JP2012077922A - スラグ投入による海水のoh−負荷量の予測方法及び海域投入用スラグの調製又は選定方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】スラグAの粒度分布を複数の粒度帯gに区分けし、各粒度帯gのスラグ比表面積sと海面〜可視水深の沈降時間tを求めるとともに、複数の粒度帯gの中から任意の粒度帯gxを選択し、次の手順でOH−溶出量Dを求める。(1)粒度帯gxのスラグの溶出試験で測定されたpHに基づき海水のOH−濃度増加速度vxを求め、(2)粒度帯gxのスラグ比表面積sxとOH−濃度増加速度vxに基づき、スラグAの単位比表面積当たりのOH−濃度増加速度分を求め、これに基づき粒度帯gx以外の他の粒度帯gの各スラグOH−濃度増加速度vを求め、(3)各粒度帯gのスラグについて、[OH−濃度増加速度v]×[海面〜可視水深の沈降時間t]×[スラグA中の割合w]=OH−溶出量dを求め、それらの総和をOH−溶出量Dとして求める。
【選択図】図6
Description
最近の製鋼プロセスにおいては、脱Si処理、脱S処理、脱P処理及び脱C処理の各工程の効率的な分割化、順序の最適化が進み、多種多様な製鋼スラグが発生しており、その形状、組織は多岐にわたり、スラグ中の遊離CaOの溶解挙動も複雑となっている。製鋼スラグを海域に施工するにあたり、このような種々の製鋼スラグから白濁現象を発生しないスラグを選定する方法、或いは白濁現象を発生しないスラグへと加工する方法が提案されている。
特許文献3にも記載されているように、特許文献1ではスラグを浸漬したときに海水のpHが10.5以下であれば白濁を防止できるとしているが、白濁の主原因たるMg(OH)2はpH≧9.5〜9.8領域にて発生し得ること、pH10を超える海水では白濁発生が実際にあることから、特許文献1は白濁防止の評価法としては不十分であると考えられる。
同じく特許文献3に記載されているように、特許文献2では白濁は防止できるものの、新たに造粒工程が必要であり、スラグの処理費用を大幅に増大させる問題がある。
Ca(OH)2+H2CO3→CaCO3+2H2O …(1)
以上の点から、特許文献3のように溶出試験の溶媒として純水を用いることは、スラグの影響による海水のOH−濃度上昇を再現する上で、相当な過大評価であり、厳しい条件であると考えられる。
また、本発明の他の目的は、上記予測方法を利用して、海面〜可視水深領域の海水に白濁を生じさせない海域投入用スラグを調製又は選定することができる方法を提供することにある。
[1]或る任意のスラグAを海域に投入した場合にスラグが海面〜可視水深領域の海水に与えるOH−負荷量を予測するための方法であって、スラグAの粒度分布を複数の粒度帯gに区分けし、各粒度帯gのスラグについて、比表面積sと海域に投入した際の海面から可視水深までの沈降時間tを求めるとともに、複数の粒度帯gの中から任意の粒度帯gxを選択し、下記(i)〜(iii)の手順に従い、スラグAを海域に投入した際の海面〜可視水深領域でのスラグからのOH−溶出量Dを求めることを特徴とする、スラグ投入による海水のOH−負荷量の予測方法。
(i)粒度帯gxのスラグを供試体とする溶出試験を行い、スラグを海水に浸漬した時のpH測定結果に基づき、海水のOH−濃度増加速度vxを求める。
(ii)粒度帯gxのスラグの比表面積sxとOH−濃度増加速度vxに基づき、スラグAにおける単位比表面積当たりのOH−濃度増加速度分を求め、この単位比表面積当たりのOH−濃度増加速度分を、粒度帯gx以外の他の粒度帯gの各スラグの比表面積sに乗ずることで、粒度帯gx以外の他の粒度帯gの各スラグのOH−濃度増加速度vを求める。
(iii)各粒度帯gのスラグについて、[OH−濃度増加速度v]×[海面から可視水深までの沈降時間t]×[スラグA中に占める割合w]=OH−溶出量dを求め、全ての粒度帯gのスラグのOH−溶出量dの総和をOH−溶出量Dとして求める。
[3]上記[1]又は[2]の予測方法において、粒度帯gxのスラグは、比表面積が0.5m2/kg以上であることを特徴とする、スラグ投入による海水のOH−負荷量の予測方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの予測方法において、粒度帯gxのスラグを供試体とする溶出試験では、スラグ質量の3〜20倍の質量の海水中にスラグ浸漬させ、50〜300rpmの回転速度で撹拌を与えながらpHを測定し、このpHからOH−濃度増加速度を求めることを特徴とする、スラグ投入による海水のOH−負荷量の予測方法。
