本発明は、リチウム二次電池の製造方法に関する。
従来、リチウム二次電池には、正極活物質として主にLiCoO2が用いられている。しかし、LiCoO2を正極活物質として用いたリチウム二次電池は、放電容量が120〜130mAh/g程度しかなく、充電状態における電池内での熱的安定性も劣るものであった。
そこで、リチウム二次電池用活物質として、LiCoO2を他の化合物と固溶体を形成させた材料が知られている。即ち、リチウム二次電池用活物質として、LiCoO2、LiNiO2及びLiMnO2をそれぞれ3つの成分として配置した三元系状態図上に示されるα−NaFeO2型結晶構造を有する固溶体であるLi[Co1−2xNixMnx]O2(0<x≦1/2)が2001年に発表された。前記固溶体の一例であるLiNi1/2Mn1/2O2やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2を活物質として用いたリチウム二次電池は、放電容量が150〜180mAh/gとLiCoO2よりも優れ、充電状態における電池内での熱的安定性の点でもLiCoO2より優れている。
しかし、放電容量がさらに大きいリチウム二次電池用活物質が求められていた。
特許文献1〜4には、リチウム二次電池用活物質としてLi[Li1/3Mn2/3]O2にFeを添加した化合物が記載されている。特許文献5〜8には、リチウム二次電池用活物質としてLi[Li1/3Mn2/3]O2にFeやNiを添加した化合物が記載されている。
しかしながら、特許文献1〜8記載の発明に係る材料は、安価な鉄を原料として用いた点に特徴があるが、これを用いたリチウム二次電池は、従来の正極活物質と比べて、分極が大きく、放電容量も優れるものではなかった。
特許文献9、10には、リチウム二次電池用活物質としてLiNiO2−Li[Li1/3Mn2/3]O2系の固溶体が記載されている。
しかしながら、特許文献9、10記載のリチウム二次電池用活物質は、Niの電子状態がNi3+であることから、酸素中で合成する必要があり、空気中で合成することが困難であるという問題点があった。このように、工業上の取り扱い易さの点からもNiはNi2+の状態で存在しているリチウム二次電池用活物質材料が望まれている。また、この材料では、Ni3+→Ni4+の1電子反応しか利用できないので、リチウム二次電池の放電容量の向上が期待できない。
特許文献11−12には、リチウム二次電池用活物質としてLiNi1/2Mn1/2O2− Li[Li1/3Mn2/3]O2系の固溶体等が記載されている。
しかしながら、特許文献11、12に記載の材料を用いたリチウム二次電池の放電容量は、LiNi1/2Mn1/2O2を単独で用いた場合に比べて向上するどころか、逆に劣るものであった。
特許文献13−14には、リチウム二次電池用活物質としてLiMeO2(Me:Co、Ni)の粒子表面にLi[Li1/3Mn2/3]O2を存在させた材料が記載されている。
しかしながら、上記した特許文献1〜14に記載された技術や、次に述べる特許文献15〜18に記載された技術は、いずれも、本発明の課題である放電容量の向上に結びつくものではなかった。
特許文献15、16には、「本発明では層状構造を有する
・Li[Ni1/2Mn1/2]O2の割合が(1−3x)(1−y)、
・Li[Li1/3Mn2/3]O2の割合が3x(1−y)、
・LiCoO2の割合がy
で固溶したと仮定される層状リチウム遷移金属複合酸化物、すなわち
[Li](3a)[(LixNi(1-3x)/2Mn(1+x)/2)(1-y)Coy](3b)O2 …(II)
を基本構造に持つ。
ここで、(3a)、(3b)はそれぞれ層状R(−3)m構造中の異なる金属サイトを表す。」、「ただし、本発明の重要な点は、さらに(II)式の組成に対してLiをzモルだけ過剰に加え、固溶させたものであり、
[Li](3a)[Liz/(2+z){(LixNi(1-3x)/2Mn(1+x)/2)(1-y)Coy}2/(2+z)](3b)O2 …(I)
(ただし、0.01≦x≦0.15、0≦y≦0.35、0.02(1−y)(1−3x)≦z≦0.15(1−y)(1−3x)、また、(3a)、(3b)はそれぞれ層状R(−3)m構造中の異なる金属サイトを表す。)
で表されることを特徴とする。」(段落0018〜0019)等と記載され、Li[Ni1/2Mn1/2]O2とLi[Li1/3Mn2/3]O2とLiCoO2との3つの成分の固溶体を基本構造として採用する考え方については記載がある。しかし、比較例を参照しても、Li量は、そのような固溶体を想定した場合に自然に導かれる量を超えて過剰量としたもののみが具体的に記載されており、Li量を意図的に過剰としない組成範囲内において、3つの成分の比率を特定のものとすることにより、放電容量を向上できることについては記載がない。
特許文献17には、請求項1に、「Li[Ni(x−y)Li(1/3−2x/3)Mn(2/3−x/3−y)Co2y]O2(0<x≦0.5、0≦y≦1/6、x>y)」なる組成式が記載されている。
特許文献17の請求項1に記載された組成式は、上位概念としては本発明が特徴とする組成範囲と一部重複するものの、特許文献17には、Li[Ni1/2Mn1/2]O2とLi[Li1/3Mn2/3]O2とLiCoO2との3つの成分の固溶体を採用する技術思想を示唆する記載は皆無であり、上記組成式が示す範囲は、Li[Ni1/2Mn1/2]O2とLi[Li1/3Mn2/3]O2とLiCoO2との3つの成分の固溶体とした場合の組成以外のものを広く含んでいる。
特許文献18の請求項2には、「Li[Ni(x-y)Li(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3-y)Co2y]O2(ただし、xは0より大きく0.5以下であり、yは0以上1/6以下であり、x>yである。)」なる組成式が記載されている。
特許文献18の請求項2に記載された組成式は、上位概念としては本発明が特徴とする組成範囲と一部重複するものの、実施例としては、「組成式Li[Ni0.5Mn0.5]O2により表わされる化合物」や「組成式Li[Ni0.4Mn0.4Co0.2]O2により表わされる化合物」が具体的に記載されているだけであり、これらは完全に本発明が特徴とする組成範囲を外れるものである。また、特許文献18には、Li[Ni1/2Mn1/2]O2とLi[Li1/3Mn2/3]O2とLiCoO2との3つの成分の固溶体を採用する技術思想を示唆する記載は皆無である。
特許文献19には、共沈法によって遷移金属(Co,Ni,Mn)の水酸化物を作製し、これとリチウム化合物を混合し、焼成工程を経てα−NaFeO2型結晶構造を有するLi[Co1−2xNixMnx]O2を合成する方法が記載されている。
特開2002−068748号公報
特開2002−121026号公報
特許第03500424号公報
特開2005−089279号公報
特開2006−036620号公報
特開2003−048718号公報
特開2006−036621号公報
特許第03940788号公報
特開平09−055211号公報
特許第03539518号公報
特開2004−158443号公報
特許第03946687号公報
特開平08−171935号公報
特許第03258841号公報
特開2006−253119号公報
特開2007−220475号公報
特開2004−006267号公報
特開2004−152753号公報
国際公開第02/086993号パンフレット
非特許文献1には、高Mn量のLiCoO2−LiNi0.5Mn0.5O2−Li2MnO3固溶体の調製と電気化学的特性について記載され、具体的に、0.36LiCoO2−0.2LiNi1/2Mn1/2O2−0.44Li2MnO3、0.27LiCoO2−0.2LiNi1/2Mn1/2O2−0.53Li2MnO3、0.18LiCoO2−0.2LiNi1/2Mn1/2O2−0.62Li2MnO3、0.09LiCoO2−0.2LiNi1/2Mn1/2O2−0.71Li2MnO3が示されているが、Liの含有量が1.4〜1.5と多い場合には、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は1.4程度であり(図2参照)、1.56以上ではないから、これらの固溶体は、本発明の活物質とは明らかに異なる。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩をスプレードライ法を用いて400℃で分解した後、750−950℃にて焼成することが示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、3.0−4.6Vの電位領域において放電容量を200mAh/g以上とすることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない。
非特許文献2には、Li[Li0.182Ni0.182Co0.091Mn0.545]O2、すなわち、0.545Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.364LiNi1/2Mn1/2O2−0.091LiCoO2の層状物質について、放電容量は、初期4.6−2.0Vの電位領域においては200mAh/g以上であり、4.6V−2.0Vサイクルの後、4.3V−2.0Vの電位領域においては160mAh/g程度であることが示されているから、この層状物質は、4.3V以下の電位領域において放電容量が大きいものではない。また、上記の層状物質は、それぞれの酢酸塩のスラリーを作製し、それを120℃で乾燥した後、900℃で焼成することにより作製されたものであり、共沈法により作製されたものではなく、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、約1であり、1.56以上の本発明の活物質とは明らかに異なるものである。
