以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る画像形成装置の一実施の形態を示す図であり、電子写真方式の画像形成装置に適用した例を示している。なお、本実施の形態においては、一般的な静電作像方法を用いて画像を形成するフルカラーの画像形成装置について説明するが、これに限らず、例えばモノクロ画像を形成する画像形成装置に適用してもよい。
図1に示すように、画像形成装置1は、画像形成装置本体2と、この画像形成装置本体2の上部に設けられた画像読取装置3とを含んで構成されており、さらに側面(本実施の形態では、図中、右側面)に両面ユニット4が取り付けられている。
画像形成装置本体2内には、中間転写装置10が配設されている。中間転写装置10は、複数のローラに架け渡された無端状の中間転写ベルト11を有しており、この中間転写ベルト11は、略水平に張り渡された状態で図中、反時計回りに無端移動するようになっている。
中間転写装置10の下方には、シアン(c)、マゼンタ(m)、イエロ(y)、ブラック(k)の各色に対応する作像装置12c、12m、12y、12k(以下、これらを総称して作像装置12という)が中間転写ベルト11の張り渡し方向に沿って四連タンデム式に配設されている。作像装置12は、図中時計回りに回転するドラム状の像担持体(感光体)を有し、この像担持体の周りに帯電装置、現像装置、転写装置、クリーニング装置などを配置している。
作像装置12の下方には、露光装置13が配設されている。露光装置13は、各像担持体の表面に対してレーザ光(走査光線)を偏向走査して潜像を形成する。
露光装置13の下方には、給紙装置14が配設されている。給紙装置14は、記録媒体Pを収納する給紙カセット15を二段に備えている。そして、各給紙カセット15の図中右上方には、各給紙カセット15内の記録媒体Pを一枚ずつ繰り出して記録媒体搬送路16に給送する給紙コロ17が設けられている。記録媒体搬送路16は、画像形成装置本体2内の図中右側方で、下方から上方に向けて形成されている。給紙カセット15から給送された記録媒体Pは、この記録媒体搬送路16を介して画像形成装置本体2と画像読取装置3との間に形成された胴内排紙部18に向けて搬送され、排紙される。
また、記録媒体搬送路16上には、搬送方向上流から順に、搬送ローラ19、中間転写ベルト11と対向して配置された二次転写装置21、熱定着装置22、一対の排紙ローラからなる排紙装置23などが配置されている。熱定着装置22の搬送方向下流には、両面ユニット4に記録媒体Pを搬送する再給紙搬送路24が記録媒体搬送路16と分岐して設けられている。また、搬送ローラ19の搬送方向上流には、両面ユニット4から再給紙され、あるいは両面ユニット4を通過して手差しトレイ36から手差し給紙された記録媒体Pを記録媒体搬送路16に合流させるための給紙路37が設けられている。
このように構成された画像形成装置1は、コピーの要求があると、画像読取装置3により原稿画像を読み取り、この読取画像に基づき露光装置13により各像担持体の表面に潜像を形成する。そして、各現像装置によって各作像装置12のそれぞれの像担持体上に各色トナー画像を形成し、このトナー像を一次転写装置25c、25m、25y、25kで順次転写して中間転写ベルト11上にカラー画像を形成する。
一方で、画像形成装置1は、給紙コロ17の1つを選択的に回転して対応する給紙カセット15から記録媒体Pを繰り出して記録媒体搬送路16に給送し、または手差しトレイ36から手差し給紙された記録媒体Pを給紙路37に給送する。給送された記録媒体Pは、搬送ローラ19により記録媒体搬送路16を搬送され、タイミングを取って二次転写位置へと送り込まれる。二次転写位置に送り込まれた記録媒体Pには、中間転写ベルト11上に形成されたカラー画像が二次転写装置21により転写される。その後、記録媒体Pは、熱定着装置22で画像定着後、排紙装置23により排紙され、胴内排紙部18上にスタックされる。
記録媒体Pの裏面にも画像を形成するときには、表面に画像が形成された記録媒体Pを再給紙搬送路24を介して両面ユニット4に送り込み、両面ユニット4で反転後、給紙路37を通して再給紙する。そして、再給紙された記録媒体Pは、別途中間転写ベルト11上に形成されたカラー画像が二次転写された後、再び熱定着装置22で定着され、両面に画像が形成された状態で胴内排紙部18に排紙される。
次に、図2〜図4を参照して、熱定着装置22について、詳細に説明する。
図2に示すように、熱定着装置22は、定着ローラ50と、内部に加熱源としてのハロゲンヒータ51aを備えた加熱ローラ51と、定着ローラ50と加熱ローラ51に架け渡された定着ベルト52と、加圧部材としての加圧ローラ53と、記録媒体Pの表面の温度を検知する非接触式温度センサ54とを含んで構成されている。また、熱定着装置22は、非接触式温度センサ54の検知結果に基づき、PWM駆動回路56を介して定着温度を制御する定着温度制御部57を有している。本実施の形態における定着ローラ50、加熱ローラ51および定着ベルト52は、加熱定着部材を構成している。
ここで、定着ローラ50および加圧ローラ53のうちの一方のローラの回転軸は固定され、他方のローラの回転軸は移動自在に構成されている。また、他方のローラが一方のローラに対して接離可能に支持され、かつ他方のローラが一方のローラに向けてばねで付勢されている。このため、定着ローラ50と加圧ローラ53との間には、定着ベルト52を介して定着ニップ部nが形成されている。
加熱ローラ51は、ハロゲンヒータ51aにより加熱される。なお、本実施の形態では、加熱源としてハロゲンヒータを用いた例について説明したが、これに限らず、例えばセラミックヒータや誘導加熱(IH)などの他の加熱源としてもよい。
非接触式温度センサ54は、定着ニップ部nを通過直後の記録媒体Pから放射される赤外線を受光することにより、記録媒体Pの表面温度を非接触状態で検知する。
また、熱定着装置22における定着温度制御は、次の通りである。
すなわち、非接触式温度センサ54により定着ニップ部nを通過直後の記録媒体Pの表面温度が検知されると、定着温度制御部57は、予め定められた目標制御温度Tt(℃)と検知された記録媒体Pの表面温度Tp(℃)とを比較する。そして、目標制御温度Tt(℃)と表面温度Tp(℃)との温度偏差の情報に基づき、PWM駆動回路56を介してハロゲンヒータ51aへの印加電力を単位時間当たりの通電時間(=DUTY)で制御する。これにより、記録媒体Pおよびトナーに与える熱量が所定の熱量となるよう調整される。