(a)OH−溶出量Dについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値D0を設定し、算出されるOH−溶出量Dが基準値D0以下となるように、スラグの粒度調整を行う。
(b)実OH−負荷量Fについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値F0を設定し、算出される実OH−負荷量Fが基準値F0以下となるように、スラグの粒度調整を行う。
[6]上記[1]〜[4]のいずれかの予測方法を用いた海域投入用スラグの選定方法であり、下記(a)又は(b)に従いスラグの選定を行うことを特徴とする海域投入用スラグの選定方法。
(a)OH−溶出量Dについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値D0を設定し、算出されるOH−溶出量Dが基準値D0以下のスラグを選定する。
(b)実OH−負荷量Fについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値F0を設定し、算出される実OH−負荷量Fが基準値F0以下のスラグを選定する。
また、本発明の海域投入用スラグの調製又は選定方法によれば、上記予測方法を利用することにより、海面〜可視水深領域の海水に白濁を生じさせない海域投入用スラグを正確且つ簡便に調製又は選定することができる。
鉄鋼スラグとしては、高炉スラグ、製鋼スラグ、鉱石溶融還元スラグなどが挙げられ、また、製鋼スラグとしては、例えば、溶銑予備処理スラグ(脱燐スラグ、脱珪スラグ、脱硫スラグなど)、転炉脱炭スラグ、鋳造スラグ、電気炉スラグなどが挙げられる。これらのなかでも、製鋼スラグは遊離CaOの含有量が比較的多く、一方において海域利用が増えつつあるので、本発明法は、製鋼スラグを海域に用いる場合のOH−負荷量の予測方法として特に有用であると言える。
まず最初に、スラグを海域に投入した場合の海水に与えるOH−負荷量(海水のpH上昇量)の算出手法について検討を行った。
スラグ投入による海水のpH上昇は、下記(2)式で表すことができる。
CaO+H2O→Ca(OH)2→Ca2++2OH− …(2)
すなわち、スラグ中のCaO(酸化カルシウム)が水分と反応してCa(OH)2(水酸化カルシウム)に変化し、このCa(OH)2が海水に溶解してCa2+(カルシウムイオン)とOH−(水酸化物イオン)を生成することで、アルカリ性となる。
予め破砕された製鋼スラグを20℃、相対湿度50%環境で風乾状態とし、この製鋼スラグを篩分けして、2mm超4.75mm以下、9.5mm超13.2mm以下、30mm超50mm以下の3種類の粒度帯のスラグを取り出し、各粒度帯のスラグ毎にpH測定を行った。
図4によれば、スラグの比表面積とOH−濃度増加速度は比例関係にあることが判る。すなわち、単位時間、単位スラグ比表面積当たりの海水のOH−濃度増加速度はほぼ一定であり、スラグ粒度が細かいほど比表面積が大きくなるため、OH−濃度増加速度が大きくなると結論される。
以上のように、溶媒として海水を用いてスラグのpH測定試験をすることで、溶媒のpH測定値からOH−濃度増加速度を精度良く且つ迅速に測定できること、そして、得られたOH−濃度増加速度とスラグの比表面積(すなわちスラグの粒度分布)とから、そのスラグを海域に投入した際のOH−溶出量(OH−濃度増加量)を予測できることが判った。
まず、海水に投入した際のスラグ粒子の沈降挙動について検討を行った。これは、粒子径の小さいスラグほど海水のOH−濃度増加速度が大きいことから白濁現象の主原因となり得るので、スラグ投入による海水pHの上昇を求めるにあたり、白濁に影響を及ぼす粒子径の小さいスラグが海面近傍でどの程度の時間漂っているかを把握するためである。ここで、海中の可視水深よりも深い領域は海面上方から目視により確認できないため、スラグを施工した直後で問題となる白濁現象としては、海面から可視水深までの領域を考えればよい。通常の海域では、海中の可視水深は約5m程度であり、ここでは、水深5mまでを可視水深とした。したがって、沈降速度の大きいスラグは直ちに水深5m以上まで沈降するため、海面近傍でのpH上昇に与える影響は小さいであろうことが推察される。
Vt=(ρs−ρ)×g×(D2/18μ) …(3)