非特許文献3には、リチウム電池の正極活物質として0.7Li2MnO3・0.3LiMn0.33Ni0.33Co0.33O2、0.5Li2MnO3・0.5LiMn0.33Ni0.33Co0.33O2が示され、前者について、放電容量は50℃、4.8V充電にて261mAh/g、50℃、4.6V充電にて200mAh/gであることが示されているが、4.3V以下の電位領域において放電容量を大きくすることは示されていない。また、上記の正極活物質は、Co、Ni、Mnの共沈水酸化物とLiOHを混合して300又は500℃にて仮焼成され、800又は1000℃にて焼成して作製されたものであるが、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、約1であり、1.56以上の本発明の活物質とは明らかに異なるものである。
非特許文献4には、Li[Li1/5Ni1/10Co1/5Mn1/2]O2、すなわち、0.6Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.2LiNi1/2Mn1/2O2−0.2LiCoO2の層状結晶構造を有する固溶体が示されているが、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は1.4程度であり(図3参照)、1.56以上ではないから、この固溶体は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩を用いたゾルゲル法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.5V充電にて229mAh/gであることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない。
非特許文献5には、(1−2x)LiNi1/2Mn1/2O2・xLi[Li1/3Mn2/3]O2・xLiCoO2(0≦x≦0.5)の活物質について示されており、この組成式を満たす0.2LiNi1/2Mn1/2O2・0.4Li[Li1/3Mn2/3]O2・0.4LiCoO2、0.5Li[Li1/3Mn2/3]O2・0.5LiCoO2等のものは、本発明に近い組成のものではあるが、本発明の組成の範囲を外れている。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩を用いた固相法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.6V充電にて190mAh/g程度である(x=0.4)から、4.3V以下の電位領域における放電容量は大きいものではない。
非特許文献6には、LiNi0.20Li0.20Mn0.60O2、すなわち、0.6Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.4LiNi1/2Mn1/2O2の正極活物質が示されているが、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、電池作製前は1.7程度である(図7参照)が、放電後には(003)面の回折ピークよりも(104)面の回折ピークの強度が大きくなっているから、この正極活物質は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩又は硝酸塩を加熱分解した粉末を焼成する方法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.8V充電にて初期において288mAh/g、20サイクル後に220mAh/gであることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない。
非特許文献7には、層状の(1−x−y)LiNi1/2Mn1/2O2・xLi[Li1/3Mn2/3]O2・yLiCoO2(0≦x=y≦0.3及びx+y=0.5)の正極活物質について示されているが、この組成式を満たす0.5LiNi1/2Mn1/2O2・0.5Li[Li1/3Mn2/3]O2は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)が1.4程度であり、1.56以上ではないから、この正極活物質は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩を用いた固相法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.6V充電にて180mAh/gであるから、4.3V以下の電位領域における放電容量は大きいものではない。
非特許文献8には、層状構造の0.5Li(Ni0.5Mn0.5)O2−0.5Li(Li1/3Mn2/3)O2固溶体が示されているが、α−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体であるQ24は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)が1.2程度であり、1.56以上ではないから、この固溶体は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。S24、VS24は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)が1.56以上であるが、不純物のピークが多く見られ、α−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体として特定されていない。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩からの前駆体を焼成する方法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、Q24については、4.6V充電にて放電容量が210mAh/g程度であることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない。S24、VS24は、放電容量が小さいものである。
非特許文献9には、Li(Li(1−x)/3CoxMn(2−2x)/3O2)(0≦x≦1)固溶体の電気化学的性質について示されているが、この組成式を満たすLi(Li0.7/3Co0.3Mn1.4/3O2、すなわち、0.7Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.3LiCoO2、Li(Li0.6/3Co0.4Mn1.2/3O2、すなわち、0.6Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.4LiCoO2は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)が1.3程度であり、1.56以上ではないから、この固溶体は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの硝酸塩からの前駆体を焼成する方法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.6V充電にて250mAh/g程度であることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない。
非特許文献10には、Li[NixLi1/3−2x/3Mn2/3―x/3]O2の合成、構造、電気化学的挙動について示され、製造方法については共沈法を用いて製造することが示されているが、この組成式を満たすLi[Ni0.25Li1/6Mn7/12]O2、すなわち、0.5Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.5LiNi1/2Mn1/2O2等の固溶体は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)が約1であり、1.56以上ではないから、これらの固溶体は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。さらに、放電容量は、4.8V充電にて220mAh/g程度であることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない(充放電カーブから見て、4.3V換算で150mAh/g程度である)。
