JP2012000552A - タンパク質吸着材の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の主な目的は、十分に大きな吸着容量を有するタンパク質吸着材の製造を可能にする方法を提供することにある。また、本発明の目的は、タンパク質の吸着及び脱着後のタンパク質吸着材の吸着容量を十分に大きく回復させる方法を提供することにある。
【解決手段】高分子基材と、該高分子基材の表面を被覆し、タンパク質吸着能を有する官能基を含有する高分子鎖と、を含む処理前吸着材を、液体又はその蒸気により湿潤化された状態で加熱して吸着材を得る工程を備える、タンパク質吸着材の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、タンパク質吸着材及びその製造方法に関する。また、本発明はタンパク質吸着材を用いたカラムまたはモジュールに関する。
近年、バイオテクノロジー産業において、タンパク質の実利的な大量精製が重要な課題となっている。すなわち、タンパク質を効率的に大量産生及び大量精製することができる技術の確立が望まれている。そのための手段のひとつとして、タンパク質吸着膜あるいはビーズといった、タンパク質吸着材の開発が検討されている。
一般的に、タンパク質は、動物由来の細胞株を使用した細胞培養によって産生されるので、目的とするタンパク質(以下、単に「目的タンパク質」と記載する場合がある。)を分離、精製する必要がある。特に抗体を利用した医薬品(抗体医薬品)を実用化するためには、細胞デブリなどの濁質成分、及び細胞由来の溶存するタンパク質などの非濁質成分を細胞培養液から除去し、人間の治療用途にとって十分な純度にまで精製する必要がある。その精製工程においてタンパク質吸着材が用いられる。
特に最近は、抗体医薬の需要が急速に増加しており、抗体医薬品となるタンパク質の大量生産が指向されている。そして、培養技術の急速な進歩に伴い、精製工程の能力向上も望まれている。すなわち、タンパク吸着材の更なる性能向上が求められている状況にある。
タンパク質の大量精製のためのタンパク質吸着材に関する技術は、例えば、特許文献1〜5が開示されている。
特許文献1では、細孔表面にグラフト鎖を有し、このグラフト鎖にアニオン交換基が固定される多孔膜を用いてろ過する工程を含むタンパク質の精製方法が示されている。
特許文献2では、多孔質基材が第1アミン基の結合した架橋重合体を有する吸着材料で覆われた多孔質吸着媒体が示されている。
特許文献3では、複数の孔が延在している支持体構成部材および、該支持体構成部材の孔中に配置されかつ該支持体構成部材の孔を満たしているマクロ多孔質架橋ゲルを含んでなる複合材が示され、吸着による物質の分離としての使用に適しているとある。
特許文献4では、陽イオン官能基を有する架橋被膜と、多孔質基材からなる正に帯電した多孔質膜が提供され、タンパク質、核酸、エンドトキシンのような生体分子のろ過、精製に使用可能であることが示されている。
特許文献5では、高分子基材粒子の表面に、タンパク質吸着能を有する官能基が高分子鎖を介して固定された、タンパク質等の高速吸着精製が可能な吸着体およびその製造方法が示されている。
タンパク質と相互作用しうる官能基として一般的に知られる、アミノ基やスルホン酸基を導入した被膜によって、基材の表面改質を行った例が特許文献6で示されている。特許文献6では、高分子多孔質基材膜表面に、N−ハロゲン化された化合物(重合体あるいは重合体前駆体)の被膜を形成させ、グラフト開始剤とモノマーとを接触させて、基材上でグラフト重合する方法が示されている。さらに、前記モノマーとしてグリシジルメタクリレート(GMA)を用いてグラフト重合させ、その後、GMAのエポキシ基に二級/三級アミンによる、三級アミノ基/四級アンモニウム基の導入、あるいはスルホン酸イオンでの処理によるエポキシ基のスルホン化によって得られる膜が記載されている。
国際公開第2009/054226号 特開2009−53191号公報 特表2006−519273号公報 米国特許第6780327号明細書 特開2008−45906号公報 米国特許第5547575号明細書
Kyoichi Saito,CHARGED POLYPER BRUSH GRAFTED ONTO POROUS HOLLOW−FIBER MEMBRANE IMPROVES SEPARATION AND REACTION IN BIOTECNOLOGY,Separation Science and Technology,ENGLAND,Taylar & Francis,2002,37(3),535−554
一般的に、タンパク質吸着材は、タンパク質吸着の後、吸着したタンパク質を溶出させることにより再生可能であることが期待される。特許文献1にあるように、吸着したタンパク質を溶出する際には、塩溶液を用いるのが一般的である。
しかしながら、このような処理によって再生を繰返してタンパク質の吸着を行うと、徐々に吸着容量(単位吸着材体積あたりに吸着するタンパク質量)が減少していく傾向がある。抗体医薬の効率的な大量生産をするために、目的タンパク質の大量産生及び精製が望まれる現在、このような吸着容量の低下は、解決すべき課題である。
