JP2012051427A - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】モータを駆動する各相電流指令値のゼロクロス時においても、モータからの振動及び異音が発生することがなく、操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】デッドタイム補償演算手段は、各相電流指令値がゼロ近傍の所定範囲内にある場合には、モータの回転角速度に応じて各相のデッドタイム補償量を変え、回転角速度の絶対値が所定値より小さい場合には、回転角速度の絶対値が小さくなるに従い、各相のデッドタイム補償量を漸減させる。
【選択図】図3

Description

本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
従来、直流電源から供給される直流電圧をPWMインバータにより三相(U、V、W)の駆動電力に変換してブラシレスモータに供給するモータ制御装置がある。
図7に示すように、PWMインバータは、直列に接続された一対のスイッチング素子(パワーMOSFET等)51a、51bからなるアーム52を基本単位として、各相に対応する3つのアーム52を並列接続することにより構成されている。そして、モータ制御装置は、各アーム52の高位側のスイッチング素子51aと低位側のスイッチング素子51bとを所定のタイミングで交互にオン/オフすることにより、モータ21に三相の駆動電力を供給する。
ところで、こうしたモータ制御装置では、通常、高位側のスイッチング素子51aと低位側のスイッチング素子51bとの短絡(アーム短絡)を防止するために、そのオン/オフの切替時には、各スイッチング素子51a、51bが共にオフとなるデッドタイムが設けられている。しかし、このデッドタイムの存在により、電圧指令値とPWMインバータの出力電圧との間に誤差が生じ、これによりトルクリップルや振動、異音の原因となる電流歪みが発生するという問題があった。
特に、このようなモータ制御装置を使用する電動パワーステアリング装置(EPS)においては、トルクリップルや振動は操舵フィーリングを低下させると同時に、異音は車室内の静粛性を損なうものとなる。
そこで、従来、こうしたEPS用のものを含む多くのモータ制御装置では、デッドタイムに起因する電流歪みを抑制すべく、その電圧指令値と出力電圧との間の誤差を低減するデッドタイム補償が行なわれている。
例えば、非特許文献1には、図8に示すように、搬送波である三角波δとの比較により各スイッチング素子51a、51bのオン/オフタイミングを決定するためのDUTY指令値αxに対し、その電流方向に応じて、予め設定されたデッドタイム補償量βを加算又は減算する方法が開示されている。
具体的には、アーム52に対応するx相(x相=u,v,w以下同様)の電流方向が、アーム52からモータ21に向かう方向、即ち「正」(図7中右方向矢印)である場合にはDUTY指令値αxにデッドタイム補償量βを加算する。そして、その電流方向が、モータ21からアーム52に向かう方向、即ち「負」(図7中左方向矢印)である場合にはDUTY指令値αxからデッドタイム補償量βを減算する。これにより、図8に示す三角波δの周期T内にx相の出力電圧Vxが電源電圧Vbとなる時間(t3+t4又はt5+t6)と、デッドタイムを設けない場合(理想電圧波形)のその時間(t1+t2)とを等しくすることができ、電圧指令値とPWMインバータの出力電圧とを一致させてデッドタイムに起因する電流歪みを抑制することができるようになる。
杉本英彦、「ACサーボモータシステムの理論と設計の実際」、 第6版、総合電子出版社、2002年8月、P56-58
上述した従来の電動パワーステアリング装置では、駆動されるモータの各相電流値を検出し、検出された各相電流値の正負に応じて所定のデッドタイム補償量を各相電圧指令値に加算又は減算していた。しかし、各相電流値がゼロ近傍の小さな値になると、各相電流値のはねにより各相電流値の正負の判断が困難になるため、デッドタイム補償量を誤った方向に補正してしまい振動や異音を発生するおそれがあった。
上記課題について本願発明者は、デッドタイム補償量を「各相電流値の流れる方向」によって決定していることに原因があると考え、デッドタイム補償量を「各相電流指令値の正負」によって決定することとした。その結果、かなりの改善が見られたが、振動及び異音が消えたわけではなかった。その原因について、本願発明者は、モータが低速回転する場合には、モータの回転角を検出するモータ回転角センサにノイズが乗りやすく、各相電流指令値のはねが大きくなるためであると考えた。即ち、各相電流指令値がゼロに近い値になった場合には、各相電流指令値が正値と負値との間を頻繁にクロスするクロス現象が発生する。クロス現象が発生すると、各相電流指令値の正負の判断が困難になるため、デッドタイム補償量を誤った方向に補正してしまい、その結果、電流歪が却って助長され、振動及び異音が発生するおそれがある。