非特許文献11には、Li[CoxLi(1/3−x/3)Mn(2/3−2x/3)]O2化合物の合成及び電気化学的特性について示されているが、この組成式を満たすLi[Co0.33Li0.67/3Mn1.34/3O2、すなわち、0.67Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.33LiCoO2の化合物は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)が1.4程度であり、1.56以上ではないから、この化合物は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩又は硝酸塩を加熱分解した粉末を焼成する方法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.6V充電にて200mAh/g程度であることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない(充放電カーブから見て、4.3V換算で150−160mAh/g程度である)。
非特許文献12には、リチウム二次電池用のLi(Li0.2Ni0.2Mn0.6)O2正極活物質、すなわち、0.6Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.4LiNi1/2Mn1/2O2正極活物質のX線回折測定結果について示され、(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)が、放電後に1.6程度、1.7程度となることが示されているが、合成後、放電前には1.2程度であり、1.56以上ではないから、これの正極活物質は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩を用いたゾルゲル法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、2.0−4.6Vの電位領域において200mAh/g程度であるが、4.6V充電後、2.0−4.3Vの電位領域のサイクルにおいては110mAh/g程度であるから、4.3V以下の電位領域における放電容量は大きいものではない。
非特許文献13には、ナノ結晶Li[Li0.2Ni0.2Mn0.6]O2、すなわち、0.6Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.4LiNi1/2Mn1/2O2が示されているが、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、1.3程度であり、1.56以上ではないから、このナノ結晶は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩又は硝酸塩を加熱分解した粉末を焼成する方法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.8V充電にて210mAh/g程度であることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない。
非特許文献14には、リチウムイオン電池用正極活物質としてのLiCoO2−Li2MnO3(Li[Li(x/3)Co1−xMn(2x/3)]O2)固溶体の調製及び電気化学的挙動について示され、この組成式を満たすLi[Li0.2Co0.4Mn0.4]O2、すなわち、0.6Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.4LiCoO2固溶体、Li[Li0.23Co0.31Mn0.46]O2、すなわち、0.69Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.31LiCoO2固溶体は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)が、充放電前においては、それぞれ、2.3、1.9程度であり、1.56以上ではある(図2参照)が、充電容量を160mAh以上とした充電末においては、その強度比が極端に低下し(前者の固溶体について1.4〜1.7、図10参照)、その強度比が極端に低下した活物質(固溶体)を放電した場合の放電末における強度比は明らかでないから、これらの活物質は、本発明の活物質と同一であるとはいえない。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩をスプレードライ法を用いて400℃で分解した後、750−950℃にて焼成することが示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.5V充電にて100mAh/g程度であり大きくない。
非特許文献15には、層状の0.6LiNi0.5Mn0.5O2・xLi2MnO3・yLiCoO2(x+y=0.4)正極活物質について示されており、この組成式を満たす0.6LiNi0.5Mn0.5O2・0.4Li2MnO3は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、1.4程度であり、1.56以上ではないから、この正極活物質は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩を加熱分解した粉末を焼成する方法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.6V充電にて210mAh/g程度であることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない(4.3V換算で150mAh/g程度である)。
非特許文献16には、リチウム二次電池用のLi[Li0.15Ni0.275Mn0.575]O2正極活物質すなわち、0.45Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.55LiNi1/2Mn1/2O2正極活物質が示されているが、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、約1であり、1.56以上ではないから、この正極活物質は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩を用いたゾルゲル法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.6V充電にて180mAh/g程度であることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない(4.3V換算で140mAh/g程度である)。
非特許文献17には、リチウム二次電池用正極活物質としてのLi[Li(1−2x)/3NixMn(2―x)/3]O2の合成及び電気化学的性質について示されているが、この組成式を満たすLi[Li0.15Ni0.275Mn0.575]O2、すなわち、0.45Li[Li1/3Mn2/3]O2−0.55LiNi1/2Mn1/2O2の正極活物質は、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、約1であり、1.56以上ではないから、これらの正極活物質は、本発明の活物質とは明らかに異なるものである。また、製造方法については、それぞれの酢酸塩を用いたゾルゲル法が示されているだけであり、共沈法を用いて製造することは示されていない。さらに、放電容量は、4.6V充電にて190mAh/g程度であることが示されているが、4.3V以下の電位領域における放電容量を大きくすることは示されていない(4.3V換算で140mAh/g程度である)。
Electrochimica Acta 51(2006)5581-5586
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本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、放電容量の大きなリチウム二次電池、特に4.3V以下の電位領域における放電容量の大きなリチウム二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
本発明について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施の形態若しくは実験例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、請求の範囲によって示すものであって、明細書本文にはなんら拘束されない。さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
公知のLiMnO2をリチウム二次電池用活物質として用いた場合、充放電の過程でMn4+/Mn3+の酸化還元反応に起因するヤーンテラー歪みが生じるため、安定した放電容量を得ることができない。
また、公知の、LiCoO2、LiNiO2及びLiMnO2をそれぞれ3つの成分として配置した三元系状態図上に示されるα−NaFeO2型結晶構造を有する固溶体であるLi[Co1−2xNixMnx]O2(0<x≦1/2)の材料は、合成されたときの遷移金属元素の価数は、充放電に伴って、CoやNiのみならず、Mnの価数もまた変動する。ただ、NiとMnが同比率に存在する特殊な場合に限り、Ni2+,Mn4+,Co3+の電子状態を取ることが経験的に可能であり、この場合に限り、この材料に対して電気化学的な酸化還元(リチウムの挿入脱離)を行ってもMnの価数が4価のまま変化しないことから、良好な可逆特性を得ることができると考えられている。なお、このとき、電気化学的酸化に伴って、Niの価数は2価から3価、さらには4価まで変化し、Coの価数は3価から4価まで変化する。ここで、前記NiとMnが同比率に存在する特殊な場合とは、図2に示したように、LiCoO2、LiNiO2及びLiMnO2をそれぞれ3つの成分として配置した三元系状態図で示した直線上の点に相当する。しかし、この直線上を外れると、Ni2+,Mn4+,Co3+の電子状態を取ることができなくなり、放電容量および充放電サイクル性能が優れない結果となってしまう。