ところで、記録媒体Pの表面温度は、定着ニップ部nを通過直後から急激に変化するため、定着時の記録媒体Pの正確な温度を得るためには、非接触式温度センサ54が検知する検知領域は、定着ニップ部nに可能な限り近いことが望まれる。したがって、本実施の形態においては、非接触式温度センサ54の検知領域Sは、定着ニップ部nの近傍に配置され、好ましくは定着ニップ部nの出口から20mm以内に設定されている。なお、検知領域Sは、定着ニップ部nの出口から20mm以内が望ましいが、赤外線検知型の非接触式温度センサの場合、対象物の検知角度に制限があるため、非接触式温度センサ54の配置には十分な配慮を要する。
このように、非接触式温度センサ54による記録媒体Pの表面温度の検知には、正確性が求められる。しかし、図25に示すように、従来の熱定着装置では、定着ローラ101や周辺部材から放射された赤外線IRが記録媒体Pで反射されて非接触式温度センサ106に入射するため、非接触式温度センサ106で検知される記録媒体Pの検知温度が本来の記録媒体Pの温度より過大な温度で検知してしまうという問題があった。
そこで、本実施の形態に係る熱定着装置22では、このような問題を解決するため、図3に示すように、余分な赤外線、特に定着ローラ50から放射される赤外線を遮蔽する遮蔽手段としての遮蔽板58を設けている。また、定着ニップ部n(図2参照)の出口側近傍には、分離板59が配設されている。分離板59は、定着後の記録媒体Pが定着ベルト52(図2参照)の移動に沿って定着ベルト52に巻き付いてしまう不具合を抑止する。
図4に示すように、遮蔽板58は、定着ローラ50の外周面に沿う円弧状に形成されている。遮蔽板58は、定着ニップ部nを通過後の記録媒体Pと定着ローラ50との間に設けられ、定着ローラ50から記録媒体Pに向けて放射される赤外線IRを遮蔽する。
以上のように、本実施の形態に係る熱定着装置22は、定着ローラ50から記録媒体Pに向けて放射される赤外線IRを遮蔽板58が遮蔽するので、定着ローラ50や周辺部材から放射される赤外線IRが定着ニップ部nを通過後の記録媒体Pで反射して非接触式温度センサ54に入射することを防止することができる。したがって、非接触式温度センサ54による記録媒体Pの表面温度の検知精度を向上させることができる。
なお、本実施の形態においては、遮蔽板58を分離板59とは別に設けたが、これに限らず、例えば分離板59を設けず、遮蔽板58に分離板としての機能を兼ねさせることも可能である。この場合、熱定着装置をより小型化させることができる。
(第2の実施の形態)
次に、図5〜図7を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る熱定着装置について、説明する。
本実施の形態においては、本発明の第1の実施の形態とは、特に遮蔽板を回動可能な構成とした点で異なるが、他の構成は略同様に構成されているため、同一の符号を付してその説明を省略し、特に相違点についてのみ詳述する。
第1の実施の形態で説明した通り、遮蔽板58は、定着ローラ50からの赤外線IRの遮蔽を目的として設けられたものである。しかしながら、遮蔽板58を常時遮蔽位置に設置しておくと、定着ローラ50の熱により遮蔽板58自体も熱せられ、遮蔽板58からも赤外線を放射するようになってしまう。僅かな性外線放射量であれば、特段問題ないが、長時間遮蔽位置にあると、記録媒体Pの表面温度を正確に検知する上でその影響が無視できない程に遮蔽板58自体が赤外線を放射することになる。
そこで、本実施の形態では、必要に応じて遮蔽板を定着ローラから離間させる構成とした。
図5に示すように、本実施の形態に係る熱定着装置122は、定着ローラ50からの赤外線を遮蔽する遮蔽位置(図中、実線で示す位置)と定着ローラ50からの赤外線を遮蔽しない非遮蔽位置(図中、破線で示す位置)との間で回動可能に構成された遮蔽板158と、遮蔽板158を遮蔽位置と非遮蔽位置との間で回動させる移動機構160とを含んで構成されている。
遮蔽板158は、円弧方向の一端(図5中、上端)に図示しない回動軸が取り付けられている。この回動軸の一端あるいは両端は、例えば画像形成装置本体2(図1参照)に直接、または支持部材を介して回動可能に取り付けられている。また、上記回動軸の他端には、負荷側ギア161が固定されている。
移動機構160は、上記の負荷側ギア161と、この負荷側ギア161に噛み合う駆動側ギア162と、駆動側ギア162を回転駆動する遮蔽板駆動モータ163とを含んで構成されている。移動機構160は、遮蔽板駆動モータ163を正転(CW駆動)させることにより駆動側ギア162および負荷側ギア161を回転させる。これにより、遮蔽板158が遮蔽位置から非遮蔽位置に回動し、定着ローラ50から離間する。一方で、遮蔽板駆動モータ163を逆転(CCW駆動)させると、遮蔽板158が非遮蔽位置から遮蔽位置に回動する。
ところで、定着ローラ50に対して上記遮蔽板158を闇雲に離間および近接させると、回動軸あるいは各ギアの疲労が生じたり、また遮蔽板駆動モータ163の駆動の繰り返しによる電力の無駄も生じてしまう。したがって、上記遮蔽板158の回動は、適切なタイミングで実行する必要がある。
そこで、本実施の形態では、遮蔽板158の無駄な回動を防止するため、記録媒体Pの表面温度を検知する必要がない印刷動作時以外は、遮蔽板158を定着ローラ50から離間した非遮蔽位置に回動させておく。そして、記録媒体Pの表面温度を検知する必要がある印刷動作時には、遮蔽板158を定着ローラ50に近接した遮蔽位置に回動させる。
上記動作を実現するため、本実施の形態に係る熱定着装置122にあっては、以下の構成を有する。
図6に示すように、熱定着装置122は、印刷要求信号を受信して各種演算を行う演算部(以下、単にCPUという)170と、印刷枚数などの各種情報を記憶するメモリ部180と、定着制御部190とを含んで構成されている。また、定着制御部190は、遮蔽板移動制御部191と、定着温度制御部192と、加圧ローラ駆動モータ制御部193とを有する。遮蔽板移動制御部191は、モータ駆動回路191aを介して遮蔽板158の回動を制御する。定着温度制御部192は、第1の実施の形態における定着温度制御部57と同様、PWM駆動回路192aを介してハロゲンヒータ51aを制御する。加圧ローラ駆動モータ制御部193は、モータ駆動回路193aを介して加圧ローラ駆動モータ164の駆動を制御する。本実施の形態におけるCPU170および定着制御部190は、移動機構制御部を構成している。