本発明の目的は、モータからの振動及び異音の発生を低減し、操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置を提供することにある。
上記の課題を解決するため、請求項1の電動パワーステアリング装置は、ステアリング機構に操舵補助力を与えるモータと、前記モータの回転角を検出するモータ位置検出手段と、操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、車速を検出する車速検出手段と、前記操舵トルク検出手段により検出された操舵トルク及び前記車速検出手段により検出された車速に基づいて前記モータに対する駆動電力供給の目標値である電流指令値を演算する電流指令値演算手段と、前記電流指令値に基づき前記モータを駆動制御するモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段と、前記モータ制御信号に基づき前記モータに対して駆動電力を出力するモータ駆動手段と、前記モータの各相に流れる各相電流値を検出する各相電流値検出手段と、を備え、前記モータ制御信号生成手段は、前記モータ位置検出手段により検出されたモータ回転角に基づいて前記モータの回転角速度を演算する回転角速度演算手段と、前記電流指令値演算手段により演算された前記電流指令値と前記各相電流値検出手段により検出された前記各相電流値をd/q座標系に変換した電流値との偏差に基づくフィードバック制御により各相DUTY指令値を生成する各相DUTY指令値生成手段と、前記電流指令値及び前記モータ位置検出手段により検出された回転角に基づいて前記モータの各相の電流指令値を生成する各相電流指令値生成手段と、前記各相電流指令値が正値である場合には、所定のデッドタイム補償量を前記各相DUTY指令値に加算し、前記各相電流指令値が負値である場合には、正負の符号を変えた前記デッドタイム補償量を前記各相DUTY指令値に加算することで前記モータ駆動手段のデッドタイムを補償するデッドタイム補償演算手段と、搬送波と前記デッドタイム補償後の各相DUTY指令値との比較によりモータ制御信号を出力するPWM出力手段と、を有し、前記デッドタイム補償演算手段は、前記各相電流指令値がゼロ近傍の所定範囲内にある場合には、前記回転角速度に応じて前記各相のデッドタイム補償量を変えることを特徴とする。
これにより、本請求項の電動パワーステアリング装置は、各相電流指令値がゼロ近傍の所定範囲内にあって、ノイズにより正値と負値の間を頻繁にクロスし、デッドタイム補償量を誤った方向に補正した場合であっても、その影響を小さくし、振動及び異音の発生を抑制することができる。
請求項2の電動パワーステアリング装置は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記デッドタイム補償演算手段は、前記回転角速度の絶対値が所定値より小さい場合には、前記回転角速度の絶対値が小さくなるに従い、前記各相のデッドタイム補償量を漸減させることを特徴とする。
本請求項の電動パワーステアリング装置は、回転角速度の絶対値が所定値より小さい場合、即ち、モータが低速で回転しており、モータ位置検出手段にノイズが乗りやすい場合には、回転角速度の絶対値が小さくなるに従い各相のデッドタイム補償量を漸減させる。そのため、本請求項の電動パワーステアリング装置は、モータが低速回転し、相電流指令値がゼロ値に近い正値と負値との間を頻繁にクロスする場合であっても、各相DUTY指令値を補正する各相のデッドタイム補償量が小さいため、デッドタイム補償後の各相DUTY指令値が大きく変動する現象を効果的に抑制することができる。その結果、本請求項の電動パワーステアリング装置は、モータからの異音の発生を防止するとともに操舵フィーリングの向上を図ることができる。
本発明によれば、モータからの振動及び異音の発生を低減し、操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング制御装置を提供することができる。
電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。 EPSの制御ブロック図。 各相のデッドタイム補償量マップの概略構成図。 モータ制御の処理手順を示すフローチャート図。 デッドタイム補償演算の処理手順を示すフローチャート図。 各相電流指令値のゼロ近傍をあらわす概念図。 PWMインバータを構成するアームの概略図。 デッドタイム補償の作用を説明する波形図。