Vt=[4/225×(ρs−ρ)2×g2/ρμ]1/3×D2 …(4)
Vt=[3×(ρs−ρ)×g×(D/ρ)]1/2 …(5)
ここで Vt:粒子の終末速度(cm/s)
ρs:粒子の密度(g/cm3)
ρ:液体の密度(g/cm3)
μ:液体の粘性係数(g/cm・s)
D:粒子径(cm)
g:重力加速度(cm/s2)
製鋼スラグの粒度分布を複数の粒度帯に区分けし、各粒度帯のスラグの沈降速度を計算した結果を表1に示す。ここでは、製鋼スラグの密度は3.5t/m3(3.5g/cm3)として計算した。また、スラグ粒径は、各粒度帯の平均粒径(粒度帯上限値と下限値の平均値)を用いた。
したがって、対象となるスラグAの各粒度帯のスラグについて、各々の「OH−濃度増加速度v」に「海面から可視水深(水深5m)までの沈降時間t」と「スラグA中に占める質量割合w」を乗じ、その値の全粒度帯の総和を求めることにより、スラグAの海面〜可視水深(水深5m)でのOH−濃度増加量、すなわち海水へのOH−溶出量を求めることができる。
そして、各粒度帯gのスラグについて、比表面積s(m2/kg)と、海域に投入した際の海面から可視水深までの沈降時間t(分)を求める。通常、各粒度帯gのスラグの比表面積sの算出では、スラグの形状は球体と仮定し、スラグ密度はスラグ単体の真比重(3.5t/m3)とする。また、スラグ粒径は、各粒度帯の平均粒径(粒度帯上限値と下限値の平均値)を用いればよい。
また、各粒度帯gのスラグの海面から可視水深(例えば、5m水深)までの沈降時間tは、さきに挙げたストークスの式、アレンの式及びニュートンの式により、表1及び図6(ア)に示すように算出する。
ここで、海域の「可視水深」の決め方は、一般に行われる透明度板を用いた海水透明度の測定手法を用い、透明度板を海中に下ろし、海面上から透明度板を目視できる水深を求めればよい。
(i)粒度帯gxのスラグを供試体とする溶出試験を行い、スラグを海水に浸漬した時のpH測定結果に基づき、海水のOH−濃度増加速度vxを求める。
(ii)粒度帯gxのスラグの比表面積sxとOH−濃度増加速度vxに基づき、スラグAにおける単位比表面積当たりのOH−濃度増加速度分を求め、この単位比表面積当たりのOH−濃度増加速度分を、粒度帯gx以外の他の粒度帯gの各スラグの比表面積sに乗ずることで、粒度帯gx以外の他の粒度帯gの各スラグのOH−濃度増加速度vを求める。
(iii)各粒度帯gのスラグについて、[OH−濃度増加速度v]×[海面から可視水深までの沈降時間t]×[スラグA中に占める割合w]=OH−溶出量dを求め、全ての粒度帯gのスラグのOH−溶出量dの総和をOH−溶出量Dとして求める。
この溶出試験で測定された粒度帯gxのスラグのpH値をOH−濃度に換算し、図3に示すような海水のOH−濃度増加速度を求める。
図6において、各粒度帯gのスラグの[OH−濃度増加速度v(mol/分・スラグ1kg)]が図6(イ)であり、各粒度帯gのスラグの[海面から可視水深までの沈降時間t(分)]が図6(ア)であり、各粒度帯gのスラグの[スラグA中に占める割合w(質量%)]が図6(ウ)であり、各粒度帯gのスラグについて、それらの値を乗算することにより、スラグAを海域に投入した際の海面〜可視水深領域での、各粒度帯gのスラグからのOH−溶出量d、すなわち図6(エ)が求まる。そして、各粒度帯gのスラグからのOH−溶出量dの総和(=Σ(v×t×w))が、スラグAを海域に投入した際の海面〜可視水深領域でのスラグからのOH−溶出量Dということになる。
本発明では、このOH−溶出量Dを、スラグAを海域に投入した場合にスラグが海面〜可視水深領域の海水に与えるOH−負荷量として捉え、例えば、海面〜可視水深領域での白濁発生の有無を判断する指標などとして用いるものである。
1つの方法としては、OH−溶出量Dについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値D0を設定する。この場合、海域投入用スラグの調製方法では、前記予測方法で算出されるOH−溶出量Dが基準値D0以下となるように、スラグの粒度調整を行う。通常、この粒度調整では、スラグを篩分けして細かい粒径のスラグ粒子を取り除く。また、海域投入用スラグの選定方法では、前記予測方法で算出されるOH−溶出量Dが基準値D0以下のスラグを海域投入に適したスラグとして選定する。
・スラグ投入速度:β(t/hr)以下の場合、基準値D0:α(mol/スラグ1kg)
