JP2012047287A - 車輪用軸受装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】軸受部に装着されたシールの低トルク化を高め、リップ摩耗を防止し、低コストでシール性能を向上させた車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】シール9が、円筒部13aと、この円筒部13aから径方向外方に延びる立板部13bを備えたスリンガ13と、芯金15と、これに加硫接着により一体に接合される合成ゴム製のシール部材16を備えた環状のシール板14とからなるパックシールで構成され、シール部材16が、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ16aと、この内径側で二股状に形成されたグリースリップ16bとダストリップ16cを有し、サイドリップ16aがスリンガ13の立板部13bに対して非接触状態で対向配置され、この部位に磁性流体18が封入されると共に、立板部13bのインナー側の側面Siに磁化部17が一体に接合され、この磁化部17によって磁性流体18が保持されている。
【選択図】図2

Description

本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置に関し、詳しくは、軸受部に装着されたシールの低トルク化を高め、リップ摩耗を防止してシール性能を向上させた車輪用軸受装置に関するものである。
従来から自動車等の車輪を支持する車輪用軸受装置は、車輪を取り付けるためのハブ輪を複列の転がり軸受を介して回転自在に支承するもので、駆動輪用と従動輪用とがある。構造上の理由から、駆動輪用では内輪回転方式が、従動輪用では内輪回転と外輪回転の両方式が一般的に採用されている。また、車輪用軸受装置には、懸架装置を構成するナックルとハブ輪との間に複列アンギュラ玉軸受等からなる車輪用軸受を嵌合させた第1世代と称される構造から、外方部材の外周に直接車体取付フランジまたは車輪取付フランジが形成された第2世代構造、また、ハブ輪の外周に一方の内側転走面が直接形成された第3世代構造、あるいは、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ内側転走面が直接形成された第4世代構造とに大別されている。
これらの軸受部には、軸受内部に封入されたグリースの漏れを防止すると共に、外部から雨水やダスト等の侵入を防止するためにシールが装着されている。近年、自動車のメンテナンスフリー化が進み、車輪用軸受装置においてもさらなる長寿命化が要求されるようになっているが、市場回収品の軸受損傷状況を検証すると、剥離等の本来の軸受寿命よりも、シール不具合あるいは密封性の低下により軸受内に雨水やダスト等が侵入して軸受が損傷する事例が少なくない。したがって、シールの密封性を向上させることにより、軸受寿命の向上を図ることができる。
従来から、密封性を高めたシールに関しては種々提案されているが、こうしたシールの代表的な一例を図8に示す。このシール50は、径方向内外で同心状に配設されている回転軸51とハウジング52との間に配設され、相対回転する2つの部材の対向空間を2つの空間に仕切っている。
回転軸51とハウジング52との間の環状空間Aは、シール50により、軸方向において低圧空間、例えば真空空間(密封対象空間)Bと、この密封対象空間Bより圧力が高い高圧空間、例えば大気圧空間Cとに仕切られる。
シール50は、上半分の径方向断面形状がほぼL字形の環状芯金54と、これに環状に被着された弾性体55とを有する。弾性体55は、弾性を有すると共に、磁性を備えた素材であれば何でもよいが、例えば、ゴムと樹脂とがある。ゴムの場合、シリコンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、水素添加ニトリルゴムがあり、また、樹脂の場合、6ナイロン樹脂、12ナイロン樹脂、11ナイロン樹脂、66ナイロン樹脂、46ナイロン樹脂がある。弾性体55は、その素材全体に磁化が施されて磁性体を磁気吸引できる性質を有するものとなっている。
このような弾性体55の内周部分は、軸方向一方の大気圧空間C側へ延びて回転軸51と摺接する主リップ56と、この主リップ56と軸方向隣り合わせに設けられ、軸方向他方の密封対象空間B側に向けて漸次拡径するテーパ形状を有する補助リップ57とされる。主リップ56の外周には、それを回転軸51の外周面に対して所定の締付力で締め付けて圧接させるガータスプリング58が装着されている。そのため主リップ56と補助リップ57は、共に全体が磁化部として両リップ56、57間の磁性流体59を磁気吸引するものとなる。
ここで、磁性流体59は、回転軸51と主リップ56と補助リップ57とで囲まれる空間内に充填されており、そのため、前記磁化部の磁気吸引作用によりの磁性流体59は良好に保持されることになる。なお、磁性流体59は、所定の溶媒中に磁性粉末が混入されたものであり、この溶媒には、例えば合成炭化水素油があるから、前記磁化部にはこの磁性粉末が磁気吸引され、その溶媒が磁気吸引されることはない。