吸着材へのタンパク質吸着形態については、必ずしも特定されないが、例えば以下のように推察することができる。すなわち、タンパク質は、吸着材の官能基と作用し吸着されるが、吸着材被覆層の表面で吸着する場合(以下、表面吸着という)と、表面吸着に加えて吸着材被膜層の奥深くにタンパク質が吸着する場合とが考えられる。吸着されたタンパク質分子は、単層、あるいは、多層に積み重なって吸着され得る。吸着材被膜層の奥深くにタンパク質が吸着する例として、特許文献2に記載の吸着材が挙げられる。特許文献2では、基材を覆う皮膜重合体は、「蛋白質および他の不純物は、当該皮膜の奥底に捕捉され、・・・・」と記載されている。また、タンパク質分子が多層に積み重なって吸着される例として、非特許文献1で、イオン交換基を有するポリマーブラシ(直鎖状のグラフト高分子鎖)が孔表面に導入された多孔質中空糸膜にタンパク質が多層に吸着したことが報告されている。
このような、表面吸着に加えて吸着材被膜層の奥深くにタンパク質が吸着する吸着材、あるいはタンパク質分子が多層に積み重なって吸着される吸着材については、上記塩溶液によって吸着されたタンパク質が完全には溶出されない場合もある。そのため、繰り返し再生していくうちに、残留タンパク質の蓄積によって吸着容量の低下が引き起こされると考えられる。実際に、特許文献3の例では、吸着工程後の塩溶液を用いた脱着工程において、吸着させたタンパク質の回収率が63〜99%とあり、完全には溶出されていないことが報告されている。すなわち、このような形態でタンパク質が吸着される吸着材において、吸着容量の低下は、とりわけ大きな課題といえる。
そこで、本発明の主な目的は、十分に大きな吸着容量を有するタンパク質吸着材の製造を可能にする方法を提供することにある。また、本発明の目的は、タンパク質の吸着及び脱着後のタンパク質吸着材の吸着容量を十分に大きく回復させる方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、タンパク質吸着材を湿潤状態で加熱する製造方法が、上記目的を達成するために有効であることを見出した。
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
高分子基材と、該高分子基材の表面を被覆し、タンパク質吸着能を有する官能基を含有する高分子鎖と、を含む処理前吸着材を、液体又は蒸気により湿潤化された状態で加熱して吸着材を得る工程を備える、タンパク質吸着材の製造方法。
[2]
処理前吸着材を、水を含む液体又は蒸気により湿潤化された状態で加熱する、[1]に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[3]
処理前吸着材を、金属イオンを含有する水溶液により湿潤化された状態で加熱する、[1]または[2]に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[4]
金属イオンを含有する水溶液の金属イオン濃度が0.05mol/L以上である、[3]に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[5]
処理前吸着材を、湿潤化された状態で50〜110℃に加熱する、[1]〜[4]のいずれかに記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[6]
処理前吸着材を、湿潤化された状態で50〜140℃に加熱する、[4]に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[7]
高分子鎖が、共有結合によって高分子基材に固定されている、[1]〜[6]のいずれか記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[8]
高分子鎖が、グラフト重合によって高分子基材に固定された直鎖状高分子鎖である、[1]〜[7]のいずれかに記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[9]
高分子基材が多孔質体である、[1]〜[8]のいずれかに記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[10]
高分子基材が中空糸多孔膜である、[1]〜[9]のいずれかに記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[11]
タンパク質吸着能を有する官能基がイオン交換基である、[1]〜[10]のいずれかに記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[12]
イオン交換基が3級アミノ基である、[11]に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[13]
処理前吸着材が、少なくとも1回、タンパク質を吸着及び脱着させた吸着材である、[1]〜[12]のいずれかに記載のタンパク質吸着材の製造方法。
[14]
[1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法により得ることのできるタンパク質吸着材。
[15]
[14]に記載のタンパク質吸着材を備えるカラムまたはモジュール。
本発明によれば、十分に大きな吸着容量を有するタンパク質吸着材の製造が可能である。また、本発明によれば、タンパク質の吸着及び脱着に用いられた後のタンパク質吸着材の吸着容量を十分に大きく回復させることができる。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態に係る製造方法は、高分子基材と、該高分子基材の表面を被覆し、タンパク質吸着能を有する官能基を含有する高分子鎖と、を含む処理前吸着材を、液体又は蒸気により湿潤化された状態で加熱して吸着材を得る工程を備える。本実施形態に係る製造方法において、該工程が施される場所は限定されない。すなわち、該工程を経たのちに出荷される場合、および使用者が該工程を自ら行う場合も本実施形態に関わる製造方法に含まれる。