各金属元素の価数がLi+,Co3+,Ni2+,Mn4+となると考えられる材料は、特許文献15〜18にも一部発見することができる。
しかし、上記したように、特許文献15〜18の記載を参照しても、二次電池としての放電容量が従来の材料を上回るものは得られていない。
Li+およびMn4+を含む代表的な層状構造として、単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O2がある。このLi[Li1/3Mn2/3]O2をベースとした種々の化合物がこれまでに検討されていることについては、上記特許文献1〜14に記載されるとおりである。しかし、Li[Li1/3Mn2/3]O2は、単体として用いるとほとんど充放電容量を得ることができないことが知られている。これは通常の有機電解液の安定領域においてMn4+→Mn5+の酸化還元反応が起こらないためであると推察される。
本発明者らは、前記Li[Li1/3Mn2/3]O2は、Mnの価数が4価であることに着目し、他の化合物と固溶体を形成させることを検討した。このようにすることで、電気化学的な酸化還元(充放電)を行ってもMnの価数が4価から変化することなく、Li[Li1/3Mn2/3]O2と固溶体を形成している他の化合物を構成している遷移金属元素の価数を変化させることができ、これによって高い放電容量得ることができ、また安定した充放電サイクル性能も得られるのではないかと考えた。
本発明者らは、さらに、この二元系にLiCoO2を含めたLiCoO2−LiNi1/2Mn1/2O2−Li[Li1/3Mn2/3]O2の三元系固溶体を検討した。LiCoO2は初期充放電効率に優れ、高率充放電特性にも優れているため、この特徴を生かすことができるのではないかと考えたのである。
この三元系固溶体は、図1に示す三角相図として表される。このマトリックス上にある全ての化合物はCo3+,Ni2+,Mn4+として存在するものとなる。即ち、前記したLiCoO2−LiNiO2−LiMnO2系においては、図2に示したように、NiとMnが同比率で存在するライン上でしかNi2+,Mn4+として存在できないのに対し、LiCoO2−LiNi1/2Mn1/2O2−Li[Li1/3Mn2/3]O2の三元系固溶体であれば、系内のすべての点においてCo3+,Ni2+,Mn4+として存在しうるのである。
従って、本発明の基礎となる前記三元系固溶体は、x{Li[Li1/3Mn2/3]O2}・y{LiNi1/2Mn1/2O2}・(z=1−x−y){LiCoO2}と表記することができる。これを変形して、Li1+(1/3)xCo1−x−yNi(1/2)yMn(2/3)x+(1/2)yO2なる式が導かれる。ここで、定義から、0≦x、0≦y、x+y≦1である。
本発明者らは、前記三元系固溶体において、特に、xの値が1/3<xの範囲内であるとき、この材料を活物質として用いたリチウム二次電池は、従来の材料を用いた場合を大きく上回る放電容量を示し、同時にサイクル安定性にも優れるものとできることを見出し、先に日本特許庁に「特願2007−293777」として出願した。また、本発明者らは、前記三元系固溶体において、特に、xの値が1/3<x≦2/3の範囲内であるとき、この材料を活物質として用いたリチウム二次電池は、従来の材料を用いた場合を大きく上回る放電容量を示し、同時にサイクル安定性にも優れるものとできることを見出し、「特願2007−330259」として出願した。
今般、本発明者らは、前記三元系固溶体において、xの値が1/3<xの範囲内で、特定の範囲にあり、特定の性質を満たすとき、この材料を活物質として用いたリチウム二次電池は、大きな放電容量を示すこと、特に、4.3V以下の電位領域において大きな放電容量を示すことを見出した。
上記組成式から解るように、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質組成は、従来の活物質に比べてLiの含有比率が高いことが特徴の一つである。この点のみを取り上げて考えても、本発明の上記製造工程で作製される活物質組成は、従来技術を説明した図2の組成図上にプロットして表すことができないものである。また、図2の組成図は、本発明に係る材料のように、組成式LiqCoaNibMncOdにおいてa+b+c=1の関係を満たさないものは表すことができない。
ここに、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質は、α−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体を含むリチウム二次電池用活物質であって、前記固溶体が含有するLi,Co,Ni及びMnの組成比が、Li1+(1/3)xCo1−x−yNi(1/2)yMn(2/3)x+(1/2)y(x+y≦1、0≦y)を満たし、Li[Li1/3Mn2/3]O2(x)−LiNi1/2Mn1/2O2(y)−LiCoO2(z)系三角相図において、(x,y,z)が、点A(0.45,0.55,0)、点B(0.63,0.37,0)、点C(0.7,0.25,0.05)、点D(0.67,0.18,0.15)、点E(0.75,0,0.25)、点F(0.55,0,0.45)、及び点G(0.45,0.2,0.35)を頂点とする七角形ABCDEFGの線上又は内部に存在する範囲の値で表され、かつ、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が、充放電前においてI(003)/I(104)≧1.56であり、放電末においてI(003)/I(104)>1であることを特徴とするリチウム二次電池用活物質である。
ここで、本発明における「充放電前」とは、活物質の合成後から、最初に電気化学的な通電が行われるまでをいう。
また、「放電末」とは、160mAh/g以上の放電を行った後(実施例においては、177mAh/g以上の放電を行った後)を意味する。具体的には、実施例に示されるように、4.3V(vs.Li/Li+)まで充電して、電流0.1ItAの定電流放電を行い、終止電圧が2.0Vとなった時点を放電末としたものである。
一般に、α−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を焼成工程を経て合成する場合、実際に得られる化合物の組成は、原料の仕込み組成比から計算される組成に比べて若干変動することが事実として知られている。本発明は、その技術思想又は主要な特徴から逸脱することなく実施することができるものであって、合成によって得られたものの組成が上記組成式と厳密に一致しないことのみをもって本発明の範囲に属さないものと解釈してはならないことはいうまでもない。特に、Li量については、焼成工程で揮発されやすいことが知られている。また、酸素原子の係数についても、合成条件等によって変動しうるものである。なお、上記組成式は、酸素原子の係数について規定していない。三角相図におけるLi[Li1/3Mn2/3]O2(x)−LiNi1/2Mn1/2O2(y)−LiCoO2(z)のOは、厳密に2の場合だけではなく、欠損したものも含まれる。
また、本発明の上記製造工程で作製される活物質は、Li,Co,Ni,Mn,O以外の元素を含んでいても良く、Li,Co,Ni,Mn,O以外の元素を含んでいる場合においても、前記固溶体を構成する元素の中からLi,Co,Ni及びMnを取り上げ、その組成比が本願の規定を満たすと共に、本発明の効果が奏される限りにおいて、そのようなものも本発明の技術的範囲に属する。Li,Co,Ni,Mn,O以外の元素としては、Co,Ni,Mn以外の遷移金属元素であっても良い。
本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質は、正極電位4.5V(vs.Li/Li+)付近に至って充放電が可能である。しかしながら、使用する非水電解質の種類によっては、充電時の正極電位が高すぎると、非水電解質が酸化分解され電池性能の低下を引き起こす虞がある。従って、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li+)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量が得られるリチウム二次電池が求められる場合がある。(x,y,z)が上記の範囲にあり、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が上記の条件を満たすリチウム二次電池用活物質を用いると、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li+)以下となるような充電方法を採用しても、177mAh/g以上(ほとんどが180mAh/g以上)という従来の正極活物質の容量を超える放電電気量を取り出すことが可能である。
