JP2012047483A - 鉄道車両内騒音の評価方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 鉄道車両内騒音の評価方法において、ラウドネス(dB)だけではなく、シャープネス(acum)、トーナリティ(tu)、ラフネス(asper)、変動強度(vacil)を含む変数による回帰式に基づいた、鉄道車両内騒音に対する不快感の評価指標を用いる。
【選択図】 図8
Description
例えば、騒音に対する心理的な不快感を緩和する一つの方策として、オフィスで使用されるOA機器に対しての騒音問題解決のために、心理音響パラメータのラウドネス値およびシャープネス値を用いた音の不快指数を考慮した音質改善方法が提案されている(上記特許文献1参照)。
本発明は、上記状況に鑑みて、鉄道車両を対象に、車内で聞こえる各種の音が人間の不快感に及ぼす影響について主観評価実験を行うことにより明らかにし、より人間の感覚に合致した鉄道車両内騒音の評価方法を提供することを目的としている。
〔1〕鉄道車両内騒音の評価方法において、ラウドネス(dB)だけではなく、シャープネス(acum)、トーナリティ(tu)、ラフネス(asper)、変動強度(vacil)を含む変数による回帰式に基づいた、鉄道車両内騒音に対する不快感の評価指標を用いることを特徴とする。
〔3〕上記〔2〕記載の鉄道車両内騒音の評価方法において、前記変数のうち、ラウドネス(dB)、シャープネス(acum)、トーナリティ(tu)、変動強度(vacil)の4変数に基づくことを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕から〔4〕の何れか一項記載の鉄道車両内騒音の評価方法において、評価対象とする前記鉄道車両内騒音の種類が、新幹線車両の走行中および停車中の車内音であることを特徴とする。
まず、新幹線鉄道車両の車内音について説明する。
走行時の新幹線鉄道車両内には、走行に伴って発生するレール−車輪系からの転動音や空力音などが、車両の天井、側面、床面などの部材を透過して伝搬するほか、主電動機やパンタグラフなどの床下、屋根上搭載機器からの機器音、客車室内に存在する空気調和装置や照明装置からの音、さらには乗客の会話なども含めると多種多様な音が混在している。
図1は本発明に係る鉄道車両内騒音の測定位置の概略図である。
測定位置は、車体前後中心線7上(車体中央部の座席位置に相当)とした。高さは、乗客の耳の位置に相当するように床面8から1.2mとした。
(鉄道車両の車内騒音の特徴)
停車時および走行中に新幹線鉄道電車車内で収録した音を分析した結果、停車時の車内では主電動機音よりも空調音が主であり、さらに空調音は作動条件によって音スペクトルが異なっていることがわかった。なお、走行中の車内では、高速での定速走行時は空調音や機器音よりも走行音の寄与が大きい。
車内の騒音に対する乗客の不快感についての調査は、騒音に限らず、振動、温度、照明等の34項目を対象に車内の快適性に関わるアンケート調査を実施し、心理量(満足度)と30分間実測した物理量とを比較した例がある(上記非特許文献1参照)。この結果では、車内騒音のうち車両走行音については、50%の時間率騒音レベル(L50)が心理量と物理量の対応が良いとされている。ただし、このとき物理量として検討された指標は、市販の積分型騒音計(RION NL−14)で算出できる等価騒音レベル(LAeq )と時間率騒音レベル(LX )であり、いずれも騒音レベルを基にしたものである。また、車内快適性シミュレータを用いて、音と振動、映像の複合環境下での快適性を調査した結果、音に対する不快感は振動や視覚情報と音の性質に依存し、特に後者については、一般的な走行音に比べて走行と無関係と思われる音はより不快に感じられ、逆に映像のある橋梁通過時の音のように、現象が一時的であって被験者にとってやむを得ないと見なされる音に対する不快度は低いとの報告がなされている(上記非特許文献2参照)。
(被験者による主観評価実験)
(1)実験の概要
上記したように、車内騒音には多種多様なものがあり、その大きさも様々である。本発明の主眼は、「大きさ」だけでは評価できない車内騒音に対する不快感の原因がどこにあるかを明らかにすることであるため、実際に収録した車内騒音を実験室環境でスピーカにより再生し、被験者がその印象を答える主観評価実験を実施した。また、主観評価の結果との比較に用いる音の物理量は前述の各種音質評価指標の実測値とし、主観評価試験において被験者が座る椅子の位置に騒音計(RION NL−04)のマイクロホンを設置してスピーカからの再生音を収録し、前述したソフトウェア(Oscope)により解析して得た。音の再生方法や実験方法の詳細は以下に示す。