次いで、図6および図7を参照して、具体的な遮蔽板158の回動動作を説明する。
以下の回動動作を実行するにあたり、印刷動作前は、遮蔽板158は非遮蔽位置で静止した状態である。
この状態で、CPU170は、印刷情報解析部171がユーザからの印刷要求信号を受信したか否かを判定する(ステップS1)。印刷要求信号の受信、すなわち印刷要求の受付は、例えば画像形成装置前面のコピー開始ボタンの押下、あるいはパーソナルコンピュータなど外部に接続された機器からの印刷要求信号の受信により行われる。
印刷要求信号が受信されると、ステップS2において、CPU170は、印刷動作モードが開始されたものと判断して、メモリ部180の印刷開始フラグFを立てる(例えば、F=1とする)。なお、印刷動作モード開始前、同フラグは、F=0である。
印刷開始フラグFが1となると、CPU170は、遮蔽板駆動モータ回転時間算出部172が遮蔽板駆動モータ163の回転時間(駆動時間)を算出し、定着制御部190内の遮蔽板移動制御部191に駆動信号を送信する。これにより、モータ駆動回路191aを通じて遮蔽板駆動モータ163が所定時間だけCCW駆動する(ステップS3)。このとき、遮蔽板駆動モータ163のCCW駆動に応じて、遮蔽板158が非遮蔽位置から遮蔽位置に回動する。次いで、定着ニップ部nを通過後の記録媒体Pの表面温度が非接触式温度センサ54により検知される(ステップS4)。
ここで、印刷1枚目の記録媒体Pが定着ニップ部nに到達するまでには、遮蔽板158を遮蔽位置に回動させる時間が十分ある。このため、1枚目の記録媒体Pが定着ニップ部nを通過する時点では、遮蔽板158の回動が完了している。したがって、非接触式温度センサ54は、定着ローラ50からの赤外線が遮蔽された状態で、記録媒体Pの表面温度を精度よく検知することができる。
また、ユーザからの印刷要求信号には、記録媒体Pが何枚印刷されるかも同時に情報として送信されており、メモリ部180の印刷枚数格納部181に印刷枚数の情報が書き込まれる。さらに、定着ニップ部nの下流には、通常不送りになった記録媒体Pを検知するために、図示しない残紙センサが取り付けられている。この残紙センサを通過した記録媒体Pの枚数は、カウントされ、残紙センサ通過枚数としてメモリ部180の残紙センサ通過枚数格納部182に蓄えられる。
次に、CPU170は、残紙センサを通過した枚数が印刷要求信号で受信した規定枚数に達したか否かを判定する(ステップS5)。規定枚数に達すると、CPU170は、印刷が終了したと判断して、遮蔽板駆動モータ回転時間算出部172が遮蔽板駆動モータ163の回転時間(駆動時間)を算出し、遮蔽板移動制御部191に駆動信号を送信する。これにより、モータ駆動回路191aを通じて遮蔽板駆動モータ163が所定時間だけCW駆動する(ステップS6)。このとき、遮蔽板駆動モータ163のCW駆動に応じて、遮蔽板158が遮蔽位置から非遮蔽位置に回動する。
遮蔽板158の回動が終了すると、CPU170は、メモリ部180の印刷開始フラグFを0にして(ステップS7)、一連の動作を終了する。
以上のように、本実施の形態に係る熱定着装置122は、印刷動作中以外は遮蔽板158が非遮蔽位置に移動するよう遮蔽板駆動モータ163の駆動をCPU170および定着制御部190が制御するので、定着ローラ50からの赤外線IRを遮蔽する必要のない印刷動作中以外は遮蔽板158を非遮蔽位置に移動させることができる。このため、定着ローラ50により遮蔽板158自体が熱せられることを防止することができ、結果として遮蔽板158から放射される赤外線IRを抑制し、非接触式温度センサ54の検知精度への影響を抑制することができる。
また、本実施の形態に係る熱定着装置122は、移動機構160が遮蔽板158を回動させることにより遮蔽位置と非遮蔽位置との間で遮蔽板158を移動可能としたので、移動機構160を大がかり、かつ複雑な構成とする必要がなく、小型で簡易な構成とすることができる。その結果、画像形成装置本体2内の限られたスペースにおいて移動機構160の設置が容易となる。
なお、本実施の形態においては、遮蔽板158の移動手段として、遮蔽板158を回動させる構成としたが、これに限らず、例えば遮蔽板158をスライド移動可能な構成など他の構成とすることも可能である。
(第3の実施の形態)
次に、図8〜図11を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る熱定着装置について、説明する。
本実施の形態においては、本発明の第2の実施の形態とは、特に記録媒体の表面性状に応じた定着制御を行う点で異なるが、他の構成は略同様に構成されているため、第1および第2の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略し、特に相違点についてのみ詳述する。
上述してきた通り、遮蔽板158の設置目的は、定着ローラ50からの赤外線IRを必要に応じて遮蔽することであった。一般に、定着部材などから放射され、記録媒体により反射される赤外線の量(赤外線量)は、記録媒体の表面性状(平滑性)により異なることが知られている。例えば、表面がざらついた記録媒体であれば、定着部材から放射された赤外線の多くを拡散するので、非接触式温度センサに入射する赤外線量は小さくなる。一方、表面が滑らかな記録媒体(例えばコート紙のような表面処理を施した紙)であれば、定着部材から放射された赤外線の多くが正反射するため、非接触式温度センサに入射する赤外線量は大きくなる。
この点に注目すると、遮蔽板158が遮蔽位置にあるときに検知された記録媒体Pの表面温度Tp1と、非遮蔽位置にあるときに検知された記録媒体Pの温度Tp2とでは、温度差ΔTが生ずると推測される。したがって、この温度差ΔTから反射した赤外線量を算出すれば、記録媒体Pの表面性状を推測することができる。
そこで、本実施の形態に係る熱定着装置322では、上記の温度差ΔTを利用して、記録媒体の表面性状に応じた定着制御を実行するようにした。
まず、図8および図9を参照して、記録媒体Pの表面性状の推測方法について具体的に説明する。
以下の表面性状の推測方法を実行するにあたり、印刷動作前は、遮蔽板158は非遮蔽位置で静止した状態である。