また、前記磁性粉末の具体例としては、公知の湿式法により得られるマグネタイトコロイドを用い得る。また、水中でマグネタイト粉末をボールミルにより粉砕する、所謂湿式粉砕法で得られるものでもよい。さらにまた、乾式法で得られるものを用いてもよい。また、マグネタイト以外のマンガンフェライト、コバルトフェライトもしくはこれらと亜鉛、ニッケルとの複合フェライトやバリウムフェライトなどの強磁性酸化物または鉄、コバルト、希土類などの強磁性金属層を用いることもできる。
なお、この場合、弾性体55全体を磁化するのではなく、両リップ56、57の表層だけを磁化してこれを磁化部としても構わないし、主リップ56の表層の一部だけを磁化しこれを磁化部としても構わない。いずれにしても、両リップ56、57間でかつ主リップ56の摺接部分の近傍に磁化部が形成されている結果、磁性流体59は、両リップ56、57それぞれの磁気吸引により両リップ56、57間に保持される。
前記シール50によると、主リップ56の摺接部分が回転軸51と摺接しているから、接触シールと同等の高い密封性を良好に保持できるとともに、両リップ56、57間に磁気吸引により保持されている磁性流体59がその摺接部分に対する潤滑剤として作用するから、接触シールの欠点であった無潤滑環境下での摺接部分の摩耗の促進が抑えられる結果、無潤滑環境下でも高い密封性を備えたものとなる(例えば、特許文献1参照。)。
特開2001−159466号公報 特開2003−065443号公報 特開平11−141561号公報
近年、燃費性の向上を目的に軸受シールの低トルク化のニーズが高まってきている。然しながら、こうした従来のシール50では、主リップ56および補助リップ57が回転軸51に摺接しており、非接触シールに比べると回転トルクが高くなると共に、リップ部が摩耗するため、長寿命化を確保することは難しい。
なお、リップが非接触のシールも提案されているが(特許文献2、3参照。)、これらのシールは、シールに磁性体が埋め込まれたり、また、シール自体が磁性体で形成されているため、シールの設計の自由度が低くなり最適な設計が難しくなると共に、シールのコストが高騰し好ましくない。
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、軸受部に装着されたシールの低トルク化を高め、リップ摩耗を防止し、低コストでシール性能を向上させた車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうち少なくとも一方のシールが、互いに対向配置され、前記内方部材に外嵌される円筒部、およびこの円筒部から径方向外方に延びる立板部を備えたスリンガと、前記外方部材に装着される芯金、およびこの芯金に加硫接着により一体に接合される合成ゴム製のシール部材を備えた環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記シール部材が、サイドリップと、このサイドリップの内径側で二股状に形成されたグリースリップとダストリップを有し、これら各リップのうち少なくとも前記サイドリップが前記スリンガの立板部に対して非接触状態で対向配置され、この部位に磁性流体が封入されると共に、前記スリンガに磁化部が一体に接合され、この磁化部によって前記磁性流体が保持されている。
このように、外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシールを備えた車輪用軸受装置において、シールのうち少なくとも一方のシールが、互いに対向配置され、内方部材に外嵌される円筒部、およびこの円筒部から径方向外方に延びる立板部を備えたスリンガと、外方部材に装着される芯金、およびこの芯金に加硫接着により一体に接合される合成ゴム製のシール部材を備えた環状のシール板とからなるパックシールで構成され、シール部材が、サイドリップと、このサイドリップの内径側で二股状に形成されたグリースリップとダストリップを有し、これら各リップのうち少なくともサイドリップがスリンガの立板部に対して非接触状態で対向配置され、この部位に磁性流体が封入されると共に、スリンガに磁化部が一体に接合され、この磁化部によって磁性流体が保持されているので、リップを非接触化させても高い密封性を維持し、シールの低トルク化を高めると共に、リップ摩耗を防止し、低コストでシール耐久性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
また、請求項2に記載の発明のように、前記シールのサイドリップが径方向外方に傾斜して延び、前記スリンガの立板部に所定の軸方向すきまを介して対向配置されると共に、前記グリースリップとダストリップが前記スリンガの円筒部に所定の径方向シメシロを介して摺接されていても良い。
また、請求項3に記載の発明のように、前記シールのサイドリップが複数形成されてそれぞれ軸方向に延び、前記スリンガの立板部に所定の軸方向すきまを介して対向配置されていていれば、サイドリップを全て非接触化させても高い密封性を維持し、シールの低トルク化を高めることができる。
好ましくは、請求項4に記載の発明のように、前記サイドリップが3本軸方向に延び、これらのサイドリイプ間に凹部が形成されていれば、磁性流体が凹部に入り込んで溜まり、遠心力が生じても高い保持力を有する。
また、請求項5に記載の発明のように、前記磁化部が強磁性体粉を金属バインダーで固めた燒結金属で形成され、前記スリンガの立板部のインナー側の側面に一体に接合されていても良い。
