JP2012021048A - 精製セルロース繊維の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】式(A1)又は(A2)で表されるアニオン部を有するイオン液体を含む液へセルロース原料を溶解、紡糸する精製セルロース繊維の製造方法[R11、R12、R13は、それぞれ独立にアルキル基であり、R14は水素原子又はアルキル基である]。
【選択図】なし
Description
従来、セルロース繊維としては、ビスコース法により製造されるレーヨン等の再生セルロース繊維が主流であった。しかしながら、ビスコース法では、製造工程において有害な二硫化炭素が発生するという問題があった。
上記問題を解決するため、近年、N−メチルモルフォリン−N−オキシド(NMMO)を溶媒として用いた精製セルロース繊維の製造方法が開発され、実用に供されている。該製造方法を用いた場合、有害物質の発生が無く、環境負荷が低いという利点がある。一方で、該製造方法で製造された精製セルロース繊維は、前記ビスコース法により製造されるレーヨン等の再生セルロース繊維に比べて、強度や耐疲労性が劣るという問題がある。
例えば、特許文献1には、セルロースを、含窒素塩基を含まない溶融イオン液体と混合して、混合物を形成する工程を有する、セルロースを溶解する方法が記載されており、該溶融イオン液体のカチオン部としては、イミダゾリウムカチオン等の含窒素芳香族カチオンや、環状アルカンの環を形成する1つ以上の炭素原子が窒素原子に置換され、該窒素原子にアルキル基又はアルコキシアルキル基が結合したカチオン部が開示され、アニオン部としては、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲンイオンが開示されている。
また、特許文献1に記載されたカチオン以外のカチオンを有するイオン液体では、セルロース溶解性が不十分となり、満足のいく紡糸ができないという問題がある。
(1)アニオン部として下記一般式(A1)又は(A2)で表されるアニオン部を有するイオン液体を含む液に、セルロース原料を溶解してなるセルロース溶解液を用いて、精製セルロース繊維を紡糸することを特徴とする精製セルロース繊維の製造方法。
(3)前記イオン液体を含む液が、さらに、前記イオン液体に該当しない有機溶媒を含む(1)又は(2)の精製セルロース繊維の製造方法。
(4)前記有機溶媒が、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、ニトリル系溶媒、環状エーテル系溶媒、及び芳香族アミン系溶媒からなる群から選ばれる1種以上である(3)の精製セルロース繊維の製造方法。
(5)10℃/分の速度で昇温させながら、前記イオン液体を加熱し、該加熱温度が250℃に達した時の前記イオン液体の質量減少率が20質量%以下であるイオン液体を用いた(1)〜(4)のいずれかの精製セルロース繊維の製造方法。
また、本発明により得られる精製セルロース繊維は、レーヨン等の再生セルロース繊維と同等かそれ以上の強度を有するため、利用価値が高い。
さらに、本発明に用いられるイオン液体は熱安定性が高いため、本発明の製造方法を行う際の工程温度の自由度が高く、イオン液体の回収や再利用も容易である。
植物由来のセルロース原料としては、木材、綿、麻、その他の草本類等の未加工の天然植物由来のセルロース原料や、パルプ、木材粉、紙製品等の予め加工処理を施された植物由来の加工セルロース原料が挙げられる。
動物由来のセルロース原料としては、ホヤ由来のセルロース原料が挙げられる。
微生物由来のセルロース原料としては、Aerobacter属、Acetobacter属、Achromobacter属、Agrobacterium属、Alacaligenes属、Azotobacter属、Pseudomonas属、Rhizobium属、Sarcina属等に属する微生物の産生するセルロース原料が挙げられる。
再生セルロース原料としては、上記のような植物、動物、又は微生物由来のセルロース原料を、ビスコース法等の公知の方法により再生したセルロース原料が挙げられる。
なかでも、本発明におけるセルロース原料としては、イオン液体に特に良好に溶解するパルプが好ましい。
R11、R12のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。R11、R12のアルキル基の炭素数は、1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1〜4であることがさらに好ましく、工業上の理由から炭素数1又は2のアルキル基であることが特に好ましい。
また、R11、R12は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
式(A2)中、R14は水素原子又はアルキル基であり、アルキル基としては、上記式(A1)中のR11、R12と同様のアルキル基が挙げられる。R14がアルキル基である場合、R13のアルキル基と、R14のアルキル基とは、同じであっても異なっていてもよい。
式(A1)、(A2)で表されるカチオン部の好ましい具体例を、下記式(A3)〜(A5)として示す。
イオン液体のカチオン部としては、特に限定されるものではなく、一般的にイオン液体のカチオン部に用いられるものを使用することができる。
なかでも、本発明のイオン液体のカチオン部の好ましいものとしては、フォスフォニウムカチオン、含窒素芳香族カチオンが挙げられる。
炭素数1〜30の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。
脂肪族炭化水素基は、飽和炭化水素基(アルキル基)であることが好ましく、該アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。
直鎖状のアルキル基としては、炭素数が1〜20であることが好ましく、炭素数が1〜16であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