したがって、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質は、α−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体を含むリチウム二次電池用活物質であって、前記固溶体が含有するLi,Co,Ni及びMnの組成比が、Li1+(1/3)xCo1−x−yNi(1/2)yMn(2/3)x+(1/2)y(x+y≦1、0≦y、1−x−y=z)を満たし、Li[Li1/3Mn2/3]O2(x)−LiNi1/2Mn1/2O2(y)−LiCoO2(z)系三角相図において、(x,y,z)が、点A(0.45,0.55,0)、点B(0.63,0.37,0)、点C(0.7,0.25,0.05)、点D(0.67,0.18,0.15)、点E(0.75,0,0.25)、点F(0.55,0,0.45)、及び点G(0.45,0.2,0.35)を頂点とする七角形ABCDEFGの線上又は内部に存在する範囲の値で表され、かつ、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が、放電末においてI(003)/I(104)>1であり、4.3V(vs.Li/Li+)以下の電位領域において放電可能な電気量が177mAh/g以上となることを特徴とするリチウム二次電池用活物質である。
上記リチウム二次電池用活物質において、上記(x,y,z)が、点H(0.6,0.4,0)、点I(0.67,0.13,0.2)、点J(0.7,0,0.3)、及び点K(0.55,0.05,0.4)を頂点とする四角形HIJKの線上又は内部に存在する範囲の値で表されることが好ましい。
この範囲にある場合には、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li+)以下となるような充電方法を採用しても、198mAh/g以上(ほとんどが200mAh/g以上)という従来の正極活物質の容量を大きく超える放電電気量を取り出すことが可能である。
また、本発明の製造方法により、上記のようなリチウム二次電池用活物質を含むリチウム二次電池が得られる。
ここで、LiCoO2粉末とLiNi1/2Mn1/2O2粉末とLi[Li1/3Mn2/3]O2粉末との単なる混合物のみからなるものは、本発明の上記製造工程で作製される活物質が含有する前記「固溶体」には含まれない。これらの3つの材料の単品は、エックス線回折測定を行った場合に観察される各格子定数に対応するピーク位置がそれぞれ異なるため、これらの単なる混合物についてエックス線回折測定を行うと、それぞれの単品に対応する回折パターンが得られる。しかし、本発明の上記製造工程で作製されるα−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体は、少なくともLi[Li1/3Mn2/3]O2の一部がLiCoO2及び/又はLiNi1/2Mn1/2O2と固溶している。上記(x,y,z)が上記の範囲内であっても、Li[Li1/3Mn2/3]O2が全くLiCoO2及び/又はLiNi1/2Mn1/2O2と固溶していない場合は、放電容量の大きなリチウム電池とすることができるという本発明の効果が奏されない。
さらに、本発明の上記製造工程で作製されるリチウム二次電池用活物質は、x>1/3の領域にて存在する活物質であり、CuKα線を用いたエックス線回折図の2θ=20〜30°付近に、Li[Li1/3Mn2/3]O2型の単斜晶にみられる回折ピークが観察されるものであった。これは、Li+とMn4+が規則配列する場合に観察される超格子線と推定される。本発明において、特に放電容量が優れるものは、この21°付近に見られる単斜晶型回折ピークの強度が主相である六方晶の(003)面の回折ピーク強度に対して4〜7%程度であった。固溶体中におけるLi[Li1/3Mn2/3]O2比率が高くなるに比例して21°付近に見られる単斜晶型回折ピークの強度が大きくなる。ひいては主相である六方晶の(003)面の回折ピーク強度に対する21°付近に見られる単斜晶型回折ピークの強度が7%を超える活物質については逆に十分な放電容量が得られにくくなる。
ここに、本発明の方法でリチウム電池を製造する工程で作製されるリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体は、CuKα線を用いたエックス線回折測定を行ったときに、20〜30°付近に、Li[Li1/3Mn2/3]O2型の単斜晶にみられる回折ピークが観察されることを特徴としている。
また、本発明者らは、遷移金属元素を含む前駆体とリチウム化合物を混合して焼成工程を経てリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体を得る場合において、溶媒中でCo,Ni及びMnを含有する水酸化物を共沈させて前駆体を作製した場合に、特に、放電容量の大きなリチウム電池とすることができるリチウム二次電池用活物質を確実に合成できることを見出した。これは、前駆体として遷移金属水酸化物を共沈法によって得ることにより、遷移金属(Co,Ni,Mn)が前駆体中に均一に分布させることができたことと関連しているものと本発明者らは考えている。なお、このような前駆体の好ましい作製方法については、特許文献19の記載が参考になる。
ここに、本発明においては、溶液中でCo,Ni及びMnを含有する水酸化物を共沈させて前駆体を作製し、前記前駆体とリチウム化合物を混合、焼成する工程を経て前記リチウム遷移金属複合酸化物の固溶体を作製することが好ましい。
本発明において、リチウム二次電池用活物質を用い、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li+)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量を取り出すことのできるリチウム二次電池を製造するためには、次に述べる、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質に特徴的な挙動を考慮した充電工程を該リチウム二次電池の製造工程中に設けることが重要である。即ち、本発明において、リチウム二次電池用活物質を正極に用いて定電流充電を続けると、正極電位4.3V〜4.8Vの範囲に、電位変化が比較的平坦な領域が比較的長い期間に亘って観察される。図9に、実施例6(AT17)及び比較例4(AT11)のリチウム二次電池用活物質をそれぞれ用いた正極に対して、初めて充電を行ったときの正極電位挙動を比較して示す。図中「1st charge」と記載した曲線がこれにあたる。図9(a) (実施例6)にみるように、最初の充電時、充電電気量が100mAh/gを超えた付近から、4.45V付近の電位において電位変化が比較的平坦な領域が長い期間に亘って観察されている。これに対して、図9(b)(比較例4)においては、そのような平坦領域はほとんど観察されていない。ここで採用した充電条件は、電流0.1ItA、電圧(正極電位)4.5V(vs.Li/Li+)の定電流定電圧充電であるが、充電電圧をさらに高く設定しても、この比較的長い期間に亘る電位平坦領域は、xの値が1/3以下の材料を用いた場合にはほとんど観察されない。逆に、xの値が2/3を超える材料では、電位変化が比較的平坦な領域が観察される場合であっても短いものとなる。また、従来のLi[Co1−2xNixMnx]O2(0≦x≦1/2)系材料でもこの挙動は観察されない。この挙動は、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質に特徴的なものである。
ここに、本発明は、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li+)以下である充電方法が採用される前記リチウム二次電池を製造するための製造方法であって、4.3V(vs.Li/Li+)を超え4.8V以下(vs.Li/Li+)の正極電位範囲に充電電気量に対して出現する電位変化が比較的平坦な領域に少なくとも至る充電を行う工程を含むことを特徴とするリチウム二次電池の製造方法である。
ここで、電池完成前の初期充放電工程における充電は、少なくとも前記電位平坦領域に至るまで行うことが必要である。該電位平坦領域は比較的長く(例えば100mAh/g以上)続くので、この過程をできるだけ経由させるように充電を継続することが好ましい。ここで、電位上昇等により該電位平坦領域の終点が観察される場合にはこれをもって充電終止条件としてもよく、定電流定電圧充電を採用して電流値が設定値にまで減衰したことをもって充電終止条件としてもよい。
本発明によれば、放電容量の大きなリチウム二次電池、特に4.3V以下の電位領域における放電容量の大きなリチウム二次電池を提供することができる。
本発明の技術思想及び技術範囲を示す図である。
従来技術の技術思想を説明するための図である。
組成式Li1+(1/3)xCo1−x−yNi(1/2)yMn(2/3)x+(1/2)y(x+y≦1、0≦y)の活物質の結晶構造を示す図である。
LiNiO2を仮定した活物質のX線回折図(本発明の測定結果に近いシミュレーション結果が得られたもの)である。
(Li0.8Ni0.2)[Ni0.8Li0.2]O2を仮定した活物質のX線回折図(文献記載に近いシミュレーション結果が得られたもの)である。
LiNi0.20Co0.20Mn0.60O2及びLiNi0.20Co0.27Mn0.53O2からなる従来の活物質の充放電前と充電後及び放電後のX線回折図である。
実施例1(AT06)の活物質のX線回折図である。
実施例1〜4及び比較例41の活物質のXAFS測定結果を示す図である。
比較例3(AT09)の活物質のX線回折図である。