また、請求項6に記載の発明のように、前記磁化部が強磁性体粉を金属バインダーで固めた燒結金属で形成され、前記スリンガの立板部のアウターの側面に接合されていれば、磁力が強くなって磁性流体の保持力が増し、遠心力によって磁性流体が外部に飛散するのを防止することができる。
また、請求項7に記載の発明のように、前記磁化部が前記スリンガの立板部のインナー側の側面に加硫接着によって一体に接合されると共に、当該磁化部がエラストマに磁性体粉が混入され、周方向等配で交互に磁極N、Sが着磁されていれば、車両の速度を検出する磁気エンコーダと兼用することができ、部品点数を増やすことなく、付加価値を高めることができる。
好ましくは、請求項8に記載の発明のように、前記スリンガがフェライト系のステンレス鋼鈑で形成されていれば、スリンガが発錆するのを防止すると共に、磁気エンコーダとなる磁化部の磁気出力が強くなり安定した検出精度を確保することができる。
また、請求項9に記載の発明のように、前記スリンガの立板部からアウター側に折曲された鍔部が形成されていれば、遠心力が生じても磁性流体の流出を確実に防止することができる。
また、請求項10に記載の発明のように、前記シール部材のグリースリップとダストリップが前記スリンガの円筒部に所定の径方向すきまを介して対向配置されると共に、当該スリンガの円筒部の外径側表面から前記立板部のインナー側の側面に亙って前記磁化部が一体に接合され、この磁化部の周辺に前記磁性流体が封入されていれば、スリンガに対して非接触の各リップを通して外部から雨水やダスト等の異物が軸受内部に浸入するのを液密的に防止でき、各リップを非接触化させても高い密封性を維持し、シールの低トルク化を一層高めることができる。
本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうち少なくとも一方のシールが、互いに対向配置され、前記内方部材に外嵌される円筒部、およびこの円筒部から径方向外方に延びる立板部を備えたスリンガと、前記外方部材に装着される芯金、およびこの芯金に加硫接着により一体に接合される合成ゴム製のシール部材を備えた環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記シール部材が、サイドリップと、このサイドリップの内径側で二股状に形成されたグリースリップとダストリップを有し、これら各リップのうち少なくとも前記サイドリップが前記スリンガの立板部に対して非接触状態で対向配置され、この部位に磁性流体が封入されると共に、前記スリンガに磁化部が一体に接合され、この磁化部によって前記磁性流体が保持されているので、リップを非接触化させても高い密封性を維持し、シールの低トルク化を高めると共に、リップ摩耗を防止し、低コストでシール耐久性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。 図1のインナー側のシールを示す拡大図である。 図2のシールの変形例を示す拡大図である。 図2のシールの他の変形例を示す拡大図である。 図2のシールの他の変形例を示す拡大図である。 図2のシールの他の変形例を示す拡大図である。 図5のシールの変形例を示す拡大図である。 従来のシールを示す縦断面図である。
外周に懸架装置に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうちインナー側のシールが、互いに対向配置され、前記内輪に外嵌される円筒部、およびこの円筒部から径方向外方に延びる立板部を備えたスリンガと、前記外方部材に装着される芯金、およびこの芯金に加硫接着により一体に接合される合成ゴム製のシール部材を備えた環状のシール板とからなるパックシールで構成され、前記シール部材が、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップと、このサイドリップの内径側で二股状に形成されたグリースリップとダストリップを有し、前記サイドリップが前記スリンガの立板部に対して非接触状態で対向配置され、この部位に磁性流体が封入されると共に、前記スリンガの立板部のインナー側の側面に磁化部が一体に接合され、この磁化部によって前記磁性流体が保持されている。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1のインナー側のシールを示す拡大図、図3は、図2のシールの変形例を示す拡大図、図4は、図2のシールの他の変形例を示す拡大図、図5は、図2のシールの他の変形例を示す拡大図、図6は、図2のシールの他の変形例を示す拡大図、図7は、図5のシールの変形例を示す拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
この車輪用軸受装置は駆動輪用で、内方部材1と外方部材10、および両部材1、10間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)7、7とを備え、第3世代と称される構成をなしている。内方部材1は、ハブ輪2と、このハブ輪2に圧入固定された内輪3とからなる。
