる。次いで、平板を押し当てたまま第1材料を十分に冷却する。第1材料が完全に固化した後、平板を取り除き、更に第2材料からなる膜を除去する。以上のようにして、平滑な上面を有しているパターンを得る。
上述した方法によって得られるパターンは、それ自体をレリーフ構造形成層112の少なくとも一部として利用することができる。或いは、上述した方法によって得られる構造体を原版として用いて、この原版から電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製し、このスタンパを用いてレリーフ構造形成層112を形成してもよい。なお、電鋳とは、通電によって、所定の水溶液中に浸した対象物の表面で金属イオンを還元させることにより、この対象物上に金属膜を形成する表面処理技術の一種である。このような方法を用いることで、原版の表面に設けられた微細な凹凸構造を精度よく複製することができる。なお、電鋳の対象物の表面は通電可能である必要がある。一般に感光性レジストは電気を通さないので、上記構造体の表面には、電鋳を行う前に、スパッタリングや真空蒸着等の気相堆積法により金属薄膜を予め設ける。
次いで、このスタンパを用いて、レリーフ構造RS1及びRS2を複製する。即ち、まず、例えばポリカーボネート又はポリエステルからなる基材111上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層を加熱するか又はこれに光を照射する。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離する。これにより、レリーフ構造RS1及びRS2が設けられたレリーフ構造形成層112を得る。
次に、レリーフ構造形成層112上に、例えば蒸着法によって、アルミニウム等の金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させる。これにより、反射層12を得る。以上のようにして、表示体1を完成する。
上述した表示体1は、例えば、印刷物などの物品に指示させることにより、偽造防止用ラベルとして使用することができる。上記の通り、表示体1は特殊な視覚効果を提供する。また、表示体1の偽造は困難である。それ故、この表示体1を物品に支持させてなるラベル付き物品は、偽造又は模造が困難である。
図26は、ラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図27は、図26に示すラベル付き物品のXXVII−XXVII線に沿った断面図である。
図26及び図27には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材50を含んでいる。基材50は、例えば、プラスチックからなる。基材50の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材50上には、印刷層40が形成されている。基材50の印刷層40が形成された面には、上述した表示体1が例えば粘着層を介して固定されている。表示体1は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材50に固定する。
この印刷物100は、表示体1を含んでいる。それ故、この印刷物100の偽造又は模造は困難である。しかも、この印刷物100は、表示体1に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を更に採用することができる。
なお、図26及び図27には、表示体1を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体1を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体1を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
また、図26及び図27に示す印刷物100では、表示体1を基材50に貼り付けているが、表示体1は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体1を紙に漉き込み、表示体1に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体1を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体1を固定してもよい。
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。即ち、印刷層を含んでいない物品に表示体1を支持させてもよい。例えば、表示体1は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
表示体1は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体1は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。