以下、コラム型の電動パワーステアリング装置(以下、EPSという)に具体化した本発明の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角が変更される。
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ24と、EPSアクチュエータ24の作動を制御する制御手段としてのECU27とを備えている。
本実施形態のEPSアクチュエータ24は、コラム型のEPSアクチュエータであり、その駆動源であるモータ21は、減速機構23を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。EPSアクチュエータ24は、モータ21の回転を減速機構23により減速してコラムシャフト8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する。
ECU27には、車速センサ25(車速検出手段)、トルクセンサ26(操舵トルク検出手段)、及びモータ回転角センサ22が接続されている。ECU27は、これら各センサの出力信号に基づいて、車速V、操舵トルクτ、及びモータ回転角θを検出する。例えば、本実施形態のトルクセンサ26は、一対のレゾルバが図示しないトーションバーの両端に設けられたツインレゾルバ型のトルクセンサである。また、ECU27は、これらの検出される各状態量に基づいて目標アシスト力を演算し、モータ21への駆動電力の供給を通じて、EPSアクチュエータ24の作動、即ち、操舵系に付与するアシスト力を制御する。
次に、本実施形態のEPS1における電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPS1の制御ブロック図である。同図に示すように、EPS1は、ECU27、モータ21、及びバッテリ28を備える。モータ21は、ブラシレスモータであり、モータ回転角θを検出するためのモータ回転角センサ22を有する。ECU27は、モータ制御信号を出力するCPU29と、そのモータ制御信号に基づいて、モータ21に三相の駆動電力を供給するモータ駆動回路40(モータ駆動手段)と、モータ21に通電される各相電流値Iu、Iv、Iwを検出するための電流センサ30u、30v、30w(各相電流値検出手段)とを備える。
モータ駆動回路40は、直列に接続された一対のスイッチング素子(パワーMOSFET等)を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる公知のPWMインバータである。
CPU29は、上記各センサ30u、30v、30w、22、26、25の出力信号に基づき検出されたモータ21の各相電流値Iu、Iv、Iw、及びモータ回転角θ、並びに上記操舵トルクτ、及び車速Vに基づいて、電流フィードバック制御を実行する。具体的にCPU29は、モータ駆動回路40を構成する各スイッチング素子のオンデューティ比を規定するモータ制御信号をモータ駆動回路40に出力する。モータ制御信号が印加されると、モータ駆動回路40では、モータ制御信号に応答して、各スイッチング素子がオン/オフする。これによりモータ駆動回路40は、バッテリ28の電源電圧に基づく三相のモータ駆動電力を生成して、モータ21へ出力する。
以下に示す各制御ブロックは、CPU29が実行するコンピュータプログラムにより実現される演算処理である。CPU29は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
図2に示すように、CPU29は、モータ21を制御する電流指令値を演算する電流指令値演算部31(電流指令値演算手段)と、上記モータ制御信号を生成するモータ制御信号生成部44(モータ制御信号生成手段)とを備える。
電流指令値演算部31は、トルクセンサ26により検出された操舵トルクτ及び車速センサ25により検出された車速Vに基づいて、アシストトルクの制御目標であるq軸電流指令値Iq*を演算する。
モータ制御信号生成部44は、モータ回転角θからモータ回転角速度ωを生成するための回転角速度演算部36(回転角速度生成手段)と、モータ駆動回路40を構成するスイッチング素子のオン/オフタイミングを決定するDUTY指令値αu、αv、αwを生成する各相DUTY指令値生成部43(各相DUTY指令値生成手段)と、三相の相電流指令値Iu*、Iv*、Iw*(以下、各相電流指令値Ix*(x=u,v,w)ともいう)を生成するための各相電流指令値生成部35(各相電流指令値生成手段)と、所定範囲値εを決定する所定範囲値決定部45と、各相のデッドタイム補償量βu、βv、βwを決定するデッドタイム補償量決定部42と、デッドタイムに起因する電流歪みを補償すべく各相のDUTY指令値αu、αv、αwを補正するデッドタイム補償演算部39と、を備える。デッドタイム補償演算部39により補正された補正後の各相DUTY指令値αu’、αv’、αw’は、PWM出力部41に入力される。