評価対象とする音刺激は、図1に示した測定位置で収録した車内騒音のほか、比較のために別途作成した音を加えて、表1に示す26種類とした。
(主観評価実験)
被験者による主観評価実験は、鉄道総合技術研究所内の防音室において、男女21名(男性16名、女性5名、年齢は25〜54歳で平均年齢39.3歳)に対して1名ずつ実施した。被験者は全員新幹線の利用経験があり、これまで聴覚に異常を指摘された経験のある者はいなかった。スピーカは被験者の前方左右に被験者に向けて設置し、振動面から椅子の位置までの距離は水平にそれぞれ約1mとした。実験時の室内配置および音響機材の接続概要を図2に示す。
これらの図において、11は防音室、12は右側のスピーカ、13は左側のスピーカ、14は出力用機材、14−1は音出力用PC、14−2はUSBオーディオキャプチャー、14−3はデジタルイコライザー、14−4はデジタルアンプ、14−5はスピーカ、Aは被験者、Bは実験者である。
図3は本発明に係る被験者実験に用いた音の主観評価シートを示す図である。
1つ目の設問は、一般的な騒音の評価で用いられている「うるささ」という表現を用いて、「1.全くうるさくない」から「5.非常にうるさい」までの5段階での評価とした。2つ目の設問は、本発明の主目的である「不快感」について直截的に尋ね、3つ目の設問は、「鉄道車内の音としてこの音がずっと(30分以上)継続したら気になるかどうか」について同じく5段階での評価とした。また、過去の研究(上記非特許文献2参照)の際に用いた評価項目を参考にし、4つ目の設問として、「鉄道車内の音として許容できるか」という尋ね方で「問題ない」「やや気になる程度」「不快だが許容できる」「不快であり許容できない」の4段階での評価も行った。なお、これらの評価項目は、以後、本発明ではそれぞれ「うるささ」「不快度」「気になり度」「許容度」と示す。また、この場合の鉄道は、新幹線等の優等列車を想定してもらった。
(実験結果)
得られた主観評価点について全回答者の平均値を算出し、各騒音評価指標および音質評価指標との相関について分析した。音の評価指標値(物理量)は、被験者の耳の位置(椅子の中心から0.1m後方で床から1mの高さとした)に騒音計のマイクロホンを設置して、スピーカから再生される評価音を収録し、騒音計の音圧AC信号をデータレコーダに収録したものをOscopeによって処理して得た。各評価値は、音が15秒間継続するうちの最初と最後を除いた中間10秒間に対する全周波数域での平均値とした。相関分析に用いた物理評価指標は、騒音レベル、音圧レベル(F特性)、ラウドネスのほか、上記したシャープネス、トーナリティ、ラフネス、および変動強度を含めた7種類とした。これらの物理指標値と主観評価点との相関を分析した結果を表2に示す。
表2に示した相関分析の結果、「不快度」についての主観評価点と最も相関が高い物理評価指標はラウドネスで、R2 =0.7程度、次に相関が高いのが騒音レベルでR2 =0.6程度であった。
図4は本発明に係る不快度の主観評価点と物理指標値との相関を示す図であり、図4(a)は不快度とラウドネスの相関、図4(b)は不快度と騒音レベルの相関を示す。
これらは、ピンクノイズ以外、すべてある形式の新幹線車両に関する音である。この図から、連換のみの音(凡例○)や走行音に会話を合成した音(走行音+会話、凡例◇)は「うるささ」に対する主観評価点よりも「不快度」に対する評価点が悪く、低級音(凡例■)やピンクノイズ(凡例●)ではさらに不快度が強くなっている。これに対して、惰行走行音(凡例●)や空調のみ(強制モード)(凡例▲)の音は「うるささ」よりも「不快度」に対する評価点がやや良かった。以上から、音に対する「うるささ」と「不快度」についての主観評価点は音の種類によって異なる傾向を示しており、音環境についての快適性を評価するためには騒音レベルだけでは不十分であると言える。
上記したように、音に対して感じる不快感は、耳に聞こえる大きさ(騒音レベル)は同程度でも音の種類によって不快度の評価点数が異なり、この差は騒音レベルやラウドネスだけでは示すことができない音の性質の違いにより生じていると考えられる。