実施例6(AT17)及び比較例4(AT11)の活物質のリチウム二次電池製造工程中に行った初期充放電工程時の電位挙動を示す図である。
実施例6、比較例4及び比較例42の活物質を用いたリチウム二次電池の充放電挙動を示す図である。
実施例7(AT18)の活物質の充放電前(合成試料)、充電後及び放電後のX線回折図である。
実施例16(AT33)の活物質の充放電前(合成試料)、充電後及び放電後のX線回折図である。
実施例1〜44及び比較例1〜40の活物質について放電容量の値をプロットしたLi[Li1/3Mn2/3]O2(x)−LiNi1/2Mn1/2O2(y)−LiCoO2(z)系三角相図である。
上記のように、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質は、(1)Li[Li1/3Mn2/3]O2(x)−LiNi1/2Mn1/2O2(y)−LiCoO2(z)系三角相図において、(x,y,z)が、点A(0.45,0.55,0)、点B(0.63,0.37,0)、点C(0.7,0.25,0.05)、点D(0.67,0.18,0.15)、点E(0.75,0,0.25)、点F(0.55,0,0.45)、及び点G(0.45,0.2,0.35)を頂点とする七角形ABCDEFGの線上又は内部に存在する範囲の値で表され、かつ、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が、充放電前においてI(003)/I(104)≧1.56であり、放電末においてI(003)/I(104)>1であることを特徴とするものである。
図13及び後記の表1及び表2に示されるように、上記(x,y,z)が、上記範囲の値の場合には、4.3V以下の電位領域における放電容量が、177mAh/g以上となるが、上記範囲の値を外れると、176mAh/g以下の放電容量しか得られないから、放電容量を大きくすることのできる活物質を得るためには、上記(x,y,z)を特定の範囲とすることが必要である。
さらに、上記(x,y,z)が、七角形ABCDEFGの内部のうちでも、点H(0.6,0.4,0)、点I(0.67,0.13,0.2)、点J(0.7,0,0.3)、及び点K(0.55,0.05,0.4)を頂点とする四角形HIJKの線上又は内部に存在する範囲にある場合に、特に高い放電容量(198mAh/g以上)が得られることが分かった。
また、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)については、以下のようなことが推定される。
組成式Li1+(1/3)xCo1−x−yNi(1/2)yMn(2/3)x+(1/2)y(x+y≦1、0≦y)の活物質は、図3のような層状構造を有し、Me3+層が、Li+,Co3+,Ni2+,Mn4+から構成されていると考えられる。また、図3のような層状構造を有する活物質において、Li+層の一部にNi3+が、Ni3+層の一部にLi+が混入しているとI(104)の強度の方が大きくなると考えられる。そこで、代表的な層状酸化物LiNiO2(Me3+層が、Ni3+のみ)を取り上げ、Li+層の一部にNi3+が、Ni3+層の一部にLi+が混入したいわゆるdisorder相である(Li0.8Ni0.2)[Ni0.8Li0.2]O2となったと仮定して、理論計算によりX線回折パターンをシュミレーションした結果を図4に示す。
図4(a)に示されるように、LiNiO2は、強度比I(003)/I(104)=1.10であり、(003)回折ピークが十分に大きいが、図4(b)に示されるように、Li層に遷移金属(Co,Ni,Mn)が混入したdisorder相となることで両者の強度比は大きく変化し、I(003)/I(104)≦1となる。
従来の活物質においては、このようなdisorder相が生成することで、Li層からの円滑なLiイオンの移動が起こらず、可逆容量にも影響したと考えられる。
これに対して、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質は、I(003)/I(104)≧1.56であるから、disorder相の生成はごく少なく、優れた放電容量が得られたものと考えられる。
さらに、活物質作製後の充放電前における回折ピークの強度比I(003)/I(104)と、充放電後における上記強度比の変化については、以下のようなことが推定される。
充放電前における回折ピークの強度比がI(003)/I(104)≧1.56であったとしても、充放電中にLi層に対する遷移金属の混入があると、(003)面の回折ピークがブロードになると共に、強度比I(003)/I(104)が顕著に小さくなり、従来の活物質においては、非特許文献6に記載された図を転記した図5に示されるように、(004)面の回折ピークとその強度が逆転する場合もある。
これに対して、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質は、表1、図11及び図12に示されるように、充放電前においてI(003)/I(104)≧1.56であると共に、放電末においてI(003)/I(104)>1(実施例においては、I(003)/I(104)>1.3)であり、(003)面の回折ピークが(004)面の回折ピークとその強度が逆転することはないから、充放電中におけるLi層に対する遷移金属の混入はないことが示唆され、これにより安定した大きな可逆容量が得られるものと考えられる。放電末に、充放電前よりも強度比I(003)/I(104)が大きくなっても良い。放電末に、充放電前よりも強度比I(003)/I(104)が小さくなる場合には、その強度比の変化は、少ないことが好ましく、充放電前の30%以内であることがより好ましく、実施例においては26%以内である。
次に、本発明のリチウム二次電池の製造工程でリチウム二次電池用活物質を製造する方法について説明する。
本発明において、リチウム二次電池用活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を目的とする活物質(酸化物)の組成通りに含有する原料を調整し、これを焼成することによって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
目的とする組成の酸化物を作製するにあたり、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶しようという試みが多数なされているが(LiNi1−xMnxO2など)、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例においては、「共沈法」を採用した。
共沈前駆体を作製するにあたって、共沈前駆体を得ようとする溶液中を不活性雰囲気とすることが極めて重要である。これは、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈水酸化物を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本発明の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、溶液中を不活性雰囲気とすることはなおさら重要である。後述する実施例では、水溶液中に不活性ガスをバブリングして溶存酸素を除去し、さらに還元剤を同時に滴下した。
前記焼成に供する前駆体の調整方法については限定されるものではない。Li化合物、Mn化合物、Ni化合物及びCo化合物を単に混合してもよく、溶液中で遷移金属元素を含む水酸化物を共沈させ、これとLi化合物とを混合してもよい。均一な複合酸化物を作製するためには、MnとNiとCoとの共沈水酸化物とLi化合物とを混合し、焼成する方法が好ましい。
前記共沈水酸化物前駆体の作製は、MnとNiとCoとが均一に混合された化合物であることが好ましい。ただし前駆体は水酸化物に限定されるものではなく、他にも炭酸塩、クエン酸塩などの元素が原子レベルで均一に存在した難溶性塩であれば水酸化物と同様に使用することができる。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度かつ比表面積の小さな活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
前記共沈水酸化物前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
前記共沈水酸化物前駆体の作製に用いる原料としては、アルカリ水溶液と沈殿反応を形成するものであればどのような形態のものでも使用することができるが、好ましくは溶解度の高い金属塩を用いるとよい。
本発明において、リチウム二次電池用活物質は前記共沈水酸化物前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。