この状態で、CPU370は、モード判定部371が表面性推測モード開始信号を受信したか否かを判定する(ステップS11)。表面性推測モードの開始は、例えば画像形成装置前面の表面性推測モードボタンをユーザが押下することで開始するようにしてもよいし、任意の枚数(例えば、数百枚程度)を印刷ごとに定期的に開始するようにしてもよい。その他、給紙カセット15(図1参照)の開閉を検知する度に行ってもよい。給紙カセット15が開閉されたことにより、それまで収容されていた記録媒体と異なる種類の記録媒体がスタックされた可能性があるためである。
表面性推測モード開始信号が受信されると、ステップS12において、CPU370は、印刷動作モードが開始されたものと判断して、メモリ部380の表面性推測モード開始フラグFを立てる(例えば、F=1とする)。なお、表面性推測モード開始前、同フラグは、F=0である。
表面性推測モード開始フラグFが1となると、CPU370は、加圧駆動モータ回転速度算出部374が加圧ローラ駆動モータ164の回転速度を演算し、加圧ローラ駆動モータ制御部193に駆動信号を送信する。これにより、モータ駆動回路193aを通じて加圧ローラ駆動モータ164が算出された回転速度で駆動する(ステップS13)。したがって、加圧ローラ駆動モータ164の駆動により、定着ローラ50、加圧ローラ53および定着ベルト52が連動して回転を開始する。
次に、この状態で定着温度制御部192は、定着ベルト52に近接して配置された図示しない定着ベルト温度センサの情報に基づき、ハロゲンヒータ51aの加熱を行う(ステップS14)。具体的には、CPU370の定着ベルト目標制御温度算出部373が定着ベルト52の目標温度(例えば150℃)を算出し、算出された目標温度情報を定着温度制御部192に送信する。定着温度制御部192は、定着ベルト52の温度が目標温度に一定となるようPWM駆動回路192aを通じてハロゲンヒータ51aを加熱制御する。
以上の動作は、定着ローラ50や加圧ローラ53、定着ベルト52の温度などの条件の違いにより、同じ記録媒体Pを通紙しても、定着ニップnを通過後の記録媒体Pの表面温度が異なってしまい、表面性状の差が検出できないことを考慮して、熱定着装置322内の熱状態を飽和させる準備動作の役割を担っている。
また、遮蔽板158は、定着ローラ50から離間した非遮蔽位置で静止しているので、十分に冷やされており、表面性推測モードの準備が完了する。この準備動作が完了すると、記録媒体Pが定着ニップ部nに搬送される。
次いで、定着ニップ部nを通過後の記録媒体Pの表面温度Tp1が非接触式温度センサ54により検知される(ステップS15)。表面温度Tp1は、遮蔽板158が非遮蔽位置にあるときに定着ニップ部nを通過した記録媒体Pの表面温度である。すなわち、表面温度Tp1は、定着ローラ50から放射され、記録媒体Pで反射した赤外線IRの影響を受けている。検知された表面温度Tp1は、メモリ部380の記録媒体温度格納部381に格納される。
次に、再び熱定着装置322内の熱状態が安定するまでハロゲンヒータ51aの加熱制御を行う。その後、CPU370は、遮蔽板駆動モータ回転時間算出部172が遮蔽板駆動モータ163の回転時間(駆動時間)を算出し、遮蔽板移動制御部191に駆動信号を送信する。これにより、モータ駆動回路191aを通じて遮蔽板駆動モータ163が所定時間だけCCW駆動する(ステップS16)。このとき、遮蔽板駆動モータ163のCCW駆動に応じて、遮蔽板158が非遮蔽位置から遮蔽位置に回動する。
この状態で、再度、記録媒体Pを定着ニップ部nに搬送する。そして、上記と同様に、定着ニップ部nを通過後の記録媒体Pの表面温度Tp2が非接触式温度センサ54により検知される(ステップS17)。表面温度Tp2は、遮蔽板158が遮蔽位置にあるときに定着ニップ部nを通過した記録媒体Pの表面温度である。すなわち、表面温度Tp2は、定着ローラ50の赤外線IRが遮蔽された状態で検知された表面温度であるため、定着ローラ50の赤外線IRの影響を受けていない。検知された表面温度Tp2は、メモリ部380の記録媒体温度格納部381に格納される。
次いで、CPU370の記録媒体表面性推定演算部375は、記録媒体温度格納部381に格納された表面温度Tp1と表面温度Tp2との温度差ΔTを算出する。そして、記録媒体表面性推定演算部375は、算出された温度差ΔTに基づき、記録媒体Pの表面性状を推定計算する(ステップS18)。具体的には、記録媒体Pの表面性状を定量的に示す平滑度を用いる。この平滑度としては、例えばJIS P8119に規定されるベック平滑度を用いる。このベック平滑(以下、単に平滑度Fという)は、紙の平らさを表す指標で、表面がざらついた記録媒体ほど小さい値を示す。
つまり、ざらついた記録媒体(平滑度Fが低い記録媒体)ほど、定着ローラ50から放射される赤外線IRの多くを拡散するため、非接触式温度センサ54は定着ローラ50の温度の影響を受けづらい。したがって、図10に示すように、平滑度Fが低い記録媒体ほど、表面温度Tp1と表面温度Tp2との温度差ΔTが小さくなる。これに対し、平滑度Fが高い記録媒体では、上記のような拡散が生じ難いため定着ローラ50の温度の影響を受け易く、表面温度Tp1と表面温度Tp2との温度差ΔTが大きくなる。このような平滑度Fと温度差ΔTの関係は、予め実験などで求めておき、関数化しておく。あるいはテーブル化してメモリ部380に記憶しておく。この平滑度Fと遮蔽板有無での温度差ΔTの関係性は、傾きなどの係数が変わることはあっても、平滑度Fが高いほど上記温度差ΔTが大きくなるという一般性は、特定の熱定着装置に限定されるものではない。よって、記録媒体表面性推定演算部375は、表面温度Tp1と表面温度Tp2との温度差ΔTを算出すると、上述した平滑度Fと温度差ΔTの関係を示す関数もしくはテーブルを参照し、推定平滑度Fを算出する。すなわち、記録媒体Pの表面性状(平滑度F)が推定(判別)される。本実施の形態における記録媒体表面性推定演算部375は、表面性状判別手段を構成する。
なお、画像形成装置内の温度や湿度の状態によっても、定着ニップ部nを通過後の記録媒体Pの温度が異なるため、望ましくはこれらも考慮することで記録媒体Pの表面性状をより精度良く推測することができる。しかしながら、これらの影響は、定着ローラ50や加圧ローラ53、定着ベルト52の温度が与える影響に比べて十分小さい。したがって、本実施の形態では、定着ローラ50、加圧ローラ53、定着ベルト52の温度を一定にする準備動作のみに留め、画像形成装置内の温度や湿度の影響については省略する。
次いで、CPU370は、記録媒体Pの表面性状が推定されると、メモリ部380の表面性推測モード開始フラグFを0にして(ステップS19)、本処理を終了する。