ハブ輪2は、アウター側の端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジ4を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面2aと、この内側転走面2aから軸方向に延びる円筒状の小径段部2bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)2cが形成されている。また、車輪取付フランジ4の周方向等配位置にはハブボルト5が植設されている。内輪3は、外周に他方(インナー側)の内側転走面3aが形成され、ハブ輪2の小径段部2bに所定のシメシロを介して圧入されている。そして、小径段部2bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部2dによって、所定の軸受予圧が付与された状態で、ハブ輪2に対して軸方向に固定されている。
ハブ輪2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面2aをはじめ、後述するアウター側のシール8のシールランド部となる車輪取付フランジ4のインナー側の基部4aから小径段部2bに亙って高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。一方、内輪3および転動体7は、SUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
外方部材10は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ10bを一体に有し、内周に内方部材1の内側転走面2a、3aに対向する複列の外側転走面10a、10aが一体に形成されている。これら両転走面10a、2aおよび10a、3a間には保持器6を介して複列の転動体7、7が転動自在に収容されている。この外方部材10はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面10a、10aが高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。
また、外方部材10の両端部にはシール8、9が装着され、外方部材10と内方部材1との間に形成される環状空間の開口部を密封している。このシール8、9により、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
シール8、9のうちアウター側のシール8は、外方部材10のアウター側端部に装着された芯金11と、この芯金11に加硫接着により一体に接合されたシール部材12とからなる一体型のシールで構成されている。芯金11は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)や冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工にて断面略コの字状に形成されている。一方、シール部材12はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して形成されたサイドリップ12aとダストリップ12b、および軸受内方側に傾斜して形成されたグリースリップ12cを一体に有している。そして、車輪取付フランジ4のインナー側の基部4aは断面が円弧状の曲面に形成され、この基部4aにサイドリップ12aとダストリップ12bが所定の軸方向シメシロをもって摺接されると共に、グリースリップ12cが所定の径方向シメシロを介して摺接されている。なお、シール部材12の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
また、シール8、9のうちインナー側のシール9は、互いに対向配置されたスリンガ13と環状のシール板14とからなる、所謂パックシールで構成されている。スリンガ13は、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、図2に拡大して示すように、内輪3の外径に圧入される円筒部13aと、この円筒部13aから径方向外方に延びる立板部13bとを備えている。
一方、シール板14は、外方部材10に装着された芯金15と、この芯金15に加硫接着により一体に接合されたシール部材16とからなる。芯金15は、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面略L字状に形成され、外方部材10の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部15aと、この嵌合部15aから径方向内方に延びる内径部15bとを備えている。
シール部材16は、NBR等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ16aと、二股状に形成されたグリースリップ16bとダストリップ16cを有している。なお、シール部材16の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR、EPDM等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM、FKM、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