可逆容量の大きな活物質を得るにあたって、焼成温度の選択は極めて重要である。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O2型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向があり、このような材料は、活物質の可逆容量が大きく減少するので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが重要である。活物質の酸素放出温度は、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質の組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とLiOH・H2Oを混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性も大きく低下するので好ましくない。焼成温度は少なくとも800℃以上とすることが必要である。十分に結晶化させることは結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すために重要である。結晶化の度合いの見極め方として走査型電子顕微鏡を用いた視覚的な観察が挙げられる。本発明の正極活物質について走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、試料合成温度が800℃以下ではナノオーダーの一次粒子から形成されているものであったが、さらに試料合成温度を上昇させることでサブミクロン程度まで結晶化するものであり、電極特性向上につながる大きな一次粒子を得られるものであった。
一方、もう一つ結晶化の度合いを示すものとして先に述べたエックス線回折ピークの半値幅がある。しかし、主相の回折ピークの半値幅が小さくなる合成温度を選択するだけでは、可逆容量が大きな活物質を得るには必ずしも十分ではない。というのも、回折ピークの半値幅は結晶格子の不整合の度合いを表すひずみの量と、最小のドメインである結晶子のサイズという二つの因子によって支配されるものであり、半値幅から結晶性の度合いを見極めるにはこれらを分離して捉える必要がある。発明者らは、本発明の方法でリチウム二次電池を製造する工程で作製される活物質の半値幅を詳細に解析することで800℃までの温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、それ以上の温度で合成することでほとんどひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明の上記製造工程で作製される活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が1%以下、かつ結晶子サイズが150nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは130nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。即ち、焼成温度を上記した活物質の酸素放出温度にできるだけ近付けるように選択することにより、はじめて、可逆容量が顕著に大きい活物質を得ることができる。
上記のように、好ましい焼成温度は、活物質の酸素放出温度により異なるから、一概に焼成温度の好ましい範囲を設定することは難しいが、好ましくは900から1100℃、より好ましくは950から1050℃であれば高い特性を発揮することができる。
本発明のリチウム二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiAsF6,LiPF6,LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li2B10Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiN(CF3SO2)(C4F9SO2),LiC(CF3SO2)3,LiC(C2F5SO2)3,(CH3)4NBF4,(CH3)4NBr,(C2H5)4NClO4,(C2H5)4NI,(C3H7)4NBr,(n−C4H9)4NClO4,(n−C4H9)4NI,(C2H5)4N−maleate,(C2H5)4N−benzoate,(C2H5)4N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
さらに、LiBF4とLiN(C2F5SO2)2のようなパーフルオロアルキル基を有す
るリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを析出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]O4に代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
リチウム二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
表1に、実施例及び比較例に係るリチウム二次電池に用いた正極活物質の組成を示す。ここで、実施例1〜44の組成は、組成式Li1+(1/3)xCo1−x−yNi(1/2)yMn(2/3)x+(1/2)y(x+y≦1、0≦y、z=1−x−y)を満たし、且つ、(x,y,z)が、段落[0067]の(1)に記載の範囲を満たすものであり、比較例1〜40は、前記組成式を満たすが、(x,y,z)の値が前記(1)の範囲から外れるものであり、比較例41〜43は、前記組成式すら満たさないものである。すなわち、図1において、実施例1〜44の組成は、七角形ABCDEFGの線上又は内部に存在するものであり、比較例1〜40の組成は、七角形ABCDEFGの外部に存在するものである。
(実施例1)
硫酸マンガン5水和物と硫酸ニッケル6水和物と硫酸コバルト7水和物をCo、Ni及びMnの各元素が0.25:0.17:0.45の比率となるようイオン交換水に溶解させ混合水溶液を作製した。その際に、その合計濃度を0.667M、体積を180mlとなるようにした。次に、1リットルのビーカーに600mlのイオン交換水を準備し、湯浴を用いて50℃に保ち、8NのNaOHを滴下することでpHを11.5に調整した。その状態でArガスを30minバブリングさせ、溶液内の溶存酸素を十分取り除いた。ビーカー内を700rpmで攪拌させ、先程の硫酸塩の混合水溶液を3ml/minのスピードで滴下した。その間温度を湯浴にて一定に保ち、pHは8N NaOHを断続的に滴下することで一定に保った。同時に還元剤として2.0Mヒドラジン水溶液50mlを0.83ml/minのスピードで滴下した。両方の滴下終了後、攪拌を止めた状態で12h以上静止することで共沈水酸化物を十分粒子成長させた。
ここで、上記の手順において、各溶液の滴下スピードが早すぎると、元素レベルで均一な前駆体が得られなくなる。例えば滴下スピードを上記の10倍とした場合は、前駆体中の元素分布が明らかに不均一となっていることがEPMA測定の結果から明らかとなった。また、このような不均一な前駆体を用いて活物質を合成した際に、焼成後の元素の分布も不均一なものとなり、十分な電極特性を発揮できないものであることを確認した。ちなみに、固相法によってLiOH・H2O、Co(OH)2、Ni(OH)2、MnOOHを原料粉体として用いた場合は、より一層不均一となることが同じくEPMA測定の結果からわかった。
次に、吸引ろ過により共沈生成物を取り出し、空気雰囲気中、常圧下、オーブンで100℃にて乾燥させた。乾燥後、粒径を揃えるように、直径約120mmφの乳鉢で数分間粉砕し、乾燥粉末を得た。
この乾燥粉末は、エックス線回折測定により、β−Ni(OH)2型の単相が確認された。また、EPMA測定により、Co,Ni,Mnは均一に分布していることが確認された。
水酸化リチウム一水塩粉末(LiOH・H2O)を、遷移金属(Ni+Mn+Co)に対するLi量が表1の実施例1の組成式を満たすように秤量し、混合して混合粉体を得た。
次に、混合粉体を6MPaの圧力でペレット成型した。ペレット成型に供した前駆体粉末の量は、合成後の生成物としての質量が3gとなるように換算して決定した。その結果、成型後のペレットは、直径25mmφ、厚さ約10−12mmであった。前記ペレットを全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉に入れ空気雰囲気中、常圧下1000℃で12h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、乳鉢を用いて粒径を揃える程度に粉砕した。
得られた活物質の結晶構造は、Cu(Kα)管球を用いた粉末エックス線回折測定の結果、α−NaFeO2型の六方晶構造が主相として確認されると共に、一部Li[Li1/3Mn2/3]O2型の単斜晶にみられる20〜30°付近の回折ピークが観察された。図6に、実施例1の活物質(AT06)に対するエックス線回折図を示す。充放電前における活物質の(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は1.69であった。また、最大強度を示す18°付近のピークのカウント数を100とした場合、Li[Li1/3Mn2/3]O2型の単斜晶にみられる21°の回折ピークのカウント数は7であった。
さらに、遷移金属元素の価数評価としてXAFS測定をおこなった。XANES領域のスペクトルを解析したところ、Co3+,Ni2+,Mn4+の電子状態をとることを確認した。XANES測定結果を図7に示す。
(実施例2〜44)
共沈水酸化物前駆体が含有する遷移金属元素の組成及び水酸化リチウムの混合量について、表1に実施例2〜44に示す組成式に沿って変更した他は、実施例1と同様にして、本発明に係る活物質を合成した。