本実施形態において、「処理前吸着材」とは、単に、「湿潤化された状態で加熱する工程に供される前の吸着材」を意味する。「処理前吸着材」の用語は、「湿潤化された状態で加熱する工程による処理後の吸着材」と区別するために用いられる「処理前吸着材」は、タンパク質の吸着及び脱着を経ていない吸着材の意味に限定されることもない。「処理前吸着材」が湿潤化された状態で加熱する工程により処理される前にタンパク質の吸着及び脱着を経た回数は、限定されない。すなわち、「処理前吸着材」は、例えば、未使用のもの(一度も吸着物を吸着していないもの)、吸着/脱着を繰り返し、吸着容量が低下したもの、本実施形態とは異なる熱処理によって吸着容量が低下したものであり得る。
処理前吸着材の形態は、タンパク質が溶解した液が処理前吸着材の表面と接触する形態であれば、特に限定されず、非多孔質体または多孔質体であり得る。非多孔質体としては、フィルム、非多孔質ビーズ、繊維、キャピラリーが挙げられる。多孔質体としては、平膜、不織布、中空糸膜、モノリス、多孔質ビーズが挙げられる。吸着材単位体積当たりの吸着面積を大きくし、高吸着容量とする観点からは、多孔質体が好ましい。さらに、ハンドリングの容易さから、膜状形態、すなわち、平膜、不織布、中空糸膜がより好ましい。スケールアップ性、モジュール成型した際の流路構造が単純であることから、中空糸多孔膜がさらに好ましい。
本実施形態において、「中空糸多孔膜」とは、中空部分を有する円筒状または繊維状の多孔体を意味する。中空糸多孔膜の中空側(内側)と外側とが貫通孔である細孔によって連続している。中空糸多孔膜は、その細孔によって内側から外側、あるいは外側から内側に、液体または気体が透過する性質を有する。中空糸多孔膜の外径および内径は、物理的に多孔膜が形状を保持することができれば、特に限定されない。
本実施形態の一例として、処理前吸着材が膜状の形態を有する場合、その細孔径は、好ましくは0.01μm〜10μmであり、より好ましくは0.1μm〜10μmであり、さらに好ましくは0.1μm〜1μmである。基材中の細孔の占める体積比率である空孔率は、多孔質膜の形状を保持しかつ通液時の圧損が実用上問題のない範囲であれば、特に限定されないが、好ましくは5%〜99%であり、より好ましくは10%〜95%であり、さらに好ましくは30〜90%である。細孔径及び空孔率の測定は、例えばMarcel Mulder著「膜技術」(株式会社アイピーシー)に記載されているような、当業者にとって通常の方法により行うことができる。その具体例としては、電子顕微鏡による観察、バブルポイント法、水銀圧入法、透過率法などが挙げられる。
本実施形態における、高分子基材の素材について記述する。処理前吸着材の高分子基材は、特に限定されず、公知技術の素材を用いることができる。特に、機械的性質保持のためには、ポリオレフィン系重合体から構成されていることが好ましい。ポリオレフィン系重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびフッ化ビニリデンなどのオレフィンの単独重合体、該オレフィンの2種以上の共重合体、または、1種もしくは2種以上のオレフィンとパーハロゲン化オレフィンとの共重合体などが挙げられる。これらの基材の中でも、機械的強度が特に優れることから、ポリエチレンまたはポリフッ化ビニリデンが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
本実施形態において、高分子基材の表面(高分子基材が多孔質の場合は細孔内表面も含む。)の少なくとも一部は、タンパク質吸着能を有する官能基を含有する高分子鎖により被覆されている。高分子鎖から形成される被覆層の形態は、加熱工程、あるいはタンパク質の吸着/脱着工程において、被覆層の溶解あるいは通液時の圧力上昇等の問題がなければ特に限定されない。基材と被覆層の結合状態については、例えば、共有結合、被覆、吸着などがあるが、これらに限定されない。
高分子基材表面にタンパク質吸着能を有する官能基を含有する高分子鎖を導入する方法は、特に限定されない。高分子基材への放射線照射によってラジカルを生成し、グラフト重合する方法、タンパク吸着能を有する官能基を含む高分子鎖を基材へ塗布し、架橋剤によって高分子鎖を基材表面に固定する方法、基材表面に、重合体あるいは重合体前駆体の被膜を形成させ、その被膜を構成する高分子鎖からグラフト重合体を得る方法などがある。特に高分子基材中の高分子鎖とそれを被覆するグラフト鎖との共有結合による強固な結合を期待する場合には、基材からのグラフト重合によってタンパク質吸着能を有する官能基を含有する高分子鎖を導入する方法が好ましい。
特に、基材からのグラフト重合によって、タンパク質吸着能を有する官能基を含有する直鎖状高分子鎖を導入する場合、(1)タンパク質吸着能を有する官能基を有するモノマーを直接重合させる方法、または、(2)基材からのグラフト重合により、タンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を含む高分子鎖を導入し、続いて、タンパク質吸着能を有する官能基を導入する方法を採用することができる。
(1)は一段階の反応でタンパク吸着能を有する被覆層が得られることから、簡便で、好ましい。上記モノマーとしては、特に限定されないが、メタクリレート誘導体、ビニル化合物、アリル化合物などが挙げられ、例えば、ジエチルアミノエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、アリルアミンなどが選ばれる。