ここで、本実施形態では、シール部材16のサイドリップ16aはスリンガ13の立板部13bに所定の軸方向すきまを介して対向配置されると共に、グリースリップ16bとダストリップ16cは、スリンガ13の円筒部13aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
また、スリンガ13の立板部13bのインナー側の側面Siには磁化部17が接合されている。この磁化部17は、フェライト等からなる強磁性体粉を金属バインダーで固めた燒結金属で形成されている。そして、この磁化部17に対向する立板部13bのアウター側の側面Soに磁性流体18が封入されている。この磁性流体18は磁化部17によって磁気吸引され立板部13bに保持されている。
本実施形態では、パックシールとして、サイドリップ16aがスリンガ13の立板部13bに所定の軸方向すきまを介して対向配置され、磁化部17によって磁気吸引された磁性流体18がサイドリップ16aと立板部13bとの間に封入されたものを採用したので、リップを非接触化させても高い密封性を維持し、シール9の低トルク化を高めると共に、リップ摩耗を防止し、低コストでシール耐久性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
なお、ここでは、転動体7にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成された車輪用軸受装置を例示したが、本発明はこれに限らず、転動体7に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成されていても良い。さらに、例示した第3世代構造に限らず、第1、第2世代構造あるいは第4世代構造であっても良い。
図3は、図2のシールの変形例を示す。なお、この実施形態は前述した実施形態と基本的には磁化部の構成が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
このシール19は、互いに対向配置されたスリンガ13と環状のシール板14とからなるパックシールで構成されている。シール部材16のサイドリップ16aはスリンガ13の立板部13bに所定の軸方向すきまを介して対向配置されると共に、グリースリップ16bとダストリップ16cは、スリンガ13の円筒部13aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
本実施形態では、スリンガ13の立板部13bのインナー側の側面Siに磁化部20が加硫接着によって一体に接合されている。この磁化部20は、エラストマに磁性体粉が混入され、周方向等配で交互に磁極N、Sが着磁されて磁気エンコーダを構成している。そして、この磁化部20に対向する立板部13bのアウター側の側面Soに磁性流体18が封入されている。この磁性流体18は磁化部20によって磁気吸引され立板部13bに保持されている。
なお、本実施形態の場合、スリンガ13を強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)で形成することにより、スリンガ13が発錆するのを防止すると共に、磁気エンコーダとなる磁化部20の磁気出力が強くなり安定した検出精度を確保することができる。
本実施形態では、磁気エンコーダからなる磁化部20によって磁気吸引された磁性流体18がサイドリップ16aと立板部13bとの間に封入されているので、前述した実施形態と同様、リップを非接触化させても高い密封性を維持し、シール19の低トルク化を高め、そして、リップ摩耗を防止してシール耐久性を向上させると共に、車両の速度を検出する磁気エンコーダと兼用することができ、部品点数を増やすことなく、付加価値を高めることができる。
図4は、図2のシールの他の変形例を示す。なお、この実施形態は前述した実施形態と基本的には磁化部の構成が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
このシール21は、互いに対向配置されたスリンガ13と環状のシール板14とからなるパックシールで構成されている。シール部材16のサイドリップ16aはスリンガ13の立板部13bに所定の軸方向すきまを介して対向配置されると共に、グリースリップ16bとダストリップ16cは、スリンガ13の円筒部13aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
本実施形態では、スリンガ13の立板部13bのアウター側の側面Soに磁化部17が一体に接合されている。そして、この磁化部17の周辺に磁性流体22が封入されている。この磁性流体22は磁化部17によって磁気吸引された状態で立板部13bに保持されて、立板部13bに対して非接触のサイドリップ16aを通して外部から雨水やダスト等の異物が軸受内部に浸入するのを液密的に防止している。このように、磁化部17が立板部13bのアウター側の側面Soに接合され、その周辺に磁性流体22が封入されているので、磁力が強くなって磁性流体22の保持力が増し、遠心力によって磁性流体22が外部に飛散するのを防止することができる。
図5は、図2のシールの他の変形例を示す。なお、この実施形態は前述した実施形態と基本的にはシール部材の構成が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