次に、図11を参照して、推定された記録媒体Pの表面性状(平滑度F)に基づき、実行される定着制御について説明する。
一般的に、ざらついた記録媒体(平滑度Fが低い記録媒体)ほど、トナーと記録媒体との間の空隙が大きくなるため、定着ローラ50や定着ベルト52などの加熱定着部材から同熱量が供給されても、定着性が悪化してしまうことが知られている。このため、従来の定着制御では、平滑度Fが低い記録媒体でも正常に定着するような熱量を一様に供給していた。つまり表面が滑らかな記録媒体(平滑度Fが高い記録媒体)に対しては、過多な熱を供給していることになり、エネルギの無駄が生じていた。そこで、本実施の形態では、記録媒体Pの表面性状(平滑度F)を推定して、推定された平滑度Fに応じて上記加熱定着部材から供給される熱量を変化させるようにした。これにより、定着性を一定に維持するとともに無駄なエネルギ消費を抑える点で非常に有効である。
図11に示すように、記録媒体表面性推定演算部375により記録媒体Pの平滑度Fが推定されると、定着制御部190が実行する熱量制御で用いられる記録媒体の目標制御温度Tt(℃)が推定された記録媒体Pの平滑度Fに基づき修正(補正)される。
具体的には、平滑度Fと目標制御温度Tt(℃)との関係を予め実験的に求めて関連付けておくことにより、CPU370の記録媒体目標制御温度算出部376が平滑度Fに基づき目標制御温度Tt(℃)を修正(補正)し、補正された目標制御温度Tr(℃)を新たな目標制御温度Tt(℃)として算出し設定する。これにより、上記加熱定着部材から供給される熱量を変化させることができる。本実施の形態における記録媒体目標制御温度算出部376は、目標温度設定手段を構成する。
そして、定着温度制御部192は、定着ニップ部nを通過する記録媒体Pの表面温度Tp(℃)が算出された記録媒体Pの目標制御温度Tt(℃)となるよう、PWM駆動回路192aを通じてハロゲンヒータ51aを加熱制御する。本実施の形態における定着温度制御部192は、熱量制御手段を構成する。
以上のように、本実施の形態に係る熱定着装置322は、遮蔽板158が非遮蔽位置にあるときに定着ニップ部nを通過した記録媒体Pの表面温度Tp1と、遮蔽板158が遮蔽位置にあるときに定着ニップ部nを通過した記録媒体の表面温度Tp2との温度差ΔTに基づき、記録媒体Pの表面性状を判別する記録媒体表面性推定演算部375を備えているので、判別された記録媒体Pの表面性状を定着温度の制御などに利用することができる。
また、本実施の形態に係る熱定着装置322は、記録媒体表面性推定演算部375の判別結果に応じて所定の目標制御温度Tt(℃)を修正(補正)し、補正された目標制御温度Tr(℃)を新たな目標制御温度Tt(℃)として設定する記録媒体目標制御温度算出部376を備えているので、記録媒体Pの表面性状に応じた目標制御温度Tt(℃)の変更により、記録媒体Pに対して加熱定着部材から与えられる熱量を変化させることができる。この結果、安定した定着画質が得られるとともに、無駄なエネルギ消費を抑えることができる。
なお、本実施の形態においては、加熱定着部材の熱量変化の方法として目標制御温度Tt(℃)を修正(補正)する方法を用いたが、これに限らず、例えば定着ニップ部nを通過する記録媒体Pの搬送速度を変化させることにより上記熱量を変化させるようにしてもよい。例えば、搬送速度が遅ければ、定着ニップ部nを通過する時間が長くなるため、記録媒体Pおよびトナーに大きな熱量を与えることができる。
具体的には、図11に示すように、記録媒体表面性推定演算部375により記録媒体Pの平滑度Fが推定されると、推定された記録媒体Pの平滑度Fに基づき、加圧ローラ駆動モータ回転速度が算出される。すなわち、平滑度Fと搬送速度との関係を予め実験的に求めて関連付けておくことにより、CPU370の加圧駆動モータ回転速度算出部374が平滑度Fに応じた回転速度を算出し設定する。加圧ローラ駆動モータ制御部193は、平滑度Fに応じて算出された回転速度に基づき、モータ駆動回路193aを通じて加圧ローラ駆動モータ164を制御する。これにより、上記加熱定着部材から供給される熱量を変化させることができる。本実施の形態における加圧駆動モータ回転速度算出部374は、搬送速度設定手段を構成する。
また、上述した目標制御温度Tt(℃)の変更、および定着ニップ部nを通過する記録媒体Pの搬送速度の変更の双方を組み合わせて定着制御を実行するようにしてもよい。
(第4の実施の形態)
次に、図12、図13を参照して、本発明の第4の実施の形態に係る熱定着装置について、説明する。
本実施の形態においては、本発明の第1の実施の形態とは、特に遮蔽板の温度に基づき、非接触式温度センサ54により検知される記録媒体Pの表面温度Tp(℃)を補正する点で異なるが、他の構成は略同様に構成されているため、同一の符号を付してその説明を省略し、特に相違点についてのみ詳述する。
上述した第1の実施の形態においては、定着ローラ50からの赤外線IRを遮蔽するため、遮蔽板58を設置していた。しかし、遮蔽板58を常時定着ローラ50に近接させておくと、定着ローラ50の熱により遮蔽板58が熱せられ、遮蔽板58自体が赤外線を放射してしまう。このような遮蔽板58自体からの赤外線は、場合によっては記録媒体Pの表面温度Tp(℃)の検知に無視できないほどの影響を与えてしまうおそれがある。そこで、本実施の形態では、遮蔽板58自体が放射する赤外線の影響を低減するため、非接触式温度センサ54により検知される記録媒体Pの表面温度Tp(℃)を補正するようにした。以下、その構成および制御について詳述する。
図12に示すように、本実施の形態に係る熱定着装置422は、遮蔽板58の温度を測定する温度測定手段としての熱電対430を有している。熱電対430は、遮蔽板58に設置され、熱電対リード線430aを介して検知信号を外部に送信するようになっている。
また、図13に示すように、熱定着装置422は、補正用テーブル431と、温度補正部432とを有している。これら補正用テーブル431および温度補正部432は、定着温度制御部57(図2参照)に含まれる。本実施の形態における補正用テーブル431および温度補正部432は、第1の温度補正手段を構成している。