(2)は、種々のタンパク質吸着能を有する官能基のバリエーションを揃えやすい、あるいはタンパク質吸着能を有する官能基の導入率(詳細は後述する)のバリエーションを揃えやすいという観点からは、好ましい。(2)の場合のグラフト重合におけるモノマーとしては、反応性の高いエポキシ基を有するグリシジルメタクリレート(GMA)が好ましい。
本実施形態において、タンパク質吸着能を有する官能基を含有する高分子鎖によって形成される被覆層の状態は限定されない。例えば、直鎖状の高分子鎖を形成する場合、基材表面上で高分子鎖同士がゆるく架橋しあうことでゲル状の被膜層を形成したり、高分子鎖が架橋高分子を形成したりするときがある。本実施形態のメカニズムの詳細は不明であるが、湿潤状態での加熱処理によって、基材を被覆しているタンパク質吸着能を有する高分子鎖のコンディショングが施され、吸着点数が増加すると考えられる。中でも、吸着材被覆層の奥深くに吸着された、あるいは、多層に積み重なって吸着されたタンパク質が効率的に排出され、吸着点数の増加の効果が著しく高いと推測される。したがって、基材から直接形成された直鎖状のグラフト高分子鎖を有する処理前吸着材や、タンパク質吸着能を有する官能基を含む高分子鎖同士がゆるく架橋しあったゲル状被膜を有する処理前吸着材が好ましく、基材から直接形成された直鎖状のグラフト高分子鎖を有する処理前吸着材がより好ましい。
本実施形態において、高分子基材へのタンパク質吸着能を有する官能基を含む高分子鎖の被覆の量については、通液時の圧力上昇等の問題がなければ、特に限定されない。また、基材高分子の構造や被膜層を形成する官能基やモノマーの特性の組み合わせに応じて最適な被覆量を選ぶことができる。以下、被覆の量について、上記(2)として挙げた、(i)基材からのグラフト重合により、タンパク質吸着能を有する官能基を導入可能な官能基を含む高分子鎖(グラフト鎖)を導入し、続いて、(ii)タンパク質吸着能を有する官能基を導入する方法を一例に挙げて説明する。
(i)に関して、一般的に、基材に対するグラフト鎖の結合率(グラフト率、dg[%])は、式(1)に示したように、グラフト鎖導入により増加した重量に基づいて定義される。
Figure 2012000552
:グラフト鎖導入前の高分子基材重量(g)
:グラフト鎖導入後の全体重量(g)
(ii)に関して、被覆層における、グラフト鎖中のタンパク吸着能を導入可能な官能基に対する、タンパク質吸着能を有する官能基の存在割合は、式(2)で示される「リガンド転化率」で整理される。すなわち、タンパク質吸着能を有する官能基の存在割合は、グラフト鎖中のタンパク吸着能を導入可能な官能基のモル数に対して、タンパク質吸着能を有する官能基が導入されたモル数で表される。例えば、グラフト鎖がGMAの重合体で、GMAのエポキシ環にジエチルアミンを導入した場合、式(2)ではMにGMAの分子量142g/molを、Mにジエチルアミン分子量73g/molを代入する。
Figure 2012000552
:グラフト鎖導入前の高分子基材重量(g)
:グラフト鎖導入後の全体重量(g)
:タンパク質吸着能を有する官能基導入後の全体重量(g)
:グラフト鎖モノマー単位の分子量(g/mol)
:導入された官能基(タンパク質吸着能を有する官能基)の分子量(g/mol)
グラフト率は、より高い吸着容量および力学的に安定な強度をともに確保するという観点から、好ましくは5%〜200%、より好ましくは20%〜150%、更に好ましくは30%〜90%である。
リガンド転化率は、より高い吸着容量を得るという観点から、好ましくは20%〜100%、より好ましくは50%〜100%、更に好ましくは70%〜100%である。
本実施形態における、タンパク質吸着能を有する官能基について記述する。タンパク質吸着能を有する官能基として、イオン交換型、疎水性相互作用吸着型、郡特異アフィニティ吸着型、個別特異アフィニティ吸着型が挙げられるが、とくに限定されない。
さらに、イオン交換基として、強酸性陽イオン交換基、弱酸性陽イオン交換基、強塩基性陰イオン交換基または弱塩基性陰イオン交換基が挙げられるが、これらについても特に限定されない。
例えば、強酸性陽イオン交換基としてはスルホン酸基(−SO )が、弱酸性陽イオン基としてはカルボン酸基(−COO)が挙げられる。
一方、強塩基性陰イオン交換基としては、例えば四級アンモニウム基(Q、−N)、四級アミノエチル基(QAE、−(CH−N)などが挙げられる。ここで、Rは特に限定されず、同一のNに結合するRが同一または異なっていてもよく、好適には、アルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基を表す。より具体的には、トリメチルアミノ基(TMA、−NMe)などが挙げられる。弱塩基性陰イオン交換基としては、1級アミノ基(−NH)、2級アミノ基(−NRH)、3級アミノ基(−NR)、ジエチルアミノエチル基(DEAE、−(CH−NEt)、ジエチルアミノプロピル基(DEAP、−(CH−NEt)などが挙げられる。ここでも、Rは特に限定されず、同一のNに結合するRが同一または異なっていてもよく、好適には、アルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基を表す。
イオン交換基として強酸性あるいは強塩基性イオン交換基を選択した場合、広いpH領域で、ほぼ全てのイオン交換基が解離した状態に保持されるため、幅広いpH領域で使用できる利点がある。すなわち、処理する駅のpHを選ばず利用できるという点で好ましい。ただし、水和水を持つイオン交換基が高密度で存在する状態にあり、被覆層において、高分子鎖内や、隣接高分子鎖との間で立体反発が大きく、高分子鎖が伸張した状態になるので、多孔質体の吸着材では、液の流路が閉塞し、通液圧上昇/処理量低下を引き起こす。したがって、高速処理を期待する場合には、弱酸性あるいは弱塩基性イオン交換基が好ましく、ジエチルアミノ基またはイソプロピルアミノ基がより好ましい。