このシール23は、互いに対向配置されたスリンガ13と環状のシール板24とからなるパックシールで構成されている。シール板24は、芯金15と、この芯金15に加硫接着により一体に接合されたシール部材25とからなる。
シール部材25は、NBR等の合成ゴムからなり、軸方向に延びる3本のサイドリップ25a、25b、25cと、二股状に形成されたグリースリップ16bとダストリップ16cを有している。なお、シール部材25の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR、EPDM等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM、FKM、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
ここで、本実施形態では、シール部材25のサイドリップ25a、25b、25cはスリンガ13の立板部13bに所定の軸方向すきまを介して対向配置されると共に、グリースリップ16bとダストリップ16cは、スリンガ13の円筒部13aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
また、スリンガ13の立板部13bのインナー側の側面Siに磁化部17が一体に接合され、この磁化部17に対向する立板部13bのアウター側の側面Soに磁性流体26が封入されている。この磁性流体26は磁化部17によって磁気吸引され立板部13bに保持されている。
本実施形態では、磁性流体26が3本のサイドリップ25a、25b、25c間の凹部に入り込んで溜まり、遠心力が生じても高い保持力を有すると共に、サイドリップ25a、25b、25cを全て非接触化させても高い密封性を維持し、シール23の低トルク化を高めることができる。
図6は、図2のシールの他の変形例を示す。なお、この実施形態は前述した実施形態と基本的にはスリンガの構成が一部異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
このシール27は、互いに対向配置されたスリンガ28と環状のシール板14とからなるパックシールで構成されている。スリンガ28は、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、円筒部13aと、この円筒部13aから径方向外方に延びる立板部13b、およびこの立板部13bからアウター側に折曲された鍔部28aを備えている。
ここで、本実施形態では、シール部材16のサイドリップ16aはスリンガ28の立板部13bに所定の軸方向すきまを介して対向配置されると共に、グリースリップ16bとダストリップ16cは、スリンガ13の円筒部13aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
また、スリンガ28の立板部13bのインナー側の側面Siには磁化部17が接合され、この磁化部17に対向する立板部13bのアウター側の側面Soに磁性流体18が封入されている。この磁性流体18は磁化部17によって磁気吸引され立板部13bに保持されている。
本実施形態では、パックシールとして、サイドリップ16aがスリンガ28の立板部13bに所定の軸方向すきまを介して対向配置され、磁化部17によって磁気吸引された磁性流体18がサイドリップ16aと立板部13bとの間に封入されると共に、スリンガ28の立板部13bから鍔部28aが突設されているので、遠心力が生じても磁性流体18の流出を確実に防止することができる。
図7は、図5のシールの変形例を示す。なお、この実施形態は前述した実施形態と基本的には磁化部の構成が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
このシール29は、互いに対向配置されたスリンガ30と環状のシール板24とからなるパックシールで構成されている。シール板24は、芯金15と、この芯金15に加硫接着により一体に接合されたシール部材25とからなる。スリンガ30は、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、円筒部30aと、この円筒部30aから径方向外方に延びる立板部30bとを備えている。
シール部材25は、NBR等の合成ゴムからなり、軸方向に延びる3本のサイドリップ25a、25b、25cと、二股状に形成されたグリースリップ16bとダストリップ16cを有している。
ここで、本実施形態では、シール部材25のサイドリップ25a、25b、25cはスリンガ30の立板部30bに所定の軸方向すきまを介して対向配置されると共に、グリースリップ16bとダストリップ16cは、スリンガ30の円筒部30aに所定の径方向すきまを介して対向配置されている。
また、スリンガ30の円筒部30aの外径側表面Sgから立板部30bのインナー側の側面Siに亙って磁化部31が一体に接合され、この磁化部31の周辺に磁性流体32が封入されている。この磁性流体32は磁化部31によって磁気吸引され立板部13bに保持され、スリンガ30に対して非接触の各リップを通して外部から雨水やダスト等の異物が軸受内部に浸入するのを液密的に防止している。これにより、各リップを非接触化させても高い密封性を維持し、シール29の低トルク化を一層高めることができる。