分岐鎖状のアルキル基としては、炭素数が3〜30であり、炭素数が3〜20であることが好ましく、炭素数が3〜16であることがより好ましい。具体的には、1−メチルエチル基、1,1−ジメチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基などが挙げられる。
環状のアルキル基としては、炭素数が3〜30であり、炭素数が3〜20であることが好ましく、炭素数が3〜16であることがより好ましく、単環式基であっても、多環式基であってもよい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の単環式基、ノルボルニル基、アダマンチル基、イソボルニル基等の多環式基が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、炭素数が6〜30であることが好ましく、具体的には、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基、トリル基等のアリール基や、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。
ここで、一般式「R4P+」中の複数のRは、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
炭素数1〜16のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。ここで、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基としては、上記同様のものが挙げられる。
また、R1〜R4は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよいが、入手の容易さから、R1〜R4の3つ以上が同じであることが好ましい。
式(C1)で表されるカチオン部の好ましい具体例を、下記式(C2)として示す。
なかでも、本発明の含窒素芳香族カチオンとしては、イミダゾリウムカチオンが好ましく、下記一般式(C3)で挙げられるイミダゾリウムカチオンがより好ましい。
炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。ここで、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基としては、上記R1〜R4のアルキル基と同様のものが挙げられる。
また、R5〜R6は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。ここで、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基としては、上記R5〜R6のアルキル基と同様のものが挙げられる。
また、R7〜R9は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
イオン液体を加熱した際の質量減少率が低い程、該イオン液体の熱安定性が高いことを意味する。熱安定性の高いイオン液体を用いることにより、イオン液体の回収や再利用が容易となり、且つ、精製セルロース繊維製造工程における温度の自由度も高くなる。
ここで、質量減少率は、熱重量分析装置(TGA)等を用いて、常法により測定することができる。具体的には例えば、窒素(N2)雰囲気下にて、10℃/分の昇温スピードで、イオン液体の昇温を行い、昇温開始時(室温時)のイオン液体の質量(g)と、加熱温度が250℃の時点におけるイオン液体の質量(g)とから、下記式により、質量減少率(%)を算出することができる。
質量減少率(%)=(昇温開始時のイオン液体の質量(g)−250℃におけるイオン液体の質量(g))×100/昇温開始時のイオン液体の質量(g)
また、300℃に達したときのイオン液体の質量減少率も同様にして算出することができる。
上記液は、イオン液体以外の液体成分を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。イオン液体以外の液体成分として具体的には、有機溶媒が挙げられる。
なかでも、有機溶媒としては、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、ニトリル系溶媒、環状エーテル系溶媒、及び芳香族アミン系溶媒からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンスルホキシド等が挙げられる。
ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
環状エーテル系溶媒としては、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン等が挙げられる。
芳香族アミン系溶媒としては、ピリジン等が挙げられる。
また、有機溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、セルロース原料1質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましく、1〜25質量部であることが好ましく、3〜20質量部であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、適度な粘度のセルロース溶解液とすることができる。
上記のような有機溶媒を、イオン液体と併せて用いることにより、セルロース原料の溶解性がより向上するため好ましい。
ここで、イオン液体を含む液の粘度は、常法により測定することができる。具体的には、JIS Z8803に準拠し、市販の粘度計、粘弾性測定装置等を用いて測定することができる。
イオン液体を含む液と、セルロース原料とを接触させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、イオン液体を含む液にセルロース原料を添加してもよいし、セルロース原料にイオン液体を含む液を添加してもよい。
溶解の際に加熱を行う場合、加熱温度は、30〜200℃であることが好ましく、70〜120℃であることがより好ましい。加熱を行うことにより、セルロース原料の溶解性がさらに向上するため好ましい。