疎水性相互作用吸着基としては、フェニル基、アルキル基等がある。
郡特異性アフィニティ吸着基としては、Cibacron Blue F3G−A、Protein A、コンカナバリンA、ヘパリン、タンニン、金属キレート基等がある。
個別特異型アフィニティ吸着基としては、抗原や抗体類がある。
本実施形態において、上で挙げたような処理前吸着材が、タンパク質が溶解した液と効率的に接触するために、吸着前吸着材を梱包するのが好ましい。このような梱包形態を、一般的に、吸着材が膜の場合はモジュール、その他の吸着材の場合はカラムというが、それらの構造は限定されない。ただし、中空糸多孔膜であれば、中空部にタンパク質が溶解した液を流し、中空部外表面から漏出する液を受け採ることによる簡易的な通液方法も可能であるので、この場合は必ずしもモジュールにする必要はない。
モジュール構造について一例を挙げて言及すると、中空糸膜モジュールは、両端に開口部を有するハウジングと、ハウジング内に固定された一本又は複数本の中空糸膜と、を備える。中空糸膜の両端で、中空糸膜外側とハウジング内壁が固定され、ハウジング開口部から供給されたタンパク質が溶解した液は、中空糸内側から外側へと膜中を通液し、ハウジング側面に取り付けられたノズルより排出される。
本実施形態における、処理前吸着材の湿潤方法および形態について記述する。本実施形態において、「湿潤化された状態」とは、処理前吸着材表面が液体により濡れた状態をいう。乾燥状態にある処理前吸着材を湿潤化する場合は、一旦親水化した後に湿潤化のための溶液で置換するのが好ましい。親水化の方法としては、特に限定されないが水、アルコール水溶液、アルコール、蒸気で親水化することができる。中でも、アルコール又はアルコール水溶液による親水化は種々の素材や形状で実施することができる。アルコール親水化としては、例えば、処理前吸着材をエタノールまたはエタノール水溶液と接触させ、徐々に水の比率を上げていき最終的に純水と接触させる方法がある。湿潤化のための溶液に置換する方法としても、十分に処理前吸着材が溶液で置換されれば限定されない。例えば膜を用いる場合、十分に親水化あるいは溶液への置換を行うために、溶液を通液する方法が効果的であり、各溶液の通液量はモジュール体積の3倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、10倍以上が更に好ましい。
処理前吸着材を湿潤化させる液体は、好ましくは純水又は水溶液である。加熱温度が110℃以下の場合、例えば、純水、緩衝液、無機塩の水溶液、あるいは無機塩を含む緩衝液が挙げられる。一般的にタンパク吸着能を有する吸着材において、タンパク質を吸着する際には、pHが調整された緩衝液にタンパク質を溶解した液を用い、脱着する際には塩化ナトリウムを含む緩衝液が用いられる。したがって、湿潤させる溶液としてこれらの溶液を用いることが、簡便で好ましい。加熱温度が110℃を超え、140℃以下の場合、処理前吸着材を湿潤化させる溶液は、無機塩を含む水溶液であれば、特に限定されない。すなわち、陽イオン種、価数、対アニオン種について限定されない。例えば1価の陽イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンが、2価の陽イオンとしてはマグネシウムイオン、カルシウムイオンなどが挙げられる。また対アニオンについては、水酸化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンなどが挙げられ、陽イオンに対する組み合わせも限定されない。タンパク溶出液、あるいは洗浄液として一般的に用いられることから、塩化ナトリウムを含むpH8のトリス塩酸緩衝液、または水酸化ナトリウム水溶液が好ましく、塩化ナトリウムを含むpH8のトリス塩酸緩衝液がより好ましい。金属イオンの濃度は0.05mol/L以上であることが好ましく、0.1mol/L以上であることがより好ましく、1mol/L以上であることがさらに好ましい。
処理前吸着材を加熱する方法は、湿潤化された状態の処理前吸着材が十分に加熱され、吸着材の機械的強度に影響がない範疇であれば、特に限定されない。処理前吸着材が梱包された形態(例えばモジュール、カラムなど)での梱包容器外側からの加熱、オートクレーブによる高圧下水蒸気接触、加熱した溶液の通液あるいは蒸気の通液によっても処理前吸着材の加熱処理を行うことができる。梱包容器外側から加熱する場合やオートクレーブによる加熱処理をする場合は、梱包容器内の溶液の封入量も限定されず、溶液垂れきり状態あるいは満水状態でも可能である。加熱処理時間としては、十分に加熱することを目的として、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、1時間半以上がさらに好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[製造例1]高分子基材としての中空糸多孔質膜の製造
微粉ケイ酸(アエロジルR972グレード)27.2質量部、ジブチルフタレート(DBP)54.3質量部、及びポリエチレン樹脂粉末(旭化成サンファインSH−800グレード)18.5質量部を予備混合し、2軸押出し機で中空糸状に押出して、中空糸状の膜を得た。次に、この膜を塩化メチレン及び水酸化ナトリウム水溶液に順次浸漬することにより、ジブチルフタレート(DBP)及びケイ酸を抽出し、その後、水洗、乾燥処理を施し、ポリエチレン製の中空糸多孔膜を得た。