・スラグ投入速度:β(t/hr)超、2×β(t/hr)以下の場合、基準値D0:0.5×α(mol/スラグ1kg)
・スラグ投入速度:2×β(t/hr)超、3×β(t/hr)以下の場合、基準値D0:0.33×α(mol/スラグ1kg)
例えば、或る製鋼スラグについて、本発明の予測方法により求めたOH−溶出量Dがα(mol/スラグ1kg)であり、この製鋼スラグを投入速度β(t/hr)で投入した場合に海面〜可視水深領域で白濁を生じないとすると、α(mol/スラグ1kg)×β(t/hr)=α×β(mol/hr)を基準値F0として設定することができる。
Claims (6)
- 或る任意のスラグAを海域に投入した場合にスラグが海面〜可視水深領域の海水に与えるOH−負荷量を予測するための方法であって、
スラグAの粒度分布を複数の粒度帯gに区分けし、各粒度帯gのスラグについて、比表面積sと海域に投入した際の海面から可視水深までの沈降時間tを求めるとともに、複数の粒度帯gの中から任意の粒度帯gxを選択し、下記(i)〜(iii)の手順に従い、スラグAを海域に投入した際の海面〜可視水深領域でのスラグからのOH−溶出量Dを求めることを特徴とする、スラグ投入による海水のOH−負荷量の予測方法。
(i)粒度帯gxのスラグを供試体とする溶出試験を行い、スラグを海水に浸漬した時のpH測定結果に基づき、海水のOH−濃度増加速度vxを求める。
(ii)粒度帯gxのスラグの比表面積sxとOH−濃度増加速度vxに基づき、スラグAにおける単位比表面積当たりのOH−濃度増加速度分を求め、この単位比表面積当たりのOH−濃度増加速度分を、粒度帯gx以外の他の粒度帯gの各スラグの比表面積sに乗ずることで、粒度帯gx以外の他の粒度帯gの各スラグのOH−濃度増加速度vを求める。
(iii)各粒度帯gのスラグについて、[OH−濃度増加速度v]×[海面から可視水深までの沈降時間t]×[スラグA中に占める割合w]=OH−溶出量dを求め、全ての粒度帯gのスラグのOH−溶出量dの総和をOH−溶出量Dとして求める。 - OH−溶出量Dに基づき、さらに[OH−溶出量D]×[海域へのスラグ投入速度]=実OH−負荷量Fを求めることを特徴とする、請求項1に記載のスラグ投入による海水のOH−負荷量の予測方法。
- 粒度帯gxのスラグは、比表面積が0.5m2/kg以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスラグ投入による海水のOH−負荷量の予測方法。
- 粒度帯gxのスラグを供試体とする溶出試験では、スラグ質量の3〜20倍の質量の海水中にスラグ浸漬させ、50〜300rpmの回転速度で撹拌を与えながらpHを測定し、このpHからOH−濃度増加速度を求めることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスラグ投入による海水のOH−負荷量の予測方法。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載の予測方法を用いた海域投入用スラグの調製方法であり、下記(a)又は(b)に従いスラグの粒度調整を行うことを特徴とする海域投入用スラグの調製方法。
(a)OH−溶出量Dについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値D0を設定し、算出されるOH−溶出量Dが基準値D0以下となるように、スラグの粒度調整を行う。
(b)実OH−負荷量Fについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値F0を設定し、算出される実OH−負荷量Fが基準値F0以下となるように、スラグの粒度調整を行う。 - 請求項1〜4のいずれか一項に記載の予測方法を用いた海域投入用スラグの選定方法であり、下記(a)又は(b)に従いスラグの選定を行うことを特徴とする海域投入用スラグの選定方法。
(a)OH−溶出量Dについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値D0を設定し、算出されるOH−溶出量Dが基準値D0以下のスラグを選定する。
(b)実OH−負荷量Fについて、スラグ投入した際に海面〜可視水深領域で白濁を生じない基準値F0を設定し、算出される実OH−負荷量Fが基準値F0以下のスラグを選定する。
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