攪拌の方法は、特に限定されるものではなく、攪拌子、攪拌羽根、攪拌棒等を用いてイオン液体を含む液とセルロース原料とを機械的に攪拌してもよく、イオン液体を含む液とセルロース原料とを密閉容器に封入し、容器を振とうすることにより攪拌してもよい。攪拌の時間は、特に限定されるものではなく、セルロース原料が好適に溶解されるまで行うことが好ましい。
なかでも、有機溶媒とイオン液体とを予め混合して混合液を製造しておくことが好ましい。この際、有機溶媒とイオン液体とが均一に混合されるよう、70〜120℃において5〜30分程度加熱しながら攪拌し、イオン液体を含む液が均一になるまで混合しておくことが好ましい。
本発明の精製セルロース繊維の製造方法により製造される精製セルロース繊維は、従来の再生セルロース繊維と同等の強度を有するため、好ましい。
イオン性液体の熱安定性について検討した。
本発明に係るイオン液体として、メチルトリブチルフォスフォニウムジメチルフォスフェート、1,3−ジメチルイミダゾリウムジメチルフォスフェート、及び1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルフォスフェートと、比較のためのイオン液体として、酢酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムとを用いて、熱安定性の検討を行った。
具体的には、これらイオン液体について、熱重量測定装置(Q600、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、窒素雰囲気下で、10℃/分で室温から昇温を行い、温度変化、質量変化、及び熱流量を測定した。メチルトリブチルフォスフォニウムジメチルフォスフェートの結果を図1に、1,3−ジメチルイミダゾリウムジメチルフォスフェートの結果を図2に、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルフォスフェートの結果を図3に、酢酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの結果を図4に示す。
イオン液体を含む液の種類による、セルロース溶解性の違いを検討した。
まず、セルロース原料として、パルプを110℃のオーブンで8時間加熱した後、デシケーター内に12時間静置し、乾燥パルプを得た。得られた乾燥パルプを、ミキサー(BM−HE08、象印マホービン社製)により10分間摩砕し、粒径20mm以下の摩砕パルプを得た後、篩振とう機(VSS−50、筒井理化学器械社製)により、10分間分級を行い、粒径が10mm以上のもののみからなるパルプを得た。
次に、表1に示すイオン液体4.5gに、表1に示す有機溶媒1.5gを添加し、80℃で30分間、振とう機を用いて攪拌し、イオン液体を含む液を調整した。
上記にて得られたパルプ0.25gに、調製されたイオン液体を含む液を4.75g添加し、恒温振とう水槽(NTS−210、東京理化器械社製)を用いて、80℃で4時間振とう攪拌を行い、セルロース溶解液を得た。
得られたセルロース溶解液におけるセルロース溶解性を、下記基準に従って5名のパネラーが目視により評価して点数化し、その平均値を溶解性の結果とした。結果を表1に併記する。
4:セルロース原料の一部が溶解せず、セルロース原料の塊がごく僅かに見られた。
3:セルロース原料の半量程度が溶解せず、セルロース原料の塊が多少見られた。
2:セルロース原料の大部分が溶解せず、かなりの量のセルロース原料が、イオン液体を含む液中に沈殿した。
1:セルロース原料は全く溶解せず、セルロース原料の全量が、イオン液体を含む液中に沈殿した。
また、メチルトリブチルフォスフォニウムジメチルフォスフェートをイオン性液体として用い、有機溶媒を用いない場合(試料5)や、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルフォスフェートをイオン性液体として用い、有機溶媒を用いない場合(試料15)、セルロース溶解性がそれぞれ試料1〜4、試料10〜14に比べて劣ることが確認できた。
このように、本発明に係るイオン液体を含む液は、熱安定性が高く、再生して利用することが容易であり、セルロースの溶解性が高いことが確認できた。
上記実験例2で得られた試料4のセルロース溶解液(80℃における粘度110Pa・s)3mLを80℃まで加熱した後、注射針(22G、1 1/4)を備えたプラスチック製注射器(容量5mL、テルモ社製)内に移し、注射針を通して水浴中に押し出した。押し出された糸状の物質をピンセットを用いて引くことにより、紡糸を行い、精製セルロース繊維を得た。
得られた精製セルロース繊維をデジタルカメラを用いて観察した写真図を図5に示す。図5の写真図より、精製セルロース繊維が得られたことが確認できた。
Claims (5)
- アニオン部として下記一般式(A1)又は(A2)で表されるアニオン部を有するイオン液体を含む液に、セルロース原料を溶解してなるセルロース溶解液を用いて、精製セルロース繊維を紡糸することを特徴とする精製セルロース繊維の製造方法。
- 前記イオン液体が、カチオン部としてフォスフォニウムカチオンを有する請求項1に記載の精製セルロース繊維の製造方法。
- 前記イオン液体を含む液が、さらに、前記イオン液体に該当しない有機溶媒を含む請求項1又は2に記載の精製セルロース繊維の製造方法。
- 前記有機溶媒が、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、ニトリル系溶媒、環状エーテル系溶媒、及び芳香族アミン系溶媒からなる群から選ばれる1種以上である請求項3に記載の精製セルロース繊維の製造方法。
- 10℃/分の速度で昇温させながら、前記イオン液体を加熱し、該加熱温度が250℃に達した時の前記イオン液体の質量減少率が20質量%以下であるイオン液体を用いた請求項1〜4のいずれか一項に記載の精製セルロース繊維の製造方法。
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