[製造例2]吸着能力を有する中空糸多孔膜の製造
[製造例1]で製造したポリエチレン製の中空糸多孔膜を密閉容器にいれ、容器内を窒素置換した。次いで、中空糸多孔膜が入った密閉容器をドライアイスとともに発泡スチロール製の箱に入れ、冷却しながらγ線200kGyを照射し、ポリエチレンにラジカルを発生させ、中空糸多孔膜を活性化させた。
活性化された中空糸多孔膜を、窒素雰囲気の密閉容器内で室温まで戻した。その後、中空糸多孔膜を反応容器に投入し、密閉して真空状態(100Pa以下)にした。グリシジルメタクリレート(GMA)5質量部とメタノール95質量部とを混合し、窒素バブリングして予め準備した反応液を、真空状態の反応容器内に圧力差を利用して送液した。送液された反応液を40℃で4時間循環し、一終夜静置後、反応液を排出した。メタノール、ついで水によって中空糸多孔膜を十分に洗浄し、ポリエチレン主鎖にグリシジルメタクリレートがグラフト重合したグラフト中空糸多孔膜を得た。
グラフト中空糸多孔膜の入った反応容器に、50体積部濃度のジエチルアミン水溶液を入れ、30℃で5時間を循環し、一終夜静置後、ジエチルアミノ水溶液を排出した。次いで中空糸多孔膜を水で十分に洗浄し、乾燥させ、グラフト鎖にジエチルアミノ基を有するグラフト中空糸多孔膜を吸着材として得た。
[製造例3]モジュール成型
製造例1および2の工程により製造したグラフト中空糸多孔膜を、糸有効長9.4cm、糸本数1本入りのモジュールに成型した。
[評価方法1]吸着容量測定方法
グラフト中空糸多孔膜のタンパク質吸着容量の評価は、汎用HPLCシステム(GEヘルスケアジャパン AKTAexplorer100)を用いて行った。バイオテクノロジーの精製装置の性能表示を行う際、一般に、精製されたタンパク質溶液がモデルとして用いられる。本実施例では、モデルタンパク質として一般に用いられるBSA(牛血清アルブミン、シグマアルドリッチ製)を用いた。pH8に調整した20mMトリス塩酸緩衝液(以下、緩衝液)1Lに対しBSA1gを溶解させ、0.45μmのフィルターを通し、BSA溶液を得た。
HPLCシステムにモジュールを接続し、3mL/minで、緩衝液、BSA溶液、緩衝液、1mol/Lの塩化ナトリウムを含む緩衝液(以下、塩緩衝液)、1Nの水酸化ナトリウム、塩緩衝液の順に通液した。1回目の緩衝液通液は膜の平衡化を目的として、BSA供給後の2回目の緩衝液通液は非吸着BSAの洗浄を目的として行った。さらにそれ以後の1M塩化ナトリウムを含む緩衝液および1N水酸化ナトリウム溶液通液は、吸着したBSAの脱着を目的として行った。
ろ液側へのBSAの漏洩動向を、波長280nmにおける吸光度で追跡し、原液のBSA溶液の吸光度に対するろ液の吸光度の比が10%になる時点のろ液量を確認した。このろ液量を濃度1g/Lに基づいてBSAの重量に換算し、吸光度の比が10%になる時点のタンパク質吸着量[mg]を算出した。さらに、算出した値を中空糸内外径、有効糸長から計算される円環部の体積で割り返すことで、膜体積あたりのタンパク質(BSA)吸着容量(mg/mL)を求めた。この値は「動的吸着容量」と呼ばれ、バイオテクノロジーの分野で一般に用いられる。
[実施例1]
処理前吸着材としての中空糸多孔膜が、1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液により湿潤化された状態で80℃に加熱されることにより、吸着容量が増大する例を示す。
上記製造例1および2の方法に従い、グラフト鎖を介してポリエチレンに結合したジエチルアミノ基を表面に有する中空糸多孔膜を作製した。グラフト率は75%であった。リガンド転化率は91%であった。この中空糸多孔膜を用いて有効長9.4cmの糸1本入りモジュールを組み立て、本実施例1に用いた。
まず、熱処理前のタンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は55.7mg/mLであった。
続いて、1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液でモジュール内を満たしてから、モジュールを密閉した。その状態で、モジュールを80℃に温調されたウォーターバスで1.5時間加熱した。モジュールを室温まで冷却後、再度1.5時間加熱し、冷却した。
その後、熱処理後のタンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は61.6mg/mLであった。このときの性能向上率(=熱処理後の動的吸着容量/熱処理前の動的吸着容量×100)は111%であった。
[実施例2]
吸着能力を有する中空糸多孔膜が、1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液により湿潤化された状態で129℃に加熱されることにより、吸着容量が増大する例を示す。
上記製造例1および2の方法に従い、グラフト鎖を介してポリエチレンに結合したジエチルアミノ基を表面に有する中空糸多孔膜を作製した。グラフト率は60%であった。リガンド転化率は90%であった。この中空糸多孔膜を用いて有効長9.4cmの糸1本入りモジュールを組み立て、本実施例2に用いた。
まず、熱処理前のタンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は45.2mg/mLであった。