エックス線回折測定の結果、実施例1と同様に、α−NaFeO2型の六方晶構造が主相として確認されると共に、一部Li[Li1/3Mn2/3]O2型の単斜晶にみられる20〜30°付近の回折ピークが観察された。また、表1に示されるように、充放電前における活物質の(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、いずれも1.56以上であった。
(比較例1〜40)
共沈水酸化物前駆体が含有する遷移金属元素の組成及び水酸化リチウムの混合量について、表1に比較例1〜40に示す組成式に沿って変更した他は、実施例1と同様にして、比較例に係る活物質を合成した。
図8に、代表して比較例3(AT09)の活物質に対するエックス線回折図を示す。xの値が2/3以上である比較例12〜18、33〜40については、実施例1と同様に、α−NaFeO2型の六方晶構造が主相として確認されると共に、一部Li[Li1/3Mn2/3]O2型の単斜晶にみられる20〜30°付近の回折ピークが観察された。しかしながら、xの値が1/3以下である比較例1〜11、19〜32については、α−NaFeO2型の六方晶構造が確認されたが、エックス線回折図上において最大強度のピーク高さをフルスケールとした限りでは、Li[Li1/3Mn2/3]O2型の単斜晶にみられる回折ピークは明確には観察されなかった。また、表1に示されるように、充放電前における活物質の(003)面と(104)面の回折ピークの強度比I(003)/I(104)は、1.43以上であったが、1.56以下のものが若干あった。
(比較例41及び42)
共沈水酸化物前駆体が含有する遷移金属元素の組成及び水酸化リチウムの混合量について、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2に示す組成式に沿って変更した他は、実施例1と同様にして、比較例41及び42に係る活物質を合成した。
ここで、比較例41と比較例42は、後述する試験条件における充電電圧の設定値が異なる(比較例41:4.6V、比較例42:4.3V)だけであり、活物質としては同一である。
(比較例43)
共沈水酸化物前駆体粉末に代えて、LiOH・H2O、Co(OH)2、Ni(OH)2及びMnOOHのそれぞれの粉体を元素比がLi:Co:Ni:Co=1:0.33:0.33:0.33となるように混合して得た粉体を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、比較例43に係る活物質を合成した。得られたエックス線回折図は、比較例1,42と区別が付かないものであった。しかしながら、EPMA観察の結果、Co,Ni,Mnは均一に分布しているものではなかった。
(リチウム二次電池の作製及び評価)
実施例1〜44及び比較例1〜43のそれぞれの活物質をリチウム二次電池用正極活物質として用いて以下の手順でリチウム二次電池を作製し、電池特性を評価した。
活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比85:8:7の割合で混合し、分散媒としてN−メチルピロリドンを加えて混練分散し、塗布液を調製した。なお、PVdFは固形分が溶解分散された液を用い、固形重量換算した。該塗布液を厚さ20μmのアルミニウム箔集電体に塗布し、正極板を作製した。なお、全ての電池において同様の試験条件となるよう電極重量、厚みは統一した。
対極には、正極の単独挙動を観察する目的のため、リチウム金属を負極とした。リチウム金属はニッケル箔集電体に密着させた。ただし、リチウム二次電池の容量が十分正極規制となるよう調製した。
電解液にはLiPF6をEC/EMC/DMCが体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/lとなるよう溶解させたものを用いた。セパレータにはポリアクリレートで表面改質して電解質の保持性を向上させたポリプロピレン製の微孔膜を用いた。また、ニッケル板にリチウム金属箔をはりつけたものを参照極として用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、正極端子、負極端子および参照極端子の開放端部が外部露出するように電極を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止した。
上記のようにして作製されたリチウム二次電池は、20℃の下、5サイクルの初期充放電工程に供した。電圧制御は全て正極電位に対して行った。充電は、電流0.1ItA、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした。放電は、電流0.1ItA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて充電後及び放電後に30分の休止時間を設定した。この初期充放電工程における最初の2サイクルの挙動を図9に示す。図9(a)及び図9(b)は実施例6(AT17)及び比較例4(AT11)にそれぞれ対応する。
続いて、充放電サイクル試験を行った。電圧制御は全て正極電位に対して行った。充放電サイクル試験の条件は、充電電圧を4.3V(vs.Li/Li+)(比較例41のみ4.6V)としたことを除いては前記初期充放電工程の条件と同一である。全てのサイクルにおいて充電後及び放電後に30分の休止時間を設定した。この充放電サイクル試験における5サイクル目の放電電気量を「放電容量(mAh/g)」として記録した。この充放電サイクル試験における5サイクル目の充放電曲線を代表して図10に示す。
また、この充放電サイクル試験における10サイクル目の放電電気量の、前記「放電容量(mAh/g)」に対する百分率を求め、「容量維持率(%)」とした。
実施例1〜44、及び、比較例1〜40の活物質について、充放電前と同様に、充放電後に、Cu(Kα)管球を用いた粉末エックス線回折測定を行った。充電は、電流0.1ItA、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、電流値が1/6に減衰した時点を充電末とした。その後、4.3V(vs.Li/Li+)まで充電して、電流0.1ItAの定電流放電を行い、終止電圧が2.0Vとなった時点を放電末とした。実施例7(AT18)の活物質、実施例16(AT33)の活物質の充放電前(合成試料)、充電末及び放電末のX線回折図を、それぞれ、図11、図12に示す。
実施例1〜44、及び、比較例1〜40の活物質について、電池試験を行った結果(容量維持率は除く)を表1及び表2に示す。また、放電容量の値を、Li[Li1/3Mn2/3]O2(x)−LiNi1/2Mn1/2O2(y)−LiCoO2(z)系三角相図にプロットして図13に示す。
表1、表2及び図13の結果からわかるように、(x,y,z)が、点A(0.45,0.55,0:AT66の組成に対応)、点B(0.63,0.37,0:AT58の組成に対応)、点C(0.7,0.25,0.05:AT81の組成に対応)、点D(0.67,0.18,0.15:AT30の組成に対応)、点E(0.75,0,0.25:AT73の組成に対応)、点F(0.55,0,0.45:AT78の組成に対応)、及び点G(0.45,0.2,0.35:AT14の組成に対応)を頂点とする七角形ABCDEFGの線上又は内部に存在する範囲の値を満たす実施例1〜44の活物質を用いることによって、4.3V以下の電位領域における放電容量が177mAh/g以上と大きいリチウム二次電池とすることができた。上記の範囲外である比較例1〜40の活物質を用いたものは、176mAh/g以下であった。とりわけ、より特定された範囲である(x,y,z)が、点H(0.6,0.4,0:AT19の組成に対応)、点I(0.67,0.13,0.2:AT28の組成に対応)、点J(0.7,0,0.3:AT33の組成に対応)、及び点K(0.55,0.05,0.4:AT71の組成に対応)を頂点とする四角形HIJKの線上又は内部に存在する範囲の値を満たす活物質を用いた場合(実施例5〜8、実施例11、12、16、25〜30、36)には、4.3V以下の電位領域における放電容量が198mAh/g以上と大きいリチウム二次電池とすることができた。
また、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2については、比較例41のように充電電位を4.6Vとした場合には、放電容量が181mAh/gであったが、比較例42のように充電電位を4.3Vとした場合には、放電容量が149mAh/gとなるものであるから、本発明の活物質の放電容量の値は、Li[Co1−2xNixMnx]O2(0≦x≦1/2)系や高容量系の代表とされていたLiNiO2系を上回るものである。
そして、実施例1〜44の活物質は、表1に示されるように、充放電前における回折ピークの強度比がI(003)/I(104)≧1.56であり、放電末においてI(003)/I(104)>1を上回るI(003)/I(104)>1.3であり、しかも、放電末における上記強度比の変化は、充放電前の26%以内に収まっているから、充放電中におけるLi層に対する遷移金属の混入はないことが示唆され、この点で、従来のLi[Li1/3Mn2/3]O2(x)−LiNi1/2Mn1/2O2(y)−LiCoO2(z)系活物質と明確に区別されるものである。
また、容量維持率について、実施例1〜44の活物質を用いたリチウム二次電池は、ほぼ100%であったが、比較例41、42、43の活物質を用いたリチウム二次電池は、それぞれ、89%、98%、80%であったから、本発明に係るリチウム二次電池は、充放電サイクル性能の点でも極めて優れるものである。