各相DUTY指令値生成部43は、d/q変換演算部32と、PI制御演算部33、34と、d/q逆変換演算部37と、各相DUTY指令値演算部38と、により構成される。
詳述すると、d/q変換演算部32には、電流センサ30u、30v、30wにより検出された各相電流値Iu、Iv、Iw、及びモータ回転角センサ22により検出されたモータ回転角θが入力される。d/q変換演算部32は、入力されたモータ回転角θに基づいて、各相電流値Iu、Iv、Iwをd/q座標系のd軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換する。
d/q変換演算部32により演算されたd軸電流値Id及びq軸電流値Iq、並びに電流指令値演算部31により演算されたq軸電流指令値Iq*は、それぞれd、q各軸に対応するPI制御演算部33,34に入力される。本実施形態では、d軸に対応するPI制御演算部33には、d軸電流指令値Id*としてゼロ(Id*=0)が入力される。そして、PI制御演算部33は、d軸電流指令値Id*とd軸電流値Idとの偏差に基づくフィードバック制御(比例・積分制御)によりd軸電圧指令値Vd*を演算する。同様に、PI制御演算部34は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流値Iqとの偏差に基づくフィードバック制御(比例・積分制御)によりq軸電圧指令値Vq*を演算する。
各PI制御演算部33、34により演算されたd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、モータ回転角センサ22により検出されたモータ回転角θとともにd/q逆変換演算部37に入力される。d/q逆変換演算部37は、モータ回転角θに基づきd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を三相の相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換し、各相DUTY指令値演算部38に出力する。各相DUTY指令値演算部38は、この各相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に基づいて、各相のDUTY指令値αu、αv、αwを生成する。
また、電流指令演算部31により演算されたq軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*(Id*=0)は、モータ回転角θとともに各相電流指令値生成部35にも入力される。各相電流指令値生成部35は、モータ回転角θに基づきq軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*を三相の相電流指令値Iu*、Iv*、Iw*に変換し、デッドタイム補償演算部39に出力する。
また、電流指令演算部31により演算されたq軸電流指令値Iq*は、所定範囲値決定部45にも入力される。所定範囲値決定部45は、マップに基づき、入力されたq軸電流指令値Iq*に対応する所定範囲値εを決定する。図6に示すように、所定範囲値εは、各相電流指令値Ix*がゼロ近傍の所定範囲(−ε≦Ix*≦ε)にあることを判断する基準値となる。
デッドタイム補償演算部39には、各相DUTY指令値演算部38で演算された各相のDUTY指令値αx(x=u,v,w)、デッドタイム補償量決定部42で決定された各相のデッドタイム補償量βx(x=u,v,w)、回転角速度演算部36で演算されたモータ回転角速度ω、及び各相電流指令値生成部35で生成された各相電流指令値Ix*(x=u,v,w)が入力される。デッドタイム補償演算部39は、各相電流指令値Ix*(x=u,v,w)の正負に応じて、各相のデッドタイム補償量βxの正負を決定し、この各相のデッドタイム補償量βxを各相のDUTY指令値αxに加算又は減算することでデッドタイムに起因する電流歪みを補償する。デッドタイム補償演算部39は、補正後の各相DUTY指令値αx’をPWM出力部41に出力し、PWM出力部41は、補正後の各相DUTY指令値αx’に基づきモータ制御信号をモータ駆動回路40に出力する。
ここで、モータ21が低速で回転すると、各相電流指令値Ix*の生成に用いるモータ回転角センサ22の出力信号にはノイズが乗りやすく、各相電流指令値Ix*のはねが大きくなるおそれがある。そのため、各相電流指令値Ix*がゼロ近傍にあるときには、各相電流指令値Ix*が正値と負値との間を頻繁にクロスするクロス現象が現れる。この現象が発生すると、各相電流指令値Ix*の正負の判断が困難になるとともに、各相のデッドタイム補償量βxの正負が頻繁に入れ替わってしまう。そのため、本来であれば、各相DUTY指令値αxにデッドタイム補償量βxを加算すべきところを逆に減算してしまったり、減算すべきところを加算してしまう逆演算が発生する。その結果、却って電流歪が助長され、モータ21に振動及び異音が生じるおそれがある。