続いて、1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液溶液でモジュール内を満たし、モジュール1次側、2次側にある封入液を捨て、垂れきり状態にした。モジュールの1次側、2次側をいずれも開放し、内部が高温水蒸気と接触する状態にしてモジュールをオートクレーブに入れた。モジュールを129℃で1時間加熱後、室温まで冷却した。再度、1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液を内圧式で十分量(30mL)モジュールに通液し、液を垂れ切り後、オートクレーブにてモジュールを129℃で1時間加熱した。冷却後、エタノール、20質量部エタノール水溶液、超純水の順に各30mLずつ内圧式でモジュールに通液して膜を親水化させた。
その後、熱処理後のタンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は55.0mg/mLであった。このときの性能向上率(=熱処理後の動的吸着容量/熱処理前の動的吸着容量×100)は122%であった。
[実施例3]
吸着能力を有する中空糸多孔膜が、20mmol/Lトリス塩酸緩衝液により湿潤化された状態で80℃に加熱されることにより、吸着容量が増大する例を示す。
上記製造例1および2の方法に従い、グラフト鎖を介してポリエチレンに結合したジエチルアミノ基を表面に有する中空糸多孔膜を作製した。グラフト率は59%であった。リガンド転化率は90%であった。この中空糸多孔膜を用いて有効長9.4cmの糸1本入りモジュールを組み立て、本実施例3に用いた。
まず、熱処理前のタンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は45.9mg/mLであった。
1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液でモジュール内を満たし、モジュール1次側、2次側にある封入液を捨て、垂れきり状態にした。20mmol/Lトリス塩酸緩衝液を内圧式で十分量(30mL)通液し、モジュール内を20mMトリス塩酸緩衝液の湿潤状態に置換した。
満液状態のモジュールを密閉し、80℃に温調されたウォーターバスで1.5時間加熱した。室温まで冷却後、モジュールを再度1.5時間加熱し、冷却した。
その後、熱処理後のタンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は50.9mg/mLであった。このときの性能向上率(=熱処理後の動的吸着容量/熱処理前の動的吸着容量×100)は111%であった。
[実施例4]
吸着能力を有する中空糸多孔膜が、0.1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液溶液により湿潤化された状態で121℃に加熱されることにより、吸着容量が増大する例を示す。
上記製造例1および2の方法に従い、グラフト鎖を介してポリエチレンに結合したジエチルアミノ基を表面に有する中空糸多孔膜を作製した。グラフト率は76%であった。リガンド転化率は91%であった。この中空糸多孔膜を用いて有効長9.4cmの糸1本入りモジュールを組み立て、本実施例4に用いた。
まず、熱処理前のタンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は54.6mg/mLであった。
1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液溶液でモジュール内を満たし、モジュール1次側、2次側にある封入液を捨て、垂れきり状態にした。0.1mol/L塩化ナトリウムの20mMトリス塩酸緩衝液を内圧式で十分量(30mL)通液し、モジュール内を置換した。続いて、モジュール1次側、2次側にある封入液を捨て、垂れきり状態にした。モジュールの1次側、2次側をいずれも開放し、内部が高温水蒸気と接触する状態にしてモジュールをオートクレーブに入れた。モジュールを121℃で1時間加熱後、室温まで冷却した。再度、0.1mol/L塩化ナトリウムの20mMトリス塩酸緩衝液を内圧式で十分量(30mL)モジュールに通液し、液を垂れ切り後、オートクレーブにて121℃で1時間モジュールを加熱した。冷却後、エタノール、20質量部エタノール水溶液、超純水の順に各30mLずつ内圧式でモジュールに通液して膜を親水化させた。
その後、熱処理後のタンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は66.9mg/mLであった。このときの性能向上率(=熱処理後の動的吸着容量/熱処理前の動的吸着容量×100)は123%であった。
[比較例1]
吸着能力を有する中空糸多孔膜が、1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液溶液により湿潤化された状態で室温(25℃)にて保存された場合、吸着容量が増大しない例を実施例1〜4に対する比較例として示す。
上記製造例1および2の方法に従い、グラフト鎖を介してポリエチレンに結合したジエチルアミノ基を表面に有する中空糸多孔膜を作製した。グラフト率は76%であった。リガンド転化率は91%であった。この中空糸多孔膜を用いて有効長9.4cmの糸1本入りモジュールを組み立て、本比較例1に用いた。
まず、タンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は56.7mg/mLであった。
1mol/L塩化ナトリウムの20mmol/Lトリス塩酸緩衝液でモジュール内を満たしてから密閉し、その状態でモジュールを室温(25℃)にて保存した。
その後、タンパク質吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は53.7mg/mLであった。このときの性能向上率(=熱処理後の動的吸着容量/熱処理前の動的吸着容量×100)は95%であった