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
本発明に係る車輪用軸受装置は、外方部材と内方部材との間に形成された環状空間の開口部にシールが装着された第1乃至第4世代の車輪用軸受装置に適用できる。
1 内方部材
2 ハブ輪
2a、3a 内側転走面
2b 小径段部
2c セレーション
2d 加締部
3 内輪
4 車輪取付フランジ
4a 車輪取付フランジのインナー側の基部
5 ハブボルト
6 保持器
7 転動体
8 アウター側のシール
9、19、21、23、27、29 インナー側のシール
10 外方部材
10a 外側転走面
10b 車体取付フランジ
11、15 芯金
12、16、25 シール部材
12a、16a、25a、25b、25c サイドリップ
12b、16c ダストリップ
12c、16b グリースリップ
13、28、30 スリンガ
13a、30a 円筒部
13b、30b 立板部
14、24 シール板
15a 嵌合部
15b 内径部
17、20、31 磁化部
18、22、26、32 磁性流体
28a 鍔部
50 シール
51 スリンガ
51 回転軸
52 ハウジング
54 環状芯金
55 弾性体
56 主リップ
57 補助リップ
58 ガータスプリング
59 磁性流体
A 環状空間
B 密封対象空間
C 大気圧空間
Sg 円筒部の外径側表面
Si 立板部のインナー側の側面
So 立板部のアウター側の側面

Claims (10)

  1. 内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
    外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
    この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、
    前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、
    前記シールのうち少なくとも一方のシールが、互いに対向配置され、前記内方部材に外嵌される円筒部、およびこの円筒部から径方向外方に延びる立板部を備えたスリンガと、前記外方部材に装着される芯金、およびこの芯金に加硫接着により一体に接合される合成ゴム製のシール部材を備えた環状のシール板とからなるパックシールで構成され、
    前記シール部材が、サイドリップと、このサイドリップの内径側で二股状に形成されたグリースリップとダストリップを有し、これら各リップのうち少なくとも前記サイドリップが前記スリンガの立板部に対して非接触状態で対向配置され、この部位に磁性流体が封入されると共に、前記スリンガに磁化部が一体に接合され、この磁化部によって前記磁性流体が保持されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
  2. 前記シールのサイドリップが径方向外方に傾斜して延び、前記スリンガの立板部に所定の軸方向すきまを介して対向配置されると共に、前記グリースリップとダストリップが前記スリンガの円筒部に所定の径方向シメシロを介して摺接されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  3. 前記シールのサイドリップが複数形成されてそれぞれ軸方向に延び、前記スリンガの立板部に所定の軸方向すきまを介して対向配置されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  4. 前記サイドリップが3本軸方向に延び、これらのサイドリイプ間に凹部が形成されている請求項3に記載の車輪用軸受装置。
  5. 前記磁化部が強磁性体粉を金属バインダーで固めた燒結金属で形成され、前記スリンガの立板部のインナー側の側面に一体に接合されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  6. 前記磁化部が強磁性体粉を金属バインダーで固めた燒結金属で形成され、前記スリンガの立板部のアウターの側面に接合されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  7. 前記磁化部が前記スリンガの立板部のインナー側の側面に加硫接着によって一体に接合されると共に、当該磁化部がエラストマに磁性体粉が混入され、周方向等配で交互に磁極N、Sが着磁されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  8. 前記スリンガがフェライト系のステンレス鋼鈑で形成されている請求項7に記載の車輪用軸受装置。
  9. 前記スリンガの立板部からアウター側に折曲された鍔部が形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  10. 前記シール部材のグリースリップとダストリップが前記スリンガの円筒部に所定の径方向すきまを介して対向配置されると共に、当該スリンガの円筒部の外径側表面から前記立板部のインナー側の側面に亙って前記磁化部が一体に接合され、この磁化部の周辺に前記磁性流体が封入されている請求項1、6、8および9いずれかに記載の車輪用軸受装置。
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