そこで、本実施形態のEPS1は、各相電流指令値Ix*がノイズによりゼロ近傍において、正値と負値との間を頻繁にクロスするおそれがある場合には、各相のデッドタイム補償量βxを補正することとした。具体的には、図3に示すように、回転角速度ωの絶対値が所定値ω0より小さい場合、即ち、モータ21が低速で回転する場合には、回転角速度ωの絶対値が小さくなるに従い各相のデッドタイム補償量βxを漸減させ、逆演算による影響が小さくなるようにした。ここで所定値ω0は、モータ21に異音が発生しうる回転角速度に設定するとよく、具体的な値は、実験等により決定される。
次に、本実施形態のCPU29によるモータ制御の処理手順について説明する。
本実施形態おいて、CPU29は、定時割り込みにより所定周期毎(例えば200μ秒毎)に、図4のフローチャートに示すステップ401〜ステップ410の各処理を実行する。
CPU29は、先ず、上記各センサ30u、30v、30w、22、26、25の出力信号に基づいて各状態量(相電流値Iu、Iv、Iw、モータ回転角θ、操舵トルクτ、車速V)を検出し(ステップ401)、モータ回転角θに基づいてモータの回転角速度ωを演算する(ステップ402)。続いてモータ21が発生するアシストトルクの制御目標であるq軸電流指令値Iq*、及びd軸電流指令値Id*(Id*=0)を演算する(ステップ403)。そして、上記ステップ401において検出された相電流値Iu、Iv、Iwをd/q変換により、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換する(ステップ404)。
次に、CPU29は、d軸電流指令値Id*とd軸電流値Idとの偏差、及びq軸電流指令値Iq*とq軸電流値Iqとの偏差に基づくPI制御演算(比例・積分制御)を実行することにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する(ステップ405)。
続いて、CPU29は、上記ステップ405において演算したd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をd/q逆変換により、三相の各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する(ステップ406)。CPU29は、この各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて各相のDUTY指令値αu、αv、αwを生成する(各相DUTY指令値演算、ステップ407)。
次に、CPU29は、上記ステップ402において演算された回転角速度ωに基づいて、同回転角速度ωに応じた各相のデッドタイム補償量βxを決定し(ステップ408)、上記ステップ407で生成された各相DUTY指令値αu、αv、αwを補正する(デッドタイム補償演算(図5参照)、ステップ409)。CPU29は、ステップ409において演算された補正後の各相DUTY指令値αu’、αv’、αw’に基づいてモータ制御信号を生成し、そのモータ制御信号をモータ駆動回路40へと出力する(PWM出力、ステップ410)。
次に、上記ステップ409におけるデッドタイム補償演算の詳細を図5のフローチャートに従って説明する。
CPU29のデッドタイム補償演算部39は、各相電流指令値生成部35から各相電流指令値Ix*を取得し(ステップ501)、各相DUTY指令値演算部38から各相DUTY指令値αxを取得するとともに(ステップ502)、デッドタイム補償量決定部42から各相のデッドタイム補償量βxを取得する(ステップ503)。そして、デッドタイム補償演算部39は、各相電流指令値Ix*のゼロ近傍の所定範囲値決定部45から所定範囲値εを取得する(ステップ504)。
次に、デッドタイム補償演算部39は、各相電流指令値Ix*の絶対値が、所定範囲値εの絶対値以下か否かを判断する(ステップ505)。各相電流指令値Ix*の絶対値が、所定範囲値εの絶対値以下の場合(|Ix*|≦|ε|、ステップ505:YES)、即ち、各相電流指令値Ix*がゼロ近傍の所定範囲内にある場合、デッドタイム補償演算部39は、図3のマップに従いデッドタイム補償量βxを補正する(ステップ506)。具体的に、デッドタイム補償演算部39は、回転角速度ωの絶対値が所定値ω0より小さい場合、即ち、モータ21が低速で回転する場合には、回転角速度ωの絶対値が小さくなるに従い各相のデッドタイム補償量βxを漸減させて、フローをステップ507に移行させる。なお、回転角速度ωの絶対値が所定値ω0以上の場合には、デッドタイム補償量βxは補正されない。