図6は、図5と同じ6種類の音について、図4 (b) で示した不快度に対する評価点と騒音レベルとの関係を抜粋したものを示す図である。図6から、最も不快感を感じている音(ピンクノイズ:凡例●)と、不快の最も小さい音〔空調のみ(強制モード):凡例▲〕とでは不快度の主観評価点で2段階の差が見られる。また、連換のみの音(凡例○)と空調のみ(強制)の音はどちらも同形式の車両の空調に起因し、稼働の条件だけが異なるものであるが、主観評価点では約1段階と明らかな差が見られる。
また、ピンクノイズ〔図7 (d) 〕は、他の車内騒音に比べて低周波数域から高周波数域まで広がったなだらかな半円状の形状を示しており、高周波数域の割合が高い。このような音は、シャープネス(甲高さ)の値が高いと考えられる。
今後、より快適な車内音環境を実現するためには、車内で聞こえるさまざまな音について、その大きさだけでなく、上記したように音質評価指標も含めた総合的な不快感を検討し乗客にとって心地良いように調整することが一つの方策である。このためには、鉄道車両内騒音に対する不快感を上記の音質評価指標を組み合わせた多変数の回帰式によって表すことで、より人間の感覚に合致した車内騒音の評価指標とすることが考えられる。例えば、この式によって計算した主観評価点の計算値がある基準(例えば、今回の主観評価点において「だいぶ不快」に対応する評価点4)を超えたときに、その音について詳細な分析をして音質改善に向けた対策をとることで、車内音環境についての快適性を向上させることが期待できる。
+D×ラフネス+E×変動強度+F(定数) … (1)
7つの音質評価指標のうち、音圧レベル、騒音レベルはラウドネスと同じく「音の大きさ」という特徴を示すものであるため除外し、残る5つの指標を説明変数として、最も効率的な変数の組み合わせを重回帰分析のステップワイズ法により検討した。表4にその結果を示す。ただし、従属変数としては主観評価点(5段階評価の平均点)、説明変数である各音質指標値としてはそれぞれの実測値を用いたので、係数A〜E(非標準化係数)では各変数の寄与の大小は比較できない。このため、表4には寄与度をあらわす標準化係数を併せて示す。
本発明によれば、
(1) 鉄道車両内で聞こえる様々な音に対して、所内の防音室において被験者による主観評価実験を行った。主観評価値とその音の各種音質評価指標値を比較することによって、車内音に対する人間の主観がどの音質評価指標と相関が高いかを確認した。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
2 車輪
3 台車
4 ドア
5 窓
6 車体左右中心線
7 車体前後中心線
8 床面
11 防音室
12 右側のスピーカ
13 左側のスピーカ
14 出力用機材
14−1 音出力用PC
14−2 USBオーディオキャプチャー
14−3 デジタルイコライザー
14−4 デジタルアンプ
14−5 スピーカ
A 被験者
B 実験者
Claims (5)
- ラウドネス(dB)だけではなく、シャープネス(acum)、トーナリティ(tu)、ラフネス(asper)、変動強度(vacil)を含む変数による回帰式に基づいた、鉄道車両内騒音に対する不快感の評価指標を用いることを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。
- 請求項1記載の鉄道車両内騒音の評価方法において、前記回帰式が、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(定数)とした線形回帰式であることを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。
- 請求項2記載の鉄道車両内騒音の評価方法において、前記変数のうち、ラウドネス(dB)、シャープネス(acum)、トーナリティ(tu)、変動強度(vacil)の4変数に基づくことを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。
- 請求項1〜3の何れか一項記載の鉄道車両内騒音の評価方法において、前記変数のうちどれを選択するかは、各変数が表す物理指標値と評価対象とする前記鉄道車両内騒音とに基づいて決定することを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。
- 請求項1から4の何れか一項記載の鉄道車両内騒音の評価方法において、評価対象とする前記鉄道車両内騒音の種類が、新幹線車両の走行中および停車中の車内音であることを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。
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