このように構成された熱定着装置422において、熱電対430により検知された遮蔽板58の温度情報は、補正用テーブル431に出力される。次いで、補正用テーブル431では、入力された遮蔽板58の温度情報に応じて記録されたテーブルが参照される。すなわち、補正用テーブル431には、非接触式温度センサ54が検知する赤外線に含まれる遮蔽板58から放射され記録媒体Pが反射する赤外線量(補正赤外線量)が保存されており、これを得ることができる。そして、遮蔽板58の温度情報に応じて補正用テーブル431で得られた補正赤外線量が補正用テーブル431から温度補正部432に出力される。
温度補正部432には、補正用テーブル431で得られた補正赤外線量と、非接触式温度センサ54の検知結果に応じた非接触式温度センサ検知赤外線量とが、それぞれ入力される。温度補正部432では、入力された非接触式温度センサ検知赤外線量から補正赤外線量を差し引くことにより、記録媒体P自体が放射した赤外線量(推定記録媒体放射赤外線量)が算出される。すなわち、熱電対430で得られた遮蔽板58の温度情報に基づき、非接触式温度センサ54により検知された記録媒体Pの表面温度Tp(℃)が補正される。これにより、記録媒体Pの表面温度Tp(℃)が正確に検知可能となる。
以上のように、本実施の形態に係る熱定着装置422は、測定された遮蔽板58の温度に基づき、非接触式温度センサ54により検知される記録媒体Pの表面温度Tp(℃)を温度補正部432が補正するので、遮蔽板58自体から放射される赤外線の影響を排除することができ、非接触式温度センサ54の検知精度を維持することができる。
(第5の実施の形態)
次に、図14を参照して、本発明の第5の実施の形態に係る熱定着装置について、説明する。
本実施の形態においては、本発明の第1の実施の形態とは、特に記録媒体の種別情報に応じて、非接触式温度センサ54により検知される記録媒体Pの表面温度Tp(℃)を補正する点で異なるが、他の構成は略同様に構成されているため、同一の符号を付してその説明を省略し、特に相違点についてのみ詳述する。
図14に示すように、本実施の形態に係る熱定着装置522は、記録媒体Pの表面性状に関する種別情報を取得する種別情報取得手段としての記録媒体情報取得手段530と、補正用テーブル531と、温度補正部532とを有している。これら記録媒体情報取得手段530、補正用テーブル531および温度補正部532は、定着温度制御部57(図2参照)に含まれる。本実施の形態における補正用テーブル531および温度補正部532は、第2の温度補正手段を構成している。
記録媒体情報取得手段530は、例えば画像形成装置本体2(図1参照)に設けられた各種設定などの入力を行う操作入力部からユーザにより入力あるいは選択された記録媒体の情報を取得する。そして、記録媒体情報取得手段530は、ユーザの入力などにより使用される記録媒体Pの種類を判別して、その記録媒体情報を補正用テーブル531に出力する。記録媒体情報取得手段530は、記録媒体ごとの平滑性の差を得ることを目的として設けられたものである。記録媒体ごとの平滑性、つまり記録媒体Pの表面性状の種別情報を得る理由は、定着ローラ50や定着ベルト52などの加熱定着部材から放射され、記録媒体Pが反射する赤外線の量は、記録媒体Pの平滑性により異なることが知られているためである。例えば、ざらついた記録媒体(平滑度の低い記録媒体)であれば、加熱定着部材から放射された赤外線の多くを拡散するので、非接触式温度センサ54に入射する赤外線量は少なくなる。したがって、非接触式温度センサ54により検知される記録媒体Pの表面温度Tp(℃)を補正しようとするのであれば、記録媒体Pの平滑性に関する情報(記録媒体Pの表面性状の種別情報)を得る必要がある。ここで、記録媒体の種類は、可能な限り詳細に得られることが望ましいが、塗工紙か否かを判別できるだけでも十分な補正効果を発揮する。
次に、補正用テーブル531では、入力された記録媒体情報、すなわち記録媒体Pの平滑性に関する情報(記録媒体Pの表面性状の種別情報)に応じて記録されたテーブルが参照される。補正用テーブル531には、非接触式温度センサ54が検知する赤外線に含まれる遮蔽板58から放射され記録媒体Pが反射する赤外線量(補正赤外線量)が保存されており、これを得ることができる。そして、補正用テーブル531で得られた補正赤外線量が補正用テーブル531から温度補正部532に出力される。
温度補正部532には、補正用テーブル531で得られた補正赤外線量と、非接触式温度センサ54の検知結果に応じた非接触式温度センサ検知赤外線量とが、それぞれ入力される。温度補正部532では、入力された非接触式温度センサ検知赤外線量から補正赤外線量を差し引くことにより、記録媒体P自体が放射した赤外線量(推定記録媒体放射赤外線量)が算出される。すなわち、記録媒体Pの平滑性に関する情報(記録媒体Pの表面性状の種別情報)に基づき、非接触式温度センサ54により検知された記録媒体Pの表面温度Tp(℃)が補正される。これにより、記録媒体Pの表面温度Tp(℃)が正確に検知可能となる。
以上のように、本実施の形態に係る熱定着装置522は、取得された記録媒体Pの平滑性に関する情報(記録媒体Pの表面性状の種別情報)に応じて、非接触式温度センサ54により検知される記録媒体Pの表面温度Tp(℃)を温度補正部532が補正するので、表面性状の異なる記録媒体の表面温度Tp(℃)を検知する場合であっても、このような表面性状の相違による影響を排除することができ、非接触式温度センサ54の検知精度を維持することができる。
(第6の実施の形態)
次に、図15〜図17を参照して、本発明の第6の実施の形態に係る熱定着装置について、説明する。
本実施の形態においては、本発明の第4の実施の形態とは、特に遮蔽板58の温度を一定とする構成を有する点で異なるが、他の構成は略同様に構成されているため、第1および第4の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略し、特に相違点についてのみ詳述する。
上述の第4の実施形態では、遮蔽板58の温度変化に応じて補正用テーブル431が複数のテーブルを記録している必要があるが、本実施の形態では、遮蔽板58の温度を一定とすることにより、上記のような必要がなくなる。以下、その詳細について説明する。
図15に示すように、本実施の形態に係る熱定着装置622は、遮蔽板58の温度を測定可能な熱電対630と、ジュール熱により発熱する電熱線650とを有している。電熱線650にはリード線650aを介して電力が印加されるようになっている。電熱線650は、図16に示すように、遮蔽板58の内部に配置される。