また、各相電流指令値Ix*の絶対値が、所定範囲値εの絶対値より大きい場合(|Ix*|>|ε|、ステップ505:NO)、即ち、各相電流指令値Ix*がゼロ近傍の所定範囲外にある場合、デッドタイム補償演算部39は、デッドタイム補償量βxを補正せず、フローをステップ507に移行させる。
ステップ507において、デッドタイム補償演算部39は、各相電流指令値生成部35から取得した各相電流指令値Ix*がゼロより大きいか否かを判定する。
各相電流指令値Ix*がゼロより大きい場合(Ix*>0、ステップ507:YES)、即ち、各相電流指令値Ix*が正値の場合、デッドタイム補償演算部39は、各相DUTY指令値αxに、各相のデッドタイム補償量βxを加算して(ステップ508)、補正後の各相DUTY指令値αx’をPWM出力部41へ出力する(ステップ512)。
また、各相電流指令値Ix*がゼロ以下の場合(Ix*≦0、ステップ505:NO)、デッドタイム補償演算部39は、各相電流指令値Ix*が負値であるか、または、ゼロであるかを判定する(ステップ509)。各相電流指令値Ix*が負値である場合(Ix*<0、ステップ509:YES)、デッドタイム補償演算部39は、各相DUTY指令値αxから、各相のデッドタイム補償量βxを減算して(ステップ510)、補正後の各相DUTY指令値αx’をPWM出力部41へ出力する(ステップ512)。
また、各相電流指令値Ix*がゼロの場合(Ix*=0、ステップ509:NO)、デッドタイム補償演算部39は、各相DUTY指令値αxを補正後の各相DUTY指令値αx’として(ステップ511)、PWM出力部41へ出力する(ステップ512)。
このように、デッドタイム補償演算部39は、U,V,W相の各相毎に上記ステップ501〜ステップ512の処理を実行することにより、各相のDUTY指令値αu、αv、αwを補正し、その補正後の各相DUTY指令値αu’、αv’、αw’をPWM出力部41に出力する。そして、PWM出力部41は、デッドタイム補償演算部39により補正された補正後の各相DUTY指令値αu’、αv’、αw’と搬送波である三角波δとの比較に基づいてモータ制御信号を生成し(図8参照)、そのモータ制御信号をモータ駆動回路40へ出力する。
次に、上記のように構成された本実施形態のEPS1の作用及び効果について説明する。
上述のように、特にモータ21の低速回転時には、モータ回転角θを検出するモータ回転角センサ22にノイズが乗りやすく、各相電流指令値Ix*のはねが大きくなるおそれがある。そのため、各相電流指令値Ix*がゼロに近い値になった場合には、各相電流指令値Ix*が正値と負値との間を頻繁にクロスするクロス現象が発生する。クロス現象が発生すると、ECU27のデッドタイム補償演算部39では、本来であれば、各相DUTY指令値αxにデッドタイム補償量βを加算すべきところを逆に減算してしまったり、減算すべきところを加算してしまう逆演算が発生する。その結果、却って電流歪が助長され、振動及び異音が発生するおそれがある。
この点を踏まえ、本実施形態のEPS1は、回転角速度ωの絶対値が所定値ω0より小さい場合、即ち、モータ21が低速で回転しており、モータ回転角センサ22の出力信号にノイズが乗りやすい場合には、回転角速度ωの絶対値が小さくなるのに応じて、各相のデッドタイム補償量βxを漸減させることとした。これにより、モータ21が低速回転し、各相電流指令値Ix*にクロス現象が発生する場合であっても、各相DUTY指令値αxを補正する各相のデッドタイム補償量βxが小さいため、デッドタイム補償後の各相DUTY指令値αx’が逆演算により大きく変動するのを抑制することができる。その結果、モータからの振動及び異音の発生を防止するとともに操舵フィーリングの向上を図ることができる。
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
(1)本実施形態では、デッドタイム補償量βxの補正値を、図3に示す各相のデッドタイム補償量マップから求めたが、補正前のデッドタイム補償量βxに各相のデッドタイム補償量ゲインを乗じて各相デッドタイム補償量βxを決定してもよい。この場合の補償量ゲインは、例えば、1以下に設定することができる。
(2)本実施形態では、回転角速度ωの絶対値が所定値ω0より小さい場合、各相のデッドタイム補償量βxを直線的に漸減させるようにしたが、その漸減方法は、曲線的に漸減させてもよいし、直線と曲線とを組み合わせて漸減させてもよい。