[実施例5]
1mol/Lの塩化ナトリウムを含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液溶液により湿潤化された状態で中空糸多孔膜が121℃に加熱されることにより、吸着容量が増大する例を示す。
上記製造例1および2の方法に従い、グラフト鎖を介してポリエチレンに結合したジエチルアミノ基を表面に有する中空糸多孔膜を作製した。グラフト率は69%であった。リガンド転化率は91%であった。この中空糸多孔膜を用いて有効長9.4cmの糸1本入りモジュールを組み立て、本実施例5に用いた。
中空糸多孔膜を親水化した後、1mol/L塩化ナトリウムの20mMトリス塩酸緩衝液溶液を内圧式で十分量(30mL)モジュールに通液し、湿潤状態とした。モジュール1次側、2次側にある封入液を捨て、垂れきり状態にした。次いで、モジュールの1次側、2次側をいずれも開放状態にし、内部が高温水蒸気と接触する状態でモジュールをオートクレーブに入れた。モジュールを121℃で1時間加熱後、室温まで冷却した。エタノール、20質量部エタノール水溶液、超純水の順に各30mLずつ内圧式で通液して膜を親水化させた。
その後、加熱後の吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は60.6mg/mLであった。
[比較例2]
1mol/Lの塩化ナトリウムを含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液溶液により湿潤化された状態で加熱されない吸着材は吸着容量が増大しない例を、実施例5に対する比較例として示す。
上記製造例1および2の方法に従い、グラフト鎖を介してポリエチレンに結合したジエチルアミノ基を表面に有する中空糸多孔膜を作製した。グラフト率は67%であった。リガンド転化率は91%であった。この中空糸多孔膜を用いて有効長9.4cmの糸1本入りモジュールを組み立てた。
親水化ののち、吸着容量を上記評価方法1に従い測定した。動的吸着容量は43.5mg/mLであった。
本発明は、タンパク質吸着材の吸着容量を回復及び増大する方法を提供する。本発明は、抗体医薬の効率的な大量生産をする上で、目的タンパク質の精製において産業上の利用可能性を有する。

Claims (15)

  1. 高分子基材と、該高分子基材の表面を被覆し、タンパク質吸着能を有する官能基を含有する高分子鎖と、を含む処理前吸着材を、液体又は蒸気により湿潤化された状態で加熱して吸着材を得る工程を備える、タンパク質吸着材の製造方法。
  2. 前記処理前吸着材を、水を含む液体又は蒸気により湿潤化された状態で加熱する、請求項1に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  3. 前記処理前吸着材を、金属イオンを含有する水溶液により湿潤化された状態で加熱する、請求項1または2に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  4. 前記金属イオンを含有する水溶液の金属イオン濃度が0.05mol/L以上である、請求項3に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  5. 前記処理前吸着材を、湿潤化された状態で50〜110℃に加熱する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  6. 前記処理前吸着材を、湿潤化された状態で50〜140℃に加熱する、請求項4に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  7. 前記高分子鎖が、共有結合によって前記高分子基材に固定されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  8. 前記高分子鎖が、グラフト重合によって前記高分子基材に固定された直鎖状高分子鎖である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  9. 前記高分子基材が多孔質体である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  10. 前記高分子基材が中空糸多孔膜である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  11. 前記タンパク質吸着能を有する官能基がイオン交換基である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  12. 前記イオン交換基が3級アミノ基である、請求項11に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  13. 前記処理前吸着材が、少なくとも1回、タンパク質を吸着及び脱着させた吸着材である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材の製造方法。
  14. 請求項1〜13のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材の製造方法により得ることのできる、タンパク質吸着材。
  15. 請求項14に記載のタンパク質吸着材を備えるカラムまたはモジュール。
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