また、図17に示すように、熱定着装置622は、遮蔽板温度制御コントローラ660を有し、この遮蔽板温度制御コントローラ660には、熱電対630で検知された検知信号(温度情報)が入力されるようになっている。また、遮蔽板温度制御コントローラ660は、図示しないメモリなどに予め記憶された遮蔽板58の目標遮蔽板温度TCt(℃)を取得する。そして、遮蔽板温度制御コントローラ660は、熱電対630の検知信号(温度情報)と遮蔽板の目標遮蔽板温度TCt(℃)とを比較し、比較値に基づいた駆動信号を駆動回路661に出力する。駆動回路661は、入力された駆動信号に応じた電圧を電熱線650に印加する。これにより、遮蔽板58が上記目標遮蔽板温度TCt(℃)となるよう電熱線650が加熱される。その結果、遮蔽板58の温度が一定温度に保たれ、遮蔽板58自体から放射される赤外線量が一定となる。本実施の形態における熱電対630、電熱線650、遮蔽板温度制御コントローラ660および駆動回路661は、赤外線量制御手段および遮蔽温度制御部を構成している。
以上のように、本実施の形態に係る熱定着装置622は、遮蔽板58の温度が目標遮蔽板温度TCt(℃)に保たれるよう遮蔽板温度制御コントローラ660が熱電対630からの検知信号に基づき、電熱線650を加熱させるよう駆動回路661を制御するので、遮蔽板58の温度を一定とすることができる。これにより、遮蔽板58から放射される赤外線量を一定にすることができる。
したがって、本実施の形態に係る熱定着装置622は、例えば遮蔽板58の赤外線を加味して記録媒体Pの表面温度Tp(℃)を補正するとき、赤外線量別の補正テーブルなどを必要とせず、その補正が容易となる。
(第7の実施の形態)
次に、図18〜図22を参照して、本発明の第7の実施の形態に係る熱定着装置について、説明する。
本実施の形態においては、本発明の第4の実施の形態とは、特に遮蔽板58が放射する赤外線量を一定とする構成を有する点で異なるが、他の構成は略同様に構成されているため、第1および第4の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略し、特に相違点についてのみ詳述する。
上述の第6の実施の形態では、遮蔽板58の温度を一定とすることにより遮蔽板の赤外線量を一定とするようにしたが、本実施の形態では、以下の構成により遮蔽板58の赤外線量が一定となるようにした。
図18に示すように、本実施の形態に係る熱定着装置722は、遮蔽板58に設置された熱電対730と、遮蔽板58の表面58aを覆うように重なって配置された複数の表面部材750、751とを有している。本実施の形態における熱電対730は、赤外線量制御用温度測定手段を構成している。
熱電対730は、遮蔽板58の温度を測定し、熱電対リード線730aを介して検知信号を外部に送信する。また、遮蔽板58の表面58aは、所定の放射率E0を有している。ここで、この表面58aは、定着ニップ部nを通過後の記録媒体Pに対向する面である。
表面部材750、751は、それぞれ遮蔽板58の表面58aの放射率E0と異なる放射率E1を有している。また、表面部材750、751は、遮蔽板58の形状に沿って円弧状に形成されており、これら両部材間には所定のクリアランスが形成されている。
図19に示すように、表面部材750、751には、それぞれ円弧方向と直交する方向に延在する複数の開口750a、751aが形成されている。表面部材750と表面部材751との重なり位置を可変することにより、これら開口750a、751aの重なり合いを可変させることができる。
また、図20に示すように、表面部材751は、円弧形状に沿って一方の側端部に接続された略扇形状の側板751bを有している。この側板751bには、駆動モータ752が取り付けられている。表面部材751は、駆動モータ752の駆動により円弧形状の中心を軸として円弧方向に回転可能とされる。すなわち、表面部材751は、表面部材750に対して円弧方向に相対的にスライド移動可能とされる。
これにより、遮蔽板58の表面58aの露出度合を変化させることが可能となる。例えば、図21(a)に示すように、表面部材750と表面部材751とが、互いの開口750a、751aが重ならない位置にあるとき、表面58aがこれら両部材により遮蔽されている。したがって、記録媒体Pと対向する面は、表面58aよりも放射率が低い表面部材750、751となる。その結果、遮蔽板58から放射される赤外線IRcは遮られ、記録媒体Pに放射される赤外線は表面部材750、751からの赤外線IRhとなる。よって、このときの赤外線量は少なくなる。
一方、図21(a)に示す状態から、図21(b)に示すように、開口750a、751aが互いに重なるよう表面部材751をスライド移動させる。これにより、重なった開口750a、751aを介して放射率の高い表面58aが記録媒体Pに対して露出される。したがって、記録媒体Pに放射される赤外線には、表面部材751の赤外線IRhに加えて、表面58aから放射される赤外線IRcが含まれる。その結果、このときの赤外線量は多くなる。
このように、表面部材750と表面部材751との相対的な位置をずらすことで、遮蔽板58を覆う表面部材750、751の面積比率を変化させることができる。したがって、遮蔽板58から放射される赤外線量を調整することが可能となる。なお、本実施の形態では、表面58aの放射率E0が表面部材750、751の放射率E1より大きい場合について説明するが、どちらが大きい場合でも動作条件が入れ替わるだけである。
次いで、図22を参照して、表面部材751の移動制御について説明する。
図22に示すように、熱定着装置722は、遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760を有しており、この遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760が遮蔽板58の温度に応じて表面部材751をスライド移動させる。
具体的には、まず、熱電対730により検知された検知信号が放射赤外線量算出部761に入力される。放射赤外線量算出部761は、遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760内部に設けられ、あるいはこれと電気的に接続されている。放射赤外線量算出部761は、入力された検知信号に応じて、遮蔽板58の現在の放射赤外線量を算出する放射赤外線算出計算を実行し、その算出値を遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760に出力する。
遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760は、入力された上記算出値に加えて、図示しないメモリなどに予め記憶された遮蔽板58の目標遮蔽板放射赤外線量Itを取得する。遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760は、入力された上記算出値と目標遮蔽板放射赤外線量Itとを比較し、比較値に基づいた駆動信号を駆動回路762に出力する。駆動回路762は、入力された駆動信号に応じた駆動電圧を駆動モータ752に印加する。これにより、駆動モータ752が所定の角度だけ回転する。その結果、表面部材751が表面部材750に対して相対的にスライド移動し、開口750a、751aの重なり度合を変化させる。例えば、遮蔽板58の温度が上昇し、熱電対730の検知信号に基づき、算出された遮蔽板58の現在の放射赤外線量I0が目標遮蔽板放射赤外線量Itより大きくなると(I0>It)、開口750a、751aの位置をずらすように表面部材751をスライド移動させる。すなわち、遮蔽板58の露出の割合を減少させるよう表面部材751をスライド移動させ、図21(a)に示す状態に近付ける。あるいは、図21(a)に示す状態となるまで表面部材751をスライド移動させる。これにより、算出される放射赤外線量I0が目標遮蔽板放射赤外線量Itに近付けられる。
本実施の形態における駆動モータ752、遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760、放射赤外線量算出部761および駆動回路762は、移動手段を構成する。また、本実施の形態における熱電対730、表面部材750、751、駆動モータ752、遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760、放射赤外線量算出部761および駆動回路762は、赤外線量制御手段を構成する。
以上のように、本実施の形態に係る熱定着装置722は、熱電対730により測定された遮蔽板58の温度に応じて、遮蔽板放射赤外線量制御コントローラ760が表面部材751を表面部材750に対して相対的にスライド移動させるよう駆動モータ752を制御するので、開口750a、751aの位置を相対的に変化させることができる。このため、遮蔽板58の温度により算出された遮蔽板58の放射赤外線量I0に応じて表面58aの露出の程度を変化させることができ、記録媒体Pに向けて放射される遮蔽板58の赤外線量を一定にすることができる。
(第8の実施の形態)
次に、図23を参照して、本発明の第8の実施の形態に係る熱定着装置について、説明する。
本実施の形態においては、本発明の第1〜第7の実施の形態とは、特に遮蔽板の内部に水分を吸収可能な構成とした点で異なるが、他の構成は略同様に構成されているため、特に相違点についてのみ詳述する。
遮蔽板自体から放射される赤外線は、少なからず非接触式温度センサ54の検知精度に影響を与えるため、上述してきたような種々の構成は、このような影響を排除する方法である。ところで、遮蔽板自体から放射される赤外線の影響を低減する他の方法としては、遮蔽板自体が放射する赤外線を低減することである。遮蔽板自体からの熱量を少なくするためには、加熱定着部材、特に定着ローラ50から放射される赤外線の吸収量を少なくして、遮蔽板が吸収する熱量を少なくする、あるいは遮蔽板が加熱されても遮蔽板から放射される赤外線を少なくすることが有効である。
遮蔽板の赤外線の吸収量を少なくするには、遮蔽板の定着ローラ50に対向する面(裏面)の反射率を高め、表面を滑らかにすることが望ましい。反射率を高めることで、定着ローラ50から放射される赤外線の多くを反射させ、吸収量を少なくできる。また、表面を滑らかにすることで表面積を少なくし、より吸収する赤外線を低減できる。また、遮蔽板の放射赤外線を少なくするためには、遮蔽板の記録媒体Pに対向する表面の反射率を高め、表面を滑らかにすることが望ましい。反射率を高めるということは、放射率を低くすることと同義であり遮蔽板から放射される赤外線を低減できる。また、表面を滑らかにすることで、表面積を少なくし、より放射される赤外線を低減できる。
そこで、図23に示すように、本実施の形態に係る熱定着装置822は、定着ローラ50に対向する面(裏面)および記録媒体Pに対向する表面のいずれも反射率が高く、滑らかな遮蔽板858を備えている。具体的には、遮蔽板858は、例えばアルミの薄板などの鏡面状の金属材からなる遮蔽板表面部材858aを、その両面に有している。
ここで、上記の通り、遮蔽板858の両面を鏡面状の金属材で構成すると、次のような課題が生じる。一般的に、熱定着装置では、記録媒体が通紙前に保持する水分が通紙により蒸発し、定着ニップ付近の部材などに水滴として付着することが知られている。特に、遮蔽板は、定着ニップの近傍に設置されるために水滴が付着しやすい。さらに遮蔽板858のように、その両面を鏡面状にすると、水滴と遮蔽板858の両面との間の接着面積が減少するので、水滴が遮蔽板858の表面を垂れて下方へ落下しやすくなる。落下した水滴が通紙後の記録媒体上に付着すると、記録画像に劣化を生じてしまう。
このような課題に対処するため、本実施の形態では、遮蔽板858を以下のような構成とした。
すなわち、遮蔽板858は、遮蔽板表面部材858aに付着した水滴を吸収可能な水滴吸収口858bを有する。水滴吸収口858bは、遮蔽板858に付着した水滴が自重により下方に垂れることを考慮して、遮蔽板858の下方側に配置するのが好ましい。遮蔽板858に付着した水滴は、水滴吸収口858bから遮蔽板858の内部に吸収される。水滴吸収口858bは、遮蔽板表面部材858aの反射特性を十分に保つ程度の必要最低限の数と面積により構成される。
また、遮蔽板858の内部には、吸水可能なスポンジ等の材質からなる内部部材858cが設けられている。水滴吸収口858bから吸収された水滴は、内部部材858cに吸収される。
以上のように、本実施の形態に係る熱定着装置822は、遮蔽板858が内部に水分を吸収可能な水滴吸収口858bおよび内部部材858cを有しているので、遮蔽板858に付着した水滴を吸収することができる。これにより、遮蔽板858に付着した水滴が記録媒体Pに落下することを防止することができ、水滴落下に起因した記録画像の劣化を防止することができる。特に、遮蔽板858から放射される赤外線量を低減させるため、その表面を滑らかな形状とし反射率を高めた場合、より効果的である。