(3)本実施形態では、各相電流指令値Ix*の正値/負値にかかわらず同じ大きさの各相のデッドタイム補償量βxが用いられたが、各相電流指令値Ix*の正値/負値に応じて大きさの異なる各相のデッドタイム補償量βxを使い分けてもよい。
(4)本実施形態では、本発明をコラムアシストEPSに具体化したが、本発明をラックアシストEPSやピニオンアシストEPSに適用してもよい。
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、
8:コラムシャフト、9:インターミディエイトシャフト、10:ピニオンシャフト、
11:タイロッド、12:転舵輪、21:モータ、22:モータ回転角センサ、
23:減速機構、24:EPSアクチュエータ、25:車速センサ、
26:トルクセンサ、27:ECU、28:バッテリ、
29:CPU、30u、30v、30w:電流センサ、31:電流指令値演算部、
32:d/q変換演算部、33,34:PI制御演算部、
35:各相電流指令値生成部、36:回転角速度演算部、37:d/q逆変換演算部、
38:各相DUTY指令値演算部、39:デッドタイム補償演算部、
40:モータ駆動回路、41:PWM出力部、42:デッドタイム補償量決定部、
43:各相DUTY指令値生成部、44:モータ制御信号生成部、
45:所定範囲値決定部
V:車速、τ:操舵トルク、θ:モータ回転角、ω:モータ回転角速度、
ω0:デッドタイム補償量を漸減させるモータ回転角速度の所定値、
Iu、Iv、Iw:各相電流値、Iq*:q軸電流指令値、Id*:d軸電流指令値、
Id:d軸電流値、Iq:q軸電流値、Vd*:d軸電圧指令値、Vq*:q軸電圧指令値、
Vu*、Vv*、Vw*:各相電圧指令値、
αu、αv、αw:各相DUTY指令値、
β、βu、βv、βw:デッドタイム補償量、
αu’、αv’、αw’: 補正後の各相DUTY指令値、
Iu*、Iv*、Iw*:各相電流指令値、
ε:各相電流指令値のゼロ近傍の所定範囲を決定する所定範囲値、
δ:三角波(搬送波)

Claims (2)

  1. ステアリング機構に操舵補助力を与えるモータと、
    前記モータの回転角を検出するモータ位置検出手段と、
    操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
    車速を検出する車速検出手段と、
    前記操舵トルク検出手段により検出された操舵トルク、及び前記車速検出手段により検出された車速に基づいて前記モータに対する駆動電力供給の目標値である電流指令値を演算する電流指令値演算手段と、
    前記電流指令値に基づき前記モータを駆動制御するモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段と、
    前記モータ制御信号に基づき前記モータに対して駆動電力を出力するモータ駆動手段と、
    前記モータの各相に流れる各相電流値を検出する各相電流値検出手段と、を備え、
    前記モータ制御信号生成手段は、
    前記モータ位置検出手段により検出された回転角に基づいて前記モータの回転角速度を演算する回転角速度演算手段と、
    前記電流指令値演算手段により演算された前記電流指令値と前記各相電流値検出手段により検出された前記各相電流値をd/q座標系に変換した電流値との偏差に基づくフィードバック制御により各相DUTY指令値を生成する各相DUTY指令値生成手段と、
    前記電流指令値及び前記モータ位置検出手段により検出された回転角に基づいて前記モータの各相の電流指令値を生成する各相電流指令値生成手段と、
    前記各相電流指令値が正値である場合には、所定のデッドタイム補償量を前記各相DUTY指令値に加算し、前記各相電流指令値が負値である場合には、正負の符号を変えた前記デッドタイム補償量を前記各相DUTY指令値に加算することで前記モータ駆動手段のデッドタイムを補償するデッドタイム補償演算手段と、
    搬送波と前記デッドタイム補償後の各相DUTY指令値との比較により前記モータ制御信号を出力するPWM出力手段と、を有し、
    前記デッドタイム補償演算手段は、
    前記各相電流指令値がゼロ近傍の所定範囲内にある場合には、前記回転角速度に応じて前記各相のデッドタイム補償量を変えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 前記デッドタイム補償演算手段は、
    前記回転角速度の絶対値が所定値より小さい場合には、前記回転角速度の絶対値が小さくなるに従い、前記各相のデッドタイム補償量を漸減させることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
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